(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-10
(45)【発行日】2024-01-18
(54)【発明の名称】防汚塗膜及び塗装物
(51)【国際特許分類】
B05D 5/00 20060101AFI20240111BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240111BHJP
B32B 25/20 20060101ALI20240111BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20240111BHJP
C09D 5/16 20060101ALI20240111BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20240111BHJP
C09D 183/04 20060101ALI20240111BHJP
【FI】
B05D5/00 H
B05D7/24 302Y
B32B25/20
C09D5/00 D
C09D5/16
C09D7/65
C09D183/04
(21)【出願番号】P 2020061063
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2022-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】501481724
【氏名又は名称】関西ペイントマリン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001409
【氏名又は名称】関西ペイント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【氏名又は名称】高橋 正俊
(72)【発明者】
【氏名】河合 弘幸
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/189412(WO,A1)
【文献】特開2009-215527(JP,A)
【文献】国際公開第2011/074620(WO,A1)
【文献】特開2016-191056(JP,A)
【文献】特開2000-001620(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00-7/26
B32B 1/00-43/00
C09D 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーンゴム(A)及びシリコーンオイル(B)を含む防汚塗膜であって、前記シリコーンオイル(B)が、シリコーン単位とポリエーテル単位が交互に直鎖状に連なる構造を有するポリエーテル変性シリコーンオイルであり、前記シリコーンオイル(B)の含有量が、前記シリコーンゴム(A)100質量部に対して0.5~15質量部の範囲内にある、防汚塗膜。
【請求項2】
前記シリコーンオイル(B)に含まれる前記シリコーン単位が、ジメチルシリコーン単位、メチルフェニルシリコーン単位、及びメチルハイドロジエンシリコーン単位から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の防汚塗膜。
【請求項3】
前記シリコーンオイル(B)に含まれる前記ポリエーテル単位が、オキシアルキレン基を含むポリエーテル単位を含む、請求項1又は2に記載の防汚塗膜。
【請求項4】
前記シリコーンオイル(B)が、下記一般式(1)で示される構造を有する、請求項1
~3いずれか一項に記載の防汚塗膜。
【化1】
(式中、R
1及びR
2は、同一又は異なりメチル基又はフェニル基であり、nは1~6の整数、aは0
を超えて50
以下の整数、bは0
を超えて50
以下の整数、Xは5~300の整数、Yは2~40の整数を示す。)
【請求項5】
前記シリコーンオイル(B)以外のシリコーンオイル(C)をさらに含む、請求項1
~4いずれか一項に記載の防汚塗膜。
【請求項6】
防汚剤(D)をさらに含む、請求項1~
5のいずれか1項に記載の防汚塗膜。
【請求項7】
複層構造である、請求項1~
6のいずれか1項に記載の防汚塗膜。
【請求項8】
上層塗膜及び下層塗膜からなり、前記上層塗膜のシリコーンオイル(B)の含有量が前記下層塗膜のシリコーンオイル(B)の含有量よりも多い、請求項
