(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-10
(45)【発行日】2024-01-18
(54)【発明の名称】光電センサ及び物体検出方法
(51)【国際特許分類】
G01S 17/93 20200101AFI20240111BHJP
G01S 17/42 20060101ALI20240111BHJP
【FI】
G01S17/93
G01S17/42
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022081776
(22)【出願日】2022-05-18
【審査請求日】2022-06-27
(32)【優先日】2021-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591005615
【氏名又は名称】ジック アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ファビアン ヤッハマン
【審査官】▲高▼場 正光
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-140790(JP,A)
【文献】特開2019-164121(JP,A)
【文献】特開2008-026997(JP,A)
【文献】特開2020-051971(JP,A)
【文献】特開2011-232325(JP,A)
【文献】特開2010-249569(JP,A)
【文献】特開2011-257193(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03521860(EP,A1)
【文献】欧州特許出願公開第01927867(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48 - G01S 7/51
G01S 17/00 - G01S 17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視領域(20)内の物体(48)を検出するための光電センサ(10)、特にレーザスキャナであって、互いに分離した複数の光線(26)を送出するための少なくとも1つの発光器(22)と、前記監視領域(20)内で反射された前記光線(28)からそれぞれ受信信号を生成するための
少なくとも1つの受光器(32)と、送出された前記光線(26)を周期的に前記監視領域(20)を通過するように案内するために用いられる可動式の偏向ユニット(12)であって、該
偏向ユニット(12)の運動の進行中に前記分離した光線(26)でそれぞれスキャン層(44)を走査するための偏向ユニット(12)と、それぞれの受信信号から前記監視領域(20)内の物体(48)に関する情報を取得するように構成され、特に光伝播時間法により距離を測定するように構成された制御及び評価ユニット(40)とを備える光電センサ(10)において、
前記制御及び評価ユニット(40)が更に、スキャン層(44)毎に安全に関わる物体(48、50)の存在を確認し、スキャン層(44)毎に確認された安全に関わる物体(48、50)の存在を一緒に評価することで、安全確保に向けた反応を発動させるかどうかを決定するように構成されていること
、及び
安全確保に向けた反応の発動の頑強性を高めるよう、安全確保に向けた反応を発動させるには複数のスキャン層で安全に関わる物体(48、50)の存在が確認されることが必要であるとしつつ、例外的に、横たわった人間を検出するため、安全確保に向けた反応を発動させるには床より上の最も下のスキャン層のみにおいて安全に関わる物体(48、50)の存在が確認されれば十分であるとすること
を特徴とする光電センサ(10)。
【請求項2】
前記制御及び評価ユニット(40)が、複数のスキャン層(44)内で同一の又は隣接する角度位置において存在が確認されたときに、該複数のスキャン層(44)における物体(48、50)の存在を確定するように構成されている、請求項1に記載のセンサ(10)。
【請求項3】
前記制御及び評価ユニット(40)が、ある数のスキャン層(44)において物体(48、50)の存在が確認された場合に安全確保に向けた反応を発動させるように構成されており、前記数が、遠くの物体(48)の場合よりも近くの物体(48)の場合の方が大きい、請求項1又は2に記載のセンサ(10)。
【請求項4】
前記制御及び評価ユニット(40)が、第1の安全な射程までの距離にある物体(48)に対し、全ての関係するスキャン層(44)において物体(48、50)の存在が確認された場合に安全確保に向けた反応を発動させるように構成され、前記第1の安全な射程
は、単一のスキャン層しか持たない安全レーザスキャナの安全な射程に相当する、請求項1又は2に記載のセンサ(10)。
【請求項5】
前記制御及び評価ユニット(40)が、第1の安全な射程より向こう側で第2の安全な射程までの距離にある物体(48)に対し、少なくとも2つ以上の、特に互いに隣接したスキャン層(44)において物体(48、50)の存在が確認された場合に安全確保に向けた反応を発動させるように構成されている、請求項1又は2に記載のセンサ(10)。
【請求項6】
前記制御及び評価ユニット(40)が、ある物体(48)が安全に関わるのはその位置が設定した防護区域内にあるときだけである、という防護区域評価を行うように構成されている、請求項1又は2に記載のセンサ(10)。
【請求項7】
前記制御及び評価ユニット(40)が、最も下のスキャン層(44a)又は下から複数番目までのスキャン層(44a~b)に基づいて床(46)の状態及び/又は向きを検出するように構成されている、請求項1又は2に記載のセンサ(10)。
【請求項8】
前記制御及び評価ユニット(40)が、安全に関わる物体(48、50)の存在を確認するために床(46)より上の最小高さまでの物体(48)だけを算入するように構成されている、請求項1又は2に記載のセンサ(10)。
【請求項9】
前記制御及び評価ユニット(40)が、距離及びスキャン層(44)に応じて床(46)より上の高さを測定するように構成されている、請求項1又は2に記載のセンサ(10)。
【請求項10】
前記スキャン層(44)が少なくとも床付近において互いに角度分解能を示しており、その結果、隣接するスキャン層(44)が、最大の射程において、検出すべき最小サイズの物体(48)に対応する間隔以下、特にarctan(最小サイズ/射程)で規定される間隔以下の間隔を示す、請求項1又は2に記載のセンサ(10)。
【請求項11】
機械の安全又は非接触型防護装置のための安全規格の意味での安全センサ、特に安全レーザスキャナとして構成され
、安全確保に向けた防護信号を出力するための安全出力(42)を備えている、請求項1又は2に記載のセンサ(10)。
