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特許7417886有機-無機複合材料の製造方法及び有機-無機複合成形物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】有機-無機複合材料の製造方法及び有機-無機複合成形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/00 20060101AFI20240112BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20240112BHJP
   C08G 63/688 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
C08L67/00
C08K9/04
C08G63/688
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019031837
(22)【出願日】2019-02-25
(65)【公開番号】P2020132816
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2022-02-07
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000166683
【氏名又は名称】互応化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水谷 義
(72)【発明者】
【氏名】奥田 耕平
(72)【発明者】
【氏名】沼本 佑介
【審査官】飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-113048(JP,A)
【文献】特開平04-286806(JP,A)
【文献】特開2018-177794(JP,A)
【文献】国際公開第2018/062550(WO,A1)
【文献】特表2017-516901(JP,A)
【文献】特開2018-070835(JP,A)
【文献】特開2001-163987(JP,A)
【文献】特開2017-131300(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/00
C08K 9/04
C08G 63/688
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機-無機複合材料の製造方法であり、
前記有機-無機複合材料は、
カルボキシル基と金属スルホネート基とのうち少なくとも一方を有する水溶性ポリエステル樹脂(A)と、
前記水溶性ポリエステル樹脂(A)と複合化しているヒドロキシアパタイトとを含み、
前記有機-無機複合材料に対する前記水溶性ポリエステル樹脂(A)の百分比は20重量%以上80重量%以下であり、
前記水溶性ポリエステル樹脂(A)が金属スルホネート基含有多価カルボン酸残基(b11)を含む多価カルボン酸残基(b1)を含み、前記多価カルボン酸残基(b1)に対する前記金属スルホネート基含有多価カルボン酸残基(b11)のモル百分率が3モル%以上50モル%以下であることと、前記水溶性ポリエステル樹脂(A)がカルボキシル基を有し、前記水溶性ポリエステル樹脂(A)の酸価が10mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であることとのうち、少なくとも一方を満たし、
前記製造方法は、前記水溶性ポリエステル樹脂(A)に前記ヒドロキシアパタイトを、共沈法で複合化することを含む、
有機-無機複合材料の製造方法
【請求項2】
前記水溶性ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)は、-20℃以上120℃以下である、
請求項1に記載の有機-無機複合材料の製造方法
【請求項3】
請求項1又は2に記載の造方法で製造された有機-無機複合材料を、プレス成形することを含む、
有機-無機複合成形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機-無機複合材料、有機-無機複合成形物、有機-無機複合材料の製造方法及び有機-無機複合成形物の製造方法に関し、詳しくは、ヒドロキシアパタイトを含む有機-無機複合成形物、この有機-無機複合材料を含む有機-無機複合成形物、前記有機-無機複合材料の製造方法及び前記有機-無機複合成形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
骨は、有機成分(コラーゲン、他のたんぱく質、細胞など)と無機成分(ヒドロキシアパタイト)の複合材料である。そこで、種々の有機-無機複合材料が合成され、骨組織の足場材料や人工骨としての適用可能性が模索されている。
【0003】
例えば特許文献1には、人工骨に適用可能な材料として、ヒドロキシ基を有する高分子におけるヒドロキシ基がリン酸化度1~20%となる割合で部分的にリン酸化された構造を備える部分リン酸化ヒドロキシ基含有高分子に、ヒドロキシアパタイトが複合化されてなる無機-有機複合材料が、開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-131300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されている無機-有機複合材料はヒドロキシアパタイトを含むことで生体適合性に優れ、かつ機械的強度及び柔軟性にも優れるが、特に人工骨に適用するためには高い耐水性も要求される。
