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特許7417580光活性化水素生成のための改善された方法および系
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-10
(45)【発行日】2024-01-18
(54)【発明の名称】光活性化水素生成のための改善された方法および系
(51)【国際特許分類】
   C12P 3/00 20060101AFI20240111BHJP
   C01B 3/04 20060101ALI20240111BHJP
   C12N 9/02 20060101ALN20240111BHJP
【FI】
C12P3/00 Z
C01B3/04 Z
C12N9/02
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021500019
(86)(22)【出願日】2019-03-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-07-29
(86)【国際出願番号】 US2019021991
(87)【国際公開番号】W WO2019178189
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2022-01-13
(31)【優先権主張番号】62/642,401
(32)【優先日】2018-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520352838
【氏名又は名称】ボーマックス ハイドロジェン エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】マックスウェル, デボラ ビー.
(72)【発明者】
【氏名】ガーラック, デイドラ エル.
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0037911(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 3/00
C01B 3/04
C12N 9/02
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を生成するための組成物であって、
表面がメルカプトスクシネートでキャッピングされた水溶性セレン化カドミウムナノ粒子(CdSe)(CdSe-MSA)、および
NafYタンパク質と、鉄-モリブデン補因子(FeMo-co)とを含むNafY・FeMo-co錯体
を含み、
前記CdSe-MSAおよびNafY・FeMo-co錯体が、1:3~1:10のモル比で存在する、組成物。
【請求項2】
前記CdSe-MSAおよび前記NafY・FeMo-co錯体が、1:3、1:4または1:5のモル比で存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
プロトンおよび電子を提供するための亜ジチオン酸ナトリウムをさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記亜ジチオン酸ナトリウムが、2mM~1Mまたは2~100mMまたは2~10mMの濃度で提供されている、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
追加のプロトン源をさらに含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物が、5~90日、10~72日または39~72日の長期間にわたって水素ガスを光触媒的に生産することができる、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物が、嫌気条件下に保たれる、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記NafYタンパク質が、Azotobacter Vinelandiiに由来する、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記FeMo-coが、モリブデン-鉄(MoFe)タンパク質に由来する、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記MoFeタンパク質が、Azotobacter Vinelandiiに由来する、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
水素ガスを生産するための方法であって、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物を、ピーク波長が400~525nmの光源で照射するステップを含む、方法。
【請求項12】
前記ピーク波長が425nmである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ピーク波長が460nmである、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記光源の強度が18,000~1,200,000luxまたは50,000~800,000luxである、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記組成物が、水性である、請求項1に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その全開示が参照により本明細書に組み込まれる、2018年3月13日出願の米国特許仮出願第62/642,401号の利益および優先権を主張する。
【0002】
本開示は概して、代替燃料、特に、光活性ナノ粒子およびニトロゲナーゼ補因子を含む系によって光触媒的に生成された水素を提供するための系および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
グリーンエネルギー輸送源としての水素の世界的な需要が年々高まっている。主要な自動車製造業者は、トヨタ・ミライおよびホンダ・クラリティなどの、水素燃料電池で走行する手頃な自動車モデルを開発している(1、2)。カリフォルニアを中心とするいくつかの米国の州は、水素ハイウェイ構想を採用している(3)。EUおよびその他の多数の国は、今後10~15年の内燃機関の販売を禁止している(4)。
使用場所でのオンサイトの持続可能な水素生成系は、最も主要な水素生産方法である水蒸気メタン改質の代替的方法として経済的かつ環境的に魅力的である(5)。したがって、水素を生産するための改善された系および方法に対する必要性が存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Vincent Kylie A.ら、Chemical Reviews,(2007)107,4366~4413
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
一態様では、水素ガスを光触媒的に生産するための系であって、表面がメルカプトスクシネートでキャッピングされた水溶性セレン化カドミウムナノ粒子(CdSe)(CdSe-MSA)、およびNafYタンパク質と、鉄-モリブデン補因子(FeMo-co)とを含むNafY・FeMo-co錯体を含み、CdSe-MSAおよびNafY・FeMo-co錯体が、約1:2~1:10のモル比で存在する系が本明細書で提供される。
【0006】
一部の実施形態では、CdSe-MSAおよびNafY・FeMo-co錯体は、約1:2、1:3、1:4または1:5のモル比で存在してもよい。
【0007】
一部の実施形態では、系は、プロトンおよび電子を提供するための亜ジチオン酸ナトリウムをさらに含んでもよい。一部の実施形態では、亜ジチオン酸塩は、約2mM~1Mまたは約2~100mMまたは約2~10mMの濃度で提供される。ある特定の実施形態では、系は、アスコルビン酸、酢酸、クエン酸および二酸化炭素などの追加のプロトン源をさらに含んでもよい。
【0008】
一部の実施形態では、系は、約5~90日、10~72日または39~72日の長期間にわたって水素ガスを光触媒的に生産することができる。
【0009】
種々の実施形態では、系は嫌気条件下に保たれる。NafYタンパク質は、Azotobacter Vinelandiiに由来してもよい。FeMo-coは、モリブデン-鉄(MoFe)タンパク質に由来してもよい。MoFeタンパク質は、Azotobacter Vinelandiiに由来してもよい。
【0010】
別の態様では、水素ガスを生産するための方法であって、本明細書に開示される系を、ピーク波長が約400~525nmの光源で照射するステップを含む、方法が本明細書に提供される。一部の実施形態では、ピーク波長は約425nmである。一部の実施形態では、ピーク波長は約460nmである。一部の実施形態では、光源の強度は約18,000~1,200,000luxまたは約50,000~800,000luxである。
【0011】
さらなる態様では、水素ガスを生産するための方法であって、系を、ピーク波長が約400~525nmの光源で照射するステップを含み、系が、表面がメルカプトスクシネートでキャッピングされた水溶性セレン化カドミウムナノ粒子(CdSe)(CdSe-MSA)、およびNafYタンパク質と、鉄-モリブデン補因子(FeMo-co)とを含むNafY・FeMo-co錯体を含む方法が本明細書に提供される。
