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特許7417528運動障害を患う対象の生活の質を向上させるための補助剤として使用するための、ソラマメ、カギカズラ及びカンゾウの乾燥抽出物とコエンザイムQ10との組合せ
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  • 特許-運動障害を患う対象の生活の質を向上させるための補助剤として使用するための、ソラマメ、カギカズラ及びカンゾウの乾燥抽出物とコエンザイムQ10との組合せ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-10
(45)【発行日】2024-01-18
(54)【発明の名称】運動障害を患う対象の生活の質を向上させるための補助剤として使用するための、ソラマメ、カギカズラ及びカンゾウの乾燥抽出物とコエンザイムQ10との組合せ
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/48 20060101AFI20240111BHJP
   A61K 36/484 20060101ALI20240111BHJP
   A61K 36/74 20060101ALI20240111BHJP
   A61K 31/122 20060101ALI20240111BHJP
   A61K 31/355 20060101ALI20240111BHJP
   A61K 31/375 20060101ALI20240111BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240111BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20240111BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240111BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20240111BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20240111BHJP
【FI】
A61K36/48
A61K36/484
A61K36/74
A61K31/122
A61K31/355
A61K31/375
A61P25/00
A61P25/16
A61P43/00 121
A23L33/10
A23L33/105
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020544479
(86)(22)【出願日】2019-02-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-06-17
(86)【国際出願番号】 IB2019051381
(87)【国際公開番号】W WO2019162852
(87)【国際公開日】2019-08-29
【審査請求日】2022-02-09
(31)【優先権主張番号】102018000002947
(32)【優先日】2018-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】520129539
【氏名又は名称】クリスタルファルマ・ソチエタ・ア・レスポンサビリタ・リミタータ
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100106080
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 晶子
(72)【発明者】
【氏名】デル・ボノ,マリア・クリスティーナ
(72)【発明者】
【氏名】ボノモ,フランチェスコ
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0116779(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0118583(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第3225245(EP,A1)
【文献】中国特許出願公開第104173419(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101549082(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104738747(CN,A)
【文献】SHIM J S; ET AL,JOURNAL OF ETHNOPHARMACOLOGY,2009年11月12日,VOL:126, NR:2,PAGE(S):361 - 365
