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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-10
(45)【発行日】2024-01-18
(54)【発明の名称】多価インフルエンザナノ粒子ワクチン
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/295 20060101AFI20240111BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20240111BHJP
   A61K 39/39 20060101ALI20240111BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240111BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20240111BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20240111BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240111BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240111BHJP
【FI】
A61K39/295
A61P31/16
A61K39/39
A61K47/26
A61K47/02
A61K47/18
A61P37/04
A61P43/00 121
【請求項の数】 29
(21)【出願番号】P 2020549585
(86)(22)【出願日】2019-03-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-02
(86)【国際出願番号】 US2019022930
(87)【国際公開番号】W WO2019183063
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2022-02-21
(31)【優先権主張番号】62/644,623
(32)【優先日】2018-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/787,980
(32)【優先日】2019-01-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507301246
【氏名又は名称】ノババックス,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ボッダパティ,サラティ
(72)【発明者】
【氏名】ハーワッカー,アヌシュリー
(72)【発明者】
【氏名】ウォン,ジェイソン
(72)【発明者】
【氏名】リン,イェン-フェイ
(72)【発明者】
【氏名】スミス,ゲイル
(72)【発明者】
【氏名】ティアン,ジン-フイ
【審査官】伊藤 良子
(56)【参考文献】
【文献】特表平10-508301(JP,A)
【文献】国際公開第2017/041100(WO,A1)
【文献】Vaccine,2017年,Vol.35,p.5366-5372
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価免疫原性インフルエンザ組成物であって、
(a)B型インフルエンザ株由来の組換えインフルエンザ赤血球凝集素(HA)糖タンパク質を含む洗浄剤コアナノ粒子と、
ここで、前記洗浄剤コアは、非イオン性洗浄剤を含み、前記非イオン性洗浄剤がPS80であり、
(b)A型インフルエンザ株由来の組換えインフルエンザHA糖タンパク質、非イオン性洗浄剤及びISCOMマトリックスアジュバントを含む赤血球凝集素サポニンマトリックスナノ粒子(HaSMaN)と、
ここで、前記ISCOMマトリックスアジュバントは、画分Aマトリックス及び画分Cマトリックスを含み、
(c)薬学的に許容される緩衝剤と、
を含む、前記組成物。
【請求項2】
1つ以上の洗浄剤コアナノ粒子及び/または1つ以上のHaSMaNをさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ナノ粒子のそれぞれが、トリプシン耐性ナノ粒子である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記ISCOMマトリックスアジュバントが、少なくとも約85%(w/w)の画分Aマトリックスを含み、前記ISCOMマトリックスアジュバントの残りが、画分Cマトリックスを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記ISCOMマトリックスアジュバントが、画分Aマトリックス及び画分Cマトリックス(85:15、w/w)を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記PS80洗浄剤が約0.03%~約0.5%で存在する、請求項に記載の組成物。
【請求項7】
前記PS80洗浄剤が約0.04%で存在する、請求項に記載の組成物。
【請求項8】
前記インフルエンザ株が、H1、H2、H3、H4、H5、H6、H7、H8、H9、H10、H11、H12、H13、H14、H15、H16、H17、及びH18からなる群から選択されるサブタイプのものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記薬学的に許容される緩衝剤が、(i)約25mMのリン酸ナトリウム、(ii)約150mMの塩化ナトリウム、(iii)約100mMのアルギニン塩酸塩、(iv)約5%のトレハロースを含み、前記組成物のpHが約7.5である、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
請求項1に記載の組成物を含む、プレフィルドシリンジまたはブローフィルシール容器。
【請求項11】
前記組成物が、少なくとも12ヶ月間安定である、請求項10に記載のプレフィルドシリンジまたはブローフィルシール容器。
【請求項12】
前記組成物が、25℃で安定である、請求項10に記載のプレフィルドシリンジまたはブローフィルシール容器。
【請求項13】
インフルエンザに対する免疫応答を刺激するための、請求項1~のいずれかに記載の組成物。
【請求項14】
前記組成物が筋肉内に投与される、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
ISCOMマトリックスアジュバント、非イオン性洗浄剤、及び組換えインフルエンザHA糖タンパク質三量体を含むHaSMaN(赤血球凝集素サポニンマトリックスナノ粒子)であって、前記HA糖タンパク質がA型インフルエンザ株由来であり、前記HA糖タンパク質尾部が前記粒子と結合されており、前記HA糖タンパク質ヘッド部が前記粒子から遠位に伸びており、前記ISCOMマトリックスアジュバントが、画分Aマトリックス及び画分Cマトリックスを含み、前記非イオン性洗浄剤がPS80である、前記HaSMaN。
【請求項16】
前記A型インフルエンザ株が、H1、H2、H3、H4、H5、H6、H7、H8、H9、H10、H11、H12、H13、H14、H15、H16、H17、及びH18からなる群から選択されるサブタイプのものである、請求項15に記載のHaSMaN。
【請求項17】
請求項15に記載のHaSMaNと、薬学的に許容される緩衝剤または担体と、を含む、組成物。
【請求項18】
前記アジュバントが用量あたり約50μg~約75μgで存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項19】
前記B型インフルエンザ株由来の前記組換えインフルエンザHA糖タンパク質及び前記A型インフルエンザ株由来の前記組換えインフルエンザHA糖タンパク質の両方が約60μgの量で存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項20】
前記B型インフルエンザ株由来の前記組換えインフルエンザHA糖タンパク質及び前記A型インフルエンザ株由来の前記組換えインフルエンザHA糖タンパク質の両方が野生型インフルエンザHA糖タンパク質である、請求項1に記載の組成物。
【請求項21】
前記B型インフルエンザ株由来の前記組換えインフルエンザHA糖タンパク質及び前記A型インフルエンザ株由来の前記組換えインフルエンザHA糖タンパク質が宿主細胞において発現される、請求項1に記載の組成物。
【請求項22】
前記宿主細胞が昆虫Sf9細胞である、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
前記B型インフルエンザ株由来の前記組換えインフルエンザHA糖タンパク質及び前記A型インフルエンザ株由来の前記組換えインフルエンザHA糖タンパク質がバキュロウイルスを使用して発現される、請求項21に記載の組成物。
【請求項24】
洗浄剤コアナノ粒子及びISCOMマトリックスアジュバントを少なくとも24時間組み合わせることを含み、
前記ISCOMマトリックスアジュバントが、画分Aマトリックス及び画分Cマトリックスを含
前記洗浄剤コアナノ粒子が、A型インフルエンザ株由来のHA糖タンパク質、及び非イオン性洗浄剤を含み、前記非イオン性洗浄剤がPS80である、
HaSMaNの調製方法。
【請求項25】
前記ISCOMマトリックスアジュバントが、少なくとも約85%(w/w)の画分Aマトリックスを含み、前記ISCOMマトリックスアジュバントの残りが、画分Cマトリックスを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記ISCOMマトリックスアジュバントが、画分Aマトリックス及び画分Cマトリックス(85:15、w/w)を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
約25℃の温度で前記洗浄剤コアナノ粒子を前記ISCOMマトリックスアジュバントと組み合わせることを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
前記洗浄剤コアナノ粒子がA型インフルエンザ株由来の組換えインフルエンザ赤血球凝集素(HA)糖タンパク質を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項29】
前記A型インフルエンザ株が、H1、H2、H3、H4、H5、H6、H7、H8、H9、H10、H11、H12、H13、H14、H15、H16、H17、及びH18からなる群から選択される、請求項28に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国特許法第119条(e)に基づき、2018年3月19日に提出された米国仮出願第62/644,623号、及び2019年1月3日に提出された米国仮出願第62/787,980号の優先権を主張するものであり、そのそれぞれの内容は、あらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本出願ではまた、2016年9月6日に提出された米国出願番号第15/257,436号、及び2017年11月21日に提出された米国出願番号第15/819,962号の内容が、あらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
本開示は、一般に、インフルエンザに対する免疫応答を刺激するのに有用なインフルエンザワクチン組成物に関する。
【背景技術】
【0004】
季節性インフルエンザの実質的な世界的な負担について数多く立証されてきた。米国だけでも、毎年約140,000人から10,000人の入院と12,000人から56,000人の死亡がインフルエンザに起因しており、高齢者は入院の62%、死亡率の72%と高い割合を占める。季節性インフルエンザのワクチン接種は予防活動の中心であり、2010年以降、米国で広く推奨されてきた。
【0005】
しかしながら、深刻な2017-2018 A(H3N2)が優勢な米国のインフルエンザシーズンを含む最近の動向は、少なくともオーストラリア、カナダ、及び米国においてワクチンの有効性が低いことが示される。卵ベースのインフルエンザワクチンに関連する抗原ミスマッチなどのその他の問題、及び抗原ドリフトの持続的な課題も、より効果的なワクチン接種戦略を提供する必要性を表している。
【0006】
したがって、インフルエンザウイルスに対するワクチンの製造に関心が寄せられているが、特に組換え卵タンパク質を含まないアプローチを使用して、効果的なワクチンを製造するニーズが依然として残っている。
【発明の概要】
【0007】
本開示は、多価インフルエンザ組成物を提供する。該組成物は、複数のインフルエンザ株に対する免疫応答を刺激する。有利には、免疫応答は、組成物を調製するために使用されるものとは異なる株のバリアントに向けられた広域中和抗体を含み得る。インフルエンザ変異は「ドリフト株」をもたらし、開示された組成物は「ドリフト株」に対する保護を提供する。加えて、該組成物は優れた安定性を示し、長期間保管することができ、すぐに投与することができるプレフィルドシリンジで製造され得る。一部の態様では、プレフィルドシリンジ(PFS)は、予めアジュバント及びインフルエンザ抗原を含み得、長期間保管され得る。開示された組成物は、冷蔵(2~8℃)される必要がなく、より高温(例えば室温、約25℃)で良好な安定性を示す。したがって、本明細書に開示された組成物は、優れた利便性及び優れた免疫応答を提供する。
