(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】回転電機の巻線および回転電機の固定子
(51)【国際特許分類】
H02K 3/34 20060101AFI20240112BHJP
H02K 3/48 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
H02K3/34 C
H02K3/34 D
H02K3/48
(21)【出願番号】P 2020095766
(22)【出願日】2020-04-28
【審査請求日】2023-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2020038237
(32)【優先日】2020-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】305011787
【氏名又は名称】睦月電機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】睦月 伸季
【審査官】中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】実開昭55-106439(JP,U)
【文献】実開昭57-104745(JP,U)
【文献】国際公開第2012/137273(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/30- 3/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項5】
絶縁されていない複数本の導線が層間空隙を介して積層された巻線が回転電機の固定子のスロット内に装着された回転電機の固定子において、請求項1から4の何れかひとつに記載の回転電機の巻線における巻線形態に相当する巻線が前記スロットに装着されていることを特徴とする回転電機の固定子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電機や電動機等の回転電機の固定子のスロットに装着する巻線およびその巻線が装着された回転電機の固定子に関する。
【背景技術】
【0002】
発電機や電動機等の回転電機の固定子のスロットに装着する巻線において、絶縁されていない複数本の導線が絶縁材を介して積層される巻線として前記絶縁材を絶縁シート材で前記複数本の導線を巻回して束ねて絶縁被覆させる回転電機の巻線はコンパクトに形成されるので、回転電機の小型軽量化に適用できる。
【0003】
この種の回転電機の巻線は、例えば、特許文献1に示すように、平角導線を熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂でできた融着性樹脂塗布絶縁テープを巻いて複数本の平角絶縁電線を形成し、この複数本の平角絶縁電線を他の外周絶縁テープで束ねてできた転移電線が提案されている。
【0004】
しかし、特許文献1による複数本の平角絶縁電線は複数本の導線が絶縁材を介して積層される回転電機の巻線に相当するが、導線の層間に絶縁材を形成する作業と複数本の導線を束ねる作業とを同時に行うことはできない。
【0005】
また、特許文献2においては、多層配列した導体に対して1枚のシート状絶縁物を各導体の相互対向面間(層間空隙)および各導体の両端面を包囲するようにジグザグに折り込んだ絶縁導体が回転電機の回転子の巻線スロットに巻装されることが提案されている。
【0006】
しかし、特許文献2による絶縁導体は複数本の導線が1枚の絶縁材を介して積層される回転電機の巻線に相当するが、1枚の絶縁材を固着することが記載されておらず、層間空隙を処理して導線を折り曲げて結線する作業における絶縁性を向上させることが記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平7-235221号公報
【文献】公開実用昭和52-37253号公報(第4図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の問題点を解消するために絶縁されていない複数本の導線を簡単な作業で絶縁して積層した巻線とするとともにその巻線の導線を折り曲げて結線する作業における絶縁性を向上させるようにした回転電機の巻線およびその巻線が装着された回転電機の固定子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の回転電機の巻線に係る請求項1に記載の発明は、絶縁されていない複数本の導線が絶縁シート材で絶縁された層間空隙を介して積層される回転電機の巻線において、前記絶縁シート材を前記層間空隙に密着させる厚さとし、同じ絶縁シート材で導線の外周を袋状に被覆するように巻回して導線を積層状態に束ねて、前記導線の外周で前記絶縁シート材同士を固着させて、巻回された絶縁シート材の側面における前記層間空隙に層間絶縁補強材を入れ込みかつ前記側面から突出するように形成されていることを特徴とする。