(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-10
(45)【発行日】2024-01-18
(54)【発明の名称】マスクブランクスおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 1/58 20120101AFI20240111BHJP
G03F 1/32 20120101ALI20240111BHJP
【FI】
G03F1/58
G03F1/32
(21)【出願番号】P 2021209369
(22)【出願日】2021-12-23
【審査請求日】2022-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000101710
【氏名又は名称】アルバック成膜株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】中畦 修
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 寿弘
(72)【発明者】
【氏名】磯崎 達也
(72)【発明者】
【氏名】金井 修一郎
【審査官】小林 幹
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-043307(JP,A)
【文献】特開2014-053576(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00-1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板と、
前記透明基板の表面に積層されたマスク層を備えるマスクブランクスであって、
前記マスク層が、NとCとOとCrとを含有するとともに、最表面におけるOの組成比が65~72atm%の範囲とされ
、
前記マスク層が、Crを含有する遮光層と、前記遮光層に積層されたCrを含有する中間層と、前記中間層に積層されたCrを含有する上中層と、前記上中層に積層されたCrを含有する表層と、
を有し、
前記表層がOとNとCとを含有し、
前記表層におけるCrの組成比が21~25atm%の範囲とされ、
前記表層におけるNの組成比が1~5atm%の範囲とされ、
前記表層におけるCの組成比が4~6atm%の範囲とされる、
ことを特徴とするマスクブランクス。
【請求項2】
前記マスク層の
前記表層におけるOの組成比が最表面から前記透明基板に近接する厚さ方向に65~72atm%(上面)から35~45atm%(下面)へと傾斜している、
ことを特徴とする請求項1記載のマスクブランクス。
【請求項3】
前記表層
において、酸素窒素組成比:O/(N+O)が、0.9~0.98の範囲に設定される、
ことを特徴とする請求項2記載のマスクブランクス。
【請求項4】
前記マスク層において、前記表層よりも前記透明基板に近接する
前記上中層がOを含有し、 前記上中層におけるOの組成比が、前記表層におけるOの組成比よりも低い値を有する、
ことを特徴とする請求項2または3記載のマスクブランクス。
【請求項5】
前記マスク層の前記上中層よりも前記透明基板に近接する
前記中間層がOを含有し、
前記上中層におけるOの組成比が、前記中間層の表面におけるOの組成比よりも低い値を有する、
ことを特徴とする請求項4記載のマスクブランクス。
【請求項6】
前記マスク層におけるクロム含有層に対するエッチング速度が、
前記上中層 < 前記中間層 < 前記表層 < 前記遮光層
の順となる、
ことを特徴とする請求項
1記載のマスクブランクス。
【請求項7】
前記中間層および前記上中層がOを含有し、
前記上中層におけるOの組成比が、前記中間層のOの組成比と前記表層のOの組成比との間の値を有する、
ことを特徴とする請求項
1または
3記載のマスクブランクス。
【請求項8】
前記中間層および前記上中層がNを含有し、
前記上中層におけるNの組成比が、前記中間層のNの組成比と前記表層のNの組成比との間の値を有する、
ことを特徴とする請求項
6または
7記載のマスクブランクス。
【請求項9】
前記中間層および前記上中層がCを含有し、
前記上中層におけるCの組成比が、前記中間層のCの組成比と前記表層のCの組成比との間の値を有する、
ことを特徴とする請求項
6から
8のいずれか記載のマスクブランクス。
【請求項10】
前記上中層がOとNとCとを含有し、
前記上中層におけるCrの組成比が45~52atm%の範囲とされ、
前記上中層におけるOの組成比が15~25atm%の範囲とされ、
前記上中層におけるNの組成比が15~25atm%の範囲とされ、
前記上中層におけるCの組成比が5~15atm%の範囲とされる、
ことを特徴とする請求項
6から
9のいずれか記載のマスクブランクス。
【請求項11】
前記中間層がOとNとCとを含有し、
前記中間層におけるCrの組成比が45~52atm%の範囲とされ、
前記中間層におけるOの組成比が10~20atm%の範囲とされ、
前記中間層におけるNの組成比が15~25atm%の範囲とされ、
前記中間層におけるCの組成比が10~20atm%の範囲とされる、
ことを特徴とする請求項
6から
10のいずれか記載のマスクブランクス。
【請求項12】
前記遮光層がOとNとCとを含有し、
前記遮光層におけるCrの組成比が30~40atm%の範囲とされ、
前記遮光層におけるOの組成比が25~35atm%の範囲とされ、
前記遮光層におけるNの組成比が14~24atm%の範囲とされ、
前記遮光層におけるCの組成比が11~21atm%の範囲とされる、
ことを特徴とする請求項
6から
11のいずれか記載のマスクブランクス。
【請求項13】
請求項1記載のマスクブランクスの製造方法であって、
前記透明基板にCrを含有する前記マスク層をスパッタリングにより形成するマスク層形成工程を有し、
前記マスク層形成工程において、Crを含有するターゲットを用い、
スパッタリングにおける供給ガスとして、酸素含有ガスとしてCO
2を含むガスを用いて前記マスク層の表面付近を形成する、
ことを特徴とするマスクブランクスの製造方法。
【請求項14】
前記マスク層形成工程において、
スパッタリングにおける供給ガスとして、窒素含有ガスとしてNOを含むガスを用いて前記マスク層の表面付近を形成する、
ことを特徴とする請求項
13記載のマスクブランクスの製造方法。
【請求項15】
前記マスク層形成工程において、
スパッタリングにおける供給ガスとして、炭素含有ガスとしてCH
4を含むガスを用いて前記マスク層の表面付近を形成する、
ことを特徴とする請求項
13記載のマスクブランクスの製造方法。
【請求項16】
請求項2記載のマスクブランクスの製造方法であって、
前記表層を形成する表層形成工程において、Crを含有するターゲットを用い、
スパッタリングにおける供給ガスとして、Arの供給量を変化させて傾斜したOの組成比を有する前記表層を形成する、
ことを特徴とするマスクブランクスの製造方法。
【請求項17】
前記表層形成工程において、
スパッタリングにおける供給ガスとして、Ar、CH
4、NO、CO
2を含むガスを用いて前記表層を形成する、
ことを特徴とする請求項
16記載のマスクブランクスの製造方法。
【請求項18】
請求項4記載のマスクブランクスの製造方法であって、
前記上中層を形成する上中層形成工程において、Crを含有するターゲットを用い、 スパッタリングにおける供給ガスとして、Ar、CH
4、NOを含むガスを用いて前記上中層を形成する、
ことを特徴とするマスクブランクスの製造方法。
【請求項19】
請求項5記載のマスクブランクスの製造方法であって、
前記中間層を形成する中間層形成工程において、Crを含有するターゲットを用い、 スパッタリングにおける供給ガスとして、Ar、N
2を含むガスを用いて前記中間層を形成する、
ことを特徴とするマスクブランクスの製造方法。
【請求項20】
請求項
1記載のマスクブランクスの製造方法であって、
前記表層を形成する表層形成工程と、
前記上中層を形成する上中層形成工程と、
前記中間層を形成する中間層形成工程と、
前記遮光層を形成する遮光層形成工程と、
を有し、
前記遮光層形成工程において、Crを含有するターゲットを用い、
スパッタリングにおける供給ガスとして、Ar、N
2、CO
2を含むガスを用いて前記遮光層を形成する、
ことを特徴とするマスクブランクスの製造方法。
【請求項21】
前記中間層形成工程におけるスパッタリング供給電力が、前記遮光層形成工程、前記上中層形成工程、前記表層形成工程におけるスパッタリング供給電力よりも高く設定されることを特徴とする請求項
20記載のマスクブランクスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマスクブランクスおよびその製造方法に関し、特にクロム層を有するマスクブランクスに用いて好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイなどのFPD(flat panel display,フラットパネルディスプレイ)や半導体デバイス等の製造におけるフォトリソグラフィ工程では、パネルや素子寸法の高精細化が大きく進行しており、それに伴いフォトマスクの微細化も進展している。そのため、従来から、遮光膜を用いたバイナリーマスク、エッヂ強調型の位相シフトマスク、半透過性のハーフトーンマスクを用いている。
【0003】
このようなフォトマスクを製造するためには、たとえばクロムを含有するマスク層を有するマスクブランクスが用いられている。
【0004】
近年、半導体デバイスの高精細化にともなって、KrF、液浸ArFなどのエキシマレーザを用いたパターン形成がおこなわれている。
また、マスクブランクスを酸、アルカリ、オゾン等の薬品により処理する工程が含まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、高精細化、パターンの微細化により、パターン形成の正確性の向上が求められているが、従来の技術では、これにともなうマスク層の耐薬性が充分ではないという問題がある。特に、耐薬性が充分でないと、光学濃度(OD値:Optical Density)等の膜特性が変化してしまうという不具合が発生する。
また、マスク層とレジスト層との密着性向上、積層されたマスク層と下層との密着性の向上が要求されている。しかも、これらの問題解決および要求を同時に満たしたいという要求がある。
さらに、レジスト層の薄厚化、エッチング速度の増大化のために、エッチング時のさらなる選択比の向上の実現が望まれている。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、以下の目的を達成しようとするものである。
1.クロムを含有するマスク層に充分な耐薬性を持たせること。
2.クロムを含有するマスク層のエッチング速度を向上すること。
3.クロムを含有するマスク層と、その上層であるレジスト層との密着性を向上すること。
4.クロムを含有するマスク層と下層との密着性を向上すること。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のマスクブランクスは、
透明基板と、
前記透明基板の表面に積層されたマスク層を備えるマスクブランクスであって、
前記マスク層が、NとCとOとCrとを含有するとともに、最表面におけるOの組成比が65~72atm%の範囲とされ、
前記マスク層が、Crを含有する遮光層と、前記遮光層に積層されたCrを含有する中間層と、前記中間層に積層されたCrを含有する上中層と、前記上中層に積層されたCrを含有する表層と、
を有し、
前記表層がOとNとCとを含有し、
前記表層におけるCrの組成比が21~25atm%の範囲とされ、
