(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-10
(45)【発行日】2024-01-18
(54)【発明の名称】抗ウイルス性エアゾール組成物、塗膜、および、物品
(51)【国際特許分類】
C09D 139/06 20060101AFI20240111BHJP
C09D 5/14 20060101ALI20240111BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20240111BHJP
C09D 7/62 20180101ALI20240111BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20240111BHJP
C09D 131/06 20060101ALI20240111BHJP
A61P 31/12 20060101ALN20240111BHJP
A61K 33/34 20060101ALN20240111BHJP
A61K 9/08 20060101ALN20240111BHJP
A61K 47/32 20060101ALN20240111BHJP
A61K 33/06 20060101ALN20240111BHJP
A61K 47/10 20170101ALN20240111BHJP
【FI】
C09D139/06
C09D5/14
C09D7/20
C09D7/62
C09D7/63
C09D131/06
A61P31/12
A61K33/34
A61K9/08
A61K47/32
A61K33/06
A61K47/10
(21)【出願番号】P 2022093309
(22)【出願日】2022-06-08
【審査請求日】2023-09-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000222129
【氏名又は名称】東洋エアゾール工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100106611
【氏名又は名称】辻田 幸史
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】木村 真梨子
(72)【発明者】
【氏名】大橋 和彰
(72)【発明者】
【氏名】西片 百合
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-175741(JP,A)
【文献】特開2016-132977(JP,A)
【文献】特表2014-519504(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0352914(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-10/00
C09D 101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)銅がドープされたシリカ
(2)ビニルピロリドンユニットを含有する重合体
としての、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体(ビニルピロリドンと酢酸ビニルの比率は2:8~8:2)およびポリビニルピロリドンからなる群から選択される少なくとも一種
(3)アルコール系溶剤またはアルコール系溶剤と水の混合溶剤
(4)噴射剤
を含んでなる抗ウイルス性エアゾール組成物。
【請求項2】
シリカに、アルミニウムがさらにドープされている請求項1記載の抗ウイルス性エアゾール組成物。
【請求項3】
シリカが、多孔質シリカである請求項1記載の抗ウイルス性エアゾール組成物。
【請求項4】
ピロリドンユニットを含有する重合体の重量平均分子量が、5,000~1,500,000である請求項1記載の抗ウイルス性エアゾール組成物。
【請求項5】
アルコール系溶剤が、エタノールである請求項1記載の抗ウイルス性エアゾール組成物。
【請求項6】
噴射剤が、液化石油ガス、窒素ガス、炭酸ガス、ジメチルエーテル、ハイドロフルオロオレフィン、ハイドロフルオロカーボンからなる群から選択される少なくとも一種である請求項1記載の抗ウイルス性エアゾール組成物。
【請求項7】
抗ウイルス性エアゾール組成物における、銅がドープされたシリカ、ビニルピロリドンユニットを含有する重合体、アルコール系溶剤またはアルコール系溶剤と水の混合溶剤、噴射剤のそれぞれの含量が、銅がドープされたシリカの含量が0.1~5wt%、ビニルピロリドンユニットを含有する重合体の含量が0.1~5wt%、アルコール系溶剤またはアルコール系溶剤と水の混合溶剤の含量が30~90wt%、噴射剤の含量が5~65wt%である請求項1記載の抗ウイルス性エアゾール組成物。
【請求項8】
銅がドープされたシリカとビニルピロリドンユニットを含有する重合体の重量比(銅がドープされたシリカ:ビニルピロリドンユニットを含有する重合体)が、5:95~75:25である請求項1記載の抗ウイルス性エアゾール組成物。
【請求項9】
(1)銅がドープされたシリカ
(2)ビニルピロリドンユニットを含有する重合体
としての、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体(ビニルピロリドンと酢酸ビニルの比率は2:8~8:2)およびポリビニルピロリドンからなる群から選択される少なくとも一種
(3)アルコール系溶剤またはアルコール系溶剤と水の混合溶剤
を、処理容器に収容してボールミルする工程を含んでなる調製方法によって得られた原液を、(4)噴射剤と混合する工程を含んでなる抗ウイルス性エアゾール組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項1記載の抗ウイルス性エアゾール組成物から形成されてなる塗膜。
【請求項11】
請求項
10記載の塗膜を有してなる物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス性エアゾール組成物、塗膜、および、物品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、感染することで重篤な症状を引き起こす新型のインフルエンザウイルスやコロナウイルスの出現などから、ウイルス感染対策のための抗ウイルス剤に関心が高まっていることは周知の通りである。ウイルスは、その構造から、脂質や糖たんぱく質からなるエンベロープを持つウイルス(エンベロープウイルス)と持たないウイルス(ノンエンベロープウイルス)に大別される。インフルエンザウイルスはエンベロープウイルスの代表例であって、ノロウイルスはノンエンベロープウイルスの代表例であるが、ノンエンベロープウイルスは、エンベロープウイルスに比較して、アルコールや熱に強く、感染力も強いと言われている。そのため、エンベロープウイルスに対してのみならずノンエンベロープウイルスに対しても優れた抗ウイルス作用を発揮する抗ウイルス剤の研究開発が精力的に行われており、本発明者らも、特許文献1において、エンベロープウイルスに対してのみならずノンエンベロープウイルスに対しても優れた抗ウイルス作用を発揮する抗ウイルス剤として、銅がドープされたシリカからなる無機抗ウイルス剤を提案している。
【0003】
本発明者らが特許文献1において提案した無機抗ウイルス剤は、我々の身の回りの様々な物品に抗ウイルス性を付与するための素材として利用することができるが、その利用態様として、銅がドープされたシリカをエアゾール組成物に配合して物品の表面にエアゾール塗布する態様を採用する場合、銅がドープされたシリカを含むエアゾール組成物から形成された塗膜は、銅がドープされたシリカが優れた抗ウイルス性を発揮し、かつ、物品の表面に強固に保持されるものである必要があるとともに、銅がドープされたシリカを含むエアゾール組成物は、高い安定性を有するものであって、ノズル詰まりなどを引き起こすことなくエアゾール塗布することが可能なものである必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、銅がドープされたシリカが優れた抗ウイルス性を発揮し、かつ、物品の表面に強固に保持される塗膜を形成することができる、高い安定性を有し、ノズル詰まりなどを引き起こすことなくエアゾール塗布することが可能な抗ウイルス性エアゾール組成物、当該抗ウイルス性エアゾール組成物から形成された塗膜、および、当該塗膜を有する物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の点に鑑みて鋭意検討を行った結果、銅がドープされたシリカを含むエアゾール組成物を製造する際、樹脂成分(皮膜形成剤)としてビニルピロリドンユニットを含有する重合体を用いると、エアゾール組成物から形成された塗膜は、銅がドープされたシリカが優れた抗ウイルス性を発揮し、かつ、物品の表面に強固に保持されるものであることを見出すとともに、エアゾール組成物が、高い安定性を有し、ノズル詰まりなどを引き起こすことなくエアゾール塗布することが可能なものであることを見出した。
【0007】
上記の知見に基づいてなされた本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物は、請求項1記載の通り、
(1)銅がドープされたシリカ
(2)ビニルピロリドンユニットを含有する重合体としての、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体(ビニルピロリドンと酢酸ビニルの比率は2:8~8:2)およびポリビニルピロリドンからなる群から選択される少なくとも一種
(3)アルコール系溶剤またはアルコール系溶剤と水の混合溶剤
(4)噴射剤
を含んでなる。
また、請求項2記載の抗ウイルス性エアゾール組成物は、請求項1記載の抗ウイルス性エアゾール組成物において、シリカに、アルミニウムがさらにドープされている。
また、請求項3記載の抗ウイルス性エアゾール組成物は、請求項1記載の抗ウイルス性エアゾール組成物において、シリカが、多孔質シリカである。
また、請求項4記載の抗ウイルス性エアゾール組成物は、請求項1記載の抗ウイルス性エアゾール組成物において、ピロリドンユニットを含有する重合体の重量平均分子量が、5,000~1,500,000である。
