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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-10
(45)【発行日】2024-01-18
(54)【発明の名称】弁装置
(51)【国際特許分類】
   F02M 37/00 20060101AFI20240111BHJP
   F16K 31/20 20060101ALI20240111BHJP
   F16K 31/24 20060101ALI20240111BHJP
【FI】
F02M37/00 301E
F16K31/20
F16K31/24 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022551131
(86)(22)【出願日】2021-04-14
(86)【国際出願番号】 JP2021015497
(87)【国際公開番号】W WO2022064745
(87)【国際公開日】2022-03-31
【審査請求日】2023-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2020160126
(32)【優先日】2020-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000124096
【氏名又は名称】株式会社パイオラックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】矢島 一樹
(72)【発明者】
【氏名】三原 健太
【審査官】鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-234159(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0210456(US,A1)
【文献】国際公開第2020/105541(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0060596(US,A1)
【文献】特開2001-248743(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 37/00
F16K 31/20-31/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
仕切壁を介して、下方に燃料タンク内に連通する弁室、上方に燃料タンク外に連通する通気室が設けられ、前記仕切壁に前記弁室と前記通気室とを連通する通気孔が設けられた、ハウジングと、
前記弁室内に昇降可能に収容され、前記通気孔を開閉するフロート弁とを有しており、
前記仕切壁の前記弁室側には、前記通気孔に連通する弁座が設けられており、
前記フロート弁は、ロアー部材と、該ロアー部材の上方に配置されて、前記ロアー部材に対して、第1抜け止め部を介して揺動可能に抜け止め保持されるアッパー部材と、前記アッパー部材に対して、第2抜け止め部を介して所定距離移動可能に抜け止め保持されると共に、前記弁座に接離して前記通気孔を開閉する、弾性を有する弾性シール部材とを有しており、
前記ロアー部材は、前記アッパー部材を載置する載置面を設けた天井壁を有しており、
前記弾性シール部材は、前記弁座に接離するシール部を有しており、
前記第2抜け止め部は、前記シール部を挟んで、前記シール部の両側に配置されているか、又は、前記シール部を囲むように3個以上配置されており、
前記ロアー部材の前記天井壁からは、前記載置面よりも突出する、突出部が形成されていることを特徴とする弁装置。
【請求項2】
前記弾性シール部材は、前記アッパー部材に対して最大限移動しても、前記アッパー部材の外周から、はみ出ない形状をなしている請求項1記載の弁装置。
【請求項3】
前記アッパー部材は、前記ロアー部材と前記弾性シール部材との間に配置される板状部を有しており、この板状部の上方に、前記弾性シール部材が、前記第2抜け止め部を介して所定距離移動可能に保持されており、
前記アッパー部材を、前記フロート弁の軸方向から見たときに、前記板状部の外周は、厚さ方向の下方部分よりも厚さ方向の上方部分が大きくなるように形成されている請求項1又は2記載の弁装置。
【請求項4】
前記板状部の外周には、厚さ方向の下方部分から上方部分に向けて拡径する傾斜面が設けられている請求項3記載の弁装置。
【請求項5】
前記シール部の外側縁部には、同シール部を補強する補強リブが設けられている請求項1~4のいずれか1つに記載の弁装置。
【請求項6】
前記第2抜け止め部は、前記弾性シール部材に形成された抜け止め孔と、この抜け止め孔に挿入される抜け止めフックとからなり、
前記抜け止めフックは、前記抜け止め孔に遊嵌される軸部と、該軸部の上端から前記抜け止め孔の内周縁よりも張出す張出し部とを有する請求項1~5のいずれか1つの弁装置。
【請求項7】
更に前記ロアー部材には、前記フロート弁の軸方向から見たときに、前記天井壁の、前記載置面以外の部分に、前記ロアー部材の外方に向けて前記載置面よりも低くなるように傾斜する、傾斜面が形成されている請求項1~6のいずれか1つに記載の弁装置。
【請求項8】
前記アッパー部材が前記載置面に載置された状態で、前記突出部の、最も突出した突出端部は、前記アッパー部材の上面よりも突出している請求項1~7のいずれか1つに記載の弁装置。
【請求項9】
前記突出部の突出端面は、前記ロアー部材の外方に向けて傾斜する形状をなしている請求項1~8のいずれか1つに記載の弁装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の燃料タンクに取付けられ、燃料流出防止弁や満タン規制弁等として用いられる、弁装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車等の車両の燃料タンクには、車両が傾いたり横転したりしたときに、燃料タンク内の燃料が、燃料タンク外へ漏れるのを防止する弁装置が取付けられている。このような弁装置は、一般的に、通気孔を有する仕切壁を介して、上方に通気室、下方に弁室を設けたハウジングと、弁室内に昇降可能に配置されたフロート弁とを有する。また、フロート弁上方には、通気孔に対するシール性向上を目的として、ゴム等からなるシール部材が配置されている場合がある。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、仕切壁を有し上方に通気室、下方に弁室を設けたハウジングと、弁室内に昇降可能に配置されるフロート部材とを備えた、燃料タンク用弁装置が記載されている。前記フロート弁は、ロアー部材と、その上方において、ロアー部材に対して傾動可能に組付けられるアッパー部材とを有しており、更にアッパー部材の上方には、弾性材料からなるシール部材が装着されている。シール部材は、シールフランジと、その裏面中央から突設した軸部とからなり、該軸部を、アッパー部材の、天井部中央に形成した支持孔に挿入することで、アッパー部材上方にシール部材が装着されるようになっている。
【0004】
そして、燃料揺動によりフロート弁に浮力が生じると、フロート弁が上昇して、アッパー部材上方に装着されたシール部材のシールフランジが、仕切壁に形成した開口を閉塞する。この際、アッパー部材は、ロアー部材に傾動可能に装着されているため、ロアー部材が傾いた状態で上昇しても、仕切壁の開口に対するシールフランジのシール性が保持されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-74022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1の燃料タンク用弁装置の場合、シール部材中央の軸部が、アッパー部材中央の支持孔に挿入されて支持されているので、フロート弁が上昇して、仕切壁の開口の裏側周縁に、シールフランジの周縁部が当接すると共に、シールフランジ中央が押し上げられて、シールフランジがやや変形した状態で開口を閉塞することになる(特許文献1の図8参照)。
【0007】
