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特許7417485作業機械、および作業機械を制御するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-10
(45)【発行日】2024-01-18
(54)【発明の名称】作業機械、および作業機械を制御するための方法
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/20 20060101AFI20240111BHJP
【FI】
E02F9/20 H
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020118864
(22)【出願日】2020-07-10
(65)【公開番号】P2022015783
(43)【公開日】2022-01-21
【審査請求日】2023-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】平間 貴大
(72)【発明者】
【氏名】林 圭一
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-051194(JP,A)
【文献】特開2003-300472(JP,A)
【文献】特開2002-039111(JP,A)
【文献】特開2000-027765(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0137337(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のフレームと、
前記第1のフレームに対して回動可能に接続された第2のフレームと、
前記第2のフレームと前記第1のフレームとに接続され、前記第1のフレームに対して前記第2のフレームを回動させるステアリングシリンダと、
前記ステアリングシリンダに作動油を供給する油圧ポンプと、
前記油圧ポンプを駆動するエンジンと、
オペレータによって操作可能なステアリング操作部材と、
前記ステアリング操作部材の操作に応じたステアリング指令信号を出力するステアリング操作センサと、
前記油圧ポンプの吐出圧を検出する圧力センサと、
前記ステアリング指令信号に応じて前記エンジンの回転速度を制御することで、前記油圧ポンプから前記ステアリングシリンダに供給される作動油の流量を制御するコントローラと、
を備え
前記コントローラは、
前記ステアリング指令信号に基づいて前記ステアリングシリンダの要求流量を決定し、
前記要求流量に基づいて要求エンジン回転速度を決定し、
前記吐出圧を取得し、
前記吐出圧と前記ステアリング指令信号とに基づいて、前記油圧ポンプの要求トルクを決定し、
前記要求トルクと前記要求エンジン回転速度とに基づいて、要求エンジン出力を決定し、
前記要求エンジン出力に応じて前記エンジンを制御する、
作業機械。
【請求項2】
第1のフレームと、
前記第1のフレームに対して回動可能に接続された第2のフレームと、
前記第2のフレームと前記第1のフレームとに接続され、前記第1のフレームに対して前記第2のフレームを回動させるステアリングシリンダと、
前記ステアリングシリンダに作動油を供給する油圧ポンプと、
前記油圧ポンプを駆動するエンジンと、
オペレータによって操作可能なステアリング操作部材と、
前記ステアリング操作部材の操作に応じたステアリング指令信号を出力するステアリング操作センサと、
前記第2のフレームと前記第1のフレームとの間のアーティキュレート角度を示すアーティキュレート角度信号を出力する角度センサと、
前記ステアリング指令信号に応じて前記エンジンの回転速度を制御することで、前記油圧ポンプから前記ステアリングシリンダに供給される作動油の流量を制御するコントローラと、
を備え
前記コントローラは、
前記ステアリング指令信号に基づいて目標アーティキュレート角速度を決定し、
前記アーティキュレート角度信号に基づいて、実際のアーティキュレート角速度を取得し、
前記実際のアーティキュレート角速度が前記目標アーティキュレート角速度よりも遅いときには、前記エンジンの回転速度を増大させる、
作業機械。
【請求項3】
前記コントローラは、
前記ステアリング指令信号から前記ステアリング操作部材の操作速度を取得し、
前記操作速度に応じて、前記エンジンの回転速度を制御する、
請求項1又は2に記載の作業機械。
【請求項4】
前記コントローラは、前記操作速度の増大に応じて前記エンジンの回転速度を増大させる、
請求項に記載の作業機械。
【請求項5】
前記作業機械は、ホイールローダであり、
前記第2のフレームは、前記第1のフレームの前方に配置され、
前記第2のフレームに取り付けられる作業機と、
前記第1のフレームに取り付けられるリアタイヤと、
前記第2のフレームに取り付けられるフロントタイヤと、
をさらに備える、
請求項1からのいずれかに記載の作業機械。
【請求項6】
