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特許7417800金属用塗料、これから得られる被印刷用金属基材およびその製造方法、ならびに塗装金属材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】金属用塗料、これから得られる被印刷用金属基材およびその製造方法、ならびに塗装金属材
(51)【国際特許分類】
   C09D 167/00 20060101AFI20240112BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20240112BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20240112BHJP
   B32B 27/42 20060101ALI20240112BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20240112BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20240112BHJP
   B05D 3/08 20060101ALI20240112BHJP
   B05D 3/04 20060101ALI20240112BHJP
   B05D 1/38 20060101ALI20240112BHJP
   C09D 161/28 20060101ALI20240112BHJP
   C09D 11/101 20140101ALI20240112BHJP
   C08G 63/12 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
C09D167/00
B32B15/08 Q
B32B27/36
B32B27/42
B05D7/14 J
B05D7/24 302V
B05D7/24 301T
B05D3/08
B05D3/04 C
B05D1/38
C09D161/28
C09D11/101
C08G63/12
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020027129
(22)【出願日】2020-02-20
(65)【公開番号】P2021130778
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2022-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000207436
【氏名又は名称】日鉄鋼板株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正樹
(72)【発明者】
【氏名】吉田 秀紀
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 成寿
(72)【発明者】
【氏名】漆間 美里
【審査官】田名部 拓也
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-161841(JP,A)
【文献】特開2014-012748(JP,A)
【文献】特開2000-282258(JP,A)
【文献】特開2019-077090(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/38
B05D 3/04
B05D 3/08
B05D 7/14
B05D 7/24
B32B 27/36
B32B 27/42
B32B 15/08
C09D 161/28
C09D 167/00
C09D 11/101
C08G 63/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均分子量が4000~12000であるポリエステル樹脂と、
メラミン樹脂と、
を含む金属用塗料であって、
前記ポリエステル樹脂は、多価アルコール由来のアルコール構造単位と、多価カルボン酸由来のカルボン酸構造単位と、を含み、
前記アルコール構造単位および前記カルボン酸構造単位の合計量に対する、3価以上のアルコール由来の構造単位の量の割合が20モル%以下であ
前記金属用塗料は、金属に塗布後、フレーム処理またはコロナ放電処理される用途に使用される、
金属用塗料。
【請求項2】
前記ポリエステル樹脂が、トリメチロールプロパン由来の構造単位を含む、
請求項1に記載の金属用塗料。
【請求項3】
プレコート金属板用塗料である、
請求項1または2に記載の金属用塗料。
【請求項4】
金属基材と、
前記金属基材上に配置された、金属用塗料の硬化物である被印刷層と、
を有
前記金属用塗料が、数平均分子量が4000~12000であるポリエステル樹脂と、メラミン樹脂と、を含み、
前記ポリエステル樹脂は、多価アルコール由来のアルコール構造単位と、多価カルボン酸由来のカルボン酸構造単位と、を含み、
前記アルコール構造単位および前記カルボン酸構造単位の合計量に対する、3価以上のアルコール由来の構造単位の量の割合が20モル%以下である、
被印刷用金属基材。
【請求項5】
前記被印刷層の表面を、X線源としてAlKα線を用いてX線電子分光分析法で分析したときの、C原子の量に対するO原子の量の割合が0.6以上である、
請求項4に記載の被印刷用金属基材。
【請求項6】
前記被印刷層の表面のヨウ化メチレン転落角が、15°以上45°以下である、
請求項4または5に記載の被印刷用金属基材。
【請求項7】
プレコート金属板である、
請求項4~6のいずれか一項に記載の被印刷用金属基材。
【請求項8】
請求項4~7のいずれか一項に記載の被印刷用金属基材と、
前記被印刷層上に配置された、活性エネルギー線硬化型組成物の硬化物である、インク層と、
を有する、
塗装金属材。
【請求項9】
前記インク層の厚みが、40μm以上である、
請求項8に記載の塗装金属材。
【請求項10】
金属基材上に、金属用塗料を塗布し、被印刷層を形成する工程と、
前記被印刷層にフレーム処理またはコロナ放電処理を行う工程と、
を含
前記金属用塗料が、数平均分子量が4000~12000であるポリエステル樹脂と、メラミン樹脂と、を含み、
前記ポリエステル樹脂は、多価アルコール由来のアルコール構造単位と、多価カルボン酸由来のカルボン酸構造単位と、を含み、
前記アルコール構造単位および前記カルボン酸構造単位の合計量に対する、3価以上のアルコール由来の構造単位の量の割合が20モル%以下である、
被印刷用金属基材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属用塗料、これから得られる被印刷用金属基材およびその製造方法、ならびに塗装金属材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、意匠性の高い塗装金属材が求められており、金属基材上に様々な色の塗膜を形成したり、金属基材表面に細かな模様を付したりすることが求められている。そこで、金属基材上に、活性エネルギー線硬化型組成物を塗布することが検討されている。
【0003】
活性エネルギー線硬化型組成物は、活性エネルギー線の照射によって硬化する。そのため、溶剤吸収性を有さない基材上にも画像形成が可能である。しかしながら、活性エネルギー線硬化型組成物は、硬化の際の収縮が比較的大きい。そのため、活性エネルギー線硬化型組成物の硬化物であるインク層が、各種基材から剥離しやすい、という課題があった。
【0004】
このような課題に対し、インク層の基材に対する密着性を高める方法がいくつか提案されている。例えば、特許文献1には、基材上に活性エネルギー線硬化型組成物を塗布し、活性エネルギー線を照射した後、さらにヒーターで加熱する方法が記載されている。当該方法によれば、インク層の硬化性が高まることで、インク層と基材との密着性が高まる、と考えられる。また、特許文献2には、予備加熱した基材上に活性エネルギー線硬化型組成物を塗布する方法が記載されている。当該方法によれば、活性エネルギー線硬化型組成物を基材上に十分に濡れ広がらせることができ、インク層と基材との密着性が高まると考えられる。
