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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】アーク溶接制御方法及びアーク溶接装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/073 20060101AFI20240112BHJP
   B23K 9/12 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
B23K9/073 545
B23K9/12 305
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021516131
(86)(22)【出願日】2020-04-21
(86)【国際出願番号】 JP2020017179
(87)【国際公開番号】W WO2020218288
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2023-04-11
(31)【優先権主張番号】P 2019081177
(32)【優先日】2019-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野口 昂裕
(72)【発明者】
【氏名】古和 将
(72)【発明者】
【氏名】江川 相輝
(72)【発明者】
【氏名】中川 晶
(72)【発明者】
【氏名】藤原 潤司
【審査官】落合 弘之
(56)【参考文献】
【文献】特許第5996310(JP,B2)
【文献】特開2013-94840(JP,A)
【文献】特開2011-98375(JP,A)
【文献】特開平3-281064(JP,A)
【文献】特開昭59-199174(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/073
B23K 9/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ワイヤを母材に向けて送給して短絡状態とアーク状態とを繰り返す短絡アーク溶接において溶接電流を制御するアーク溶接制御方法であって、
前記溶接電流を第1の傾きで増加させる第1増加ステップ、前記第1増加ステップの実行後に前記溶接電流を第1ボトム値まで減少させる第1減少ステップ、前記第1減少ステップの実行後に前記溶接電流を第2の傾きで増加させる第2増加ステップ、及び前記第2増加ステップの実行後に前記溶接電流を前記第1ボトム値よりも低い第2ボトム値まで減少させて状態を前記アーク状態に移行させる第2減少ステップを前記短絡状態で実行することを特徴とするアーク溶接制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載のアーク溶接制御方法において、
前記第2減少ステップは、溶滴のくびれ現象の検出に応じて前記溶接電流を減少させるものであることを特徴とするアーク溶接制御方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のアーク溶接制御方法において、
前記アーク状態では、前記溶接ワイヤを前記母材に向けて送給する一方、前記短絡状態では、前記溶接ワイヤを反母材側に引き込むことを特徴とするアーク溶接制御方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のアーク溶接制御方法において、
前記第1の傾きは、前記第2の傾きよりも大きいことを特徴とするアーク溶接制御方法。
【請求項5】
請求項4に記載のアーク溶接制御方法において、
前記第1の傾きは、350A/ms以上であることを特徴とするアーク溶接制御方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のアーク溶接制御方法において、
前記第1増加ステップは、前記溶接電流を第1ピーク値まで増加させるものであり、
前記第2増加ステップは、前記溶接電流を前記第1ピーク値よりも低い第2ピーク値まで増加させるものであることを特徴とするアーク溶接制御方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のアーク溶接制御方法において、
