(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-10
(45)【発行日】2024-01-18
(54)【発明の名称】防汚性膜形成用液組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 133/02 20060101AFI20240111BHJP
C09D 5/16 20060101ALI20240111BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20240111BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20240111BHJP
【FI】
C09D133/02
C09D5/16
C09D5/02
C09D7/63
(21)【出願番号】P 2020002496
(22)【出願日】2020-01-10
【審査請求日】2022-11-08
(31)【優先権主張番号】P 2019027910
(32)【優先日】2019-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】597065282
【氏名又は名称】三菱マテリアル電子化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【氏名又は名称】須田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100129229
【氏名又は名称】村澤 彰
(72)【発明者】
【氏名】白石 真也
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-74830(JP,A)
【文献】特開2017-193683(JP,A)
【文献】特開2007-106958(JP,A)
【文献】特開2006-104240(JP,A)
【文献】特開2016-74828(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
C09K3/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水撥油剤と、造膜剤と、溶媒とを含む防汚性膜形成用液組成物であって、
前記親水撥油剤が下記式
(17)~(22)のいずれかで表されるフッ素系化合物であり、前記造膜剤がポリアクリル酸であり、かつ前記溶媒が炭素数1~3の範囲にある1種又は2種以上のアルコール及び水であり、
前記フッ素系化合物と前記ポリアクリル酸と前記アルコールと前記水との質量比
(%)が、フッ素系化合物:ポリアクリル酸:アルコール:水=(
0.01~
1.0):(
0.2~4):(25~55):(40~75)であることを特徴とす
る防汚性膜形成用液組成物。
【化17】
【化18】
【化19】
【化20】
【化21】
【化22】
【請求項2】
前記防汚性膜形成用液組成物100質量%に対して、着色剤が0.01質量%~1質量%含まれる請求項1記載の防汚性膜形成用液組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の防汚性膜形成用液組成物が硬化した成分を含む防汚性膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性及び撥油性(以下、親水撥油性という。)を有する防汚性膜を形成するための液組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本発明者は、この種の防汚性膜形成用液組成物として、親水撥油剤と、造膜剤と、溶媒とを含む防汚性膜形成用液組成物を提案した(特許文献1(請求項1)参照。)。この液組成物は、親水撥油剤が両性型含窒素フッ素系化合物であり、造膜剤がポリアクリル酸であり、かつ溶媒が炭素数1~3の範囲にある1種又は2種以上のアルコール及び水であり、フッ素系化合物:ポリアクリル酸:アルコール:水=0.01~1.0:5~20:5~45:45~90の質量比で含有し、かつアルカリを、ポリアクリル酸とアルカリで形成されるポリアクリル酸塩が、ポリアクリル酸とポリアクリル酸塩の合計に対して、0質量%以上50質量%未満の割合になるように含有することを特徴とする。