【0005】
さらに、樹脂フィルム上に活性エネルギー線硬化型組成物を塗布する前に、樹脂フィルムをコロナ放電処理し、樹脂フィルムとインク層との密着性を高めることが、特許文献3および特許文献4に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-009367号公報
【文献】特開2008-087242号公報
【文献】国際公開第2018/163941号
【文献】特開平9-300477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、金属基材上に活性エネルギー線硬化型組成物を塗布する場合、上記特許文献1~4のいずれの方法を行ったとしても、金属基材とインク層との密着性を十分に高めることは難しかった。また特に、活性エネルギー線硬化型組成物の塗布厚みを厚くすると、硬化時に生じる硬化収縮量が大きくなり、インク層がさらに剥離しやすかった。
【0008】
そこで本発明は、金属基材および活性光線エネルギー線硬化型組成物の硬化物を強固に密着させる層を形成するための金属用塗料、これを用いて形成される被印刷用金属基材およびその製造方法、ならびに塗装金属材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の金属用塗料を提供する。
数平均分子量が4000~12000であるポリエステル樹脂と、メラミン樹脂と、を含む金属用塗料であって、前記ポリエステル樹脂は、多価アルコール由来のアルコール構造単位と、多価カルボン酸由来のカルボン酸構造単位と、を含み、前記アルコール構造単位および前記カルボン酸構造単位の合計量に対する、3価以上のアルコール由来の構造単位の量の割合が20モル%以下である、金属用塗料。
【0010】
本発明は、以下の被印刷用金属基材を提供する。
金属基材と、前記金属基材上に配置された、上記金属用塗料の硬化物である被印刷層と、を有する、被印刷用金属基材。
【0011】
本発明は、以下の塗装金属材を提供する。
上記被印刷用金属基材と、前記被印刷層上に配置された、活性エネルギー線硬化型組成物の硬化物である、インク層と、を有する、塗装金属材。
【0012】
本発明は、以下の被印刷用金属基材の製造方法を提供する。
金属基材上に、上記金属用塗料を塗布し、被印刷層を形成する工程と、前記被印刷層にフレーム処理またはコロナ放電処理を行う工程と、を含む、被印刷用金属基材の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の金属用塗料によれば、金属基材上に、インク層との密着性が高い被印刷層を形成可能である。したがって、各種金属基材上に、活性エネルギー線硬化型組成物を用いて、意匠性の高い、種々の層を形成することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.金属用塗料およびこれを用いた被印刷用金属基材
上述のように、金属基材上に活性エネルギー線硬化型組成物を塗布し、金属基材の意匠性を高めることが従来検討されている。しかしながら、活性エネルギー線硬化型組成物の硬化物であるインク層の密着性を高めることは難しく、特にインク層の厚みが厚くなるとこれらの界面で剥離が生じやすかった。その理由としては、活性エネルギー線硬化型組成物が硬化する際の収縮が大きく、硬化後のインク層内に残留応力が生じたり、硬化時に金属基材とインク層との界面で応力が発生したりするため、インク層の剥離が生じる、と考えられる。
【0015】
これに対し、本発明の金属用塗料を金属基材上に塗布し、被印刷層を形成してから、活性エネルギー線硬化型組成物を塗布してインク層を形成すると、インク層の密着性が非常に高まりやすいことが明らかとなった。本発明の金属用塗料は、数平均分子量が4000~12000であるポリエステル樹脂と、メラミン樹脂と、を含む。そして、上記ポリエステル樹脂中の、多価アルコール由来のアルコール構造単位と、多価カルボン酸由来のカルボン酸構造単位との合計量に対する、3価以上のアルコール由来の構造単位の量の割合が20モル%以下である。そのため、金属基材上に金属用塗料を塗布して被印刷層を形成した際に、架橋密度が過度に高まらず、比較的柔軟な被印刷層が形成される。そして、このような被印刷層上に活性エネルギー線硬化型組成物を塗布すると、当該活性エネルギー線硬化型組成物が硬化の際に収縮したとしても、被印刷層が応力を緩和することが可能である。つまり、インク層内に残留する応力が低減される。また被印刷層が比較的柔軟であることから、活性エネルギー線硬化型組成物の硬化収縮に合わせて、被印刷層が追従して変形可能である。したがって、被印刷層とインク層との間に応力が働き難く、これらの密着性を高められる。
【0016】
また、金属基材上に被印刷層を形成後、被印刷層を全て覆うようにインク層を形成してもよいが、一般的には、被印刷層上にインク層が形成されない領域も生じる。そのため、被印刷層には、耐侯性等が高いことも求められる。ここで、当該金属用塗料から得られる被印刷層の耐候性は、金属用塗料中のポリエステル樹脂の数平均分子量が低く、被印刷層の架橋密度が高くなるほど向上する。ただし、被印刷層の架橋密度が高まると、上述のように、被印刷上に形成されるインク層の密着性が低くなる。そして特に、金属用塗料中のポリエステル樹脂の数平均分子量が4000未満であると、得られる被印刷層において、ポリエステル樹脂およびメラミン樹脂の架橋密度が過度に高くなってしまい、上述の十分なインク密着性を得ることができなくなることが見出された。一方、ポリエステル樹脂の数平均分子量が15000を超えると架橋密度が低くなるため、インク層の密着性が高い被印刷層が得られるものの、十分な塗膜耐候性が得られ難いことも明らかとなった。
【0017】
そこで、ポリエステル樹脂の数平均分子量を4000~12000にし、かつポリエステル樹脂中の多価アルコール由来の構造単位の割合を20モル%以下にすることにより、得られる被印刷層の架橋密度が調整され、屋外でも使用可能な耐候性とインク密着性とが両立した被印刷層が得られる。
【0018】
なお、当該金属用塗料は、プレコート金属板を作製するために使用してもよく、ポストコート金属板を作製するために使用してもよい。
【0019】
以下、金属用塗料について説明し、その後、当該金属用塗料を用いて形成される被印刷用金属基材について説明する。
【0020】
(金属用塗料)
本発明の金属用塗料は、特定の構造および分子量を有するポリエステル樹脂と、メラミン樹脂と、を含んでいればよく、必要に応じて触媒やアミン、体質顔料や着色顔料等、他の成分を含んでいてもよい。
【0021】
ポリエステル樹脂は、分子鎖中に複数のエステル構造を有する樹脂であり、多価カルボン酸由来のカルボン酸構造単位と、多価アルコール由来のアルコール構造単位と、を含む樹脂である。当該ポリエステル樹脂は、通常、多価カルボン酸と多価アルコールとを重合させて調製できる。
【0022】
ここで、多価カルボン酸の例には、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸類およびこれらの無水物;コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸類およびこれらの無水物;γ-ブチロラクトン、ε-カプロラクトン等のラクトン類;トリメリット酸、トリメジン酸、ピロメリット酸等の3価以上の多価カルボン酸類;等が含まれる。ポリエステル樹脂は、上記多価カルボン酸由来のカルボン酸構造単位を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。ポリエステル樹脂中の、多価アルコール由来のアルコール構造単位と、多価カルボン酸由来のカルボン酸構造単位との合計量に対する、3価以上の多価カルボン酸由来の構造単位の量の割合は、塗膜の架橋密度が過度に高まらないようにするために、好ましくは5モル%以下であり、さらに好ましくは2モル%以下である。