前記短絡アーク溶接は、シールドガスとして炭酸ガスを用いるものであり、
前記母材は、軟鋼からなる板材であり、
前記母材の板厚は、2.3~4.5mmに設定されていることを特徴とするアーク溶接制御方法。
【請求項8】
溶接ワイヤを母材に向けて送給して短絡状態とアーク状態とを繰り返す短絡アーク溶接を行うアーク溶接装置であって、
溶接電流を第1の傾きで増加させる第1増加ステップ、前記第1増加ステップの実行後に前記溶接電流を第1ボトム値まで減少させる第1減少ステップ、前記第1減少ステップの実行後に前記溶接電流を第2の傾きで増加させる第2増加ステップ、及び前記第2増加ステップの実行後に前記溶接電流を前記第1ボトム値よりも低い第2ボトム値まで減少させて状態を前記アーク状態に移行させる第2減少ステップを前記短絡状態で実行する溶接電流制御部を備えたことを特徴とするアーク溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、短絡アーク溶接において溶接電流を制御するアーク溶接制御方法及びアーク溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、短絡状態とアーク状態とを繰り返す短絡アーク溶接において溶接電流を制御するアーク溶接装置が開示されている。このアーク溶接装置は、短絡状態で溶接電流を所定の傾きで増加させる増加ステップと、溶滴のくびれ現象の検出に応じて前記増加ステップの実行後に前記溶接電流を減少させる減少ステップとを短絡状態で実行する。減少ステップの実行により、短絡の解放時に発生するアーク力が低減し、スパッタの発生が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許4760053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1では、減少ステップの開始時における溶接電流が多いと、減少ステップの実行により短絡が開放したときの溶接電流をあまり少なくできず、スパッタの発生を効果的に抑制できなくなる虞がある。
【0005】
本開示は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、スパッタの発生をより確実に効果的に抑制できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、溶接ワイヤを母材に向けて一定の送給速度で送給しながら短絡状態とアーク状態とを繰り返す短絡アーク溶接において溶接電流を制御するアーク溶接制御方法において、前記溶接電流を第1の傾きで増加させる第1増加ステップ、前記第1増加ステップの実行後に前記溶接電流を減少させる第1減少ステップ、前記第1減少ステップの実行後に前記溶接電流を第2の傾きで増加させる第2増加ステップ、及び溶滴のくびれ現象の検出に応じて前記第2増加ステップの実行後に前記溶接電流を減少させる第2減少ステップを前記短絡状態で実行することを特徴とする。
【0007】
この態様によると、第1減少ステップを設けない場合に比べ、第2減少ステップの開始時における溶接電流が少なくなるので、第2減少ステップの実行により短絡が開放するときの溶接電流を少なくできる。したがって、スパッタの発生をより確実に効果的に抑制できる。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、スパッタの発生をより確実に効果的に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本開示の実施形態に係るアーク溶接装置の概略構成を示す図である。
図2図2は、アーク溶接時の溶接電流、溶接電圧及びワイヤ送給速度の出力波形を示す図である。
図3図3(a)は、溶接電流を第1の傾きで増加させる第1増加ステップ開始時(t2)における溶接ワイヤ先端周りを示す概略正面図であり、図3(b)は、第1増加ステップ終了時(t3)における図3(a)相当図であり、図3(c)は、溶接電流を第2ボトム値まで減少させる第2減少ステップ開始時(t5)における図3(a)相当図であり、図3(d)は、アーク状態(アーク期間)における図3(a)相当図である。
図4図4は、実施形態2の図2相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態について図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0011】