【請求項12】
監視領域(20)内の物体(48)を検出する方法であって、互いに分離した複数の光線(26)を送出して可動式の偏向ユニット(12)を用いて周期的に前記監視領域(20)を通過するように案内することで該
偏向ユニット(12)の運動の進行中に前記分離した光線(26)でそれぞれスキャン層(44)を走査し、前記監視領域(20)内で反射された前記光線(28)からそれぞれ受信信号を生成し、それぞれの受信信号から前記監視領域(20)内の物体(48)に関する情報を取得し、特に光伝播時間法により距離を測定する方法において、
スキャン層(44)毎に安全に関わる物体(48、50)の存在を確認し、スキャン層(44)毎に確認された安全に関わる物体(48、50)の存在を一緒に評価することで、安全確保に向けた反応を発動させるかどうかを決定すること
、及び
安全確保に向けた反応の発動の頑強性を高めるよう、安全確保に向けた反応を発動させるには複数のスキャン層で安全に関わる物体(48、50)の存在が確認されることが必要であるとしつつ、例外的に、横たわった人間を検出するため、安全確保に向けた反応を発動させるには床より上の最も下のスキャン層のみにおいて安全に関わる物体(48、50)の存在が確認されれば十分であるとすること
を特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1又は13のプレアンブルに記載の光電センサ、特にレーザスキャナ、及び監視領域内の物体の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学的な監視にはレーザスキャナがよく用いられる。該スキャナでは、レーザにより生成された光線が偏向ユニットの助けを借りて周期的に監視領域を塗りつぶすように掃引される。この光が監視領域内の物体の表面で反射され、レーザスキャナ内で評価される。偏向ユニットの角度位置から物体の角度位置が推定され、更に光速を用いて光伝播時間からレーザスキャナと物体の間の距離も推定される。その際、光伝播時間を測定する2つの基本的な原理が知られている。位相ベースの方法の場合、発射光が変調され、その発射光に対する受信光の位相差が評価される。パルスベースの方法の場合、安全技術において好んで用いられているように、レーザスキャナは送出された光パルスが再び受光されるまでの所要時間を測定する。例えば特許文献1から知られているパルス平均法では、1つの測定値のために多数の個別パルスが送出され、受信パルスが統計的に評価される。
【0003】
重要な応用の1つに安全技術における危険の発生源の防護がある。この場合、レーザスキャナは、機械の稼働中に操作者の進入を許してはならない防護区域を監視する。レーザスキャナは角度と距離の情報を取得するから、監視領域内、従って防護区域内における各物体の2次元的な位置を算出することができる。操作者の脚等の防護区域への許可なき侵入を認識すると、レーザスキャナは機械の緊急停止を発動させる。
【0004】
安全技術に用いられるセンサは特に高い信頼性で作動しなければならないため、例えば機械の安全に関する規格EN13849や非接触型防護装置(beruehrungslos wirkende Schutzeinrichtungen: BWS)に関する機器規格EN61496といった高い安全要求を満たさなければならない。これらの安全規格を満たすために、例えば、冗長性のある多様な電子機器により確実な電子的評価を行う、機能の監視を行う、及び/又は、定義された反射率を持つ個別の検査用標的が各々対応する走査角度で必ず認識されるようにする等、幾つもの措置が講じられる。
【0005】
レーザスキャナの測定領域はその2次元的なスキャン平面に制限されている。加えて、そのスキャン平面が床に平行に延在するようにするためにかなりの較正作業が必要である。射程が長い場合やスキャン角が広い場合、それは一層難しくなる。妨害物のある環境、特に屋外領域では、それが可用性の問題、即ち本来なら安全に関わるものではない物体による無用な電源遮断につながる恐れがある。場合によっては検出アルゴリズムにより小さすぎる物体や一過性の物体がフィルタで除外されはするものの、例えば1本1本の草の茎のような永続的な妨害物にはやはりどうしても反応してしまう。
【0006】
安全技術以外の分野では、規則的又は不規則な角度間隔を互いに持つ複数のスキャン層から成る扇形を監視し、以て最終的に3次元空間領域を監視するレーザスキャナが知られている。このようなレーザスキャナは多層スキャナと呼ばれ、多平面スキャナと呼ばれることもよくある。しかし、安全な多層スキャナ、即ち上述した意味での機能的な安全性の要求に従って安全技術に利用されるべく装備され、認証された多層スキャナはこれまで存在していない。既存の安全スキャナは常に単層又は単平面スキャナである。
【0007】
3次元空間領域の検出用には3次元カメラが知られており、これは安全技術上の応用課題も解決する。多層スキャナと3次元カメラは、射程、視野、解像度(特に高さ方向)、及び検出される3次元測定点の質に関して非常に異なる特性を有している。これら2つの技術のどちらかが全般的により優れていると言うことはできず、適性は具体的な使用状況による。
【0008】
従って、3次元検出を行う安全レーザスキャナの需要はこれまで満たされていない。しかし、単層スキャナ及び3次元カメラのいずれのやり方も簡単には転用できない。多層スキャナにおいて、複数のスキャン層のいずれかにおける物体認識をそれぞれ単純に単層スキャナの唯一のスキャン平面における物体認識と同様に安全に関わるものと評価したとすると、無用な電源遮断が何倍も起きてしまう。その上、少なくとも床に起因する誤った電源遮断が永続的に生じないようにするため、少なくとも下方に向けられたスキャン層における防護区域は床を考慮して設定しなければならない。他方で、3次元カメラによる3次元の点群の評価は非常に複雑であり、レーザスキャナの通常の計算及び記憶能力では実行できない。しかもそのような評価は、例えば鉛直方向の解像度が全く異なるためレーザスキャナの点群には全く適していない。
【0009】
数多くの文書を代表して、多層スキャナを開示する情報源として特許文献2が挙げられる。該文献では、防護区域の監視を伴う安全技術の分野での利用の可能性がついでに述べられている。しかしそれは単層スキャナに関して知られた防護区域評価と安全な設計を真似て繰り返しているに過ぎず、従ってそれは多層スキャナには転用できないか、さもなければ既に触れたように無数の誤った電源遮断を引き起こすであろう。特許文献2が目指している本来の方向性は安全な多層スキャナにも同様に利用できる特別な光学的構成であるが、多層スキャナの安全性及び可用性には寄与しない。
【0010】
