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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】光計測装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 10/00 20060101AFI20240112BHJP
   A61B 5/1455 20060101ALI20240112BHJP
   A61B 5/026 20060101ALI20240112BHJP
   G01N 21/17 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
A61B10/00 E
A61B5/1455
A61B5/026 120
G01N21/17 610
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2020559832
(86)(22)【出願日】2019-11-08
(86)【国際出願番号】 JP2019043914
(87)【国際公開番号】W WO2020121704
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2022-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2018231038
(32)【優先日】2018-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 修市
(74)【代理人】
【識別番号】100180529
【弁理士】
【氏名又は名称】梶谷 美道
(74)【代理人】
【識別番号】100125922
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 章子
(74)【代理人】
【識別番号】100188813
【弁理士】
【氏名又は名称】川喜田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100184985
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100202197
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 成康
(74)【代理人】
【識別番号】100218981
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 寛之
(72)【発明者】
【氏名】中村 將
(72)【発明者】
【氏名】安藤 貴真
(72)【発明者】
【氏名】鳴海 建治
(72)【発明者】
【氏名】是永 継博
【審査官】門田 宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-011693(JP,A)
【文献】特開2017-185200(JP,A)
【文献】特開2017-144225(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 10/00
A61B 5/1455
A61B 5/026
G01N 21/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象に照射される複数の光パルスを出射する光源と、
前記測定対象から戻ってきた複数の反射光パルスの少なくとも一部を検出する光検出器と、
前記光源および前記光検出器を制御する制御回路と、
前記光検出器から出力された信号を処理する信号処理回路と、
を備え、
前記複数の光パルスは、第1の光パルスおよび第2の光パルスを含み、
前記第1の光パルスおよび前記第2の光パルスは互いに同一の波長を有し、
前記複数の反射光パルスは、前記第1の光パルスに起因する第1の反射光パルスおよび前記第2の光パルスに起因する第2の反射光パルスを含み、
前記制御回路は、
前記光源に、前記第1の光パルスおよび前記第2の光パルスをそれぞれ異なるタイミングで出射させ、
前記光検出器に、前記第1の反射光パルスの第1の部分を第1の時間長を有する第1の期間において検出させると共に、前記第1の部分の光量を示す第1の信号を出力させ、
前記第1の期間は、前記第1の反射光パルスの強度の減少が開始してから終了するまでの期間である第1の立ち下がり期間中の第1の時点から開始し、
前記光検出器に、前記第2の反射光パルスの第2の部分を第2の時間長を有する第2の期間において検出させると共に、前記第2の部分の光量を示す第2の信号を出力させ、
前記第2の期間は、前記第2の反射光パルスの強度の減少が開始してから終了するまでの期間である第2の立ち下がり期間中の第2の時点から開始し、
前記第1の立ち下がり期間の開始から前記第1の時点までの時間間隔は、前記第2の立ち下がり期間の開始から前記第2の時点までの時間間隔とは異なり、
前記制御回路は、前記光源に前記第1の光パルスを出射させ、前記光検出器に前記第1の反射光パルスを検出させ、かつ前記光検出器に前記第1の信号を出力させる制御を複数回実行し、
前記制御回路は、前記光源に前記第2の光パルスを出射させ、前記光検出器に前記第2の反射光パルスを検出させ、かつ前記光検出器に前記第2の信号を出力させる制御を複数回実行し、
前記信号処理回路は、前記第1の信号の変動および前記第2の信号の変動に基づき、前記測定対象の内部状態の変動を示す情報を生成する、
光計測装置。
【請求項2】
前記第1の時間長と、前記第2の時間長とは同一である、
請求項1に記載の光計測装置。
【請求項3】
前記第1の時点は、前記第1の立ち下がり期間において式(1)によって表されるJ(t)の値が最大となる第3の時点よりも前であり、
前記第2の時点は、前記第2の立ち下がり期間において前記J(t)の値が最大となる第4の時点よりも後であり、
【数1】
tは前記第1の反射光パルスまたは前記第2の反射光パルスの検出を開始する時間、δtは微小時間、I(t)は前記第1の期間において検出された前記第1の反射光パルスの光量を積算した量、または前記第2の期間において検出された前記第2の反射光パルスの光量を積算した量である、
請求項2に記載の光計測装置。
【請求項4】
前記信号処理回路は、前記第1の信号と前記第2の信号との比の変動に基づき前記情報を生成する、
請求項1から3のいずれかに記載の光計測装置。
【請求項5】
前記測定対象の前記内部状態が一定であるとき、
前記測定対象と前記光検出器との距離が第1の距離にある場合における前記第1の信号と前記第2の信号との比の値は、前記測定対象と前記光検出器との距離が前記第1の距離とは異なる第2の距離にある場合における前記比の値に実質的に等しい、
請求項1から4のいずれかに記載の光計測装置。
【請求項6】
前記測定対象は生体であり、
前記情報は、前記測定対象の血流の量の変動を示す、
請求項1から5のいずれかに記載の光計測装置。
【請求項7】
前記血流は、前記生体の脳血流である、
請求項6に記載の光計測装置。
【請求項8】
前記制御回路は、前記光源および前記光検出器に、前記第1の時点および前記第2の時点を調整するキャリブレーション動作を実行させ、
前記キャリブレーション動作において、前記制御回路は、
前記光源に、複数の第3の光パルスを出射させ、
前記光検出器に、前記複数の第3の光パルスに起因する複数の第3の反射光パルスを、前記複数の第3の反射光パルスの各々の強度の減少が開始してから検出を開始するまでの時間差を微小時間ずつシフトさせながら、検出させ、
前記複数の第3の反射光パルスの各々を検出する期間は第3の時間長を有し、
前記第1の時間長、前記第2の時間長、および前記第3の時間長は同一である、
請求項1から7のいずれかに記載の光計測装置。
【請求項9】
測定対象に照射される光パルスを出射する光源と、
前記光パルスに起因して前記測定対象から戻ってきた反射光パルスの少なくとも一部を検出する光検出器と、
前記光源および前記光検出器を制御する制御回路と、
前記光検出器から出力された信号を処理する信号処理回路と、
を備え、
前記制御回路は、
前記光源に、前記光パルスを出射させ、
前記光検出器に、前記反射光パルスの第1の部分を第1の時間長を有する第1の期間において検出させると共に、前記第1の部分の光量を示す第1の信号を出力させ、前記第1の期間は、前記反射光パルスの強度の減少が開始してから終了するまでの期間である立ち下がり期間中の第1の時点から開始し、
前記光検出器に、前記反射光パルスの第2の部分を第2の時間長を有する第2の期間において検出させると共に、前記第2の部分の光量を示す第2の信号を出力させ、前記第2の期間は、前記立ち下がり期間中の第2の時点から開始し、
前記立ち下がり期間の開始から前記第1の時点までの時間間隔は、前記立ち下がり期間の前記開始から前記第2の時点までの時間間隔とは異なり、
前記制御回路は、前記光源に前記光パルスを出射させ、前記光検出器に前記反射光パルスを検出させ、かつ前記光検出器に前記第1の信号および前記第2の信号を出力させる制御を複数回実行し、
前記信号処理回路は、前記第1の信号の変動および前記第2の信号の変動に基づき、前記測定対象の内部状態の変動を示す情報を生成する、
光計測装置。
【請求項10】
前記第1の時間長と、前記第2の時間長とは同一である、
請求項9に記載の光計測装置。
【請求項11】
前記第1の時点は、前記立ち下がり期間において式(1)で表されるJ(t)の値が最大となる第3の時点よりも前であり、
前記第2の時点は、第3の時点よりも後であり、
【数2】
tは前記反射光パルスの検出を開始する時間、δtは微小時間、I(t)は前記第1の期間において検出された前記反射光パルスの光量を積算した量である、
請求項10に記載の光計測装置。
【請求項12】
前記信号処理回路は、前記第1の信号と前記第2の信号との比の変動に基づいて前記情報を生成する、
請求項9から11のいずれかに記載の光計測装置。
【請求項13】
前記測定対象の前記内部状態が一定であるとき、
前記測定対象と前記光検出器との距離が第1の距離にある場合における前記第1の信号と前記第2の信号との比の値は、前記測定対象と前記光検出器との距離が前記第1の距離とは異なる第2の距離にある場合における前記比の値に実質的に等しい、
請求項9から12のいずれかに記載の光計測装置。
【請求項14】
前記測定対象は生体であり、
前記情報は、前記測定対象の血流の量の変動を示す、
請求項9から13のいずれかに記載の光計測装置。
【請求項15】
前記血流は、前記生体の脳血流である、
請求項14に記載の光計測装置。
【請求項16】
前記制御回路は、前記光源および前記光検出器に、前記第1の時点および前記第2の時点を調整するキャリブレーション動作を実行させ、
前記キャリブレーション動作において、前記制御回路は、
前記光源に、複数の光パルスを出射させ、
前記光検出器に、前記複数の光パルスに起因する複数の反射光パルスを、前記複数の反射光パルスの各々の強度の減少が開始してから検出を開始するまでの時間差を微小時間ずつシフトさせながら、検出させ、
前記複数の反射光パルスの各々を検出する期間は第3の時間長を有し、
前記第1の時間長、前記第2の時間長、および前記第3の時間長は同一である、
請求項9から15のいずれかに記載の光計測装置。
【請求項17】
光源と、
光検出器と、
制御回路と、
信号処理回路と、
を備え、
前記制御回路は、
前記光源に、第1の光パルスおよび第2の光パルスをそれぞれ異なるタイミングで測定対象に出射させ、
前記光検出器に、前記第1の光パルスに起因する第1の反射光パルスの第1の部分を第1の期間において検出させ、前記第1の期間は、前記第1の反射光パルスの強度の減少が開始してから終了するまでの期間である第1の立ち下がり期間中の第1の時点から開始し、
前記光検出器に、前記第2の光パルスに起因する第2の反射光パルスの第2の部分を第2の期間において検出させ、前記第2の期間は、前記第2の反射光パルスの強度の減少が開始してから終了するまでの期間である第2の立ち下がり期間中の第2の時点から開始し、
前記第1の立ち下がり期間の開始から前記第1の時点までの時間間隔は、前記第2の立ち下がり期間の開始から前記第2の時点までの時間間隔とは異なり、
前記信号処理回路は、前記第1の部分に対応する第1の信号および前記第2の部分に対応する第2の信号に基づき、前記測定対象の内部状態を示す情報を生成し、
前記第1の時点は、前記第1の立ち下がり期間において式(1)によって表されるJ(t)の値が最大となる第3の時点よりも前であり、
前記第2の時点は、前記第2の立ち下がり期間において前記J(t)の値が最大となる第4の時点よりも後であり、
【数3】
tは前記第1の反射光パルスまたは前記第2の反射光パルスの検出を開始する時間、δtは微小時間、I(t)は前記第1の期間において検出された前記第1の反射光パルスの光量を積算した量、または前記第2の期間において検出された前記第2の反射光パルスの光量を積算した量である、
光計測装置
【請求項18】
光源と、
光検出器と、
制御回路と、
信号処理回路と、
を備え、
前記制御回路は、
前記光源に、第1の光パルスおよび第2の光パルスをそれぞれ異なるタイミングで測定対象に出射させ、
前記光検出器に、前記第1の光パルスに起因する第1の反射光パルスの第1の部分を第1の期間において検出させ、前記第1の期間は、前記第1の反射光パルスの強度の減少が開始してから終了するまでの期間である第1の立ち下がり期間中の第1の時点から開始し、
前記光検出器に、前記第2の光パルスに起因する第2の反射光パルスの第2の部分を第2の期間において検出させ、前記第2の期間は、前記第2の反射光パルスの強度の減少が開始してから終了するまでの期間である第2の立ち下がり期間中の第2の時点から開始し、
前記第1の立ち下がり期間の開始から前記第1の時点までの時間間隔は、前記第2の立ち下がり期間の開始から前記第2の時点までの時間間隔とは異なり、
前記信号処理回路は、前記第1の部分に対応する第1の信号と前記第2の部分に対応する第2の信号との比に基づき、前記測定対象の内部状態を示す情報を生成する、
光計測装置
【請求項19】
光源と、
光検出器と、
制御回路と、
信号処理回路と、
を備え、
前記制御回路は、
前記光源に、第1の光パルスおよび第2の光パルスをそれぞれ異なるタイミングで測定対象に出射させ、
前記光検出器に、前記第1の光パルスに起因する第1の反射光パルスの第1の部分を第1の期間において検出させ、前記第1の期間は、前記第1の反射光パルスの強度の減少が開始してから終了するまでの期間である第1の立ち下がり期間中の第1の時点から開始し、
前記光検出器に、前記第2の光パルスに起因する第2の反射光パルスの第2の部分を第2の期間において検出させ、前記第2の期間は、前記第2の反射光パルスの強度の減少が開始してから終了するまでの期間である第2の立ち下がり期間中の第2の時点から開始し、
前記第1の立ち下がり期間の開始から前記第1の時点までの時間間隔は、前記第2の立ち下がり期間の開始から前記第2の時点までの時間間隔とは異なり、
