IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ジョイント ストック カンパニー クラスノヤルスク ハイドロパワー プラント(ジェイエスシー クラスノヤルスク エイチピーピー)の特許一覧

特許7417792ペロブスカイト様構造を有する光吸収フィルムを製造するための方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】ペロブスカイト様構造を有する光吸収フィルムを製造するための方法
(51)【国際特許分類】
   H10K 30/50 20230101AFI20240112BHJP
   H10K 85/50 20230101ALI20240112BHJP
   H10K 71/15 20230101ALI20240112BHJP
【FI】
H10K30/50
H10K85/50
H10K71/15
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020532626
(86)(22)【出願日】2018-12-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-04-30
(86)【国際出願番号】 RU2018000834
(87)【国際公開番号】W WO2019132723
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2020-08-12
(31)【優先権主張番号】2017145657
(32)【優先日】2017-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】RU
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519236860
【氏名又は名称】ジョイント ストック カンパニー クラスノヤルスク ハイドロパワー プラント(ジェイエスシー クラスノヤルスク エイチピーピー)
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】弁理士法人上野特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】グディリン,エフゲニー アレクセエヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】タラソフ,アレクセイ ボリソヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】ペトロフ,アンドレイ アンドレイヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】ベリッチ,ニコライ アンドレイヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】グリシコ,アレクセイ ユーリエヴィチ
【審査官】佐竹 政彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/195191(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/094966(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 30/00-99/00
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペロブスカイト様構造を有する光吸収材料のフィルムを製造するための方法であって、組成物AВXを有し、前記方法が、
1)基板上に成分Bの均一な層を形成するステップと、
2)化学量論的量または前記化学量論的量より多い量で前記成分Bの前記層へ試薬AX、X及び阻害剤の混合物を塗布するステップであって、前記混合物が、阻害剤により前記成分Bと反応しない、ステップと、
3)溶媒の除去により一般的な組成構造AX(n≧2.5)の液体ポリハロゲン化反応溶融物が形成され、前記成分Bの前記フィルムの表面に形成された前記溶融物AXが均一に分布し、前記溶融物AXの均一な分布下における、前記溶融物AXと前記成分Bの反応の阻害剤にもなる前記溶媒の除去による前記溶融物AXと前記成分Bとの反応が起こるステップと、を含み、
溶融物である前記AXと前記成分Bとの前記反応により、構造式AВХを有するペロブスカイト様材料の均一性の高い大面積フィルムが製造され、
CHNH (MA)、(NHCH(FA)、Cs、Rb、またはそれらの混合物が、成分Aとして使用され;