また、請求項5記載の抗ウイルス性エアゾール組成物は、請求項1記載の抗ウイルス性エアゾール組成物において、アルコール系溶剤が、エタノールである。
また、請求項6記載の抗ウイルス性エアゾール組成物は、請求項1記載の抗ウイルス性エアゾール組成物において、噴射剤が、液化石油ガス、窒素ガス、炭酸ガス、ジメチルエーテル、ハイドロフルオロオレフィン、ハイドロフルオロカーボンからなる群から選択される少なくとも一種である。
また、請求項7記載の抗ウイルス性エアゾール組成物は、請求項1記載の抗ウイルス性エアゾール組成物において、抗ウイルス性エアゾール組成物における、銅がドープされたシリカ、ビニルピロリドンユニットを含有する重合体、アルコール系溶剤またはアルコール系溶剤と水の混合溶剤、噴射剤のそれぞれの含量が、銅がドープされたシリカの含量が0.1~5wt%、ビニルピロリドンユニットを含有する重合体の含量が0.1~5wt%、アルコール系溶剤またはアルコール系溶剤と水の混合溶剤の含量が30~90wt%、噴射剤の含量が5~65wt%である。
また、請求項8記載の抗ウイルス性エアゾール組成物は、請求項1記載の抗ウイルス性エアゾール組成物において、銅がドープされたシリカとビニルピロリドンユニットを含有する重合体の重量比(銅がドープされたシリカ:ビニルピロリドンユニットを含有する重合体)が、5:95~75:25である。
また、本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物の製造方法は、請求項9記載の通り、
(1)銅がドープされたシリカ
(2)ビニルピロリドンユニットを含有する重合体としての、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体(ビニルピロリドンと酢酸ビニルの比率は2:8~8:2)およびポリビニルピロリドンからなる群から選択される少なくとも一種
(3)アルコール系溶剤またはアルコール系溶剤と水の混合溶剤
を、処理容器に収容してボールミルする工程を含んでなる調製方法によって得られた原液を、(4)噴射剤と混合する工程を含んでなる。
また、本発明の塗膜は、請求項10記載の通り、請求項1記載の抗ウイルス性エアゾール組成物から形成されてなる。
また、本発明の物品は、請求項11記載の通り、請求項10記載の塗膜を有してなる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、銅がドープされたシリカが優れた抗ウイルス性を発揮し、かつ、物品の表面に強固に保持される塗膜を形成することができる、高い安定性を有し、ノズル詰まりなどを引き起こすことなくエアゾール塗布することが可能な抗ウイルス性エアゾール組成物、当該抗ウイルス性エアゾール組成物から形成された塗膜、および、当該塗膜を有する物品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物は、
(1)銅がドープされたシリカ
(2)ビニルピロリドンユニットを含有する重合体
(3)アルコール系溶剤またはアルコール系溶剤と水の混合溶剤
(4)噴射剤
を含んでなる。
【0010】
本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物において、銅がドープされたシリカは、例えば特許文献1に記載の無機抗ウイルス剤であってよい。ここで、「銅がドープされたシリカ」とは、シリカを構成するシロキサン結合からなる無機ネットワーク中に銅が化学結合して組み込まれているシリカを意味する。銅がドープされたシリカは、多孔質であってもよいし、非多孔質であってもよく、その形状に特段の制限はない。
【0011】
銅がドープされたシリカには、さらに、アルミニウム、ジルコニウム、コバルト、マンガン、鉄などの金属がドープされてもよい。
【0012】
銅がドープされたシリカ中の銅の含量(銅に加えてその他の金属を組み合わせて用いる場合はそれぞれの合計量)は、例えば0.01~40wt%、好ましくは0.1~20wt%、より好ましくは1~10wt%である。銅がドープされたシリカ中の銅の含量が0.01wt%を下回ると、十分な抗ウイルス作用が得られない恐れがある一方、40wt%を超える量の銅がドープされたシリカは、製造が困難な恐れがある。銅に加えてその他の金属を組み合わせて用いる場合、銅とその他の金属の間の含量比率は、例えば銅の含量に対してその他の金属の含量が0.1~2倍であってよい。
【0013】
銅がドープされたシリカが多孔質の場合、銅がドープされた多孔質シリカは、例えば本発明者らが特開2020-15640号公報に記載したものであってよい。具体的には、次の通りである。
【0014】
多孔質シリカとしては、例えば直径2~50nmの細孔(メソ孔)が規則的に配列したメソポーラスシリカが挙げられる。
【0015】
多孔質シリカの比表面積は、例えば500~2000m2/gであることが、耐久性を維持することができる点において好ましい。
【0016】
銅がドープされたメソポーラスシリカの製造は、例えば特開2020-15640号公報に記載した自体公知の以下の方法に従って行うことができる。
【0017】
(工程1)
まず、界面活性剤と、銅をメソポーラスシリカにドープするための原料を、溶媒に溶解し、例えば30~200℃で0.5~10時間攪拌することで、界面活性剤にミセルを形成させる。
【0018】
界面活性剤の溶媒への溶解量は、例えば10~400mmol/L、好ましくは50~150mmol/Lである。或いは、界面活性剤の溶媒への溶解量は、後述する工程2において添加するシリカ原料1molに対し、例えば0.01~5.0mol、好ましくは0.05~1.0molである。
【0019】
界面活性剤としては、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤の何れを用いてもよいが、好ましくはアルキルアンモニウム塩などの陽イオン性界面活性剤である。アルキルアンモニウム塩は、炭素数が8以上のアルキル基を有するものが好ましく、工業的な入手の容易さに鑑みると、炭素数が12~18のアルキル基を有するものがより好ましい。アルキルアンモニウム塩の具体例としては、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド、ステアリルトリメチルアンモニウムブロマイド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、オクタデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ジドデシルジメチルアンモニウムブロマイド、ジテトラデシルジメチルアンモニウムブロマイド、ジドデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジテトラデシルジメチルアンモニウムクロライドが挙げられる。界面活性剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
銅をメソポーラスシリカにドープするための原料の溶媒への溶解量(銅に加えてその他の金属を組み合わせて用いる場合はそれぞれの原料の合計量)は、後述する工程2において添加するシリカ原料1molに対し、例えば0.001~1mol、好ましくは0.005~0.5mol、より好ましくは0.01~0.1molである。
【0021】
銅や、銅に加えてその他の金属をメソポーラスシリカにドープするための原料としては、例えばそれぞれの硝酸塩、硫酸塩、塩化物、オキシ塩化物を用いることができる。銅をドープするための原料としては硝酸銅や塩化銅を用いることが好ましい。銅に加えて、アルミニウムをドープする場合の原料としては塩化アルミニウムを用いることが好ましい。ジルコニウムをドープする場合の原料としてはオキシ塩化ジルコニウムを用いることが好ましい。コバルトをドープする場合の原料としては硝酸コバルトを用いることが好ましい。マンガンをドープする場合の原料としては塩化マンガンを用いることが好ましい。鉄をドープする場合の原料としては塩化鉄を用いることが好ましい。銅や、銅に加えてその他の金属をドープするための原料は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
溶媒としては、例えば水を用いることができる。溶媒は、水と、メタノール、エタノール、ジエチレングリコールやグリセリンなどの多価アルコールをはじめとする水溶性有機溶媒の混合溶媒であってよい。
【0023】
(工程2)
次に、工程1において得た、界面活性剤がミセルを形成する溶液に、シリカ原料を例えば室温で溶解し、均一になるまで攪拌して、界面活性剤のミセルの表面にシリカ原料を集積させる。シリカ原料の溶液への溶解量は、例えば0.2~1.8mol/Lである。或いは、溶媒として水や水と水溶性有機溶媒の混合溶媒を用いる場合、水1molに対し、例えば0.001~0.05molである。
【0024】
シリカ原料は、脱水縮合することでメソポーラスシリカを構成するシロキサン結合からなる無機ネットワークを形成するものであれば特に限定されない。シリカ原料の具体例としては、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラ-n-ブトキシシランなどのテトラアルコキシシランや、ケイ酸ナトリウムが挙げられる。好ましくはテトラアルコキシシランであり、より好ましくはテトラエトキシシランである。シリカ原料は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
(工程3)
次に、界面活性剤のミセルの表面に集積させたシリカ原料を脱水縮合させて、メソポーラスシリカを構成するシロキサン結合からなる無機ネットワークを形成させるとともに、無機ネットワーク中に銅を化学結合させて組み込ませる。シリカ原料の脱水縮合は、例えば、系内に塩基性水溶液を添加してpHを上げた後、室温で1時間以上攪拌することで行わせることができる。塩基性水溶液は、pHが添加直後に8~14となるように添加することが好ましく、9~11となるように添加することがより好ましい。塩基性水溶液の具体例としては、水酸化ナトリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、アンモニア水が挙げられるが、好ましくは水酸化ナトリウム水溶液である。塩基性水溶液は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、シリカ原料の脱水縮合は、系内に塩酸水溶液などの酸性水溶液を添加してpHを下げた後、攪拌することで行わせることもできる。