前記表層におけるNの組成比が1~5atm%の範囲とされ、
前記表層におけるCの組成比が4~6atm%の範囲とされる、
ことにより上記課題を解決した。
本発明のマスクブランクスは、
前記マスク層の前記表層におけるOの組成比が最表面から前記透明基板に近接する厚さ方向に65~72atm%(上面)から35~45atm%(下面)へと傾斜している、
ことができる。
本発明のマスクブランクスは、
前記表層において、酸素窒素組成比:O/(N+O)が、0.9~0.98の範囲に設定される、
ことができる。
本発明のマスクブランクスは、
前記マスク層において、前記表層よりも前記透明基板に近接する前記上中層がOを含有し、 前記上中層におけるOの組成比が、前記表層におけるOの組成比よりも低い値を有する、
ことができる。
本発明のマスクブランクスは、
前記マスク層の前記上中層よりも前記透明基板に近接する前記中間層がOを含有し、
前記上中層におけるOの組成比が、前記中間層の表面におけるOの組成比よりも低い値を有する、
ことができる。
本発明のマスクブランクスは、
前記透明基板と、
前記透明基板の表面に積層された前記マスク層を備えるマスクブランクスであって、 前記マスク層が、Crを含有する前記遮光層と、前記遮光層に積層されたCrを含有する前記中間層と、前記中間層に積層されたCrを含有する前記上中層と、前記上中層に積層されたCrを含有する前記表層と、
を有し、
前記表層がOとNとCとを含有し、
前記表層におけるCrの組成比が21~(23)~25atm%の範囲とされ、
前記表層におけるOの組成比が72~(70)~65atm%の範囲とされ、
前記表層におけるNの組成比が1~(2)~5atm%の範囲とされ、
前記表層におけるCの組成比が4~(5)~6atm%の範囲とされる、
ことができる。
本発明のマスクブランクスは、
前記マスク層におけるクロム含有層に対するエッチャントによるエッチング速度が、 前記上中層 < 前記中間層 < 前記表層 < 前記遮光層
の順となる、
ことができる。
本発明のマスクブランクスは、
前記中間層および前記上中層がOを含有し、
前記上中層におけるOの組成比が、前記中間層のOの組成比と前記表層のOの組成比との間の値を有する、
ことができる。
本発明のマスクブランクスは、
前記中間層および前記上中層がNを含有し、
前記上中層におけるNの組成比が、前記中間層のNの組成比と前記表層のNの組成比との間の値を有する、
ことができる。
本発明のマスクブランクスは、
前記中間層および前記上中層がCを含有し、
前記上中層におけるCの組成比が、前記中間層のCの組成比と前記表層のCの組成比との間の値を有する、
ことができる。
本発明のマスクブランクスは、
前記上中層がOとNとCとを含有し、
前記上中層におけるCrの組成比が45~(50)~52atm%の範囲とされ、
前記上中層におけるOの組成比が15~(20)~25atm%の範囲とされ、
前記上中層におけるNの組成比が15~(20)~25atm%の範囲とされ、
前記上中層におけるCの組成比が5~(10)~15atm%の範囲とされる、
ことができる。
本発明のマスクブランクスは、
前記中間層がOとNとCとを含有し、
前記中間層におけるCrの組成比が45~(50)~52atm%の範囲とされ、
前記中間層におけるOの組成比が10~(15)~20atm%の範囲とされ、
前記中間層におけるNの組成比が15~(20)~25atm%の範囲とされ、
前記中間層におけるCの組成比が10~(15)~20atm%の範囲とされる、
ことができる。
本発明のマスクブランクスは、
前記遮光層がOとNとCとを含有し、
前記遮光層におけるCrの組成比が30~(35)~40atm%の範囲とされ、
前記遮光層におけるOの組成比が25~(30)~35atm%の範囲とされ、
前記遮光層におけるNの組成比が14~(19)~24atm%の範囲とされ、
前記遮光層におけるCの組成比が11~(16)~21atm%の範囲とされる、
ことができる。
本発明のマスクブランクスは、
前記遮光層、前記中間層、前記上中層、前記表層の膜厚比が、29:1:3:11~33:2:6:13である、
ことができる。
本発明のマスクブランクスの製造方法は、
上記のマスクブランクスの製造方法であって、
前記透明基板にCrを含有する前記マスク層をスパッタリングにより形成するマスク層形成工程を有し、
前記マスク層形成工程において、Crを含有するターゲットを用い、
スパッタリングにおける供給ガスとして、酸素含有ガスとしてCO2を含むガスを用いて前記マスク層の表面付近を形成する、
ことができる。
本発明のマスクブランクスの製造方法は、
前記マスク層形成工程において、
スパッタリングにおける供給ガスとして、窒素含有ガスとしてNOを含むガスを用いて前記マスク層の表面付近を形成する、
ことができる。
本発明のマスクブランクスの製造方法は、
前記マスク層形成工程において、
スパッタリングにおける供給ガスとして、炭素含有ガスとしてCH4を含むガスを用いて前記マスク層の表面付近を形成する、
ことができる。
本発明のマスクブランクスの製造方法は、
上記のマスクブランクスの製造方法であって、
前記表層を形成する表層形成工程において、Crを含有するターゲットを用い、
スパッタリングにおける供給ガスとして、Arの供給量を変化させて傾斜したOの組成比を有する前記表層を形成する、
ことができる。
本発明のマスクブランクスの製造方法は、
前記表層形成工程において、
スパッタリングにおける供給ガスとして、Ar、CH4、NO、CO2を含むガスを用いて前記表層を形成する、
ことができる。
本発明のマスクブランクスの製造方法は、
上記のマスクブランクスの製造方法であって、
前記上中層を形成する上中層形成工程において、Crを含有するターゲットを用い、 スパッタリングにおける供給ガスとして、Ar、CH4、NOを含むガスを用いて前記上中層を形成する、
ことができる。
本発明のマスクブランクスの製造方法は、
上記のマスクブランクスの製造方法であって、
前記中間層を形成する中間層形成工程において、Crを含有するターゲットを用い、 スパッタリングにおける供給ガスとして、Ar、N2を含むガスを用いて前記中間層を形成する、
ことができる。
本発明のマスクブランクスの製造方法は、
上記のマスクブランクスの製造方法であって、
前記表層を形成する表層形成工程と、
前記上中層を形成する上中層形成工程と、
前記中間層を形成する中間層形成工程と、
前記遮光層を形成する遮光層形成工程と、
を有し、
前記遮光層形成工程において、Crを含有するターゲットを用い、
スパッタリングにおける供給ガスとして、Ar、N2、CO2を含むガスを用いて前記遮光層を形成する、
ことができる。
本発明のマスクブランクスの製造方法は、
前記中間層形成工程におけるスパッタリング供給電力が、前記遮光層形成工程、前記上中層形成工程、前記表層形成工程におけるスパッタリング供給電力よりも高く設定されることができる。
【0009】
本発明のマスクブランクスは、
透明基板と、
前記透明基板の表面に積層されたマスク層を備えるマスクブランクスであって、
前記マスク層が、NとCとOとCrとを含有するとともに、最表面におけるOの組成比が72~(70)~65atm%の範囲とされる。
これにより、マスク層の最表面における耐薬性を向上して、酸、アルカリ、オゾン等の薬品を用いた処理の前後で、光学濃度(OD値:Optical Density)、反射率などの光学特性、これら光学特性の波長依存性、さらに、抵抗値、膜厚等の膜特性が必要以上に変化してしまうことを抑制することが可能となる。
また、マスク層の最表面において、酸素の組成比が上記の範囲とされることによって、マスクブランクスからフォトマスクとして製造する際に、マスク層の最表面を耐薬層として、この耐薬層によってマスクの洗浄工程における耐薬性を保持することができる。したがって、洗浄工程におけるマスク層の光学特性の変動を抑制して、マスクブランクスから製造したフォトマスクとしての光学特性の変動を抑制することが可能となる。
同時に、光学特性層が酸素の組成比がクロムの組成比と窒素の組成比より低く形成されたことによって、この光学特性層によって、マスクブランクスから製造したフォトマスクとしての必要な光学特性をマスク層が維持することを可能とする。
【0010】
本発明のマスクブランクスは、
前記マスク層の表層におけるOの組成比が最表面から前記透明基板に近接する厚さ方向に72~(70上面)~65atm%から45~(40下面)~35atm%へと傾斜している。
言い換えると、前記マスク層は、前記マスク層の最表面が上面である表層を有する。前記表層は、前記透明基板に近接する下面を有する。前記表層におけるOの組成比は、前記透明基板の厚さ方向において前記上面から前記下面へ向けて傾斜している。前記表層は、前記上面におけるOの組成比(含有率)は、72~65atm%の範囲である。前記表層は、前記上面におけるOの組成比が、72~65atm%の範囲のうち、70atm%が好ましい値である。前記表層は、前記下面におけるOの組成比が、45~35atm%の範囲である。前記表層は、前記下面におけるOの組成比が、45~35atm%の範囲のうち、40atm%が好ましい値である。
これにより、洗浄工程等における耐薬性と、光学特性の変動抑制とを同時に維持することの可能なマスク層を有するマスクブランクスとすることが可能となる。
【0011】
本発明のマスクブランクスは、
前記表層おいて、酸素窒素組成比:O/(N+O)が、0.9~0.98の範囲に設定される。
これにより、表層のレジスト密着性を向上することができる。同時に、表層の上中層への密着性を向上してパターン欠落の発生を減少でき、表層の耐薬品性を向上し、マスク層としてのエッチング速度を向上し、必要な光学濃度(OD)を呈するマスク層を有するマスクブランクスを提供することが可能となる。
硫酸過水、NaOH等のアルカリ液、あるいは、オゾン水を用いる工程において、耐薬層によって光学特性の変動を抑制した状態を維持することができる。
【0012】
本発明のマスクブランクスは、
前記マスク層において、前記表層よりも前記透明基板に近接する上中層がOを含有し、
前記上中層におけるOの組成比が、前記表層におけるOの組成比よりも低い値を有する。
これにより、耐薬品性とレジスト密着性と下層に対する密着性の良好な特性を維持することができる。特に、アスペクト比、すなわち、膜厚とパターン幅寸法との比が0.6程度まで小さくなる高精細化にも対応して、パターン欠落、レジスト(倒れ)部分剥離等の発生を充分抑制することが可能となる。
【0013】
本発明のマスクブランクスは、
前記マスク層の前記上中層よりも前記透明基板に近接する中間層がOを含有し、
前記上中層におけるOの組成比が、前記中間層の表面におけるOの組成比よりも低い値を有する。
これにより、耐薬品性と、上中層の中間層に対する密着性の良好な特性を維持することができる。特に、アスペクト比、すなわち、膜厚とパターン幅寸法との比が0.6程度まで小さくなる高精細化にも対応して、パターン欠落等の発生を充分抑制することが可能となる。
【0014】
本発明のマスクブランクスは、
前記透明基板と、
前記透明基板の表面に積層された前記マスク層を備えるマスクブランクスであって、
前記マスク層が、Crを含有する前記遮光層と、前記遮光層に積層されたCrを含有する前記中間層と、前記中間層に積層されたCrを含有する前記上中層と、前記上中層に積層されたCrを含有する前記表層と、
を有し、
前記表層がOとNとCとを含有し、
前記表層におけるCrの組成比が21~(23)~25atm%の範囲とされ、
前記表層におけるOの組成比が65~(70)~72atm%の範囲とされ、
前記表層におけるNの組成比が1~(2)~5atm%の範囲とされ、