ClまたはBrまたはIまたはそれらの混合物が、成分Xとして使用され、
Pb、Sn、またはそれらの混合物が、前記成分Bとして使用され
前記試薬AX及びX の比は、AX:X =1:1.5である、方法。
【請求項2】
前記試薬AX及びX の溶液に、ペロブスカイト様構造を形成しないアミノ酸吉草酸ヨウ化水素酸塩、ヨウ化ブチルアンモニウム、ヨウ化フェニルエチルアンモニウム、BiI 、HI、CH NH Cl、及び(NH CHClを添加する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記試薬AX及びX の溶液中のヨウ化物の総濃度が2~10mg/mlである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
溶媒が、前記溶媒中に前記試薬のうちの少なくとも1つを溶解させるために、阻害剤として使用されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記阻害剤が、前記試薬のうちの少なくとも1つと混和性でない液体を使用することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ペロブスカイト様材料の前記フィルムの不溶性成分が溶解しない溶媒で前記基板を洗浄することにより、前記阻害剤が除去されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
試薬AX及びXの溶液が、化学量論的量または前記化学量論的量より多い量で前記成分Bの前記層に塗布される方法であって、前記溶液の成分は、ステップ(2)の所定の条件下で前記成分Bと反応せず、溶媒の除去及び形成された溶融物の前記成分Bの前記フィルムの前記表面への均一な分布、及びステップ(3)での所定の条件下での前記成分Bとの反応により一般的な組成構造AX(n≧2.5)の液体ポリハロゲン化反応溶融物が形成されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
有機溶媒が阻害剤として使用され、前記有機溶媒に前記試薬AX及びXは溶解するが、前記成分Bは溶解しないことを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記成分Bが、所定の厚さのペロブスカイト様化合物AВХの最終の前記フィルムを提供する単位面積あたりの量で前記基板上に塗布されることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項10】
真空蒸着もしくは電気化学蒸着によって、または溶融した前記成分Bの波を冷却させた基板と接触させることによって、または気相からの化学蒸着によって前記成分Bが塗布されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記混合物が、ノズルからのスプレー、または超音波スプレー、またはインクジェットプリンティング、またはスピンコーティング、またはエレクトロスプレー、またはエアロゾルジェットプリンティング、またはディップコーティングによって塗布されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記反応の完了後、余剰の前記試薬AX及びXが、前記ペロブスカイト様材料の前記フィルムと相互作用しない溶媒内で洗浄することにより除去されることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項13】
前記反応の完了後、余剰の前記試薬AX及びXが、前記基板上に前記ペロブスカイト様材料の前記フィルムと相互作用しない溶媒を落下させることにより除去されることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項14】
前記反応の完了後、余剰の前記試薬AX及びXが、高温でのか焼によって除去されることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項15】
前記反応の完了後、余剰の前記試薬AX及びXが、減圧蒸発によって除去されることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項16】
蒸着が、乾燥空気またはアルゴンまたは窒素であるキャリアガスを使用して行われることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
イソプロピルアルコールまたはエチルアルコールが前記阻害剤として使用されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
