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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-10
(45)【発行日】2024-01-18
(54)【発明の名称】自動車運搬船
(51)【国際特許分類】
   B63B 1/06 20060101AFI20240111BHJP
   B63B 25/00 20060101ALI20240111BHJP
   B63B 3/58 20060101ALI20240111BHJP
【FI】
B63B1/06 Z
B63B25/00 102Z
B63B3/58
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022188868
(22)【出願日】2022-11-28
【審査請求日】2022-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000146814
【氏名又は名称】株式会社新来島どっく
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】服部 潔
(72)【発明者】
【氏名】樫山 優子
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-170887(JP,A)
【文献】特開2016-155401(JP,A)
【文献】特開2010-076490(JP,A)
【文献】特開2021-008271(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 1/06
B63B 25/00
B63B 3/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車運搬船の船首部であって、船体の幅が狭い下方部分と船体の幅が広く船側外板が垂直に立ち上った上方部分との間で前記船側外板が斜めに傾斜した中間部分において、
船倉内のデッキと前記船側外板との間に、複数枚の板材を組合せて組板構造体に構成した補強用筐体設置されており、
前記補強用筐体の外端縁は、斜めに傾斜した前記船側外板に接合されている
ことを特徴とする自動車運搬船。
【請求項2】
前記補強用筐体は、
前記船倉内のデッキに接する側で立設される奥板と、
該奥板から船側外板に向けて延びる複数枚の仕切板と、前記奥板の上縁と前記複数枚の仕切板の上縁に接合された天板とから構成された組板構造体である
ことを特徴とする請求項1記載の自動車運搬船。
【請求項3】
前記補強用筐体において、隣接する2枚の仕切板の間には船長方向に延びる補強板が取付けられ、該補強板は前記船側外板の裏面に接合されている
ことを特徴とする請求項2記載の自動車運搬船。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車運搬船に関する。さらに詳しくは、本発明は船首部構造を改良した自動車運搬船に関する。
【背景技術】
【0002】
今日の自動車運搬船には、高速航行性と自動車積載量が大きくとれることが要望されている。
特許文献1に示す従来の自動車運搬船Sでは、図5(A)に示すように、高速化のため船首部の下方部分Bfは細くし、積載量を増すため船首部の上下方向中間部Bmで斜め方向に幅を広げ、上方部分Buでは垂直に立ち上る形状となっている。
しかるに、自動車運搬船Sの航行時には、図5(B)に示すように船首部において外側に向け斜めに延びる船側外板には、高い波浪衝撃圧力Pが加わり、その最大圧力Pmaxは100t/mを超えることがある。
【0003】
ところで、自動車運搬船Sにおけるデッキから船側に至る部分は、図6(A)に示すように、複数段(図では2段)の中間デッキDm1,Dm2が配置されており、各中間デッキDm1,Dm2の上面は自動車積載スペースとなっている。そして、船側に沿って船長方向に間隔をあけて多数本のウェブフレーム1を配置し、ウェブフレーム1自体は斜め上下方向に延びるように取付けられている。また、同図(B)に示すように、サイドストリンガー2が船長方向に延びており、複数本のウェブフレーム1がサイドストリンガー2を支持している。なお、サイドストリンガー2が外板助骨4も支持している。ウェブフレーム1は船体強度を確保する強度部材であるため、大形の部材が用いられている。
船側外板3は複数本のウェブフレーム1の外端面に接合されている。
【0004】
上記のような船体構造をもつ自動車運搬船において、航行速度をさらに高めようとすれば、図7に示すように、船側外板3の斜め傾斜部における水平線に対する傾斜角θ(たとえば、40°)をより小さな傾斜角θ′(たとえば、30°)とすればよい。水平線に対する傾斜角θ′を小さくした場合の船側外板を想像線と符号3′で示す。こうすると、船体下部(図5のBf部分)の幅を小さくすることができ、航行時の波切り抵抗が小さくなる。
【0005】