【文献】KEMPSTER P A; ET AL,MOTOR EFFECTS OF BROAD BEANS (VICIA FABA) IN PARKINSON'S DISEASE: SINGLE DOSE STUDIES,ASIA PACIFIC JOURNAL OF CLINICAL NUTRITION,英国,SMITH-GORDON JOURNAL,1993年06月,VOL:2, NR:2,PAGE(S):85 - 89(1 - 6),https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24352104/
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K,A61P
MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運動障害の治療及び予防において使用するための経口製剤であって、
・a)ソラマメ(Vicia faba)、b)カギカズラ(Uncaria rhyncophylla)及びc)カンゾウ(liquorice root)の乾燥抽出物
・コエンザイムQ10
を適切な賦形剤及び/又は希釈剤と組み合わせて
含む製剤
【請求項2】
前記運動障害がパーキンソン病である、請求項1に記載の経口製剤
【請求項3】
ビタミンC及びEの少なくとも一つをさらに含む、請求項1又は2に記載の経口製剤
【請求項4】
ビタミンC及びEの両方を含む、請求項3に記載の経口製剤
【請求項5】
・a)ソラマメ(Vicia faba)、b)カギカズラ(Uncaria rhyncophylla)及びc)カンゾウ(liquorice root)の乾燥抽出物;
・コエンザイムQ10;
・ビタミンC及びビタミンE
からなる有効成分の組合せを含む請求項4に記載の経口製剤
【請求項6】
前記経口製剤がフードサプリメントである、請求項1~5のいずれか1項に記載の経口製剤
【請求項7】
前記フードサプリメントが、
・800~1200mg、好ましくは1000mgのa)の乾燥抽出物;
・80~120mg、好ましくは100mgのb)の乾燥抽出物;
・30~70mg、好ましくは50mgのc)の乾燥抽出物であって、c)の乾燥抽出物の総重量に基づく計算で、最低10重量%、さらに好ましくは18~22%のグリシルレチン酸を含有するc)の乾燥抽出物;
・30~70mg、好ましくは50mgのコエンザイムQ10;
・60~100mg、好ましくは80mgのビタミンC;
・10~14mg、好ましくは12mgのビタミンE
を含有する1回量サシェの形態である、請求項に記載の経口製剤
【請求項8】
前記経口製剤が1日1回のみ投与される、請求項6又は7に記載の経口製剤
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運動障害を有する対象、特にパーキンソン病を患う対象の生活の質(QOL)を向上させるための補助剤(コアジュバント)として使用するための経口製剤、特に栄養補助食品(フードサプリメント)に関する。
【背景技術】
【0002】
運動障害という用語は、運動能力の減退及び/又は不随意運動(すなわち意志力で制御が困難な動き)の存在を特徴とする膨大な数の疾患をまとめたものである。最もよく知られている形態の中でもパーキンソン症候群は現代の神経疾病分類学の非常に多くの章を占めている。原発型(パーキンソン病、多系統萎縮症、進行性核上まひ、大脳皮質基底核変性症、レビー小体型認知症)、続発型(いわゆる血管性、感染性、感染後、外傷後パーキンソニズム、非従来型薬剤によるパーキンソニズム、環境性、医原性、代謝毒性因子によるパーキンソニズム)及び中枢神経系の遺伝性疾患(ウィルソン病、若年型(Westphal variant)ハンチントン病、ハレルフォルデン・スパッツ病)に随伴する形態のパーキンソニズムの区別がある。これらの疾患のうち最もよく知られているのはパーキンソン病である。パーキンソン病は、徐々に進行する神経系の変性疾患と定義される。脳の特定構造である黒質を構成する神経細胞が徐々に失われる。これらの細胞は、運動活動が迅速かつ調和的に行えるように、基本的神経伝達物質のドーパミンという物質を産生する。従って、それが欠乏すると、自発的な運動活動の減退、筋硬直、緩慢な随意運動の遂行及び振戦を招く。生化学的観点からは、ドーパミンの量の減少、特徴的色素沈着の喪失(神経メラニン濃度の低下)、ミトコンドリア呼吸鎖の複合体Iの活性低下及びα-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼの活性低下が、パーキンソン病患者のSNpc(黒質緻密部)のレベルで確認されている。ミトコンドリアは著明なROS(活性酸素種)源である。これらの種は、酸化的損傷を引き起こすほか、グルタミン酸やアスパラギン酸などの興奮性アミノ酸の放出を誘導することによってミトコンドリアの機能を阻害し、それが次にサイトゾル中に遊離Ca+2の増加を引き起こし、神経変性を招く一連の事象をもたらす。そして、これこそがパーキンソン病患者で観察されるまさしくすべてのことである1,2。年齢別の有病率分析によれば、いかにパーキンソン病が60歳を超える年齢群に明らかに多いかが強調されるが、性別の割合では男性にわずかに多いことが示されている。結論として、イタリアでは、最も正確な疫学研究に基づき、かつ最新の国勢調査時の居住人口を考慮すると、有病数は約170,000例と推定される