そのため、燃料揺動が収まってフロート弁に浮力が作用しない状態となり、フロート弁が自重により下降しようとする際に、シールフランジが開口周縁部から剥がれにくくなる。この場合、タンク内圧が高い状態でも、開口周縁部からシールフランジを剥がしやすくして、開口を開くことができる性能、いわゆる再開弁圧を高くすることができない。
【0008】
したがって、本発明の目的は、通気孔に対するフロート弁によるシール性を確保しつつ、再開弁圧を高くすることができる、弁装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係る弁装置は、仕切壁を介して、下方に燃料タンク内に連通する弁室、上方に燃料タンク外に連通する通気室が設けられ、前記仕切壁に前記弁室と前記通気室とを連通する通気孔が設けられた、ハウジングと、前記弁室内に昇降可能に収容され、前記通気孔を開閉するフロート弁とを有しており、前記仕切壁の前記弁室側には、前記通気孔に連通する弁座が設けられており、前記フロート弁は、ロアー部材と、該ロアー部材の上方に配置されて、前記ロアー部材に対して、第1抜け止め部を介して揺動可能に抜け止め保持されるアッパー部材と、前記アッパー部材に対して、第2抜け止め部を介して所定距離移動可能に抜け止め保持されると共に、前記弁座に接離して前記通気孔を開閉する、弾性を有する弾性シール部材とを有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アッパー部材が、ロアー部材に対して揺動可能に抜け止め保持されているので、フロート弁が傾いた状態で上昇しても、弾性シール部材を、弁座に対して傾きなく当接させることでき、弁座に対する弾性シール部材のシール性を確保することができる。
【0011】
また、弾性シール部材が、アッパー部材に対して所定距離移動可能に抜け止め保持されているので、弾性シール部材が弁座に当接した後、フロート弁が下降する際に、弁座に貼り付いた弾性シール部材に対してアッパー部材が移動して、弾性シール部材にフロート弁の自重が作用して、弁座から弾性シール部材を引き剥がしやすくなり、フロート弁の再開弁圧を向上させることができる。
【0012】
その結果、フロート弁上昇時の、弁座に対する弾性シール部材のシール性を確保しつつ、フロート弁の再開弁圧を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る燃料タンク用弁装置の、第1実施形態を示す分解斜視図である。
図2】同弁装置において、フロート弁が下降して、通気孔が開口した状態の断面図である。
図3】同弁装置のフロート弁を構成するロアー部材の斜視図である。
図4】同フロート弁を構成するアッパー部材を示しており、(a)はその拡大斜視図、(b)は底面図である。
図5】同フロート弁を構成する弾性シール部材を示しており、(a)はその拡大斜視図、(b)は平面図である。
図6】同フロート弁の斜視図である。
図7】同フロート弁の正面図である。
図8図7に示す状態から、ロアー部材に対してアッパー部材が揺動した状態の説明図である。
図9】フロート弁において、ロアー部材に弾性シール部材を抜け止め保持した状態の平面図である。
図10図9のA-A矢示線における断面図である。
図11】同弁装置において、フロート弁が傾かずに上昇して、通気孔を閉じた状態の断面図である。
図12】同弁装置において、フロート弁が傾いて上昇して、通気孔を閉じた状態の断面図である。
図13】同弁装置において、フロート弁が通気孔を閉じた状態から、フロート弁が下降しようとする際の状態の断面図である。
図14図13に示す状態から、更にフロート弁が下降して、通気孔を開いた状態の断面図である。
図15】本発明に係る燃料タンク用弁装置の、第2実施形態を示しており、(A)はそのフロート弁を構成する弾性シール部材の斜視図、(B)は同弾性シール部材の正面図である。
図16】同フロート弁において、ロアー部材に弾性シール部材を抜け止め保持した状態の平面図である。
図17】本発明に係る燃料タンク用弁装置の、第3実施形態を示しており、そのフロート弁の斜視図である。
図18】本発明に係る燃料タンク用弁装置の、第4実施形態を示しており、そのフロート弁の斜視図である。
図19】本発明に係る燃料タンク用弁装置の、第5実施形態を示しており、そのフロート弁の斜視図である。
図20】同フロート弁を構成するロアー部材の斜視図である。
図21】同フロート弁を構成するロアー部材の平面図である。
図22】同フロート弁の側面図である。
図23】同フロート弁の要部拡大斜視図である。
図24】弁装置の吹き上がり度合いの確認試験を示しており、(A)は同試験方法の概略説明図、(B)はその試験結果であり、圧力と流量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(弁装置の第1実施形態)
以下、図1~14を参照して、本発明に係る弁装置の、第1実施形態について説明する。なお、以下の説明において、「燃料」とは、液体の燃料(燃料の飛沫も含む)を意味し、「燃料蒸気」とは、蒸発した燃料を意味するものとする。
【0015】
図1及び図2に示すように、この実施形態における弁装置10は、弁室V及び通気室Rを有するハウジング15と、弁室V内に昇降可能に配置されるフロート弁40とを有している。前記フロート弁40は、ロアー部材50と、該ロアー部材50の上方に配置されるアッパー部材60と、アッパー部材60に保持される弾性シール部材80とを有していいる。
【0016】
また、ハウジング15は、略筒状をなし、上方に仕切壁23を設けたハウジング本体20と、該ハウジング本体20の上方に装着される上部カバー30と、前記ハウジング本体20の下方に装着される下部キャップ35とを有している。
【0017】
前記ハウジング本体20は、略円筒状をなした周壁21を有しており、その上方には仕切壁23が配置されている。前記周壁21の上方には、複数の通口21a及び係止突部21bが形成されていると共に、下方には係止孔21cが形成されている。また、周壁21の上方側からは、フランジ部24が張出している。更に、仕切壁23の中央部には、丸孔状の通気孔25が形成されている。この通気孔25の裏側周縁部この仕切壁23の上面側であって、通気孔25よりも外側からは、筒状壁27が突設されており、その外周には、シールリング28が装着されるようになっている。
【0018】
一方、前記下部キャップ35は、複数の通口36を有していると共に、その外周に複数の係止爪37が形成されている。この下部キャップ35の各係止爪37を、ハウジング本体20の各係止孔21cに係止させることで、ハウジング本体20の下方に下部キャップ35が装着される。その結果、前記仕切壁23を介して、ハウジング下方に図示しない燃料タンク内に連通する弁室Vが形成される(図2参照)。
【0019】
上記弁室V内には、前記通気孔25を開閉するフロート弁40が、前記下部キャップ35との間で、コイルスプリングからなるフロート弁用付勢バネS(以下、単に「付勢バネS」ともいう)を介在させた状態で、昇降可能に収容配置されるようになっている。なお、このフロート弁40は、燃料浸漬時に自身の浮力及び付勢バネSの付勢力で上昇し、燃料の非浸漬時に自重で下降する。
【0020】
図1及び図2に示すように、前記上部カバー30は、所定高さで延びる周壁31と、その上方を閉塞する天井部32と、周壁31の延出方向途中から、環状に広がったフランジ部33とを有している。周壁31の所定箇所には、通気口31a(図2参照)が形成されており、この通気口31aの外周縁部から、略円筒状をなした燃料蒸気配管34が外方に向けて延設されている。この燃料蒸気配管34には、図示しない燃料タンクの外部に配置されるキャニスター等に連通する、図示しないチューブが接続される。また、図2に示すように、周壁31の下端面からは、ハウジング本体20の係止突部21bに係止する、枠状の係止片31bが垂設されている。
【0021】
