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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】車両サイドドア構造
(51)【国際特許分類】
   B60J 5/04 20060101AFI20240112BHJP
   E05D 15/42 20060101ALI20240112BHJP
   E05C 17/32 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
B60J5/04 Z
E05D15/42
E05C17/32
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020089761
(22)【出願日】2020-05-22
(65)【公開番号】P2021183459
(43)【公開日】2021-12-02
【審査請求日】2023-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】大角 拓矢
【審査官】池田 晃一
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-341528(JP,A)
【文献】実開昭60-061356(JP,U)
【文献】特開2002-103970(JP,A)
【文献】実開昭62-199476(JP,U)
【文献】実開昭54-144619(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 5/00 ; 5/04
E05C 17/00 - 17/64
E05D 1/00 - 15/58
E05F 1/00 - 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンク部材により回動可能に車体側部に連結されるドアパネルを有し、前記リンク部材は、前側リンク部材と、該前側リンク部材の車両後方側に配置される後側リンク部材とを有している、車両サイドドア構造において、
前記前側リンク部材は、前記ドアパネルの車両内側における車両前後方向の中間部に連結される前側連結部を有し、
前記後側リンク部材は、前記ドアパネルの車両内側で、前記前側連結部とは車幅方向で異なる位置で、前記前側連結部の車両後方側に連結される後側連結部を有し、
前記後側連結部と前記前側連結部との車幅方向の相対距離は、前記ドアパネルの全開状態の方が閉状態よりも小さく設定され、
前記後側連結部は、前記前側連結部に対して、車幅方向内側に移動可能に構成されていることを特徴とする、車両サイドドア構造。
【請求項2】
前記後側リンク部材は、車体側部に設けられた後側回転軸部と、該後側回転軸部と前記後側連結部とを繋ぐ後側本体部とを、有し、
前記後側回転軸部は、車幅方向に移動可能に車体側部に取り付けられており、
前記後側回転軸部は、前記サイドドアが開く時に、車幅方向内側に移動するように構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の車両サイドドア構造。
【請求項3】
前記前側リンク部材は、車体側部に設けられた前側回転軸部と、該前側回転軸部と前記前側連結部とを繋ぐ前側本体部とを、有し、
前記後側回転軸部には、前記前側回転軸部に設けられた前側噛合部に噛み合う後側噛合部が設けられ、
前記リンク部材は、前記サイドドアが開くときに、前記後側噛合部が前記前側噛合部に噛み合いながら、車幅方向内側に移動するように構成されていることを特徴とする、請求項2に記載の車両サイドドア構造。
【請求項4】
前記前側回転軸部の外周の一部には、径方向外側に膨出し、周方向に沿って延びる膨出部が設けられ、
前記後側回転軸部には、前記膨出部に向かって突出する突出部が設けられ、該突出部の端部には、前記膨出部の外面に対応する傾斜面が設けられており、
前記傾斜面が前記膨出部の外面に当接しているときは、前記後側回転軸部の車幅方向の移動が規制され、
前記傾斜面が前記膨出部から離間しているときは、前記後側回転軸部が車幅方向内側に移動するように構成されていることを特徴とする、請求項3に記載の車両サイドドア構造。
【請求項5】