【0012】
一部の実施形態では、ピーク波長は約425nmまたは約460nmである。一部の実施形態では、光源の強度は約18,000~1,200,000luxまたは約50,000~800,000luxである。
【0013】
一部の実施形態では、CdSe-MSAおよびNafY・FeMo-co錯体は、約1:1またはそれよりも低いモル比、例えば約1:2~約1:10の範囲で存在する。一部の実施形態では、CdSe-MSAおよびNafY・FeMo-co錯体は、約1:2、1:3、1:4または1:5のモル比で存在する。
【0014】
一部の実施形態では、系は、プロトンおよび電子を提供するための亜ジチオン酸ナトリウムをさらに含む。一部の実施形態では、亜ジチオン酸塩は、約2mM~1Mまたは約2~100mMまたは約2~10mMの濃度で提供される。ある特定の実施形態では、系は、アスコルビン酸、酢酸、クエン酸および二酸化炭素などの追加のプロトン源をさらに含む。
【0015】
種々の実施形態では、系は、約5~90日、10~72日または39~72日の長期間にわたって水素ガスを光触媒的に生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、例示的な水素生成試料の成分を示す図である。メルカプトコハク酸でキャッピングされたCdSe(2μM)をNafY-FeMo-co(2μM)と錯体形成した。犠牲電子供与体(Na)が2mMの濃度で存在する。
【0017】
図2図2は、例示的な水素試料を18ヶ月間にわたる水素生産体積の比較によって示す、水素生成の進捗を示す図である。
【0018】
図3図3は、初期検証実験からの3000倍の増加を実証する、24時間目に測定されたバースト率を示す図である。進捗は、実用化可能性の達成ならびに水素および燃料電池市場への参入に向けて進む。
【0019】
図4図4は、特定の波長のLED光で照射された試料の水素生産の比較を示す図である。ロイヤルブルーLED光の前方の試料が、時間をわたり最も多くの水素を生産する。反応条件は、2μMのCdSe、2μMのNafY-FeMo-co、2mMのNaであった。
【0020】
図5A図5Aは、15日間の実験での、白色光の前方の水素生成試料のUV-vsスペクトルを示す図である。反応条件は、2μMのCdSe、2μMのNafY-FeMo-co、2mMのNaであった。吸収スペクトルの主要な特色である赤方偏移が、露光の24時間後に測定されたことに留意されたい。この偏移は、水素生産率の増加に関連する。吸光度は露光から15日後に減少し始めるが、これは溶液の色の光退色および触媒能の損失が観察されたことと一致する。
【0021】
図5B図5Bは、図5Aと同じ反応条件でロイヤルブルーLEDで照射され、より低エネルギーの光で照射されたのみの試料を示す図である。主要な特色である同様の初期の赤方偏移が存在するが、吸光度は白色LEDで照射された試料より速い速度で減少することに留意されたい。試料は6日目に分解および/または光退色し始め、これは沈殿物の蓄積と一致する。
【0022】
図6図6は、いずれも白色LEDで、しかし異なる強度測定値で照射された2つの試料セットの、同じ条件(2μMのCdSe、2μMのNafY-FeMo-co、2mMのNa)での比較を示すプロット図である。強度が高いほど、水素生産率が増大する。
【0023】
図7図7は、強度が異なるが同じ波長の青色LED光の前方の、2つの試料セットの比較を示す図である。その他の反応条件は同じである。高強度のLEDで照射されると、初期水素生産が増大する。
【0024】
図8A図8Aは、最も高強度のロイヤルブルーLED光に配置された最適化セット分析論1の試料を示す図である。試料は、露光から24時間目の測定でおよそ20.5kgのH/触媒mol/日の高バースト率を達成したが、触媒のナノ粒子の吸光度は持続せず、ナノ粒子は最初の24時間以内に沈殿した。反応条件は、2μMのCdSe、2μMのNafY-FeMo-co、10mMのNaであった。CdSeとNafY-FeMo-coの比は1:1であることに留意されたい。
【0025】
図8B図8Bは、ロイヤルブルーLEDの前方に配置された試料の図である。ただし、強度は半分であり、CdSeとNafY-FeMo-co成分の比は1:2である。試料は、4日目の露光を過ぎて吸収が顕著に減少するまで、UV-visスペクトルで観察されるように持続した。
【0026】
図8C図8Cは、ロイヤルブルーLEDの前方に配置された試料の図である。ただし、強度は半分であり、CdSeとNafY-FeMo-co成分の比は1:3である。試料は、10日目の露光を過ぎて吸収が顕著に減少するまで、UV-visスペクトルで観察されるように持続した。
【0027】
図9A図9Aおよび9Bは、CdSeのNafY-FeMo-coに対する比が1:2および1:3の試料セットの水素生成を示す図である。1:2の比の試料がより高いバースト率を示したが、1:3の比の試料は持続した定常の水素生成を実証した。
図9B図9Aおよび9Bは、CdSeのNafY-FeMo-coに対する比が1:2および1:3の試料セットの水素生成を示す図である。1:2の比の試料がより高いバースト率を示したが、1:3の比の試料は持続した定常の水素生成を実証した。
【0028】
図10A図10A、10Bおよび10Cは、高強度の白色LED光の前方の、CdSeのNafY-FeMo-coに対する様々な成分比でのUV-visデータの対比を示す図である。1:1の比のUV-vis吸光度は、8日目までに顕著な減少を示す。1:2試料は20日目までに吸光度の減少を示し、37日目には吸光度をほぼ全く示さない。1:5試料は、25日目まで分光法の特色である吸収のわずかな減少を示した。図10Aおよび10Bに示される試料セットは、2μMのCdSe、2μMのNafY-FeMo-co、5mMのNaCl、1mMのNa、2mMの酢酸であった。図10Cに示される試料セットは、1:5の比の1μMのCdSe、5μMのNafY-FeMo-co、5mMのNaCl、1mMのNa、2mMの酢酸であった。
図10B】同上。
図10C】同上。
【0029】
図11A図11Aは、図10A、10Bおよび10Cに記載される異なる比を有する3つのセットについて、合計水素生産量を示す図である。
【0030】
図11B図11Bは、1:2の比のセットで達成された定常率とともに外挿率を示す図である。1:5の比のセットは、1:2の比のセットより高率の初期率を達成し、さらに、数週間定常を保ったUV-vis吸光度に一致する定常状態率をもたらした。
【0031】
図12A図12A~12Dは、高強度のシアン色LED光の前方の、1:1、1:2、1:3および1:4での、CdSeとNafY-FeMo-coの間の4つの対照的な比のデータの試料セットを示す図である。比率がより高い試料は最も長期間にわたって最も持続した吸光度データを示す。2μMのCdSe、2μMのNafY-FeMo-co、5mMのNaCl、2mMのNaが反応条件であった。
図12B図12A~12Dは、高強度のシアン色LED光の前方の、1:1、1:2、1:3および1:4での、CdSeとNafY-FeMo-coの間の4つの対照的な比のデータの試料セットを示す図である。比率がより高い試料は最も長期間にわたって最も持続した吸光度データを示す。2μMのCdSe、2μMのNafY-FeMo-co、5mMのNaCl、2mMのNaが反応条件であった。
図12C図12A~12Dは、高強度のシアン色LED光の前方の、1:1、1:2、1:3および1:4での、CdSeとNafY-FeMo-coの間の4つの対照的な比のデータの試料セットを示す図である。比率がより高い試料は最も長期間にわたって最も持続した吸光度データを示す。2μMのCdSe、2μMのNafY-FeMo-co、5mMのNaCl、2mMのNaが反応条件であった。
図12D図12A~12Dは、高強度のシアン色LED光の前方の、1:1、1:2、1:3および1:4での、CdSeとNafY-FeMo-coの間の4つの対照的な比のデータの試料セットを示す図である。比率がより高い試料は最も長期間にわたって最も持続した吸光度データを示す。2μMのCdSe、2μMのNafY-FeMo-co、5mMのNaCl、2mMのNaが反応条件であった。
【0032】
図13A図13Aは、図12A~12Dの試料の水素生産の合計の比較を示す図である。1:1が最高のバースト率を示すが、定常の水素生産は1:2および1:3試料で最も良好に実証される。
【0033】
図13B図13Bは、持続した率が、より高い比率の試料セットで最も良好に達成されることを示す、外挿率を示す図である。より高い犠牲供与体投入量でより高い水素生産率が達成された。
【0034】
図14A図14は、高強度の青色LED光で照射された2つの試料セットを示す図である。CdSeのNafY-FeMo-coに対する比は、それぞれ1:1と1:4であった。鮮明な青色光条件では、1:4試料セットは均質性を22日間維持し、吸収の減少がわずかである。1:1の比の試料セットは、露光の24時間以内に沈殿した。2μMのCdSe、2μMのNafY-FeMo-co、5mMのNaCl、10mMのNaが反応条件であった。
図14B図14は、高強度の青色LED光で照射された2つの試料セットを示す図である。CdSeのNafY-FeMo-coに対する比は、それぞれ1:1と1:4であった。鮮明な青色光条件では、1:4試料セットは均質性を22日間維持し、吸収の減少がわずかである。1:1の比の試料セットは、露光の24時間以内に沈殿した。2μMのCdSe、2μMのNafY-FeMo-co、5mMのNaCl、10mMのNaが反応条件であった。