【0023】
一方、多価アルコールの例には、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2,3-ペンタンジオール、1,4-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-ドデカンジオール、1,2-オクタデカンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAアルキレンオキシド付加物、ビスフェノールSアルキレンオキシド付加物等のグリコール類;トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等の3価以上の多価アルコール類等が含まれる。ポリエステル樹脂は、上記多価アルコール由来のアルコール構造単位を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0024】
ただし、金属用塗料が含むポリエステル樹脂中のカルボン酸構造単位およびアルコール構造単位の総量に対する、3価以上のアルコール由来の構造単位の割合は、20モル%以下である。当該3価以上のアルコール由来の構造単位の割合は、より好ましくは15モル%以下であり、さらに好ましくは10モル%以下である。3価以上のアルコール由来の構造単位の量が20モル%超になると、ポリエステル樹脂が後述のメラミン樹脂と架橋する際に、3次元架橋構造が多くなる。その結果、得られる被印刷層が硬くなりやすく、インク層との密着性が低くなりやすい。なお、ポリエステル樹脂が3価以上のアルコール由来の構造単位を含む場合、トリメチロールプロパン由来の構造単位を含むことが好ましい。ポリエステル樹脂がトリメチロールプロパン由来のアルコール構造単位を含むと、塗膜の架橋密度がより安定するため、インク層との密着性が得られやすくなる。
【0025】
また、上記ポリエステル樹脂の数平均分子量は4000~12000であり、より好ましくは5000~11000である。ポリエステル樹脂の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で特定されるスチレン換算値である。ポリエステル樹脂の数平均分子量が4000以上であると、得られる被印刷層の強度が高まりやすく、被印刷層の耐侯性や加工性が良好になりやすい。一方、ポリエステル樹脂の数平均分子量が12000以下であると、被印刷層とインク層との密着性が良好になりやすい。
【0026】
また、ポリエステル樹脂の水酸基価は、5~100mgKOH/gが好ましく、10~70mgKOH/gがより好ましい。水酸基価は、0.5mol/L KOHアルコール溶液を用いてJIS K0070で規定された電位差滴定法により特定される。ポリエステル樹脂の水酸基価が当該範囲であると、金属基材表面のOH基とポリエステル樹脂(被印刷層)中のOH基とが水素結合等しやすくなり、金属基材と被印刷層との密着性が高まる。また同様に、ポリエステル樹脂(被印刷層)中のOH基が、インク層中の親水基とも水素結合しやすくなり、これらの密着性がさらに高まる。
【0027】
また、ポリエステル樹脂のガラス転移温度は、0~100℃が好ましく、20~70℃がより好ましい。ポリエステル樹脂のガラス転移温度が上記範囲であると、得られる被印刷層の加工性が良好になる。
【0028】
一方、金属用塗料が含むメラミン樹脂は特に制限されないが、メチロールメラミンメチルエーテル等のメチル化メラミン樹脂;メチロールメラミンブチルエーテル等のブチル化メラミン樹脂;メチルとn-ブチルとの混合エーテル化メラミン樹脂等が含まれる。金属用塗料は、メラミン樹脂を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。上記の中でも、メチル化メラミン樹脂、ブチル化メラミン樹脂、およびこれらの組合せが好ましく、特にメチル化メラミン樹脂が好ましい。ブチル化メラミン樹脂を過剰に添加すると塗膜表層の架橋密度が過度になることがある。
【0029】
金属用塗料が含むポリエステル樹脂およびメラミン樹脂の比(質量比)は、90:10~60:40が好ましく、85:15~65:35程度がより好ましい。ポリエステル樹脂およびメラミン樹脂の質量比が当該範囲であると、耐候性や耐衝撃性に優れた被印刷層が得られる。
【0030】
金属用塗料の固形分100質量部に対する、ポリエステル樹脂およびメラミン樹脂の合計量は、30~80質量部が好ましく、50~70質量部がより好ましい。ポリエステル樹脂およびメラミン樹脂の合計量が当該範囲であると、金属用塗料から得られる被印刷層の強度が十分に高まりやすい。さらに、被印刷層とインク層との密着性が良好になりやすい。
【0031】
金属用塗料は、触媒をさらに含んでいてもよい。触媒の例には、ドデシルベンゼンスルフォン酸、パラトルエンスルフォン酸、ベンゼンスルフォン酸等が含まれる。触媒の使用量は、金属用塗料の固形分総量に対して0.1~8質量%が好ましい。
【0032】
さらに、金属用塗料はアミンをさらに含んでいてもよい。アミンは、触媒反応を中和するための化合物であり、その例には、トリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、モノエタノールアミン、イソプロパノールアミン等が含まれる。アミンの使用量は、特に限定されないが、酸(触媒)当量の50モル%以上が好ましい。
【0033】
また、金属用塗料は、体質顔料(ビーズを含む)や着色顔料等をさらに含んでいてもよい。体質顔料の例には、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、タルク、マイカ、樹脂ビーズ、ガラスビーズ等が含まれる。樹脂ビーズの例には、アクリル樹脂ビーズ、ポリアクリロニトリルビーズ、ポリエチレンビーズ、ポリプロピレンビーズ、ポリエステルビーズ、ウレタン樹脂ビーズ、エポキシ樹脂ビーズ等が含まれる。
【0034】
これらの樹脂ビーズは、公知の方法を用いて製造したものでもよいし、市販品を利用してもよい。市販のアクリル樹脂ビーズの例には、東洋紡株式会社の「タフチック AR650S(平均粒径18μm)」、「タフチック AR650M(平均粒径30μm)」、「タフチック AR650MX(平均粒径40μm)」、「タフチック AR650MZ(平均粒径60μm)」、「タフチック AR650ML(平均粒径80μm)」、「タフチック AR650L(平均粒径100μm)」および「タフチック AR650LL(平均粒径150μm)」が含まれる。また、市販のポリアクリロニトリルビーズの例には、東洋紡株式会社の「タフチック A-20(平均粒径24μm)」、「タフチック YK-30(平均粒径33μm)」、「タフチック YK-50(平均粒径50μm)」および「タフチック YK-80(平均粒径80μm)」が含まれる。金属用塗料は、これらを1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0035】
一方、着色顔料の例には、カーボンブラック、酸化チタン、酸化鉄、黄色酸化鉄、フタロシアニンブルー、コバルトブルー等が含まれる。顔料の量は、顔料の種類、粒径等に応じて適宜選択される。金属用塗料は、これらを1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0036】
