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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-10
(45)【発行日】2024-01-18
(54)【発明の名称】導電性ペースト組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20240111BHJP
   C08K 3/08 20060101ALI20240111BHJP
   C08G 59/40 20060101ALI20240111BHJP
   H01B 1/20 20060101ALI20240111BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20240111BHJP
【FI】
C08L63/00 C
C08K3/08
C08G59/40
H01B1/20 A
H01B1/00 C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023079413
(22)【出願日】2023-05-12
【審査請求日】2023-05-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】397059571
【氏名又は名称】京都エレックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新井 貴光
(72)【発明者】
【氏名】阿部 永嗣
(72)【発明者】
【氏名】留河 悟
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-264095(JP,A)
【文献】特開2022-135942(JP,A)
【文献】特開2020-176189(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 63/00
C08K 3/08
C08G 59/40
H01B 1/20
H01B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)導電性粉末および樹脂成分を含有し、
前記(A)導電性粉末は、平均粒径D50が0.1~10μmの範囲内であり、BET比表面積が0.1~2.0m 2 /gの範囲内であり、タップ密度が0.5~10g/cm 3 の範囲内であり、
前記樹脂成分は、(B)エポキシ樹脂、(C)硬化剤、および(D)硬化促進剤を含有し、
前記(B)エポキシ樹脂は、エポキシ当量が500g/eq以上のエポキシ樹脂を、少なくとも1種類含有し、
前記(C)硬化剤は、次の一般式(1)
【化1】
(ただし、式(1)中のRは、炭素数1~10のアルキル基、置換または無置換のフェニル基、置換または無置換のアラルキル基、アルコキシル基、またはハロゲン原子であり、式(1)中のXは、水素原子または次の一般式(2)で表されるエステル構造であって、式(2)中のAは、炭素数1~6のアルキル基であり、
【化2】
式(1)中のZは、炭素数1~15の2価の炭化水素基であり、式(1)のmは0~4の整数であり、式(1)のnは平均値で0~2の数であり、式(1)に含まれるR,X,Z,Aは、いずれも同一の置換基または原子であってもよいし、異なる置換基または原子であってもよく、式(1)におけるmは同一の整数であってもよいし、異なる整数であってもよい。)
で示される構造を有する、フェノール類エステル化合物であり、
当該(C)硬化剤のエステル化率が70%以上であり、
当該(C)硬化剤は、前記(B)エポキシ樹脂100質量部に対して3~150質量部の範囲内で配合されることを特徴とする、
導電性ペースト組成物。
【請求項2】
前記(B)エポキシ樹脂には、エポキシ当量が500g/eq以上のエポキシ樹脂が30質量%以上含有される、
請求項1に記載の導電性ペースト組成物。
【請求項3】
前記(A)導電性粉末および前記樹脂成分の合計量を100質量%としたときに、前記(A)導電性粉末の配合量は70~99質量%の範囲内である、
請求項1に記載の導電性ペースト組成物。
【請求項4】
前記(B)エポキシ樹脂としては、さらにエポキシ当量が500g/eq未満のエポキシ樹脂を含有する、
請求項1に記載の導電性ペースト組成物。
【請求項5】
前記(A)導電性粉末として、銀粉末、銅粉末、銀コート銅粉末、銀コートニッケル粉末、銀コートアルミニウム粉末、および銀コートガラス粉末からなる群より選択される少なくとも1種が用いられる、
請求項1に記載の導電性ペースト組成物。
【請求項6】
基材上に印刷機、ディスペンサー、もしくはディッピングにより塗布されて用いられる、
請求項1から5のいずれか1項に記載の導電性ペースト組成物。
【請求項7】
電子部品の電極に塗布されて用いられる、
請求項1から5のいずれか1項に記載の導電性ペースト組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化型の導電性ペースト組成物に関し、特に、電子部品の分野に好適に用いることが可能な導電性ペースト組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子部品の分野では、電気的な接続を形成する手法の一つとして、導電性ペースト組成物を用いる技術が広く用いられている。このような導電性ペースト組成物としては様々な種類が知られているが、例えば、熱硬化型の導電性ペースト組成物であれば、導電性粉末と樹脂成分としてエポキシ樹脂とを配合した組成のものを挙げることができる。
【0003】
エポキシ樹脂は、電子部品を構成する金属に対して良好な接着性を有するともに、良好な耐熱性も有しており、さらに、硬化時の体積収縮が相対的に小さい等の利点を有している。そのため、導電性ペースト組成物の樹脂成分として、エポキシ樹脂は広く用いられている。
【0004】
近年では、電子部品には、小型化、軽量化、高精細化、高信頼性等についての要求がより強くなっている。そのため、導電性ペースト組成物に対しても、このような電子部品の要求に対応すべく、さまざまな検討がなされている。例えば、特許文献1には、チップ部品を基板に実装する際に、応力緩和性および耐熱性という両特性を実現するために、液状のエポキシ樹脂と固形のエポキシ樹脂を併用した導電性接着剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-277384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、エポキシ樹脂を樹脂成分とする導電性ペースト組成物では、硬化後に耐熱衝撃性と耐湿熱性との両立させることが求められている。ただし、樹脂成分がエポキシ樹脂である場合には、耐熱衝撃性の向上を図ろうとすると耐湿熱性が低下する傾向にある。
【0007】
近年では、前記の通り、電子部品に対してより高度な要求が求められているため、導電性ペースト組成物に要求される、耐熱衝撃性と耐湿熱性との両立もより強いものとなっている。しかしながら、エポキシ樹脂を含有する導電性ペースト組成物では、これらの特性をより一層良好に両立できるものは知られていなかった。例えば、特許文献1に記載の導電性接着剤では、前記の通り、応力緩和性と耐熱性との両立を図っているが、耐熱衝撃性または耐湿熱性については何ら検討されていない。
【0008】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、硬化後に、良好な耐熱衝撃性と良好な耐湿熱性とを実現することが可能な、樹脂成分としてエポキシ樹脂を含有する導電性ペースト組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係る導電性ペースト組成物は、前記の課題を解決するために、(A)導電性粉末および樹脂成分を含有し、前記樹脂成分は、(B)エポキシ樹脂、(C)硬化剤、および(D)硬化促進剤を含有し、前記(B)エポキシ樹脂は、エポキシ当量が500g/eq以上のエポキシ樹脂を、少なくとも1種類含有し、前記(C)硬化剤は、次の一般式(1)
【0010】
【化1】
【0011】