しかしながら、上記のようにすると、船側外板3の内側を支えるウェブフレーム1′も水平線に対する角度が小さくなるよう傾斜して、ウェブフレーム1′の上方は船体の横方向外側に位置するものの下方は横方向内側に位置するようになる。すると、結果としてウェブフレーム1′の端末が船倉の内側に突出するようになり(図7の符号1aの部分)、かえって船倉内スペースが狭くなる。この場合、自動車の積載台数が減少するという問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-76490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑み、高速航行が可能でありながら、自動車積載量の増加が可能な自動車運搬船を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明の自動車運搬船は、自動車運搬船の船首部であって、船体の幅が狭い下方部分と船体の幅が広く船側外板が垂直に立ち上った上方部分との間で前記船側外板が斜めに傾斜した中間部分において、船倉内のデッキと前記船側外板との間に、複数枚の板材を組合せて組板構造体に構成した補強用筐体設置されており、前記補強用筐体の外端縁は、斜めに傾斜した前記船側外板に接合されていることを特徴とする。
第2発明の自動車運搬船は、第1発明において、前記補強用筐体は、前記船倉内のデッキに接する側で立設される奥板と、該奥板から船側外板に向けて延びる複数枚の仕切板と、前記奥板の上縁と前記複数枚の仕切板の上縁に接合された天板とから構成された組板構造体であることを特徴とする。
第3発明の自動車運搬船は、第2発明において、前記補強用筐体において、隣接する2枚の仕切板の間には船長方向に延びる補強板が取付けられ、該補強板は前記船側外板の裏面に接合されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
第1発明によれば、つぎの効果を奏する。
a)補強用筐体を用いて船側外板を水平線に対して傾斜させると、船幅を広げることができ、一方、そこから下方の船幅を細くして波切り抵抗を小さくできる。このため、高速航行性を確保でき、かつ船倉内スペースも広く確保できる。
b)補強用筐体で船側部分の強度が確保されているので、ウェブフレームは小形のものを設置でき、船倉内の積載貨物と干渉する不都合を回避できる。
第2発明によれば、奥板と複数枚の仕切板と天板とで互いに強固に結合するので、外力に対し抵抗力の高い高剛性構造にできる。よって、軽量でありながら船側部分の剛性を高くできる。
第3発明によれば、補強板を船側外板の裏面に接合するので、船側外板の各補強用筐体における縦横比を小さくでき、船側外板の板厚を小さくしても船側部分の強度を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る補強用筐体10を設置した自動車運搬船Sにおける船側部の断面図である。
図2図1に示す補強用筐体10の斜視図である。
図3】補強用筐体10の利点の説明図である。
図4】(A)図は自動車運搬船Sの概略側面図、(B)図は自動車運搬船Sの船首部SBの拡大側面図である。
図5】(A)図は自動車運搬船Sの船首部SBの断面形状を示す説明図、(B)図は船首部SBにおける波浪衝撃波の説明図である。
図6】(A)図は船首部におけるウェブフレーム1がある船側部分の断面図、(B)図はウェブフレームが無い船側部分の断面図である。
図7】船側外板3およびウェブフレーム1の水平面に対する傾斜角θをより小さい傾斜角θ′にした場合の問題点の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
図4の(A)図は自動車運搬船Sの全体側面を示しており、符号SBは船首部を示している。図4の(B)図は船首部側面の拡大図であり、Bfは船体の下方部分、Bmは中間部分、Buは上方部分を示している。本発明の補強用筐体10は船首部SBの中間部分Bmにおける太線ハッチングを施した部分に適用される。
【0012】
図4に示す自動車運搬船Sでは、船体の下方部分Bfは幅を非常に狭くして波切り抵抗の小さい形状に作られている。中間部分Bmは船側外板が斜めに傾斜した部分で、船体の内側には自動車の積載スペースが設けられている。上方部分Buは船側外板が垂直に立ち上っている部分で、船体の内側は幅の非常に広い自動車の積載スペースとなっている。
【0013】
図4(B)で太線ハッチングを付した部分が、本発明に係る補強用筐体10が設けられる部分であり、この補強用筐体10が設けられるのは船首部における高さ方向の中間部分Bmである。つまり、船首において船側外板が斜めに傾斜した部分である。さらに付言すれば、図5(A)、(B)に示す波浪衝撃圧のかかる部分である。図4(B)におけるI-I線断面では、補強用筐体10を1段だけ設けているが、船長方向の前側と後側には補強用筐体10を2段設けている。補強用筐体10を設ける段数は上下のデッキ間高さにより合わせて選択され、1段設ける場合のほか、2段以上設けることもある。
【0014】
図1および図2に基づき補強用筐体10を説明する。
