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  • 特許-被覆電線の処理方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】被覆電線の処理方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 15/00 20060101AFI20240112BHJP
   B09B 3/30 20220101ALI20240112BHJP
   B09B 3/40 20220101ALI20240112BHJP
   B09B 5/00 20060101ALI20240112BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20240112BHJP
   F27D 7/02 20060101ALI20240112BHJP
   F27D 7/06 20060101ALI20240112BHJP
   C22B 15/00 20060101ALN20240112BHJP
【FI】
H01B15/00
B09B3/30
B09B3/40
B09B5/00 Z
C22B7/00 E
F27D7/02 Z
F27D7/06 Z
C22B15/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019189875
(22)【出願日】2019-10-17
(65)【公開番号】P2020077625
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2022-09-30
(31)【優先権主張番号】P 2018197748
(32)【優先日】2018-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】高橋 憲史
(72)【発明者】
【氏名】村岡 秀
(72)【発明者】
【氏名】林 浩志
【審査官】岩井 一央
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-128899(JP,A)
【文献】特開2011-174175(JP,A)
【文献】特開平10-025523(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 15/00
B09B 3/30
B09B 3/40
B09B 5/00
C22B 7/00
F27D 7/02
F27D 7/06
C22B 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属線に樹脂が被覆されている被覆電線について、アルカリの共存下で、非燃焼雰囲気下で、被覆電線を180℃~270℃で低温加熱して可塑剤を含む被覆樹脂を脆化させ、脆化した被覆樹脂を破砕し、被覆樹脂と金属線を分離することを特徴とする被覆電線の処理方法。
【請求項2】
上記非燃焼雰囲気が過熱水蒸気雰囲気、窒素雰囲気、炭酸ガス雰囲気、これらの混合雰囲気、または大気下である請求項1に記載する被覆電線の処理方法。
【請求項3】
該被覆電線の低温加熱と破砕を同時に行う請求項1または請求項2に記載する被覆電線の処理方法。
【請求項4】
炉内に破砕媒体を有する加熱炉を用い、非燃焼雰囲気下で、該被覆電線を180℃~270℃に低温加熱して被覆樹脂の脆化と破砕を同時に行う請求項1~請求項3の何れかに記載する被覆電線の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆電線から金属線と被覆樹脂を効率よく分離する方法に関する。より詳しくは、被覆電線を、アルカリを共存させ、200℃前後の比較的温和な条件で熱処理することによって、被覆樹脂を脆化させて樹脂と金属線を容易に分離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被覆電線は、導電体である金属線が塩化ビニル樹脂などの絶縁性の樹脂被覆材で覆われた形状を有しており、自動車の電装部分、家電製品、通信機器、コンピュータなど、各種電気機器の基本的な構成部材として幅広く用いられている。このような各種電気機器の廃棄に伴って多量の廃被覆電線が生じている。被覆電線には導電体の金属線として銅線などが用いられているので、廃被覆電線から銅線など金属線を回収して再資源化している。しかし、被覆電線では、金属線の周囲に樹脂被覆材が密着して覆っているため、金属線を回収して再資源化するには、金属線と被覆樹脂を分離する必要がある。
【0003】
被覆電線の処理方法として、以下の方法が従来から知られている。
