IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立オートモティブシステムズ株式会社の特許一覧 ▶ オートリブ日信ブレーキシステムジャパン株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-車両用電動パーキングブレーキ装置 図1
  • 特許-車両用電動パーキングブレーキ装置 図2
  • 特許-車両用電動パーキングブレーキ装置 図3
  • 特許-車両用電動パーキングブレーキ装置 図4
  • 特許-車両用電動パーキングブレーキ装置 図5
  • 特許-車両用電動パーキングブレーキ装置 図6
  • 特許-車両用電動パーキングブレーキ装置 図7
  • 特許-車両用電動パーキングブレーキ装置 図8
  • 特許-車両用電動パーキングブレーキ装置 図9
  • 特許-車両用電動パーキングブレーキ装置 図10
  • 特許-車両用電動パーキングブレーキ装置 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】車両用電動パーキングブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 17/18 20060101AFI20240112BHJP
   B60T 8/00 20060101ALI20240112BHJP
   F16D 66/00 20060101ALI20240112BHJP
   B60T 13/74 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
B60T17/18
B60T8/00 Z
F16D66/00 Z
B60T13/74 H
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020062857
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021160475
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】315019735
【氏名又は名称】日立Astemo上田株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116034
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 啓輔
(72)【発明者】
【氏名】碓井 広地
(72)【発明者】
【氏名】宇野 真人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 真梨
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-043798(JP,A)
【文献】特開2015-004430(JP,A)
【文献】特開2017-074809(JP,A)
【文献】特表2018-517616(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0026035(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0067169(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 15/00-17/22
B60T 7/12-8/1769
B60T 13/00-13/74
F16D 49/00-71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーキングブレーキ状態を得る作動位置ならびにパーキングブレーキ状態を解除する解除位置間での回動を可能とするとともに前記解除位置側に向けて弾発付勢されるパーキングブレーキレバー(34)と;正逆回転自在の電動モータ(40)、当該電動モータ(40)の作動に応じて直線的に作動するとともに前記パーキングブレーキレバー(34)に連結される直動部材(38)、ならびに前記パーキングブレーキレバー(34)を前記解除位置側に回動させて前記パーキングブレーキ状態を解除する側に前記直動部材(38)が移動する際に前記電動モータ(40)に負荷を与えるべく前記直動部材(38)に当接する弾性部材(71)を有する電動アクチュエータ(39)と;前記電動モータ(40)の作動を制御する制御ユニット(C)と;前記電動モータ(40)への通電電流を検出する電流検出手段(84)と;前記電動アクチュエータ(39)の異常を報知し得る報知手段(85)とを備える車両用電動パーキングブレーキ装置において、前記制御ユニット(C)は、前記パーキングブレーキ状態で前記作動位置に在る前記パーキングブレーキレバー(34)を前記解除位置に戻す側への前記電動モータ(40)への通電開始に応じて計時を開始する第1計時手段(87)と、前記電流検出手段(84)による検出電流が無負荷電流に対応した第1設定電流(A1)を一旦超えた後に前記第1設定電流(A1)未満となるまでの前記第1計時手段(87)による計測時間が第1の所定上限時間(T1)以下であると判断したときに前記第1計時手段(87)による計時を停止させる第1判断手段(88)と、その第1判断手段(88)が前記第1計時手段(87)の計時を終了させると判断するのに応じて計時を開始する第2計時手段(89)と、第2計時手段(89)の計時時間が所定下限時間(T2)を超えるのに応じて前記電流検出手段(84)による検出電流の最大値(Amax)を順次更新しながら記憶し始める記憶手段(90)と、第2計時手段(89)による計時時間が前記所定下限時間(T2)よりも大きな第2の所定上限時間(T3)に達するまで前記電流検出手段(84)による検出電流が前記第1設定電流(A1)未満のままであったときに異常状態であると判断して前記電動モータ(40)の作動を停止させるとともに前記報知手段(85)に異常状態を報知させるものの第2計時手段(89)による計時時間が前記第2の所定上限時間(T3)に達するまでに前記電流検出手段(84)による検出電流が前記第1設定電流(A1)以上になったときには正常に前記電動モータ(40)の作動を停止させる第2判断手段(91)と、その第2判断手段(91)の判断結果によって前記電動モータ(40)の作動を正常に停止させた後に前記記憶手段(90)が記憶した検出電流の最大値(Amax)が第1設定電流(A1)よりも大きな第2設定電流(A2)以上になったときに異常状態であると判断して前記報知手段(85)に異常状態を報知させる第3判断手段(92)とを含むことを特徴とする車両用電動パーキングブレーキ装置。
【請求項2】