(ただし、式(1)中のRは、炭素数1~10のアルキル基、置換または無置換のフェニル基、置換または無置換のアラルキル基、アルコキシル基、またはハロゲン原子であり、式(1)中のXは、水素原子または次の一般式(2)で表されるエステル構造であって、式(2)中のAは、炭素数1~6のアルキル基であり、
【0012】
【化2】

式(1)中のZは、炭素数1~15の2価の炭化水素基であり、式(1)のmは0~4の整数であり、式(1)のnは平均値で0~2の数であり、式(1)に含まれるR,X,Z,Aは、いずれも同一の置換基または原子であってもよいし、異なる置換基または原子であってもよく、式(1)におけるmは同一の整数であってもよいし、異なる整数であってもよい。)
で示される構造を有する、フェノール類エステル化合物である構成である。
【0013】
前記構成によれば、樹脂成分として含有する(B)エポキシ樹脂には、エポキシ当量が500g/eq以上のものが1種以上用いられるとともに、(C)硬化剤としては、前記一般式(1)のフェノール類エステル化合物を用いている。これにより、得られる導電性ペースト組成物の硬化物は、良好な電気特性を維持しつつ、良好な耐熱衝撃性と良好な耐湿熱性とを両立することができる。それゆえ、硬化後に、良好な耐熱衝撃性と良好な耐湿熱性とを実現することが可能な、樹脂成分としてエポキシ樹脂を含有する導電性ペースト組成物を得ることができる。
【0014】
前記構成の導電性ペースト組成物においては、前記(B)エポキシ樹脂には、エポキシ当量が500g/eq以上のエポキシ樹脂が30質量%以上含有される構成であってもよい。
【0015】
また、前記構成の導電性ペースト組成物においては、前記(C)硬化剤のエステル化率は70%以上である構成であってもよい。
【0016】
また、前記構成の導電性ペースト組成物においては、前記(B)エポキシ樹脂100質量部に対して、前記(C)硬化剤が、3~150質量部の範囲内で配合される構成であってもよい。
【0017】
また、前記構成の導電性ペースト組成物においては、前記(A)導電性粉末として、銀粉末、銅粉末、銀コート銅粉末、銀コートニッケル粉末、銀コートアルミニウム粉末、および銀コートガラス粉末からなる群より選択される少なくとも1種が用いられる構成であってもよい。
【0018】
また、前記構成の導電性ペースト組成物においては、基材上に印刷機、ディスペンサー、もしくはディッピングにより塗布されて用いられる構成であってもよい。
【0019】
また、前記構成の導電性ペースト組成物においては、電子部品の電極に塗布されて用いられる構成であってもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、以上の構成により、硬化後に、良好な耐熱衝撃性と良好な耐湿熱性とを実現することが可能な、樹脂成分としてエポキシ樹脂を含有する導電性ペースト組成物を提供できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本開示の実施例に係る導電性ペースト組成物を硬化させて得られる導体パターン(硬化物)の導体抵抗を評価するための導体パターンの形状を示す平面図である。
図2】本開示の実施例等において導電性ペースト組成物の硬化後の接続抵抗および接着強度の評価に用いられる評価用サンプルの構成を模式的に示すモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本開示の代表的な実施の形態について説明する。
本開示に係る導電性ペースト組成物は、(A)導電性粉末および樹脂成分を含有し、当該樹脂成分は、(B)エポキシ樹脂、(C)硬化剤、および(D)硬化促進剤を含有する。このうち(B)エポキシ樹脂は、エポキシ当量が500g/eq以上のエポキシ樹脂を、少なくとも1種類含有する。さらに、(C)硬化剤は、後述する一般式(1)で示される構造を有する化合物、すなわち、多価フェノール化合物のフェノール性水酸基をエステル化した化合物が用いられる。なお、本開示では、この化合物をフェノール類エステル化合物と称する。
【0023】
[(A)導電性粉末]
本開示に係る導電性ペースト組成物が含有する(A)導電性粉末の具体的な構成は特に限定されず、導電性ペースト組成物の分野で公知の導電性粉末を好適に用いることができる。代表的には、銀粉末、銅粉末、銀コート銅粉末、銀コートニッケル粉末、銀コートアルミニウム粉末、および銀コートガラス粉末からなる群より選択される少なくとも1種を挙げることができる。
【0024】
本開示では、後述する実施例では、代表的な(A)導電性粉末として、フレーク状または球状の銀粉末、あるいは球状の銀コート銅粉末を例示している。それゆえ、本開示においては、(A)導電性粉末としては、少なくとも銀を含有する粉末が用いられる。説明の便宜上、銀を含有する粉末を適宜「銀系粉末」と称する。
【0025】
具体的な銀系粉末としては、実質的に銀から構成される銀粉末、銀以外の材質で構成される粉末(本体粉末)の表面に銀をコートした銀コート粉末、銀を含有する合金(銀合金)から構成される銀合金粉末等が挙げられる。
【0026】
銀粉末は、銀のみで構成される粉末であるが、公知の不可避的不純物を含有してよいことはいうまでもない。また、銀合金粉末であっても、公知の各種規格において「銀製」と認められる程度の純度を有するものは、本開示において銀粉末として取り扱うことができる。
【0027】
銀コート粉末の具体的な構成は特に限定されず、銀以外の材質で構成される本体粉末の材質が金属であってもよいし、金属以外の材質であってもよい。金属以外の材質としては、公知の樹脂材料または公知のセラミック材料、ガラス等を挙げることができる。本体粉末が樹脂材料である場合には、本開示に係る導電性ペースト組成物を硬化させる際の加熱温度であっても粉末形状(粒子形状)が保持できる程度の耐熱性を有するものであればよい。
【0028】
本体粉末が金属である銀コート粉末、すなわち、銀コート金属粉末としては、例えば、銀コート銅粉末、銀コート銅合金粉末、銀コートニッケル粉末、銀コートアルミニウム粉末等を挙げることができるが特に限定されない。本体粉末がガラスである銀コート粉末、すなわち、銀コートガラス粉末としては、ガラスの具体的な種類は特に限定されない。公知の種々のガラス粉末に銀をコートしたものを挙げることができる。
【0029】
本体粉末が樹脂である銀コート粉末、すなわち、銀コート樹脂粉末としては、例えば、銀コートシリコーン樹脂粉末等を挙げることができるが特に限定されない。本体粉末がセラミック材料である銀コート粉末、すなわち、銀コートセラミック粉末としては、例えば、銀コートアルミナ粉末等を挙げることができるが特に限定されない。
【0030】
銀系粉末が銀コート粉末である場合に、本体粉末の表面にコートされる銀の量、すなわち、銀コート量は特に限定されず、諸条件に応じて適宜設定することができる。本開示に係る導電性ペースト組成物の用途(硬化物の用途)に応じて求められる体積抵抗率等に応じて、銀コート量を増減することができる。あるいは、本体粉末の材質(導電性)に応じて、銀コート量を増減することができる。なお、銀コート量は、銀コート粉末の全質量におけるコートされている銀の質量の比(質量比、例えば百分率(質量%)等)で表すことができる。
【0031】
銀系粉末(あるいは他の導電性粉末)の具体的な形状は特に限定されず、球状(粒状)であってもよいしフレーク状(薄片状または鱗片状)であってもよい。なお、フレーク状粉末とは、部分的に凹凸があり変形が見られても、全体として見た場合に、平板または厚みの薄い直方体に近い形状の粉末であればよい。球状粉末とは、部分的に凹凸があり変形が見られても、全体として見た場合に、直方体よりは立方体に近い立体形状の粉末であればよい。
【0032】
銀系粉末(あるいは他の導電性粉末)の具体的な物性も特に限定されず、その平均粒径、比表面積、タップ密度等については公知の範囲内であればよい。例えば、銀系粉末がフレーク状粉末であれば、その平均粒径D50は例えば0.5~20μmの範囲内であればよく、BET比表面積は例えば0.1~2.0m2 /gの範囲内であればよく、タップ密度は例えば0.5~10g/cm3 の範囲内であればよく、アスペクト比は例えば5~15の範囲内であればよい。また、銀系粉末が球状粉末であれば、その平均粒径D50は0.1~10μmの範囲内であればよく、BET比表面積は0.5~2.0m2 /gの範囲内であればよく、タップ密度は例えば1.0~10g/cm3 であればよい。銀系粉末以外の導電性粉末においても、これら物性の範囲内であればよい。