【0026】
(工程4)
最後に、工程3において得た、メソポーラスシリカを構成するシロキサン結合からなり、銅が化学結合して組み込まれた無機ネットワークを表面に形成させた界面活性剤のミセルを、沈殿物として濾過して回収し、例えば、30~70℃で10~48時間乾燥した後、400~600℃で1~10時間焼成することで、目的とする銅がドープされたメソポーラスシリカを得る。こうして得た銅がドープされたメソポーラスシリカは、必要に応じてミキサーやミルで粉砕し、所望する粒径(例えばメディアン径が0.01~100μm)を有するようにしてもよい。
【0027】
なお、銅をメソポーラスシリカにドープするための原料の系内への添加は、上記の工程1において界面活性剤とともに溶媒に溶解する態様に限定されず、工程3におけるシリカ原料が脱水縮合することによるメソポーラスシリカを構成するシロキサン結合からなる無機ネットワークの形成が完結するまでであれば、工程2や工程3において溶液に溶解する態様であってもよい。
【0028】
銅がドープされたシリカが非多孔質の場合、銅がドープされた非多孔質シリカは、例えば非多孔質シリカを製造する方法としてよく知られている沈降法を利用して製造することができる。具体的には、シリカ原料としてのケイ酸アルカリ金属塩と鉱酸を中和反応させる際、銅を非多孔質シリカにドープするための原料を系内に共存させることにより製造することができる。銅を非多孔質シリカにドープするための原料は、前述の銅をメソポーラスシリカにドープするための原料と同じであってよい。銅を非多孔質シリカにドープするための原料の使用量(銅に加えてその他の金属を組み合わせて用いる場合はそれぞれの原料の合計量)は、シリカ原料としてのケイ酸アルカリ金属塩1molに対し、例えば0.001~0.5mol、好ましくは0.01~0.1molである。シリカ原料として用いるケイ酸アルカリ金属塩は、沈降法にて非多孔質シリカを製造するために用いる一般的なものであってよい。具体的にはケイ酸ナトリウムやケイ酸カリウムなどが挙げられ、そのシリカとアルカリのモル比:SiO2/M2O(MはNaやKなど)は例えば0.5~4である。ケイ酸アルカリ金属塩の溶媒(水など)への溶解量は、溶媒1molに対し、例えば0.001~0.05molである。鉱酸としては塩酸や硫酸や硝酸を用いることができる。銅がドープされた非多孔質シリカは、ケイ酸アルカリ金属塩と鉱酸の中和反応によって生成する沈殿物として得られ、その濾取や洗浄や乾燥などは、沈降法にて非多孔質シリカを製造する際に採用される方法に準じればよい。必要に応じて最後に300℃以上の高温で焼成してもよい。こうして製造される銅がドープされた非多孔質シリカの比表面積(BET比表面積)は、例えば0.1~350m2/gである。必要に応じてミキサーやミルで粉砕し、所望する粒径(例えばメディアン径が0.01~100μm)を有するようにしてもよいことは、前述の銅がドープされたメソポーラスシリカと同様である。
【0029】
本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物において、樹脂成分として用いるビニルピロリドンユニットを含有する重合体は、例えばビニルピロリドンユニットとビニルピロリドン以外のユニットの共重合体であってよい。この場合、銅がドープされたシリカが優れた抗ウイルス性を発揮し、かつ、物品の表面に強固に保持される塗膜の形成を容易にするためには、ビニルピロリドンユニットとビニルピロリドン以外のユニットの比率(ビニルピロリドンユニット:ビニルピロリドン以外のユニット)は、2:8~8:2が好ましい。ビニルピロリドンユニットとビニルピロリドン以外のユニットの共重合体の具体例としては、ビニルピロリドンとメタクリル酸ジメチルアミノエチルの共重合体、ビニルピロリドンと塩化メチルビニルイミダゾリニウムの共重合体、ビニルピロリドンとメタクリル酸ジメチルアミノプロピルアミドの共重合体、ビニルピロリドンと4級化イミダゾリンの共重合体、ビニルピロリドンとビニルカプロラクタムとメチルビニルイミダゾリウムメチル硫酸塩、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体、ビニルピロリドンとエイコセンの共重合体、ビニルピロリドンとヘキサデセンの共重合体、ビニルピロリドンとスチレンの共重合体、ビニルピロリドンとビニルカプロラクタムとメタクリル酸ジメチルアミノエチルの共重合体が挙げられる。また、ビニルピロリドンユニットを含有する重合体は、ポリビニルピロリドンであってもよい。ビニルピロリドンユニットを含有する重合体の重量平均分子量は、例えば5,000~1,500,000、好ましくは6,000~1,000,000、より好ましくは7,000~500,000、さらに好ましくは8,000~100,000である。ビニルピロリドンユニットを含有する重合体の重量平均分子量が小さすぎると、銅がドープされたシリカが多孔質の場合、分子がシリカの細孔に入り込んでしまうことで、抗ウイルス性の発揮に加えて細孔を有することによる特性(消臭性など)の発揮を期待する場合にその発揮が困難になるおそれがある一方、重量平均分子量が大きすぎると、分子がシリカの表面を覆いつくしてしまうことで、ウイルスを吸着することによって発揮されるシリカの抗ウイルス性を阻害してしまうおそれがある。ビニルピロリドンユニットを含有する重合体は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物において、アルコール系溶剤は、エアゾール組成物の成分として用いられる一般的なものであってよく、その具体例としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールが挙げられる。アルコール系溶剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。アルコール系溶剤と水の混合溶剤を用いる場合におけるアルコール系溶剤と水の重量比(アルコール系溶剤:水)は、例えば1:5~100:1である。
【0031】
本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物において、噴射剤は、エアゾール組成物の成分として用いられる一般的なものであってよく、その具体例としては、液化石油ガス、窒素ガス、炭酸ガス、ジメチルエーテル、ハイドロフルオロオレフィン、ハイドロフルオロカーボンが挙げられる。噴射剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物における、銅がドープされたシリカ、ビニルピロリドンユニットを含有する重合体、アルコール系溶剤またはアルコール系溶剤と水の混合溶剤、噴射剤のそれぞれの含量は、例えば、銅がドープされたシリカの含量が0.1~5wt%、ビニルピロリドンユニットを含有する重合体の含量が0.1~5wt%、アルコール系溶剤またはアルコール系溶剤と水の混合溶剤の含量が30~90wt%、噴射剤の含量が5~65wt%、好ましくは、銅がドープされたシリカの含量が0.2~2wt%、ビニルピロリドンユニットを含有する重合体の含量が0.2~2wt%、アルコール系溶剤またはアルコール系溶剤と水の混合溶剤の含量が45~70wt%、噴射剤の含量が25~50wt%である。本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物には、エアゾール組成物の成分として一般的に用いられる、顔料、香料、分散剤、消泡剤、レベリング剤、潤滑剤、防黴剤、防腐剤、ワックス類などが配合されてもよい。これらの成分が配合される場合、これらの成分の含量の分だけアルコール系溶剤またはアルコール系溶剤と水の混合溶剤の含量が減じられる。また、本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物を製造する際、銅がドープされたシリカが、本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物において用いられるアルコール系溶剤またはアルコール系溶剤と水の混合溶剤と異なる分散媒に懸濁させたスラリーとして提供されたり、ビニルピロリドンユニットを含有する重合体が、本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物において用いられるアルコール系溶剤またはアルコール系溶剤と水の混合溶剤と異なる溶剤に溶解した溶液として提供されたりする場合、本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物には、こうした分散媒や溶剤が含まれてもよく、この場合もまた、これらの含量の分だけアルコール系溶剤またはアルコール系溶剤と水の混合溶剤の含量が減じられる。
【0033】
本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物における、銅がドープされたシリカとビニルピロリドンユニットを含有する重合体の重量比(銅がドープされたシリカ:ビニルピロリドンユニットを含有する重合体)は、5:95~75:25が好ましく、より好ましくは15:85~70:30、さらに好ましくは25:75~65:35である。銅がドープされたシリカの比率が少なすぎると、銅がドープされたシリカが優れた抗ウイルス性を発揮する塗膜を形成することが困難になるおそれがある一方、ビニルピロリドンユニットを含有する重合体の比率が少なすぎると、物品の表面に強固に保持される塗膜を形成することが困難になるおそれがある。
【0034】
本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物は、エアゾール組成物を製造するための一般的な方法、例えば、銅がドープされたシリカ、ビニルピロリドンユニットを含有する重合体、アルコール系溶剤またはアルコール系溶剤と水の混合溶剤を、それぞれが所望する含量となるように、必要に応じて温度を調節した上で混合することで調製した原液を、噴射剤と混合することで製造することができる。
【0035】