特許文献3は、一実施形態において様々な監視層の扇形を作り出す安全な多層センサを開示している。しかしそれはレーザスキャナではなく、各層は、固定されている代わりに位置分解ができる受光器で捕らえられる。しかも、複数の層における物体の安全な検出のための評価の特徴には全く踏み込んでいない。
【0011】
特許文献4に、防護区域の監視の際にあまりに小さく且つ短時間だけ検出された物体を安全に関わるものではないものとしてフィルタで除外するレーザスキャナが記載されている。しかしこの評価は単層スキャナの単一のスキャン平面層だけに関係している。
【0012】
特許文献5では、車両で使用するためのレーザスキャナの後方のスキャン領域を鏡の配列により利用することで、前方のスキャン領域において追加の走査層を得ている。しかしその目的は多層走査ではなく、実質的な走査周波数を上げるため又は車両の頷き運動を補償するための冗長性を生むことである。従って該文献からは安全な多層スキャナに適した評価については何も読み取れない。特許文献5には更に床の認識についての記載がある。後者については特許文献6にも、より複雑な床モデルを用いるレーザスキャナについて記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】EP 2 469 296 B1
【文献】EP 3 517 999 A1
【文献】EP 1 927 867 B1
【文献】EP 3 220 164 B1
【文献】DE 101 41 294 B4
【文献】EP 3 521 860 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
故に本発明の課題は冒頭で述べた種類のセンサを用いた安全な監視を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この課題は請求項1又は13に記載の光電センサ、特にレーザスキャナ、及び監視領域内の物体の検出方法により解決される。発光器が互いに分離した複数の光線を監視領域内へ送出する。そのためには複数の光源及び/又は分割用光学素子を設けることができる。送出された光線は、より大きな光束の内部の光線という光線光学の意味での光線ではなく、個々に分かれた走査光線、特に平行化され且つ小さい断面を持つ光線であり、その結果、監視領域内で物体に当たると、対応して個々に分かれて互いに間隔を空けた光スポットが生じるような光線と理解すべきである。
【0016】
少なくとも1つの受光器が、前記送出された光線が監視領域内の物体の表面で跳ね返されるときに、様々な方向から反射された光線からそれぞれの受信信号を生成することができる。そのために受光器に複数の受光素子及び/又は領域若しくは画素(群)が設けられる。ここでは、方向性のある反射と無方向の散乱又は拡散反射との間の概念的な区別はしない。
【0017】
可動式の、好ましくは回転式の偏向ユニットが、送出された光線を、周期的に監視領域を通過するように案内する。その際、送出された光線のそれぞれが独自の走査層又はスキャン層を走査し、全体として多層走査が行われ、特に多層又は多層(レーザ)スキャナが得られる。発光器及び/又は受光器は偏向ユニットと一緒に運動するように配置されていることが好ましい。これにより、可動式の、特に回転式の測定ヘッド又は光学ヘッドが得られる。別の形態では、発光器及び/又は受光器が固定されており、従ってセンサ又はそのケーシングに対して静止している一方、偏向ユニットは例えば回転鏡として実装されている。この場合、回転鏡の運動の進行中に各層の高さ位置が変わることに注意が必要である。
【0018】
制御及び評価ユニットが光線又はスキャン層毎に受信信号の評価により物体を検出し、加えて特に光伝播時間ひいては各々の検知された物体までの距離を測定する。
【0019】
本発明の出発点となる基本思想は、複数のスキャン層にわたり人間を認識するための安全な評価を行うことである。そのために、安全に関わる物体をまず各々のスキャン層の内部で検出する。スキャン層毎に見るとこの評価は特に従来の安全な単層スキャナの評価に相当し、それが複数のスキャン層のために多重化される。続いて、どのスキャン層において安全に関わる物体が存在すると認識又は確認されたかという情報を複数のスキャン層にわたって包括的に評価し、それに基づいて、安全確保に向けた反応を発動させるかどうかを決める。これは特に、対応する防護信号をセンサによる監視対象の機械へ出力することにより行われ、機械はそれに従って、例えば電源遮断、制動又は回避によって安全な状態に移行する。
【0020】
従って、本発明によれば、個々のスキャン層からの測定値が1つの共通の3次元点群に統合されて一緒に評価にされることはない。むしろ、本来の物体検出は各々のスキャン層の内部に留まっている。個々のスキャン層における安全に関わる物体の存在を確認する処理で得られた情報は上位においてまとめて評価され、認識された状況が安全確保に向けた反応を必要とするものであるかどうかが判定される。
【0021】
本発明には多層走査において物体又は人間を確実且つ頑強に検出できるという利点がある。その際、3次元カメラの場合とは違って、スキャン型の検出が持つ広いスキャン角と長い射程が利用される。特に、本発明に係るセンサは移動型の用途、例えば車両での利用に適している。単層スキャナの場合よりも良好な公差と頑強さが達成される。それは塵埃や雨等の妨害物、組付け位置又は移動型の用途における運動によるセンサの傾き、並びに床の起伏や傾斜等の形状に関係する。評価は簡単なままであるから、低い計算及び記憶能力でも間に合い、安全な検出能力を安全技術に使用する際に必要とされる理論的な立証が最大限に見通し良く保たれる。また、最初の評価が個々のスキャン層に限定されているため既存のソフトウェア構成要素を引き続き用いることができる。
【0022】
制御及び評価ユニットは、複数のスキャン層において又は床より上の最も下のスキャン層において物体の存在を確認した場合に安全確保に向けた反応を発動させるように構成されていることが好ましい。このようにすると、安全確保に向けた反応を発動させるには基本的には複数のスキャン層で物体の存在が確認されることが必要となる。検出された安全に関わる物体を複数のスキャン層にわたってこのようにAND結合することにより頑強性が高まる。特殊な事例は横たわった人間であり、これは、センサに対して走査のために供せられる断面が小さいために単一のスキャン層でしか検出できないかもしれない。そのスキャン層は必然的に床より上の最も下のスキャン層である。横たわった人間を認識するには、好ましくは例外的に、安全に関わる物体の存在を床より上の最も下のスキャン層のみにおいて確認したときに安全確保に向けた反応を発動させれば十分である。床との関係からこのセンサは水平方向の防護に限定されていることが好ましい。その場合、このセンサは少なくとも大まかに且つ全体として床に平行に向く。もちろんこれは全ての個々のスキャン層には当てはまり得ない。多層スキャナの場合、個々のスキャン層は既に互いに非平行な扇形を成しているからである。
