(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-10
(45)【発行日】2024-01-18
(54)【発明の名称】電気化学システムの作動状態を判断するための方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04746 20160101AFI20240111BHJP
H01M 8/04537 20160101ALI20240111BHJP
H01M 8/00 20160101ALI20240111BHJP
C25B 15/08 20060101ALI20240111BHJP
C25B 15/02 20210101ALI20240111BHJP
【FI】
H01M8/04746
H01M8/04537
H01M8/00 Z
C25B15/08 302
C25B15/02
(21)【出願番号】P 2020531054
(86)(22)【出願日】2018-12-07
(86)【国際出願番号】 AT2018060288
(87)【国際公開番号】W WO2019109120
(87)【国際公開日】2019-06-13
【審査請求日】2021-12-06
(32)【優先日】2017-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AT
(73)【特許権者】
【識別番号】513131176
【氏名又は名称】アーファオエル・リスト・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ポファール シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】ヴィーランダー ルーカス
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-125911(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0260463(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0008697(US,A1)
【文献】特開2014-222618(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0157093(US,A1)
【文献】特開2007-188857(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00- 9/77
13/00-15/08
H01M 8/00- 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学システム(1a;1b;1c;1d;1e)の作動状態を判断する方法であって、
前記電気化学システムは、
少なくとも1つの電極セクション(3,4)を有する電池スタック(2)と、
少なくとも1つのバルブ(5,6,20,21)と、少なくとも1つの流体ライン(23)と、
を備え、
前記方法は、
-所定の変動パターンを用いて前記少なくとも1つのバルブ(5,6,20,21)により、前記少なくとも1つの流体ライン(23)における少なくとも1つの流体を変動させて誘導するステップ
であって、前記変動パターンは前記少なくとも1つのバルブ(5,6,20,21)により流体流に適用される、ステップと、
-前記少なくとも1つの流体を変動させて誘導する間に、前記電池スタック(2)の電圧応答及び/又は電流応答を判断するステップ
であって、アノードセクション及び/又はカソードセクションにおいて前記流体の異なる濃度を判断する、ステップと、
-前記電圧応答及び/又は電流応答に基づいて
、酸化剤不足及び/又は還元剤不足又は流体間の移動が生じているか否かを判断することにより、前記電気化学システム(1a;1b;1c;1d;1e)の作動状態を判断するステップと、
を含む
、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
少なくとも1つの供給バルブ(5,6)が、前記少なくとも1つの電極セクション(3,4)の上流に配設され、かつ/又は、少なくとも1つの出口バルブ(20,21)が、前記少なくとも1つの電極セクション(3,4)の下流に設けられており、
少なくとも1つの流体が、前記所定の変動パターンを用いて前記少なくとも1つの供給バルブ(5,6)及び/又は少なくとも1つの出口バルブ(20,21)により変動されて誘導され、かつ、前記電池スタック(2)の電圧応答及び/又は電流応答は、前記少なくとも1つの流体を変動させて誘導する間に判断される、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電池スタック(2)は、アノードセクション(3)の形態をなす第1の電極セクションと、カソードセクション(4)の形態をなす第2の電極セクションと、を備え、前記アノードセクション(3)の上流に第1の供給バルブ(5)が配設され、前記カソードセクション(4)の上流に第2の供給バルブ(6)が配設され、
前記方法は、
-所定の第1の変動パターンを用いて前記第1の供給バルブ(5)により、前記アノードセクション(3)に対して第1の流体を変動させて供給するステップと、
-前記第1の変動パターンと異なる所定の第2の変動パターンを用いて前記第2の供給バルブ(6)により、前記カソードセクション(4)に対して第2の流体を変動させて供給するステップと、
-前記アノードセクション(3)に対して第1の流体を変動させて供給する間に、前記電池スタック(2)のアノードセクションに特有の電圧応答及び/又は電流応答を判断するステップと、
-前記カソードセクション(4)に対して第2の流体を変動させて供給する間に、前記電池スタック(2)のカソードセクションに特有の電圧応答及び/又は電流応答を判断するステップと、
-前記アノードセクションに特有の電圧応答及び/又は電流応答、並びに/あるいは前記カソードセクションに特有の電圧応答及び/又は電流応答に基づいて前記電気化学システム(1a;1b;1c;1d;1e)の作動状態を判断するステップと、