前記信号処理回路は、前記第1の部分に対応する第1の信号および前記第2の部分に対応する第2の信号に基づき、前記測定対象の内部状態を示す情報を生成し、
前記内部状態を示す情報は、前記測定対象の内部状態の変動を示し、
前記測定対象の前記内部状態が一定であるとき、
前記測定対象と前記光検出器との距離が第1の距離にある場合における前記第1の信号と前記第2の信号との比の値は、前記測定対象と前記光検出器との距離が前記第1の距離とは異なる第2の距離にある場合における前記比の値に実質的に等しい、
光計測装置
【請求項20】
光源と、
光検出器と、
制御回路と、
信号処理回路と、
を備え、
前記制御回路は、
前記光源に、第1の光パルスおよび第2の光パルスをそれぞれ異なるタイミングで測定対象に出射させ、前記第1の光パルスおよび前記第2の光パルスは互いに同一の波長を有し、
前記光検出器に、前記第1の光パルスに起因する第1の反射光パルスの第1の部分を第1の期間において検出させ、前記第1の期間は、前記第1の反射光パルスの強度の減少が開始してから終了するまでの期間である第1の立ち下がり期間中の第1の時点から開始し、
前記光検出器に、前記第2の光パルスに起因する第2の反射光パルスの第2の部分を第2の期間において検出させ、前記第2の期間は、前記第2の反射光パルスの強度の減少が開始してから終了するまでの期間である第2の立ち下がり期間中の第2の時点から開始し、
前記第1の立ち下がり期間の開始から前記第1の時点までの時間間隔は、前記第2の立ち下がり期間の開始から前記第2の時点までの時間間隔とは異なり、
前記信号処理回路は、前記第1の部分に対応する第1の信号および前記第2の部分に対応する第2の信号に基づき、前記測定対象の内部状態を示す情報を生成する、
光計測装置
【請求項21】
光源と、
光検出器と、
制御回路と、
信号処理回路と、
を備え、
前記制御回路は、
前記光源に、光パルスを測定対象に出射させ、
前記光検出器に、前記光パルスに起因する反射光パルスの第1の部分を第1の期間において検出させ、前記第1の期間は、前記反射光パルスの強度の減少が開始してから終了するまでの期間である第1の立ち下がり期間中の第1の時点から開始し、
前記光検出器に、前記反射光パルスの第2の部分を第2の期間において検出させ、前記第2の期間は、前記反射光パルスの強度の減少が開始してから終了するまでの期間である第2の立ち下がり期間中の第2の時点から開始し、
前記第1の立ち下がり期間の開始から前記第1の時点までの時間間隔は、前記第2の立ち下がり期間の開始から前記第2の時点までの時間間隔とは異なり、
前記信号処理回路は、前記第1の部分に対応する第1の信号および前記第2の部分に対応する第2の信号に基づき、前記測定対象の内部状態を示す情報を生成する、
光計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光照射によって生体情報の変化を計測する方法が知られている。例えば、特許文献1は、被検者の頭部に光照射部と受光部が配置された状態で、脳の血流変化を計測する生体光計測装置を開示している。特許文献2は、運転席のヘッドレストに搭載された赤外光ユニットを用いて、運転者の頭部の血流分布または血流量の情報を取得する生体情報取得装置を開示している。特許文献3は、被検者を光で照射して、被検者の生体活動を示す情報を非接触で計測する生体活動計測装置を開示している。特許文献4は、対象物の内部情報を、対象物に接触しない状態で、かつ、対象物表面からの反射成分によるノイズを抑制した状態で測定できる撮像装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平09-019408号公報
【文献】特開2008-284165号公報
【文献】特開2003-337102号公報
【文献】特開2017-009584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、計測中に測定対象と計測装置との相対位置が変化した場合であっても、内部情報を非接触で取得し得る新規な技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係る光計測装置は、測定対象に照射される複数の光パルスを出射する光源と、前記測定対象から戻ってきた複数の反射光パルスの少なくとも一部を検出する光検出器と、前記光源および前記光検出器を制御する制御回路と、前記光検出器から出力された信号を処理する信号処理回路と、を備える。前記複数の光パルスは、第1の光パルスおよび第2の光パルスを含み、前記複数の反射光パルスは、前記第1の光パルスに起因する第1の反射光パルスおよび前記第2の光パルスに起因する第2の反射光パルスを含む。前記制御回路は、前記光源に、前記第1の光パルスおよび前記第2の光パルスをそれぞれ異なるタイミングで出射させ、前記光検出器に、前記第1の反射光パルスの第1の部分を第1の時間長を有する第1の期間において検出させると共に、前記第1の部分の光量を示す第1の信号を出力させ、前記第1の期間は、前記第1の反射光パルスの強度の減少が開始してから終了するまでの期間である第1の立ち下がり期間中の第1の時点から開始し、前記光検出器に、前記第2の反射光パルスの第2の部分を第2の時間長を有する第2の期間において検出させると共に、前記第2の部分の光量を示す第2の信号を出力させ、前記第2の期間は、前記第2の反射光パルスの強度の減少が開始してから終了するまでの期間である第2の立ち下がり期間中の第2の時点から開始する。前記第1の立ち下がり期間の開始から前記第1の時点までの時間間隔は、前記第2の立ち下がり期間の開始から前記第2の時点までの時間間隔とは異なる。前記制御回路は、前記光源に前記第1の光パルスを出射させ、前記光検出器に前記第1の反射光パルスを検出させ、かつ前記光検出器に前記第1の信号を出力させる制御を複数回実行する。前記制御回路は、前記光源に前記第2の光パルスを出射させ、前記光検出器に前記第2の反射光パルスを検出させ、かつ前記光検出器に前記第2の信号を出力させる制御を複数回実行する。前記信号処理回路は、前記第1の信号の変動および前記第2の信号の変動に基づき、前記測定対象の内部状態の変動を示す情報を生成する。
【発明の効果】
【0006】
本開示の技術によれば、計測中に測定対象と計測装置との相対位置が変化した場合であっても、内部情報を非接触で取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1A図1Aは、光計測装置の例を模式的に示す図である。
図1B図1Bは、光検出器に到達する光の強度の時間変化の例を示す図である。
図1C図1Cは、入力光パルスの幅を横軸に、光検出器での検出光量を縦軸に表した図である。
図1D図1Dは、光検出器の1つの画素の概略的な構成の例を示す図である。
図1E図1Eは、光検出器の構成の一例を示す図である。
図1F図1Fは、1フレーム内の動作の例を示す図である。
図1G図1Gは、制御回路による動作の概略を示すフローチャートである。
図2図2は、光パルスの内部散乱成分の検出方法を説明するための図である。
図3A図3Aは、表面反射成分を検出する場合のタイミングチャートの一例を模式的に示す図である。
図3B図3Bは、内部散乱成分を検出する場合のタイミングチャートの一例を模式的に示す図である。
図4図4は、対象物までの距離に応じて適切なシャッタタイミングを決定する方法を説明するための図である。
図5図5は、対象物までの距離に応じてシャッタタイミングを調整する動作の一例を示すフローチャートである。
図6A図6Aは、脳血流量の変化を検出する方法の例を模式的に示す図である。
図6B図6Bは、ユーザの対象部内の複数箇所での計測を同時に行う方法の一例を模式的に示す図である。
図7A図7Aは、光の照射領域の一例を模式的に示す図である。
図7B図7Bは、ユーザの頭部の横方向の動きに起因する計測結果の変化を模式的に示す図である。
図8A図8Aは、ユーザの対象部が装置から所定の距離にある場合において検出される反射光パルスの後端成分の例を模式的に示す図である。
図8B図8Bは、計測中にユーザの対象部が装置に近づいた場合において検出される反射光パルスの後端成分の例を模式的に示す図である。
図9図9は、例示的な実施形態による計測の原理を説明する図である。
図10図10は、例示的な実施形態における光計測装置の動作の一例を示すフローチャートである。
図11図11は、計測を開始する前の光計測装置の動作の一例を示すフローチャートである。
図12図12は、光計測装置の動作の他の例を示すフローチャートである。
図13図13は、計測の原理を説明する他の図である。
図14図14は、光計測装置の動作のさらに他の例を示すフローチャートである。
図15図15は、自動車内の座席に座るユーザの脳血流情報を取得する例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(本開示の一態様に至った経緯)
特許文献1に記載の装置では、光照射部および受光部を被検者の頭部に接触させた状態で、脳の血流動態変化が計測される。特許文献2に記載の装置では、赤外光ユニットを運転者の頭部に近接させた状態で、運転者の頭部の血流分布または血流量が取得される。いずれの装置でも、被検者または運転者は、拘束感によってストレスを感じ得る。
【0009】
一方、特許文献3および特許文献4に記載の装置では、光源からユーザの対象部に向けて光を出射して、当該対象部からの反射光を光検出器によって検出することにより、ユーザの生体内部の情報を非接触で計測することができる。非接触での計測では、拘束感によるストレスは生じない。しかし、非接触での計測では、ユーザの対象部と光検出器との距離が変化すると、当該対象部からの反射光が光検出器に入射するタイミングが変化する。このため、当該タイミングの変化を考慮せずに計測すると、計測精度が低下し得る。
【0010】
本発明者らは、以上の検討に基づき、以下の項目に記載の光計測装置に想到した。
【0011】
[項目1]
第1の項目に係る光計測装置は、測定対象に照射される複数の光パルスを出射する光源と、前記測定対象から戻ってきた複数の反射光パルスの少なくとも一部を検出する光検出器と、前記光源および前記光検出器を制御する制御回路と、前記光検出器から出力された信号を処理する信号処理回路と、を備える。前記複数の光パルスは、第1の光パルスおよび第2の光パルスを含み、前記複数の反射光パルスは、前記第1の光パルスに起因する第1の反射光パルスおよび前記第2の光パルスに起因する第2の反射光パルスを含む。前記制御回路は、前記光源に、前記第1の光パルスおよび前記第2の光パルスをそれぞれ異なるタイミングで出射させ、前記光検出器に、前記第1の反射光パルスの第1の部分を第1の時間長を有する第1の期間において検出させると共に、前記第1の部分の光量を示す第1の信号を出力させ、前記第1の期間は、前記第1の反射光パルスの強度の減少が開始してから終了するまでの期間である第1の立ち下がり期間中の第1の時点から開始し、
前記光検出器に、前記第2の反射光パルスの第2の部分を第2の時間長を有する第2の期間において検出させると共に、前記第2の部分の光量を示す第2の信号を出力させ、前記第2の期間は、前記第2の反射光パルスの強度の減少が開始してから終了するまでの期間である第2の立ち下がり期間中の第2の時点から開始する。前記第1の立ち下がり期間の開始から前記第1の時点までの時間間隔は、前記第2の立ち下がり期間の開始から前記第2の時点までの時間間隔とは異なる。前記制御回路は、前記光源に前記第1の光パルスを出射させ、前記光検出器に前記第1の反射光パルスを検出させ、かつ前記光検出器に前記第1の信号を出力させる制御を複数回実行する。前記制御回路は、前記光源に前記第2の光パルスを出射させ、前記光検出器に前記第2の反射光パルスを検出させ、かつ前記光検出器に前記第2の信号を出力させる制御を複数回実行する。前記信号処理回路は、前記第1の信号の変動および前記第2の信号の変動に基づき、前記測定対象の内部状態の変動を示す情報を生成する。
【0012】
[項目2]
第1の項目に係る光計測装置において、前記第1の時間長と、前記第2の時間長とは同一であってもよい。
【0013】
[項目3]
第2の項目に係る光計測装置において、前記第1の時点は、前記第1の立ち下がり期間においてJ(t)=|I(t+δt)-I(t)|/I(t)の値が最大となる第3の時点よりも前であり、前記第2の時点は、前記第2の立ち下がり期間において前記J(t)の値が最大となる第4の時点よりも後であり、tは前記第1の反射光パルスまたは前記第2の反射光パルスの検出を開始する時間、δtは微小時間、I(t)は前記第1の期間において検出された前記第1の反射光パルスの光量を積算した量、または前記第2の期間において検出された前記第2の反射パルスの光量を積算した量であってもよい。
【0014】
[項目4]
第1から第3の項目のいずれかに係る光計測装置において、前記信号処理回路は、前記第1の信号と前記第2の信号との比の変動に基づき前記情報を生成してもよい。
【0015】
[項目5]
第1から第4の項目のいずれかに係る光計測装置において、前記測定対象の前記内部状態が一定であるとき、前記測定対象と前記光検出器との距離が第1の距離にある場合における前記第1の信号と前記第2の信号との比の値は、前記測定対象と前記光検出器との距離が前記第1の距離とは異なる第2の距離にある場合における前記比の値に実質的に等しくてもよい。
【0016】
[項目6]
第1から第5の項目のいずれかに係る光計測装置において、前記測定対象は生体であり、前記情報は、前記測定対象の血流の量の変動を示していてもよい。
【0017】
[項目7]
第6の項目に係る光計測装置において、前記血流は、前記生体の脳血流であってもよい。
【0018】
[項目8]
第1から第7の項目のいずれかに係る光計測装置において、前記制御回路は、前記光源および前記光検出器に、前記第1の時点および前記第2の時点を調整するキャリブレーション動作を実行させ、前記キャリブレーション動作において、前記制御回路は、前記光源に、複数の第3の光パルスを出射させ、前記光検出器に、前記複数の第3の光パルスに起因する複数の第3の反射光パルスを、前記複数の第3の反射光パルスの各々の強度の減少が開始してから検出を開始するまでの時間差を微小時間ずつシフトさせながら、検出させ、前記複数の第3の反射光パルスの各々を検出する期間は第3の時間長を有し、前記第1の時間長、前記第2の時間長、および前記第3の時間長は同一であってもよい。
【0019】
[項目9]
