(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】放射性物質測定装置
(51)【国際特許分類】
G01T 1/22 20060101AFI20240112BHJP
G01T 1/20 20060101ALI20240112BHJP
G01T 1/00 20060101ALI20240112BHJP
G01T 1/167 20060101ALN20240112BHJP
【FI】
G01T1/22
G01T1/20 B
G01T1/00 A
G01T1/167 C
(21)【出願番号】P 2020112292
(22)【出願日】2020-06-30
【審査請求日】2023-01-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和元年7月5日発行の「第8回 環境放射能除染研究発表会要旨集,第11頁」 発行元:一般社団法人 環境放射能とその除染・中間貯蔵および環境再生のための学会
(73)【特許権者】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】多田 光宏
(72)【発明者】
【氏名】野田 秀作
(72)【発明者】
【氏名】井田 博之
(72)【発明者】
【氏名】宮越 靖宏
(72)【発明者】
【氏名】河合 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】田端 誠
【審査官】小林 幹
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-021913(JP,A)
【文献】特開2016-080557(JP,A)
【文献】特開平03-048791(JP,A)
【文献】S. Iijima et al.,“Development of Realtime 90Sr Counter”,2013 IEEE Nuclear Science Symposium and Medical Imaging Conference (2013 NSS/MIC),2013年,p.1-3
【文献】飯島 周多郎,リアルタイム90Srカウンターの開発,日本物理学会講演概要集 2013年秋季大会,日本,日本物理学会,2014年09月26日,第140頁,26aBC-1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/00-1/16
G01T 1/167-7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象から放射される放射線を導入する放射線導入窓が形成された筐体と、屈折率が1.017以上1.042未満に調整されて前記筐体内に配設されたシリカエアロゲルと、前記筐体内に配設されて前記シリカエアロゲルに所定エネルギー以上の荷電粒子の放射線が入射した際に該シリカエアロゲルから出射されるチェレンコフ光を反射する反射ミラーと、該反射ミラーで反射されたチェレンコフ光を測定するチェレンコフ光測定部と、前記反射ミラーに対して前記放射線導入窓と反対側
であって前記放射線導入窓の直上に配置され、
有効面積が前記放射線導入窓と同一に設定されて放射
線によって発光する第1トリガー用シンチレーションファイバーと、該第1トリガー用シンチレーションファイバーの発光を計測する第1トリガー測定部と、を備えたことを特徴とする放射性物質測定装置。
【請求項2】
測定対象から放射される放射線を導入する放射線導入窓が形成された筐体と、屈折率が1.017以上1.042未満に調整されて前記筐体内に配設されたシリカエアロゲルと、前記筐体内に配設されて前記シリカエアロゲルに所定エネルギー以上の荷電粒子の放射線が入射した際に該シリカエアロゲルから出射されるチェレンコフ光を反射する反射ミラーと、該反射ミラーで反射されたチェレンコフ光を測定するチェレンコフ光測定部と、前記反射ミラーに対して前記放射線導入窓と反対側に配置されて放射線によって発光する第1トリガー用シンチレーションファイバーと、前記反射ミラーと前記第1トリガー用シンチレーションファイバーとの間に
設けられて放射線の通過を遮断する遮断板
と、該遮断板に
設けられて前記放射線導入窓から直角方向に導入された放射線のみを通過させる窓部
と、前記第1トリガー用シンチレーションファイバーの発光を計測する第1トリガー測定部と、を備えたことを特徴とす
る放射性物質測定装置。
【請求項3】
前記反射ミラーと
