(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-10
(45)【発行日】2024-01-18
(54)【発明の名称】原子炉格納容器ベント方法
(51)【国際特許分類】
G21C 9/00 20060101AFI20240111BHJP
G21C 9/004 20060101ALI20240111BHJP
G21F 9/00 20060101ALI20240111BHJP
G21F 9/02 20060101ALI20240111BHJP
G21C 17/00 20060101ALI20240111BHJP
G01T 1/167 20060101ALI20240111BHJP
【FI】
G21C9/00 100
G21C9/004
G21F9/00 Z
G21F9/02 551A
G21C17/00 040
G01T1/167 B
G01T1/167 D
(21)【出願番号】P 2020193290
(22)【出願日】2020-11-20
【審査請求日】2023-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浜田 克紀
【審査官】小林 幹
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-043131(JP,A)
【文献】特開2018-119821(JP,A)
【文献】特開2018-091806(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0019986(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 9/00- 9/06
G21F 9/00- 9/36
G21C 17/00-17/14
G01T 1/167
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉圧力容器を内包する原子炉格納容器と、
前記原子炉格納容器の内部に開口する2か所以上の入口部と、前記入口部から流入した気体を外部に排出する排気部とを有し、前記原子炉格納容器内の気体を排出して前記原子炉格納容器を減圧するベントラインと、
前記入口部から前記ベントラインに流入する気体の流路をそれぞれ独立して開閉可能な流路開閉部と、
前記入口部に対応して2か所以上に配置され、前記原子炉格納容器から排出される気体の定量的測定を行う測定部と、
前記測定部の測定を基に、前記入口部付近における前記原子炉格納容器内の気体の放射性希ガス分圧の大小を検出する検出部と、を備える原子炉格納容器ベントシステムにおけるベント方法であって、
前記検出部において検出された前記放射性希ガス分圧の大小を基に、前記放射性希ガス分圧が小さい前記流路の前記流路開閉部を開放し、他の前記流路の前記流路開閉部を閉止して、前記ベントラインから前記原子炉格納容器内の前記気体を外部に放出する
原子炉格納容器ベント方法。
【請求項2】
前記ベントラインの前記入口部に放射性希ガスを透過せず、蒸気を透過する放射性物質分離装置を備え、
前記検出部において、前記放射性物質分離装置を透過する前の前記原子炉格納容器内の気体の前記放射性希ガス分圧の大小を検出する
請求項1に記載の原子炉格納容器ベント方法。
【請求項3】
前記測定部として、前記入口部から前記ベントラインに流入した気体の線量を測定する線量計を備え、
前記測定部において、前記流路開閉部を開放後に前記線量計で線量指示値を測定し、
前記検出部において、前記線量指示値を基に前記原子炉格納容器内の気体の前記放射性希ガス分圧の大小を検出する
請求項1又は2に記載の原子炉格納容器ベント方法。
【請求項4】
前記測定部において、前記流路開閉部の開放の前後における前記線量計での前記線量指示値を測定し、
前記検出部において、前記流路を開放する前後での前記線量指示値の差分を基に、前記原子炉格納容器内の気体の前記放射性希ガス分圧の大小を検出する
請求項3に記載の原子炉格納容器ベント方法。
【請求項5】
前記測定部として、前記原子炉格納容器の前記入口部から前記ベントラインに流入する気体の希ガス濃度を測定する希ガス濃度測定装置を備え、
前記検出部において、前記希ガス濃度測定装置で測定した前記希ガス濃度を基に、前記原子炉格納容器内の気体の前記放射性希ガス分圧の大小を検出する
請求項1又は2に記載の原子炉格納容器ベント方法。
【請求項6】
前記測定部として、前記放射性物質分離装置を透過して前記入口部から前記ベントラインに流入した気体ごとに流量を測定する流量計を備え、
前記検出部において、前記流量計で測定した前記流量を基に、前記原子炉格納容器内の気体の前記放射性希ガス分圧の大小を検出する
請求項2に記載の原子炉格納容器ベント方法。
【請求項7】
原子炉が沸騰水型原子炉であり、
前記ベントラインの前記入口部として、前記原子炉格納容器のドライウェルに開口する第1の入口部と、ウェットウェルに開口する第2の入口部とを有し、
前記検出部において、前記原子炉格納容器内の前記ドライウェルの気体と、前記原子炉格納容器内の前記ウェットウェルの気体とにおける前記放射性希ガス分圧の大小を検出する
請求項1に記載の原子炉格納容器ベント方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉格納容器ベント方法に係わる。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、原子炉格納容器内の気体(以下「ベントガス」という。)から放射性物質を除去して放出する一般的な原子炉格納容器ベントシステム(以下、フィルタベント装置)が記載されている。フィルタベント装置は、水を内包するタンク、タンクの水中にベントガスを導く配管、及び、タンクからベントガスを排出する出口に設けられた放射性物質除去フィルタを備える。ベントガスに含まれる粒子状放射性物質(エアロゾル粒子)は、タンク内の水等により、物理的に大部分が除去される。一方、放射性希ガスを除くよう素等のガス状放射性物質は、放射性物質除去フィルタの一種であるよう素フィルタにおいて化学反応及び吸着により除去される。
【0003】
