(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-10
(45)【発行日】2024-01-18
(54)【発明の名称】光学的に増白されたラテックス
(51)【国際特許分類】
C08F 2/44 20060101AFI20240111BHJP
C08F 4/04 20060101ALI20240111BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20240111BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20240111BHJP
C09D 121/02 20060101ALI20240111BHJP
D21H 19/20 20060101ALI20240111BHJP
【FI】
C08F2/44 B
C08F4/04
C09D5/02
C09D7/63
C09D121/02
D21H19/20 A
(21)【出願番号】P 2021510112
(86)(22)【出願日】2019-09-13
(86)【国際出願番号】 EP2019074522
(87)【国際公開番号】W WO2020053405
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2022-08-17
(32)【優先日】2018-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520192485
【氏名又は名称】アークロマ アイピー ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Archroma IP GmbH
【住所又は居所原語表記】Neuhofstrasse 11, CH-4153 Reinach, Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】クリスティナ・ドミンゲス
(72)【発明者】
【氏名】ダミアン・ジュリアン・コルペット
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー・ジャクソン
(72)【発明者】
【氏名】デイヴィッド・アトキンソン
【審査官】堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-037946(JP,A)
【文献】特表2008-518068(JP,A)
【文献】特開2004-331845(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/44
C08F 4/04
C09D 5/02
C09D 7/63
C09D 121/02
D21H 19/20
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性組成物、好ましくは水系ラテックスバインダーの調製のための方法であって、式(1)
【化1】
[式中、
R
1及びR
6は、互いに独立して、水素、直鎖状若しくは分岐C
1~C
4アルキル、直鎖状若しくは分岐C
1~C
4ヒドロキシアルキル、CH
2CH
2CONH
2又はCH
2CH
2CNを意味し、
R
2及びR
4は、互いに独立して、水素、直鎖状若しくは分岐C
1~C
4アルキル、直鎖状若しくは分岐C
1~C
4ヒドロキシアルキル、CH
2CO
2M、CH
2CH
2CONH
2又はCH
2CH
2CNを意味し、
R
3及びR
5は、互いに独立して、直鎖状若しくは分岐C
1~C
4アルキル、直鎖状若しくは分岐C
1~C
4ヒドロキシアルキル、CH
2CO
2M、CH(CO
2M)CH
2CO
2M、CH(CO
2M)CH
2CH
2CO
2M、ベンジルを意味し、又は
R
2及びR
3は、それらの隣接窒素原子と一緒にモルホリノ環を意味し、並びに/又は
R
4及びR
5は、それらの隣接窒素原子と一緒にモルホリノ環を意味し、
R
7及びR
8は、互いに独立して、水素、直鎖状若しくは分岐C
1~C
4アルキルを意味し、
X及びYは、互いに独立して、CO
2M又はSO
3Mを意味し、
n及びmは、互いに独立して、0、1又は2から選択される整数を意味し、
Mは、光学増白剤のアニオン電荷をバランスさせるための少なくとも1種のカチオンを意味し、水素、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、アンモニウム、C
1~C
4直鎖状若しくは分岐アルキル基で一、二、三若しくは四置換されているアンモニウム、C
1~C
4直鎖状若しくは分岐ヒドロキシアルキル基で一、二、三若しくは四置換されているアンモニウム、C
1~C
4直鎖状若しくは分岐アルキル基又はC
1~C
4直鎖状若しくは分岐ヒドロキシアルキル基の混合物で二、三若しくは四置換されているアンモニウム、又は前記カチオンの混合物を含む又は本質的にこれらからなる群から選択される]
の少なくとも1種の水溶性ジアミノスチルベンジスルホン酸光学増白剤の存在下における少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマーの乳化重合によ
り、
前記乳化重合が式(2)及び/又は式(3)
【化2】
[式中、
X及びYは、互いに独立して、O又はNHを意味し、
R及びR'は、互いに独立して、水素、又は1個若しくは複数のヒドロキシル、CO
3
M
1
若しくはCO
3
M
2
基(式中、M
1
及びM
2
は、式(3)のアゾ化合物のアニオン電荷をバランスさせるための少なくとも1種のカチオンを意味し、水素、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、アンモニウム、C
1
~C
4
直鎖状若しくは分岐アルキル基で一、二、三若しくは四置換されているアンモニウム、C
1
~C
4
直鎖状若しくは分岐ヒドロキシアルキル基で一、二、三若しくは四置換されているアンモニウム、C
1
~C
4
直鎖状若しくは分岐アルキル基又はC
1
~C
4
直鎖状若しくは分岐ヒドロキシアルキル基の混合物で二、三若しくは四置換されているアンモニウム、又は前記カチオンの混合物を含む又は本質的にこれらからなる群から互いに独立して選択される)で置換されている直鎖状若しくは分岐C
1
~C
4
アルキルを意味する]
の水溶性アゾ化合物によって開始され、
前記乳化重合が、少なくとも以下の4工程(a)~(d):
a)式(1)の少なくとも1種の水溶性ジアミノスチルベンジスルホン酸光学増白剤、及び場合によっては、少なくとも1種の分散剤を含む又はこれらからなる水溶液を用意する工程と、
b)前記少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマー、水及び少なくとも1種の分散剤を含む又はこれらからなる均質な予備分散体を用意する工程と、
c)式(2)及び/又は式(3)の水溶性アゾ化合物を含む又はこれらからなる水溶液を用意する工程と、
d)工程(b)において得られた前記予備分散体及び工程(c)において得られた前記水溶液を、工程(a)において得られた前記水溶液に同時に添加する工程と
を含む、方法。
【請求項2】
式(1)の前記少なくとも1種の水溶性ジアミノスチルベンジスルホン酸光学増白剤において、
R
1及びR
6が、互いに独立して、水素、メチル、直鎖状若しくは分岐C
1~C
4ヒドロキシアルキル又はCH
2CH
2CONH
2を意味し、
R
2及びR
4が、互いに独立して、水素、直鎖状若しくは分岐C
1~C
4アルキル、直鎖状若しくは分岐C
1~C
4ヒドロキシアルキル、CH
2CH
2CONH
2又はCH
2CH
2CNを意味し、
R
3及びR
5が、互いに独立して、直鎖状若しくは分岐C
1~C
4アルキル、直鎖状若しくは分岐C
1~C
4ヒドロキシアルキル、CH(CO
2M)CH
2CO
2M、CH(CO
2M)CH
2CH
2CO
2M、ベンジルを意味し、又は
R
2及びR
3が、それらの隣接窒素原子と一緒にモルホリノ環を意味し、並びに/又は
R
4及びR
5が、それらの隣接窒素原子と一緒にモルホリノ環を意味し、
R
7及びR
8が、互いに独立して、水素又はメチルを意味し、
Mが請求項1に規定の少なくとも1種のカチオンを意味する、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
式(1)の前記少なくとも1種の水溶性ジアミノスチルベンジスルホン酸光学増白剤において、
R
1及びR
6が水素を意味し、
R
2及びR
4が、互いに独立して、水素、直鎖状若しくは分岐C
1~C
2アルキル、直鎖状若しくは分岐C
1~C
3ヒドロキシアルキルを意味し、
R
3及びR
5が、互いに独立して、直鎖状若しくは分岐C
1~C
2アルキル、直鎖状若しくは分岐C
1~C3ヒドロキシアルキル、CH(CO
2M)CH
2CO
2M、CH(CO
2M)CH
2CH
2CO
2Mを意味し、又は
R
2及びR
3が、それらの隣接窒素原子と一緒にモルホリノ環を意味し、並びに/又は、
R
4及びR
5が、それらの隣接窒素原子と一緒にモルホリノ環を意味し、
R
7及びR
8が、互いに独立して、水素又はメチルを意味し、
Mが請求項1に規定の少なくとも1種のカチオンを意味する、
請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマーが、(a)(メタ)アクリル酸のC
1~C