特許文献1記載の発明によれば、塗膜を形成した場合に、塗膜表面が親水撥油性になって、塗膜に防汚機能を付与することができ、また水を含んだ布等により油で汚れた膜ごと除去することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された防汚性膜形成用液組成物で形成された膜は透明ではあったが、この液組成物はフッ素系化合物のフッ素含有官能基成分に窒素を含有するため、ポリアクリル酸の比率を比較的高めないと、成膜性を良好にすることができない課題があった。そしてポリアクリル酸の比率を高めた上記液組成物で形成された膜は、膜厚が可視光線の波長程度(100nm~800nm)である場合、液組成物を塗布した後の溶媒が揮発する乾燥過程でウェット膜厚が薄い部位から徐々に揮発していくときに、膜に虹色の干渉縞を発生する問題があり、膜の外観が良好でなかった。
【0005】
本発明の目的は、塗膜を形成した場合に、塗膜表面が親水撥油性になって、塗膜に防汚機能を付与することができ、膜に虹色の干渉縞を発生せず、膜の外観が良好であって、水を含んだ布等により油で汚れた膜ごと除去できる防汚性膜形成用液組成物を提供することにある。本発明の別の目的は、形成した塗膜を目視で容易に確認できる防汚性膜形成用液組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の観点は、親水撥油剤と、造膜剤と、溶媒とを含む防汚性膜形成用液組成物であって、前記親水撥油剤が 下記式(1)又は式(2)で表されるフッ素系化合物であり、前記造膜剤がポリアクリル酸であり、かつ前記溶媒が炭素数1~3の範囲にある1種又は2種以上のアルコール及び水であり、前記フッ素系化合物と前記ポリアクリル酸と前記アルコールと前記水との質量比が、フッ素系化合物:ポリアクリル酸:アルコール:水=(0.001~0.1):(0.1~4):(25~55):(40~75)であることを特徴とする防汚性膜形成用液組成物である。
【0007】
【0008】
上記式(1)中、p、q及びrは、それぞれ同一又は互いに異なる1~6の整数である。また上記式(1)中、Xは、炭素数2~10の炭化水素基であって、エーテル結合、CO-NH結合、O-CO-NH結合及びスルホンアミド結合から選択される1種以上の結合を含んでいてもよい。また上記式(1)中、Yは、ベタイン構造である親水基である。
【0009】
【0010】
上記式(2)中、p及びqは、それぞれ同一又は互いに異なる1~6の整数である。また上記式(2)中、Xは、炭素数2~10の炭化水素基であって、エーテル結合、CO-NH結合、O-CO-NH結合及びスルホンアミド結合から選択される1種以上の結合を含んでいてもよい。また上記式(2)中、Yは、ベタイン構造である親水基である。
【0011】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、前記防汚性膜形成用液組成物は、液組成物100質量%に対して、着色剤が0.01質量%~1質量%含まれることを特徴とする。
【0012】
本発明の第3の観点は、第1又は第2の観点の防汚性膜形成用液組成物が硬化した成分を含む防汚性膜である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の第1の観点の防汚性膜形成用液組成物は、フッ素系化合物とポリアクリル酸とアルコールと水をそれぞれ所定の質量比である(0.001~0.1):(0.1~4):(25~55):(40~75)に特定される。フッ素系化合物が、特許文献1に示されるペルフルオロアミン構造のフッ素含有官能基成分を含む両性型含窒素フッ素系化合物と異なり、フッ素含有官能基成分に窒素を含有しない、上記式(1)又は式(2)で示されるペルフルオロエーテル構造のフッ素含有官能基成分を含むフッ素系化合物である。このフッ素系化合物を用いた場合、ペルフルオロアミン構造のように窒素原子を中心にペルフルオロ基が動きにくい構造であるのに対し、エーテル構造であるため、酸素原子を中心にペルフルオロ基が動きやすい構造であるため、ポリアクリル酸の質量比を特許文献1より少なくしても、成膜性は良好であり、しかも膜に虹色の干渉縞を発生せずに、膜の外観が良好である。そして特許文献1の発明と同様に、この液組成物を基材上に塗布した後、上記塗膜を乾燥することにより、形成した膜に優れた親水撥油性を付与することができる。またポリアクリル酸は適度の粘性を有するため成膜性に優れ、しかも水に容易に溶解するため、水を含んだ布等で油で汚れた膜を擦ると、膜ごと容易に除去することができる。このため再度新しい防汚性膜を基材に容易に形成することもできる。