【0006】
本発明の課題は、ヒドロキシアパタイトが複合された有機-無機複合材料であって、成形物の機械的強度、柔軟性及び耐水性を向上させやすい有機-無機複合材料、この有機-無機複合材料を含む有機-無機複合成形物、前記有機-無機複合材料の製造方法及び前記有機-無機複合成形物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る有機-無機複合材料は、カルボキシル基と金属スルホネート基とのうち少なくとも一方を有する水溶性ポリエステル樹脂(A)と、前記水溶性ポリエステル樹脂(A)と複合化しているヒドロキシアパタイトとを含む。
【0008】
本発明の一態様に係る有機-無機複合成形物は、前記有機-無機複合材料を含む。
【0009】
本発明の一態様に係る有機-無機複合材料の製造方法は、カルボキシル基と金属スルホネート基とのうち少なくとも一方を有する水溶性ポリエステル樹脂(A)に、ヒドロキシアパタイトを複合化することを含む。
【0010】
本発明の一態様に係る有機-無機複合成形物の製造方法は、前記有機-無機複合材料を、プレス成形することを含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、ヒドロキシアパタイトが複合された有機-無機複合材料であって、成形物の機械的強度、柔軟性及び耐水性を向上させやすい有機-無機複合材料、この有機-無機複合材料を含む有機-無機複合成形物、前記有機-無機複合材料の製造方法及び前記有機-無機複合成形物の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0013】
本実施形態に係る有機-無機複合材料(以下、複合材料ともいう)は、カルボキシル基と金属スルホネート基とのうち少なくとも一方を有する水溶性ポリエステル樹脂(A)と、水溶性ポリエステル樹脂(A)と複合化しているヒドロキシアパタイトとを含む。
【0014】
本実施形態に係る複合材料は、ヒドロキシアパタイトを含むことで生体適合性に優れ、かつ複合材料から作製される成形物の機械的強度、柔軟性及び耐水性を向上させやすい。さらに、複合材料は、水溶性ポリエステル樹脂(A)を含むにもかかわらず、成形物の耐水性を向上させやすい。
【0015】
複合材料の詳細について説明する。
【0016】
水溶性ポリエステル樹脂(A)が水溶性を有するため、水溶液中又は水系溶液中で水溶性ポリエステル樹脂(A)とヒドロキシアパタイトとを容易に複合化できる。なお、水溶性ポリエステル樹脂(A)が水溶性を有することは、技術常識に基づいて判断される。水溶性ポリエステル樹脂(A)は、特に次の(1)から(5)のうち少なくとも一つを満たすことが好ましい。(1)水溶性ポリエステル樹脂(A)のみから形成される厚み20μmの薄膜の表面全体に常温の水を0.005MPaの噴霧圧で20分間噴霧すると、この薄膜が全て水に溶解する。(2)水溶性ポリエステル樹脂(A)から形成される厚み20μmの薄膜の表面全体に50℃の水を0.005MPaの噴霧圧で10分間噴霧すると、この薄膜が全て水に溶解する。(3)水溶性ポリエステル樹脂(A)と常温の水を1:5の質量比で混合し、得られた液に超音波を20分間照射すると、水溶性ポリエステル樹脂(A)が水に全て溶解する。(4)水溶性ポリエステル樹脂(A)と50℃の水を1:5の質量比で混合し、得られた液に超音波を10分間照射すると、水溶性ポリエステル樹脂(A)が水に全て溶解する。(5)水溶性ポリエステル樹脂(A)と水系溶媒を1:5の質量比で混合し、得られた液を90℃で1時間撹拌すると、水溶性ポリエステル樹脂(A)が溶媒に全て溶解する。なお、水系溶媒とは水、又は水と親水性溶媒との混合溶媒である。親水性溶媒は、水と混ざり合う公知の溶媒であればよい。
【0017】
また、水溶性ポリエステル樹脂(A)がカルボキシル基と金属スルホネート基とのうち少なくとも一方を有することで、水溶性ポリエステル樹脂(A)が水溶性を有するにもかかわらず、複合材料が耐水性を有することができる。これは、複合材料中でカルボキシ基と金属スルホネート基とのうち少なくとも一方がヒドロキシアパタイトと化学的に結合することで、水溶性ポリエステル樹脂(A)とヒドロキシアパタイトとが複合化し、かつこれにより水溶性ポリエステル樹脂(A)の親水性が失われるためであると考えられる。
【0018】
水溶性ポリエステル樹脂(A)がカルボキシル基を有する場合、水溶性ポリエステル樹脂(A)の酸価は、10mgKOH/g以上であることが好ましい。この場合、水溶性ポリエステル樹脂(A)は良好な水溶性を有しやすく、かつ水溶性ポリエステル樹脂(A)にヒドロキシアパタイトがより複合化しやすい。また、水溶性ポリエステル樹脂(A)の酸価は200mgKOH/g以下であることが好ましい。この場合、複合材料に良好な耐水性が付与されやすい。水溶性ポリエステル樹脂(A)の酸価は、20mgKOH/g以上100mgKOH/g以下であればより好ましく、30mgKOH/g以上70mgKOH/gであれば更に好ましい。
【0019】
水溶性ポリエステル樹脂(A)は、例えばエステル形成性官能基を二つ以上有するモノマーの残基(b)を有する、エステル形成性官能基とは、エステル結合を形成しうる官能基であり、例えばカルボキシル基及びヒドロキシル基のうち少なくとも一方を含む。