18アルキルエステル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、バーサチック酸ビニル、スチレン及びα-メチルスチレン;(b)親水性モノマー、例えば(メタ)アクリル酸、イタコン酸、ビニルスルホン酸、C
1~C
6カルボン酸のC
1~C
8ヒドロキシアルキルエステル、(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、N-ビニルホルムアミド及びN-ビニルピロリドン;又は(c)2個以上のエチレン性不飽和二重結合を有する架橋剤、例えばジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ブタンジオール、ジ(メタ)アクリル酸ヘキサンジオール、ジビニルベンゼン及びトリビニルベンゼン;又はそれらの2種以上の混合物から選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマーが、(a)(メタ)アクリル酸のC
1~C
6アルキルエステル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル及びスチレン;(b)親水性モノマー、例えば(メタ)アクリル酸、ビニルスルホン酸、(メタ)アクリルアミド及び(メタ)アクリロニトリル;又はそれらの2種以上の混合物から選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマーが、(a)メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、酢酸ビニル及びスチレン;(b)親水性モノマー、例えば(メタ)アクリル酸、ビニルスルホン酸及びアクリルアミド;又はそれらの2種以上の混合物から選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
式(1)
【化3】
[式中、
R
1及びR
6は、互いに独立して、水素、直鎖状若しくは分岐C
1~C
4アルキル、直鎖状若しくは分岐C
1~C
4ヒドロキシアルキル、CH
2CH
2CONH
2又はCH
2CH
2CNを意味し、
R
2及びR
4は、互いに独立して、水素、直鎖状若しくは分岐C
1~C
4アルキル、直鎖状若しくは分岐C
1~C
4ヒドロキシアルキル、CH
2CO
2M、CH
2CH
2CONH
2又はCH
2CH
2CNを意味し、
R
3及びR
5は、互いに独立して、直鎖状若しくは分岐C
1~C
4アルキル、直鎖状若しくは分岐C
1~C
4ヒドロキシアルキル、CH
2CO
2M、CH(CO
2M)CH
2CO
2M、CH(CO
2M)CH
2CH
2CO
2M、ベンジルを意味し、又は
R
2及びR
3は、それらの隣接窒素原子と一緒にモルホリノ環を意味し、並びに/又は、
R
4及びR
5は、それらの隣接窒素原子と一緒にモルホリノ環を意味し、
R
7及びR
8は、互いに独立して、水素、直鎖状若しくは分岐C
1~C
4アルキルを意味し、
X及びYは、互いに独立して、CO
2M又はSO
3Mを意味し、
n及びmは、互いに独立して、0、1又は2から選択される整数を意味し、
Mは、光学増白剤のアニオン電荷をバランスさせるための少なくとも1種のカチオンを意味し、水素、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、アンモニウム、C
1~C
4直鎖状若しくは分岐アルキル基で一、二、三若しくは四置換されているアンモニウム、C
1~C
4直鎖状若しくは分岐ヒドロキシアルキル基で一、二、三若しくは四置換されているアンモニウム、C
1~C
4直鎖状若しくは分岐アルキル基又はC
1~C
4直鎖状若しくは分岐ヒドロキシアルキル基の混合物で二、三若しくは四置換されているアンモニウム、又は前記カチオンの混合物を含む又は本質的にこれらからなる群から選択される]
の少なくとも1種の水溶性ジアミノスチルベンジスルホン酸光学増白剤の存在下における少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマーの乳化重合による、水性組成物、好ましくは水系ラテックスバインダーの調製のための方法によって得ることが可能な、水性組成物。
【請求項8】
少なくとも1種のさらなる添加剤が前記水性組成物中に存在し、添加剤が、1種若しくは複数の殺生物剤、1種若しくは複数の脱泡剤、1種若しくは複数の防腐剤、1種若しくは複数の凍結防止剤、1種若しくは複数の増粘剤、又はそれらの混合物から選択される、請求項
7に記載の水性組成物。
【請求項9】
前記水性組成物中に存在する式(1)の
光学増白剤(OBA
)の合計量に対して90質量%を超える、又は92質量%を超える、又は94質量%を超える、又は96質量%を超える、又は98質量%を超える、又は99質量%を超える式(1)のOBAが、ポリマー内に捕捉される、請求項
7又は
8に記載の水性組成物。
【請求項10】
セルロース基材を光学的に増白するための、好ましくはコーティング組成物に使用される、請求項
7から
9のいずれか一項に記載の水性組成物の使用。
【請求項11】
請求項
7から
9のいずれか一項に記載の水性組成物を少なくとも含むコーティング組成物。
【請求項12】
セルロース基材を光学的に増白する方法であって、i)請求項
7から
9のいずれか一項に記載の水性組成物又は請求項1
1に記載のコーティング組成物をセルロース基材に塗布する工程と、ii)前記セルロース基材を乾燥させる工程とを含む、方法。
【請求項13】
請求項
7から
9のいずれか一項に記載の水性組成物、又は請求項1
1に記載のコーティング組成物で処理されたセルロース基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1種の水溶性ジアミノスチルベンジスルホン酸光学増白剤の存在下で少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマーの乳化重合によって水性組成物を調製する方法、並びに前記方法によって得ることが可能な水性組成物、セルロース基材を光学的に増白するための前記水性組成物の使用、及び水性組成物で処理されたセルロース基材に関する。
【背景技術】
【0002】
着色されたコーティング組成物を含む紙又は板紙の表面処理は、明度、平滑性、光沢、不透明性及び印刷適性等の表面の性質を改善するために実施される。コーティング組成物は、典型的には総固形分含有率が50~70%の範囲にある水性分散体であり、その80~90%は、カオリンクレイ又は炭酸カルシウム等の1種若しくは複数の顔料を含む。顔料粒子は、バインダーによって紙表面及び互いに固着され、それは、デンプン等の天然であっても、又は、アクリレート、スチレンアクリレート若しくはスチレン-ブタジエンラテックス等の合成であってもよい。コーティング組成物はまた、着色剤、光学増白剤、不溶化剤、可塑剤、レオロジー改質剤、分散剤、防腐剤及び脱泡剤等の様々な添加剤を含む。
【0003】
最大3,000m/分又はそれを優に超える塗工紙の生産速度の増大は、天然のバインダーから、低粘性を維持しつつ高い固形分の含有率を届けることができる合成ラテックスへと駆り立てている。
【0004】
合成ラテックスを紙に直接に塗布することができる水系乳剤の形で供給するのは当業界の必要条件である。
【0005】
より高い白色度及び明度の塗工紙に対する消費者の好みによって、製紙業者は、着色されたコーティング組成物に光学増白剤を混合している。
【0006】
当業界にとって好ましい光学増白剤は、セルロース繊維に対するその直接性及び親和性、使用の安全性及び低い塗布コストのために水溶性ジアミノスチルベンジスルホン酸型のものである。
【0007】
しかしながら、塗工紙の光学増白剤の使用は幾つかの要因によって限定される。解決されるべき1つの問題は、溶媒の作用によって経時的に塗工紙の光学増白剤がブリードアウトし、紙が明白な黄変を引き起こすことである。解決されるべき第2の問題は、コーティングが光学増白剤で「飽和」する前に、白色度の可能な増分には限度があり、紙は緑がかった様相を呈し始めることである。この第2の問題に打ち勝つことができるのは、現在のところ、コーティング組成物へいわゆる「担体」を高濃度で導入することによってのみである。適切な担体の例としては、ポリエチレングリコール及びポリビニルアルコールを含む。
【0008】
ブリード堅牢度の問題の解決に対する1つの手法は、乳化重合プロセスの間に水不溶性光学増白剤を含めることである。そのような光学増白剤は高価であり、量産が必要な当業界には入手が容易でないだけでなく、使用も受け入れられない。更に、白色度の上限が低いという問題も解決できない。
【0009】
ブリード堅牢度の問題の解決に対する第2の手法は、エチレン性不飽和モノマーを、アクリル、メタクリル又はアリル置換ジアミノスチルベンジスルホン酸光学増白剤と共重合することである。当業界が使用することができる乳剤の調製についての開示はなされていない。アクリル、メタクリル及びアリル置換ジアミノスチルベンジスルホン酸はまた、製造するには高価であり、毒物学的プロファイルは試験されていない。更に、ポリマー内での光学増白剤の100%保持について請求はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】EP 0 884 312 A1
【文献】EP 0 899 373 A1
【文献】WO 02/055646 A1
【文献】WO 2006/061399 A2
【文献】WO 2007/017336 A1
【文献】WO 2007/143182 A2