を含む、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記電池スタック(2)は、アノードセクション(3)の形態をなす第1の電極セクションと、カソードセクション(4)の形態をなす第2の電極セクションと、を備え、前記アノードセクション(3)の下流に第1の出口バルブ(20)が配設され、前記カソードセクション(4)の下流に第2の出口バルブ(21)が配設されており、
前記方法は、
-所定の第1の変動パターンを用いて前記第1の出口バルブ(20)により、前記アノードセクション(3)から第1の流体を変動させて排出するステップと、
-前記第1の変動パターンと異なる所定の第2の変動パターンを用いて前記第2の出口バルブ(21)により、前記カソードセクション(4)から第2の流体を変動させて排出するステップと、
-前記アノードセクション(3)から前記第1の流体を変動させて排出する間に、前記電池スタック(2)のアノードセクションに特有の電圧応答及び/又は電流応答を判断するステップと、
-前記カソードセクション(4)から前記第2の流体を変動させて排出する間に、前記電池スタック(2)のカソードセクションに特有の電圧応答及び/又は電流応答を判断するステップと、
-前記アノードセクションに特有の電圧応答及び/又は電流応答、並びに/あるいは前記カソードセクションに特有の電圧応答及び/又は電流応答に基づいて前記電気化学システム(1a;1b;1c;1d;1e)の作動状態を判断するステップと、
を含む、ことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記電池スタック(2)は、アノードセクション(3)の形態をなす第1の電極セクションと、カソードセクション(4)の形態をなす第2の電極セクションと、を備え、
第1の供給バルブ(5)は、第1の供給ライン(24a)において、前記アノードセクション(3)の上流側に配設され、
第2の供給バルブ(6)は、第2の供給ライン(24b)において、前記カソードセクション(4)の上流側に配設され
前記方法は、
-前記第1の供給ライン(24a)における第1の定量流体を所定の第1の変動パターンを用いて前記第1の供給バルブ(5)により第1の流体ライン(23a)における第1の流体に変動させて前記アノードセクション(3)に供給するステップと、
-前記第2の供給ライン(24b)における第2の定量流体を前記第1の変動パターンと異なる所定の第2の変動パターンを用いて前記第2の供給バルブ(6)により第2の流体ライン(23b)における第2の流体に変動させて前記カソードセクション(4)に供給するステップと、
-前記第1の流体に変動させて前記アノードセクション(3)に供給する間に、前記電池スタック(2)のアノードセクションに特有の電圧応答及び/又は電流応答を判断するステップと、
-前記第2の流体に変動させて前記カソードセクション(4)に供給する間に、前記電池スタック(2)のカソードセクションに特有の電圧応答及び/又は電流応答を判断するステップと、
-前記アノードセクションに特有の電圧応答及び/又は電流応答、並びに/あるいは前記カソードセクションに特有の電圧応答及び/又は電流応答に基づいて前記電気化学システム(1a;1b;1c;1d;1e)の作動状態を判断するステップと、
を含む、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の流体は、燃料又は水であるか、あるいは燃料又は水を含み、かつ/又は、前記第2の流体は、空気であるか又は空気を含み、
前記第1の流体及び前記第2の流体は、1つの流体ライン(23a,23b)にそれぞれ誘導される、ことを特徴とする請求項3~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つの流体は、1Hz~500H
zの周期で誘導される、ことを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記電気化学システム(1a;1b;1c;1d;1e)は、燃料電池又は電解槽である、ことを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記電気化学システム(1a;1b;1c;1d;1e)の作動状態の前記判断は、前記電気化学システム(1a;1b;1c;1d;1e)の作動中に所定のタイムウィンドウで連続的又は自動的に実行される、ことを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の方法を実行するように設計され構成され、記憶媒体(12)に記憶されたコンピュータプログラム製品(11)。
【請求項11】
請求項10に記載のコンピュータプログラム製品(11)を記憶した記憶媒体(12)。
【請求項12】
請求項1~9のいずれかに記載の方法を実行するように設計され構成された電気化学システム(1a;1b;1c;1d;1e)のための回路装置(13)。
【請求項13】
少なくとも1つの電極セクション(3,4)を有する電池スタック(2)と、
少なくとも1つの供給バルブ(5,6)及び/又は少なくとも1つの出口バルブ(20,21)と、
少なくとも1つの流体ライン(23)と、
請求項12に記載された回路装置(13)と、
を備える電気化学システム(1a;1b;1c;1d;1e)であって、
前記少なくとも1つの供給バルブ(5,6)は、前記少なくとも1つの電極セクション(3,4)に対して少なくとも1つの流体を変動させて供給するように、前記少なくとも1つの電極セクション(3,4)の上流で前記流体ライン(23)に配設され、かつ/又は、前記少なくとも1つの出口バルブ(20,21)は、前記少なくとも1つの電極セクション(3,4)から少なくとも1つの流体を変動させて排出するように、前記少なくとも1つの電極セクション(3,4)の下流で前記流体ライン(23)に配設される、ことを特徴とする電気化学システム(1a;1b;1c;1d;1e)。
【請求項14】
少なくとも2つの流体ライン(23a,24a)を備え、
少なくとも1つの流体ラインが第1の供給ライン(24a)として形成され、前記少なくとも1つの供給バルブ(5)は前記第1の供給ライン(24a)に配設されており、
前記第1の供給ライン(24a)は、少なくとも1つの流量調整器(7)の下流において流体ライン(23a)に開口している、ことを特徴とする請求項13に記載の電気化学システム(1a;1b;1c;1d;1e)。
【請求項15】
前記電池スタック(2)は、アノードセクション(3)の形態をなす第1の電極セクションと、カソードセクション(4)の形態をなす第2の電極セクションと、を備え、