前記第1判断手段(88)は、前記電流検出手段(84)による検出電流が前記第1設定電流(A1)を一旦超えた後に前記第1計時手段(87)による計測時間が第1の所定上限時間(T1)を超えても前記第1設定電流(A1)を超えたままであるときに異常状態であると判断して前記電動モータ(40)の作動を停止させるとともに前記報知手段(85)に異常状態を報知させることを特徴とする請求項1に記載の車両用電動パーキングブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーキングブレーキ状態を得る作動位置ならびにパーキングブレーキ状態を解除する解除位置間での回動を可能とするとともに前記解除位置側に向けて弾発付勢されるパーキングブレーキレバーと、正逆回転自在の電動モータ、当該電動モータの作動に応じて直線的に作動するとともに前記パーキングブレーキレバーに連結される直動部材、ならびに前記パーキングブレーキレバーを前記解除位置側に回動させて前記パーキングブレーキ状態を解除する側に前記直動部材が移動する際に前記電動モータに負荷を与えるべく前記直動部材に当接する弾性部材を有する電動アクチュエータと、前記電動モータの作動を制御する制御ユニットと、前記電動モータへの通電電流を検出する電流検出手段と、前記電動アクチュエータの異常を報知し得る報知手段とを備える車両用電動パーキングブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動アクチュエータの作動によってパーキングブレーキレバーを作動位置に動かしてパーキングブレーキ状態を得るとともに、パーキングブレーキレバーを非作動位置に動かすように電動アクチュエータが作動するのに応じてパーキングブレーキ力を解放するようにした車両用電動パーキングブレーキ装置が、特許文献1で知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-43798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両用電動パーキングブレーキ装置においてパーキングブレーキ解除時には、電動アクチュエータの電動モータにかかる負荷が小さくなって無負荷電流が流れることになり、電動アクチュエータを構成する複数の部材で戻し過ぎが生じてロック状態に陥る可能性がある。このため上記特許文献1で開示されたものでは、電動アクチュエータの一部を構成する直動部材にばねによる負荷を与えることで、電動モータへの通電電流の上昇を検出し、パーキングブレーキレバーの非作動位置への復帰を読み取ることで戻し過ぎを防止するようにしているが、そのパーキングブレーキ状態解除時の制御において、無負荷状態のときしか電動モータの異常処理が行なわれておらず、直動部材にばねによる負荷が作用し始めてからの異常状態が発生したときの電動モータの作動停止処理が不可能である。
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、パーキングブレーキ状態を解除する際に直動部材に弾性部材の弾発力が作用し始めてからも異常状態発生時に電動モータの作動を停止させ得るようにした車両用電動パーキングブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、パーキングブレーキ状態を得る作動位置ならびにパーキングブレーキ状態を解除する解除位置間での回動を可能とするとともに前記解除位置側に向けて弾発付勢されるパーキングブレーキレバーと、正逆回転自在の電動モータ、当該電動モータの作動に応じて直線的に作動するとともに前記パーキングブレーキレバーに連結される直動部材、ならびに前記パーキングブレーキレバーを前記解除位置側に回動させて前記パーキングブレーキ状態を解除する側に前記直動部材が移動する際に前記電動モータに負荷を与えるべく前記直動部材に当接する弾性部材を有する電動アクチュエータと、前記電動モータの作動を制御する制御ユニットと、前記電動モータへの通電電流を検出する電流検出手段と、前記電動アクチュエータの異常を報知し得る報知手段とを備える車両用電動パーキングブレーキ装置において、前記制御ユニットは、前記パーキングブレーキ状態で前記作動位置に在る前記パーキングブレーキレバーを前記解除位置に戻す側への前記電動モータへの通電開始に応じて計時を開始する第1計時手段と、前記電流検出手段による検出電流が無負荷電流に対応した第1設定電流を一旦超えた後に前記第1設定電流未満となるまでの前記第1計時手段による計測時間が第1の所定上限時間以下であると判断したときに前記第1計時手段による計時を停止させる第1判断手段と、その第1判断手段が前記第1計時手段の計時を終了させると判断するのに応じて計時を開始する第2計時手段と、第2計時手段の計時時間が所定下限時間を超えるのに応じて前記電流検出手段による検出電流の最大値を順次更新しながら記憶し始める記憶手段と、第2計時手段による計時時間が前記所定下限時間よりも大きな第2の所定上限時間に達するまで前記電流検出手段による検出電流が前記第1設定電流未満のままであったときに異常状態であると判断して前記電動モータの作動を停止させるとともに前記報知手段に異常状態を報知させるものの第2計時手段による計時時間が前記第2の所定上限時間に達するまでに前記電流検出手段による検出電流が前記第1設定電流以上になったときには正常に前記電動モータの作動を停止させる第2判断手段と、その第2判断手段の判断結果によって前記電動モータの作動を正常に停止させた後に前記記憶手段が記憶した検出電流の最大値が第1設定電流よりも大きな第2設定電流以上になったときに異常状態であると判断して前記報知手段に異常状態を報知させる第3判断手段とを含むことを第1の特徴とする。
【0007】
また本発明は、第1の特徴の構成に加えて、前記第1判断手段は、前記電流検出手段による検出電流が前記第1設定電流を一旦超えた後に前記第1計時手段による計測時間が第1の所定上限時間を超えても前記第1設定電流を超えたままであるときに異常状態であると判断して前記電動モータの作動を停止させるとともに前記報知手段に異常状態を報知させることを第2の特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の第1の特徴によれば、パーキングブレーキ状態解除時の制御において、無負荷状態以外でも電動アクチュエータの直動部材に弾性部材の弾発力が作用し始めてからも、検出電流の閾値として第1および第2設定電流を設定するとともに、経過時間にも第1および第2の所定上限時間および所定下限時間を閾値として設定することで、異常状態を検知してそれを車両ユーザーに報知するとともに電動モータの作動を停止することができ、パーキングブレーキレバーの戻し過ぎが生じることを防止することができる。しかも電動モータへの通電電流を検出することでパーキングブレーキレバーの状態を検出するようにしているので、パーキングブレーキレバーの状態を直接検出するセンサが不要となり、部品点数の低減に寄与することができる。
