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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-10
(45)【発行日】2024-01-18
(54)【発明の名称】アマモの育成方法及びアマモの育成装置
(51)【国際特許分類】
   A01G 33/00 20060101AFI20240111BHJP
【FI】
A01G33/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023148293
(22)【出願日】2023-09-13
【審査請求日】2023-09-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519423459
【氏名又は名称】春田 杏果
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】春田 杏果
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-050023(JP,A)
【文献】特開2005-348696(JP,A)
【文献】特開2005-143306(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水を貯める水槽と、
その海水を冷却する水槽クーラーと、
その海水に酸素を送るエアレーションと、
その海水を浄化する浄化装置と、
その水槽内に光を照射するLED照射装置と、
その水槽を内部に載置する容器と、
その容器の内部にその水槽とともに載置する発芽用ケースと
を用いたアマモの育成方法であり、
その発芽用ケースには発芽水を貯め、
その水槽クーラーによる冷却によってその水槽の外面に発生する結露水を、その容器の内部に貯め、
その容器の内部に貯まったその結露水によってその発芽用ケースを冷却し、
その水槽の内部に、発芽後のアマモを植えたポットを沈めて、そのアマモの葉を成長させ、
その発芽用ケースに、発芽前のアマモの種子を入れて、その種子を発芽させる
ことを特徴とするアマモの育成方法。
【請求項2】
発芽前のそのアマモのその種子は、水温25℃以上の海水で熟成させたものとした
ことを特徴とする請求項1に記載のアマモの育成方法。
【請求項3】
その発芽水として、窒素とリン酸を含む肥料又は米酢を添加した真水を用いた
ことを特徴とする請求項1に記載のアマモの育成方法。
【請求項4】
その発芽水として、炭酸水を用いた
ことを特徴とする請求項1に記載のアマモの育成方法。
【請求項5】
その結露水によって、その発芽用ケースを16℃~22℃の範囲に保つ
ことを特徴とする請求項1に記載のアマモの育成方法。
【請求項6】
海水を貯めて発芽後のアマモの葉を成長させる水槽と、
その海水を冷却する水槽クーラーと、
その海水に酸素を送るエアレーションと、
その海水を浄化する浄化装置と、
その水槽内に光を照射するLED照射装置と、
発芽水を貯めて発芽前のアマモの種子を発芽させる発芽用ケースと
その水槽及びその発芽用ケースを内部に載置する容器と、
を用い、
その水槽クーラーによる冷却によってその水槽の外面に発生する結露水を、その容器の内部に貯め、
その容器の内部に貯まったその結露水によってその発芽用ケースを冷却する
ことを特徴とするアマモの育成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、季節に関係なくアマモの種子を発芽させて育成できる方法と、その方法を実現できる装置に関するものです。
【背景技術】
【0002】
今まで、私は、家族の困りごとや自分の困りごとを解決するためのグッズを発明してきました。しかし、今回はもっと視野を広げて自分や家族といった特定の人だけでなく、社会に役立つものを考えてみようと思いました。現在、社会問題になっていることを調べてみると「環境問題」というキーワードが目に留まりました。その中でも海の問題について色々と調べていくうちに「アマモ」という種子植物の海草の存在を知りました。アマモは、海の浅瀬に生息する植物で海のリン酸や窒素などの栄養素を吸収し育成するため、海水の水質の浄化を促し、光合成によって酸素を作り出してアマモの群生によって稚魚や稚貝が集まる生物の生息環境を改善する働きがあるそうで、「海のゆりかご」とも呼ばれる重要な植物であるそうです。しかし、近年海の埋め立てや海水の透明度の低下、化学物質の流入など環境破壊によってアマモが減少してきています。アマモが減っていくと、海の生き物たちに大きく影響が出てきてしまいます。そのため、アマモを一年中どの時期でも、人工的に発芽、育成をさせて増やせればいいのではないかと考えました。