前記表層におけるCの組成比が4~(5)~6atm%の範囲とされる。
これにより、マスク層における耐薬性を向上して、酸、アルカリ、オゾン等の薬品を用いた処理の前後で、光学濃度(OD値:Optical Density)、反射率などの光学特性、これら光学特性の波長依存性、さらに、抵抗値、膜厚等の膜特性が必要以上に変化してしまうことを抑制することが可能となる。マスクブランクスからフォトマスクとして製造する際に、マスク層を耐薬層として、この耐薬層によってマスクの洗浄工程における耐薬性を保持することができる。したがって、薬品を用いる工程におけるマスク層の光学特性の変動を抑制して、マスクブランクスから製造したフォトマスクとしての光学特性の変動を抑制することが可能となる。耐薬性と、光学特性の変動抑制とを同時に維持することの可能なマスク層を有するマスクブランクスとすることが可能となる。また、耐薬品性とレジスト密着性と下層に対する密着性の良好な特性を維持することができる。特に、アスペクト比、すなわち、膜厚とパターン幅寸法との比が0.6程度まで小さくなる高精細化にも対応して、パターン欠落、レジスト(倒れ)部分剥離等の発生を充分抑制することが可能となる。
【0015】
本発明のマスクブランクスは、
前記マスク層におけるクロム含有層に対するエッチャントによるエッチング速度が、
前記上中層 < 前記中間層 < 前記表層 < 前記遮光層
の順となる。
これにより、エッチング処理にかかる時間を削減して、作業性を向上するとともに、必要なレジスト層の膜厚を削減して、レジスト薄膜化をはかることができる。同時に、エッチング時間を短縮することで、エッチング液等の処理液との接触時間を減らし、光学特性の変化を抑制することが可能となる。
【0016】
本発明のマスクブランクスは、
前記中間層および前記上中層がOを含有し、
前記上中層におけるOの組成比が、前記中間層のOの組成比と前記表層のOの組成比との間の値を有する。
これにより、中間層と上中層との密着性を向上して、パターン欠落の発生を抑制することが可能となる。
【0017】
本発明のマスクブランクスは、
前記中間層および前記上中層がNを含有し、
前記上中層におけるNの組成比が、前記中間層のNの組成比と前記表層のNの組成比との間の値を有する。
これにより、表層の耐薬品性を向上し、上中層の上側に成膜された表層のレジスト密着性を向上し、中間層と上中層との密着性を向上し、さらに、上中層と表層との密着性を向上して、パターン欠落の発生を抑制することが可能となる。
【0018】
本発明のマスクブランクスは、
前記中間層および前記上中層がCを含有し、
前記上中層におけるCの組成比が、前記中間層のCの組成比と前記表層のCの組成比との間の値を有する。
これにより、表層の耐薬品性を向上し、上中層の上側に成膜された表層のレジスト密着性を向上し、中間層と上中層との密着性を向上し、さらに、上中層と表層との密着性を向上して、パターン欠落の発生を抑制することが可能となる。
【0019】
本発明のマスクブランクスは、
前記上中層がOとNとCとを含有し、
前記上中層におけるCrの組成比が45~(50)~52atm%の範囲とされ、
前記上中層におけるOの組成比が15~(20)~25atm%の範囲とされ、
前記上中層におけるNの組成比が15~(20)~25atm%の範囲とされ、
前記上中層におけるCの組成比が5~(10)~15atm%の範囲とされる。
これにより、表層の耐薬品性を向上し、上中層の上側に成膜された表層のレジスト密着性を向上し、中間層と上中層との密着性を向上し、さらに、上中層と表層との密着性を向上して、パターン欠落の発生を抑制することが可能となる。
【0020】
本発明のマスクブランクスは、
前記中間層がOとNとCとを含有し、
前記中間層におけるCrの組成比が45~(50)~52atm%の範囲とされ、
前記中間層におけるOの組成比が10~(15)~20atm%の範囲とされ、
前記中間層におけるNの組成比が15~(20)~25atm%の範囲とされ、
前記中間層におけるCの組成比が10~(15)~20atm%の範囲とされる。
これにより、表層の耐薬品性を向上し、表層のレジスト密着性を向上し、中間層と上中層との密着性を向上し、さらに、上中層と表層との密着性を向上して、パターン欠落の発生を抑制することが可能となる。
【0021】
本発明のマスクブランクスは、
前記遮光層がOとNとCとを含有し、
前記遮光層におけるCrの組成比が30~(35)~40atm%の範囲とされ、
前記遮光層におけるOの組成比が25~(30)~35atm%の範囲とされ、
前記遮光層におけるNの組成比が14~(19)~24atm%の範囲とされ、
前記遮光層におけるCの組成比が11~(16)~21atm%の範囲とされる。
これにより、表層の耐薬品性を向上し、表層のレジスト密着性を向上し、中間層と上中層との密着性を向上し、さらに、上中層と表層との密着性を向上して、パターン欠落の発生を抑制するとともに、必要な遮光性能、つまり必要な光学濃度(OD)を呈するマスク層を有するマスクブランクスを提供することが可能となる。
【0022】
本発明のマスクブランクスは、
前記遮光層、前記中間層、前記上中層、前記表層の膜厚比が、29:1:3:11~33:2:6:13である。
これにより、必要な光学濃度(OD)を呈するマスク層として、遮光層、中間層、上中層、表層を有するマスクブランクスを提供することが可能となる。
【0023】
本発明のマスクブランクスの製造方法は、
上記のマスクブランクスの製造方法であって、
前記透明基板にCrを含有する前記マスク層をスパッタリングにより形成するマスク層形成工程を有し、
前記マスク層形成工程において、Crを含有するターゲットを用い、
スパッタリングにおける供給ガスとして、酸素含有ガスとしてCO2を含むガスを用いて前記マスク層の表面付近を形成する。
これにより、アスペクト比の小さくパターン幅の狭い高精細のパターン形成をおこなう際に、表層の耐薬品性を向上し、マスク層としてのエッチング速度を向上し、表層のレジスト密着性を向上し、必要な光学濃度(OD)を呈するマスク層を有するマスクブランクスを製造することが可能となる。
【0024】
本発明のマスクブランクスの製造方法は、
前記マスク層形成工程において、
スパッタリングにおける供給ガスとして、窒素含有ガスとしてNOを含むガスを用いて前記マスク層の表面付近を形成する。
これにより、パターン欠落の発生の少ない表層を形成することができる。同時に、表層の耐薬品性を向上し、マスク層としてのエッチング速度を向上し、表層のレジスト密着性を向上し、表層の上中層への密着性を向上し、必要な光学濃度(OD)を呈するマスク層を有するマスクブランクスを製造することが可能となる。
【0025】
本発明のマスクブランクスの製造方法は、
前記マスク層形成工程において、
スパッタリングにおける供給ガスとして、炭素含有ガスとしてCH4を含むガスを用いて前記マスク層の表面付近を形成する。
これにより、パターン欠落の発生の少ない表層を形成することができる。同時に、表層の耐薬品性を向上し、マスク層としてのエッチング速度を向上し、表層のレジスト密着性を向上し、表層の上中層への密着性を向上し、必要な光学濃度(OD)を呈するマスク層を有するマスクブランクスを製造することが可能となる。
【0026】
本発明のマスクブランクスの製造方法は、
上記のマスクブランクスの製造方法であって、
前記表層を形成する表層形成工程において、Crを含有するターゲットを用い、
スパッタリングにおける供給ガスとして、Arの供給量を変化させて傾斜したOの組成比を有する前記表層を形成する。
これにより、上中層に対して変化する光学特性を担保する表層を形成して、パターン欠落の発生の少ない表層を形成することができる。同時に、表層の耐薬品性を向上し、マスク層としてのエッチング速度を向上し、表層のレジスト密着性を向上し、表層の上中層への密着性を向上し、必要な光学濃度(OD)を呈するマスク層を有するマスクブランクスを製造することが可能となる。
硫酸過水、NaOH等のアルカリ液、あるいは、オゾン水を用いる工程において、耐薬層によって光学特性の変動を抑制した状態を維持することができる。
【0027】
本発明のマスクブランクスの製造方法は、
前記表層形成工程において、
スパッタリングにおける供給ガスとして、Ar、CH4、NO、CO2を含むガスを用いて前記表層を形成する。
これにより、パターン欠落の発生の少ない表層を形成することができる。同時に、表層の耐薬品性を向上し、マスク層としてのエッチング速度を向上し、表層のレジスト密着性を向上し、表層の上中層への密着性を向上し、必要な光学濃度(OD)を呈するマスク層を有するマスクブランクスを製造することが可能となる。
硫酸過水、NaOH等のアルカリ液、あるいは、オゾン水を用いる工程において、耐薬層によって光学特性の変動を抑制した状態を維持することができる。
【0028】
本発明のマスクブランクスの製造方法は、
上記のマスクブランクスの製造方法であって、
前記上中層を形成する上中層形成工程において、Crを含有するターゲットを用い、
スパッタリングにおける供給ガスとして、Ar、CH4、NOを含むガスを用いて前記上中層を形成する。
これにより、表層の上中層への密着性を向上して表層の欠落を減少し、パターン形成後に、スクラブ処理等を施す等の外力に対しても、パターン欠落の発生が増加しない程度のマスク層を製造することができる。しかも、高精細とされて狭幅のパターンにおいても、欠落発生の増加を防止することが可能となる。同時に、表層の耐薬品性を向上し、マスク層としてのエッチング速度を向上し、必要な光学濃度(OD)を呈するマスク層を有するマスクブランクスを製造することが可能となる。
【0029】
本発明のマスクブランクスの製造方法は、
上記のマスクブランクスの製造方法であって、
前記中間層を形成する中間層形成工程において、Crを含有するターゲットを用い、
スパッタリングにおける供給ガスとして、Ar、N2を含むガスを用いて前記中間層を形成する。
これにより、中間層の上中層への密着性を向上して欠落を減少し、パターン形成後に、スクラブ処理等を施す等の外力に対しても、パターン欠落の発生が増加しない程度のマスク層を製造することができる。しかも、高精細とされて狭幅のパターンにおいても、欠落発生の増加を防止することが可能となる。同時に、マスク層としてのエッチング速度を向上し、必要な光学濃度(OD)を呈するマスク層を有するマスクブランクスを製造することが可能となる。
【0030】
本発明のマスクブランクスの製造方法は、
上記のマスクブランクスの製造方法であって、
前記表層を形成する表層形成工程と、
前記上中層を形成する上中層形成工程と、
前記中間層を形成する中間層形成工程と、
前記遮光層を形成する遮光層形成工程と、
を有し、
前記遮光層形成工程において、Crを含有するターゲットを用い、
スパッタリングにおける供給ガスとして、Ar、N2、CO2を含むガスを用いて前記遮光層を形成する。
これにより、パターン欠落の発生が減少可能なマスク層を製造することができる。しかも、高精細とされて狭幅のパターンにおいても、欠落発生の増加を防止することが可能となる。同時に、表層の耐薬品性を向上し、マスク層としてのエッチング速度を向上し、必要な光学濃度(OD)を呈するマスク層を有するマスクブランクスを製造することが可能となる。
【0031】
本発明のマスクブランクスの製造方法は、
前記中間層形成工程におけるスパッタリング供給電力が、前記遮光層形成工程、前記上中層形成工程、前記表層形成工程におけるスパッタリング供給電力よりも高く設定される
ことができる。