【0020】
残基(b)は、例えば多価カルボン酸残基(b1)、ポリオール残基(b2)及びヒドロキシ酸残基(b3)からなる群から選択される少なくとも一種の基を含む。例えば残基(b)は、多価カルボン酸残基(b1)、ポリオール残基(b2)及びヒドロキシ酸残基(b3)からなる群から選択される二種以上の基を含んでもよく、多価カルボン酸残基(b1)、ポリオール残基(b2)及びヒドロキシ酸残基(b3)のうちヒドロキシ酸残基(b3)のみを含んでもよい。
【0021】
水溶性ポリエステル樹脂(A)が水溶性を有するためには、水溶性ポリエステル樹脂(A)中の残基(b)は、水溶性付与基を含む。水溶性付与基はイオン性の極性基を有する基である。極性基は、中和されていてもよい。
【0022】
残基(b)が多価カルボン酸残基(b1)を含む場合は、水溶性付与基は多価カルボン酸残基(b1)に含まれていてよい。残基(b)がポリオール残基(b2)を含む場合は、水溶性付与基はポリオール残基(b2)に含まれていてよい。残基(b)がヒドロキシ酸残基(b3)を含む場合は、水溶性付与基はヒドロキシ酸残基(b3)に含まれていてよい。
【0023】
本実施形態では、水溶性付与基が、極性基としてカルボキシル基と金属スルホネート基とのうち少なくとも一方を有する基を含む。
【0024】
水溶性ポリエステル樹脂(A)は、例えば水溶性ポリエステル樹脂(A)中の残基(b)に対応するモノマー成分(a)をエステル化反応させることで、合成される。モノマー成分(a)は、例えば多価カルボン酸残基(b1)に対応する多価カルボン酸成分(a1)、ポリオール残基(b2)に対応するポリオール成分(a2)、及びヒドロキシ酸残基(b3)に対応するヒドロキシ酸成分(a3)からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含む。
【0025】
多価カルボン酸成分(a1)は、多価カルボン酸と多価カルボン酸のエステル形成性誘導体とのうち少なくとも一方を含む。多価カルボン酸のエステル形成性誘導体は、多価カルボン酸中の少なくとも一つのカルボキシル基をカルボキシル基由来のエステル形成性誘導基に置換した構造を有する。カルボキシル基由来のエステル形成性誘導基とは、ヒドロキシル基と反応してエステル結合を形成できる基であり、例えばカルボキシル基を無水化した基、カルボキシル基をエステル化した基、及びカルボキシル基をハロゲン化した基からなる群から選択される少なくとも一種の基を含む。
【0026】
多価カルボン酸は、カルボキシル基以外に、反応性の官能基を備えないことが好ましい。すなわち、多価カルボン酸残基(b1)が、反応性の官能基を備えないことが好ましい。特に、多価カルボン酸は、エチレン性不飽和結合、アミノ基、イミノ基、ヒドラジノ基、ニトロ基、カルボニル基、エポキシ基、及びシアノ基のうちいずれも備えないことが好ましい。なお、多価カルボン酸残基(b1)が水溶性付与基を含む場合における水溶性付与基の有するイオン性の極性基は、ここでいう反応性の官能基からは除かれる。
【0027】
多価カルボン酸は、例えば芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸とのうち少なくとも一方を含む。芳香族ジカルボン酸は、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ジフェン酸、ナフタル酸、1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸及び2,6-ナフタレンジカルボン酸からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含む。脂肪族ジカルボン酸は、直鎖状、分岐鎖状及び脂環式のうちいずれでもよい。脂肪族ジカルボン酸は、例えばシュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、イタコン酸、グルタール酸、アジピン酸、ピメリン酸、2,2-ジメチルグルタール酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、ジグリコール酸、及びチオジプロピオン酸からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含む。
【0028】
水溶性ポリエステル樹脂(A)が金属スルホネート基を有する場合、多価カルボン酸が金属スルホネート基含有多価カルボン酸成分を含んでもよい。すなわち、多価カルボン酸残基(b1)が、金属スルホネート基含有多価カルボン酸残基(b11)を含んでもよい。この場合、金属スルホネート基含有多価カルボン酸残基(b11)は水溶性ポリエステル樹脂(A)に優れた水溶性を付与することができる。
【0029】
金属スルホネート基含有多価カルボン酸は、5-スルホイソフタル酸のアルカリ金属塩、2-スルホイソフタル酸のアルカリ金属塩、4-スルホイソフタル酸のアルカリ金属塩、スルホテレフタル酸のアルカリ金属塩、及び4-スルホナフタレン-2,6-ジカルボン酸のアルカリ金属塩からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含むことが好ましい。この場合、水溶性ポリエステル樹脂(A)に特に優れた水溶性を付与することができる。金属スルホネート基における金属は、ナトリウム、カリウム、又はリチウムであることがより好ましい。