まず初めに、どのようにしてアマモが発芽、育成するのかを調べました。その結果、アマモは種子植物なので、春から6月に海の中に種を落とし、それが波などによって砂の中に入り10月から11月ごろまで熟成し、12月から2月に発芽して冬に成長し、自然に成長を繰り返していることを知りました。
なお、特許文献1では、コアマモ種子を高い発芽率で発芽させるための条件や、コアマモを良好に繁殖させてアマモ場を修復・再生するための条件を特定することにより、コアマモを含むアマモ場生態系を造成する方法が提案されています。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-90599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自然環境では、決まった時期(冬)にしか発芽しない上に、環境破壊でなかなか種子が自然に発芽・自生しにくくなっているアマモをどうにかして一年中どのタイミングでも発芽、育成させることができれば、成長したアマモをたくさん海に還せると考えました。
【0005】
本発明は、一年中どのタイミングでもアマモを発芽させ、発芽後のアマモの葉を育成させることを目的とします。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の本発明のアマモの育成方法は、海水を貯める水槽10と、その海水を冷却する水槽クーラー20と、その海水に酸素を送るエアレーション30と、その海水を浄化する浄化装置40と、その水槽10内に光を照射するLED照射装置50と、その水槽10を内部に載置する容器70と、その容器70の内部にその水槽10とともに載置する発芽用ケース60とを用いたアマモの育成方法であり、その発芽用ケース60には発芽水を貯め、その水槽クーラー20による冷却によってその水槽10の外面に発生する結露水を、その容器70の内部に貯め、その容器70の内部に貯まったその結露水によってその発芽用ケース60を冷却し、その水槽10の内部に、発芽後のアマモを植えたポット11を沈めて、そのアマモの葉を成長させ、その発芽用ケース60に、発芽前のアマモの種子を入れて、その種子を発芽させることを特徴とします。
請求項2記載の本発明は、請求項1に記載のアマモの育成方法において、発芽前のそのアマモのその種子は、水温25℃以上の海水で熟成させたものとしたことを特徴とします。
請求項3記載の本発明は、請求項1に記載のアマモの育成方法において、その発芽水として、窒素とリン酸を含む肥料又は米酢を添加した真水を用いたことを特徴とします。
請求項4記載の本発明は、請求項1に記載のアマモの育成方法において、その発芽水として、炭酸水を用いたことを特徴とします。
請求項5記載の本発明は、請求項1に記載のアマモの育成方法において、その結露水によって、その発芽用ケース60を16℃~22℃の範囲に保つことを特徴とします。
請求項6記載の本発明のアマモの育成装置は、海水を貯めて発芽後のアマモの葉を成長させる水槽10と、その海水を冷却する水槽クーラー20と、その海水に酸素を送るエアレーション30と、その海水を浄化する浄化装置40と、その水槽10内に光を照射するLED照射装置50と、発芽水を貯めて発芽前のアマモの種子を発芽させる発芽用ケース60とその水槽10及びその発芽用ケース60を内部に載置する容器70と、を用い、その水槽クーラー20による冷却によってその水槽10の外面に発生する結露水を、その容器70の内部に貯め、その容器70の内部に貯まったその結露水によってその発芽用ケース60を冷却することを特徴とします。
【発明の効果】
【0007】
本発明のアマモの育成方法によれば、水槽の外面に発生する結露水を、容器の内部に貯め、容器の内部に貯まった結露水によって発芽用ケースを冷却することで、水槽ではアマモの葉を成長させ、発芽用ケースではアマモの種子を発芽させることができ、一年中どのタイミングでも発芽、育成させることができ、成長したアマモをたくさん海に還すことができます。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施例によるアマモの育成装置を示す写真