同請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の回転電機の巻線で、前記絶縁シート材は表層部と前記表層部よりも表面積の小さな内層部からなる2層でできており、前記絶縁シート材の側面における前記層間空隙に形成された前記層間絶縁補強材の表面が前記層間空隙内で前記絶縁シート材の前記表層部の内面に接合されていることを特徴とする。同請求3に記載の発明は、請求項1または2に記載の回転電機の巻線で、前記絶縁シート材は発泡絶縁材を有し、前記発泡絶縁材が発泡膨張した際に前記絶縁シート材が前記層間空隙に密着することを特徴とする。同請求4に記載の発明は、請求項1から3の何れかひとつに記載の回転電機の巻線で、前記絶縁シート材で前記導線の外周を袋状に複数巻回して被覆したことを特徴とする。また、本発明の回転電機の固定子に係る請求項5に記載の発明は、絶縁されていない複数本の導線が層間空隙を介して積層された巻線が回転電機の固定子のスロット内に装着された回転電機の固定子において、請求項1から4の何れかひとつに記載の回転電機の巻線における巻線形態に相当する巻線が前記スロットに装着されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
絶縁されていない複数本の導線が絶縁シート材で絶縁された層間空隙を介して積層される回転電機の巻線において、本発明の回転電機の巻線は、前記絶縁シート材を前記層間空隙に密着させる厚さとし、同じ絶縁シート材で導線の外周を袋状に被覆するように巻回して導線を積層状態に束ねて、前記導線の外周で前記絶縁シート材同士を固着させて、巻回された絶縁シート材の側面における前記層間空隙に層間絶縁補強材を入れ込みかつ前記側面から突出するように形成されているので、簡単な作業で絶縁されていない複数本の導線を絶縁して積層した回転電機の巻線とすることができ、その巻線が回転電機の固定子のスロット内に装着された状態で導線を折り曲げて結線する作業において導線間の絶縁性を損なわず容易に結線作業を行うことができ、前記回転電機の巻線における巻線形態に相当する巻線が前記スロットに装着された回転電機の固定子が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の回転電機の巻線を示す平面図である。
【
図3】本発明の回転電機の巻線を製造するプロセスを示す工程図である。
【
図4】本発明の絶縁シート材を巻回して導線を束ねる製造工程における装置の実施形態1を示す正面図である。
【
図6】同上導線を束ねる製造工程における巻回作業の実施形態1の準備状態を示す模式図である。
【
図7】同上巻回作業の実施形態1における第1段階の模式図である。
【
図8】同上巻回作業の実施形態1における第2段階の模式図である。
【
図9】同上巻回作業の実施形態1における仕上げ作業の模式図である。
【
図10】本発明の絶縁シート材を巻回して導線を束ねる製造工程における装置の実施形態2を示す正面図である。
【
図11】
図10のY-Y部分断面図で、
図11(a)は導線の移動法の実施形態1を示し、
図11(b)は導線の移動法の実施形態2を示す。
【
図12】同上導線を束ねる製造工程における巻回作業の実施形態2の準備状態を示す模式図である。
【
図13】同上巻回作業の実施形態2における第1段階の模式図である。
【
図14】同上巻回作業の実施形態2における第2段階の模式図である。
【
図15】同上巻回作業の実施形態2における第3段階の模式図である。
【
図16】同上巻回作業の実施形態2における第4段階の模式図である。
【
図17】同上巻回作業の実施形態2における第5段階の模式図である。
【
図18】同上巻回作業の実施形態2における第6段階の模式図である。
【
図19】同上巻回作業の実施形態3における第1段階の模式図である。
【
図20】同上巻回作業の実施形態3における第2段階の模式図である。
【
図21】同上巻回作業の実施形態3における第3段階の模式図である。
【
図22】(a)同上巻回作業の実施形態3における第4段階の模式図である。(b)同上巻回作業の実施形態3における仕上げ作業の模式図である。
【
図23】本発明の層間絶縁補強材を形成する製造工程の実施形態1にもちいる回転電機の巻線を示す平面図である。
【
図24】同上製造工程でできた回転電機の巻線を示す平面図である。
【
図25】本発明の層間絶縁補強材を形成する製造工程の実施形態2にもちいる絶縁シート材の斜視図である。
【
図26】同上導線を束ねる製造工程における巻回作業の準備状態を示す模式図である。
【
図28】同上巻回作業により絶縁シート材の巻回した側面内に層間絶縁補強材を形成してできた回転電機の巻線を示す平面図である。
【
図29】
図28におけるX部位の拡大図で、層間絶縁補強材を形成する製造工程における巻線の断面図である。
【
図30】同上巻線において層間絶縁補強材を形成した巻線の断面図である。
【
図32】本発明の巻線が回転電機の固定子のスロットに装着された部分断面図である。
【
図33】(a)本発明の回転電機の固定子に挿入される絶縁シート材が巻回された擬似導線を示す平面図である。(b)同上(a)のX1-X1断面図である。(c)擬似導線に絶縁シート材が巻回される模式図である。
【