【0035】
図15A図15Aおよび15Bは、1:1試料セットの高バースト率を示す、水素生成の結果を示す図である。1:4は持続した定常率を示す。
図15B図15Aおよび15Bは、1:1試料セットの高バースト率を示す、水素生成の結果を示す図である。1:4は持続した定常率を示す。
【0036】
図16A図16Aは、39日間にわたって持続した水素生産を実証した、初期最適化フェーズにおける試料セットの継続期間を示す図である。
【0037】
図16B図16Bは、白色LED光および青色LED光の前方の両方の試料セットの水素生成が30日間継続することを示す図である。
【0038】
図17A図17Aは、系のスイッチ「オン」および「オフ」される能力を実証する、広域スペクトルのハロゲン光の前方の試料セットを示す図である。試料の条件は、2μMのCdSe、2μMのNafY-FeMo-co、2mMのNaであった。最初のプロット図は試料の水素生産対配置後日数を示しており、これらの試料は、光の前方に置かれた後、示される期間にわたって暗所に移された。黄色のバーは、試料に光を当てた日を示す。第2のプロット図は、試料の水素生産対露光日数を示す。
【0039】
図17B図17Bは、最初に暗所条件に配置され、次に図17Aに示す試料とは異なる間隔で露光された、同じ反応条件の「暗所」と標識された試料セットの図である。
【0040】
図18A図18Aおよび18Bは、2μMのCdSe、2μMのNafY-FeMo-co、2mMのNaの条件で配置された試料の図である。露光前に暗所で一定期間費やした試料は、わずかな水素生産の増加を示した。
図18B図18Aおよび18Bは、2μMのCdSe、2μMのNafY-FeMo-co、2mMのNaの条件で配置された試料の図である。露光前に暗所で一定期間費やした試料は、わずかな水素生産の増加を示した。
【0041】
図19A図19Aおよび19Bは、図18Aおよび18Bに示されるLED試料セットによる水素生成のプロット図の続きである。配置から12日間継続して露光した後、試料を53日間暗所に置き、次に明所に戻してさらに水素を生成させた。図19Aは水素の合計対配置後日数のプロット図であり、図19Bは水素の合計対露光日数のプロット図である。
図19B図19Aおよび19Bは、図18Aおよび18Bに示されるLED試料セットによる水素生成のプロット図の続きである。配置から12日間継続して露光した後、試料を53日間暗所に置き、次に明所に戻してさらに水素を生成させた。図19Aは水素の合計対配置後日数のプロット図であり、図19Bは水素の合計対露光日数のプロット図である。
【0042】
図20A図20Aおよび20Bは、53日間の暗所を経た試料セットについての、図19A、19Bのデータのさらなる分析を示す図である。試料セットは露光再開後に継続して水素を生産したが、率は同じ試料の開始時生産率に比べて減少した。試料の条件は、2μMのCdSe、2μMのNafY-FeMo-co、2mMのNaであった。図20Aは水素の合計対露光日数のプロット図であり、暗所での53日後に明所に戻された試料はプライム記号(’)で再標識され、54日目は新たな露光1日目としてプロットされる。図20Bは、外挿水素生成率対露光日数のプロット図である。
図20B図20Aおよび20Bは、53日間の暗所を経た試料セットについての、図19A、19Bのデータのさらなる分析を示す図である。試料セットは露光再開後に継続して水素を生産したが、率は同じ試料の開始時生産率に比べて減少した。試料の条件は、2μMのCdSe、2μMのNafY-FeMo-co、2mMのNaであった。図20Aは水素の合計対露光日数のプロット図であり、暗所での53日後に明所に戻された試料はプライム記号(’)で再標識され、54日目は新たな露光1日目としてプロットされる。図20Bは、外挿水素生成率対露光日数のプロット図である。
【0043】
図21A図21A、21Bおよび21Cは、ロイヤルブルーLED光の前方に置かれた試料セットの対照的なUV-visデータを示す図である。図21Aに示される高エネルギーかつ高強度の光の前方の試料は、9日目までに吸光度の減少を示す。図21Bは、全継続期間暗所に保たれた試料のスペクトルを示す図である。12日目に暗所試料に光を当て、類似の配置時間スタンプとして0’日目と標識した。図21Cは、12日間の暗所から開始してその後露光され、9日間の露光にわたって吸光度を維持した試料のスペクトルを示す図である。
図21B図21A、21Bおよび21Cは、ロイヤルブルーLED光の前方に置かれた試料セットの対照的なUV-visデータを示す図である。図21Aに示される高エネルギーかつ高強度の光の前方の試料は、9日目までに吸光度の減少を示す。図21Bは、全継続期間暗所に保たれた試料のスペクトルを示す図である。12日目に暗所試料に光を当て、類似の配置時間スタンプとして0’日目と標識した。図21Cは、12日間の暗所から開始してその後露光され、9日間の露光にわたって吸光度を維持した試料のスペクトルを示す図である。
図21C図21A、21Bおよび21Cは、ロイヤルブルーLED光の前方に置かれた試料セットの対照的なUV-visデータを示す図である。図21Aに示される高エネルギーかつ高強度の光の前方の試料は、9日目までに吸光度の減少を示す。図21Bは、全継続期間暗所に保たれた試料のスペクトルを示す図である。12日目に暗所試料に光を当て、類似の配置時間スタンプとして0’日目と標識した。図21Cは、12日間の暗所から開始してその後露光され、9日間の露光にわたって吸光度を維持した試料のスペクトルを示す図である。
【0044】
図22A図22Aおよび22Bは、図21A、21Bおよび21Cに示される試料の水素生成を示す図である。暗所でのインキュベーションがスペクトルの完全性の維持に寄与した可能性があるが、これらの試料は全体的により少ない量の水素を生産した。図22Aは、水素生産の合計対露光日数のプロット図であり、図22Bは外挿水素生成率対露光日数である。
図22B図22Aおよび22Bは、図21A、21Bおよび21Cに示される試料の水素生成を示す図である。暗所でのインキュベーションがスペクトルの完全性の維持に寄与した可能性があるが、これらの試料は全体的により少ない量の水素を生産した。図22Aは、水素生産の合計対露光日数のプロット図であり、図22Bは外挿水素生成率対露光日数である。
【0045】
図23A図23Aおよび23Bは、露光を中止し水素生産を停止した試料セットの水素生産についてのさらなるデータを示す図である。これらの試料はシアン色光の前方に置いた。図23Aは水素生産の合計対暗所の日数を含む配置後日数のプロット図であり、図23Bは水素生産の合計対露光日数のプロット図である。
図23B図23Aおよび23Bは、露光を中止し水素生産を停止した試料セットの水素生産についてのさらなるデータを示す図である。これらの試料はシアン色光の前方に置いた。図23Aは水素生産の合計対暗所の日数を含む配置後日数のプロット図であり、図23Bは水素生産の合計対露光日数のプロット図である。
【0046】
図24A図24Aおよび24Bは、10日間の水素生成実験の最中に、暗所で3日間費やすことは水素生成を妨げないことを実証するデータを示す図である。図24Aは水素生産の合計対暗所の日数を含む配置後日数のプロット図であり、図24Bは水素生産の合計対露光日数のプロット図である。
図24B図24Aおよび24Bは、10日間の水素生成実験の最中に、暗所で3日間費やすことは水素生成を妨げないことを実証するデータを示す図である。図24Aは水素生産の合計対暗所の日数を含む配置後日数のプロット図であり、図24Bは水素生産の合計対露光日数のプロット図である。
【0047】
図25A図25A、25Bおよび25Cは、高エネルギーの青色LED光の前方の、CdSeとNafY-FeMo-coの比が1:3の試料セットを示す図である。図25Aは水素生産の合計対暗所の日数を含む配置後日数のプロット図であり、図25Bは水素生産の合計対露光日数のプロット図である。図25Cは外挿水素生成率対露光日数のプロット図である。
図25B図25A、25Bおよび25Cは、高エネルギーの青色LED光の前方の、CdSeとNafY-FeMo-coの比が1:3の試料セットを示す図である。図25Aは水素生産の合計対暗所の日数を含む配置後日数のプロット図であり、図25Bは水素生産の合計対露光日数のプロット図である。図25Cは外挿水素生成率対露光日数のプロット図である。
図25C図25A、25Bおよび25Cは、高エネルギーの青色LED光の前方の、CdSeとNafY-FeMo-coの比が1:3の試料セットを示す図である。図25Aは水素生産の合計対暗所の日数を含む配置後日数のプロット図であり、図25Bは水素生産の合計対露光日数のプロット図である。図25Cは外挿水素生成率対露光日数のプロット図である。
【0048】
図26図26は、亜ジチオン酸ナトリウムを単独で含む種々の試料セットならびに亜ジチオン酸ナトリウムとアスコルビン酸および亜ジチオン酸ナトリウムと酢酸を含む追加のセットについての水素生産を示す図である。すべての試料は高強度の青色光の前方に置いた。
【0049】
図27図27は、青色光の強度がより低く、亜ジチオン酸ナトリウムの量および亜ジチオン酸ナトリウム/酢酸投入量がより少ない2つの試料セットの水素生産を示す図である。持続した水素生産率が観察された。反応条件は、一方のセットで2μMのCdSe、2μMのNafY-FeMo-coおよび0.5mMのNa、別のセットで2μMのCdSe、2μMのNafY-FeMo-co、0.5mMのNaおよび0.5mMの酢酸であった。