金属用塗料は、必要に応じて溶媒をさらに含んでいてもよい。溶媒は、上記ポリエステル樹脂やメラミン樹脂を十分に溶解させたり、上記体質顔料や着色顔料等を均一に分散させたりすることが可能であれば特に制限されない。溶媒の例には、トルエン、キシレン、Solvesso(登録商標)100(商品名、エクソンモービル社製)、Solvesso(登録商標)150(商品名、エクソンモービル社製)、Solvesso(登録商標)200(商品名、エクソンモービル社製)等の炭化水素系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤;メタノール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール等のアルコール系溶剤;エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテルアルコール系溶剤;等が含まれる。金属用塗料は、これらを1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。これらの中でも、ポリエステル樹脂やメラミン樹脂との相溶性等の観点で、好ましくはキシレン、Solvesso(登録商標)100、Solvesso(登録商標)150、シクロヘキサノン、n-ブチルアルコールである。
【0037】
上記金属用塗料の調製方法は特に制限されず、ポリエステル樹脂と、メラミン樹脂と、必要に応じて他の成分を公知の方法で混合すればよい。
【0038】
(被印刷用金属基材)
上述の金属用塗料から得られる被印刷層を有する被印刷用金属基材について説明する。被印刷用金属基材は、金属基材と、当該金属基材上に配置された、上述の金属用塗料の硬化物である被印刷層とを有する。当該被印刷用金属基材は、例えば後述の活性エネルギー線硬化型組成物等を塗布し、インク層を形成するための基材として使用される。また、当該被印刷用基材は、プレコート金属板であってもよく、ポストコート金属板であってもよい。
【0039】
・金属基材
金属基材は、上記金属用塗料を塗布して被印刷層を形成可能な構造を有していればよく、その形状は特に制限されない。例えば平板状であってもよく、立体的な構造を有していてもよい。また、金属基材は、帯状等であってもよい。金属基材の厚みは特に制限されず、塗装金属材の用途に応じて適宜選択される。
【0040】
また、金属基材の材質は特に制限されず、溶融Znめっき鋼板、溶融Zn-55%Al合金めっき鋼板、溶融Zn-Al-Мg合金めっき鋼板、溶融Alめっき鋼板、電気Znめっき鋼板、電気Cuめっき鋼板等のめっき鋼板;普通鋼板やステンレス鋼板等の鋼板;アルミニウム板;銅板等が含まれる。金属基材には、本発明の効果を阻害しない範囲で、その表面に化成処理皮膜や下塗り塗膜等が形成されていてもよい。さらに、当該金属基材は、本発明の効果を損なわない範囲で、エンボス加工や絞り成形加工等の凹凸加工がなされていてもよい。
【0041】
化成処理皮膜を形成するための化成処理の種類は、特に限定されない。化成処理の例には、クロメート処理、クロムフリー処理、リン酸塩処理等が含まれる。化成処理皮膜の付着量は、耐食性の向上に有効な範囲内であれば特に限定されない。
【0042】
さらに、下塗り塗膜は、金属基材上に直接、または上記化成処理皮膜上に形成され、被印刷層の密着性を向上させたり、金属基材の耐食性を向上させたりする層である。
【0043】
下塗り塗膜は、例えば樹脂を含む下塗り塗料を金属基材または化成処理皮膜の表面に塗布し、乾燥(または硬化)させることで形成される。下塗り塗料が含む樹脂の種類は、特に限定されない。樹脂の例には、ポリエステル、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等が含まれる。エポキシ樹脂は、極性が高く、かつ金属基材に対する密着性が良好であることから特に好ましい。また、下塗り塗膜の厚みは、最終的な塗装金属材の用途や種類に合わせて適宜選択され、例えば5μm程度である。
【0044】
・被印刷層
被印刷層は、上述の金属用塗料の硬化物を含む層であり、上述の金属基材上に、上述の金属用塗料を塗布し、硬化させることで形成される。当該金属用塗料の硬化物からなる層をそのまま被印刷層としてもよいが、当該層にさらにフレーム処理またはコロナ放電処理を行った層を被印刷層とすることがより好ましい。フレーム処理やコロナ放電処理を行うことで、格段に後述のインク層の密着性が高まり、例えば厚みの厚いインク層を形成しても、剥離し難くなる。なお、これらの中でも特に、フレーム処理を行った被印刷層が、インク層の密着性等の観点で好ましい。
【0045】
上述の金属用塗料を、金属基材上に塗布する方法は特に制限されず、金属基材の形状や、形成する被印刷層のパターン、形成する被印刷層の面積等に合わせて適宜選択される。塗布方法の例には、インクジェット印刷法や、グラビア印刷法、オフセット印刷法、スクリーン印刷法、ロールコート法、バーコート法、スピンコート法、エアースプレー法、エアーレススプレー法、浸漬引き上げ法等が含まれる。金属用塗料を塗布する際に、これらの方法を2種以上組み合わせてもよい。
【0046】
そして、金属基材上に、上記金属用塗料を塗布後、金属用塗料を加熱し(以下、「焼き付け」とも称する)硬化させる。焼き付けの方法は特に制限されないが、金属基材を、到達板温が150~250℃の範囲内となるように加熱することが好ましい。
【0047】
また、上記金属用塗料の焼き付け後、被印刷層をフレーム処理する場合には、被印刷層を形成した金属基材をベルトコンベア等の搬送機に載置する。そして、一定方向に移動させながら、フレーム処理用バーナーで被印刷層に火炎を放射する。
【0048】
ここで、フレーム処理量は、100~600kJ/mが好ましい。本明細書における「フレーム処理量」とは、LPガス等の燃焼ガスの供給量を基準として計算される金属基材の単位面積当たりの熱量である。当該フレーム処理量は、フレーム処理用バーナーのバーナーヘッドと被印刷層表面との距離、被印刷層の搬送速度等によって調整できる。フレーム処理量が100kJ/m以上であると、被印刷層表面全体が均一に処理されやすくなる。一方、フレーム処理量が600kJ/m以下であると、被印刷層が黄変等し難い。
【0049】
なお、上記フレーム処理前に、被印刷層表面を40℃以上に加熱する予熱処理を行ってもよい。熱伝導率が高い金属基材(例えば、熱伝導率が10W/mK以上の金属基材)表面に形成された被印刷層に火炎を照射すると、燃焼性ガスの燃焼によって生じた水蒸気が冷やされて水となり、一時的に被印刷層の表面に溜まる。そして、当該水がフレーム処理時のエネルギーを吸収して水蒸気となることで、フレーム処理が阻害されることがある。これに対し、被印刷層表面を予め加熱しておくことで、火炎照射時の水の発生を抑えることができる。
【0050】
被印刷層を予熱する手段は特に限定されず、金属基材の形状等に合わせて適宜選択される。例えば、一般に乾燥炉と呼ばれる加熱装置を使用することができる。例えば、バッチ式の乾燥炉(「金庫炉」とも称する。)を使用することができ、その具体例には、株式会社いすゞ製作所社製低温恒温器(型式 ミニカタリーナ MRLV-11)、東上熱学社製自動排出型乾燥器(型式 ATO-101)、および東上熱学社製簡易防爆仕様乾燥器(型式 TNAT-1000)等が含まれる。
【0051】
一方、被印刷層にコロナ放電処理を行う場合には、被印刷層を形成した金属基材を、絶縁された電極と、接地された対極誘電体ロールとの間に載置する。そして、これらの間に、1~600KHz、5~30KVの高周波、高電圧を印加し、コロナ放電を生じさせる。コロナ放電処理装置としては、スパークギャップ方式、真空管方式、ソリッドステート方式等があり、いずれも使用できる。コロナ放電処理条件は、200w/m/分以上が好ましく、200~800w/m/分がより好ましい。200w/m/分未満であるとコロナ放電処理量が不十分になることがあり、800w/m/分を越えると、処理が過剰となるので経済上好ましくない。
【0052】
ここで、被印刷層の厚みは、特に制限されないが、例えば10~40μmが好ましく、12~25μmがより好ましい。被印刷層の厚みが10μm以上であると、被印刷層の耐久性が良好になりやすい。また、被印刷層が柔軟になりやすく、後述のインク層の密着性が高まりやすくなる。一方、厚みが40μm以下であると、上記加熱時にワキが発生し難く、表面状態が良好になりやすい。さらに、被印刷層の表面状態が良好であると、後述の活性エネルギー線硬化型組成物が均一に濡れ広がりやすく、これから得られるインク層と被印刷層との密着性が高まりやすい。
【0053】