(イ) 被覆電線を細かく剪断して銅線から被覆樹脂を剥離し、次いで、裁断した極細銅線と被覆樹脂を湿式比重分離して銅線を回収する方法(特許文献1)。
(ロ) 被覆樹脂を燃焼し、この燃焼残渣を機械的に除去して銅線を回収する方法(特許文献2)。
(ハ) 被覆電線を非酸化性雰囲気下で加熱処理して被覆樹脂を炭化し、この炭化物を分離して銅線を回収する方法(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-089358号公報
【文献】特開昭61-143529号公報
【文献】特許05134719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の処理方法は、被覆電線を細かく剪断した後に金属線と被覆樹脂とを湿式比重分離している。この方法は、被覆電線を剪断する際の機械的な圧力によって金属線から被覆樹脂を物理的に剥離させる方法であるため、被覆電線を非常に細かく裁断する必要がある。また、金属線に被覆樹脂の細片が残留しやすいため、金属の品位が低下するという問題がある。さらに、金属線から被覆樹脂を確実に分離するには、微細に裁断する必要があるため、破砕機の刃を痛めやすく、また破砕時間が長くなるために処理効率に劣るという課題があった。
【0006】
特許文献2の処理方法は、被覆樹脂を燃焼して除去するので、被覆樹脂をほぼ完全に取り除くことができるが、酸化性雰囲気で加熱するため、導電体の金属の一部が酸化し、金属品位が低下する問題があった。また、被覆樹脂に含まれる塩化ビニル樹脂の熱分解によって腐食性の塩化水素ガスが発生するため、処理装置や配管が腐食しやすく、排出ガスの処理が煩雑になる問題があった。加えて、有害なダイオキシン類が生成するおそれがあった。
【0007】
特許文献3の処理方法は、ダイオキシンの発生を抑制するために、被覆電線を油中ないし非酸素条件下で加熱して被覆樹脂を炭化する。被覆電線の金属線は酸化が防止される。しかし、被覆電線を油中で加熱すると、金属線表面に油が付着して金属品位を低下させる問題があり、また非酸素条件下での加熱では被覆樹脂の炭化が不十分になる問題がある。また、特許文献3の処理方法では、油中にアルカリ性物質を共存させておくことによって、生成する塩化水素などを除去して残留塩素濃度を低減し、加熱時間を短縮することが示されているが、油中加熱における上記問題は解決されない。また、被覆電線を油中ないし非酸素条件下で加熱して被覆樹脂を炭化する場合は、工程が長くなり経済性を損なう場合が多い。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、従来の処理方法の上記問題を解決したものであり、被覆電線の剪断によって金属線と被覆樹脂を剥離するのではなく、また非燃焼雰囲気下で加熱処理することによって被覆樹脂を燃焼せず、従来の方法よりも効率よく短時間で金属線と被覆樹脂を分離する方法を提供する。
【0009】
本発明は以下に示す構成を有する被覆電線の処理方法である。
〔1〕金属線に樹脂が被覆されている被覆電線について、アルカリの共存下で、非燃焼雰囲気下で、被覆電線を180℃~270℃で低温加熱して可塑剤を含む被覆樹脂を脆化させ、脆化した被覆樹脂を破砕し、被覆樹脂と金属線を分離することを特徴とする被覆電線の処理方法。
〔2〕上記非燃焼雰囲気が過熱水蒸気雰囲気、窒素雰囲気、炭酸ガス雰囲気、これらの混合雰囲気、または大気下である上記[1]に記載する被覆電線の処理方法。
〔3〕該被覆電線の低温加熱と破砕を同時に行う上記[1]または上記[2]に記載する被覆電線の処理方法。
〔4〕炉内に破砕媒体を有する加熱炉を用い、非燃焼雰囲気下で、該被覆電線を180℃~270℃に低温加熱して被覆樹脂の脆化と破砕を同時に行う上記[1]~上記[3]の何れかに記載する被覆電線の処理方法。
【0010】
〔具体的な説明〕
以下、本発明の処理方法を具体的に説明する。
本発明の処理方法は、金属線に樹脂が被覆されている被覆電線について、アルカリの共存下で、非燃焼雰囲気下で、被覆電線を180℃~270℃で低温加熱して可塑剤を含む被覆樹脂を脆化させ、脆化した被覆樹脂を破砕し、被覆樹脂と金属線を分離することを特徴とする被覆電線の処理方法である。
本発明の処理方法の概略を図1に示す。
【0011】
一般に、被覆電線は銅線などの金属線に塩化ビニル樹脂やポリエチレン樹脂などの絶縁性樹脂が被覆して形成されている。本発明の処理方法は一般の被覆電線について広く適用することができる。被覆電線は粗破砕して処理すると良い。
【0012】