さらに、特許文献2に記載の原子炉格納容器ベントシステムのように、蒸気を透過して放射性希ガスを透過しない分離膜を収納した放射性物質分離装置を、原子炉格納容器の内部に備えたベントシステムが提案されている。このベントシステムでは、封入容器や電源を使用せずに、反応性に乏しい放射性希ガスを原子炉格納容器の外部に放出することなく、継続的に原子炉格納容器内の蒸気を系外に放出することができる。この結果、原子炉格納容器ベントシステムにおいて、原子炉格納容器内を継続的に減圧しつつ、周辺住民の被ばく量を低減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-44118号公報
【文献】特開2018-119821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、住民被ばく量低減の観点から、放射性希ガスの放出量の更なる低減が可能な原子炉格納容器ベント方法が望まれている。このため、本発明においては、原子炉格納容器の外部への放射性希ガスの放出量を低減することが可能な原子炉格納容器ベント方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の原子炉格納容器ベント方法は、原子炉圧力容器を内包する原子炉格納容器ベントシステムのベント方法である。原子炉格納容器ベントシステムは、原子炉格納容器の内部に開口する2か所以上の入口部と、入口部から流入した気体を外部に排出する排気部とを有し、原子炉格納容器内の気体を排出して原子炉格納容器を減圧するベントラインとを備える。そして、入口部からベントラインに流入する気体の流路をそれぞれ独立して開閉可能な流路開閉部と、入口部に対応して2か所以上に配置され、原子炉格納容器から排出される気体の定量的測定を行う測定部とを備える。さらに、測定部の測定を基に、入口部付近における原子炉格納容器内の気体の放射性希ガス分圧の大小を検出する検出部を備える。そして、原子炉格納容器ベント方法は、検出部において検出された放射性希ガス分圧の大小を基に、放射性希ガス分圧が小さい流路の流路開閉部を開放し、他の流路の流路開閉部を閉止して、ベントラインから原子炉格納容器内の気体を外部に放出する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、原子炉格納容器の外部への放射性希ガスの放出量を低減することが可能な原子炉格納容器ベント方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】原子炉格納容器ベントシステムの概略構成を示す図である。
【
図2】原子炉格納容器ベントシステムに設けられる放射性物質分離装置の構成図である。
【
図3】原子炉格納容器ベントシステムに設けられる制御部の機能ブロック図である。
【
図4】原子炉格納容器ベントシステムの概略構成を示す図である。
【
図5】原子炉格納容器ベントシステムの概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態の例を説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
なお、説明は以下の順序で行う。
1.原子炉格納容器ベント方法の第1実施形態
2.原子炉格納容器ベント方法の第2実施形態
3.原子炉格納容器ベント方法の第3実施形態
【0010】
〈1.原子炉格納容器ベント方法の第1実施形態〉
[原子炉格納容器ベントシステムの概要]
まず、原子炉格納容器のベント方法の説明に先立ち、原子炉格納容器ベントシステムの概要について説明する。
原子力発電プラントでは、原子炉圧力容器内に配置された炉心が万が一溶融するような事態(以下「過酷事故」という。)が発生し、放射性物質が原子炉圧力容器外に放出されても、放射性物質が外部へ漏洩しないように原子炉格納容器が備えられている。過酷事故が発生した場合においても、その後に十分な注水が行われ、かつ、原子炉格納容器が冷却されれば、事故は収束する。
【0011】
しかし、万が一蒸気の生成が継続し、原子炉格納容器の冷却が不十分な場合、原子炉格納容器が加圧される。原子炉格納容器が加圧された場合は、原子炉格納容器内の気体を大気中に放出し、原子炉格納容器を減圧する場合がある。この操作をベント操作と呼ぶ。この操作を行う場合は、沸騰水型原子炉では公衆の被ばくが最小限となるように、通常、サプレッションプールのプール水によって放射性物質を除去した後に、原子炉格納容器内の気体(以下「ベントガス」という。)を大気中に放出する。
【0012】
上述のように、沸騰水型原子炉では、サプレッションプールのプール水によって十分に放射性物質を除去してからベントガスを大気中に放出している。しかし、公衆の被ばくが最小限となるように、さらに放射性物質をベントガスから取り除くシステムが求められている。このようなベントガスから放射性物質を取り除くことが可能なシステムとして、原子炉格納容器ベントシステムがある。
【0013】
[原子炉格納容器ベントシステムの構成]
次に、原子炉格納容器のベント方法の実施形態に係わる原子炉格納容器ベントシステムの構成について説明する。
図1~3に、原子炉格納容器ベントシステムの概略構成を示す。
図1は第1実施形態に係る原子炉格納容器ベントシステムの構成図である。
図2は、原子炉格納容器ベントシステムに設けられる放射性物質分離装置の構成図である。
図3は、原子炉格納容器ベントシステムに設けられる制御部の機能ブロック図である。
【0014】
図1に示す原子炉格納容器ベントシステムは、万が一に過酷事故が生じた場合においても、原子炉格納容器内を減圧し、さらに減圧時において放射性希ガスの放出量を極力低減する方式である。また、
図1は、改良型沸騰水型原子炉(ABWR;Advanced Boiling Water Reactor)に原子炉格納容器ベントシステムを適用した例であり、以下の構成を備える。
【0015】
原子炉格納容器ベントシステムは、原子炉格納容器1内に、炉心2を内包する原子炉圧力容器3が設置されている。原子炉圧力容器3には、原子炉圧力容器3内で発生した蒸気をタービン(図示せず)に送る主蒸気管4が接続されている。
【0016】