【0003】
この型の病態の旧来の治療は、絶対的にレボドパ又はL-ドパを用いた治療である。これらの薬物は、線条体のドーパミン作動性シナプス前ニューロン内で脱カルボキシル化されてドーパミンとなり、パーキンソン病における薬物の治療効果を担っている。レボドパの血漿中濃度は0.5~2時間であり、半減期は1~3時間である。この治療は一般的に、L-ドパの末梢副作用を低減する末梢ドパカルボキシラーゼ阻害薬(カルビドパ又はベンセラジド)と併用される
【0004】
別の種類の治療は、モノアミンオキシダーゼ阻害薬(MAO阻害薬)、具体的にはB-MAO阻害薬であるセレギリンの投与を含む。この作用機序は、ドーパミンをニューロン内分解から保護することにより、ドーパミンの代謝を減少させることである
【0005】
パーキンソン病の治療のための他の種類の薬物は、ドーパミンアゴニスト受容体、例えば、ブロモクリプチン及びいくつかの新薬、例えばロピニロール、プラミペキソール、ロチゴチン及びアポモルヒネである。
【0006】
別の種類の治療はアマンタジンの投与を含む。この薬物は、ドーパミンの放出増大、アミン取込みの阻害、ドーパミン受容体に対する直接作用及び最終的にN-メチル-アスパラギン酸型のグルタミン受容体の阻害といった複数の作用機序を有する。
【0007】
これらの薬物は有効ではあるが、長期的に見ればかなりの副作用を有する。
そこで、毎日投与され、上記薬物の日用量を削減することによって副作用の低減を可能にし、従って運動障害を患う対象のQOLを改善できる例えばフードサプリメント(栄養補助食品)のような入手可能な経口製剤が求められていると感じられる。
【0008】
ソラマメ(Vicia faba)は天然のレボドパ(L-ドパ)源であることも知られている。ソラマメの臨床使用がL-ドパの血漿中レベルの上昇とパーキンソン病患者の運動機能の改良にいかに貢献するかも示されている3,4,5。食品としてのソラマメ中のL-ドパの平均含有量は1.43~1.51mg/dl水性抽出物の範囲であるので、パーキンソン病の食物治療としてのその合理的使用が仮定される
【0009】
カギカズラ(Uncaria rhynchophylla)の水性抽出物は、パーキンソン病モデルの構築に使用される神経毒、6-ヒドロキシドーパミン(6-OHDA)による損傷の場合、ドーパミン作動性ニューロンを著しく保護する。従って、カギカズラの水性抽出物は、臨床的パーキンソニズムの治療にとって重要な神経保護効果を発揮できる。カギカズラによる生物学的機序も、ドーパミンの血漿中レベルの上昇、ミトコンドリア-複合体Iの活性の正常化及びグルタチオン(抗酸化特性を有するトリペプチド)のレベルの正常化に関する。アルファ-シヌクレイン(通常シナプス前神経終末に見出され、そこで神経インパルスの伝達に役割を果たしていると考えられる小タンパク質。パーキンソン病では、アルファ-シヌクレインは凝集して、レビー小体と呼ばれる典型的な沈着物を病的ニューロンに生じるより大きいオリゴマーを形成しやすい)のクリアランスを促進する潜在的活性がカギカズラに起因するとされる証拠がある
【0010】
カンゾウに含有されるグリシルレチン酸は、ドーパミンD3受容体(DRD3)に対して強力な結合親和性を示す。D3ドーパミン作動性受容体は、一連の神経学的過程、例えば、動機付け(モチベーション)、喜び、認知過程、記憶、学習、運動制御及び神経内分泌シグナル伝達経路の調節に役割を果たし、パーキンソン病を治療する薬物の主要標的の一つである10。さらに、カンゾウは、小グリア細胞(中枢神経系において活性な第一の主要な免疫防御を担う)に対する特異的抗炎症作用と、海馬の神経細胞死に関連するグルタミン酸媒介性興奮毒性に対する低減作用を有する11
【0011】