本発明の処理方法は、アルカリを共存させて被覆電線を非燃焼雰囲気下で低温加熱することによって、被覆樹脂を脆化させる。アルカリを共存させることによって被覆樹脂を効率よく脆化させることができる。これは、アルカリによって被覆樹脂に含まれる可塑剤が分解して樹脂の脆化が促進されると考えられる。また、アルカリは被覆樹脂である塩化ビニル樹脂などの熱分解により発生した塩化水素(HCl)を捕捉し、排ガスに含まれる塩化水素の量を大幅に低減することができる。さらに、アルカリは樹脂が変質して生成するタールを物理的に吸着するため、タールによる配管閉塞や処理物の塊状化を抑制することができる。
【0013】
アルカリは、例えば、アルカリ土類金属の水酸化物、酸化物、または炭酸塩、あるいは、これらの混合物を用いることができる。具体的には、水酸化カルシウム(消石灰)、酸化カルシウム(生石灰)、炭酸カルシウムなどを用いることができる。また、都市ゴミの焼却飛灰、産廃を焼却した煤塵、セメント工場の塩素バイパスダストを脱塩洗浄したものなどを利用することができ、また、これらの混合物を用いることができる。アルカリは粉末でも良く、懸濁液あるいは水溶液でも良い。アルカリの添加量は被覆電線の約1/5重量~約2/3重量であればよい。
【0014】
本発明の処理方法は、被覆樹脂を燃焼させずに脆化させる方法であり、そのため被覆電線を、アルカリの共存下で、非燃焼雰囲気下で低温加熱する。非燃焼雰囲気は過熱水蒸気雰囲気、窒素雰囲気、炭酸ガス雰囲気、これらの混合雰囲気が一般的であり、これらの雰囲気は非酸化性雰囲気であるので金属線が酸化され難く好ましい。被覆樹脂が加熱温度で燃焼しなければ大気下でもよい。なお、樹脂脆化には過熱水蒸気が最も効果的であると共に過熱水蒸気は比熱が大きく温度管理が容易であるため好ましい。
【0015】
本発明の処理方法において、低温加熱の温度は180℃以上~270℃以下が好ましく、200℃~250℃の温度がより好ましい。加熱温度が180℃未満では被覆樹脂の脆化が十分に進まない。一方、加熱温度が270℃を超えると、被覆樹脂の熱分解ガスの発生量が多くなるので排ガス処理が煩雑になり、また運転コストが増大するので好ましくない。上記温度範囲の低温加熱であるので、塩化ビニル樹脂などは分解しない。また金属の酸化は殆ど進行しない。さらに、加熱温度が低いので運転コストを削減できる。熱源には工場の廃熱を利用することができる。
【0016】
加熱装置として、バッチ式の定置炉、あるいはロータリーキルンのような連続式の加熱炉などを用いることができる。加熱時間は、例えば、処理量(被覆電線+アルカリ)2kgについて50分~90分程度でよい。
【0017】
加熱した処理物を室温まで冷却して破砕する。被覆樹脂は熱処理後の冷却によって硬化しているので容易に破砕することができる。破砕方法は、剪断破砕、衝撃破砕、またはその両方を行うと良い。破砕機として、せん断式破砕機(一軸式破砕機、二軸式破砕機、カッターミル)、衝撃式破砕機(ハンマークラッシャ、ボールミル、ロッドミル)などを用いることができる。この破砕処理によって、脆化した樹脂が細かく砕けるので金属線と容易に分離することができる。
【0018】
破砕されたものは細長い金属線と細かな樹脂粒なので、これを篩分けや比重選別などの物理選別によって、容易に金属線と樹脂分に分離することができる。比重選別機としては、乾式比重選別機(風力選別機、エアテーブル)などや湿式比重選別機(薄流選別装置、浮沈選別装置など)などを用いることができる。
【0019】
本発明の処理方法において、被覆電線の低温加熱(樹脂の脆化)と破砕を同時に行っても良い。例えば、炉内に破砕媒体を有する加熱炉を用い、非燃焼雰囲気下で、180℃~270℃に低温加熱し、機械的な衝撃を加えながら加熱することによって、被覆樹脂の脆化と破砕が同時に進むので、短時間に低コストで処理を行うことができる。
【0020】
衝撃を加える手段は、例えば、ロータリーキルンのような加熱炉の炉内にボールやロッド等の破砕媒体を入れれば良い。破砕媒体の材質はセラミック、鉄やSUS等の金属を用いればよい。このような破砕媒体は被覆電線への熱伝導を促すので、効率よく被覆樹脂の脆化を進めることができる。また、ロータリーキルンのレトルト内にリフターや攪拌羽根を設ければ、破砕媒体がより流動して破砕が促進するのでさらに好ましい。なお、被覆電線がロータリーキルンのレトルトと共に回転され、自重による落下を繰り返して破砕されるときは、落下による衝撃が加わるので炉内に破砕媒体を入れなくてもよい。
【0021】
図2に示すように、加熱と破砕を同時に行った破砕物を炉内から取り出して冷却し、篩分などの一次選別を行ってアルカリ残留物を取り除いた後に、さらに二次破砕を行い、この二次破砕物を比重選別などの二次選別を行って樹脂分と金属分に分別してもよい。このような二次破砕および二次選別を行うことによって、分別効果を高めることができる。また、既に加熱と破砕を同時に行っているので、二次破砕を短時間に行うことができる。破砕方法は、剪断破砕、衝撃破砕、またはその両方を行っても良い。破砕機として、せん断式破砕機(一軸式破砕機、二軸式破砕機、カッターミル)、衝撃式破砕機(ハンマークラッシャ、インパクトクラッシャ)などを用いることができる。