《実施形態1》
図1は、本開示の実施形態1に係るアーク溶接装置1を示す。このアーク溶接装置1は、トーチ2に保持された溶接ワイヤ3を母材5に向けて一定の送給速度で送給して短絡状態とアーク状態とを繰り返す短絡アーク溶接を行う。短絡状態は、溶接ワイヤ3と母材5とを短絡させた状態であり、アーク状態は、溶接ワイヤ3と母材5との間にアークA(図3(d)参照)を発生させた状態である。トーチ2は、作業者によって保持される。溶接ワイヤ3としては、軟鋼、ステンレス鋼(SUS:stainless steel)からなるものを用いる。溶接ワイヤ3のワイヤ径は、0.8~1.4mmに設定され、好ましくは1.2mmに設定される。母材5としては、軟鋼からなる薄板(板材)を用いる。母材5の板厚は、1.6~4.5mmに設定され、例えば2.3mmに設定される。また、母材5に吹き付けられるシールドガスとして、炭酸ガスを用いる。トーチ2には、溶接ワイヤ3に電力を供給するためのチップ6が設けられている。
【0012】
アーク溶接装置1は、交流電源7、第1の整流素子9、第1のスイッチング素子11、主変圧器13、第2の整流素子15、第2のスイッチング素子17、抵抗19、リアクタ21、電流検出器23、電圧検出器25、ワイヤ送給部27、溶接出力制御部29、及びワイヤ送給速度制御部31を備えている。第1の整流素子9、第1のスイッチング素子11、主変圧器13、第2の整流素子15、第2のスイッチング素子17、抵抗19、及びリアクタ21が、溶接ワイヤ3と母材5の間に溶接電流を供給する電流供給部33を構成する。
【0013】
第1の整流素子9は、交流電源7の出力を整流する。
【0014】
第1のスイッチング素子11は、溶接出力制御部29の制御により、第1の整流素子9の出力を溶接に適した出力に調整する。
【0015】
主変圧器13は、第1のスイッチング素子11の出力を溶接に適した出力に変換する。
【0016】
第2の整流素子15は、主変圧器13の出力を整流する。
【0017】
第2のスイッチング素子17は、溶接出力制御部29の制御により、第2の整流素子15の出力を溶接に適した出力に調整する。
【0018】
抵抗19は、第2のスイッチング素子17と並列に接続されている。
【0019】
リアクタ21は、第2のスイッチング素子17と直列に接続され、第2のスイッチング素子17の出力を整流することにより、溶接電流を安定化する。
【0020】
電流検出器23は、溶接ワイヤ3と母材5の間に供給される溶接電流を検出する。
【0021】
電圧検出器25は、溶接ワイヤ3と母材5の間に供給される溶接電圧を検出する。
【0022】
ワイヤ送給部27は、ワイヤ送給速度制御部31の出力に基づいた送給速度で溶接ワイヤ3を送給する。
【0023】
溶接出力制御部29は、くびれ現象検出部29aと、状態判定部29bと、溶接電流制御部29cとを備えている。
【0024】
くびれ現象検出部29aは、電圧検出器25によって検出された溶接電圧Vaの単位時間あたりの変化量dVa/dtを、予め設定された閾値変化量と比較する。そして、溶接電圧Vaの単位時間あたりの変化量dVa/dtが閾値変化量よりも大きい場合には、溶滴D(図3(a)~図3(c)参照)のくびれ現象を検出したことを示すくびれ判定信号Snを出力する一方、変化量dVa/dtが閾値変化量以下である場合には、溶滴Dのくびれ現象を検出していないことを示すくびれ判定信号Snを出力する。くびれ現象とは、溶滴Dにくびれが発生する現象である。図3(c)に示すように、くびれ現象検出時には、くびれ径(くびれた部分の直径)がda2となる。くびれ現象は、後述するタイミングt5(図2参照)で検出される。
【0025】
状態判定部29bは、電圧検出器25によって検出された溶接電圧Vaを、予め設定された閾値電圧Vthと比較する。そして、溶接電圧Vaが閾値電圧Vth以下である場合には、短絡状態であることを示す状態信号Stを出力する一方、溶接電圧Vaが閾値電圧Vthを超える場合には、アーク状態であることを示す状態信号Stを出力する。
【0026】
溶接電流制御部29cは、電流検出器23によって検出された溶接電流Ia、くびれ現象検出部29aによって出力されたくびれ判定信号Snと、状態判定部29bによって出力された状態信号Stとに基づいて、溶接電流Iaを制御する。なお、設定電流(溶接電流Iaの一定区間毎の平均値)は、100~250Aに設定される。