【文献】US 2006/0185808
【文献】US 2007/0193707
【非特許文献】
【0011】
【文献】Handbook for Pulp & Paper Technologists、G. A. Smook、第2版、Angus Wilde Publications、1992年のそれぞれ13章及び15章
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
乳剤として製造が容易で、ブリードに抵抗力があり、担体を使用せずにより高い白色度の上限を提供することができ、毒物学的に実証済みの、使用するのに経済的である、水系ラテックスバインダーに対する必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本目的は、式(1)
【化1】
[式中、
R
1及びR
6は、互いに独立して、水素、直鎖状若しくは分岐C
1~C
4アルキル、直鎖状若しくは分岐C
1~C
4ヒドロキシアルキル、CH
2CH
2CONH
2又はCH
2CH
2CNを意味し、
R
2及びR
4は、互いに独立して、水素、直鎖状若しくは分岐C
1~C
4アルキル、直鎖状若しくは分岐C
1~C
4ヒドロキシアルキル、CH
2CO
2M、CH
2CH
2CONH
2又はCH
2CH
2CNを意味し、
R
3及びR
5は、互いに独立して、直鎖状若しくは分岐C
1~C
4アルキル、直鎖状若しくは分岐C
1~C
4ヒドロキシアルキル、CH
2CO
2M、CH(CO
2M)CH
2CO
2M、CH(CO
2M)CH
2CH
2CO
2M、ベンジルを意味し、又は
R
2及びR
3は、それらの隣接窒素原子と一緒にモルホリノ環を意味し、並びに/又は
R
4及びR
5は、それらの隣接窒素原子と一緒にモルホリノ環を意味し、
R
7及びR
8は、互いに独立して、水素、直鎖状若しくは分岐C
1~C
4アルキルを意味し、
X及びYは、互いに独立して、CO
2M又はSO
3Mを意味し、
n及びmは、互いに独立して、0、1又は2から選択される整数を意味し、
Mは、光学増白剤のアニオン電荷をバランスさせるための少なくとも1種のカチオンを意味し、水素、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、アンモニウム、C
1~C
4直鎖状若しくは分岐アルキル基で一、二、三若しくは四置換されているアンモニウム、C
1~C
4直鎖状若しくは分岐ヒドロキシアルキル基で一、二、三若しくは四置換されているアンモニウム、C
1~C
4直鎖状若しくは分岐アルキル基又はC
1~C
4直鎖状若しくは分岐ヒドロキシアルキル基の混合物で二、三若しくは四置換されているアンモニウム、又は前記カチオンの混合物を含む又は本質的にこれらからなる群から選択される]
の少なくとも1種の水溶性ジアミノスチルベンジスルホン酸光学増白剤の存在下における少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマーの乳化重合による、水性組成物、好ましくは水系ラテックスバインダーの調製のための方法によって解決される。
【0014】
本発明による方法において、好ましくは、式(1)の少なくとも1種の水溶性ジアミノスチルベンジスルホン酸光学増白剤において、
R1及びR6は、互いに独立して、水素、メチル、直鎖状若しくは分岐C1~C4ヒドロキシアルキル又はCH2CH2CONH2を意味し、
R2及びR4は、互いに独立して、水素、直鎖状若しくは分岐C1~C4アルキル、直鎖状若しくは分岐C1~C4ヒドロキシアルキル、CH2CH2CONH2又はCH2CH2CNを意味し、
R3及びR5は、互いに独立して、直鎖状若しくは分岐C1~C4アルキル、直鎖状若しくは分岐C1~C4ヒドロキシアルキル、CH(CO2M)CH2CO2M、CH(CO2M)CH2CH2CO2M、ベンジルを意味し、又は
R2及びR3は、それらの隣接窒素原子と一緒にモルホリノ環を意味し、並びに/又は
R4及びR5は、それらの隣接窒素原子と一緒にモルホリノ環を意味し、
R7及びR8は、互いに独立して、水素又はメチルを意味し、
Mは先に定義される少なくとも1種のカチオンを意味する。
【0015】
本発明による方法において、好ましくは、式(1)の少なくとも1種の水溶性ジアミノスチルベンジスルホン酸光学増白剤において、
R1及びR6は水素を意味し、
R2及びR4は、互いに独立して、水素、直鎖状若しくは分岐C1~C2アルキル、直鎖状若しくは分岐C1~C3ヒドロキシアルキルを意味し、
R3及びR5は、互いに独立して、直鎖状若しくは分岐C1~C2アルキル、直鎖状若しくは分岐C1~C3ヒドロキシアルキル、CH(CO2M)CH2CO2M、CH(CO2M)CH2CH2CO2Mを意味し、又は
R2及びR3は、それらの隣接窒素原子と一緒にモルホリノ環を意味し、並びに/又は
R4及びR5は、それらの隣接窒素原子と一緒にモルホリノ環を意味し、
R7及びR8は、互いに独立して、水素又はメチルを意味し、
Mは先に定義される少なくとも1種のカチオンを意味する。
【0016】
本発明による方法において、好ましくは、少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマーは、(a)(メタ)アクリル酸のC1~C18アルキルエステル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、バーサチック酸ビニル、スチレン及びα-メチルスチレン;(b)親水性モノマー、例えば(メタ)アクリル酸、イタコン酸、ビニルスルホン酸、C1~C6カルボン酸のC1~C8ヒドロキシアルキルエステル、(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、N-ビニルホルムアミド及びN-ビニルピロリドン;又は(c)2個以上のエチレン性不飽和二重結合を有する架橋剤、例えばジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ブタンジオール、ジ(メタ)アクリル酸ヘキサンジオール、ジビニルベンゼン及びトリビニルベンゼン;又はそれらの2種以上の混合物から選択される。
【0017】
本発明による方法において、好ましくは、少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマーは、(a)(メタ)アクリル酸のC1~C6アルキルエステル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル及びスチレン;(b)親水性モノマー、例えば(メタ)アクリル酸、ビニルスルホン酸、(メタ)アクリルアミド及び(メタ)アクリロニトリル;又はそれらの2種以上の混合物から選択される。
【0018】
本発明による方法において、好ましくは、少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマーは、(a)メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、酢酸ビニル及びスチレン;(b)親水性モノマー、例えば(メタ)アクリル酸、ビニルスルホン酸及びアクリルアミド;又はそれらの2種以上の混合物から選択される。
【0019】
本発明による方法において、好ましくは、乳化重合は式(2)及び/又は式(3)
【化2】
[式中、
X及びYは、互いに独立して、O又はNHを意味し、
R及びR'は、互いに独立して、水素、又は1個若しくは複数のヒドロキシル基、CO
3M
1若しくはCO
3M
2基(式中、M
1及びM
2は、式(3)のアゾ化合物のアニオン電荷をバランスさせるための少なくとも1種のカチオンを意味し、水素、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、アンモニウム、C
1~C
4直鎖状若しくは分岐アルキル基で一、二、三若しくは四置換されているアンモニウム、C
1~C
4直鎖状若しくは分岐ヒドロキシアルキル基で一、二、三若しくは四置換されているアンモニウム、C
1~C
4直鎖状若しくは分岐アルキル基又はC
1~C
4直鎖状若しくは分岐ヒドロキシアルキル基の混合物で二、三若しくは四置換されているアンモニウム、又は前記カチオンの混合物を含む又は本質的にこれらからなる群から互いに独立して選択される)で置換されている直鎖状若しくは分岐C
1~C
4アルキルを意味する]
の水溶性アゾ化合物によって開始される。
【0020】
本発明による方法において、好ましくは、乳化重合は、少なくとも以下の4工程(a)~(d):
a)式(1)の少なくとも1種の水溶性ジアミノスチルベンジスルホン酸光学増白剤、及び場合によっては、少なくとも1種の分散剤を含む又はこれらからなる水溶液を用意する工程と、
b)少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマー、水及び少なくとも1種の分散剤を含む又はこれらからなる均質な予備分散体を用意する工程と、
c)式(2)及び/又は式(3)の水溶性アゾ化合物を含む又はこれらからなる水溶液を用意する工程と、
d)工程(b)において得られた予備分散体及び工程(c)において得られた水溶液を、工程(a)において得られた水溶液に同時に添加する工程と
を含む。
【0021】
この目的は、式(1)
【化3】
[式中、
R
1及びR
6は、互いに独立して、水素、直鎖状若しくは分岐C
1~C
4アルキル、直鎖状若しくは分岐C
1~C
4ヒドロキシアルキル、CH
2CH
2CONH
2又はCH
2CH