調製された前記混合物が、塗布中のそれらの蒸発または昇華により、前記反応に関与しない余剰成分を除去する条件下で塗布されることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペロブスカイト様構造を有する光吸収材料を製造するための方法に関し、光電変換器の製造において光吸収層を形成するために使用され得る。
【背景技術】
【0002】
従来技術から、ペロブスカイト様構造を有する光吸収材料を製造するための様々な公知な方法が存在する。
【0003】
論文[J.Burschka et al.,「Sequential deposition of high-performance perovskite-sensitized solar cells」,Nature,2013,T.499,No.7458,p.316]には、基板上にPbI溶液を塗布し、その平面に対して垂直である軸を中心に高速で回転させる(回転基板法、スピンコート)ことにより基板上に必要な厚さのPbI層を塗布し、次いで、得られたPbI薄層を、MAIを含むイソプロパノール溶液に浸漬することにより、ペロブスカイトCHNHPbIの薄層を2段階で形成することが記載されている。
【0004】
論文[Saliba M. et al.,「Incorporation of rubidium cations into perovskite solar cells improves photovoltaic performance」,Science(80-),2016,Vol.354,No.6309,p.206-209]には、基板上にペロブスカイト溶液を塗布し、その平面に対して垂直な軸を中心に高速で回転させることにより(回転基板法、スピンコーティング)、必要な厚さのペロブスカイトCHNHPbI薄層を1段階で形成することについて記載している。
【0005】
上記の方法の欠点は、大面積基板上において溶液からソース成分(PbI)またはペロブスカイトの層を製造することが困難であることであり、したがって、大面積ペロブスカイト太陽電池を得ることができないことである。
【0006】
既知の中国特許第104250723号明細書、Zhi Zheng,Cheng Camry,Lei Yan,Jia Huimin,Ho Wei Wei,He Yingying,「Chemicalmethod for in-situ large-area controlled synthesis of perovskite type CHNHPbImembrane material based on lead simple-substance membrane」,2014年9月9日には、例えばエタノールなどのヨウ素及びヨウ化メチルアンモニウム/有機溶媒溶液に、大面積において制御された厚さで容易に均一に塗布された属鉛フィルムを浸漬した結果、ペロブスカイトCHNHPbIが製造されるための方法について記載されている。均一な層の形態である金属鉛は、マグネトロンスパッタリングによって電子伝導層の非多孔性表面に噴霧され、次にヨウ素分子及びヨウ化メチルアンモニウムを含む有機溶媒と反応させる。その結果、鉛の連続非多孔質層が、連続した非多孔質ペロブスカイト層となる。
【0007】
中国特許第105369232号明細書、Zhi Zheng、He Yingying、Lei Yan、Cheng Camry、Jia Huimin、Ho Wei Wei,「Lead-based perovskite-type composite elemental thin-film in-situ wide area control CHNHPbBrfilm material chemical method」,2015年2月16日では、ペロブスカイトCHNHPbBrを製造するための方法は、臭化メチルアンモニウム/有機溶媒(例えば、イソプロパノール)溶液に、大面積において制御された厚さで容易に均一に塗布される金属鉛フィルムを浸漬することに基づいて記載されている。
【0008】
上記の方法の欠点は、製造されたペロブスカイト層の形態の制御が不十分であることと、基板を試薬溶液に浸漬する必要があるため、有機無機ペロブスカイトを形成する技術プロセスが複雑になり、かつ遅くなり、大面積フィルムの製造が困難になり、かつ製造、健康、及び環境のリスクにつながることである。
【0009】