【0008】
特定の態様では、インフルエンザ抗原を含むナノ粒子は、対象への投与の前に、しばらくISCOMマトリックスアジュバント(本明細書では「マトリックス」とも呼ばれる)と混合することによってワクチン組成物に共製剤化し、HaSMaN(赤血球凝集素サポニンマトリックスナノ粒子)を形成する。HaSMaNを含む組成物は、優れた安定性及び免疫原性を示すため、例えばプレフィルドシリンジでのパッケージングに適している。実際、HaSMaNは洗浄剤コアナノ粒子よりも安定している。示差走査熱量計によって測定された熱安定性は、洗浄剤コアナノ粒子と比較して、HaSMaNの方が約1度良好であった。従来は、ISCOMマトリックスアジュバントを使用するアプローチは、投与直前にワクチン組成物をベッドサイドでアジュバントと組み合わせることを伴った。特定の態様では、本明細書に開示された組成物は、その必要性を排除し、したがって免疫応答を誘導する改善された方法を提供する。驚くべきことに、インフルエンザの型によってHaSMaNの形成が異なることが判明した。HaSMaNは通常、組成物がA型インフルエンザ株由来の赤血球凝集素(HA)タンパク質を含む場合に形成されるが、HAタンパク質がB型インフルエンザ株由来の場合には形成されない。
【0009】
一部の実施形態では、多価インフルエンザ組成物中のISCOMマトリックスアジュバントは、第1の型であるサポニン画分Aを含むマトリックスA(本明細書では画分Aマトリックスとも呼ばれる)と、第2の型であるサポニン画分Cを含むマトリックスC(本明細書では画分Cマトリックスとも呼ばれる)の、2つの型のマトリックスの組み合わせであるマトリックスMである。ある特定の態様では、マトリックスMは、少なくとも約85%(w/w)の画分Aマトリックスと、その残りの画分Cマトリックスを含み得る。特に指示されない限り、本明細書において使用されるマトリックスMは、画分Aマトリックス及び画分Cマトリックスを、85:15(w/w)の比率で含み、本明細書ではマトリックスM1とも呼ばれる。
【0010】
いくつかの実施形態では、四価のナノ粒子インフルエンザ組成物中の各インフルエンザHAタンパク質は、異なるインフルエンザ株に由来し得る。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの株は、サブタイプA株またはサブタイプB株であり得る。いくつかの実施形態では、サブタイプA株は、マトリックスMアジュバントに複合化され得るが、サブタイプB株はそうではない。
【0011】
本開示により、特に季節性ワクチンでの使用のための、多価組成物が想定されるが、一価ワクチン組成物はまた、例えば、時々発生するパンデミック・インフルエンザ株に対してワクチン接種するために使用するためのHaSMaNを用いて製造され得る。
【0012】
安定性、特に室温での安定性は、コールドチェーン保管の必要性を低減または排除し、流通をより安く簡単に実現するため、貴重な性質である。有利には、本明細書に開示された多価組成物は、長期間、例えば、最大3ヶ月、最大6ヶ月、最大12ヶ月、これらの期間、室温(すなわち、約25℃)で安定である。特にマトリックスMアジュバントと製剤化された場合の優れた安定性は、ワクチン組成物が、すぐに投与できる形式(例えばプレフィルドシリンジ製剤)での臨床現場への送達に適していることを意味する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】インフルエンザHA洗浄剤コアナノ粒子のみ(左)、マトリックスMのみ(中央)、ならびに赤血球凝集素サポニンマトリックスナノ粒子(HaSMaN)を形成するHAナノ粒子及びマトリックスMの組み合わせ(右)の透過型電子顕微鏡(TEM)画像の例を示す。
図2】4℃で、T=0、6ヶ月、及び12ヶ月における、高用量及び低用量の四価のベッドサイドバイアル製剤(240μg/mL/株及び60μg/mL/株)、ならびにマトリックスMを含有または非含有のプレフィルドシリンジ(PFS)製剤(120μg/mL/株及び30μg/mL/株)のインフルエンザ抗原の還元SDS-PAGEゲル画像を示す。図中の略語は、PFSがプレフィルドシリンジ、M1がマトリックスMである。
図3】4℃で、時間=0における、高用量のベッドサイドバイアル製剤(240μg/mL/株)、ならびにマトリックスMを含有または非含有のPFS製剤(120μg/mL/株)のインフルエンザ抗原の非還元及び還元SDS-PAGEゲル画像を示す。
図4】4℃及び25℃で、T=3ヶ月時点における、高用量及び低用量のベッドサイドバイアル製剤(240μg/mL/株及び60μg/mL/株)、ならびにマトリックスMを含有または非含有のPFS製剤(120μg/mL/株及び30μg/mL/株)のインフルエンザ抗原の非還元SDS-PAGEゲル画像を示す。
図5】2~8℃で、T=0、2週間、1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、9ヶ月、及び12ヶ月における、マトリックスMを含有または非含有の、120μg/mL/株の用量のPFS製剤の、A/Hong Kong、A/Michigan、B/Brisbane、及びB/Phuket株の一元放射免疫拡散アッセイ(SRID)結果を示す。図中の略語は、MXMがマトリックスM、HKがHong Kong、MIがMichigan、BrisがBrisbane、PhuがPhuketである。
図6】25℃で、T=0、2週間、1ヶ月、3ヶ月、及び6ヶ月における、マトリックスMを含有または非含有の、120μg/mL/株の用量のPFS製剤の、A/Hong Kong、A/Michigan、B/Brisbane、及びB/Phuket株のSRID結果を示す。
図7】A/Hong Kong/4801/2014に対する市販のインフルエンザワクチンと比較した、マトリックスMを含有もしくは非含有のQuad-NIV共製剤またはベッドサイドミックス製剤を投与したマウスの赤血球凝集抑制抗体応答を示す。抗体応答はHAI力価として表される。図中の略語は、HAIが赤血球凝集抑制、HAが赤血球凝集素、Co-formが共製剤、Quad-NIVが四価ナノ粒子インフルエンザワクチン、QIVが四価インフルエンザワクチンである。
図8】市販のインフルエンザワクチンと比較した、マトリックスMを含有もしくは非含有のQuad-NIV共製剤またはベッドサイドミックス製剤を投与したマウスのA/Michigan/45/2015に対する赤血球凝集抑制抗体応答を示す。
図9】市販のインフルエンザワクチンと比較した、マトリックスMを含有もしくは非含有のQuad-NIV共製剤またはベッドサイドミックス製剤を投与したマウスのB/Brisbane/60/2008に対する赤血球凝集抑制抗体応答を示す。
図10】市販のインフルエンザワクチンと比較した、マトリックスMを含有もしくは非含有のQuad-NIV共製剤またはベッドサイドミックス製剤を投与したマウスのB/Phuket/3073/2013に対する赤血球凝集抑制抗体応答を示す。
図11】A/Hong Kong/4801/2014、A/Michigan/45/2015、B/Brisbane/60/2008、及びB/Phuket/3073/2013に対する、マトリックスMを含有した、Quad-NIVプレミックスまたはベッドサイドミックス製剤を投与したマウスの赤血球凝集抑制抗体応答を示す。PFS製剤は4℃で3ヶ月間保管した。ベッドサイドミックスワクチンの場合、ウイルス抗原を-60℃で3ヶ月間保管し、投与直前にマトリックスMアジュバントと混合した。抗体応答は、HAI GMT力価として表した。GMT結果には、95%の下方管理限界と95%の上方管理限界を使用した。図中の略語は、HAIが赤血球凝集抑制、HAが赤血球凝集素、GMTが幾何平均力価、LCLが下方管理限界、UCLが方管理限界である。
図12】21日目における、マトリックスM(100μg/mL)を含有または非含有の、Quad-NIV共製剤またはベッドサイドミックス製剤を投与したマウスにおけるA/Michigan株に対する赤血球凝集抑制抗体応答を示す。プレミックスしたQuad-NIV共製剤を、表示の温度で6ヶ月間保管した。
図13】35日目における、マトリックスM(100μg/mL)を含有または非含有の、Quad-NIV共製剤またはベッドサイドミックス製剤を投与したマウスにおけるA/Michigan株に対する赤血球凝集抑制抗体応答を示す。プレミックスしたQuad-NIV共製剤を、表示の温度で6ヶ月間保管した。
図14】21日目における、マトリックスM(100μg/mL)を含有または非含有の、Quad-NIV共製剤またはベッドサイドミックス製剤を投与したマウスにおけるA/Hong Kong/4801/2014に対する赤血球凝集抑制抗体応答を示す。プレミックスしたQuad-NIV共製剤を、表示の温度で6ヶ月間保管した。
図15】35日目における、マトリックスM(100μg/mL)を含有または非含有の、Quad-NIV共製剤またはベッドサイドミックス製剤を投与したマウスにおけるA/Hong Kong株に対する赤血球凝集抑制抗体応答を示す。プレミックスしたQuad-NIV共製剤を、表示の温度で6ヶ月間保管した。
図16】21日目における、マトリックスM(100μg/mL)を含有または非含有の、Quad-NIV共製剤またはベッドサイドミックス製剤を投与したマウスにおけるB/Brisbane株に対する赤血球凝集抑制抗体応答を示す。プレミックスしたQuad-NIV共製剤を、表示の温度で6ヶ月間保管した。
図17】35日目における、マトリックスM(100μg/mL)を含有または非含有の、Quad-NIV共製剤またはベッドサイドミックス製剤を投与したマウスにおけるB/Brisbane株に対する赤血球凝集抑制抗体応答を示す。抗体応答は、HAI力価として表した。プレミックスしたQuad-NIV共製剤を、表示の温度で6ヶ月間保管した。
図18】21日目における、マトリックスM(100μg/mL)を含有または非含有の、Quad-NIV共製剤またはベッドサイドミックス製剤を投与したマウスにおけるB/Phuket株に対する赤血球凝集抑制抗体応答を示す。プレミックスしたQuad-NIV共製剤を、表示の温度で6ヶ月間保管した。
図19】35日目における、マトリックスM(100μg/mL)を含有または非含有の、Quad-NIV共製剤またはベッドサイドミックス製剤を投与したマウスにおけるB/Phuket株に対する赤血球凝集抑制抗体応答を示す。抗体応答は、HAI力価として表した。プレミックスしたQuad-NIV共製剤を、表示の温度で6ヶ月間保管した。
図20】21日目における、マトリックスM(100μg/mL)を含有または非含有の、Quad-NIV共製剤またはベッドサイドミックス製剤を投与したマウスにおけるA/Hong Kong/4801/2014に対する赤血球凝集抑制抗体応答を示す。プレミックスしたQuad-NIV共製剤を、4℃で12ヶ月間保管した。
図21】35日目における、マトリックスM(100μg/mL)を含有または非含有の、Quad-NIV共製剤またはベッドサイドミックス製剤を投与したマウスにおけるA/Hong Kong株に対する赤血球凝集抑制抗体応答を示す。プレミックスしたQuad-NIV共製剤を、4℃で12ヶ月間保管した。
図22】21日目における、マトリックスM(100μg/mL)を含有または非含有の、Quad-NIV共製剤またはベッドサイドミックス製剤を投与したマウスにおけるA/Michigan株に対する赤血球凝集抑制抗体応答を示す。プレミックスしたQuad-NIV共製剤を、4℃で12ヶ月間保管した。
図23】35日目における、マトリックスM(100μg/mL)を含有または非含有の、Quad-NIV共製剤またはベッドサイドミックス製剤を投与したマウスにおけるA/Michigan株に対する赤血球凝集抑制抗体応答を示す。プレミックスしたQuad-NIV共製剤を、4℃で12ヶ月間保管した。
図24】21日目における、マトリックスM(100μg/mL)を含有または非含有の、Quad-NIV共製剤またはベッドサイドミックス製剤を投与したマウスにおけるB/Brisbane株に対する赤血球凝集抑制抗体応答を示す。プレミックスしたQuad-NIV共製剤を、4℃で12ヶ月間保管した。
図25】35日目における、マトリックスM(100μg/mL)を含有または非含有の、Quad-NIV共製剤またはベッドサイドミックス製剤を投与したマウスにおけるB/Brisbane株に対する赤血球凝集抑制抗体応答を示す。抗体応答は、HAI力価として表した。プレミックスしたQuad-NIV共製剤を、4℃で12ヶ月間保管した。
図26】21日目における、マトリックスM(100μg/mL)を含有または非含有の、Quad-NIV共製剤またはベッドサイドミックス製剤を投与したマウスにおけるB/Phuket株に対する赤血球凝集抑制抗体応答を示す。プレミックスしたQuad-NIV共製剤を、4℃で12ヶ月間保管した。
図27】35日目における、マトリックスM(100μg/mL)を含有または非含有の、Quad-NIV共製剤またはベッドサイドミックス製剤を投与したマウスにおけるB/Phuket株に対する赤血球凝集抑制抗体応答を示す。抗体応答は、HAI力価として表した。プレミックスしたQuad-NIV共製剤を、4℃で12ヶ月間保管した。