【0023】
制御及び評価ユニットは、複数のスキャン層内で同一の又は隣接する角度位置において物体の存在が確認されたときに、該複数のスキャン層における物体の存在を確定するように構成されていることが好ましい。同じ又は隣接する角度位置における物体の存在はコヒーレンス条件の1つである。それは複数のスキャン層にわたり多重に検出された同じ物体のはずである。そうなるのは同一の又は近いスキャン角又は方位角で検出された場合のみである。複数のスキャン層において大きな方位角距離で物体が多重に検出された場合、それは安全に関わるものではなく、偶然に同時に生じた妨害と解釈される。同一の又は隣接する角度位置は離散化された角度セクタにより検査することが好ましい。その場合、物体が複数のスキャン層において同一の又は隣接する角度セクタ内で検出されていることが要求される。ここで「隣接」とは好ましくは直接隣接していること、即ち、隣接する角度セクタの間に他の角度セクタがないことを意味している。
【0024】
制御及び評価ユニットが、ある数のスキャン層において物体の存在が確認された場合に安全確保に向けた反応を発動させるように構成されており、前記数が、遠くの物体の場合よりも近くの物体の場合の方が大きいことが好ましい。言い換えれば、近くの人間又は近くの物体に対しては、より多数のスキャン層においてその存在が確認されたときに初めて安全確保に向けた反応を発動させる。遠くの人間又は遠くの物体の場合は、より少数のスキャン層でもう十分である。再度言い換えれば、複数のスキャン層にわたる物体検出は遠くよりも近くの方が高いコヒーレンスを必要とする。ここでもまた角度条件を設定すること、即ち、安全確保に向けた反応を発動させるためには物体が複数のスキャン層にわたり同一又は隣接するスキャン角又は方位角において検出されなければならないものとすることが好ましい。
【0025】
制御及び評価ユニットは、第1の安全な射程までの距離にある物体に対し、全ての関係するスキャン層において物体の存在が確認された場合に安全確保に向けた反応を発動させるように構成され、前記第1の安全な射程は特に、単一のスキャン層しか持たない安全レーザスキャナの安全な射程に相当することが好ましい。これによれば、スキャナから第1の安全な射程までの距離に物体がある場合、全ての関係するスキャン層における物体の検出が必要とされる。これは2つの条件の下で理解される。即ち、遠くにいる背の低い人間は上の方のスキャン平面ではもはや捕らえられないから、物体検出に関係するのは最小高さまでとすることが好ましい。そして、床より上の最も下のスキャン平面での物体検出は、横たわった人間という例外的な事例を考慮するため、単独で十分であることが好ましい。従って、まず「関係する」のは、いかなる条件下でも起きた人間を待ち受けるべきスキャン層である。これは、屈んだ姿勢に対して例えば床上50mmから1000mmまでの範囲とすることができるだろう。同時に、横たわった又は座った人間も同様に検出しなければならないということも考慮する必要がある。故に、例えば高さ50mmから250mmまでの床付近における物体検出には複数のスキャン層にわたるコヒーレンス条件は要求されない。もっとも、ここではより緩やかな空間的フィルタリングを行うことができる。横たわった又は座った人間は例えば脚よりも明らかに大きな方位角で捕らえられる。ここでは模範例として水平方向の最小の物体分解能を200mmと仮定することができる。第1の安全な射程は、非常に暗い標的でもなお検出し、ほぼ全ての物体を認識する同等の単層スキャナの安全な射程に相当することが好ましい。そのため、あるスキャン層において実際には存在する物体が検出されないということはなく、それ故、安全に関わる物体のためにこの検出を要求することは正当である。
【0026】
制御及び評価ユニットは、第1の安全な射程より向こう側で第2の安全な射程までの距離にある物体に対し、少なくとも2つ以上の、特に互いに隣接したスキャン層において物体の存在が確認された場合に安全確保に向けた反応を発動させるように構成されていることが好ましい。これによれば、スキャン層の数に対する下限は好ましくは2であるが、それより大きくすることもできる。これは、この数より多いスキャン層において安全に関わる物体が検出されたときには安全関連の反応を発動させる条件が十分満たされている、という下限である。第2の安全な射程は第1の安全な射程よりも大きく、センサはこのより大きな距離においてはやや明るい物体の検出しか保証しない。その間の領域では暗い物体がいずれかのスキャン層で見落とされることが考えられる。しかし、多数のスキャン層でそのように暗い物体領域に当たることは考えられない。なぜなら、人間は真っ黒なビロードに完全に包まれてはいないからである。従って、第1の安全な射程と第2の安全な射程の間の距離範囲においては人間が全てのスキャン層において捕らえられることはもはや期待できない。他方で、単一のスキャン層だけで検出されるという条件では弱すぎて、数多くの誤警報が発せられるであろう。故に、少なくとも2つのスキャン層において物体の存在が確認された場合に安全確保に向けた反応を発動させるが、先に述べたように、下限は2より大きくしてもよい。安全確保に向けた反応を発動させるために同時に物体を検出する必要があるスキャン層の数は、第1の安全な射程までの「全て」から、第2の安全な射程における「2」(又はそれ以上)まで距離とともに減少させることができる。第2の安全な射程より向こう側ではセンサによる防護はもはや保証されない。
【0027】
制御及び評価ユニットは、ある物体が安全に関わるのはその位置が設定した防護区域内にあるときだけである、という防護区域評価を行うように構成されていることが好ましい。これによれば、個々のスキャン層内では古典的な防護区域評価が行われる。そこでは従来の単層スキャナで実証済みの既存の手法、アルゴリズム及びソフトウェア構成要素を用いることができる。防護区域とは、スキャン層の一部を安全に関わるものとして設定するための幾何学的な形状である。防護区域内での物体検出がそれぞれ全て自動的に安全に関わる防護区域への侵入であるとする必要はない。それには、例えばn回のスキャンのうちm回で繰り返し検出される等、物体の侵入に関して最小のサイズ及び持続時間を必要条件とすることができる。また、防護区域内であっても容認される物体や無効にされた部分領域があってもよい(ミューティング、ブランキング)。冒頭で挙げた特許文献4でも、防護区域評価のために適切なフィルタを紹介している。防護区域は上下に重なったスキャン層において同じ形状で設定されることが好ましいが、そうせずに複数のスキャン層にわたって異なる形状により3次元形状の防護区域を設定することも考えられ、それには全てではなくいくつかのスキャン層でのみ防護区域を定義することも含まれる。防護区域評価により、どのスキャン層において、そして好ましくはどの角度位置において、安全に関わる物体の存在が確認されたかが分かり、それに続いて複数のスキャン層にわたる包括的な評価を行うことで、必要ならば安全確保に向けた反応を発動させる。