ここで、被印刷層は、その表面をX線電子分光分析法(以下、XPS法とも称する)で分析したときのC原子の量に対するO原子の量の割合は、0.6以上が好ましい。C原子の量に対するO原子の量の割合は、0.8以上がより好ましい。XPS法で測定したときのC原子の量に対するO原子の量の割合は、上述のフレーム処理またはコロナ放電処理によって、調整できる。上述のフレーム処理やコロナ放電処理を行うと、被印刷層表面の有機基が一部分解されて、OH基が導入される。その結果、フレーム処理やコロナ放電処理を行わない場合と比較して、O原子の量が増加する。つまり、C原子の量に対するO原子の量の割合が大きくなる。そして、当該OH基が被印刷層上に形成されるインク層中の親水基と水素結合しやすくなり、被印刷層とインク層との密着性が高くなりやすい。
【0054】
XPS法による被印刷層表面の組成(C原子およびO原子の量)の分析は、X線源としてAlKαを用いた、一般的なXPS法による分析と同様とすることができる。例えば以下の測定装置や測定条件で行うことができる。
(測定装置および測定条件)
測定装置:KRATOS社製 AXIS-NOVA 走査型X線光電子分光装置
X線源:AlKα 1486.6eV
分析領域 700×300μm
分析室真空度:1.0×10-7Pa
【0055】
上述のように、フレーム処理およびコロナ放電処理のいずれによっても、上記C原子の量に対するO原子の量の割合を高めることができる。ただし、コロナ処理で被印刷層表面を処理する場合より、フレーム処理によって被印刷層表面を処理したほうが、より均一に表面を親水化(O原子の量を均一に増加)させることができ、インクの密着性を高めることができる。
【0056】
被印刷層の表面が、均一に親水化されているか否かは、以下のヨウ化メチレン転落角によって評価できる。例えば、被印刷層のヨウ化メチレン転落角が15°以上45°以下である場合には、表面が均一に親水化されているといえる。なお、ヨウ化メチレン転落角は35°以下がより好ましい。
【0057】
ヨウ化メチレン転落角は、被印刷層表面の親水性が十分に高い場合や、被印刷層表面の粗度が粗い場合に上記範囲に収まりやすい。ただし、被印刷層の親水性が不均一である場合には、ヨウ化メチレン転落角が45°より高くなる。例えば、コロナ処理で表面処理されている場合には、ヨウ化メチレン転落角が45°超となりやすい。これに対し、フレーム処理が行われている場合には、表面が均一に親水化されており、ヨウ化メチレン転落角が45°以下となる。
【0058】
なお、コロナ放電処理等によって、被印刷層表面の親水性が不均一となった場合に、ヨウ化メチレン転落角が45°より大きくなる理由は、以下のように考えられる。表面に親水基および疎水基をそれぞれ同数ずつ有する2種類の塗膜が有り、一方は親水基と疎水基との分布に偏りが無く、他方は親水基と疎水基との分布に偏りが有ると仮定する。このとき、両者の静的接触角は、親水基および疎水基の分布に左右され難く、略同一となる。これに対し、両者の動的接触角(ヨウ化メチレン転落角)は、親水基および疎水基の分布によって左右され、異なる値となる。ヨウ化メチレン転落角を測定する際、親水基および疎水基の分布が不均一であると、親水基の密度が高い部分にヨウ化メチレン滴が吸着される。つまり、親水基と疎水基との分布に偏りが有ると、分布ムラがない場合と比較してヨウ化メチレン滴が動き難くなり、転落角が大きくなる。したがって、コロナ放電処理のように、被印刷層表面に親水基が多数導入されるものの、その分布にはムラがある場合には、ヨウ化メチレン転落角が45°を超える高い値となる。
【0059】
なお、ヨウ化メチレン転落角は、以下のように測定される値である。まず、被印刷層上に2μlのヨウ化メチレンを滴下する。その後、接触角測定装置を用いて、2度/秒の速度で被印刷層の傾斜角度(重力に垂直な平面と被印刷層とがなす角度)を大きくする。このとき、接触角測定装置に付属しているカメラによって、ヨウ化メチレンの液滴を観察する。そして、ヨウ化メチレンの液滴が転落する瞬間の傾斜角度を特定し、5回の平均値を当該被印刷層のヨウ化メチレン転落角とする。なお、ヨウ化メチレンの液滴が転落する瞬間とは、ヨウ化メチレン(液滴)の重力下方向の端点および重力上方向の端点の両方が動き出す瞬間とする。
【0060】
2.塗装金属材
塗装金属材は、上述の被印刷用金属基材と、当該被印刷用金属基材の被印刷層上に配置された、活性エネルギー線硬化型組成物(以下、「硬化型組成物」とも称する)の硬化物であるインク層と、を有する。インク層は、被印刷層が形成された全ての領域に配置されていてもよく、被印刷層が形成された領域のうちの一部のみに配置されていてもよい。
【0061】
インク層は、1種(例えば1色)のみの硬化型組成物の硬化物であってもよく、2種以上(例えば2色以上)の硬化型組成物の硬化物であってもよい。硬化型組成物の組成については後述する。また、硬化型組成物の種類や、配置面積、配置パターン等は、塗装金属材の用途に合わせて適宜選択される。また、本明細書における活性エネルギー線の例には、電子線、紫外線、α線、γ線、エックス線等が含まれる。
【0062】
硬化型組成物の塗布方法は特に制限されず、公知の方法から適宜選択される。硬化型組成物の塗布方法の例には、インクジェット印刷法や、グラビア印刷法、オフセット印刷法、スクリーン印刷法、ロールコート法、バーコート法等が含まれる。これらの中でも、多色の模様や、複雑な模様を短時間で容易に形成できるという観点でインクジェット法が好ましい。硬化型組成物の塗布の際には、これらを組み合わせてもよい。
【0063】
さらに、硬化型組成物の塗布量は特に制限されず、硬化後の厚みが5~150μm程度となるように塗布することが好ましく、10~100μm程度とすることがより好ましい。なお、硬化型組成物を同一箇所に複数回塗布して、上記厚みを達成してもよい。上述のように、一般的には、硬化型組成物の塗布量が多くなると、硬化時の硬化収縮が大きくなり、得られるインク層が剥離しやすくなる。しかしながら、上記被印刷用金属基材(特にフレーム処理を行った被印刷層を有する場合)は、被印刷層と形成されるインク層との密着性が高く、例えば40μm以上の厚みを有するインク層を形成しても剥離が生じ難い。
【0064】
なお、硬化後のインク層の厚みが連続的、または断続的に変化するように、硬化型組成物を塗布してもよい。一般的な被印刷層上に、厚みの異なる被印刷層を形成すると、インク層の厚みの厚い箇所と厚みの薄い箇所とで、密着性が変化し、密着性の低い箇所から剥離してしまうことがある。これに対し、上記被印刷用金属基材(特にフレーム処理を行った被印刷層を有する場合)では、インク層の厚みが薄い場合、およびインク層の厚みが厚い場合のいずれにおいても、インク層と被印刷層との密着性が高い。したがって、厚みが変化するインク層を形成しても、剥離が生じ難い。
【0065】
硬化型組成物の塗布後、その塗膜に、活性エネルギー線を照射し、硬化させる。活性エネルギーは、電子線、紫外線、α線、γ線、およびエックス線のいずれかとすることができる。これらの中でも、エネルギー効率や、大掛かりな装置が不要であるとの観点で、電子線または紫外線が好ましく、特に紫外線が好ましい。
【0066】
照射する活性エネルギー線の量は、後述の硬化型組成物中の光重合開始剤や光酸発生剤の種類や量等に応じて適宜選択される。また、照射する活性エネルギー線の主波長も、光重合開始剤や光酸発生剤の種類に応じて適宜選択され、例えば波長360~425nmとすることができる。
【0067】
なお、硬化型組成物を複数種塗布する場合、硬化型組成物を1種塗布する毎に、活性エネルギー線の照射を行ってもよく、硬化型組成物を複数種塗布してから、活性エネルギー線の照射を行ってもよい。
【0068】
・硬化型組成物
上記被印刷層上に塗布する硬化型組成物は、従来、金属板への印刷に使用されている公知の組成物であってもよい。硬化型組成物には、ラジカル重合型組成物とカチオン重合型組成物が存在し、本発明では、いずれも使用可能である。
【0069】