図34】(a)絶縁シート材が巻回された擬似導線が回転電機の固定子に挿入される状態を示す平面図である。(b)絶縁シート材が巻回された擬似導線が回転電機の固定子に挿入された状態を示す平面図である。(c)同上(b)のY1-Y1断面図である。(d)絶縁シート材が巻回された擬似導線が本発明の巻線の導線により押し込まれて回転電機の固定子のスロット内で置き換えられる状態を示す平面図である。
【
図35】(a)本発明の回転電機の固定子に挿入される絶縁シート材が巻回された導線を示す平面図である。(b)同上(a)のZ1-Z1断面図である。(c)本発明の巻線がスロットに装着された状態の回転電機の固定子を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0013】
図1および
図2は、絶縁されていない長尺状の複数本の導線が絶縁シート材で絶縁された層間空隙を介して積層される回転電機の巻線を示す。
【0014】
図1および
図2において、巻線1は、絶縁されていない長尺状の複数本の導線2A、2B、2C、2Dからなる導線2の層間空隙4に絶縁シート材3を密着させるように、絶縁シート材3を層間空隙4に密着させる厚さとし、同じ絶縁シート材3で導線2の外周を袋状に被覆するように巻回して導線2を積層状態に束ねて、その導線2の外周で絶縁シート材3同士を固着させて、巻回された絶縁シート材3の側面6における層間空隙4に層間絶縁補強材7を入れ込みこの層間絶縁補強材7を側面6から突出するように形成されている。この場合、絶縁シート材3は、導線2の外周を袋状に被覆するように巻回させる絶縁シート材3Aと、層間空隙4に密着させる絶縁シート材3Bとからなる。この巻線1は、回転電機の固定子のスロット内に装着された状態で長尺状の導線2を折り曲げて長尺状の導線2の両端位置において図示しないが結線される。この発明において絶縁とは電気的絶縁をいう。
【0015】
この導線2は絶縁されていない銅(含む合金)、アルミニウム(含む合金)などの電気導電性のある素材でできており、形状としては平板状を示すが丸線状であってもよい。また、導線2の本数は4本で4段に1列を図示するが、4段以上および2列以上で積層されてもよい。
図1および
図2において、2A、2B、2C、2Dはそれぞれ1段目(最上部)の導線、2段目の導線、3段目の導線、4段目(最下部)の導線であり、これらを導線2と総称する。
【0016】
また、この絶縁シート材3は、層間空隙4に密着させるシートでできており、その厚さTは5μm~300μmであり、その素材は、絶縁性があるとともに耐熱性および可撓性さらに耐衝撃性を満たす素材で、ポリフェニレンサルファイド樹脂やポリエチレンナフタレート樹脂やポリエチレンテレフタレート樹脂やポリエステル樹脂やポリアミド樹脂や液晶ポリマーなどの熱可塑性樹脂や可撓性エポキシ樹脂やポリイミド樹脂やフッ素樹脂などの熱硬化性樹脂さらにはデュポン社製商品名ノーメックスのようなアラミド紙や発泡性樹脂が例示できる。
図1および
図2において絶縁シート材3は導線2を袋状に被覆して積層状態にする絶縁シート材3Aと層間空隙4を絶縁する絶縁シート材3Bとからなり、絶縁シート材3を単層で例示するが、後述する2層で構成してもよい。
【0017】
絶縁されていない長尺状の複数本の導線2A、2B、2C、2Dからなる導線2における層間空隙4は、導線2Aと導線2B間、導線2Bと導線2C間および導線2Cと導線2D間のように積層状態の導線2における隣接する導線2の間隔であり、その層間空隙4に密着される絶縁シート材3は絶縁シート材3Bであり、その厚さTは隣接する導線2の間隔と同じ大きさであるので、
図2のような導線2が積層された断面図においては、図示する符号「4」を省略しているが、層間空隙4の部位は絶縁シート材3Bの部位と同じである。また、
図1に示す絶縁シート材3が巻回された側面6における層間空隙4には絶縁材でできた層間絶縁補強材7が入れ込まれ層間絶縁補強材7が側面6から突出されている。この層間絶縁補強材7の形成により、層間空隙4における絶縁材の沿面距離を大きくすることができるとともに絶縁シート材3が巻回された側面6で導線2を折り曲げて結線するに際し、導線2間の絶縁性を損なわず容易に結線作業を行うことができる。
【0018】
(回転電機の巻線を製造するプロセス)
図3は、回転電機の巻線を製造するプロセスを示す工程図である。
【0019】
図3において、回転電機の巻線を製造するプロセスは、絶縁シート材を巻回して導線を束ねる製造工程101と層間絶縁補強材を形成する製造工程102とからなる。
【0020】
(絶縁シート材を巻回して導線を束ねる製造工程)
絶縁シート材を巻回することにより複数の導線を積層状態に束ねてできる巻線において絶縁シート材の巻回作業の3つの実施形態について模式図にもとづき、以下説明する。なお、その説明において、絶縁シート材3は、導線2の外周を袋状に被覆するように巻回させる絶縁シート材3Aと、層間空隙4に密着させる絶縁シート材3Bとからなるが同じシートでできているので、絶縁シート材3Aおよび絶縁シート材3Bと明示する必要のない説明においては、総括して絶縁シート材3と記載する。
【0021】
(導線に絶縁シート材を巻回して導線を束ねる製造工程の実施形態1)
図4~
図9は、絶縁シート材を巻回して導線を束ねる製造工程101における装置および作業概念の実施形態1を示す。
【0022】
図4および