これにより、中間層の上中層への密着性を向上して欠落を減少し、パターン形成後に、スクラブ処理等を施す等の外力に対しても、パターン欠落の発生が増加しない程度のマスク層を製造することができる。しかも、高精細とされて狭幅のパターンにおいても、欠落発生の増加を防止することが可能となる。同時に、マスク層としてのエッチング速度を向上し、必要な光学濃度(OD)を呈するマスク層を有するマスクブランクスを製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、クロムを含有するマスク層に充分な耐薬性を持たせ、マスク層のエッチング速度を向上し、マスク層とレジスト層との密着性を向上す、マスク層と下層との密着性を向上することが可能なマスクブランクスを提供できるという効果を奏することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明に係るマスクブランクスの第1実施形態を示す断面図である。
【
図2】本発明に係るマスクブランクスの第1実施形態を示す断面図である。
【
図3】本発明に係るマスクブランクスの製造方法の第1実施形態における成膜装置を示す模式図である。
【
図4】本発明に係るマスクブランクスの製造方法の第1実施形態における成膜装置の成膜室を示す模式図である。
【
図5】本発明に係るマスクブランクスの製造方法の第1実施形態を示す断面図である。
【
図6】本発明に係る位相シフトマスクの製造方法の第1実施形態を示す工程断面図である。
【
図7】本発明に係る位相シフトマスクの製造方法の第1実施形態を示す工程断面図である。
【
図8】本発明に係る位相シフトマスクの製造方法の第1実施形態を示す工程断面図である。
【
図9】本発明に係る位相シフトマスクの製造方法の第1実施形態を示す工程断面図である。
【
図10】本発明に係るマスクブランクスの実験例を示す図である。
【
図11】本発明に係るマスクブランクスの実験例を示す図である。
【
図12】本発明に係るマスクブランクスの実験例を示す図である。
【
図13】本発明に係るマスクブランクスの実験例を示す図である。
【
図14】本発明に係るマスクブランクスの実験例を示す図である。
【
図15】本発明に係るマスクブランクスの実験例を示す図である。
【
図16】本発明に係るマスクブランクスの実験例を示す図である。
【
図17】本発明に係るマスクブランクスの実験例を示す図である。
【
図18】本発明に係るマスクブランクスの実験例を示す図である。
【
図19】本発明に係るマスクブランクスの実験例を示す図である。
【
図20】本発明に係るマスクブランクスの実験例を示す図である。
【
図21】本発明に係るマスクブランクスの実験例を示す図である。
【
図22】本発明に係るマスクブランクスの実験例を示す図である。
【
図23】本発明に係るマスクブランクスの実験例を示す図である。
【
図24】本発明に係るマスクブランクスの実験例を示す図である。
【
図25】本発明に係るマスクブランクスの実験例を示す図である。
【
図26】本発明に係るマスクブランクスの実験例を示す図である。
【
図27】本発明に係るマスクブランクスの実験例を示す図である。
【
図28】本発明に係るマスクブランクスの実験例を示す図である。
【
図29】本発明に係るマスクブランクスの実験例を示す図である。
【
図30】本発明に係るマスクブランクスの実験例を示す図である。
【
図31】本発明に係るマスクブランクスの実験例を示す図である。
【
図32】本発明に係るマスクブランクスの実験例を示す図である。
【
図33】本発明に係るマスクブランクスの実験例を示す図である。
【
図34】本発明に係るマスクブランクスの実験例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明に係るマスクブランクスおよびその製造方法の第1実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態におけるマスクブランクスを示す断面図であり、
図2は、本実施形態におけるマスクブランクスを示す断面図であり、図において、符号10Bは、マスクブランクスである。
【0035】
本実施形態に係るマスクブランクス10Bとしては、位相シフトマスク(フォトマスク)を製造するためのマスクブランクスを例示するが、位相シフトマスクに限られるものではない。クロムを含有するマスク層を有するフォトマスクであれば、これ以外にも、ハーフトーンマスク、バイナリーマスク等に適応可能である。
【0036】
本実施形態に係るマスクブランクス10Bは、露光光の波長が紫外領域(150nm~380nm)を含む範囲、例えば、190nm~250nm程度の範囲、その中でも、193nm程度で使用される位相シフトマスク(フォトマスク)に供されるものとされる。
本実施形態に係るマスクブランクス10Bは、
図1に示すように、ガラス基板(透明基板)11と、このガラス基板11上に形成された位相シフト層(下地層)12と、位相シフト層12上に形成されたクロム含有層13と、で構成される。
【0037】
つまり、クロム含有層13は、位相シフト層12よりもガラス基板11から離間する位置に設けられる。
これら位相シフト層12とクロム含有層13とは、フォトマスクとして必要な光学特性を有した積層膜としてマスク層を構成している。クロム含有層13は、マスク層の最表面13Aに露出している。
【0038】
さらに、本実施形態に係るマスクブランクス10Bは、
図1に示すように、位相シフト層12とクロム含有層13との積層されたマスク層に対して、
図2に示すように、あらかじめフォトレジスト層(レジスト層)14が成膜された構成とすることもできる。
【0039】
なお、本実施形態に係るマスクブランクス10Bは、位相シフト層12とクロム含有層13以外に、エッチングストップ層、反射防止層、耐薬層、保護層、密着層、等を積層した構成とされてもよい。さらに、これらの積層膜の上に、
図2に示すように、レジスト層14が形成されていてもよい。
【0040】
ガラス基板(透明基板)11としては、透明性及び光学的等方性に優れた材料が用いられ、例えば、石英ガラス基板を用いることができる。ガラス基板11の大きさは特に制限されず、当該マスクを用いて露光する基板(例えばLCD(液晶ディスプレイ)、プラズマディスプレイ、有機EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイなどのFPD用基板、半導体デバイス等の基板)に応じて適宜選定される。
【0041】
本実施形態では、ガラス基板(透明基板)11として、一辺100mm程度から、一辺2000mm以上の矩形基板を適用可能であり、さらに、厚み1mm以下の基板、厚み数mmの基板や、厚み10mm以上の基板も用いることができる。
【0042】
また、ガラス基板11の表面を研磨することで、ガラス基板11のフラットネスを低減するようにしてもよい。ガラス基板11のフラットネスは、例えば、1μm以下とすることができる。これにより、マスクの焦点深度が深くなり、微細かつ高精度なパターン形成に大きく貢献することが可能となる。さらにフラットネスは0.5μm以下と、小さい方が良好である。
【0043】
位相シフト層(下地層)12としては、金属シリサイド膜、例えば、Ta(タンタル)、Ti(チタン)、W(タングステン)、Mo(モリブデン)、Zr(ジルコニウム)などの金属や、これらの金属どうしの合金とシリコンとを含む膜とすることができる。特に、金属シリサイドの中でもモリブデンシリサイドを用いることが好ましく、MoSiX(X≧2)膜(例えばMoSi2膜、MoSi6膜やMoSi8膜など)が挙げられる。
【0044】
位相シフト層12としては、O(酸素)、N(窒素)を含有するモリブデンシリサイド膜とすることが好ましい。
位相シフト層12において、酸素含有率(酸素濃度)を1.0atm%~50atm%の範囲に設定し、窒素含有率(窒素濃度)を10atm%~50atm%の範囲に設定することができる。
【0045】
これにより、位相シフト層12は、波長193nm程度において、透過率が、2.0~8.0%の範囲、屈折率が2.2~2.6程度、反射率が15~25%程度、消衰係数0.4~0.8程度を有した場合、膜厚60~80nm程度に設定されることができる。
なお、位相シフト層12における組成比・膜厚は、製造する位相シフトマスク10に要求される光学特性によって設定されるものであり、上記の各数値に限定されるものではない。
【0046】
なお、下地層として、位相シフト層12を例示したが、位相シフトマスク10とは異なるフォトマスクとする場合には、異なる層を形成することができる。
【0047】
クロム含有層13は、遮光層として機能する。クロム含有層13は、Cr(クロム)を主成分とするものであり、さらに、C(炭素)、O(酸素)およびN(窒素)を含むものとされる。
さらに、クロム含有層13は、厚み方向に異なる組成とされた部分を有することもでき、この場合、クロム含有層13として、Cr単体、並びにCrの酸化物、窒化物、炭化物、酸化窒化物、炭化窒化物および酸化炭化窒化物から選択される1つ、または、2種以上を積層した部分を有するように構成することもできる。
【0048】
クロム含有層13は、後述するように、所定の光学特性などの膜特性が得られるようにその厚み、および、Cr,N,C,O等の組成比(atm%)が設定される。また、これらCr,N,C,O等の組成比(atm%)が、膜厚方向に異なることができる。さらに、クロム含有層13は、異なる光学特性などの膜特性を有する多層膜とすることができる。
【0049】
クロム含有層13は、
図1で(b)に拡大して示すように、最下層の遮光層(第1層)13aと、遮光層(第1層)13aに積層された中間層(第2層)13bと、中間層(第2層)13bに積層された上中層(第3層)13cと、上中層(第3層)13cに積層された表層(第4層)13dと、を有する。
【0050】
遮光層(第1層)13aは、
図1に示すように、下地層である位相シフト層12に積層される。なお、遮光層(第1層)13aは、位相シフト層12との間に他の層が積層されていてもよい。
遮光層(第1層)13aは、Cr(クロム)を主成分とするものであり、さらに、C(炭素)、O(酸素)およびN(窒素)を含むものとされる。
遮光層(第1層)13aは、所定の光学特性、密着性およびエッチング速度が得られるようにその厚み、および、Cr,N,C,O等の組成比(atm%)が設定される。遮光層(第1層)13aは、例えば、光学濃度(OD)1.0~1.4程度の範囲となるように組成比および膜厚を設定することができる。
【0051】
遮光層(第1層)13aにおける組成比は、クロム含有率(クロム濃度)が30atm%~(35)~40atm%の範囲、酸素含有率(酸素濃度)が25atm%~(30)~35atm%の範囲、窒素含有率(窒素濃度)が14atm%~(19)~24atm%の範囲、炭素含有率(炭素濃度)が11atm%~(19)~21atm%の範囲であるように設定されることができる。
遮光層(第1層)13aにおける組成比は、厚み方向に異なる組成を有することもできる。例えば、遮光層(第1層)13aにおけるエッチング速度が、厚み方向に異なるように組成比を設定することが可能である。あるいは、遮光層(第1層)13aにおける組成比は、膜厚方向で中間層13bに近接する位置に、炭素濃度がピークとなるピーク領域を有することができる。
【0052】
中間層(第2層)13bは、
図1に示すように、下側の層である遮光層(第1層)13aに積層される。
中間層(第2層)13bは、Cr(クロム)を主成分とするものであり、さらに、C(炭素)、O(酸素)およびN(窒素)を含むものとされる。
中間層(第2層)13bは、所定の光学特性、密着性およびエッチング速度が得られるようにその厚み、および、Cr,N,C,O等の組成比(atm%)が設定される。中間層(第2層)13bは、例えば、光学濃度(OD)0.1~0.5程度の範囲となるように組成比および膜厚を設定することができる。