原液を調製するための、銅がドープされたシリカ、ビニルピロリドンユニットを含有する重合体、アルコール系溶剤またはアルコール系溶剤と水の混合溶剤の混合は、これらをボールミルすることで行うことが好ましい。銅がドープされたシリカ、ビニルピロリドンユニットを含有する重合体、アルコール系溶剤またはアルコール系溶剤と水の混合溶剤を、ボールミルすることにより、銅がドープされたシリカが、ビニルピロリドンユニットを含有する重合体が均一に溶解したアルコール系溶剤またはアルコール系溶剤と水の混合溶剤中において、凝集することなく均一に分散した原液が得られることで、形成される塗膜中において、銅がドープされたシリカが、凝集することなく均一に分散して担持されるため、塗膜から脱落することが阻止されるとともに、銅がドープされたシリカが共存するにもかかわらず、ビニルピロリドンユニットを含有する重合体が、物品の表面との高い接着性を獲得することにより、銅がドープされたシリカが優れた抗ウイルス性を発揮し、かつ、物品の表面に強固に保持される塗膜を形成することが容易になる。また、本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物の安定性を高めることや、ノズル詰まりなどを引き起こすことなくエアゾール塗布することが容易になる。
【0036】
ボールミルは、銅がドープされたシリカ、ビニルピロリドンユニットを含有する重合体、アルコール系溶剤またはアルコール系溶剤と水の混合溶剤を、ボールミルに用いるボール(メディア)とともに処理容器に収容し、これらを収容した処理容器をボールミル架台に載せて回転させることにより行うことができる(回転数は例えば15~2,000rpmの範囲で採用される)。ボールミルする時間は、例えば1~50時間、好ましくは6~30時間である。ボールミルに用いるボール(例えば1~5mmφのアルミナボールやジルコニアボール)は、銅がドープされたシリカ、ビニルピロリドンユニットを含有する重合体、アルコール系溶剤またはアルコール系溶剤と水の混合溶剤、必要に応じて配合されるその他の成分、銅がドープされたシリカが、本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物において用いられるアルコール系溶剤またはアルコール系溶剤と水の混合溶剤と異なる分散媒に懸濁させたスラリーとして提供されたり、ビニルピロリドンユニットを含有する重合体が、本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物において用いられるアルコール系溶剤またはアルコール系溶剤と水の混合溶剤と異なる溶剤に溶解した溶液として提供されたりする場合にはこうした分散媒や溶剤の合計重量の1~5倍の重量となる個数を用いることが好ましい。処理容器に収容するアルコール系溶剤またはアルコール系溶剤と水の混合溶剤は、本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物における含量の一部であってもよく、この場合、ボールミルした後、アルコール系溶剤またはアルコール系溶剤と水の混合溶剤を、本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物における含量になるように追加すればよい。
【0037】
本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物は、繊維製品、不織布製品、皮革製品、建材、木材、ガラス、プラスチック、フィルム、セラミックス、紙、パルプ、文房具、玩具、容器、キャップ、注出具、スパウトなどの我々の身の回りの物品に抗ウイルス性を付与するために利用することができる。本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物の物品の表面への塗布は、例えば、本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物をスプレー缶に充填し、物品の表面にエアゾール塗布することで行えばよい。本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物を物品の表面に塗布した後、自然乾燥や加熱乾燥することで、銅がドープされたシリカが優れた抗ウイルス性を発揮し、かつ、物品の表面に強固に保持される塗膜を形成することができる。
【0038】
本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物から形成される塗膜は、塗膜に含まれる銅がドープされたシリカが、エンベロープウイルスに対してのみならずノンエンベロープウイルスに対しても優れた抗ウイルス作用を発揮する。従って、その抗ウイルス作用の対象となるウイルスの種類は限定されるものではなく、様々な病原ウイルス、例えば、エンベロープウイルスとしては、A型,B型,C型インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、ムンプスウイルス(おたふくかぜウイルス)、麻疹ウイルス、ヒトメタニューモウイルス、RSウイルス、ニパウイルス、ヘンドラウイルス、黄熱ウイルス、デングウイルス、日本脳炎ウイルス、ウエストナイルウイルス、B型,C型,D型肝炎ウイルス、東部および西部馬脳炎ウイルス、風疹ウイルス、ラッサウイルス、フニンウイルス、マチュポウイルス、ガナリトウイルス、サビアウイルス、クリミアコンゴ出血熱ウイルス、スナバエ熱ウイルス、ハンタウイルス、シンノンブレウイルス、狂犬病ウイルス、エボラウイルス、マーブルグウイルス、コウモリリッサウイルス、ヒトT細胞白血病ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、ヒトコロナウイルス、SARSコロナウイルス、SARS-CoV-2ウイルス(COVID-19ウイルス)、ヘルペスウイルス、水痘帯状発疹ウイルス、EBウイルス、サイトメガロウイルス、天然痘ウイルス、サル痘ウイルス、牛痘ウイルス、モラシポックスウイルス、パラポックスウイルス、オニョンニョンウイルスなどを対象とすることができ、ノンエンベロープウイルスとしては、ライノウイルス、ポリオウイルス、口蹄疫ウイルス、ロタウイルス、ノロウイルス、エンテロウイルス、ヘパトウイルス、アストロウイルス、サポウイルス、A型,E型肝炎ウイルス、ヒトパルボウイルス、ポリオーマウイルス、ヒトパピローマウイルス、アデノウイルス、コクサッキーウイルスなどを対象とすることができる。
【0039】
また、本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物に含まれる銅がドープされたシリカは、本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物が物品の表面に塗布されてから塗膜が形成されるまでの時点においても、優れた抗ウイルス作用を発揮する。この時点においては、本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物に含まれるアルコール系溶剤またはアルコール系溶剤と水の混合溶剤も、抗ウイルス作用を発揮する。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
【0041】
製造参考例1:銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカの製造
界面活性剤としてのヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、銅をメソポーラスシリカにドープするための原料としての塩化銅、アルミニウムをメソポーラスシリカにドープするための原料としての塩化アルミニウムを、溶媒としての水に溶解し、100℃で1時間攪拌した後、室温まで冷却してから、シリカ原料としてのテトラエトキシシランをさらに溶解して均一になるまで攪拌した。次いで、反応液に、塩基性水溶液としての水酸化ナトリウム水溶液を、添加直後のpHが9となるように添加し、室温で20時間攪拌した。生成した沈殿物を濾過して回収し、50℃で24時間乾燥した後、570℃で5時間焼成することで、目的とする銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカをごくわずかに青みがかった白色粉末として得た。
【0042】
なお、界面活性剤としてのヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、銅をメソポーラスシリカにドープするための原料としての塩化銅、アルミニウムをメソポーラスシリカにドープするための原料としての塩化アルミニウム、溶媒としての水のそれぞれの使用量は、シリカ原料としてのテトラエトキシシラン1molに対し、以下の通りとした。
ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド:0.225mol
塩化銅:0.0204mol
塩化アルミニウム:0.0482mol
水:125mol
また、塩基性水溶液としての水酸化ナトリウム水溶液を調製するために、水酸化ナトリウムを、シリカ原料としてのテトラエトキシシラン1molに対し、0.195mol用いた。
【0043】
以上の方法で得た銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカは、比表面積が1100m2/g、細孔の直径が約2.5nmであった(マイクロトラックベル社製BELSORP MAX II型を用いて多点法で液体窒素温度にて窒素ガスの吸着等温線を測定しBJH計算により算出)。また、銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカ約50mgを精確に量り取り、4mLの塩酸に溶解した後、塩酸溶液中の銅とアルミニウムの濃度を、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(Thermo Fisher Scientific社製iCAP PRO XP ICP-OES、以下同じ)を用いて測定し、測定結果に基づいて、銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカ中の銅の含量とアルミニウムの含量を算出したところ、銅の含量は2.09wt%であり、アルミニウムの含量は2.00wt%であった。メソポーラスシリカに銅とアルミニウムがドープされていることは、X線光電子分光装置(Thermo Fisher Scientific社製K-Alpha Surface Analysis、以下同じ)と透過型電子顕微鏡(JEOL社製JEM2010、以下同じ)で確認した。