前記放射線導入窓との間に設けられて、前記放射線導入窓から導入された放射線によって発光する第2トリガー用シンチレーションファイバーと、該第2トリガー用シンチレーションファイバーの発光を計測する第2トリガー測定部を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の放射性物質測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストロンチウム90(90Sr)に由来する放射線を測定できる放射性物質測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
福島第一原子力発電所の事故によって、環境中に放出された放射性核種の一つとして、ストロンチウム90(90Sr)がある。環境中に広く放出された放射性セシウム(134Cs、137Cs)と異なって、90Srは測定が容易なγ線をほとんど放出しないため通常の放射線検出方法では測定ができない。
【0003】
JIS規格で定められた90Srの放射能測定方法は、ストロンチウムの精製→長期間放置による90Sr90Y(イットリウム)放射平衡状態の実現→イットリウムの分離という工程であるため、結果が判定するまで2~4週間必要である。
このような長期間を要する方法では、例えば海産物中の90Sr濃度を短時間で測定することができない。
【0004】
そこで、90Srで汚染された食品などを短時間で測定できる放射性物質測定器が特許文献1に提案されている。
ここで提案された放射性物質測定器は、137Cs、134Cs、131I、40Kなどの放射線物質が存在し、様々なエネルギーのβ線やγ線が飛び交う環境中で、90Srの放射能絶対値がリアルタイムで連続測定できるカウンターとして、シリカエアロゲルを用いたしきい値型チェレンコフカウンターを用いるというものである。ただし、この測定器では、測定する対象物を測定器に所定位置に載置してから連続測定する方式である。
【0005】
そして、特許文献1においては、上記のしきい値型チェレンコフカウンターの原理について、以下のように説明されている。
137Csの崩壊分岐比95%で生じるβ線の最大運動エネルギーは0.512MeVであり、このβ線は、屈折率1.152以上の物質中でチェレンコフ発光する。また、5%の分岐比で137Csが137Baの基底状態に直接崩壊する際のβ線の最大運動エネルギーは1.174MeVであり、このβ線は屈折率1.048以上の物体中でチェレンコフ発光が起きる。
また、90Srはβ線を放出して90Yになり、さらにβ線を放出して安定な90Zrになるが、90Yの最大運動エネルギーは2.28MeVであり、このβ線は屈折率1.018以上でチェレンコフ発光する。
【0006】
すなわち、屈折率が1.018以上1.048以下の透明な物質があれば137Csでは全く発光せず90Srの娘核である90Yから発生する高速β線には反応するしきい値型チェレンコフカウンターが実現できる。なお、134Csは1.4MeVまでのγ線を放出する。このエネルギーでは光電効果は無視でき、コンプトンエッジは1.15MeVである。すなわち、このカウンターは134Csにもほとんど反応しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示の技術は、主としてバルクの食品などを対象としており、特許文献1の
図3に示されるように、食品サンプル等の測定対象物を所定の位置に載置して測定するものである。
そのため、例えば放射能に汚染された汚染水を貯留する貯留タンクの表面のように対象物の表面の特定部位のストロンチウム濃度の測定には適していなかった。
【0009】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、測定対象物の表面の特定部位におけるストロンチウム濃度を測定できる放射性物質測定装置を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明に係る放射性物質測定装置は、測定対象から放射される放射線を導入する放射線導入窓が形成された筐体と、屈折率が1.017以上1.042未満に調整されて前記筐体内に配設されたシリカエアロゲルと、前記筐体内に配設されて前記シリカエアロゲルに所定エネルギー以上の荷電粒子の放射線が入射した際に該シリカエアロゲルから出射されるチェレンコフ光を反射する反射ミラーと、該反射ミラーで反射されたチェレンコフ光を測定するチェレンコフ光測定部と、前記反射ミラーに対して前記放射線導入窓と反対側に配置されて、前記放射線導入窓から直角方向に導入された放射線のみによって発光するように構成された第1トリガー用シンチレーションファイバーと、該第1トリガー用シンチレーションファイバーの発光を計測する第1トリガー測定部と、を備えたことを特徴とするものである。