【0033】
なお、導電性粉末の平均粒径D50の測定(評価)方法は特に限定されないが、本開示においては、後述する実施例のように、マイクロトラック粒度分布測定装置を用いたレーザ回折法により測定(評価)すればよい。また、導電性粉末のBET比表面積の評価方法も特に限定されないが、後述する実施例のように、公知の比表面積計を用いて窒素吸着によるBET1点法で測定して評価すればよい。また、導電性粉末のタップ密度の評価方法も特に限定されないが、後述する実施例のように、公知のタップ密度測定装置を用いて所定条件でタッピングし、タッピング後の試料容積に対する試料質量から算出して評価すればよい。
【0034】
これら銀系粉末を含む(A)導電性粉末に関する各種の測定方法または評価方法における各種条件は、樹脂型導電性ペーストの分野で公知の条件(例えば、本願出願人による先行特許出願の公開公報に記載される諸条件)を用いることができる。
【0035】
銀系粉末が銀粉末(もしくは銀合金粉末)または銀コート粉末のいずれであっても、あるいは、銀系粉末の形状がフレーク状または球状のいずれであっても、その製造方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0036】
銀粉末(もしくは銀合金粉末)がフレーク状粉末の場合、例えば、公知の方法で製造された球状粉末を元粉として、当該元粉に公知の機械的処理を施すことによりフレーク状粉末を製造することができる。元粉の粒径や凝集度等の物性は、例えば導電性ペースト組成物の使用目的(硬化物である電極または電気配線等の種類、あるいはこれら電極または電気配線等を備える電子部品または電子装置等の種類等)に応じて適宜選択することができる。
【0037】
また、銀粉末(もしくは銀合金粉末)が球状粉末の場合も、その製造方法は特に限定されるものではなく、例えば、湿式還元法により製造した粉末、電解法やアトマイズ法等、公知の他の方法により製造した球状粉末等を挙げることができる。銀コート粉末の場合には、前記のようにして製造されたフレーク状または球状の本体粉末の表面に、公知の方法で銀をコートすればよい。
【0038】
本開示に係る導電性ペースト組成物においては、(A)導電性粉末として、少なくとも銀系粉末を用いればよいが、銀系粉末以外の導電性粉末を併用してもよい。このような他の導電性粉末としては、例えば、金粉末、銅粉末、パラジウム粉末、ニッケル粉末、アルミニウム粉末、鉛粉末、カーボン粉末等を挙げることができるが特に限定されない。代表的には、例えば、銅粉末を挙げることができる。
【0039】
(A)導電性粉末として、複数種類の粉末を併用する場合、その配合比(配合量)は特に限定されない。例えば、銀系粉末を用いるとともに、銀系粉末以外の他の導電性粉末を併用する場合には、全ての(A)導電性粉末のうち銀系粉末が少なくとも10質量%を超えて含まれていればよく、50質量%以上含まれてもよいし、90質量%以上含まれてもよいし、95質量%以上含まれてもよい。他の導電性粉末を併用する際の配合量は、得られる硬化物に求められる諸条件に応じて適宜設定することができる。
【0040】
[(B)エポキシ樹脂]
本開示において樹脂成分の一つとして用いられる、(B)エポキシ樹脂の具体的な構成は特に限定されないが、当該(B)エポキシ樹脂としては、エポキシ当量が500g/eq以上のエポキシ樹脂が少なくとも1種類用いられる。
【0041】
説明の便宜上、エポキシ当量が500g/eq以上のエポキシ樹脂を「第一のエポキシ樹脂」と称し、エポキシ樹脂が500g/eq未満のエポキシ樹脂を「第二のエポキシ樹脂」と称する。本開示においては、(B)エポキシ樹脂としては、第一のエポキシ樹脂のみが用いられてもよいし、第一のエポキシ樹脂と第二のエポキシ樹脂とが併用されてもよい。
【0042】
(B)エポキシ樹脂として第一のエポキシ樹脂を用いれば、後述するように、(C)硬化剤としてフェノール類エステル化合物を用いることにより、得られる導電性ペースト組成物の硬化物は、良好な電気特性を維持しつつ、良好な耐熱衝撃性と良好な耐湿熱性とを両立することができる。
【0043】
第一のエポキシ樹脂と第二のエポキシ樹脂とが併用される場合、全ての(B)エポキシ樹脂に含まれる第一のエポキシ樹脂の含有量は特に限定されないが、代表的には、30質量%以上を挙げることができる。第一のエポキシ樹脂の含有量が30質量%以上であれば、耐熱衝撃性および耐湿熱性をより一層良好に両立することができる。
【0044】
本開示においては、(B)エポキシ樹脂として、第一のエポキシ樹脂を1種類のみ用いてもよいし、2種類以上を適宜組み合わせて用いてもよい。また、(B)エポキシ樹脂として、第二のエポキシ樹脂を併用する場合も、第二のエポキシ樹脂を1種類のみ用いてもよいし、2種類以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0045】
本開示において、第一のエポキシ樹脂および第二のエポキシ樹脂に関わらず、(B)エポキシ樹脂として用いられる具体的なエポキシ樹脂の種類は特に限定されない。代表的には、例えば、1分子中に2個以上のオキシラン環(エポキシ基)を有する多価エポキシ樹脂を挙げることができる。
【0046】
このような多価エポキシ樹脂としては、例えば、グリシジルエーテル型、グリシジルアミン型、グリシジルエステル型、脂環式型等を挙げることができる。グリシジルエーテル型は、例えばエピクロルヒドリンと、ノボラック、多価フェノール、多価アルコール等とを反応させて得られる。ノボラックとしては、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等を挙げることができ、多価フェノールとしては、ビスフェノールA、水添ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、レゾルシン等を挙げることができ、多価アルコールとしては、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、トリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等を挙げることができる。単官能のグリシジルエーテル型のエポキシ樹脂として、フェニルグリシジルエーテル等も挙げられる。グリシジルアミン型は、例えばエピクロルヒドリンと、エチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、アニリン等のポリアミノ化合物と、を反応させて得られる。グリシジルエステル型は、例えばエピクロルヒドリンと、アジピン酸、フタル酸、イソフタル酸等の多価カルボキシル化合物と、を反応させて得られる。脂環式型は、オレフィンの酸化等から合成される。これらエポキシ樹脂は1種類のみを用いてもよいし2種類以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0047】
後述する実施例では、第一のエポキシ樹脂(エポキシ当量:500g/eq以上)として、市販のビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いており、第二のエポキシ樹脂(エポキシ当量:500g/eq未満)として、市販のビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型のエポキシ樹脂、またはフェノールノボラック型エポキシ樹脂を用いている。
【0048】
[(C)硬化剤]
本開示において、(B)エポキシ樹脂とともに樹脂成分の一つとして用いられる、(C)硬化剤は、多価フェノール化合物のフェノール性水酸基を有機酸でエステル化した化合物が用いられる。より具体的には、本開示に係る(C)硬化剤は、次の一般式(1)で示される構造を有する、フェノール類エステル化合物であればよい。
【0049】
【化3】
【0050】
一般式(1)中のRは、炭素数1~10のアルキル基、置換または無置換のフェニル基、置換または無置換のアラルキル基、アルコキシル基、またはハロゲン原子である。また、一般式(1)中のXは、水素原子または次の一般式(2)で表されるエステル構造である。一般式(2)中のAは、炭素数1~6のアルキル基である。また、一般式(1)中のZは、炭素数1~15の2価の炭化水素基である。