【0030】
多価カルボン酸残基(b1)全体に対する金属スルホネート基含有多価カルボン酸残基(b11)のモル百分率は、3mol%以上であることが好ましい。この場合、水溶性ポリエステル樹脂(A)は良好な水溶性を有しやすく、かつ水溶性ポリエステル樹脂(A)にヒドロキシアパタイトがより複合化しやすい。また、金属スルホネート基含有多価カルボン酸残基(b11)のモル百分率は50mol%以下であることが好ましい。この場合、複合材料に良好な耐水性が付与されやすい。金属スルホネート基含有多価カルボン酸残基(b11)のモル百分率は、4mol%以上30mol%以下であればより好ましく、5mol%以上20mol%以下であれば更に好ましい。
【0031】
多価カルボン酸は、三価以上の多価カルボン酸を含有してもよい。すなわち、多価カルボン酸残基(b1)は、水溶性付与基として、三価以上の多価カルボン酸残基(b12)を含んでいてもよい。三価以上の多価カルボン酸残基(b12)は、極性基として未反応のカルボキシル基を有しうる。この場合、水溶性ポリエステル樹脂(A)は高い水溶性を有することができる。三価以上の多価カルボン酸は、例えばヘミメリット酸、トリメリット酸、トリメジン酸、メロファン酸、ピロメリット酸、ベンゼンペンタカルボン酸、メリット酸、シクロプロパン-1,2,3-トリカルボン酸、シクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸、及びエタンテトラカルボン酸からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含む。
【0032】
ポリオール成分(a2)は、ポリオールとポリオールのエステル形成性誘導体とのうち少なくとも一方を含む。ポリオールのエステル形成性誘導体は、ポリオール中の少なくとも一つのヒドロキシル基をヒドロキシル基由来のエステル形成性誘導基に置換した構造を有する。ヒドロキシル基由来のエステル形成性誘導基とは、カルボキシル基と反応してエステル結合を形成できる基であり、例えばヒドロキシル基をアセテート化した基を含む。
【0033】
ポリオールは、ヒドロキシル基以外には、反応性の官能基を備えないことが好ましい。すなわち、ポリオール残基は反応性の官能基を備えないことが好ましい。この場合、水溶性ポリエステル樹脂(A)の反応性の官能基の量が低減し、又は水溶性ポリエステル樹脂(A)が反応性を備えなくなる。そうすると、水溶性ポリエステル樹脂(A)が反応しにくくなり、このため、水溶性ポリエステル樹脂(A)が加熱されても水溶性ポリエステル樹脂(A)の水溶性が低下しにくくなる。特に、ポリオールは、エチレン性不飽和結合、アミノ基、イミノ基、ヒドラジノ基、ニトロ基、カルボニル基、エポキシ基、及びシアノ基のうちいずれも備えないことが好ましい。
【0034】
ポリオールは、例えばエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-イソブチル-1,3-プロパンジオール、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール、4,4’-ジヒドロキシビフェノール、4,4’-メチレンジフェノール、1,5-ジヒドロキシナフタリン、2,5-ジヒドロキシナフタリン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、及びビスフェノールSからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含む。ポリエチレングリコールは、例えばジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ヘキサエチレングリコール、ヘプタエチレングリコール、及びオクタエチレングリコールからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含む。ポリプロピレングリコールは、例えばジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、及びテトラプロピレングリコールからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含む。
【0035】
ポリオールは、特にエチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、プロピレングリコール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、及び1,4-シクロヘキサンジメタノールからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含むことが好ましい。
【0036】
ヒドロキシ酸成分(a3)は、ヒドロキシ酸とヒドロキシ酸のエステル形成性誘導体とのうち少なくとも一方を含む。ヒドロキシ酸のエステル形成性誘導体は、ヒドロキシ酸中のカルボキシル基をカルボキシル基由来のエステル形成性誘導基に置換した構造、ヒドロキシ酸中のヒドロキシル基をヒドロキシル基由来のエステル形成性誘導基に置換した構造、又はヒドロキシ酸中のカルボキシル基及びヒドロキシル基をカルボキシル基由来のエステル形成性誘導基に置換した構造及びヒドロキシル基由来のエステル形成性誘導基にそれぞれ置換した構造を、有する。
【0037】
