(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】亜鉛系複合めっき液、亜鉛系複合めっき皮膜の形成方法、及び複合酸化物皮膜の形成方法
(51)【国際特許分類】
C25D 15/02 20060101AFI20240112BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20240112BHJP
C23C 28/00 20060101ALI20240112BHJP
C25D 5/16 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
C25D15/02 G
C23C26/00 A
C23C28/00 C
C25D5/16
C25D15/02 F
(21)【出願番号】P 2019127225
(22)【出願日】2019-07-08
【審査請求日】2022-04-19
(31)【優先権主張番号】P 2019035602
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591021028
【氏名又は名称】奥野製薬工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】595115592
【氏名又は名称】学校法人鶴学園
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野崎 匡文
(72)【発明者】
【氏名】長尾 敏光
(72)【発明者】
【氏名】片山 順一
(72)【発明者】
【氏名】日野 実
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-050179(JP,A)
【文献】特開昭60-211095(JP,A)
【文献】特開昭61-194195(JP,A)
【文献】特開昭63-130796(JP,A)
【文献】特開昭63-143294(JP,A)
【文献】特開昭63-203778(JP,A)
【文献】特開昭64-000299(JP,A)
【文献】特開平2-080597(JP,A)
【文献】特開平5-65700(JP,A)
【文献】特開平5-156499(JP,A)
【文献】特開2005-264170(JP,A)
【文献】特開2010-215973(JP,A)
【文献】特開2010-037584(JP,A)
【文献】特開2018-044221(JP,A)
【文献】国際公開第2015/011778(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第1834307(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102268673(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 26/00
C23C 28/00
C25D 1/16 - 7/12
C25D 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Zn-Ni系複合めっき皮膜を形成するための
Zn-Ni系複合めっき液であって、
(A)亜鉛の塩化物、並びに、
(B)金属酸化物
を含有し、
前記(A)亜鉛の塩化物の含有量が、
30g/L以上150g/L以下であり、
前記金属酸化物は、Si、Ti、P、Ce、Co、Cr、V、W、Zr、Fe、Bi及びSnからなる群より選択される少なくとも1種の金属の金属酸化物であり、
pHが1~5.5である、
ことを特徴とする
Zn-Ni系複合めっき液。
【請求項2】
前記金属酸化物の平均粒子径は、0.001~1.0μmである、請求項
1に記載の
Zn-Ni系複合めっき液。
【請求項3】
前記金属酸化物の含有量は、0.1~200g/Lである、請求項1
又は2に記載の
Zn-Ni系複合めっき液。
【請求項4】
Zn-Ni系複合めっき皮膜の形成方法であって、
金属材料を
Zn-Ni系複合めっき液に浸漬する工程1を有し、
前記