2CNを意味し、
R
2及びR
4は、互いに独立して、水素、直鎖状若しくは分岐C
1~C
4アルキル、直鎖状若しくは分岐C
1~C
4ヒドロキシアルキル、CH
2CO
2M、CH
2CH
2CONH
2又はCH
2CH
2CNを意味し、
R
3及びR
5は、互いに独立して、直鎖状若しくは分岐C
1~C
4アルキル、直鎖状若しくは分岐C
1~C
4ヒドロキシアルキル、CH
2CO
2M、CH(CO
2M)CH
2CO
2M、CH(CO
2M)CH
2CH
2CO
2M、ベンジルを意味し、又は
R
2及びR
3は、それらの隣接窒素原子と一緒にモルホリノ環を意味し、並びに/又は
R
4及びR
5は、それらの隣接窒素原子と一緒にモルホリノ環を意味し、
R
7及びR
8は、互いに独立して、水素、直鎖状若しくは分岐C
1~C
4アルキルを意味し、
X及びYは、互いに独立して、CO
2M又はSO
3Mを意味し、
n及びmは、互いに独立して、0、1又は2から選択される整数を意味し、
Mは、光学増白剤のアニオン電荷をバランスさせるための少なくとも1種のカチオンを意味し、水素、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、アンモニウム、C
1~C
4直鎖状若しくは分岐アルキル基で一、二、三若しくは四置換されているアンモニウム、C
1~C
4直鎖状若しくは分岐ヒドロキシアルキル基で一、二、三若しくは四置換されているアンモニウム、C
1~C
4直鎖状若しくは分岐アルキル基又はC
1~C
4直鎖状若しくは分岐ヒドロキシアルキル基の混合物で二、三若しくは四置換されているアンモニウム、又は前記カチオンの混合物を含む又は本質的にこれらからなる群から選択される]
の少なくとも1種の水溶性ジアミノスチルベンジスルホン酸光学増白剤の存在下における少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマーの乳化重合による、本発明による水性組成物、好ましくは水系ラテックスバインダーの調製のための方法によって得ることが可能な、水性組成物によって更に解決される。
【0022】
本発明による水性組成物において、好ましくは、1種若しくは複数の殺生物剤、1種若しくは複数の脱泡剤、1種若しくは複数の防腐剤、1種若しくは複数の凍結防止剤、1種若しくは複数の増粘剤、又はそれらの混合物から選択される、少なくとも1種のさらなる添加剤が水性組成物中に存在する。
【0023】
本発明による水性組成物において、好ましくは、水性組成物中に存在する式(1)のOBAの合計量に対して90質量%を超える、又は92質量%を超える、又は94質量%を超える、又は96質量%を超える、又は98質量%を超える、又は99質量%を超える式(1)のOBAは、ポリマー内に捕捉される。
【0024】
本発明の別の態様は、セルロース基材を光学的に増白するための、好ましくはコーティング組成物に使用される、本発明による水性組成物の使用に関する。
【0025】
本発明のさらなる態様は、本発明による水性組成物を少なくとも含むコーティング組成物に関する。
【0026】
本発明の別の態様は、セルロース基材を光学的に増白する方法であって、i)本発明による水性組成物又は本発明によるコーティング組成物をセルロース基材に塗布する工程と、ii)セルロース基材を乾燥させる工程とを含む、方法に関する。
【0027】
本発明の別の態様は、本発明による水性組成物又は本発明によるコーティング組成物で処理されたセルロース基材に関する。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明による方法は、式(1)の少なくとも1種の水溶性ジアミノスチルベンジスルホン酸光学増白剤を含む本発明による水性組成物を得る利点を有する。
【0029】
本出願の文脈内に使用される「水性組成物」という用語は、水系組成物、すなわち、水を含む組成物を指す。更に、本発明による水性組成物は、式(1)の非重合性の水溶性ジアミノスチルベンジスルホン酸光学増白剤が捕捉されるポリマー分散体として設計されている。
【0030】
この点で、実施例セクションにおいて本明細書で提供される実施例1が参照され、そこで、式(1)の遊離の、すなわち、捕捉されていない、非重合性の水溶性ジアミノスチルベンジスルホン酸光学増白剤の量を決定する方法について開示している。
【0031】
本発明による水性組成物は、基材表面、例えばセルロース基材の表面に本発明による水性組成物の形で、又は例えばコーティング組成物の形で塗布され、続いて乾燥工程が行われるならば、式(1)の非重合性の水溶性ジアミノスチルベンジスルホン酸光学増白剤がポリマーマトリクス内に依然として捕捉されている、環境に放出されず、すなわちブリード堅牢度を示すコーティングが基材表面に形成されるという利点を有する。さらなる利点は、そのようにして処理された基材表面が高い白色度の上限を示すが、二次バインダー又は担体の存在を必要としないということである。
【0032】
本出願の文脈内に使用される「捕捉される」という用語は、ポリマー又はポリマー分散体内に分布し、したがって、実施例1に記載の方法によっては検出できない、式(1)のOBAの分子を指す。それと対照的に、本発明による水性組成物中に存在する式(1)の遊離のOBAの量は、実施例1に記載の方法によって決定することができる。
【0033】
好ましくは、本発明による水性組成物中に存在する式(1)による遊離のOBAの量は、10質量%未満、又は8質量%未満、又は6質量%未満、又は4質量%未満、又は2質量%未満、又は実施例1に記載の方法の検出限界、すなわち、1質量%未満である。ここで、質量%は、本発明による水性組成物中に存在する式(1)のOBAの合計量に対する。それを別のように考えると、本発明による水性組成物中に存在する式(1)のOBAの合計量に対して90質量%を超える、又は92質量%を超える、又は94質量%を超える、又は96質量%を超える、又は98質量%を超える、又は99質量%を超える式(1)のOBAは、ポリマー内に捕捉される。
【0034】
好ましくは、本発明による水性組成物は水系ラテックスバインダーとして設計されている。
【0035】
本出願の文脈内で「光学増白剤(optical brightener)」という用語は、OBA、又は光学増白剤(optical brightening agent)、又は増白剤(brightening agent))、又は蛍光白色化剤(fluorescent whitening agent若しくはFWA、又は蛍光増白剤(fluorescent brightening agent)若しくはFBAという用語と同義で使用することができ、ジアミノスチルベンジスルホン酸部分を有する一般式(1)
【化4】
[式中、
R
1及びR
6は、互いに独立して、水素、直鎖状若しくは分岐C
1~C
4アルキル、直鎖状若しくは分岐C
1~C
4ヒドロキシアルキル、CH
2CH
2CONH
2又はCH
2CH
2CNを意味し、
R
2及びR
4は、互いに独立して、水素、直鎖状若しくは分岐C
1~C
4アルキル、直鎖状若しくは分岐C
1~C
4ヒドロキシアルキル、CH
2CO
2M、CH
2CH
2CONH
2又はCH
2CH
2CNを意味し、
R
3及びR
5は、互いに独立して、直鎖状若しくは分岐C
1~C
4アルキル、直鎖状若しくは分岐C
1~C
4ヒドロキシアルキル、CH
2CO
2M、CH(CO
2M)CH
2CO
2M、CH(CO
2M)CH
2CH
2CO
2M、ベンジルを意味し、又は
R
2及びR
3は、それらの隣接窒素原子と一緒にモルホリノ環を意味し、並びに/又は、
R
4及びR
5は、それらの隣接窒素原子と一緒にモルホリノ環を意味し、
R
7及びR
8は、互いに独立して、水素、直鎖状若しくは分岐C
1~C
4アルキルを意味し、
X及びYは、互いに独立して、CO
2M又はSO
3Mを意味し、
n及びmは、互いに独立して、0、1又は2から選択される整数を意味し、
Mは、光学増白剤のアニオン電荷をバランスさせるための少なくとも1種のカチオンを意味し、水素、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、アンモニウム、C
1~C
4直鎖状若しくは分岐アルキル基で一、二、三若しくは四置換されているアンモニウム、C
1~C
4直鎖状若しくは分岐ヒドロキシアルキル基で一、二、三若しくは四置換されているアンモニウム、C
1~C
4直鎖状若しくは分岐アルキル基又はC
1~C
4直鎖状若しくは分岐ヒドロキシアルキル基の混合物で二、三若しくは四置換されているアンモニウム、又は前記カチオンの混合物を含む又は本質的にこれらからなる群から選択される]
の化合物を指す。
【0036】
本発明による水性組成物において使用される式(1)によるOBAは、水に容易に且つ本質的に完全に可溶であり、したがって水溶液を形成するという利点を有する。したがって、本発明による水性組成物において使用される式(1)のOBAは、「水溶性」と見なされるはずである。
【0037】
更に、本発明による水性組成物において使用される式(1)のOBAは、OBA分子へアニオン電荷を導入する陰イオン性基、特にSO3
-及び/又はCO2
-基の存在により陰イオン性光学増白剤と見なされるはずである。式(1)のOBAは、とりわけ、陰イオン性基、特にSO3
-及び/又はCO2
-基の存在により水溶性である。
【0038】