【0051】
【化4】
【0052】
一般式(1)に含まれる前記のR,X,Z,Aは、いずれも独立して前述した置換基または原子であればよい。すなわち、前記の一般式(1)においては、R,X,Z,Aは、いずれも同一の置換基または原子であってもよいし、それぞれ異なる置換基または原子であってもよい(分子中のR,X,Z,Aの一部が同一であり、他の一部が異なる置換基または原子である場合を含む)。
【0053】
また、一般式(1)におけるmは0~4の整数であり、一般式(1)のnは平均値で0~2の数である。式(1)におけるmは、いずれも同じの整数であってもよいし、それぞれ異なる整数であってもよい(分子中のmの一部が同一の整数であり、他の一部が異なる整数である場合も含む)。
【0054】
このようなフェノール類エステル化合物を、第一のエポキシ樹脂を含有する(B)エポキシ樹脂の(C)硬化剤として用いることによって、得られる導電性ペースト組成物の硬化物では、良好な電気特性とともに、良好な耐熱衝撃性と良好な耐湿熱性とを実現することができる。
【0055】
(C)硬化剤としてのフェノール類エステル化合物のエステル化率は特に限定されないが、代表的には、70%以上を挙げることができ、80%以上であってもよく、90%以上であってもよい。フェノール類エステル化合物のエステル化率が70%以上であれば、(B)エポキシ樹脂として、少なくとも1種の第一のエポキシ樹脂を含有する(B)エポキシ樹脂の(C)硬化剤として用いたときに、得られる導電性ペースト組成物の硬化物において、良好な耐熱衝撃性と良好な耐湿熱性とを実現しやすくすることができる。
【0056】
一般式(1)に示されるフェノール類エステル化合物の合成方法(製造方法)は特に限定されず、公知の方法を好適に用いることができる。例えば、後述する実施例では、市販のフェノール系樹脂(例えばフェノールノボラック樹脂またはクレゾールノボラック樹脂)に対して、公知の方法でカルボン酸無水物(例えば無水酢酸または無水プロピオン酸)を反応させることにより、フェノール類エステル化合物を合成している。なお、後述する実施例で用いたフェノール類エステル化合物のエステル化率は90%以上(95%または93%)である。
【0057】
本開示において、(C)硬化剤の使用量(導電性ペースト組成物における(C)硬化剤の配合量)は特に限定されない。代表的には、導電性ペースト組成物が含有する全ての(B)エポキシ樹脂を100質量部としたときに、(C)硬化剤は3~150質量部の範囲内で配合されればよい。後述する実施例では、(B)エポキシ樹脂100質量部に対する(C)硬化剤の使用量として4.1~33.3質量部を例示している。
【0058】
本開示において(C)硬化剤としてのフェノール類エステル化合物の合成に用いられる、エステル化される前のフェノール化合物としては特に限定されない。具体的には、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール付加型樹脂、フェノールアラルキル樹脂(ザイロック樹脂)、ナフトールアラルキル樹脂、トリフェニロールメタン樹脂、テトラフェニロールエタン樹脂、ナフトールノボラック樹脂、ナフトール-フェノール共縮ノボラック樹脂、ナフトール-クレゾール共縮ノボラック樹脂、テルペンフェノール樹脂等の公知の多価フェノール化合物を挙げることができる。
【0059】
また、これらフェノール化合物をエステル化するための有機酸としても特に限定されない。代表的には、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、フタル酸、安息香酸等を挙げることができる。これら有機酸は、前記の通り無水物であってもよい。
【0060】
なお、(C)硬化剤としてフェノール類エステル化合物は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を適宜組み合わせて用いてもよい。また、得られる導電性ペースト組成物またはその硬化物の物性に影響を与えない範囲で、フェノール類エステル化合物以外の公知の硬化剤を併用してもよい。
【0061】
[(D)硬化促進剤]
本開示において、は(B)エポキシ樹脂および(C)硬化剤とともに樹脂成分として、(D)硬化促進剤が用いられる。具体的な(D)硬化促進剤としては特に限定されず、(B)エポキシ樹脂として用いられる第一のエポキシ樹脂、あるいは、第一のエポキシ樹脂および第二のエポキシ樹脂を硬化させるために用いられる公知の化合物であればよい。
【0062】
具体的(D)硬化促進剤としては、例えば、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水コハク酸等の酸無水物類;イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、2-フェニル-4メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-アミノエチル-2-メチルイミダゾール、1-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール等のイミダゾール類;ジメチルオクチルアミン、ジメチルデシルアミン、ジメチルラウリルアミン、ジメチルミリスチルアミン、ジメチルパルミチルアミン、ジメチルステアリルアミン、ジメチルベヘニルアミン、ジラウリルモノエチルアミン、メチルジデシルアミン、メチルジオレイルアミン、トリアリルアミン、トリイソプロパノールアミン、トリエチルアミン、3-(ジブチルアミノ)プロピルアミン、トリ-n-オクチルアミン、2,4,6-トリスジメチルアミノメチルフェノール、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、ジアザビシクロウンデセン等の第三級アミン類;三フッ化ホウ素エチルエーテル、三フッ化ホウ素フェノール、三フッ化ホウ素ピペリジン、酢酸三フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素モノエチルアミン、三フッ化ホウ素トリエタノールアミン、三フッ化ホウ素モノエタノールアミン等のフッ化ホウ素を含むルイス酸あるいはその化合物;味の素ファインテクノ株式会社から市販されているアミキュアシリーズPN-23またはMY-24等、富士化成工業株式会社から市販されているフジキュアシリーズFXR-1020またはFXR-1030等のアミンアダクト類;ジシアンジアミド;等が挙げられる。
【0063】
これら(D)硬化促進剤は1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を適宜組み合わせて用いてもよい。また、(D)硬化促進剤の使用量または使用条件等も特に限定されず、公知の使用量または使用条件で用いればよい。
【0064】
後述する実施例では、実施例1~14および比較例1~7のいずれにおいても、(D)硬化促進剤として、2-エチル-4-メチルイミダゾールを用いている。
【0065】
[導電性ペースト組成物の製造方法およびその利用]
本開示に係る導電性ペースト組成物の製造方法は特に限定されず、公知の方法を好適に用いることができる。代表的な一例としては、前述した(A)~(D)の各成分、並びに、必要に応じて添加または配合される他の成分を所定の配合割合(質量基準)で配合し、公知の混練装置を用いてペースト化すればよい。混練装置としては、例えば、3本ロールミル等を挙げることができる。
【0066】
本開示に係る導電性ペースト組成物における(A)~(D)の各成分の配合量(含有量)は特に限定されない。(A)導電性粉末および樹脂成分の合計量を100質量%としたときに、(A)導電性粉末の配合量が70~99質量%の範囲内であればよく、80~98質量%の範囲内であってもよいし、85~95質量%の範囲内であってもよい。
【0067】
(A)導電性粉末の配合量が70質量%未満であれば、硬化した導電性ペースト組成物(硬化物)中において(A)導電性粉末同士の接触密度が小さくなり、(A)導電性粉末同士の接触不良により導電性が不充分となって体積抵抗率の上昇につながるおそれがある。一方、(A)導電性粉末の含有量が99質量%より多くなると、樹脂成分の量が少なくなり(A)導電性粉末を均一に分散できなくなるおそれがある。