【発明を実施するための形態】
【0050】
別段定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術および科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者に一般に理解されるものと同じ意味を有する。本開示で使用するための方法および材料が本明細書に記載されるが、当技術分野で公知の他の好適な方法および材料が使用されてもよい。材料、方法および例はほんの例示であり、限定的であるとは意図されない。本明細書で言及されるすべての刊行物、特許出願、特許、データベースエントリーおよび他の参考文献は、それらの全体が参照により組み込まれる。矛盾する場合、定義を含む本明細書が優先する。
【0051】
本明細書で使用する場合、冠詞「a」および「an」は、冠詞の文法的対象物の1つまたは1つより多く(すなわち、少なくとも1つ)を指すように本明細書で使用される。例として、「要素」は1つの要素または1つより多くの要素を意味する。
【0052】
本明細書で使用する場合、用語「約」は20%以内、より好ましくは10%以内、最も好ましくは5%以内を意味する。
【0053】
「ピーク波長」は、供給源の光学出力が最大である波長を意味する。
【0054】
本開示は、太陽エネルギーを利用して、今世紀の最重要課題である代替燃料を生産することができる触媒系に関する。実際に、最も広範に使用されている化石燃料である石油は、最終的に枯渇する可能性がある。天然産物と人工の成分の両方を利用するいくつかの触媒系が科学文献で報告されている。ハイブリッド系のいくつかは、細菌中の水素を酸化還元する酵素であるヒドロゲナーゼを、単独で、または白金とカップリングされた光化学系Iと組み合わせて使用する。本開示の目的は、より少量の触媒天然成分とともに、入手が制限される金属白金ではなく、より安価な集光半導体を使用する系を開発することであった。驚くべきことに、本開示の系は予想外の長寿命を示し、水素を長期間生産することができる。系を作製および使用するための方法もまた提供される。
【0055】
再生可能な水素源を生成する光生体触媒系は複数の理由で魅力的であり、この理由としては、化石燃料を使用する代わりに可視光源を用いて電子を供給し、安価な弱酸を原料に利用することが挙げられる(7)。CdSe-NafY-FeMo-co触媒系の近年の進歩および改善は、これに限定されないが、顕著な商業的利点を伴う、使用場所でのオンサイトの水素送達系を含む種々の利点を達成している。実施形態では、これらの改善は、水素生産率、水素生産継続期間を増大させ、さらに触媒の理解を向上させ、その性能の改善に寄与している。さらに、水素生産率の増加は「バースト」率と特定され、これは典型的に実験開始から24時間以内に測定によって観察される。
【0056】
本明細書に記載される実施形態は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第9,605,279号(6)に開示される系などの、水素を生産するセレン化カドミウムNafYタンパク質FeMo-co触媒系(CdSe・NafY・FeMo-co)になされる改善を説明する。改善には、触媒系の実用化可能性を促進する驚くべき発見が含まれる。
【0057】
一部の実施形態では、本明細書に開示されるCdSe・NafY・FeMo-co系による水素生産は、以下のうちの1つまたは複数によって著しく増強される可能性がある:
- 照射波長(例えば、約400~550nmまたは約425~525nmのピーク波長、または青色LEDもしくはロイヤルブルーLEDのピーク波長)および強度(例えば、約18,000~1,200,000lux、または約50,000~800,000lux);
- 原料としてのプロトンの入手可能性または供給源(例えば、亜ジチオン酸塩、酢酸、アスコルビン酸、クエン酸および/または水に溶解された二酸化炭素のうちの1つまたは複数);および/または
- 成分の完全性(例えば、成分の互いに対する比)。
【0058】
驚くべきことに、CdSeのNafY-FeMo-coに対する比は、触媒の完全性および水素生産の継続期間に影響を及ぼすことが見出された。試料は可視光スペクトルの特定の波長のLEDで照射されるか、日光で照射されてもよい。様々な実施形態では、NafY-FeMo-coの濃度は、CdSeとNafY-FeMo-coの比が1:2、1:3、1:4または1:5であるように変動してもよい。NafY-FeMo-coのCdSeに対する過剰量が多いほど、電子特性の持続および溶液の均質性が長引く。これはまた、CdSe投入量あたりの水素生産率の低下に直接つながる。触媒は、率の減少が原料投入量の増加で部分的に相殺される程度まで、原料の投入量の増加に耐えることができる。
【0059】
別の驚くべき発見は、電子供与体の投入量をさらに過剰にする(亜ジチオン酸塩Naのスパイク)と、経時的に触媒系の完全性が脅かされる可能性があるということである。したがって、亜ジチオン酸塩の濃度を十分に低く維持すること、および/または代替的もしくは追加のプロトン供与体を使用することが望ましい場合がある。水素生成が停止する場合がある1つの理由は、電子源が消費されたことであった。試料のスパイクは、より多くのプロトンおよび電子を提供するために亜ジチオン酸ナトリウムを用いて行った(亜ジチオン酸塩は還元剤として作用するだけでなく、モノマー形態で水と反応してプロトンも生産するため)が、試料を数週間、ハロゲンとLED光の両方の光試料の前方に供したところ、亜ジチオン酸ナトリウム自体が触媒そのものを脅かした可能性があることが提示された。亜ジチオン酸ナトリウムがナノ粒子の表面と相互作用し、表面の欠損をもたらした可能性があることが提示された。光励起電子は、吸着されたNafY-FeMo-coへの電子の移動に参与してプロトンの還元を促進するのではなく、再結合を経た可能性がある。プロトン源および電子源は、亜ジチオン酸ナトリウム試薬(Na)であった。この供給源の濃度を増大させると、水素生産が増大することが示された。試料を亜ジチオン酸ナトリウムの追加注入で「スパイク」し、3または4または5日目に、濃度を2mMまたはそれより高い濃度に戻した。二量体の亜ジチオン酸イオン(S -2)は、そのモノマー形態(SO ・-)である二酸化硫黄ラジカルと平衡状態にあることが公知である。このモノマーが、以下の反応順序によって示されるように水と反応してプロトンを形成する。亜ジチオン酸ナトリウムが反応ミックスに存在することにより、酸素スカベンジャーとして作用して嫌気環境を維持するだけでなく、犠牲電子供与体となり、CdSeナノ粒子の光活性化の結果として形成された励起子のホールを埋める(13)。
【化1】
【0060】
理論に束縛されることを望むことなく、亜ジチオン酸塩がナノ粒子の表面に結合し、配位子効果に寄与する可能性があると考えられる。触媒が、試料の配置後にその元の状態から変化したこと、ならびにこれらの変化は、UV-visスペクトル、触媒溶液の実際の外観、および生産された水素の測定量で観察されることが示唆される。亜ジチオン酸ナトリウムがこれらの変化において果たす役割は、TEMなどのナノ粒子表面の特徴付け技術で調査することができる(14)。実施形態では、電子およびプロトン供与体の濃度レベルの維持は、酢酸、アスコルビン酸、クエン酸および水に溶解された二酸化炭素などの、亜ジチオン酸ナトリウム以外の他の供給源を使用することによって達成されてもよい。
【0061】
実施形態では、系は、水素生産率の増加とある程度相関するスペクトルの変化を経る。
【0062】
実施形態では、光源の追加または除去によって水素生成をオンおよびオフすることができる。
【0063】
実施形態では、系の安定性は、タンパク質成分の存在によって増強する場合がある。
【0064】
他の水素生成方法に対する本開示のCdSe-NafY-FeMo-co系のある特定の利点を以下に要約する。
【表4】
【実施例
【0065】
本開示の態様は、いかなる様態でも本開示の範囲を制限するものと解釈されるべきではない以下の実施例に照らしてさらに理解することができる。
(実施例1)
水素生成反応成分の調製
【0066】
実施形態では、触媒を含む成分をアセンブルした。ニトロゲナーゼ酵素の成分IであるMoFeタンパク質をコードするNif DK遺伝子のNif DのC末端にポリヒスチジンタグを結合することにより、Azotobacter Vinelandiiを遺伝子操作した。この遺伝子構築物はDJ995と特定される(8)。MoFeタンパク質を、細胞壁溶解によって、ならびに亜鉛を添加した固定化金属アフィニティーカラムおよびイオン交換カラム液体クロマトグラフィーを用いて嫌気的に精製した。鉄モリブデン補因子(FeMo-co)を酸抽出し、厳密な嫌気条件下で有機溶媒であるN-メチルホルムアミドに溶解した(9)。
【0067】
安価な集光材料であるセレン化カドミウムを、キャッピング剤をトリオクチルホスフィンからメルカプトコハク酸に交換することによって合成および官能化し、水可溶化を可能にした(CdSe-MSA)(10)。NafY-FeMo-coを、厳密な嫌気条件下でMillipore濃縮器において組み合わせた。濃縮したNafY-FeMo-co溶液を不活性雰囲気の圧着密閉試料バイアルに添加した。同モル数のCdSe-MSAをバイアルに添加すると、触媒が自己組織化した。水素生成系の図については図1を参照されたい。30分後、溶液を2.0mMの亜ジチオン酸ナトリウム(Na)に接触させた。試料のUV-可視吸収スペクトルを測定し、ベースラインを補正した。試料をLEDパネルの前方に置いた。温度をモニタリングした。およそ24時間ごとまたは数日間隔でヘッドスペース試料を採取し、ガスクロマトグラフに注入した。1日はおよそ24時間である。