Zn-Ni系複合めっき液は、
(A)亜鉛の塩化物、並びに、
(B)金属酸化物
を含有し、
前記(A)亜鉛の塩化物の含有量が、
30g/L以上150g/L以下であり、
前記金属酸化物は、Si、Ti、P、Ce、Co、Cr、V、W、Zr、Fe、Bi及びSnからなる群より選択される少なくとも1種の金属の金属酸化物であり、
pHが1~5.5である、
ことを特徴とする
Zn-Ni系複合めっき皮膜の形成方法。
【請求項5】
複合酸化物皮膜の形成方法であって、
(1)金属材料を
Zn-Ni系複合めっき液に浸漬して
Zn-Ni系複合めっき皮膜を形成する工程1、
(2)前記
Zn-Ni系複合めっき皮膜の表面に皮膜形成組成物を塗布して皮膜形成組成物層を形成する工程2、及び
(3)前記皮膜形成組成物層を加熱して、前記金属材料の表面に、当該金属材料側から
Zn-Ni系複合めっき皮膜、化成皮膜及びシリカ質皮膜をこの順に有する複合酸化物皮膜を形成する工程3
を含み、
前記
Zn-Ni系複合めっき液は、(A)亜鉛の塩化物、並びに、(B)金属酸化物を含有し、
前記(A)亜鉛の塩化物の含有量が、
30g/L以上150g/L以下であり、
pHが1~5.5であり、
前記皮膜形成組成物は、(a)アルコキシシランオリゴマー、及び(b)溶媒を含有し、前記溶媒は、水及び/又は水溶性有機溶媒である、
ことを特徴とする複合酸化物皮膜の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛系複合めっき液、亜鉛系複合めっき皮膜の形成方法、及び複合酸化物皮膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車部品、航空機部品をはじめとする各種金属材料は軽量化や高機能化が進んでおり、それに伴い、金属部材の表面に形成される亜鉛めっき皮膜の薄膜化が望まれている。
【0003】
しかしながら、亜鉛めっき皮膜の防食性能は膜厚に比例して向上するため、亜鉛めっき皮膜を薄膜化すると金属材料の長期信頼性が劣るという問題がある。
【0004】
防食性能の向上を目的として、Zn-Ni、Zn-Mn等の合金めっき、亜鉛複合めっきが用いられている。これらの中でも酸性Zn-Ni合金めっき浴は、電流効率が高く、水素脆性が小さいなどの点から防錆皮膜薄膜化の検討浴として注目されている。
【0005】
酸性Zn-Ni合金めっき浴として、P、Co、Cr等の金属が混入しためっき液が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の酸性浴Zn-Ni合金めっき浴は、皮膜の密着性、、均一性、及び付き廻り性が検討されておらず、これらの特定が十分でないという問題がある。
【0007】
特に、皮膜の均一性及び付き廻り性は、酸化亜鉛、硫酸亜鉛を用いた従来のジンケート浴(亜鉛酸浴)が優れているが、ジンケート浴は電流効率が劣り、タクト(生産効率)が低い。このため、亜鉛酸によらず、ジンケート浴と同等の皮膜の均一性及び付き廻り性を示す亜鉛系複合めっき皮膜を形成することができるめっき液が望ましい。
【0008】
また、亜鉛めっき皮膜では、めっき皮膜を形成する際に発生した水素が、めっき皮膜中に吸蔵されることがある。めっき皮膜中に水素が吸蔵されると、めっき皮膜が形成された被めっき物の延性、靭性、強度が低下する、いわゆる水素脆化を生じるという問題がある。水素脆化は、高い耐久性が要求される航空機部品で特に問題となる。
【0009】
従って、金属材料に亜鉛系複合めっき皮膜を形成することにより、金属材料に優れた耐食性を付与することができ、形成される亜鉛系複合めっき皮膜の水素透過性が向上し、且つ、形成される亜鉛系複合めっき皮膜の付き廻り性に優れた亜鉛系複合めっき液の開発が求められており、当該亜鉛系複合めっき液を用いた亜鉛系複合めっき皮膜の形成方法、及び複合酸化物皮膜の形成方法の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、金属材料に亜鉛系複合めっき皮膜を形成することにより、金属材料に優れた耐食性を付与することができ、密着性及び均一性に優れた亜鉛系