式(1)の光学増白剤は、カチオン性OBA又は中性OBAと識別されなければならない。本発明による水性組成物において使用される式(1)のOBAとは対照的に、カチオン性OBA又は中性OBAは、水溶解性が低いか、又はこれを示さない。「カチオン性OBA」という用語の下で、OBAは、カチオン性電荷がOBA分子に位置すると理解されるはずである。「中性OBA」という用語の下で、OBAは、電荷がOBA分子中に全く存在しないと理解されるはずである。そのようなOBAの例はスチルベン、ベンゾオキサゾール、クマリン、ピレン及びナフタレンである。
【0039】
本発明による水性組成物において、好ましくは、1種若しくは複数のカチオン性及び/又は中性OBAの存在は除外される。
【0040】
更に、本発明による水性組成物において使用される式(1)のOBAは、非重合性、すなわち、エチレン性不飽和残基を全く含まない。この点で、式(1)のOBA中に存在する残基R1~R8、X及びYについて本明細書において与えられる定義が参照される。
【0041】
本発明による水性組成物において、好ましくは、エチレン性不飽和残基を含む1種又は複数のOBAの存在は除外される。
【0042】
本発明による水性組成物において、更に好ましくは、エチレン性不飽和残基を含む1種若しくは複数のOBAの存在、並びに1種若しくは複数のカチオン性及び/又は中性OBAの存在は除外される。
【0043】
好ましい式(1)の水溶性ジアミノスチルベンジスルホン酸光学増白剤は、
R1及びR6が、互いに独立して、水素、メチル、直鎖状若しくは分岐C1~C4ヒドロキシアルキル又はCH2CH2CONH2を意味し、
R2及びR4が、互いに独立して、水素、直鎖状若しくは分岐C1~C4アルキル、直鎖状若しくは分岐C1~C4ヒドロキシアルキル、CH2CH2CONH2又はCH2CH2CNを意味し、
R3及びR5が、互いに独立して、直鎖状若しくは分岐C1~C4アルキル、直鎖状若しくは分岐C1~C4ヒドロキシアルキル、CH(CO2M)CH2CO2M、CH(CO2M)CH2CH2CO2M、ベンジルを意味し、又は
R2及びR3が、それらの隣接窒素原子と一緒にモルホリノ環を意味し、並びに/又は、
R4及びR5が、それらの隣接窒素原子と一緒にモルホリノ環を意味し、
R7及びR8が、互いに独立して、水素又はメチルを意味し、
Mが、光学増白剤のアニオン電荷をバランスさせるための少なくとも1種のカチオンを意味し、水素、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、アンモニウム、C1~C4直鎖状若しくは分岐アルキル基で一、二、三若しくは四置換されているアンモニウム、C1~C4直鎖状若しくは分岐ヒドロキシアルキル基で一、二、三若しくは四置換されているアンモニウム、C1~C4直鎖状若しくは分岐アルキル基又はC1~C4直鎖状若しくは分岐ヒドロキシアルキル基の混合物で二、三若しくは四置換されているアンモニウム、又は前記カチオンの混合物を含む又は本質的にこれらからなる群から選択されるものである。
【0044】
最も好ましい式(1)の水溶性ジアミノスチルベンジスルホン酸光学増白剤は、
R1及びR6が水素を意味し、
R2及びR4が、互いに独立して、水素、直鎖状若しくは分岐C1~C2アルキル、直鎖状若しくは分岐C1~C3ヒドロキシアルキルを意味し、
R3及びR5が、互いに独立して、直鎖状若しくは分岐C1~C2アルキル、直鎖状若しくは分岐C1~C3ヒドロキシアルキル、CH(CO2M)CH2CO2M、CH(CO2M)CH2CH2CO2Mを意味し、又は、
R2及びR3が、それらの隣接窒素原子と一緒にモルホリノ環を意味し、並びに/又は、
R4及びR5が、それらの隣接窒素原子と一緒にモルホリノ環を意味し、
R7及びR8が、互いに独立して、水素又はメチルを意味し、Mが、光学増白剤のアニオン電荷をバランスさせるための少なくとも1種のカチオンを意味し、水素、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、アンモニウム、C1~C4直鎖状若しくは分岐アルキル基で一、二、三若しくは四置換されているアンモニウム、C1~C4直鎖状若しくは分岐ヒドロキシアルキル基で一、二、三若しくは四置換されているアンモニウム、C1~C4直鎖状若しくは分岐アルキル基又はC1~C4直鎖状若しくは分岐ヒドロキシアルキル基の混合物で二、三若しくは四置換されているアンモニウム、又は前記カチオンの混合物を含む又は本質的にこれらからなる群から選択されるものである。
【0045】
本発明による水性組成物は、式(1)の1種又は複数の水溶性ジアミノスチルベンジスルホン酸光学増白剤を含むことができる。
【0046】
本発明による水性組成物は更にポリマー分散体を含む。ポリマー分散体は、本発明による方法の間に生じる、少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマーの重合に由来する。「ポリマー分散体」という用語は、水性媒体中、好ましくは水中の少なくとも1種のポリマーの分散体を指し、ヒトの肉眼を用いる分散体の目視検査では単一の相のみを示す。したがって、ポリマー分散体はまた乳剤として見なすこともできる。
【0047】
ポリマー分散体はホモポリマー分散体として設計することができ、本発明による方法による乳化重合時に1種類のみのエチレン性不飽和モノマーが使用されることを意味する。ポリマー分散体はまたコポリマー分散体として設計することができる。「コポリマー」という用語は、その重合において、互いに異なる少なくとも2種のエチレン性不飽和モノマーが使用されるポリマーを意味する。例えば、モノマーは異なる分子式を有する。
【0048】
少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマーは、(a)(メタ)アクリル酸のC1~C18アルキルエステル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、バーサチック酸ビニル、スチレン及びα-メチルスチレン;(b)親水性モノマー、例えば(メタ)アクリル酸、イタコン酸、ビニルスルホン酸、C1~C6カルボン酸のC1~C8ヒドロキシアルキルエステル、(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、N-ビニルホルムアミド及びN-ビニルピロリドンから選択される。
【0049】
好ましいエチレン性不飽和モノマーは、(メタ)アクリル酸のC1~C6アルキルエステル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル及びスチレン;(b)親水性モノマー、例えば(メタ)アクリル酸、ビニルスルホン酸、(メタ)アクリルアミド及び(メタ)アクリロニトリルから選択される。
【0050】
最も好ましいエチレン性不飽和モノマーは、(a)メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、酢酸ビニル及びスチレン;(b)親水性モノマー、例えば(メタ)アクリル酸、ビニルスルホン酸及びアクリルアミドから選択される。
【0051】
含まれてもよい他の適切なモノマーは、2個以上のエチレン性不飽和二重結合を有する架橋剤(c)、例えばジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ブタンジオール、ジ(メタ)アクリル酸ヘキサンジオール、ジビニルベンゼン及びトリビニルベンゼンである。
【0052】
本明細書において使用される場合、「(メタ)アクリレート」という用語は「アクリレート」及び「メタクリレート」の両方を表し、「(メタ)アクリル」という用語は「アクリル」及び「メタクリル」の両方を表す。
【0053】
本発明による水性組成物は、式(1)の少なくとも1種の水溶性ジアミノスチルベンジスルホン酸光学増白剤の存在下で、少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマーの乳化重合から結果として得られた生成物を含む。更に、本発明による水性組成物は、少なくとも1種の分散剤及び/又は、式(2)及び/又は式(3)の水溶性アゾ化合物の残基を含むことができる。
【0054】
式(2)及び/又は式(3):
【化5】
[式中、
X及びYは、互いに独立して、O又はNHであり、R及びR'は、互いに独立して、水素、又は1個若しくは複数のヒドロキシル基、CO
2M
1若しくはSO
3M
2基(式中、M
1及びM
2は、式(3)のアゾ化合物のアニオン電荷をバランスさせるための少なくとも1種のカチオンを意味し、水素、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、アンモニウム、C
1~C
4直鎖状若しくは分岐アルキル基で一、二、三若しくは四置換されているアンモニウム、C
1~C
4直鎖状若しくは分岐ヒドロキシアルキル基で一、二、三若しくは四置換されているアンモニウム、C
1~C
4直鎖状若しくは分岐アルキル基又はC
1~C
4直鎖状若しくは分岐ヒドロキシアルキル基の混合物で二、三若しくは四置換されているアンモニウム、又は前記カチオンの混合物を含む又は本質的にこれらからなる群から互いに独立して選択される)で置換されている直鎖状若しくは分岐C
1~C
4アルキルを意味する]
の水溶性アゾ化合物は、本発明による方法の間にラジカル開始剤として使用される。
【0055】
本発明による方法において、式(2)及び式(3)の水溶性アゾ化合物の、すなわち、乳化重合を開始させるための使用は、本発明による水性組成物を得る利点を有する。更に、本発明による方法において、式(2)及び式(3)の水溶性アゾ化合物の使用は、粗粒子の形で存在し、したがって使用不可能な乳化重合の後の反応塊の量が、10質量%未満、又は8質量%未満、又は6質量%未満、又は4質量%未満、又は2質量%未満、又は1質量%未満であるという利点を有し、ここで、質量%は反応混合物の合計質量に対する。