【0044】
製造例1:本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物の製造(その1)
(工程1)
2LのアイボーイPP広口びんに、製造参考例1で得た銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカ140g、エタノール560g、5mmφのアルミナボール1760gを入れ、室温で、ボールミル架台に載せて回転数250rpmで1時間処理してからさらに450rpmで9時間処理した後、アルミナボールを除去して、メディアン径が約0.6μmの銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカの含量が20wt%のエタノールスラリーを得た(メディアン径の測定はレーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製SALD-3100)による、以下同じ)。
(工程2)
2LのアイボーイPP広口びんに、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体の粉末(PVP/VA S630、Ashland社製、ビニルピロリドンユニットと酢酸ビニルユニットの比率6:4、重量平均分子量(カタログ値)51,000、以下同じ)35gとエタノール490gを入れ、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体の粉末をエタノールに溶解させた後、工程1で得たメディアン径が約0.6μmの銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカの含量が20wt%のエタノールスラリー175g、2mmφのアルミナボール1760gを入れ、室温で、ボールミル架台に載せて回転数500rpmで9時間処理した後、アルミナボールを除去して、メディアン径が約0.5μmの銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカの含量が5wt%、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体の含量が5wt%、エタノールの含量が90wt%の塗料組成物を得た。得られた塗料組成物とエタノールを重量比1:4で混合し、メディアン径が約0.5μmの銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカの含量が1wt%、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体の含量が1wt%、エタノールの含量が98wt%の原液を得た。
(工程3)
工程2で得た原液と、噴射剤としての液化石油ガス(20℃における蒸気圧:0.29MPa、以下同じ)を、重量比6:4でエアゾール缶に充填し、メディアン径が約0.5μmの銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカの含量が0.6wt%、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体の含量が0.6wt%、エタノールの含量が58.8wt%、液化石油ガスの含量が40.0wt%の本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物を得た。
【0045】
製造例2:本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物の製造(その2)
2LのアイボーイPP広口びんに、製造参考例1で得た銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカ35g、エタノール315g、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体の粉末(PVP/VA S630)の10wt%エタノール溶液350g、2mmφのアルミナボール1700gを入れ、室温で、ボールミル架台に載せて回転数900rpmで24時間処理した後、アルミナボールを除去して、メディアン径が約0.5μmの銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカの含量が5wt%、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体の含量が5wt%、エタノールの含量が90wt%の塗料組成物を得た。得られた塗料組成物とエタノールを重量比1:4で混合し、メディアン径が約0.5μmの銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカの含量が1wt%、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体の含量が1wt%、エタノールの含量が98wt%の原液を得た。得られた原液と、噴射剤としての液化石油ガスを、重量比6:4でエアゾール缶に充填し、メディアン径が約0.5μmの銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカの含量が0.6wt%、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体の含量が0.6wt%、エタノールの含量が58.8wt%、液化石油ガスの含量が40.0wt%の本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物を得た。
【0046】
製造例3:本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物の製造(その3)
(工程1)
250mLのアイボーイPP広口びんに、製造参考例1で得た銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカ4.4g、エタノール83.6g、2mmφのアルミナボール220gを入れ、室温で、ボールミル架台に載せて回転数180rpmで8時間処理した後、アルミナボールを除去して、メディアン径が約0.5μmの銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカの含量が5wt%のエタノールスラリーを得た。
(工程2)
工程1で得たメディアン径が約0.5μmの銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカの含量が5wt%のエタノールスラリー、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体の粉末(PVP/VA S630)、エタノールを、質量比20:1:79で混合して攪拌し、メディアン径が約0.5μmの銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカの含量が1wt%、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体の含量が1wt%、エタノールの含量が98wt%の塗料組成物を原液として得た。
(工程3)
工程2で得た原液と、噴射剤としての液化石油ガスを、重量比6:4でエアゾール缶に充填し、メディアン径が約0.5μmの銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカの含量が0.6wt%、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体の含量が0.6wt%、エタノールの含量が58.8wt%、液化石油ガスの含量が40.0wt%の本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物を得た。
【0047】
製造例4:本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物の製造(その4)
製造例3の工程2における、工程1で得たメディアン径が約0.5μmの銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカの含量が5wt%のエタノールスラリー、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体の粉末(PVP/VA S630)、エタノールの混合を、質量比40:1:159で行うこと以外は製造例3と同様にして、メディアン径が約0.5μmの銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカの含量が1wt%、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体の含量が0.5wt%、エタノールの含量が98.5wt%の塗料組成物を原液として得た。得られた原液と、噴射剤としての液化石油ガスを、重量比6:4でエアゾール缶に充填し、メディアン径が約0.5μmの銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカの含量が0.6wt%、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体の含量が0.3wt%、エタノールの含量が59.1wt%、液化石油ガスの含量が40.0wt%の本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物を得た。
【0048】
製造例5:本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物の製造(その5)