【0011】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記反射ミラーと前記第1トリガー用シンチレーションファイバーとの間に放射線の通過を遮断する遮断板を設け、該遮断板に前記放射線導入窓から直角方向に導入された放射線のみを通過させる窓部を設けたことを特徴とするものである。
【0012】
(3)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記反射ミラーと放射線導入窓との間に設けられて、前記放射線導入窓から導入された放射線によって発光する第2トリガー用シンチレーションファイバーと、該第2トリガー用シンチレーションファイバーの発光を計測する第2トリガー測定部を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る放射性物質測定装置によれば、筐体の放射線導入窓を測定対象の表面に対向配置して走査することで、前記表面のストロンチウム濃度を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施の形態に係る放射性物質測定装置の構成を説明する説明図である。
【
図2】実施例に係る放射性物質測定装置の機器構成の説明図である。
【
図3】
図2に示した放射性物質測定装置の信号処理部の構成の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る放射性物質測定装置1は、
図1に示すように、筐体3と、筐体3内に配設されたシリカエアロゲル5と、反射ミラー7と、チェレンコフ光測定部9と、筐体3内に配置されて窓部11が形成された遮断板13と、第1トリガー用シンチレーションファイバー15と、第1トリガー測定部17と、第2トリガー用シンチレーションファイバー19と、第2トリガー測定部21とを備えている。
以下、各構成を詳細に説明する。
【0016】
<筐体>
筐体3は、
図1に示すように、例えば矩形の箱体からなり、その一つの面に測定対象に付着している放射性物質22から放射される放射線を導入する放射線導入窓23が形成されている。
筐体3の材質は、β線を通過させない材質製、例えばアルミニウム製のものを用いる。
【0017】
放射線導入窓23の形状や大きさは特に限定されるものではないが、一例を示すと正方形で50mm×50mmである。
チェレンコフ光測定部9、第1トリガー測定部17及び第2トリガー測定部21は、後述するように、PMT(光電子増倍管)によって構成されるが、PMTは、太陽光や照明などの光で機能してしまうため、これらの光でPMTが機能しないように筐体3内を暗室にする必要がある。
このため、放射線導入窓23には、遮光でき、かつβ線は通過できるような厚さのシート状部材25が貼り付けてある。これによって、筐体3内は遮光されて暗室になっている。
【0018】
放射線導入窓23に貼付するシート状部材25としては、JIS L1055 カーテンの遮光性試験方法による遮光率が99.99%以上(遮光1級)の生地で黒色のものが望ましい。
具体的には、ナイロンタフタ(ナイロン平織り)で、黒色生地0.2mmのもので、遮光1級のものが挙げられる。ここで、遮光1級とは(一社)日本インテリアファブリックス協会(NIF)による等級である。
【0019】
<シリカエアロゲル>
シリカエアロゲル5は、二酸化ケイ素(SiO2)微粒子が三次元的に数珠つなぎとなり、体積の95%以上が空隙から成る非結晶質の物質である。
シリカエアロゲル5は、屈折率が1.017以上1.042未満に調整されて筐体3内に配設されている。このように屈折率が調整されたシリカエアロゲル5に90Srの娘核である90Yから発生する高速β線(1.31MeV以上)が入射すると、チェレンコフ発光する。
【0020】
シリカエアロゲル5の有効面積は、放射線導入窓23と同一の50mm×50mmに設定されている。また、β線の側面からの入射を防止するためにシリカエアロゲル5の側面にはアルミニウム板27が設けられている。
【0021】
なお、シリカエアロゲル5の屈折率を上記のように設定した理由は137Cs、40Kなどの放射線物質が存在し、様々なエネルギーのβ線やγ線が飛び交う環境中で、90Srの放射能絶対値をリアルタイムで連続測定できるようにするためである。
発明者の検討によると、137Csが137Baの基底状態に直接崩壊する際のβ線の最大運動エネルギーは1.17MeVであり、このβ線は屈折率1.050以上の物体中でチェレンコフ発光が起きる。
また、40Kが崩壊する際のβ線の最大運動エネルギーは1.31MeVであり、このβ線は屈折率1.042以上の物体中でチェレンコフ発光が起きる。