前記前側リンク部材と、車両前後方向に延びる基準線とにより、前記前側リンク部材の車両前方側に形成される角度が、90度以上になったときに、前記後側連結部と前記前側連結部との車幅方向の相対距離が変化するように構成されていることを特徴とする、請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の車両サイドドア構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両サイドドア構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車体側部に設けられたドア開口部を開閉可能に、車体側部に取り付けられたサイドドアには、例えば、特許文献1に開示されているように、サイドドアが車幅方向外側に平行に迫り出し、前後方向に移動することによって開閉する構造が知られている。このようなサイドドア構造は、車体から離間して空中を滑らかに平行移動することから、グライドスライディングドア構造と呼ばれる。
【0003】
この例のサイドドアのドアパネルは、リンク部材により回動可能に車体側部に連結されている。リンク部材は、車両上下方向に並んで配置されるアッパリンク及びロアリンクを有している。アッパリンクのドア側の軸支部は、車体側部に設けられたドア開口部の後端の車両後方側に設けられ、ロアリンクのドア側の軸支部は、ドア開口部の下部に設けられている。アッパリンクのドア側の軸支部は、ロアリンクのドア側の軸支部よりも車両後方側に配置されている。このように配置することにより、アッパリンクの車両室内での露出量を少なくし、且つ、ドアパネルの支持剛性を確保している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-341528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
グライドスライディングドア構造を有するサイドドアにおいて、当該サイドドアが開いているときに、乗員が乗降する乗降口の幅を拡大しようとすると、ドアパネルが車体側部から車幅方向外側に迫り出す量が大きくなる。ここで、乗降口の幅とは、車体側部に設けられたドア開口部の前縁部と、ドア開時のドアパネルの前端との距離である。
【0006】
特許文献1に開示された構造では、リンク部材が大きく露出することを防止しようとするために、乗降口が車両後方側にシフトしているが、ドア全開時の乗降口の幅を拡大する上では、上記例の構造には改善の余地があった。
【0007】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、グライドスライディングドア構造を有するサイドドアにおいて、ドア全開時の乗降口の幅を拡大することができる車両サイドドア構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係る車両サイドドア構造は、リンク部材により回動可能に車体側部に連結されるドアパネルを有し、前記リンク部材は、前側リンク部材と、該前側リンク部材の車両後方側に配置される後側リンク部材とを有している。当該車両サイドドア構造において、前記前側リンク部材は、前記ドアパネルの車両内側における車両前後方向の中間部に連結される前側連結部を有し、前記後側リンク部材は、前記ドアパネルの車両内側で、前記前側連結部とは車幅方向で異なる位置で、前記前側連結部の車両後方側に連結される後側連結部を有し、前記後側連結部と前記前側連結部との車幅方向の相対距離は、前記ドアパネルの全開状態の方が閉状態よりも小さく設定され、前記後側連結部は、前記前側連結部に対して、車幅方向内側に移動可能に構成されている
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、グライドスライディングドア構造を有するサイドドアにおいて、ドア全開時の乗降口の幅を拡大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係る車両サイドドア構造の一実施形態の上面図で、(A)はサイドドアが開いている途中の状態を示し、(B)は全開状態を示している。
図2図1のサイドドアの閉状態を、車両内側から見た斜視図である。
図3図1のサイドドアの閉状態を、車両外側から見た斜視図である。
図4図2のリンク部材等の動作を示す機構図である。
図5図1の前側回転軸部及び後側回転軸部を模式的に示す上面図である。