7に記載の防汚塗膜。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか1項に記載の防汚塗膜を備えてなる塗装物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚塗膜及び防汚塗膜を備えてなる塗装物に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶、水中構造物、漁網、漁具等への水生生物の付着を防止するために防汚塗料が塗装されている。防汚塗料としては、塗膜が溶解することによってフジツボなどの海中生物の付着を防止する自己研磨型と呼ばれる防汚塗料がよく使用されているが、シリコーンゴム系の防汚塗料も古くから開発されている。シリコーンゴム系の防汚塗料とはオルガノポリシロキサン、架橋剤及び充填剤を主成分とし、シリコーンゴムの表面特性や物理的性質によって海中生物の付着を抑制するものであり、塗膜成分が放出される自己研磨型の防汚塗料に比べて環境への負荷も低いといった利点を有している。
【0003】
シリコーンゴム系防汚塗料として例えば特許文献1には、1分子中に2以上のシラノール基を有するオルガノポリシロキサン、架橋剤、ポリエーテル変性オルガノポリシロキサンを含有する防汚塗料組成物が開示されている。この塗料組成物によれば、スプレー時のダストが少なく防汚性に優れた塗膜が得られるものである。また、特許文献2にはポリシロキサンを基材としたバインダー系、親水性-変性ポリシロキサン及び殺生物剤を含有する付着抑制塗料組成物が開示されている。
【0004】
特許文献1及び2には、シリコーンゴム系防汚塗料の添加成分としてポリエーテル変性オルガノポリシロキサンなどの変性シリオーンオイルが記載されている。このシリコーンオイルは防汚塗膜表層に徐々にしみだすことで塗膜表面への海中生物付着を抑制する働きがあるとされている。そしてこれら特許文献にはシリコーンオイルとして種々の構造、例えば、シリコーンオイルの側鎖にポリエーテル基が結合した構造やシリコーンオイルの片末端又は両末端にポリエーテル基が結合した構造が記載されているが、シリコーン単位とポリエーテル単位が交互に直鎖状に連なる構造のポリエーテル変性シリコーンオイルについては記載がされていない。さらにこれら特許文献に記載されているような従来の防汚塗料では長期の防汚性に課題があり、その改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2016/009947号
【文献】特開2016-191056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び2に記載されているポリエーテル変性シリコーンオイルを含んだ防汚塗膜は、ポリエーテル変性シリコーンオイルが塗膜表面へ移行し、海中生物の付着抑止性に優れる一方で、オイルが塗膜から海中に放出されてしまい、海中生物付着性の持続性が低いという問題があった。また、上記塗膜は下地である基材や下塗り塗膜への付着不良が発生しやすいといった問題もあった。
【0007】
本発明の目的は、長期間にわたって安定した防汚性を発揮し、下地との密着性も良好な防汚塗膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上述の課題に対して鋭意検討した。その結果、塗膜に含まれるポリエーテル変性シリコーンオイルが特定の構造を有する場合に、下地に対する密着性と長期間の防汚持続性との両立が可能であることを見出した。
【0009】
すなわち本発明は
項1.
シリコーンゴム(A)及びシリコーンオイル(B)を含む防汚塗膜であって、前記シリコーンオイル(B)が、シリコーン単位とポリエーテル単位が交互に直鎖状に連なる構造を有するポリエーテル変性シリコーンオイルであり、前記シリコーンオイル(B)の含有量が、前記シリコーンゴム(A)100質量部に対して0.5~15質量部の範囲内にある、防汚塗膜。
項2.
前記シリコーンオイル(B)が、下記一般式(1)で示される構造を有する、項1に記載の防汚塗膜。
【0010】
【0011】
(式中、R1及びR2は、同一又は異なりメチル基又はフェニル基であり、nは1~6の整数、aは0~50の整数、bは0~50の整数、Xは5~300の整数、Yは2~40の整数を示す。)
項3.
前記シリコーンオイル(B)以外のシリコーンオイル(C)をさらに含む、項1又は2に記載の防汚塗膜。
項4.
防汚剤(D)をさらに含む、項1~3のいずれか1項に記載の防汚塗膜。
項5.
複層構造である、項1~4のいずれか1項に記載の防汚塗膜。
項6.
上層塗膜及び下層塗膜からなり、前記上層塗膜のシリコーンオイル(B)の含有量が前記下層塗膜のシリコーンオイル(B)の含有量よりも多い、項5に記載の防汚塗膜。
項7.