複合めっき皮膜を形成することができ、形成される亜鉛系複合めっき皮膜の水素透過性が向上し、且つ、形成される亜鉛系複合めっき皮膜の付き廻り性に優れた亜鉛系複合めっき液、当該亜鉛系複合めっき液を用いた亜鉛系複合めっき皮膜の形成方法、及び複合酸化物皮膜の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、(A)亜鉛の塩化物、並びに、(B)金属酸化物、金属炭化物及び金属窒化物からなる群より選択される少なくとも1種の金属化合物を含有し、pHが1~5.5である亜鉛系複合めっき液によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は、下記の亜鉛系複合めっき液、亜鉛系複合めっき皮膜の形成方法、及び複合酸化物皮膜の形成方法に関する。
1.亜鉛系複合めっき皮膜を形成するための亜鉛系複合めっき液であって、
(A)亜鉛の塩化物、並びに、
(B)金属酸化物、金属炭化物及び金属窒化物からなる群より選択される少なくとも1種の金属化合物
を含有し、pHが1~5.5である、
ことを特徴とする亜鉛系複合めっき液。
2.前記金属化合物は、Al、Si、Ti、P、Ce、Co、Cr、V、W、Zr、Fe、Bi及びSnからなる群より選択される少なくとも1種の金属の金属化合物である、項1に記載の亜鉛系複合めっき液。
3.前記金属化合物の平均粒子径は、0.001~1.0μmである、項1又は2に記載の亜鉛系複合めっき液。
4.前記金属化合物の含有量は、0.1~200g/Lである、項1~3のいずれかに記載の亜鉛系複合めっき液。
5.亜鉛系複合めっき皮膜の形成方法であって、
被めっき物を亜鉛系複合めっき液に浸漬する工程1を有し、
前記亜鉛系複合めっき液は、
(A)亜鉛の塩化物、並びに、
(B)金属酸化物、金属炭化物及び金属窒化物からなる群より選択される少なくとも1種の金属化合物
を含有し、pHが1~5.5である、
ことを特徴とする亜鉛系複合めっき皮膜の形成方法。
6.複合酸化物皮膜の形成方法であって、
(1)金属材料を亜鉛系複合めっき液に浸漬して亜鉛系複合めっき皮膜を形成する工程1、
(2)前記亜鉛系複合めっき皮膜の表面に皮膜形成組成物を塗布して皮膜形成組成物層を形成する工程2、及び
(3)前記皮膜形成組成物層を加熱して、前記金属材料の表面に、当該金属材料側から亜鉛系複合めっき皮膜、化成皮膜及びシリカ質皮膜をこの順に有する複合酸化物皮膜を形成する工程3
を含み、
前記亜鉛系複合めっき液は、(A)亜鉛の塩化物、並びに、(B)金属酸化物、金属炭化物及び金属窒化物からなる群より選択される少なくとも1種の金属化合物を含有し、pHが1~5.5であり、
前記皮膜形成組成物は、(a)アルコキシシランオリゴマー、及び(b)溶媒を含有し、前記溶媒は、水及び/又は水溶性有機溶媒である、
ことを特徴とする複合酸化物皮膜の形成方法。
7.金属材料上に、前記金属材料の表面側から亜鉛系複合めっき皮膜、化成皮膜及びシリカ質皮膜をこの順に有する複合酸化物皮膜が積層されている、物品。
【発明の効果】
【0014】
本発明の亜鉛系複合めっき液は、金属材料に亜鉛系複合めっき皮膜を形成することにより、金属材料に優れた耐食性を付与することができ、密着性及び均一性に優れた亜鉛系複合めっき皮膜を形成することができ、形成される亜鉛系複合めっき皮膜の水素透過性が向上し、且つ、形成される亜鉛系複合めっき皮膜の付き廻り性に優れている。また、本発明の亜鉛系複合めっき皮膜の形成方法は、金属材料を亜鉛系複合めっき液に浸漬する工程1を有しており、金属材料に亜鉛系複合めっき皮膜を形成することにより、金属材料に優れた耐食性を付与することができ、密着性及び均一性に優れた亜鉛系複合めっき皮膜を形成することができ、形成される亜鉛系複合めっき皮膜の水素透過性が向上し、且つ、形成される亜鉛系複合めっき皮膜の付き廻り性に優れている。更に、本発明の複合酸化物皮膜の形成方法は、金属材料の表面に、当該金属材料側から亜鉛系複合めっき皮膜、化成皮膜及びシリカ質皮膜をこの順に有する複合酸化物皮膜を形成することができ、金属材料に、更に優れた耐食性を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】耐食性試験後の試験片1の写真を示す図である。