図5は、絶縁シート材を巻回して導線を束ねる装置において導線を移動させて層間空隙を形成する機能をもたせる装置を示す。
【0023】
図4および
図5において、載置台Bに固定した支持具Cと載置台B上で可動自在に設けた支持具Dとを絶縁シート材3を介して対面させている。支持具Cは複数本(
図4および
図5においては2本)の導線2A、2Cのそれぞれを把持する導線把持アームC1を備えており、この導線把持アームC1は導線2A、2C間に空間部40を形成するように離間している。一方、支持具Dは複数本(
図4および
図5においては2本)の導線2B、2Dのそれぞれを把持する導線把持アームD1を備えており、これらの導線把持アームD1も同様に離間して、支持具Dを支持具Cの方向に移動させて導線2Bが空間部40に配置するようにしている。空間部40の大きさは、導線2Bが空間部40に配置した際に、導線2Aと2B導線2Bと2Cおよび導線2Cと2Dにより層間空隙4が形成される大きさに設定されている。また、絶縁シート材3は所定の長さL1の大きさで支持具Cと支持具Dとの間に絶縁シート材3の一端(
図4および
図5においては上端)で吊り具Aにて吊り下げられている。この絶縁シート材3における所定の長さL1は導線2A、2B、2C、2Dに絶縁シート材3を巻回して導線2A、2B、2C、2Dを積層状態に束ねる長さ以上に設定している。
【0024】
図6~
図9は、導線に絶縁シート材を巻回して導線を積層状態に束ねる導線を積層する巻回作業の模式図を示す。
【0025】
図6において、巻回作業を開始する前に最上部にある導線2Aで導線2B側の表面(
図6においては右側表面)に絶縁シート材3を支持させて巻回開始端5とし、導線2Bと導線2Dを矢印方向に押し込む移動を開始することにより導線2Aと導線2B、導線2Bと導線2Cおよび導線2Cと導線2Dが隣接して層間空隙4が形成される巻回作業の準備をする。
【0026】
図7において、導線2Bおよび2Dを巻回▲1▼に示す通り矢印方向に押し込むことにより、導線2A、2B、2C、2Dにおける層間空隙4には絶縁シート材3Bが形成され、最下端の導線2Dの表面(
図7においては左側表面)に絶縁シート材3Aが形成されて、導線2A、2B、2C、2Dが積層状態の導線2となるように形成される。
【0027】
図8において、引き続き、絶縁シート材3を巻回▲2▼、▲3▼、▲4▼および▲5▼に示す通り、最下部の導線2Dにある絶縁シート材3を右方、上方、左方および下方へと順に矢印方向に巻回して導線2Dの巻回終了端51に至るようにして最初の絶縁シート材3とを重合させて巻回終了端51とし絶縁シート材3同士を固着しており、その固着法としては例えばレーザを照射して溶融固着するようにして絶縁シート材3を袋状にして導線2A、2B、2C、2Dを被覆するように巻回してこれら導線2A、2B、2C、2Dが積層状態に束ねられる。なお、巻回▲2▼、▲3▼、▲4▼および▲5▼に示す絶縁シート材3の巻回数については1回巻を例示しているが、2回以上巻回してもよい。このようにして、巻線1は、絶縁シート材3を層間空隙4に形成するとともに同じ絶縁シート材3でこれら導線2A、2B、2C、2Dの外周を袋状にして被覆するように巻回してこれら導線2A、2B、2C、2Dを積層状態に束ねてできているので、簡単な作業で回転電機の巻線を提供することができるとともに絶縁シート材3を巻回方向とは逆方向に巻き戻しを行えば、積層した導線2A、2B、2C、2Dから絶縁シート材3を分離する作業が容易にできる。なお、絶縁シート材3を固着して、余剰の絶縁シート材3があれば、絶縁シート材3を切断すればよい。
【0028】
図9は、上記巻回作業により得た巻線について補足する仕上げ作業を示す。
【0029】
図9において、上記巻回作業により得た巻線1において、絶縁シート材3が積層された導線2の外周に密着される状態を向上させ、巻線1の外周面で絶縁シート材3が平坦となって回転電機の固定子のスロットに装着しやすくするために、巻線1の外周面の全面をプレスPで押圧して平坦にする。この場合、絶縁シート材3が熱可塑性樹脂でできておれば、プレスPを加熱して加熱圧着させてもよい。
【0030】
(導線に絶縁シート材を巻回して導線を束ねる製造工程の実施形態2)
図10~
図18は、絶縁シート材を巻回して導線を束ねる製造工程101における装置および作業概念の実施形態2を示す。
【0031】
図10および
図11は、長尺状の導線に絶縁シート材を巻回する装置において層間空隙を形成してその空間空隙に絶縁シート材を形成する機能をもたせる装置を示す。
【0032】
図10および
図11において、長尺状の導線2Aと導線2Bとは近接させて絶縁シート材3を挟着させる層間空隙4を形成しており、長尺状の導線2Cと導線2Dとは絶縁シート材3を挟着せずに離間しており、長尺状の導線2Bと導線2Cとは間隔L2で離間して絶縁シート材3が巻回される作業の準備状態にある。絶縁シート材3を巻回する装置は、長尺状の導線2A、2Bおよび導線2C、2Dにおけるそれぞれの両端(図においては上下端)を把持する把持可動アームG1およびG2と、それぞれの把持可動アームG1およびG2を回動させる回転軸H1およびH2と、回転軸H1およびH2を軸支させる軸受部Q1およびQ2と、この軸受部Q1およびQ2を移動自在に配置させる上方の基台Eおよび下方の基台Fとからなる。各把持可動アームG1およびG2は絶縁シート材3を挟着するように導線2Aと2Bをおよび導線2Cと2Dをそれぞれ近接したり遠ざける開閉アームである。この把持可動アームG1およびG2により導線2Aと2Bをおよび導線2Cと2Dをそれぞれ近接したり遠ざける方法として、