Petrov Andrey A.,Belich Nikolai A.,Grishko Aleksei Y.,Stepanov Nikita M.,Dorofeev Sergey G.,Maksimov Eugene G.,Shevelkov Andrei V.,Zakeeruddin Shaik M.,Michael Graetzel,Tarasov Alexey B.,Goodilin Eugene A.,「A new formation strategy of hybrid perovskites via room temperature reactive polyiodide melts」Mater.Horiz.,2017,4,p.625-632には、金属鉛層及びそれに塗布された試薬と、一般的な組成物MAI3+xとの反応の結果として、ペロブスカイト層を形成するための無溶媒法について記載している。
【0010】
既知の方法の欠点は、大面積基板に、粘性があり、かつ高濃度のポリヨウ化物(ポリハロゲン化物)試薬を均一に分布させることが困難であることのほか、制御ができないこと、及び溶融物を成分Bに対してこの化学量論的量で塗布できないことであり、これらは、特に、ペロブスカイト内において成分Bの変換が不完全であること、または元の溶融物の余剰成分を含む相が形成されることとなり得る。したがって、結果として、得られるフィルムの品質(特に、厚さ及び相組成の均一性)が低下し、これは、得られるフィルム、例えば太陽電池に基づく最終製品の効率に悪影響を及ぼす。
【0011】
中国特許出願公開第104051629(A)号明細書(2014/09/17)「Preparation method for perovskite type solar cell based on spraying technology」では、ペロブスカイト太陽電池、特にАВХ組成物の光吸収ペロブスカイト組成物を製造するための技術的方法は、成分AB及びBXを含む有機溶媒溶液の1段階または2段階噴霧によって記載されている。この方法の欠点は、実質的に非平衡結晶化プロセスが原因で、この方法によって得られるペロブスカイト層の厚さ、均一性、及び形態の制御が複雑であることであり、その制御は大面積では実行できない。さらに、この方法は、成分Bを含む溶液を噴霧することを意味しており、これは、製造、健康、及び環境のリスクに関連する。
【0012】
上記の方法の一般的な欠点は、個々のペロブスカイト太陽電池の最大限可能なサイズが制限される大面積基板に必要な特性(厚さ、形態、光学的特性及び電気的特性)を備えたペロブスカイト薄層を形成する能力の基本的な技術的制限であり、したがって、定格容量のモジュール(バッテリー)を製造するための単価が低下する可能性が制限される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】中国特許第104250723号明細書
【文献】中国特許第105369232号明細書
【文献】中国特許出願公開第104051629(A)号明細書
【非特許文献】
【0014】
【文献】J.Burschka et al.,「Sequential deposition of high-performance perovskite-sensitized solar cells」,Nature,2013,T.499,No.7458,p.316
【文献】Saliba M. et al.,「Incorporation of rubidium cations into perovskite solar cells improves photovoltaic performance」,Science(80-),2016,Vol.354,No.6309,p.206-209
【文献】Zhi Zheng,Cheng Camry,Lei Yan,Jia Huimin,Ho Wei Wei,He Yingying,「Chemicalmethod for in-situ large-area controlled synthesis of perovskite type CH3NH3PbI3membrane material based on lead simple-substance membrane,2014年9月9日
【文献】Zhi Zheng、He Yingying、Lei Yan、Cheng Camry、Jia Huimin、Ho Wei Wei,「Lead-based perovskite-type composite elemental thin-film in-situ wide area control CH3NH3PbBr3film material chemical method」,2015年2月16日