【0022】
本発明の処理方法は、アルカリ共存下での低温加熱によって、被覆樹脂を燃焼させずにアルカリによって樹脂の脆化を促進するので、排ガスが発生せず、または排ガス量が大幅に少ないので、後段の排ガス処理が容易になる。具体的には、本発明の処理方法によれば、加熱処理後の樹脂の揮発率を、例えば10%以下に抑制することができる。
樹脂の揮発率(X)は、次式[1]に示すように、加熱処理前の被覆電線の樹脂重量(A)に対する、加熱処理後に回収した樹脂重量(B)と処理前の樹脂重量(A)との差(A-B)の重量比である。
X={(A-B)/A}×100% ・・・ [1]
【0023】
なお、低温加熱では被覆電線の金属は揮発しないので、被覆電線の重量減少率によって樹脂の揮発率を把握することができる。具体的には、被覆電線の重量減少率(Z)は、次式[2]に示すように、加熱処理前の被覆電線の重量(C)に対する、加熱処理後に回収した加熱処理物の重量(D)と処理前の重量(C)との差(C-D)の重量比であり、これは樹脂の揮発率(X)に等しい。
Z={(C-D)/C}×100% ・・・ [2]
【0024】
本発明の処理方法によれば、例えば、樹脂剥離率を80%以上に高めることができる。樹脂剥離率(Y)は、次式[3]に示すように、加熱処理後の被覆電線の樹脂重量(L)に対する、物理選別後に回収した樹脂重量(M)の重量比である。樹脂の十分な剥離効果を得るには、樹脂剥離率は80%以上が好ましく、85%以上がより好ましい。
Y=(M/L)×100% ・・・ [3]
【発明の効果】
【0025】
本発明の処理方法は、アルカリを共存させて加熱処理することによって被覆樹脂を効率よく脆化することができ、腐食性の塩化水素ガスやダイオキシン類の発生を抑制することができる。
また、本発明の処理方法は非燃焼雰囲気での低温加熱処理であるので、被覆電線の金属線として用いられている銅などの金属を酸化せずに回収することができ、回収金属の品位を高めることができる。
さらに、本発明の処理方法は、低温加熱処理であるので、発生するガス量が少なく、排ガス処理が容易であり、燃料コストを低減することができる。また、回収された被覆樹脂は燃料代替等に有効活用することができる。
また、物理的衝撃を加えながら低温加熱する方法では、より短時間に低コストで処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の処理方法の概略工程図。
図2】加熱と破砕を同時に行う本発明の処理方法の概略工程図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
〔実施例1〕
被覆電線(銅線に塩化ビニル樹脂が被覆されている)を二軸破砕機に入れて約5cm以下に粗破砕し、粗破砕した被覆電線に消石灰[Ca(OH)]を加え、加熱炉に入れ、過熱水蒸気雰囲気下で、180℃~250℃に60分間加熱した。加熱後、炉から取りだして室温まで冷却した後に、ボールミルに入れて破砕し、この破砕物を篩分けおよび比重選別して銅線と樹脂粒に分けた。この結果を表1に示した。表中の樹脂剥離率(Y)は上記式[3]によって得られた値である。また、樹脂の揮発率(X)は上記式[1]によって得られた値である。
【0028】
表1のNo.1~6に示すように、消石灰を加えた被覆電線を180℃~250℃に加熱処理すると、樹脂剥離率は81%~98%であり、被覆樹脂の大部分を剥離することができ、また樹脂の揮発率は10%以下であって、熱分解ガス発生による樹脂の損失が少ない。樹脂の十分な剥離効果を得るには、樹脂剥離率は80%以上が好ましく、樹脂の熱分解ガス量を抑えるには樹脂の揮発率10%以下が好ましい。
また、表1のNo.4~5に示すように、被覆電線に対して1/5重量~2/3重量の消石灰を加えることによって、被覆樹脂を十分に分離することができる。また、No.6に示すように、窒素雰囲気下で加熱した場合においても、被覆樹脂を十分に分離することができる。
一方、表1のNo.7に示すように、加熱温度が150℃では、樹脂剥離率が12%と非常に低く、樹脂が十分に剥離しない。また、No.8に示すように加熱温度が300℃では、樹脂の揮発率が15%であって、熱分解ガスの発生量が多いので樹脂の損失が多い。
一方、No.9に示すように、消石灰を加えずに過熱水蒸気下で加熱したものは、樹脂剥離率が53%であり、樹脂が十分に剥離しない。