第1の供給ライン(24a)及び第2の供給ライン(24b)が配設されており、前記第1の供給ライン(24a)に第1の供給バルブ(5)が配設され、前記第2の供給ライン(24b)に第2の供給バルブ(6)が配設されており、前記第1の供給バルブ(5)及び前記第2の供給バルブ(6)は、前記流体を誘導するために異なるように定期的に周期化され、
前記第1の供給ライン(24a)は、前記アノードセクション(3)の上流において第1の流体ライン(23a)に開口し、前記第2の供給ライン(24b)は、前記カソードセクション(4)の下流において第2の流体ライン(23b)に開口している、ことを特徴とする請求項14に記載の電気化学システム(1a;1b;1c;1d;1e)。
【請求項16】
前記電池スタック(2)は、アノードセクション(3)の形態をなす第1の電極セクションと、カソードセクション(4)の形態をなす第2の電極セクションと、を備え、
前記アノードセクション(3)の上流において第1の供給ライン(24a)に第1の供給バルブ(5)が配設され、
前記第1の供給ライン(24a)は、第1の流体を前記アノードセクション(3)に供給するように、第1の流量調整器(7)の下流で第1の流体ライン(23a)に開口しており、
前記カソードセクション(4)の上流において第2の供給ライン(24b)に第2の供給バルブ(6)が配設され、
前記第2の供給ライン(24b)は、第2の流体を前記カソードセクション(4)に供給するように、第2の流量調整器(8)の下流で第2の流体ライン(23b)に開口しており、
前記第1の供給バルブ(5)及び前記第2の供給バルブ(6)は、前記流体を誘導するために異なるように定期的に周期化される、ことを特徴とする請求項13に記載の電気化学システム(1a;1b;1c;1d;1e)。
【請求項17】
前記電池スタック(2)は、アノードセクション(3)の形態をなす第1の電極セクションと、カソードセクション(4)の形態をなす第2の電極セクションと、を備え、
前記アノードセクション(3)の下流に、前記アノードセクション(3)から第1の流体を排出するための第1の出口バルブ(20)が配設され、前記カソードセクション(4)の下流に、前記カソードセクション(4)から第2の流体を排出するための第2の出口バルブ(21)が配設され、
前記第1の出口バルブ(20)及び前記第2の出口バルブ(21)は、前記流体を排出するために、異なるように定期的に周期化される、ことを特徴とする請求項13に記載の電気化学システム(1a;1b;1c;1d;1e)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学システムの作動状態を判断するための方法に関する。さらに、本発明は、コンピュータプログラム製品、コンピュータプログラム製品が記憶された記憶媒体、コンピュータプログラム製品がインストールされた回路装置及び電気化学システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学システムでは、危機的な作動状態が生じることがある。例えば、そのような危機的な作動状態は、電解槽(電気分解槽)として形成された電気化学システムにおける水素の移動、あるいは燃料電池システムとして形成された電気化学システムにおける空気及び/又は燃料の不足に起因して生じる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
電気システムの作動状態をモニタし、危機的な作動状態の発生を早期に発見するための様々な方法が知られている。例として、セル電圧モニタリング(CVM)が用いられている。しかし、このモニタリングでは、電池スタックの電圧だけが観測される。そのため、前記モニタリングでは、電圧偏差の原因を特定することができず、危機的な作動状態を早期かつ確実に発見することができない。
【0004】
上記問題を部分的に解消するため、電気化学システムにおいて調整装置により交流電気信号を印可する回路装置が開発されている。例えば、電圧及び/又は電流信号応答の測定により電気化学システムの作動状態を推定する方法を実施するため、電気化学システムにおける信号の印可が必要となる。そのような方法は、例えば、欧州特許出願公開第1646101号により公知になっている。当該方法では、燃料電池スタックにおいて所定の低周波電流信号が印可される。燃料電池スタックの個々のセル(電池)の作動状態は、燃料電池スタックにおいて測定された応答信号、通常、電圧信号との比較、特に2つの信号の高調波成分との比較により推定される。通常、非線形の電流・電圧特性曲線を有する燃料電池スタックにおいて、燃料電池スタックの作動状態、したがって電気化学システムの作動状態は、印可された信号の高調波成分と、燃料電池スタックの非線形の挙動により歪んだ応答信号の高調波成分とを比較することによって推定することができる。しかし、欧州特許出願公開第1646101号に開示された技術では、燃料電池スタックに応答信号を伝送する伝送リンクの非線形性は補償することができない。したがって、印可される信号の実際の値、すなわち、印可される信号の目標値に実信号が対応しない虞がある。
【0005】
本発明の目的は、電気化学システムの作動状態をより効率的に判断するための方法を提供することである。特に、発明の目的は、シンプルであり、信頼性及び費用対効果の高い電気化学システムの作動状態を判断するための方法、コンピュータプログラム製品、記憶媒体及び回路装置、並びに従来技術の代替手段である電気化学システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的は請求項に記載の発明により実現する。特に、前記目的は、請求項1に記載の方法、請求項10に記載のコンピュータプログラム製品、請求項11に記載の記憶媒体、請求項12に記載の回路装置及び請求項13に記載の電気化学システムにより実現する。従属請求項、詳細な説明及び図面により本発明のさらなる特徴が明らかになる。この場合、本発明の方法に関する特徴及び説明は、本発明のコンピュータプログラム製品、本発明の記憶媒体、本発明の回路装置及び本発明の電気化学システムに適用され、またその逆も同様である。したがって、本発明の個々の態様に関する開示を相互に参照することができる。
【0007】