図28】4℃で、T=0、3ヶ月、6ヶ月、9ヶ月、または12ヶ月におけるQuad-NIV PFS製剤(120μg/mL)、及び4℃で、T=3ヶ月、6ヶ月、9ヶ月、または12ヶ月における100μg/mLのマトリックスM1を含有したQuad-NIV PFS製剤のAUC沈降プロファイルを示す。
図29】実験開始時(T0)、1ヶ月、3ヶ月、及び6ヶ月における、マトリックスM1(100μg/mL)を含有または非含有の、Quad-NIV PFS製剤の遠心分析(AUC)沈降プロファイルを示す。製剤は25℃でインキュベートした。
図30】インキュベーションなし(T=0)の、高用量のQuad-NIVのみ(120μg/mL/株)、マトリックスMのみ(100μg/mL)、高用量のQuad-NIV+マトリックスM、及び低用量のQuad-NIV(30μg/mL/株)+マトリックスM(100μg/mL)のTEM画像を示す。
図31】4℃または25℃での高用量のQuad-NIV(120μg/mL/株)+マトリックスM(100μg/mL)及び4℃または25℃での低用量のQuad-NIV(30μg/mL/株)+マトリックスM(100μg/mL)のTEM画像を示す。全ての試料を4時間インキュベーションした。
図32】4℃または25℃での高用量のQuad-NIV(120μg/mL/株)+マトリックスM(100μg/mL)及び4℃または25℃での低用量のQuad-NIV(30μg/mL/株)+マトリックスM(100μg/mL)のTEM画像を示す。全ての試料を24時間インキュベーションした。例示的なHaSMaNを円で囲んでいる。
図33】4℃または25℃での高用量のQuad-NIV(120μg/mL/株)+マトリックスM(100μg/mL)及び4℃または25℃での低用量のQuad-NIV(30μg/mL/株)+マトリックスM(100μg/mL)のTEM画像を示す。全ての試料を48時間インキュベーションした。例示的なHaSMaNを円で囲んでいる。
図34】4℃または25℃での高用量のQuad-NIV(120μg/mL/株)+マトリックスM(100μg/mL)及び4℃または25℃での低用量のQuad-NIV(30μg/mL/株)+マトリックスM(100μg/mL)のTEM画像を示す。全ての試料を7日間インキュベーションした。例示的なHaSMaNを円で囲んでいる。
図35】様々な温度(2~8℃、25℃、及び37℃)で1ヶ月間インキュベートした、マトリックスM(100μg/mL)を含有または非含有の、低用量のPFS群(30μg/mL/株)のTEM画像を示す。
図36】マトリックスM1(100μg/mL)を含有または非含有の、120μg/mL/株の製剤の用量のQuad-NIVのDSCプロファイルを示す。4℃で3ヶ月、6ヶ月、及び12ヶ月間インキュベートした、ならびに25℃で3ヶ月及び6ヶ月間インキュベートした、四価ワクチン抗原のモル熱容量(Cp:kJ/mol.k)を示す。
図37】A株、B株、及びフォールドン(foldon)に融合したC末端修飾A株由来のHAタンパク質によるnHA(すなわち、洗浄コアナノ粒子)の減少によって測定されたHaSMaNの形成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
定義
本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用する場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈で別段明確に指示されない限り、複数形の言及を含む。したがって、例えば、「タンパク質」への言及は、1つのタンパク質またはそのようなタンパク質の混合物を指すことができ、「方法」への言及は、当業者に知られている同等のステップ及び/または方法への言及を含む、などである。
【0015】
本明細書において使用される場合、「アジュバント」という用語は、免疫原と組み合わせて使用した場合に、免疫原に対して誘導される免疫応答を増強またはそうでなければ変更もしくは改変する化合物を指す。免疫応答の改変は、抗体及び細胞性免疫応答のいずれかまたは両方の特異性の強化または拡大を含み得る。
【0016】
本明細書において使用される場合、数値の前にある「約」または「およそ」という用語は、値のプラスまたはマイナス10%範囲を示す。例えば、「約100」には90及び110が含まれる。
【0017】
本明細書において使用される場合、「免疫原」、「抗原」、及び「エピトープ」という用語は、免疫応答を誘発することができる、糖タンパク質を含むタンパク質及びペプチドなどの物質を指す。
【0018】
本明細書において使用される場合、「免疫原性組成物」は、対象への該組成物の投与が、対象において抗原に対する体液性及び/または細胞性免疫応答の発展をもたらす抗原を含む組成物である。
【0019】
本明細書において使用される場合、これらの「Quad-NIV」、「QuadNIV」、または「四価ナノ粒子インフルエンザワクチン」は、4つのインフルエンザウイルス株由来の抗原を含むインフルエンザワクチン製剤を指す。
【0020】
本明細書において使用される場合、「ベッドサイドミックス」、「ベッドサイド製剤」、「ベッドサイドワクチン組成物」、「ベッドサイドバイアル」、「ベッドサイドバイアル製剤」という用語は、投与直前に調製されるワクチン製剤を指す。そのようなワクチン製剤は、異なる容器に別々に保管されて対象に投与されるウイルス抗原及びアジュバントを含む(例えば、2回の連続注射を投与する、または投与前に抗原及びアジュバントを1回の注射に組み合わせる)。
【0021】
本明細書において使用される場合、「共製剤ミックス」、「共製剤」、「共製剤ワクチン組成物」、「プレフィルドシリンジ」、「プレミックス」という用語は、対象への投与前に短期から長期間保管するために調製されるワクチン製剤を指す。このようなワクチン製剤は、インフルエンザ抗原及びISCOMマトリックスアジュバントの組み合わせを同じ容器に含み、HaSMaN(赤血球凝集素サポニンマトリックスナノ粒子)を形成するのに十分な条件下で調製する。
【0022】
本明細書において使用される場合、「処置する」、「処置」、及び「処置すること」という用語は、有益なまたは所望の結果、例えば臨床結果を得るためのアプローチを指す。本開示の目的のために、有益なまたは所望の結果には、感染もしくは疾患の開始もしくは進行の阻害もしくは抑制、感染もしくは疾患の症状の改善もしくは発現の軽減、またはそれらの組み合わせが含まれ得る。
【0023】
「予防」は、本明細書において使用される場合、「予防法」と互換的に使用され、感染もしくは疾患の完全な予防、またはその感染もしくは疾患の症状の発現の予防、感染もしくは疾患もしくはその症状の発症の遅延、またはその後発展する感染もしくは疾患もしくはその症状の重症度の軽減を意味することができる。
【0024】
本明細書において使用される場合、「有効用量」または「有効量」は、病原体感染の少なくとも1つの症状を軽減する免疫応答を誘発するのに十分な免疫原の量を指す。有効用量または有効量は、例えば中和分泌、及び/または血清抗体の量を測定することにより、例えばプラーク中和、補体結合、酵素結合免疫吸着(ELISA)、マイクロ中和アッセイ、及びHAI力価によって決定することができる。
【0025】
本明細書において使用される場合、「ワクチン」という用語は、防御免疫(例えば、病原体による感染から対象を保護する及び/または病原体による感染によって引き起こされる疾患または状態の重症度を軽減する免疫)を提示する、病原体に対する免疫応答を誘発するために使用される、病原体由来の免疫原などの免疫原性組成物を指す。防御免疫応答には、抗体の形成及び/または細胞媒介性応答を含んでもよい。文脈に応じて、「ワクチン」という用語は、防御免疫を生じさせるために対象に投与される免疫原の懸濁液または溶液を指すこともある。
【0026】
本明細書において使用される場合、「対象」という用語には、ヒト及び動物が含まれる。典型的には、対象はヒトである。例えば、対象は、成人、ティーンエイジャー、子供(2歳~14歳)、乳幼児(1ヶ月~24ヶ月)、または新生児(1ヶ月まで)であり得る。いくつかの態様では、成人は、約65歳以上、または約60歳以上の高齢者である。典型的な態様では、成人は、約60歳~約75歳未満、または少なくとも約75歳である。いくつかの態様では、対象は、妊娠中の女性または妊娠することを意図している女性である。他の態様では、対象は、ヒトではなく、例えば非ヒト霊長類、例えばヒヒ、チンパンジー、ゴリラ、またはマカクである。ある特定の態様では、対象は、イヌまたはネコなどのペットであってもよい。
【0027】
本明細書において使用される場合、「薬学的に許容される」という用語は、哺乳動物、特にヒトでの使用のために、米国連邦もしくは州政府の規制当局によって承認されるか、または米国薬局方、欧州薬局方、もしくは他の一般に認められた薬局方に列挙されていることを意味する。これらの組成物は、脊椎動物において防御免疫応答を誘導するためのワクチン及び/または抗原性組成物として有用である可能性がある。
【0028】
ナノ粒子:構造及び形態
本明細書に開示された組成物は、2種類のナノ粒子を含む。洗浄剤コアナノ粒子と呼ばれる第1の種類は、本質的に前述のとおりである。あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願第15/257,436号公報を参照のこと。簡潔に述べると、これらのナノ粒子は、バキュロウイルス発現系を使用してHAタンパク質を発現させ、次いで洗浄剤でHAタンパク質を抽出することにより、昆虫細胞において生成される。精製中、第1の洗浄剤を第2の洗浄剤、通常は非イオン性洗浄剤に変更し、三量体型のHAタンパク質の末端部分が埋め込まれた非イオン性洗浄剤コアを有するナノ粒子を得た。図1(左パネル)は、電子顕微鏡で観察したこれらの構造を示す。
【0029】
本明細書では、第2の種類のナノ粒子をHaSMaN(赤血球凝集素サポニンマトリックスナノ粒子)と呼ぶ。図1(右パネル)は、電子顕微鏡で観察したこれらの構造を示す。HA糖タンパク質は、マトリックスのかご型構造を修飾する。HaSMaN構造は、HAナノ粒子を調製し、次いでISCOMマトリックスアジュバント粒子と一定期間インキュベートすることによって形成される。ISCOMマトリックス粒子は、図1の中央パネルに示される。注目すべきは、HaSMaNは、A型インフルエンザHAタンパク質と共に容易に形成されるが、B型とは形成されない。したがって、特定の態様では、A型及びB型由来のHAタンパク質を有するナノ粒子を含む組成物は、両方の種類のナノ粒子(すなわち、洗浄剤コアナノ粒子及びHaSMaN)を含む。いくつかの態様では、ナノ粒子は2つの状態の間で遷移するため、組成物は遷移ナノ粒子を含み得る。
【0030】
特定の実施形態では、洗浄剤コアナノ粒子は、非イオン性洗浄剤コアを囲む複数のタンパク質三量体で構成される。例えば、各ナノ粒子は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、または15の三量体を含み得る。いくつかの実施形態では、各ナノ粒子は、2~6の三量体を含む。特定の実施形態では、各ナノ粒子は、2~9の三量体を含む。
【0031】
HAタンパク質は、ナノ粒子の非イオン性洗浄剤含有コアと結合されている。典型的には、洗浄剤は、ポリソルベート-20(PS20)、ポリソルベート-40(PS40)、ポリソルベート-60(PS60)、ポリソルベート-65(PS65)、及びポリソルベート-80(PS80)から選択される。洗浄剤の存在は、抗原を組織化して提示するコアを形成することにより、ナノ粒子の形成を促進する。したがって、ある特定の実施形態では、ナノ粒子は、マルチオリゴマー糖タンパク質-PS80タンパク質-洗浄剤ナノ粒子に組み立てられた抗原を含み、ヘッド領域は外側に突出し、疎水性領域及びPS80洗浄剤は抗原によって囲まれた中心コアを形成する。特定の実施形態では、インフルエンザワクチン組成物中の非イオン性洗浄剤はPS80である。洗浄剤コアナノ粒子は、Z-aveサイズが約25nm~約30nmの範囲である。しかしながら、洗浄剤コアナノ粒子は、マトリックスMとしばらく組み合わされると、HaSMaNが形成され、それらは洗浄剤コアナノ粒子よりわずかに大きく、約50nm~60nmである。粒径(Z-ave)は、特に指定のない限り、Malvern Zetasizerを使用した動的光散乱(DLS)によって測定される。
【0032】
ナノ粒子:製造
本開示の洗浄剤コアナノ粒子及びHaSMaNは、天然には存在しない生成物であり、その成分は自然には一緒に発生しない。一般的に、本明細書に開示された方法は、第1の洗浄剤を使用してタンパク質を単離し、次いで第1の洗浄剤を第2の洗浄剤と交換してナノ粒子を形成する洗浄剤交換アプローチを使用する。
【0033】
ナノ粒子中の糖タンパク質抗原、典型的にはHAは、典型的には宿主細胞における組換え発現により産生される。典型的には、糖タンパク質は、バキュロウイルス系を使用して昆虫宿主細胞で発現される。好ましい実施形態では、バキュロウイルスは、カテプシン-Lノックアウトバキュロウイルスである。他の好ましい実施形態では、バキュロウイルスは、キチナーゼノックアウトバキュロウイルスである。さらに他の好ましい実施形態では、バキュロウイルスは、カテプシン-L及びキチナーゼの両方に対する二重ノックアウトである。昆虫細胞発現系で高レベルの発現が得られる場合がある。昆虫細胞の非限定的な例は、Spodoptera frugiperda(Sf)細胞、例えばSf9、Sf21、Trichoplusia ni細胞、例えば、High Five細胞、及びDrosophila S2細胞である。好ましくは、細胞は、Sf9細胞またはその誘導体である。