補強用筐体10は奥板12と複数枚の仕切板13と天板14と補強板15とからなる組板構造体である。奥板12は船長方向に延び、かつデッキDm1に接して立設される板である。
仕切板13は奥板12から船側外方に向け延びる板であり、船長方向からみると略三角形の板である。
天板14は奥板12と複数枚の仕切板13の上面に貼り渡される板である。天板14は、図1の例ではデッキDm1と同じ上下高さに設けられているが、デッキDm1より高い位置や低い位置に設けることもできる。
この補強用筐体10は複数枚の板材が組合わされた組板構造体であるので、剛性が非常に高く、しかも軽量という特徴がある。
【0015】
図2に示す補強用筐体10の構造は一例であって、この構造に限られない。したがって、奥板12、仕切板13および天板14を組合せた形状は任意に採用できる。奥板12や仕切板13には作業員が工事のために出入りする孔を開けるものもあるが、なくてもよい。
【0016】
補強用筐体10の仕切板13は、船長方向に適当な間隔をあけて複数枚が設置される。また、各仕切板13,13の間には補強板15が連結されている。補強板15の枚数は任意であるが、図2の例では、1枚のものと3枚のものが示されている。
補強用筐体10は、図1に示すように1段のみ設けてもよいが、必要に応じ2段や3段と積み重ねてもよい。
【0017】
図1に示すように、仕切板13の外端縁および天板14の外端面には船側外板3が接合される(なお、図2では船側外板3を省略して補強用筐体10の内部を見せている)。船側外板3は、補強用筐体10の外端に接合されるものも、補強用筐体10の上側や下側に用いられるものと同様の鋼板である。
【0018】
既述のごとく補強用筐体10の内部には、補強板15が取付けられているが、この補強板15を設ける利点を図3に基づき説明する。
図3は補強用筐体10の1組を示しており、その外端面に接合される船側外板3を想像線(2点鎖線)で示している。
船側外板3のうち、1組の補強用筐体10の外端面で囲まれた部分に符号3Pを付し、仮名称として外板パネル3Pという。
【0019】
図示の補強板15の外端縁は、外板パネル3Pの背面に上下方向中間部において、溶接等で接合されている。外板パネル3Pの板厚計算は縦hと横wの寸法で求められるところ、外板パネル3Pの上下寸法hは仕切板13の外端面の上下方向の長さに依存して定められる。この場合、外板パネル3Pの上下寸法hは大きいので、外板パネル3P(つまり船側外板3)は板厚の大きいものを用いざるをえない。しかし、補強板15の外端縁が外板パネル3Pの上下方向中間部に接合されていると、外板パネル3Pの上下寸法は約半分のh/2で板厚計算することができる。
【0020】
なお、上記は補強板15を1枚用いた例であるが、2枚以上用いると、より縦横比を小さくすることができる。
このようにして、本実施形態では船側外板3の各補強用筐体10における縦横比を小さくできるので、外板パネル3Pの厚板を小さくしても船側部分の強度を確保でき、同時に軽量化できることになる。
【0021】
以上のように、補強用筐体10を介して船側外板3を取付けると、船側部分の強度が充分に確保できるので、図1に示すように、ウェブフレームには、補強用筐体10の奥板12から下方のデッキDm2に至るまでの小さく短いウェブフレーム1sを用いることができる。この場合、船倉内の自動車積載スペースに干渉することはない。
【0022】
したがって、船側外板3を水平線に対して小さくなるように傾斜させた(たとえば、30°位に)としても、自動車運搬船Sの積載スペースが犠牲になることはない。また、船体下部Bfの幅を狭くして、波切り抵抗を小さくして高速航行を可能にすることができる。
【0023】
(他の実施形態)
図4(B)に示すBf,BmおよびBuの高さ寸法は船長方向によってその範囲が変わるのであって、図示は一例としての例示である。したがって、本発明の適用は図示の例に限られない。
また、太線ハッチングの部分も例示であるので、これに限られず船体の構造に合わせて補強用筐体10の適用場所を任意に変更すればよい。
【符号の説明】
【0024】
S 自動車運搬船
SB 船首部
10 補強用筐体
12 奥板
13 仕切板
14 天板
15 補強板
【要約】
【課題】高速航行が可能で自動車積載量の増加が可能な自動車運搬船を提供する。
【解決手段】自動車運搬船Sの船首部SBにおいて、船倉内のデッキDm1と船側外板3との間に、複数枚の板材を組合せて構成した補強用筐体10を設置しており、補強用筐体10の外面が水平線に対して傾斜している。補強用筐体10は、船倉内のデッキDm1に接する側で立設される奥板12と、奥板12から船側外板3に向けて延びる複数枚の仕切板13と、奥板12の上縁と複数枚の仕切板13の上縁に接合された天板14とから構成された組板構造体である。補強用筐体10の外面は傾斜させて船幅を広げているので、そこから下方の船幅を細くして高速航行性を確保し、かつ船倉内スペースも広く確保できる。ウェブフレーム1は小形のものを採用できる。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7