本発明の第1の態様によれば、電気化学システムの作動状態を判断するための方法が提供される。電気化学システムは、少なくとも1つの電極セクションを有する電池スタックと、少なくとも1つのバルブと、少なくとも1つの流体ラインと、を備える。前記方法は、所定の変動パターンを用いて少なくとも1つのバルブにより少なくとも1つの流体を変動させて誘導するステップと、少なくとも1つの流体を変動させて誘導する間に、電池スタックの電流応答及び/又は電圧応答を判断するステップと、電圧応答及び電流応答を用いて電気化学システムの作動状態を判断するステップと、を含む。変動パターンはバルブにより流体流に適用される。
【0008】
好ましくは、所定の変動パターンを用いて少なくとも1つの流体を変動させて誘導することとは、電気化学システムにおける流体を周期化(cycled)及び/又はパルス化させて(pulsed)誘導することとして理解されたい。流体を周期化させて誘導することとは、流体を第1のサイクルで誘導し、次のサイクルでは誘導せず、その後再び誘導することを意味する。さらに、第1のサイクルでは所定の低誘導量で流体を誘導し、次のサイクルでは低誘導量より高い所定の高誘導量で流体を誘導してもよい。異なる及び/又は変動する誘導量は、周期的に均一に異なるか、又は、所定の方法で不均一に変動する。好ましくは、本発明による誘導量の変動は、サイクル及び/又はパルスバルブ(供給バルブ及び/又は出口バルブ)を使用することにより実行される。そのようなバルブを使用することにより、電気的な励起のため電気化学システムに必要な付加的な及び/又は適合されたパワーエレクトロニクスが不要となる。したがって、前記方法を容易に実行することができ、したがって、システムを容易に作動させることができる。本発明のバルブは、一般的な電気化学システムに既に配設されているため、本発明の方法を使用する際に電気化学システムにおける複雑な実装が不要となる。本発明のバルブが電気化学システムに設置又は実装されていない場合であっても、容易かつ費用効果的に改良することができる。本発明の方法では、少なくとも1つの媒体流はモデル化又はパルス化される。これは、電池スタックの前又は後で行われる。流体はバルブにより周期化又はパルス化される。つまり、所定の周波数が流体に適用される。本発明による励起方法により、電気化学システムにおけるパワーエレクトロニクスの変更が不要となる。
【0009】
流体流を周期化するための少なくとも1つのバルブが流体ラインに設けられる。このバルブは、例えば、電池スタックの下流又は上流に直接配設される。代替例では、このバルブは、供給ライン又は排出ラインとして形成された流体ラインに配設され、これにより、周期化又はパルス化された流体が流体ラインに供給されるか又は流体ラインから排出されるか、あるいは、計量供給又は計量排出される。さらに、任意選択的に、加湿をパルス化又は周期化するためのバルブを配設してもよい。このバルブはバイパスラインに配設される。バイパスラインは、流体ラインであり、向流加湿装置(countercurrent humidifier)などの半透性材料交換器(semipermeable material exchanger)を迂回するように構成され、配置されている。バイパスライン及びバルブによって誘導され周期化された流体は、半透性材料交換器の下流でかつ電池スタック、特にアノードセクションの上流における流体ラインに供給される。
【0010】
電気化学システムは、特に、化学結合エネルギーを電気エネルギーに変換するシステム、例えば、燃料電池システムとして、又は、電気エネルギーにより化学組成物を変換するシステム、例えば、電解槽として理解されたい。この場合、本発明の方法において、電気化学システムの動作モードから独立して、つまり、システムが燃料電池システム又は電解槽として設計され又は作動するか否かとは無関係に実行されるというさらなる利点が得られる。燃料電池システムは、低温燃料電池システム、例えば、プロトン交換膜燃料電池システム(PEMFC)である。
【0011】
本発明の範囲において、電池スタックは、少なくとも1つの電極セクション又は1つの電極を有する電気化学リアクタとして理解されたい。特に、電池スタックは、例えば、カソード及びアノードなどの2つの電極を有する。例えば、電池スタックは、電気分解を実行するように構成され配設されてもよく、又はガルバニ電池として構成されてもよい。
【0012】
少なくとも1つの電極セクションは、燃料電池スタック又はSOECシステムなどの電気化学リアクタのアノードセクション及び/又はカソードセクションである。この場合、電気化学リアクタは電池スタックに対応している。少なくとも1つの電極セクションに対する少なくとも1つの流体の変動する、特に周期化又はパルス化された供給に起因して周期化又はパルス化された信号が生じる。サイクル(周期化)又はパルス間の流体の不足又は少なくとも減少により、流体は、サイクル又はパルスの継続時間に亘って不均一に少なくとも1つの電極セクションで消費されるか又は少なくとも部分的に消費され、次のパルス中に、例えば拡散によって各々の電極に再び送られる必要がある。例えば、(周期化又はパルス化された)方形波信号により励起が行われる場合、電池スタック電圧の交流成分の振幅は、サイクル周波数又はパルス周波数によりのこぎり波状に偏向されて、情報分析される。
【0013】
電圧応答及び/又は電流応答の判断は、好ましくは、電圧及び電流から構成される混合信号の交流成分の測定又は検出として理解されたい。電圧応答及び/又は電流応答の判断では、流体又は媒体の異なる濃度が、少なくとも1つの電極セクション、つまりアノードセクション及び/又はカソードセクションにおいて判断される。このため、特に、流体供給の変更、例えば流体、例えばアノードセクションにおける燃料などの還元剤及び/又はカソードセクションにおける空気などの酸化剤の化学量の変更が判断される。電気化学システムの作動状態の判断は、特に電極セクションの状態、すなわち、例えば、アノードセクション及び/又はカソードセクションの状態の判断として理解されたい。この判断では、特に酸化剤不足及び/又は還元剤不足又は流体間の移動が生じているか否かが判断される。また、変動パターンの適用は変動パターンの付与としても理解することができる。流体流は実質的に流体に対応しており、本発明における意味においては、流体流には常に変動パターンが付与されている。
【0014】
判断された電気化学システムの作動状態に応じて、電極セクションへの作動流体の供給、例えば、カソードセクションへの空気の供給及び/又はアノードセクションへの燃料の供給が適合される。