ヒドロキシ酸は、カルボキシル基及びヒドロキシル基以外には、反応性の官能基を備えないことが好ましい。すなわち、ヒドロキシ酸残基は反応性の官能基を備えないことが好ましい。この場合、水溶性ポリエステル樹脂(A)の反応性の官能基の量が低減し、又は水溶性ポリエステル樹脂(A)が反応性を備えなくなる。そうすると、水溶性ポリエステル樹脂(A)が反応しにくくなり、このため、水溶性ポリエステル樹脂(A)が加熱されても水溶性ポリエステル樹脂(A)の水溶性が低下しにくくなる。特に、ヒドロキシ酸は、エチレン性不飽和結合、アミノ基、イミノ基、ヒドラジノ基、ニトロ基、カルボニル基、エポキシ基、及びシアノ基のうちいずれも備えないことが好ましい。
【0038】
ヒドロキシ酸は、例えば脂肪族ヒドロキシ酸と芳香族ヒドロキシ酸とからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有する。脂肪族ヒドロキシ酸は、例えばグリコール酸、乳酸、タルトロン酸、グリセリン酸、ヒドロキシ酪酸、リンゴ酸、酒石酸、シトラマル酸、クエン酸、イソクエン酸、ロイシン酸、メバロン酸、パントイン酸、セレブロン酸、キナ酸、及びシキミ酸からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有する。芳香族ヒドロキシ酸は、例えばサリチル酸、バニリン酸及びシリング酸等のモノヒドロキシ安息香酸;ピロカテク酸、レソルシル酸、プロトカテク酸、ゲンチジン酸及びオルセリン酸等の、ジヒドロキシ安息香酸誘導体;没食子酸等のトリヒドロキシ安息香酸;マンデル酸、ベンジル酸及びアトロラクチン酸等のフェニル酢酸;並びにメリロト酸、フロレト酸、等のヒドロケイヒ酸からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有する。
【0039】
多価カルボン酸成分(a1)とポリオール成分(a2)とヒドロキシ酸成分(a3)との割合は、これらの成分に含まれるカルボキシル基及びカルボキシル基のエステル形成性誘導基の合計と、ヒドロキシル基及びヒドロキシル基のエステル形成性誘導基の合計とが、モル比で1:1~1:2.5の範囲となるように調整されることが好ましい。なお、この場合、三価以上の多価カルボン酸成分(a12)は、ジカルボン酸とみなされる。
【0040】
水溶性ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)は、-20℃以上120℃以下であることが好ましい。この場合、複合成形物が、高い柔軟性を有しうる。水溶性ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度は、0℃以上100℃以下であればより好ましく、20℃以上70℃以下であれば更に好ましい。
【0041】
水溶性ポリエステル樹脂(A)の重量平均分子量は、2000以上50000以下であることが好ましい。この範囲内であれば、複合成形物は、より高い機械的強度を有することができる。この水溶性ポリエステル樹脂(A)の重量平均分子量は、3000以上30000以下であることが更に好ましい。なお、水溶性ポリエステル樹脂(A)の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィによる測定結果から得られるポリスチレン換算した分子量分布から導出される。
【0042】
水溶性ポリエステル樹脂(A)の水溶性の程度は、水溶性ポリエステル樹脂(A)の重量平均分子量と、水溶性ポリエステル樹脂(A)中の水溶性付与基の量とが、バランスよく設定されることで、調整される。すなわち、水溶性ポリエステル樹脂(A)の重量平均分子量と、水溶性付与基の割合とが、適宜設定されることが好ましい。
【0043】
水溶性ポリエステル樹脂(A)は、適宜のポリエステル製造方法によりモノマー成分(a)のエステル化反応を進行させることで、合成される。
【0044】
モノマー成分(a)が多価カルボン酸成分(a1)及びポリオール成分(a2)を含有し、多価カルボン酸成分(a1)が多価カルボン酸であり、かつポリオール成分(a2)がグリコールである場合には、例えば多価カルボン酸とグリコールとを一段階の反応で反応させる直接エステル化反応が採用される。
【0045】
モノマー成分(a)が多価カルボン酸成分(a1)及びポリオール成分(a2)を含有し、多価カルボン酸成分(a1)が多価カルボン酸のエステル形成性誘導体を含み、かつポリオール成分(a2)がグリコールである場合には、多価カルボン酸のエステル形成性誘導体とグリコールとのエステル交換反応である第一段反応と、第一段反応による反応生成物が重縮合する第二段反応とを経て、水溶性ポリエステル樹脂(A)が製造されてもよい。
【0046】
第一段反応と第二段反応とを経る水溶性ポリエステル樹脂(A)の製造方法について、更に具体的に説明する。第一段反応であるエステル交換反応においては、反応系中に水溶性ポリエステル樹脂(A)の製造に供される全ての原料が最初から含有されていてよい。例えば、ジカルボン酸ジエステルとグリコールとが反応容器に保持された状態で、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下、常圧条件下で、150~260℃まで徐々に昇温加熱されることでエステル交換反応が進行する。
【0047】
第二段反応である重縮合反応は、例えば、6.7hPa(5mmHg)以下の減圧下、160~280℃の温度範囲内で進行する。