項1~6のいずれか1項に記載の防汚塗膜を備えてなる塗装物。
に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の防汚塗膜は、下地に対する密着性と長期間の防汚持続性にともに優れる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[シリコーンゴム(A)]
本発明において、シリコーンゴム(A)は防汚塗膜のバインダーとなる成分であり、公知の室温硬化性液状シリコーンゴム(RTVシリコーンゴム)であるポリオルガノシロキサン組成物が硬化してゴム状弾性体を形成してなるものである。硬化前の液状ポリオルガノシロキサン組成物としては、Si原子に結合した水酸基及び又はアルコキシ基などの架橋官能性基を有するオルガノポリシロキサン、アセトキシ基、メトキシ基、ケトキシム基、エノキシ基、アミド基など前記架橋官能性基と反応可能な官能基を有する多官能性シラン化合物を架橋剤として含む、1液型又は2液型の組成物を挙げることができる。また、これらの組成物は、必要に応じて硬化触媒としての金属有機化合物が配合されたものであってもよい。
【0014】
前記シリコーンゴム(A)の前駆体となるポリオルガノシロキサン組成物としては市販品を用いてもよい。市販品の一例としては、
「KE-44」、「KE-45」、「KE-441」、「KE-445」、「KE-45-S」等の硬化反応形式が脱オキシムタイプの縮合反応(一液型、湿気硬化型、室温硬化型):
「KE-347」、「KE-348」、「KE-3479」、「KE-3423」、「KE-3490」、「KE-3491」、「KE-3495」等の硬化反応形式が脱アセトンタイプの縮合反応(一液型、湿気硬化型、室温硬化型):
「KE-41」、「KE-42」、「FE-123」等の硬化反応形式が脱酢酸タイプの縮合反応(一液型、湿気硬化型、室温硬化型):
「KE-4890」、「KE-4895」、「KE-4896」、「KE-4897」、「KE-4898」等の硬化反応形式が脱アルコールタイプの縮合反応(一液型、湿気硬化型、室温硬化型):
「KE-1820」、「KE-1825」、「KE-1830」、「FE-61」等の硬化反応形式が付加反応(一液型、加熱硬化型又は室温硬化型):
「KE-200」等の硬化反応形式が脱アセトンタイプの縮合反応(二液型、湿気硬化型、室温硬化型):
「KE-66」、「KE-108」、「KE-118」、「KE-119」等の硬化反応形式が脱アルコールタイプの縮合反応(二液型、湿気硬化型、室温硬化型):
「KE-1031-A/B」、「KE-103」、「KE-106」、「KE-1282-A/B」硬化反応形式が付加反応(二液型、加熱硬化型又は室温硬化型)等(以上、信越化学社製)の市販品が挙げられる。以上の例示物は単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0015】
前記シリコーンゴム(A)としては、硬化反応形式が脱オキシムタイプの縮合反応である一液型の湿気硬化型のポリオルガノシロキサン組成物から形成されてなるものであることが好ましい。
【0016】
[シリコーンオイル(B)]
本発明において、シリコーンオイル(B)は、シリコーン単位とポリエーテル単位が交互に直鎖状に連なる構造を有するポリエーテル変性シリコーンオイルである。シリコーン単位とポリエーテル単位が交互に連なっているため(AB)n型ポリエーテル変性シリコーンオイルと称する場合もある。このようなポリエーテル変性シリコーンオイルを構成するシリコーン単位としては、例えば、ジメチルシリコーン単位、メチルフェニルシリコーン単位、メチルハイドロジエンシリコーン単位等のシリコーン単位が挙げられ、また、ポリエーテル単位としては、オキシエチレン基、オキシプロピレン基等のオキシアルキレン基を含むポリエーテル単位が挙げられる。シリコーンオイル(B)は、例えば下記一般式(1)で示される構造を有する化合物であることができる。
【0017】
【0018】
(式中、R1及びR2は、同一又は異なりメチル基又はフェニル基であり、nは1~6の整数、aは0~50の整数、bは0~50の整数、Xは5~300の整数、Yは2~40の整数を示す。)
【0019】
前記一般式(1)で示される(AB)n型ポリエーテル変性シリコーンとしては、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、「FZ-2222」、「FZ-2233」、「FZ-2250」(以上、商品名、東レ・ダウコーニング社製)等が挙げられる。これら例示の化合物は単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0020】