図11(a)に示す導線の移動法の実施形態1においては導線2Aと導線2Bを例示して導線2Bを導線2Aに近接するように横方向に移動させ、
図11(b)に示す導線の移動法の実施形態2においては導線2Aと導線2Bを例示して導線2Bを導線2Aに近接するように縦方向に移動させる。この例示方法により、導線2A、2Bにおいて絶縁シート材3を挟着して層間空隙4に絶縁シート材3Bが形成される。
【0033】
図12は、
図10および
図11に示す絶縁シート材3が巻回されるようにした装置をもちいて、絶縁シート材3の両端をそれぞれ支持具A1および支持具B1にて支持して、導線2Cと2Dにおいては遠ざけた状態で、導線2Aと導線2Bは近接させて絶縁シート材3を挟着させることにより層間空隙4に絶縁シート材3Bを形成する巻回作業を準備する。
【0034】
図13は、
図12に示す巻回準備の作業に続いて、把持可動アームG1を回転させて、導線2Aと導線2Bを矢印方向に回転を開始する巻回作業の第1段階を示す模式図である。導線2Aと導線2Bを回転させることにより、導線2Aと導線2Bとの間の層間空隙4には絶縁シート材3Bが形成される。なお、図において破線部は支持具B1にて支持された絶縁シート材3の部位を示す。
【0035】
図14は、上記巻回作業の第1段階に続いて、把持可動アームG1をさらに回転させて、導線2Bと導線2Aを横方向に絶縁シート材3Bを介して並設させる巻回作業の第2段階を示す模式図である。導線2Aと導線2Bを回転させることにより、導線2Aと導線2Bを絶縁シート材3にて袋状に被覆させて、導線2Bの表面(
図14においては上面)にある絶縁シート材3の巻回終了端52を固着させて導線2Bと導線2Aを横方向に絶縁シート材3Bを介して並設される。なお、図において破線部は上記巻回作業の第1段階と同様に支持具B1にて支持された絶縁シート材3の部位を示す。
【0036】
図15は、巻回作業の第2段階に続いて、絶縁シート材3の他端を支持具B1にて支持させて把持可動アームG2を回転させて、導線2B、2Aから離間した導線2C、2Dにおいて、導線2Cを導線2Dに近接させる巻回作業の第3段階を示す模式図である。導線の移動法の実施形態2を採用して導線2Dを縦方向に移動させて導線2Cと導線2Dとを近接させることにより、絶縁シート材3を導線2Cと導線2Dで挟着させて、導線2Cと導線2Dとの間の層間空隙4に絶縁シート材3Bを形成する。この場合、導線2Dは導線の移動法の実施形態1を採用して横方向に移動させてもよい。
【0037】
図16は、上記巻回作業の第3段階に続いて、把持可動アームG2を回転させて、導線2Cと導線2Dを絶縁シート材3にて被覆させる巻回作業の第4段階を示す模式図である。導線2Cと導線2Dとを回転させ、導線2Dを絶縁シート材3にて被覆させることにより導線2Cと導線2Dとの間の層間空隙4には絶縁シート材3Bが形成されている。
【0038】
図17は、上記巻回作業の第4段階に続いて、把持可動アームG2をさらに回転させることにより導線2Cと導線2Dとを回転させて、導線2B、2Aと導線2D、2Cを同じ絶縁シート材3を介して横方向に並設させる巻回作業の第5段階を示す模式図である。導線2Cと導線2Dとを回転させ、導線2C、2Dを絶縁シート材3にて袋状に被覆させることにより、導線2Aと導線2Dとの間には絶縁シート材3Bが形成されて、導線2B、2Aと導線2D、2Cを同じ絶縁シート材3を介して横方向に並設させている。
【0039】
図18は、上記巻回作業の第5段階に続いて、導線2B、2Aと導線2D、2Cを横方向に並設させた状態で巻回終了端53を固着させ後、絶縁シート材3を切断して、導線2B、2Aと導線2D、2Cが絶縁シート材3を介して導線2B、2A、2D、2Cを束ねて横方向に積層された回転電機の巻線1が得られる巻回作業の第6段階である。この場合、積層方向は、実施形態1と同様に縦方向に積層する状態と同じである。
【0040】
この導線に絶縁シート材を巻回して導線を束ねる製造工程の実施形態2においても、実施形態1と同様に、導線2A、2B、2C、2Dを絶縁シート材3で連続して袋状に被覆しているので、どの導線2間も絶縁シート材3で被覆ができて電気的絶縁作用の信頼性が向上する。
【0041】
(導線に絶縁シート材を巻回して導線を束ねる製造工程の実施形態3)
図19~
図22は、絶縁シート材を巻回して導線を束ねる製造工程101における装置および作業概念の実施形態3を示し、以下、絶縁シート材3は剛性を有する薄厚のシートでできており、その絶縁シート材3を折り曲げて導線2A、2B、2C、2Dが左右方向に横並びに積層される巻線1を説明する。
【0042】