【文献】Petrov Andrey A.,Belich Nikolai A.,Grishko Aleksei Y.,Stepanov Nikita M.,Dorofeev Sergey G.,Maksimov Eugene G.,Shevelkov Andrei V.,Zakeeruddin Shaik M.,Michael Graetzel,Tarasov Alexey B.,Goodilin Eugene A.,「A new formation strategy of hybrid perovskites via room temperature reactive polyiodide melts」Mater.Horiz.,2017,4,p.625-632
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本出願の観点から、ペロブスカイト様構造は、ペロブスカイト鉱物の結晶構造及びより低い特定の構造偏差(歪んだペロブスカイト構造)を有する結晶構造、例えば、格子対称性がより低いなど(例えば、正方晶系(tetragonal syngony))の両方か、または他の任意の層と交互にペロブスカイト層を含む結晶構造(例えば、Aurivillius相、ルドルスデン=ポッパー相、Dion-Jacobson相)の両方として理解されるべきである。ペロブスカイト様化合物は、ペロブスカイト様構造を有する化合物の概念である。
【0016】
特許請求された発明によって解決される技術的問題は、成分Bを含む溶液を使用することなく、技術的な方法によって大面積基板に、АВX(A=CHNH もしくは(NHCHもしくはC(NH もしくはCsもしくはRbもしくはそれらの混合物;B=B=Sn もしくはPb 、もしくはそれらの混合物(Bi添加剤及びCu添加剤の添加など);X=ClまたはBrまたはIまたはそれらの混合物)の組成を有するペロブスカイト様構造を有する光吸収材料の均質なフィルムを製造するための技術的に進歩した方法を作り出すことである。
【0017】
本発明の使用により達成される技術的結果は、任意のサイズの表面上に所望の微細構造及び機能特性を有するペロブスカイト層を形成できることである。
【0018】
特許請求された発明を使用するときに達成された追加の技術的結果は、高い均一性を有する破断(またはピンホール)のない単相フィルムを得る可能性を提供することであり、これにより、得られた材料を大面積の太陽電池において使用できるようになる。この方法は、また、製造可能性、簡易性、及び実施速度によっても特徴付けられ、これにより、工業生産において利用しやすいものとなっている。本発明の実施により達成される別の追加の技術的結果は、前駆体の容量適用の可能性であり、これにより、合成中に試薬が大幅に損失することがなくなり、製造コストが低下する。追加の実現可能な技術的結果は、複雑な形状の基板上、特にフレキシブル基板上でペロブスカイトフィルムを得るための技術的に関連するアプローチを実施する際に本発明を使用することが可能でもある。
【0019】
特許請求された発明を使用するときに達成される追加の技術的結果は、試薬の反応性を分配し、制御して、半導体材料を形成するプロセスを制御する能力である。
【0020】
本出願では、反応混合物は、成分Bと反応する1つ以上の試薬、ならびに反応阻害剤を含むそれらの混合物を指す。
【0021】
本出願では、阻害剤は、一般に、化学化合物またはいくつかの化合物の混合物を指し、阻害剤を反応混合物に添加することにより、2つ以上の試薬間での化学反応が抑制される。特定の場合において、溶媒は、阻害剤として作用し得、これにより、1つ以上の試薬の化学的活性が低下する。特定の場合において、阻害剤は、反応混合物のいくつかの成分と成分Bとの間の化学反応を阻害する。
【課題を解決するための手段】
【0022】
技術的結果は、基板上に成分Bの均一な層を形成し、所定の条件下で成分Bと反応する試薬と、これらの条件下でこの反応を抑制する反応阻害剤との混合物を調製し、この混合物を化学量論的量または化学量論的量より多い量で成分Bの層上に塗布し、反応混合物と成分Bとの間の化学反応を活性化してペロブスカイト様材料を形成するために、この混合物から反応阻害剤を取り除くことによって達成される。すなわち、ペロブスカイト様構造を有する光吸収材料のフィルムを受け取ると、成分Bの均一な層が基板上に形成され、混合物が、所定の条件下で成分Bと反応する反応物質、及びこれらの条件下でこの反応を抑制する反応阻害剤から調製され、調製された混合物を化学量論的量または化学量論的量より多い量で成分Bの層上に塗布し、反応阻害剤を混合物から除去し、試薬の混合物と成分Bとの間の化学反応を確実に活性化させて、ペロブスカイト様フィルム材料を形成する。
【0023】
特定の場合、本発明の実施において、反応阻害剤は、反応混合物からの蒸発、または混合物からの特定の試薬の凍結または反応阻害剤の昇華によって、反応混合物から除去される。