【0053】
中間層(第2層)13bにおける組成比は、クロム含有率(クロム濃度)が45atm%~(50)~52atm%の範囲、酸素含有率(酸素濃度)が10atm%~(15)~20atm%の範囲、窒素含有率(窒素濃度)が15atm%~(20)~25atm%の範囲、炭素含有率(炭素濃度)が10atm%~(15)~20atm%の範囲であるように設定されることができる。
中間層(第2層)13bにおける組成比は、厚み方向に異なる組成を有することもできる。例えば、中間層(第2層)13bにおけるエッチング速度が、厚み方向に異なるように組成比を設定することが可能である。あるいは、中間層(第2層)13bにおける組成比は、膜厚方向で上中層13cに近接する位置に、窒素濃度がピークとなるピーク領域を有することができる。
【0054】
上中層(第3層)13cは、
図1に示すように、下側の層である中間層(第2層)13bに積層される。
上中層(第3層)13cは、Cr(クロム)を主成分とするものであり、さらに、C(炭素)、O(酸素)およびN(窒素)を含むものとされる。
上中層(第3層)13cは、所定の光学特性、密着性およびエッチング速度が得られるようにその厚み、および、Cr,N,C,O等の組成比(atm%)が設定される。上中層(第3層)13cは、例えば、光学濃度(OD)0.05~0.15程度の範囲となるように組成比および膜厚を設定することができる。
【0055】
上中層(第3層)13cにおける組成比は、クロム含有率(クロム濃度)が45atm%~(50)~52atm%の範囲、酸素含有率(酸素濃度)が15atm%~(20)~25atm%の範囲、窒素含有率(窒素濃度)が15atm%~(20)~25atm%の範囲、炭素含有率(炭素濃度)が5atm%~(10)~15atm%の範囲であるように設定されることができる。
上中層(第3層)13cにおける組成比は、厚み方向に異なる組成を有することもできる。例えば、上中層(第3層)13cにおけるエッチング速度が、厚み方向に異なるように組成比を設定することが可能である。あるいは、上中層(第3層)13cにおける組成比は、膜厚方向で表層13dに近接する位置に、炭素濃度がピークとなるピーク領域を有することができる。
【0056】
表層(第4層)13dは、
図1に示すように、下側の層である上中層(第3層)13cに積層される。
表層(第4層)13dは、Cr(クロム)を主成分とするものであり、さらに、C(炭素)、O(酸素)およびN(窒素)を含むものとされる。
表層(第4層)13dは、所定の光学特性、耐薬性、密着性およびエッチング速度が得られるようにその厚み、および、Cr,N,C,O等の組成比(atm%)が設定される。上中層(第3層)13cは、例えば、光学濃度(OD)0.1~0.5程度の範囲となるように組成比および膜厚を設定することができる。
【0057】
表層(第4層)13dにおける組成比は、クロム含有率(クロム濃度)が21atm%~(23)~25atm%の範囲、酸素含有率(酸素濃度)が65atm%~(70)~72atm%の範囲、窒素含有率(窒素濃度)が1atm%~(2)~5atm%の範囲、炭素含有率(炭素濃度)が4atm%~(5)~6atm%の範囲であるように設定されることができる。
【0058】
表層(第4層)13dにおける組成比としては、最表面13Aにおける所定の耐薬性を有するために、最表面13AにおけるOの組成比が65~(70)~72atm%の範囲とされる。
表層(第4層)13dにおける組成比は、最表面13Aにおける所定の耐薬性を有し、所定のエッチング速度を有し、また、所定の密着性を有するために、厚み方向に異なる組成を有することもできる。例えば、表層(第4層)13dにおけるOの組成比が最表面13Aからガラス基板11に近接する厚さ方向に65~(70上面)~72atm%から35~(40下面)~45へと傾斜している。
【0059】
クロム含有層13においては、上中層13cにおけるOの組成比が、表層13dにおけるOの組成比よりも低い値を有する。また、クロム含有層13においては、上中層13cにおけるOの組成比が、中間層13bの上表面におけるOの組成比よりも低い値を有する。
【0060】
クロム含有層13において塩素と酸素の混合ガスでドライエッチング処理をおこなったときのエッチング速度が、
上中層13c < 中間層13b < 表層13d < 遮光層13a
の順となる。
【0061】
クロム含有層13において、上中層13cにおけるOの組成比が、中間層13bのOの組成比と表層13dのOの組成比との間の値を有する。クロム含有層13において、上中層13cにおけるNの組成比が、中間層13bのNの組成比と表層13dのNの組成比との間の値を有する。
クロム含有層13において、上中層13cにおけるCの組成比が、中間層13bのCの組成比と表層13dのCの組成比との間の値を有する。
クロム含有層13において、遮光層13a、中間層13b、上中層13c、表層13dの膜厚比が、
29:1:3:11~33:2:6:1
である。
【0062】
本実施形態のマスクブランクス10Bは、上記の構成を有することにより、クロム含有層13の最表面13A、つまり、表層13dの最表面13Aにおける耐薬性を向上して、酸、アルカリ、オゾン等の薬品を用いた処理の前後で、光学濃度(OD値:Optical Density)、反射率などの光学特性、これら光学特性の波長依存性、さらに、抵抗値、膜厚等の膜特性が必要以上に変化してしまうことを抑制することが可能となる。
また、クロム含有層13の最表面13Aにおいて、酸素の組成比が上記の範囲とされることによって、マスクブランクス10Bからフォトマスク10として製造する際に、クロム含有層13の最表面13Aを耐薬層として、この耐薬層によってマスクの洗浄工程における耐薬性を保持することができる。
【0063】
したがって、洗浄工程におけるマスク層の光学特性の変動を抑制して、マスクブランクス10Bから製造したフォトマスク10としての光学特性の変動を抑制することが可能となる。
同時に、マスク層において、所定の光学特性を有するように組成比が設定されたことによって、この光学特性を有する層によって、マスクブランクス10Bから製造したフォトマスク10としての必要な光学特性をマスク層が維持することを可能とすることができる。
【0064】
本実施形態によれば、クロム含有層13の表層13dにおけるOの組成比が上記のように傾斜していることにより、硫酸過水、NaOH水、濃硫酸やオゾン水等とされる処理薬液に対して、充分な耐薬性と、光学特性の変動抑制とを同時に維持することが可能となる。さらに、耐薬性の向上により、酸、アルカリ、オゾン等の薬品を用いた処理の前後で、光学濃度(OD値:Optical Density)、反射率などの光学特性、これら光学特性の波長依存性、さらに、抵抗値、膜厚等の膜特性が必要以上に変化してしまうことを抑制することが可能となる。
【0065】
同時に、耐薬品性とレジスト層14および下地層12に対する密着性の良好な特性を維持することができる。特に、アスペクト比、すなわち、膜厚とパターン幅寸法との比が0.6程度まで小さくなる高精細化にも対応して、パターン欠落、レジスト(倒れ)部分剥離等の発生を充分抑制することが可能となる。
また、エッチング速度を上記のように設定することで、エッチング処理にかかる時間を削減して、作業性を向上するとともに、必要なレジスト層14の膜厚を削減して、レジスト薄膜化をはかることができる。
【0066】
これにより、中間層13bと上中層13cとの密着性を向上し、表層13dとレジスト層14との密着性を向上し、さらに、上中層13cと表層13dとの密着性を向上して、パターン欠落の発生を抑制するとともに、必要な遮光性能、つまり必要な光学濃度(OD)を呈するマスク層として、遮光層13a、中間層13b、上中層13c、表層13dを有するクロム含有層13を備えたマスクブランクス10Bを提供することが可能となる。
【0067】
以下、本実施形態のマスクブランクスの製造方法について説明する。
【0068】
図3は、本実施形態におけるマスクブランクスを製造する製造装置を示す模式図である。
図4は、本実施形態におけるマスクブランクスを製造する製造装置の成膜室を示す模式図である。
本実施形態におけるマスクブランクス10Bは、
図3および
図4に示す製造装置により製造される。
本実施形態におけるマスクブランクスの製造方法は、マスク層形成工程を有する。マスク層形成工程は、下地層形成工程と、クロム含有層形成工程と、を有する。
下地層成膜工程においては、
図3および
図4に示す製造装置S10により位相シフト層(下地層)12をガラス基板11に成膜する。クロム含有層形成工程においては、
図3および
図4に示す製造装置S10によりクロム含有層13を位相シフト層(下地層)12の上に成膜する。
【0069】
製造装置100は、枚葉式のスパッタリング装置とされる。製造装置100は、
図3に示すように、ガラス基板11を搬入するロード室101aと、ガラス基板11を外部に搬出するアンロード室101bと、ガラス基板11上に、スパッタリング法により形成する成膜室(真空処理室)102,103と、成膜室102,103、ロード室101aおよびアンロード室101bの間に位置する搬送室101cと、を備えている。
【0070】
ロード室101aでは、外部から搬入されたガラス基板11を成膜室102へ搬送する。ロード室101aには、その室内を外部に対して密閉・開放してガラス基板11を搬入可能とする密閉機構と、室内を搬送室101cに対して密閉・開放する密閉機構と、この室内を粗真空引きするロータリーポンプ等の排気機構と、が設けられる。
【0071】
アンロード室101bでは、成膜室102から成膜の完了したガラス基板11を外部へ搬送する。アンロード室101bには、その室内を外部に対して密閉・開放してガラス基板11を搬出可能とする密閉機構と、室内を搬送室101cに対して密閉・開放する密閉機構と、この室内を粗真空引きするロータリーポンプ等の排気機構と、が設けられる。
【0072】
搬送室101cには、搬送室101cとロード室101a、搬送室101cとアンロード室101b、搬送室101cと成膜室102,103、のそれぞれの間で、ガラス基板11を搬送する搬送機構(搬送ロボット)101dが設けられる。
【0073】
成膜室102は一段目の成膜をおこなう。成膜室103は二段目の成膜をおこなう。成膜室103は、成膜室102の隣に設けられている。成膜室102と成膜室103とは、ほぼ同等の構成とされる。
ここでは、成膜室102について説明する。
【0074】
成膜室102は、
図4に示すように、減圧可能な内部空間を有する真空槽53を備えている。真空槽53には、不図示のガス導入機構が接続される3つのガス導入口、すなわち、反応ガス導入口64a、不活性ガス導入口64b、および混合ガス導入口64cが配されている。また、真空槽53には、不図示の排気機構に接続される2つの排気口64dと排気口64eも配されている。
【0075】
真空槽53の内部空間において、ターゲット54とガラス基板11が、所望の離間距離で対向して配されるように載置されている。ターゲット54はカソード電極(バッキングプレート)55に載置されている。基板ホルダ(基板保持機構)57にはガラス基板11が載置される。カソード電極55の裏面側には、たとえば2重の同心円状に配された磁石60を有するマグネットプレート59が設けられている。カソード電極55には電源62が接続されている。基板ホルダ57の裏面側には基板の温度制御手段61が設けられている。
これらは、成膜機構を構成する。
【0076】
成膜室102,103において、それぞれの成膜機構は、ガラス基板11に順に成膜するために必要な組成・条件を有するものとされる。