一方、90Srはβ線を放出して90Yになり、さらにβ線を放出して安定な90Zrになるが、90Yの最大運動エネルギーは2.28MeVであり、このβ線は屈折率1.017以上でチェレンコフ発光する。
したがって、シリカエアロゲル5の屈折率を1.017以上1.042未満に調整することで、137Csや40Kに由来するβ線ではチェレンコフ発光せずに、90Srに由来するβ線によってチェレンコフ発光させることができる。
【0022】
<反射ミラー>
反射ミラー7は、筐体3内に配設されてシリカエアロゲル5に所定エネルギー以上の荷電粒子(β線とμ粒子等)の放射線が入射した際にシリカエアロゲル5から出射されるチェレンコフ光を、チェレンコフ光測定部9に向けて反射する。
【0023】
<チェレンコフ光測定部>
チェレンコフ光測定部9は、反射ミラー7で反射されたチェレンコフ光を測定するものであり、例えば数個~十数個の光子を測定できるような高感度の光検出器であるPMT(光電子増倍管)である。
【0024】
<第1トリガー用シンチレーションファイバー>
第1トリガー用シンチレーションファイバー15は、反射ミラー7に対して放射線導入窓23と反対側に配置されて、放射線導入窓23から直角方向に導入された放射線のみによって発光するように構成されている。
第1トリガー用シンチレーションファイバー15は、放射線の入射によって蛍光(シンチレーション光)を発光し、該発光を第1トリガー測定部17に導光する。
【0025】
本実施の形態では、第1トリガー用シンチレーションファイバー15が放射線導入窓23から直角方向に導入された放射線のみで発光するようにするための構成として、反射ミラー7と第1トリガー用シンチレーションファイバー15との間に放射線の通過を遮断する遮断板13を設け、遮断板13に放射線導入窓23から直角方向に導入された放射線のみを通過させる窓部11を設けている。
【0026】
遮断板13は、例えばβ線を通過させないアルミニウム製で、窓部11は、放射線導入窓23を下にした場合にその垂直上方に配置されている。そして、窓部11の有効面積は、放射線導入窓23と同一の50mm×50mmに設定されている。これによって、窓部11を通過する放射線は、放射線導入窓23から筐体3内に直角方向に導入されたもののみとなる。例えば、放射線導入窓23から斜めに入射して導入された放射線、例えば自然の環境下に存在する214Biに由来するβ線は、測定対象部位以外から筐体内に導入されるものであるが、このような放射線は、窓部11を通過できない。
【0027】
なお、第1トリガー用シンチレーションファイバー15が放射線導入窓23から直角方向に導入された放射線のみで発光するようにするための他の構成として、遮断板13を設けないで、第1トリガー用シンチレーションファイバー15の有効面積を、放射線導入窓23と同一の50mm×50mmに設定して、放射線導入窓23の直上に配置するようにしてもよい。
【0028】
<第1トリガー測定部>
第1トリガー測定部17は、第1トリガー用シンチレーションファイバー15によって導光された光を計測するものであり、チェレンコフ光測定部9と同様に、例えば数個~十数個の光子を測定できるような高感度の光検出器であるPMT(光電子増倍管)である。
【0029】
<第2トリガー用シンチレーションファイバー>
第2トリガー用シンチレーションファイバー19は、反射ミラー7と放射線導入窓23との間に、放射線導入窓23に近接して設けられて、放射線導入窓23から導入された放射線によって発光するものである。
【0030】
<第2トリガー測定部>
第2トリガー測定部21は、第2トリガー用シンチレーションファイバー19によって導光された光を計測するものであり、チェレンコフ光測定部9と同様に、例えば数個~十数個の光子を測定できるような高感度の光検出器であるPMT(光電子増倍管)である。
【0031】
次に、上記のように構成された本実施の形態の放射性物質測定装置1を用いて、例えば放射性物質によって汚染された鋼板における各部位のストロンチウム濃度を測定できる理由について、表1に基づいて説明する。
表1には、筐体3に導入される放射線の種類と、第1トリガー測定部17、チェレンコフ光測定部9及び第2トリガー測定部21の発光の有り(〇)、無し(×)が示されている。
【0032】
【0033】
測定に際しては、測定対象の鋼板に対して放射線導入窓23が対向配置されるように筐体3を保持し、鋼板の表面を走査する。
このような状態では、筐体3には、表1に示すように、放射線導入窓23を通じてβ線、γ線が導入され、また筐体の上方からはμ粒子が導入される。
【0034】