原子炉格納容器1の内部は、鉄筋コンクリート製のダイヤフラムフロア5によってドライウェル6とサプレッションチェンバ7とに区画されている。サプレッションチェンバ7は、内部にプール水を貯めている領域である。このサプレッションチェンバ7内のプールをサプレッションプール8と呼ぶ。また、サプレッションチェンバ7内の気相部をウェットウェル7aと呼ぶ。ドライウェル6とサプレッションチェンバ7は、ベント管9によって相互に連通されている。ベント管排気部9aは、サプレッションプール8の水面下に開口している。万が一原子炉格納容器1内においてドライウェル6で冷却材喪失事故(LOCA;loss-of-coolant accident)が発生した場合、破断口から流出する蒸気によってドライウェル6の圧力が増加する。その際、ドライウェル6内に放出された蒸気は、ドライウェル6とサプレッションチェンバ7の圧力差により、ベント管9を通ってサプレッションプール8のプール水中に導かれる。そして、サプレッションプール8のプール水で蒸気が凝縮されることで原子炉格納容器1内の圧力上昇を抑制される。この際、蒸気内に放射性物質が含まれていた場合、サプレッションプール8のプール水のスクラビング効果によって大半の放射性物質が除去される。
【0017】
また、万が一原子炉格納容器1内でLOCAが発生し、同様に原子炉圧力容器3や主蒸気管4の圧力が上昇した場合、これらの破断口から流出する蒸気もベント管9を通ってサプレッションプール8で凝縮される。これにより、原子炉圧力容器3や主蒸気管4での圧力の減少と共に、放出した蒸気がサプレッションプール8で凝縮されて原子炉格納容器1の圧力上昇が抑制される。ABWRでは、上記の圧力抑制のための装置として、原子炉格納容器1内のドライウェル6の領域に蒸気逃し安全弁10が設置されている。蒸気逃し安全弁10を通して放出された蒸気は、蒸気逃し安全弁排気管11を通って、クエンチャ12からサプレッションプール8内に放出され、最終的にサプレッションプール8のプール水により凝縮される。サプレッションプール8で蒸気を凝縮して液体の水にすることで、蒸気の体積が大幅に減少し、原子炉格納容器1の圧力上昇を抑制できる。
【0018】
また、サプレッションプール8のプール水は、残留熱除去系(図示せず)で冷却することにより、サプレッションプール8で蒸気を凝縮させて原子炉格納容器1の温度上昇と圧力上昇を防止し、事故を収束させることができる。しかし、非常に低い可能性ではあるが、残留熱除去系が機能を喪失した場合、サプレッションプール8のプール水の温度が上昇する。このとき、プール水の温度が上昇するに伴い、原子炉格納容器1内の蒸気の分圧はプール水の温度の飽和蒸気圧まで上昇する。このため、原子炉格納容器1内の圧力が上昇する。このような圧力上昇が起きた場合、原子炉格納容器1内に冷却水をスプレイすることで圧力上昇を抑えることができる。このスプレイは外部から消防ポンプ等を接続して作動させることも可能である。また、さらに非常に低い可能性ではあるが、このスプレイも作動しない場合、原子炉格納容器1内の圧力は上昇する。
【0019】
上記のような原子炉格納容器1内での圧力上昇が起きた場合、原子炉格納容器1内の気体をベントライン15を通して外部に放出することで原子炉格納容器1内の圧力上昇を抑えることができる。この操作のことをベント操作と呼ぶ。沸騰水型原子炉では、ドライウェル6に、ドライウェル側ベントライン15aの入口部が開口するように接続されている。また、ウェットウェル7aに、ウェットウェル側ベントライン15bの入口部が開口するように接続されている。ベント操作時には、ベントガスがドライウェル側ベントライン15a又はウェットウェル側ベントライン15bを通った後、排気筒13を通して原子炉格納容器1の外部に放出される。ウェットウェル7aに接続されたベントラインを通してベント操作を行うことで、サプレッションプール8の水で粒子状又はエアロゾルとなった放射性物質を最大限除去した後に、ウェットウェル7a内の気体を放出し、外部へ気体を放出することができる。
【0020】
しかし、上記のサプレッションチェンバ7を通すベントシステムでは、反応性が乏しい放射性希ガスを除去できない。このため、
図1に示す原子炉格納容器ベントシステムでは、原子炉格納容器1の内部に放射性物質分離装置17が設置されている。放射性物質分離装置17は、原子炉格納容器1のドライウェル6とウェットウェル7aとにそれぞれ配置されている。また、各放射性物質分離装置17は、ドライウェル側ベントライン15a又はウェットウェル側ベントライン15bにそれぞれ接続されている。
放射性物質分離装置17は、放射性希ガスを遮蔽し、蒸気や水素を透過することができる分離膜を有する。このような分離膜を有することにより、放射性物質分離装置17は、原子炉格納容器1に放射性希ガスを閉じ込めると共に、ベントライン15を通して蒸気や水素を外部に放出して原子炉格納容器1の圧力を減少させることができる。
【0021】
また、原子炉格納容器ベントシステムは、ドライウェル側ベントライン15aに第1測定部が設けられ、ウェットウェル側ベントライン15bに第2測定部が設けられている。第1測定部及び第2測定部は、それぞれ独立してドライウェル側ベントライン15a又はウェットウェル側ベントライン15bを流れる気体の定量測定を行う。
図1に示す原子炉格納容器ベントシステムでは、ドライウェル側ベントライン15aに第1測定部としてドライウェル側流量計16aが設けられている。また、ウェットウェル側ベントライン15bに第2測定部としてウェットウェル側流量計16bが設けられている。ドライウェル側流量計16aは、ドライウェル側ベントライン15aを流れる気体の流量を測定する。ウェットウェル側流量計16bは、ウェットウェル側ベントライン15bを流れる気体の流量を測定する。
【0022】
ドライウェル側流量計16a及びウェットウェル側流量計16bと放射性物質分離装置17との間には、流路開閉部が設けられている。
図1に示す原子炉格納容器ベントシステムでは、流路開閉部として、ドライウェル側ベントライン15aに隔離弁14aが設けられ、ウェットウェル側ベントライン15bに隔離弁14bが設けられている。隔離弁14aと隔離弁14bはそれぞれ独立しており、任意のタイミングで開閉可能である。ドライウェル側ベントライン15aの開閉には隔離弁14aが用いられ、ウェットウェル側ベントライン15bの開閉には隔離弁14bが用いられる。
【0023】