第9の項目に係る光計測装置は、測定対象に照射される光パルスを出射する光源と、前記光パルスに起因して前記測定対象から戻ってきた反射光パルスの少なくとも一部を検出する光検出器と、前記光源および前記光検出器を制御する制御回路と、前記光検出器から出力された信号を処理する信号処理回路と、を備える。前記制御回路は、前記光源に、前記光パルスを出射させ、前記光検出器に、前記反射光パルスの第1の部分を第1の時間長を有する第1の期間において検出させると共に、前記第1の部分の光量を示す第1の信号を出力させ、前記第1の期間は、前記反射光パルスの強度の減少が開始してから終了するまでの期間である立ち下がり期間中の第1の時点から開始し、前記光検出器に、前記反射光パルスの第2の部分を第2の時間長を有する第2の期間において検出させると共に、前記第2の部分の光量を示す第2の信号を出力させ、前記第2の期間は、前記立ち下がり期間中の第2の時点から開始する。前記立ち下がり期間の開始から前記第1の時点までの時間間隔は、前記立ち下がり期間の前記開始から前記第2の時点までの時間間隔とは異なる。前記制御回路は、前記光源に前記光パルスを出射させ、前記光検出器に前記反射光パルスを検出させ、かつ前記光検出器に前記第1の信号および前記第2の信号を出力させる制御を複数回実行する。前記信号処理回路は、前記第1の信号の変動および前記第2の信号の変動に基づき、前記測定対象の内部状態の変動を示す情報を生成する。
【0020】
[項目10]
第9の項目に係る光計測装置において、前記第1の時間長と、前記第2の時間長とは同一であってもよい。
【0021】
[項目11]
第10の項目に係る光計測装置において、前記第1の時点は、前記立ち下がり期間においてJ(t)=|I(t+δt)-I(t)|/I(t)の値が最大となる第3の時点よりも前であり、前記第2の時点は、第3の時点よりも後であり、tは前記反射光パルスの検出を開始する時間、δtは微小時間、I(t)は前記第1の期間において検出された前記反射光パルスの光量を積算した量であってもよい。
【0022】
[項目12]
第9から第11の項目のいずれかに係る光計測装置において、前記信号処理回路は、前記第1の信号と前記第2の信号との比の変動に基づいて前記情報を生成してもよい。
【0023】
[項目13]
第9から第12の項目のいずれかに記載の光計測装置において、前記測定対象の前記内部状態が一定であるとき、前記測定対象と前記光検出器との距離が第1の距離にある場合における前記第1の信号と前記第2の信号との比の値は、前記測定対象と前記光検出器との距離が前記第1の距離とは異なる第2の距離にある場合における前記比の値に実質的に等しくてもよい。
【0024】
[項目14]
第9から第13の項目のいずれかに係る光計測装置において、前記測定対象は生体であり、前記情報は、前記測定対象の血流の量の変動を示していてもよい。
【0025】
[項目15]
第14の項目に係る光計測装置において、前記血流は、前記生体の脳血流であってもよい。
【0026】
[項目16]
第1から第15の項目のいずれかに係る光計測装置において、前記制御回路は、前記光源および前記光検出器に、前記第1の時点および前記第2の時点を調整するキャリブレーション動作を実行させ、前記キャリブレーション動作において、前記制御回路は、前記光源に、複数の光パルスを出射させ、前記光検出器に、前記複数の光パルスに起因する複数の反射光パルスを、前記複数の反射光パルスの各々の強度の減少が開始してから検出を開始するまでの時間差を微小時間ずつシフトさせながら、検出させ、前記複数の反射光パルスの各々を検出する期間は第3の時間長を有し、前記第1の時間長、前記第2の時間長、および前記第3の時間長は同一であってもよい。
【0027】
以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置などは、一例であり、本開示の技術を限定する趣旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0028】
本開示において、回路、ユニット、装置、部材または部の全部または一部、またはブロック図における機能ブロックの全部または一部は、例えば、半導体装置、半導体集積回路(IC)、またはLSI(large scale integration)を含む1つまたは複数の電子回路によって実行され得る。LSIまたはICは、1つのチップに集積されてもよいし、複数のチップを組み合わせて構成されてもよい。例えば、記憶素子以外の機能ブロックは、1つのチップに集積されてもよい。ここでは、LSIまたはICと呼んでいるが、集積の度合いによって呼び方が変わり、システムLSI、VLSI(very large scale integration)、もしくはULSI(ultra large scale integration)と呼ばれるものであってもよい。LSIの製造後にプログラムされる、Field Programmable Gate Array(FPGA)、またはLSI内部の接合関係の再構成またはLSI内部の回路区画のセットアップができるreconfigurable logic deviceも同じ目的で使うことができる。
【0029】
さらに、回路、ユニット、装置、部材または部の全部または一部の機能または操作は、ソフトウェア処理によって実行することが可能である。この場合、ソフトウェアは1つまたは複数のROM、光学ディスク、ハードディスクドライブなどの非一時的記録媒体に記録され、ソフトウェアが処理装置(processor)によって実行されたときに、そのソフトウェアで特定された機能が処理装置(processor)および周辺装置によって実行される。システムまたは装置は、ソフトウェアが記録されている1つまたは複数の非一時的記録媒体、処理装置(processor)、および必要とされるハードウェアデバイス、例えばインターフェースを備えていてもよい。
【0030】
以下、実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。以下の説明において、同一または類似する構成要素には同一の符号を付す。
【0031】
(実施形態)
[1.光計測装置100]
図1Aから図3Bを参照して、本開示の例示的な実施形態における光計測装置100の構成を説明する。
【0032】
図1Aは、本実施形態における光計測装置100の例を模式的に示す図である。
【0033】
光計測装置100は、光源20と、光検出器30と、制御回路60と、信号処理回路70とを備える。本実施形態における光検出器30は、2次元画像を取得するイメージセンサである。光検出器30は、2次元画像を取得するイメージセンサに限らず、1次元画像を取得するイメージセンサであってもよい。用途によっては、光検出器30は、単一の光電変換素子を備えたセンサであってもよい。
【0034】
光源20は、測定対象であるユーザ10の対象部10tに照射される光パルスを出射する。光検出器30は、ユーザ10の対象部10tから戻ってきた反射光パルスの少なくとも一部の光量を検出し、当該光量を示す信号を出力する。制御回路60は、光源20および光検出器30を制御する。信号処理回路70は、光検出器30から出力された信号を処理する。
【0035】
本実施形態では、制御回路60は、光源20を制御する光源制御部61と、光検出器30を制御する検出器制御部62とを含む。光源制御部61は、光源20から出射される光パルスの強度、パルス幅、出射タイミング、および/または波長を制御する。検出器制御部62は、光検出器30の各画素における信号蓄積のタイミングを制御する。
【0036】
本明細書において、「生体情報」とは、生体の計測可能な量を意味する。生体情報には、例えば、血流量、血圧、心拍数、脈拍数、呼吸数、体温、脳波、血液中の酸素化ヘモグロビン濃度、血液中の脱酸素化ヘモグロビン濃度、血中酸素飽和度、皮膚の反射スペクトルなどの、種々の量が含まれる。生体情報の一部は、バイタルサインと称されることがある。以下に、光計測装置100の各構成要素を説明する。
【0037】
[1-1.光源20]
光源20は、ユーザ10の対象部10tに向けて光を出射する。対象部10tは、例えば、ユーザ10の頭部であり、より具体的にはユーザ10の額であり得る。脳活動情報を利用しない場合、ユーザ10の対象部10tは、例えば、腕、胴体、または足でもよい。光源20から出射されてユーザ10に到達した光は、ユーザ10の表面で反射される表面反射成分I1と、ユーザ10の内部で散乱される内部散乱成分I2とに分かれる。内部散乱成分I2は、生体内部で1回反射もしくは散乱、または多重散乱する成分である。ユーザ10の頭部に向けて光を出射する場合、内部散乱成分I2は、ユーザ10の頭部の表面から奥に8mmから16mmほどの部位、例えば脳に到達し、再び光計測装置100に戻る成分を指す。表面反射成分I1は、直接反射成分、拡散反射成分、および散乱反射成分の3つの成分を含む。直接反射成分は、入射角と反射角とが等しい反射成分である。拡散反射成分は、表面の凹凸形状によって拡散して反射する成分である。散乱反射成分は、表面近傍の内部組織によって散乱して反射する成分である。ユーザ10の頭部に向けて光を出射する場合、散乱反射成分は、表皮内部で散乱して反射する成分である。ユーザ10の表面で反射する表面反射成分I1は、これら3つの成分を含み得る。表面反射成分I1および内部散乱成分I2は、反射または散乱によって進行方向が変化し、その一部が光検出器30に到達する。
【0038】
まず、内部散乱成分I2の取得方法を説明する。光源20は、制御回路60からの指示に従い、光パルスを所定の時間間隔または所定のタイミングで複数回繰り返し出射する。光源20から出射される光パルスは、例えば立ち下がり期間がゼロに近い矩形波であり得る。本明細書において、「立ち下がり期間」とは、光パルスの強度が減少を開始してから減少が終了するまでの期間を意味する。一般に、ユーザ10に入射した光は、様々な経路でユーザ10内を伝搬し、時間差を伴ってユーザ10の表面から出射する。このため、光パルスの内部散乱成分I2の後端は、広がりを有する。ユーザ10の対象部10tが額である場合、内部散乱成分I2の後端の広がりは、4ns程度である。このことを考慮すると、光パルスの立ち下がり期間は、例えばその半分以下である2ns以下に設定され得る。立ち下がり期間は、さらにその半分の1ns以下であってもよい。光源20から出射される光パルスの立ち上がり期間は任意である。本明細書において、「立ち上がり期間」とは、光パルスの強度が増加を開始してから増加が終了するまでの期間である。本実施形態における内部散乱成分I2の検出では、光パルスの立ち下がり部分が使用され、立ち上がり部分は使用されない。光パルスの立ち上がり部分は、表面反射成分I1の検出に用いられ得る。光源20は、例えば、LDなどのレーザであり得る。レーザから出射される光は、光パルスの立ち下がり部分が時間軸に略直角である、急峻な時間応答特性を有する。
【0039】
光源20から出射される光の波長は、例えば650nm以上950nm以下の波長範囲に含まれる任意の波長であり得る。この波長範囲は、赤色から近赤外線の波長範囲に含まれる。本明細書では、可視光のみならず赤外線についても「光」の用語を使用する。上記の波長範囲は、「生体の窓」と呼ばれており、生体内の水分および皮膚に比較的吸収されにくいという性質を有する。生体を検出対象にする場合、上記の波長範囲の光を使用することにより、検出感度を高くすることができる。本実施形態のように、ユーザ10の皮膚および脳の血流変化を検出する場合、使用される光は、主に酸素化ヘモグロビン(HbO)および脱酸素化ヘモグロビン(Hb)に吸収されると考えられる。酸素化ヘモグロビンと脱酸素化ヘモグロビンとでは、光吸収の波長依存性が異なる。一般に、血流に変化が生じると、酸素化ヘモグロビンおよび脱酸素化ヘモグロビンの濃度が変化する。この変化に伴い、光の吸収度合いも変化する。したがって、血流が変化すると、検出される光量も時間的に変化する。
【0040】
光源20は、上記の波長範囲に含まれる2つ以上の波長の光を出射してもよい。そのような複数波長の光は、複数の光源からそれぞれ出射されてもよい。2つの光源から異なる2つの波長の光がそれぞれ出射されるとき、ユーザ10の対象部10tを経由して光検出器30に戻った2つの波長の光の光路長は、ほぼ等しくなるように設計され得る。この設計では、例えば、光検出器30と一方の光源との距離、および光検出器30と他方の光源との距離が一致しており、かつ、2つの光源が、光検出器30を中心として回転対称になる位置に配置され得る。
【0041】
本実施形態における光計測装置100では、非接触でユーザ10を計測するため、網膜への影響を考慮して設計された光源20が用いられ得る。例えば、各国で策定されているレーザ安全基準のクラス1を満足する光源20が用いられ得る。クラス1が満足されている場合、被爆放出限界(AEL)が1mWを下回るほどの低照度の光が、ユーザ10に照射される。なお、光源20自体はクラス1を満たしていなくてもよい。例えば、拡散板またはNDフィルタを光源20の前に設置して光を拡散または減衰することにより、レーザ安全基準のクラス1が満たされていてもよい。
【0042】
従来、生体内部の深さ方向における異なる場所での吸収係数または散乱係数などの情報を区別して検出するために、ストリークカメラが使用されていた。例えば、特開平4-189349は、そのようなストリークカメラの一例を開示している。これらのストリークカメラでは、所望の空間分解能で計測するために、パルス幅がフェムト秒またはピコ秒の極超短光パルスが用いられていた。
【0043】
これに対し、本実施形態における光計測装置100は、表面反射成分I1と内部散乱成分I2とを区別して検出することができる。したがって、光源20から出射される光パルスは、極超短光パルスである必要はなく、パルス幅を任意に選択することができる。
【0044】
脳血流を計測するためにユーザ10の頭部を光で照射する場合、内部散乱成分I2の光量は、表面反射成分I1の光量の数千分の1から数万分の1程度の非常に小さい値になり得る。さらに、レーザの安全基準を考慮すると、照射できる光の光量は、極めて小さくなる。したがって、内部散乱成分I2の検出は非常に難しくなる。その場合でも、光源20が、比較的パルス幅の大きい光パルスを出射すれば、時間遅れを伴う内部散乱成分I2の積算量を増加させることができる。それにより、検出光量を増やし、SN比を向上させることができる。
【0045】
光源20は、例えばパルス幅が3ns以上の光パルスを出射する。一般に、脳などの生体組織内で散乱された光の時間的な広がりは4ns程度である。図1Bは、光検出器30に到達する光の強度の時間変化の例を示す図である。図1Bには、光源20から出射される入力光パルスの幅が、0ns、3ns、および10nsである3つの場合の例が示されている。図1Bに示すように、光源20からの光パルスの幅を広げるにつれて、ユーザ10から戻った光パルスの後端部に現れる内部散乱成分I2の光量が増加する。
【0046】
図1Cは、入力光パルスの幅を横軸に、光検出器30での検出光量を縦軸に表した図である。光検出器30は、電子シャッタを備える。図1Cの結果は、光パルスの後端がユーザ10の表面で反射されて光検出器30に到達した時刻から1ns経過した後に電子シャッタを開いた条件で得られた。この条件を選択した理由は、光パルスの後端が到達した直後は、内部散乱成分I2と比較して、表面反射成分I1の比率が高いためである。図1Cに示すように、光源20から出射される光パルスのパルス幅を3ns以上にすると、検出光量を最大化することができる。
【0047】