【0009】
また本発明の第2の特徴によれば、パーキングブレーキレバーの戻し始めでの異常状態を検出することができ、その異常状態で電動モータを停止させるとともに車両ユーザーに異常状態を報知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ドラムブレーキ装置の正面図である。
図2図1の2-2線断面図である。
図3図1の3矢視方向から見た斜視図である。
図4】ブレーキケーブルを緩めた状態での図3の4-4線断面図である。
図5】ブレーキケーブルを牽引した状態での図4に対応した断面図である。
図6】電動アクチュエータの斜視図である。
図7図5の7-7線断面図である。
図8】制御ユニットのパーキングブレーキ解除に関連する部分の構成を示すブロック図である。
図9】パーキングブレーキ解除の際の電動モータの通電電流の正常な変化を示すグラフである。
図10】パーキングブレーキ解除の際の制御手順の一部を示すフローチャートである。
図11】パーキングブレーキ解除の際の制御手順の残部を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態について、添付の図1図11を参照しながら説明すると、先ず図1図3において、四輪車両のたとえば左後輪に、本発明に従うドラムブレーキ装置11が設けられており、このドラムブレーキ装置11は、前記左後輪の車軸10を貫通させる貫通孔12を中央部に有する固定のバックプレート13と、前記左後輪とともに回転するブレーキドラム14の内周に摺接することを可能として前記バックプレート13内に配置される第1および第2のブレーキシュー15,16と、第1および第2のブレーキシュー15,16が拡張作動する力を発揮するようにして前記バックプレート13の上部に固定されるホイールシリンダ17と、第1および第2のブレーキシュー15,16および前記ブレーキドラム14間の間隙を自動的に調整する制動間隙自動調整手段(所謂オートアジャスタ)18と、第1および第2のブレーキシュー15,16間に設けられるリターンスプリング19とを備える。
【0012】
第1および第2のブレーキシュー15,16は、前記ブレーキドラム14の内周に沿うようにして弓形に形成されるウエブ15a,16aと、そのウエブ15a,16aの外周に直交するように連設されるリム15b,16bと、該リム15b,16bの外周に貼着されるライニング15c,16cとから成る。
【0013】
前記ホイールシリンダ17が備える一対のピストン20の外端部は、第1および第2のブレーキシュー15,16の上端部で前記ウエブ15a,16aに対向するように配置される。また前記バックプレート13の下部には、第1および第2のブレーキシュー15,16の拡張、収縮時の支点となるアンカーブロック21が、第1および第2のブレーキシュー15,16の一端部(この実施の形態では下端部)を支持するようにして固設されており、前記ホイールシリンダ17は、ブレーキペダルで操作されるマスタシリンダ(図示せず)の出力液圧によって作動して、前記アンカーブロック21を支点として第1および第2のブレーキシュー15,16を拡張する側に駆動する力を発揮する。
【0014】
第1および第2のブレーキシュー15,16における前記ウエブ15a,16aの下端部間には、それらのウエブ15a,16aの下端部を前記アンカーブロック21側に付勢するコイルスプリング22が設けられ、第1および第2のブレーキシュー15,16における前記ウエブ15a,16aの上端部間には、第1および第2のブレーキシュー15,16を収縮方向に付勢する前記リターンスプリング19が設けられる。
【0015】
前記制動間隙自動調整手段18は、第1および第2のブレーキシュー15,16のウエブ15a,16a間に設けられるとともにアジャストギヤ23の回動によって伸長し得る収縮位置規制ストラット24と、前記アジャストギヤ23に係合する送り爪25aを有して第1および第2のブレーキシュー15,16のうち一方のブレーキシューである第2のブレーキシュー16の前記ウエブ16aに回動可能に支持されるアジャストレバー25と、前記収縮位置規制ストラット24を伸長させる方向に前記アジャストギヤ23を回動させる側に前記アジャストレバー25を回動付勢するアジャストスプリング26とで構成される。
【0016】
前記収縮位置規制ストラット24は、第1および第2のブレーキシュー15,16の収縮位置を規制するものであり、第1および第2のブレーキシュー15,16のうち第1のブレーキシュー15が備える前記ウエブ15aの上部に係合する第1係合部27aを有する第1ロッド27と、第2のブレーキシュー16が備えるウエブ16aの上部に係合する第2係合部28aを有して第1ロッド27と同軸に配置される第2ロッド28と、第1ロッド27に一端部が軸方向相対移動可能に挿入されるとともに第2ロッド28に他端部が同軸に螺合されるアジャストボルト29とを有しており、前記アジャストギヤ23は、第1および第2ロッド27,28間に配置されて前記アジャストボルト29の外周に形成される。
【0017】
第1のブレーキシュー15における前記ウエブ15aの上部には第1係合部27aを係合させる第1係止凹部30が設けられ、また第2のブレーキシュー16における前記ウエブ16aの上部には第2係合部28aを係合させる第2係止凹部31が設けられる。
【0018】
前記アジャストギヤ23に係合する送り爪25aを有するアジャストレバー25は、第2のブレーキシュー16の前記ウエブ16aに支軸32を介して回動可能に支持され、第2のブレーキシュー16の前記ウエブ16aおよび前記アジャストレバー25間に前記アジャストスプリング26が設けられる。しかも前記アジャストスプリング26のばね力は、前記リターンスプリング19のばね力よりも小さく設定される。
【0019】
このような制動間隙自動調整手段18によれば、第1および第2のブレーキシュー15,16が前記ホイールシリンダ17の作動によって拡張作動する際に前記ライニング15c,16cの摩耗に起因して一定値以上拡張した場合には、前記アジャストスプリング26のばね力によって前記アジャストレバー25が前記支軸32の軸線まわりに回動し、それによって前記アジャストギヤ23が回動するのに応じて前記収縮位置規制ストラット24の有効長さが増加補正される。
【0020】
ところでドラムブレーキ装置11は、第1および第2のブレーキシュー15,16のうち第1のブレーキシュー15における前記ウエブ15aに一端部が回動可能に軸支されるとともに前記収縮位置規制ストラット24の一端部に係合されるパーキングブレーキレバー34を備える。
【0021】