図2】同アマモの育成装置に用いる容器、水槽、及び発芽用ケースの写真
図3】(a)は持ち帰ったアマモの写真、図3(b)及び図3(c)はアマモの種子の熟成期間の写真
図4】60日間の熟成期間における日中最高気温を示す表
図5】発芽実験を説明するための写真
図6】発芽実験結果を示す表
図7】発芽に対する光の影響を調べた結果を示す表
図8】発芽に使った液体の成分を変えた実験結果を示す表
図9図6で使った「健康ドリンク」に含まれている水質改善セラミックスによって改質した水の発芽への影響を調べた実験結果を示す表
図10図6で使った「健康ドリンク」に含まれているリンゴ酢の発芽への影響を調べた実験結果を示す表
図11】更に異なる液体での発芽への影響を調べた実験結果を示す表
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の第1の実施の形態によるアマモの育成方法は、海水を貯める水槽と、その海水を冷却する水槽クーラーと、その海水に酸素を送るエアレーションと、その海水を浄化する浄化装置と、その水槽内に光を照射するLED照射装置と、その水槽を内部に載置する容器と、その容器の内部にその水槽とともに載置する発芽用ケースとを用いたアマモの育成方法であり、その発芽用ケースには発芽水を貯め、その水槽クーラーによる冷却によってその水槽の外面に発生する結露水を、その容器の内部に貯め、その容器の内部に貯まったその結露水によって発芽用ケースを冷却し、その水槽の内部に、発芽後のアマモを植えたポットを沈めて、アマモの葉を成長させ、その発芽用ケースに、発芽前のアマモの種子を入れて、その種子を発芽させるものです。
このように、水槽の外面に発生する結露水を、容器の内部に貯め、容器の内部に貯まった結露水によって発芽用ケースを冷却することで、水槽ではアマモの葉を成長させ、発芽用ケースではアマモの種子を発芽させることができ、一年中どのタイミングでも発芽、育成させることができ、成長したアマモをたくさん海に還すことができます。
【0010】
本発明の第2の実施の形態は、第1の実施の形態によるアマモの育成方法において、発芽前のそのアマモの種子は、水温25℃以上の海水で熟成させたものとしたものです。
このように、発芽前のアマモの種子を熟成させることができるので、海中で生息している花枝を採取しなくてよく、自生しているアマモを傷つけることなく、砂浜に打ち上げられたアマモを利用して、発芽、育成させることができます。
【0011】
本発明の第3の実施の形態は、第1の実施の形態によるアマモの育成方法において、その発芽水として、窒素とリン酸を含む肥料又は米酢を添加した真水を用います。
このように、窒素とリン酸を含む肥料又は米酢を添加した真水を発芽水として用いることで、海水と比較して発芽までの日数を少なくすることができました。
【0012】
本発明の第4の実施の形態は、第1の実施の形態によるアマモの育成方法において、その発芽水として、炭酸水を用います。
このように、炭酸水を発芽水として用いることで、海水と比較して発芽までの日数を少なくすることができました。
【0013】
本発明の第5の実施の形態は、第1の実施の形態によるアマモの育成方法において、その結露水によって、その発芽用ケースを16℃~22℃の範囲に保つものです。
このように、結露水を利用して発芽を促す温度にすることができます。
【0014】
本発明の第6の実施の形態によるアマモの育成装置は、海水を貯めて発芽後のアマモの葉を成長させる水槽と、その海水を冷却する水槽クーラーと、その海水に酸素を送るエアレーションと、その海水を浄化する浄化装置と、その水槽内に光を照射するLED照射装置と、発芽水を貯めて発芽前のアマモの種子を発芽させる発芽用ケースとその水槽及びその発芽用ケースを内部に載置する容器と、を用い、その水槽クーラーによる冷却によってその水槽の外面に発生する結露水を、その容器の内部に貯め、その容器の内部に貯まったその結露水によってその発芽用ケースを冷却するものです。