本発明の防汚塗膜は、シリコーンオイル(B)の含有量が、前記シリコーンゴム(A)100質量部に対して0.5~15質量部の範囲内にあるものであり、1.0~12.5質量部の範囲内であるとさらによい。なお、後述するように、本発明の防汚塗膜は単層構造であってもよいし複層構造であってもよい。そして、防汚塗膜が複層構造の場合は、「シリコーンオイル(B)の含有量が、前記シリコーンゴム(A)100質量部に対して0.5~15質量部の範囲内にある」とは、複層構造の防汚塗膜に含まれるシリコーンオイル(B)の合計含有量が、複層構造の防汚塗膜に含まれるシリコーンゴム(A)の合計含有量100質量部に対して0.5~15質量部の範囲内にあることを意味するものとする。
【0021】
本発明では、防汚塗膜が前記シリコーンオイル(B)を0.5~15質量部含むことによって、長期の防汚性と下地密着性を共に達成することができる。これは、シリコーンオイル(B)がポリエーテル単位を有し、且つポリエーテル部分の偏りが少なく、分子中で適度に散らばっている構造をしているために、防汚塗膜中においてシリコーンオイル(B)が前記シリコーンゴム(A)に適度に保持されつつも時間をかけて塗膜表層(水に接触する側)に浮き出るものと推察している。
【0022】
[シリコーンオイル(C)]
本発明の防汚塗膜は前記シリコーンオイル(B)に加えてそれ以外のシリコーンオイル(C)を含んだものであってよい。かかるシリコーンオイル(C)の具体例としては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジエンシリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、アルキルアラルキル変性シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、エポキシポリエーテル変性シリコーンオイル、フェノール変性シリコーンオイル、アクリル変性シリコーンオイル、アルコール変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、カルボキシル変性シリコーンオイル、メルカプト変性シリコーンオイル等が挙げられる。また、シリコーンオイル(B)とは異なる構造を有するポリエーテル変性シリコーンオイル、例えば、側鎖型、片末端型、両末端型のポリエーテル変性シリコーンオイルもシリコーンオイル(C)に包含される。これらは、単独で用いてもよく、また、2種以上併用してもよい。本発明におけるシリコーンオイル(C)としては常温で液状の非反応性シリコーンオイルが好ましい。
【0023】
側鎖型のポリエーテル変性シリコーンオイルとは、ポリエーテル基がポリシロキサン鎖の側鎖に結合するポリエーテル変性シリコーンオイルである。例えば、下記式(2)で例示されるポリエーテル変性シリコーンオイルは側鎖型に該当する。
【0024】
【0025】
片末端型のポリエーテル変性シリコーンオイルとは、ポリエーテル基がポリシロキサン鎖の片末端に結合するポリエーテル変性シリコーンオイルである。例えば、下記式(3)で例示されるポリエーテル変性シリコーンオイルは片末端型に該当する。
【0026】
【0027】
両末端型のポリエーテル変性シリコーンオイルとは、ポリエーテル基がポリシロキサン鎖の両末端に結合するポリエーテル変性シリコーンオイルである。例えば、下記式(4)で例示されるポリエーテル変性シリコーンオイルが両末端型に該当する。
【0028】
【0029】
シリコーンオイル(C)は市販品を使用することができる。その具体例としては、「KF-50」、「KF-54」、「KF-69」、「KF-99」、「KF-410」、「KF-412」、「KF-945」、「KF-965」、「KF-968」、「KF-6004」、「KF-6020」、「X-22-715」、「X-22-2516」、「X-22-4515」、「X-22-821」、「X-22-822」、「X-22-1877」、「X-22-7322」、(以上、商品名、信越化学社製)、「BY 16-846 FLUID」、「 BY 16-606」、「OFX-0203 FLUID」、「OFX-0230 FLUID」、「SF 8416 FLUID」、「SF 8419 FLUID」、「SF 8422 FLUID」、「501W ADDITIVE」、「FZ-2110」、「FZ-2123」、「FZ-2191」、「FZ-5609」、「L-7001」、「L-7002」、「L-7604」、「OFX-0309 FLUID」、「OFX-5211 FLUID」、「SF 8410 FLUID」、「OFX-0193」、「SH 3746、FLUID」、「SH3771」、「SH 8400 FLUID」(以上、商品名、東レダウコーニング社製)等を挙げることができる。シリコーンオイル(C)の含有量としては、防汚塗膜に含まれるシリコーンゴム(A)100質量部に対して0.5~25質量部、特に1.0~15質量部の範囲内が適当である。