第1のフレームと、前記第1のフレームに対して回動可能に接続された第2のフレームと、前記第2のフレームと前記第1のフレームとに接続され、前記第1のフレームに対して前記第2のフレームを回動させるステアリングシリンダと、前記ステアリングシリンダに作動油を供給する油圧ポンプと、前記油圧ポンプを駆動するエンジンとを備える作業機械を制御するための方法であって、
オペレータによって操作可能なステアリング操作部材の操作に応じたステアリング指令信号を取得することと、
前記ステアリング指令信号に応じて前記エンジンの回転速度を制御することで、前記油圧ポンプから前記ステアリングシリンダに供給される作動油の流量を制御することと、
前記ステアリング指令信号に基づいて前記ステアリングシリンダの要求流量を決定することと、
前記要求流量に基づいて要求エンジン回転速度を決定することと、
前記油圧ポンプの吐出圧を取得することと、
前記吐出圧と前記ステアリング指令信号とに基づいて、前記油圧ポンプの要求トルクを決定することと、
前記要求トルクと前記要求エンジン回転速度とに基づいて、要求エンジン出力を決定することと、
前記要求エンジン出力に応じて前記エンジンを制御すること、
を備える方法。
【請求項7】
第1のフレームと、前記第1のフレームに対して回動可能に接続された第2のフレームと、前記第2のフレームと前記第1のフレームとに接続され、前記第1のフレームに対して前記第2のフレームを回動させるステアリングシリンダと、前記ステアリングシリンダに作動油を供給する油圧ポンプと、前記油圧ポンプを駆動するエンジンとを備える作業機械を制御するための方法であって、
オペレータによって操作可能なステアリング操作部材の操作に応じたステアリング指令信号を取得することと、
前記ステアリング指令信号に応じて前記エンジンの回転速度を制御することで、前記油圧ポンプから前記ステアリングシリンダに供給される作動油の流量を制御することと、
前記第2のフレームと前記第1のフレームとの間のアーティキュレート角度を示すアーティキュレート角度信号を取得すること、
前記ステアリング指令信号に基づいて目標アーティキュレート角速度を決定することと、
前記アーティキュレート角度信号に基づいて、実際のアーティキュレート角速度を取得することと、
前記実際のアーティキュレート角速度が前記目標アーティキュレート角速度よりも遅いときには、前記エンジンの回転速度を増大させること、
を備える方法。
【請求項8】
前記ステアリング指令信号から前記ステアリング操作部材の操作速度を取得することと、
前記操作速度に応じて、前記エンジンの回転速度を制御すること、
をさらに備える請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記操作速度の増大に応じて前記エンジンの回転速度を増大させることをさらに備える、
請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機械、および作業機械を制御するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
作業機械には、特許文献1に示されているように、フロントフレームとリアフレームとが互いに回動可能に接続された、所謂アーティキュレート型車両がある。そのような作業機械は、ステアリングシリンダと、油圧ポンプと、エンジンとを備えている。ステアリングシリンダは、フロントフレームとリアフレームとに接続される。油圧ポンプは、エンジンによって駆動されることで、作動油を吐出する。油圧ポンプから吐出された作動油は、ステアリングシリンダに供給される。ステアリングシリンダが伸縮することで、フロントフレームがリアフレームに対して回動する。それにより、フロントフレームがリアフレームに対して屈曲することで、作業機械が旋回する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許第10,215,119号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の作業機械では、オペレータがアクセルペダルを操作することで、エンジンの回転速度が制御される。一方、油圧ポンプから、ステアリングシリンダに供給される作動油の流量は、エンジンの回転速度に応じて変化する。なお、ステアリングシリンダに供給される作動油の流量とは、単位時間当たりにステアリングシリンダに供給される作動油の体積を意味する。
【0005】
エンジンの回転速度が低いときには、ステアリングシリンダに供給される作動油の流量が少なくなる。そのため、作業機械の旋回に最低限必要な作動油の流量を確保するために、油圧ポンプの容量は、エンジンの回転速度が最低の場合を考慮して設計される。従って、油圧ポンプのサイズは、余裕をもって大きめに設定される。しかし、その場合、エンジンの回転速度が高いときには、油圧ポンプは、必要以上の流量で作動油を吐出してしまう。そのため、燃費が悪化するという課題がある。
【0006】