【0048】
この第一段反応、及び第二段反応において、任意の時期に反応系中に触媒として、チタン、アンチモン、鉛、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、マンガン、アルカリ金属化合物等が添加されてもよい。
【0049】
さらに、水溶性付与成分として三価以上の多価カルボン酸が用いられる場合には、上記のようにして得られた水溶性ポリエステル樹脂を、アルカリ金属化合物等の塩基性化合物で中和することが好ましい。
【0050】
ヒドロキシアパタイトの組成式は、Ca10(PO46(OH)2と表される。ただし、Caの一部がSr、Ba、Mg、Fe、Al、Y、La、Na、K及びHなどからなる群から選択される少なくとも一種で置換されていてもよい。PO4の一部がVO4、BO3、SO4、CO3、及びSiO4などからなる群から選択される少なくとも一種で置換されていてもよい。OHの一部がF、Cl、O、及びCO3などからなる群から選択される少なくとも一種で置換されていてもよい。ヒドロキシアパタイトの結晶構造の一部に欠陥があってもよい。
【0051】
本実施形態に係る複合材料の製造方法について説明する。
【0052】
水溶性ポリエステル樹脂(A)に、ヒドロキシアパタイトを複合化することで、複合材料を製造できる。例えば水溶液中又は水系溶液中で、水溶性ポリエステル樹脂(A)の存在下、カルシウムイオンとリン酸イオン及びリン酸水素イオンのうち少なくとも一方とを反応させることで、ヒドロキシアパタイトを合成し、かつ水溶性ポリエステル樹脂(A)にヒドロキシアパタイトを複合化できる。特に、水溶性ポリエステル樹脂の存在下、ハイドロキシアパタイトを共沈法で合成することで、水溶性ポリエステル樹脂(A)に、ヒドロキシアパタイトを複合化することが好ましい。この場合、複合材料を製造しやすく、かつ複合材料から作製される成形物の機械的強度、柔軟性及び耐水性を特に向上させやすい。
【0053】
共沈法を利用して複合材料を製造する方法の、より具体的な例について説明する。水溶性ポリエステル樹脂(A)と、カルシウムイオンを含む水溶液又は水系溶液(以下、第一溶液という)と、リン酸イオン及びリン酸水素イオンのうち少なくとも一方を含む水溶液又は水系溶液(以下、第二溶液という)とを準備する。第一溶液は、例えばカルシウムイオン源として、CaCl2、Ca(NO、CaBr、CaI、Ca(OH)及びCa(OCOCHなどからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有できる。また、第二溶液は、例えばリン酸水素イオン源として、Na2HPO4、(NHHPO、KHPO、LiHPO及びHPOなどからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有できる。
【0054】
第一溶液と、水溶性ポリエステル樹脂(A)又はその水溶液とを混合することで、カルシウムイオンと水溶性ポリエステル樹脂(A)とを含有する混合溶液を調製する。混合溶液には、水酸化ナトリウムなどを加えることで、pHを調整する。混合溶液のpHは例えば5~10の範囲内、より好ましくは7~9の範囲内に調整される。
【0055】
次に、混合溶液に、第二溶液を入れる。第二溶液を、混合溶液に滴下してもよく、混合溶液に一度に入れてもよい。第二溶液を混合溶液に滴下する方が、より好ましい。これにより、混合溶液中でカルシウムイオンと、リン酸イオン及びリン酸水素イオンの少なくとも一方とを反応させて、ヒドロキシアパタイトを合成し、かつヒドロキシアパタイトを混合溶液中で水溶性ポリエステル樹脂(A)と複合化させる。ヒドロキシアパタイトを合成する際の混合溶液の温度は、0℃以上100℃以下であることが好ましい。ヒドロキシアパタイトを合成する際は、混合溶液を、前記の温度で1分以上24時間以下の時間保持することが好ましい。
【0056】
上記のヒドロキシアパタイトの合成方法において、第一溶液と第二溶液とを逆にしてもよい。この場合、第二溶液と、水溶性ポリエステル樹脂(A)又はその水溶液とを混合することで、リン酸イオンとリン酸水素イオンとの少なくとも一方と水溶性ポリエステル樹脂(A)とを含有する混合溶液を調製する。混合溶液には、水酸化ナトリウムなどを加えることで、pHを調整する。混合溶液のpHは例えば5~10の範囲内、より好ましくは7~9の範囲内に調整される。
【0057】
次に、混合溶液に、第一溶液を入れる。第一溶液を、混合溶液に滴下してもよく、混合溶液に一度に入れてもよい。第一溶液を混合溶液に滴下する方が、より好ましい。これにより、混合溶液中でカルシウムイオンと、リン酸イオン又はリン酸水素イオンとを反応させて、ヒドロキシアパタイトを合成し、かつヒドロキシアパタイトを混合溶液で水溶性ポリエステル樹脂(A)と複合化させる。ヒドロキシアパタイトを合成する際の混合溶液の温度及び保持時間は、上述の場合と同じでよい。
【0058】
上述の方法で、複合材料を含む液が得られる。この液を例えば濾過するなどして、複合材料を得ることができる。
【0059】
複合材料を熱圧成形することで、有機-無機複合成形物(以下、複合成形物ともいう)を製造できる。熱圧成形にあたっては、複合材料を、一軸加熱プレス成形(ホットプレス成形)してもよく、温間等方圧プレス成形してもよい。温間等方圧プレス成形を採用すると、複合成形物の機械的強度及び柔軟性を向上させやすい。加圧成形を行う場合の成形温度は80℃以上180℃以下であることが好ましい。加圧成形を行う場合の加圧力は50MPa以上1000MPa以下であることが好ましい。