前記パーキングブレーキレバー34は、第1のブレーキシュ-15における前記ウエブ15aに正面視で一部が重なるようにして上下に延びるものであり、このパーキングブレーキレバー34の上端部は、第1のブレーキシュ-15における前記ウエブ15aの上部にピン35を介して連結され、また該パーキングブレーキレバー34の上部には、前記収縮位置規制ストラット24が有する第1係合部27aが係合される。
【0022】
車両のパーキングブレーキ作動時には、前記パーキングブレーキレバー34が前記ピン35を支点として図1の反時計方向に回動、駆動されるものであり、このパーキングブレーキレバー34の回動によって、第2のブレーキシュー16に、当該ブレーキシュー16が有する前記ライニング16cを前記ブレーキドラム14の内周に圧接させる方向の力が前記収縮位置規制ストラット24を介して作用する。さらに前記パーキングブレーキレバー34が図1の反時計方向に続けて回動、駆動されると、前記パーキングブレーキレバー34が前記収縮位置規制ストラット24の第1係合部27aとの係合点を支点として回動し、今度は、前記ピン35を介して第1のブレーキシュー16が拡張作動し、第1のブレーキシュー15の前記ライニング15cが前記ブレーキドラム14の内周に圧接することになる。すなわち前記パーキングブレーキレバー34は、第1および第2のブレーキシュー15,16の前記ライニング15c,16cが前記ブレーキドラム14の内周に圧接するようにした作動位置に作動し、この状態でパーキングブレーキ状態が得られることになる。
【0023】
前記パーキングブレーキレバー34に対する回動駆動力の付与を停止したときには、前記ブレーキドラム14の内周から離反する方向に前記リターンスプリング19のばね力によって作動する第1および第2のブレーキシュー15,16とともに前記パーキングブレーキレバー34は非作動位置に戻ることになり、パーキングブレーキレバー34は非作動位置側に向けて付勢されている。
【0024】
前記パーキングブレーキレバー34は、電動アクチュエータ36が発揮する動力で回動駆動されるものであり、前記電動アクチュエータ36で牽引されるブレーキケーブル37が、該ブレーキケーブル37の牽引によって第2のブレーキシュー15の前記ウエブ15aに前記収縮位置規制ストラット24を押しつけるように前記パーキングブレーキレバー34を回動駆動してパーキングブレーキ状態を得ることを可能として、前記パーキングブレーキレバー34の下部に接続される。
【0025】
図4および図5を併せて参照して、前記電動アクチュエータ36は、前記ブレーキケーブル37に連結されるねじ軸38と、そのねじ軸38をその回転を阻止しつつ軸線方向の往復運動を可能として支持するアクチュエータケース39と、正逆回転を自在として前記アクチュエータケース39に支持される電動モータ40と、その電動モータ40で発生する回転運動を前記ねじ軸38の直線運動に変換することを可能としつつ前記電動モータ40および前記ねじ軸38間に介設されて前記アクチュエータケース39に収容される運動変換機構41とを備える。
【0026】
前記ねじ軸38の前記ブレーキケーブル37側の端部には有底の連結孔42が同軸に設けられており、前記ブレーキケーブル37の前記電動アクチュエータ36側の端部は、前記連結孔42に挿入される。しかも前記連結孔42の開口端寄りで前記ねじ軸38の外周には環状溝43が形成されており、前記ブレーキケーブル37が前記連結孔42に挿入された状態で前記ねじ軸38の一部が前記ブレーキケーブル37に食い込むように前記環状溝43をかしめることで、前記ブレーキケーブル37に前記ねじ軸38が連結される。
【0027】
前記ブレーキケーブル37は、前記バックプレート13に取付けられた前記電動アクチュエータ36から前記バックプレート13内に引き出され、このブレーキケーブル37の他端部に固着される係合片44が、前記パーキングブレーキレバー34の下端部に係合される。
【0028】
前記電動アクチュエータ36は、図5で示すように前記パーキングブレーキレバー34を作動位置側に駆動すべく前記ブレーキケーブル37を牽引する側に前記ねじ軸38を移動させる状態と、図4で示すように前記パーキングブレーキレバー34を前記作動位置から前記非作動位置側に戻すべく前記ブレーキケーブル37を緩める側に前記ねじ軸38を移動させる状態とを、前記電動モータ40の回転方向変化で切替える。
【0029】
ところで前記アンカブロック21は、当該アンカブロック21を前記バックプレート13の下部との間に挟むケーブルガイド51とともに、一対のリベット52によって前記バックプレート13の下部に固定されており、前記ケーブルガイド51には、図2で明示するように、前記ブレーキケーブル37をガイドするガイド部51aが略U字状の横断面形状を有して一体に設けられるとともに、ストッパ51bが一体に設けられる。
【0030】
図1および図2の鎖線で示すように、パーキングブレーキ状態で前記パーキングブレーキレバー34の下端部を前記ストッパ51bに当接させることで前記パーキングブレーキレバー34の作動端が規制される。
【0031】
また前記ストッパ51bは弾性を有するように構成されるものであり、この実施の形態では、前記パーキングブレーキレバー34の当接時に撓んで弾性を発揮するように、前記ケーブルガイド51が薄板状に形成される。
【0032】
図6を併せて参照して、前記アクチュエータケース39は、第1および第2の収容筒部45,46を一体に有するケース主体47と、第1の収容筒部45の開口端に結合される第1のカバー部材48と、第1のカバー部材48と反対側から前記ケース主体47に結合される第2のカバー部材49とで構成される。
【0033】
前記第1の収容筒部45は、一端部に第1の端壁部45aが設けられるようにして有底円筒状に形成され、前記第1の端壁部45aの中央部には、嵌合孔50が同軸に形成される。第2の収容筒部46は、前記第1の収容筒部45の側方に配置され、一端部を開放するとともに前記第1の収容筒部45の長手方向中間部に配置される第2の端壁部46aで他端部が閉じられるようにして有底円筒状に形成され、第2の端壁部46aの中央部には、前記ねじ軸38を貫通させる円筒状の支持筒部46bが一体に突設される。
【0034】
前記電動モータ40のモータケース53の軸方向一端部には、モータ軸54を回転自在に支持する円筒状の第1軸受部53aが突設され、前記モータ軸54の一端部は前記第1軸受部53aを貫通して前記モータケース53の一端部から突出され、前記モータケース53の軸方向他端部には前記モータ軸54の他端部を回転自在に支持する有底円筒状の第2軸受部53bが突設される。
【0035】
この電動モータ40は、前記第1軸受部53aを前記ケース主体47の前記嵌合孔50に嵌合するようにしつつ前記モータケース53の一端部を前記第1の端壁部45aに当接させるようにして第1の収容筒部45に収容されるものであり、当該電動モータ40の一部、この実施の形態では前記第2軸受部53bが設けられる側の前記モータケース53の他端部を外部に臨ませるようにして、前記電動モータ40が第1の収容筒部45に収容される。