【0056】
式(2)及び式(3)のアゾ化合物は一般に知られているラジカル開始剤であり、例えばWako Chemicals社から得ることができる。
【0057】
本出願の文脈内に使用される「分散剤」という用語の下で、試剤は、分散媒中で1種若しくは複数の成分の分散を容易にすると理解されるはずである。本発明による方法において、少なくとも1種の分散剤が、とりわけ、水及び少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマーの予備分散体を形成するために使用される。陰イオン性及び非イオン性の分散剤が好ましい。
【0058】
適切な陰イオン性分散剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム等の脂肪族アルコール硫酸アルカリ;イソプロピルベンゼンスルホン酸カリウム等のアリールアルキルスルホン酸塩;オクチルスルホコハク酸ナトリウム等のアルキルスルホコハク酸アルカリ;及び1~30個のオキシエチレン単位を有するt-オクチルフェノキシポリエトキシエチル硫酸ナトリウム等のアリールアルキルポリエトキシエタノール硫酸アルカリ又はスルホン酸アルカリが含まれる。
【0059】
適切な非イオン性分散剤としては、例えば7~18個の炭素原子のアルキル基及び6~60個のオキシエチレン単位を有するアルキルフェノキシポリエトキシエタノール、例えば、ヘプチルフェノキシポリエトキシエタノール等;長鎖カルボン酸のエチレンオキシド誘導体、例えばラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸又は酸の混合物、例えば6~60個のオキシエチレン単位を含有するトール油に見られるもの;オクチル、デシル、ラウリル又はセチルアルコール等の長鎖アルコールの、6~60個のオキシエチレン単位を含有するエチレンオキシド縮合物;ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン及びオクタデシルアミン等の長鎖又は分岐鎖アミンの、6~60個のオキシエチレン単位を含有するエチレンオキシド縮合物;並びに、1個又は複数の疎水性プロピレンオキシド部と結合したエチレンオキシド部のブロックコポリマーが含まれる。
【0060】
デンプン、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール等の高分子量ポリマーは、分散安定剤及び保護コロイドとして使用されてもよい。
【0061】
「予備分散体」という用語は、水性媒体中、好ましくは水中の少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマーの分散体を指し、ヒトの肉眼を用いる分散体の目視検査では単一の相のみを示す。このように、少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマーは、水性媒体中で均質に分散する。少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマーの均質な分散体は、好ましくは少なくとも1種の分散剤を使用することにより達成される。
【0062】
本発明による水性組成物は、1種若しくは複数の殺生物剤、1種若しくは複数の脱泡剤、1種若しくは複数の防腐剤、1種若しくは複数の凍結防止剤、1種若しくは複数の増粘剤、又はそれらの混合物から選択される、少なくとも1種のさらなる添加剤を更に含むことができる。
【0063】
本発明による組成物において使用することができる適切な殺生物剤の例は、Acticide(登録商標)及びNipacide(登録商標)の商品名で入手可能である。
【0064】
本発明による水性組成物は、好ましくは、沈降及び/又は凝固したポリマー粒子又はOBA粒子を本質的に含まず、好ましくは全く含まない。
【0065】
本発明による水性組成物は、例えば電解質、温度の影響又は剪断力に対して安定であるという利点を更に有する。
【0066】
本発明による水性組成物は、本発明による方法によって、式(1)の少なくとも1種の水溶性ジアミノスチルベンジスルホン酸光学増白剤の存在下で少なくとも1種のエチレン性不飽和ポリマーの乳化重合によって調製される。
【0067】
本出願の文脈内に使用される「乳化重合」という用語は、水不溶性のモノマーが、ラウリル硫酸等の分散剤の助けの下に水に分散し、重合がラジカル開始剤、好ましくは式(2)及び(3)の水溶性アゾ化合物を使用することにより開始される重合を指す。
【0068】
本発明による方法において乳化重合を使用するという利点は、それによって、本発明による得ることが可能な水性組成物が直ちに使用可能であることであり、すなわち、このようにして得られた水性組成物は、事前の精製工程を用いても用いなくも販売又は保管のために梱包することができ、又は事前の精製工程を用いても用いなくても直接に例えばコーティング組成物に用いることができる。
【0069】
本発明による方法において乳化重合は、少なくとも以下の4工程:(a)式(1)の少なくとも1種の水溶性ジアミノスチルベン光学増白剤、及び場合によっては少なくとも1種の分散剤を含む又はこれらからなる水溶液を用意する工程と、(b)少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマー、水及び少なくとも1種の分散剤を含む又はこれらからなる均質な予備分散体を用意する工程と、(c)式(2)及び/又は式(3)の水溶性アゾ化合物を含む又はこれらからなる水溶液を用意する工程と、(d)工程(b)において得られた予備分散体及び工程(c)において得られた水溶液を、工程(a)において得られた水溶液に同時に添加する工程とを含む。
【0070】
本出願の文脈において使用される「水溶液」という用語は、水である液体媒体を指し、1種若しくは複数の成分、例えば式(1)のOBA又は式(2)又は式(3)によるアゾ化合物は、本質的に完全に液体に溶解され、すなわち、1種又は複数の成分の粒子は水溶液中に存在しない。
【0071】
本発明による方法において工程(a)~(c)は任意の順序において行うことができる。また、工程(a)~(c)を同時に行うことが可能である。
【0072】
本発明による方法での工程(d)において、工程(b)において得られた予備分散体、及び工程(c)において得られた水溶液は、50~200rpmの間で撹拌しながら工程(a)において得られた水溶液に添加される。工程(b)において得られた予備分散体、及び工程(c)において得られた水溶液は、1~10時間にわたって、好ましくは2~6時間にわたって同時に添加される。
【0073】
乳化重合は、好ましくは熱を加えることにより始められる。加える熱は、ラジカル開始剤、すなわち、式(2)及び/又は式(3)のアゾ化合物に窒素を切り離させ、それによって有機ラジカルを形成するように、十分に高い必要がある。適切な温度範囲は55~95℃、好ましくは75~95℃である。好ましくは、工程(a)において得られた水溶液は、工程(b)において得られた予備分散体、及び工程(c)において得られた水溶液を添加する前に所望の温度に昇温される。温度は、ステップ(b)において得られた予備分散体、及びステップ(c)において得られた水溶液の添加の間、維持されなければならない。
【0074】
工程(b)において得られた予備分散体、及び工程(c)において得られた水溶液の、工程(a)において得られた水溶液への添加が終了した後、このようにして得られた反応混合物は一定のさらなる時間、所望の温度で更に維持することができ、又は、反応混合物を、例えば室温に放冷することもできる。
【0075】
本発明による方法は、乳化重合に続いて1つ又は複数の精製工程を更に含むことができる。例えば、固形分、例えば反応混合物からの濾過によって反応塊の粗粒子を取り出すことにより乳化重合が完了した後、1つの精製工程を行うことができる。
【0076】
式(1)のOBAは、当業者によって一般に知られており、先行技術に記載されている調製方法によって得られる。以下の調製方法は、式(1)のOBAを得る方法の一例である。
【0077】
式(1)のOBAを得る方法は反応A、続いて反応B、続いて反応Cを含む。その後に記載される調製方法は、一般式(1)内にあるすべてのOBAに適用することができる。
【0078】
反応Aにおいて、式(10)の化合物を式(11)の化合物と反応させて、式(12)の化合物が得られる。
【化6】
【0079】
反応Bにおいて、反応Aにおいて得られた式(12)の化合物を、式(13)の化合物と反応して式(14)の化合物が得られる。
【化7】
【0080】
代替として、式(14)の化合物は、式(10)の化合物をまず式(13)の化合物と反応させ、続いて式(11)の化合物と反応させることによって調製される。
【0081】
反応Cにおいて、反応Bにおいて得られた式(14)の化合物は、式(15)の化合物及び式(16)の化合物
【化8】
と反応させて式(I)の化合物及びジエタノールアミンを含む水性組成物が得られる。
【0082】