また、エンジン回転速度が低いときには、オペレータによるステアリング操作に対して、作業機械の屈曲動作の追従性が低いという問題もある。例えば、オペレータがすばやくステアリング操作を行ったときに、油圧ポンプの吐出流量が不足しているために、オペレータの操作感に対して屈曲動作が遅いという現象が生じる。
【0007】
本発明の目的は、ステアリング操作に対する作業機械の屈曲動作の追従性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の態様に係る作業機械は、第1のフレームと、第2のフレームと、ステアリングシリンダと、油圧ポンプと、エンジンと、ステアリング操作部材と、ステアリング操作センサと、コントローラとを備える。第2のフレームは、第1のフレームに対して回動可能に接続される。ステアリングシリンダは、第2のフレームと第1のフレームとに接続される。ステアリングシリンダは、第1のフレームに対して第2のフレームを回動させる。油圧ポンプは、ステアリングシリンダに作動油を供給する。エンジンは、油圧ポンプを駆動する。ステアリング操作部材は、オペレータによって操作可能である。ステアリング操作センサは、ステアリング操作部材の操作に応じたステアリング指令信号を出力する。コントローラは、ステアリング指令信号に応じてエンジンの回転速度を制御することで、油圧ポンプからステアリングシリンダに供給される作動油の流量を制御する。
【0009】
第2の態様に係る方法は、作業機械を制御するための方法であって、作業機械は、第1のフレームと、第2のフレームと、ステアリングシリンダと、油圧ポンプと、エンジンとを備える。第2のフレームは、第1のフレームに対して回動可能に接続される。ステアリングシリンダは、第2のフレームと第1のフレームとに接続される。ステアリングシリンダは、第1のフレームに対して第2のフレームを回動させる。油圧ポンプは、ステアリングシリンダに作動油を供給する。エンジンは、油圧ポンプを駆動する。本態様に係る方法は、以下の処理を備える。第1の処理は、オペレータによって操作可能なステアリング操作部材の操作に応じたステアリング指令信号を取得することである。第2の処理は、ステアリング指令信号に応じてエンジンの回転速度を制御することで、油圧ポンプからステアリングシリンダに供給される作動油の流量を制御することである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ステアリング操作部材の操作に応じたステアリング指令信号に応じてエンジンの回転速度が制御される。そのため、ステアリング操作部材の操作に応じて、油圧ポンプからステアリングシリンダに供給される作動油の流量が制御される。それにより、ステアリング操作に対する作業機械の屈曲動作の追従性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係る作業機械の側面図である。
図2】作業機械の制御システムを示す模式図である。
図3】作業機械のアーティキュレート角度を示す図である。
図4】コントローラによって実行される処理を示すフローチャートである。
図5】目標アーティキュレートデータの一例を示す図である。
図6】要求流量データの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、実施形態に係る作業機械について説明する。図1は、実施形態に係る作業機械1の側面図である。本実施形態において、作業機械1は、ホイールローダである。作業機械1は、車体フレーム2と、作業機3と、一対のフロントタイヤ4と、キャブ5と、エンジンルーム6と、一対のリアタイヤ7とを備えている。なお、以下の説明において、「前」、「後」、「右」、「左」、「上」、及び「下」とは、キャブ5内の運転席から前方を見た状態を基準とする方向を示す。
【0013】
車体フレーム2は、フロントフレーム11と、リアフレーム12と、ピボットジョイント13とを含む。フロントフレーム11は、リアフレーム12の前方に配置されている。ピボットジョイント13は、作業機械1において、左右方向における中央に配置されている。ピボットジョイント13は、フロントフレーム11とリアフレーム12を互いに回動可能に連結している。一対のフロントタイヤ4は、フロントフレーム11に取り付けられている。また、一対のリアタイヤ7は、リアフレーム12に取り付けられている。
【0014】
作業機3は、ブーム14と、バケット15と、リフトシリンダ16と、バケットシリンダ17とを含む。ブーム14は、フロントフレーム11に装着されている。バケット15は、ブーム14の先端に取り付けられている。
【0015】
リフトシリンダ16およびバケットシリンダ17は、油圧シリンダである。リフトシリンダ16の一端はフロントフレーム11に取り付けられており、リフトシリンダ16の他端はブーム14に取り付けられている。リフトシリンダ16の伸縮により、ブーム14が上下に揺動する。バケットシリンダ17の一端はフロントフレーム11に取り付けられており、バケットシリンダ17の他端はベルクランク18を介してバケット15に取り付けられている。バケットシリンダ17が伸縮することによって、バケット15が上下に揺動する。