本実施形態において、成膜室102は下地層12の成膜に対応しており、成膜室103はクロム含有層13の成膜に対応している。
【0077】
具体的には、成膜室102においては、ターゲット54が、ガラス基板11に下地層12を成膜するために必要な組成として、モリブデンシリサイドを有する材料からなることができる。
【0078】
同時に、成膜室102においては、ガス導入機構からガス導入口64a,64b,64cを適宜介して供給されるガスとして、位相シフト層12の成膜に対応して、プロセスガスが炭素、窒素、酸素などを含有し、アルゴン、窒素ガス等のスパッタガスとともに、所定のガス分圧として条件設定される。
【0079】
また、成膜条件にあわせて排気口64d,64eを介して排気機構から高真空までの排気がおこなわれる。
また、成膜室102においては、電源62からバッキングプレート55に印加されるスパッタ電圧が、下地層12の成膜に対応して設定される。
【0080】
また、成膜室103においては、ターゲット54が、位相シフト層12上にクロム含有層13を成膜するために必要な組成として、クロムを有する材料からなるものとされる。
【0081】
同時に、成膜室103においては、ガス導入機構からガス導入口64a,64b,64cを適宜介して供給されるガスとして、クロム含有層13の成膜に対応して、プロセスガスが炭素、窒素、酸素などを含有し、アルゴン、不活性ガス等のスパッタガスとともに、所定のガス分圧として設定される。
また、ガス導入機構においてガス導入口64a,64b,64cを適宜介して供給するガスでは、酸素含有ガス、窒素含有ガス、炭素含有ガス等のガス分圧を、成膜されるクロム含有層13の膜厚に従って所定の変化量となるようにそれぞれ調整することが可能な構成とされている。
【0082】
また、成膜条件にあわせて高真空排気機構により排気口64d,64eからの排気がおこなわれる。
また、成膜室103においては、電源62からバッキングプレート55に印加されるスパッタ電圧が、クロム含有層13の成膜に対応して設定される。
【0083】
本実施形態におけるマスクブランクス10Bの製造方法は、基板準備工程と、下地層形成工程と、遮光層形成工程と、を有する。
本実施形態におけるマスクブランクス10Bの製造方法の説明においては、
図3,
図4に示す製造装置100による処理を説明する。
【0084】
基板準備工程においては、上述した表面処理などをおこなったガラス基板11を準備する。その後、
図3に示すロード室101aにガラス基板11を搬入する。
【0085】
その後、
図3に示す製造装置100においては、ロード室101aから搬送室101cを介して搬送機構101dによって成膜室102にガラス基板11を搬入する。搬入したガラス基板11に対して、成膜室(真空処理室)102において基板保持機構57によって回転させながら、下地層形成工程としてスパッタリング成膜をおこなう。
下地層成膜が終了したら、搬送室101cを介して搬送機構101dによって成膜室103にガラス基板11を移送する。搬入したガラス基板11に対して、成膜室(真空処理室)103において基板保持機構57によって回転させながら、クロム含有層形成工程としてスパッタリング成膜をおこなう。
その後、成膜の終了したガラス基板11を搬送機構101dによって搬送室101cを介してアンロード室101bから外部に搬出する。
【0086】
ここで、下地層形成工程においては、成膜機構において、ガス導入機構から成膜室102のバッキングプレート55付近に供給ガスとしてスパッタガスと反応ガスとを供給する。この状態で、電源62からバッキングプレート(カソード電極)55にスパッタ電圧を印加する。また、マグネトロン磁気回路によりターゲット54上に所定の磁場を形成してもよい。
【0087】
成膜室102内のターゲット54付近でプラズマにより励起されたスパッタガスのイオンが、カソード電極55のターゲット54に衝突して成膜材料の粒子を飛び出させる。そして、飛び出した粒子と反応ガスとが結合した後、ガラス基板11に付着することにより、ガラス基板11の表面に所定の組成となる位相シフト層(下地層)12が形成される。
【0088】
同様に、クロム含有層形成工程においては、成膜機構において、ガス導入機構から成膜室103のバッキングプレート55付近に供給ガスとしてスパッタガスと反応ガスとを供給する。この状態で、外部の電源からバッキングプレート(カソード電極)55にスパッタ電圧を印加する。また、マグネトロン磁気回路によりターゲット54上に所定の磁場を形成してもよい。
【0089】
成膜室103のターゲット54付近でプラズマにより励起されたスパッタガスのイオンが、カソード電極55のターゲット54に衝突して成膜材料の粒子を飛び出させる。そして、飛び出した粒子と反応ガスとが結合した後、ガラス基板11に付着することにより、位相シフト層(下地層)12の成膜されたガラス基板11の表面に、所定の組成でクロム含有層13が位相シフト層12に積層して形成される。
【0090】
ここで、下地層形成工程における位相シフト層12の成膜では、ガス導入機構から所定の分圧となるスパッタガス、酸素含有ガス等を供給してその分圧を制御するように切り替えて、その組成を設定した範囲内にする。同時に、膜厚方向に組成を変化させて位相シフト層12を形成する場合には、成膜された膜厚に応じて雰囲気ガスにおける個々のガス分圧を変動させることもできる。
【0091】
すなわち、クロム含有層形成工程におけるクロム含有層13の成膜では、ガス導入機構から所定の分圧となるスパッタガス、酸素含有ガス、炭素含有ガス、窒素含有ガス等を供給する。クロム含有層形成工程は、遮光層形成工程と、中間層形成工程と、上中層形成工程と、表層形成工程と、を有する。
【0092】
クロム含有層形成工程は、上記のガスを制御して、濃度比、流量比(供給量)を、成膜厚さの増加に対応して切り替える。これにより、クロム含有層13としての組成比などの膜特性を、遮光層13a、中間層13b、上中層13c、表層13dに対応した膜厚方向での分布となるように成膜する。あるいは、供給ガスにおけるガス流量比、濃度比を、膜厚方向に傾斜する組成比に対応した設定をおこなう。
このとき、ガス供給条件に加えて、印加するスパッタ電圧(スパッタリング供給電力)、処理時間、基板温度等のスパッタ条件も遮光層13a、中間層13b、上中層13c、表層13dの組成比などの膜特性に対応して変化させることができる。
【0093】
具体的には、遮光層形成工程における遮光層13aの成膜では、スパッタガス、酸素含有ガス、炭素含有ガス、窒素含有ガス等を供給する。このとき、遮光層13aに必要なOD値、反射率等の光学特性を有するように、膜厚および膜組成を設定する。所定の膜厚まで遮光層13aを成膜する。
【0094】
遮光層形成工程は、上記のガスの濃度比、流量比を、成膜厚さの増加に対応して制御する。これにより、遮光層13aとしての組成比などの膜特性が設定した膜厚方向での等しい分布となるように成膜する。あるいは、供給ガスにおけるガス流量比、濃度比を、膜厚方向に傾斜する組成比に対応した設定をおこなう。
このとき、ガス供給条件に加えて、印加するスパッタ電圧、処理時間、基板温度等のスパッタ条件も遮光層13aの光学特性、耐薬性、密着性、エッチング速度、などの膜特性に対応して変化させることができる。
【0095】
さらに、遮光層13aの成膜が完了したら、中間層形成工程として、供給ガス種、ガス分圧またはガス流量比、供給電力を切り替えて、中間層13bを成膜する。このとき、シャッタ等のガス雰囲気切替手段を用いて、成膜雰囲気におけるガスが混在しないようにすることもできる。
中間層13bの成膜では、スパッタガス、酸素含有ガス、炭素含有ガス、窒素含有ガス等を供給する。このとき、中間層13bに必要な光学特性、耐薬性、密着性、エッチング速度、などの膜特性を有するように、膜厚、OD値、膜組成を設定する。所定の膜厚まで中間層13bを遮光層13aの上に成膜する。
【0096】
さらに、中間層13bの成膜が完了したら、上中層形成工程として、供給ガス種、ガス分圧またはガス流量比、供給電力を切り替えて、上中層13cを成膜する。このとき、シャッタ等のガス雰囲気切替手段を用いて、成膜雰囲気におけるガスが混在しないようにすることもできる。
上中層13cの成膜では、スパッタガス、酸素含有ガス、炭素含有ガス、窒素含有ガス等を供給する。このとき、上中層13cに必要な光学特性、耐薬性、密着性、エッチング速度、などの膜特性を有するように、膜厚、OD値、膜組成を設定する。所定の膜厚まで上中層13cを中間層13bの上に成膜する。
【0097】
さらに、上中層13cの成膜が完了したら、表層形成工程として、供給ガス種、ガス分圧またはガス流量比、供給電力を切り替えて、クロム含有層13の表面付近である表層13dを成膜する。このとき、シャッタ等のガス雰囲気切替手段を用いて、成膜雰囲気におけるガスが混在しないようにすることもできる。
表層13dの成膜では、スパッタガス、酸素含有ガス、炭素含有ガス、窒素含有ガス等を供給する。このとき、表層13dに必要な光学特性、耐薬性、密着性、エッチング速度、などの膜特性を有するように、膜厚、OD値、膜組成を設定する。所定の膜厚まで表層13dを上中層13cの上に成膜する。
【0098】
さらに、レジスト層形成工程として、マスクブランクス10Bとしてレジスト層14を形成する場合には、レジスト層14を表層13dの上に形成する。この場合、所定のレジスト液を塗布する塗布装置等を用いることができる。
【0099】
ここで、酸素含有ガスとしては、CO2(二酸化炭素)、O2(酸素)、N2O(一酸化二窒素)、NO(一酸化窒素)、CO(一酸化炭素)等を挙げることができる。
また、炭素含有ガスとしては、CO2(二酸化炭素)、CH4(メタン)、C2H6(エタン)、CO(一酸化炭素)等を挙げることができる。
さらに、窒素含有ガスとしては、N2(窒素ガス)、N2O(一酸化二窒素)、NO(一酸化窒素)、N2O(一酸化二窒素)、NH3(アンモニア)等を挙げることができる。
また、スパッタガスとしては、Ar(アルゴン)、N2(窒素ガス)、等を挙げることができる。
なお、位相シフト層12、クロム含有層13の成膜で、必要であればターゲット54を交換することもできる。
【0100】
さらに、これら位相シフト層12、クロム含有層13の成膜に加え、他の膜を積層する場合には、対応するターゲット、ガス等のスパッタ条件としてスパッタリングにより成膜するか、他の成膜方法によって該当膜を積層して、本実施形態のマスクブランクス10Bとする。
【0101】
以下、本実施形態における遮光層13a、中間層13b、上中層13c、表層13dの膜特性について説明する。
【0102】
遮光層13aは、マスクブランクス10Bからフォトマスク10を製造した際に、所定の露光光に対して必要な遮光能を有する。このため、遮光層13aは、例えば、193nm程度の波長を有する露光光に対して遮光能を呈するために、OD1.2、膜厚25~35nm、上述したCr,O,C,Nの組成比を有する。
ここで、このような膜特性を有するために、遮光層13aの成膜においては、供給ガスとしてAr、N2、CO2を選択し、1.0kW程度のスパッタ電力を供給することができる。同時に、Ar、N2、CO2の流量比が、
Ar:N2:CO2=30:10:10
となるように設定できる。
【0103】
中間層13bは、遮光層13aと上中層13cとの間で、必要な密着性を維持するとともに、必要な耐薬性を有し、マスクブランクス10Bからフォトマスク10を製造した際に、クロム含有層13として所定の露光光に対して必要な光学特性を呈するために、OD0.3、膜厚2~4nm、上述したCr,O,C,Nの組成比を有する。