【0068】
なお、本開示に係る導電性ペースト組成物においては、必要に応じて、前述した(A)導電性粉末および樹脂成分((B)エポキシ樹脂、(C)硬化剤、(D)硬化促進剤)以外に、導電性ペースト組成物の分野で公知の溶剤、並びに、各種添加剤を含有してもよい。当該添加剤としては特に限定されないが、具体的には、例えば、レベリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、シランカップリング剤、消泡剤、粘度調整剤等を挙げることができる。これら添加剤は本発明の作用効果を妨げない範囲において添加することができる。
【0069】
溶剤は、本開示に係る導電性ペースト組成物の粘度または流動性等の物性を調整するために添加される。本開示に係る導電性ペースト組成物の物性は特に限定されないが、その粘度については、電極または電気配線等のパターンを形成する際の便宜、特にスクリーン印刷の効率性から、例えば75~100Pa・sの範囲内を挙げることができる。導電性ペースト組成物の粘度がこの範囲内であれば、スクリーン印刷によるパターン形成を良好に実施することができる。
【0070】
溶剤の具体的な種類は特に限定されないが、例えば、ヘキサン等の飽和炭化水素類;トルエン等の芳香族系炭化水素類;エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ブチルセロソルブアセテート等のグリコールエーテル(セロソルブ)類;ジエチレングリコールジエチルエーテル、ブチルジグリコール(ブチルカルビトール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル)等のグリコールエーテル類;ブチルジグリコールアセテート、ブチルカルビトールアセテート等のグリコールエーテル類の酢酸エステル;ジアセトンアルコール、ターピネオール、ベンジルアルコール等のアルコール類;シクロヘキサノン、メチルエチルケトン等のケトン類;DBE、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールジイソブチレートなどのエステル類;等を挙げることができる。これら溶剤は1種類のみを用いてもよいし2種類以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0071】
溶剤の配合量も特に限定されず、本開示に係る導電性ペースト組成物の粘度または流動性等を好適な範囲内に調整できる程度に添加することができる。なお、導電性ペースト組成物全体に対して溶剤の含有量が40質量%を超えると、他の成分の種類または導電性ペースト組成物の組成にもよるが、印刷に好適な流動性を得ることができず印刷性が低下する場合がある。
【0072】
本開示に係る導電性ペースト組成物により基材上に所定のパターンを形成する方法は特に限定されず、公知の種々の形成方法を好適に用いることができる。代表的には、スクリーン印刷法を用いた印刷機による方法が挙げられるが、他にも、グラビア印刷法、オフセット印刷法、インクジェット法、ディスペンサー法、ディップ法(ディッピング)等の印刷法を適用することが可能である。
【0073】
また、本開示に係る導電性ペースト組成物により硬化物となるパターンを形成する方法は特に限定されず、公知の種々の形成方法を好適に用いることができる。代表的には、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、オフセット印刷法、インクジェット法、ディスペンサー法、ディップ法等の印刷法を挙げることができる。したがって、本開示に係る導電性ペースト組成物は、基材上に印刷機、ディスペンサー、もしくはディッピングにより塗布されて用いることができるものであればよい。
【0074】
本開示に係る導電性ペースト組成物を硬化させる方法も特に限定されず、樹脂成分を構成する(B)エポキシ樹脂および(C)硬化剤の種類に応じて公知の加熱方法を好適に用いることができる。後述する実施例では、評価用サンプルの作製に際して、導電性ペースト組成物を基板上に塗布して、200℃の熱風乾燥機中で60分間加熱しているが、本開示がこの加熱方法に限定されないことはいうまでもない。本開示において、導電性ペースト組成物の硬化物の各種物性を測定または評価する方法は特に限定されず、後述する実施例で例示する方法を好適に用いることができる。
【0075】
本開示に係る導電性ペースト組成物は、加熱により硬化することにより導電性の硬化物を形成する用途に広く好適に用いることができる。代表的には、基材上にパターン化された電極または電気配線を形成する用途を挙げることができる。具体的には、例えば、チップ型電子部品の外部電極;RFID(Radio Frequency IDentification)、電磁波シールド、振動子接着、メンブレンスイッチ、またはエレクトロルミネセンス等に用いられる部品の電極または電気配線;太陽電池セルの集電電極;等の用途に好適に用いることができる。特に本開示に係る導電性ペースト組成物は、電子部品の電極に塗布される用途に好適に用いることができる。
【0076】
このように、本開示に係る導電性ペースト組成物は、(A)導電性粉末および樹脂成分を含有し、樹脂成分は、(B)エポキシ樹脂、(C)硬化剤、および(D)硬化促進剤を含有し、記(B)エポキシ樹脂は、エポキシ当量が500g/eq以上のエポキシ樹脂を、少なくとも1種類含有し、(C)硬化剤は、前述した一般式(1)で示される構造を有する、フェノール類エステル化合物である構成であればよい。
【0077】
前記構成によれば、樹脂成分として含有する(B)エポキシ樹脂には、エポキシ当量が500g/eq以上のものが1種以上用いられるとともに、(C)硬化剤としては、前記一般式(1)のフェノール類エステル化合物を用いている。これにより、得られる導電性ペースト組成物の硬化物は、良好な電気特性を維持しつつ、良好な耐熱衝撃性と良好な耐湿熱性とを両立することができる。それゆえ、硬化後に、良好な耐熱衝撃性と良好な耐湿熱性とを実現することが可能な、樹脂成分としてエポキシ樹脂を含有する導電性ペースト組成物を得ることができる。
【実施例
【0078】
本開示について、実施例および比較例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。なお、以下の実施例における(A)導電性粉末の評価方法、(C)硬化剤としてのフェノール類エステル化合物の合成方法、および硬化物の評価方法は次に示すように行った。
【0079】
[(A)導電性粉末の評価方法]
(1)平均粒径D50
表1に示す(A)導電性粉末の平均粒径D50は,レーザ回折法により評価した。(A)導電性粉末の試料0.3gを50mlビーカーに秤量し、イソプロピルアルコール30mlを加えた後、超音波洗浄器(アズワン株式会社製、製品名:USM-1)により5分間処理することで分散させ、マイクロトラック粒度分布測定装置(日機装株式会社製、製品名:マイクロトラック粒度分布測定装置9320-HRA X-100)を用いて、平均粒径D50を測定して評価した。
【0080】
(2)BET比表面積の評価
表1に示す(A)導電性粉末のBET比表面積は、表面積分析装置(カウンタクローム(Quanta Chrome)社製、製品名:モノソーブ(Monosorb))を用いて評価した。(A)導電性粉末の試料1gを、表面積分析装置に供し、窒素吸着によるBET1点法で比表面積を測定して評価した。なお、当該BET比表面積測定において、測定前の脱気条件は60℃にて10分間とした。
【0081】
(3)タップ密度の評価
表1に示す(A)導電性粉末のタップ密度は、タップ密度測定装置(株式会社柴山科学器械製作所製、製品名:カサ比重測定装置SS-DA-2)を用いて、下記の計算式(3)により評価した。(A)導電性粉末の試料15gを計量して20mlの試験管に入れ、落差20mmで1,000回タッピングし、タップ密度測定装置によりタッピング後の試料容積(cm3 )を測定し、次の計算式(3)によりタップ密度を算出して評価した。
タップ密度=試料質量/タッピング後の試料容積・・・(3)
【0082】
[硬化物の評価方法]
(1)導体抵抗の評価