2LのアイボーイPP広口びんに、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体の50wt%水溶液(PVP/VA W735、Ashland社製、ビニルピロリドンユニットと酢酸ビニルユニットの比率7:3、重量平均分子量(カタログ値)27,300)70g、エタノール455g、製造例1の工程1で得たメディアン径が約0.6μmの銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカの含量が20wt%のエタノールスラリー175g、2mmφのアルミナボール1760gを入れ、室温で、ボールミル架台に載せて回転数500rpmで9時間処理した後、アルミナボールを除去して、メディアン径が約0.5μmの銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカの含量が5wt%、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体の含量が5wt%、水の含量が5wt%、エタノールの含量が85wt%の塗料組成物を得た。得られた塗料組成物とエタノールを重量比1:4で混合し、メディアン径が約0.5μmの銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカの含量が1wt%、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体の含量が1wt%、水の含量が1wt%、エタノールの含量が97wt%の原液を得た。得られた原液と、噴射剤としての液化石油ガスを、重量比6:4でエアゾール缶に充填し、メディアン径が約0.5μmの銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカの含量が0.6wt%、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体の含量が0.6wt%、水の含量が0.6wt%、エタノールの含量が58.2wt%、液化石油ガスの含量が40.0wt%の本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物を得た。
【0049】
製造例6:本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物の製造(その6)
ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体の50wt%水溶液(PVP/VA W735)のかわりに、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体の50wt%エタノール溶液(PVP/VA E535、Ashland社製、ビニルピロリドンユニットと酢酸ビニルユニットの比率5:5、重量平均分子量(カタログ値)36,700)を用いること以外は製造例5と同様にして、メディアン径が約0.5μmの銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカの含量が5wt%、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体の含量が5wt%、エタノールの含量が90wt%の塗料組成物を得た。得られた塗料組成物とエタノールを重量比1:4で混合し、メディアン径が約0.5μmの銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカの含量が1wt%、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体の含量が1wt%、エタノールの含量が98wt%の原液を得た。得られた原液と、噴射剤としての液化石油ガスを、重量比6:4でエアゾール缶に充填し、メディアン径が約0.5μmの銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカの含量が0.6wt%、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体の含量が0.6wt%、エタノールの含量が58.8wt%、液化石油ガスの含量が40.0wt%の本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物を得た。
【0050】
製造例7:本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物の製造(その7)
ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体の50wt%水溶液(PVP/VA W735)のかわりに、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体の50wt%エタノール溶液(PVP/VA E335、Ashland社製、ビニルピロリドンユニットと酢酸ビニルユニットの比率3:7、重量平均分子量(カタログ値)28,800)を用いること以外は製造例5と同様にして、メディアン径が約0.5μmの銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカの含量が5wt%、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体の含量が5wt%、エタノールの含量が90wt%の塗料組成物を得た。得られた塗料組成物とエタノールを重量比1:4で混合し、メディアン径が約0.5μmの銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカの含量が1wt%、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体の含量が1wt%、エタノールの含量が98wt%の原液を得た。得られた原液と、噴射剤としての液化石油ガスを、重量比6:4でエアゾール缶に充填し、メディアン径が約0.5μmの銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカの含量が0.6wt%、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体の含量が0.6wt%、エタノールの含量が58.8wt%、液化石油ガスの含量が40.0wt%の本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物を得た。
【0051】
製造例8:本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物の製造(その8)
ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体の粉末(PVP/VA S630)のかわりに、ポリビニルピロリドンの粉末(PVP K15、Ashland社製、重量平均分子量(カタログ値)8,000)を用いること以外は製造例1と同様にして、メディアン径が約0.5μmの銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカの含量が5wt%、ポリビニルピロリドンの含量が5wt%、エタノールの含量が90wt%の塗料組成物を得た。得られた塗料組成物とエタノールを重量比1:4で混合し、メディアン径が約0.5μmの銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカの含量が1wt%、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体の含量が1wt%、エタノールの含量が98wt%の原液を得た。得られた原液と、噴射剤としての液化石油ガスを、重量比6:4でエアゾール缶に充填し、メディアン径が約0.5μmの銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカの含量が0.6wt%、ポリビニルピロリドンの含量が0.6wt%、エタノールの含量が58.8wt%、液化石油ガスの含量が40.0wt%の本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物を得た。
【0052】
製造例9:本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物の製造(その9)
ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体の粉末(PVP/VA S630)のかわりに、ポリビニルピロリドンの粉末(PVP K30、Ashland社製、重量平均分子量(カタログ値)60,000)を用いること以外は製造例1と同様にして、メディアン径が約0.5μmの銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカの含量が5wt%、ポリビニルピロリドンの含量が5wt%、エタノールの含量が90wt%の塗料組成物を得た。得られた塗料組成物とエタノールを重量比1:4で混合し、メディアン径が約0.5μmの銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカの含量が1wt%、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体の含量が1wt%、エタノールの含量が98wt%の原液を得た。得られた原液と、噴射剤としての液化石油ガスを、重量比6:4でエアゾール缶に充填し、メディアン径が約0.5μmの銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカの含量が0.6wt%、ポリビニルピロリドンの含量が0.6wt%、エタノールの含量が58.8wt%、液化石油ガスの含量が40.0wt%の本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物を得た。
【0053】
試験例1:本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物から形成された塗膜のエンベロープウイルスに対する抗ウイルス作用
(1)エアゾール塗布による塗膜の形成