【0016】
キャブ5は、リアフレーム12上に配置されている。エンジンルーム6は、キャブ5の後方に配置されている。エンジンルーム6は、リアフレーム12上に配置されている。
【0017】
図2は、作業機械1の制御システムを示す模式図である。図2に示すように、作業機械1は、エンジン20と、トランスミッション21と、作業機ポンプ22とを備える。エンジン20は、内燃エンジンである。エンジン20は、エンジンルーム6内に配置されている。
【0018】
トランスミッション21は、エンジン20に接続されている。トランスミッション21は、エンジン20の駆動力によってタイヤ4,7を回転させる。トランスミッション21は、例えば、複数の変速ギアを含む機械式のトランスミッションであってもよい。或いは、トランスミッション21は、HST(静油圧式変速装置)、HMT(油圧機械式変速装置)、或いはEMT(電気機械式変速装置)などの他の種類のトランスミッションであってもよい。
【0019】
作業機ポンプ22は、エンジン20に接続されている。作業機ポンプ22は、エンジン20によって駆動されることで、作動油を吐出する。作業機ポンプ22は、可変容量型の油圧ポンプである。作業機ポンプ22は、斜板22aを有している。斜板22aの角度が変更されることによって、作業機ポンプ22の容量が変更される。なお、ポンプの容量とは、ポンプの1回転あたりの作動油の最大吐出量である。作業機ポンプ22は、容量制御装置22bに接続されている。容量制御装置22bは、斜板22aの角度を変更することで、作業機ポンプ22の容量を変更する。
【0020】
作業機ポンプ22は、油圧回路23を介して、リフトシリンダ16及びバケットシリンダ17に接続されている。作業機ポンプ22から吐出された作動油は、リフトシリンダ16及びバケットシリンダ17に供給される。それにより、作業機3が動作する。油圧回路23には、制御弁24が配置されている。制御弁24は、作業機ポンプ22からリフトシリンダ16及びバケットシリンダ17に供給される作動油の流量を制御する。
【0021】
作業機械1は、ステアリングポンプ25と、ステアリングシリンダ26,27と、ステアリング操作部材28と、ステアリングバルブ29とを備えている。ステアリングポンプ25は、可変容量型の油圧ポンプである。ステアリングポンプ25は、エンジン20に接続されている。ステアリングポンプ25は、エンジン20によって駆動されることで、作動油を吐出する。
【0022】
ステアリングポンプ25は、斜板25aを有している。斜板25aの角度が変更されることによって、ステアリングポンプ25の容量が変更される。ステアリングポンプ25は、容量制御装置25bに接続されている。容量制御装置25bは、斜板25aの角度を変更することで、ステアリングポンプ25の容量を変更する。例えば、容量制御装置25bは、ピストンとバルブとを含む。ピストンは、斜板25aに接続される。バルブは、ピストンへの油圧を制御する。
【0023】
ステアリングシリンダ26,27は、油圧シリンダである。ステアリングシリンダ26,27は、左ステアリングシリンダ26と右ステアリングシリンダ27とを含む。左ステアリングシリンダ26は、ピボットジョイント13の左方に配置されている。左ステアリングシリンダ26の一端はフロントフレーム11に取り付けられており、他端はリアフレーム12に取り付けられている。右ステアリングシリンダ27は、ピボットジョイント13の右方に配置されている。右ステアリングシリンダ27の一端はフロントフレーム11に取り付けられており、他端はリアフレーム12に取り付けられている。
【0024】
ステアリングシリンダ26,27が伸縮することで、作業機械1のアーティキュレート角度が変更される。図3に示すように、アーティキュレート角度θは、フロントフレーム11とリアフレーム12との間の角度である。アーティキュレート角度が変更されることで、作業機械1の進行方向が変更される。
【0025】
左ステアリングシリンダ26のシリンダ室は、ピストンによって伸長室26aと収縮室26bに分割されている。伸長室26aに作動油が供給されると、ピストンが移動して左ステアリングシリンダ26は伸長し、収縮室26bに作動油が供給されると、ピストンが移動して左ステアリングシリンダ26は収縮する。
【0026】
右ステアリングシリンダ27のシリンダ室は、ピストンによって伸長室27aと収縮室27bに分割されている。伸長室27aに作動油が供給されると、ピストンが移動して右ステアリングシリンダ27は伸長し、収縮室27bに作動油が供給されると、ピストンが移動して右ステアリングシリンダ27は収縮する。
【0027】