【0034】
典型的なトランスフェクション及び細胞増殖法を使用して、細胞を培養することができる。ベクター、例えば融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターは、当該技術分野において周知の方法にしたがって宿主細胞にトランスフェクトすることができる。例えば、真核細胞への核酸の導入は、リン酸カルシウム共沈、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、リポフェクション、及びポリアミントランスフェクション試薬を使用したトランスフェクションによって実現することができる。
【0035】
宿主細胞を増殖させる方法としては、バッチ、バッチフェッド(batch-fed)、連続及び灌流細胞培養技術が挙げられるが、これらに限定されない。細胞培養とは、細胞が、精製及び単離のためタンパク質(例えば、組換えタンパク質)を増殖及び発現する、バイオリアクター(発酵チャンバー)での細胞の成長及び増殖を意味する。典型的には、細胞培養は、バイオリアクターにおいて無菌の制御された温度及び大気条件下で行われる。バイオリアクターは、温度、雰囲気、攪拌、及び/またはpHなどの環境条件をモニターすることができる、細胞を培養するために使用されるチャンバーである。一実施形態では、バイオリアクターは、ステンレス鋼チャンバーである。別の実施形態では、バイオリアクターは、予め滅菌されたプラスチックバッグ(例えば、Cellbag(登録商標),Wave Biotech,Bridgewater,N.J.)である。他の実施形態では、予め滅菌されたプラスチックバッグは、約50L~3500Lのバッグである。
【0036】
ナノ粒子の洗浄剤抽出及び精製
宿主細胞の増殖後、洗浄剤及び精製プロトコルを使用して、タンパク質を宿主細胞から収集することができる。宿主細胞を48~96時間増殖させると、細胞を培地から単離し、洗浄剤含有溶液を添加して細胞膜を可溶化し、洗浄剤抽出物にタンパク質を放出させる。Triton X-100、及びNP-9としても知られているテルギトールは、それぞれ抽出に適した洗浄剤である。洗浄剤は、約0.1%~約1.0%の最終濃度まで添加され得る。例えば、濃度は、約0.1%、約0.2%、約0.3%、約0.5%、約0.7%、約0.8%、または約1.0%であり得る。ある特定の実施形態では、範囲は、約0.1%~約0.3%であり得る。好ましくは、濃度は約0.5%である。
【0037】
他の態様では、宿主細胞からタンパク質を単離するために、異なる第1の洗浄剤が使用され得る。例えば、第1の洗浄剤は、ビス(ポリエチレングリコールビス[イミダゾイルカルボニル])、ノノキシノール-9、ビス(ポリエチレングリコールビス[イミダゾイルカルボニル])、Brij(登録商標)35、Brij(登録商標)56、Brij(登録商標)72、Brij(登録商標)76、Brij(登録商標)92V、Brij(登録商標)97、Brij(登録商標)58P、Cremophor(登録商標)EL、デカエチレングリコールモノドデシルエーテル、N-デカノイル-N-メチルグルカミン、n-デシルα-Dグルコピラノシド、デシルβ-D-マルトピラノシド、n-ドデカノイル-N-メチルグルカミド、nドデシルα-D-マルトシド、n-ドデシルβ-D-マルトシド、n-ドデシルβ-D-マルトシド、ヘプタエチレングリコールモノデシルエーテル、ヘプタエチレングリコールモノドデシルエーテル、ヘプタエチレングリコールモノテトラデシルエーテル、n-ヘキサデシルβ-D-マルトシド、ヘキサエチレングリコールモノドデシルエーテル、ヘキサエチレングリコールモノヘキサデシルエーテル、ヘキサエチレングリコールモノオクタデシルエーテル、ヘキサエチレングリコールモノテトラデシルエーテル、イゲパルCA-630、イゲパルCA-630、メチル-6-0-(N-ヘプチルカルバモイル)-α-D-グルコピラノシド、ノナエチレングリコールモノドデシルエーテル、N-ノナノイル-N-メチルグルカミン、N-ノナノイルN-メチルグルカミン、オクタエチレングリコールモノデシルエーテル、オクタエチレングリコールモノドデシルエーテル、オクタエチレングリコールモノヘキサデシルエーテル、オクタエチレングリコールモノオクタデシルエーテル、オクタエチレングリコールモノテトラデシルエーテル、オクチル-β-Dグルコピラノシド、ペンタエチレングリコールモノデシルエーテル、ペンタエチレングリコールモノドデシルエーテル、ペンタエチレングリコールモノヘキサデシルエーテル、ペンタエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ペンタエチレングリコールモノオクタデシルエーテル、ペンタエチレングリコールモノオクチルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールエーテルW-1、ポリオキシエチレン10トリデシルエーテル、ポリオキシエチレン100ステアレート、ポリオキシエチレン20イソヘキサデシルエーテル、ポリオキシエチレン20オレイルエーテル、ポリオキシエチレン40ステアレート、ポリオキシエチレン50ステアレート、ポリオキシエチレン8ステアレート、ポリオキシエチレンビス(イミダゾリルカルボニル)、ポリオキシエチレン25プロピレングリコールステアレート、Quillaja樹皮のサポニン、Span(登録商標)20、Span(登録商標)40、Span(登録商標)60、Span(登録商標)65、Span(登録商標)80、Span(登録商標)85、Tergitol15-S-12型、Tergitol15-S-30型、Tergitol15-S-5型、Tergitol15-S-7型、Tergitol15-S-9型、TergitolNP-10型、TergitolNP-4型、TergitolNP-40型、Tergitol、NP-7型 TergitolNP-9型、TergitolTMN-10型、TergitolTMN-6型、Triton X-100、またはその組み合わせであり得る。
【0038】
次に、ナノ粒子は、遠心分離を使用して細胞破片から単離することができる。いくつかの実施形態では、例えば、塩化セシウム、スクロース、及びイオジキサノールなどを使用する勾配遠心分離を使用してもよい。例えば、イオン交換、アフィニティー、及びゲルろ過クロマトグラフィーを含む標準的な精製技術など、他の技術を代替としてまたは追加で使用してもよい。
【0039】
例えば、第1のカラムは、イオン交換クロマトグラフィー樹脂、例えばFractogel(登録商標)EMD TMAE(EMD Millipore)、第2のカラムは、レンズマメ(Lens culinaris)レクチンアフィニティー樹脂、第3のカラムは、カチオン交換カラム、例えばFractogel(登録商標)EMD SO3(EMD Millipore)樹脂であり得る。他の態様では、カチオン交換カラムは、MMCカラムまたはNuvia C Primeカラム(Bio-Rad Laboratories,Inc)であり得る。好ましくは、本明細書に開示された方法は、例えば、疎水性相互作用カラムなどの洗浄剤抽出カラムを使用しない。このようなカラムは、精製中に洗浄剤を除去するためによく使用されるが、本明細書に開示されている方法に悪影響を与える可能性がある。
【0040】
洗浄剤交換
洗浄剤コアナノ粒子を形成するために、宿主細胞からタンパク質を抽出するために使用される第1の洗浄剤は、ナノ粒子構造に到達するために実質的に第2の洗浄剤に置き換えられる。NP-9は好ましい抽出洗浄剤である。典型的には、HPLCによって測定した場合、ナノ粒子は検出可能なNP-9を含まない。第2の洗浄剤は、典型的には、PS20、PS40、PS60、PS65、及びPS80からなる群から選択される。好ましくは、第2の洗浄剤はPS80である。
【0041】
特定の態様では、洗浄剤交換は、それらの炭水化物部分を介して糖タンパク質に結合するアフィニティークロマトグラフィーを使用して行われる。例えば、アフィニティークロマトグラフィーはマメ科レクチンカラムを使用してもよい。マメ科レクチンは、元は植物で同定されたタンパク質であり、炭水化物残基と特異的かつ可逆的に相互作用することが判明している。例えば、Sharon and Lis,“Legume lectins--a large family of homologous proteins,”FASEB J.1990 Nov;4(14):3198-208、Liener,“The Lectins:Properties,Functions,and Applications in Biology and Medicine,”Elsevier,2012を参照のこと。適切なレクチンには、コンカナバリンA(con A)、エンドウマメレクチン、イガマメレクチン、レンズマメレクチンが挙げられる。レンズマメレクチンは、その結合特性により、洗浄剤交換に適したカラムである。レクチンカラムは市販されており、例えば、Capto Lentil LectinはGE Healthcareから入手可能である。ある特定の態様では、レンズマメレクチンカラムは、組換えレクチンを使用し得る。分子レベルでは、炭水化物部分がレンズマメレクチンに結合し、タンパク質のアミノ酸が遊離して洗浄剤の周りで合体し、洗浄剤コアを形成して抗原の複数のコピーを有するナノ粒子、例えば、洗浄剤に固定された二量体、三量体、または四量体であり得る糖タンパク質オリゴマー、をもたらすと考えられる。
【0042】
洗浄剤は、タンパク質とインキュベートして洗浄剤交換中にナノ粒子を形成する場合、初期の精製工程中に最大約0.1%(w/v)存在し得る。
【0043】
典型的には、インフルエンザ洗浄剤コアナノ粒子は、一価の単一株生成物として個別に調製される。例えば、非イオン性洗浄剤(例えば、PS80)は、約0.03%~約0.5%であり得る。特定の態様では、一価の原薬は、A280により測定した約1.5mg/mLのタンパク質及び約0.12%のPS80を含み得、モル比は約40:1になる。特に四価の組成物では、タンパク質濃度は、一元放射免疫拡散アッセイ(SRID)で測定すると約0.48mg/mLであり得、計算量のPS80は約0.04%である。
【0044】
洗浄剤交換は、上記のように精製されたタンパク質を用いて行われ得、精製され、保管のために凍結され、その後、洗浄剤交換のために解凍され得る。
【0045】
HaSMaNの形成
本明細書に開示されたHaSMaNは、洗浄剤コアナノ粒子を、サポニン画分、コレステロール、及びリン脂質を含むISCOMマトリックスアジュバントとインキュベートすることによって生成される。
【0046】
典型的には、4℃または25℃で約24~48時間のインキュベーションが形成に必要である。HaSMaNの形成は、高温によって促進される。図33及び35を参照のこと。したがって、特定の態様では、HaSMaNの形成は、約25℃で少なくとも24時間のインキュベーションによって発生する。対象に投与する直前に(すなわち、ベッドサイドミックス)、洗浄剤コアナノ粒子をISCOMマトリックスアジュバントと混合すると、HaSMaNは生成されない。インキュベーション期間がより長くても、HaSMaNの形成には悪影響を及ぼさない。
【0047】
ナノ粒子インフルエンザHAタンパク質
インフルエンザ抗原として使用されるHA糖タンパク質は、任意のインフルエンザウイルス株に由来し得る。ヒトインフルエンザA型及びB型ウイルスは、米国ではほぼ毎冬、病気の季節的流行を引き起こす。A型インフルエンザウイルスは、ウイルスの表面にある2つのタンパク質(赤血球凝集素(HA)及びノイラミニダーゼ(NA))に基づいてサブタイプに分類される。
【0048】
HAタンパク質は、サブタイプH1、H2、H3、H4、H5、H6、H7、H8、H9、H10、H11、H12、H13、H14、H15、H16、H17、及びH18から選択することができる。系統発生的に、インフルエンザはグループに分けられる。HAの場合、グループ1にはH1、H2、H5、H6、H8、H9、H11、H12、H13、H16、H17、及びH18が含まれ、グループ2にはH3、H4、H7、H10、H14、及びH15が含まれる。
【0049】
ある特定の態様では、インフルエンザナノ粒子は、中性pH精製を使用して生成されたトリプシン耐性ナノ粒子である。トリプシン耐性は、HAナノ粒子の精製及び製剤化中に、6.9~8.5超の中性pH範囲によって達成される。トリプシン耐性インフルエンザ糖タンパク質及びトリプシン耐性インフルエンザナノ粒子、ならびにそれらを作製する方法は、あらゆる目的のためにその全体が本明細書に参照として組み込まれる米国特許出願第15/819,962号に詳細に記述される。
【0050】
改変抗原
典型的には、抗原は完全長の野生型配列であるが、抗原は野生型抗原の変種または変異体であり得る。ある特定の態様では、抗原は、開示された抗原と共通の同一性を有する場合があり、例えば、同一性パーセントは、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、または少なくとも98%であり得る。同一性パーセントは、www.ebi.ac.uk/Tools/msa/clustalw2/で入手可能なアライメントプログラムClustalW2を使用して計算することができる。次のデフォルトパラメータは、ペアワイズアライメントのために使用してもよい:タンパク質重量マトリックス=Gonnet、ギャップ開始=10、ギャップ伸長=0.1。