いくつかの証拠によれば、ミトコンドリアの機能不全と酸化的ストレスがパーキンソン病のドーパミン作動性神経変性に中心的役割を果たしていることが示唆されている。ミトコンドリアレベルでのフリーラジカル発生に対抗するのに活性な非酵素的抗酸化剤として、ビタミンC、ビタミンE及びコエンザイムQ10が挙げられる。ビタミンEはラジカル捕捉機構として作用し、ペルオキシラジカル、ペルオキシ亜硝酸及びヒドロキシルラジカルを安定化させることにより、ラジカル連鎖の進行及び膜上での脂質過酸化の確立を阻害する12。第二の抗酸化剤はビタミンCで、これはビタミンEとの共同作業により、α-トコフェロールラジカルからα-トコフェロールを再生する12。コエンザイムQ10の場合、その抗酸化活性は、その酸化型(ユビキノン)とその還元型(ユビキノール)との間の酸化還元サイクルで2個の電子を交換する能力に由来する。ユビキノールは強力な抗酸化剤で、脂質過酸化過程を縮減し、DNAタンパク質の酸化を阻害する12。これらの非酵素的抗酸化剤の統合は、パーキンソン病の基礎となる神経変性を防止する有効なツールとして認識されている12
【0012】
US20087118583は、3種類の有益植物、すなわちE型植物、言い換えればエネルギーを増強できる植物、バイオインテリジェンスを増強できる植物(I)及び最後にエネルギーの組織化を保証できる植物(O)の組合せによって形成される植物性栄養補助食品(phytonutraceutical)に関する。上記定義に入る例示的組成物が表Iに例示されており、そこにはキャッツクロー(Uncaria tormentosa)とコエンザイムQ10が含まれている。
【0013】
US2007/11679は、パーキンソン病で発生する変性過程の特定因子を緩和するための栄養補助食品に関し、活性成分として、ピルビン酸(pyruvate)、コハク酸(succinate)、オキサロ酢酸(oxaloacetate)が、微量栄養素、少数元素、アミノ酸、フラボノイド及び植物濃縮物と共に含まれている。
【0014】
EP3225245には、ソラマメから得られた抽出物と、おそらくはビタミンEの存在下で、変性疾患の治療及び/又は予防におけるその使用が記載されている。
CN104173419には、パーキンソン病治療のための、もやし(bean sprout)及び花粉末(flower powders)をL-ドパ源として含む錠剤を開示している。
【0015】
CN101549082は、パーキンソン病治療のための、シュロソウ(veratrum)とカンゾウを含む組成物を特許請求している。
CN104738747には、パーキンソン病を予防及び制御するための、ビタミンC、クエン酸及び最後にスクロースを含有するソラマメ花飲料が開示されているが、本発明を予期するものでは全くない。
【0016】
Kempster P.らは、“パーキンソン病におけるソラマメ(Vicia faba)の運動効果:単回投与試験(Motor effects of broad beans (Vicia faba) in Parkinson's disease: single dose studies). ASIA PACIFIC JOURNAL OF CLINICAL NUTRITION SMITH GORDON-JOURNAL, London,GB,85-89ページ no.2,6月1日,XP009191250 ISSN:0378-8741,DOI10.106/JEP 2009.08.23,2009-08-22に検索”に、100~200gのソラマメとカルビドパを投与されたパーキンソン病患者の運動効果についての研究を記載している。
【0017】
Shimらは、“カギカズラのカギの効果(Effects of the hook of Uncaria rhynchophylla)”に、この植物の抽出物が、細胞死とROS生成をかなり削減し;GSHレベルを上昇させ、6-OHDA(6-ヒドロキシドーパミン)によって誘導されるカスパーゼ-3の活性を阻害し、誘発されるアポモルヒネ回転を著しく削減し、黒質緻密部におけるニューロンのドーパミン作動性喪失を減少させることを報告している。これは、この抽出物が、パーキンソン病モデルにおいて、抗酸化及び抗アポトーシス機序を通じて6-OHDA誘導神経毒性に対する神経保護活性を発揮することを示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】米国特許公開第20087118583号
【文献】米国特許公開第2007/11679号
【文献】欧州特許(公開)第3225245号
【文献】中国特許(公開)第104173419号
【文献】中国特許(公開)第101549082号
【文献】中国特許(公開)第104738747号
【非特許文献】
【0019】
【文献】Kempster P. et al "Motor effects of broad beans (Vicia faba) in Parkinson's disease: single dose studies. ASIA PACIFIC JOURNAL OF CLINICAL NUTRITION SMITH GORDON-JOURNAL, London, GB, pages 85-89 no. 2, 1 June, XP009191250 ISSN: 0378-8741, DOI10.106/JEP 2009.08.23, retrieved on 2009-08-22