基材であるアルミナ基板の表面に、実施例または比較例に係る導電性ペースト組成物を用いて、図1に示す導体パターン11をスクリーン印刷した。なお、導体パターン11は、図1に示すように、両端に位置する矩形状の端子11aおよび端子11bと、これら端子11a,11bを接続するつづら折り状の配線部分11cとを有している。導体パターン11が形成されたアルミナ基板を200℃の熱風乾燥機中で60分間加熱することにより、導体パターン11(導電性ペースト組成物)を硬化させた。これにより、導体抵抗の評価用サンプルを作製した。
【0083】
各実施例または各比較例の評価用サンプルについて、硬化後の導体パターン11(硬化物)について、その膜厚を表面粗さ計(株式会社東京精密製、製品名サーフコム480A)で測定し、その電気抵抗をデジタルマルチメータ(株式会社アドバンテスト製、製品名R6551)で測定した。測定された膜厚および電気抵抗と、導体パターン11のアスペクト比とに基づいて、各実施例、各比較例または各参考例の導電性ペースト組成物における硬化物の体積抵抗率(μΩ・cm)を算出して評価した。
【0084】
(2)接続抵抗の評価方法
図2に示すように、スズ(Sn)めっき基板21上に、実施例または比較例の導電性ペースト組成物を直径2.5mmになるようにディスペンサーを用いて塗布し、ペースト層22を形成した。その後、直径5mmの円形の固定面を有する金めっきリベット23をペースト層22上に積層した。このとき、厚み200μmのポリイミドフィルムをスペーサーとして用いることにより、接着剤層22の厚みを200μmに設定した。次に、200℃の熱風乾燥機中でスズめっき基板21を60分間加熱することにより、ペースト層22を硬化させて硬化物層とした。これにより、接続抵抗の評価用サンプル20を作製した。
【0085】
当該評価用サンプル20において錫めっき基板21と金めっきリベット23との間の電気抵抗を、電気抵抗計24(デジタルマルチメータ、株式会社アドバンテスト製、製品名:R6551)で測定して、硬化物層の接続抵抗とした。測定された接続抵抗が0.05Ω未満の場合を「A」、0.05Ω以上の場合を「B」として評価した。
【0086】
(3)耐湿熱性の評価方法
前述した接続抵抗用の評価用サンプルを、温度85℃、湿度85%RHの条件に設定した恒温恒湿器(エスペック株式会社製、商品名:SH-262)に1000時間保管した。保管前後の接続抵抗評価用試験片について、前述した接続抵抗の評価と同様にして接続抵抗を測定した。保管前の初期の抵抗値に対する保管後の抵抗値の変化率が10%未満の場合を「A」、10%以上20%未満の場合を「B」、20%以上の場合を「C」とした。
【0087】
(4)耐熱衝撃性の評価方法
前述した接続抵抗用の評価用サンプルを、冷熱衝撃装置(エスペック株式会社製、商品名:TSE-11-A)を用いて、温度-55℃、+125℃に各30分間保持するヒートサイクルを1000回与えた。ヒートサイクル前後の接続抵抗評価用試験片について、前述した接続抵抗の評価と同様にして接続抵抗を測定した。保管前の初期の抵抗値に対する保管後の抵抗値の変化率が10%未満の場合を「A」、10%以上20%未満の場合を「B」、20%以上の場合を「C」とした。
【0088】
[(A)導電性粉末]
実施例または比較例に係る導電性ペースト組成物では、(A)導電性粉末として、表1に示す3種類の粉末を適宜組み合わせて用いた。なお、各実施例または比較例では、それぞれの(A)導電性粉末を表1に示す略号を用いて表記する。
【0089】
【表1】
【0090】
[樹脂成分]
実施例または比較例に係る導電性ペースト組成物では、樹脂成分として、表2に示す5種類の(B)エポキシ樹脂と4種類の(C)硬化剤とを適宜組み合わせて用いた。また、これら樹脂を硬化させるために、表2に示す(D)硬化促進剤を用いた。なお、各実施例または比較例では、(A)導電性粉末と同様に、それぞれの樹脂、硬化触媒または開始剤を表2に示す略号を用いて表記する。
【0091】
【表2】
【0092】
[フェノール類エステル化合物の合成]
表2に示す(C)硬化剤のうち、フェノール類エステル化合物である、略号C-01のアセチル化フェノールノボラック樹脂、並びに、略号C-02のプロピオン化クレゾールノボラック樹脂は、次に説明する方法で合成(製造)した。
【0093】
(1)略号C-01:アセチル化フェノールノボラック樹脂の合成
温度計、冷却管、窒素導入管、攪拌装置を備えた3リットルの4つ口フラスコにフェノールノボラック樹脂(DIC社製、製品名:PHENOLITE TD-2106(表2の略号C-03)、水酸基当量:106g/eq)212gを投入し、メチルイソブチルケトン500gを加え窒素雰囲気下で攪拌して溶解させた。さらに、当該溶液に対して、無水酢酸210gおよびピリジン200gを加えて溶解させた。その後、当該溶液を50℃で4時間反応させた。続いて、得られた反応液をメチルイソブチルケトン500gで希釈して冷却した。さらにその後、冷却した希釈反応液を蒸留水で十分に水洗し、減圧下で濃縮することにより、略号C-01のアセチル化フェノールノボラック樹脂(エステル化率95%)を得た。
【0094】
(2)略号C-02:プロピオン化クレゾールノボラック樹脂の合成
温度計、冷却管、窒素導入管、攪拌装置を備えた3リットルの4つ口フラスコにクレゾールノボラック樹脂(DIC社製、製品名:PHENOLITE KA-1165(表2の略号C-04)、水酸基当量:119g/eq)238gを投入し、メチルイソブチルケトン500gを加え窒素雰囲気下で攪拌して溶解させた。さらに、当該溶液に対して、無水プロピオン酸267gおよびピリジン200gを加えて溶解させた。その後、当該溶液を50℃で4時間反応させた。続いて、得られた反応液をメチルイソブチルケトン500gで希釈して冷却した。さらにその後、冷却した希釈反応液を蒸留水で十分に水洗し、減圧下で濃縮することにより、略号C-02のプロピオン化クレゾールノボラック樹脂(エステル化率93%)を得た。
【0095】
(実施例1)
(A)導電性粉末としては、表1のうち略号A-01のフレーク状銀粉末と略号A-02の球状銀粉末とを選択した。
【0096】
樹脂成分のうち、(B)エポキシ樹脂としては、エポキシ当量が500g/eq以上である第一のエポキシ樹脂と、エポキシ当量が500g/eq未満である第二のエポキシ樹脂との2種類を用いた。第一のエポキシ樹脂としては、表2のうち略号B-01のエポキシ樹脂(エポキシ当量:3,000g/eq)を選択し、第二のエポキシ樹脂としては、略号B-03のエポキシ樹脂(エポキシ当量:190g/eq)を選択した。
【0097】
樹脂成分のうち、(C)硬化剤としては、表2に示す略号C-01のフェノール類エステル化合物(アセチル化フェノールノボラック樹脂)を選択し、(D)硬化促進剤としては、表2に示す略号D-01のイミダゾール類を用いた。
【0098】
これら(A)~(D)成分を表3に示す組成(配合比)で配合した。なお、表3(および後述の表4および表5)では、2種類の(A)導電性粉末の配合比が合計100質量%となっている。実施例1では、略号A-01のフレーク状銀粉末と略号A-02の球状銀粉末との質量比(A-01/A-02)が50/50となっている。
【0099】
また、表3(および後述の表4および表5)では樹脂成分の組成は、(B)エポキシ樹脂と(C)硬化剤との配合比が合計100質量%となっている。実施例1では、略号B-01の第一のエポキシ樹脂、略号B-03の第二のエポキシ樹脂、および略号C-01の硬化剤との質量比(B-01/B-03/C-01)が25/50/25となっている。
【0100】
なお、(B)エポキシ樹脂における第一のエポキシ樹脂の含有量は33.3質量%(25/(25+75))であり、(C)硬化剤の使用量は、(B)エポキシ樹脂100質量部に対して33.3質量部である。また、表3(および後述の表4および表5)では、(D)硬化促進剤の配合量は、合計100質量部の樹脂成分に対して1質量部である。
【0101】
さらに、表3(および後述の表4および表5)では、(A)導電性粉末と樹脂成分との配合比を質量比で示している。実施例1では、(A)導電性粉末の総量と、樹脂成分である(B)エポキシ樹脂および(C)硬化剤の総量の質量比(固形分質量比(A)/(B)+(C))が93/7となっている。以下の各実施例または各比較例でも同様である。