このように、水槽の外面に発生する結露水を、容器の内部に貯め、容器の内部に貯まった結露水によって発芽用ケースを冷却することで、水槽ではアマモの葉を成長させ、発芽用ケースではアマモの種子を発芽させることができますので、それぞれの家庭でも、アマモを発芽させて育成することができます。
【実施例
【0015】
図1及び図2は本発明のアマモの育成装置を示す写真です。
図1(a)は装置全体の写真、図1(b)はLEDを点灯させた状態の写真、図1(c)は遮光材で覆った状態の写真です。
図2は、容器、水槽、及び発芽用ケースの写真で、図2(a)は斜め上からの写真、図2(b)は上からの写真です。
図1に示すように、アマモの育成装置は、海水を貯めて発芽後のアマモの葉を成長させる水槽10と、海水を冷却する水槽クーラー20と、海水に酸素を送るエアレーション30と、海水を浄化する浄化装置40と、水槽10内に光を照射するLED照射装置50と、発芽水を貯めて発芽前のアマモの種子を発芽させる発芽用ケース60(図2参照)と、水槽10及び発芽用ケース60を内部に載置する容器70とを備えています。
LED照射装置50は、水槽10の上方に、水槽10から所定の距離離した位置としています。LED照射装置50を水槽10から離すことで、LEDによる熱の影響を少なくしています。
LED照射装置50は、タイマー51によって照射時刻を設定します。
図1(c)に示すように、水槽10、発芽用ケース60、容器70、及びLED照射装置50は、遮光材80で覆うことができるようにしています。
このように、水槽10、発芽用ケース60、容器70、及びLED照射装置50を遮光材80で覆うことで、室内照明の影響を受けずに、LED照射装置50による光環境を管理できます。また、居住者に対するLED照射装置50の影響を無くすことができます。
【0016】
図2に示すように、容器70に水槽10を入れ、容器70の空いた空間に発芽用ケース60を入れます。
水槽10内の海水は、水槽クーラー20によって冷却されます。そして、水槽クーラー20による冷却によってその水槽10の外面には結露水が発生します。水槽10の外面に発生する結露水を容器70内に貯めます。図2(a)のAは容器70内に貯まった結露水の水面です。
発芽用ケース60は、容器70の内部に貯まった結露水によって冷却されます。
発芽用ケース60には、発芽水とともに、発芽前のアマモの種子を入れています。発芽用ケース60では、その種子を発芽させます。
発芽用ケース60に入れる発芽前のアマモの種子は、水温25℃以上の海水で熟成させています。このように、発芽前のアマモの種子を熟成させることができるので、海中で生息している花枝を採取しなくてよく、自生しているアマモを傷つけることなく、砂浜に打ち上げられたアマモを利用して、発芽、育成させることができます。
【0017】
図2では、10個の発芽用ケース60を容器70に入れた状態を写しています。
なお、図2(b)に示すように、水槽10の内部には、発芽後のアマモを植えたポット11を沈めています。発芽後のアマモは、ポット11に植えられた状態で葉を成長させます。複数のポット11は、一列に、又は複数列で繋がっています。このように、複数のポット11を繋がった状態としておくことで、海に移植した後にアマモの根が絡み合って定着しやすくなります。ポット11は、生分解性素材を原料としたものを使います。例えば、ピートモスで作られたジフィーポットが好ましいです。
【0018】
発芽前のアマモの種子
海の砂浜に打ち上げられたアマモを持ち帰り(図3(a))、外光、海水中で60日間熟成させました(図3(b)、図3(c))。
図3(a)は持ち帰ったアマモの写真、図3(b)及び図3(c)は熟成期間の写真です。
図4は60日間の熟成期間における日中最高気温を示す表です。熟成期間中は、学校図書館でバケツを利用しましたが、バケツ内の水温は、外気温より2℃程度低い温度でした。なお、熟成中、バケツ内はエアレーションを行いました。
図3(b)の状態で最低60日間熟成させた花枝からピンセットで種子を採取しました。
なお、発芽させない種子は、例えば冷蔵庫を利用し、光が入らないようにして冷蔵温度で保管します。発芽させたいときには、いつでも冷蔵庫から取り出して発芽用ケース60で発芽させることができます。
次年度の6月に新しい花枝を採るまで(正確には、花枝を採取した後、更に熟成60日が経過するまで)は、いつでもこの種子を利用して、1年中を通して発芽、育成が可能となります。