原子炉格納容器ベントシステムは、第1測定部であるドライウェル側流量計16a、第2測定部であるウェットウェル側流量計16bからの情報を受け取り、隔離弁14a又は隔離弁14bの開閉の指示を行う制御部20を備える。制御部20は、ドライウェル側流量計16a、ウェットウェル側流量計16b、隔離弁14a及び隔離弁14bと通信可能に接続されている。そして、制御部20は、ドライウェル側流量計16a及びウェットウェル側流量計16bが測定した情報を受信する。
原子炉格納容器ベントシステムにおけるベント操作は、制御部20の指示に基づいて、ウェットウェル7a側の隔離弁14a、及び、ドライウェル6側の隔離弁14bの少なくともいずれか一方を開放することで行う。隔離弁14a及び隔離弁14bの開放により、ドライウェル側ベントライン15a、及び、ウェットウェル側ベントライン15bに接続された放射性物質分離装置17で放射性物質を除去したベントガスを、ベントライン15から外部に排出することができる。
【0024】
(放射性物質分離装置)
次に、
図2に放射性物質分離装置17の構成の一例の模式図を示す。
図2に示す放射性物質分離装置17は、内部に放射性希ガスを遮蔽し、蒸気や水素を透過することができる分離膜40を有する。放射性物質分離装置17の内部空間は、内部を流れる流体の流れ方向と平行に配置された分離膜40によって、上流側空間41と下流側空間42とに完全に仕切られた構造を有する。放射性物質分離装置17の上流側空間41は、原子炉格納容器1内の気体に晒されている空間である。下流側空間42はドライウェル側ベントライン15a、又は、ウェットウェル側ベントライン15bと連結し、蒸気や水素をベントライン15を通じて外部に放出可能な空間である。放射性物質分離装置17では、放出したい気体の量に応じて分離膜40の分量を決定することができる。
【0025】
原子炉格納容器1内の気体は、放射性物質分離装置17の上流側空間41の図面底部側から流入し、図面上部側へと流れる。また、分離膜40で仕切られた空間のうち一部は閉止板43で塞がれている。このため、上流側空間41から流入した気体のうち、(1)エアロゾル状放射性物質、(2)放射性希ガス、(6)窒素、及び、(5)酸素の一部は、分離膜40を透過せずに放射性物質分離装置17の上部側から原子炉格納容器1に戻される。一方、(3)水蒸気、(4)水素、及び、(5)酸素の一部は、分離膜40を透過し、閉止板43で塞がれた隣接する下流側空間42に入る。そして、下流側空間42に入った気体は、図面底部側からドライウェル側ベントライン15a、又は、ウェットウェル側ベントライン15bに移動する。
【0026】
上記の放射性物質分離装置17を備えることにより、放射性希ガスを含む放射性物質を限りなく原子炉格納容器1内に留めつつ、蒸気や水素を外部に放出して原子炉格納容器1内を減圧できる。このようなベント操作を行う場合、放射性希ガスの放出量を低減するため、ドライウェル6とウェットウェル7aのうち、放射性希ガス分圧が低い方の領域からベント操作を行うことが周辺住民への被ばく量を更に低減するために望ましい。
【0027】
[ベント操作]
次に、原子炉格納容器ベントシステムにおける、上記のベント操作方法について説明する。
図1に示す原子炉格納容器ベントシステムでは、測定部(ドライウェル側流量計16a及びウェットウェル側流量計16b)からの測定データを基に、制御部20がドライウェル6及びウェットウェル7aの各気体の放射性希ガスの分圧の大小を検出する。そして、制御部20は、気体中の放射性希ガスの分圧が小さい方の流路を開放し、他の流路を閉止するように流路開閉部(隔離弁14a及び隔離弁14b)に指示する。隔離弁14a及び隔離弁14bは、制御部20の指示を受けてドライウェル側ベントライン15a及びウェットウェル側ベントライン15bの一方を開放し、他方を閉止する。これにより、ドライウェル側ベントライン15a又はウェットウェル側ベントライン15bの一方側からのみ原子炉格納容器1内の気体を外部に放出する。
上記のベント操作を行うことにより、ドライウェル6又はウェットウェル7aのうちの放射性希ガスの分圧の小さい方の気体を、ベントライン15を通じて原子炉格納容器1の外部に放出することができる。これにより、原子炉格納容器1の外部への放射性希ガスの放出量を低減することが可能なベント操作を実行することができる。
【0028】
(制御部)
上記ベント操作を実行する制御部20の構成について説明する。制御部20は、例えば、図示しないCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、及び、記憶装置等を有する。CPUは、ROMに記憶されているシステムプログラム等の各種処理プログラムを読出してRAMに展開し、展開したプログラムに従って原子炉格納容器ベントシステムのベント操作を制御する。例えば、CPUは、測定部であるドライウェル側流量計16a及びウェットウェル側流量計16bから入力された情報に基づいて、気体の流量、気体の線量、分圧等のベントライン15を流れる気体の定量的な測定値を算出する。また、CPUは、測定部であるドライウェル側流量計16a及びウェットウェル側流量計16bから入力された情報や、算出した定量的な測定値を記憶装置に記憶させる。さらに、CPUは、測定値の算出結果に基づいて、流路開閉部(隔離弁14a及び隔離弁14b)に対して開閉を指示する。
【0029】
制御部20におけるベント操作に係わる機能ブロック図を
図3に示す。
図3に示すように、制御部20は、入力部21、希ガス分圧検出部22、記憶部23、及び、流路制御部24を備える。
入力部21は、ベントライン15に設けられた複数の測定部から入力される定量的測定データを取得する。なお、
図3には、測定部として第1測定部25a、及び、第2測定部25bを示している。例えば、第1測定部25aは、上述の
図1に示す原子炉格納容器ベントシステムのドライウェル側流量計16aに相当する。また、第2測定部25bは、
図1に示す原子炉格納容器ベントシステムのウェットウェル側流量計16bに相当する。
【0030】