【0051】
他のバリアントを使用してもよい。HAはホモ三量体であり、各単量体は、約550アミノ酸残基からなる。HAの各単量体は概念的には3つのドメインに分割される:約515残基の外部ドメインは分子のウイルス外部分を構成し、27残基の単一ストレッチは膜貫通(TM)ドメインを定義し、約10残基は細胞質尾部(CT)を構成する。いくつかの変更を抗原に行うことができるが、洗浄剤コアナノ粒子及びHaSMaNの両方の形成は、インタクトな膜貫通ドメイン(TM)を必要とする。したがって、特定の例では、改変HAタンパク質配列は、TM及びCTドメイン全体で100%の同一性(すなわち、野生型)を含み、残りの外部ドメイン部分はある程度の柔軟性を有し、その同一性は少なくとも90%または少なくとも95%であり得る。ドメインは、Melikyan et al.(Mol Biol Cell.1999 Jun;10(6):1821-1836)の図1に示されているJapan/305/57HAのTMドメイン及びCTのアミノ酸配列に対する相同性によって同定され得るが、エクトドメイン、TM、及びCTドメイン間の境界は、HAタンパク質毎に最大3アミノ酸異なる場合があると言う点に留意すべきである。
【0052】
ワクチンの安定性
有利には、開示されたナノ粒子インフルエンザワクチン製剤は安定であり、長期保管に適している。本明細書で提供される製剤は、共製剤戦略(すなわち、抗原及びマトリックスアジュバントが投与前にあらかじめ十分に組み合わされる場合、例えば、プレフィルドシリンジにおいて)に特に適している可能性がある。本明細書中に開示するように、共製剤インフルエンザワクチン戦略は、臨床診療に利点をもたらす可能性があり、現在使用されているベッドサイドミックス製剤に対して費用対効果の高い代替法となり得る。
【0053】
いくつかの実施形態では、共製剤化されたワクチン組成物中のインフルエンザ抗原は、組成物が最大12ヶ月間保管された場合に安定している。ワクチン組成物は、2~8℃で保管することができるが、それらは25℃で優れた安定性を示す。
【0054】
プレミックス(共製剤)製剤の安定性は、当技術分野で知られている方法及びプロトコルによって評価することができる。安定性は、ワクチン抗原の分解レベル及びワクチンの免疫原性によって測定可能である。安定性は、ワクチン中のウイルス抗原の熱安定性を評価することによって調べることができる。
【0055】
室温(25℃)での長期にわたるワクチン製剤の安定性は、特にコールドチェーンの流通及び保管が制限される可能性がある地域では、費用対効果の高いワクチン戦略に有利である。ワクチンの安定性を評価するためのWHOのガイドラインで述べられているように、製造、流通、及び保管中の温度管理網は、ワクチンの有効性を保証するために重要である(“Guidelines on the stability evaluation of vaccines for use in a controlled temperature chain、www.who.int/biologicals/WHO_CTC_first_draft_22_Dec_2014_amended.pdfにて入手可能)。
【0056】
理論に束縛されるものではないが、HaSMaN構造は、共製剤化されたワクチン製剤の安定性に寄与し得ると考えられている。(マトリックスアジュバントの存在下での熱安定性が高いことを示す図36を参照のこと、すなわちHaSMaN粒子が洗浄剤コアのみの製剤よりも安定性が高いことを示す)。洗浄剤コアナノ粒子をマトリックスMと混合してHaSMaNを提供すると、洗浄剤コアナノ粒子のみを含むワクチン組成物と比較して、約0.5℃~約1.0℃(示差走査熱量測定により測定)増加したワクチン組成物が得られる。
【0057】
この改善された熱安定性は、ワクチンの保存期間に貢献する。特定の態様では、ワクチン製剤は、最大6ヶ月間、または最大12ヶ月間安定であり得る。2~8℃で12ヶ月保管した後の試験試料に対するHAI力価が新たに調製した試料と統計的に異ならない場合、及び2~8℃で12ヶ月保管した後、一元放射免疫拡散(SRID)アッセイにより少なくとも約70%の値が得られる場合、試験試料は本開示の文脈において「安定」であると見なされる。HAI力価測定の統計的有意性の分析は、以下の方法で行った。幾何平均力価(GMT)及び関連する95%信頼区間(CI)を、群毎に計算した。HAIによるlog10変換力価測定値の平均を、JMP13ソフトウェアでTukey HSD分析を使用して群間で比較した。p値<0.05は、2つの比較群間の統計的に有意な差を示す。
【0058】
ワクチン組成物
本明細書に開示された組成物は、予防的または治療的に使用され得る。本開示は、インフルエンザウイルスの感染を防止するための方法を含む。本方法は、本開示の免疫原性組成物の治療量または予防量を対象に投与することを含む。好ましくは、医薬組成物は、保護効果を提供するワクチン組成物である。態様では、保護効果は、曝露された集団の割合における感染に関連する症状の改善を含み得る。例えば、組成物は、治療されていない対象と比較して、発熱疲労、筋肉痛、頭痛、及び喉の痛みから選択される1つまたは複数のインフルエンザ症状を予防または軽減することができる。
【0059】
ワクチン組成物は、様々な賦形剤、薬学的に許容される緩衝剤などを含み得る。例えば、ワクチン組成物中の薬学的に許容される緩衝剤は、リン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、ヒスチジン、アルギニン塩酸塩、及びトレハロースの1つまたは複数を含み得る。リン酸ナトリウムは、約10mM~約50mM、約15mM~約30mMで存在し得る。特定の場合では、約25mMのリン酸ナトリウムが存在する。ヒスチジンは、約0.1%(w/v)~約2.5%(w/v)の範囲で存在し得る、例えば、ヒスチジンは、約0.1%(w/v)、約0.5%(w/v)、約0.7%(w/v)、約1%(w/v)、約1.5%(w/v)、約2%(w/v)、または約2.5%(w/v)で存在し得る。
【0060】
塩化ナトリウムは、約50mM~約300mMの範囲であり得る。典型的には、塩化ナトリウムは、組成物中に存在する場合、約150mMである。
【0061】
アルギニン塩酸塩は、約50mM~約200mM、約80mM~約150mM、または約100mM~約180mMで存在し得る。特定の場合では、約100mMのアルギニン塩酸塩が存在する。
【0062】
トレハロースは約1%~約10%の範囲、例えば、約1%、約2%、約3%、約4%、約5%、約6%、約7%、約8%、約9%、または約10%で存在し得る。
【0063】
インフルエンザワクチン組成物のpH範囲は、典型的には中性に近く、精製中及び組成物中でpH 6.9超に維持される。例えば、緩衝剤及び組成物のpHは、約pH7.2~約pH7.8、より好ましくは約7.2~約7.5であり得る。特定の態様では、pHは約pH7.5である。HA構造の安定性に悪影響を与えるため、6.9未満のpHレベルは選択しない。
【0064】
アジュバント
ある特定の実施形態では、本明細書に開示された組成物は、免疫応答を増強するために1つまたは複数のアジュバントと組み合わせることができる。他の実施形態では、組成物は、アジュバントなしで調製され、したがって、アジュバントを含まない組成物として投与するために利用可能である。
【0065】
特定の組成物の免疫原性は、アジュバントとして知られている免疫応答の非特異的刺激物質の使用によって強化することができる。有効量のアジュバントは、抗原に対する免疫の一般的な増加を促進するために長い間使用されてきた(例えば、米国特許第4,877,611号)。免疫化プロトコルは、長年にわたって応答を刺激するためにアジュバントを使用しており、そのため、アジュバントは当業者によく知られている。いくつかのアジュバントは、抗原が提示される方法に影響を与える。例えば、ミョウバンによってタンパク質抗原が沈殿すると、免疫応答が増加する。抗原の乳化は、抗原提示の期間も延長する。本明細書において、あらゆる目的のためにその全体が参照により組み込まれる、Vogel et al.,“A Compendium of Vaccine Adjuvants and Excipients(2nd Edition)”に記載の任意のアジュバントを含めることは、本開示の範囲内であると想定される。
【0066】
様々なアジュバントが含まれ得るが、HaSMaNはISCOMマトリックスアジュバントを使用して生成され、これは対象への投与後、そのアジュバント有効活性を保持する。したがって、いくつかの態様では、追加のアジュバントは製剤に添加されない可能性がある。上記のように、この製剤化アプローチは、抗原とアジュバントとのベッドサイドでの混合を必要とせずに、ワクチンを含むプレフィルドシリンジの調製を可能にする。
【0067】
マトリックス用のサポニンアジュバント
ISCOMマトリックスは、サポニン画分を使用して調製される。サポニンは、Quillaja saponaria Molinaの木の樹皮に由来するグリコシドである。典型的には、サポニンは、複数の画分をもたらす多段階精製プロセスを使用して調製される。本明細書において使用される場合、「Quillaja saponaria Molina由来のサポニン画分」は、Quillaja saponariaの半精製もしくは定められたサポニン画分またはその実質的に純粋な画分について説明するために一般的に使用される。
【0068】
サポニン画分
サポニン画分を生成するためのいくつかのアプローチが、好適である。画分A、B、及びCが、米国特許第6,352,697号に記載され、以下のように調製され得る。Quillaja saponaria Molinaの粗水抽出液であるQuil A由来の親油性画分をクロマトグラフィーにより分離し、70%のアセトニトリル水溶液で溶出して親油性画分を回収する。次に、この親油性画分を、酸性水に溶解した25%~60%のアセトニトリルの勾配を使用して溶出する、セミ分取HPLCにより分離する。本明細書において「画分A」または「QH-A」と呼ばれる画分は、約39%のアセトニトリルで溶出される画分であるか、またはそれに相当する。本明細書において「画分B」または「QH-B」と呼ばれる画分は、約47%のアセトニトリルで溶出される画分であるか、またはそれに相当する。本明細書において「画分C」または「QH-C」と呼ばれる画分は、約49%のアセトニトリルで溶出される画分であるか、またはそれに相当する。画分の精製に関する追加の情報は、米国特許第5,057,540号に見出される。本明細書に記載されるように調製される場合、Quillaja saponaria Molinaの画分A、B、及びCはそれぞれ、定義可能な特性を有する化学的に密接に関連する分子のグループまたはファミリーを表す。それらが得られるクロマトグラフィー条件は、溶出プロファイル及び生物学的活性の観点からバッチ間再現性が非常に一貫しているものであった。
【0069】
他のサポニン画分について記載されている。画分B3、B4及びB4bはEP0436620に記載されている。画分QA1~QA22は、EP03632279 B2に記載されている、Q-VAC(Nor-Feed,AS Denmark)、Quillaja saponaria Molina Spikoside(lsconova AB,Ultunaallen 2B,756 51 Uppsala,Sweden)。EP03632279 B2の画分QA-1、QA-2、QA-3、QA-4、QA-5、QA-6、QA-7、QA-8、QA-9、QA-10、QA-11、QA-12、QA-13、QA-14、QA-15、QA-16、QA-17、QA-18、QA-19、QA-20、QA-21、及びQA-22、特にQA-7、QA-17、QA-18、及びQA-21が使用され得る。それらは、EP03632279 B2、特に6ページ、ならびに8及び9ページの実施例1に記載されているように得られる。
【0070】
本明細書に記載された、アジュバントを形成するために使用されるサポニン画分は、実質的に純粋な画分であることが多く、すなわち、画分は他の物質からの汚染を実質的に含まない。特定の態様では、実質的に純粋なサポニン画分は、他の化合物、例えば他のサポニンまたは他のアジュバント物質などの最大40重量%、最大30重量%、最大25重量%、最大20重量%、最大15重量%、最大10重量%、最大7重量%、最大5重量%、最大2重量%、最大1重量%、最大0.5重量%、または最大0.1重量%を含み得る。
【0071】
他のサポニン画分、例えばQS-7及びQS-21画分は、それらの製造及びそれらの使用が、米国特許第5,057,540号、同第6,231,859号、同第6,352,697号、同第6,524,584号、同第6,846,489号、同第7,776,343号、及び同第8,173,141号に記載されている。これらの画分は、本明細書に開示された方法及び組成物において使用され得る。
【0072】
マトリックス粒子
本明細書に開示されたマトリックス粒子アジュバントは、HaSMaNを生成するために使用され得るか、またはそれらのアジュバント特性のための個別の粒子として使用され得る。ISCOMマトリックスは、少なくとも1つのサポニン画分及び脂質を含む。脂質は少なくともコレステロールなどのステロールである。特定の態様では、脂質はリン脂質である。ISCOMマトリックス複合体はまた、1つまたは複数の他の免疫調節(アジュバント活性)物質を含み得、必ずしもグリコシドである必要はなく、EP0436620B1に記載されるように生成され得る。