そして、ハウジング本体20の筒状壁27の外周にシールリング28を装着した状態で、ハウジング本体20の上方から上部カバー30を被せて、上部カバー30の周壁31とハウジング本体20の筒状壁27とで、シールリング28を挟持する。それと共に、ハウジング本体20の係止突部21bに、上部カバー30の係止片31bを係止させることによって、ハウジング本体20に上部カバー30が取付けられる。その結果、仕切壁23を介して、その上方に燃料タンク外に連通する通気室Rが形成されるようになっている(図2参照)。
【0022】
ハウジング本体20の説明に戻ると、仕切壁23の弁室V側には、通気孔25に連通する弁座25bが設けられている。すなわち、図2に示すように、仕切壁23の中央部に形成された通気孔25の裏側(弁室V側)周縁から下方に向けて、通気孔25に連通した突出壁部25aが突出している。この突出壁部25aの下面側周縁部が、略十字枠状をなした弁座25bによって囲まれている。この弁座25bは、通気孔25に連通すると共に、弾性シール部材80が接離する。
【0023】
次に、前記フロート弁40をより具体的に説明する。
【0024】
フロート弁40を構成するロアー部材50は、所定長さで上下方向に延びる周壁51と、その上方に配置された天井壁53とを有し、下方が開口し上方が閉塞した略円筒状をなしている。
【0025】
前記周壁51の周方向に対向する2箇所には、天井壁53から周壁下方に向けて軸方向に延びる、一対のガイド溝51a,51aが形成されている。これらのガイド溝51a,51aには、ハウジング本体20の内周に設けられた図示しないガイド突条が挿入されて、フロート弁40の昇降ガイドをなす。また、周壁51の周方向には、放射状に延びる複数のガイドリブ51bが、軸方向に沿って延設されている。これらのガイドリブ51bは、ハウジング本体20の周壁21の内周に対向配置され、フロート弁40の昇降ガイドをなす。
【0026】
また、天井壁53の表面(「上面」とも言える。以下の説明においても同様)側中央からは、曲面状の外面を有する支持突部53aが突設されている。この支持突部53a上には、アッパー部材60の板状部61が載置され、同アッパー部材60を揺動可能に支持する。更に、天井壁53には、一対の通孔53bが上下方向に形成されており、ロアー部材50の内部空間と連通している。また、天井壁53の外周縁部は、一対のカット部55a,55aでカットされると共に、該一対のカット部55a,55aに直交する、もう一対のカット部55b,55bでカットされている。更に、周壁51の、前記一対のカット部55b,55bに整合する位置には、平坦面状にカットされた平坦面部55c,55cが形成されている。
【0027】
各平坦面部55cからは、上部外面にテーパ面57aを設けた抜け止め突部57が、それぞれ突設されている。図7に示すように、抜け止め突部57は、フロート弁40を正面方向から見たとき(フロート弁40を軸方向に対して直交する方向から見たとき)、一定の軸方向長さ(縦長さ)で且つ一定の周方向幅(横幅)で形成された略長方形状をなしている。この抜け止め突部57は、アッパー部材60に設けた後述する抜け止め孔75a内に、フロート弁40の軸方向Z(図6参照)に沿ってスライド可能で、且つ、フロート弁40の幅方向Y(図6参照)に沿って移動可能に挿入されるようになっている。
【0028】
上記抜け止め突部57が、ロアー部材50に対してアッパー部材60を揺動可能に抜け止め保持する、本発明における「第1抜け止め部」の一つをなしている。
【0029】
なお、ロアー部材の形状や構造としては、上記のような第1抜け止め部をなす部分があれば、上記態様に限定されるものはない。
【0030】
一方、前記アッパー部材60は、上記ロアー部材50の上方に配置されて、同ロアー部材50に対して、第1抜け止め部を介して揺動可能に抜け止め保持されるようになっている。
【0031】
この実施形態のアッパー部材60は、ロアー部材50と弾性シール部材80との間に配置され、所定厚さで形成された板状部61を有している。
【0032】
この板状部61は、中央部63と、該中央部63から外方に向けて延出した複数の延出部65とを有している。この実施形態の板状部61は、全体として略十字形状をなした弾性シール部材80を受け止め支持可能とすべく、同板状部61に適合する形状となっている。すなわち、この板状部61は、中央部63から、4つの延出部65が外方に向けて放射状に延出していると共に、周方向に隣接する延出部65,65どうしが互いに直交しており、全体として略十字形状をなしている。
【0033】
また、各延出部65は、中央部63に近接した基部65aが幅広で、中央部63から離反した先端部65bは、基部65aよりも幅狭に形成されている。更に、所定の延出部65の基部65aの一側縁と、該延出部65に対して周方向に隣接する延出部65の基部65aの一側縁との間には、切欠き部67が形成されている。すなわち、図18に示す第4実施形態におけるアッパー部材60Cの板状部61は、このような切欠き部67が形成されていないものの、この第1実施形態の板状部61には、その外周の一部を切欠いた切欠き部67が形成されている。この実施形態では、板状部61の中央部63の、周方向に均等な間隔で、4つの切欠き部67が形成されている。そのため、アッパー部材60の板状部61の外周形状は、略十字形状をなす弾性シール部材80の外周形状にほぼ適合する形状となっている。
【0034】
更に、板状部61の中央部63及び各延出部65の基部65a側であって、その表面側(弾性シール部材80側)には、下方に向けて曲面状に凹んだ凹部69が形成されている。具体的には、この凹部69は、各延出部65の基部65aの所定位置から、中央部63の中心に向けて次第に深くなるように、緩やかな曲面状をなした略すり鉢状をなしている。この凹部69は、弾性シール部材80の後述するシール部81が、弁座25bに当接して下向きに凸となるように撓み変形したときに、その撓み変形を許容する部分となっている(図11参照)。なお、板状部61としては、上記のような凹部69を設けずに、一定厚さの板状としてもよい。
【0035】
また、アッパー部材60の外周71は、次のような形状となっている。すなわち、図4(B)に示すように、アッパー部材60を、フロート弁40の軸方向から見たときに、板状部61の外周71は、厚さ方向の下方部分71aよりも厚さ方向の上方部分71bの方が大きくなるように形成されている。なお、板状部61の厚さ方向の下方部分71aとは、ロアー部材50側に向く部分を意味し、板状部61の厚さ方向の上方とは、弾性シール部材80側に向く部分を意味する。また、図10に示すように、板状部61の外周71には、厚さ方向の下方部分71aから上方部分71bに向けて拡径する傾斜面73が設けられている。
【0036】
この実施形態における板状部61の外周71は、厚さ方向下方から上方に向けて、次第に拡径するように広がる、緩やかな曲面状をなした傾斜面73を有している。その結果、アッパー部材60を軸方向から見たときに、板状部61の外周71は、厚さ方向の下方部分71aよりも上方部分71bが次第に大きく広がる形状をなしている(図4(B)参照)。なお、板状部61の外周71は、傾斜面73ではなく、段差状の面を有していてもよく、下方部分71aよりも上方部分71bが大きな形状であればよい。
【0037】
また、板状部61には、中央部63を挟んで対向して配置された一対の延出部65,65であって、その先端部65b,65bの最先端裏側(ロアー部材50側)からは、抜け止め片75,75が垂設されている。各抜け止め片75には、フロート弁40の軸方向に沿って延びる長孔状をなした抜け止め孔75aが形成されている。図7に示すように、この抜け止め孔75aは、フロート弁40を正面方向から見たとき、一定の軸方向長さ(縦長さ)で且つ一定の周方向幅(横幅)で形成された略長方形状をなしている。また、この抜け止め孔75aは、ロアー部材50側に設けた抜け止め突部57の軸方向長さよりも長く、且つ、同抜け止め突部57の周方向幅よりも幅広に形成されている。
【0038】
そして、図6に示すように、各抜け止め片75の抜け止め孔75aに、各抜け止め突部57が内側から挿入されることで、ロアー部材50に対して、アッパー部材60が揺動可能に抜け止め保持されるようになっている。
【0039】