【0028】
好ましくはバルスベースで測定が行われ、そのために光線を用いて発射パルスが送出され、反射された光線から対応する受信パルスが生成される。
【0029】
制御及び評価ユニットは、複数の発射光パルスを次々に送出し、対応する受信パルスを少なくとも1つの閾値を用いて調べてヒストグラムに蓄積し、該ヒストグラムから光伝播時間を測定するように構成されていることが好ましい。つまりこの実施形態は冒頭に挙げた特許文献1にあるような多重パルス法で作動する。
【0030】
制御及び評価ユニットは、最も下のスキャン層又は下から複数番目までのスキャン層に基づいて床の状態及び/又は向きを検出するように構成されていることが好ましい。センサは少なくとも最も下のスキャン層がなおも射程圏内で床に当たるように設置されることが好ましい。理想的には最も下のスキャン層のスキャン光線は床の上に円を描く、又は逆にどこでも一定の距離を測定する。この理想的な場合からの逸脱から、センサが傾いて取り付けられていること、又は、床に傾き若しくは起伏があることを推定することができる。センサはこれらの与えられた状況を知得する。それは好ましくは学習段階において、特に取り付け後の運転開始時に行われるが、まさに移動型の用途においては運転中にも行われる。場合によってはセンサの向き及び/又は取り付け高さを再調整することができる。床のことが分かっていれば、その後の駆動のために、どのスキャン層が各距離において最も下にあり、床に当たらず、横たわった人間の認識のために参照することができるかどうかは特に明らかである。
【0031】
制御及び評価ユニットは、安全に関わる物体の存在を確認するために床より上の最小高さまでの物体だけを算入するように構成されていることが好ましい。最小高さはなお確実に検出されなければならない人間の身体サイズの下限に相当する。例えば2mの高さまで検出を要求することは合理的ではないであろう。なぜなら、ほとんどの人間はそこまで背が高くないからである。しかし、いくつかのスキャン層は特に遠い距離でそのような高さに達する可能性があり、その場合、それらの層での検出は安全確保に向けた反応を発動させるべきかどうかを決める際に無視すべきであろう。
【0032】
制御及び評価ユニットは、(検出された)距離及びスキャン層に応じて床より上の高さを測定するように構成されていることが好ましい。これは、学習した床と、センサ特性により定まる、センサに対するスキャン層の配置から計算できる。それらを用いて分かるスキャン層の仰角は、センサからの各距離に対して、どのスキャン層が床より上の最も下のスキャン層であるか、及び/又は、どのスキャン層が人間の最小高さよりも高いところに延在しているかを判定するために利用することが好ましく、後者のスキャン層は、安全確保に向けた反応を発動させるかどうかという評価に際して無視することが好ましい。
【0033】
スキャン層が少なくとも床付近において互いに角度分解能を示しており、その結果、隣接するスキャン層が、最大の射程において、検出すべき最小サイズの物体に対応する間隔以下、特にarctan(最小サイズ/射程)で規定される間隔以下の間隔を示すことが好ましい。最大の射程は特に先に定義した第2の安全な射程である。スキャン層は垂直な扇形を成しており、従ってセンサからの距離の増大とともに2つのスキャン層間の垂直方向の間隔は大きくなる。しかし最小サイズの物体、例えば人間の身体は、最大の射程においてもなお確実に検出される必要がある。そのためにはスキャン層間の角度広がりが大きくなりすぎてはならない。一般にこれは式arctan(最小サイズ/射程)で計算できる。この要求は何よりも床のすぐ上に存在する。なぜなら、人間がそれより上の2つのスキャン層間に浮かぶことは、たとえそちらの方が角度広がりが大きかったとしても、あり得ないからである。ここでいう最小サイズは高さの次元又は仰角に関係しており、個々のスキャン層内における物体検出はスキャン層間の角度広がり以外の量に依存している。スキャン層の各2層間の角度は同じであることもあれば異なることもあり、仰角方向の走査の分解能はそれに応じて均一又は不均一になる。
【0034】
本センサは、機械の安全又は非接触型防護装置のための安全規格の意味での安全センサ、特に安全レーザスキャナとして構成され、特に、安全確保に向けた防護信号を出力するための安全出力を備えていることが好ましい。安全センサ又は安全(レーザ)スキャナとは安全規格の意味で安全なセンサ又は安全なレーザスキャナであり、故に危険の発生源付近で人間を守るために使用してもよい。冒頭で今日有効な関連の安全規格を模範例としていくつか挙げた。それらは地域により及び将来的にその具体的な文言は違ってくるものの、欠陥又は他の予期せぬ挙動による事故を回避するために過失を回避する又は適時に過失を見つけ出すというその基本的な出発点に違いはない。安全確保に向けた反応を発動させるべきであると判定されたとき、又はセンサが自らの機能性を保証できないとき、安全出力、特にOSSD(Output Signal Switching Device)においてそのことを監視対象の機械又は中間に接続された安全制御装置に信号で知らせることができる。この安全出力は規格に準拠した措置の一部として安全に、例えば2重チャネル型で実装され、必要とあれば、緊急停止又はやや広く安全な状態の創出といった安全確保に向けた措置を開始するために利用される。
【0035】
本発明に係る方法は、前記と同様のやり方で仕上げていくことが可能であり、それにより同様の効果を奏する。そのような効果をもたらす特徴は、例えば本願の独立請求項に続く従属請求項に模範的に記載されているが、それらに限られるものではない。
【0036】
以下、本発明について、更なる特徴及び利点をも考慮しつつ、模範的な実施形態に基づき、添付の図面を参照しながら詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図2】多層スキャナにより監視されるスキャン層の概略図。
【
図3】多層スキャナによる横たわった人間の検出の概略図。
【
図4】第1の安全な射程内における人間の検出の概略図。
【
図5】第1の安全な射程より向こう側で第2の安全な射程内における人間の検出の概略図。
【
図6】複数のスキャン層における同じ物体の検出のコヒーレンス条件を具体的に説明するための表。