図6図5の前側噛合部と後側噛合部とが噛み合った状態を模式的に示す上面図である。
図7図5の前側本体部が車両前後方向に延びているときの下面図である。
図8図7の前側回転軸部及び後側回転軸部等を車幅方向外側から見た側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る車両の車両サイドドア構造の一実施形態について、図面(図1図8)を参照しながら説明する。なお、図において、矢印Fr方向は車両前後方向における前方を示す。実施形態の説明における「前部(前端)及び後部(後端)」は、車両前後方向における前部及び後部に対応する。また、矢印Inは、車幅方向内側を示している。
【0012】
本実施形態のサイドドア1は、サイドドア1が車幅方向外側に平行に迫り出し、前後方向に移動することによって開閉する、いわゆる、グライドスライディングドア構造を有するサイドドア1である。サイドドア1は、車体側部に設けられたドア開口部35を開閉するように、リンク部材10,20により回動可能に車体側部に連結されている。
【0013】
サイドドア1は、インナパネル(ドアパネル)2と、アウタパネル(図示せず)と、前側リンク部材10と、後側リンク部材20と、を有している。インナパネル2及びアウタパネルは、サイドドア1の本体を構成する部品で、インナパネル2は、アウタパネルの車幅方向内側に接合されている。
【0014】
前側リンク部材10は、図1及び図2に示すように、車両上下方向に間隔を空けて並んで配置された長尺の前上側本体部(前側本体部11a及び前下側本体部(前側本体部)11bと、これらに対応する前上側連結部(前側連結部)12a及び前下側連結部(前側連結部)12bと、前側回転軸部13と、を有している。後側リンク部材20は、前側リンク部材10の車両後方側に配置されており、長尺の後側本体部21と、後側連結部22と、後側回転軸部23と、を有している。
【0015】
前上側本体部11a及び前下側本体部11bは、略水平に延びる長尺の部材で、前側リンク部材10のリンクアームを構成する部分である。前上側連結部12a及び前下側連結部12bは、インナパネル2の車両内側における車両前後方向の中間部に、車両上下方向に互いに間隔を空けた状態で取り付けられている。前上側連結部12aには、前上側本体部11aの一方端が回動可能に連結され、前下側連結部12bには、前下側本体部11bの一方端が回動可能に連結されている。前上側連結部12a及び前下側連結部12bには、車両上下方向に延びる回転軸が設けられおり、前上側本体部11a及び前下側本体部11bは、回転軸の周りを水平に回動するように構成されている。
【0016】
前側回転軸部13は、図2及び図3に概略的に示すように、車体取付部30や車体側取付ブラケット36を介して車体側部のクォータインナパネル31に取り付けられている。なお、図2等では、リンク部材10,20の取付けの構造の詳細は省略しているが、図7に示す車体取付部30によってリンク部材10,20はクォータパネル31等に取り付けられている。クォータインナパネル31は、ドア開口部35の車両後方側に配置されるパネル部材で、車体側部を構成している。クォータインナパネル31の下部には、ホイルハウスパネル32が設けられている。前側回転軸部13は、車両上下方向に延びる前側回転軸14を有し、前側本体部11の他方端は、前側回転軸14の周りを水平に回動可能に取り付けられている。前側回転軸部13の詳細は、後で説明する。
【0017】
後側本体部21は、前上側本体部11a及び前下側本体部11bと同様に、略水平に延びる長尺の部材で、後側リンク部材20のリンクアームを構成する部分である。後側連結部22は、インナパネル2の車両内側で、前上側連結部12a及び前下側連結部12bとは車幅方向で異なる位置で、前上側連結部12a及び前下側連結部12bの車両後方側に取り付けられている。本実施形態では、ドア閉状態で、後側連結部22は、前上側連結部12a及び前下側連結部12bよりも車幅方向外側に配置されている。後側連結部22には、後側本体部21の一方端が回動可能に連結されている。後側連結部22には、前上側連結部12a及び前下側連結部12bと同様に、車両上下方向に延びる回転軸が設けられおり、後側本体部21は、回転軸の回りを水平に回動するように構成されている。
【0018】