また、図7に示すように、抜け止め突部57が抜け止め孔75aに挿入された状態では、抜け止め孔75aの幅方向両側と、抜け止め突部57の幅方向両側との間に、所定の隙間が形成されていると共に、抜け止め孔75aの軸方向両端と、抜け止め突部57の軸方向両端との間にも、所定の隙間が形成されるようになっている。
【0040】
したがって、図6に示す符号X,Y,Zに示すように、アッパー部材60は、ロアー部材50に対して、第1抜け止め部を介して、フロート弁40の径方向X(図6参照)に直交する幅方向Yに沿って所定距離移動可能で、且つ、フロート弁40の軸方向Zに沿って所定距離移動可能となり、更に図8に示すように、アッパー部材60はロアー部材50に対して揺動可能となっている。
【0041】
また、アッパー部材60がロアー部材50に対して、(1)軸方向Zに沿って最大限移動した場合には、抜け止め突部57が抜け止め孔75aの長手方向両端の内面に係止し、(2)幅方向Yに沿って最大限移動した場合には、抜け止め突部57が抜け止め孔75aの幅方向両側の内面に係止するため、ロアー部材50にアッパー部材60が抜け止め保持される。
【0042】
すなわち、この実施形態においては、ロアー部材50側の抜け止め突部57と、アッパー部材60側の抜け止め片75の抜け止め孔75aとが、本発明における「第1抜け止め部」をなしている。
【0043】
また、抜け止め片75を設けた一対の延出部65,65の、先端部65b,65bの表側(弾性シール部材80側)からは、弾性シール部材80の抜け止め孔85(図5(A)参照)に挿入される、抜け止めフック77,77が突設されている。
【0044】
各抜け止めフック77は、抜け止め孔85に遊嵌される軸部77aと、この軸部77aの上端から、抜け止め孔85の内周縁よりも張出す張出し部77bとを有している。図4(A)に示すように、軸部77aは四角柱状をなしている。また、軸部77aは、抜け止め孔85の軸方向長さよりも短く、かつ、抜け止め孔85の、軸方向に直交する幅よりも幅狭に形成されており、抜け止め孔85内で遊嵌するようになっている。すなわち、この軸部77aは、弾性シール部材80の抜け止め孔85内において、フロート弁40の径方向X(図6参照)に沿って移動可能で、且つ、フロート弁40の幅方向Yに沿って移動可能に挿入されるようになっている。
【0045】
更に、張出し部77bは、軸部77aの上端から、延出部65の先端部65bの最先端に向けて張出しており(図4(B)参照)、同先端部65bの最先端よりもやや外方に突出する位置まで張出している(図9参照)。なお、この実施形態の張出し部77bは、抜け止め孔85の、外径側の内周縁よりも外方に張出すようになっている(図9参照)。また、図7に示すように、延出部65と張出し部77bとの間には、弾性シール部材80の厚さよりも大きな隙間が形成されている。
【0046】
なお、アッパー部材の形状や構造としては、ロアー部材に対して第1抜け止め部を介して揺動可能に抜け止め保持され、かつ、弾性シール部材を第2抜け止め部を介して揺動可能に抜け止め保持可能であれば、上記態様に限定されるものではない。
【0047】
また、上記の「第1抜け止め部」としては、例えば、ロアー部材側に、抜け止め孔を有する抜け止め片を設け、アッパー部材側に、抜け止め孔に挿入されると共に、同抜け止め孔内で周方向移動及び軸方向移動可能な抜け止め突部を設けたりしてもよく、ロアー部材に対して、アッパー部材が揺動可能に抜け止め保持可能であれば、特に限定はされない。
【0048】
次に、上記のアッパー部材60の上方に配置されて、同アッパー部材60に対して、第2抜け止め部を介して所定距離移動可能に抜け止め保持されると共に、弁座25bに接離して通気孔25を開閉する、弾性を有する弾性シール部材80について説明する。
【0049】
図5に示すように、この実施形態の弾性シール部材80は、前記弁座25bに接離するシール部81を有している。このシール部81は、中央部81aと、該中央部81aから外方に向けて延出した複数の側部81bとを有している。この実施形態のシール部81は、略十字枠状をなした弁座25bに対応して、中央部81aから、4つの側部81bが外方に向けて放射状に延出していると共に、周方向に隣接する側部81b,81bどうしは互いに直交しており、シール部81は略十字形状をなしている。また、周方向に隣接する側部81b,81b間の隅部には、丸みを帯びたR状部81cが形成されている。
【0050】
更に、シール部81の各側部81bからは、延出部83が外方に向けてそれぞれ延出している。すなわち、シール部81に対して放射状に延出した4つの延出部83を有していると共に、周方向に隣接する延出部83,83どうしは互いに直交しており、その結果、弾性シール部材80は全体として略十字形状となっている。なお、シール部81と各延出部83とは面一となっている(シール部81の面と各延出部83の面とが、同一の平面上に存在する)。
【0051】
各延出部83には、その延出方向に沿って長く延びる、略長孔状をなした抜け止め孔85がそれぞれ形成されている。各抜け止め孔85は、長手方向両端部が丸みを帯びた形状となっている。また、各抜け止め孔85には、アッパー部材60に設けた抜け止めフック77の軸部77aが遊嵌可能に挿入されるようになっている。
【0052】
また、図5(B)及び図9に示すように、各抜け止め孔85は、その軸方向長さが、前記軸部77aの軸方向長さよりも長く、かつ、軸方向に直交する幅が、前記軸部77aの幅よりも幅広に形成されている。
【0053】
そして、図6図9に示すように、各抜け止め孔85に、各抜け止めフック77の軸部77aを挿入して、その張出し部77bを、各抜け止め孔85の表側周縁にそれぞれ位置させることで、アッパー部材60に対して、弾性シール部材80が所定距離移動可能に抜け止め保持されるようになっている。
【0054】
また、図9に示すように、抜け止め孔85内に軸部77aが挿入された状態では、抜け止め孔85の軸方向両端と、軸部77aの軸方向両端との間に、所定の隙間が形成されると共に、抜け止め孔85の幅方向両側と、軸部77aの幅方向両側との間にも、所定の隙間が形成されるようになっている。更に図7に示すように、延出部83は、アッパー部材60の延出部65と張出し部77bとの間の隙間に、配置されるようになっている。
【0055】
したがって、図6に示す符号X,Y,Zに示すように、弾性シール部材80は、アッパー部材60に対して、第2抜け止め部を介して、フロート弁40の径方向Xに沿って所定距離移動可能で、且つ、フロート弁40の幅方向Yに沿って所定距離移動可能で、更に、フロート弁40の軸方向Zに沿って所定距離移動可能となっている。
【0056】
また、弾性シール部材80がアッパー部材60に対して、(1)径方向Xに沿って最大限移動した場合には、軸部77aが抜け止め孔85の軸方向両端の内面に係止し、(2)幅方向Yに沿って最大限移動した場合には、軸部77aが抜け止め孔85の幅方向の両側の内面に係止し、(3)軸方向Zに最大限移動した場合には、張出し部77bが抜け止め孔85の表側周縁に係止するため、アッパー部材60に弾性シール部材80が抜け止め保持される。
【0057】
すなわち、この実施形態においては、アッパー部材60側の抜け止めフック77と、弾性シール部材80側の抜け止め孔85とが、本発明における「第2抜け止め部」をなしている。
【0058】
また、図5(B)に示すように、第2抜け止め部をなす、弾性シール部材80抜け止め孔85は、シール部81を囲むように4個配置されたものとなっている。
【0059】
更に、弾性シール部材80は、アッパー部材60に対して最大限移動しても、アッパー部材60の外周から、はみ出ない形状をなしている。
【0060】
この実施形態における弾性シール部材80は、アッパー部材60の略十字形状をなした板状部61の形状に適合する略十字形状をなしており、アッパー部材60の板状部61の全周に対して、弾性シール部材80の全周が一回り小さな、相似形状となっている。
【0061】
すなわち、図9に示すように、アッパー部材60及び弾性シール部材80を平面方向から見たときに、弾性シール部材80のシール部81の外周が、アッパー部材60の板状部61の外周よりも内側に位置するように形成されると共に、弾性シール部材80の各延出部83の外周が、アッパー部材60の各延出部65の外周よりも内側に位置するように形成されている。