入力部21に入力される具体的な測定データとしては、例えば、第1測定部25a及び第2測定部25bとして流量計を備える構成では、ベントライン15を流通する気体の流量測定データが入力される。また、第1測定部25a及び第2測定部25bが線量計の場合には、入力部21に測定データとしてベントライン15内の気体の線量測定データが入力される。第1測定部25a及び第2測定部25bが希ガス濃度計の場合は、入力部21に測定データとしてベントライン15内の気体の希ガスの濃度測定データが入力される。
【0031】
希ガス分圧検出部22は、入力部21に入力された測定データを基に、ベントライン15の複数の入口部付近における、原子炉格納容器1内の気体の放射性希ガス分圧の大小を検出する。例えば、希ガス分圧検出部22は、ドライウェル6の気体中の放射性希ガスの分圧と、ウェットウェル7aの気体中の放射性希ガスの分圧の大小を検出する。ドライウェル6の気体中の放射性希ガスの分圧は、ドライウェル側ベントライン15aの入口部が開口する付近の気体に含まれる放射性希ガスの分圧である。また、ウェットウェル7aの気体中の放射性希ガスの分圧は、ウェットウェル側ベントライン15bの入口部が開口する付近の気体中の放射性希ガスの分圧である。なお、希ガス分圧検出部22による、測定データに基づく放射性希ガスの分圧の大小の検出の詳細については後述する。
【0032】
記憶部23は、入力部21に入力された測定データを記憶する。例えば、記憶部23は、流量測定データ、線量測定データ、及び、希ガスの濃度測定データ等の測定データを、第1測定部25a及び第2測定部25bから入力部21に入力されるごとに記憶する。また、記憶部23は、希ガス分圧検出部22で検出したドライウェル6の気体の放射性希ガスの分圧と、ウェットウェル7aの気体の放射性希ガスの分圧との大小を記憶する。
【0033】
流路制御部24は、ベントライン15に設けられた複数の流路開閉部(隔離弁14a及び隔離弁14b)に対して、それぞれ原子炉格納容器1からの流路を開放、又は、閉止するように指示する。流路制御部24は、希ガス分圧検出部22で検出した放射性希ガスの分圧の大小を基に、検出された放射性希ガスの分圧が小さい方の流路に設けられた隔離弁に対して開放を指示する。また、検出された放射性希ガスの分圧が大きい方の流路に設けられた隔離弁に対して閉止を指示する。例えば、流路制御部24は、検出された放射性希ガスの分圧が大小を基に、隔離弁14a、及び、隔離弁14bの一方に対して開放の指示を出し、他方に対して閉止を指示する。これにより、ドライウェル側ベントライン15a又はウェットウェル側ベントライン15bにおいて、検出された放射性希ガスの分圧が小さい方の流路を開放し、気体を外部に放出する。また、検出された放射性希ガスの分圧が大きい方の流路を閉止し、外部への気体の放出を停止する。
【0034】
(希ガス分圧の大小の検出)
次に、希ガス分圧検出部22が、放射性希ガスの分圧の大小を検出する方法について説明する。希ガス分圧検出部22は、入力部21に入力された測定データに基づいて、原子炉格納容器1に接続された複数個所のベントライン15の開口部付近の気体に対し、放射性希ガスの分圧の大小を検出する。なお、以下の説明では、上述の
図1に示す原子炉格納容器ベントシステムのドライウェル6及びウェットウェル7aの気体の放射性希ガスの分圧の大小を検出する方法について説明する。
【0035】
まず、ドライウェル側流量計16a及びウェットウェル側流量計16bの測定データに基づいて、原子炉格納容器1内の気体の放射性希ガスの分圧の大小を検出する原理を具体的に説明する。
原子炉格納容器1において、ドライウェル6とウェットウェル7aは、ベント管9及び真空破壊弁14によって接続されている。ベント管9はプール水で満たされているため、ドライウェル6とウェットウェル7aとの差圧がベント管9内の水頭圧差を超えた場合に、ドライウェル6の気体がウェットウェル7aに流入する。また、真空破壊弁14は、ウェットウェル7aの全圧がドライウェル6の全圧よりも設計開圧以上高くなった場合に開く。真空破壊弁14が開くことにより、ウェットウェル7aとドライウェル6とを均圧化し、原子炉格納容器1内の負圧破損を防止する。ベント管9内の水頭圧差、及び、真空破壊弁14の設計開圧は、ドライウェル6及びウェットウェル7aの全圧と比較すると相対的に小さい。このため、ドライウェル6とウェットウェル7aとはほぼ均圧とみなせる。
【0036】
隔離弁14aと隔離弁14bとを共に開放すると、ドライウェル側ベントライン15a及びウェットウェル側ベントライン15bに、原子炉格納容器1からの気体が流入する。ドライウェル側ベントライン15a及びウェットウェル側ベントライン15bは、それぞれ原子炉格納容器1内において放射性物質分離装置17に接続されている。このため、放射性物質分離装置17を通過した気体が、ドライウェル側ベントライン15a及びウェットウェル側ベントライン15bに流入する。この状態において、ドライウェル側流量計16a及びウェットウェル側流量計16bは、ドライウェル側ベントライン15a及びウェットウェル側ベントライン15bの気体の流量の測定データを取得する。
【0037】
ここで、上記の測定データにおいて、ドライウェル側ベントライン15aの流量が、ウェットウェル側ベントライン15bの流量よりも大きい場合を仮定する。放射性物質分離装置17の分離膜40(
図2参照)は、特性上、分圧が大きい気体ほど透過流量が大きくなる。このため、上記の仮定条件では、ドライウェル6の方がウェットウェル7aよりも放射性物質分離装置17を透過する透過ガスの分圧が大きいことになる。この場合、ドライウェル6とウェットウェル7aとはほぼ均圧とみなせることから、ドライウェル6中の気体において、放射性物質分離装置17をほぼ透過しない不透過ガスの分圧は、ウェットウェル7aよりも小さいと考えられる。
【0038】
原子炉格納容器1内の気体において、放射性物質分離装置17をほぼ透過しない不透過ガスには、放射性希ガスや窒素が含まれる。この不透過ガスでは、分圧として窒素が支配的である。そして、放射性希ガスも、窒素と同じ非凝縮性の不透過ガスであるため、窒素と同様の挙動であると考えられる。このため、ドライウェル6において不透過ガスの分圧がウェットウェル7aよりも小さい場合には、ドライウェル6における放射性希ガスの分圧についてもウェットウェル7aよりも小さいとみなせる。
【0039】