【0102】
表3で示す組成で配合した(A)~(D)成分を3本ロールミルで混練することにより、実施例1に係る導電性ペースト組成物を調製(製造)した。
【0103】
得られた実施例1に係る導電性ペースト組成物を用いて、前記の通り、導体抵抗の評価用サンプルおよび接続抵抗(および耐湿熱性、耐熱衝撃性)の評価用サンプルを作製(製造)した。これら評価用サンプルを用いて、前述した評価方法により、当該導電性ペースト組成物の硬化物の特性(導体抵抗、接続抵抗、耐湿熱性、および耐熱衝撃性度)を評価した。その結果を表3に示す。
【0104】
(実施例2、3)
(C)硬化剤として、表2に示す略号C-02のフェノール類エステル化合物(プロピオン化クレゾールノボラック樹脂)を選択するか(実施例2)、(B)エポキシ樹脂のうち第一のエポキシ樹脂として、表2に示す略号B-02のエポキシ樹脂(エポキシ当量:8,000g/eq)を選択するとともに、第二のエポキシ樹脂として、表2に示すB-04のエポキシ樹脂(エポキシ当量:170g/eq)を選択した(実施例3)以外は、実施例1と同様にして、実施例2または実施例3に係る導電性ペースト組成物を調製(製造)した。
【0105】
得られた実施例2、3に係る導電性ペースト組成物をそれぞれ用いて、前記の通り、評価用サンプルを作製(製造)した。これら評価用サンプルを用いて、前述した評価方法により、当該導電性ペースト組成物の硬化物の特性を評価した。その結果を表3に示す。
【0106】
(実施例4~6)
(A)導電性粉末の配合比をA-01/A-02=30/70とするか(実施例4)、(B)エポキシ樹脂のうち第二のエポキシ樹脂として、略号B-03のエポキシ樹脂を選択するとともに、固形分質量比を(A)/(B)+(C)=90/10とするか(実施例5)、第二のエポキシ樹脂として略号B-03のエポキシ樹脂を選択するとともに、(C)硬化剤として略号C-02のフェノール類エステル化合物を選択した(実施例6)以外は、実施例3と同様にして、実施例4~6に係る導電性ペースト組成物を調製(製造)した。
【0107】
得られた実施例4~6に係る導電性ペースト組成物をそれぞれ用いて、前記の通り、評価用サンプルを作製(製造)した。これら評価用サンプルを用いて、前述した評価方法により、当該導電性ペースト組成物の硬化物の特性を評価した。その結果を表3に示す。
【0108】
(実施例7)
(B)エポキシ樹脂のうち第二のエポキシ樹脂として、表2に示す略号B-05のエポキシ樹脂(エポキシ当量:190g/eq)を選択するとともに、固形分質量比を(A)/(B)+(C)=95/5とした以外は、実施例1と同様にして、実施例7に係る導電性ペースト組成物を調製(製造)した。
【0109】
得られた実施例7に係る導電性ペースト組成物を用いて、前記の通り、評価用サンプルを作製(製造)した。これら評価用サンプルを用いて、前述した評価方法により、当該導電性ペースト組成物の硬化物の特性を評価した。その結果を表3に示す。
【0110】
【表3】
【0111】
(実施例8~10)
(B)エポキシ樹脂のうち第二のエポキシ樹脂として略号B-05のエポキシ樹脂を選択するとともに、第一のエポキシ樹脂、第二のエポキシ樹脂、および(C)硬化剤の質量比をB-02/B-05/C-01)が30/50/20とするか(実施例8)、第二のエポキシ樹脂として略号B-03のエポキシ樹脂を選択するとともに、第一のエポキシ樹脂、第二のエポキシ樹脂、および(C)硬化剤の質量比をB-02/B-03/C-01)が25/55/20とし、さらに、固形分質量比を(A)/(B)+(C)=85/15とするか(実施例9)、(A)導電性粉末として、略号A-01のフレーク状銀粉末および略号A-02の球状銀粉末に加えて、表1に示す略号A-03の銀コート銅粉末(銅粉末に対する銀のコート量:10質量%)を用いて、これら(A)導電性粉末の質量比(配合比)をA-01/A-02/A-03=30/30/40とした(実施例10)以外は、実施例3と同様にして、実施例8~10に係る導電性ペースト組成物を調製(製造)した。
【0112】
なお、実施例8では、(B)エポキシ樹脂における第一のエポキシ樹脂の含有量は37.5質量%(30/(30+50))であり、(C)硬化剤の使用量は、(B)エポキシ樹脂100質量部に対して25質量部である。
【0113】
得られた実施例8に係る導電性ペースト組成物を用いて、前記の通り、評価用サンプルを作製(製造)した。これら評価用サンプルを用いて、前述した評価方法により、当該導電性ペースト組成物の硬化物の特性を評価した。その結果を表4に示す。
【0114】
(実施例9)
第二のエポキシ樹脂として略号B-03のエポキシ樹脂を選択するとともに、第一のエポキシ樹脂、第二のエポキシ樹脂、および(C)硬化剤の質量比をB-02/B-03/C-01)が25/55/20とし、さらに、固形分質量比を(A)/(B)+(C)=85/15とした以外は、実施例4と同様にして、実施例9に係る導電性ペースト組成物を調製(製造)した。なお、実施例9では、(C)硬化剤の使用量は、(B)エポキシ樹脂100質量部に対して26.6質量部である。
【0115】
得られた実施例9に係る導電性ペースト組成物を用いて、前記の通り、評価用サンプルを作製(製造)した。これら評価用サンプルを用いて、前述した評価方法により、当該導電性ペースト組成物の硬化物の特性を評価した。その結果を表4に示す。
【0116】
(実施例10)
(A)導電性粉末として、略号A-01のフレーク状銀粉末および略号A-02の球状銀粉末に加えて、表1に示す略号A-03の銀コート銅粉末(銅粉末に対する銀のコート量:10質量%)を用いて、これら(A)導電性粉末の質量比(配合比)をA-01/A-02/A-03=30/30/40とした(実施例10)以外は、実施例3と同様にして、実施例8~10に係る導電性ペースト組成物を調製(製造)した。
【0117】
得られた実施例10に係る導電性ペースト組成物を用いて、前記の通り、評価用サンプルを作製(製造)した。これら評価用サンプルを用いて、前述した評価方法により、当該導電性ペースト組成物の硬化物の特性を評価した。その結果を表4に示す。
【0118】
(実施例11)
(B)エポキシ樹脂として、第一のエポキシ樹脂である略号B-01のエポキシ樹脂のみを用い、第一のエポキシ樹脂と(C)硬化剤との質量比をB-01/C-01=95/5とした以外は、実施例1と同様にして、実施例11に係る導電性ペースト組成物を調製(製造)した。なお、実施例11では、(B)エポキシ樹脂における第一のエポキシ樹脂の含有量は100質量%であり、(C)硬化剤の使用量は、(B)エポキシ樹脂100質量部に対して5.2質量部である。
【0119】
得られた実施例11に係る導電性ペースト組成物を用いて、前記の通り、評価用サンプルを作製(製造)した。これら評価用サンプルを用いて、前述した評価方法により、当該導電性ペースト組成物の硬化物の特性を評価した。その結果を表4に示す。
【0120】
(実施例12)
(B)エポキシ樹脂として、略号B-01のエポキシ樹脂と略号B-02のエポキシ樹脂とを、質量比でB-01/B-02=50/45となるように併用した以外は、実施例11と同様にして、実施例12に係る導電性ペースト組成物を調製(製造)した。なお、実施例12では、(B)エポキシ樹脂における第一のエポキシ樹脂の含有量は52.6質量%(50/(50+45))であり、(C)硬化剤の使用量は、(B)エポキシ樹脂100質量部に対して5.2質量部である。
【0121】
得られた実施例12に係る導電性ペースト組成物を用いて、前記の通り、評価用サンプルを作製(製造)した。これら評価用サンプルを用いて、前述した評価方法により、当該導電性ペースト組成物の硬化物の特性を評価した。その結果を表4に示す。
【0122】
(実施例13、14)
(A)導電性粉末の配合比をA-01/A-02=70/30とするとともに、第一のエポキシ樹脂の質量比をB-01/B-02=48/48とし、さらに、固形分質量比を(A)/(B)+(C)=87/13とするか(実施例13)、(A)導電性粉末の配合比をA-01/A-02=20/80とするとともに、第一のエポキシ樹脂の質量比をB-01/B-02=70/25とし、さらに、固形分質量比を(A)/(B)+(C)=91/9とした(実施例14)以外は、実施例11と同様にして、実施例13または実施例14に係る導電性ペースト組成物を調製(製造)した。