【0027】
ワイヤ送給速度制御部31は、図2に示すように、一定のワイヤ送給速度Wfを示す信号を出力する。
【0028】
以下、溶接電流制御部29cによる溶接電流Iaの制御について、詳細に説明する。なお、図2中、短絡状態の期間を短絡期間、アーク状態の期間をアーク期間と示す。
【0029】
図2に示すように、タイミングt1で、状態判定部29cによって短絡状態であることを示す状態信号Stが出力されると、溶接電流制御部29cは、第2のスイッチング素子17をオフすることにより、溶接電流Iaを初期電流Isまで減少させる。
【0030】
その後、溶接電流制御部29cは、タイミングt1で溶接電流Iaが初期電流Isから増加し始め、タイミングt2からタイミングt3までの間、第1の傾きS1で増加するように、第2のスイッチング素子17をオンするとともに、第1のスイッチング素子11を制御する。第1の傾きS1は、ワイヤ供給速度Wfに応じて予め設定され、例えば、400A/msに設定される。タイミングt2からタイミングt3までの間で、溶接ワイヤ3の先端の溶滴Dは、図3(a)に示す、くびれていない状態から、図3(b)に示す若干くびれた状態に移行する。図3(a)でdaは、溶滴Dにくびれが生じていない、すなわち溶滴Dがくびれていないときの溶接ワイヤ3の線径に相当する径であり、図3(b)でのda1は、溶接ワイヤ3の先端の溶滴Dにくびれが生じているときのくびれ径を示す。タイミングt3では、電圧検出器25によって検出された溶接電圧Vaの単位時間あたりの変化量dVa/dtが閾値変化量を超えていないが、図3(b)に示すように、溶滴Dが若干くびれた状態となる。
【0031】
そして、タイミングt3で、溶接電流Iaが予め設定された第1ピーク値P1まで増加するのに応じて、溶接電流制御部29cが、第2のスイッチング素子17をオフすることにより、溶接電流Iaを減少させる。ここで、溶接電流制御部29cは、第2のスイッチング素子17をオフする制御を、溶接電流Iaが第1ピーク値P1に達するのに応じて行ったが、基準となる所定のタイミングから予め設定された時間が経過したのに応じて行うようにしてもよい。ここで、基準となる所定のタイミングは、例えば、短絡アーク溶接の開始タイミング、又はタイミングt1,t2とすることができる。第1ピーク値P1は、ワイヤ供給速度Wfに応じて250~450Aの範囲で予め設定されている。
【0032】
次に、タイミングt4で溶接電流Iaが予め設定された第1ボトム値B1に達するのに応じて、溶接電流制御部29cは、溶接電流Iaを第1ボトム値B1から第2の傾きS2で増加させるように、第2のスイッチング素子17をオンするとともに、第1のスイッチング素子11を制御する。ここで、溶接電流制御部29cは、溶接電流Iaを第1ボトム値B1から第2の傾きS2で増加させる制御を、溶接電流Iaが第1ボトム値B1に達するのに応じて行ったが、基準となる所定のタイミングから予め設定された時間が経過したのに応じて行うようにしてもよい。ここで、基準となる所定のタイミングは、短絡アーク溶接の開始タイミング、又はタイミングt1~t3とすることができる。第1ボトム値B1は、200~350Aに設定され、第2の傾きS2は、20~70A/msに設定される。
【0033】
ここで、第1ボトム値B1を200A以上に設定したのは、200Aよりも小さく設定すると、送給される溶接ワイヤ3が入熱不足に起因して、溶接ワイヤ3の溶融速度が減少して、母材5に突っ込んで曲がるなどして、タイミングt4から短絡開放までの時間が長くなり過ぎる虞があるからである。
【0034】
また、第1ボトム値B1を350A以下に設定したのは、350Aよりも大きく設定すると、短絡開放時における溶接電流Iaをあまり少なくできず、スパッタを相対的に低減できないからである。
【0035】