【0030】
[防汚剤(D)]
本発明の防汚塗膜は、必要に応じて、防汚剤(D)を含有することができる。防汚剤(D)としては、従来公知のもの、例えば、無機化合物、金属を含む有機化合物及び金属を含まない有機化合物などが挙げられる。
【0031】
上記無機化合物としては、例えば、銅粉、亜酸化銅、チオシアン酸第一銅、炭酸銅、塩化銅、硫酸銅等の銅化合物;硫酸亜鉛、酸化亜鉛等の亜鉛化合物;硫酸ニッケル、銅-ニッケル合金等のニッケル化合物;などが挙げられる。
【0032】
上記金属を含む有機化合物としては、例えば、有機銅系化合物、有機ニッケル系化合物、有機亜鉛系化合物などを用いることができ、その他、マンネブ、マンセブ、プロピネブなども用いることができる。さらに、前記有機銅系化合物としては、例えば、オキシン銅、銅ピリチオン、ノニルフェノールスルホン酸銅、カッパービス(エチレンジアミン)-ビス(ドデシルベンゼンスルホネート)、酢酸銅、ナフテン酸銅、ビス(ペンタクロロフェノール酸)銅等が挙げられる。また、前記有機ニッケル系化合物としては、例えば、酢酸ニッケル、ジメチルジチオカルバミン酸ニッケル等が挙げられる。そして、前記有機亜鉛系化合物としては、酢酸亜鉛、カルバミン酸亜鉛、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジンクピリチオン、エチレンビス(ジチオカルバミン酸)亜鉛等が挙げられる。
【0033】
上記金属を含まない有機化合物としては、例えば、N-トリハロメチルチオフタルイミド、ジチオカルバミン酸、N-アリールマレイミド、3-置換化アミノ-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン、ジチオシアノ系化合物、トリアジン系化合物等が挙げられる。
【0034】
上記N-トリハロメチルチオフタルイミドとしては、例えば、N-トリクロロメチルチオフタルイミド、N-フルオロジクロロメチルチオフタルイミド等が挙げられる。
【0035】
上記ジチオカルバミン酸としては、例えば、ビス(ジメチルチオカルバモイル)ジスルフィド、N-メチルジチオカルバミン酸アンモニウム、エチレンビス(ジチオカルバミン酸)アンモニウム、ミルネブ等が挙げられる。
【0036】
上記N-アリールマレイミドとしては、例えば、N-(2,4,6-トリクロロフェニル)マレイミド、N-4-トリルマレイミド、N-3-クロロフェニルマレイミド、N-(4-n-ブチルフェニル)マレイミド、N-(アニリノフェニル)マレイミド、N-(2,3-キシリル)マレイミド、2,3-ジクロロ-N-(2’,6’-ジエチルフェニル)マレイミド、2,3-ジクロロ-N-(2’-エチル-6’-メチルフェニル)マレイミド等が挙げられる。
【0037】
上記3-置換化アミノ-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオンとしては、例えば、3-ベンジリデンアミノ-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン、3-(4-メチルベンジリデンアミノ)-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン、3-(2-ヒドロキシベンジリデンアミノ)-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン、3-(4-ジメチルアミノベンジリデンアミノ)-1,3-チアゾリン-2,4-ジオン、3-(2,4-ジクロロベンジリデンアミノ)-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン等が挙げられる。
【0038】
上記ジチオシアノ系化合物としては、例えば、ジチオシアノメタン、ジチオシアノエタン、2,5-ジチオシアノチオフエン等が挙げられる。
【0039】