このとき、放射線導入窓23から90Srに由来する1.31MeV以上のβ線が導入された場合、第1トリガー用シンチレーションファイバー15及び第2トリガー用シンチレーションファイバー19にβ線が入射し、これらが蛍光を発生するので、第1トリガー測定部17及び第2トリガー測定部21が受光する。また、β線はシリカエアロゲル5に入射し、シリカエアロゲル5がチェレンコフ発光するので、チェレンコフ光測定部9も受光する。
このように、放射線導入窓23から90Srに由来するβ線が導入された場合、第1トリガー測定部17、第2トリガー測定部21及びチェレンコフ光測定部9の3つの測定部が受光する。
【0035】
また、放射線導入窓23から137Csや40Kに由来するβ線、γ線が導入された場合、これらの放射線が第1トリガー用シンチレーションファイバー15及び第2トリガー用シンチレーションファイバー19に入射し、これらが蛍光を発生するので、第1トリガー測定部17及び第2トリガー測定部21の2つの測定部は受光する。しかし、シリカエアロゲル5はチェレンコフ発光しないのでチェレンコフ光測定部9は受光しない。
【0036】
さらに、環境下にはμ粒子が上方から第1トリガー用シンチレーションファイバー15及び第2トリガー用シンチレーションファイバー19に入射するため、第1トリガー用シンチレーションファイバー15及び第2トリガー用シンチレーションファイバー19が蛍光を発生し、第1トリガー測定部17及び第2トリガー測定部21の2つの測定部は受光する。
しかし、μ粒子は
図1中の上方からシリカエアロゲル5に入射し、チェレンコフ光は下方に向かって発光するので反射ミラー7で反射されずチェレンコフ光測定部9に受光されない。
【0037】
また、環境下に存在する214Bi(ビスマス)に由来するβ線が放射線導入窓23から導入されることがあるが、このβ線は測定対象の鋼板から放出される90Srに由来するβ線のように放射線導入窓23から真っすぐ上方に向かって、すなわち放射線導入窓23から直角に入射するものでない。このため、仮に214Biに由来するβ線が放射線導入窓23から導入されたとしても、第1トリガー用シンチレーションファイバー15には入射しないので、第1トリガー測定部17が受光することはない。
よって、この場合には、第2トリガー測定部21とチェレンコフ光測定部9は受光するが、第1トリガー測定部17は受光しない。
【0038】
以上のように、第1トリガー測定部17、第2トリガー測定部21及びチェレンコフ光測定部9の3つの測定部が受光するのは、放射線導入窓23から90Srに由来するβ線が導入された場合のみである。よって、第1トリガー測定部17、第2トリガー測定部21及びチェレンコフ光測定部9の3つの測定部が受光した場合におけるチェレンコフ光を計測することで、90Srに由来するβ線を計測することができる。
β線を計測するための具体的な装置構成については、実施例においてその一例を説明する。
【0039】
なお、上記の実施の形態においては、第2トリガー用シンチレーションファイバー19及び第2トリガー測定部21を設けているが、本発明に係る放射性物質測定装置においては、第2トリガー用シンチレーションファイバー19及び第2トリガー測定部21は必須ではない。もっとも、第2トリガー用シンチレーションファイバー19及び第2トリガー測定部21を設けることで、第1トリガー測定部17及びチェレンコフ光測定部9で受光されたものが、放射線導入窓23から導入された放射線によるものであることをより確実に特定することができる。
【実施例】
【0040】
上記の実施の形態における実施例を
図2、
図3に示す。
図2は、筐体3内の装置構成を示し、
図3は
図2の装置構成によって得られる信号を処理する構成を示している。なお、
図2、
図3において、
図1と同一部分には同一の符号を付してある。
図2、
図3に基づいて本実施例の放射性物質測定装置について説明する。
筐体3は、アルミニウム製で、その大きさは、例えば500mm×300mm×150mmである。
放射線導入窓23の直上に、第2トリガー用シンチレーションファイバー19、屈折率1.04のシリカエアロゲル5、第1トリガー用シンチレーションファイバー15が配置されている。
放射線導入窓23の大きさは、50mm×50mmの正方形である。シリカエアロゲル5の大きさ(縦×横×厚み)は、50mm×50mm×20mmで、側面はアルミニウム板27で覆われている。
【0041】
第1トリガー用シンチレーションファイバー15の下方(反射ミラー7側)には、アルミニウム製の遮断板13が設けられ、遮断板13には放射線導入窓23と同じ大きさである50mm×50mmの窓部11が設けられている。