【0062】
その結果、図9に示すように、アッパー部材60及び弾性シール部材80を平面方向から見たときに、弾性シール部材80の面積が、アッパー部材60の板状部61の面積よりも小さくなるように形成されている。
【0063】
そして、図9の想像線で示すように、弾性シール部材80が、アッパー部材60に対して、フロート弁40の幅方向Yに沿って最大限移動した場合(図9中の左右方向の想像線参照)や、フロート弁40の径方向Xに沿って最大限移動した場合(図9中の上下方向の想像線参照)であっても、弾性シール部材80は、アッパー部材60の板状部61の外周から、はみ出ないようになっている。なお、弾性シール部材80の、アッパー部材60に対する移動規制は、上述した第2抜け止め部をなす、抜け止めフック77の軸部77aと、抜け止め孔85とによってなされる。
【0064】
また、前記シール部81の外側縁部には、同シール部81を補強する、補強リブ87が設けられている。
【0065】
図5(A)に示すように、この実施形態では、所定の側部81bの外側縁部と、該側部81bに対して周方向に隣接する、他の側部81bの外側縁部と、それらの側部81b,81b間に設けたR状部81cの外側縁部とに亘って、略L字状のビード形状をなした補強リブ87が、シール部81の表側及び裏側に向けて立設されている。
【0066】
また、補強リブ87の立設方向は、板状をなした弾性シール部材80の面方向に垂直となっている。更に、補強リブ87は、弾性シール部材80の全周を囲まずに、その延出方向両端が開放端となっている。なお、この実施形態では、略十字形状をなしたシール部81の4つの隅部に、補強リブ87が設けられている。
【0067】
そして、図7に示すように、上記の補強リブ87を設けたことで、アッパー部材60の上方に弾性シール部材80を配置したときに、アッパー部材60の上面(弾性シール部材80側に向く面)に、補強リブ87の下端部のみが当接し、アッパー部材60の上面に対して、弾性シール部材80が、補強リブ87の下端部を除いて、浮き上がった状態となる。
【0068】
なお、上記構成をなした弾性シール部材80は、シール部81や、複数の延出部83、補強リブ87等の全ての部分が、ゴムや弾性エラストマー等の弾性材料から、一体形成されている。
【0069】
また、この実施形態では、図5(B)に示すように、第2抜け止め部をなす、抜け止め孔85は、シール部81を囲むように4個配置されたものとなっているが、この態様に限定されるものではない。例えば、弾性シール部材を、シール部を中心として、その外周から放射状に3つの延出部が延びるような形状とし、各延出部に抜け止め孔を設けてもよい。この場合、シール部を囲むように、3個の抜け止め部が配置されることになる。また、弾性シール部材を、シール部両側から一対の延出部が延びる長板形状として、各延出部に抜け止め孔を設けてもよい。この場合、抜け止め部は、シール部を挟んで、その両側に配置されることになる。なお、抜け止め部は、シール部を囲むように3個以上設けることができ、例えば、5個や6個設けてもよい。
【0070】
また、弾性シール部材の形状や構造としては、アッパー部材に対して第2抜け止め部を介して揺動可能に抜け止め保持され、かつ、弁座に接離可能であれば、上記態様に限定されるものではない。更に、弾性シール部材のシール部としては、例えば、シール部を、円板状や、楕円状、小判形状、或いは、四角形や、五角形、六角形等の角形状としたりしてもよく、弁座に接離可能であればよい。
【0071】
更に、上記の「第2抜け止め部」自体の形状や構造は、上述した、抜け止めフックや抜け止め孔以外であってもよく、アッパー部材に対して、弾性シール部材を所定距離移動可能に抜け止め保持できれば、特に限定はされない。
【0072】
(作用効果)
次に、上記構成からなる本発明に係る弁装置10の作用効果について説明する。
【0073】
図2に示すように、燃料タンク内の燃料液面が上昇せず、フロート弁40が燃料に浸漬されていない状態では、弁室V内においてフロート弁40が下降して、弾性シール部材80のシール部81が弁座25bから離反し、通気孔25が開いて、同通気孔25を通じて、弁室Vと通気室Rとが連通した状態となっている。この状態で車両の走行等によって、燃料タンク内での燃料蒸気が増大してタンク内圧が高まると、燃料蒸気は、下部キャップ35の通口36や、ハウジング本体20の通口21aから、弁室V内に流入し、仕切壁23に形成した通気孔25を通過して、通気室R内へと流れて、燃料蒸気配管34を介して図示しないキャニスターに送られて、燃料タンク内の圧力上昇が抑制される。
【0074】
そして、車両が、カーブを曲がったり、凹凸のある道や坂道等を走行したり、或いは、事故によって転倒したりして、燃料タンク内の燃料が激しく揺動して燃料液面が上昇して、フロート弁40が燃料に浸漬した状態となると、フロート弁40自体の浮力によって、フロート弁40が上昇する。その結果、図11に示すように、弾性シール部材80のシール部81が、弁座25bに当接して通気孔25を閉塞する。ここでは、略十字枠状に突出した弁座25bに対応して、略十字形状をなしたシール部81が下向きに凸となるように撓み変形しつつ、その表面側が弁座25bに当接して、通気孔25を閉塞する。それと共に、下向きに凸となるように撓み変形したシール部81の裏面側が、アッパー部材60の板状部61の凹部69の表面に密接する。
【0075】
上記の図11に示す場合は、フロート弁40が、ハウジング15の軸方向に対して傾かずに真っすぐに上昇した場合であるが、図12に示すように、フロート弁40が、ハウジング15の軸方向に対して傾いて上昇する場合もある。
【0076】
このとき、アッパー部材60はロアー部材50に対して揺動可能となっているので(図8参照)、フロート弁40が傾いて上昇して、アッパー部材上方の、弾性シール部材80のシール部81が、傾いた状態で弁座25bに当接すると、この弁座25bによってシール部81が押圧されて、更にシール部81が、アッパー部材60の凹部69に当接して押圧することで、ロアー部材50に対してアッパー部材60が適宜揺動する。その結果、図12に示すように、弾性シール部材80のシール部81の傾きが是正されるので、シール部81を弁座25bに対して傾きなく当接させることができ、弁座25bに対するシール部81のシール性を確保することができる。
【0077】
上記状態で、燃料の揺動等が収まって、フロート弁40に燃料からの浮力が作用しなくなるか、又は、燃料タンク内の圧力が下がると、フロート弁40が自重によって下降する。すると、図13に示すように、弁座25bに当接して貼り付いたシール部81に対して、ロアー部材50が所定距離だけ下降して、アッパー部材60の抜け止め片75の抜け止め孔75a内を、ロアー部材50の抜け止め突部57が下降して、同抜け止め突部57が、抜け止め孔75aの下端内面に係止する。
【0078】
その結果、アッパー部材60に、ロアー部材50の荷重が作用して、弾性シール部材80の抜け止め孔85内を、アッパー部材60の抜け止めフック77の軸部77aが下降して、抜け止め孔85の表側周縁に、抜け止めフック77の張出し部77bが係止する。それにより、弾性シール部材80の延出部83に、アッパー部材60を介して、ロアー部材50の荷重が作用する(延出部83に、ロアー部材50及びアッパー部材60の荷重が作用する)。
【0079】
すると、弾性シール部材80の延出部83が、斜め下方に向けて引張られるように弾性変形して、同延出部83が、フロート弁40の軸方向Z及び径方向Xに沿って移動する。その結果、図13に示すように、延出部83に連設した、シール部81の側部81bが、その基端側から弁座25bに対して徐々に離れていった後、図14に示すように、シール部81の中央部81aが弁座25bから引き剥がされるので、通気孔25を完全に開くことができる。その結果、フロート弁40の、再開弁圧を向上させることができる。なお、「再開弁圧を向上させる」とは、タンク内圧が高い状態でも、弁座からフロート弁を剥がしやすくして、通気孔を開口させることができる性能を意味している。また、シール部81が弁座25bから引き剥がされるのに伴って、フロート弁40全体が下降する。