光源20は、パルス幅5ns以上、さらには10ns以上の光パルスを出射してもよい。一方、パルス幅が大きすぎても使用しない光が増えて無駄となる。このため、光源20は、例えば、パルス幅50ns以下の光パルスを出射する。あるいは、光源20は、パルス幅30ns以下、さらには20ns以下の光パルスを出射してもよい。
【0048】
光源20の照射パターンは、例えば、照射領域内において、均一な強度分布を有するパターンであってもよい。この点で、本実施形態は、例えば特開平11-164826号公報に開示された従来の光計測装置とは異なる。特開平11-164826号公報に開示された装置では、検出器と光源とを3cm程度離し、表面反射成分が、空間的に内部散乱成分から分離される。このため、離散的な光照射とせざるを得ない。これに対し、本実施形態における光計測装置100は、表面反射成分I1を時間的に内部散乱成分I2から分離して低減することができる。このため、均一な強度分布を有する照射パターンの光源20を用いることができる。均一な強度分布を有する照射パターンは、光源20から出射される光を拡散板で拡散することによって形成してもよい。
【0049】
本実施形態では、従来技術とは異なり、ユーザ10の照射点直下でも、内部散乱成分I2を検出することができる。ユーザ10を空間的に広い範囲にわたって光で照射することにより、計測解像度を高めることもできる。
【0050】
[1-2.光検出器30]
光検出器30は、光源20から出射され、ユーザ10の対象部10tから戻ってきた光の少なくとも一部の光量を示す信号を出力する。当該信号は、例えば、反射光パルスのうち、立ち上がり期間の少なくとも一部に含まれる強度に応じた信号、または、立ち下がり期間の少なくとも一部に含まれる強度に応じた信号である。
【0051】
光検出器30は、複数の光電変換素子32と、複数の電荷蓄積部34とを含み得る。具体的には、光検出器30は、2次元に配置された複数の光検出セルを備え得る。そのような光検出器30は、ユーザ10の2次元情報を一度に取得し得る。本明細書において、光検出セルを「画素」とも称する。光検出器30は、例えば、CCDイメージセンサまたはCMOSイメージセンサなどの任意の撮像素子であり得る。より一般的には、光検出器30は、少なくとも1つの光電変換素子32と、少なくとも1つの電荷蓄積部34とを含む。
【0052】
光検出器30は、電子シャッタを備え得る。電子シャッタは、撮像のタイミングを制御する回路である。本実施形態では、制御回路60における検出器制御部62が、電子シャッタの機能を有する。電子シャッタは、受光した光を有効な電気信号に変換して蓄積する1回の信号蓄積の期間と、信号蓄積を停止する期間とを制御する。信号蓄積期間は、「露光期間」と称することもできる。以下の説明では、露光期間の幅を、「シャッタ幅」と称することがある。1回の露光期間が終了し次の露光期間が開始するまでの時間を、「非露光期間」と称することがある。以下、露光している状態を「OPEN」、露光を停止している状態を「CLOSE」と称することがある。
【0053】
光検出器30は、電子シャッタにより、露光期間および非露光期間を、サブナノ秒、例えば、30psから1nsの範囲で調整することができる。距離の計測が目的である従来のTOFカメラは、光源20から出射され被写体で反射されて戻ってきた光の全てを検出する。従来のTOFカメラでは、シャッタ幅が光のパルス幅よりも大きい必要があった。これに対し、本実施形態における光計測装置100では、被写体の光量を補正する必要がない。このため、シャッタ幅がパルス幅よりも大きい必要はない。シャッタ幅を、例えば、1ns以上30ns以下の値に設定することができる。本実施形態における光計測装置100によれば、シャッタ幅を縮小できるため、検出信号に含まれる暗電流の影響を低減することができる。
【0054】
ユーザ10の頭部を光で照射して脳血流などの情報を検出する場合、内部での光の減衰率が非常に大きい。例えば、入射光に対して出射光が、100万分の1程度にまで減衰し得る。このため、内部散乱成分I2を検出するには、1パルスの照射だけでは光量が不足する場合がある。レーザ安全性基準のクラス1での照射では、特に光量が微弱である。この場合、光源20が光パルスを複数回出射し、それに応じて光検出器30も電子シャッタによって複数回露光することにより、検出信号を積算して感度を向上することができる。
【0055】
以下、光検出器30の構成例を説明する。
【0056】
光検出器30は、撮像面上に2次元的に配列された複数の画素を備え得る。各画素は、例えばフォトダイオードなどの光電変換素子と、1つまたは複数の電荷蓄積部とを備え得る。以下、各画素が、光電変換によって受光量に応じた信号電荷を発生させる光電変換素子と、光パルスの表面反射成分I1によって生じた信号電荷を蓄積する電荷蓄積部と、光パルスの内部散乱成分I2によって生じた信号電荷を蓄積する電荷蓄積部とを備える例を説明する。以下の例では、制御回路60は、光検出器30に、ユーザ10の頭部から戻ってきた光パルス中の立ち下がり開始前の部分を検出させることにより、表面反射成分I1を検出させる。制御回路60はまた、光検出器30に、ユーザ10の頭部から戻ってきた光パルス中の立ち下がり開始後の部分を検出させることにより、内部散乱成分I2を検出させる。この例における光源20は2種類の波長の光を出射する。
【0057】
図1Dは、光検出器30の1つの画素201の概略的な構成の例を示す図である。なお、図1Dは、1つの画素201の構成を模式的に示しており、実際の構造を必ずしも反映していない。この例における画素201は、光電変換を行うフォトダイオード203と、電荷蓄積部である第1の浮遊拡散層(Floating Diffusion:FD)204、第2の浮遊拡散層205、第3の浮遊拡散層206、および第4の浮遊拡散層207と、信号電荷を排出するドレイン202とを含む。
【0058】
1回の光パルスの出射に起因して各画素に入射したフォトンは、フォトダイオード203によって信号電荷である信号エレクトロンに変換される。変換された信号エレクトロンは、制御回路60から入力される制御信号に従って、ドレイン202に排出されるか、第1の浮遊拡散層204から第4の浮遊拡散層207のいずれかに振り分けられる。
【0059】
光源20からの光パルスの出射と、第1の浮遊拡散層204、第2の浮遊拡散層205、第3の浮遊拡散層206、および第4の浮遊拡散層207への信号電荷の蓄積と、ドレイン202への信号電荷の排出が、この順序で繰り返し行われる。この繰り返し動作は高速であり、例えば動画像の1フレームの時間内に数万回から数億回繰り返され得る。1フレームの時間は、例えば約1/30秒である。画素201は、最終的に、第1の浮遊拡散層204から第4の浮遊拡散層207に蓄積された信号電荷に基づく4つの画像信号を生成して出力する。
【0060】
この例における制御回路60は、光源20に、第1の波長を有する第1の光パルスと、第2の波長を有する第2の光パルスとを、順に繰り返し出射させる。第1の波長および第2の波長として、ユーザ10の内部組織での吸収率が異なる2波長を選択することにより、ユーザ10の状態を分析することができる。例えば、第1の波長として805nmよりも長い波長を選択し、第2の波長として805nmよりも短い波長を選択してもよい。これにより、ユーザ10の血液中の酸素化ヘモグロビン濃度および脱酸素化ヘモグロビン濃度のそれぞれの変化を検出することが可能になる。
【0061】
制御回路60は、まず、光源20に、第1の光パルスを出射させる。制御回路60は、第1の光パルスの表面反射成分I1がフォトダイオード203に入射している第1の期間に、第1の浮遊拡散層204に信号電荷を蓄積させる。続いて、制御回路60は、第1の光パルスの内部散乱成分I2がフォトダイオード203に入射している第2の期間に、第2の浮遊拡散層205に信号電荷を蓄積させる。次に、制御回路60は、光源20に、第2の光パルスを出射させる。制御回路60は、第2の光パルスの表面反射成分I1がフォトダイオード203に入射している第3の期間に、第3の浮遊拡散層206に信号電荷を蓄積させる。続いて、制御回路60は、第2の光パルスの内部散乱成分I2がフォトダイオード203に入射している第4の期間に、第4の浮遊拡散層207に信号電荷を蓄積させる。
【0062】
このように、制御回路60は、第1の光パルスの出射を開始した後、所定の時間差を空けて、第1の浮遊拡散層204および第2の浮遊拡散層205に、フォトダイオード203からの信号電荷を順次蓄積させる。その後、制御回路60は、第2の光パルスの出射を開始した後、上記所定の時間差を空けて、第3の浮遊拡散層206および第4の浮遊拡散層207に、フォトダイオード203からの信号電荷を順次蓄積させる。以上の動作が、複数回繰り返される。外乱光および環境光の光量を推定するために、光源20を消灯した状態で、不図示の他の浮遊拡散層に信号電荷を蓄積する期間を設けてもよい。第1の浮遊拡散層204から第4の浮遊拡散層207の信号電荷量から、上記他の浮遊拡散層の信号電荷量を差し引くことにより、外乱光および環境光成分を除去した信号を得ることができる。
【0063】
なお、本実施形態では、電荷蓄積部の数を4としているが、目的に応じて2以上の複数の数に設計してよい。例えば、1種類の波長のみを用いる場合には、電荷蓄積部の数は2であってよい。また、使用する波長が1種類であり、表面反射成分I1が検出されない用途では、画素ごとの電荷蓄積部の数は1であってもよい。また、2種類以上の波長を用いる場合であっても、それぞれの波長を用いた撮像を別のフレームで行えば、電荷蓄積部の数は1であってもよい。また、後述するように、表面反射成分I1の検出と内部散乱成分I2の検出とをそれぞれ別のフレームで行えば、電荷蓄積部の数は1であってもよい。
【0064】
図1Eは、光検出器30の構成の一例を示す図である。図1Eにおいて、二点鎖線の枠によって囲まれた領域が1つの画素201に相当する。画素201には1つのフォトダイオードが含まれる。図1Eでは2行2列に配列された4画素のみを示しているが、実際にはさらに多数の画素が配置され得る。画素201は、第1の浮遊拡散層204から第4の浮遊拡散層207を含む。第1の浮遊拡散層204から第4の浮遊拡散層207に蓄積される信号は、あたかも一般的なCMOSイメージセンサの4画素の信号のように取り扱われ、光検出器30から出力される。
【0065】
各画素201は、4つの信号検出回路を有する。各信号検出回路は、ソースフォロワトランジスタ309と、行選択トランジスタ308と、リセットトランジスタ310とを含む。この例では、リセットトランジスタ310が図1Dに示すドレイン202に対応し、リセットトランジスタ310のゲートに入力されるパルスがドレイン排出パルスに対応する。各トランジスタは、例えば半導体基板に形成された電界効果トランジスタであるが、これに限定されない。図示されるように、ソースフォロワトランジスタ309の入力端子および出力端子の一方と、行選択トランジスタ308の入力端子および出力端子のうちの一方とが接続されている。ソースフォロワトランジスタ309の入力端子および出力端子の上記一方は、典型的にはソースである。行選択トランジスタ308の入力端子および出力端子の上記一方は、典型的にはドレインである。ソースフォロワトランジスタ309の制御端子であるゲートは、フォトダイオード203に接続されている。フォトダイオード203によって生成された正孔または電子の信号電荷は、フォトダイオード203とソースフォロワトランジスタ309との間の電荷蓄積部である浮遊拡散層に蓄積される。
【0066】
図1Eには示されていないが、第1の浮遊拡散層204から第4の浮遊拡散層207はフォトダイオード203に接続される。フォトダイオード203と、第1の浮遊拡散層204から第4の浮遊拡散層207の各々との間には、スイッチが設けられ得る。このスイッチは、制御回路60からの信号蓄積パルスに応じて、フォトダイオード203と第1の浮遊拡散層204から第4の浮遊拡散層207の各々との間の導通状態を切り替える。これにより、第1の浮遊拡散層204から第4の浮遊拡散層207の各々への信号電荷の蓄積の開始と停止とが制御される。本実施形態における電子シャッタは、このような露光制御のための機構を有する。
【0067】
第1の浮遊拡散層204から第4の浮遊拡散層207に蓄積された信号電荷は、行選択回路302によって行選択トランジスタ308のゲートがONにされることにより、読み出される。この際、第1の浮遊拡散層204から第4の浮遊拡散層207の信号電位に応じて、ソースフォロワ電源305からソースフォロワトランジスタ309およびソースフォロワ負荷306へ流入する電流が増幅される。垂直信号線304から読み出されるこの電流によるアナログ信号は、列ごとに接続されたアナログ-デジタル(AD)変換回路307によってデジタル信号データに変換される。このデジタル信号データは、列選択回路303によって列ごとに読み出され、光検出器30から出力される。行選択回路302および列選択回路303は、1つの行の読出しを行った後、次の行の読み出しを行い、以下同様に、全ての行の浮遊拡散層の信号電荷の情報を読み出す。制御回路60は、全ての信号電荷を読み出した後、リセットトランジスタ310のゲートをオンにすることにより、全ての浮遊拡散層をリセットする。これにより、1つのフレームの撮像が完了する。以下同様に、フレームの高速撮像を繰り返すことにより、光検出器30による一連のフレームの撮像が完結する。
【0068】
本実施形態では、CMOS型の光検出器30の例を説明したが、光検出器30は他の種類の撮像素子であってもよい。光検出器30は、例えば、CCD型であっても、単一光子計数型素子であっても、EMCCDまたはICCDなどの増幅型イメージセンサであってもよい。
【0069】
図1Fは、本実施形態における1フレーム内の動作の例を示す図である。図1Fに示すように、1フレーム内で、第1の光パルスの出射と第2の光パルスの出射とを交互に複数回切り替えてもよい。このようにすると、2種類の波長による検出画像の取得タイミングの時間差を低減でき、動きがあるユーザ10であっても、ほぼ同時に第1の光パルスおよび第2の光パルスによる撮影が可能である。
【0070】
本実施形態では、光検出器30は、光パルスの表面反射成分I1および/または内部散乱成分I2を検出することができる。表面反射成分I1の時間的または空間的な変化から、ユーザ10の第1の生体情報を取得することができる。第1の生体情報は、例えば、ユーザ10の脈拍であり得る。一方、内部散乱成分I2の時間的または空間的な変化から、ユーザ10の第2の生体情報である脳活動情報を取得することができる。
【0071】