【0068】
実施形態では、本明細書に記載されるように策定された新規の道具であるAzotobacter Vinelandii細胞、新規に合成および官能化されたセレン化カドミウム粒子を使用した反応成分によって水素生産のベースラインを確立した。これらの検証水素生産値は、触媒CdSe-NafY-FeMo-coが1モルであると想定し、0.014kgのH/触媒mol/日であると計算された。
【0069】
実施形態では、実験条件は以下の通りであった。25mMのトリス中2.0μMのCdSe-NafY-FeMo-co、2.0mMのNa試料を作製し、シュレンク管装置を使用して完全に脱気した。最適化セットの実験を、犠牲電子供与体として作用する10mMのNaを有する最適化セットJの1セットを除き、同じ触媒の濃度で実行した。CdSe-NafY-FeMo-co系の水素生成率は、検証率の0.014kgのH/触媒mol/日から、10mMのNaを含む試料の最適化セットAAの平均44.1kgのH/触媒mol/日に増加した。これは、典型的に、実験開始から24時間目の測定を越えて持続しない「バースト」率と特定される。
【0070】
この率の増加を、1モルの触媒が存在し、系が1対1でスケールアップする可能性があると想定して計算した。系は、対応する全体的な水素生産の増加を伴う、成分が1.5mLの体積から2.5mLの体積に変化する1回のスケールアップを既に達成している。
【0071】
対応する水素生産の増加を伴う、最適化セットが後に続くベースラインを設定した実験の検証セットからの率の増加の、図および表による説明を図2および表1に示す。
【表1】
【0072】
(実施例2)
水素生成試料を照射するLED光の種々の波長および強度の効果
まず、水素生成試料を500ワットのハロゲンランプで照射される検証フェーズに配置した。最適化セットをLED光の前方に配置した。最初に各バイアルを1つの白色LEDに配置し、次に、明るさ(強度)が調整可能である、232個のLED光が3インチ×8インチの面積に埋め込まれ、電源に接続された特定の波長のLEDパネルの前方に配置した。特定の波長のLEDを使用することにより、試料をより高エネルギー(より短い)波長の前方に設置すると、水素生産が増大することが分かった。
【0073】
試料を、両側(前方および後方)がLEDパネルで照射されるように置いた。ロイヤルブルー(ピーク波長425nm)LEDは、測定される最高生産率が8時間の露光で平均44.1kgのH/触媒mol/日である80,000luxの強度と、10mMのNaとの組合せで高レベルの水素生産をもたらすことが示されている。青色(ピーク波長460nm)LEDは、最適化セットJについて、300,000luxの強度測定値と10mMのNaの組合せで、上記で言及されたように24時間目に測定して、現在のところ2番目に多い水素生成を実証した。
【0074】
高エネルギーのLEDが高い水素生産率をもたらすことを示すために、同じバッチからの同一の成分を使用して、25mMのトリス中2.0μMのCdSe-NafY-FeMo-co、2.0mMのNa試料のセットに種々の光波長および強度を適用した。緑色(525nm)、シアン色(510nm)、白色(460nm、蛍光体を含む)および青色(460nm)の試料では、ファンによる空気循環を使用して、LED光を所望の温度範囲(22~26℃)内に維持した。ロイヤルブルー(425nm)LEDは、所望の温度を維持するために、TECAペルチェ冷却プレートを使用する必要があった。実施形態では、ロイヤルブルーLEDの前方の試料は、他の変数すべてが同じである場合に最高の水素生成率を実証した。実施形態では、青色が白色光を上回った。白色光とシアン色光は同様の水素生産をもたらした。結果のグラフを図4に示す。各光セットの平均が点線で示されることに留意されたい。実線は最も高生産の試料を示す。実施形態では、試料セット内の高生産の試料は、LED光パネルの前方の位置と一致した。末端に置かれた試料は全体的に露光をあまり受けない傾向にあり、水素をそれほど多く生産しなかった。
【0075】
(実施例3)
水素生成実験の経過中に観察されたスペクトルの変化。
ロイヤルブルーLED光がより多くの水素生産をもたらすという結論が観察されたが、試料そのもので観察される外観の変化が、目視で、さらにスペクトルの変化によって注目すべきものであった。UV-visスペクトルで2つの特性変化が観察された。典型的に、最初の24時間以内に吸収スペクトルに約10nmの赤方偏移が見られた。この赤方偏移は、水素生産の増加とも一致する。目視では、試料の色の変化が見られた。第2に、数日にわたる照射で吸光度が減少し、分解プロセスが始まり量子ドットが沈殿した。吸光度が半分またはそれより多く減少すると、水素生産の減少が示される。観察されたスペクトルの変化は、Na投入量、ならびに励起された電子の再結合によって電子が分子を吸着した表面へ移動するのを軽減させることが公知である配位子効果、およびそれによる表面の欠損に寄与することによる、ナノ粒子の表面に対するNaの影響に関連する可能性があることが仮定される。例示のために、試料を照射するLEDの波長を除き同じ実験条件を用いた2つの異なる試料および15日間の試行で取得したUV-visスペクトルを図5に示す。試料はいずれも赤方偏移を示す。ロイヤルブルーLEDパネルの前方の試料は、白色LEDパネルの前方の試料に比べ顕著な吸光度の減少を示す。実施形態では、LED照射に関する条件のセットは、最適な水素生成を達成すると同時に、触媒の試料完全性を保持し、触媒の動作期間をさらに延長させることができる。青色LEDまたはさらには高強度の白色もしくはシアン色LEDは、水素生産の増加を達成して持続性を改善する可能性がある。
【0076】
水素生産の増強はまた、電子の移動を向上させ、水素生産の増大をもたらすより有利な配位子効果を有する可能性がある他の電子/プロトン供与体成分を使用することによって達成することができる。
【0077】
図5Aおよび5Bは、最適化セットI試料のUV-visスペクトルを示す。上(図5A)の試料は白色LEDで照射され、15日目までの持続した吸光度、および水素を生産する継続的な触媒の機能を示した。下(図5B)の試料はロイヤルブルーLEDで照射され、6日目に吸光度が顕著に減少し、触媒動作に影響を及ぼした。
【0078】
結論として、より高エネルギーのLED光源の光への曝露は、赤方偏移に続く吸光度の減少、およびそれによる触媒の分解への寄与によって示されるナノ粒子の表面変化を加速させるように思われた。
【0079】
(実施例4)
実験での強度の変動および対応する水素生産値。
強度は水素生成率に有意な効果を及ぼし得る。実施形態では、2つの試料セットを同一の条件:25mMのトリス中2.0μMのCdSe-NafY-FeMo-co、2.0mMのNaで配置した。図6に示されるプロット図は、80,000lux対光および試料を許容範囲まで冷却するためのファンを使用して達成された最大luxの白色LEDの結果である。黒色の実線でプロットされたデータは高生産の試料であり、点線は白色LED光下の80,000luxでの実験の平均である。灰色の実線および点線でプロットされたデータは、同じ白色LEDについて強度を合計328,000luxに増加させた結果である。
【0080】
図7に示される実施例では、より高い強度で水素生成率が増加した。青色LEDを、試料を許容範囲の温度に維持するための冷却プレートの補助の下、最大強度で置いた。さらに、ここでは、強度は合計80,000luxから合計約328,000luxにおよそ4倍増加した一方、生成された水素の量は、実験の最初の数日で4倍より大きく増加したことに留意されたい。
【0081】
ここでもまた、より高い強度の青色LED光はより多量の水素を生産することに留意されたい。ここで、水素生産量に対する強度の効果はほぼ線形応答である。
【0082】
(実施例5)
反応成分間の比の変化および水素生産の継続期間に対するその効果。
記載される実験の目的は、水素生産を増大させること、および水素生産を30、60および90日間持続させることである。記載されたように、より高エネルギー(より短波長)のLED光源および増大した強度(明るさ)は水素生産を増大させる。これはまた、より高いエネルギーおよび強度のLED光条件ではコロイド溶液中の触媒の分解が加速するため、問題になることがある。高エネルギーおよび高強度のLEDというより極端な条件を使用して触媒の完全性を持続させるため、成分の比を変化させた。例えば、ロイヤルブルーLEDの前方の試料の、様々な成分比の対照比較を図8A、8Bおよび8Cに示す。図8Aは、高強度のロイヤルブルーLEDの前方の、成分比1対1の最適化分析論1のUV-可視分光データを示す。触媒試料は24時間までに沈殿したが、24時間目におよそ20.5kgのH/触媒モル/日が測定された。1日目および2日目の吸光度スペクトルの大幅な減少から示されるように、厳しい条件のLED照射および10mMという高いNa投入量の結果として、最初の24時間で沈殿が生じた。図8BはCdSeのNafY-FeMo-coに対する比が1:2である最適化AJを示し、図8CはCdSeのNafY-FeMo-coに対する比が1:3である最適化AMを示しており、いずれも最適化分析論1のセットと比較すると半分の強度のLED条件である。1:2の比の試料である最適化AJは、露光4日目以降に吸収が顕著に低減するまで吸光度を持続し、吸収は14日目以降はほぼ全く生じない。1:3の比の試料である最適化セットAMは、スペクトルの裏付けによって、10日目まで吸光度が持続し、29日目に有意な吸光度が観察されたことを示した。