【0073】
サポニン画分は、Quillaja saponariaの画分A、画分B、または画分C、Quillaja saponariaの半精製調製物、Quillaja saponariaの精製調製物、または任意の精製副画分、例えばQA 1-21であり得る。
【0074】
マトリックス粒子はサポニン画分の混合物を含んでもよく、または粒子は1つのサポニン画分のみを使用して形成されてもよい。本明細書に開示された組成物は、各粒子が1つのみのサポニン画分を含む複数の粒子を含み得る。すなわち、特定の組成物には、1つ以上の異なる種類のISCOMマトリックスが含まれ得、各個別の粒子にはQuillaja saponaria Molina由来の1つのサポニン画分が含まれ、1つの粒子のサポニン画分は、他の複合粒子のサポニン画分とは異なる。
【0075】
特定の態様では、1つの種類のサポニン画分または粗サポニン画分を1つのISCOMマトリックス粒子に統合し得、別の種類の実質的に純粋なサポニン画分または粗サポニン画分を別のISCOMマトリックス粒子に統合することができる。組成物またはワクチンは、物理的に異なる粒子に組み込まれた1つの種類のサポニンをそれぞれが有する少なくとも2つの種類の複合体または粒子を含み得る。
【0076】
組成物では、ISCOMマトリックス粒子の混合物を使用することができ、1つのサポニン画分Quillaja saponaria Molina及び別のサポニン画分Quillaja saponaria Molinaは、異なるISCOMマトリックス複合粒子及び/またはISCOM複合粒子に別々に組み込まれている。
【0077】
それぞれが1つのサポニン画分を有するISCOMマトリックスは、任意の組み合わせの重量%で組成物に存在し得る。特定の態様では、組成物は、第1のサポニン画分を含むISCOMマトリックスの0.1重量%~99.9重量%、5重量%~95重量%、10重量%~90重量%、15重量%~85重量%、20重量%~80重量%、25重量%~75重量%、30重量%~70重量%、35重量%~65重量%、40重量%~60重量%、45重量%~55重量%、40~60重量%、または50重量%と、異なるサポニン画分を含むISCOMマトリックスによって構成される残りの部分を含み得る。いくつかの態様では、残りの部分は、1つのみのサポニン画分を含む1つまたは複数のISCOMマトリックス粒子である。他の態様では、ISCOMマトリックス粒子は、2つ以上のサポニン画分を含み得る。
【0078】
好ましい組成物では、第1のISCOMマトリックス中のサポニン画分は画分A(「画分Aマトリックス」)であり、第2のISCOMマトリックスまたはISCOM複合粒子中のサポニン画分は画分C(「画分Cマトリックス」)である。したがって、好ましい組成物は、アジュバントとして、画分Aマトリックスアジュバント及び画分Cマトリックスアジュバントを含む。組成物中の各マトリックスの量は変化し得る。例えば、画分Aマトリックスの量は、約80%(w/w)、約85%(w/w)、約90%(w/w)、約92%(w/w)、または約95%(w/w)と残りの画分Cマトリックスであり得る。適切な85:15画分Aマトリックスと画分Cマトリックスの組み合わせ(本明細書ではマトリックスMまたはマトリックスM1と呼ばれる)の例は、マトリックス-M(商標)としてNovavax AB,Uppsala,Swedenから入手することができる。
【0079】
いくつかの態様では、マトリックス-Mは、本明細書に提供される組成物におけるアジュバントとして使用され得る。いくつかの態様では、本明細書で提供されるナノ粒子インフルエンザワクチン組成物における唯一のアジュバントとしてマトリックス-Mが使用され得る。
【0080】
いくつかの実施形態では、投与される用量あたりのマトリックス-Mの量は、約20μg~約140μg、例えば約20μg、約30μg、約40μg、約50μg、約60μg、約70μg、約75μg、約80μg、約90μg、約100μg、約110μg、約120μg、約130μg、または約140μgの範囲であり得る。特定の態様では、アジュバントは約50μg~約75μgで存在し得る。
【0081】
その他のアジュバント
例示的なアジュバントには、完全フロイントアジュバント(殺されたMycobacterium tuberculosisを含む免疫応答の非特異的刺激物質)、不完全フロイントアジュバント、及び水酸化アルミニウムアジュバントが挙げられる。他のアジュバントは、GMCSP、BCG、MDP化合物、例えばthur-MDP及びnor-MDP、CGP(MTP-PE)、脂質A、及びモノホスホリル脂質A(MPL)、MF-59、RIBI(細菌から抽出された3つの成分、2%スクアレン/Tween(登録商標)80エマルション中のMPL、トレハロースジミコレート(TDM)、及び細胞壁骨格(CWS)が含まれる)を含む。他の好ましい態様では、ミョウバン、例えば2%のアルヒドロゲル(Al(OH))を使用する。いくつかの態様では、アジュバントは、少ラメラ(paucilamellar)脂質小胞、例えば、Novasomes(登録商標)であり得る。Novasomes(登録商標)は、約100nm~約500nmの範囲にある少ラメラ非リン脂質小胞である。それらは、Brij 72、コレステロール、オレイン酸、及びスクアレンを含む。Novasomesは、有効なアジュバントであることが示されている(米国特許第5,629,021号、第6,387,373号、及び第4,911,928号を参照のこと)。
【0082】
ナノ粒子ワクチン組成物の投与及び用量
本明細書に開示された組成物は、全身経路もしくは粘膜経路もしくは経皮経路を介して、または特定の組織に直接投与され得る。本明細書において使用される場合、「全身投与」という用語は、非経口経路による投与が含まれる。具体的には、非経口投与には、皮下、腹腔内、静脈内、筋肉内、または胸骨内注射が含まれる。典型的には、組成物は筋肉内注射により投与される。特定の態様では、組成物は粘膜投与され得る。本明細書において使用される場合、「粘膜投与」という用語は、経口、鼻腔内、膣内、直腸内、及び気管内を含む。
【0083】
組成物は、それを必要とする対象、典型的にはヒトに投与され得る。
【0084】
組成物は、単回投与スケジュールまたは複数回投与スケジュールで投与され得る。複数回投与は、一次免疫スケジュールまたは追加免疫スケジュールで使用してもよい。複数回投与スケジュールでは、様々な用量が、同じまたは異なる経路、例えば、非経口プライム及び粘膜ブースト、粘膜プライム及び非経口ブーストなどによって与えられ得る。いくつかの態様では、追加のブースト投与は、前の投与の約2週間、約3週間、約4週間、約5週間、または約6週間後に投与される。
【0085】
いくつかの実施形態では、四価インフルエンザワクチン組成物中の4つの株のうちの少なくとも1つの株はA型株である。例えば、四価インフルエンザワクチンは、3つのA型株と1つのB型株を含むことができる。
【0086】
ワクチン組成物中のインフルエンザHAの総量は、約25μg~約200μg、約30μg~約150μg、約50μg~約100μg、約45μg~約180μg、約60μg~約190μg、または約100μg~約200μgの範囲であり得る。ある特定の実施形態では、ワクチン組成物中のインフルエンザHAタンパク質の量は、株あたり約5μg~株あたり約80μg、株あたり約10μg~株あたり約75μg、株あたり約15μg~株あたり約70μg、株あたり約20μg~株あたり約65μg、株あたり約25μg~株あたり約60μg、株あたり約30μg~株あたり約55μg、株あたり約35μg~株あたり50μg、株あたり約15μg~株あたり約60μgの範囲であり得る。有利には、組成物は最大9~12ヶ月の安定性を示しており、SRIDで測定した場合、残存量が初期量のかなりの割合、例えば、初期量の少なくとも約70%、少なくとも約75%、または少なくとも約80%である。
【0087】
いくつかの実施形態では、本開示は、ナノ粒子インフルエンザワクチン組成物のための共製剤(すなわち、プレフィルドシリンジまたはプレミックス)戦略を提供する。現在利用されている典型的なインフルエンザワクチンの投与戦略は、ベッドサイドミックス製剤である。すなわち、ワクチン組成物及びアジュバントは別々に保管され、投与前に混合される。インフルエンザワクチンのプレミックス、共製剤、またはプレフィルドシリンジ戦略は、インフルエンザ抗原の安定性及びその後の免疫原性能力が懸念されるため、あまり一般的ではない。本開示は、プレミックスし、事前に保管することができるナノ粒子インフルエンザワクチン組成物を提供する。開示されたワクチン接種戦略及び製剤は、全体的な安全性及び免疫原性を維持しながら、ワクチン接種の効率を改善し、ベッドサイドでの混合エラーのリスクを軽減する可能性がある。
【0088】
ナノ粒子インフルエンザワクチンの免疫原性
本開示は、インフルエンザ感染を予防する方法を提供する。本明細書に開示されたナノ粒子インフルエンザワクチンの免疫原性は、HAIアッセイの実施を含む適切なアプローチを使用して、または中和抗体を測定することによって決定され得る。いくつかの実施形態では、ナノ粒子インフルエンザワクチンの免疫原性は、市販のインフルエンザワクチン組成物と比較され得る。本明細書において使用される場合、「市販のインフルエンザワクチン組成物」は、医学的使用に利用可能な任意のインフルエンザワクチン組成物であり得る。例えば、市販のインフルエンザワクチン組成物は、三価または四価の注射のために製剤化され得る。いくつかの態様では、注射用の製剤は、ウイルスの不活化形態を含むことができる。別の例では、市販のインフルエンザワクチン組成物は、鼻スプレー用に製剤化され得る。いくつかの態様では、鼻スプレー用の製剤は、弱毒化または弱めた形態のウイルスを含むことができる。
【0089】
本明細書に開示された組成物は、他のワクチン、特にAfluria Quadrivalent、Fluarix Quadrivalent、FluLaval Quadrivalent、Fluzone Quadrivalent、Flucelvax Quadrivalent、Fluzone Intradermal Quadrivalent、Afluria、Fluvirin、Fluad、Fluzone High-Dose、Flublok Quadrivalent、Flublok、及びFluMist Quadrivalentを含む市販されているワクチンと比較して、非劣性免疫応答を提供する。
【0090】
有利には、本明細書に開示された組成物は、同じインフルエンザのサブタイプ内のウイルスにおいて使用される配列と比較してドリフトした(すなわち、わずかな変異を受けた)株に結合する中和抗体を誘導する。特定の態様では、組成物において使用される株の1つ、2つ、3つ、4つ、または全てが、1つのドリフト株、2つのドリフト株、3つのドリフト株、4つのドリフト株、または5つのドリフト株に対する中和抗体を誘導する。理論に束縛されるものではないが、組成物中のマトリックスアジュバントの存在により、追加の抗原の曝露が促進され、ドリフトした株に対する幅広い保護がもたらされると考えられている。同様に、マトリックスアジュバントとサブタイプA HAタンパク質とのインキュベーション後のHaSMaNの形成は、このプロセスに寄与すると考えられている。
【0091】
重要なことに、HaSMaNは、少なくとも洗浄剤コアナノ粒子と同じくらい免疫原性がある。例えば、下の表6に示すように、1.5μgプレミックス製剤の35日目におけるA/Michiganに対するHAI力価は、25℃で約538であったが、1.5μgベッドサイドミックス製剤のA/Michiganに対するHAI力価は、25℃で約453であった。表8に示す別の例では、1.5μgプレミックス製剤の35日目におけるA/Hong Kongに対するHAI力価は、25℃で約538であったが、1.5μgベッドサイドミックス製剤のA/Michiganに対するHAI力価は、-60℃で約494であった。プレミックス製剤及びベッドサイドミックス製剤中の同様の免疫原性は、プレミックス製剤が室温で安定であることをさらに示唆している。加えて、室温で保管した本プレミックス製剤は、驚くべきことに、-60℃でインキュベートしたベッドサイドミックス製剤と比較して同様の免疫原性を有することができる。
【0092】
容器
単回投与用のシリンジ及びプラスチック製アンプルを含む、様々な容器を使用してプレミックス製剤を保管及び輸送することができる。場合によっては、プラスチック製アンプルは、ブローフィルシール製造技術または方法を使用して製造することができる。一般に、ブローフィルシール(BFS)製造方法は、プラスチック材料(例えば、樹脂)を押し出してパリソンを形成し、次にそれを型に入れて所定のサイズに切断することを含む。次に、充填針またはマンドレルを使用してプラスチックを膨張させ、これにより金型の形状に実質的に適合する中空アンプルが得られる。膨張したら、所望の量の液体をアンプルに注入し、充填針またはマンドレルを取り外し、アンプルを密封することができる。したがって、BFSは、人が直接介入することなく、無菌環境で実施することができる自動化されたプロセスであり得る。
【0093】