図19において、絶縁シート材3は左端Lから右端Rに向かった平面状の剛性を有する薄厚の耐熱性の熱可塑性プラスチックシート材で、その素材としては、ポリフェニレンサルファイド樹脂が例示でき、この絶縁シート材3には左端Lおよび右端Rのそれぞれの近傍位置に綴じ部30となる綴じ用角部LA、RAと、導線2A、2B、2C、2Dの間を通りジグザグ状に折り曲げられる折り曲げ角部における左側の角部LBおよび右側の角部RBとが形成されている。これら綴じ用角部LA、RAおよび左側の角部LB、右側の角部RBには切り込みN1、N2が形成されている。この絶縁シート材3の左右方向の長さは、左右の綴じ部30の長さと、綴じ用角部LAから左側の角部LBに至る長さと、ジグザグ状に折り曲げられる長さと、綴じ用角部RAから右側の角部RBに至る長さとの総和であって、左右の綴じ部30の長さおよび綴じ用角部LAから左側の角部LBに至る長さは絶縁シート材3で左右方向に横並びに導線2A、2B、2C、2Dが積層される長さである。
【0043】
このような絶縁シート材3を用意して、絶縁シート材3の綴じ用角部LAを上方に折り曲げ、綴じ用角部RAを下方に折り曲げた状態で、絶縁シート材3を左側の角部LBから右側の角部RBに向けて押し付けて導線2A、2B、2C、2Dの間を斜め方向でジグザグ状に折り曲げることにより、
図20に示すように、導線2A、2B、2C、2Dが層間空隙4を形成して左右方向に横並びに配置される。
【0044】
次に、導線2A、2B、2C、2Dが層間空隙4を形成して左右方向に横並びに配置された状態で絶縁シート材3の左端Lと右端Rとを互いに近づく方向に押し付けることにより、
図21に示すように、絶縁シート材3は、導線2Aと2B、導線2Bと2Cおよび導線2Cと2Dとは絶縁シート材3Bで密着され、導線2Aの左側面および下面、導線2Bの上面、導線2Cの下面および導線2Dの上面および右側面に絶縁シート材3Aが形成される。
【0045】
次に、
図21において絶縁シート材3の左端Lおよび右端Rを矢印方向に折り曲げることにより、
図22(a)に示すように、導線2A、2B、2C、2Dの上面および下面は絶縁シート材3に包囲され、さらに、絶縁シート材3の綴じ用角部LAが下方におよび綴じ用角部RAが上方にそれぞれ折り曲げられることにより、綴じ部30がそれぞれ導線2Dの右側面および導線2Aの左側面に接触される。そして、
図22(b)に示すように導線2Dの右側面および導線2Aの左側面において絶縁シート材3のそれぞれの端部54および55を固着させて、導線2A、2B、2C、2Dが左右方向に横並びに積層される巻線1が得られる。
【0046】
このように、巻線1は絶縁シート材3を折り曲げて導線2A、2B、2C、2Dが左右方向に横並びに積層されているが、絶縁シート材3を上下方向で縦方向に積層される場合も同様であり、また、折り曲げしやすいように折り曲げの角部に切り込みN1、N2を形成しているが、絶縁シート材3の素材を可撓性とするように選定してこの切り込みN1、N2を形成しなくてもよい。
(層間絶縁補強材を形成する製造工程)
上記絶縁シート材を巻回して導線を束ねる製造工程にて複数の導線が積層状態に束ねられた回転電機の巻線ができており、さらに、絶縁シート材が巻回された側面における層間空隙に層間絶縁補強材を形成して絶縁されていない導線の絶縁に有用な回転電機の巻線においてその層間絶縁補強材を形成する作業の2つの実施形態について、以下説明する。
【0047】
(層間絶縁補強材を形成する製造工程の実施形態1)
図23および
図24は、層間絶縁補強材を形成する製造工程102の実施形態1を示す。
【0048】
図23は、導線に絶縁シート材を巻回して導線を束ねる製造工程の実施形態1、2および3により形成された回転電機の巻線1を示し、絶縁されていない複数本の導線2が絶縁シート材3の巻回作業により導線2の外周における絶縁シート材3Aと層間空隙4に形成した絶縁シート材3Bが用意されており、この絶縁シート材3Bは巻回された絶縁シート材3の側面6における層間空隙4に形成されている。
【0049】
図24は、層間絶縁補強材を形成する製造工程102でできた回転電機の巻線1を示し、側面6には層間絶縁補強材7が入れ込まれて側面6内に形成されかつ側面6から突出されている。このような層間絶縁補強材7を形成するには、溶融した熱可塑性樹脂材や液状エポキシ樹脂を充填して層間空隙4に形成した絶縁シート材3Bを側面6内で溶融させて後に固化させるか、固形状の熱可塑性樹脂材や熱硬化性樹脂材を押し込んで接着剤などで接合させることが例示でき、このように層間絶縁補強材7は熱可塑性樹脂材や熱硬化性樹脂材などの電気的絶縁性のある絶縁材でできているので、層間空隙4における絶縁材の沿面距離を大きくするとともに絶縁シート材3が巻回された側面6で導線2を折り曲げて結線するに際し、導線2間の絶縁性を損なわず容易に結線作業を行うことができる。
【0050】
(層間絶縁補強材を形成する製造工程の実施形態2)
図25~
図30は、2層の絶縁シート材3をもちいて、層間絶縁補強材を形成する製造工程102の実施形態2を示す。
【0051】
図25は、層間絶縁補強材を形成する製造工程の実施形態2にもちいる平面状の絶縁シート材3を示し、この絶縁シート材3は表層部31と表層部31よりも表面積の小さな内層部32からなる2層できている。表層部31は厚さが5~300μmのポリフェニレンサルファイド樹脂でできたシートであり、内層部32は厚さが25~200μmのポリエチレンナフタレート樹脂でできたシートであり、全体の厚さは30~300μmのシートであって、回転電機の固定子のスロットの形状・大きさや導線の積層形状・大きさとの関係で厚さを設定すればよい。また、表層部31の内側表面(