【0083】
最適化セットAJおよびAMの水素生産を図9Aおよび9Bに示す。図9Aは、セットAJについて16日間、セットAMについて29日間の持続期間中に生産された水素の合計量のプロット図である。両方のセットの生産率を図9Bにプロットする。一般的に、セットAJでは最初の24時間で高いピーク率が観察される。セットAMはピーク率を示さないが、29日間の持続した生産率を達成する。最終的に、1:2の比の試料は、初期の持続しないバースト率によって始めのうちは最初に1:3の比よりも優れていたが、1:3試料は、継続期間と露光10日後のより高い生産率により、1:2の比の試料よりも優れていたことに留意されたい。
【0084】
結論として、高エネルギー波長光では、NafY-FeMo-coのCdSeに対する過剰量により、電子特性の持続および溶液の均質性が長引く。さらに、CdSe成分に対するNafY-FeMo-co投入量の増加により、高エネルギー波長光で定常の水素生成率が達成される可能性がある。
【0085】
より長波長のLED光(低エネルギー)の比較データはまた、NafY-FeMo-co成分の濃度をCdSe成分に比べて増大させると、水素を生産する試料動作の継続期間が延長し、UV-visスペクトルで観察されるように触媒が持続することを示す。
【0086】
例えば、1:1の比(それぞれ5nmol)の3つの試料、1:5の比*(1nmolのCdSe、5nmolのnafY-FeMo-co)の3つの試料を含む試料セットAGを、白色(青色(460nm)と蛍光体フィルター)の前方に配置した。アスタリスクは、異なる比、ただし他の試料に比べて試料溶液中のCdSeの量が変則的であることを示す。試料AIは、1:2の比(10nmolのNafY-FeMo-coに対する5nmolのCdSe)の3つの試料を含む。これらの試料はすべて、2mMの酢酸および1mMのNaを対象に試行した。図10A~10CにUV-visデータを示す。
【0087】
図10Aおよび10Bに示される試料セットは、2μMのCdSe、2μMのNafY-FeMo-co、5mMのNaCl、1mMのNa、2mMの酢酸であった。図10Cに示される試料セットは、1:5の比の1μMのCdSe、5μMのNafY-FeMo-co、5mMのNaCl、1mMのNa、2mMの酢酸であった。1:1の比の試料(AG)は、8日目までに大幅に減少し(図10A)、1:2の比の試料(AI)は20日目までに減少し、37日目には吸収がほぼ全く生じず(図10B)、1:5*の比の試料(AG’)は、25日目までスペクトルの特色の大部分を保持した(元の電子特性を保持した)(図10C)ことに留意されたい。
【0088】
ガスクロマトグラフによって水素ガス生産を測定したが、1:5*の比の試料のCdSe投入量が低かったため、全体的な傾向は直接的なものではない。3つすべてではなく、3つの試料セットのうち2つのみが同時に比較可能である。全体的に、1:1の比の試料(AG)は1:2の比の試料(Al)、1:5*の比の試料(AG’)より多くの水素を生産した。しかし、5nmolのCdSe:5nmolのNafY-FeMo-co(1:1の比)と、1nmolのCdSe:5nmolのNafY-FeMo-co(1:5*の比)を比較すると、kgH/CdSe1モル/1日の外挿水素生成率がほぼ同一であることが観察される(図11Aおよび11Bを参照されたい)。
【0089】
CdSe1モルあたりの外挿率として測定して、5nmolのCdSe:5nmolのNafY-FeMo-co(1:1の比)は、5nmolのCdSe:10nmolのNafY-FeMo-co(1:2の比)より水素生産率が高い。
【0090】
結論として、白色LED光の前方の試料では、NafY-FeMo-coのCdSeに対する過剰量が多いほど、電子特性の持続および溶液の均質性が長引く。原料溶液はそれに応じて増加していないため、NafY-FeMo-coのCdSe成分に対する比が高いと、水素生産率が低下することが意図される。ここで実証される重要な点は、水素生産率の持続およびスペクトルデータが減少しないことから観察される、触媒の完全性を維持する能力である。
【0091】
別のLED波長である、試料の合計照射が約350,000luxである高強度の510nmのシアン色は同様の結果を示した。ここでもまた、CdSe成分をセットの比の最初に列挙する。試料セットAKは、1:1の比の2つの試料(図12A)、1:2の比の2つの試料(図12B)を含む。試料セットALは、1:3の比の3つの試料(図12C)を含む。試料セットAOは、1:4の比の3つの試料(図12D)を含む。試料セットは異なる犠牲電子およびプロトン供与体を有した。セットAKおよびALは、4mMの酢酸および2mMのNaを対象に試行した。セットAOは、100mMのNaを対象とした。
【0092】
UV-visスペクトルデータは以下のことを示した。1:1の比の試料は4日目以降大幅に減少し、1:2の比の試料は9日目以降に減少し、1:3の比の試料は12’’日目までに減少し、1:4の比の試料は9日目現在で依然として重大な低下に至っていないことに留意されたい。’および’’が付された日にちのアポストロフィー記号は、それぞれ1つの暗所期間を示す。
【0093】
図13Aの水素生成データは、生産された水素の合計量を示す。セットAKおよびセットAIは、後半で同じ合計水素生産量に至ったが、触媒は保持され、より長期間にわたってインタクトである。犠牲電子およびプロトン供与体の原料が多いほど、結果として率が増大し、水素生産が長引く可能性がある。
【0094】
図13Bに見られるように、1:1の比の試料セットは始めに最も高率で最も多くの水素を生産するが、これは持続しないバースト率である。1:2および1:3の比の試料は、最大率に至るまで少し長く上昇時間を必要とする。いずれのセットもより定常的な率に落ち着き、1:2の比の試料は1:3の比の試料より早くより高いピーク率に達する。1:4の比の試料は酢酸を有さないが、Na投入量がはるかに多い。これらの試料は、1:1の比の試料より早くピーク率に達するが、率ははるかに低い。これらの試料はピークバースト率を経ず、すぐに定常率に落ち着く。
【0095】
結論として、NafY-FeMo-coのCdSeに対する過剰量が多いほど、電子特性の持続および溶液の均質性が長引く。これはまた、水素生産率の低下に直接つながる。触媒は、率の減少が原料投入量の増加で相殺され得る程度まで、原料の投入量の増加に耐えることができる。
【0096】
合計約300,000luxにおいて1:4の比の試料セットと比較した1:1の比の試料セットを示す青色(460nm)LED光試料は、他の波長光と同様の結果を示す。1:1の比の2つの試料を含む試料セットLを図14Aに示す。1:4の比の3つの試料を含む試料セットANを図14Bに示す。両方のセットに対する原料投入量は、10mMのNaを対象に試行した。
【0097】
スペクトルデータは、図14Aおよび14Bを比較して、1:1の比の試料は露光1日以内にほぼ完全に沈殿した一方、1:4の比の試料は22日間の露光後に依然として溶液中に豊富に存在したことを示す。
【0098】
図15Aでは、1:1の比の試料は水素生成率がはるかに高いが、率は持続せず、触媒は露光数日以内に不均質になることに留意されたい。1:4の比の試料は生成のスパイク率をほぼ全く示さず、露光24時間以内にすぐに水素生成率が持続し始める。
【0099】
結論として、反応の継続期間を延長する目的では、図15Bに示されるように、NafY-FeMo-coのCdSeに対する過剰量が多いほど、電子特性の持続および溶液の均質性が長引く。しかし、水素の率がより低いと、原料の濃度が増大し、生産率の持続が向上する可能性がある。
【0100】
(実施例6)
長期間の継続的な水素生産の実証。
実施形態では、水素生成の継続期間を延長することが実用化可能性のための優先事項である場合がある。一試験では、最適化セットBの実験条件は以前と同じであった。図16Aのプロット図は、39日目までの継続的な定常生産率を示す。図16Bにプロット図として示される最適化セットEでは、継続的な定常生産率が30日間実証された。この系の印象的な驚くべき特色の一つは、酵素成分を含む他の光触媒系と比べて長寿命であることである。科学文献で見られるように、バイオハイブリッド光触媒系を用いた水素生産が分または時間単位で測定される(11、12)のに対し、対照的にCdSe-NafY-FeMo-co系は数週間作動することができる。水素生産は、電子またはプロトン供与体が枯渇する、または触媒が沈殿するときに停止する可能性がある。実施形態では、本発明のプロトン供与体の追加の投入量(Naのスパイク)は、経時的に触媒系の完全性を脅かすことがある。
【0101】
(実施例7)
水素生成実験が水素生産を低下させずにオンおよびオフ、さらに再びオンになる能力の実証。
実施形態では、光源の付加または除去がオン-オフスイッチとして作用する。試料セットを、条件:25mMのトリス中2.0μMのCdSe-NafY-FeMo-co、2.0mMのNaで配置した。試料を広域スペクトルのハロゲン光の前方に1日置き、次に暗所に5日間移した。期間中、試料を光、次に暗所に曝露した。データは、2~53日間の光のない期間が、露光が再開された後に触媒活性を損失させることなく水素生成を中断させることができることを示す。図17Aおよび表2に示される1「日」は約24時間である。