【0080】
以上のように、この弁装置10においては、アッパー部材60が、ロアー部材50に対して揺動可能に抜け止め保持されているので、フロート弁40が傾いた状態で上昇しても、弾性シール部材80を、弁座25bに対して傾きなく当接させることでき(図12参照)、弁座25bに対する弾性シール部材80のシール性を確保することができる。
【0081】
また、弾性シール部材80が、アッパー部材60に対して所定距離移動可能に抜け止め保持されているので、弾性シール部材80が弁座25bに当接した後、フロート弁40が下降する際に、弁座25bに貼り付いた弾性シール部材80に対して、アッパー部材60が移動して、弾性シール部材80にフロート弁40の自重が作用して、弁座25bから弾性シール部材80を引き剥がしやすくなり(図13及び図14参照)、フロート弁40の再開弁圧を向上させることができる。
【0082】
その結果、フロート弁40の上昇時の、弁座25bに対する弾性シール部材80のシール性を確保しつつ、フロート弁40の再開弁圧を向上させることができる。
【0083】
また、この実施形態においては、図9に示すように、弾性シール部材80は、アッパー部材60に対して最大限移動しても、アッパー部材60の外周から、はみ出ない形状をなしている。
【0084】
そのため、車両の走行等によって、燃料タンク内の圧力が上昇して、燃料蒸気等の気体が弁室V内に流入する際に、弾性シール部材80に、気体を当たりにくくすることができる。すなわち、弁室V内に流入した気体は、弁室下方から上方に向けて流れて、通気孔25から通気室R側へと排出されるが、このとき、ロアー部材50の周壁51に沿って流れた気体は、ロアー部材50の上方において、アッパー部材60側へと向かう(図7及び図10の矢印F1参照)。この際、弾性シール部材80は、アッパー部材60に対して最大限移動しても、アッパー部材60の外周から、はみ出ない形状をなしているので、気体を、弾性シール部材80にぶつかりにくくすることができ、弾性シール部材80の裏側に入り込んでシール部81を押し上げるように流れることを抑制して、シール部81を、図10の想像線で示すように、上方に凸曲面をなすように撓み変形することを阻止することができる。したがって、フロート弁40が、弾性シール部材80を介して、気体によって持ち上げられるように上昇することを抑制し、フロート弁40を吹き上がりにくくすることができる。すなわち、設定した流速や流量よりも小さい、流速や流量で、フロート弁40が上昇して、シール部81が弁座25bに当接し、通気孔25が閉じてしまうことを抑制することができる(フロート弁40の吹き上がりの抑制)。
【0085】
更に、この実施形態においては、アッパー部材60を、フロート弁40の軸方向から見たときに、図4(B)に示すように、板状部61の外周71は、厚さ方向の下方部分71aよりも上方部分71bが大きくなるように形成されている。
【0086】
そのため、燃料タンク内圧の上昇時に、弁室V内に流入する気体が、図10の矢印F2に示すように、アッパー部材60の外周71の、厚さ方向の下方部分から上方部分へと流れて、弾性シール部材80の外方に導くため、気体を弾性シール部材80に当たりにくくすることができる。また、弾性シール部材80の外周に沿うように、アッパー部材60の外周を小さくしても、弾性シール部材80に、気体を当たりにくくすることができる。
【0087】
また、この実施形態においては、図10に示すように、板状部61の外周71には、厚さ方向の下方部分から上方部分に向けて拡径する傾斜面73が設けられている。そのため、燃料タンク内圧の上昇時に、弁室V内に流入する気体が、図10の矢印F2に示すように、アッパー部材60の傾斜面73によってガイドされつつ流れて、弾性シール部材80の外方に導くため、気体を弾性シール部材80により当たりにくくすることができる。
【0088】
更にこの実施形態においては、弾性シール部材80は、弁座25bに接離するシール部81を有しており、第2抜け止め部は、シール部81を挟んで、その両側に配置されているか、又は、シール部81を囲むように3個以上配置されており(ここでは、第2抜け止め部をなす抜け止め孔85が、シール部81を囲むように4個配置されている)、シール部81の外側縁部には、シール部81を補強する補強リブ87が設けられている(図5参照)。
【0089】
これによれば、シール部81の外側縁部には、シール部81を補強する補強リブ87が設けられているので、フロート弁40の上昇時に、弁座25bにシール部81が当接した後、アッパー部材60に引っ張られて、延出部83が剛性を保ちながら板状に剥がれるため、フロート弁40の再開弁圧を、より向上させることができる。
【0090】
また、この実施形態においては、第2抜け止め部は、弾性シール部材80に形成された抜け止め孔85と、この抜け止め孔85に挿入される抜け止めフック77とからなり、抜け止めフック77は、抜け止め孔85に遊嵌される軸部77aと、この軸部77aの上端から、抜け止め孔85の内周縁よりも張出す張出し部77bとを有している。
【0091】
これによれば、抜け止めフック77の軸部77aを、抜け止め孔85に挿入することで、図9に示すように、張出し部77bが孔の内周縁よりも張出すため、弾性シール部材80を、アッパー部材60に対して容易に装着することができると共に、抜け止めを確実に図ることができる。また、抜け止め孔85に遊嵌される軸部77aによって、アッパー部材60に対する弾性シール部材80の移動性能を確保することができる。
【0092】
(弁装置の第2実施形態)
図15及び図16には、本発明に係る弁装置の、第2実施形態が示されている。なお、前記実施形態と実質的に同一部分には同符号を付してその説明を省略する。
【0093】
この実施形態における弁装置は、弾性シール部材80Aの形状が前記実施形態と異なっている。すなわち、この弾性シール部材80Aは、シール部81の外側縁部には、補強リブがない形状となっている。また、図15(A),(B)に示すように、この弾性シール部材80Aは、弁座25bにシール部81が当接した際に、シール部81に対して複数の延出部83が傾斜したような形状をなす。すなわち、弾性シール部材80Aは、弁座25bへのシール部81の当接時に、シール部81の中心が最も低く、かつ、延出部83が、その延出方向先端に向けて次第に高くなるように傾斜した形状をなすようになっている。
【0094】
この実施形態の弾性シール部材80Aは、シール部81の外側縁部には、補強リブがない形状となっているので、弁座25bにシール部81が当接した際に、複数の延出部83が、図15(A),(B)に示すような、シール部81に対して傾斜したような形状に変形しやすくなり、弾性シール部材80Aの移動時に、各延出部83の外周を、アッパー部材60の外周71からはみ出にくくすることができると共に、弁座25bに対するシール部81のシール性をより高めることができうる。
【0095】
(弁装置の第3実施形態)
図17には、本発明に係る弁装置の、第3実施形態が示されている。なお、前記実施形態と実質的に同一部分には同符号を付してその説明を省略する。
【0096】
この実施形態における弁装置は、ロアー部材50Bの形状が前記実施形態と異なっている。図17に示すように、ロアー部材50Bの天井壁53の外周縁部であって、弾性シール部材80に形成した4つの切欠き部67に入り込む、4つの隆起部59が設けられている。4つの隆起部59のうち、2つの隆起部59,59は、ロアー部材50Bの、一対のガイド溝51a,51aに整合する位置に配置されており、残りの2つの隆起部59,59は、前記2つの隆起部59,59に直交する位置に配置されている。
【0097】
また、各隆起部59は、互いに直交する一対の側面59a,59aと、これらの側面59a,59aどうしを連結する曲面状の側面59bとを有しており、所定高さで隆起した形状をなしている。各側面59aは、アッパー部材60の延出部65の側面、及び、弾性シール部材80の延出部83の側面に、対向して配置されるようになっている。
【0098】