【0036】
前記第1のカバー部材48は、前記第1の収容筒部45に収容される前記電動モータ40のうち第1の収容筒部45から外部に臨む部分を覆って第1の収容筒部45の開口端に結合される蓋部48aと、前記電動モータ40に連なる端子55(図3参照)が配設されるようにして前記蓋部48aから側方に張り出すとともに前記第1の収容筒部45の側方に配置されるコネクタ部48bとを一体に有し、前記電動モータ40の前記第2軸受部53bおよび前記蓋部48a間にはウエーブワッシャ56が介設される。
【0037】
しかも第1のカバー部材48は、前記第1の収容筒部45に対する前記コネクタ部48bの周方向相対位置を前記第1の収容筒部45の軸線まわりの少なくとも複数箇所で任意で選択することを可能として前記第1の収容筒部45に結合されるものであり、前記第1の収容筒部45および前記蓋部48aの結合部57が、円形もしくは正多角形の横断面形状を有するように形成され、接着もしくは溶着で結合される。
【0038】
この実施の形態では、前記蓋部48aは、前記第1の収容筒部45側に開放した皿状に形成されており、この蓋部48aの開放端に、円形の横断面形状を有する第1の収容筒部45と同軸である環状凹部58が形成される。一方、前記第1の収容筒部45の開口端部には前記環状凹部58に嵌合するリング状の嵌合突部59が突設されており、前記結合部57は、前記環状凹部58に前記嵌合突部59が嵌合された状態で前記蓋部48aおよび前記第1の収容筒部45が接着されて成り、円形の横断面形状を有する。
【0039】
第2のカバー部材49は、前記ケース主体47との間にギヤ室60を形成するようにして前記ケース主体47に結合される。この結合にあたって第2のカバー部材49が接着もしくは溶着で前記ケース主体47に結合されるようにしてもよい。また前記運動変換機構41は、前記ねじ軸38に螺合されるナット61を1つの構成要素として備えて前記ギヤ室60に収容される。
【0040】
前記運動変換機構41は、前記電動モータ40の前記モータ軸54に設けられる駆動ギヤ62と、その駆動ギヤ62に噛合する中間大径ギヤ63と、その中間大径ギヤ63とともに回転する中間小径ギヤ64と、前記ナット61と、該ナット61に設けられて前記中間小径ギヤ64に噛合する被動ギヤ65とを備える。
【0041】
前記中間大径ギヤ63および前記中間小径ギヤ64は一体に形成されており、前記モータ軸54および前記ねじ軸38と平行な支軸66で回転自在に支持される。また前記支軸66の両端部は、前記ケース主体47および前記第2のカバー部材49で支持される。
【0042】
前記ナット61は、前記第2の収容筒部46内に回転自在に収容される大径円筒部61aと、大径円筒部61aの前記第2のカバー部材49とは反対側の端部から半径方向内方に張り出す内向き鍔部61bと、この内向き鍔部61bの内周縁に連なって前記第2のカバー部材49とは反対側に延びるとともに前記ねじ軸38を貫通させる小径円筒部61cと、前記大径円筒部61aの前記第2のカバー部材49側の端部から半径方向外方に張り出す外向き鍔部61dとを一体に有するように形成される。前記小径円筒部61cの内周に前記ねじ軸38に螺合する雌ねじ67が刻設され、前記外向き鍔部61dの外周に前記被動ギヤ65が形成される。また前記小径円筒部61cと、前記第2の収容筒部46の前記第2の端壁部46a側の端部との間にはボールベアリング68が介装される。
【0043】
前記ブレーキケーブル37とは反対側で前記ねじ軸38の端部には半径方向外方に向かって突出するフランジ部38aが設けられる。一方、前記ナット61には、当該ナット61の前記大径円筒部61aおよび前記内向き鍔部61bで規定される凹部70が、前記フランジ部38a側に向かって開放するようにして形成される。
【0044】
ところで前記ねじ軸38は、前記パーキングブレーキレバー34を作動位置側に駆動すべく前記ブレーキケーブル37を牽引する際には前記フランジ部38aが図5で示すように前記ナット61から離反する側に移動し、前記パーキングブレーキレバー34を前記作動位置から前記非作動位置側に戻すべく前記ブレーキケーブル37を緩める際には前記フランジ部38aが図4で示すように前記ナット61に近接する側に移動するものであり、前記ブレーキケーブル37を緩める方向に前記ねじ軸38が移動する際に前記フランジ部38aおよび前記ナット61間に介在して前記フランジ部38aを前記ナット61から離反させる側に付勢する弾発力を発揮する弾性部材としての複数個の皿ばね71が、前記凹部70に収容される。
【0045】
前記凹部70には、複数個の前記皿ばね71と、それらの皿ばね71を前記ナット61の前記内向き鍔部61bとの間に挟む円板状のリテーナ72とが収容される。
【0046】
図7を併せて参照して、前記フランジ部38aは、前記ねじ軸38の一直径線上に沿う方向で当該ねじ軸38から半径方向両外方に突出するように形成される。一方、前記アクチュエータケース39の第2のカバー部材49には、前記ねじ軸38を囲繞する有底円筒状のガイド筒部49aが一体に形成されており、このガイド筒部49aの内面には、前記ねじ軸38の軸線に沿う方向に延びて前記フランジ部38aをスライド可能に係合させる一対の係止溝73が形成される。
【0047】
前記ガイド筒部49aの開口端部および前記ナット61間には、ナット61からのスラスト荷重を受ける軸受部材74が介装されており、この軸受部材74は、前記凹部70内に突入される短円筒部74aを一体に有する。
【0048】
ここで図5で示すように、前記パーキングブレーキレバー34を前記非作動位置から前記作動位置側に駆動すべく前記ブレーキケーブル37を牽引する際には、前記リテーナ72の外周部が、前記軸受部材74における前記短円筒部74aに接触することで前記皿ばね71の前記凹部70からの離脱が阻止される。また図4で示すように、前記ブレーキケーブル37を緩めるように前記ねじ軸38が移動する際には、前記フランジ部38aに前記リテーナ72を介して前記皿ばね71の弾性力が作用する。
【0049】
ところで左後輪に装着される前記ドラムブレーキ装置11の前記バックプレート13には、後方かつ車幅方向内向きに延びる取付け筒部77が一体に突設される。この取付け筒部77には、一端を後方かつ車幅方向内向きに開放した大径筒部77aと、その大径筒部77aの他端との間に段部77bを介在させて前記大径筒部77aに同軸に連なる小径筒部77cとが設けられており、前記電動アクチュエータ36のアクチュエータケース39における第1のカバー部材48が有する第2の収容筒部46が、前記大径筒部77a内に挿入され、大径筒部77aの内周に形成された係止溝78に、前記第2の収容筒部46の外周に装着されたC形の止め輪79が係合することで、前記アクチュエータケース39が前記取付け筒部77に取付けられる。