【0014】
本発明の第2の観点の防汚性膜形成用液組成物は、着色剤を所定の割合で含むため、形成した塗膜を目視で容易に確認することができる。
【0015】
本発明の第3の観点の防汚性膜は、親水撥油性であって、防汚機能を有し、水を含んだ布等により油で汚れた膜ごと除去することができる。また膜に虹色の干渉縞を発生せず、膜の外観が良好である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に本発明を実施するための形態を説明する。
【0017】
〔防汚性膜形成用液組成物〕
本実施の形態の防汚性膜形成用液組成物(以下、単に液組成物ということもある。)は、上記式(1)又は式(2)に示されるフッ素系化合物、ポリアクリル酸、炭素数1~3の範囲にある1種又は2種以上のアルコール及び水を混合して調製される。更に上記液組成物は、着色剤を含むことが好ましい。このフッ素系化合物は形成した膜に親水撥油性を付与するために用いられ、ポリアクリル酸は上記液組成物で膜を形成するための造膜剤として用いられる。アルコールと水はフッ素系化合物及びポリアクリル酸をそれぞれ溶液化するために用いられる。着色剤は形成した塗膜を目視で容易に確認するために用いられる。
【0018】
上記液組成物におけるフッ素系化合物とポリアクリル酸とアルコールと水との混合時の割合は、質量比で(0.001~0.1):(0.1~4):(25~55):(40~75)であって、好ましくは(0.003~0.05):(0.2~3):(30~53):(43~69)である。本実施形態の特徴ある点は、ポリアクリル酸の比率0.1~4は、特許文献1記載のポリアクリル酸の比率5~20より少ないことにある。これは特許文献1記載のフッ素系化合物と異なり、本実施形態では、フッ素含有官能基成分に窒素を含有しない上記式(1)又は式(2)に示される酸素原子を中心にペルフルオロ基が動きやすいエーテル構造を有するフッ素系化合物を用いるため、ポリアクリル酸の比率を減少させても、液組成物の粘度はそれほど低下せず、成膜性を悪化させない。
【0019】
上記着色剤は、上記液組成物100質量%に対して、0.01質量%~1質量%、好ましくは0.05質量%~0.8質量%含まれる。0.01質量%未満では、塗膜が着色しにくい。1質量%を超えると、塗膜の撥油性が劣り易くなり、液組成物の保存安定性が低下し易くなる。着色剤を例示すれば、β-アポ-8’-カロテナール、β-カロテン、カンタキサンチン、三二酸化鉄、食用赤色2号(別名アマランス)及びそのアルミニウムレーキ、食用赤色3号(別名エリスロシン)及びそのアルミニウムレーキ、食用赤色40号(別名アルラレッドAC)及びそのアルミニウムレーキ、食用赤色102号(別名ニューコクシン)、食用赤色104号(別名フロキシン)、食用赤色105号(別名ローズベンガル)、食用赤色106号(別名アシッドレッド)、食用黄色4号(別名タートラジン)及びそのアルミニウムレーキ、食用黄色5号(別名サンセットイエローFCF)及びそのアルミニウムレーキ、食用緑色3号(別名フアストグリーンFCF)及びそのアルミニウムレーキ、食用青色1号(別名ブリリアントプルーFCF)及びそのアルミニウムレーキ、食用青色2号(別名インジゴカルミン)及びそのアルミニウムレーキ、水溶性アナトー、アナトー色素、アルミニウム、ウコン色素、オレンジ色素、カカオ色素、カキ色素、カラメルI、カラメルII、カラメルIII、カラメルIV、カロブ色素、魚鱗箔、金、銀、クチナシ青色素、クチナシ赤色素、クチナシ黄色素、クーロー色素、クロロフィリン、クロロフィル、酵素処理ルチン(抽出物)、コウリャン色素、コチニール色素、骨炭色素、シアナット色素、シタン色素、植物炭末色素、スピルリナ色素、タマネギ色素、タマリンド色素、デュナリエラカロテン、トウガラシ色素、トマト色素、ニンジンカロテン、パーム油カロテン、ビートレッド、ファフィア色素、ブドウ果皮色素、ペカンナッツ色素、ベニコウジ黄色素、ベニコウジ色素、ベニバナ赤色素、ベニバナ黄色素、ヘマトコッカス藻色素、マリーゴールド色素、ムラサキイモ色素、ムラサキトウモロコシ色素、ムラサキヤマイモ色素、ラック色素、ルチン(抽出物)、ログウッド色素等が挙げられる。
【0020】