そして、この実施形態では、上記のような隆起部59を設けたことで、燃料タンク内の圧力上昇時に、燃料蒸気等の気体を、弾性シール部材80の裏側に流入しにくくすることができ、フロート弁40をより吹き上がりにくくすることができる。
【0099】
(弁装置の第4実施形態)
図18には、本発明に係る弁装置の、第4実施形態が示されている。なお、前記実施形態と実質的に同一部分には同符号を付してその説明を省略する。
【0100】
この実施形態における弁装置は、アッパー部材60Cの形状が前記実施形態と異なっている。図17に示すように、アッパー部材60Cは、前記第1実施形態のアッパー部材60とは異なり、所定の延出部65の基部65aの一側縁と、該延出部65に対して周方向に隣接する延出部65の基部65aの一側縁とが、連結部67aにより連結されている。また、各連結部67aの表側外周縁部から、所定幅の壁部68が立設されている。この壁部68は、アッパー部材60Cに弾性シール部材80を抜け止め保持した状態で、弾性シール部材80の補強リブ87に対向する位置に配置される。
【0101】
そして、この実施形態においては、上記のように、アッパー部材60Cの連結部67aに、上記のような壁部68を設けたことで、燃料タンク内の圧力上昇時に、燃料蒸気等の気体を、弾性シール部材80の裏側に流入しにくくすることができ、フロート弁40をより吹き上がりにくくすることができる。
【0102】
(弁装置の第5実施形態)
図19~23には、本発明に係る弁装置の、第5実施形態が示されている。なお、前記実施形態と実質的に同一部分には同符号を付してその説明を省略する。
【0103】
この実施形態における弁装置は、ロアー部材50Dの形状が前記実施形態と異なっている。
【0104】
図20に示すように、この実施形態のロアー部材50Dは、アッパー部材60を載置する載置面54を設けた天井壁53を有している。
【0105】
また、上記載置面54は、天井壁53の径方向中央部に配置された、略円形状をなした中央面54аと、該中央面54аの周縁から、外方に向けて放射状に延出した複数の外方延出面54bとからなる。この実施形態での載置面54は、載置面中心に対して90度間隔で配置された4つの外方延出面54bを有しており、略十字形状をなしたアッパー部材60に対応して、略十字状をなしている。なお、中央面54а及び各外方延出面54bの上面は、凹凸のない一定高さの平坦面状となっている。また、前記中央面54аの表面側中央から、前記支持突部53аが突設されており、該支持突部53аにアッパー部材60が揺動可能に支持されている。
【0106】
なお、本発明における「載置面」とは、アッパー部材の下方に位置し、アッパー部材がいずれかの方向に揺動したときに、アッパー部材の裏面に当接して、アッパー部材を受け止めて支持可能(載置可能)とする部位であることを意味する。
【0107】
また、図21に示すように、載置面54を構成する4つの外方延出面54bのうち、載置面中心を通過する直線上に配置される一対の外方延出面54b,54bの延出方向先端部は、ロアー部材50Dの外周に位置する平坦面部55cに至るまで延びているが、これらの一対の外方延出面54b,54bに直交する、もう一対の外方延出面54b,54bの延出方向先端部は、ロアー部材50Dの外周に至るまでは延びていない構成となっている。
【0108】
また、天井壁53は、上記のような載置面54を設けたことによって、隣り合う外方延出面54b,54bの間に位置するように、天井壁53の外周に配置された複数の外周配置部53bを有している。
【0109】
図21に示すように、この実施形態の天井壁53は、4つの外周配置部53bを有している。具体的には、天井壁53の径方向中央部を挟んで、径方向に対向する箇所に、一対の外周配置部53b,53bが配置されていると共に、該一対の外周配置部53b,53bに対して直交して、もう一対の外周配置部53b,53bが配置されている(図21参照)。これらの4つの外周配置部53bのうち、対向配置された一対の外周配置部53b,53bは、ロアー部材50Dに設けた一対のガイド溝51а,51аに整合する位置に配置されている(図20参照)。
【0110】
また、図21に示すように、各外周配置部53bは、ロアー部材50Dを軸方向から見たときに、互いに直交する一対の側縁部53c,53cを有する、略扇形状をなしている。
【0111】
更に図21に示すように、天井壁53の各外周配置部53bの側縁部53cと、この側縁部53cに対向して配置される、載置面54の各外方延出面54bの側縁部54cとの間には、溝部56が形成されている。
【0112】
そして、この実施形態におけるロアー部材50Dには、フロート弁40の軸方向から見たときに、天井壁53の、載置面54以外の部分に、ロアー部材50Dの外方に向けて載置面54よりも低くなるように傾斜する、傾斜面58が形成されている。
【0113】
この実施形態では、図20に示すように、前記溝部56の底面に、天井壁53の径方向中央部が最も高く、フロート弁40の径方向外方に向けて次第に高さが低くなるように傾斜した、テーパ面状をなした上記傾斜面58が形成されている。また、載置面54の、所定の外方延出面54bの延出方向先端部と、ロアー部材50Dの外周との間の部分にも、テーパ面状をなした傾斜面58が形成されている。
【0114】
なお、上記の傾斜面としては、例えば、下方に向けて凹んだ曲面状としたり、上方に向けて凸とされた曲面状としたり、傾斜角度の異なる複数のテーパ面から形成したり、階段状としたりしてもよく、全体としてロアー部材外方に向けて載置面よりも低くなるように傾斜した形状であればよい。
【0115】
また、ロアー部材50Dには、隣り合う第2抜け止め部(アッパー部材60側の抜け止めフック77と、弾性シール部材80側の抜け止め孔85)の間に、載置面54よりも突出する、突出部90が形成されている。
【0116】
図21に示すように、この実施形態では、天井壁53の各外周配置部53bの上面から、突出部90が突出している。すなわち、天井壁53の径方向中央部を挟んで、径方向に対向する箇所に、一対の突出部90,90が配置されていると共に、該一対の突出部90,90に対して直交して、もう一対の突出部90,90が配置されている。これらの4つの突出部90のうち、径方向に対向配置された一対の突出部90,90は、ロアー部材50Dに設けた一対のガイド溝51а,51аに整合する位置に配置されている(図21参照)。
【0117】
また、図20図21に示すように、各突出部90は、互いに直交する一対の側面91,91を有していると共に、両側面91,91との間に設けられた突出端面93とを有しており、上述した外周配置部53bに適合して、ロアー部材50Dを軸方向から見たときに、略扇形状をなした突部となっている。
【0118】
更に図20図23に示すように、ロアー部材50Dの一対のガイド溝51а,51аに整合する位置に配置された、一対の突出部90,90は、ロアー部材50Dの径方向外方に、天井壁53の外周配置部53bから立設した外周面93аを有している。なお、もう一対の突出部90,90は、突出端面93の外周縁部が、天井壁53の外周配置部53bの上面に連結されており、上記のような外周面93аは有しない形状となっている。
【0119】
また、図20に示すように、突出部90の突出端面93の、天井壁53の径方向中央部に向く内側角部が、天井壁53の上面から最も高くなるように突出した突出端部95(「頂部」とも言える)をなしている。
【0120】
更に、この実施形態の突出端面93は、上記突出端部95からロアー部材50Dの外方に向けて、外方に向けてやや凸となる曲面状を描きながら、次第に突出高さが低くなるように、傾斜した形状をなしている。
【0121】
また、図22に示すように、突出部90の突出端部95は、アッパー部材60が載置面54に載置された状態で、アッパー部材60の上面60аよりも突出している。更に、この実施形態における突出端部95は、弾性シール部材80の上面80аに対しても、突出している(図22参照)。
【0122】
なお、図22に示すように、ロアー部材50Dの一対のガイド溝51а,51аに整合する位置に配置された、一対の突出部90,90の突出端面93,93の外周縁部は、もう一対の突出部90,90の突出端面93,93の外周縁部よりも、高い位置となっている。