【0015】
好ましくは、少なくとも1つの供給バルブが少なくとも1つの電極セクションの上流に設けられ、かつ/又は、少なくとも1つの出口バルブが少なくとも1つの電極セクションの下流に設けられる。少なくとも1つの流体は、所定の変動パターンを用いて少なくとも1つの供給バルブ及び/又は少なくとも1つの出口バルブによって誘導される。電池スタックの電流応答及び/又は電圧応答は、少なくとも1つの流体を変動させて誘導する間に判断される。したがって、本発明の方法は、パワーエレクトロニクスに変更を加える必要がないという利点をもたらすだけでなく、初期の実験においても先行技術よりも優れた分析能力が確認されている。
【0016】
本発明の一実施例では、電池スタックは、アノードセクションの形態をなす第1の電極セクションと、カソードセクションの形態をなす第2の電極セクションと、を備える。アノードセクションの上流に第1の供給バルブが配設され、カソードセクションの上流に第2の供給バルブが配設される。変形例に係る構成において、本発明は、所定の第1の変動パターンを用いて第1の供給バルブによりアノードセクションに対して第1の流体を変動させて供給するステップと、第1の変動パターンと異なる所定の第2の変動パターンを用いて第2の供給バルブによりカソードセクションに対して第2の流体を変動させて供給するステップと、アノードセクションに対して第1の流体を変動させて供給する間に、電池スタックのアノードセクションに特有の電圧応答及び/又は電流応答を判断するステップと、カソードセクションに対して第2の流体を変動させて供給する間に、電池スタックのカソードセクションに特有の電圧応答及び/又は電流応答を判断するステップと、アノードセクションに特有の電圧応答及び/又は電流応答、並びに/あるいはカソードセクションに特有の電圧応答及び/又は電流応答に基づいて電気化学システムの作動状態を判断するステップと、を含む。
【0017】
したがって、特に詳細に説明する方法により、電気化学システムの作動状態を作動中に又はオンラインで判断することができる。より正確には、アノードセクションにおける作動状態及びカソードセクションにおける作動状態は、実質的に同時に判断され得る。この動作状態は、一方では、媒体の過剰供給又は供給不足によって損なわれる可能性があり、燃料電池の膜又は壁部を介した媒体の移動により妨げられる可能性がある。異なる変動パターンを用いる場合、どの信号がどの電極からのものであり、どの流体流又は媒体流がそれに対応しているかということを後に確実に判断することができる。したがって、アノードセクションについて及びカソードセクションについて測定及び計算することができる。望ましくない流体移動や流体不足が生じた場合、同様の方法でその原因を追跡しかつ/又は発見することができる。電気化学システム又は電池スタックが異なる2つの周波数を用いて励起される場合、対応する信号応答の周波数を検出することできる。検出された周波数に基づいて、信号がアノードセクション又はカソードセクションに割り当てるられる。次いで、対応する周波数の振幅プロファイルが再構成され、これにより、個々の電極の流体供給の変化を断定することができる。
【0018】
付加的に又は代替例として、好ましくは、電池スタックは、アノードセクションの形態をなす第1の電極セクションと、カソードセクションの形態をなす第2の電極セクションと、を備える。アノードセクションの下流に第1の出口バルブが配設され、カソードセクションの下流に第2の出口バルブが配設される。この変形例に係る構成において、前記方法は、所定の第1の変動パターンを用いて第1の出口バルブによりアノードセクションから第1の流体を変動させて排出するステップと、第1の変動パターンと異なる所定の第2の変動パターンを用いて第2の出口バルブによりカソードセクションから第2の流体を変動させて排出するステップと、アノードセクションから第1の流体を変動させて排出する間に、電池スタックのアノードセクションに特有の電圧応答及び/又は電流応答を判断するステップと、カソードセクションから第2の流体を変動させて排出する間に、電池スタックのカソードセクションに特有の電圧応答及び/又は電流応答を判断するステップと、アノードセクションに特有の電圧応答及び/又は電流応答、並びに/あるいはカソードセクションに特有の電圧応答及び/又は電流応答に基づいて電気化学システムの作動状態判断するステップと、を含む。
【0019】
この場合、媒体流は電池スタックの下流でパルス化される。その後、モデリングが行われる。前述の利点は、この変形例にも適用されるが、その理由についての詳細な説明は省略する。
【0020】
さらなる変形例では、電池スタックは、アノードセクションの形態をなす第1の電極セクションと、カソードセクションの形態をなす第2の電極セクションと、を備える。第1の供給バルブは、第1の供給ラインにおいて、アノードセクションの上流側に配設され、第2の供給バルブは、第2の供給ラインにおいて、カソードセクションの上流側に配設される。この変形例に係る構成において、前記方法は、第1の供給ラインにおける第1の定量流体を所定の第1の変動パターンを用いて第1の供給バルブにより第1の流体ラインにおける第1の流体に変動させてアノードセクションに供給するステップと、第2の供給ラインにおける第2の定量流体を第1の変動パターンと異なる所定の第2の変動パターンを用いて第2の供給バルブにより第2の流体ラインにおける第2の流体に変動させてカソードセクションに供給するステップと、第1の流体に変動させてアノードセクションに供給する間に、電池スタックのアノードセクションに特有の電圧応答及び/又は電流応答を判断するステップと、第2の流体に変動させてカソードセクションに供給する間に、電池スタックのカソードセクションに特有の電圧応答及び/又は電流応答を判断するステップと、アノードセクションに特有の電圧応答及び/又は電流応答、並びに/あるいはカソードセクションに特有の電圧応答及び/又は電流応答に基づいて電気化学システムの作動状態を判断するステップと、を含む。
【0021】
この変形例では、流体のパルス化又は周期化はそれぞれ独立したインダクタ経路におけるバルブを介して行われる。
【0022】