【
図2】耐食性試験後の試験片1の写真を示す図である。
【
図3】耐食性試験後の試験片1の写真を示す図である。
【
図4】試験片1の耐食性試験の結果を示す図である。
【
図5】耐食性試験後の試験片2の写真を示す図である。
【
図6】耐食性試験後の試験片2の写真を示す図である。
【
図7】試験片2の耐食性試験の結果を示す図である。
【
図8】耐食性試験後の試験片2の写真を示す図である。
【
図9】耐食性試験後の試験片2の写真を示す図である。
【
図10】試験片2の耐食性試験の結果を示す図である。
【
図11】塗膜密着性試験後の試験片2の写真を示す図である。
【
図12】めっき皮膜均一性試験における試験片1の写真を示す図である。
【
図13】試験片3の付き廻り性試験の観察箇所を示す図である。
【
図14】廻り性試験後の試験片3の写真を示す図である。
【
図15】廻り性試験後の試験片3の写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.亜鉛系複合めっき液
本発明の亜鉛系複合めっき液は、亜鉛系複合めっき皮膜を形成するための亜鉛系複合めっき液であって、(A)亜鉛の塩化物、並びに、(B)金属酸化物、金属炭化物及び金属窒化物からなる群より選択される少なくとも1種の金属化合物を含有し、pHが1~5.5であることを特徴とする。上記構成を備える本発明の亜鉛系複合めっき液は、(A)亜鉛の塩化物を含有し、且つ、(B)金属酸化物、金属炭化物及び金属窒化物からなる群より選択される少なくとも1種の金属化合物を含有するので、金属材料に複合酸化皮膜を形成して、当該金属材料に優れた耐食性を付与することができ、密着性及び均一性に優れた亜鉛系複合めっき皮膜を形成することができ、且つ、形成される亜鉛系複合めっき皮膜の付き廻り性に優れている。このため、本発明の亜鉛系複合めっき液を用いて形成した亜鉛系複合めっき皮膜は、薄くても耐食性、密着性及び均一性に優れており、薄膜化が可能である。このため、本発明の亜鉛系複合めっき液は、pHを1~5.5とすることにより、亜鉛系複合めっき皮膜を薄膜化しても、金属材料に優れた耐食性を付与することができ、密着性及び均一性に優れた亜鉛系複合めっき皮膜を形成することができ、且つ、形成される亜鉛系複合めっき皮膜の付き廻り性に優れている。また、本発明の亜鉛系複合めっき液は、(B)金属酸化物、金属炭化物及び金属窒化物からなる群より選択される少なくとも1種の金属化合物を含有し、且つ、pHが1~5.5であるので、被めっき物の表面に形成された亜鉛系複合めっき皮膜の水素透過性が向上する。このため、めっき皮膜が形成された被めっき物の水素脆化が抑制される。
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0018】
(A)亜鉛の塩化物
亜鉛の塩化物としては、亜鉛元素及び塩素原子を含んでいれば特に限定されず、塩化亜鉛、塩素酸亜鉛等が挙げられる。これらの中でも、水等の溶媒に溶解し易く、汎用性、安全性の点で塩化亜鉛が好ましい。
【0019】
亜鉛系複合めっき液中の亜鉛の塩化物の含有量は30g/L以上が好ましく、70g/L以上がより好ましい。また、亜鉛系複合めっき液中の亜鉛の塩化物の含有量は150g/L以下が好ましく、100g/L以下がより好ましい。亜鉛の塩化物の含有量の上限が上記範囲であると、亜鉛系複合めっき液の安定性・電流効率がより一層向上する。また、亜鉛の塩化物の含有量の下限が上記範囲であると、金属材料の耐食性をより一層向上させることができ、亜鉛系複合めっき皮膜の密着性、均一性、付き廻り性がより一層向上する。
【0020】
本発明の亜鉛系複合めっき液は、上述の亜鉛の塩化物を含有することにより、塩化浴であることが好ましい。本明細書において塩化浴とは、亜鉛の塩化物、及びその他の塩化物を含有するめっき液である。
【0021】
(B)金属化合物