【0050】
上述のように前記アクチュエータケース39が前記バックプレート13の前記取付け筒部77に取付けられることで、アクチュエータケース39は、前記バックプレート13の車両前後方向後側に取付けられることになり、前記コネクタ部48bは、車両前後方向後方側に向けられることになる。また前記第2の収容筒部46の小径筒部46bの外周および前記ねじ軸38の一端部外周間には、前記ねじ軸38の前記第2の収容筒部46からの突出部を覆う蛇腹状のブーツ80が設けられる。
【0051】
図8において、前記電動アクチュエータ36における前記電動モータ40には、電源81の電力が駆動回路82を介して供給されるものであり、前記電動モータ40の作動すなわち前記駆動回路82の作動は制御ユニットCで制御される。この制御ユニットCには、車両ユーザがパーキングブレーキ状態を解除するための操作を行なったことを検出してパーキングブレーキ状態を解除するための信号を出力する指示手段83と、前記電動モータ40への通電電流を検出する電流検出手段84と、異常状態を報知するためのブザーやディスプレィ等の報知手段85とが接続される。
【0052】
前記制御ユニットCは、そのパーキングブレーキ解除に関連する部分として、通電制御手段86と、第1計時手段87と、第1判断手段88と、第2計時手段89と、記憶手段90と、第2判断手段91と、第3判断手段92とを備える。
【0053】
通電制御手段86は、前記指示手段83からの信号入力に応じて前記パーキングブレーキ状態で前記作動位置に在る前記パーキングブレーキレバー34を前記解除位置に戻す側への前記電動モータ40への通電を開始するように前記駆動回路82の作動を制御する信号を出力する。また第1計時手段87は、前記パーキングブレーキレバー34を前記解除位置に戻す側に前記電動モータ40への通電を開始する信号が前記指示手段83から出力されるのに応じて時間TO1の計時を開始する。
【0054】
第1判断手段88は、前記電流検出手段84による検出電流AOが無負荷電流に対応した第1設定電流A1を一旦超えた後に前記第1設定電流A1未満となるまでの前記第1計時手段87による計測時間TO1が第1の所定上限時間T1以下であると判断したときに前記第1計時手段87による計時を停止させるとともに、前記計測時間TO1が第1の所定上限時間T1を超えても前記第1設定電流A1を超えたままであるときに異常状態であると判断して前記電動モータ40の作動を停止させる信号を前記通電制御手段86に入力するとともに前記報知手段85に異常状態を報知させる。
【0055】
ところで前記パーキングブレーキ状態で前記作動位置に在る前記パーキングブレーキレバー34を前記解除位置に戻す側に前記電動モータ40に通電する際に、その電流は、正常状態では図9で示すように変化するものであり、前記第1の所定上限時間T1は、正常な状態であるときには前記第1設定電流A1未満になるまでに充分な時間として設定される。
【0056】
第2計時手段89は、前記第1判断手段88が前記第1計時手段87の計時を終了させると判断するのに応じて時間TO2の計時を開始する。また前記記憶手段90は、第2計時手段89の計時時間TO2が所定下限時間T2を超えるのに応じて前記電流検出手段84による検出電流AOの最大値Amaxを順次更新しながら記憶し始める。ここで前記所定下限時間T2は、パーキングブレーキ解除時に前記電動アクチュエータ36における前記ねじ軸38に前記リテーナ72を介して前記皿ばね71の弾発力が作用するまでの想定される最短時間として設定される。
【0057】
第2判断手段91は、前記第2計時手段89による計時時間TO2が前記所定下限時間T2よりも大きな第2の所定上限時間T3に達するまで前記電流検出手段84による検出電流AOが前記第1設定電流A1未満のままであったときには異常状態であると判断して前記電動モータ40の作動を停止させる信号を前記通電制御手段86に入力するとともに前記報知手段85に異常状態を報知させるものの第2計時手段89による計時時間TO2が前記第2の所定上限時間T3に達するまでに前記電流検出手段89による検出電流AOが前記第1設定電流A1以上になったときには正常に前記電動モータ40の作動を停止させるための信号を前記通電制御手段86に入力する。ここで前記第2の所定上限時間T3は、パーキングブレーキ解除時に前記電動アクチュエータ36における前記ねじ軸38に前記リテーナ72を介して前記皿ばね71の弾発力が作用するまでの想定される最長時間として設定される。
【0058】
前記第3判断手段92は、前記第2判断手段91の判断結果によって前記電動モータ40の作動を正常に停止させた後に前記記憶手段90が記憶した検出電流AOの最大値Amaxが第1設定電流A1よりも大きな第2設定電流A2以上になったときに異常状態であると判断して前記報知手段85に異常状態を報知させる。
【0059】
このような制御ユニットCによるパーキングブレーキ解除時の制御手順について図10および図11を参照しながら説明すると、先ず図10において、パーキングブレーキ解除時には、ステップS1でフラグFを「0」と定めた後、ステップS2で電流検出手段84で検出される検出電流AOを取得し、ステップS3でフラグFが「1」であるか否かを判断し、フラグFが「0」であったときには次のステップS4に進み、フラグFが「1」であったときにはステップS4~ステップS8を迂回してステップS9に進む。
【0060】
ステップS4では、第1計時手段87による時間TO1をカウントし、その後のステップS5で検出電流AOが第1設定電流A1未満であるか否かを判断し、検出電流AOが第1設定電流A1以上(AO≧A1)であったときにはステップS6に進み、検出電流AOが第1設定電流A1未満(AO<A1)であったときにはステップS2に戻る。
【0061】
ステップS6では、第1計時手段87による計時時間TO1が第1の所定上限時間T1を超えるか否かを判断し、前記計時時間TO1が第1の所定上限時間T1を超えた(TO1>T1)と判断したときには図11のステップS17に進み、前記計時時間TO1が第1の所定上限時間T1以下(TO1≦T1)と判断したときにはステップS7に進み、このステップS7でフラグFを「1」とし、次のステップS8で第1計時手段87による時間TO1の計時を終了する。
【0062】
ステップS9では、第2計時手段89による計時時間TO2のカウントを開始し、次のステップS10で前記計時時間TO2が所定下限時間T2を超えるか否かを判断し、前記計時時間TO2が所定下限時間T2以下(TO2≦T2)と判断したときにはステップS2に戻り、前記計時時間TO2が所定下限時間T2を超えた(TO2>T2)と判断したときにはステップS11に進んで、電流検出手段84による検出電流AOの最大値Amaxを順次更新しながら記憶する。