左ステアリングシリンダ26が伸長し、右ステアリングシリンダ27が収縮すると、フロントフレーム11が、リアフレーム12に対して右回りに屈曲して、アーティキュレート角度が変化する。それにより、作業機械1は、右(図2のR参照)に曲がる。また、左ステアリングシリンダ26が収縮し、右ステアリングシリンダ27が伸長すると、フロントフレーム11が、リアフレーム12に対して左回りに屈曲して、アーティキュレート角度が変化する。それにより、作業機械1は、左(図2のL参照)に曲がる。
【0028】
ステアリング操作部材28は、キャブ5内に配置されている。ステアリング操作部材28は、例えばステアリングレバーである。ただし、ステアリング操作部材28は、ステアリングホイール、或いはスイッチなどの他の部材であってもよい。ステアリング操作部材28は、オペレータによって操作可能である。ステアリング操作部材28は、ステアリング操作部材28の中心軸回りに回転可能である。ステアリング操作部材28は、中立位置から左右に回転可能である。ステアリング操作部材28は、入力軸28aに接続されている。
【0029】
入力軸28aは、ステアリングバルブ29に接続されている。ステアリングバルブ29は、ステアリング操作部材28の操作に応じてステアリングシリンダ26,27に作動油を供給する。ステアリングバルブ29は、例えば油圧パイロット式のバルブである。ステアリング操作部材28の操作に応じてステアリングバルブ29へのパイロット油圧が変更されることで、ステアリングバルブ29が制御される。或いは、ステアリングバルブ29は、電気的に制御されるソレノイドバルブであってもよい。
【0030】
ステアリングバルブ29は、ポートP1-P4を有している。ポートP1は、管路31を通って、ステアリングポンプ25に接続されている。ステアリングポンプ25から吐出された作動油は、管路31を介してステアリングバルブ29に供給される。ポートP2は、管路32を通ってタンク30に接続されている。タンク30は、作動油を貯留する。ステアリングシリンダ26,27から排出された作動油は、ポートP2からタンク30に排出される。
【0031】
ポートP3は、第1供給路33に接続されている。第1供給路33は、左ステアリングシリンダ26の伸長室26aと右ステアリングシリンダ27の収縮室27bとに接続されている。ポートP4は、第2供給路34に接続されている。第2供給路34は、左ステアリングシリンダ26の収縮室26bと右ステアリングシリンダ27の伸長室27aとに接続されている。
【0032】
ステアリングバルブ29は、ステアリング操作部材28の操作方向に応じて、ポートP1-P4の接続を切り換える。ステアリングバルブ29は、ステアリング操作部材28の操作量に応じて、ステアリングバルブ29のバルブ開度を変更する。ステアリング操作部材28の操作量は、ステアリング操作部材28の中立位置からの操作角度である。
【0033】
ステアリング操作部材28が中立位置に位置しているときには、ステアリングバルブ29は、ポートP1-P4を閉塞する。ステアリング操作部材28が右回りに回転操作されると、ステアリングバルブ29は、ポートP1とポートP3とを接続し、ポートP2とポートP4とを接続する。それにより、ステアリングポンプ25から吐出された作動油は、管路31および第1供給路33を通って、伸長室26aおよび収縮室27bに供給される。また、収縮室26bおよび伸長室27aの作動油は、第2供給路34と管路32とを通ってタンク30に排出される。それにより、フロントフレーム11は、ピボットジョイント13を中心にしてリアフレーム12に対して右回りに回動する。
【0034】
ステアリング操作部材28が左回りに回転操作されると、ステアリングバルブ29は、ポートP1とポートP4とを接続し、ポートP2とポートP3とを接続する。それにより、ステアリングポンプ25から吐出された作動油は、管路31と第2供給路34とを通って、収縮室26bおよび伸長室27aに供給される。また、伸長室26aおよび収縮室27bの作動油は、第1供給路33と管路32とを通って、タンク30に排出される。それにより、フロントフレーム11は、ピボットジョイント13を中心にしてリアフレーム12に対して左回りに回動する。
【0035】
作業機械1は、コントローラ40を備えている。コントローラ40は、作業機械1の走行と作業機3による作業とを制御する。コントローラ40は、プロセッサ40aと、記憶装置40bとを含む。プロセッサ40aは、例えばCPU(Central Processing Unit)である。或いは、プロセッサは、CPUと異なるプロセッサであってもよい。プロセッサ40aは、プログラムに従って作業機械1の制御のための処理を実行する。
【0036】
記憶装置40bは、ROM(Read Only Memory)などの不揮発性メモリおよびRAM(Random Access Memory)などの揮発性メモリを含む。記憶装置40bは、ハードディスク、あるいはSSD(Solid State Drive)などの補助記憶装置を含んでいてもよい。記憶装置40bは、非一時的な(non-transitory)コンピュータで読み取り可能な記録媒体の一例である。記憶装置40bは、作業機械1を制御するためのプログラムおよびデータを記憶している。