ここで、このような膜特性を有するために、中間層13bの成膜においては、供給ガスとしてAr、N2を選択し、1.5kW程度のスパッタ電力を供給することができる。同時に、Ar、N2の流量比が、
Ar:N2=15:10
となるように設定できる。
【0104】
上中層13cは、中間層13bと表層13dとの間で、必要な密着性を維持するとともに、必要な耐薬性を有し、マスクブランクス10Bからフォトマスク10を製造した際に、クロム含有層13として所定の露光光に対して必要な光学特性を呈するために、OD0.1、膜厚1~2nm、上述したCr,O,C,Nの組成比を有する。
ここで、このような膜特性を有するために、上中層13cの成膜においては、供給ガスとしてAr、CH4、NO、CO2を選択し、1.0kW程度のスパッタ電力を供給することができる。同時に、Ar、CH4、NOの流量比が、
Ar:CH4:NO=10:2:2
となるように設定できる。
【0105】
表層13dは、上中層13cとの間で、必要な密着性を維持するとともに、洗浄工程等で用いられる酸、アルカリ、オゾン等の薬液に対して必要な耐薬性を有し、マスクブランクス10Bからフォトマスク10を製造した際に、クロム含有層13として所定の露光光に対して必要な光学特性を呈するために、OD0.3、膜厚12~15nm、上述したCr,O,C,Nの組成比、および、膜厚方向における組成比の傾斜を有する。
ここで、このような膜特性を有するために、表層13dの成膜においては、供給ガスとしてAr、CH4、NO、CO2を選択し、1.0kW程度のスパッタ電力を供給することができる。同時に、Ar、CH4、NOの流量比が、成膜開始時に、
Ar:CH4:NO:CO2=20:2:2:13.5
となるように設定できる。また、傾斜したCr,O,C,Nの組成比を形成するために、Ar、CH4、NO、CO2の流量比が、成膜終了時に、
Ar:CH4:NO:CO2=34.5:2:2:13
まで変化するように、Ar流量を増加させることができる。
さらに、供給ガスにおけるNOとCO2との分圧比として、
CO2/(CO2+NO)の値が、0.75~0.87の範囲に設定される。
【0106】
このような膜構造のマスクブランクス10Bを形成することにより、遮光層13a、中間層13b、上中層13c、表層13dを含むクロム含有層13がクロム化合物で形成された位相シフトマスク10を形成することが可能になる。
【0107】
本実施形態のマスクブランクスの製造方法により、アスペクト比の小さくパターン幅の狭い高精細のパターン形成をおこなう際に、表層13dの耐薬品性を向上し、マスク層としてのエッチング速度を向上し、表層13dとレジスト層14との密着性を向上し、必要な光学濃度(OD)を呈するクロム含有層13を有するマスクブランクス10Bを製造することが可能となる。
ここで、表層13dにおいて向上される耐薬品性を示す薬剤は、酸として、硫酸過水、熱濃硫酸等、アルカリとして、NaOH、KOH等、それ以外に、オゾン水、等を例示することができる。
【0108】
さらに、表層13dと上中層13cとの密着性を向上して、パターン欠落の発生を少なくすることができる。
これにより、表層13dの欠落を減少し、パターン形成後に、スクラブ処理等を施す等の外力に対しても、パターン欠落の発生が増加しない程度のマスク層を製造することができる。しかも、高精細とされて狭幅のパターンにおいても、欠落発生の増加を防止することが可能となる。同時に、表層13dの耐薬品性を向上し、マスク層としてのエッチング速度を向上し、必要な光学濃度(OD)を呈するマスク層を有するマスクブランクス10Bを製造することが可能となる。
【0109】
以下、このように製造された本実施形態のマスクブランクス10Bから位相シフトマスク10を製造する方法について説明する。
図5~
図8は、本実施形態におけるマスクの製造工程を示す断面図である。
【0110】
本実施形態における位相シフトマスクの製造方法は、レジスト層形成工程と、レジストパターン形成工程と、クロム含有層パターン形成工程と、剥離洗浄工程と、下地層パターン形成工程と、剥離洗浄工程と、を有する。
【0111】
レジスト層形成工程として、
図2に示すように、マスクブランクス10Bの最上層であるクロム含有層13の上にレジスト層14が形成される。レジスト層14は、ポジ型でもよいしネガ型でもよいが、ポジ型とすることができる。レジスト層14としては、液状レジストが用いられる。
【0112】
レジストパターン形成工程においては、フォトレジスト層14を露光するとともに、現像することで、クロム含有層13の上に所定のパターン形状(開口パターン)を有するフォトレジストパターン14P1が形成される(
図5)。
フォトレジストパターン14P1は、クロム含有層13のエッチングマスクとして機能し、これらのクロム含有層13のエッチングパターンに応じて適宜形状が定められる。
【0113】
次いで、クロム含有層パターン形成工程として、フォトレジストパターン14P1越しに所定のドライエッチング装置を用いてクロム含有層13をドライエッチングして、クロム含有層パターン13P1を形成する(
図6)。
このとき、クロムを含有するクロム含有層13のドライエッチングでは、酸素を含有する塩素系ガス等を用いることができる。
【0114】
次いで、最初の剥離洗浄工程において、所定の剥離液を用いて、フォトレジストパターン14P1を除去する(
図7)。
洗浄液として、硫酸過水、あるいは、オゾン水を用いることができる。
【0115】
次いで、下地層パターン形成工程として、クロム含有層パターン13P1越しに所定のドライエッチング装置を用いて下地層12をドライエッチングして、下地層パターン12P1を形成する(
図8)。
クロム含有層パターン13P1は、下地層12のエッチングマスクとして機能する
また、下地層12のエッチングでは、異なるエッチングガス、たとえば、テトラフルオロメタン、六フッ化硫黄等から選ばれる少なくとも一つのフッ素化合物ガスを用いることができる。
【0116】
次いで、最後の剥離洗浄工程において、所定の洗浄液を用いて、クロム含有層パターン13P1および下地層パターン12P1を洗浄する。
洗浄液として、硫酸過水、あるいは、オゾン水を用いることができる。
これにより、フォトマスク(位相シフトマスク)10を形成する(
図8)。
【0117】
本実施形態のマスクブランクスの製造方法によれば、アスペクト比の小さくパターン幅の狭い高精細のパターン形成をおこなう際に、表層13dの耐薬品性を向上して酸過水、NaOH等のアルカリ液、あるいは、硫酸やオゾン水を用いる洗浄工程におけるマスク層の光学特性変動が発生することを防止可能なフォトマスク(位相シフトマスク)10を製造することができるマスクブランクス10Bを製造することが可能となる。
【0118】
本実施形態のマスクブランクスの製造方法によれば、マスク層であるクロム含有層13としてのエッチング速度を向上してエッチングにおける光学特性や膜厚等の膜特性への影響を低減し、必要な光学濃度(OD)を呈するマスク層であるクロム含有層13を有するとともに、レジスト層14の薄厚化の可能なマスクブランクス10Bを製造することが可能となる。これにより、レジスト倒れを抑制可能で、必要な膜特性を有するフォトマスク(位相シフトマスク)10を製造することができる。
ここで、レジスト倒れとは、パターン形成後、あるいは、パターン形成中に、クロム含有層13レジスト層14が部分的に剥離してしまうこと、特に、狭幅の遮光パターン13P1からレジストパターン14P1が剥離する箇所が発生することを意味する。
【0119】
本実施形態のマスクブランクスの製造方法によれば、表層13dのレジスト密着性を向上して、レジスト倒れ(レジスト剥離)の発生を抑制することができ、高精細なパターン形成が可能なマスクブランクス10Bを製造することが可能となる。これにより、必要な高精細とされて狭幅のパターン特性を有するフォトマスク(位相シフトマスク)10を製造することができる。
【0120】
本実施形態のマスクブランクスの製造方法によれば、下地層12との密着性を向上してパターン倒れ(パターン欠落)の発生を抑制し、高精細なパターン形成が可能なマスクブランクス10Bを製造することが可能となる。これにより、必要な高精細とされて狭幅のパターン特性を有するフォトマスク(位相シフトマスク)10を製造することができる。
【0121】
本実施形態のマスクブランクスの製造方法によれば、表層13dの耐薬品性を向上し、レジスト層14との密着性を向上するとともに、下地層12との密着性を向上して、高精細とされて狭幅のパターン形成における不具合の発生を抑制し、また、酸過水、NaOH等のアルカリ液、あるいは、硫酸やオゾン水を用いる洗浄工程におけるマスク層の光学特性変動が発生することを防止可能なフォトマスク(位相シフトマスク)10を製造することができるマスクブランクス10Bを提供することが可能となる。
【実施例】
【0122】
以下、本実施形態における実験例について説明する。
【0123】
本発明におけるマスクブランクス10Bの具体例に対する確認試験をおこなった。
まず、遮光層となるクロム含有層に対するエッチング特性を確認した。
<実験例1~3>
実験例1~3として、ガラス基板上に、成膜装置内においてクロムターゲットを用いたスパッタリング法により、遮光層として用いられるクロム化合物の膜を形成した。
それぞれの成膜条件を
図9に示す。
ここで形成するクロム含有層となる膜は、所定の光学濃度(OD)を有するとともに、クロム、酸素、窒素、炭素を含有し、それぞれCr,O,C,Nの組成比が膜厚に対して所定の値となる膜である。
【0124】
また、クロム含有層は、遮光層13a、中間層13b、表層13dに対応した1層目から3層目となる3層構造となるように、それぞれの成膜条件として成膜時に供給するガス種、ガス流量、スパッタ電力を、成膜厚さに対応して変化させる。ここで、供給ガスとしてAr、N2、CH4、NO、CO2から適宜選択し、またそれぞれの流量比を増加する膜厚に対応して設定する。
同時に、この1層目から3層目となる3層構造に対応する条件切り替え時においては、いずれもシャッタでターゲットと基板とを遮断した。
【0125】
また、実験例1~3として、それぞれの成膜条件を変化させた。ここで、実験例1~3においては、最表層となる3層目において、その組成が傾斜するように、ガス流量比を変化させた。なお、
図9においては、3層目の終了時のガス流量比を示している。
【0126】
さらにこれら実験例1~3において成膜したそれぞれの膜に対して、MoSi層をメタルマスクとしてドライエッチング処理をおこなってパターン形成をおこない、この際の、ドライエッチング時間を測定した。ここで、エッチング条件は、
・塩素:150sccm
・酸素:60sccm
・RF Power:0.5kW
・バイアスPower:50W
である。
【0127】
その結果として、
図10には、プラズマ発光強度のエッチング時間による変化を示している。膜がエッチングされて揮発量が低下すると、揮発材料に起因する波長の発光強度が急激に低下するため、エンドポイントを算出することができる
また、
図11に、各条件での放電開始からエンドポイントまでをエッチング時間とした場合の短縮率を示す。ここでは、同じエッチング厚を処理する際において、実験例1のエッチング時間に対する実験例2,3でのエッチング時間の短縮率を示している。
【0128】
これらの結果から、実験例3において、ドライエッチング時間を20%短縮できることがわかる。つまり、実験例3において、エッチング速度を向上できることがわかる。
【0129】
次に、遮光層となるクロム含有層に対する耐薬性を確認した。
<実験例1、5~8>
同様に、実験例3~6として、ガラス基板に1層目~3層目を有するクロム含有層を異なる成膜条件で成膜した。
【0130】
以下に、それぞれの実験例における膜の特徴を示す。