【0102】
「露光」試料は、水素生産が水素の継続期間の様々な段階で開始および停止可能であることを示した。「露光からの除去」後の少量の水素の発生は、光の除去が即時ではなかったことに起因する可能性が高い。試料はGC分析中に周囲光に放置される。また、CdSeの量子ドットに対して、緩和期間が予期される。
【0103】
「暗所」試料は、図17Bおよび表3に示される触媒混合物が露光を受けない場合、水素生産が生じないことを示した。反応混合物は優れた貯蔵寿命を有するという前例がある。3日間の露光後、生成された水素の量は、「露光」試料が同量の露光によって生産した量の4倍である。
【表2】
【表3】
【0104】
インキュベーション。実施形態では、前述の試料のように、暗所で一定期間を費やすことは試料に有益であるように思われる。水素生産は試料が明所に戻された後の期間で増強された。
【0105】
これらの試験からの結論は、露光されて水素生産を開始した試料は、露光を停止すると非活性化し得ることを指摘する。さらに、光に一度も当たっていない試料は、露光なしでは水素生産を開始しない。
【0106】
光に当たらない期間を費やした一部の他の試料は有用である。
【0107】
最適化セットA試料を配置し、水素ガス生産に対するインキュベーションの潜在的な好影響を調査した。配置後、3つの試料(LED試料)を広帯域LED光に置き(図18A)、2つの試料を暗所に置いた。1つの遅延試料は非応答であったため、実行可能な試料1つのみを遅延試料とした。水素の合計を異なる時間間隔で測定した。水素生産率を、測定された水素の合計、触媒投入量、時間経過から、kgH/触媒1モル/日として計算した。
【0108】
遅延露光または初期インキュベーションによって合計でより多くの水素が生産されたが、試料が1つしか存在しなかったため、インキュベーションまたは暗所で時間を費やすことが水素生産を増強したと結論付けることができない。その後、LED試料を明所から除去し、53日間暗所に置いた。暗所での53日後に試料に再び光を当てると、水素生成が再開された。以下のプロット図に、測定された水素の合計をグラフ化する。図19Aは、水素の合計対配置後日数を示す。暗所での53日にわたり有意な水素生産は示されないことに留意されたい。図19Bのプロット図は、水素の合計対露光日数である。プロット図から休止期間の間隔を除くと、水素生産は途切れないように思われることに留意されたい。
【0109】
以下の結果のグラフでは、53日の休止前後に生産された水素の量を比較して、生産された水素の合計量対露光日数をプロットし、65日目を第2の0日目(配置日)として扱う(図20A)。休止後の全体的な水素生産率は、真の配置後の初期の露光による初期の生産率より低かったことに留意されたい。試料が休止に入る直前対直後の生産率を比較すると(図20B)、率がわずかに増加した。しかし、初期の水素生成率が初期の減少後に漸減するこの傾向は、ほとんどの試料セットに共通である。
【0110】
結論として、試料を配置直後に原料が存在する状態で暗所に置くことと定義される暗所インキュベーションまたは休止期間は、高生産の水素生成をもたらさなかった。53日の休止期間(実験中インキュベーション期間)もまた、水素生成率を増加させなかった。しかし、配置後暗所で時間を費やし、53日間暗所で時間を費やした試料は、驚くべきことに、触媒の水素生成能が低下しない。
【0111】
暗所でのインキュベーションは、いくつかの興味深いスペクトルデータをもたらした。より高エネルギー(より短波長)の光はナノ粒子を損傷し、したがって長期間にわたって水素を生成する触媒の機能を脅かすことが認識されていた。一定のインキュベーション期間を経た試料と、実験配置直後にLEDの前方に置かれた試料を比較した、最も高エネルギーのLED光源の前方に置かれた試料からの興味深いデータは、以下のデータを提示する。
【0112】
3つの試料を配置直後にロイヤルブルーLEDに置いた(図21Aに見られるG試料)。3つの試料を配置直後に暗所に置いた(図21Bに見られるG’試料)。配置から12日目に、暗所試料を暗所から取り出し、ロイヤルブルーLEDの前方に置いた(図21C)。
【0113】
G試料は露光および水素生成の最初の9日以内に有意なスペクトルの変化を示した。
【0114】
暗所のG’試料は赤方偏移を示したが、吸光度の減少は示さなかった。G’試料は9日間光に当たった後にスペクトルの完全性を維持した。
【0115】
これらのセットの水素生成の比較は興味深いものであるが、直ちに明所に置かれ水素を生成した試料は、露光/水素生成前に12日間暗所に置かれた/インキュベーションされた試料より優れていた(図22Aおよび22B)。
【0116】
注記:ロイヤルブルー1、2、3の試料では、着色した沈殿物が3日目に現れ始め、縁にリボン状に堆積した。しかし、暗所試料では、ロイヤルブルーLEDに置かれたとき、着色した沈殿物は9日間のモニタリングを通して観察されなかった。
【0117】
結論として、暗所で12日間インキュベーションされた試料では水素生成率の増加は観察されなかったが、暗所で時間を費やした試料は、スペクトルの完全性を維持したこと、およびしたがって、インキュベーションの可能性のある利益は、均質性を維持するための長期安定性の点で有効であることを示した。
【0118】
種々の試料セットからのさらなるデータは、休止状態または暗所で時間を費やすことは、試料の露光後の水素生産を妨げないという結論を指摘する。シアン色LED光(510nm)の前方に置かれたセットRの試料に観察されたように、これは様々な波長のLED光に当てはまる。試料を9日間シアン色LEDの前方に置き水素を生成させた。次に、試料を9日間暗所に置いた。試料をさらに6日間シアン色LEDに戻した。生産された水素の合計を図23Aに示す。水素生産と比較した露光日数を図23Bに示す。興味深いことに、暗所で時間を費やすことは、明所に戻された後の試料セットの水素生産を低下させない。
【0119】
結論として、9日間光が途切れたこと(lapse)は全体的な水素生産に影響を及ぼさなかった。観察された測定された水素の全体的な低下は、セプタムでの漏れに起因する可能性が高いことに留意されたい。
【0120】
繰り返すと、シアン色光は、暗所で様々な長さの期間を費やすことが、LED光の前方に戻された後の水素生産を妨げないことを指摘する再現可能なデータを実証した。シアン色LEDの前方の試料に、配置直後に連続3日間光を当てた。次に、試料を3日間暗所に置き、4日間明所に戻してさらなる露光後に測定を行った。暗所期間後は測定を行わなかった。以下の合計量の水素が生産され、これを合計露光日数(図24A)または配置後日数(図24B)に対してプロットした。
【0121】
結論として、10日間の水素生成実験中の暗所での3日間は、水素を生成する触媒のライフサイクルを妨げない。
【0122】
最後に、詳述されたように、NafY-FeMo-coの濃度を増大させ、それにより触媒のCdSe:NafY-FeMo-coの比を1:3に設定することにより、水素生成の継続期間が延長される。比が変更された試料が暗所期間を経て光条件に戻ることを観察することは興味深い。試料を配置直後にシアン色LEDの前方に置いた。露光9日後、試料を19日間暗所に置いた。試料を4日間LEDに戻し、次に3日間暗所に戻した。露光をさらに4日間行った後、実験を停止した。
【0123】
水素生産の有意な減少は観察されなかった。光と水素生成がない期間にかかわらず、率の定常的な低下/プラトーが観察された。図25Aおよび25Bは、生産された水素の合計量を示す。図25Cは、水素生産率を追跡する図である。比の変更の効果は、典型的に最初の24時間で初期の高率が観察された後の率に見ることができる。実験試行中に暗所で費やされた時間は、試料が明所に戻された後の水素生産を妨げなかった。さらに、比の増大によって水素生産が定常化するという好影響が、定常状態の生産率で実証される。
【0124】
結論として、19日間、3日間の暗所期間、または繰り返しの暗所期間は、水素生成中に生じる全体的な傾向/触媒のライフサイクルに影響を及ぼさない。
【0125】
(実施例8)
代替的プロトン源の調査
酢酸およびアスコルビン酸の添加を伴う実験で代替的プロトン源の調査を行った。高強度の青色LED光で照射された亜ジチオン酸ナトリウム、亜ジチオン酸ナトリウムとアスコルビン酸、亜ジチオン酸ナトリウムと酢酸の対比である。図26のプロット図は、CdSe-NafY-FeMo-co系(2μM)を示す。すべての試料が5mMの亜ジチオン酸ナトリウム(DT)を有した。試料OptPのみにDTを投入した。試料OptQはDTおよび弱酸:AscA=5mMのアスコルビン酸、AceA=5mMの酢酸を有した。亜ジチオン酸ナトリウムの投入のみでは水素生産の顕著なバースト/持続しない率がもたらされる一方、亜ジチオン酸塩に追加してアスコルビン酸と酸の投入はいずれも、同様に作用して水素生産率を持続させたことに留意されたい。
【0126】
試料を配置し、より低強度の青色光の前方に置いて酢酸のさらなる使用について調査した。触媒の投入はすべて1:1の比のCdSe:NafY-FeMo-coである。すべての試料を、合計約80,000luxの青色LED(約460nm)に曝露する。試料OptZ-DTには0.5mMの亜ジチオン酸ナトリウムのみを投入する。試料OptZ-DT&AceAには0.5mMの亜ジチオン酸ナトリウムおよび0.5mMの酢酸を投入する。図27は、抑えた光条件およびより低い亜ジチオン酸塩投入量では、試料は酢酸が存在する場合としない場合とで同様に作用し、持続した水素生成率を確立することができることを示す。