【0060】
複合材料を冷間等方静水圧プレス成形してから、熱圧成形することも好ましい。冷間等方静水圧プレス成形を行う場合の成形温度は5℃以上30℃以下であることが好ましい。冷間等方静水圧プレス成形を行う場合のプレス圧は100MPa以上300MPa以下であることが好ましい。
【0061】
冷間等方静水圧プレス成形の前に複合材料を予備成形することも好ましい。
【0062】
本実施形態に係る複合材料及び複合成形物は、優れた機械的強度、柔軟性、軽量性、耐水性及び生体適合性を有することができる。これらの特性を利用して、複合材料及び複合成形物を、携帯用の様々な部品、低燃費自動車などの構造材料、及び人工骨や人工歯根などの生体材料などに、好ましく適用できる。
【実施例
【0063】
以下、本実施形態の具体的な実施例を提示する。なお、本実施形態は、下記の実施例のみには制限されない。
1.実施例
1-1.水溶性ポリエステル樹脂の水系溶液の調製
攪拌機、窒素ガス導入口、温度計、精留塔、及び冷却器を備えた容量1000mlの反応容器中に、触媒であるシュウ酸チタンカリウム、並びに表1中の「多価カルボン酸成分」及び「ポリオール成分」の欄に示す成分を入れることで混合液を調製した。この混合液を、常圧下、窒素雰囲気中で攪拌混合しながら、200℃まで加熱し、続いて4時間かけて250℃まで徐々に昇温することで、エステル交換反応を進行させた。
【0064】
次に、この混合液を反応容器内で攪拌しながら、250℃の温度下で、常圧から0.67hPa(0.5mmHg)へ徐々に減圧してから、この状態で2時間攪拌することで、重縮合反応を進行させた。これにより、水溶性ポリエステル樹脂を得た。
【0065】
得られた水溶性ポリエステル樹脂を含む、表1の「試料組成」の欄に示す成分を混合して、これらを攪拌しながら80~90℃の温度で2時間加熱攪拌することで、濃度25質量%の水溶性ポリエステル樹脂の水系溶液を得た。
【0066】
水溶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量、ガラス転移温度及び酸価を測定した結果を、表1に示す。
【0067】
1-2.複合材料及び複合成形物の製造
表1の水溶性ポリエステル水系溶液組成の欄に示す原料を用意した。撹拌子を入れた容量500mLビーカーに、水溶性ポリエステル樹脂の水系溶液を入れた。ビーカーに更に濃度0.2mol/LのNaHPO水溶液と、濃度1mol/LのNaOH水溶液との混合溶液を加えてから、「複合材料調製条件」の欄における「温度」の欄に70と記載されている場合は直ちにビーカーを恒温水槽中に、(室温)と記載されている場合は室温下に、それぞれ配置した。この状態で撹拌子を600rpmの回転速度で回転させることでビーカー内の液を5分間攪拌した。続いて、ビーカー内に濃度0.2mol/LのCaCl水溶液を、「CaCl水溶液の供給方法」の欄に「滴下」と記載されている場合は0.04ml/sの滴下速度で滴下し、「一気」と記載されている場合は一気にすべて入れた。続いて、撹拌子を600rpmの回転速度で回転させることでビーカー内の液を攪拌しながら、1時間放置した。これにより、液内で反応を進行させた。
【0068】
続いて、ビーカー内の液中に白色の沈殿物が生じていること、及び液のpHが7になっていることを確認してから、沈殿物を大過剰の蒸留水でデカンテーションしながら洗浄した。続いて、沈殿物に大過剰のアセトンを加えてから吸引濾過して、濾紙上に粉末状の沈殿物を得た。この沈殿物をスパチュラですり鉢に移してから、すり鉢ごと70℃に設定された乾燥機中で1時間以上加熱し、続いて沈殿物をすり鉢棒で粉砕してより細かい粉末にした。これにより、複合材料を得た。
【0069】
この複合材料の約0.3gを、平面視4mm×13mmのキャビティを有する角柱金型を用いて、加熱温度120℃、プレス圧120MPa、成形時間5分間の条件で一軸加圧成形することで、4.0mm×13.0mm×3.5mmサイズの角柱型の試験片を作製した。各実施例において、試験片を三つ作製した。
【0070】
2.比較例
100%リン酸2.7mL(0.05mol)、尿素12g、トリエチルアミン25mL、脱水N,N-ジメチルホルムアミド75mLを200mlの三口反応容器に入れ、120℃に加熱し、ポリビニルアルコール(以下、「PVA」と略記する)4.4g(1.5×10-4mol)を加え、45分間反応させることにより、リン酸化度5%のリン酸化ポリビニルアルコール(以下、「PPVA」と略記する)が得られた。
【0071】
反応終了後、エタノールを加え生成物を沈殿させ、その沈殿物を取り出し、蒸留水に溶解した。そして、セロハンチューブを用い、蒸留水中で2日間透析を行い精製した。その後、精製したPPVA水溶液を多量のアセトン中に滴下し再沈殿を行った。
【0072】
得られた沈殿物を蒸留水に溶解し、真空乾燥し、フィルム状のPPVAを得た。
【0073】
PPVAに蒸留水を加え10重量%にし、1mol/L水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを9近傍に調整し、1mol/L塩化カルシウム水溶液を加えゲル化させることにより、PPVA-Ca2+ゲルを得た。
【0074】
PPVA-Ca2+ゲルに、0.1mol/Lの(NH42HPO4水溶液を5mL加え、アンモニア水溶液でpHを9近傍に調整し25℃の恒温槽に入れ、2時間静置した。反応終了後、吸引濾過し、蒸留水で洗浄した。