第1の生体情報は、表面反射成分I1を検出する方法とは異なる方法によって取得してもよい。例えば、光検出器30とは異なる他の種類の検出器を利用して、第1の生体情報を取得してもよい。その場合、光検出器30は、内部散乱成分I2のみを検出する。他の種類の検出器は、例えばレーダまたはサーモグラフィであってもよい。第1の生体情報は、例えば、ユーザ10の脈拍、発汗、呼吸、および体温からなる群から選択される少なくとも1つであり得る。第1の生体情報は、ユーザ10の頭部に照射された光パルスの内部散乱成分I2を検出することにより得られる脳活動情報以外の生体情報である。ここで、「脳活動情報以外」とは、第1の生体情報中に脳活動に起因する情報が一切含まれないことを意味するものではない。第1の生体情報は、脳活動とは別の生体活動に起因する生体情報が含まれている。第1の生体情報は、例えば、自律的または反射的な生体活動に起因する生体情報であり得る。
【0072】
[1-3.制御回路60および信号処理回路70]
制御回路60は、光源20の光パルスの出射タイミングと、光検出器30のシャッタタイミングとの時間差を調整する。本明細書では、当該時間差を「位相差」と称することがある。光源20の「出射タイミング」とは、光源20から出射される光パルスが立ち上がりを開始するタイミングである。「シャッタタイミング」とは、露光を開始するタイミングである。制御回路60は、出射タイミングを変化させて位相差を調整してもよいし、シャッタタイミングを変化させて位相差を調整してもよい。
【0073】
制御回路60は、光検出器30の各画素によって検出された信号からオフセット成分を取り除くように構成されてもよい。オフセット成分は、太陽光もしくは蛍光灯などの環境光、または外乱光による信号成分である。光源20の駆動をOFFにして光源20から光が出射されない状態で、光検出器30によって信号を検出することにより、環境光または外乱光によるオフセット成分が見積もられる。
【0074】
制御回路60は、例えばプロセッサおよびメモリの組み合わせ、またはプロセッサおよびメモリを内蔵するマイクロコントローラなどの集積回路であり得る。制御回路60は、例えばプロセッサがメモリに記録されたプログラムを実行することにより、例えば出射タイミングとシャッタタイミングとの調整を行う。
【0075】
信号処理回路70は、光検出器30から出力された画像信号を処理する回路である。信号処理回路70は、画像処理などの演算処理を行う。信号処理回路70は、例えばデジタルシグナルプロセッサ(DSP)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)などのプログラマブルロジックデバイス(PLD)、または中央演算処理装置(CPU)もしくは画像処理用演算プロセッサ(GPU)とコンピュータプログラムとの組み合わせによって実現され得る。制御回路60および信号処理回路70は、統合された1つの回路であってもよいし、分離された個別の回路であってもよい。信号処理回路70は、例えば遠隔地に設けられたサーバなどの外部の装置の構成要素であってもよい。この場合、サーバなどの外部の装置は、無線通信または有線通信により、光源20、光検出器30、および制御回路60と相互にデータの送受信を行う。
【0076】
本実施形態における信号処理回路70は、光検出器30から出力された信号に基づき、皮膚表面の血流および脳血流の時間変化を示す動画像データを生成することができる。信号処理回路70は、そのような動画像データに限らず、他の情報を生成してもよい。例えば、他の機器と同期させることにより、脳における血流量、血圧、血中酸素飽和度、または心拍数などの生体情報を生成してもよい。信号処理回路70は、外乱光によるオフセット成分の見積り、およびオフセット成分の除去を行ってもよい。
【0077】
脳血流量またはヘモグロビンなどの血液内成分の変化と、人間の神経活動との間には密接な関係があることが知られている。例えば、人間の感情の変化に応じて神経細胞の活動が変化することにより、脳血流量または血液内の成分が変化する。したがって、脳血流量または血液内成分の変化などの生体情報を計測できれば、ユーザ10の心理状態を推定することができる。ユーザ10の心理状態は、例えば、気分、感情、健康状態、または温度感覚を意味する。気分は、例えば、快、または不快といった気分を含み得る。感情は、例えば、安心、不安、悲しみ、または憤りといった感情を含み得る。健康状態は、例えば、元気、または倦怠といった状態を含み得る。温度感覚は、例えば、暑い、寒い、または蒸し暑いといった感覚を含み得る。これらに派生して、脳活動の程度を表す指標、例えば熟練度、習熟度、および集中度も、心理状態に含まれ得る。信号処理回路70は、例えば脳血流量の変化に基づいて、ユーザ10の集中度などの心理状態を推定して、推定結果を示す信号を出力してもよい。
【0078】
図1Gは、制御回路60による光源20および光検出器30に関する動作の概略を示すフローチャートである。制御回路60は、概略的には図1Gに示す動作を実行する。なお、ここでは内部散乱成分I2の検出のみを行う場合の動作を説明する。
【0079】
ステップS101では、制御回路60は、まず、光源20に所定時間だけ光パルスを出射させる。このとき、光検出器30の電子シャッタは露光を停止した状態にある。制御回路60は、光パルスの一部がユーザ10の表面で反射されて光検出器30に到達する期間が完了するまで、電子シャッタに露光を停止させる。次に、ステップS102では、制御回路60は、当該光パルスの他の一部がユーザ10の内部を散乱して光検出器30に到達するタイミングで、電子シャッタに露光を開始させる。所定時間経過後、ステップS103では、制御回路60は、電子シャッタに露光を停止させる。続いて、ステップS104では、制御回路60は、上記の信号蓄積を実行した回数が所定の回数に達したか否かを判定する。ステップS104での判定がNoの場合、Yesと判定するまで、ステップS101からステップS103が繰り返される。ステップS104での判定がYesの場合、ステップS105では、制御回路60は、各浮遊拡散層に蓄積された信号電荷に基づく画像を示す信号を光検出器30に生成させて出力させる。
【0080】
以上の動作により、測定対象の内部で散乱された光の成分を高い感度で検出することができる。なお、複数回の光出射および露光は必須ではなく、必要に応じて行われる。
【0081】
[1-4.その他]
光計測装置100は、ユーザ10の2次元像を光検出器30の受光面上に形成する結像光学系を備えてもよい。結像光学系の光軸は、光検出器30の受光面に略直交する。結像光学系は、ズームレンズを含んでいてもよい。ズームレンズの位置が変化するとユーザ10の2次元像の拡大率が変更し、光検出器30上の2次元像の解像度が変化する。したがって、ユーザ10までの距離が遠くても、所望の計測領域を拡大して詳細に観察することが可能である。
【0082】
光計測装置100は、ユーザ10と光検出器30との間に、光源20から出射される波長帯域の光、またはその近傍の光のみを通過させる帯域通過フィルタを備えていてもよい。これにより、環境光などの外乱成分の影響を低減することができる。帯域通過フィルタは、例えば多層膜フィルタまたは吸収フィルタによって構成され得る。光源20の温度変化およびフィルタへの斜入射に伴う帯域シフトを考慮して、帯域通過フィルタの帯域幅は、20から100nm程度の幅を持たせてもよい。
【0083】
光計測装置100は、光源20とユーザ10との間、および光検出器30とユーザ10との間に、それぞれ偏光板を備えてもよい。この場合、光源20側に配置される偏光板と、光検出器30側に配置される偏光板との偏光方向は、直交ニコルの関係であり得る。これにより、ユーザ10の表面反射成分I1のうち正反射成分、すなわち入射角と反射角が同じ成分が光検出器30に到達することを防ぐことができる。つまり、表面反射成分I1が光検出器30に到達する光量を低減させることができる。
【0084】
[2.光源および光検出器の動作]
本実施形態における光計測装置100は、表面反射成分I1と内部散乱成分I2とを区別して検出することができる。ユーザ10の対象部10tが額である場合、検出したい内部散乱成分I2による信号強度は、非常に小さくなる。前述のように、レーザ安全基準を満たす非常に小さな光量の光が照射されることに加えて、頭皮、脳髄液、頭蓋骨、灰白質、白質および血流による光の散乱および吸収が大きいためである。さらに、脳活動時の血流量または血流内成分の変化による信号強度の変化は、さらに数十分の1の大きさに相当し非常に小さくなる。したがって、内部散乱成分I2を検出する場合、撮像の際、検出したい信号成分の数千倍から数万倍である表面反射成分I1は、可能な限り除去される。
【0085】
以下、内部散乱成分I2を検出する光計測装置100における光源20および光検出器30の動作の例を説明する。
【0086】
図1Aに示すように、光源20がユーザ10の対象部10tを光パルスで照射すると、表面反射成分I1および内部散乱成分I2が発生する。表面反射成分I1および内部散乱成分I2はその一部が光検出器30に到達する。内部散乱成分I2は、光源20から出射して、光検出器30に到達するまでにユーザ10の内部を通過する。このため、内部散乱成分I2の光路長は、表面反射成分I1の光路長よりも長くなる。したがって、内部散乱成分I2が光検出器30に到達する時間は、表面反射成分I1が光検出器30に到達する時間よりも平均的に遅れる。
【0087】
図2は、光源20から矩形光パルスが出射され、ユーザ10から戻ってきた光が光検出器30に到達する光信号を表す図である。横軸は、図2の信号(a)から(d)ではいずれも時間(t)を表す。縦軸は、図2の信号(a)から(c)では強度を表し、図2の信号(d)では電子シャッタのOPENまたはCLOSEの状態を表す。図2の信号(a)は、表面反射成分I1を示す。図2の信号(b)は、内部散乱成分I2を示す。図2の信号(c)は、図2の信号(a)に示す表面反射成分I1、および図2の信号(b)に示す内部散乱成分I2の合算成分を示す。図2の信号(a)に示すように、表面反射成分I1の波形は、ほぼ矩形を維持する。一方、内部散乱成分I2は、さまざまな光路長の光の合算である。このため、図2の信号(b)に示すように、内部散乱成分I2は、光パルスの後端が尾を引いたような特性を示す。言い換えれば、内部散乱成分I2の立ち下がり期間は、表面反射成分I1の立ち下がり期間よりも長くなる。図2の信号(c)に示す光信号から内部散乱成分I2の割合を高めて抽出するために、図2の信号(d)に示す通り、表面反射成分I1の後端が到達する時点以降に、電子シャッタの露光が開始される。言い換えれば、表面反射成分I1の波形が立ち下がった時またはその後に露光が開始される。このシャッタタイミングは、制御回路60によって調整される。
【0088】
測定対象物が平面的でない場合、光検出器30の画素によって光が到達するタイミングが異なる。この場合、画素ごとに図2の信号(d)に示すシャッタタイミングを個別に決定してもよい。例えば、光検出器30の受光面に垂直な方向をz方向とする。制御回路60は、対象部の表面におけるz座標の2次元分布を示すデータを予め取得し、このデータに基づいてシャッタタイミングを画素ごとに変化させてもよい。これにより、対象部の表面が湾曲している場合でも、それぞれの位置で最適なシャッタタイミングを決定することができる。
【0089】
図2の信号(a)に示す例では、表面反射成分I1の後端が垂直に立ち下がっている。言い換えると、表面反射成分I1が立ち下がりを開始してから終了するまでの時間がゼロである。しかし、現実には、表面反射成分I1の後端が垂直に立ち下がらない場合がある。例えば、光源20から出射される光パルスの波形の立ち下がりが完全に垂直でない場合、対象部の表面に微細な凹凸がある場合、または表皮内で散乱が生じる場合には、表面反射成分I1の後端が垂直に立ち下がらない。また、ユーザ10は不透明な物体であることから、表面反射成分I1の光量は、内部散乱成分I2の光量よりも非常に大きい。したがって、表面反射成分I1の後端が垂直な立ち下がりの時点からわずかにはみ出した場合であっても、内部散乱成分I2が埋もれてしまう可能性がある。さらに、電子シャッタの読み出し期間中に、電子の移動に伴う時間遅れが発生する場合もある。以上のことから、図2の信号(d)に示すような理想的なバイナリの読み出しを実現できないことがある。その場合には、制御回路60は、電子シャッタのシャッタ開始のタイミングを表面反射成分I1の立ち下がり直後よりやや遅らせてもよい。例えば、0.5nsから5ns程度遅らせてもよい。電子シャッタのシャッタタイミングを調整する代わりに、制御回路60は、光源20の出射タイミングを調整してもよい。言い換えれば、制御回路60は、電子シャッタのシャッタタイミングと光源20の出射タイミングとの時間差を調整してもよい。非接触で脳内の血流量または血流内成分の変化を計測する場合、あまりにもシャッタタイミングを遅らせすぎると、もともと小さい内部散乱成分I2がさらに減少してしまう。このため、表面反射成分I1の後端近傍にシャッタタイミングを留めておいてもよい。前述のように、額内部の散乱による時間遅れは、4ns程度である。この場合、シャッタタイミングの最大の遅らせ量は、4ns程度であり得る。
【0090】
光源20から出射された複数の光パルスの各々を、同じ時間差のシャッタタイミングで露光して信号を蓄積してもよい。これにより、内部散乱成分I2の検出光量が増幅される。
【0091】
ユーザ10と光検出器30の間に帯域通過フィルタを配置することに替えて、またはそれに加えて、光源20に光を出射させない状態で、同じ露光期間で撮影することによってオフセット成分を見積もってもよい。見積もったオフセット成分は、光検出器30の各画素によって検出された信号から差分によって除去される。これにより、光検出器30上で発生する暗電流成分を除去することができる。
【0092】
内部散乱成分I2には、ユーザ10の内部特性情報、例えば、脳血流情報が含まれる。ユーザ10の脳血流量の時間的な変動に応じて、血液に吸収される光の量が変化する。その結果、光検出器30による検出光量も、相応に増減する。したがって、内部散乱成分I2をモニタリングすることにより、ユーザ10の脳血流量の変化から脳活動状態を推定することが可能になる。
【0093】
次に、表面反射成分I1の検出方法の例を説明する。表面反射成分I1には、ユーザ10の表面特性情報、例えば、顔および頭皮の血流情報が含まれる。
【0094】
図3Aは、表面反射成分I1を検出する場合のタイミングチャートの一例を模式的に示す図である。表面反射成分I1の検出のために、例えば、図3Aに示すように、光パルスが光検出器30に到達する前にシャッタをOPENにし、光パルスの後端が到達するよりも前にシャッタをCLOSEにしてもよい。このようにシャッタを制御することにより、内部散乱成分I2の混入を少なくすることができる。その結果、ユーザ10の表面近傍を通過した光の割合を大きくすることができる。シャッタCLOSEのタイミングを、光検出器30への光の到達直後にしてもよい。これにより、光路長が比較的短い表面反射成分I1の割合を高めた信号検出が可能になる。表面反射成分I1の信号を取得することにより、ユーザ10の脈拍、または顔血流の酸素化度を検出することも可能になる。表面反射成分I1の他の取得方法として、光検出器30が光パルス全体を検出したり、光源20から出射された連続光を検出したりしてもよい。
【0095】