【文献】Shim et al "Effects of the hook of Uncaria rhynchophylla”
【発明の概要】
【0020】
出願人は、今回、
- a)ソラマメ(Vicia Faba)、b)カギカズラ(Uncaria Rhyncophylla)及びc)カンゾウ(liquorice root)の乾燥抽出物、及び
- コエンザイムQ10
を含む組合せが、運動障害を患う患者の生活の質(QOL)の向上のため、特にパーキンソン病の治療のための補助剤(コアジュバント)として効果的に使用できることを見出した。
【0021】
実際、以下に報告されている実験テストで示されているように、出願人は、この組合せが、単一抽出物の活性と比較した場合に、予防作用を示すことができることを見出した。それは、
- ニトロソ化ストレス指数である亜硝酸(nitrite)レベルの顕著な低減を決定できる;
- 乳酸デヒドロゲナーゼの活性、ひいては組織損傷の徴候を低減できる
ためであり;
そしてまた同時に、単一抽出物a)、b)及びc)よりわずかに程度は低いが、
- 脂質過酸化の指数である8-イソ-PGF2α(8-イソプロスタグランジンF2α)のレベルを低減できる(植物成分の中では中間的作用である);
- DOPAC/DA比で評価されるドーパミン作動性ターンオーバーのレベルを低減できる(ここで、DOPACはドーパミン“DA”の主要代謝産物)(図4
ためでもある。
【0022】
従って、この組合せは、単一乾燥抽出物a)、b)及びc)ならびにコエンザイムQ10とは異なり、急性期の運動障害及び特にパーキンソン病に有効な治療作用を発揮できるほか、これらの病態に対して単一抽出物の一つより決定的に高い予防作用を導き出すことができる。
本発明の態様には、以下も含まれる。
態様1 運動障害の治療及び予防における補助剤として使用するための、
・a)ソラマメ(Vicia faba)、b)カギカズラ(Uncaria rhyncophylla)及びc)カンゾウ(liquorice root)の乾燥抽出物
・コエンザイムQ10
を含む組合せ。
態様2 前記運動障害がパーキンソン病である、態様1に記載の使用のための組合せ。
態様3 前記組合せがビタミンC及びEの少なくとも一つを含む、態様1又は2に記載の使用のための組合せ。
態様4 前記組合せがビタミンC及びEの両方を含む、態様3に記載の使用のための組合せ。
態様5
・a)ソラマメ(Vicia faba)、b)カギカズラ(Uncaria rhyncophylla)及びc)カンゾウ(liquorice root)の乾燥抽出物;
・コエンザイムQ10;
・ビタミンC及びビタミンE
からなる態様4に記載の使用のための組合せ。
態様6 適切な賦形剤及び/又は希釈剤と組み合わせて、経口製剤に含有される態様1~5のいずれかに記載の使用のための組合せ。
態様7 前記経口製剤がフードサプリメントである、態様6に記載の使用のための組合せ。
態様8 前記フードサプリメントが、
・800~1200mg、好ましくは1000mgのa)の乾燥抽出物;
・80~120mg、好ましくは100mgのb)の乾燥抽出物;
・30~70mg、好ましくは50mgのc)の乾燥抽出物であって、c)の乾燥抽出物の総重量に基づく計算で、最低10重量%、さらに好ましくは18~22%のグリシルレチン酸を含有するc)の乾燥抽出物;
・30~70mg、好ましくは50mgのコエンザイムQ10;
・60~100mg、好ましくは80mgのビタミンC;
・10~14mg、好ましくは12mgのビタミンE
を含有する1回量サシェの形態である、態様7に記載の使用のための組合せ。
態様9 前記経口製剤が1日1回のみ投与される、態様6~9のいずれかに記載の使用のための組合せ。
【図面の簡単な説明】
【0023】
下記図面1~4の凡例を以下に示す。
・LPS=リポ多糖
・6-OH-DA=6-ヒドロキシドーパミン
・ダルベッコ緩衝液:未処理対照
・8-イソ-PGF2α:8-イソプロスタグランジンF2α
・DOPAC:3,4-ジヒドロキシフェニル酢酸(ドーパミン代謝産物)
・DA:ドーパミン
・DOPAC/DA:DAターンオーバーの尺度(この比は神経変性の場合に増加する)
・アポトーシス:プログラム細胞死
図1図1は、本発明の組合せ(製剤)対象物が線条体中の亜硝酸レベルに及ぼす効果を、単一抽出物a)、b)及びc)を用いて得られた類似物と、陰性対照(ビヒクルのみで処理された線条体)及び陽性対照(ビヒクルとLPSのみが投与された線条体)で得られたものと比較して示す。
図2図2は、グラフに示された組合せ(製剤)が線条体中のLDHレベルに及ぼす効果を、単一抽出物a)、b)及びc)を用いて得られたものと、陰性対照(ビヒクルのみで処理)及び陽性対照(すなわちビヒクルとLPSで処理された線条体)で得られたものと比較して示す。