第1トリガー用シンチレーションファイバー15用のPMT(以下、第1PMT17)及び第2トリガー用シンチレーションファイバー19用のPMT(以下、第2PMT21)には、5/8インチの有効面積のヘッドオン型PMTを用い、チェレンコフ光用のPMT(以下、チェレンコフPMT9)には2インチの有効面積のヘッドオン型PMTを用いた。なお、第1PMT、第2PMT及びチェレンコフPMTは、実施の形態で説明した第1トリガー測定部17、第2トリガー測定部21及びチェレンコフ光測定部9にそれぞれ相当するものであり、同一の符号を付している。
そして、各PMTには高電圧素子29が接続され、高電圧電気をケーブルで供給しており、5/8インチのヘッドオン型PMTには-1000V印加し、2インチの有効面積のPMTには、-1500Vを印加した。なお、各高電圧素子29にはDC/DC変換機31が接続され、DC/DC変換機31は直流電源に接続されている。
【0042】
第1PMT17、第2PMT21及びチェレンコフPMT9には、それぞれ第1波高弁別器33、第2波高弁別器35及び第3波高弁別器37が接続されている。
波高弁別器(ディスクリミネーター)(第1波高弁別器33、第2高弁別器35及び第3高弁別器37)は、閾値を超えた信号パルスが入力されたときだけ、矩形波パルス(NIMパルス)を出力する。各PMTから出力される信号は、10ns程度で数10mV程度である。この生信号を、信号処理を行う波高弁別器で矩形波パルスにする。
(※NIM規格(Nuclear Instrument Modules standard):原子核実験の高速論理回路の規格)
第1波高弁別器33、第2波高弁別器35及び第3波高弁別器37は、第1PMT17、第2PMT21及びチェレンコフPMT9の生信号を入力し、それぞれ矩形波パルス(a,b,c)にして出力する。
【0043】
第1波高弁別器33及び第2波高弁別器35には第1同時計数器39が接続されている。同時計数回路(コインシデンス)は、同時にNIMパルスが入力された場合に、NIMパルスを出力するAND回路である。
第1同時計数器39は、2つの矩形波パルス(a,b)が、同時に入力されたときだけ、新たに矩形波パルス(d)を出力する。
また、第1同時計数器39及び第3波高弁別器37には第2同時計数器41が接続され、第2同時計数器41は、2つの矩形波パルス(d,c)が、同時に入力されたときだけ、新たに矩形波パルス(e)を出力する。
第2同時計数器41には計数器43が接続され計数器43にはパーソナルコンピューター(PC)45が接続されている。計数器43は入ってきたパルス信号の数を電気的に数え、その結果をPC45に出力し、PC45はそれを入力して記録する。
【0044】
上記のように構成された本実施例の放射性物質測定装置1の動作を説明する。
第1PMT17と第2PMT21の生信号を、それぞれ第1波高弁別器33、第2波高弁別器35に入力し、第1波高弁別器33、第2波高弁別器35から矩形波パルス(a,b)にして出力する。第1、第2波高弁別器33、35では、閾値電圧を-10mVとし、出力する信号の幅を20n秒に設定した。2つの矩形波パルス(a,b)が、同時に第1同時計数器39に入力されたときだけ、第1同時計数器39は新たに矩形波パルス(d)を出力する。そして、この矩形波パルス(d)を第2同時計数器41に入力する。
【0045】
また、チェレンコフ光用のチェレンコフPMT9の生信号を、第3波高弁別器37で-20mVを閾値電圧として、矩形波パルス(c)を、信号幅として30nsとして出力させ、第2同時計数器41に入力した。2つの矩形波パルス(c,d)が、同時に第2同時計数器41に入力されたときだけ、新たな矩形波パルス(e)を出力させた。
そして、この矩形波パルス(e)を計数器43に入力し、計数器43によって入ってきたパルス信号の数を電気的に数え、その結果をパーソナルコンピューター45に記録させ、該記録に基づいてPC45が90Srに由来する放射線量を演算する。
【符号の説明】
【0046】
1 放射性物質測定装置
3 筐体
5 シリカエアロゲル
7 反射ミラー
9 チェレンコフ光測定部(チェレンコフPMT)
11 窓部
13 遮断板
15 第1トリガー用シンチレーションファイバー
17 第1トリガー測定部(第1PMT)
19 第2トリガー用シンチレーションファイバー
21 第2トリガー測定部(第2PMT)
22 放射性物質
23 放射線導入窓
25 シート状部材
27 アルミニウム板
29 高電圧素子
31 DC/DC変換機
33 第1波高弁別器
35 第2波高弁別器
37 第3波高弁別器
39 第1同時計数器
41 第2同時計数器
43 計数器
45 パーソナルコンピューター(PC)