次に、タイミングt5で、図3(c)に示すように、溶接ワイヤ3の先端の溶滴Dが、タイミングt3における溶滴Dよりもくびれた状態となり、くびれ現象を検出したことを示すくびれ判定信号Snがくびれ現象検出部29aによって出力されるのに応じて、溶接電流制御部29cは、第2のスイッチング素子17をオフする。図3(c)でのda2は、タイミングt5における溶接ワイヤ3の先端の溶滴Dにくびれが生じているときのくびれ径を示す。ここで、da、da1、及びda2の値は、da>da1>da2を成立させる値となる。これにより、溶接電流Iaが第1ボトム値B1よりも低い第2ボトム値B2まで減少し、図3(d)に示すように、短絡開放により状態がアーク状態に移行する。第2ボトム値B2は、50~150Aとなる。タイミングt5における溶接電流Ia、すなわちくびれ現象が検出されたときの溶接電流Iaは、第1ピーク値P1よりも低い第2ピーク値P2となる。
【0036】
このように、本実施形態1では、溶接電流制御部29cが、溶接電流Iaを第1の傾きS1で増加させる第1増加ステップ、前記第1増加ステップの実行後に前記溶接電流Iaを第1ボトム値B1まで減少させる第1減少ステップ、前記第1減少ステップの実行後に前記溶接電流Iaを第2の傾きS2で増加させる第2増加ステップ、及び前記第2増加ステップの実行後に前記溶接電流Iaを前記第1ボトム値B1よりも低い第2ボトム値B2まで減少させて状態を前記アーク状態に移行させる第2減少ステップを短絡状態で実行する。
【0037】
したがって、本実施形態1によると、アーク状態から短絡状態に移行してからくびれ現象を検出するまでの間に、溶接電流Iaを減少させる第1減少ステップを設けたので、当該第1減少ステップを設けない場合に比べ、くびれ現象の検出時における溶接電流が少なくなる。したがって、短絡開放時における溶接電流Iaを少なくし、スパッタの発生を抑制できる。
【0038】
また、第1の傾きS1を第2の傾きS2よりも大きくしたので、短絡状態が開始してからアーク状態に移行するまでの時間を短くするとともに、第2の傾きS2が大き過ぎることにより短絡開放時における溶接電流Iaが多くなるのを防止できる。また、短絡状態が開始してから第1ピーク値P1に達するまでに溶接ワイヤ3に与えられる熱量を大きくすることで、第2ピーク値P2、すなわち短絡開放時における溶接電流Iaを少なくできる。
【0039】
また、第1の傾きS1を350A/ms以上とするので、350A/ms未満とした場合に比べ、短絡状態が開始してからアーク状態に移行するまでの時間を短くできる。また、短絡状態からアーク状態に移行できなくなるのを防止できる。
【0040】
また、第2ピーク値P2を第1ピーク値P1よりも低くしたので、短絡状態が開始してからアーク状態に移行するまでの時間を短くできるとともに、短絡開放時における溶接電流Iaを少なくしてスパッタの発生を抑制できる。
【0041】
また、第2ボトム値B2を第1ボトム値B1よりも低くしたので、短絡状態が開始してからアーク状態に移行するまでの時間を短くできるとともに、短絡開放時における溶接電流Iaを少なくしてスパッタの発生を抑制できる。
【0042】
《実施形態2》
図4は、本開示の実施形態2に係る図2相当図である。本実施形態2では、トーチ2を図示しないロボットに保持させた状態で短絡アーク溶接が行われる。ワイヤ送給部27が、ワイヤ送給速度制御部31の出力に基づいた送給速度で溶接ワイヤ3を母材5に向けて送給する機能(正送機能)に加え、ワイヤ送給速度制御部31の出力に基づいた引込み速度で溶接ワイヤ3を反母材5側に引き込む機能(逆送機能)を有している。
【0043】
また、ワイヤ送給速度制御部31が、正(正送)及び負(逆送)のワイヤ送給速度Wfを示す信号を出力する。ワイヤ送給速度制御部31は、状態信号Stがアーク状態であることを示しているときには、ワイヤ送給速度Wfを正の所定値とする一方、状態信号Stが短絡状態であることを示しているときには、ワイヤ送給速度Wfを負の所定値とする。
【0044】
本実施形態2では、図4に示すように、タイミングt1で、状態判定部29bによって短絡状態であることを示す状態信号Stが出力されると、ワイヤ送給速度Wfが正から負に切り替えられ、ワイヤ送給部27が、一定の速度で溶接ワイヤ3を反母材5側に引き込み始める。そして、短絡期間中、ワイヤ送給部27が、一定の速度で溶接ワイヤ3を引き込み続ける。
【0045】
また、第1ピーク値P1が、100~200Aの範囲に予め設定される。このように、本実施形態2では、第1ピーク値P1が実施形態1に比べて低く設定され、タイミングt3において、実施形態1のタイミングt3(図2)に比べ、溶接ワイヤ3先端の溶滴Dのくびれの度合いは少ないが、くびれが発生し始め、溶滴Dがややくびれている状態となる。
【0046】