場合によっては、所望の液体を含む無菌アンプルを無菌で製造する能力により、BFSで製造されたアンプルが製薬産業に特に最適なものとなる。しかしながら、BFS技術は、全ての薬液、薬物などに適合するわけではない。例えば、いくつかの既知のBFS製造方法は、プラスチックがまだ比較的熱い間にアンプルに液体または製品を供給することを含み、これは温度に敏感な液体及び/または製品、例えばワクチン、生物学的製剤に悪影響が生じる可能性がある。しかしながら、冷却BFS技術の進歩によって、適切な製品、液体などの種類が増え、一部のワクチン、生物学的製剤、及び/またはその他の温度に敏感な医薬品をBFSアンプルに収容することが可能となった。
【0094】
場合によっては、BFSアンプルは、アンプルが含有するように構成された、所望の使用及び/または所望の薬液もしくは用量に少なくとも部分的に基づいたサイズ、形状、及び/または構造を有することができる。例えば、いくつかの既知のBFSアンプルは、ピアススルートップ、ツイストオフトップ、オスもしくはメスのルアーを含むトップ、及び/またはその他を含むことができる。いくつかの既知のBFSアンプルは、その中に配置されるように構成された液体の体積または用量に基づいたサイズ及び/または形状を有することができる。加えて、いくつかの既知のBFSアンプルは、一時的に接続された複数のアンプルのストリップで製造でき、これは製造、パッケージング、及び/または保管効率、及び/またはその他を向上させることができる。
【0095】
本開示に引用される全ての特許、特許出願、参考文献、及びジャーナル論文は、その全体があらゆる目的のために参照により本明細書に明示的に援用される。
【実施例
【0096】
実施例1:HAナノ粒子の精製
単一株由来のHAタンパク質は、バキュロウイルス感染を介してSf9細胞で発現され、回収前に48~96時間増殖させた。次に、HAタンパク質を洗浄剤抽出により回収し、精製中に洗浄剤コアナノ粒子に変えた。簡潔に述べると、TMAEカラムは、25mM Tris、pH8.0、1.5M塩化ナトリウム、0.02% NP9で構成される緩衝剤で事前に平衡化した。試料を90cm/時以下で添加し(24分の滞留時間)、次いでEQ緩衝剤(25mM Tris、pH8.0、50mM塩化ナトリウムまたは81mM塩化ナトリウム(それぞれA、B株に)、0.02%NP-9)で洗浄した。精製した試料は、次いで1.5CV EQ緩衝剤を使用して溶出した。
【0097】
A株の場合、TMAEカラムから、生成物にナノろ過を行った後、3CVのために25mM Tris、50mM及び107mM塩化ナトリウム(それぞれA及びB株に)、0.02%(w/v)NP-9、pH8.0で構成される緩衝剤で事前に平衡化したレンズマメレクチンアフィニティークロマトグラフィーカラムに適用した(流速:150cm/時)。試料は4分の滞留時間に添加した。添加後、3CVのレンズマメレクチン平衡化緩衝剤で洗浄を行った。生成物は、25mMリン酸ナトリウム、pH7.5、200mM塩化ナトリウム、500mMメチル-α-D-マンノピラノシド、0.01%(w/v)PS80、pH7.5によって、75cm/時及び8分の滞留時間で2CV分を収集することにより、溶出した。
【0098】
B株の場合、TMAEカラム生成物をCapto Blueカラムを使用してさらに精製した。カラムを25mM Tris、pH8.0、107mM塩化ナトリウム、0.02%(w/v)NP-9で平衡化した後、TMAE生成物を225cm/時の流速で4分の滞留時間で添加し、2CVの平衡化緩衝剤で収集した。Capto Blueカラムから、生成物にナノろ過を行った後、3CVのために25mM Tris、50mM及び107mM塩化ナトリウム(それぞれA及びB株に)、0.02%(w/v)NP-9、pH8.0で構成される緩衝剤で事前に平衡化したレンズマメレクチンアフィニティークロマトグラフィーカラムに適用した(流速:150cm/時)。試料は4分の滞留時間に添加した。添加後、3CVのレンズマメレクチン平衡化緩衝剤で洗浄を行った。生成物は、25mMリン酸ナトリウム、pH7.5、200mM塩化ナトリウム、500mMメチル-α-D-マンノピラノシド、0.01%(w/v)PS80、pH7.5によって、75cm/時及び8分の滞留時間で2CV分を収集することにより、溶出した。
【0099】
A株及びB株の両方のレンズマメレクチン生成物は、標的HA濃度になるように濃縮され、その後、緩衝剤を最終的な原薬の製剤緩衝剤に交換した。濃縮及び緩衝剤交換は、限外ろ過及び透析ろ過によって行った。
【0100】
実施例2:SDS PAGE分析
プレフィルドシリンジにおいてQuad-NIV及びISCOMマトリックスアジュバント(マトリックスM)を共製剤化する安定性を評価するため、及びそのようなワクチンの物理的、化学的、及び生物学的特性を理解するために、以下の表1に示すように製剤を調製した。試験したワクチン組成物を3つの群:(1)HA抗原のみを含むガラス製ベッドサイドバイアル、(2)マトリックスM1と共製剤化したHAワクチン抗原を含むプレフィルドシリンジ(PFS)、及び(3)HAワクチン抗原を含有するPFS、に割り当てた。ベッドサイドミックス及びPFS用のガラス製バイアルは市販のもの(Schott)を購入した。
【表1】
【0101】
図2は、4℃で保管されたベッドサイドバイアル、または4℃で保管されたマトリックスM1を含有もしくは非含有のプレフィルドシリンジ(PFS)、のタンパク質のバンドを示す還元SDS-PAGEゲル画像を示す。試験した全ての時点において、PFSのタンパク質のバンドパターンは、ベッドサイドバイアルのタンパク質のバンドパターンと類似しており、PFSのタンパク質がベッドサイドバイアルのタンパク質と少なくとも同じくらい安定していたことを示す。マトリックスMの有無は、PFS群間のバンドパターンを変化させず、6ヶ月間または12ヶ月間の保管も変化させなかった。LDベッドサイドバイアル群及びLD PFS群も4℃で一貫して類似のバンドパターンを示したが、LD群は同じ時点でHDコホートと比較してバンドパターンが弱かった。
【0102】
図3は、非還元SDS-PAGEゲル及び還元SDS-PAGEゲルで調べた、4℃で保管されたPFSまたはベッドサイドバイアルのタンパク質のバンドパターンを示す。結果は、非還元ゲル上でもタンパク質のバンドパターンが全ての群で類似していたことを示し、さらにPFSのタンパク質はゼロ時点でのベッドサイドバイアルのタンパク質と類似していたことを示す。
【0103】
加えて、4℃または25℃で3ヶ月保管された、ベッドサイドバイアル群及びマトリックスMを含有または非含有のPFS群のタンパク質安定性を、非還元SDS-PAGEアッセイを使用して調査した(図4)。より高い分子量のバンドは、より低い温度(例えば、4℃)で保管された群と比較して、より高い温度(25℃)で保管された群の一部に現れる傾向があった。タンパク質のより強い発現は、より低温で保管された群でも観察された。結果は、PFSのタンパク質が、長期保管(例えば3ヶ月間の保管)の後でも、ベッドサイドバイアルのタンパク質と少なくとも同じくらい安定していたことを示す。
【0104】
これらのデータは、PFS共製剤ワクチン戦略が安定性に関して実現可能であることを示している。4℃及び25℃の両方でのPFS共製剤ワクチンの保管が実現可能である。マトリックスM1の存在及び保管期間(例えば3ヶ月間)はワクチン製剤の安定性に悪影響を及ぼさず、HaSMaNの形成が長期間にわたるタンパク質の安定性を妨げないことが確認された。
【0105】
実施例3:SRID分析
タンパク質の安定性は、PFS群において製剤化された様々なインフルエンザA株及びB株に対してSRIDアッセイを実施することによって試験した。SRIDアッセイは、2~8℃(例えば、4℃)で、T=0、2週間、1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、9ヶ月、12ヶ月、25℃でT=0、2週間、1ヶ月、3ヶ月、及び6ヶ月間実施した。図5及び6は、2~8℃(図5)及び25℃(図6)での、100μg/mLのマトリックスMを含有または非含有の、A/Hong Kong、A/Michigan、B/Brisbane、またはB/Phuketを含む120μg/mLのPFS製剤のSRIDデータを示す。
【0106】
マトリックスM含有PFSのSRID免疫応答性の結果は、マトリックスM非含有PFSのSRID免疫応答性の結果と同様か、またはそれより優れていた。データは、25℃での保管時の経時的な免疫応答性の一般的な傾向が、4℃で観察された結果と著しく異ならないことを示す。ワクチンの免疫応答性に顕著な変化がないことは、Quad-NIV PFS製剤が少なくとも最大6ヶ月間、様々な温度で安定していることを示す。室温(25℃)でのQuad-NIV PFS製剤の安定性は、PFS製剤が長期の冷蔵を必要としない、または低温での取り扱いに限定されるため、費用効果の高いワクチン戦略を有利に提供する。これらのデータはさらに、診療所でのワクチン接種のかなり前に、安定したプレミックスワクチン(インフルエンザ抗原及びマトリックスMを含む)の大量生産が実現可能なアプローチであることを示す。
【0107】
実施例4:フェレットにおけるQuad-NIV及び市販インフルエンザワクチンの比較免疫原性試験
フェレット研究は、市販のインフルエンザワクチンと様々な試験ワクチン戦略(ベッドサイド及び共製剤)の免疫原性を比較するために実施した。
【表2-1】

【表2-2】

*-各B株の用量は90μgで、各A株の用量は60μgであった。
#-図7~10に示される結果は、42日目に対応する。
【0108】
Quad-NIV製剤の場合、A/Michigan/45/2015-H1N1株、A/Hong Kong/4801/2014-H3N2株、B/Brisbane/60/2008株、B/Phuket/3073/2013株を使用した。Fluzone HD(TIV;Sanofi Pasteur)の場合、A/Michigan/45/2015-H1N1、A/HongKong/4801/2014-H3N2、及びB/Brisbane/60/2008を使用した。Fluzone HD(QIV;Sanofi Pasteur)の場合、A/Michigan/45/2015-H1N1、A/HongKong/4801/2014-H3N2、B/Brisbane/60/2008、及びB/Phuket/3073/2013を使用した。Fluad(TIV;Seqirus)の場合、A/Singapore/GP1908/2015(A/Michigan/45/2015-H1N1様)、A/HongKong/4801/2014-H3N2、及びB/Brisbane/60/2008を使用した。Flublok(QIV;Protein Sciences)の場合、A/Michigan/45/2015-H1N1、A/HongKong/4801/2014-H3N2、B/Brisbane/60/2008、及びB/Phuket/3073/2013を使用した。Flucelvax(QIV;Seqirus)の場合、A/Singapore/GP1908/2015(A/Michigan/45/2015-H1N1様)、A/Singapore/GP2050/2015(A/Hong Kong/4801/2014-H3N2様)、B/Hong Kong/259/2010(B/Brisbane/60/08様)、及びB/Utah/9/2014(B/Phuket/3073/2013様)を使用した。
【0109】
フェレットは、研究の0日目と21日目に免疫した。研究開始前日、研究の21日目及び42日目に採血した。フェレットで試験した製剤の免疫原性を評価するために、ヒト赤血球を使用してHAIアッセイを実施した。実験プロトコルは、当技術分野で知られており、上記で考察されている。以下のHAI試薬を、VLPフォームの基準インフルエンザ抗原としてアッセイに使用した:(1)A/Michigan 45/15(BV#001)、(2)A/HongKong/4801/14(BV#1808)、(3)B/Bris/60/08(BV#714)、(4)B/Phuket/3073/13(BV#1659)、(5)A/Switzerland/9715293/13(BV#1660)、(6)A/Singapore/2016(BV#2165)、(7)A/Texas/50/2012(BV#1324)、(8)A/Victoria/36/11(BV#1577)、及び(9)A/Perth/16/09。インフルエンザ抗原VLPを作製する方法は、例えば、本明細書において、あらゆる目的のためにその全体が参照により組み込まれる、米国特許出願第15/901,000号に記載されている。
【0110】
全ての市販のインフルエンザワクチンは、投与計画、製剤の種類(すなわち、ベッドサイド及び共製剤)に関係なく、マトリックスMの存在下では、全てのQuad-NIV製剤と比較してHAI力価が低かった。図7(A/Hong Kong/4801-2014)、図8(A/Michigan/45/2015)、図9(B/Brisbane/60/2008)、及び図10(B/Phuket/3073/2013)を参照のこと。
【0111】
要約すると、Quad-NIV製剤は、市販のワクチンと比較して、本明細書に開示されている全ての試験したインフルエンザ株について、フェレットにおいてより強力な免疫原性効果を引き出すことができる一方で、その違いは、製剤にマトリックスMが含まれている場合に顕著である。HaSMaNを含むQuad-NIV共製剤(プレミックス)は、Quad-NIVベッドサイド製剤と比較して同様の免疫原性を示した。共製剤群の中で、4℃及び25℃で保管された製剤は、一般に非常に類似した免疫原性を示した。