上記液組成物におけるフッ素系化合物の含有量が下限値未満では形成した膜が親水撥油性に劣り、上限値を超えると液組成物を塗布する基材への濡れ性が悪く成膜性が悪くなる。また液組成物の安定性が悪化する。ポリアクリル酸の含有量が下限値未満では液組成物の粘度が低くなり過ぎ膜を形成しにくく、上限値を超えると液組成物の粘度が高くなり成膜性が悪くなるとともに、膜を形成したときに、膜に筋や虹色の干渉縞を発生し、膜の外観が悪化する。アルコールの含有量が下限値未満ではフッ素系化合物が析出し易く、上限値を超えるとポリアクリル酸が析出し易くなる。水の含有量が下限値未満ではポリアクリル酸が析出し易く、上限値を超えるとフッ素系化合物が析出し易くなる。このアルコールの含有量は、ポリアクリル酸の含有量が特許文献1記載のポリアクリル酸の含有量より少なめにしているため、特許文献1記載のアルコールの含有量よりも、多めに配合する。
【0021】
本実施の形態の防汚性膜形成用液組成物におけるフッ素系化合物の上記式(1)中のペルフルオロエーテル基としては、より具体的には、下記式(3)~(7)で示されるペルフルオロエーテル基を挙げることができる。
【0022】
【0023】
【0024】
【0025】
【0026】
【0027】
本実施の形態の防汚性膜形成用液組成物におけるフッ素系化合物の上記式(2)中のペルフルオロエーテル基としては、より具体的には、下記式(8)~(11)で示されるペルフルオロエーテル基を挙げることができる。
【0028】
【0029】
【0030】
【0031】
【0032】
また、上記式(1)又は式(2)中のXとしては、下記式(12)~(16)で示される構造を挙げることができる。なお、下記式(12)はエーテル結合、下記式(13)はエステル結合、下記式(14)はアミド結合、下記式(15)はウレタン結合、下記式(16)はスルホンアミド結合を含む例を示している。
【0033】
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
ここで、上記式(12)~(16)中、R2及びR3は炭素数が0から10の炭化水素基、R4は水素原子または炭素数1から6の炭化水素基である。R2及びR3の炭化水素基の例とは、メチレン基、エチレン基等のアルキレン基が挙げられ、R4の炭化水素基の例とは、メチル基、エチル基等のアルキル基の他、フェニル基、ビニル基等も挙げられる。
【0039】
また、上記式(1)又は式(2)中のYとしては、カルボキシベタイン型、スルホベタイン型、アミンオキシド型、フォスフォベタイン型等が挙げられる。
【0040】
ここで、上記式(1)及び式(2)で表されるペルフルオロエーテル構造を有するフッ素系化合物の具体例としては、例えば、下記式(17)~(22)で表される構造が挙げられる。
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
本実施の形態の防汚性膜形成用液組成物におけるポリアクリル酸は、アクリル酸を単量体の主成分(好ましくはアクリル酸が70モル%以上、より好ましくは90モル%以上、最も好ましくは実質的に100モル%)とする(共)重合体であって、具体的には水溶性ポリアクリル酸が例示される。これらポリアクリル酸はマレイン酸、p-スチレンスルホン酸等の他の単量体と共重合させてもよく、或いは澱粉やポリビニルアルコールなどの他の親水性ポリマーにグラフト重合させてもよい。このポリアクリル酸は、カルボキシル基の中和率が0%の完全酸型ポリアクリル酸であることが好ましく、その重量平均分子量(GPC-Mw)は、ポリスチレンに換算して1,000~250,000の範囲が好ましく、5,000~10,000の範囲がより好ましい。前記ポリアクリル酸は、市販品を使用してももちろん構わない。市販品としては、例えば商品名:アクアリックHL415((株)日本触媒社製)、アクアリックAS-58((株)日本触媒社製)、アクアリックDL-40((株)日本触媒社製)等が挙げられる。
【0048】
本実施の形態の防汚性膜形成用液組成物における炭素数1~3の範囲にあるアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール(n-プロパノール、イソプロパノール)が挙げられる。炭素数が4以上のアルコールを用いると、上記フッ素系化合物のアルコールへの溶解性が良好でなくなる。本実施の形態の水としては、イオン交換水、蒸留水などの純水、又は超純水が挙げられる。
【0049】
〔防汚性膜形成用液組成物の調製〕