ラジカル重合型組成物は、例えば、光重合性化合物、光重合開始剤、および着色剤を含む組成物とすることができる。光重合性化合物は、活性エネルギー線の照射時に反応性を示す光重合性基を少なくとも1つ有する化合物であればよい。光重合性化合物の例には、(メタ)アクリロイルオキシ基を1以上6以下有する、公知の(メタ)アクリル系モノマーまたは(メタ)アクリル系オリゴマーが含まれる。なお、本明細書において(メタ)アクリロイルとの記載は、メタクリロイルおよびアクリロイルのいずれか一方、もしくは両方を表し、(メタ)アクリルとの記載は、メタクリルおよびアクリルのいずれか一方、もしくは両方を表す。ラジカル重合型組成物は、光重合性化合物を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0070】
ラジカル重合型組成物は、上記光重合性化合物を固形分中に50~90質量%含むことが好ましい。ラジカル重合型組成物中の光重合性化合物の量が当該範囲であると、ラジカル重合型組成物が上述の被印刷層上に十分に濡れ広がりやすく、インク層が被印刷層に密着しやすくなる。
【0071】
一方、光重合開始剤は、活性エネルギー線の照射によって、ラジカルを発生可能な化合物であればよく、活性エネルギー線の波長に対応する吸収波長を有する化合物が好ましい。光重合開始剤の例には、ベンゾフェノン系化合物、アセトフェノン系化合物、チオキサントン系化合物、フォスフィンオキサイド系化合物等が含まれる。特にフォスフィンオキサイド系化合物は370nm以上に吸収波長を有することから、インク層の深部硬化を促進するために添加することがより好ましい。ラジカル重合型組成物は、光重合開始剤を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0072】
ラジカル重合型組成物は、上記光重合開始剤を固形分中に1~25質量%含むことが好ましい。ラジカル重合型組成物中の光重合開始剤の量が当該範囲であると、上記光重合性化合物を硬化させることが可能となる。
【0073】
また、着色剤の種類は特に制限されず、公知の顔料または染料を使用できる。ラジカル重合型組成物は、着色剤を固形分中に0.1~10質量%含むことが好ましい。ラジカル重合型組成物は、着色剤を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0074】
一方、カチオン重合型組成物は、光重合性化合物と、光酸発生剤と、着色剤とを含む組成物とすることができる。
【0075】
光重合性化合物は、活性エネルギー線の照射時に反応性を示す光重合性基を少なくとも1つ有する化合物であればよい。光重合性化合物の例には、オキシラン基を有するエポキシ化合物が含まれる。エポキシ化合物の例には、芳香族エポキシド、脂環式エポキシド、および脂肪族エポキシドが含まれる。
【0076】
また、光重合性化合物は、脂肪酸エステル、脂肪酸グリセライドにエポキシ基を導入したエポキシ化脂肪酸エステルやエポキシ化脂肪酸グリセライド等であってもよい。さらに、光重合性化合物は、オキセタン環を含有する化合物やビニルエーテル化合物であってもよい。カチオン重合型組成物は、光重合性化合物を1種のみを含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0077】
また、カチオン重合型組成物は、上記光重合性化合物を固形分中に60~95質量%含むことが好ましい。カチオン重合型組成物中の光重合性化合物の量が当該範囲であると、カチオン重合型組成物が上述の被印刷層上に十分に濡れ広がりやすく、インク層が被印刷層に密着しやすくなる。
【0078】
光酸発生剤は、例えば、芳香族オニウム化合物の塩;スルホン酸を発生するスルホン化物;ハロゲン化水素を発生するハロゲン化物等が含まれる。カチオン重合型組成物は、上記光酸発生剤を固形分中に3~20質量%含むことが好ましい。カチオン重合型組成物中の光酸発生剤の量が当該範囲であると、上記光重合性化合物を十分に硬化させることが可能となる。
【0079】
また、カチオン重合型組成物が含む着色剤は、ラジカル重合型組成物が含む着色剤と同様である。
【0080】
上記硬化型組成物は、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。他の成分の例には、重合禁止剤、酸化防止剤、シランカップリング剤、可塑剤、防錆剤、溶剤、非反応性ポリマー、充填剤、pH調整剤、消泡剤、荷電制御剤、応力緩和剤、表面調整剤等が含まれる。
【0081】
(塗装金属材の用途)
上述の塗装金属材の用途は特に制限されず、金属基材を使用する部材や用途であれば、多種多様なものに使用できる。用途の例には、パーテーションや扉、天井材、床材、エレベータ用扉、エレベータ用内装パネル等の内装化粧建材;レンジフードや浴室内装部材等の住宅用各種設備;机やいす、ロッカー、棚等の家具;冷蔵庫外板や電子レンジ外板、パソコン筐体、エアコン筐体等の家電;乗用車内装や鉄道車両内装等の車両用部材等が含まれる。ただし、塗装金属材の用途は、これらに限定されない。
【実施例
【0082】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【0083】
1.金属基材の準備
板厚0.27mm、A4サイズの片面当りめっき付着量90g/mの溶融Zn-55%Al合金めっき鋼板を使用した。この金属板をアルカリ脱脂した後、塗布型クロメート(日本ペイント社製:NRC300NS、Crとして50mg/mの付着量)で処理した。さらに、プライマー層として、市販のエポキシ樹脂系プライマー塗料(日本ペイント・インダストリアルコーティングス社製:715P)を乾燥膜厚が5μmとなるようにロールコーターで塗装した。その後、最高到達板温215℃となるように焼き付けた。
【0084】
2.金属用塗料の調製および塗布
表1に示す多価カルボン酸および多価アルコールを常法でそれぞれ重合させて、ポリエステル樹脂P1~P8を調製した。各ポリエステル樹脂の数平均分子量、水酸基価、およびポリエステル樹脂中のカルボン酸構造単位およびアルコール構造単位の合計量に対する、3価以上のアルコール由来の構造単位量(モル%)を表1に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
上記ポリエステル樹脂の調製後、ポリエステル樹脂とメラミン樹脂とを混合した。メラミン樹脂としては、メチル化メラミン樹脂(日本サイテックインダストリーズ社製:サイメル303)および/またはブチル化メラミン樹脂(日本サイテックインダストリーズ社製:サイメル325)を用いた。また、ポリエステル樹脂とメラミン樹脂との組み合わせおよび混合比は、表2に示す組み合わせおよび混合比とした。
【0087】
【表2】
【0088】
上記ポリエステル樹脂およびメラミン樹脂の混合物に、以下の成分をさらに加えて、金属用塗料を調製した。各成分量は、金属用塗料の固形分量に対する値である。固形分の残部は、上記ポリエステル樹脂およびメラミン樹脂の混合物である。
【0089】
平均粒径0.28μmの酸化チタン(テイカ社製:JR-603)40質量%、平均粒径10μmのマイカ(ヤマグチマイカ社製:SJ-010)9質量%、平均粒径5.5μmの疎水性シリカ(富士シリシア化学社製:サイシリア456)6質量%、平均粒径12μmの疎水性シリカ(富士シリシア社製:サイリシア476)2質量%を使用した。さらに、触媒としてドデシルベンゼンスルフォン酸を、上述の樹脂の固形分に対して1質量%使用した。またアミンとしてジメチルアミノエタノールをドデシルベンゼンスルフォン酸の酸当量に対してアミン当量として1.25倍の量、使用した。
【0090】
そして、金属用塗料の乾燥膜厚が18μmとなるように、上述のプライマー層を有する金属基材の一方の面に、金属用塗料をロールコーターで塗装した。その後、最高到達板温225℃となるように60秒間焼き付けて、金属基材上に被印刷層を形成した。
【0091】
3.フレーム処理またはコロナ放電処理
上記被印刷層に、以下の条件でフレーム処理またはコロナ放電処理を行った。
【0092】
3-1.フレーム処理