【0123】
なお、実施例13では、(B)エポキシ樹脂における第一のエポキシ樹脂の含有量は50質量%(48/(48+48))であり、(C)硬化剤の使用量は、(B)エポキシ樹脂100質量部に対して4.1質量部である。また、実施例14では、(B)エポキシ樹脂における第一のエポキシ樹脂の含有量は、73.6質量%(70/(70+25))であり、(C)硬化剤の使用量は、(B)エポキシ樹脂100質量部に対して5.2質量部である。
【0124】
得られた実施例13、14に係る導電性ペースト組成物をそれぞれ用いて、前記の通り、評価用サンプルを作製(製造)した。これら評価用サンプルを用いて、前述した評価方法により、当該導電性ペースト組成物の硬化物の特性を評価した。その結果を表4に示す。
【0125】
【表4】
【0126】
(比較例1、2)
(C)硬化剤として、フェノール類エステル化合物を用いずに、表2に示す略号C-03のフェノールノボラック樹脂(水酸基当量:104g/eq,比較例1)、または、表2に示す略号C-04のクレゾールノボラック樹脂(水酸基当量:119g/eq,比較例2)を選択した以外は、実施例1と同様にして、比較例1または比較例2に係る導電性ペースト組成物を調製(製造)した。
【0127】
得られた比較例1、2に係る導電性ペースト組成物をそれぞれ用いて、前記の通り、評価用サンプルを作製(製造)した。これら評価用サンプルを用いて、前述した評価方法により、当該導電性ペースト組成物の硬化物の特性を評価した。その結果を表5に示す。
【0128】
(比較例3)
(C)硬化剤として、フェノール類エステル化合物を用いずに略号C-03のフェノールノボラック樹脂を選択した以外は、実施例5と同様にして、比較例3に係る導電性ペースト組成物を調製(製造)した。
【0129】
得られた比較例3に係る導電性ペースト組成物を用いて、前記の通り、評価用サンプルを作製(製造)した。これら評価用サンプルを用いて、前述した評価方法により、当該導電性ペースト組成物の硬化物の特性を評価した。その結果を表5に示す。
【0130】
(比較例4)
(B)エポキシ樹脂として、エポキシ当量が500g/eq以上である第一のエポキシ樹脂を用いずに、略号B-03の第二のエポキシ樹脂のみを選択して、(C)硬化剤として、フェノール類エステル化合物である略号C-01のアセチル化フェノールノボラック樹脂を用い、第二のエポキシ樹脂と(C)硬化剤との質量比をB-03/C-01=65/35とした以外は、実施例1と同様にして、比較例4に係る導電性ペースト組成物を調製(製造)した。
【0131】
得られた比較例4に係る導電性ペースト組成物を用いて、前記の通り、評価用サンプルを作製(製造)した。これら評価用サンプルを用いて、前述した評価方法により、当該導電性ペースト組成物の硬化物の特性を評価した。その結果を表5に示す。
【0132】
(比較例5、6)
第二のエポキシ樹脂として、略号B-05のエポキシ樹脂を選択するとともに、(C)硬化剤として、フェノール類エステル化合物である略号C-02のプロピオン化クレゾールノボラック樹脂を用いるか(比較例5)、略号B-05のエポキシ樹脂を選択するとともに、(C)硬化剤として、フェノール類エステル化合物ではない略号C-03のフェノールノボラック樹脂を選択した以外は、比較例4と同様にして、比較例5または比較例6に係る導電性ペースト組成物を調製(製造)した。
【0133】
得られた比較例5、6に係る導電性ペースト組成物をそれぞれ用いて、前記の通り、評価用サンプルを作製(製造)した。これら評価用サンプルを用いて、前述した評価方法により、当該導電性ペースト組成物の硬化物の特性を評価した。その結果を表5に示す。
【0134】
(比較例7)
(C)硬化剤として、フェノール類エステル化合物ではない略号C-03のフェノールノボラック樹脂を選択した以外は、実施例11と同様にして、比較例7に係る導電性ペースト組成物を調製(製造)した。
【0135】
得られた比較例7に係る導電性ペースト組成物を用いて、前記の通り、評価用サンプルを作製(製造)した。これら評価用サンプルを用いて、前述した評価方法により、当該導電性ペースト組成物の硬化物の特性を評価した。その結果を表5に示す。
【0136】
【表5】
【0137】
(実施例および比較例の対比)
実施例1~14の結果から明らかなように、(B)エポキシ樹脂として、エポキシ当量が500g/eq以上である第一のエポキシ樹脂を含有するとともに、(C)硬化剤として、前記一般式(1)で示すフェノール類エステル化合物を用いることにより、得られる硬化物は、良好な電気特性(導体抵抗および接続抵抗)を実現できるとともに、良好な耐湿熱性および良好な耐熱衝撃性を両立することができる。
【0138】
また、実施例1~10の結果から明らかなように(B)エポキシ樹脂として、第一のエポキシ樹脂とともに、エポキシ当量が500g/eq未満である第二のエポキシ樹脂を併用することで、電気特性、耐湿熱性および耐熱衝撃性をいずれも良好なものにすることができる。あるいは、実施例11~14の結果から明らかなように、(B)エポキシ樹脂として、第一のエポキシ樹脂のみを用いても、電気特性、耐湿熱性および耐熱衝撃性をいずれも良好なものにすることができる。
【0139】
これに対して、比較例1~3の結果から明らかなように、(C)硬化剤として一般式(1)で示すフェノール類エステル化合物を用いない場合には、良好な耐熱衝撃性を実現できなくなる。また、比較例4、5の結果から明らかなように、(C)硬化剤として一般式(1)で著される構造を有するフェノール類エステル化合物を用いても、エポキシ当量が500g/eq以上である第一のエポキシ樹脂を用いない場合には、良好な耐湿熱性を実現できなくなる。
【0140】
さらに、比較例6の結果から明らかなように、(C)硬化剤として一般式(1)で示すフェノール類エステル化合物を用いず、かつ、第一のエポキシ樹脂も用いない場合には、良好な耐熱衝撃性を実現できなくなる。また、比較例7の結果から明らかなように、第一のエポキシ樹脂のみを用いても、(C)硬化剤として一般式(1)で示すフェノール類エステル化合物を用いなければ、良好な耐湿熱性を実現できなくなる。
【0141】
比較例1~7の結果に基づけば、(B)エポキシ樹脂として、第一のエポキシ樹脂も用いないか、(C)硬化剤として一般式(1)で示すフェノール類エステル化合物を用いない場合には、良好な電気特性を実現可能であるものの、耐湿熱性または耐熱衝撃性のいずれかを良好にできないことがわかる。
【0142】
なお、本発明は前記実施の形態の記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態や複数の変形例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0143】
本発明は、電気機器分野または電子機器分野において、導電性を有する硬化物を形成する分野に広く好適に用いることができる。代表的には、例えば、電子部品の電極に、印刷機、ディスペンサー、もしくはディッピングにより塗布されて形成される導電層を形成する分野に広く好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0144】
11:導体パターン
11a,11b:端子
11c:配線部分
20:評価用サンプル
21:スズめっき基板
22:ペースト層(または硬化物層)
23:金めっきリベット
24:電気抵抗計
【要約】      (修正有)
【課題】硬化後に、良好な耐熱衝撃性と良好な耐湿熱性とを実現可能な、樹脂成分としてエポキシ樹脂を含有する導電性ペースト組成物を提供する。
【解決手段】導電性ペースト組成物は、(A)導電性粉末と、樹脂成分である(B)エポキシ樹脂、(C)硬化剤、および(D)硬化促進剤とを含有する。(C)硬化剤は、次式で表される構造を有するフェノール類エステル化合物である。式中Rは、炭素数1~10のアルキル基、フェニル基、アラルキル基、アルコキシル基、ハロゲン原子である。式中Xは水素原子または-C(=O)-Aで表されるエステル構造(Aは炭素数1~6のアルキル基)である。式中Zは炭素数1~15の2価の炭化水素基である。式中mは0~4の整数であり、nは平均値で0~2の数である。

【選択図】なし
図1
図2