【0024】
本発明の特定の場合において、溶媒が、試薬のうちの少なくとも1つを溶解することができ、この反応の阻害剤として使用されるか、または試薬のうちの少なくとも1つと混合できない液体が、反応の阻害剤として使用される。
【0025】
本発明の特定の場合において、反応阻害剤は、最終機能層の成分(ペロブスカイト様材料のフィルム)がその中で溶けない溶媒により、担体基板を洗浄することにより除去される。
【0026】
本発明の特定の場合において、構造式AВХを有するペロブスカイト様構造を有する光吸収材料の層(またはフィルム)(このフィルムは、元素のPbまたはSnまたはそれらの混合物のフィルムである)が生成されると、技術的解決策に従って、試薬Bの層を基板に塗布し、次に試薬AX及びXの混合物を含む有機溶媒溶液が基板上に塗布され(ここでは、有機溶媒により、AX及びXと試薬Bとの反応が遅くなる)、溶媒を除去するための条件が提供され、このステップでは、反応B+AX+X=AВХを進行させるための適切な条件が保証されている。この場合、CHNH または(NHCH+またはC(NH またはCsまたはRbまたはそれらの混合物が成分Aとして使用され、Cl、Br、I、またはそれらの混合物が成分Xとして使用される。
【0027】
本発明の特定の実施では、有機溶媒は、阻害剤として使用され、試薬AX及びXがその中に溶解するが、成分Bは、この有機溶媒には溶解しない。成分Bは、ペロブスカイト様化合物AВХの所定の厚さの最終フィルムをもたらす量で、単位面積あたりで塗布される。成分Bは、真空蒸着、電気化学蒸着、溶融金属と冷却させた基板との接触、気相からの化学蒸着、または他の方法によって塗布され得る。試薬AX及びXの混合物溶液は、スプレー、プリンティング、またはディッピングによって塗布される。反応の完了時に余剰の試薬AX及びXは、必要に応じて、ペロブスカイト層と相互作用しない溶媒内で洗浄し、溶媒を表面上にディッピングし、高温でか焼し、減圧蒸発させることにより除去できる。例えば、乾燥空気、アルゴン及び窒素などのガスは、噴霧中にキャリアガスとして作用し得る。イソプロピルアルコール、エチルアルコールなどの溶媒、及び他の有機溶媒は、АX試薬及びX試薬の溶媒として、また反応終了後の基質の洗浄に使用できる。
【0028】
本発明の実施の特定の場合において、反応混合物の塗布は、塗布中のそれらの蒸発または昇華により、反応物質の余剰成分が自然な方法で除去される条件下で行われる(反応混合物の成分の「自動投入」が起こる)。
【0029】
本発明により、インクジェット、噴霧または他の方法により実行される、基板上への成分Bの蒸着を事前制御し、AX及びX試薬溶液の蒸着をさらに制御することにより、光吸収材料反応のフィルムの形成の化学量論的量を制御することが可能であり、これにより、混合物が基板上に確実に均一に塗布される。AX及びX試薬溶液を成分Bのフィルムの表面に塗布した後、溶媒の除去が行われ、続いて一般的な組成構造AX(n≧2.5)の試薬AX及びXの混合物からなる液体ポリハライド反応溶融物が形成される。これらは、成分Bのフィルムの表面全体に均一に分布し、この成分と反応して、AВХ構造を有するペロブスカイト様化合物を形成し、これにより、工業製造条件下で拡張可能であり、かつ実現可能な方法により、大面積において均一性の高いフィルムを得ることができるようになる。
【0030】
成分Bは、金属、それらの混合物、合金、及び元素組成において対応する金属を示す化合物であると見なされる。
【0031】
成分Bの表面での反応溶融物の均一な分布は、構成成分AXのポリハロゲン化物溶融物を有する成分Bのフィルム表面のいわゆる「反応性湿潤」によって得られる。このメカニズムでは、成分Bに対する反応性が高いことによる成分Bの表面での反応の結果として、湿潤の性質が変わる。
【0032】
提唱された方法では、AX(n≧2.5)反応溶融物をB成分フィルムの表面に均一に分布させることにより、ならびに光吸収材料のフィルムを形成するために反応の化学量論的量を制御することにより、技術的結果が達成される、すなわち、光吸収材料の単相であり、均一性の高い大面積フィルムが得られる。技術的結果の達成に影響を与える主なパラメータは、基板に塗布されたBフィルムの厚さ及び均一性、Bフィルムの表面でのAX及びXの混合溶液の均一な分布、AX及びX試薬の濃度、フィルムに塗布された成分Bの量、使用した溶媒の組成物、成分Bのフィルムの温度、試薬AX及びXの溶液中ならびに/または成分Bのフィルム中の修飾添加剤の存在である。
【0033】