上記被印刷層を形成した金属基材を搬送機に載せて、被印刷層にフレーム処理を行った。フレーム処理用バーナーには、Flynn Burner社(米国)製のF-3000を使用した。また、燃焼性ガスには、LPガス(燃焼ガス)と、クリーンドライエアーとを、ガスミキサーで混合した混合ガス(LPガス:クリーンドライエアー(体積比)=1:25)を使用した。また、各ガスの流量は、バーナーの炎口の1cmに対してLPガス(燃焼ガス)が1.67L/分、クリーンドライエアーが41.7L/分となるように調整した。なお、被印刷層の搬送方向のバーナーヘッドの炎口の長さは4mmとした。一方、バーナーヘッドの炎口の搬送方向と垂直方向の長さは、450mmとした。さらに、バーナーヘッドの炎口と被印刷層表面との距離は、所望のフレーム処理量に応じて50mmとした。さらに、被印刷層の搬送速度を30m/分とすることで、フレーム処理量を212kJ/mに調整した。
【0093】
3-2.コロナ放電処理
上述の金属基材の表面に形成された被印刷層をコロナ放電処理した。コロナ放電処理には、春日電機社製のコロナ放電処理装置を使用した。
(仕様)
・電極セラミック電極
・電極長さ 430mm
・出力 310W
また、被印刷層のコロナ放電処理回数は、いずれも1回とした。コロナ放電処理量は、処理速度によって調整した。具体的には2.8m/分で処理し、コロナ放電処理量250W/m/分とした。
【0094】
4.活性エネルギー線硬化型組成物の準備
上述のフレーム処理またはコロナ放電処理を行った被印刷層、および未処理の被印刷層上に、以下ように調製した活性エネルギー線硬化型組成物(以下のラジカル重合型組成物またはカチオン重合型組成物)を、後述の条件でそれぞれ塗布した。
【0095】
4-1.ラジカル重合型黒色組成物の調製
・組成
以下の成分を混合し、ラジカル重合型黒色組成物を調製した。
顔料分散液(顔料:10質量%) 10質量部
光重合性化合物A 25質量部
光重合性化合物B 57質量部
光重合開始剤a 5質量部
光重合開始剤b 3質量部
【0096】
・材料
上記ラジカル重合型黒色組成物の材料には、以下の化合物を使用した。
顔料分散液:カーボンブラック(デグサジャパン社製、NIPex 35)と分散媒(サートマージャパン社製、SR9003、PO変性ネオペンチルグリコールジアクリレート)との混合物
光重合性化合物A:サートマージャパン社製、CN985B88(2官能脂肪族ウレタンアクリレート88質量%と1,6-ヘキサンジオールジアクリレート12質量%との混合物)
光重合性化合物B:1,6-ヘキサンジオールジアクリレート
光重合開始剤a:チバ・ジャパン社製、イルガキュア184(ヒドロキシケトン類)
光重合開始剤b:チバ・ジャパン社製、イルガキュア819(アシルフォスフィンオキサイド類)
【0097】
4-2.カチオン重合型黒色組成物の調製
カチオン重合型黒色組成物は、まず、顔料分散液を調製し、その後、当該顔料分散液を他の成分と混合して調製した。
【0098】
・顔料分散液の調製
高分子分散剤(味の素ファインテクノ社製、PB821)9質量部と、オキセタン化合物(東亜合成社製、OXT211)71質量部と、黒色顔料(Pigment Black 7)20質量部とを混合した。そして当該混合物を、直径1mmのジルコニアビーズ200gと共にガラス瓶に入れて密栓し、ペイントシェーカーにて4時間分散処理した。その後、ジルコニアビーズを除去して、顔料分散液を得た。
【0099】
・組成
以下の成分を混合し、カチオン重合型黒色組成物を調製した。
顔料分散液 14質量部
光重合性化合物C 4質量部
光重合性化合物D 34質量部
光重合性化合物E 24質量部
光重合性化合物F 8.9質量部
塩基性化合物 0.05質量部
界面活性剤a 0.025質量部
界面活性剤b 0.025質量部
相溶化剤 10質量部
光酸発生剤 5質量部
【0100】
・材料
上記カチオン重合型黒色組成物の材料には、以下の化合物を使用した。
光重合性化合物C:エポキシ化亜麻仁油(ATOFINA社製、Vikoflex9040)
光重合性化合物D:下記式で表される化合物
【化1】
光重合性化合物E:オキセタン化合物(東亜合成社製、OXT-221)
光重合性化合物F:オキセタン化合物(東亜合成社製、OXT-211)
塩基性硬化型組成物:N-エチルジエタノールアミン
界面活性剤a:DIC社製、メガファックF178k(パーフルオロアルキル基含有アクリルオリゴマー)
界面活性剤b:DIC社製、メガファックF1405(パーフルオロアルキル基含有エチレンオキサイド付加物)
相溶化剤:東邦化学社製、ハイゾルブBDB(グリコールエーテル)
光酸発生剤:ダウケミカル社製、UV16992
【0101】
4-3.活性エネルギー線硬化型組成物の印刷条件
上述のラジカル重合型黒色組成物およびカチオン重合型黒色組成物の印刷条件は、それぞれ以下の通りである。
【0102】
(ラジカル重合型組成物のインクジェット印刷条件)
(a)ノズル径 :35μm
(b)印加電圧 :11.5V
(c)パルス幅 :10.0μs
(d)駆動周波数 :3,483Hz
(e)解像度 :360dpi
(f)液滴の体積 :42pl
(g)ヘッド加熱温度 :45℃
(h)塗布量 :8.4g/m
(i)ヘッドと記録面の距離 :5.0mm
(j)液滴の初速 :5.9m/sec
【0103】
(カチオン重合型組成物のインクジェット印刷条件)
(a)ノズル径 :35μm
(b)印加電圧 :13.2V
(c)パルス幅 :10.0μs
(d)駆動周波数 :3,483Hz
(e)解像度 :360dpi
(f)液滴の体積 :42pl
(g)ヘッド加熱温度 :45℃
(h)塗布量 :8.4g/m
(i)ヘッドと記録面の距離 :5.0mm
(j)液滴の初速 :6.1m/sec
【0104】
5.評価
被印刷層(未処理、フレーム処理、およびコロナ放電処理)について、以下のXPS分析、ヨウ化メチレン転落角の測定、および活性エネルギー線硬化型組成物の濡れ広がり評価を行った。また、未処理の被印刷層に対して耐侯性試験を行った。さらに、上記活性エネルギー線硬化型組成物を塗布してインク層を形成した後の塗装金属材に対し、インク層の密着性の評価、耐衝撃性試験、および加工性試験を行った。各結果を表3および表4に示す。
【0105】
5-1.XPS分析(被印刷層表面のO原子濃度およびC原子濃度の測定)
XPS分析装置(KRATOS社製AXIS-NOVA)により、以下の条件で、被印刷層表面のO原子濃度およびC原子濃度を測定した。
X線源:単色化AlKα(1486.6eV)
分析領域:300×700μm
分析室真空度:1.0×10-7Pa
【0106】
5-2.ヨウ化メチレン転落角の測定
水平に保持した被印刷層上に2μlのヨウ化メチレンを滴下した。その後、接触角測定装置(協和界面科学社製 DM901)を用いて、2度/秒の速度で被印刷層の傾斜角度(水平面と被印刷層とが成す角度)を大きくした。そして、接触角測定装置に付属しているカメラによって、ヨウ化メチレンの液滴を観察した。ヨウ化メチレンの液滴が転落する瞬間の被印刷層の傾斜角度を特定し、5回の平均値を当該被印刷層のヨウ化メチレン転落角とした。なお、ヨウ化メチレンの液滴が転落する瞬間とは、ヨウ化メチレンの液滴の重力下方向の端点および重力上方向の端点の両方が移動し始める瞬間とした。
【0107】
5-3.耐候性試験
被印刷層(未処理)に対して、JIS D0205で規定されているサンシャインカーボンアーク灯式耐候性試験に準じて、サンシャインウェザメータ(スガ試験機社製「S80DH」)を用いて、下記の条件で促進耐候性試験を行った。
【0108】
(試験条件)
照度:255W/m
照射サイクル:60分中12分降雨
照射時間:1,000時間
ブラックパネル温度:63℃
促進耐候性試験後、被印刷層の平坦部の光沢保持率を算出した。光沢保持率は、試験前の被印刷層の光沢度(100とする)に対する、試験後の被印刷層の光沢度の割合である。光沢度はJIS K5600-4-7に規定された方法に準拠して測定した。測定機器としてスガ試験機社製:デジタル変角光沢計 UGV-6Pを用い、光の入射角は60°とし、以下のように評価した。△以上を合格とした。