図3図3は、本発明による、グラフに示された組合せ(製剤)が線条体中の8-イソ-PGF2αレベルに及ぼす効果を、単一抽出物a)、b)及びc)を用いて得られたものと、ビヒクルのみで処理された陰性対照及び陽性対照(すなわちビヒクルとLPSで処理された線条体)で得られたものと比較して示す。
図4図4は、本発明による、グラフに示された組合せ(製剤)が線条体中のDOPAC/DAレベルに及ぼす効果を、単一抽出物a)、b)及びc)を用いて得られたものと、ビヒクルのみで処理された線条体の陰性対照及びLPSと6-OH-DAでそれぞれ処理された陽性対照で得られたものとそれぞれ比較して示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本記載の背景技術に関する部分でも述べた通り、本発明の目的のために、定義“運動障害”は、運動能力の減退及び/又は不随意運動(すなわち意志力で制御が困難な動き)の存在を特徴とする膨大な数の疾患をまとめたものである。それらは、好ましくは、原発性パーキンソン症候群(パーキンソン病、多系統萎縮症、進行性核上まひ、大脳皮質基底核変性症、レビー小体型認知症)、続発性パーキンソン症候群(いわゆる血管性、感染性、感染後、外傷後パーキンソニズム及び非従来型薬剤によるパーキンソニズム、環境性、医原性、代謝毒性因子によるパーキンソニズム)及び中枢神経系の遺伝性疾患(ウィルソン病、若年型(Westphal variant)ハンチントン病、ハレルフォルデン・スパッツ病)に随伴する形態のパーキンソニズムである。好ましくは、本発明による組合せを用いて治療される運動障害はパーキンソン病である。
【0025】
本発明の目的のために、定義“下記成分を含む”は、明示的に掲載及び引用されている成分以外の更なる成分の存在を排除しないが、定義“下記成分からなる”は、明示されている以外の他の成分の存在を排除するので、より限定的な意味を持つ。乾燥ソラマメ抽出物は好ましくは果実から得られる。好ましくは、本発明による使用のための組合せは、ビタミンC及びEから選ばれる少なくとも一つのビタミンを含む。
【0026】
さらに好ましくは、本発明による使用のための組合せは両ビタミンを含む。
なおさらに好ましくは、本発明による使用のための組合せは、
・a)ソラマメ(Vicia faba)、b)カギカズラ(Uncaria rhyncophylla)及びc)カンゾウ(liquorice root)の乾燥抽出物、及び
・コエンザイムQ10
・ビタミンC及びビタミンE
によって構成される。
【0027】
好ましくは、本発明による使用のための組合せは、適切な賦形剤及び/又は希釈剤と組み合わせた経口製剤、好ましくはフードサプリメントに含有される。
好ましくは、該フードサプリメントは、
・800~1200mg、好ましくは1000mgのa)の乾燥抽出物、
・80~120mg、好ましくは100mgのb)の乾燥抽出物、
・30~70mg、好ましくは50mgのc)の乾燥抽出物で、c)の乾燥抽出物の総重量を基に計算された重量パーセント含有量が最低10%、さらに好ましくは18~22%のグリシルレチン酸、
・30~70mg、好ましくは50mgのコエンザイムQ10、
・60~100mg、好ましくは80mgのビタミンC、
・10~14mg、好ましくは12mgのビタミンE
を含有する1回量サシェの形態である。
【0028】
好ましくは、本発明の目的のための組合せを含む経口製剤又はさらに詳しくはフードサプリメントは、好ましくは1日1回のみ投与される。
例示的非制限的目的のために、毎日の1回量サシェ製剤の例を以下の表1に報告する。表中には活性成分とその相対量は報告されているが、賦形剤もそれらの量も報告されていない。しかしながら、賦形剤は従来型のものであり、当業者には周知である。
【0029】
表1-1回量サシェあたりの活性成分の配合表。賦形剤も含めた総重量は約4gで、これを約250mlの水に溶解する。
【0030】
【表1】
【0031】
この抽出物は4gの新鮮植物(好ましくは新鮮果実)から得られる
【実施例
【0032】
以下に報告されている下記実験テストは、神経変性過程に対する予防及び効果の両方に関する本発明の組合せ対象物の有効性を示す。
実験テスト
1.実験モデル
単一サンプルを可溶化後、エクスビボ実験モデルに従って試験する。
【0033】
抽出物による刺激は、スカラー濃度の溶液を培地に添加することによって行われる。効果は、脳組織の慢性炎症の形態学的及び構造的変化に起因する神経伝達、酸化的ストレス及び炎症の特異的マーカーの定量的測定を通じて評価される。この目的に向けて、LPS及び6-ヒドロキシドーパミンのような炎症誘発性及び変性刺激による処置に付された線条体核、前頭前皮質及び海馬の特定切片をラット脳から取り出した。