【0019】
アマモの発芽条件
図5は発芽実験を説明するための写真で、図6は発芽実験結果を示す表です。
アマモの種子の発芽適正温度は、日本の地域によってかなり異なりますが、11℃以上15℃以下であることが好ましく、13℃が最適と考えましたが、夏でも発芽が可能かを調べるために、発芽用ケース60の温度を20℃前後に保ちました。アマモの種子を発芽用ケース60に移す前には、図4のように、平均水温30℃の海水にアマモの種子を漬けていたので、水温差は約10℃です。
発芽用ケース60の冷却には、水槽クーラー20で、約13℃に冷やした水槽10の結露水を利用しました。発芽用ケース60は、容器70の空いた空間に入れました。発芽用ケース60の中には炭を入れました。図5(b)~(d)に映っている黒い塊が炭です。
発芽に対する影響を比較するために、真水、海水、健康ドリンク(FFCパイロゲン 株式会社赤塚)を真水に1000倍希釈で混ぜた発芽水、肥料(粉を水で溶かした水耕栽培用液体肥料のハイポネックス 株式会社ハイポネックスジャパン)を真水に極微量混ぜた発芽水、炭酸水(ウィルキンソン アサヒ飲料株式会社)を用いました。
真水と海水については、種子が、白色、茶色、黒色の3種類に分けて実験を行いました。種子が黒色のものが熟成した種子と言われています。健康ドリンク、肥料、及び炭酸水については、白色、茶色、黒色の種子を区別していません。図6では「MIX」と表示しました。
すべての発芽用ケース60には炭を入れ、LED照射装置50によって1日12時間光を照射しました。
【0020】
図6に実験結果を示します。
まず、海水と真水を比較すると、海水に対して真水の発芽率が高くなっています。このことから、真水を発芽水として用いると発芽率が高まることが分かりました。
健康ドリンクを真水に混ぜた発芽水については18時間で発芽が確認でき、6日経過後で88%の発芽率となりました。また、肥料を真水に混ぜた発芽水についても、2日で発芽が確認でき、6日経過時点で50%の発芽率となりました。炭酸水を発芽水とした場合では、3日目で発芽が確認でき、6日経過時点で88%の発芽率となりました。炭酸水については、4日目、5日目、6日目、7日目に交換しました。交換によって発芽が増えていることから、炭酸の影響が大きいと考えられます。アマモの成長要件には、N(窒素)、P(リン酸)、Si(ケイ素)の他にCO(二酸化炭素)が含まれます。CO(二酸化炭素)は自然の状態でも存在していますが、高い濃度のCO(二酸化炭素)環境が発芽に影響したと考えられます。
肥料及び炭酸水でも発芽が確認できました。
また、真水の方が、海水よりも早く発芽しています。
【0021】
図7は、発芽に対する光の影響を調べた結果です。
発芽用ケース60の温度は20℃前後に保ち、発芽用ケース60には炭を入れ、LED照射装置50による照射が当たらないように発芽用ケース60をアルミ箔で覆いました。
図6に示す発芽実験結果から、発芽率が高かった健康ドリンクを混ぜた発芽水を用いました。
17時間で発芽が確認でき、3日経過後で67%の発芽率となりました。このことから、発芽には光は必要ないと考えます。
【0022】
図8は、発芽水の成分を変えた実験結果です。
発芽用ケース60の温度は20℃前後に保ち、発芽用ケース60には炭を入れ、LED照射装置50によって1日12時間光を照射しました。
「バラ:N、P、Si、CO」と表示している液体には、バラの肥料、市販のシリカ水、炭酸水を用いました。使ったバラの肥料は、N(窒素)10:P(リン酸)13:K(カリウム)6:Mg(マグネシウム)1の配合比です。N(窒素)とP(リン酸)が高配合なのでバラの肥料を使いました。
液体は、炭酸水(ウィルキンソン アサヒ飲料株式会社)70%、シリカ水30%で混ぜました。
「黒米酢+水」と表示している液体には、玄米酢を真水に一滴入れました。図6で使った「健康ドリンク」には、米酢が含まれていたことから、米酢の発芽への影響を確認するためです。
「塩こうじ+真水」と表示している液体には、塩こうじを真水に極微量入れました。
「ヨーグルト」と表示している液体には、水に薄めずヨーグルト(明治プロビオヨーグルトLG21 株式会社明治)だけを使いました。
図8に示すように、「バラ:N、P、Si、CO」と「黒米酢+水」については、発芽効果があったので、発芽水として利用することができます。