上記トリアジン系化合物としては、例えば、2-メチルチオ-4-t-ブチルアミノ-6-シクロプロピルアミノ-s-トリアジン等が挙げられる。
【0040】
また、上記の金属を含まない有機化合物としては、上記に例示した有機化合物のほか、例えば、メデトミジン(体系名:(±)4-[1-(2,3-ジメチルフェニル)エチル]-1H-イミダゾール)、4-ブロモ-2-(4-クロロフェニル)-5-(トリフルオロメチル)-1H-ピロール-3-カルボニトリル、2,4,5,6-テトラクロロイソフタロニトリル、N,N-ジメチルジクロロフェニル尿素、2-オクチル-4,5-ジクロロ-4-イソチアゾリン-3-オン、N,N-ジメチル-N’-フェニル-(N-フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド、テトラメチルチウラムジスルフィド、3-ヨード-2-プロピニルブチルカルバメート、2-(メトキシカルボニルアミノ)ベンズイミダゾール、2,3,5,6-テトラクロロ-4-(メチルスルホニル)ピリジン、ジヨードメチルパラトリルスルホン、ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメート、フェニル(ビスピリジン)ビスマスジクロライド、2-(4-チアゾリル)ベンズイミダゾール、トリフェニルボロンピリジン・アミン錯体、ジクロロ-N-((ジメチルアミノ)スルフォニル)フルオロ-N-(p-トリル)メタンスルフェンアミド、クロロメチル-n-オクチルジスルフィド等が挙げられる。
【0041】
防汚剤(D)の含有量としては、防汚塗膜に含まれるシリコーンゴム(A)全量100質量部に対して、好ましくは0.01~20質量部、より好ましくは0.05~10質量部の範囲内である。
【0042】
[その他成分]
本発明の防汚塗膜には、上記シリコーンゴム(A)及びシリコーンオイル(B)並びに必要に応じて使用されるシリコーンオイル(C)及び防汚剤(D)の他に、顔料、染料、脱水剤、可塑剤、搖変剤(タレ止剤)、消泡剤、酸化防止剤、シリコーンゴム(A)以外の樹脂等、塗膜に一般的に含まれている各種成分を、必要に応じて含ませることができる。これらの成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
上記顔料としては、例えば、ベンガラ、酸化チタン、黄色酸化鉄、酸化カルシウム、カーボンブラック、ナフトールレッド、フタロシアニンブルー等の着色顔料;タルク、シリカ、マイカ、クレー、炭酸カルシウム、カオリン、アルミナホワイト、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、硫化亜鉛等の体質顔料が挙げられる。
【0044】
前記顔料の含有量は、防汚塗膜に含まれるシリコーンゴム(A)全量100質量部に対して、0.05~80質量部の範囲内であることが好ましく、1~50質量部の範囲内であることがより好ましい。
【0045】
[防汚塗膜]
本発明の防汚塗膜は、基材の表面に、防汚塗膜形成用の防汚塗料組成物を塗装し、溶剤などを揮発させ乾燥させることによって防汚塗膜として形成されるものである。
【0046】
基材としては、例えば、海水又は真水と(例えば常時又は断続的に)接触する基材、具体的には、水中構造物、船舶外板又は船底、発電所の導水管や冷却管、養殖用又は定置用の漁網、漁具これらに用いられる浮き子、ロープ等の漁網付属具等が挙げられる。これら基材は、公知のプライマー又は防食塗料を塗装したものであってもよいし、旧塗膜が設けられたものであってもよい。
【0047】
前記防汚塗膜は、1種の防汚塗料組成物を塗装したことによる単層構造であってもよいが、相異なる複数の防汚塗料組成物を順次塗装してなる複層構造であることが好適である。
【0048】
複層構造の防汚塗膜としては上層塗膜及び下層塗膜からなり、上層塗膜のシリコーンオイル(B)の含有量が下層塗膜のシリコーンオイル(B)の含有量よりも多いことが適している。このような複層構造の防汚塗膜は、塗膜表層のシリコーンオイル(B)の濃度が高くなり、下地に対する密着性と長期防汚持続性を良好に保つことができるからである。この場合、上層塗膜にシリコーンオイル(B)が含まれていれば下層塗膜にはシリコーンオイル(B)が含まれていなくても差し支えない。
【0049】
上記防汚塗膜の全体膜厚は、塗膜のゴム弾性による生物付着忌避性を考慮して適宜調整することができるが、例えば50~250μm、好ましくは75~200μmの範囲内が適当である。防汚塗膜が二層構造である場合には、上層塗膜と下層塗膜の膜厚比が上層塗膜/下層塗膜の膜厚比で10/90~90/10、特に30/70~70/30の範囲内が適当である。