なお、上記とは逆に、ドライウェル側ベントライン15aの流量がウェットウェル側ベントライン15bの流量よりも小さいと仮定した場合には、ウェットウェル7a中の気体において、放射性物質分離装置17をほぼ透過しない不透過ガスの分圧が、ドライウェル6よりも小さいと考えられる。このため、ウェットウェル7aにおける放射性希ガスの分圧についてもドライウェル6よりも小さいとみなせる。
【0040】
上述のように、流量が大きいベントライン15が接続された原子炉格納容器1の領域では、気体の放射性希ガスの分圧が低いことになる。同様に、流量が小さい流路が接続された原子炉格納容器1の領域では、気体の放射性希ガスの分圧が高いことになる。従って、ドライウェル側流量計16a及びウェットウェル側流量計16bでベントライン15中の気体の流量を測定することにより、制御部20においてドライウェル6及びウェットウェル7aの放射性希ガスの分圧の大小を検出することができる。
【0041】
次に、上記の検出原理を用いた原子炉格納容器1のベント操作の処理方法について説明する。
まず、ベント操作の開始時に、制御部20の流路制御部24の指示により隔離弁14aと隔離弁14bとを共に開放する。そして、ドライウェル側流量計16a及びウェットウェル側流量計16bの指示値(測定データ)を入力部21が受け付ける。入力部21が受け付けた測定データを基に、希ガス分圧検出部22は、ドライウェル側流量計16a及びウェットウェル側流量計16bの流量の大小を検出する。
上述のように、本形態の原子炉格納容器ベントシステムでは、流量の大小を検出することにより、原子炉格納容器1での放射性希ガスの分圧の大小を検出することができる。このため、希ガス分圧検出部22は、ベントライン15での流量の大小の検出のみを行うことにより、放射性希ガスの分圧の大小の検出を代替することができる。
【0042】
次に、流路制御部24は、流量が小さいベントライン15(ドライウェル側ベントライン15a又はウェットウェル側ベントライン15bの一方)に接続する隔離弁(隔離弁14a又は隔離弁14bの一方)を閉止するように指示する。このとき、流量が大きいベントライン15(ドライウェル側ベントライン15a又はウェットウェル側ベントライン15bの他方)に接続する隔離弁(隔離弁14a又は隔離弁14bの他方)を開放した状態のまま維持する。この操作処理を断続的に行うことで、放射性希ガスの放出量を低減した原子炉格納容器1のベント操作を行うことができる。
【0043】
上述した原子炉格納容器ベント方法によれば、原子炉圧力容器3から原子炉格納容器1内に放射性物質を含む気体が流出し、原子炉格納容器1が加圧される事態が万一発生した場合においても、放射性希ガスの放出量を低減するベント操作を行うことができる。これにより、原子炉格納容器1の加圧を防止すると共に、原子炉格納容器1から気体を放出する際の外部への放射性物質の放出量を低減できる。
【0044】
なお、上述の第1実施形態では、原子炉格納のドライウェルとウェットウェルとの2系統(2か所)に、それぞれベントライン、隔離弁及び流量計を備える原子炉格納容器ベントシステムを用いて説明している。しかし、原子炉格納容器ベントシステムにおいて、原子炉格納容器に3系統(3か所)以上のベントラインが設けられている場合にも、上記の原子炉格納容器ベント方法を適用できる。例えば、3系統以上のベントラインの全系統の隔離弁を開き、各ベントラインの流量を測定する。そして、最も大きい流量を示した系統の隔離弁を開き、それ以外の全ての隔離弁を閉止する。このようなベント操作を行うことにより、原子炉格納容器1から放出される放射性希ガスの量を低減できる。また、上述の第1実施形態のベント操作は、沸騰水型原子炉に限らず、原子炉格納容器内が分割されており、2以上の領域にベントライン、隔離弁及び流量計が備えられている構成であれば同様に適用できる。また、流路の開閉部は隔離弁に限らない。
【0045】
〈2.原子炉格納容器ベント方法の第2実施形態〉
次に、原子炉格納容器ベント方法の第2実施形態について説明する。なお、第2実施形態は、上述の第1実施形態における測定部の構成及び測定方法と、放射性希ガスの分圧の大小を検出する方法のみが異なり、その他の構成については同様の構成を適用することができる。このため、以下の説明では、上述の第1実施形態と同様の構成については詳細な説明を省略する。
【0046】
[原子炉格納容器ベントシステムの構成]
図4に、第2実施形態に係わる原子炉格納容器ベントシステムの概略構成を示す。上述の第1実施形態では、測定部(第1測定部、及び、第2測定部)として流量計を用いる例について説明しているが、
図4に示す第2実施形態に係わる原子炉格納容器ベントシステムでは、測定部として線量計を備える。
【0047】
図4に示す原子炉格納容器ベントシステムは、ドライウェル側ベントライン15aに第1測定部としてドライウェル側線量計18aが設けられている。また、ウェットウェル側ベントライン15bに第2測定部としてウェットウェル側線量計18bが設けられている。ドライウェル側線量計18aとウェットウェル側線量計18bは、それぞれ独立してドライウェル側ベントライン15a、ウェットウェル側ベントライン15bを流れる気体の線量を測定する。
また、制御部20は、ドライウェル側線量計18a、ウェットウェル側線量計18b、隔離弁14a及び隔離弁14bと通信可能に接続されている。制御部20は、第1測定部25a(
図3)であるドライウェル側線量計18a、第2測定部25b(
図3)であるウェットウェル側線量計18bからの情報を受け取り、隔離弁14a又は隔離弁14bの開閉の指示を行う。
【0048】
[ベント操作]
次に、原子炉格納容器ベントシステムにおける、ベント操作方法について説明する。
図4に示す原子炉格納容器ベントシステムでは、測定部(ドライウェル側線量計18a及びウェットウェル側線量計18b)からの線量測定データを基に、制御部20が各気体の放射性希ガスの分圧の大小を検出する。そして、上述の第1実施形態と同様に、放射性希ガス分圧が小さい方の流路(ドライウェル側ベントライン15a又はウェットウェル側ベントライン15bの一方)を開放する。さらに、他の流路(ドライウェル側ベントライン15a又はウェットウェル側ベントライン15bの他方)を閉止する。このベント操作により、原子炉格納容器1の外部への放射性希ガスの放出量を低減することができる。