図3Bは、内部散乱成分I2を検出する場合のタイミングチャートの一例を模式的に示す図である。パルスの後端部分が光検出器30に到達する期間にシャッタをOPENにすることにより、内部散乱成分I2の信号を取得することができる。
【0096】
図3Bに示す動作をまとめると、制御回路60は、以下の動作を行う。制御回路60は、光源20に、1つ以上の光パルスを出射させる。制御回路60は、光検出器30に、ユーザ10の対象部10tから戻ってきた各光パルスのうち、各光パルスの立ち下がり期間に含まれる成分を検出させる。当該成分は、内部散乱成分I2を含む。制御回路60は、光検出器30に、当該検出によって得られる信号を出力させる。信号処理回路70は、当該信号に基づいて、ユーザ10の脳活動の状態を示す信号を生成する。
【0097】
表面反射成分I1を、内部散乱成分I2を取得する光計測装置100以外の装置によって検出してもよい。内部散乱成分I2を取得する装置とは別の装置、または脈波計もしくはドップラ血流計といった別デバイスを用いてもよい。その場合、当該別デバイスは、デバイス間のタイミング同期、光の干渉、および検出箇所の合わせこみを考慮して使用される。本実施形態のように、同一カメラまたは同一センサによる時分割撮像を行えば、時間的および空間的なずれが発生しにくい。同一のセンサによって表面反射成分I1および内部散乱成分I2の両方の信号を取得する場合、図3Aおよび図3Bに示すように、1フレームごとに取得する成分を切り替えてもよい。あるいは、図1Dから図1Fを参照して説明したように、1フレーム内で高速に取得する成分を交互に切り替えてもよい。その場合、表面反射成分I1と内部散乱成分I2との検出時間差を低減することができる。
【0098】
さらに、表面反射成分I1および内部散乱成分I2のそれぞれの信号を、2つの波長の光を用いて取得してもよい。例えば、750nmおよび850nmの2波長の光パルスを利用してもよい。これにより、それぞれの波長での検出光量の変化から、酸素化ヘモグロビンの濃度変化および脱酸素化ヘモグロビンの濃度変化を算出することができる。表面反射成分I1および内部散乱成分I2を、それぞれ2波長で取得する場合、例えば図1Dから図1Fを参照して説明したように、4種類の電荷蓄積を1フレーム内で高速に切り替える方法が利用され得る。そのような方法により、検出信号の時間的なずれを低減することができる。
【0099】
ここで、生体情報の取得方法の具体例を説明する。
【0100】
血液の大きな役割は、酸素を肺から受け取って組織へと運び、組織からは二酸化炭素を受け取ってこれを肺に循環させることである。血液100mlの中には約15gのヘモグロビンが存在している。酸素と結合したヘモグロビンが酸素化ヘモグロビンであり、酸素と結合していないヘモグロビンが脱酸素化ヘモグロビンである。前述のように、酸素化ヘモグロビンおよび脱酸素化ヘモグロビンの光吸収特性は異なる。酸素化ヘモグロビンは約805nmを超える波長の近赤外線を比較的よく吸収する。これに対し、脱酸素化ヘモグロビンは、805nmよりも短い波長の近赤外線または赤色光を比較的よく吸収する。805nmの波長の近赤外線については、両者の吸収率は同程度である。そこで、600nmよりも長く805nmよりも短い第1の波長と、805nmよりも長く1000nmよりも短い第2の波長とが用いられ得る。例えば、上記の750nmおよび850nmの2波長の光が用いられ得る。これらの光の検出光量に基づいて、血液中の酸素化ヘモグロビンおよび脱酸素化ヘモグロビンのそれぞれの濃度の時間変化を検出することができる。さらに、ヘモグロビンの酸素飽和度を求めることもできる。酸素飽和度とは、血液中のヘモグロビンのうち、どれだけの割合が酸素と結びついているかを示す値である。酸素飽和度は、脱酸素化ヘモグロビンの濃度をC(Hb)、酸素化ヘモグロビンの濃度をC(HbO)として、以下の数式で定義される。
酸素飽和度=C(HbO)/[C(HbO)+C(Hb)]×100(%)
【0101】
生体内には、血液以外にも赤色光および近赤外光を吸収する成分が含まれているが、光の吸収率が時間的に変動するのは、主に動脈血中のヘモグロビンに起因する。よって、吸収率の変動に基づいて、高い精度で血中酸素飽和度を測定することができる。心臓から拍出された動脈血は脈波となって血管内を移動する。一方、静脈血は脈波を持たない。生体に照射した光は、動静脈及び血液以外の組織など生体の各層で吸収を受けて生体を透過するが、動脈以外の組織は時間的に厚さが変動しない。このため、生体内からの散乱光は、脈動による動脈血層の厚さの変化に応じて時間的な強度変化を示す。この変化は動脈血層の厚さの変化を反映しており、静脈血及び組織の影響を含まない。よって、散乱光の変動成分だけに着目することにより、動脈血の情報を得ることができる。時間に応じて変化する成分の周期を測定することにより、脈拍を求めることもできる。
【0102】
光計測装置100は、ユーザ10の頭部に向けてパルス状の近赤外光または可視光を出射し、表面反射成分I1の時間的変化から、頭皮または顔の酸素化ヘモグロビン量の変化または脈拍を検出することができる。光源20は、表面反射成分I1を取得するために、近赤外光または可視光を出射する。近赤外光を用いた場合、昼夜問わず、計測が可能である。脈拍を計測する場合、より感度が高い可視光を用いてもよい。日中であれば外乱光である日射または室内光源を照明代わりに使用してもよい。光量が不足する場合は、専用の光源で補強してもよい。内部散乱成分I2は、脳まで到達した光成分を含む。内部散乱成分I2の時間変化を計測することにより、脳血流の時間的な増減を計測することができる。
【0103】
脳まで到達した光は、頭皮および顔表面も通過する。このため、頭皮および顔の血流の変動も重畳されて検出される。その影響を除去または低減するために、信号処理回路70は、光検出器30によって検出された内部散乱成分I2から表面反射成分I1を減算する処理を行ってもよい。これにより、頭皮および顔の血流情報を除いた純粋な脳血流情報を取得することができる。減算方法には、例えば、内部散乱成分I2の信号から、光路長差を考慮して決定された1以上のある係数を表面反射成分I1の信号に掛けた値を減算する方法が用いられ得る。この係数は、例えば、一般的な人の頭部光学定数の平均値に基づいて、シミュレーションまたは実験によって算出され得る。このような減算処理は、同一のカメラまたはセンサにより、同一の波長の光を用いて計測する場合に容易に行うことができる。これは、時間的および空間的なずれを低減しやすく、内部散乱成分I2に含まれる頭皮血流成分と、表面反射成分I1の特性とを一致させやすいからである。
【0104】
脳と頭皮との間には頭蓋骨が存在する。このため、脳血流の2次元分布と、頭皮および顔の血流の2次元分布とは独立である。したがって、光検出器30によって検出される信号に基づいて、内部散乱成分I2の2次元分布と表面反射成分I1の2次元分布とを、独立成分分析または主成分分析などの統計手法を用いて分離してもよい。
【0105】
[3.ユーザの対象部と光検出器との距離の測定]
次に、ユーザ10の対象部10tと光検出器30との距離に応じてシャッタタイミングを決定する方法の例を説明する。以下の説明において、ユーザ10の対象部10tの中心と、光検出器30の受光面の中心との距離を「計測距離」と称する。
【0106】
光源20から出射された光が光検出器30に戻るまでの時間はその光の移動距離に依存する。したがって、計測距離に応じて、シャッタタイミングも調整され得る。
【0107】
図4は、計測距離に応じて適切なシャッタタイミングを決定する方法の例を示す図である。図4の部分(a)は、光検出器30に到達する光信号の時間応答波形の例を示している。図4の部分(b)は、開始時点の異なる複数の露光期間、および各露光期間において検出される光量の例を模式的に示している。この例では、まず、反射光パルスの立ち下がりの開始から十分に遅れた時点t=tでシャッタが開かれる。このとき、対象部10tからの光信号は、撮影画像にまったく含まれないか、裾野の端のわずかな光信号Iのみが検出される。この光信号Iは、対象部10tの深い箇所の情報、すなわち比較的光路長が長い光の情報を相対的に多く含む信号である。次の光パルスについては、シャッタタイミングをt=tから一定時間だけパルス波後端に近づけたタイミングt=tでシャッタが開かれる。すると、シャッタのずらし具合に応じて、検出される光信号Iの光量も変化する。同様に、制御回路60は、t=t、t=tと、露光開始のタイミングを調整し、一定時間ずつ徐々にパルス波後端にシャッタタイミングを近づけていく。光信号Iが急激に増加し始めたタイミングが、パルス波後端部の始点に相当する箇所であると判断され得る。当該一定時間は、内部散乱成分I2のパルス波後端の裾野の光信号Iの広がりと比較して、小さい値である。当該一定時間は、例えば、30psから1nsの範囲内の値であり得る。
【0108】
図4の部分(c)は、光源20からの出射光パルスと、光検出器30上での光信号と、シャッタタイミングとの時間的な関係を示している。この例では、光源20から定期的に光パルスが出射される。1つ前のシャッタが閉じた後、次の光パルスが出射される。光パルスの間隔は、図示される間隔よりも短くしてもよい。光源20から出射される連続した2つの光パルスの間の消灯期間は、例えばシャッタ幅の4倍以下、さらに2倍以下、さらに1.5倍以下であってもよい。あるいは、連続した2つの光パルスの間の消灯期間は、パルス幅の4倍以下、さらには2倍以下、さらには1.5倍以下であってもよい。このように、連続する光パルスの間隔を短くすることにより、光検出器30による光検出の単位時間あたりの積算パルス数を増加させることができる。その結果、予め定められたフレームレートで光信号を取得する場合の感度を向上させることができる。
【0109】
最適なシャッタタイミングを探索する方法として、図4に示すシャッタタイミングを連続的に変化させる方法以外の方法を用いてもよい。例えば、二分法もしくはニュートン法などの反復法、または数値計算手法を用いてもよい。これにより、撮影回数を減らすことができ、探索時間を短縮することが可能となる。
【0110】
図4に示す方法は、ユーザ10の対象部10tまでの距離を直接的には求めていない。この方法以外にも、例えば複眼・双眼カメラを用いた三角測量による測定、または、TOF方式を用いた飛翔時間の測定により、直接的に距離を測定してシャッタタイミングを決定してもよい。
【0111】
1つの光パルスの露光だけでは光量が少なくSN比が低下し得る。SN比の低下を抑制するために、同じ時間差で複数回露光を行い、取得した信号を積算してもよい。
【0112】
図4に示す例ではシャッタタイミングが調整されているが、シャッタタイミングの代わりに光源20の出射タイミングが調整されてもよい。その場合、シャッタタイミングは一定間隔であってもよい。
【0113】
図5は、対象物の距離に応じてシャッタタイミングを調整する動作の概要を示すフローチャートである。まず、ステップS201において、制御回路60は、計測距離の測定を実施する。この測定は、上記のように、距離を直接的に測定する方法に限らず、間接的に距離を測定する方法でもよい。次に、ステップS202において、制御回路60は、計測距離に応じてシャッタタイミング、または出射光パルスのタイミングを決定する。このタイミングは、シャッタがユーザ10の対象部10tからの戻り光のうち表面反射成分I1を含まない時間に設定され得る。さらに、ステップS203において、制御回路60は、光源20と同期させて、光検出器30に、決定したシャッタタイミングでユーザ10の対象部10tを撮影させる。
【0114】
シャッタタイミングまたは光源20の発光タイミングを決定する動作で使用される光源20のパルス幅またはシャッタ幅は、ユーザの脳血流情報を取得する動作で使用されるパルス幅またはシャッタ幅と異なっていてもよい。
【0115】
[4.脳血流量の変化の検出例]
次に、ユーザ10の脳血流量の変化を検出する方法の例を説明する。
【0116】
図6Aは、脳血流量の時間変化の一例を模式的に示す図である。図6Aに示すように、ユーザ10の対象部10tが光源20からの光で照射され、その戻り光が検出される。この場合、表面反射成分I1は、内部散乱成分I2に比べ非常に大きい。しかし、前述したシャッタ調整により、内部散乱成分I2のみを抽出することができる。図6Aに示すグラフは、脳血液中の酸素化ヘモグロビン(HbO)および脱酸素化ヘモグロビン(Hb)のそれぞれの濃度の経時変化を示している。この例における内部散乱成分I2は、2波長の光を用いて取得される。図6Aに示す濃度は、平常時における量を基準とする変化量を示している。この変化量は、光の強度信号に基づいて、信号処理回路70によって算出される。平常状態、集中状態、またはリラックス状態などの脳活動状態に応じて、脳血流量に変化が見られる。対象部10tの場所ごとに、例えば、脳活動の違い、または吸収係数もしくは散乱係数の違いがある。このため、ユーザ10の対象部10t内の同じ位置で測定が行われ得る。脳活動の経時変化を見る場合、脳血流の絶対量がわからなくても、脳血流の時間的な相対変化から、対象者の状態を推定することが可能である。
【0117】
脳活動変化の検出には必ずしも2波長の光を用いる必要はない。1波長の光を用いる場合、例えば810nmから880nmの範囲内のいずれかの波長の光を使用してもよい。この波長範囲の光は、HbOによって吸収されやすい。脳活動状態が変化した場合の血流量の変化は、HbOのほうがHbよりも大きいことが多い。よって、HbOの光吸収率が大きい波長範囲の光で計測するだけでも脳活動変化の傾向を読み取ることが可能である。
【0118】
図6Bは、ユーザ10の対象部10t内の複数箇所で計測を同時に行う場合の例を模式的に示す図である。この例では、2次元照射または2次元撮像のため、脳血流量の2次元分布を取得することが可能である。この場合、光源20の照射パターンは、例えば、均一強度の一様な分布、ドット状の分布、またはドーナツ状の分布であってもよい。均一強度の一様な分布の照射であれば、対象部10t上の照射位置の調整が不要、または簡便にできる。また、一様な分布の照射であれば、広範囲からユーザ10の対象部10tに光が入射する。このため、光検出器30によって検出される信号を増強することができる。さらに、照射領域内であれば任意の位置で計測できる。ドット状の分布、またはドーナツ状の分布のような部分的な照射であれば、対象部10tをその照射領域から外すだけで表面反射成分I1の影響を低減できる。
【0119】
図7Aは、光の照射領域22の例を模式的に示す図である。非接触での脳血流測定では、装置から対象部までの距離の2乗に反比例して検出光量が減衰する。そこで、光検出器30によって検出される各画素の信号を近傍の複数の画素の信号を積算することによって増強してもよい。このようにすることでSN比を維持したまま積算パルス数を低減できる。これにより、フレームレートを向上させることができる。
【0120】