さらに、本発明の方法において、第1の流体が燃料又は水であるか燃料又は水を含み、及び/又は、第2の流体が空気であるか又は空気を含んでいてもよい。対応する電極に水、燃料及び/又は空気を供給することにより、いずれの場合においても電気化学システムにおけるプロセス流体が使用される。したがって、前記方法を容易に実行することができる。燃料として、メタノール又はエタノールなどの水素又は炭化水素を用いてもよい。通常、第1の流体は還元剤であり、第2の流体は酸化剤である。特に、還元剤はカソード側に導かれ、酸化剤はアノード側に導かれる。例えば、第2の流体が空気である場合、空気に加湿用の水又は窒素を混合してもよい。また、流体は、不活性流体であってもよく、例えば、SOECシステムにおけるカソード経路中の水素である。
【0023】
さらに、本発明の方法において、1Hz~500Hz、特に3Hz~400Hz、好ましくは4Hz~350Hzの周期(cycling)で少なくとも1つの流体が誘導される。10Hz~30Hz、特に約3Hzの周期が特に有利であることが分かっている。
この場合、周期は流体を変動させて供給することに対応している。本発明の範囲内の実験により、この周期は有益な測定結果として十分であることが示された。さらに、費用対効果の高い供給バルブを用いることができる。
【0024】
さらに、本発明の方法において、電気化学システムの作動状態の判断は、所定のタイムウィンドウにおける電気化学システムの連続的又は自動的な作動中に実行される。電気化学システムの継続的なモニタリングにより、常に異常や故障をタイムリーに認識することができ、起こり得るダメージを防止することができる。モニタユニットとシステム制御ユニットとの間のデータストリームは、例えば、電気化学システムの所定の作動状態における、自動化され目標として設定されかつ/又は選択されたモニタリングにより、例えば燃料不足などのスカラ変数(インジケータ)に低減される。例えば、インジケータは百分率で表される(100%は完全に適用され、50%は半分だけ適用され、0%は全く適用されない)。
【0025】
本発明のさらなる態様によれば、記憶媒体に記憶され、請求項に記載の方法を実行するように構成され、設計されたコンピュータプログラム製品が提供される。したがって、コンピュータプログラムは、広範に説明した本発明による方法の利点と同様の利点をもたらす。コンピュータプログラム製品は、例えば、JAVA(登録商標)又はC++などの適切なプログラミング言語でコンピュータ可読命令コードとして実装される。コンピュータプログラム製品は、データディスク、リムーバブルドライブ、揮発性又は不揮発性のメモリあるいはインストールされたメモリ/プロセッサなどのコンピュータ可読記憶媒体に記憶される。命令コードは、所望の機能を実行するようにコンピュータ又は他のプログラム可能なデバイスのプログラムに用いられる。さらに、コンピュータプログラム製品は、ネットワーク、例えば、インターネット上に提供され、そこから必要に応じてユーザがダウンロードできるようにしてもよい。コンピュータプログラム製品は、コンピュータプログラム、つまりソフトウェアにより、一つ又は複数の特別な電子回路、つまりハードウエア又は任意のハイブリットな構成、つまりソフトウェアコンポーネント及びハードウエアコンポーネントに実装される。
【0026】
本発明のさらなる態様は、前記コンピュータプログラム製品が記憶された記憶媒体に関する。さらに、本発明は、前記方法を実行するように構成、設計された、電気化学システムのための回路装置に関する。したがって、記憶媒体及び回路装置により前述の利点がもたらされる。
【0027】
本発明のさらなる態様によれば、電気化学システムが提供される。電気化学システムは、少なくとも1つの電極セクション、少なくとも1つの供給バルブ及び/又は少なくとも1つの出口バルブを有する電池スタックを備える。少なくとも1つの供給バルブは、少なくとも1つの電極セクションに対して少なくとも1つの流体を変動させて供給するように少なくとも1つの電極セクションの上流に配設されており、かつ/又は、少なくとも1つの出口バルブは、少なくとも1つの電極セクションから少なくとも1つの流体を変動させて排出するように少なくとも1つの電極セクションの下流に配設されている。さらに、電気化学システムは、前述の回路装置を有する。
【0028】
また、電気化学システムは前述の利点をもたらす。プロセス流体は、電気化学システムの作動に必要な流体として理解されたい。プロセス流体は、例えば、空気、水、燃料、バイオガス、メタノール、エタノール及び/又は他の流体であり、これらに限定されない。好ましくは、供給バルブ及び/又は出口バルブは、サイクルバルブ又はパルスバルブとしてそれぞれ設計されている。
【0029】
好ましくは、少なくとも2つの流体ラインが配設される。少なくとも1つの流体ラインは供給ラインとして形成され、供給ラインに少なくとも1つの供給バルブが配設される。供給ラインは、少なくとも1つの流量調整器の下流において流体ラインに対して開口している。したがって、電池スタックの前にプロセス流体にサイクル又はパルスが適用される。これは、好ましくはプロセス流体の僅かな部分だけが誘導される個別の供給ラインで行われる。サイクル/パルスが適用されるプロセス流体は、流量調整器の下流において流体ラインに送られ、これにより、プロセス流体の大部分が周期化される。
【0030】
さらに、電池スタックが、アノードセクションの形態をなす第1の電極セクションと、カソードセクションの形態をなす第2の電極セクションと、を備える場合に有利である。第1の供給ライン及び第2の供給ラインが設けられ、第1の供給ラインに第1の供給バルブが配設され、第2の供給ラインに第2の供給バルブが配設される。第1の供給バルブ及び第2の供給バルブは、異なるように定期的に周期化されて流体を供給する。第1の供給ラインは、アノードセクションから上流の第1の流体ラインに通じている。第2の供給ラインは、カソードセクションから上流の第2の供給ラインに通じている。すなわち、第1の供給バルブ及び第2の供給バルブは異なる周期的な変動パターンを用いて構成される。第1の供給バルブ及び第2の供給バルブは、別々の供給ラインにそれぞれ配設されている。この周期性により作動状態の効果的な判断のために有益で特に均一な応答信号が生成される。
【0031】