【0063】
図11において、ステップS11に続くステップS12では、第2計時手段89による計時時間TO2が第2の所定上限時間T3を超えるか否かを判断し、前記計時時間TO2が前記第2の所定上限時間T3以下(TO2≦T3)と判断したときにはステップS13に進み、前記計時時間TO2が第2の所定上限時間T3を超えた(TO2>T3)と判断したときにはステップS17に進む。
【0064】
ステップS13では、電流検出手段84による検出電流AOが第1設定電流A1以上となったか否かを判断し、前記検出電流AOが第1設定電流A1以上(AO≧A1)となったと判断したときには、ステップS14に進んで電動モータ40の作動を正常に終了し、ステップS13において前記検出電流AOが第1設定電流A1未満(AO<A1)であるとは判断したときには図10のステップS2に戻る。
【0065】
ステップS14に続くステップS15では、前記記憶手段90が記憶している検出電流AOの最大値Amaxが第2設定電流A2未満であるか否かを判断し、検出電流AOの最大値Amaxが第2設定電流A2未満(Amax<A2)であると判断したときにはステップS16で作動情報を記憶してパーキングブレーキを解除するための制御手順を終了し、検出電流AOの最大値Amaxが第2設定電流A2以上(Amax≧A2)であると判断したときにはステップS18に進む。
【0066】
また前記ステップS6で第1計時手段87による計時時間TO1が第1の所定上限時間T1を超えるた判断したとき、ならびに前記ステップS12で第2計時手段89による計時時間TO2が第2の所定上限時間T3を超えた(TO2>T3)と判断したときには、ステップS17で以上状態であるとして電度モータ40の作動を停止する。またステップS17に続くステップS18では、異常状態であるとして報知手段85に報知作動させる。
【0067】
次にこの実施の形態の作用について説明すると、ドラムブレーキ装置11は、パーキングブレーキレバー34に連結されるブレーキケーブル37を電動アクチュエータ36によって牽引することでパーキングブレーキ状態を得ることが可能であり、電動アクチュエータ36により、パーキングブレーキの作動および解除を良好に制御することができる。
【0068】
しかも前記ドラムブレーキ装置11のバックプレート13に固設されて当該バックプレート13内に配置されるケーブルガイド51に、前記ブレーキケーブル37をガイドするガイド部51aが一体に設けられ、パーキングブレーキ状態で前記パーキングブレーキレバー34に当接して当該パーキングブレーキレバー34の作動端を規制するストッパ51bが前記ケーブルガイド51に一体に設けられるので、ブレーキドラム14の内面と第1および第2のブレーキシュー15,16との間の間隙が広くなるのに起因してパーキングブレーキ時のパーキングブレーキレバー34の作動量が過大になることは、前記ストッパ51bにパーキングブレーキレバー34が当接することで規制され、電動アクチュエータ36側の構成部材たとえばねじ軸38の作動量が大きくなり過ぎること、たとえば第2のカバー部材49の有底円筒状のガイド筒部49aの閉塞端に当接するまで前記ねじ軸38が作動することを防止することができる。しかもドラムブレーキ側でパーキングブレーキレバー34の作動量を規制できるため、電動アクチュエータ36の構造の簡素化を図ることができる。
【0069】
また前記ケーブルガイド51は、前記ブレーキケーブル37をガイドするガイド部51aを有しつつ前記アンカブロック21とともに前記バックプレート13に取付けられるものであり、このケーブルガイド51に前記ストッパ51bが一体に設けられるので、ストッパ機能を果たすための専用の部材が不要であり、部品点数および加工工数の増大を回避してパーキングブレーキレバー34の作動量が過大となるのを防止することができ、ドラムブレーキ装置11に本発明を良好に適用することができる。
【0070】
また前記ストッパ51bが、弾性を有するように構成されるので、パーキングブレーキレバー34がストッパ51bに衝撃的に当たっても、その衝撃を吸収することができ、電動アクチュエータ36側の構成部材たとえばねじ軸38およびナット61のロック状態が生じることを防止することができる。
【0071】
また前記電動アクチュエータ36は、非作動位置側に向けて付勢されたパーキングブレーキレバー34に連なるブレーキケーブル37に連結されるねじ軸38と、当該ねじ軸38をその回転を阻止しつつ軸線方向の往復運動を可能として支持するアクチュエータケース39と、正逆回転を自在として前記アクチュエータケース39に支持される電動モータ40と、前記ねじ軸38に噛合されるナット61を1つの構成要素として備えるとともに前記電動モータ40で発生する回転運動を前記ねじ軸38の直線運動に変換することを可能としつつ前記電動モータ40および前記ねじ軸38間に介設されて前記アクチュエータケース39に収容される運動変換機構41とを備え、前記パーキングブレーキレバー34を作動位置側に駆動すべく前記ブレーキケーブル37を牽引する状態ならびに前記パーキングブレーキレバー34を前記作動位置から前記非作動位置側に戻すように前記ブレーキケーブル37を緩める状態を、前記電動モータ40の回転方向変化で切替えることができるのであるが、前記ねじ軸38に半径方向外方に突出するフランジ部38aが設けられ、当該フランジ部38a側に向かって開放した凹部70が前記ナット61に同軸に形成され、前記ブレーキケーブル37を緩める側に前記ねじ軸38を移動させる際に前記フランジ部38aおよび前記ナット61間に介在して前記フランジ部38aを前記ナット61から離反させる側に付勢する弾発力を発揮する皿ばね71が前記凹部70に収容される。
【0072】
したがって前記皿ばね71の弾発力が、前記ブレーキケーブル37を緩める側に前記ねじ軸38を移動させる際に当該ねじ軸38に作用することになり、それによって戻し作動時に電動モータ40に負荷を与えることが可能となる。しかも前記ねじ軸38と同軸にしてナット61に形成される凹部70に皿ばね71が収容されるので、皿ばね71を配置するためのスペースを余分に確保する必要がなく、アクチュエータケース39の小型化を図ることができ、また皿ばね71の弾発力はパーキングブレーキ時に限定されてアクチュエータケース39に作用するので、アクチュエータケース39の強度を必要以上に増大することも不要となる。
【0073】
また積層された複数個の皿ばね71が前記凹部70に収容されるので、皿ばね71の個数を選択することで弾発荷重を変化させることができ、電動アクチュエータ36の種類に応じた仕様変更が容易となる。
【0074】