【0050】
本発明の防汚塗膜は、上記基材の表面に、防汚塗膜を形成するための防汚塗料組成物を刷毛塗り、吹付け塗り、ローラー塗り、浸漬等の手段により塗装して形成することができる。防汚塗膜が複層構造である場合は下層塗膜形成用の防汚塗料組成物を塗装した後に該防汚塗膜表面に上層塗膜形成用の防汚塗料組成物を重ね塗りする。塗膜の乾燥は室温で行なうことができるが、必要に応じて約100℃までの温度で加熱乾燥を行なってもよい。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、下記例中の「部」及び「%」はそれぞれ「質量部」及び「質量%」を意味する。
【0052】
上層塗膜形成用防汚塗料組成物の製造:
製造例1
容器に、銅ピリチオン5部、ベンガラ4部、分散用のキシレン20部を配合し、ホモミキサーを用いて約2,000rpmの攪拌速度により混合分散した。分散後、シリコーンゴム(A-1)の樹脂溶液100部及びシリコーンオイル(B-1)3部を添加し、希釈用のキシレン5部で希釈してディスパーで撹拌して上層塗膜形成用の上塗り塗料-1を調製した。
【0053】
製造例2~32
上記製造例1において、配合組成を下記表1-1~表1-3とする以外は製造例1と同様にして、上塗り塗料-2~上塗り塗料-32を製造した。
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
(注)シリコーンゴム(A-1):「KE-44」、商品名、信越化学社製
(注)シリコーンゴム(A-2):「KE-441」、商品名、信越化学社製
(注)シリコーンゴム(A-3):「KE-445」、商品名、信越化学社製
【0058】
(注)シリコーンオイル(B-1):「FZ-2222」、商品名、東レダウコーニング社製、式(1)で示される(AB)n型ポリエーテル変性シリコーンオイル
(注)シリコーンオイル(B-2):「FZ-2203」、商品名、東レダウコーニング社製、式(1)で示される(AB)n型ポリエーテル変性シリコーンオイル
【0059】
(注)シリコーンオイル(C-1):「KF50」、商品名、信越シリコーン社製、側鎖型メチルフェニルシリコーンオイル、
(注)シリコーンオイル(C-2):「KF54」、信越シリコーン社製、側鎖型メチルフェニルシリコーンオイル
(注)シリコーンオイル(C-3):「KF-410」、商品名、信越シリコーン社製、側鎖型アラルキル変性シリコーンオイル
(注)シリコーンオイル(C-4):「KF-412」、商品名、信越シリコーン社製、側鎖型長鎖アルキル変性シリコーンオイル
(注)シリコーンオイル(C-5):「KF-6020」、商品名、信越シリコーン社製、側鎖型ポリエーテル変性シリコーンオイル
(注)シリコーンオイル(C-6):「KF-945」、商品名、信越シリコーン社製、側鎖型ポリエーテル変性シリコーンオイル
(注)シリコーンオイル(C-7):「X-22-2516」、商品名、信越シリコーン社製、側鎖型ポリエーテル・長鎖アルキル・アラルキル変性シリコーンオイル
(注)シリオーンオイル(C-8):「KF-6004」、商品名、信越シリコーン社製、両末端型ポリエーテル変性シリコーンオイル
【0060】
(注)防汚剤(D-1):亜酸化銅
(注)防汚剤(D-2):酸化亜鉛
(注)防汚剤(D-3):銅ピリチオン
(注)防汚剤(D-4):亜鉛ピリチオン
(注)防汚剤(D-5):シーナイン211、(2-オクチル-4,5-ジクロロ-4-イソチアゾリン-3-オン)
(注)防汚剤(D-6):ジネブ(エチレンビス(ジチオカルバミド酸)亜鉛)
(注)防汚剤(D-7):「ECONEA」、商品名、ヤンセンPMP社製、 4-ブロモ-2-(4-クロロフェニル)-5-(トリフルオロメチル)-1H-ピロール-3-カルボニトリル
(注)防汚剤(D-8):「セレクトープ」、商品名、(±)-4-[1-(2,3-ジメチルフェニル)エチル]-3H-イミダゾール
【0061】
下層塗膜形成用防汚塗料組成物の製造:
製造例33~47
配合組成を下記表2とする以外は上記製造例1と同様の手順にて下層塗膜形成用の下塗り塗料-1~下塗り塗料-15を製造した。
【0062】
【0063】
防汚塗膜の製造:
実施例1~28及び比較例1~10
上記製造例1~47で得られた上塗り塗料-1~上塗り塗料-32及び下塗り塗料-1~下塗り塗料-15を用いて、表3-1~表3-3記載の塗装仕様にて複層構造又は単層構造の防汚塗膜を備えた試験体を作成した。