図7Bは、ユーザ10の対象部10tが横方向にシフトした場合における信号の変化を模式的に示す図である。前述のように、平常状態から脳活動状態が変化したときの脳血流量と、平常状態における脳血流量との差分を検出することにより、脳活動の変化が読み取られる。2次元的に配列された複数の光電変換素子を備える光検出器30を使用する場合、図7Bの上段に示すように、2次元の脳活動分布を取得することができる。この場合、平常状態における信号を事前に取得しなくても、2次元分布内での相対的な強度分布から脳活動が活発な部位を検出することができる。本実施形態では非接触で計測が行われるため、図7Bの下段に示すように、対象部10tの位置が計測中に変化してしまうことがある。これは、例えばユーザ10が呼吸のために僅かに動いた場合に生じ得る。一般に、脳血流量の2次元分布は微小時間内で急激に変化しない。このため、例えば、検出された2次元分布のフレーム間でのパターンマッチングにより、対象部10tの位置ずれを補正することができる。あるいは、呼吸のような周期的な動きであれば、その周波数成分のみを抽出し補正または除去してもよい。対象部10tは、単一の領域である必要はなく、複数の領域であってもよい。当該複数の領域は、例えば、左右1個ずつ、あるいは、2×6のマトリックス状のドット分布であってもよい。
【0121】
[5.計測中のユーザの動きの影響を抑制する信号処理の例]
次に、計測中にユーザが前後に動いた場合であっても、内部散乱成分I2を高い精度で検出するための制御方法を説明する。以下の説明において、ユーザの前または後ろ方向の動きを「体動」と表現する。
【0122】
図1Aに示す例において、計測中のユーザ10の体動により、光計測装置100からユーザ10までの距離が変化し得る。この距離の変化を考慮せずに前述の処理を行うと、内部散乱成分I2を正しく検出できない可能性がある。
【0123】
図8Aは、ユーザ10の対象部が装置から所定の距離にある場合において検出される反射光パルスの後端成分の例を模式的に示す図である。図8Bは、計測中にユーザ10の対象部が装置に近づいた場合において検出される反射光パルスの後端成分の例を模式的に示す図である。図8Aおよび図8Bにおける長方形は、一定の時間長Tの露光期間を表す。この例では、各光パルスの出射が開始される時点が時間軸の原点であり、時刻tから時刻t+Tまで露光される。ユーザ10の体動がない場合において検出される反射光パルスの積算光量をI(t)とする。ユーザ10の体動がある場合において検出される反射光パルスの積算光量をI(t)とする。積算光量は、時刻tから時刻t+Tまでの間に到達した反射光パルスの光量を指す。すなわち、積算光量は、時間長Tの露光期間における検出信号の合計値に相当する。また、積算光量は、時刻tから時刻t+Tまでの反射光パルスの強度の積分によっても算出することができる。図8Aおよび図8Bに示す斜線部の面積が、当該積算光量に相当する。
【0124】
図8Aおよび図8Bに示すように、対象部までの距離が短くなると、積算光量I(t)は、積算光量のI(t)よりも減少する。これは、反射光パルスが光検出器30に到達するタイミングが早くなることに起因する。体動によって反射光パルスの到達するタイミングがΔtだけ早くなるとすると、I(t)=I(t+Δt)の関係が成り立つ。対象部までの距離が短くなるときはΔt>0であり、対象部までの距離が長くなるときはΔt<0である。対象部までの距離が長くなる場合、積算光量I(t)は、積算光量I(t)よりも増加する。ユーザ10の体動によって積算光量が変動することにより、内部散乱成分I2の計測精度が低下し得る。
【0125】
本実施形態における光計測装置100では、1つの反射光パルスについて、異なる2つの露光期間で取得した2つの信号を組み合わせることにより、内部散乱成分I2が計測される。より具体的には、制御回路60は、以下の動作を実行する。
(1)光源20に、第1の光パルスおよび第2の光パルスを異なるタイミングで出射させる。
(2)光検出器30に、第1の光パルスに起因する第1の反射光パルスの立ち下がり期間の開始から第1の時間が経過した第1の時点から一定の時間長の露光期間の間に到達した第1の反射光パルスの成分の光量を示す第1の信号を出力させる。
(3)光検出器30に、第2の光パルスに起因する第2の反射光パルスの立ち下がり期間の開始から第1の時間よりも長い第2の時間が経過した第2の時点から一定の時間長の露光期間の間に到達した第2の反射光パルスの成分の光量を示す第2の信号を出力させる。
【0126】
信号処理回路70は、第1の信号および第2の信号を用いた演算を実行することにより、ユーザの脳血流情報を生成する。
【0127】
このような動作により、ユーザが前後に動いた場合でも、内部散乱成分I2をより正確に検出することができる。
【0128】
図9は、例示的な実施形態による計測の原理を説明する図である。
【0129】
図9の部分(a)は、光検出器30に到達する反射光パルスの光信号の時間応答波形の例を模式的に示している。図9の部分(b)は、反射光パルスの後端成分の一部が、異なる2つの露光期間で検出される状況を模式的に示している。図9の部分(b)に示す例では、t=tからt=t+Tまでの反射光パルスの積算光量I(t)、およびt=tからt=t+Tsまでの反射光パルスの積算光量I(t)が検出される。tとtとの関係については後述する。図9の部分(c)は、時刻tから時刻t+Tまでの反射光パルスの積算光量I(t)の時間依存性を模式的に示している。図9の部分(d)は、ユーザ10の体動による積算光量I(t)の変化量ΔI(t)の絶対値を積算光量I(t)で割った関数J(t)の時間依存性を模式的に示している。ΔI(t)=|I(t)‐I(t)|である。J(t)は、以下の式(1)によって表される。
【数1】
【0130】
J(t)はt=tで最大になる。tはtよりも先の時点であり、tはtよりも後の時点である。ユーザ10の体動の速度は光速よりもはるかに遅いことから、積算光量I(t)=I(t+Δt)におけるΔtは十分に小さい。したがって、積算光量I(t)=I(t+Δt)は、以下の式(2)に近似される。
【数2】
【0131】
式(2)を式(1)に代入することにより、J(t)は、以下の式(3)によって近似される。
【数3】
【0132】
図9の部分(d)に示すJ(t)の時間依存性は、式(3)から得られる。以下の議論では、Δtの具体的な値を知る必要はない。
【0133】
図9の部分(d)に示す例において、tおよびtは、J(t)=J(t)を満たすように設定され得る。J(t)=J(t)は、以下の式(4)によって表される。
【数4】
【0134】
式(4)から得られるI(t)/I(t)=I(t)/I(t)を変形すると、以下の式(5)が得られる。
【数5】
【0135】
式(5)において、ユーザ10の体動がない場合のI(t)とI(t)との比率と、ユーザ10の体動がある場合のI(t)とI(t)との比率は同じである。したがって、J(t)=J(t)を満たすようにtおよびtを設定すると、積算光量I(t)と積算光量I(t)との比率Rは、ユーザ10の体動によらず一定であることがわかる。言い換えれば、ユーザ10の対象部10tの内部状態が一定のとき、ユーザ10の対象部10tまでの距離が第1の距離にある場合における比率Rは、ユーザ10の対象部10tまでの距離が第1の距離とは異なる第2の距離にある場合における比率Rに等しい。このように、比率Rは、ユーザ10の体動による影響を受けない。
【0136】
除算によって算出された比率Rは、絶対値ではなく相対値である。したがって、フレームごとの計測によって得られた比率Rの時間依存性は、例えば、ユーザ10の頭部での脳血流が、計測開始時から時間経過によってどれだけ変化するかを調べるときに有効である。比率Rの時間依存性は、計測開始時の比率RによってR/Rに規格化されてもよい。計測開始時の脳血流の具体的な値がわかれば、当該値をR/Rに掛けることにより、脳血流の具体的な時間依存性を知ることができる。
【0137】
J(t)≠J(t)の場合でも、J(t)とJ(t)との差があまり大きくなければ、比率Rは、ユーザ10の体動に大きく影響を受けないことが期待できる。ユーザ10の体動による比率Rの変化量ΔRを比率Rで割った値が、例えば|ΔR|/R<0.2の範囲内であれば、比率Rはユーザ10の体動に関係なく実質的に等しいと言い得る。さらに、J(t)≠J(t)の場合でも、J(t)が等しくなるように、例えば、比率RにおけるI(t)およびI(t)にそれぞれ重みを掛け、および/または補正値を足してもよい。
【0138】
次に、上記の原理に基づいてユーザ10の脳血流情報を取得するときの、本実施形態における光計測装置100の動作を説明する。
【0139】
図10は、例示的な実施形態における光計測装置100の動作の一例を示すフローチャートである。ユーザ10の対象部と光検出器30との距離は所定距離にある。当該距離は、光計測装置100を使用する際のユーザ10の対象部と光検出器30との適正距離範囲として予め想定された距離範囲内にある。以下の説明において、反射光パルスの立ち下がり期間の開始から第1の時間が経過した第1の時点が、図9に示すtに相当し、反射光パルスの立ち下がり期間の開始から第1の時間よりも長い第2の時間が経過した第2の時点が、図9に示すtに相当する。
【0140】
ステップS301において、制御回路60は、光源20に第1の光パルスおよび第2の光パルスを異なるタイミングで出射させる。第1の光パルスおよび第2の光パルスに起因して、第1の反射光パルスおよび第2の反射光パルスが、ユーザ10の頭部から光検出器30にそれぞれ戻ってくる。
【0141】
ステップS302において、制御回路60は、光検出器30に、第1の反射光パルスの立ち下がり期間におけるt=tからt=t+Tまでの第1の積算光量を検出させると共に、第1の積算光量を示す第1の信号を出力させ、第2の反射光パルスの立ち下がり期間におけるt=tからt=t+Tまでの第2の積算光量を検出させると共に、第2の積算光量を示す第2の信号を出力させる。
【0142】
本明細書において、第1の反射光パルスの立ち下がり期間を、「第1の立ち下がり期間」と称し、第2の反射光パルスの立ち下がり期間を、「第2の立ち下がり期間」と称することがある。また、第1の反射光パルスの立ち下がり期間におけるt=tからt=t+Tまでの部分を「第1の部分」と称し、第2の反射光パルスの立ち下がり期間におけるt=tからt=t+Tまでの部分を「第2の部分」と称することがある。また、第1の反射光パルスのt=tからt=t+Tまでの露光期間を、「第1の時間長を有する第1の期間」と称し、第2の反射光パルスのt=tからt=t+Tまでの露光期間を、「第2の時間長を有する第2の期間」と称することがある。第1の反射光パルスの第1の立ち下がり期間の開始から第1の時点までの時間間隔は、第2の反射光パルスの第2の立ち下がり期間の開始から第2の時点までの時間間隔とは異なる。図9に示す例では、第1の時間長と第2の時間長とは同一であるが、上記の原理が有効である範囲内で異なっていてもよい。
【0143】
制御回路60は、光検出器30に第1の積算光量および第2の積算光量を検出させた後、光検出器30に第1の信号および第2の信号を出力させてもよい。あるいは、制御回路60は、光検出器30に第1の積算光量を検出させた後に第1の信号を出力させ、次に、光検出器30に第2の積算光量を検出させた後に第2の信号を出力させてもよい。あるいは、制御回路60は、光検出器30に第2の積算光量を検出させた後に第2の信号を出力させ、次に、光検出器30に第1の積算光量を検出させた後に第1の信号を出力させてもよい。
【0144】
反射光パルスの検出では、図9の部分(b)に示すように、一般にt=tからt=t+Tまでの露光期間と、t=tからt=t+Tまでの露光期間とが重なっている。2つの露光期間が重なっている期間では、同じ画素において、1つの反射光パルスの第1の積算光量に相当する信号電荷と、当該1つの反射光パルスの第2の積算光量に相当する信号電荷とを、異なる信号蓄積部に蓄積することができない。このため、同じ画素において、第1の積算光量および第2の積算光量は、1つの反射光パルスからではなく、第1の反射光パルスおよび第2光反射パルスからそれぞれ検出される。
【0145】
ステップS303において、信号処理回路70は、第1の信号および第2の信号を用いた演算を実行することにより、ユーザ10の脳血流情報を生成する。
ステップS304において、信号処理回路70は、計測が終了したか否かを判定する。この判定がNoの場合、YESと判定するまで、制御回路60および信号回路70は、ステップS301からステップ303を繰り返す。計測が終了したか否かの判定は、例えばユーザからの停止指示があったか否かに基づいて行われうる。あるいは、計測開始からの経過時間が既定の時間に達したか否か、または計測開始からのデータの蓄積量が既定のデータ量に達したか否か等に基づいて終了の判定を行ってもよい。
これにより、第1の信号の変動および第2の信号の変動に基づき、ユーザ10の脳血流の変動を示す情報を生成することができる。式(5)に示すように、第1の信号および第2の信号の一方の値を、第1の信号および第2の信号の他方の値で割った演算値は、ユーザ10の体動によってユーザ10の対象部と光検出器30との距離が変化しても、当該距離が所定距離にある場合における演算値に実質的に等しい。当該演算値から、ユーザ10の脳血流情報が生成される。
【0146】
制御回路60は、ステップS301およびステップS302を繰り返し実行してもよい。この場合、光源20から出射された複数の第1の光パルスにそれぞれ起因する複数の第1の反射光パルスが、ユーザ10の頭部から光検出器30に戻ってくる。同様に、光源20から出射された複数の第2の光パルスにそれぞれ起因する複数の第2の反射光パルスが、ユーザ10の頭部から光検出器30に戻ってくる。第1の信号は、複数の第1の反射光パルスのそれぞれの立ち下がり期間におけるt=tからt=t+Tまでの第1の積算光量の合計を示す。同様に、第2の信号は、複数の第2の反射光パルスのそれぞれの立ち下がり期間におけるt=tからt=t+Tまでの第2の積算光量の合計を示す。
【0147】
ステップS301およびステップS302の繰り返しにおいて、制御回路60は、光源20に、第1の光パルスおよび第2の光パルスを交互に複数回出射させてもよい。あるいは、制御回路60は、光源20に、第1の光パルスを複数回出射させた後第2の光パルスを複数回出射させるか、または、第2の光パルスを複数回出射させた後第1の光パルスを複数回出射させてもよい。第1の光パルスの出射回数と、第2の光パルスの出射回数とは同じであってもよいし、異なっていてもよい。出射回数が異なる場合は、ステップS303における第1の信号および第2の信号を用いた演算において、出射回数の違いを補正してもよい。
【0148】
およびtは、計測を開始する前に、キャリブレーション動作によって調整される。次に、計測を開始する前の、本実施形態における光計測装置100の動作を説明する。
【0149】