また前記フランジ部38aが、前記ねじ軸38の一直径線上に沿う方向で当該ねじ軸38から半径方向両外方に突出するように形成され、前記アクチュエータケース39に、前記ねじ軸38の軸線に沿う方向に延びて前記フランジ部38aをスライド可能に係合させる一対の係止溝73が形成されるので、前記ねじ軸38の軸線方向の移動を許容しつつ回転を阻止することができ、前記ねじ軸38の回転を阻止する構造の簡略化を図ることができる。
【0075】
また前記電動アクチュエータ36が、ドラムブレーキ装置11のバックプレート13に取付けられるので、ドラムブレーキ装置11に本発明を良好に適用することができる。
【0076】
また電動アクチュエータ36のアクチュエータケース39が、パーキングブレーキ状態を得るための動力を発揮する電動モータ40を当該電動モータ40の一部を外部に臨ませるようにして収容する第1の収容筒部45を有するケース主体47と、前記電動モータ40の前記一部を覆って前記第1の収容筒部45に結合される蓋部48aならびに前記電動モータ40に連なる端子55が配設されるようにして前記蓋部48aから側方に張り出して前記第1の収容筒部45の側方に配置されるコネクタ部48bを一体に有する第1のカバー部材48とを備え、第1のカバー部材48が、前記第1の収容筒部45に対する前記コネクタ部48bの周方向相対位置を少なくとも複数箇所で任意に選択することを可能として、前記第1の収容筒部45に結合されるので、車種毎のレイアウトに合わせてアクチュエータケース39を作ることを不要としつつコネクタ部48bのアクチュエータケース39に対する位置を容易に変更可能として汎用性を持たせ、多種類の車両に対応可能とすることでコストの増大を抑えることができる。
【0077】
また前記第1の収容筒部45および前記蓋部48aの結合部57が円形もしくは正多角形の横断面形状を有するように形成されるので、前記コネクタ部48bのアクチュエータケース39に対する位置の自由度が増大し、前記コネクタ部48bの向きを容易に変更することができる。
【0078】
また前記コネクタ部48bを車両前後方向後方側に向けた前記アクチュエータケース39が、後輪のドラムブレーキ装置11が備える前記バックプレート13の車両前後方向後側に取付けられるので、前記コネクタ部48bが車両前後方向後方側に向くことになり、車両搭載時の前記コネクタ部48bのメンテナンス性を高め、車両走行時に生じる飛び石からコネクタ部48bを保護することができる。
【0079】
また前記第1のカバー部材48が、前記第1の収容筒部45に接着もしくは溶着で結合されるので、第1のカバー部材48の第1の収容筒部45への結合にあたって、部品点数を増やすことなく、前記コネクタ部48bの向きを容易に変更可能としつつ第1のカバー部材48を第1の収容筒部45に確実に結合することができる。
【0080】
また電動モータ40の作動を制御する制御ユニットCが、パーキングブレーキ状態で作動位置に在る前記パーキングブレーキレバー34を前記解除位置に戻す側への前記電動モータ40への通電開始に応じて計時を開始する第1計時手段87と、電流検出手段84による検出電流AOが無負荷電流に対応した第1設定電流A1を一旦超えた後に前記第1設定電流A1未満となるまでの前記第1計時手段87による計測時間TO1が第1の所定上限時間T1以下であると判断したときに前記第1計時手段87による計時を停止させる第1判断手段88と、その第1判断手段88が前記第1計時手段87の計時を終了させると判断するのに応じて計時を開始する第2計時手段89と、第2計時手段89の計時時間TO2が所定下限時間T2を超えるのに応じて前記電流検出手段84による検出電流AOの最大値Amaxを順次更新しながら記憶し始める記憶手段90と、第2計時手段89による計時時間TO2が前記所定下限時間T2よりも大きな第2の所定上限時間T3に達するまで前記電流検出手段84による検出電流AOが前記第1設定電流A1未満のままであったときに異常状態であると判断して前記電動モータ40の作動を停止させるとともに報知手段85に異常状態を報知させるものの第2計時手段89による計時時間TO2が前記第2の所定上限時間T3に達するまでに前記電流検出手段84による検出電流AOが前記第1設定電流A1以上になったときには正常に前記電動モータ40の作動を停止させる第2判断手段91と、その第2判断手段91の判断結果によって前記電動モータ40の作動を正常に停止させた後に前記記憶手段90が記憶した検出電流AOの最大値Amaxが第1設定電流A1よりも大きな第2設定電流A2以上になったときに異常状態であると判断して前記報知手段85に異常状態を報知させる第3判断手段92とを含む。
【0081】
したがってパーキングブレーキ状態解除時の制御において、無負荷状態以外でも電動アクチュエータ39のねじ軸38に皿ばね71の弾発力が作用し始めてからも、検出電流AOの閾値として第1および第2設定電流A1,A2を設定するとともに、経過時間にも第1および第2の所定上限時間T1,T3および所定下限時間T2を閾値として設定することで、異常状態を検知してそれを車両ユーザーに報知するとともに電動モータ40の作動を停止することができ、パーキングブレーキレバー34の戻し過ぎが生じることを防止することができる。しかも電動モータ40への通電電流を検出することでパーキングブレーキレバー34の状態を検出するようにしているので、パーキングブレーキレバー34の状態を直接検出するセンサが不要となり、部品点数の低減に寄与することができる。
【0082】
さらに前記第1判断手段88は、前記電流検出手段84による検出電流AOが前記第1設定電流A1を一旦超えた後に前記第1計時手段87による計測時間TO1が第1の所定上限時間T1を超えても前記第1設定電流A1を超えたままであるときに異常状態であると判断して前記電動モータ40の作動を停止させるとともに前記報知手段85に異常状態を報知させるので、パーキングブレーキレバー34の戻し始めでの異常状態を検出することができ、その異常状態で電動モータ40を停止させるとともに車両ユーザーに異常状態を報知することができる。
【0083】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0084】
34・・・パーキングブレーキレバー
38・・・直動部材であるねじ軸
39・・・電動アクチュエータ
40・・・電動モータ
71・・・弾性部材である皿ばね
84・・・電流検出手段
85・・・報知手段
87・・・第1計時手段
88・・・第1判断手段
89・・・第2計時手段
90・・・記憶手段
91・・・第2判断手段
92・・・第3判断手段
A1・・・第1設定電流
A2・・・第2設定電流
C・・・制御ユニット
T1・・・第1の所定上限時間
T2・・・所定下限時間
T3・・・第2の所定上限時間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11