【
図8】
図7と同様の床の検出の概略図であって、床に傾斜がある場合の図。
【
図9】
図7と同様の床の検出の概略図であって、下から2番目までのスキャン層を用いる場合の図。
【
図10】
図7と同様の床の検出の概略図であって、下から2番目までのスキャン層を用いるとともに床に傾斜がある場合の図。
【発明を実施するための形態】
【0038】
図1はレーザスキャナ、特に多層スキャナとしての実施形態における光電センサ10の概略断面図である。本センサ10は大きく分けて可動式の走査ユニット12と台座ユニット14を含む。走査ユニット12は光学的な測定ヘッドである一方、台座ユニット14には、給電部、評価用電子機器、接続部等、その他の要素が収納されている。稼働時には、監視領域20を周期的に走査するために、台座ユニット14の駆動部16を用いて走査ユニット12が回転軸18を中心として回転駆動される。
【0039】
走査ユニット12において、複数の光源22a(例えばLED又は端面放射型発光器若しくはVCSELの形をしたレーザ)を有する発光器22が、発光光学系24の助けを借りて、互いに対して角度のずれを持つ複数の発射光線26を生成し、これらの光線が監視領域20内へ送出される。複数の光源22aの代わりに、単一又は複数の光源の光を発射光線26に分ける光線分割器を用いることも考えられる。各発射光線26が監視領域20内で物体に当たると、各々に対応する反射光線28がセンサ10まで戻ってくる。各反射光線28は受光光学系30により複数の受光素子32aを有する受光器32へと導かれ、各受光素子32aがそれぞれ電気的な受信信号を生成する。受光素子32aは別々の部品でも、統合されたマトリクス配置の画素であってもよく、例えばフォトダイオード、APD(Avalanche Diode)、又はSPAD(Single-Photon Avalanche Diode)である。共通のレンズの代わりに、例えばマイクロレンズの配列等、他の光学素子を発光光学系24又は受光光学系30として用いることもできる。
【0040】
全くの模範例として4つの光源22a及び受光素子32aが上下に描かれている。代わりにそれらが紙面に入り込む又は紙面から出てくるようなパターンを形成すること、例えばそれらを円周上に配置することもできる。発光器22と受光器32は本実施形態では共に回路基板34上に配置されている。該基板は回転軸18上にあり、駆動部16のシャフト36に接続されている。これは単なる模範例と理解すべきであり、実際には任意の数及び配置の回路基板が考えられる。発光器22と受光器32が二軸型で隣接している光学的な基本構造も必須ではなく、単一光線式の光電センサ又はレーザスキャナに関する公知のいかなる構造でも置き換え可能である。一例としてビームスプリッタを持つ又は持たない同軸配置が挙げられる。
【0041】
非接触式の給電及びデータインターフェイス38が可動式の走査ユニット12と静止した台座ユニット14とを接続している。台座ユニット14内には制御及び評価ユニット40があるが、少なくともその一部は走査ユニット12内の回路基板34上又は他の場所に収納されていてもよい。制御及び評価ユニット40は発光器22を制御し、受光器32の受信信号を受け取って更に評価する。また、同ユニットは駆動部16を制御し、レーザスキャナに関して公知である角度測定ユニット(図示せず)の信号を受け取る。角度測定ユニットは各時点における走査ユニット12の角度位置を特定する。
【0042】
評価の最初の部分のため、好ましくは、検知された物体までの距離が公知の光伝播時間法で測定される。これを角度測定ユニットからの角度位置に関する情報と合わせれば、各スキャン周期の完了毎に、1つの走査層又はスキャン層内にある全ての物点の2次元極座標が角度と距離で利用可能となる。各時点のスキャン層はその都度の反射光線28の識別情報と受光素子32aのいずれかにおける該光線の検出とを通じて同様に分かるから、全体として複数のスキャン層で3次元空間領域が走査される。
【0043】
センサ10は危険の発生源(例えば危険な機械)を監視するための安全技術に使用するための安全センサとして構成されている。従ってセンサ10は、冒頭で説明した安全規格の要求を例えばSIL(Safety Integrity Level)やPL(Performance Level)といった当該規格の安全レベルに従って満たすべく、安全に設計されている。例えば、機械の稼働中に操作者の進入を許してはならない場所として事前に設定された防護区域が監視される。防護区域は1つのスキャン層内、複数のスキャン層内又は全てのスキャン層にわたってそれぞれ設定されており、スキャン層毎に同一の又は異なる幾何学的形状を有する。起こり得る危険を認識するために制御及び評価ユニット40がどのようにして個々のスキャン層における防護区域への侵入をそれらスキャン層にわたって一緒に評価するかについては、後で
図2~10と関連付けてより詳しく説明する。この評価の結果、安全確保に向けた反応を実行する必要があるとの結論に達したら、それに対応する安全確保に向けた信号が出力42に出される(OSSD, Output Signal Switching Device)。
【0044】
図示したセンサ10は回転式測定ヘッド、つまり走査ユニット12を有するレーザスキャナである。代わりに回転鏡や切り子面ミラーホイールを用いた周期的な偏向も考えられる。複数の発射光線26の場合、それには欠点がある。即ち、該複数の発射光線26の監視領域20への入射の仕方がその都度の回転位置に依存するということである。なぜなら、公知の幾何学的な考察から分かるように、それらの光線の配置は回転ミラーを通じて回転するからである。更に別の実施形態では走査ユニット12が揺動して往復運動を行う。更に、スキャン層を作り出すためのスキャン運動を例えばMEMSミラー、光フェーズドアレイ又は音響光学変調器といった他の公知の方法で生じさせることもできる。これは特に1つの光源から複数の発光点を生じさせる実施形態の場合に言える。
【0045】
センサ10の回転中、各発射光線26によりそれぞれ1つの面が走査される。その際、仰角が0°の場合、即ち
図1にはない水平な発射光線の場合にのみ、幾何学的な意味で平面の監視領域20が走査される。他の発射光線は、厳密に言えば、仰角に応じて異なる鋭さで形成される円錐の側面を走査する。上方及び下方に異なる角度で送出される複数の発射光線26の場合、全体的な走査構造は複数の砂時計を入れ子にしたようなものになる。このような幾何学的に細かい部分にはこれ以上立ち入らず、発射光線26の各々の走査領域を簡単にスキャン層として扱う。これは結局のところ厳密な走査平面と大まかには一致するものの、幾何学的には一致しない。
【0046】