提唱された方法では、広範囲の組成物のペロブスカイト構造を有する化合物の連続単相フィルム(AВХ、ここで、CHNH (MA)、(NHCH(FA)、Cs、Rb、またはそれらの混合物は、通常A、B2-Pb2、Sn2、またはそれらの混合物として使用され;Xは、I、Br、Clまたはそれらの混合物として使用される)を得ることができ、これらは、太陽電池、大面積太陽電池、光検出器、LED、及び他の半導体デバイスを作製するために使用できる。
【0034】
さらに、提唱された方法を使用して、ペロブスカイト様とは異なる構造を有し、Pb、Sn以外の元素またはそれらの供給源から作製された材料の使用をベースにしたものなどの半導体の薄膜を得ることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
例示的な実施では、ハイブリッド有機無機ペロブスカイト組成物CHNHPbI(MAPbI)を得るために、ヨウ素(I)及びヨウ化メチルアンモニウム(MAI)を含むイソプロパノール(i-PrOH)溶液を120℃まで加熱した基板に噴霧し、その上に金属鉛(Pb)の層と共にプレコートした。噴霧されたエアロゾルが加熱された鉛フィルムと接触すると、イソプロパノールが蒸発して鉛の表面にポリヨウ化物組成物が形成され、MAI-nI2(n≧1)が鉛と反応し、その結果、CHNHPbIフィルムの形成を得た。この反応は、時間遅延により生じる。この時間遅延は、溶媒除去段階により決定し、また、金属鉛フィルムを噴霧に使用される溶液に浸漬させると(特定の濃度範囲で)、金属鉛のペロブスカイトへの変換が遅れるため、この遅延は重要である。提唱された方法でのペロブスカイトの形成は、金属鉛の表面に付着した液滴が乾燥するプロセスにおいて起こり、その結果、鉛と反応するポリヨウ化物組成物が形成される。イソプロパノールが完全に蒸発する前に反応が開始し、組成物中のイソプロパノールの濃度などの反応速度が決定されるため、反応速度は、例えば、基板温度または元の組成物中のイソプロパノールの含有量を変更することにより制御することができる。以下は、技術的結果の達成と共に提唱された方法による連続単相フィルムの調製に使用され得る合成のパラメータ、または合成のパラメータに対する機能の影響の効果である。
【0036】
溶液を構成する使用済みハロゲン化物の組成は、得られるペロブスカイトの形態及び組成に直接影響する。AXのあらゆる組み合わせが可能である。本方法を実装するときに、次の組み合わせの試験を行った:MAI、MAI/MABr。これにより、結果としてMAPbI、MAPbIxBr-x;MAI/FAIが使用され、その使用により、MAxFA1-xPbIを得た。
【0037】
溶液中のハロゲン化物含有量とI含有量との合計比率、または金属との反応におけるAX-I比は、最終製品の形態、相組成、及び他の特性に対する直接的な影響となる。ヨウ素及び様々なハロゲン化物は、スパッタリングし、その後の様々な速度でアニーリングしている間に昇華(蒸発)するため、基板表面上の溶融物の最終組成物は、塗布された溶液の組成のみでなく、プロセスの温度及び圧力によっても決定する。MAPbIを得る例を使用して、次の関係の試験を行った:MAI:I=1:1及びMAI:I=1:1.5。主な結果は、指定された範囲では、単相MAPbIフィルムを得ることが可能であり、1:1.5溶液を使用して得たフィルムは、最高の機能特性を示すことを示した。これは、ヨウ素の一部が加熱により蒸発するという事実のためであり、反応にはMAI:I=1:1を必要とし、この方法を実施する際に、MAI:I=1:1であるこの構成を使用する場合、この反応に関与するヨウ素の実際の含有量は少なく、すなわち、この系では、ヨウ素の不足が存在する。
【0038】
最終フィルムの機能特性及び安定性を向上させるために、目的であるペロブスカイト構造を形成しない他のハロゲン化物、例えば、アミノ吉草酸ヨウ化水素酸塩、ヨウ化ブチルアンモニウム(一般に、СH-(CH-NHI)、ヨウ化フェニルエチルアンモニウム、BiIなどを初期溶液に導入することができる。HI、CHNHCl及び(NHCHClも修飾添加剤として使用できる。
【0039】
本方法を実施する場合、異なる濃度の試薬を使用することが可能である。この方法では、ヨウ化物の総濃度が2~10mg/mlの範囲で、ペロブスカイトフィルムの均一性及び品質を向上させるという点で優れた結果を示した。
【0040】
特許請求される方法により得られる半導体材料のフィルムの機能特性を決定する重要な要因は、成分Bとそれに塗布される試薬とのモル比である。本発明の方法では、反応混合物のこうした塗布条件を選択することが可能になり、この条件下で、この混合物の余剰成分の除去、すなわちそれらの「自動投入」が達成される。MAI-nI反応混合物(n≧1)を含むイソプロパノールを使用する特定の場合は、「自動投入」は、150~250℃の温度まで加熱させた金属鉛の表面に反応混合物を噴霧することにより実現でき、これにより、反応混合物の余剰成分が蒸発し、かつ/または昇華する。