【0123】
なお、上記の突出端面としては、例えば、テーパ面状としたり、下方に向けて凹んだ曲面状としたり、傾斜角度の異なる複数のテーパ面から形成したり、階段状としたりしてもよく、全体としてロアー部材外方に向けて傾斜する形状であればよい。また、突出部としては、略扇形状をなした突部以外にも、例えば、三角形や、四角形、菱形、台形、五角形状以上の多角形の突部や、円形、楕円形、小判形の突部としてもよく、特に限定はされない。
【0124】
(第5実施形態の作用効果)
次に、第5実施形態の弁装置の作用効果について説明する。
【0125】
すなわち、この実施形態においては、ロアー部材50Dは、アッパー部材60を載置する載置面54を設けた天井壁53を有しており、更にロアー部材50Dには、フロート弁40の軸方向から見たときに、天井壁53の、載置面54以外の部分に、ロアー部材50Dの外方に向けて載置面54よりも低くなるように傾斜する、傾斜面58が形成されている。
【0126】
そのため、例えば、燃料の揺動等によって、ロアー部材50Dの天井壁53上に、燃料が溜まろうとしても、図23の矢印Gに示すように、この燃料を傾斜面58によって、ロアー部材50Dの外方に排出しやすくすることができ、通気孔25から通気室R内に、燃料が流入することを抑制することができる。
【0127】
具体的には、天井壁53の上面や、天井壁53の各外周配置部53bに燃料が溜まろうとしても、燃料が溝部56へと流れ落ちて、溝部56の底面の傾斜面58上を流れて、ロアー部材50Dの外方へと排出される。なお、載置面54の、所定の外方延出面54bの延出方向先端部と、ロアー部材50Dの外周との間の部分に、燃料が溜まろうとしても、その部分に設けた傾斜面58によって、ロアー部材50Dの外方へと排出される。
【0128】
また、突出部90の突出端面93上に溜まろうした燃料は、その一部が、突出部90の側面91を伝って、天井壁53の外周配置部53bを介して、溝部56へ流れ落ちた後、傾斜面58を介してロアー部材50Dの外方へと排出される。更に、弾性シール部材80の上面80аやアッパー部材60の上面60аに溜まろうとした燃料も、溝部56へ流れ落ちた後、傾斜面58を介してロアー部材50Dの外方へと排出される。
【0129】
以上のように、上記のような傾斜面58を形成したことで、天井壁53等に燃料が溜まろうとしても、傾斜面58を介してロアー部材50Dの外方へと排出でき、通気室R内への燃料流入を抑制できる。
【0130】
また、この実施形態においては、弾性シール部材80は、弁座25bに接離するシール部81を有しており、第2抜け止め部は、シール部81を挟んで、その両側に配置されているか、又は、シール部81を囲むように3個以上配置されており(ここでは、第2抜け止め部をなす抜け止め孔85が、シール部81を囲むように4個配置されている)、ロアー部材50Dには、隣り合う第2抜け止め部の間に、載置面54よりも突出する、突出部90が形成されている(図19参照)。
【0131】
これによれば、ロアー部材50Dには、隣り合う第2抜け止め部の間に、載置面54よりも突出する、突出部90が形成されているので、燃料蒸気等の気体が、フロート弁外方からフロート弁内方へ流通しようとしても、それらが突出部90に衝突して、その流通を阻害することができる。その結果、燃料蒸気等の気体が、弾性シール部材80の裏側に流入しにくくすることができ、フロート弁40を吹き上がりにくくすることができると共に、燃料を、ロアー部材50Dの天井壁53上に、より溜まりにくくすることができる。
【0132】
更に、この実施形態においては、図22に示すように、アッパー部材60が載置面54に載置された状態で、突出部90の、最も突出した突出端部95は、アッパー部材60の上面60аよりも突出している。
【0133】
上記態様によれば、突出部90の突出端部95によって、アッパー部材60と弾性シール部材80との隙間(アッパー部材60の上面60аと弾性シール部材80の下面との隙間)をカバーして、その隙間に燃料蒸気等の気体を流入しにくくすることができ、フロート弁40を、より一層吹き上がりにくくすることができる。また、ロアー部材50Dの天井壁53の上面と、アッパー部材60の下面との隙間もカバーしやすくなり、その隙間に燃料を入り込みにくくすることができる。
【0134】
なお、この実施形態においては、突出部90の突出端部95は、アッパー部材60の上面60аのみならず、弾性シール部材80の上面80аに対しても、突出しているので(図22参照)、アッパー部材60が揺動した場合でも、アッパー部材60と弾性シール部材80との隙間を安定してカバーすることでき(突出端部95の高さに余裕があるため)、前記隙間への気体流入をより効果的に抑制することができる。
【0135】
また、この実施形態においては、図19図20、及び図22に示すように、突出部90の突出端面93は、ロアー部材50Dの外方に向けて傾斜する形状をなしている。
【0136】
上記態様によれば、突出部90の突出端面93上に、燃料が溜まろうとしても、燃料をロアー部材50Dの外方に排出しやすくすることができる。また、突出端面93上に溜まった燃料が、天井壁53上に流れ落ちても、天井壁53に形成した傾斜面58によって、燃料をロアー部材50Dの外方に排出することができる。
【実施例
【0137】
各種弁装置について、どの程度、吹き上がりしにくいかを試験した。
【0138】
(実施例1)
図1~14に示す弁装置と同様なハウジングやフロート弁等を備えた、実施例1の弁装置を製造した。アッパー部材60には、切欠き部67が設けられている。
【0139】
(実施例2)
図18に示す弁装置と同様の、アッパー部材を設けた、実施例2の弁装置を製造した。アッパー部材60Cに、連結部67aを介して壁部68が設けられている以外は、実施例1と同様の構造となっている。
【0140】
(実施例3)
アッパー部材に連結部が設けられ、かつ、アッパー部材の延出部の外周から、弾性シール部材の延出部がはみ出た形状とした以外は、実施例1及び実施例2と同様の、実施例3の弁装置を製造した。
【0141】
(試験方法)
図24(A)に示すように、燃料タンクの上方壁部に、上記実施例1~3の弁装置を取付けて、燃料タンク内に空気を吹き込んで、徐々に加圧していき、その際の流量を測定した。その結果が、図24(B)に示されている。図24(B)中、実線が実施例1、破線が実施例2、一点鎖線が実施例3を示している。また、各線において、流量の上昇が止まり、一定流量となる箇所が、各実施例において、フロート弁が吹き上がって、通気孔を閉じた状態であり、この箇所を吹き上がりポイントPとする。
【0142】
そして、図24(B)に示すように、実施例3が、最も低い流量で吹き上がりポイントPに達し、実施例2が、最も高い流量で吹き上がりポイントPに達し、実施例1が、実施例2及び実施例3の間の流量で、吹き上がりポイントPに達した。すなわち、実施例2が、最もフロート弁が吹き上がりにくく、実施例1が、その次にフロート弁が吹き上がりにくく、実施例3が、最もフロート弁が吹き上がりやすいことが分かった。
【0143】
また、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で、各種の変形実施形態が可能であり、そのような実施形態も本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0144】
10 弁装置
15 ハウジング
20 ハウジング本体
23 仕切壁
25 通気孔
25b 弁座
30 上部カバー
35 下部キャップ
40 フロート弁
50,50B,50D ロアー部材
54 載置面
58 傾斜面
60,60C アッパー部材
61 板状部
71 外周
71a 下方部分
71b 上方部分
73 傾斜面
75 抜け止め片
77 抜け止めフック
77a 軸部
77b 張出し部
80,80A 弾性シール部材
81 シール部
85 抜け止め孔
87 補強リブ
90 突出部
93 突出端面
95 突出端部
S フロート弁用付勢バネ
V 弁室
R 通気室
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24