図25においては下面)には微小凹凸面34が形成されており、この微小凹凸面34に接着剤もしくは溶融処理により内層部32の表面(
図25においては上面)の接合面33で接合されて2層に形成されており、表層部31および内層部32の素材は上記樹脂に限らず絶縁性のある素材であればよい。例えば、内層部32の素材として発泡樹脂をもちい、加熱により発泡膨張する素材であってもよい。
【0052】
図26および
図27は、上記2層で構成した絶縁シート材3をもちいて導線に絶縁シート材を巻回して導線を束ねる製造工程の実施形態1と同様な作業で、その絶縁シート材3を導線2A、2B、2C、2Dに巻回する作業を示し、絶縁シート材3を表層部31が導線2A、2C側になるようにして導線2Bを空間部40に押し込み、導線2Aと導線2B、導線2Bと導線2Cおよび導線2Cと導線2Dをそれぞれ隣接させて層間空隙4が形成されるようにした巻線1を提供している。
【0053】
図28において、上記表層部31および内層部32の2層の絶縁シート材3をもちいた巻回作業により、絶縁されていない複数本の導線2が層間空隙4を介して積層され、その層間空隙4の側面において絶縁シート材3の表層部31が残存しているので、層間空隙4における絶縁材の沿面距離を大きくすることができる。この層間空隙4に熱可塑性樹脂材や熱硬化性樹脂材などの電気的絶縁性のある絶縁材でできている層間絶縁補強材7を入れ込むことにより、絶縁シート材3が巻回された側面6内で層間絶縁補強材7が絶縁シート材3の表層部31の内側表面に接合されて層間絶縁補強材7が側面6から突出した巻線1が得られる。
【0054】
図29および
図30は、
図28における絶縁シート材3が巻回された側面6の部位Xにおいて、
図25に示す2層の絶縁シート材3の表層部31の内側表面にある微小凹凸面34に代えて浮き出し部35が形成されていることを示す。
【0055】
図29において、浮き出し部35は絶縁シート材3の表層部31の外側表面のエンボス加工により内側表面に形成されて、内層部31の表面と接合された2層の絶縁シート材3としてもちいることにより
図30に示すように、固形状の熱可塑性樹脂材や熱硬化性樹脂材でできた層間絶縁補強材7を側面6内に入れ込む際に、その挿入作業を容易にすることができる。
【0056】
層間絶縁補強材を形成する製造工程102における作業の実施形態2においても、絶縁シート材3が巻回された側面6内に層間絶縁補強材7が形成されているので、層間空隙4における絶縁材の沿面距離を大きくするとともに絶縁シート材3が巻回された側面6で導線2を折り曲げて結線するに際し、導線2間の絶縁性を損なわず容易に結線作業を行うことができる。
【0057】
(本発明の巻線が固定子のスロット81に装着されている固定子)
上記層間絶縁補強材を形成する製造工程102における作業の実施形態2によりできた回転電機の巻線1は、
図31および
図32に示すように、同作業の実施形態1によりできた回転電機の巻線1も同様に、積層された長尺状の導線2の中間位置において絶縁シート材3が巻回されており、その巻線1を回転電機の環状に鉄心でできた固定子8の複数個のスロット81に挿入して積層状態に装着され、図示しないが、長尺状の導線2の両端位置において結線される。
【0058】
(回転電機の巻線における巻線形態に相当する巻線が固定子のスロットに装着されていることの説明)
図31および
図32に示す回転電機の固定子においては、導線に絶縁シート材を巻回して導線を束ねる製造工程の実施形態1、実施形態2および実施形態3により巻線1が固定子8のスロット81に装着されているが、このような巻線自体が固定子8のスロット81に装着される回転電機の固定子であることに加えて、
図33~
図34に示すように、導線2に代えて複数本の擬似導線20に絶縁シート材3を巻回して擬似導線20を束ねて積層してこの擬似導線20が固定子8のスロット81に装着されて、この擬似導線20を導線2と置き換えて固定子8のスロット81に装着されている回転電機の固定子とすることを回転電機の巻線における巻線形態に相当する巻線が固定子のスロットに装着されていると定義する。この定義における擬似導線20を導線2と置き換えて巻線1が固定子8のスロット81に装着されることについて、
図33~
図35にもとづき、導線に絶縁シート材を巻回して導線を束ねる製造工程の実施形態1により導線2を束ねて積層することに代えて、複数本の擬似導線20に絶縁シート材3を巻回して擬似導線20を束ねて積層して固定子8のスロット81に装着されて擬似導線20を導線2と置き換えた回転電機の固定子を説明する。
図33および
図34において、20A、20B、20C、20Dはそれぞれ1段目(最上部)の擬似導線、2段目の擬似導線、3段目の擬似導線、4段目(最下部)の擬似導線を示し、これらを擬似導線20と総称する。
【0059】
図33(a)および(b)において、擬似導線20は、長尺状の導線2と同じ平板状または丸線状で、金属材でできており、導線2よりも断面積は若干大きく、擬似導線20A、20B、20C、20Dに絶縁シート材3を巻回して層間空隙4を介して積層状態に束ねられており、擬似導線20A、20B、20C、20Dの一方の端面には、