〇:光沢保持率 40%以上
△:光沢保持率 20%以上、40%未満
×:光沢保持率 20%未満
【0109】
5-4.活性エネルギー線硬化型組成物の濡れ広がり性評価
上述の被印刷層上に、活性エネルギー線硬化型組成物(ラジカル重合型黒色組成物およびカチオン重合型黒色組成物)をドット状に塗布した。具体的には、インクジェット印刷機(トライテック社製:パターニングジェット)を用いて、各液滴の体積が42plとなるようにドットを印刷した。なお、ドット同士が重ならないようにドット間の距離は500μmとした。そして、オリンパス社製:走査型共焦点レーザ顕微鏡LEXT OLS3000を用いて、各ドット径を測定した。より具体的には、1ドットのみが見える範囲に拡大して(200倍)、8個のドットのドット径を測定し、その平均値をドット径として評価した。ドットの広がりが楕円に近い場合は、長径と短径の平均値をドット径とし、以下のように評価した。なお、ドット径100μm未満では、活性エネルギー線硬化型組成物が濡れ広がり難く、100%印刷を行っても金属基材(被印刷層)表面を活性エネルギー線硬化型組成物で完全に覆うことができない。したがって、ドット径が小さいほうが、評価が低い。ただし、△以上であれば実用上問題ないといえる。
◎:ドット径 130μm以上
○:ドット径 100μm以上、130μm未満
△:ドット径 80μm以上、100μm未満
×:ドット径 80μm未満
【0110】
5-5.インク層の密着性の評価
上述の被印刷層上に、活性エネルギー線硬化型組成物を上述の条件で解像度360dpiとなるように、100~1000%(インク塗布量:8.4~84.0g/m)で印刷した。その後、高圧水銀ランプ(フュージョンUVシステムズ・ジャパン社製、Hバルブ)を用いて、ランプの出力:200W/cm、積算光量:600mJ/cm(オーク製作所社製、紫外線光量計UV-351-25を使用して測定)にて紫外線を照射し、インク層を形成した。得られた塗装金属材に対して、JIS K5600-5-6 G 330に準拠した碁盤目試験を実施した。具体的には、インク層の表面に、2mm間隔で25個のマス目ができるように碁盤目状の切り込みを入れた。そして、当該部分に粘着テープを貼り付け、剥離した。粘着テープの剥離後、インク層の残存率を観察した。評価は、以下の基準で行い、△以上を合格とした。
〇:インク層の剥離面積が0%
△:インク層の剥離面積が0%超かつ20%以内
×:インク層の剥離面積が20%超
【0111】
5-6.耐衝撃性試験
上述の被印刷層上に、活性エネルギー線硬化型組成物を上述の条件で解像度360dpiとなるように、100%(インク塗布量:8.4g/m)で印刷し、上記と同様に紫外線を照射して硬化させ、インク層を形成した。得られた塗装金属材に対して、JIS G3322の衝撃試験に準じ、デュポン衝撃試験機を用いて塗装金属材に衝撃を加えた。その後、インク層の表面に粘着テープを貼り付け、剥離した。粘着テープの貼り付け前および粘着テープの剥離後における塗装金属材の外観を観察し、以下のように評価した。なお、△以上の評価を合格とした。
◎:インク層および被印刷層の剥離なし、かつ貼り付け前にクラック(亀裂)なし
○:インク層および被印刷層の剥離なし、ただし貼り付け前にクラック(亀裂)あり
△:インク層または被印刷層にごく僅かに剥離あり
×:インク層または被印刷層に僅かに剥離あり
××:インク層または被印刷層に剥離あり
【0112】
5-7.加工性試験
上述の耐衝撃性試験と同様に、被印刷層上に活性エネルギー線硬化型組成物によりインク層を形成した。得られた塗装金属材に対して、JIS G3322の曲げ試験に準じて4T曲げ試験を行った。その後、折り曲げ部のインク層表面に粘着テープを貼り着け、剥離した。粘着テープの貼り付け前および粘着テープの剥離後における塗装金属材の外観を観察し、以下のように評価した。また、△以上の評価を合格とした。
◎:インク層および被印刷層の剥離なし、かつ貼り付け前にクラック(亀裂)なし
○:インク層および被印刷層の剥離なし、ただし貼り付け前にクラック(亀裂)あり
△:インク層または被印刷層にごく僅かに剥離あり
×:インク層または被印刷層に僅かに剥離あり
××:インク層または被印刷層に剥離あり
【0113】
【表3】
【0114】
【表4】
【0115】
ポリエステル樹脂中のアルコール構造単位およびカルボン酸構造単位の合計100モル%に対して、トリオール由来の構造単位(3価以上のアルコール由来の構造単位)が20モル%未満である、ポリエステル樹脂P1~P4を含む被印刷層を金属板上に形成した場合(ポリエステル樹脂およびメラミン樹脂の組合せA~D)、ラジカル重合型組成物およびカチオン重合型組成物のいずれの密着性も良好であった。さらに、これらの実施例では、金属用塗料中のポリエステル樹脂の数平均分子量が4000~12000であるため、耐侯性の評価(光沢保持率)も良好であった。なお、被印刷層をコロナ放電処理またはフレーム処理しない場合には、活性エネルギー線硬化型組成物の量が多くなると、密着性が低下する傾向にあった。これに対し、フレーム処理またはコロナ放電処理を行うと、活性エネルギー線硬化型組成物の量が多くなっても、密着性が下がり難かった。特にフレーム処理を行った場合には、塗布量を非常に多くしても、密着性が良好であった(実施例2、5、8、および11)。
【0116】
これらの実施例のように、活性エネルギー線硬化型組成物の塗布量が500%以上で、十分な密着性が得られると、活性エネルギー線硬化型組成物から得られるインク層自体に凹凸を形成すること等が可能となる。したがって、塗装金属基材の意匠性を大幅に向上させることができる。
【0117】
また、これらの実施例の被印刷層では全て、インク滴のドット径評価において、ドット径が130μm以上となり、十分なインク濡れ広がり性が得られた。つまり、フレーム処理により、インクの密着性と濡れ広がり性の両方が向上したといえる。そして、このような被印刷層によれば、インク層による凹凸模様の高低差を大きくすることが可能であり、その色域も広くなる。従って、フレーム処理により、意匠性が大幅に向上する。
【0118】
一方、金属板用塗料のポリエステル樹脂中のトリオール由来の構造単位の量が20モル%未満であったとしても、金属板用塗料中のポリエステル樹脂の平均分子量が12000を超える場合(ポリエステル樹脂およびメラミン樹脂の組合せEまたはF)、フレーム処理した場合の耐衝撃性および加工性は良好であったものの、インクの量が多くなると、密着性の面で、十分な性能が得られ難かった。ポリエステル樹脂の数平均分子量が高いと、フレーム処理等を行っても、表面に十分な量のOH基等を導入し難かったと考えられる。また、これらの比較例では、被印刷層の耐侯性の評価が低かった。これは、被印刷層中におけるメラミン樹脂の架橋密度が低すぎたため、と考えられる。
【0119】
また、ポリエステル樹脂中のアルコール構造単位およびカルボン酸構造単位の合計100モル%に対して、トリオール由来の構造単位(3価以上のアルコール由来の構造単位)を20モル%以上含む、ポリエステル樹脂P7およびP8を含む被印刷層を金属板上に形成した場合(ポリエステル樹脂およびメラミン樹脂の組合せG、H)、フレーム処理やコロナ放電処理を行っても、活性エネルギー線硬化型組成物の密着性が高まらなかった(比較例7~12)。これらの被印刷用金属基材では、金属板上に形成した被印刷層中のポリエステル樹脂の架橋密度が過度に高かったと考えられる。そして、当該被印刷層上に塗布される活性エネルギー線硬化型組成物が硬化する際に、硬化収縮したりすると、被印刷層と活性エネルギー線硬化型組成物から得られるインク層との間に応力がかかり、容易に剥離したと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明の金属用塗料によれば、金属基材上に、インク層との密着性が高い被印刷層を形成可能である。したがって、各種金属基材上に、活性エネルギー線硬化型組成物を用いて、意匠性の高い、種々の層を形成することが可能である。