また、タイミングt4で、溶接電流制御部29cは、基準となる所定のタイミングから予め設定された所定時間が経過するのに応じて、溶接電流Iaを第1ボトム値B1から第2の傾きS2で増加させるように、第2のスイッチング素子17をオンするとともに、第1のスイッチング素子11を制御する。ここで、基準となる所定のタイミングは、短絡アーク溶接の開始タイミング、又はタイミングt1~t3とすることができる。第1ボトム値B1は、50~150Aとなる。
【0047】
また、タイミングt5で、溶接電流制御部29cは、基準となる所定のタイミングから予め設定された所定時間が経過するのに応じて、第2のスイッチング素子17をオフする。なお、基準となる所定のタイミングは、短絡アーク溶接の開始タイミング、又は溶接タイミングt1~t4とすることができる。また、第2のスイッチング素子17を周期的にオフするようにしてもよい。図4のタイミングt5では、溶接ワイヤ3の先端の溶滴Dにはくびれは発生しているが、実施形態1のタイミングt5(図2)に比べてくびれの度合いはやや少なくなる。アーク状態に移行するときの溶接電流Iaの値、すなわち第2ボトム値B2は、実施形態1の第2ボトム値B2よりも低くなる。このように、溶接ワイヤ3の逆送動作により、溶接電流Ia及び溶接電圧Vaによる溶接ワイヤ3への入熱を減らしても、溶接ワイヤ3の先端の溶滴Dにくびれを発生させることができるので、溶接ワイヤ3を一定送給する際に比べ、短絡が開放するときの溶接電流を減らすことが可能となる。したがって、より効果的にスパッタを低減できる。
【0048】
その他の構成及び動作は、実施形態1と同じであるので、その詳細な説明を省略する。
【0049】
したがって、本実施形態2によると、短絡状態では、溶接ワイヤ3を反母材5側に引き込む(逆走させる)ので、溶接ワイヤ3が短絡開放しやすく、短絡開放のために必要となる溶接電流Iaが低減する。したがって、短絡期間を短縮するとともにスパッタの発生をより効果的に抑制できる。また、アーク状態では、溶接ワイヤ3を母材5に向けて送給する(正送させる)ので、ビード幅及び溶込み深さの精度を確保できる。
【0050】
なお、上記実施形態1では、タイミングt5で、溶接電流制御部29cが、溶接電流Iaを減少させる制御を、溶滴Dのくびれ現象の検出に応じて行ったが、基準となる所定のタイミングから予め設定された所定時間が経過するのに応じて行うようにしてもよい。基準となる所定のタイミングは、短絡アーク溶接の開始タイミング、又はタイミングt1~t4とすることができる。
【0051】
また、上記実施形態2では、タイミングt5で、溶接電流制御部29cが、溶接電流Iaを減少させる制御を、基準となる所定のタイミングから予め設定された所定時間が経過するのに応じて行ったが、実施形態1と同様に、溶滴Dのくびれ現象の検出に応じて行ってもよい。
【0052】
また、上記実施形態2では、状態信号Stに応じてワイヤ送給速度Wfの正負を切り替えたが、短絡期間及びアーク期間を予め実験等により特定し、特定した短絡期間及びアーク期間に基づいてワイヤ送給速度Wfの正負を周期的に切り替えるようにしてもよい。
【0053】
また、上記実施形態1,2では、本発明を炭酸ガスアーク溶接に適用したが、本発明は、シールドガスとして不活性ガスと炭酸ガスの混合ガスを用いるマグ溶接(Metal Active Gas Welding)にも適用できる。
【0054】
また、上記実施形態1,2では、母材5の材質を軟鋼としたが、ステンレス、アルミニウム、銅等他の材質としてもよい。
【0055】
また、上記実施形態1では、溶接をトーチ2を作業者に保持させた状態で行ったが、トーチ2をロボットに保持させた状態で、0.3~1.5m/minの溶接速度で行うようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本開示のアーク溶接制御方法及びアーク溶接装置は、スパッタの発生をより確実に効果的に抑制でき、アーク溶接において溶接電流を制御するアーク溶接制御方法及びアーク溶接装置として有用である。
【符号の説明】
【0057】
1 アーク溶接装置
3 溶接ワイヤ
5 母材
29a くびれ現象検出部
29c 溶接電流制御部
B1 第1ボトム値
B2 第2ボトム値
D 溶滴
Ia 溶接電流
P1 第1ピーク値
P2 第2ピーク値
S1 第1の傾き
S2 第2の傾き
図1
図2
図3
図4