好ましい変形例では、電池スタックは、アノードセクションの形態をなす第1の電極セクションと、カソードセクションの形態をなす第2の電極セクションと、を備える。アノードセクションの上流において第1の供給ラインに第1の供給バルブが配設されている。第1の供給ラインは、第1の流体をアノードセクションに供給するように、第1の流量調整器から第1の流体ラインへと下流に開口している。カソードセクションの上流において第2の供給ラインに第2の供給バルブが配設されている。第2の供給ラインは、第2の流体をアノードセクションに供給するように第2の流量調整器から第2の流体ラインへと下流に開口している。第1の供給バルブ及び第2の供給バルブは、流体を誘導するため、異なるように定期的に周期化される。すなわち、第1の供給バルブ及び第2の供給バルブは、異なる周期の変動パターンを用いて構成される。この周期性により作動状態の効果的な判断のために有益で特に均一な応答信号が生成される。
【0032】
さらに好ましい変形例では、電池スタックは、アノードセクションの形態をなす第1の電極セクションと、カソードセクションの形態をなす第2の電極セクションと、を備える。アノードセクションから第1の流体を排出する第1の出口バルブは、アノードセクションの下流に配設されている。カソードセクションから第2の流体を排出する第2の出口バルブは、カソードセクションの下流に配設されている。第1の出口バルブ及び第2の出口バルブは、流体を排出するために異なるように定期的に周期化される。すなわち、第1の出口バルブ及び第2の出口バルブは、異なる周期的な変動パターンを用いて構成される。この周期性により作動状態の効果的な判断のために有益で特に均一な応答信号が生成される。
【0033】
本発明を改善するさらなる手段は、本発明の種々の例示的な実施例についての以下の説明により明らかになる。当該手段を概略的に図に示す。詳細な設計及び空間的配置を含む、特許請求の範囲、詳細な説明及び/又は図面から得られる全ての特徴及び/又は利点は、それ自体又は種々の組み合わせとして本発明に必須のものである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施例による方法を説明するための
ブロック図である。
【
図2】
図2は、本発明の第2の実施例による方法を説明するための
ブロック図である。
【
図3】
図3は、本発明の第3の実施例による方法を説明するための
ブロック図である。
【
図4】
図4は、本発明の第4の実施例による方法を説明するための
ブロック図である。
【
図5】
図5は、本発明の第5の実施例による方法を説明するための
ブロック図である。
【
図6】
図6は、本発明の第1の実施例による電気化学システムの
フローチャートである。
【
図7】
図7は、本発明の第2の実施例による電気化学システムの
フローチャートである。
【
図8】
図8は、従来技術により公知の特性曲線プロファイルを説明するためのグラフである。
【
図9】
図9は、本発明による特性曲線プロファイルを説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1~
図9において、同一の機能及び動作モードを有する構成要素については同一の参照符号を用いている。
【0036】
図1は第1の実施例による電気化学システム1aを示している。
図1に示したシステム1aは、例えば、燃料電池システム又は燃料電池システムの少なくとも一部として理解されたい。電池スタック2は、例えば、アノードセクション3及びカソードセクション4としての第1の電極セクション及び第2の電極セクションを備える。第1の供給バルブ5は、アノードセクション3の上流に配設されている。第2の供給バルブ6は、カソードセクション4の上流に配設されている。供給バルブ5,6は、対応する電極セクション3,4に対してプロセス流体を変動させて供給するための周期化又はパルス化されたバルブとして構成されている。
【0037】
さらに、第1の供給バルブ5の上流には、第1の供給バルブ5への流体の流量を制御及び/又は調整するための第1の流量調整器7が配設されている。さらに、第2の供給バルブ6の上流には、第2の供給バルブ6への流体の流量を制御及び/又は調整するための第2の流量調整器8が配設されている。アノードセクション3の下流には、アノード領域を洗浄するためのフラッシュバルブ9(
図1に図示せず)が配設されている。第1の供給バルブ5及び第2の供給バルブ6は、各々のプロセス流体の供給を異なるように変動させるため、異なるように定期的に周期化される。すなわち、第1の供給バルブ5は、第1の変動パターンを用いて構成されており、第2の供給バルブ6は、第1の変動パターンと異なる第2の変動パターンを用いて構成されている。流体ライン23は、流量調整器7,8と供給バルブ5,6との間及び供給バルブ5,6と電池スタック2との間にそれぞれ設けられている。また、流体ライン23は、電池スタック2の下流にも設けられている。アノード経路には第1の流体ライン23aが配設され、カソード経路には第2の流体ライン23bが配設されている。
【0038】
さらに、
図1に示したシステム1aは、システム1aを制御及び/又は調節するための回路装置13を有する。回路装置13は、コンピュータプログラム製品11が記憶及び/又はインストールされる記憶媒体12を備える。コンピュータプログラム製品11は、
図3,4を参照して説明する方法を実行するように構成されている。
【0039】
図2は、第2の実施例による電気化学システム1bを示している。電気化学システム1bは、周期化又はパルス化された1つの出口バルブ20を備えている。カソードセクション及び/又は電池スタックについては図示省略する。アノードセクション3の下流に流体ポンプ10が配設されている。流体ポンプ10の下流にフラッシュバルブ9が配設されている。フラッシュバルブ9は、アノード領域を洗浄するように配設されている。回路装置13は、第1の実施例において既に説明した回路装置に対応している。また、電気化学システム1bの個々の構成要素の間に流体ライン23が設けられている。回路装置13は
図1に示した回路装置に対応している。アノードセクション3はカソードセクションとしても形成され得る。
【0040】
図3は、パルス化/周期化された第1の出口バルブ20及びパルス化/周期化された第2の出口バルブ21を備える電気化学システム1cを示している。第1の出口バルブ20はアノードセクション3の下流に配設されている。第2の出口バルブ21はカソードセクション4の下流に配設されている。本実施例では、出口バルブ20,21は、排出ライン25a,25bにそれぞれ配設されている。第1の排出ライン25aは、アノードセクション3の下流で第1の流体ライン23aから分岐している。第2の排出ライン25bは、カソードセクション4の下流で第2の流体ライン23bから分岐している。オーバフローバルブ19は圧力保持バルブとして構成されており、流体ライン23a,23bにそれぞれ配設されている。回路装置13は、他の例示的な実施例の回路装置に対応している。