製造例1で製造した本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物が充填されたエアゾール缶を、水平に構え、15cmの高さから、10cm×20cmのPETフィルムの全面に対して7秒間均一に噴射し(噴射量は1.36g/秒)、自然乾燥することで、PETフィルムの表面に塗膜を形成した。エアゾール缶から製造例1で製造した本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物を噴射させる際、ノズル詰まりによる噴射障害などは認められなかった。PETフィルムの表面に形成された塗膜は白色で、メディアン径が約0.5μmの銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカの担持量は0.27mg/cm2であった。なお、メソポーラスシリカの担持量は、白色の塗膜が表面に形成されたPETフィルムを、るつぼに入れ、6mol/L塩酸を加えて120℃で1時間加熱した後、誘導結合プラズマ発光分光分析装置を用いて測定したるつぼ内の銅の量に基づいて算出した。
(2)抗ウイルス作用の評価
宿主細胞としてのMDCK細胞(イヌ腎臓由来細胞)に、A型インフルエンザウイルス(H3N2、A/Hong Kong/8/68;TC adapted、ATCC VR-1679)を感染させ、培養後、遠心分離によって細胞残渣を除去し、ウイルス懸濁液(感染価:4.7×107PFU/mL)を得た。このウイルス懸濁液0.4mLを、ISO 21702に従って、白色の塗膜が表面に形成されたPETフィルムから切り出した5cm角の試験片に滴下し、4cm角のカバーフィルムを被せた後、25℃で放置した。24時間後、試験片にウイルスの洗い出し液を加えてウイルスを洗い出し、プラーク測定法にてウイルス感染価を測定した。結果を表1に示す。なお、表1には、製造例5~7で製造した本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物を用いて同様の試験を行った結果と、コントロールとして5cm角のPETフィルムにウイルス懸濁液を滴下した場合の結果もあわせて示す。
【0054】
【0055】
表1から明らかなように、製造例1,5~7で製造した本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物から形成された塗膜は、エンベロープウイルスであるインフルエンザウイルスに対して優れた抗ウイルス作用を発揮した。
【0056】
試験例2:本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物から形成された塗膜のノンエンベロープウイルスに対する抗ウイルス作用
(1)エアゾール塗布による塗膜の形成
製造例1で製造した本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物から、試験例1と同様にして、10cm×20cmのPETフィルムの表面に白色の塗膜を形成した。
(2)抗ウイルス作用の評価
宿主細胞としてのCRFK細胞(ネコ腎臓由来細胞)に、ノロウイルスの代替ウイルスとしてのネコカリシウイルス(F-9、Feline calicivirus;Strain:F-9、ATCC VR-782)を感染させ、培養後、遠心分離によって細胞残渣を除去し、ウイルス懸濁液(感染価:2.4×107PFU/mL)を得た。このウイルス懸濁液0.4mLを、ISO 21702に従って、白色の塗膜が表面に形成されたPETフィルムから切り出した5cm角の試験片に滴下し、4cm角のカバーフィルムを被せた後、25℃で放置した。24時間後、試験片にウイルスの洗い出し液を加えてウイルスを洗い出し、プラーク測定法にてウイルス感染価を測定した。結果を表2に示す。なお、表2には、製造例5~7で製造した本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物を用いて同様の試験を行った結果と、コントロールとして5cm角のPETフィルムにウイルス懸濁液を滴下した場合の結果もあわせて示す。
【0057】
【0058】
表2から明らかなように、製造例1,5~7で製造した本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物から形成された塗膜は、ノンエンベロープウイルスであるネコカリシウイルスに対しても優れた抗ウイルス作用を発揮した。
【0059】
試験例3:本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物から形成された塗膜のヘマグルチニン(HA)に対する吸着作用
インフルエンザウイルスの表面タンパク質であるHAに対する本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物から形成された塗膜の吸着作用を、HA(H1N1)(A/California/06/2009 Hemagglutinin ELISA Development Kit(Immune Technology社IT-E3Ag-2009H1N1-California/06)を用いて評価した。具体的には、製造例1で製造した本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物から、試験例1と同様にして、表面に白色の塗膜を形成した10cm×20cmのPETフィルムから、面積が7.4cm2の試験片(メディアン径が約0.5μmの銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカの担持量は2mg)を切り出し、初濃度が25.3ng/mLのHA溶液2mLに浸漬してボルテックスミキサーを用いて20秒間攪拌し、室温で静置した。3分間後、フィルムを取り出してから遠心分離を行って固形分を沈降させ、上澄み液を回収してそのHAの濃度を測定し、吸着率(%)=((HA初濃度-3分間後のHA濃度)/HA初濃度)×100の数式から、HAに対する吸着率を算出した。算出したHAに対する吸着率の、初濃度が25.3ng/mLのHA溶液2mLにメディアン径が約0.5μmの銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカ2mgを投入し、同様にして算出したメソポーラスシリカのHAに対する吸着率を100とした相対値を表3に示す。なお、表3には、製造例8,9で製造した本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物を用いて同様の試験を行った結果もあわせて示す。
【0060】
【0061】
表3から明らかなように、製造例1で製造した本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物から形成された塗膜のHAに対する吸着率は、メディアン径が約0.5μmの銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカのHAに対する吸着率とほぼ同等であり、塗膜中でビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体と共存することによるメソポーラスシリカのHAに対する吸着率の低下はほぼ認められなかったことから、製造例1で製造した本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物から形成された塗膜のHAに対する優れた吸着作用を確認することができた。製造例8,9で製造した本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物から形成された塗膜のHAに対する優れた吸着作用も確認することができたが、ポリビニルピロリドンの重量平均分子量が大きくなるにつれて低下する傾向があることが推察された。
【0062】
試験例4:本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物から形成された塗膜の耐久性
製造例1で製造した本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物が充填されたエアゾール缶を、水平に構え、15cmの高さから、PETフィルムに1秒間噴射し、自然乾燥することで、直径が約6cmの白色の塗膜が表面に形成されたPETフィルムから、2cm×4cmの2つの試験片(試験片Aと試験片B)を切り出した。試験片Aの塗膜の全面に、セロテープ(登録商標、以下同じ)を手で押さえてしっかり貼り付けてからすぐに剥がした。セロテープを剥がした後の試験片Aと試験片Bのそれぞれを、るつぼに入れ、6mol/L塩酸を加えて120℃で1時間加熱し、るつぼ内の銅の量を、誘導結合プラズマ発光分光分析装置を用いて測定することで、セロテープを剥がした後の試験片Aと試験片Bのそれぞれの銅の量を求め、塗膜残存率(%)=(セロテープを剥がした後の試験片Aの銅の量/試験片Bの銅の量)×100の数式から、塗膜の耐久性を評価した。結果を表4に示す。なお、表4には、製造例4,5で製造した本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物を用いて同様の試験を行った結果と、コントロールとしてメディアン径が約0.5μmの銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカの含量が1wt%とエタノールの含量が99wt%からなる原液と、噴射剤としての液化石油ガスを、重量比6:4でエアゾール缶に充填して同様の試験を行った結果もあわせて示す。
【0063】
【0064】
表4から明らかなように、エアゾール組成物の樹脂成分としてビニルピロリドンユニットを含有する重合体を用いることで、PETフィルムの表面に強固に保持される塗膜をエアゾール塗布によって形成することができた。
【0065】
試験例5:本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物の噴射付着性