各防汚塗膜の性能を調べるために、下記評価試験を行った。結果を表3-1~表3-3に示す。
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
評価試験:
(*)防汚性能
サンドブラスト処理鋼板(100mm×300mm×2mm)の両面に、エポキシ系防錆塗料を200μmの乾燥膜厚となるようにスプレー塗装し、23℃、20時間乾燥させた後、さらに、エポキシ系バインダーコートを乾燥膜厚が100μmとなるように塗装し23℃、20時間乾燥させたのち、被塗板とした。この被塗板の両面に、表3-1~表3-3記載の各下層用塗料を乾燥膜厚が片面100μmとなるようにスプレー塗装し、温度20℃、湿度75%の恒温恒湿室にて1日乾燥させたのち、表3-1~表3-3記載の各上層用塗料を乾燥膜厚が片面100μmとなるようにスプレー塗装し、温度20℃、湿度75%の恒温恒湿室にて1週間乾燥させて、防汚性試験用の試験板を作成した。
実施例28の塗装仕様については、被塗板の両面に、上塗り塗料-6を乾燥膜厚が200μmとなるように塗装し、温度20℃、湿度75%の恒温恒湿室にて1日乾燥させて、防汚塗膜が単層構造である試験板を作成した。
ついで作成した各試験板を三重県度会郡南伊勢町礫浦にて海水浸漬を行い、塗膜上の付着生物の占有面積の割合(付着面積)を経時で評価した。
◎:(合格) 付着生物が観察されなかった、
○:(合格) 付着生物の占有面積が5%未満、
△:(不合格)付着生物の占有面積が5%以上、30%未満、
×:(不合格)付着生物の占有面積が30%以上。
【0068】
(*)密着性試験
円筒形のドラム(直径500mm×高さ240mm)に装着可能なように湾曲性を持たせた、サンドブラスト処理鋼板(120mm×120mm×1mm)に、エポキシ系防錆塗料を200μmの乾燥膜厚となるようにスプレー塗装し、23℃、20時間乾燥させた後、さらに、エポキシ系バインダーコートを乾燥膜厚が100μmとなるように塗装し23℃、20時間乾燥させ、被塗体とした。
この被塗体の片面に、表3-1~表3-3記載の各下層用塗料を乾燥膜厚が片面100μmとなるようにスプレー塗装し、温度20℃、湿度75%の恒温恒湿室にて1日乾燥させたのち、その上に表3-1~表3-3記載の各上層用塗料を乾燥膜厚が片面100μmとなるようにスプレー塗装し、温度20℃、湿度75%の恒温恒湿室にて1週間乾燥させて、密着性試験用の試験体を作製した。
実施例28の塗装仕様については、被塗体面に上塗り塗料-6を乾燥膜厚が200μmとなるように塗装し、温度20℃、湿度75%の恒温恒湿室にて1日乾燥させて、防汚層が単層構造である試験体を作成した。
ついで得られた各試験体を上記の円筒形ドラムに装着し、該円筒形ドラムを兵庫県由良湾の海面下500mmにて16ノットで回転させ、海中から試験体を経時的に回収し、目視及びガーゼで塗膜を擦って密着性を評価した。
◎:(合格) 目視及びガーゼで擦った後も塗膜は健全な状態を維持している、
○:(合格) 目視及びガーゼで擦った後も淵部分が欠ける程度で密着性を維持している、
△:(不合格) 目視では異常ないが、ガーゼで擦った塗膜がシート状に剥離する、
×:(不合格) ドラムローター試験後に塗膜が剥離している(目視確認時点で剥離あり)。
【0069】
(*)動的な耐藻類性
上記密着性試験に供した試験体(円筒形ドラムに取り付けた試験体を海水中で16ノットで回転)にて、その塗膜を目視観察し、藻類の占有面積の割合(付着面積)を経時で評価した。
◎:(合格) 藻が観察されなかった、
○:(合格) 藻の占有面積が5%未満、
△:(不合格)藻の占有面積が5%以上、30%未満、
×:(不合格)藻の占有面積が30%以上。
【0070】
(*)シリコーンオイルの滲み出し性
隙間が250μmに調整されたアプリケーターを用いて、ガラス板上に各塗装仕様で引き塗りを行なった。下層用塗料と、上層用塗料の塗装インターバルは1日、乾燥条件は室温にて1週間養生したものを試験板とする。
実施例28の塗装仕様については上塗り塗料-6を、隙間が500μmに調整されたアプリケーターを用いて引き塗りし、室温にて1週間養生したものを試験板とした。
次いで各試験板を20℃環境下で海水に浸漬し、経時で引上げた際の塗膜表面の水濡れ性を評価した。
◎:(合格) 引上げた際の水濡れ(水膜を形成)を5秒以上保持している、
○:(合格) 引上げた際の水濡れ(水膜を形成)を3秒~5秒保持している、
△:(不合格)水膜の形成が3秒未満であった、
×:(不合格)水膜を形成する事無く、水滴となって流れる。