【0041】
図4は、第4の実施例による電気化学システム1dを示している。第1の供給ライン24a又は第2の供給ライン24bは、アノードセクション3又はカソードセクション4の上流にそれぞれ配置されている。第1の供給ライン24a及び第2の供給ライン24bには供給バルブ5,6がそれぞれ配設されている。各々の供給ライン24a,24bは、電池スタック2の上流でかつ流量調整器5,6の下流において、第1の流体ライン23a又は第2の流体ライン23bにそれぞれ合流している。流量調整器5,6は必須のバルブであり、ソレノイドバルブとして設計されていてもよい。
図4における電池スタック2の下流に、過度の圧力下での作動時に用いられる2つのオーバフローバルブが設けられている。回路装置13は他の例示的な実施例における回路装置に対応している。
【0042】
図5は第4の実施例による電気化学システム1eを示している。この場合、バルブ5は、加湿をパルス化又は周期化するためのバルブであって、バイパスライン26に配設されている。バイパスライン26は流体ライン23に対応しており、半透性材料交換器22を迂回するように構成され、配置されている。バイパスライン26及びバルブ5により誘導され周期化された流体は、流体ライン23に向けて半透性材料交換器22の下流でかつ電池スタック2、特にアノードセクション3の上流に供給される。アノードセクション3の下流にはオーバフローバルブ19が配設されている。流体ライン23は、オーバフローバルブ19を半透性材料交換器22に流体的に接続する。回路装置13は、他の例示的な実施例における回路装置に対応している。
【0043】
種々の例示的な実施例は少なくとも部分的に他の実施例と組み合わされてもよい。また、PEMFCなどの燃料電池システムは、一つの例示的なものに過ぎないものと理解されたい。例えば、電気化学システムは、SOECシステムとして設計されてもよい。この変形例では、電極セクション(カソードセクション4又はアノードセクション3)の設計は、燃料電池システムと逆の設計となっている。
【0044】
図6は、
図1~
図5に示した電気化学システム1a,1b,1c,1d,1eにおける作動状態を判断するための方法を第1の実施例に従い説明するフローチャートを示している。第1のステップS1において、流体又は水素からなるプロセス流体は、30Hzでパルス化された供給バルブ5によって変動されるように電池スタック2のアノードセクション3に供給される。第2のステップS2において、電池スタック2の電圧応答及び/又は電流応答が測定又は決定される。次に、ステップS3において、測定値が評価され分析される(例えば、THDA法又は他の適切な方法により)。電気化学システム1a,1bの作動状態は、電圧応答及び/又は電流応答に基づいて判断される。この場合、所定のアルゴリズムにより、インジケータのプロファイル(
図8における符号14)を判断しかつ/又は計算することができる。インジケータが変化すると、これに応じて回路装置13が水素の流れを適合させるように作動する。
【0045】
図7を参照して、第2の実施例の電気化学システム1bの作動状態を判断するための方法を説明する。第1のステップS10において、水素であるプロセス流体は、20Hzでパルス化された第1の供給バルブ5によって変動されるように電池スタック2のアノードセクション3に供給される。さらに、少なくとも部分的に同時に実行される第2のステップS20において、例えば空気であるプロセス流体は、40Hzでパルス化された第2の供給バルブ6によって変動されるように電池スタック2のカソードセクション4に供給される。この間又はその後、第3のステップS30において、電池スタック2のアノードセクションに特有の電圧応答及び/又は電流応答並びに電池スタック2のカソードセクションに特有の電圧応答及び/又は電流応答が測定される。この測定は、電極3,4が信号応答で検出される異なる2つの周波数を用いて励起されるため可能となっている。第4のステップS40において、アノードセクションに特有の電圧応答及び/又は電流応答、並びに/あるいはカソードセクションに特有の電圧応答及び/又は電流応答に基づいて電気化学システム1bの作動状態が判断される。
【0046】
図8及び
図9を参照して、従来技術における方法と比較した本発明による方法の利点を説明する。
図8及び
図9は、時間軸(s)に対する電流軸(I/A)又は電圧軸(U/V)を含むグラフを示している。グラフは、プロセス媒体インジケータ14、スタック電圧15、電流16、酸素17の化学量を10倍した値(λ×10)及び酸素濃度18を示している。プロセス媒体インジケータ14(0%~100%)は強調して示されている。
図8に示すように、プロセス媒体インジケータ14は、時間の経過とともに全体的に増加し、上下に変動する振幅プロファイルを示している。これに対し、
図9では、プロセス媒体インジケータ14は、時間の経過とともに均一に上昇する振幅プロファイルを示している。このプロファイルは、
図8に示したプロファイルと比べて、電気化学システム1a,1b,1c,1dの作動状態の対応する指標又はインジケータとして、比較的容易かつ確実に認識することができる。
【0047】
本発明は、図示した実施例に加えて他の設計を許容する。すなわち、本発明は図示した実施例に限定されない。
【符号の説明】
【0048】
1a,1b 燃料電池システム
2 電池スタック
3 アノード(電極セクション)
4 カソード(電極セクション)
5 供給バルブ
6 供給バルブ
7 流量調整器
8 流量調整器
9 フラッシュバルブ
10 流体ポンプ
11 コンピュータプログラム製品
12 記憶媒体
13 回路装置
14 プロセス媒体インジケータ
15 スタック電圧
16 電流
17 化学量比
18 水素量
19 オーバフローバルブ
19a オーバフローバルブ
19b オーバフローバルブ
20 出口バルブ
21 出口バルブ
22 半透性材料交換器
23 流体ライン
23a 流体ライン
23b 流体ライン
24a 供給ライン
24b 供給ライン
25a 排出ライン
25b 排出ライン
26 バイパスライン