金属化合物に含まれる金属としては特に限定されず、例えば、Al、Si、Ti、P、Ce、Co、Cr、V、W、Zr、Fe、Bi、Sn等が挙げられる。これらの中でも、金属材料の耐食性をより一層向上させることができ、亜鉛系複合めっき皮膜の密着性、均一性、付き廻り性がより一層向上する点で、Al、Si、Ti、P、Ce、Co、Cr、V、W、Zr、Feが好ましく、Al、Si、Ti、Ce、Cr、V、W、Zrがより好ましく、Si、Ti,Alが更に好ましく、Siが特に好ましい。
【0022】
上記金属は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0023】
金属化合物は、上記金属の金属酸化物、金属炭化物及び金属窒化物からなる群より選択される少なくとも1種の金属化合物である。上記以外の金属化合物を用いると、金属材料の耐食性を向上させることができず、亜鉛系複合めっき皮膜の密着性、均一性、付き廻り性が十分でない。また、上記以外の金属化合物を用いると、めっき皮膜が形成された被めっき物の水素透過性が十分でない。金属化合物は、より一層亜鉛系複合めっき皮膜の均一性、付き廻り性が向上し、且つ、亜鉛系複合めっき皮膜の水素透過性がより一層向上する点で、金属酸化物、金属炭化物が好ましく、金属酸化物がより好ましい。
【0024】
金属酸化物としては、例えば、SiO2、Cr2O3、Al2O3、V2O5、ZrO2、TiO2等が挙げられる。
【0025】
金属炭化物としては、例えば、SiC、CrC、Al4C3、VC、ZrC、TiC等が挙げられる。
【0026】
金属窒化物としては、例えば、SiN、CrN、AlN、VN、ZrN、TiN等が挙げられる。
【0027】
金属化合物は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0028】
金属化合物は、亜鉛系複合めっき液中で粒子の形状で含有されることが好ましい。金属化合物の粒子の平均粒子径は、0.001μm以上が好ましく、0.005μm以上がより好ましく、0.01μm以上が更に好ましい。また、金属化合物の粒子の平均粒子径は、2.0μm以下が好ましく、1.0μm以下がより好ましく、0.5μm以下が更に好ましく、0.1μm以下が特に好ましい。金属化合物の粒子の平均粒子径の上限が上記範囲であると、金属材料の耐食性をより一層向上させることができ、亜鉛系複合めっき皮膜の密着性、均一性、付き廻り性がより一層向上する。また、金属化合物の粒子の平均粒子径の下限が上記範囲であると、亜鉛系複合めっき液の安定性がより一層向上し、且つ、亜鉛系複合めっき皮膜の水素透過性がより一層向上する。
【0029】
本明細書において、金属化合物の平均粒子径は、動的光散乱法により測定時間120秒、粒子屈折率1.81、粒子形状 非球形、溶媒屈折率1.333の条件で測定される平均粒子径である。
【0030】
亜鉛系複合めっき液中の金属化合物の含有量は0.1g/L以上が好ましく、10g/L以上がより好ましく、30g/L以上が更に好ましい。また、亜鉛系複合めっき液中の金属化合物の含有量は200g/L以下が好ましく、100g/L以下がより好ましく、60g/L以下が更に好ましい。金属化合物の含有量の上限が上記範囲であると、亜鉛系複合めっき液の安定性がより一層向上する。また、金属化合物の含有量の下限が上記範囲であると、金属材料の耐食性をより一層向上させることができ、亜鉛系複合めっき皮膜の密着性、均一性、付き廻り性がより一層向上し、且つ、亜鉛系複合めっき皮膜の水素透過性がより一層向上する。
【0031】
(C)亜鉛の塩化物以外の塩化物
本発明の亜鉛系複合めっき液は、上記(A)亜鉛の塩化物、並びに、(B)金属酸化物、金属炭化物及び金属窒化物からなる群より選択される少なくとも1種の金属化合物の他に、(C)亜鉛の塩化物以外の塩化物を含有していてもよい。本発明の亜鉛系複合めっき液が亜鉛の塩化物以外の塩化物を含有することにより、めっき皮膜の均一性、付き廻り性、析出電流効率がより一層向上する。
【0032】