図2は水平に取り付けられたセンサ10のスキャン層44を断面図で概略的に示している。「水平に」とはスキャン層44が全体として見ると床46に平行に延在しているという意味であり、スキャン層44が扇状に配置されているため厳密な平行性は実現できない。センサ10は最大射程R
maxを有しており、そこまではまだ物体を確実に検出し、防護区域を設定することができる。監視領域20内の人間は複数のスキャン層44において検出される必要がある。それ故、スキャン層44は最大射程においても広がりすぎていないようにする必要がある。以上から必要な垂直分解能Δhが決まる。これは高さ又は仰角方向におけるスキャン層44の間隔を表すものである。ここで、スキャン層44の各2層間の広がりは同じ大きさでもよいし違っていてもよい。傾きの異なるスキャン層44が分かれて延在しているため、垂直分解能Δhは距離に依存する。ここでは最大射程R
maxに対応する間隔を引き合いに出している。
【0047】
更に、床の上に横たわった人間という特殊な事例を考慮する必要がある。それは状況よっては1つのスキャン層44だけでしか検出されない。このことから、垂直分解能Δhは、少なくとも床付近において、横たわった人間の最小高さHLよりも小さくなければならないことになる。好ましい実施形態では、スキャン層44の広がりが均一であり、最大でもarctan(最小高さHL/最大射程Rmax)である。最大射程Rmax=10m、最小高さHL=200mmという数値例では、スキャン層44の最大の垂直広がりはarctan(200mm/10m)=1.15°となる。
【0048】
図3は床に横たわった人間48という特殊な事例を示している。人間は直径200mmの球でモデル化されている。これは、先に説明した最小高さHLに加えて、例えば人間48が頭又は足をセンサ10に向けて横たわっている場合や、部分的にしか十分な反射性を有していない衣服を着ている場合のように、水平方向の広がりに関して不利な状況を考慮したものである。
【0049】
危険な状況にあるかどうか、そしてそれ故にセンサ10に安全確保に向けた反応を発動させるべきであるかどうかを評価するため、まずスキャン層44がそれぞれ、例えば単層センサによる従来の防護区域評価法で独立に評価される。その際、小さい又は一過性の妨害物を安全に関わるものではないとして無視したり、一定の既知の物体を容認したりするあらゆる実証済みの手法及びフィルタを用いることができる。
【0050】
図3の横たわった人間48は床46より上の最も下のスキャン層44においてのみ安全に関わる物体として検出され、それに対応する物体認識50を引き起こす。この物体認識50は、当該スキャン層44内で重大な事象にとっての全ての条件が満たされていること、即ち、特に防護区域が安全に関わる形で侵害されていることを既に意味していることが好ましい。単層スキャナであれば同様の状況において安全確保に向けた反応が実行される。多層スキャナの場合、まず個々のスキャン層44の物体認識50を超える上位の評価がまだ続く。横たわった人間48はここでは特殊な事例である。なぜならそれは一回しか検出されないかもしれないからである。この特殊な事例をカバーするため、センサ10は、床46より上の最も下のスキャン層44において物体認識50があった場合には安全確保に向けた反応を発動させる。
【0051】
図4及び5は立っている人間48という通常の事例を示している。HSは物体認識50を待ち受ける最大高さを表している。人間48は屈んだ姿勢等、不都合な姿勢をとっている可能性があるため、最大高さの模範的で合理的な設定値はHS=1mである。
【0052】
既に
図3を参照して論じた横たわった人間48の特殊な事例に加えて、
図4及び5ではセンサ10からの人間48の距離Dが異なる2つの別の事例が更に区別される。単層スキャナの場合、物体の安全な検出のための最低の反射率R1は製品規格IEC61496-3において1.8%と定められている。しかし、完全に真っ黒なビロードの衣服で包まれた人間48はいないと仮定してよい。故に複数のスキャン層44のうち少なくともいくつかについてはそれより高い反射率R2>R1(例えば少なくとも6%)での検出が期待できる。従って、反射率R1、R2のそれぞれに対し、その反射率を持つ物体が確実に検出されるような最大の射程、即ち限界射程、又は第1の安全な射程RW1及び第2の安全な射程RW2が存在する(ただしRW1<RW2)。この関係は非線形である。なぜなら検出の感度は距離Dの2乗に反比例するからである。数値例として、反射率R1=1.8%に対する第1の安全な射程をRW1=5.5mとする。この場合、R2=6%であれば、第2の安全な射程RW2に対してRW2=√(6%/1.8%)*5.5m=10mという値を見積もることができる。
【0053】
以上の予備的考察の後、まず
図4では第1の安全な距離RW1を超えない距離Dに人間48がいる場合を示している。第1の安全な距離RW1の定義によれば、センサ10は、安全関連の他の諸条件(例えば人間48の位置が防護区域内にある)が満たされている限り、この距離Dにおいて全てのスキャン層で重大な物体認識50に至るような感度を有している。この距離Dでは例えば暗色の衣服のせいで人間48が見落とされることはない。故に、第1の安全な射程RW1までの距離Dについては、厳密に全てのスキャン層44で重大な物体認識50があった場合に安全確保に向けた反応を発動させる。
【0054】
原理的には、距離Dにおいていずれかのスキャン層44が人間48を超えて通り過ぎ、よってその人間に当たらないこともなお考えられよう。距離Dにおける最大高さHSより上のそのようなスキャン層44は無視することが好ましい。逆に、最も下の各スキャン層44は距離Dより手前でもう床に当たる可能性がある。全てのスキャン層44において重大な物体認識50が存在すべきであるという条件を設定するとき、こうした高すぎる及び低すぎるスキャン層44のことを指していないことは明らかである。ここまで顧慮してこなかった別の有利な追加条件では、人間48が複数のスキャン層44にわたって同一の又は少なくとも近い角度位置で捕らえられることが要求される。このコヒーレンス条件については後で
図6と関連付けて詳しく考察する。
【0055】
図5は第1の安全な射程RW1と第2の安全な射程RW2の間の距離Dに人間がいる場合を示している。ここではもはや、全てのスキャン層44で重大な物体認識50が生じることは保証されていない。
図5の絵では模範例として人間がR2より低い反射率を持つ暗色のズボンを着用している。それは反射率R1に対してはまだ十分であり、よって第1の安全な射程RW1内での検出には十分であるが、第1の安全な射程RW1より向こう側での検出には十分ではない。それでも人間48の少なくとも一部は十分な反射率R2を示しており、その結果、複数のスキャン層44において重大な物体認識50に至っている。これらの理由から距離範囲RW1≦D≦RW2では安全確保に向けた反応の発動条件が緩和され、少なくとも2つのスキャン層44について重大な物体認識50が要求されるに過ぎない。加えて、それらが隣接したスキャン層44でなければならないとすることが好ましい。高すぎる及び低すぎるスキャン層44の無視に関する