式(10)~(16)において、R1及びR6は、互いに独立して、水素、直鎖状若しくは分岐C1~C4アルキル、直鎖状若しくは分岐C1~C4ヒドロキシアルキル、CH2CH2CONH2又はCH2CH2CNを意味し、R2及びR4は、互いに独立して、水素、直鎖状若しくは分岐C1~C4アルキル、直鎖状若しくは分岐C1~C4ヒドロキシアルキル、CH2CO2M、CH2CH2CONH2又はCH2CH2CNを意味し、R3及びR5は互いに独立して、直鎖状若しくは分岐C1~C4アルキル、直鎖状若しくは分岐C1~C4ヒドロキシアルキル、CH2CO2M、CH(CO2M)CH2CO2M、CH(CO2M)CH2CH2CO2M、ベンジルを意味し、又はR2及びR3は、それらの隣接窒素原子と一緒にモルホリノ環を意味し、並びに/又は、R4及びR5は、それらの隣接窒素原子と一緒にモルホリノ環を意味し、R7及びR8は、互いに独立して、水素、直鎖状若しくは分岐C1~C4アルキルを意味し、X及びYは、互いに独立して、CO2M又はSO3Mを意味し、n及びmは、0、1又は2であり、Mは、水素、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、アンモニウム、C1~C4直鎖状若しくは分岐アルキル基で一、二、三若しくは四置換されているアンモニウム、C1~C4直鎖状若しくは分岐ヒドロキシアルキル基で一、二、三若しくは四置換されているアンモニウム、C1~C4直鎖状若しくは分岐アルキル基又はC1~C4直鎖状若しくは分岐ヒドロキシアルキル基の混合物で二、三若しくは四置換されているアンモニウム、又は前記カチオンの混合物を含む又は本質的にこれらからなる群から選択される、光学増白剤のアニオン電荷をバランスさせるためのカチオンを意味する。
【0083】
各反応A、B及びCは、好ましくは水、又は水及び非水性有機溶媒の混合物中で実行される。好ましくは式(10)の化合物は水に懸濁され、又は式(10)の化合物はアセトン等の溶媒に溶解される。好ましくは、式(10)の化合物は、水中懸濁液として使用される。
【0084】
式(10)、(13)、(15)又は(16)の各化合物は、希釈して使用されても、希釈しないで使用されてもよく、希釈する場合には、式(10)、(13)、(15)又は(16)の化合物は、好ましくは水溶液又は懸濁液の形で使用される。
【0085】
好ましくは、式(10)の化合物は式(11)の化合物に関して0~10mol%過剰で反応させる。式(13)の化合物の1モル当量は、式(12)の化合物の2モル当量、好ましくは式(12)の化合物に関して0~10mol%過剰で反応させる。式(15)の化合物及び式(16)の化合物は、式(14)の化合物の1モル当量と反応させ、好ましくは式(15)及び(16)の化合物は、式(14)の化合物に関して0~30mol%過剰で一緒に反応させる。
【0086】
好ましくは、任意の反応A、B及びCが大気圧と10barの間で、より好ましくは大気圧下で行われる。
【0087】
反応Aにおいて、反応温度は、好ましくは-10~20℃である。反応Bにおいて、反応温度は好ましくは20~80℃である。反応Cにおいて、反応温度は好ましくは60~102℃である。
【0088】
反応Aは、好ましくは酸性から中性のpH条件の下で実行され、より好ましくは、pHは2~7である。反応Bは、好ましくは弱い酸性から弱いアルカリ性条件の下で実行され、より好ましくは、pHは4~8である。反応Cは、好ましくは弱い酸性からアルカリ性条件の下で実行され、より好ましくは、pHは5~11である。
【0089】
各反応A、B及びCのpHは、一般に適切な塩基の添加によって制御され、塩基の選択は、所望の生成物組成によって規定される。好ましい塩基は、脂肪族第三級アミン、及びアルカリ及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩及び重炭酸塩、並びにそれらの混合物からなる群から選択される。好ましいアルカリ及びアルカリ土類金属は、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム及びマグネシウムからなる群から選択される。好ましい脂肪族第三級アミンは、2-[2-ヒドロキシエチル(メチル)アミノ]エタノール、2-(ジメチルアミノ)エタノール、トリエタノールアミン及びトリイソプロパノールアミンである。2種以上の異なる塩基の組合せが使用される場合、塩基は任意の順序で、又は同時に添加されてもよい。好ましい塩基はNaOH、LiOH及びKOHである。
【0090】
酸を使用して反応pHを調節することが必要である場合、好ましい酸は、塩酸、硫酸、ギ酸及び酢酸からなる群から選択される。
【0091】
式(1)のOBAを含む、得られた組成物は、場合によっては膜濾過によって脱塩されてもよい。膜濾過法は、好ましくは限外濾過である。好ましくは、薄いフィルムの膜が使用される。好ましくは、膜は、ポリスルホン、ポリビニリデンフルオリド又は酢酸セルロースでできている。
【0092】
本出願は、更にセルロース基材を光学的に増白するための、本発明による水性組成物の使用に関する。好ましくは、本発明による水性組成物は、セルロース基材の光学的に増白するための、本発明によるコーティング組成物に使用される。
【0093】
本出願の文脈内で「セルロース基材」という用語は、セルロースを含む、又は本質的にこれからなる基材を指す。セルロース基材は、紙、板紙又は綿から選択することができる。
【0094】
好ましくは、セルロース基材は、合成であっても、又は木質及び非木質の供給源を含む任意の繊維植物から入手されてもよいセルロース繊維の織物を含む。好ましくは、セルロース繊維は、硬材及び/又は軟材から入手される。繊維は未使用繊維でも、又は再生繊維でも、又は未使用と再生繊維の任意の組合せでもよい。
【0095】
セルロース基材中に含まれるセルロース繊維は、例えばHandbook for Pulp & Paper Technologists、G. A. Smook、第2版、Angus Wilde Publications、1992年のそれぞれ13章及び15章に記載のように、物理的及び/又は化学的方法によって改変されていてもよい。セルロース繊維の化学的改変の一例は、例えばEP 0 884 312 A1、EP 0 899 373 A1、WO 02/055646 A1、WO 2006/061399 A2、WO 2007/017336 A1、WO 2007/143182 A2、US 2006/0185808、及びUS 2007/0193707に記載のように、光学増白剤を添加することである。
【0096】
本発明による水性組成物は、コーティング組成物、特に着色されたコーティング組成物においてセルロース基材に適用することができる。コーティング組成物中に存在する水性組成物の量は、乾燥した白色顔料の質量に対して1~40質量%の範囲にある。
【0097】
セルロース基材を光学的に増白するためのコーティング組成物は、本発明による水性組成物を含み、又はそれからなり、少なくとも1種の顔料、及び/又は少なくとも1種のバインダーを更に含む、又はこれらからなることができる。
【0098】
しかし、本発明による水性組成物の使用は、コーティング組成物中に追加のバインダーを使用する必要がないという利点を有する。
【0099】
好ましくは、本発明によるコーティング組成物中に存在する式(1)による遊離のOBAの量は、10質量%未満、又は8質量%未満、又は6質量%未満、又は4質量%未満、又は2質量%未満、又は実施例1に記載の方法の検出限界、すなわち、1質量%未満である。ここで、質量%は、本発明によるコーティング組成物中に存在する式(1)のOBAの合計量に対する。それを別のように考えると、本発明によるコーティング組成物中に存在する式(1)のOBAの合計量に対して90質量%を超える、又は92質量%を超える、又は94質量%を超える、又は96質量%を超える、又は98質量%を超える、又は99質量%を超える式(1)のOBAは捕捉される。
【0100】
本発明によるコーティング組成物が着色されたコーティング組成物として設計されている場合、組成物は、着色されたコーティング組成物の合計質量に対して10~70質量%、好ましくは40~60質量%の白色顔料を含む。白色顔料を含まないコーティング組成物を製造することは可能であるが、印刷用の最も良好な白い基材は、前に挙げた量の白色顔料を含む不透明なコーティング組成物を使用して製作される。
【0101】
白色顔料は、無機質顔料、好ましくは、例えば、ケイ酸アルミニウム(カオリン、そうでなければチャイナクレイとして知られる)、炭酸カルシウム(チョーク)、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム又は硫酸カルシウム(セッコウ)、又はそれらの混合物からなる群から選択される。好ましくは、着色されたコーティング組成物の合計質量に対して10~20質量%のクレイ及び30~40質量%のチョークの混合物が、白色顔料として使用される。本出願の文脈内に使用される「顔料」という用語は、水不溶性化合物を指す。
【0102】
追加のバインダーが本発明によるコーティング組成物中に使用されるそのような場合、バインダーは、紙工業においてコーティング組成物の製造のために一般に使用されるもののいずれであってもよく、単一のバインダー、又は一次及び二次バインダーの混合物からなっていてもよい。バインダーは、合成ラテックス、スチレン-ブタジエン、酢酸ビニル、スチレンアクリル、ビニルアクリル又はエチレン酢酸ビニルのポリマーのうちの1つ又は複数を含む一次バインダー、及び場合によっては、デンプン、カルボキシメチルセルロース、カゼイン、大豆ポリマー、ポリビニルアルコールのうちの1つ又は複数を含む二次バインダーから選択される。
【0103】