一方で、「塩こうじ+真水」と「ヨーグルト」については、発芽しませんでした。「ヨーグルト」は粘性がなくなり腐敗しているような状態になったため、実験を中止しました。
【0023】
図9は、図6で使った「健康ドリンク」に含まれている水質改善セラミックスによって改質した水(FFCウオーター 株式会社赤塚)の発芽への影響を調べた実験結果です。
図9で使用した液体は、水道水に水質改善セラミックス(パイロバス 株式会社赤塚)を入れて水質改善処理をしたものです。
図9に示すように、水質改善セラミックスによって改質した水では、発芽には影響していません。
【0024】
図10は、図6で使った「健康ドリンク」に含まれているリンゴ酢の発芽への影響を調べた実験結果です。
リンゴ酢には、有機リンゴ酢100%を、真水に1滴入れました。
図10に示すように、有機リンゴ酢を入れた水では、発芽には影響していません。
【0025】
図8に示す「黒米酢+水」の結果と、図9に示す「水質改善セラミックスによって改質した水」の結果と、図10に示す「リンゴ酢」の結果とから、「健康ドリンク」に含まれている米酢が発芽に影響したと考えられます。
【0026】
図11は、更に異なる液体での発芽への影響を調べた実験結果です。
「ハ:N、P、Si、CO」と表示している液体には、肥料(粉を水で溶かした水耕栽培用液体肥料のハイポネックス 株式会社ハイポネックスジャパン)と、炭酸水(ウィルキンソン アサヒ飲料株式会社)と、シリカ水とを用いました。
肥料(粉を水で溶かした水耕栽培用液体肥料のハイポネックス 株式会社ハイポネックスジャパン)には、N(窒素)とP(リン酸)とが、N(窒素)6.5:P(リン酸)6の配合比で含まれています。
液体は、炭酸水(ウィルキンソン アサヒ飲料株式会社)70%、シリカ水30%で混ぜ、肥料は極微量加えました。
図11に示すように、「ハ:N、P、Si、CO」については、発芽効果があったので、発芽水として利用することができます。
【0027】
アマモを植えるポットの砂について
アマモの生育には、N(窒素)、P(リン酸)、Si(ケイ素)を根から吸収させる必要があります(水耕栽培法)。
相模原市の水道局に確認すると、水道水にはケイ素が含まれているとのことだったので、水道水に含まれるケイ素で良いと判断しました。窒素とリン酸については、アマモを採取する場所の砂に含まれていますが、窒素とリン酸が多く含まれているバラの肥料と、更に土壌改質活性培土(FFCエース 株式会社赤塚)を追加しました。水道水をカルキ抜きして人工海水の素を使って、塩分濃度2.8%の海水を作りました。海水の塩分濃度3.4%よりも低い塩分濃度がアマモの成長に適していると考えました。
海の生態系を崩さないために、移植したい場所の砂(花枝・種を採取した場所の砂)を使用することが好ましいですが、ライブサンドなどの砂泥を使用することもできます。
LED照射装置50には、水耕栽培用の光合成最適光量LEDライトを使用しました。LED照射装置50は、12H明暗を繰り返しました。
【0028】
発芽後のアマモの育成について
葉が伸びる最適温度は、地域差があるものの一般的には12~21℃が適しているといわれていますが、水槽10内の海水温度には、13℃が適していると考えています。
地域差はあるものの、アマモに必要な光量は約50~200μmol/(m・s)であり、電力消費の少ないLEDでも十分の光量を得ることができます。
水槽10には、奥行31.5cm、幅16cm、高19.5cmの観賞用水槽を用いました。このような家庭で利用できる大きさの観賞用水槽で十分にアマモの育成を行えます。
【0029】
以上説明しましたように、本発明のアマモの育成方法は、海水を貯める水槽と、その海水を冷却する水槽クーラーと、その海水に酸素を送るエアレーションと、その海水を浄化する浄化装置と、その水槽内に光を照射するLED照射装置と、その水槽を内部に載置する容器と、その容器の内部にその水槽とともに載置する発芽用ケースとを用いたアマモの育成方法であり、その発芽用ケースには発芽水を貯め、その水槽クーラーによる冷却によってその水槽の外面に発生する結露水を、その容器の内部に貯め、その容器の内部に貯まったその結露水によって発芽用ケースを冷却し、その水槽の内部に、発芽後のアマモを植えたポットを沈めて、アマモの葉を成長させ、その発芽用ケースに、発芽前のアマモの種子を入れて、その種子を発芽させます。