図33(a)の擬似導線20Dの端面(左端)を拡大した断面図で例示するように環状の薄壁9が形成されている。
図33(c)は、導線に絶縁シート材を巻回して導線を束ねる製造工程の実施形態2で示す巻回方法により擬似導線20の外周に絶縁シート材3を巻回する作業の模式図を示し、擬似導線20の外周に絶縁シート材3を巻回することにより、擬似導線20の外周を袋状に被覆する絶縁シート材3Aと層間空隙4に形成する絶縁シート材3Bとを同じ絶縁シート材3で擬似導線20が巻回されている。
【0060】
図34(a)、(b)、(c)、(d)および(e)は、複数本の擬似導線20に絶縁シート材3を巻回して擬似導線20を束ねて積層された擬似導線20が回転電機の環状に鉄心でできた固定子8の複数個のスロット81に装着されて固定子8のスロット81に絶縁シート材3が形成される作業手順を示す。
【0061】
図34(a)において、擬似導線20が
図33(a)、(b)および(c)に示す複数本の擬似導線20A、20B、20C、20Dに絶縁シート材3を巻回して擬似導線20を束ねて積層されており、この擬似導線20を回転電機の環状に鉄心でできた固定子8の複数個のスロット81のそれぞれに矢印方向に押し込む。この擬似導線20を回転電機の固定子8のスロット81に押し込むことにより、擬似導線20は
図34(b)および(c)に示すようにスロット81に装着される。
【0062】
次に、
図34(d)は、擬似導線20が回転電機の固定子8のスロット81に装着された状態で、巻線1の導線2A、2B、2C、2Dと置き換えられる作業状態を示し、擬似導線20A、20B、20C、20Dのそれぞれの一方の端面(図においては左端)には導線2A、2B、2C、2Dのそれぞれの一方の端面(図においては右端)が対面するように配置されている。導線2A、2B、2C、2Dのそれぞれは矢印方向に移動自在に配置されており、擬似導線20A、20B、20C、20Dのそれぞれは導線2A、2B、2C、2Dのそれぞれと同じ平板状または丸線状で、断面積は若干大きいので、導線2A、2B、2C、2Dを移動して擬似導線20Dの一方の端面(左端)の拡大した断面図で例示するように環状の薄壁9に導線2Dの端面(右端)を押し込んで、回転電機の固定子8のスロット81内で擬似導線20A、20B、20C、20Dが導線2A、2B、2C、2Dと置き換えられる。この場合、擬似導線20に形成された環状の薄壁9は導線2と置き換えられる位置合わせとして有用であり、好ましくは、図示しないが、導線2の端面をその先端を細くした形状、例えば、台形状として、位置合わせをさせやすくしてもよい。このように、擬似導線20A、20B、20C、20Dに絶縁シート材3を巻回して束ねて積層状態として、絶縁シート材3とともにスロット81に装着された状態で、導線2A、2B、2C、2Dと置き換えられることにより、巻回された絶縁シート材3を損傷させずに絶縁シート材3の層間空隙4に密着して絶縁する絶縁シート材3Bに導線2を円滑に挿入できる。
【0063】
図35(a)、(b)および(c)は、固定子8のスロット81に装着された擬似導線20が導線2と置き換えられた回転電機の固定子8を示す。
【0064】
上記のように絶縁シート材3が巻回された状態の擬似導線20A、20B、20C、20Dが導線2A、2B、2C、2Dに押し込まれて回転電機の固定子8のスロット81内で置き換えられることにより、
図35(a)および(b)に示すように絶縁されていない複数本の導線2A、2B、2C、2が層間空隙4を介して積層された巻線1が固定子8のスロット81に装着された回転電機の固定子8が得られる。さらに、絶縁シート材3が例えば、内層フィルム32が発泡樹脂材でできておれば、
図35(c)に示すように、絶縁シート材3を加熱することにより、絶縁シート材3はスロット81内で発泡膨張して巻線1が固定子8のスロット81に一層密着して装着された固定子8が得られる。なお、
図35(a)において、巻線1は、図示しないが、
図1と同様に、擬似導線20の外周に巻回された絶縁シート材3の側面6に層間絶縁補強材7を入れ込みこの層間絶縁補強材7を側面6から突出するように形成されている。このような層間絶縁補強材7を形成するには、溶融した熱可塑性樹脂材や液状エポキシ樹脂を充填して層間空隙4に形成した絶縁シート材3Bを側面6内で溶融させて後固化させるか、固形状の熱可塑性樹脂材や熱硬化性樹脂材を押し込んで接着剤などで接合させることにより、層間絶縁補強材7が側面6から突出した固定子が得られ、複数本の擬似導線20に絶縁シート材3を巻回して擬似導線20を束ねて積層してこの擬似導線20が固定子8のスロット81に装着されて、この擬似導線20を導線2と置き換えて回転電機の巻線1における巻線形態に相当する巻線が固定子8のスロット81に装着されている回転電機の固定子8が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の回転電機の巻線は、発電機や電動機等の回転電機の固定子のスロットに装着される巻線として、有用である。
【符号の説明】
【0066】
1 巻線
2 導線
20 擬似導線
3 絶縁シート材
4 層間空隙
8 固定子
81 スロット