図11は、計測を開始する前の光計測装置100の動作の一例を示すフローチャートである。当該動作を実行する前に、例えば図4に示す方法により、ユーザ10の対象部と光検出器30との距離が測定される。当該距離を、光計測装置100を使用する際のユーザ10の対象部と光検出器30との適正距離とする。以下の説明において、反射光パルスの立ち下がり期間の開始時点から第3の時間が経過した時点が、図9に示すtに相当する。
【0150】
ステップS401において、制御回路60は、光源20に、光パルスを出射させる。当該光パルスに起因して、反射光パルスが、ユーザ10の頭部から光検出器30に戻ってくる。
【0151】
ステップS402において、制御回路60は、光検出器30に、反射光パルスの強度の増加が開始してから減少が終了するまでの期間における時刻tから時刻t+Tまでの積算光量I(t)を示す信号を出力させる。反射光パルスの強度の増加が開始してから減少が終了するまでの期間は、反射光パルス全体が光検出器30に入射し始めてから入射し終わるまでの期間である。
【0152】
ステップS403において、制御回路60は、tを微小時間δt(>0)だけ増加させる。微小時間δtは、例えば、数10psから数10nsである。なお、微小時間δtは、積算光量I(t)=I(t+Δt)におけるΔtとは関係ない。
【0153】
ステップS404において、制御回路60は、時刻tおよび/または時刻t+Tが、反射光パルスの強度の増加が開始してから減少が終了するまでの期間内にあるか否かを判定する。なお、図11に示す動作を開始する前に、時刻t+Tは、反射光パルスの強度の増加が開始する時点と一致するように設定してもよい。一方、式(3)の演算では、反射光パルスの後端付近での積算光量I(t)の時間依存性が用いられる。したがって、図11に示す動作を開始する前に、時刻t+Tは、反射光パルスの立ち下がり期間の開始時点と一致するように設定してもよい。時刻t+Tの代わりに、時刻tが、反射光パルスの立ち下がり期間の開始時点と一致するように設定してもよい。ステップS404での判定がYesの場合、再びステップS401に戻る。ステップS404での判定がNoの場合、ステップS405に進む。
【0154】
ステップS401からステップS403の繰り返しにより、制御回路60は、ステップS401およびステップS402に示す動作を、時刻tから時刻t+Tまでの露光期間の起点の時刻tを微小時間δtずつシフトさせながら連続して実行する。制御回路60は、以下の動作を実行すると言い得る。すなわち、制御回路60は、光源20に複数の光パルスを出射させ、光検出器30に、複数の光パルスに起因する複数の反射光パルスを、複数の反射光パルスの各々の強度の減少が開始してから検出を開始するまでの時間差を微小時間ずつシフトさせながら、検出させる。本明細書では、ステップS401からステップS403の繰り返しにおける時刻tから時刻t+Tまでの露光時間の時間長を、「第3の時間長」と称することがある。第3の時間長は、第1の時間長および第2の時間長と同一であるが、上記の原理が有効である範囲内で異なっていてもよい。
ステップS405において、制御回路60は、ステップS401からステップS403の繰り返しによって取得される信号の時間依存性から、反射光パルスの積算光量I(t)を取得する。当該時間依存性は、微小時間δtの離散的なサンプリングによって得られる。
【0155】
ステップS406において、信号処理回路70は、式(3)におけるJ(t)が最大になる第3の時間を算出する。式(3)の演算において、dI(t)/dtは、例えば差分によってdI(t)/dt≒[I(t+δt)‐I(t)]/δtに近似される。これにより、式(3)は、以下の式(6)に近似される。
【数6】
【0156】
式(6)において、|Δt|/δtの具体的な値を知る必要はない。信号処理回路70は、ステップS401からステップS403の繰り返しにおける各光パルスの立ち下がり期間の開始時点から、信号の起点となる時間に対する時間依存性を示すI(t)の微小時間δtでの変化量の絶対値|I(t+δt)‐I(t)|をI(t)で割った|I(t+δt)‐I(t)|/I(t)が最大になる第3の時間を算出する。本明細書において、第1の反射光パルスの第1の立ち下がり期間の開始時点から第3の時間が経過した時点を、「第3の時点」と称し、第2の反射光パルスの第2の立ち下がり期間の開始時点から第3の時間が経過した時点を、「第4の時点」と称することがある。なお、式(6)における|Δt|/δtを省略して、J(t)=|I(t+δt)‐I(t)|/I(t)としてもよい。
【0157】
ステップS407において、制御回路60は、第1の時間を第3の時間よりも短く設定し、第2の時間を第3の時間よりも長く設定する。すなわち、t<tおよびt>tである。t<tは、第1の時点が第3の時点よりも前であるとも言い得る。t>tは、第2の時点が第4の時点よりも後であるとも言い得る。J(t)が、光パルスが立ち下がり期間の開始から第1の時間を経過した時点であるt=tと、第2の時間を経過したt=tとにおいて同じ値を示すとき、J(t)=J(t)が満たされる。このとき、式(5)における比率Rにより、ユーザ10の体動による計測精度の低下を最も抑制することができる。
【0158】
本実施形態における光計測装置100では、ユーザ10の対象部と光検出器30との距離が所定距離範囲にある状態で使用されることを想定している。例えば、光検出器30の前に椅子または座席があり、光検出器30と椅子または座席との距離が固定されている場合、ユーザ10が毎回同じ姿勢で椅子または座席に座れば、ユーザ10の対象部と光検出器30との距離は毎回ほとんど同じであると考えられる。したがって、計測を開始する前に、図11に示すステップS401からステップS407によってtおよびtが一旦設定されれば、次回以降は、同じtおよびtを用いて、図10に示すステップS301からステップS303を実行することができる。
【0159】
また、計測のたびに距離が異なる場合は、一定期間ごとに図11に示すステップS401からステップS407によってtおよびtを設定し直してもよい。
【0160】
あるいは、別途設けられた距離センサによりユーザ10の対象部と光検出器30との距離が大きく変動したことを検知した場合に、図11に示すステップS401からステップS407によってtおよびtを設定し直してもよい。
【0161】
次に、本実施形態における光計測装置100の変形例を説明する。前述した例では、第1の積算光量および第2の積算光量は、それぞれ第1の反射光パルスおよび第2の反射光パルスから検出された。以下の変形例では、第1の積算光量および第2の積算光量が、1つの反射光パルスから検出される。ここでは、光検出器30は、複数の画素を備えるイメージセンサである。各画素は、ユーザ10の頭部から戻ってきた反射光パルスの少なくとも一部の光量を示す信号を出力する。
【0162】
図12は、光計測装置100の動作の第1の変形例を示すフローチャートである。制御回路60は、図10に示すステップS301からステップS303を実行する代わりに、図12に示す以下のステップS501からステップS503を実行してもよい。
【0163】
ステップS501において、制御回路60は、光源20に光パルスを出射させる。当該光パルスに起因して、反射光パルスが、ユーザ10の頭部からイメージセンサに戻ってくる。
【0164】
ステップS502において、制御回路60は、イメージセンサに、複数の画素の1つの画素における、反射光パルスの立ち下がり期間におけるt=tからt=t+Tまでの第1の積算光量を検出させると共に、第1の積算光量を示す第1の信号を出力させる。さらに、制御回路60は、イメージセンサに、複数の画素の上記1つの画素に隣接する画素における、当該反射光パルスの立ち下がり期間におけるt=tからt=t+Tまでの第2の積算光量を検出させると共に、第2の積算光量を示す第2の信号を出力させる。複数の画素のうち、隣接する2つの画素に入射する反射光パルスの波形は、ほとんど同じであると考えられる。これにより、第1の積算光量および第2の積算光量を、同じ1つの反射光パルスから得ることができる。制御回路60は、イメージセンサに、第1の積算光量および第2の積算光量を検出させた後、第1の信号および第2の信号を出力させる。本明細書において、反射光パルスの立ち下がり期間におけるt=tからt=t+Tまでの部分を「第1の部分」と称し、当該反射光パルスの立ち下がり期間におけるt=tからt=t+Tまでの部分を「第2の部分」と称することがある。また、反射光パルスのt=tからt=t+Tまでの露光期間を、「第1の時間長を有する第1の期間」と称し、当該反射光パルスのt=tからt=t+Tまでの露光期間を、「第2の時間長を有する第2の期間」と称することがある。第1の時間長と第2の時間長とは同一であるが、上記の原理が有効である範囲内で異なっていてもよい。
【0165】
制御回路60は、ステップS501およびステップS502を繰り返し実行してもよい。この場合、光源20から出射された複数の光パルスにそれぞれ起因する複数の反射光パルスが、ユーザ10の頭部から光検出器30に戻ってくる。第1の信号は、複数の画素の1つの画素における、複数の反射光パルスのそれぞれの立ち下がり期間におけるt=tからt=t+Tまでの第1の積算光量の合計を示す。同様に、第2の信号は、複数の画素の上記1つの画素に隣接する画素おける、当該複数の反射光パルスのそれぞれの立ち下がり期間におけるt=tからt=t+Tまでの第2の積算光量の合計を示す。
【0166】
ステップS503の動作は、ステップS303の動作と同じである。
【0167】
前述した例では、t=tからt=t+Tまでの露光期間と、t=tからt=t+Tまでの露光期間とが重なっている。このため、同じ画素において、1つの反射光パルスから、第1の積算光量、および第2の積算光量を検出することはできない。一方、t=tからt=t+Tまでの露光期間と、t=tからt=t+Tまでの露光期間とが重なっていなければ、同じ画素において、1つの反射光パルスから、第1の積算光量、および第2の積算光量を検出することができる。
【0168】
図13は、計測の原理を説明する他の図である。
【0169】
図13の部分(a)は、光検出器30に到達する反射光パルスの光信号の時間応答波形の例を模式的に示している。図13の部分(b)は、反射光パルスの後端成分の一部が、異なる2つの露光期間で検出される状況を模式的に示している。図13の部分(c)は、時刻tから時刻t+Tまでの反射光パルスの積算光量I(t)の時間依存性を模式的に示している。図13の部分(d)は、関数J(t)の時間依存性を模式的に示している。
【0170】
図13の部分(b)に示すように、t=tからt=t+Tまでの露光期間と、t=tからt=t+Tまでの露光期間とは重ならない。この場合、図13の部分(c)に示す反射光パルスの積算光量I(t)の時間依存性は、図9の部分(c)に示す反射光パルスの積算光量I(t)の時間依存性とは異なる。しかし、図13の部分(d)に示す関数J(t)は、図9の部分(d)に示す関数J(t)に類似している。したがって、前述した原理により、J(t)=J(t)を満たすようにtおよびtを設定すると、積算光量I(t)と積算光量I(t)との比率Rは、ユーザ10の体動によらず一定である。
【0171】
図14は、光計測装置100の動作の第2の変形例を示すフローチャートである。制御回路60は、図10に示すステップS301からステップS304を実行する代わりに、図14に示す以下のステップS601からステップS604を実行してもよい。図10に示すフローチャートと重複する内容については省略する。
【0172】
ステップS601において、制御回路60は、光源20に光パルスを出射させる。光パルスに起因して、反射光パルスが、ユーザ10の頭部から光検出器30に戻ってくる。
【0173】
ステップS602において、制御回路60は、光検出器30に、反射光パルスの立ち下がり期間におけるt=tからt=t+Tまでの第1の積算光量を検出させると共に、第1の積算光量を示す第1の信号を出力させ、当該反射光パルスの立ち下がり期間におけるt=tからt=t+Tまでの第2の積算光量を検出させると共に、第2の積算光量を示す第2の信号を出力させる。
【0174】
ステップS603の動作は、ステップS303の動作と同じである。
ステップS604において、信号処理回路70は、計測が終了したか否かを判定する。この判定がNoの場合、YESと判定するまで、制御回路60および信号回路70は、ステップS601からステップ603を繰り返す。
【0175】
次に、本実施形態における光計測装置100の応用例を説明する。
【0176】
図15は、自動車内の座席12に座るユーザ10の脳血流情報を取得する例を模式的に示す図である。図15に示す例では、自動車の運転中に、光計測装置100の光検出器30によってユーザ10の脳血流情報が計測される。脳血流情報を計測して、ユーザ10が漫然状態であるか、または、事故を起こす可能性があるかを調べることができる。脳血流情報の計測時に、車体の振動に起因してユーザ10の体動が生じ、ユーザ10の対象部と光検出器30との距離が変化し得る。この場合でも、本実施形態における光計測装置100では、式(5)における比率Rにより、ユーザ10の脳血流情報がユーザ10の体動によって大きく影響を受けることはない。したがって、本実施形態における光計測装置100を自動運転および/または運転支援のためのモニタリングに応用すれば、ユーザ10の脳血流情報を精度よく計測することができる。
【0177】
本開示は、制御回路60および信号処理回路70が実行する動作の方法およびプログラムも含む。
【0178】
以上で説明した実施形態においては、光計測装置100の測定対象が人体の脳血流情報である場合を説明した。しかしながら、光計測装置100の測定対象は脳血流情報に限られず、脳以外の比較的深い部分の血流情報の計測にも応用することができる。また、生体以外の、内部状態の時間的変動がある物体に対しても応用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0179】
本実施形態における光計測装置は、特定のユーザが、特定の場所で、特定の作業を行う際に、作業中の集中度などのメンタル状態を診断するために利用することができる。また、本実施形態における光計測装置は、例えば、病院での精神疾患の定期診断、脳トレーニングジムでのメンタル状態の診断、デスクワーク中の集中力または課題難易度の検出、または装置の運転作業中のエラー予測または漫然状態の検出に応用することができる。
【符号の説明】
【0180】
10 ユーザ
10t 対象部
20 光源
30 光検出器
60 制御回路
62 光源制御部
63 検出器制御部
70 信号処理回路
100 光計測装置
101 光源
201 画素
202 ドレイン
203 フォトダイオード
204、205、206、207 浮遊拡散層
302 行選択回路
303 列選択回路
304 垂直信号線
305 ソースフォロワ電源
306 ソースフォロワ負荷
307 変換回路
308 行選択トランジスタ
309 ソースフォロワトランジスタ
310 リセットトランジスタ
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15