後側回転軸部23は、図2及び図3に示すように、車体側部のクォータインナパネル31に取り付けられている。後側回転軸部23及び前側回転軸部13は、車両前後方向に並んで配置されている。後側回転軸部23は、前側回転軸部13と同様に、車両上下方向に延びる後側回転軸24を有し、後側本体部21の他方端は、後側回転軸24の周りを水平に回動可能に取り付けられている。本実施形態の後側回転軸部23は、車体に対して、詳細には車体側部を構成するクォータインナパネル31に対して、車幅方向に平行移動可能に構成されている。後側回転軸部23の詳細は、後で説明する。
【0019】
サイドドア1を開閉するとき、前側回転軸部13の前側回転軸14を回転中心として前前上側本体部11a及び前下側本体部11bが回動し、且つ、後側回転軸部23の後側回転軸24を回転中心として後側本体部21が回動することによって、サイドドア1は、車体側部から車幅方向外側に迫り出し、さらに、車両後方に移動する。このとき、サイドドア1に取り付けられた前上側連結部12a及び前下側連結部12b並びに後側連結部22においても、それぞれに設けられえた図示しない回転軸の周りを、前上側本体部11a及び前下側本体部11b並びに後側本体部21が回動する。これにより、サイドドア1は、閉状態から開状態になる。
【0020】
図2に示すように、車体取付部30は、車両前後方向に延びる部材で、車体取付部30の前部は、後側回転軸部23に接合され、車体取付部30の後部は、車体側取付ブラケット36に接合されている。車体側取付ブラケット36は、ドア開口部35の車両後方に接合されている。この例では、車体側取付ブラケット36の上側の後部は、クォータインナパネル31の前部に接合され、下側の後部は、ホイルハウスパネル32の上部に接合されている。
【0021】
図4では、閉状態の前上側本体部11a及び後側本体部21は、ほぼ車両前後方向に延びている。詳細には、前上側本体部11aは、車両前方に向かうに従い車幅方向外側に角度α1で傾斜しており、後側本体部21は、車両前方に向かうに従い車幅方向外側に角度β1で傾斜している。全開状態では、前上側本体部11aは、閉状態に対して、角度α2をなし、後側本体部は、全閉状態に対して角度β2をなしている。図4では示されていないが、前下側本体部11bについても同様の角度をなしている。
【0022】
本実施形態では、全閉状態の後側本体部21に対して、後側本体部21が角度β3をなす状態から角度β2に至るまでの間に、後側回転軸部23及び後側連結部22は、車幅方向内側に図4における距離L3だけ平行移動する。
【0023】
本実施形態では、サイドドア1が閉状態から開状態になる間に、後側回転軸部23が車幅方向内側に平行移動する。サイドドア1は、閉状態では、上面視で車両前後方向に延びている。これに対して、開状態、特に全開状態では、サイドドア1は、上面視で車両前方に向かうに従い車幅方向外側に傾斜している。
【0024】
すなわち、本実施形態では、後側連結部22と、前上側連結部12a及び前下側連結部12bとの車幅方向の相対距離は、ドアパネルの全開時の方が閉時よりも小さい。図4の機構図に示すように、閉時における前上側連結部12a及び前下側連結部12bと、後側連結部22の車幅方向の相対距離は、L1で示される。また、全開時におる当該相対距離は、L2で示される。本実施形態では、L2は、L1よりも小さく設定されている。
【0025】
上記のように前上側連結部12a及び前下側連結部12bと、後側連結部22との車幅方向の相対距離が変化することにより、サイドドア1が傾斜し、その結果、サイドドア1の全開状態における乗降口の幅を拡大できる。ここで、乗降口の幅は、ドア開口部35の前部に位置するセンターピラー33と、サイドドア1の前端との水平方向距離であり、図1(B)ののXで示す距離である。図1(A)では、Xを省略しているが、開動作の途中の状態であるため図1(B)に比べて、乗降口の幅は小さい。
【0026】
本実施形態では、上記したように、サイドドア1が閉状態から全開状態になる開動作時に、後側連結部22は、前上側連結部12a及び前下側連結部12bに対して、車幅方向内側に平行移動可能に構成されている。後側連結部22が車幅方向内側へ移動するため、全開状態において車幅方向の外側へサイドドア1が迫り出す量を抑制することが可能となり、乗降口の幅Xを効果的に拡大することができる。迫り出し量を抑制することができるため、車両の隣に駐車された別の車両等の障害物に、サイドドア1が接触することを抑制することができる。