唯一の又は一次バインダーは、好ましくは合成ラテックス、典型的には、スチレン-ブタジエン、酢酸ビニル、スチレンアクリル、ビニルアクリル又はエチレン酢酸ビニルのポリマーである。好ましい一次バインダーはラテックスバインダーである。
【0104】
使用される本発明によるバインダー及び水性組成物の量は、着色されたコーティング組成物中に存在する白色顔料の合計質量に対して、典型的には2~25質量%、好ましくは4~20質量%の範囲の量である。
【0105】
しかし、追加のバインダーは、本発明によるコーティング組成物において使用されないことが好ましい。したがって、本発明によるコーティング組成物において使用される本発明による水性組成物は、着色されたコーティング組成物中に存在する白色顔料の合計質量に対して、典型的には2~25質量%、好ましくは4~20質量%の範囲の量である。
【0106】
場合によっては使用されてもよい二次バインダーは、例えば、デンプン、カルボキシメチルセルロース、カゼイン、大豆ポリマー、ポリビニルアルコール又はその混合物であってもよい。場合によっては使用されてもよい好ましい二次バインダーは、ポリビニルアルコールバインダーである。
【0107】
二次バインダーとして着色されたコーティング組成物において場合によっては使用されてもよいポリビニルアルコールは、好ましくは60%以上の加水分解の程度及び2~80mPa.s(20℃で4%の水溶液)のBrookfield粘度を有する。より好ましくは、ポリビニルアルコールは、80%以上の加水分解の程度、及び2~40mPa.s(20℃で4%の水溶液)のBrookfield粘度を有する。
【0108】
場合によっては使用される場合、二次バインダーは、着色されたコーティング組成物中に存在する白色顔料の合計質量に対して、典型的には0.1~20質量%、好ましくは0.2~8質量%、より好ましくは0.3~6質量%の範囲の量で使用される。
【0109】
本発明によるコーティング組成物のpH値は、典型的には5~13、好ましくは6~11、より好ましくは7~10の範囲にある。コーティング組成物のpHを調節することが必要である場合、酸又は塩基が用いられてもよい。用いられてもよい酸の例としては、塩酸、硫酸、ギ酸及び酢酸を含むがこれらに限定されない。用いられてもよい塩基の例は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属水酸化物又は炭酸塩、アンモニア又はアミンを含むがこれらに限定されない。
【0110】
更に、コーティング組成物は、式(1)のOBAの調製中に形成される副生物、並びに他の従来の添加剤を含んでいてもよい。そのような添加剤の例は、例えば、凍結防止剤、分散剤、合成又は天然の増粘剤、担体、脱泡剤、ワックス乳剤、染料、無機塩、可溶化助剤、防腐剤、錯化剤、殺生物剤、架橋剤、顔料、特殊樹脂等である。
【0111】
本出願は、更に、セルロース基材を光学的に増白する方法であって、i)本発明による水性組成物又は本発明によるコーティング組成物をセルロース基材に塗布する工程と、ii)セルロース基材を乾燥させる工程とを含む、方法に関する。
【0112】
本出願は、また、本発明による水性組成物又は本発明によるコーティング組成物で処理されたセルロース基材に関する。
【実施例】
【0113】
実施例は、本発明による方法及び組成物を説明するものとして理解されるべきである。しかし、実施例は、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。特に断わらなければ、「部」は「質量部」を意味する。
【0114】
(実施例1)
水性組成物中の遊離光学増白剤含有率の決定
以下の記載は、一般に本発明による、一般に知られている水性組成物(ラテックスとも称される)又は水性組成物のいずれかにおける、遊離の、すなわち、捕捉されていない光学増白剤の量を決定する方法について記載した。
【0115】
硫酸アルミニウムの1%w/w水溶液40mlに0.50部の水性組成物を撹拌しながら添加する。凝析の後、15分間4000rpmで分散体を遠心分離する。3部の水を用いて1.5部のしょう液を希釈し、水含有ブランクに対して分光光度計で吸光度を測定する。次いで、水性組成物中の遊離光学増白剤の濃度を検量線から計算する。
【0116】
(実施例2)
本発明による水性組成物の調製
1リットルの反応器へ290部の脱イオン水及び5部の式(5)
【化9】
の光学増白剤を導入した。撹拌した溶液を80℃に加熱した。
【0117】
第2の容器中で、160部の脱イオン水、3部のラウリル硫酸ナトリウム塩、248部のアクリル酸ブチル、226部のスチレン及び10部のアクリル酸を一緒に撹拌することにより予備分散体を形成した。
【0118】
第3の容器中で、30部の脱イオン水に3部の式(6)
【化10】
のラジカル開始剤を溶解させた。
【0119】
次いで、100rpmの撹拌速度で4時間の間80℃に内部温度を維持しながら予備分散体及び開始剤の溶液を、光学増白剤の溶液に同時に添加した。
【0120】
4時間の終わりに、更に20部の脱イオン水を用いて残余予備分散体及びモノマーを反応器へすすぎ、80℃に内部温度を更に2時間保持した。
【0121】
そのようにして形成された水性組成物を室温に冷やし、5部の25%アンモニア溶液でpHを約7に調節して49質量%の乾燥固形分及びおよそ0.5質量%の光学増白剤を含む、光学的に増白されたスチレンアクリレートラテックスの1000部の水性組成物を得た。ここで、質量%は全水性組成物の質量に対する。得られたラテックスの1質量%未満が、粗粒子(濾過によって取り出した)の形をし、使用不可能であった(質量%は全水性組成物の質量に対する)。
【0122】
実施例1に従って測定した遊離光学増白剤含有率は、検出限界より低かった。物質収支によると、ラテックス内に99%を超える光学増白剤(5)が捕捉されていた。
【0123】
(実施例3)
本発明による水性組成物の調製
式(5)の光学増白剤の代わりに式(7)の光学増白剤を使用して、実施例2を繰り返して48質量%の乾燥固形分及びおよそ0.5質量%の光学増白剤を含む、光学的に増白されたスチレンアクリレートラテックスの1000部の水性組成物を得た。ここで質量%は全水性組成物の質量に対する。得られたラテックスの1質量%未満が、粗粒子(濾過によって取り出した)の形をし、使用不可能であった(質量%は全水性組成物の質量に対する)。
【0124】
実施例1に従って測定した遊離光学増白剤含有率は、検出限界より低かった。物質収支によると、ラテックス内に99%を超える光学増白剤(7) が捕捉されていた。
【0125】
【0126】
(実施例4)
比較の水性組成物の調製
式(5)の光学増白剤の代わりに5部の式(8)の光学増白剤モノマーを使用して、実施例2を繰り返して49.7質量%の乾燥固形分及びおよそ0.25質量%の光学増白剤を含む、光学的に増白された1000部のスチレンアクリレートラテックスを得た。得られたラテックスの1質量%未満が、粗粒子(濾過によって取り出した)の形をし、使用不可能であった(質量%は全水性組成物の質量に対する)。
【0127】
実施例1に従って測定した遊離光学増白剤含有率は、42%であった。
【化12】
【0128】
(実施例5)
AIBNを使用する水性組成物の比較の調製
式(6)のラジカル開始剤の水溶液の代わりに、3部のAIBN、式(9)
【化13】
のラジカル開始剤の10部のアセトン中溶液を使用して、実施例2を繰り返した。
【0129】
40%の乾燥固形分を含む750部のみの光学的に増白されたスチレンアクリレートラテックスが得られた(およそ60%の収率)。得られたラテックスの20質量%超が、粗粒子(濾過によって取り出した)の形をし、使用不可能であった(質量%は全水性組成物の質量に対する)。
【0130】
実施例1に従って測定した遊離光学増白剤含有率は、82%であった。
【0131】
(実施例6)
塗布実施例
70部のチョーク(OMYA社からHydrocarb 55の商品名で市販されている)、30部のクレイ(KaMin社からPolygloss 90の商品名で市販されている)、49.5部の水、0.6部の分散剤(Coatex社からTopsperse GXNの商品名で市販されている)、及び20部の50%ラテックス(Archroma社からCartacoat B631の商品名で市販されているスチレンアクリレートコポリマー)を含有するコーティング組成物を調製した。水の添加によって、およそ65%にコーティング組成物の固形分含有率を調節し、水酸化ナトリウムを用いてpHを8~9に調節した。
【0132】
次いで、自動巻き線型バーアプリケーターを使用して標準速度設定及びバーの標準荷重で市販の75gsm中性サイズ白色紙基材シートにコーティング組成物を塗布した。次いで、塗工紙を熱風流中で5分間乾燥させた。その後、紙をコンディショニングし、較正されたAutoelrepho分光光度計でCIE白色度及びISO明度について測定した。
【0133】
市販ラテックスを実施例2で調製した本発明による水性組成物を、漸増的に25質量%、50質量%、75質量%及び100質量%置き換えたコーティング組成物を使用して、手順を繰り返して、更に塗工紙を調製した。ここで、質量%は全コーティング組成物の質量に対する。
【0134】
Table 1(表1)に結果を示し、本発明による水性組成物が飽和のない高水準のCIE白色度及びISO明度を与えることを明白に示す。
【0135】
【0136】
(実施例7)
塗布実施例
実施例7を繰り返したが、実施例3で調製した本発明による水性組成物を使用することが唯一異なる。
【0137】
Table 2(表2)に結果を示す。
【0138】