【0075】
次に、0.1mol/LのCaCl2水溶液をPPVA-Ca2+ゲルに5mL加え、pHを9近傍に調整し25℃の恒温槽に入れ、2時間静置した。反応終了後、吸引濾過し、蒸留水で洗浄した。この操作を5回繰り返した。5回目の0.1mol/LのCaCl2水溶液を加えたあと、60℃で、2時間アニーリングを行った。これにより得られた複合材料を真空乾燥してから粉末化した。
【0076】
この複合材料を、一軸金型成形により100MPaで予備成形した。続いて、245MPaで冷間等方静水圧プレス成形を行った。さらに、120℃で、500MPaで、温間等方圧プレス成形を行うことにより、複合成形物の試験片(サイズ:3.5mm×5mm×12mm)を作製した。
【0077】
3.評価試験
(1)無機重量分率
株式会社島津製作所製の示差熱・重量同時測定装置(型番DTG―60)を用いて各実施例の複合材料の示差熱・重量同時分析を行った。具体的には、試験片を室温から20℃/分の昇温速度で100℃まで昇温してから試験片の温度を100℃のまま5分間維持した時点での、試験片の重量の測定結果(W1)を得た。続いて、この試験片を更に20℃/分の昇温速度で1000℃まで昇温してから試験片の温度を1000℃のまま5分間維持した時点での、試験片の重量の測定結果(W2)を得た。これらの測定結果から、無機重量分率(I.c)の値を、次の式で算出した。
【0078】
I.c=(W2/W1)×100(重量%)
この結果から得られた、試験片の無機重量分率を、表1及び表2に示す。表1及び表2における「理論値」は原料比から得られる無機重量分率の理論値であり、「測定値」は示差熱・重量同時分析の結果から得られた無機重量分率の測定値である。
【0079】
これらの結果によると、実施例1~18で得られた試験片の無機重量分率の測定値は、いずれも理論値に近い。このため、実施例1~18の方法では、複合材料及び複合成形物の無機重量分率を制御しやすいことがわかった。
【0080】
(2)ヒドロキシアパタイト結晶の有無
リガク社製の粉末X線回折装置(製品名SmartLab)を用いて各実施例及び比較例の複合材料の粉末X線回折測定を行った。それにより得られた回折曲線では、いずれにおいても、2θが26°、32°、39°、46°、49°及び53°において、ヒドロキシアパタイトに由来する特徴的なピークが見られることから、実施例1~18の各複合材料には、ヒドロキシアパタイトの結晶が含まれることが確認できた。
【0081】
また、この測定結果に基づいて結晶構造解析を行い、各複合材料におけるヒドロキシアパタイトの結晶子サイズを求めた。その結果を表3に示す。なお、表3には、水溶性高分子なしで同様の条件で合成したヒドロキシアパタイト単独の結晶から求めた結晶子サイズも、HApの欄に示す。実施例における特にミラー指数(002)に帰属されるピークから求められる結晶性サイズ(c軸方向の結晶子サイズ)は141~284Åの範囲内であった。生体骨に含まれるヒドロキシアパタイトのc軸方向の結晶子サイズは200Å程度であるため、実施例における結晶子サイズは、生体骨における結晶子サイズに近い。このため、実施例の複合材料は生体骨に近い構造を有し、このことは複合材料を機械材料や再生医療材料として応用する場合に有利である。
【0082】
(3)3点曲げ試験
ファインセラミックス曲げ強さ試験機「MZ-250」(株式会社マルトー社製)を用いて、各実施例の試験片の3点曲げ試験を行った。支点間距離Lは8mm、曲げ試験のクロスヘッド速度は、0.5mm/minとした。その結果に基づき、3点曲げ強度(MPa)及び3点曲げひずみを、下記の式から算出した。
【0083】
3点曲げ強度:σ=(3PL)/(2wt
3点曲げひずみ:ε=(600st)/(L
上記式において、Pは最大荷重(N)、Lは支点間距離(mm)、wは試験片の幅(mm)、tは試験片の厚さ(mm)、sは最大たわみ(mm)である。
【0084】
また、本試験で得られた各実施例の試験片の応力-ひずみ曲線の傾きから、各実施例の試験片の曲げ弾性率E(GPa)を算出した。
【0085】
表1に、各実施例の試験片の3点曲げ強度σb、3点曲げひずみεb及び3点曲げ弾性率Ebを示す。表1に示している値は全て平均値(n=3)である。
【0086】
この結果によると、無機重量分率が大きい試験片ほど、3点曲げ強度及び3点曲げ弾性率が大きくなることから、無機重量分率によって複合成形物の機械的性質が変化することがわかる。
【0087】
(4)耐水性試験
各実施例の試験片を、24時間蒸留水に浸してから、試験片の形状を観察した。その結果、膨潤などによる形状変化が起こらない場合を「良」、形状変化が起こった場合を「不良」と、評価した。
【0088】
その結果、各実施例の試験片に含まれる水溶性ポリエステル樹脂が水溶性高分子であるにもかかわらず、試験片の評価はいずれも「良」であり、いずれの試験片も高い耐水性を有することがわかった。これは、複合材料中及び複合成形物中では、水溶性ポリエステル樹脂におけるアニオン化されたカルボキシ基又は金属スルホネート基がヒドロキシアパタイトと化学的に結合することで、水溶性ポリエステル樹脂の親水性が失われるためと考えられる。一方、比較例の試験片の評価は「不良」であり、実施例のような場合の耐水性は認められなかった。
【0089】
【表1】
【0090】
【表2】
【0091】
【表3】