亜鉛の塩化物以外の塩化物としては特に限定されず、塩化ニッケル、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化ナトリウム等が挙げられる。これらの中でも、水への溶解性、汎用性、めっき液の安定性により一層優れる点で、塩化ニッケル、塩化カリウム、塩化アンモニウムが好ましい。
【0033】
上記亜鉛の塩化物以外の塩化物は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0034】
亜鉛系複合めっき液中の亜鉛の塩化物以外の塩化物の含有量は100g/L以上が好ましく、110g/L以上がより好ましく、120g/L以上が更に好ましい。また、亜鉛系複合めっき液中の亜鉛の塩化物以外の塩化物の含有量は200g/L以下が好ましく、190g/L以下がより好ましく、180g/L以下が更に好ましい。亜鉛の塩化物以外の塩化物の含有量の上限が上記範囲であると、亜鉛系複合めっき液の安定性がより一層向上する。また、亜鉛の塩化物以外の塩化物の含有量の下限が上記範囲であると、金属材料の耐食性をより一層向上させることができ、亜鉛系複合めっき皮膜の密着性、均一性、付き廻り性がより一層向上する。
【0035】
その他の成分
本発明の亜鉛系複合めっき液は、上記(A)亜鉛の塩化物、(B)金属酸化物、金属炭化物及び金属窒化物からなる群より選択される少なくとも1種の金属化合物、並びに、必要に応じて添加される(C)亜鉛の塩化物以外の塩化物の他に、その他の成分を含有していてもよい。このようなその他の成分としては、ベンゼルアセトン、ベンズアルデヒド、クエン酸、芳香族アルデヒド、ニコチンアミド、コハク酸、ポリエチレングリコール(PEG)、ゼラチン、ポリアルキレンポリアミン・エピクロルヒドリン反応生成物、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合体(POE/POP共重合体)、ポリエチレングリコールノニルフェニルエーテル(PEGNPE)等が挙げられる。
【0036】
本発明の亜鉛系複合めっき液のpHは、1~5.5である、pHが1未満であるとめっき析出性、めっき外観に劣る。pHが5.5を超えると、金属材料の耐食性が劣り、亜鉛系複合めっき皮膜の密着性、均一性、付き廻り性が低下し、且つ、亜鉛系複合めっき皮膜の水素透過性が十分でない。上記pHは1.0以上が好ましく、1.5以上がより好ましい。また、上記pHは3.0以下が好ましく、2.0以下がより好ましい。
【0037】
上記pHは、pH調整剤により調整することができる。pHを低く調整する際のpH調整剤としては、塩酸、希硫酸等が挙げられる。これらの中でも、より一層汎用性に優れる点で、塩酸が好ましい。pHを高く調整する際のpH調整剤としては、水酸化ナトリウム水溶液、アンモニア水溶液等が挙げられる。これらの中でも、より一層反応性に優れる点で、アンモニア水溶液が好ましい。
【0038】
以上説明した本発明の亜鉛系複合めっき液によれば、亜鉛系複合めっき皮膜を形成することができる。本発明の亜鉛系複合めっき液を用いて金属材料に亜鉛系複合めっき皮膜を形成することにより、金属材料に優れた耐食性を付与することができ、密着性及び均一性に優れた亜鉛系複合めっき皮膜を形成することができ、且つ、形成される亜鉛系複合めっき皮膜の付き廻り性に優れている。また、本発明の亜鉛系複合めっき液により形成された亜鉛系複合めっき皮膜は、水素透過性に優れている。
【0039】
2.亜鉛系複合めっき皮膜の形成方法
本発明の亜鉛系複合めっき皮膜の形成方法は、金属材料を亜鉛系複合めっき液に浸漬する工程1を有し、前記亜鉛系複合めっき液は、
(A)亜鉛の塩化物、並びに、
(B)金属酸化物、金属炭化物及び金属窒化物からなる群より選択される少なくとも1種の金属化合物
を含有し、pHが1~5.5であることを特徴とする亜鉛系複合めっき皮膜の形成方法である。
【0040】
工程1
工程1は、金属材料を亜鉛系複合めっき液に浸漬する工程である。
【0041】
金属材料を形成する金属としては、被めっき物として工業的に用いられる金属材料を形成する金属であれば特に限定されず、例えば、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、コバルト、ニッケル、鉄、銅、錫、金、これらの合金などの各種の金属材料を処理対象物とすることができる。これらの中でも、より一層汎用性・加工性に優れる点で、ニッケル、亜鉛、鉄、アルミニウムが好ましい。