【0027】
また、本実施形態の後側回転軸部23は、上記したように車幅方向に平行移動可能にクォータインナパネル(車体側部)31に取り付けられており、後側回転軸部23は、サイドドア1の開動作中に、車幅方向内側に移動するように構成されている。すなわち、この例では、サイドドア1の開動作時において、後側連結部22の車幅方向内側への移動に伴い、後側本体部21が回動しながら車幅方向内側に移動し、結果的に、後側連結部22が後側本体部21を介して後側回転軸部23を車幅方向内側に押し入れる。
【0028】
後側本体部21は剛体であるため、後側連結部22から後側本体部21の長手方向に沿った方向へ荷重が伝達されやすい。そのため、後側回転軸部23は、伝達された車幅方向内側に押される力によって、車幅方向内側に効率よく移動できる。
【0029】
本実施形態の前側回転軸部13及び後側回転軸部23は、車両前後方向に並んで配置され、前側回転軸部13には前側噛合部15が設けられ、後側回転軸部23には後側噛合部25が設けられている。前側噛合部15は、前側回転軸部13の後部に設けられ、後側噛合部25は後側回転軸部23の前部に設けられ、噛合い状態の前側噛合部15及び後側噛合部25は、対向している。本実施形態では、後側噛合部25は、サイドドア1の開動作中に、前記前側噛合部15に噛み合いながら車幅方向内側に移動するように構成されている。この例では、図4に示すように、閉状態の後側本体部21に対して、後側本体部21が角度β3をなす状態のときに、前側噛合部15及び後側噛合部25が噛み合い始めて、後側回転軸部23及び後側連結部22は、車幅方向内側に図4における距離L3だけ平行移動する。
【0030】
本実施形態の前側噛合部15及び後側噛合部25は、いわゆるラックアンドピニオン構造を有している。図5及び図6に示すように、前側噛合部15は、前側回転軸部13の前側回転軸14の外周に設けられた小口径の円形歯車(ピニオン)を有している。この例では、前側回転軸14の回転に伴い、ピニオンは、前側回転軸14と同軸で回転する。後側噛合部25は、後側回転軸部23の後部に設けられたラックを有している。この例のラックは、車両前方を臨み、車幅方向に延びている。
【0031】
サイドドア1の開動作時に、前側回転軸部13の前側回転軸14及び後側回転軸部23の後側回転軸24が回転し、前上側本体部11a及び前下側本体部11bと、後側本体部21とが回動する。前側回転軸14の回転に伴い、前側噛合部15のピニオンが前側回転軸14の外周に沿って周方向に移動する。図5では、前側噛合部15は、反時計回りに移動する。前側噛合部15が周方向に移動している途中(図4における角度β3の位置)で、前側噛合部15のピニオンは、後側噛合部25のラックに噛み合う。
【0032】
図6に示すように、前側噛合部15と後側噛合部25が噛み合い始めた状態から、さらに、前側回転軸14及び後側回転軸24が回転し、前上側本体部11a及び前下側本体部11bと、後側本体部21とが回動すると、前側噛合部15の周方向に移動に伴い、前側噛合部15が車幅方向内側に押されて、その結果、後側回転軸部23が車幅方向内側に移動する。
【0033】
前側回転軸部13と後側回転軸部23が噛合部で噛み合いながら動作することにより、サイドドア1の開動作時に、前側回転軸部13の回転運動は、後側回転軸部23の直線運動に変換される。その結果、前側噛合部15から後側噛合部25に作用する力が後側回転軸部23に伝達され、当該力によって後側回転軸部23は効率よく車幅方向内側に移動できる。
【0034】
さらに、本実施形態の前側回転軸部13は、図5図8に示すように、膨出部16と凹部17とを有している。膨出部16は、前側回転軸部13の前側回転軸14の外周面の一部が、図5及び図6に示すように、径方向外側に膨出することによって形成されている。膨出部16は、前側回転軸14の外周面上を周方向に沿って、約4分の3周にわたって延びている。凹部17は、膨出部16の一方の周方向端部と他方の端部との間に設けられている。
【0035】
また、図5及び図6に示すように、後側回転軸部23の前部には、膨出部16に向かって車両前方に突出する突出部26が設けられている。突出部26の前端部には、膨出部16の外面に対応する傾斜面27が設けられている。傾斜面27は、車両後方に向かうに従い車幅方向内側に傾斜している。すなわち、傾斜面27は、車両前方且つ車幅方向内側に面している。また、傾斜面27は、膨出部16の外周面の曲率に対応するように湾曲している。