図4での説明はここでも当てはまる。それどころか、距離Dの増大とともにスキャン層44が更に扇状に広がるため、それはより高い可能性で起きる。
【0056】
図4及び5では、第1の安全な射程RW1までは全てのスキャン層44で重大な物体認識50が要求され、第1の安全な射程RW1と第2の安全な射程RW2の間では少なくとも2つのスキャン層44で重大な物体認識50が要求されており、場合分けがはっきりしている。段階付けをより細かくして、第1の安全な射程RW1より向こう側では距離Dの増大とともに必要な数が減ってゆくようにすることも考えられる。
【0057】
図3に示した横たわった人間48は確かに垂直方向には1つのスキャン層44だけでしか捕らえられないことは見ればまだ分かるだろう。一方、その横たわった身体を水平方向に走査すればR2以上の反射率を示す箇所が少なくとも1箇所はあるという仮定は当然できる。従って、横たわった人間48については第1の安全な射程RW1と第2の安全な射程RW2の間の場合分けは必要ない。
【0058】
図6は既に触れた有利な追加のコヒーレンス条件を説明するための表である。複数の重大な物体認識50は同じ物体に帰属されるべきである。これは該重大な物体認識50の角度位置乃至はスキャン角又は方位角が近いことにより検査することができる。図示した表では簡単のため7つの角度セクタしか列に含まれていないが、実際には、1度未満という典型的な角度分解能で視野角が例えば270度であれば、はるかに多くの角度セクタを区別することができる。ただしその場合、重大な物体認識50は基礎となる物理的な分解能を使い切る必要はない。行には模範例として3つのスキャン層44が記載されているが、こちらも実際の値はもっと大きく、例えば4、8、10、16又はこれらと別の数若しくはより大きな数のスキャン層44がある。スキャン層44は均一に角度セクタに網目分けされている。重大な物体認識には「x」印が付されており、「0」は安全に関わる物体検出がないこと又は適宜のフィルタリング後になくなったことを表している。
【0059】
コヒーレンス条件は、重大な物体認識50の角度セクタが重なっている又はすぐ隣にある若しくは互いに接しているときにのみ満たされたとみなされることが好ましい。
図6の例ではそれがスキャン層#1とスキャン層#2について列2~4にわたって成立している。一方、他のスキャン層の対はコヒーレンス条件を満たしていない。
【0060】
角度セクタのみに基づくコヒーレンス条件の再検査は非常に省リソースである。例えば各々の重大な物体認識50の距離Dまで算入するようなより複雑な方法も考えられる。
【0061】
図7~10に基づき、センサ10による床の認識について以下に説明する。床46の状態を知ることは、例えば
図3に示した横たわった人間48という特殊な事例のために、どのスキャン層44が床46より上の最も下の層であるか、又はどのスキャン層44が距離Dにおいて既に床46に当たっている若しくは最小高さHLを超えて通り過ぎているかを判定するために有用である。距離Dにおける物体認識50の高さHは普通に測定できる。
【0062】
まず
図7は平坦な床46又は正しく水平に向けられたセンサ10の場合を示している。センサ10は床46からH0の高さに取り付けられている。最も下のスキャン層44aは角度α1で床46の方を向いており、好ましくは全ての方位角で床46に当たる。なお、特に光沢のある床46の場合でもなお十分な信号が戻ってくるように、当たる角度は低くなり過ぎないようにすべきである。床46の向きは、例えばセンサ10の運転開始時の学習段階又は較正段階において最も下のスキャン層44aの測定値に基づいて解析される。
図7のような理想的な条件下では全ての方位角にわたって床46まで同じ距離D1が測定されるはずである。許容範囲ΔDを超えるずれがあれば、それは最も下のスキャン層44aにおいて床46に向かう視界が物体により隠されていること又は床に構造物(例えば床46に開いた穴)があることを意味している。近くの物体を高い信頼性で検出するため、後者の事例は床46の起伏の最大値を予め設定することにより除外すべきである。
【0063】
図8は比較のため、床46が傾いている及び/又はセンサ10が傾いて取り付けられている状況を示している。取り付け高さH0が分かっていれば、その傾きを各スキャンの角度方向における距離D1’の測定値から特定することができる。
【0064】
図9及び10は床46が真っ直ぐである又は傾いている場合に少なくとも下から2番目までのスキャン層44a~bを用いて床46を検出する方法を同じように示している。この場合、それぞれ2つの距離D1’、D2’が得られるから、床46を更に細かく分けて分析できる。縁石、傾斜路、崩壊部分の縁、曲がった地面等、より複雑な床構造を捕らえる必要があるなら、場合によっては更に多くのスキャン層44を取り入れたより複雑な床認識アルゴリズムを用いることができる。移動型の用途では運転中に床46に対するセンサ10の向きが変わるから、その場合は床46とその向きを定期的に監視することが好ましい。
【0065】
以上のように取り付け高さH0、センサ10の構成として既知である各スキャン層44の仰角、そして各スキャン方向への床46の高さ及び傾きが分かれば、検出された物体の高さをその時の該物体の距離Dに対して特定することができる。最後にこれを数値例で説明する。センサ10の光学的な中心を座標系の原点とする。スキャン層44は互いにそれぞれ広がり角1°を有しており、8番目のスキャン層は水平に延在している。センサ10は既知の取り付け高さH0=200mmに取り付けられているものとする。床46を捕らえたとき、最も下のスキャン層44aで、全くの模範例としての方位角90°に対して距離D1=1754mmが測定されたものとする。最も下(1番目)のスキャン層44aは、水平な8番目のスキャン層に対して7°だけ、即ち1°の7倍だけ下方に傾いている。以上から、初歩的な三角法での考察により、床46がセンサ10の座標系に対して方位角90°において-0.5°だけ傾いていることが分かる。今、10番目のスキャン層により方位角90°において物体が5mの距離に捕らえられたとする。10番目のスキャン層は水平な8番目のスキャン層に対して2°だけ、即ち1°の2倍だけ上方に傾いている。更に床46の-0.5°の傾きと取り付け高さH0=200mmを考慮する必要がある。そうすると、十分な近似で高さはsin(2°+0.5°)*5000mm+200mm=418mmとなる。