エアゾール組成物を対象物の表面に噴射すると、原液の一部が、強い気流によって対象物の表面から巻き上げられ、付着せずに舞い散る現象が生じるので、エアゾール組成物の噴射付着性を、噴射付着率(%)=(単位面積あたりの原液実塗布量/単位面積あたりの原液理論塗布量)×100の数式から評価することができる。ここで、単位面積あたりの原液実塗布量は、エアゾール組成物を噴射した直後の対象物の表面の付着物量を塗布面積で除することで算出し、単位面積あたりの原液理論塗布量は、原液理論塗布量を塗布面積で除することで算出する。原液理論塗布量は、(噴射前のエアゾール組成物量-噴射後のエアゾール組成物量)×エアゾール組成物の原液比率の数式から算出する。試験例4において塗膜を形成した際の、製造例1で製造した本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物の噴射付着性を、この方法に従って評価した。結果を表5に示す。なお、表5には、製造例4,5で製造した本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物を用いて同様の試験を行った結果と、コントロールとしてメディアン径が約0.5μmの銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカの含量が1wt%とエタノールの含量が99wt%からなる原液と、噴射剤としての液化石油ガスを、重量比6:4でエアゾール缶に充填して同様の試験を行った結果もあわせて示す。
【0066】
【0067】
表5から明らかなように、エアゾール組成物の樹脂成分としてビニルピロリドンユニットを含有する重合体を用いることで、エアゾール組成物の噴射付着率を高めることができた。試験例5の結果を試験例4の結果とあわせて考えると、本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物は、PETフィルムの表面に強固に保持される塗膜を、エアゾール塗布によって高い噴射付着率で形成することができるものであることがわかった。
【0068】
試験例6:本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物の安定性
製造例1~9で製造した本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物のそれぞれ20gを、100mLの耐圧ガラス瓶に充填し、外観観察を行って、以下の5つの項目を調べたところ、いずれの本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物も、すべての項目において実用上問題となる現象は認められず、高い安定性を有することがわかった。
・ メソポーラスシリカを除く原液成分が液化石油ガスと相溶しているか
・ 析出物の生成はないか
・ 銅やアルミニウムの溶出による組成物の変色はないか
・ 沈降しているメソポーラスシリカを振とうすることで再分散できるか
・ メソポーラスシリカの凝集はないか
製造例1で製造した本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物に対して組成の変更を行い、メソポーラスシリカの含量を3wt%に増やしたり(増やした分だけエタノールの含量を減らす)、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体の含量を3wt%に増やしたり(増やした分だけエタノールの含量を減らす)、エタノールの含量を40wt%に減らしたり(減らした分だけ液化石油ガスの含量を増やす)、エタノールの含量を90wt%に増やしたり(増やした分だけ液化石油ガスの含量を減らす)、液化石油ガスの含量を10wt%に減らしたり(減らした分だけエタノールの含量を増やす)、液化石油ガスの含量を60wt%に増やしたり(増やした分だけエタノールの含量を減らす)、液化石油ガスをハイドロフルオロオレフィン(例えばHFO-1234ze)に変更したり、液化石油ガスに窒素ガスや炭酸ガスを混合したりしたが、安定性の評価に大差はなかった。また、エタノール(58.8wt%)を、エタノール(10.8wt%)+水(48.0wt%)に変更し、液化石油ガスをジメチルエーテルに変更しても、安定性の評価に大差はなかった。製造例9で製造した本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物に対し、製造例1で製造した本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物に対して行った組成の変更と同様の組成の変更を行っても、安定性の評価に大差はなかった。
しかしながら、製造例1で製造した本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物におけるビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体を、エアゾール組成物の樹脂成分として知られている、エチルセルロース(Antaron ECo ethylcellulose、Ashland社製)、(オクチルアクリルアミド/アクリル酸ヒドロキシプロピル/メタクリル酸ブチルアミノエチル)コポリマー(AMPHOMER、Nouryon社製)、ダイマージリノール酸ジイソステアリン酸ポリグリセリル-3、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル(SolAmaze、Nouryon社製)、ポリクオタニウム-51(LIPIDURE-PMB、日油社製)のいずれかに変更して製造したエアゾール組成物について、上記の5つの項目を調べたところ、いずれのエアゾール組成物も、少なくとも1つの項目において実用上問題となる現象が認められ、安定性に劣ることがわかった。
【0069】
製造参考例2:銅とアルミニウムがドープされた非多孔質シリカの製造
シリカ原料としてのケイ酸ナトリウム(メタ珪酸ソーダ(9水塩):日本化学工業社製、SiO2/Na2O=0.9~1.1(メーカー値))を溶媒としての水に溶解した溶液(a)と、銅を非多孔質シリカにドープするための原料としての塩化銅とアルミニウムを非多孔質シリカにドープするための原料としての塩化アルミニウムを溶媒としての水に溶解した溶液(b)を、それぞれ調製した。溶液(a)と溶液(b)を室温で混合し、5分間攪拌した後、さらに攪拌しながら塩酸を30分間かけて滴下した(塩酸滴下の開始時点のpHは14で完了時点のpHは9)。約30分後、生成した沈殿物を吸引濾過し、濾取した沈殿物を十分に水洗してから(洗浄液の電気伝導度が1000μSを下回るまで)、80℃で一晩乾燥した。回収したフィルタケーキを、ミキサーで粗粉砕した後、570℃で5時間焼成することで、目的とする銅とアルミニウムがドープされた非多孔質シリカをごくわずかに青みがかった白色粉末として得た。
【0070】
なお、銅を非多孔質シリカにドープするための原料としての塩化銅、アルミニウムを非多孔質シリカにドープするための原料としての塩化アルミニウム、溶媒としての水のそれぞれの使用量は、シリカ原料としてのケイ酸ナトリウム1molに対し、以下の通りとした。
塩化銅:0.0201mol
塩化アルミニウム:0.0475mol
溶液(a)調製用の水:48.6mol
溶液(b)調製用の水:90.2mol
また、塩酸は、シリカ原料としてのケイ酸ナトリウム1molに対し、1.59mol用いた。
【0071】
以上の方法で得た銅とアルミニウムがドープされた非多孔質シリカは、BET比表面積が18.8m2/gであった。また、銅とアルミニウムがドープされた非多孔質シリカ中の銅の含量は1.43wt%であり、アルミニウムの含量は2.03wt%であった。非多孔質シリカに銅とアルミニウムがドープされていることは、X線光電子分光装置と透過型電子顕微鏡で確認した。
【0072】
製造例10:本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物の製造(その10)
製造参考例1で得た銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカのかわりに、製造参考例2で得た銅とアルミニウムがドープされた非多孔質シリカを用いること以外は製造例1と同様にして、メディアン径が約0.5μmの銅とアルミニウムがドープされた非多孔質シリカの含量が5wt%、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体の含量が5wt%、エタノールの含量が90wt%の塗料組成物を得た。得られた塗料組成物とエタノールを重量比1:4で混合し、銅とアルミニウムがドープされた非多孔質シリカの含量が1wt%、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体の含量が1wt%、エタノールの含量が98wt%の原液を得た。得られた原液と、噴射剤としての液化石油ガスを、重量比6:4でエアゾール缶に充填し、銅とアルミニウムがドープされた非多孔質シリカの含量が0.6wt%、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体の含量が0.6wt%、エタノールの含量が58.8wt%、液化石油ガスの含量が40.0wt%の本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物を得た。この本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物は、製造例1で製造した本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物と同等の噴射付着性や安定性を有するものであった。また、この本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物から形成された塗膜は、製造例1で製造した本発明の抗ウイルス性エアゾール組成物から形成された塗膜と同等の抗ウイルス作用や耐久性を有するものであった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、銅がドープされたシリカが優れた抗ウイルス性を発揮し、かつ、物品の表面に強固に保持される塗膜を形成することができる、高い安定性を有し、ノズル詰まりなどを引き起こすことなくエアゾール塗布することが可能な抗ウイルス性エアゾール組成物、当該抗ウイルス性エアゾール組成物から形成された塗膜、および、当該塗膜を有する物品を提供することができる点において、産業上の利用可能性を有する。