【0112】
実施例5:4℃で保管された四価ナノ粒子インフルエンザワクチンの免疫原性評価
表3は、プレミックスPFSワクチン製剤及びベッドサイドミックスワクチンの免疫原性及び安定性を調査するためのマウス研究デザインを示す。PFS製剤は4℃で3ヶ月間保管した。ベッドサイドミックスワクチンの場合、ウイルス抗原は-60℃で3ヶ月保管され、投与直前にマトリックスMアジュバントと混合した。
【表3】
【0113】
0日目と21日目に筋肉内投与で免疫化した。免疫原性分析のために、研究開始前日、及び再度、研究の42日目(または2回目の免疫後21日目)に血液試料を採取した。免疫原性は、次のインフルエンザA及びB株:(1)A/Hong Kong/4801/2014、(2)A/Michigan/45/2015、(3)B/Brisbane/60/2008、及び(4)B/Phuket/3073/2013に対する赤血球凝集抑制(HAI)応答に基づいて決定した。HAIは、それらの開示の参照により組み込まれる、インフルエンザの実験室診断及びウイルス学的監視のためのマニュアル(世界保健機関2011、2018/02/15にアクセスした:www.who.int/influenza/gisrs_laboratory/manual_diagnosis_surveillance_influenza/en/)に記載のように測定される。
【0114】
図11は、表3に列挙された製剤の3ヶ月目における全てのHD群の4つのインフルエンザ株に対するHAI力価を示す。結果は、4℃で3ヶ月間保管されたプレミックス製剤が、-60℃で保管されたベッドサイドミックス製剤と比較して同様の免疫原性能力を有していたことを示す。結果は、さらにプレミックス製剤が3ヶ月などの長期間保存された場合でも、マトリックスMが試験したQuad-NIV製剤の免疫原性を変化させないことも示す。
【0115】
実施例6:マトリックスMを含有する、プレミックス対ベッドサイドミックスHAナノ粒子の25℃での免疫原性及び長期安定性
以下の表4に示すように、群1~14を準備した。プレミックス群の場合、HAナノ粒子及びマトリックスM(画分Aマトリックスと画分Cマトリックスが85:15w/w)を組み合わせ、投与前に4℃で6ヶ月間もしくは12ヶ月間、または25℃で6ヶ月間保管した。ベッドサイドミックス群の場合、HAを25℃で保管するか、-60℃で6ヶ月間凍結するか、または-60℃で12ヶ月間凍結し、その後、マウスへの投与直前にマトリックスMと組み合わせた。HAタンパク質ナノ粒子は、以下の株A/Michigan H1N1、A/Hong Kong-H3N2 B/Brisbane、及びB/PhuketのHAを含んだ。
【表4-1】

【表4-2】

1高用量:120μg/mL/株(480μg全HA)+100μg/mLマトリックス。
2低用量:30μg/mL/株HA(120μg全HA)+100μg/mLマトリックス。
312ヶ月の安定性研究には、25℃で保管された試料は含まなかった。
【0116】
4つの株のそれぞれに対してHAI力価を測定した。図12~19及び表5~12は、6ヶ月目のHD及びLD群のA/Hong Kong、A/Michigan、B/Brisbane、及びB/Phuket株に対するHAI力価を示す。
【表5】

【表6】

【表7】

【表8】

【表9】

【表10】

【表11】

【表12】
【0117】
図20~27は、12ヶ月目での高用量(HD)及び低用量(LD)群のA/Hong Kong株、A/Michigan株、B/Brisbane株、及びB/Phuket株に対するHAI力価を示す。
【0118】
データは、ベッドサイドミックスワクチン及びプレミックスワクチンが、HAI力価の測定により、6ヶ月または12ヶ月の保管後であってもマウスにおいて同様の免疫原性を生み出すことを示す。研究はまた、マトリックスMの存在がより大きな免疫応答を生成するために有益であることを確認した。マトリックスMは、長期間保管した場合でも、試験したQuad-NIV製剤の免疫原性を変化させない。
【0119】
25℃でのプレミックス製剤は、25℃でのベッドサイドミックス製剤と比較して同様の免疫原性を示した。例えば、4℃または25℃で保管された1.5μgのプレミックス群は、21日目にA/Michigan株に対して同様のHAI力価応答を誘発した(表5、それぞれGMT:57対67)。25℃で長期間保管されたプレミックス製剤の安定性と合わせて、ワクチンは、コールドチェーン保管が制限されているか、または存在しない場合に特に有用である。
【0120】
図12~27に示すデータは、高用量群、特にプレミックス製剤が、21日目の全ての株で低用量群と比較してより高いHAI力価応答があったことを示す。35日目のHAI力価応答は、21日目に観察されたHAI力価応答と比較して全ての株の全群において高かったが(例えば、21日目対35日目における25℃での1.5μgプレミックス製剤のA/Hong Kong HAI力価:22対538)、35日目の高用量群と低用量群の間にわずかな違いが観察された。
【0121】
データは、A型のHAタンパク質と形成されたHaSMaN粒子が、HaSMaN形態ではない洗浄剤コアを有するHAナノ粒子と少なくとも同じくらい免疫応答を誘導するのに効果的であることを確認している。データは、HaSMaNを形成するためのHAナノ粒子とマトリックスとの相互作用が、マトリックスのアジュバント効果またはHAタンパク質自体の免疫原性に悪影響を与えないことを示している。HAナノ粒子は、洗浄剤コアへの挿入によりHAタンパク質の安定性を維持しているように見えるが、このデータは、HaSMaN粒子がHAタンパク質構造をある程度保護し得、また、洗浄剤コアに埋め込まれたHAタンパク質を必要とせずに、免疫系への提示にプラスの影響を与える可能性があることを示唆している。
【0122】
実施例7:沈降係数分析
実施例6においてマウスでの安定性について以前に試験された四価組成物を、超遠心分析(AUC)によって分析し、沈降速度(SV)を測定して、粒子サイズを決定した。図28は、4℃で0、3ヶ月、6ヶ月、9ヶ月、及び12ヶ月でのQuad-NIV 120μg/mL/株のみ(QIVのみ)の結果、または4℃で3ヶ月、6ヶ月、9ヶ月、及び12ヶ月でのQIV+100μg/mL M1の結果を示す。データは、時間が経過するにつれて、急速に沈降する種の量が増加していることを示す、すなわち、より高い値で現れる構造はHA粒子が時間の経過とともにHaSMaNへと形成されることを示す。図29は、25℃で0、3ヶ月、または6ヶ月目の単独、または100μg/mLのM1を含有するQuad-NIVの結果を示し、HaSMaNの形成が高温で速いことが確認された。
【0123】
実施例8:HaSMaNの形成の透過型電子顕微鏡(TEM)分析
前述したように、図1は、TEMを使用して見た、HAナノ粒子(Flu)、マトリックスM、及びHaSMaN(Flu-マトリックス相互作用)の様々な構造を示す。予想通り、HAナノ粒子にはHaSMaNの形成がなかった。むしろ、HAナノ粒子は、洗浄剤コア構造とコアを囲んでいるHAタンパク質を示す。マトリックスMは、サポニン画分(画分Aまたは画分Cのいずれかであり、両方ではない)、リン脂質、及びコレステロールを含むかご型構造を示す。HaSMaN構造では、HA糖タンパク質は、かご型のマトリックス粒子に付着しており、そのHAヘッド部分は外側に伸びている。
【0124】
次に、様々な条件下でのHaSMaNの形成を視覚的に評価するために、TEM下で以下に説明する様々な試料の時間経過を確認した。以下の表13は、TEMを使用してプレミックスQuad-NIV製剤(高用量はHD及び低用量はLD)のナノ粒子構造を試験するための試料条件及び時点を示す。マーク「X」は、各時点で使用可能な試料条件を示している。加えて、LD製剤を1ヶ月で様々な温度下で試験した(図35)。
【0125】
図30図34は、HaSMaN構造の代表的画像を示す。データは、HaSMaN形成が約4時間のインキュベーションで視認できることを示し、4時間以前にHaSMaN形成の形跡はない(図30及び図31)。24時間までに、HaSMaNは低温(4℃)及び高温(25℃)の両方で形成されたが、HaSMaNの形成は4℃の高用量Quad-NIVでは観察されなかった。高用量Quad-NIVは、4℃で、48時間までに(図33)及び7日目までに(図34)、HaSMaN形成を示す。データはまた、1ヶ月までにHaSMaN構造がLD群に留まり、高温、特に37℃でより顕著になったことを示す(図35)。
【表13】

マトリックスM濃度:全試料において100μg/mL
【0126】
これらのデータは、HaSMaNの形成には、HAナノ粒子とマトリックスM1の約4時間以上の共インキュベーションが必要であることを示す。全ての条件は、48時間以内のHaSMaNの形成を示している。形成されたHaSMaN粒子は長期間安定である。HaSMaNの形成は、Quad-NIVの温度が高く、用量が少ないほど早く発達する。
【0127】
このことは、HaSMaNを含むプレフィルドシリンジ製剤を、室温以上(例えば、37℃)で保存できることを示唆し、これにより低温での保管及び輸送のコストを回避し、診療所でのワクチン接種の直前におけるワクチンの混合及び調製の不一致の可能性を防ぐ。
【0128】
実施例9
Quad-NIVの示差走査熱量測定(DSC)プロファイル
実施例6及び7に記載されているQuad-NIV製剤の安定性をDSCアッセイによって調査した。100μg/mLのマトリックスM1を含有する120μg/mL/株のQuad-NIVは、pH7.5で、25mM NaPi、150mM NaCl、100mMアルギニン、5%トレハロース、0.03% PS80を含む緩衝剤で調製した。全てのQuad-NIV試料は、4℃で3ヶ月、6ヶ月、もしくは12ヶ月間、または25℃で3ヶ月もしくは6ヶ月間インキュベートした。DSCスキャンを4℃~120℃まで1℃/分で実施し、Quad-NIVのモル熱容量(Cp:kJ/mol.k)を測定した。
【0129】
図36は、25℃でインキュベートした製剤が、4℃でインキュベートした同じ群よりも融解温度(T)のシフトが小さく、ピーク幅が広いことを示している。表14は、25℃でインキュベートした120μg/mL/株のQuad-NIV+マトリックスM1製剤が、3ヶ月(59.6℃対60.4℃)及び6ヶ月(59.0℃対60.4℃)目の両方において4℃よりも低いTだった。表14は、25℃での製剤が4℃よりもピーク温度に到達するのに必要なHcalの変化が少ないことも示しており、これは、この製剤のHaSMaN複合体が比較的少ないことをさらに示唆している。
【0130】
DSCプロファイル及びTは、タンパク質の熱安定性の尺度である。結果は、HaSMaNの形成が、HAタンパク質のTを約0.5℃から約1℃増加させ、それにより、洗浄剤コアナノ粒子と比較して、HaSMaNにおけるHAタンパク質の熱安定性を向上させることを示している。
【表14】
【0131】
実施例10:B型株ではなくA型株がHaSMaNを形成する
異なるインフルエンザ株由来のHA糖タンパク質がHaSMaNを形成する能力を調査した。以下の株について、実施例1に記載されるように洗浄剤コアナノ粒子を調製及び精製した:A型:A/Hunan、A/Guangdong(両方ともH7N9サブタイプ)及びA/Panama及びA/Hong Kong/4801/2014(両方ともH3N2サブタイプ)、ならびにB型:B/Brisbane/60/2008。
【0132】
最大4週間、ナノ粒子をマトリックスMと混合した(画分Aマトリックスと画分Cマトリックスが85:15w/w)。最終的なHA濃度は120μg/mLであった(0.5mL中、各A株60μg+各B株60μg)。遊離nHAを測定した。結果を図37に示す。遊離nHA種の減少はHaSMaN形成に対応する。
【0133】
これらのデータは、A型株HA糖タンパク質がHaSMaNを形成するが、B型株HA糖タンパク質は形成しないことを示唆している。また、C末端にフォールドンを有するHA糖タンパク質融合タンパク質も試験した。フォールドンの存在はHaSMaN形成を阻害しており、これはHA糖タンパク質がHaSMaNを形成できるように、C末端が自由でなければならないことを示している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
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図21
図22
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図24
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図26
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図28
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図30
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図32
図33
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図37