【0034】
次に、培地への補給の効果を下記パラメーターを評価することによって評価した。
- ドーパミンとその主要代謝産物(DOPAC)のレベル:DOPAC/DA比;
- 脂質過酸化バイオマーカー及び酸化的ストレス及び組織損傷における重要酵素、例えば乳酸デヒドロゲナーゼ、カタラーゼ、ミエロペルオキシダーゼ、シクロオキシゲナーゼ及び一酸化窒素シンターゼなどの活性。
【0035】
試験で使用された単一抽出物の投与量は、完全製剤中に存在する量と同一であり、市販製剤の各種成分間の関係を尊重している。
2.結果と考察
本研究では、神経炎症及びパーキンソン病のエクスビボでの実験モデルにおいて、ソラマメ、カギカズラ、カンゾウ、コエンザイムQ10に基づくフードサプリメントの成分の役割を調査した。
【0036】
この実験モデルでは、ラット線条体の生検標本を制御された雰囲気下37℃で4時間、“ダルベッコ緩衝液”として知られるリン酸緩衝液からなる培地を用いてインキュベートした。
【0037】
特に、組織は下記実験条件下でインキュベートされた。
・ビヒクル:ダルベッコ緩衝液のみで刺激;
・LPS:細菌リポ多糖(LPS)を追加したダルベッコ緩衝液で刺激;
・フードサプリメント:細菌リポ多糖(LPS)とフードサプリメントを追加したダルベッコ緩衝液で刺激;
・6-OH-DA:6-OH-DAを追加したダルベッコ緩衝液で刺激;
・フードサプリメント:6-OH-DAを追加したダルベッコ緩衝液で刺激。
【0038】
摘出ラット組織のLPSによる処理は、インビボでの炎症性損傷及び酸化的損傷を再現できる有効な炎症の実験モデルである(Phytother Res.2016 Sep;30(9):1513-8)。
【0039】
他方、6-OH-DAによる処理は、パーキンソン病の神経変性をエクスビボで再現する(Neurotox Res.2007 Apr;11(3-4):151-67.)。
【0040】
この実験条件で、線条体中の亜硝酸 (nitrites)及び乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)などの酸化的ストレス及び組織損傷のマーカーの増加と、ドーパミンレベルの減少が観察される。
【0041】
他方、炎症誘発性刺激に付された線条体生検標本を、抗酸化活性/抗炎症活性を有する薬物及び植物抽出物で処理すると、組織損傷の発症と酸化的ストレス及び組織損傷のマーカーの病的増加を防止できる。
【0042】
この文脈において、フードサプリメントの使用は、
- ニトロソ化ストレスの指数である亜硝酸レベルに顕著な減少を測定でき、これは単一成分の一つより強い作用である(図1);
- 乳酸デヒドロゲナーゼの活性、ひいては組織損傷の徴候を低減でき、これは単一成分の一つより強い作用である(図2);
- 脂質過酸化の指数である8-イソ-PGF2α(8-イソプロスタグランジンF2α)のレベルを低減でき、これは植物成分間で中間的な作用である(図3);
- DOPAC/DA比として評価されるドーパミン作動性ターンオーバーのレベルを低減できる(ここでDOPACはドーパミン“DA”の主要代謝産物である)(図4
ことが証明されたことが観察された。
【0043】
単一植物成分(ソラマメ、カギカズラ及びカンゾウ)は、製剤よりも、酸化的損傷の防止に無効であるか又は低効果であることが分かった。
ドーパミン作動性ターンオーバー(DOPAC/DA比)に対する単一成分及びサプリメントの活性に関しては、LPSで刺激された組織において、製剤は、ソラマメより高く、ドーパミン作動性ターンオーバー及びアポトーシス経路に対してそれぞれ阻害効果を示すカンゾウ及びカギカズラに匹敵する保護作用を有していることが観察される(図4)。
【0044】
他方、神経毒6-OH-ドーパミンで刺激された線条体組織に対しては、フードサプリメントは単一植物成分よりもわずかに低い作用を有し、カギカズラよりは高活性であるが、カンゾウ及びソラマメと比較するとわずかに低活性の結果となったことが観察される。しかしながら、陽性対照(6-OH-DA)と比較すると、サプリメントはDOPAC/DA比を衝撃的に低減し、混合物の有効性を正当化している。
【0045】
従って、LPSで刺激された線条体のレベルで、フードサプリメントは、単一成分と比較すると、より強い保護効果を有すると結論付けることができる。これは多標的(マルチターゲット)抗酸化作用に由来するとみられる。他方、6-OH-ドーパミンによって誘導されたパーキンソン病モデルで示された有効性は、単一抽出物と比較するとごくわずかに低いが、急性期の神経変性疾患を特徴付ける脳の炎症状態及び酸化状態を低減できる保護剤としてのサプリメントの使用を支持するものである。
【0046】
参考文献一覧
【0047】
【表2-1】
【0048】
【表2-2】
図1
図2
図3
図4