【0036】
図5に示すように、突出部26の傾斜面27が膨出部16の外周面に当接しているときは、傾斜面27の車幅方向内側に膨出部16の外面が位置しているため、前側回転軸部13の車幅方向内側への移動が規制される。すなわち、突出部26及び膨出部16が、ストッパーとして機能している。サイドドア1の開動作中において、開動作開始直後から所定のタイミングまでは、傾斜面27が、傾斜面27の車幅方向外側に位置する膨出部16の外面に当接しているため、後側回動軸部は車幅方向内側に移動しない。所定のタイミングまでの間(図4における角度β3に至るまでの間)は、前側回転軸14及び後側回転軸24の周りを前上側本体部11a及び前下側本体部11bと、後側本体部21とが回動しているため、前側回転軸14と共に回転する膨出部16は、傾斜面27上を摺動する。上記のように構成しているため、膨出部16と、突出部26の傾斜面27とが当接することで、後側回転軸部23が車幅方向内側に意図しないタイミングで移動することを効果的に防ぐことができる。
【0037】
これに対して、図6に示すように、突出部26の傾斜面27が膨出部16に当接せずに離間し、傾斜面27が凹部17に位置しているときに、前側噛合部15と後側噛合部25とが噛み合って、後側回転軸部23が車幅方向内側に移動する。膨出部16が傾斜面27上を摺動して、膨出部16と傾斜面27との当接しなくなるとき、すなわち、傾斜面27が凹部17に位置するとき、前側噛合部15のピニオンが、後側噛合部25のラックに噛み合って、後側回転軸部23が車幅方向内側に移動することが可能となる。
【0038】
前側リンク部材10の前上側本体部11a及び前下側本体部11bと、車両前後方向に延びる基準線とにより、前側リンク部材10の車両前方側に形成される角度が、90度以上になったときに、後側連結部22と、前上側連結部12a及び前下側連結部12bとの車幅方向の相対距離が変化するように構成されている。すなわち、当該角度が90度以上になったとき、前側噛合部15のピニオンが後側噛合部25のラックに噛み合うように構成されている。
【0039】
前上側連結部12a及び前下側連結部12bと、後側連結部22との車幅方向における相対位置の変化(噛合部の噛み合い)が、上記角度が90度以上で発生することにより、乗員が乗降可能となった際に、乗降口の幅を拡大することが可能となる。さらに、サイドドア1のドア全開時の振出量(車幅方向への迫り出し量)の最大幅が、上記角度が90度の位置であるため、当該角度が90度以上になってから上記相対位置の変化が発生するため、車両と隣り合う障害物に接触することを抑制できる。
【0040】
本実施形態の説明は、本発明を説明するための例示であって、特許請求の範囲に記載の発明を限定するものではない。また、本発明の各部構成は上記実施形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。
【0041】
本実施形態では、後側連結部22を車幅方向内側に移動させることによって、前上側連結部12a及び前下側連結部12bと、後側連結部22との相対位置を変化させているが、これに限らない。例えば、後側連結部22を車幅方向外側に移動させることによって、当該相対位置を変化させてもよい。また、本実施形態では、後側回転軸部23を車幅方向内側に移動させているが、これに限らない。前側回転軸部13を車幅方向外側に移動させてもよい。
【符号の説明】
【0042】
1 サイドドア
2 インナパネル(ドアパネル)
10 前側リンク部材
11a 前上側本体部(前側本体部)
11b 前下側本体部(前側本体部)
12a 前上側連結部(前側連結部)
12b 前下側連結部(前側連結部)
13 前側回転軸部
14 前側回転軸
15 前側噛合部
16 膨出部
17 凹部
20 後側リンク部材
21 後側本体部
22 後側連結部
23 後側回転軸部
24 後側回転軸
25 後側噛合部
26 突出部
27 傾斜面
30 車体取付部
31 クォータインナパネル
32 ホイルハウスパネル
33 センターピラー
35 ドア開口部
36 車体側取付ブラケット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8