防汚性膜形成用液組成物を調製するには、上記液組成物におけるフッ素系化合物とポリアクリル酸とアルコールと水との混合時の割合、又はフッ素系化合物とポリアクリル酸とアルコールとアルカリ水との混合時の割合が上述した質量比になるように各原料を混合する。混合する手順としては、先ず、ポリアクリル酸に、水又はアルカリ水溶液と、炭素数が1~3の範囲にある1種又は2種以上のアルコールとを添加混合して、ポリアクリル酸の溶液を調製する。次いでこの溶液にフッ素系化合物を添加混合して防汚性膜形成用液組成物を調製する。
【0050】
〔防汚性膜の形成方法〕
本実施の形態の防汚性膜は、基材上に上記液組成物を塗布した後に、大気中で室温乾燥させて上記液組成物を硬化することにより形成される。この基材としては、特に限定されないが、ステンレス鋼(SUS)、アルミニウム、鉄等の金属板、窓ガラス、鏡等のガラス、タイル、ポリ塩化ビニル(PVC)等のプラスチック又はポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム等が挙げられる。上記液組成物の塗布方法としては、スクリーン印刷法、バーコート法、ダイコート法、ドクターブレード、スピン法、刷毛塗り法等が挙げられる。
【0051】
〔防汚性膜〕
上記方法で形成された防汚性膜は、親水撥油性であって、油汚れを防止する防汚機能を有し、水を含んだ布等により油で汚れた膜ごと除去することができる。上記液組成物が着色剤を含む場合には、形成された防汚性膜を目視で容易に確認することができる。
【実施例】
【0052】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0053】
<実施例1>
固形分45質量%のポリアクリル酸(日本触媒社製、商品名:アクアリックHL415、重量平均分子量(Mw):10,000、pH2)の水溶液0.11g(固形分ポリアクリル酸0.05g)と、蒸留水4.85gと、エタノール5.00gとを秤量し、これらを十分に混合した後、この混合液に上記式(17)で表されるフッ素系化合物とエタノールを1:1で混合した溶液を0.04g添加混合して液組成物を調製した。
【0054】
<実施例2~8及び比較例1~7>
上記実施例1の液組成物の組成と、実施例2~7及び比較例1~6の液組成物の組成を以下の表1に示す。表1中の式の番号は、上述したフッ素系化合物の式の番号を意味する。実施例3のポリアクリル酸は(株)日本触媒社製、商品名AS-58を用いた。実施例7のポリアクリル酸は(株)日本触媒社製、商品名DL-40を用いた。実施例8では、実施例1で調製した液組成物5.00g(100質量%)に着色剤として食用青色1号を0.025g(0.5質量%)添加し、十分に混合して、最終的な液組成物を得た。比較例7では、実施例1で調製した液組成物5.00g(100質量%)に着色剤として食用青色1号を0.10g(2.0質量%)添加し、十分に混合して、最終的な液組成物を得た。表1には各成分の秤量とともに質量%を示している。また比較例5では、フッ素系化合物として特許文献1記載のフッ素含有官能基成分に窒素を含む下記の式(23)の化合物を用いた。
【0055】
【0056】
【0057】
<比較試験及び評価>
実施例1~8及び比較例1~7で得られた15種類の液組成物を、刷毛(末松刷子製ナイロン刷毛マイスター)を用いて、厚さ2mm、たて150mm、よこ75mmのSUS304基材上にそれぞれ乾燥後の厚さが1~3μmとなるように塗布し、15種類の塗膜を形成した。すべての塗膜を室温の大気雰囲気中にて3時間静置し、塗膜を乾燥させて上記SUS304基材上に15種類の膜を得た。これらの膜について、膜表面の水濡れ性(親水性)、撥油性、n-ヘキサデカンの転落性、膜の外観及び膜の除去容易性を評価した。これらの結果を表2に示す。
【0058】
(1) 膜表面の水濡れ性(接触角)
協和界面科学製ドロップマスターDM-700を用いて、シリンジに22℃±1℃のイオン交換水を準備し、シリンジの針の先端から2μLの液滴を飛び出した状態にする。次いで評価するPETフィルム上の膜をこの液滴に近づけて膜に液滴を付着させる。この付着した水の接触角を測定した。静止状態で水が膜表面に触れた1秒後の接触角をθ/2法により解析した値を水の接触角とし、膜表面の水濡れ性(親水性)を評価した。
【0059】
(2) 膜表面の撥油性(接触角)