【0049】
(希ガス分圧の大小の検出)
入力部21に入力された線量測定データに基づいて、希ガス分圧検出部22がドライウェル側ベントライン15aとウェットウェル側ベントライン15bとの気体の放射性希ガスの分圧の大小を検出する方法について説明する。第2実施形態では、ベントガスにおいて、放射性希ガスを含む放射性物質の線量を直接的に測定する。このため、放射性希ガスの分圧の大小をより確実に検出できる。
【0050】
まず、ベント操作の開始前の隔離弁14aと隔離弁14bとが共に閉止した状態において、ドライウェル側線量計18a及びウェットウェル側線量計18bの線量指示値(線量測定データ)を入力部21が受け付ける。制御部20は、入力部21に入力された線量測定データを記憶部23に記憶させる。そして、ベント操作の開始時に、制御部20の流路制御部24の指示により隔離弁14aと隔離弁14bを共に開放する。そして、ベント操作の開始後に、ドライウェル側線量計18a及びウェットウェル側線量計18bの線量指示値(線量測定データ)を入力部21が受け付け、記憶部23に記憶させる。
【0051】
次に、希ガス分圧検出部22は、ベント操作の開始前の線量測定データと、ベント操作の開始後の線量測定データとにおいて、線量指示値の変化量を読み取る。すなわち、希ガス分圧検出部22は、ベント操作の開始前後での線量指示値の変化量から、ドライウェル側ベントライン15a、及び、ウェットウェル側ベントライン15bを流通する気体の線量を検出する。ドライウェル側ベントライン15a、及び、ウェットウェル側ベントライン15bのうち、測定される線量の増加分が大きい方が、放射性希ガスの分圧が高い気体が流通している。このため、希ガス分圧検出部22は、線量の変化量の大小からドライウェル側ベントライン15a、及び、ウェットウェル側ベントライン15bを流通する気体の放射性希ガスの分圧の大小を検出することができる。
【0052】
次に、流路制御部24は、線量の変化量が大きいベントライン15(ドライウェル側ベントライン15a又はウェットウェル側ベントライン15bの一方)に接続する隔離弁(隔離弁14a又は隔離弁14bの一方)を閉止するように指示する。このとき、線量の変化量が小さいベントライン15(ドライウェル側ベントライン15a又はウェットウェル側ベントライン15bの他方)に接続する隔離弁(隔離弁14a又は隔離弁14bの他方)を開放した状態のまま維持する。この操作処理を断続的に行うことで、放射性希ガスの放出量を低減した原子炉格納容器1のベント操作を行うことができる。
【0053】
上述のベント操作では、原子炉格納容器1に近い場所で線量測定を行うため、バックグラウンド線量の校正が困難である。このため、上記のベント操作では、隔離弁を開放する前後においてベントライン15の線量を測定し、開放前後での線量の差分を求めることにより、気体の線量を検出している。この結果、より正確にベントライン15を流通する気体の線量を検出することができる。また、上述の線量の測定では、放射性希ガスのエネルギースペクトルに絞った測定等を行ってもよい。
【0054】
なお、第2実施形態では、放射性物質分離装置17を備えなくてもよい。上述の第1実施形態では、流量の大小から放射性希ガスの分圧の大小を検出するため、放射性希ガスの分圧に応じてベントライン15の流量が変化するように放射性物質分離装置17のような分離膜を備える構成が必要である。これに対し、第2実施形態では、ベントライン15内の気体の線量を測定することにより、気体の放射性希ガスの分圧を直接的に検出することができる。このため、放射性物質分離装置17が設置されていない原子炉容器においても、第2実施形態のベント方法を適用することができる。
【0055】
〈3.原子炉格納容器ベント方法の第3実施形態〉
次に、原子炉格納容器ベント方法の第3実施形態について説明する。なお、第3実施形態は、上述の第1実施形態及び第2実施形態における測定部の構成及び測定方法と、放射性希ガスの分圧の大小を検出する方法のみが異なり、その他の構成については同様の構成を適用することができる。このため、以下の説明では、上述の第1実施形態及び第2実施形態と同様の構成については詳細な説明を省略する。
【0056】
[原子炉格納容器ベントシステムの構成]
図5に、第3実施形態に係わる原子炉格納容器ベントシステムの概略構成を示す。上述の第1実施形態では、測定部(第1測定部、及び、第2測定部)として流量計を用いる例について説明しているが、
図5に示す第3実施形態に係わる原子炉格納容器ベントシステムでは、測定部として希ガス濃度測定装置を用いる。
【0057】
図5に示す原子炉格納容器ベントシステムは、原子炉格納容器1のドライウェル6に第1測定部としてドライウェル側希ガス濃度測定装置19aが接続されている。また、原子炉格納容器1のウェットウェル7aに第2測定部としてウェットウェル側希ガス濃度測定装置19bが接続されている。ドライウェル側希ガス濃度測定装置19aとウェットウェル側希ガス濃度測定装置19bは、それぞれ独立して原子炉格納容器1内のドライウェル6、ウェットウェル7aに存在する気体の希ガス濃度を測定する。すなわち、ドライウェル側希ガス濃度測定装置19a、及び、ウェットウェル側希ガス濃度測定装置19bは、原子炉格納容器1からベントライン15の入口部に流入する気体の希ガス濃度を測定する。
【0058】
また、制御部20は、ドライウェル側希ガス濃度測定装置19a、ウェットウェル側希ガス濃度測定装置19b、隔離弁14a及び隔離弁14bと通信可能に接続されている。制御部20は、第1測定部25a(
図3)であるドライウェル側希ガス濃度測定装置19a、第2測定部25b(
図3)であるウェットウェル側希ガス濃度測定装置19bからの情報を受け取り、隔離弁14a又は隔離弁14bの開閉の指示を行う。
【0059】
ドライウェル側希ガス濃度測定装置19a、ウェットウェル側希ガス濃度測定装置19bとしては、例えば原子炉格納容器1内の気体をサンプリングし、ガスサンプラ法等を用いて放射性希ガス濃度を測定する装置が挙げられる。気体のサンプリングは、上述のドライウェル6やウェットウェル7aだけでなく、ドライウェル側ベントライン15a及びウェットウェル側ベントライン15bで行ってもよい。また、気体のサンプリング、及び、放射性希ガス濃度測定は、十分な遮へいを施した状態で手動で行ってもよい。