このように、No.1~6の樹脂剥離率は、No.9の樹脂剥離率の約1.5倍~約1.8倍であり、低温加熱において、アルカリを共存させることによって、被覆樹脂の剥離を大幅に促進することができる。
【0029】
【表1】
【0030】
〔実施例2〕
被覆電線として、自動車ワイヤーハーネス(以下、WH)を二軸破砕機で約5cm以下に粗破砕したものを使用した。
WH1.5kg、消石灰[Ca(OH)]0.5kg、および破砕媒体のSUSボール(φ25mm、60個)をバッチ式ロータリーキルンに投入した後に、加熱温度220℃、過熱水蒸気雰囲気下で加熱処理を行った。所定時間(60min)加熱した後、80℃以下まで冷却し、加熱処理物を取り出した。加熱処理物は目開き0.5mmの篩を用いて一次選別を行い、加熱処理物(篩上)と粉体(主に消石灰:篩下)とに分離した。
加熱処理物(篩上)を、網目8mmのスクリーンをセットしたカッターミルで破砕した。この破砕処理物を風力選別および篩分け(目開き:W0.8mm×L10mm)をして銅線と樹脂粒に分けた。
この結果を表2に示した(試料11)。表中の重量減少率(Z)は上記式[2]によって得られた値である。また樹脂剥離率(Y)は上記式[3]によって得られた値である。
【0031】
表2の試料12は、加熱雰囲気を窒素ガスとした以外は試料11と同様にして加熱処理、破砕処理、および物理選別を行った。その結果を表2に示す。
表2の試料13は、加熱雰囲気を大気下とした以外は試料11と同様にして過熱処理、破砕処理、および物理選別を行った。その結果を表2に示す。
表2の試料14は、消石灰量を表2に示す添加量とした以外は試料11と同様にして加熱処理、破砕処理、および物理選別を行った。その結果を表2に示す。
表2の試料15~試料16は、加熱時間を表2に示す時間にした以外は試料11と同様にして加熱処理、破砕処理、および物理選別を行った。その結果を表2に示す。
表2の試料17~試料19は、加熱温度を表2に示す温度にした以外は試料11と同様にして加熱処理、破砕処理、および物理選別を行った。その結果を表2に示す。
表2の試料20は、アルカリ粉末として炭酸カルシウム(CaCO)を用いた以外は試料11と同様にして加熱処理、破砕処理、および物理選別を行った。その結果を表2に示す。
【0032】
表2の試料B1、試料B2は、加熱温度を表2に示す温度にした以外は試料11と同様にして加熱処理、破砕処理、および物理選別を行った。その結果を表2に示す。
表2の試料B3は、アルカリを添加しないこと以外は試料11と同様にして加熱処理、破砕処理、および物理選別を行った。その結果を表2に示す。なお、試料B3は軟化溶融した樹脂がロータリーキルンの内壁に固着したため、加熱処理物を回収することが困難であった。
【0033】
試料11~試料20に示すように、被覆電線をアルカリ(消石灰や炭酸カルシウム)共存下で200℃~250℃に加熱処理すると、樹脂剥離率は93.4%~99.5%であり、被覆樹脂の大部分を剥離することができる。また、重量減少率は6.7%以下であって、熱分解ガスによる樹脂の損失が殆ど無い。
また、試料11~13に示すように、過熱水蒸気、窒素雰囲気、大気雰囲気のいずれにおいても、被覆樹脂を十分に分離することができる。さらに、試料11~14に示すように、被覆電線に対して1/5重量~1/3重量の消石灰を加えることによって、被覆樹脂を十分に分離することができる。試料11~試料19に示すように、加熱温度200℃~250℃で30~120分加熱することによって被覆樹脂を十分に分離することができる。また、試料20に示すように、アルカリとして炭酸カルシウムを用いた場合でも被覆樹脂をより十分に分離することができる。
【0034】
一方、試料B1に示すように、加熱温度が170℃では、樹脂剥離率が78.1%と低く、樹脂が十分に剥離しない。また、試料B2に示すように加熱温度が300℃では、重量減少率が13.9%であって、熱分解ガスの発生量が多いので樹脂の損失が多い。さらに、試料B3に示すように、アルカリを添加せずに被覆電線を加熱すると、樹脂剥離率が78.4%と低く、樹脂が十分に剥離しない。また軟化溶融した樹脂がロータリーキルンの内壁に固着する問題が生じる。
このように、アルカリの共存下で200℃~250℃の温度で、物理的衝撃を加えながら加熱することによって被覆樹脂の剥離を大幅に促進することができる。
【0035】
〔比較例1〕
試料11と同様のWHを加熱処理せずに、網目8mmのスクリーンをセットしたカッターミルで破砕した。この破砕処理物を風力選別および篩分け(目開き:W0.8mm×L10mm)をして銅線と樹脂粒に分けた。その結果、樹脂剥離率は79.8%であり、樹脂が十分に剥離しなかった。
【0036】
【表2】
図1
図2