実験例3:1層目 N
2+CO
2膜、2層目 N
2膜、3層目 NO傾斜膜(1:0)
実験例4:1層目 N
2+CO
2膜、2層目 N
2膜、3層目CO
2傾斜膜(0:1)
実験例5:1層目 N
2+CO
2膜、2層目 N
2膜、3層目NO+CO
2混合傾斜膜(5:10)
実験例6:1層目 N
2+CO
2膜、2層目 N
2膜、3層目NO+CO
2混合傾斜膜(2:13)
また、それぞれの成膜条件、および、オージェ電子分光法で評価した最表層の酸素(Oatm%)と窒素(Natm%)との組成比O/(O+N)の値を
図12に示す。
【0131】
その後、それぞれの膜における酸、アルカリ、オゾン水に対する耐性として、薬液への暴露前後における、各膜の光学特性の変化を測定した。ここで、光学特性としては、光学濃度OD値の変化、反射率の変化を測定した。
【0132】
ここで、薬液に対する耐酸性として、温度100℃、濃度96%の硫酸に対する変化を測定した。また、浸漬時間を5分、15分、30分、60分、120分として変化させた。
また、薬液に対する耐アルカリ性として、温度20℃、濃度30%のNaOH液に対する変化を測定した。同様に、浸漬時間を5分、15分、30分、60分、120分として変化させた。
また、薬液に対する耐オゾン性として、温度20℃、濃度20ppmのオゾン水に対する変化を測定した。同様に、浸漬時間を5分、15分、30分、60分として変化させた。
【0133】
まず、成膜後に、光学特性として波長193nmに対するOD、および、Al膜をリファレンスとした膜面の相対反射率を測定した。
反射率は、日立ハイテクサイエンス社製分光光度計UH4150により測定した。
さらに、薬液浸漬後に洗浄機で洗浄し、再度、同様に光学特性を測定した。
【0134】
硫酸浸漬後の分光スペクトル測定の結果を
図13~
図16に示す。
図13~
図16に示す結果から、実験例4では全体的なスペクトルシフト(硫酸による過酸化)が少ないことがわかる。実験例6では全体的なスペクトルシフト(硫酸による過酸化)が少ないことがわかる。
【0135】
薬液浸漬の前後での光学特性(OD、反射率)の変化率を算出し、それぞれの条件における光学特性(OD、反射率)の最大変化量と最表層の酸素組成比との関係を確認した。
その結果を
図17に示す。
【0136】
図17に示す結果から、実験例3,実験例5,実験例6,実験例4に対応して、グラフの左から右へと並んでいることがわかる。つまり、薬液が、硫酸、アルカリ、オゾンである場合、実験例4、実験例5、実験例6のように、最表層の酸素組成:O/(O+N)が0.9以上)ある場合に、良好な結果が得られることがわかった。
【0137】
次に、遮光層となるクロム含有層に対するレジスト密着性を確認した。
実験例3~6として成膜したクロム含有層にレジスト層を形成し、露光現像してパターン形成をおこない、パターン倒れ確認、ピールテスト、さらに、表面観察をおこなった。
なお、このときの諸元を以下の条件とした。
レジスト(塗布形成)、レジスト;化学増幅型ポジレジスト(フジフィルムアーチ社製:FEP171) 厚さ;300nm
パターン形成;EB描画 (株式会社エリオニクス社製;ELS-S50)
PEB AHC-150UL
現像;水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH;Tetramethyl ammonium hydroxide) 2.38%
パターン倒れ確認用SEM観察; ELS-S50
ピールテスト; 株式会社SCOTCH社製テープによるテスト
顕微鏡観察 L300ND(ニコン製)
【0138】
ここで、形成するパターンにおけるパターンサイズ、つまり、パターン幅を変化させた。これは、レジスト膜厚が300nmであるので、アスペクト比すなわち、(レジスト膜厚/パターンサイズ)の値が次のように対応する。
パターン幅;100nm;3.0 アスペクト比
パターン幅;200nm;1.5 アスペクト比
パターン幅;300nm;1.0 アスペクト比
パターン幅;500nm;0.6 アスペクト比
パターン幅;1000nm;0.3 アスペクト比
【0139】
同時に、
図18に示すように、パターンを形成する領域をA~Dの4つのエリアに分けた。そして、それぞれのエリアにおけるパターン密度を
図19に示すように、変化させた。なお、パターン密度とは、
図20に示すパターン幅αと、パターンピッチβから得られる面積比(β
2/α
2)である。
図21,
図22に、アスペクト比0.6における、露光現像後のテープ剥離試験の結果を示す。
図21は、実験例4の最表層の酸素組成が高い条件の結果であり、パターンの剥離を示す黒い領域が多いことがわかる。
図20は、実験例5の最表層の酸素組成を下げた条件であり、パターンの剥がれが少なくなってゆく傾向があり、ガス流量比の変化によって最表層の組成を制御することで有意差が観察されたことがわかる。
【0140】
エリアBにおける500nmパターン、密度1.1%(右上)の最表層の酸素組成比に対するピールテスト後のパターン残率を
図23、
図24に示す。
【0141】
図24に示すように、最表層の酸素組成比:O/(O+N)が0.98以下となる範囲において、クロム含有層とレジスト層との密着性を維持できるという傾向がわかる。
これらの結果より、耐薬品性とレジストとの密着性を両立できる最表層の酸素組成:O/(N+O)の範囲は0.9~0.98であることを見出した。
【0142】
次に、遮光層となるクロム含有層に対する密着性を確認した。
<実験例3、4、6、7>
同様に、実験例3、4、6、に加えて、実験例7として、実験例6における2層目と3層目との間に、新たに上中層13cに対応する3層目を形成した。つまり、クロム含有層を4層構造とした。
ここで、上中層13cである3層目の成膜ガスとして、中間層13bおよび表層13dに対して、成膜ガスとしてCO
2ガスに変えて、CH
4ガスを供給するように設定している。
以下に、実験例7における膜特性を示す。
実験例7:1層目 N
2+CO
2膜、2層目 N
2膜、3層目N
2+CH
4膜 4層目NO+CO
2混合傾斜膜(2:13)
また、それぞれの成膜条件をまとめて
図25に示す。
【0143】
まず、実験例3、4、6、7のそれぞれのマスクブランクスに対して、
図20に示すドットパターンを幅寸法αを1μmとしてパターニングした後、これらを形成状態のイニシャル状態(初期状態)として、それぞれのパターン数、特に欠落数を光学顕微鏡でカウントした。
なお、パターン作成条件としては、
レジスト;アルカリ可溶性樹脂、ジアゾナフトキノン含有ポジ型フォトレジストTHMR-iP3500(東京応化社製)
露光時間、6.5sec
現像液;TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)
現像時間;30sec
エッチング時間;16sec
とした。
【0144】
次に、実験例3、4、6、7のそれぞれのマスクブランクスを濃度96%の硫酸液に5min浸漬する。
さらに、純水洗浄後にリン酸カリウム、界面活性剤を主成分とした濃度3%の洗浄液中で、ナイロンブラシを用いたスクラブ処理を3minおこなった後、これらの硫酸浸漬処理とスクラブ処理とを3回繰り返す。
パターン形成毎同様に、パターン数、特に欠落数を光学顕微鏡でカウントし、イニシャル状態からの欠落増加数を測定した。
【0145】
図26に、実験例7のイニシャル状態での欠落データと、スクラブ処理後(コスリ後)の欠落数とをそれぞれ示す。
なお、
図27にパターン欠落のカウントについて、代表パターン像を示す。
図27に示すように、パターンが完全に欠落したものと、Cr膜の表層のみが欠落したものとを区別してカウントする。
【0146】
表層の酸素組成比に対する種類別のパターン欠落数の結果を
図28にまとめて示す。
図28に示す結果から、表層の酸素組成比:O/(O+N)が多いと表層のパーン欠落が多いこと、表層の酸素組成比が多くても中間層と表層の間に、NO系の薄膜として上中層を設けることでパターン欠落が改善されることがわかる。
さらに、実験例7では、耐薬品性とレジスト密着性とCr膜密着性との良好な特性が得られることがわかる。
【0147】
次に、遮光層となるクロム含有層に対する組成比を測定した。
<実験例3、4、6、7>
クロム含有層において、各1層目としての遮光層、2層目としての中間層、3層目としての上中層、4層目としての表層におけるCr,C,N,Oの組成比を、オージェ電子分光法を用いて組成評価を行った。
この結果を
図29にまとめて示す。
なお、4層目は、表層における組成比を示している。
また、
図30に、Arイオンによるスパッタエッチング時間1minごとに測定した、実験例7のオージェ電子分光法を用いた組成評価結果を示す。上中層を追加することによる中間組成膜の形成が確認できた。
【0148】
次に、遮光層となるクロム含有層に対するエッチング速度を測定した。
<実験例7>
クロム含有層において、各1層目としての遮光層、2層目としての中間層、3層目としての上中層、4層目としての表層に対してエッチング処理をおこない、その際、それぞれのエッチング速度を比較した。
このときのエッチング条件は、
塩素:150sccm、酸素:60sccm、RF Power:0.5kW、バイアスPower:50W
である。
【0149】
その結果、以下のエッチング速度の関係を得た。
3層目 < 2層目 < 4層目 < 1層目
【0150】
さらにこれら実験例3、7において成膜したそれぞれの膜に対して、MoSi膜をメタルマスクとしてドライエッチング処理をおこなってパターン形成をおこない、断面SEM画像を取得した。
その結果を
図31,
図32に示す。
Cr層における断面の傾斜が実験例3と比較して実験例7の方が垂直に近くなり、良好な断面形状が得られることがわかる。
【0151】
次に、遮光層となるクロム含有層に対する光学特性を測定した。
<実験例1、7>
まず、実験例1、7において、露光光に対応する測定光の波長193nmに対して、反射率を測定した。このとき、日立ハイテクサイエンス製の分光光度計 UH4150を用いた。
この結果を
図33に示す。
【0152】
さらに、露光光に対応する測定光の波長193nmに対して、膜表面における光学濃度(OD)を測定した。同様に、日立ハイテクサイエンス製の分光光度計 UH4150を用いた。
この結果を
図34に示す。
【0153】
図33に示す結果から、反射率が23%となるよう反射率のボトムを短波長側にシフトすることができる。
反射率を低くすることにより、露光中、レジスト膜中に定在波が発生することを抑制することができる。また、ウェハ転写時にマスクとレンズ間での多重反射を抑制することができるという効果を奏することができる。
【0154】
図34に示す結果から、193nmでのODが、1.9程度となるよう調整することができる。
これにより、ウェハ転写時に十分な遮光性能を得ることができるという効果を奏することができる。
【0155】
これらの結果から、本発明よれば、耐薬性を向上し、レジスト密着性を向上し、下層との密着性を向上し、エッチング速度を向上することが同時に可能となる。
【符号の説明】
【0156】
10…位相シフトマスク(フォトマスク)
10B…マスクブランクス
10L…透光領域
11…ガラス基板(透明基板)
12…位相シフト層(下地層)
12P1…位相シフト層透過パターン(下地層透過パターン)
13…クロム含有層
13A…最表面
13a…遮光層(第1層)
13b…中間層(第2層)
13c…上中層(第3層)
13d…表層(第4層)
13P1…クロム含有層パターン(遮光パターン)
14…レジスト層(フォトレジスト層)
14P1…フォトレジストパターン(レジストパターン)