【0037】
作業機械1は、アクセル操作部材41と、アクセル操作センサ42と、エンジン回転速度センサ43とを備えている。アクセル操作部材41は、オペレータによって操作可能である。アクセル操作部材41は、キャブ5内に配置されている。アクセル操作部材41は、例えばペダルである。ただし、アクセル操作部材41は、レバー、或いはスイッチなどの他の部材であってもよい。
【0038】
アクセル操作センサ42は、アクセル操作部材41の操作量(以下、「アクセル操作量」と呼ぶ)を検出する。アクセル操作センサ42は、アクセル操作量を示すアクセル指令信号を出力する。アクセル指令信号は、コントローラ40に入力される。エンジン回転速度センサ43は、エンジン20の回転速度を検出する。エンジン回転速度センサ43は、エンジン20の回転速度を示すエンジン回転速度信号を出力する。エンジン回転速度信号は、コントローラ40に入力される。
【0039】
コントローラ40は、アクセル指令信号に応じて、エンジン20の出力とトランスミッション21とを制御する。それにより、作業機械1が、アクセル操作量に応じた速度で走行する。例えば、コントローラ40は、アクセル操作量に応じた目標エンジン回転速度を決定する。コントローラ40は、エンジン回転速度信号が示す実際のエンジン回転速度が、目標エンジン回転速度と一致するように、エンジン20へのスロットル指令を決定する。コントローラ40は、スロットル指令に応じて、エンジン20の燃料噴射量を制御する。或いは、コントローラ40は、アクセル操作量に応じた目標牽引力を決定してもよい。コントローラ40は、目標牽引力が得られるようにエンジン20へのスロットル指令を決定してもよい。
【0040】
作業機械1は、作業操作部材44と作業操作センサ45とを備えている。作業操作部材44は、オペレータによって操作可能である。作業操作部材44は、キャブ5内に配置されている。作業操作部材44は、例えばレバーである。ただし、作業操作部材44は、スイッチなどの他の部材であってもよい。作業操作センサ45は、作業操作部材44の操作量(以下、「作業操作量」と呼ぶ)を検出する。作業操作センサ45は、作業操作量を示す作業指令信号を出力する。作業指令信号は、コントローラ40に入力される。
【0041】
コントローラ40は、作業指令信号に応じて、制御弁24を制御する。コントローラ40は、制御弁24を制御することで、リフトシリンダ16及びバケットシリンダ17に供給される作動油の流量を制御する。それにより、作業機3が、作業操作量に応じて動作する。なお、制御弁24は、コントローラ40によって電気的に制御されてもよい。或いは、制御弁24は、作業操作部材44からのパイロット油圧によって制御されてもよい。
【0042】
作業機械1は、ステアリングポンプ圧センサ46と、アーティキュレート角度センサ47,48と、ステアリング操作センサ49とを備えている。ステアリングポンプ圧センサ46は、ステアリングポンプ25の吐出圧を検出する。ステアリングポンプ圧センサ46は、ステアリングポンプ25の吐出圧を示すポンプ圧信号を出力する。ポンプ圧信号は、コントローラ40に入力される。
【0043】
アーティキュレート角度センサ47,48は、アーティキュレート角度を検出する。アーティキュレート角度センサ47,48は、アーティキュレート角度を示すアーティキュレート角度信号を出力する。アーティキュレート角度信号は、コントローラ40に入力される。例えば、アーティキュレート角度センサ47,48は、ポテンショメータであり、アーティキュレート角度を直接的に検出する。或いは、アーティキュレート角度センサ47は、左ステアリングシリンダ26のストローク長さを検出してもよい。アーティキュレート角度センサ48は、右ステアリングシリンダ27のストローク長さを検出してもよい。コントローラ40は、ステアリングシリンダ26,27のストローク長さからアーティキュレート角度を算出してもよい。
【0044】
ステアリング操作センサ49は、ステアリング操作部材28の操作量(以下、「ステアリング操作量」と呼ぶ)を検出する。ステアリング操作センサ49は、ステアリング操作量に応じたステアリング指令信号を出力する。ステアリング操作センサ49は、例えば、ポテンショメータである。ステアリング指令信号は、コントローラ40に入力される。コントローラ40は、ステアリング指令信号から、ステアリング操作部材28の操作方向とステアリング操作量とを取得する。
【0045】
容量制御装置25bは、ステアリングポンプ25への作動油の負荷圧と、ステアリングポンプ25の吐出圧との差圧に応じて、ステアリングポンプ25の容量を制御する。或いは、コントローラ40は、ステアリング操作量に応じて、容量制御装置25bを制御することで、ステアリングポンプ25の容量を制御してもよい。
【0046】