【0127】
(実施例9)
タンパク質成分の存在によって増強される水素生成実験の安定性。
実施形態では、系の安定性が酵素成分の存在によって増強されることが各試料セットにおいて実証された。各試料セットにおける、水素生成試料と同じ濃度のCdSeナノ粒子(2μM)を含む対照および亜ジチオン酸ナトリウム(2mM)が添加された対照は、最初の24時間以内に沈殿した。酵素成分はCdSe-NafY-FeMo-co系を安定化させ、水素生産に関して系の動作可能性を保持した。実施形態では、NafYのみが添加された対照は水素を生産せず、CdSeのみを含む対照試料より遅いペースで沈殿した。ナノ粒子の表面は、触媒を水素生産に関してロバストにするために重要であるように思われる。実施形態では、条件に応じて30+、75+日間にわたって均質な水素生成のために3つの成分すべてが必要である。
【0128】
(実施例10)
さらなる最適化
水素生産率をさらに増加させ、水素生成プロセスの継続期間を延長させるための最適化戦略には、以下のうちの1つまたは複数が含まれる:
A.ロイヤルブルー光は、44.1.0kgの水素/触媒mol/日の生産率をもたらした。高強度にダイヤル調節された低エネルギー/高波長のLEDが同等またはより高い率をもたらすかどうかを決定するための試み。実施形態では、耐久性を改善するために、触媒の完全性を保持し、試料の光分解を回避する。
【0129】
B.代替的プロトン源の決定。酢酸およびアスコルビン酸が試料に導入された。クエン酸などの他の弱酸が導入可能である。これらの供給源は、同じまたはより高い水素生成能を発揮する可能性がある。
【0130】
C.TEM、ICP-MSおよびFTIRによる試料の分析。NMRおよびEPRは、ナノ粒子の表面の最も良好な特徴付けを試みるための他の分光技術である。これを試料の継続期間中に実施し、触媒の変化を観察および試験することができる。
【0131】
D.最適条件が分析および実証されると、継続期間の試験を設定することができる。試料の継続期間の上限をさらに調査することができる。
【0132】
E.FeMo-coを抽出する代替的方法も使用可能である。塩BuNBrを除去するために脱塩カラムを発注してもよい。FeMo-coを、DMF、ジメチルホルムアミドに抽出する。水素試料をこの形態のFeMo-coを用いて配置してもよい。試料は、NMF抽出されたFeMo-coの同じまたはより良好なレベルで生産を行うことがある。これは商業化に関してプロセスをスケールアップする上で主要なステップとなる可能性がある(16)。
【0133】
F.成分の濃度を増大させる。H生成実験は、増大したCdSe-NafY-FeMo-co触媒の濃度、例えば、4μM、8μM、12μM、16μM、20μM、30μM、40μM、50μMまたはそれよりも高い濃度で行うことができる。
【0134】
G.試料系のpHの変化。MOPSおよびPBSなどの様々な緩衝系が使用されてもよい。pHの変化に伴い溶解度が変動する場合がある。CdSeナノ粒子のキャッピング剤はメルカプトコハク酸(MSA)である。MSAのチオール基のpKaは10.64である(17)。pHが極度に酸性になると、十分なチオール基がナノ粒子の表面から解離し、水性溶媒にもはや可溶性でなくなるため、ナノ粒子が沈殿する。
【0135】
H.実施形態では、16~32℃の範囲の種々の温度が使用されてもよい。実施形態では、試料を撹拌することによって水素生産が改善する場合がある。
【0136】
本開示の種々の態様は、単独で、組合せで、または前述に記載された実施形態では具体的に考察されていない多様な構成で使用されてもよく、したがってその適用は、前述の記述に記載された、または図面で例示された詳細および構成要素の構成に限定されない。例えば、一実施形態で記載された態様は、他の実施形態で記載された態様と任意の様式で組み合わせることができる。
【0137】
本明細書で使用される表現および用語は説明のためのものであり、限定的であるとみなされるべきではない。本明細書における「含む(including)」、「含む(comprising)」または「有する」、「含有する」、「伴う」およびそれらの変形の使用は、その前に列挙された項目およびそれらの均等物ならびに追加的な項目を包含することを意図する。
【0138】
本開示の特定の実施形態を考察したが、上記の明細書は例示的であり、制限的ではない。本明細書を精査することで、当業者には本開示の多数の変形が明らかになる。本発明の全範囲は、特許請求の範囲、ならびに均等物の全範囲および本明細書、ならびにそのような変形を参照することによって決定されるべきである。
【0139】
参照による組込み
上記で引用されたすべての刊行物、特許および特許出願は、各個々の刊行物または特許出願が参照によりそのように組み込まれることが具体的に示されているのと同じ程度に、それらの全体があらゆる目的で参照により本明細書に組み込まれる。
参考文献:
【数1-1】
【数1-2】
本発明の好ましい実施形態によれば、例えば、以下が提供される。
(項1)
水素ガスを光触媒的に生産するための系であって、
表面がメルカプトスクシネートでキャッピングされた水溶性セレン化カドミウムナノ粒子(CdSe)(CdSe-MSA)、および
NafYタンパク質と、鉄-モリブデン補因子(FeMo-co)とを含むNafY・FeMo-co錯体
を含み、
前記CdSe-MSAおよびNafY・FeMo-co錯体が、約1:2~1:10のモル比で存在する、系。
(項2)
前記CdSe-MSAおよび前記NafY・FeMo-co錯体が、約1:2、1:3、1:4または1:5のモル比で存在する、上記項1に記載の系。
(項3)
プロトンおよび電子を提供するための亜ジチオン酸ナトリウムをさらに含む、上記項1に記載の系。
(項4)
前記亜ジチオン酸塩が、約2mM~1Mまたは約2~100mMまたは約2~10mMの濃度で提供されている、上記項3に記載の系。
(項5)
アスコルビン酸、酢酸、クエン酸および二酸化炭素などの追加のプロトン源をさらに含む、上記項3に記載の系。
(項6)
約5~90日、10~72日または39~72日の長期間にわたって水素ガスを光触媒的に生産することができる、上記項1に記載の系。
(項7)
嫌気条件下に保たれる、上記項1に記載の系。
(項8)
前記NafYタンパク質が、Azotobacter Vinelandiiに由来する、上記項1に記載の系。
(項9)
前記FeMo-coが、モリブデン-鉄(MoFe)タンパク質に由来する、上記項1に記載の系。
(項10)
前記MoFeタンパク質が、Azotobacter Vinelandiiに由来する、上記項9に記載の系。
(項11)
水素ガスを生産するための方法であって、上記項1~10のいずれか一項に記載の系を、ピーク波長が約400~525nmの光源で照射するステップを含む、方法。
(項12)
前記ピーク波長が約425nmである、上記項11に記載の方法。
(項13)
前記ピーク波長が約460nmである、上記項11に記載の方法。
(項14)
前記光源の強度が約18,000~1,200,000luxまたは約50,000~800,000luxである、上記項11に記載の方法。
(項15)
水素ガスを生産するための方法であって、系を、ピーク波長が約400~525nmの光源で照射するステップを含み、前記系が、
表面がメルカプトスクシネートでキャッピングされた水溶性セレン化カドミウムナノ粒子(CdSe)(CdSe-MSA)、および
NafYタンパク質と、鉄-モリブデン補因子(FeMo-co)とを含むNafY・FeMo-co錯体を含む、方法。
(項16)
前記ピーク波長が約425nmである、上記項15に記載の方法。
(項17)
前記ピーク波長が約460nmである、上記項15に記載の方法。
(項18)
前記光源の強度が約18,000~1,200,000luxまたは約50,000~800,000luxである、上記項15に記載の方法。
(項19)
前記CdSe-MSAおよびNafY・FeMo-co錯体が、約1:1またはそれよりも低いモル比で存在する、上記項15に記載の方法。
(項20)
前記CdSe-MSAおよび前記NafY・FeMo-co錯体が、約1:2、1:3、1:4または1:5のモル比で存在する、上記項15に記載の方法。
(項21)
前記系がプロトンおよび電子を提供するための亜ジチオン酸ナトリウムをさらに含む、上記項15に記載の方法。
(項22)
前記亜ジチオン酸塩が、約2mM~1Mまたは約2~100mMまたは約2~10mMの濃度で提供されている、上記項21に記載の方法。
(項23)
前記系が、アスコルビン酸、酢酸、クエン酸および二酸化炭素などの追加のプロトン源をさらに含む、上記項21に記載の方法。
(項24)
前記系が、約5~90日、10~72日または39~72日の長期間にわたって水素ガスを光触媒的に生産することができる、上記項15に記載の方法。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図10A
図10B
図10C
図11A
図11B
図12A
図12B
図12C
図12D
図13A
図13B
図14A
図14B
図15A
図15B
図16A
図16B
図17A
図17B
図18A
図18B
図19A
図19B
図20A
図20B
図21A
図21B
図21C
図22A
図22B
図23A
図23B
図24A
図24B
図25A
図25B
図25C
図26
図27