このように、水槽の外面に発生する結露水を、その容器の内部に貯め、その容器の内部に貯まったその結露水によって発芽用ケースを冷却することで、水槽ではアマモの葉を成長させ、発芽用ケースではアマモの種子を発芽させることができ、一年中どのタイミングでも発芽、育成させることができ、成長したアマモをたくさん海に還すことができます。
そして、発芽前のそのアマモの種子は、水温25℃以上の海水で熟成させたものが好ましいです。
このように、発芽前のアマモの種子を熟成させることができるので、海中で生息している花枝を採取しなくてよく、自生しているアマモを傷つけることなく、砂浜に打ち上げられたアマモを利用して、発芽、育成させることができます。地域によっては、200人~300人/日、複数日にわたって海中で花枝を採取するイベントがあり、大勢の人達によって自生している花枝の採取が行われています。今回の研究で、自生している花枝を海中で抜かなくても、砂浜に打ち上げられている花枝で発芽させることができることを実証することができました。
また、発芽水として、窒素とリン酸を含む肥料又は米酢を添加した真水を発芽水として用いることで、海水と比較して発芽までの日数を少なくすることができます。
また、炭酸水を発芽水として用いることで、海水と比較して発芽までの日数を少なくすることができます。
また、結露水によって、その発芽用ケースを16℃~22℃の範囲に保つことで、結露水を利用して発芽を促す温度にすることができます。なお、発芽実験では20℃を狙いましたが、22℃に上昇してしまった場合でも発芽を確認できています。
また、本発明のアマモの育成装置は、海水を貯めて発芽後のアマモの葉を成長させる水槽と、その海水を冷却する水槽クーラーと、その海水に酸素を送るエアレーションと、その海水を浄化する浄化装置と、その水槽内に光を照射するLED照射装置と、発芽水を貯めて発芽前のアマモの種子を発芽させる発芽用ケースとその水槽及びその発芽用ケースを内部に載置する容器と、を用い、その水槽クーラーによる冷却によってその水槽の外面に発生する結露水を、その容器の内部に貯め、その容器の内部に貯まったその結露水によってその発芽用ケースを冷却します。
このように、水槽の外面に発生する結露水を、その容器の内部に貯め、その容器の内部に貯まったその結露水によって発芽用ケースを冷却することで、水槽ではアマモの葉を成長させ、発芽用ケースではアマモの種子を発芽させることができますので、それぞれの家庭でも、アマモを発芽させて育成することができます。
なお、夏ではない時期(例えば冬)に発芽させたい場合には、水槽用ヒーターを使って発芽用ケース60内を16℃~22℃の範囲に保ちます。気温が13℃より低い、例えば6℃の場合には、結露水を利用せず、容器70の外に発芽用ケース60を置き、水槽用ヒーターで水温を上げて種子の発芽を待ちます。また、夏ではない時期(例えば冬)にアマモの葉を育成したい場合には、水槽用ヒーターで水槽10の水温を上げます。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明によれば、それぞれの地域で、その地域に生息するアマモを季節に影響なく発芽させ、発芽後の育成ができることから、地域ごとの自然生態系を壊すことなく、それぞれの地域における生物の生息環境を改善することができます。
【符号の説明】
【0031】
10 水槽
11 ポット
20 水槽クーラー
30 エアレーション
40 浄化装置
50 LED照射装置
51 タイマー
60 発芽用ケース
70 容器
80 遮光材
【要約】
【課題】一年中どのタイミングでもアマモを発芽させ、発芽後のアマモの葉を育成させることができるアマモの育成方法及びアマモの育成装置を提供すること。
【解決手段】発芽用ケース60には発芽水を貯め、水槽クーラー20による冷却によって水槽10の外面に発生する結露水を、容器70の内部に貯め、容器70の内部に貯まった結露水によって発芽用ケース60を冷却し、水槽10の内部に、発芽後のアマモを植えたポット11を沈めて、アマモの葉を成長させ、発芽用ケース60に、発芽前のアマモの種子を入れて、種子を発芽させることを特徴とします。
【選択図】 図1
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