コントローラ40は、ステアリング操作時に、アーティキュレート角度信号とステアリング指令信号と応じてエンジン20の回転速度を制御することで、ステアリングポンプ25からステアリングシリンダ26,27に供給される作動油の流量を制御する。以下、ステアリング操作時におけるエンジン20の制御について説明する。図4は、コントローラ40によって実行される処理を示すフローチャートである。
【0047】
図4に示すようにステップS101では、コントローラ40は、ステアリング操作速度を取得する。ステアリング操作速度は、ステアリング操作部材28の操作速度である。ステアリング操作速度は、ステアリング操作部材28の角速度で示される。コントローラ40は、ステアリング指令信号からステアリング操作部材28の角速度を算出する。
【0048】
ステップS102では、コントローラ40は、実際のアーティキュレート角速度を取得する。コントローラ40は、アーティキュレート角度信号から、実際のアーティキュレート角速度を算出する。
【0049】
ステップS103では、コントローラ40は、目標アーティキュレート角速度を決定する。コントローラ40は、目標アーティキュレートデータを参照して、ステアリング操作速度から、目標アーティキュレート角速度を決定する。図5は、目標アーティキュレートデータの一例を示す図である。目標アーティキュレートデータは、ステアリング操作速度と目標アーティキュレート角速度との関係を規定する。目標アーティキュレートデータは、記憶装置40bに保存されている。
【0050】
図5に示すように、目標アーティキュレートデータは、ステアリング操作速度の増大に応じて増大する目標アーティキュレート角速度を規定している。ステアリング操作速度が所定値w1以上のときの目標アーティキュレート角速度の変化率は、ステアリング操作速度が所定値w1より小さいときの目標アーティキュレート角速度の変化率よりも大きい。
【0051】
コントローラ40は、ステアリング操作速度から決定された目標アーティキュレート角速度と、実際のアーティキュレート角速度とから、フィードバック制御により、目標アーティキュレート角速度を修正する。例えば、コントローラ40は、目標アーティキュレート角速度と比べて実際の作業機械1の屈曲動作が遅れているときには、屈曲動作の遅れを低減するように、目標アーティキュレート角速度を増大させる。
【0052】
ステップS104では、コントローラ40は、ステアリングシリンダ26,27の要求流量を決定する。コントローラ40は、要求流量データを参照して、目標アーティキュレート角速度から、ステアリングシリンダ26,27の要求流量を決定する。図6は、要求流量データの一例を示す図である。要求流量データは、目標アーティキュレート角速度とステアリングシリンダ26,27の要求流量との関係を規定する。要求流量データは、記憶装置40bに保存されている。図6に示すように、要求流量データは、目標アーティキュレート角速度の増大に応じて増大するステアリングシリンダ26,27の要求流量を規定している。
【0053】
ステップS105では、コントローラ40は、要求エンジン回転速度を決定する。コントローラ40は、ステアリングシリンダ26,27の要求流量から、要求エンジン回転速度を算出する。例えば、コントローラ40は、以下の式(1)により、要求エンジン回転速度を算出する。
Ndは、要求エンジン回転速度(rpm)である。Qdは、ステアリングシリンダ26,27の要求流量(L/min)である。Qaは、ステアリングポンプ25の最大容量(cc/rev)である。Evは、ステアリングポンプ25の容積効率である。
【0054】
ステップS106では、コントローラ40は、ステアリングポンプ25の要求トルクを決定する。コントローラ40は、ステアリングポンプ25の吐出圧と、ステアリングシリンダ26,27の要求流量とから、ステアリングポンプ25の要求トルクを算出する。例えば、コントローラ40は、以下の式(2)及び式(3)により、ステアリングポンプ25の要求トルクを算出する。
Tdは、ステアリングポンプ25の要求トルク(Nm)である。Pは、ステアリングポンプ25の吐出圧(Mpa)である。qdは、ステアリングポンプ25の要求容量(cc/rev)である。Naは、実際のエンジン回転速度である。
【0055】
ステップS107では、コントローラ40は、要求エンジン出力を決定する。コントローラ40は、ステアリングポンプ25の要求トルクと要求エンジン回転速度とから、要求エンジン出力を算出する。コントローラ40は、以下の式(4)により、要求エンジン出力を算出する。
Wは、要求エンジン出力(kW)である。ここでの要求エンジン出力は、ステアリングシリンダ26,27において上記の要求流量を実現し、且つ、ステアリングポンプ25において上記の要求トルクを実現するために必要なエンジン20の出力である。
【0056】
ステップS108では、コントローラ40は、エンジン20へのスロットル指令を決定する。コントローラ40は、実際のエンジン回転速度と、エンジン20の出力の余裕率と、ステップS107で決定された要求エンジン出力とに基づいて、エンジン20へのスロットル指令を決定する。