協和界面科学製ドロップマスターDM-700を用いて、シリンジに22℃±1℃のn-ヘキサデカン(以下、油という。)を準備し、シリンジの針の先端から2μLの液滴を飛び出した状態にする。次いで評価するSUS304基材上の膜をこの液滴に近づけて膜に液滴を付着させる。この付着した油の接触角を測定した。静止状態で油が膜表面に触れた1秒後の接触角をθ/2法により解析した値を油の接触角とし、膜表面の撥油性を評価した。
【0060】
(3) n-ヘキサデカンの転落性
協和界面科学製ドロップマスターDM-700を用いて、シリンジに22℃±1℃のn-ヘキサデカン(以下、油という。)を準備し、シリンジの針の先端から9μLの液滴を飛び出した状態にする。次いで評価するSUS304基材上の膜をこの液滴に近づけて膜に液滴を付着させる。次に、試料をのせた台を傾けて、油が転落した(流れ落ちた)時の傾斜の角度を測定した。
【0061】
(4) 膜の外観
膜を目視で観察して、膜に筋が発生しているか否か、また膜全体にわたって虹色の干渉縞が発生しているか否かを調べた。膜に筋及び干渉縞が発生していないものは「優秀」とし、膜に筋又は干渉縞がやや発生している場合を「良好」とし、膜に筋又は干渉縞のいずれかが明らかに発生しているものを「不良」とした。
【0062】
(5) 膜の除去容易性
評価する膜の全面にサラダ油を不織布(旭化成社製、商品名:ベンコット)により塗り広げた後、水を十分に含ませた別のベンコットにてサラダ油が塗られた膜を拭いた。素手でSUS304基材表面を触り、膜のSUS304基材からの除去具合を調べた。サラダ油で汚れた膜がSUS304基材から完全に除去されるまでのベンコットで拭いた回数を調べた。3回以内に膜が完全に除去されたものを「良好」とし、3回払拭した結果、膜が一部でも残存したものを「不良」とした。
【0063】
【0064】
表2から明らかなように、比較例1の液組成物では、水及びn-ヘキサデカンの接触角、n-ヘキサデカンの転落角は、良好な値を示したが、ポリアクリル酸の比率が5.0質量%と多過ぎたため、この液組成物で形成された膜には干渉縞が発生し、外観が不良であった。また比較例2の液組成物では、ポリアクリル酸の比率が0.05質量%と少な過ぎたため、水及びn-ヘキサデカンの接触角は良好な値を示したが、n-ヘキサデカンの転落角は、高めの値を示した。更にこの液組成物で形成された膜の除去容易性が不良であり、この膜は防汚性能が不十分であった。
【0065】
また比較例3の液組成物では、フッ素系化合物の比率が0.11質量%と多過ぎたため、水及びn-ヘキサデカンの接触角は良好な値を示したが、n-ヘキサデカンの転落角は、高めの値を示した。またこの液組成物で形成された膜には筋が発生し、外観が不良であった。また比較例4の液組成物では、フッ素系化合物の比率が0.0005質量%と少な過ぎたため、水及びn-ヘキサデカンの接触角、n-ヘキサデカンの転落角も悪く、かつこの液組成物で形成された膜の除去容易性が不良であり、この膜は防汚性能が不十分であった。
【0066】
また比較例5の液組成物では、フッ素系化合物のフッ素含有官能基成分に窒素を含んでいたため、接触角並びに転落角はやや良好であったが、この液組成物で形成された膜には筋が発生し、外観が不良であった。また比較例6の液組成物では、アルコールの比率が20.2質量%と少な過ぎたため、接触角はやや良好であったが、転落角が高めであり、この液組成物で形成された膜には筋が発生し、外観が不良であった。更に比較例7の液組成物では、着色剤の含有割合が1質量%を超えたため、この液組成物で形成された膜の外観は良好であったが、水及びn-ヘキサデカンの接触角、n-ヘキサデカンの転落角がそれぞれ悪く、膜の除去容易性も不良であった。
【0067】
これに対して、表2から明らかなように、実施例1~8の液組成物で形成された膜では、水及びn-ヘキサデカンの接触角は、親水撥油性を示しており、またn-ヘキサデカンの転落性もあり、この液組成物で形成された膜は防汚性能を発現していた。また液組成物で形成された膜には筋や干渉縞の発生がなく外観が良好又は優秀であった。また膜の除去容易性に関しても、水拭きで容易に除去することができ、すべて良好であった。更に実施例8で形成された膜は着色されていたため、目視で膜を容易に確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の防汚性膜形成用液組成物は、機械油を使用する工場、油が飛散する厨房、油蒸気が立ちこめるレンジフード、換気扇、冷蔵庫扉等において、油汚れを防止する分野に用いられる。