【0060】
[ベント操作]
次に、原子炉格納容器ベントシステムにおける、ベント操作方法について説明する。
図5に示す原子炉格納容器ベントシステムでは、ドライウェル側希ガス濃度測定装置19a及びウェットウェル側希ガス濃度測定装置19bからの希ガスの濃度測定データを基に、制御部20が各気体の放射性希ガスの分圧の大小を検出する。以降は、上述の第1実施形態と同様に、放射性希ガス分圧が小さい方の流路を開放し、他の流路を閉止して、ドライウェル側ベントライン15a又はウェットウェル側ベントライン15bの一方側からのみ原子炉格納容器1内の気体を外部に放出する。このベント操作により、原子炉格納容器1の外部への放射性希ガスの放出量を低減することができる。
【0061】
(希ガス分圧の大小の検出)
次に、入力部21に入力された希ガスの濃度測定データに基づいて、希ガス分圧検出部22が、ドライウェル側ベントライン15a及びウェットウェル側ベントライン15bに流入する気体の放射性希ガスの分圧の大小を検出する方法について説明する。第3実施形態では、原子炉格納容器1内の気体の放射性希ガスの濃度を直接的に測定する。このため、原子炉格納容器1からベントライン15に流入する放射性希ガスの分圧の大小をより確実に検出できる。
【0062】
まず、ベント操作の開始前に、ドライウェル側希ガス濃度測定装置19a及びウェットウェル側希ガス濃度測定装置19bの指示値(希ガスの濃度測定データ)を入力部21が受け付ける。これにより、希ガス分圧検出部22は、ドライウェル6及びウェットウェル7aに存在する気体の希ガス濃度を検出する。そして、希ガス分圧検出部22は、ドライウェル6、ウェットウェル7aに存在する気体の放射性希ガスの分圧の大小を検出する。
【0063】
原子炉格納容器1からドライウェル側ベントライン15a、及び、ウェットウェル側ベントライン15bに流入する気体の放射性希ガスの分圧の大小は、ドライウェル6及びウェットウェル7aに存在する気体の放射性希ガスの分圧の大小に依存する。このため、ドライウェル6及びウェットウェル7aのうち、測定された希ガス濃度の大きい方に接続されたベントライン15(ドライウェル側ベントライン15a又はウェットウェル側ベントライン15b)に、放射性希ガスの分圧が高い気体が流入する。
従って、希ガス分圧検出部22は、ドライウェル6及びウェットウェル7aの希ガス濃度の大小から、ドライウェル側ベントライン15a、及び、ウェットウェル側ベントライン15bに流入する気体の放射性希ガスの分圧の大小を検出することができる。
【0064】
次に、流路制御部24は、希ガス濃度が大きい気体が流入するベントライン15(ドライウェル側ベントライン15a又はウェットウェル側ベントライン15bの一方)に接続する隔離弁(隔離弁14a又は隔離弁14bの一方)を閉止するように指示する。このとき、希ガスの濃度が小さい気体が流入するベントライン15(ドライウェル側ベントライン15a又はウェットウェル側ベントライン15bの他方)に接続する隔離弁(隔離弁14a又は隔離弁14bの他方)を開放した状態のまま維持する。この操作処理を断続的に行うことで、放射性希ガスの放出量を低減した原子炉格納容器1のベント操作を行うことができる。
【0065】
なお、ドライウェル側希ガス濃度測定装置19a及びウェットウェル側希ガス濃度測定装置19bがベントライン15に設けられた構成の場合、まず、ベント操作の開始時に、制御部20の流路制御部24の指示により隔離弁14aと隔離弁14bを共に開放する。そして、ベントライン15を流れる気体に対するドライウェル側希ガス濃度測定装置19a及びウェットウェル側希ガス濃度測定装置19bの指示値(希ガスの濃度測定データ)を、入力部21が受け付ける。そして、希ガス分圧検出部22が、ドライウェル側ベントライン15a、及び、ウェットウェル側ベントライン15bを流通する気体の希ガスの濃度から、放射性希ガスの分圧の大小を検出する。その後、検出した放射性希ガスの分圧の大小に応じて、制御部20が上述の通りに、ドライウェル側ベントライン15a及びウェットウェル側ベントライン15bに接続する隔離弁14a及び隔離弁14bに開閉を指示する。
【0066】
上述のベント操作において、過酷事故時の希ガス濃度のサンプリングを行うには、十分な遮へい、非常用バッテリーや放射性希ガス濃度を測定する測定員の確保等、設備や人員の追加を行うことが好ましい。
なお、第3実施形態も上述の第2実施形態と同様に、放射性物質分離装置17を備えなくてもよい。上述の第1実施形態では、流量の大小から放射性希ガスの分圧の大小を検出するため、放射性希ガスの分圧に応じてベントライン15の流量が変化するように放射性物質分離装置17のような分離膜を備える構成が必要である。これに対し、第3実施形態では、原子炉格納容器内の気体の希ガス濃度を測定することにより、放射性希ガスの分圧の大小を直接的に検出することができる。このため、放射性物質分離装置17が設置されていない原子炉容器においても、第3実施形態のベント方法を適用することができる。
【0067】
なお、本発明は上述の実施形態例において説明した構成に限定されるものではなく、その他本発明の構成を逸脱しない範囲において種々の変形、変更が可能である。
【符号の説明】
【0068】
1 原子炉格納容器、2 炉心、3 原子炉圧力容器、4 主蒸気管、5 ダイヤフラムフロア、6 ドライウェル、7 サプレッションチェンバ、7a ウェットウェル、8 サプレッションプール、9 ベント管、9a ベント管排気部、10 蒸気逃し安全弁、11 蒸気逃し安全弁排気管、12 クエンチャ、13 排気筒、14 真空破壊弁、14a,14b 隔離弁、15 ベントライン、15a ドライウェル側ベントライン、15b ウェットウェル側ベントライン、16a ドライウェル側流量計、16b ウェットウェル側流量計、17 放射性物質分離装置、18a ドライウェル側線量計、18b ウェットウェル側線量計、19a ドライウェル側希ガス濃度測定装置、19b ウェットウェル側希ガス濃度測定装置、20 制御部、21 入力部、22 希ガス分圧検出部、23 記憶部、24 流路制御部、25a 第1測定部、25b 第2測定部、40 分離膜、41 上流側空間、42 下流側空間、43 閉止板、