【0057】
例えば、現在のスロットル指令によるエンジン20の出力では、ステップS107で決定された要求エンジン出力に対して不足する場合には、コントローラ40は、ステップS107で決定された要求エンジン出力を考慮して、現在のスロットル指令よりもエンジン20へのスロットル指令を増大させる。現在のスロットル指令は、例えばアクセル操作量に応じて決定される。或いは、現在のスロットル指令は、アクセル操作量と作業機3操作量とに応じて決定されたものであってもよい。現在スロットル指令によるエンジン20の出力が、ステップS107で決定された要求エンジン出力を十分にまかなえる場合には、コントローラ40は、現在のスロットル指令を維持する。
【0058】
以上説明した実施形態に係る作業機械1では、ステアリング操作部材28の操作に応じたステアリング指令信号に応じてエンジン20の回転速度が制御される。そのため、ステアリング操作部材28の操作に応じて、ステアリングポンプ25からステアリングシリンダ26,27に供給される作動油の流量が制御される。それにより、ステアリング操作に対する作業機械1の屈曲動作の追従性を向上させることができる。また、ステアリング操作に応じた必要な流量で作動油をステアリングシリンダ26,27に供給できるため、燃費を向上させることができる。
【0059】
コントローラ40は、ステアリング操作速度に応じて、エンジン20の回転速度を制御する。ステアリング操作速度が速いときには、ステリングシリンダの要求流量が増大され、要求エンジン回転速度も増大される。それにより、ステアリング操作に対する作業機械1の屈曲動作の追従性を向上させることができる。
【0060】
コントローラ40は、ステアリングポンプ25の吐出圧とステアリングシリンダ26,27の要求流量とに基づいて、ステアリングポンプ25の要求トルクを決定する。そして、コントローラ40は、要求トルクと要求エンジン回転速度とに基づいて、要求エンジン出力を決定する。それにより、ステアリング操作部材28の操作に応じた屈曲動作に必要なステアリングポンプ25の駆動トルクを確保することができる。
【0061】
コントローラ40は、実際のアーティキュレート角速度が目標アーティキュレート角速度よりも遅いときには、エンジン20の回転速度を増大させる。それにより、ステアリング操作に対する作業機械1の屈曲動作の追従性を向上させることができる。
【0062】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0063】
作業機械1は、ホイールローダに限らず、アーティキュレート式のダンプトラック、モータグレーダ等の他の機械であってもよい。作業機械1の構成は、上記の実施形態にものに限らず、変更されてもよい。例えば、作業機械1は、タイヤに限らず、履帯などの他の走行装置によって走行してもよい。作業機3の構造は、上記の実施形態にものに限らず、変更されてもよい。
【0064】
ピボットジョイント13及びステアリングシリンダ26,27などの作業機械1の屈曲動作のための構造が変更されてもよい。作業機械1は、遠隔から操作可能であってもよい。その場合、アクセル操作部材41、作業操作部材44、及びステアリング操作部材28は、作業機械1の外部に配置されてもよい。コントローラ40は、複数のコントローラによって構成されてもよい。
【0065】
上述したコントローラ40によって実行される処理は、複数のコントローラ40によって分散して実行されてもよい。コントローラ40によって実行される処理は、上記の実施形態のものに限らず、変更されてもよい。例えば、コントローラ40は、ステアリング操作部材28の操作に応じた要求エンジン出力と、アクセル操作部材41の操作に応じた要求エンジン出力と、作業操作部材44の操作に応じた要求エンジン出力との合計から、エンジン20へのスロットル指令を決定してもよい。
【0066】
上記の実施形態では、ステアリングバルブ29は、ステアリング操作部材28の操作量に応じて、ステアリングバルブ29のバルブ開度を変更している。しかし、目標アーティキュレート角と実際のアーティキュレート角の偏差に基づいてバルブ開度が決定されてもよい。その場合、目標アーティキュレート角と実際のアーティキュレート角とが一致するときに、ポートP1-P4が閉塞されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によれば、ステアリング操作に対する作業機械の屈曲動作の追従性を向上させると共に、燃費を向上させることができる。
【符号の説明】
【0068】
11 フロントフレーム
12 リアフレーム
20 エンジン
26 ステアリングシリンダ
28 ステアリング操作部材
25 ステアリングポンプ
40 コントローラ
46 ステアリングポンプ圧センサ
47 アーティキュレート角度センサ
49 ステアリング操作センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6