【0041】
金属を含む層として金属フィルムを使用する場合、こうしたフィルムの基板上への蒸着は、真空熱スパッタリング、マグネトロンスパッタリング、電着、溶液またはガス状化合物からの化学還元によって可能である。提唱された方法の実施可能性を確認するとき、金属鉛、スズ、Pb-Sn合金、及び合金添加物(例えば、Cu及びBiなど)を含む合金の薄膜の試験を行った。
【0042】
さらに、ペロブスカイト層の形成に好適である様々な金属の交互積層蒸着を使用して、金属含有層が形成され得る。
【0043】
実施の具体的な例として、金属銅のフィルムを成分Bのフィルムとして使用した。ここで、MAI:I=1:3溶液を100℃の基板温度で塗布し、その後、余剰のMAIをイソプロピルアルコールで洗浄することにより除去した。
【0044】
成分Bを含む層を形成するために、鉛化合物、例えばPbI及びPbOを使用することもでき、これらは様々な方法、例えば鉛塩溶液を回転している基板上に塗布することにより基板上に蒸着させ得る。
【0045】
MAPbI、MAPbIBr3-x、MAFA1-xPbIの合成には、120℃の温度を使用した。さらに、この方法では、MAPbIには少なくとも20~150℃、CsPbIには20~400℃の温度を使用できることが示された。この方法の実施に最適なのは、基板温度を対応するポリヨウ化物の溶融温度より高く維持することである。予熱した基板、ならびに反応物質の塗布後の基板の段階的な冷却または段階的な加熱を使用することも可能である。0~10分の予熱について試験を行った。
【0046】
基板は、その基板に溶液を塗布し、さらなる処理に供されて、反応が完了した後、ペロブスカイト層を形成することができる。例えば、様々な溶媒またはそれらの混合物、例えばイソプロパノール、エタノール、ジエチルエーテル、クロロベンゼン、トルエンを使用した洗浄を使用することができる。
【0047】
アニーリングは、高温で行うこともできる。特に、アニーリングの試験は100℃で1~10分間行った。アニーリング時間を60分以上まで延長しても、ペロブスカイト層の特性が低下することはなかった。この場合、アニーリング温度の選択は特定の化合物の化学組成によって決定され、MAPbIの場合、通常150℃を超えることはなく、CsPbIの場合、350℃以下である。アニーリングはまた、特殊な雰囲気、例えば、湿った空気、乾燥空気の雰囲気、アルゴン雰囲気、及び溶媒蒸気、例えば、メチルアミン、ジメチルホルムアミド、またはジメチルスルホキシドを含む雰囲気の中で行うこともできる。
【0048】
対応するヨウ化物AXの蒸気中でのアニーリングは、下からは対応するハロゲン化物の蒸発温度によって制限され、上からはその分解温度によって制限された温度において可能である。例えば、MAIの場合、典型的な温度範囲は150~200℃である。
【0049】
試薬及び溶媒(溶液)の混合物は、次の試験方法:ノズルからの従来のスプレー、超音波スプレー、インクジェットプリンティング、スピンコーティング、エレクトロスプレー、エアロゾルジェットプリンティング、ディップコーティングによって基板に塗布できる。
【0050】
溶液をスプレーするためのノズルの設計及びスプレーの態様は、単位時間あたりに基板に落下する物質の量及び液滴のサイズに対して直接的な影響を有し、これらが、溶液による基板のコーティングの均一性に影響を及ぼす。最適なパラメータは、実験的に選択できる。ノズルと基板の相互配置の形状もコーティングの品質に影響を及ぼし、かつこれらは、実験的に選択できる。10cmの距離の試験を行い、ノズルの傾斜角度は、噴霧方向と基板の法線との間で0~15°とした。
【0051】
この方法の実施は、次の態様で試験を行った:溶液の流速約0.5ml/秒。2秒間循環溶液を供給し、10秒間休止した。基板の必要な温度を維持し、確実に液滴を完全かつ迅速に乾燥させ、溶液の表面上での望ましくない拡散を回避するために、休止が必要になり得る。
【0052】
溶液を噴霧する合計時間(休止ありまたは休止なしで噴霧される)は、各組成物について別々に選択した。MAPbIの場合、単相フィルムを得るために、合計蒸着時間の範囲は14~18秒(7x2秒、9x2秒)を用いた。最適範囲の境界を超えると、不純物を有するフィルムが形成された。これは、溶液中の試薬の大幅な過剰または不足によって生じた。窒素及びアルゴンを噴霧用のキャリアガスとして使用した。空気及び他のガスの使用、ならびに特殊な修飾添加剤を含むガスの使用も可能である。