【0042】
上記金属材料は、処理液と十分に接触できるように処理対象物の表面部分に存在すればよい。例えば、上記した金属材料のみからなる物品でもよく、該金属材料とその他の材料、例えば、セラミックス材料、プラスチックス材料等と組み合わせた複合品であってもよい。更に、上記した金属によりめっき皮膜を表面に形成しためっき処理品であってもよい。例えば、亜鉛めっき又は亜鉛合金めっきを形成した鋼板を被処理物とすることができる。
【0043】
金属材料は、装飾性を付与するために、黒色化処理が施されていてもよい。黒化処理としては、金属材料を、無機酸及び/又は有機酸を用いて所定のpH範囲に調整された黒化処理液に浸漬する方法が挙げられる。なお、黒色化処理を施すと、一般に金属材料の表面の防錆性は低下する傾向にある。
【0044】
具体的な無機酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、フッ化水素酸、ホウ酸などを例示できる。具体的な有機酸としては、ギ酸、酢酸等の脂肪族モノカルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸等の脂肪族ジカルボン酸;グルコン酸等の脂肪族ヒドロキシモノカルボン酸;リンゴ酸等の脂肪族ヒドロキシジカルボン酸;クエン酸等の脂肪族ヒドロキシトリカルボン酸;チオグリコール酸等のカルボン酸を例示できる。これらの無機酸及び有機酸は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0045】
上記金属材料の表面は、クロム、コバルト及びニッケルを含まない黒色化処理液で処理されていることが好ましい。金属材料の表面がこのような黒色化処理液で処理されることにより、環境への負担を抑制することができ、欧州等のこれらの金属の使用が規制されている地域においても本発明の処理方法を好適に行うことができる。
【0046】
黒色化処理液の液温としては、10~80℃が好ましく、30~60℃がより好ましい。また、金属材料の浸漬時間は、10秒~20分が好ましく、30秒~10分がより好ましい。
【0047】
亜鉛系複合めっき液としては、上記説明した本発明の亜鉛系複合めっき液を用いればよい。
【0048】
金属材料を浸漬する際の亜鉛系複合めっき液の温度は35℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましい。亜鉛系複合めっき液の温度の下限が上記範囲であることにより、金属材料の耐食性をより一層向上させることができ、亜鉛系複合めっき皮膜の密着性、均一性、付き廻り性がより一層向上する。また、金属材料を浸漬する際の亜鉛系複合めっき液の温度は50℃以下が好ましく、45℃以下がより好ましい。亜鉛系複合めっき液の温度の上限が上記範囲であることにより金属材料の耐食性をより一層向上させることができ、亜鉛系複合めっき皮膜の密着性、均一性、付き廻り性がより一層向上する。
【0049】
金属材料を亜鉛系複合めっき液に浸漬する際の浸漬時間は5分以上が好ましく、10分以上がより好ましい。浸漬時間の下限が上記範囲であることにより、金属材料の耐食性をより一層向上させることができ、亜鉛系複合めっき皮膜の密着性、均一性、付き廻り性がより一層向上する。また、金属材料を亜鉛系複合めっき液に浸漬する際の浸漬時間は20分以下が好ましく、15分以下がより好ましい。浸漬時間の上限が上記範囲であることにより金属材料の耐食性をより一層向上させることができ、亜鉛系複合めっき皮膜の密着性、均一性、付き廻り性がより一層向上する。
【0050】
工程1を電解めっきで行う場合、電流密度は1A/dm2以上が好ましく、2A/dm2以上がより好ましい。電流密度の下限が上記範囲であることにより、金属材料の耐食性をより一層向上させることができ、亜鉛系複合めっき皮膜の密着性、均一性、付き廻り性がより一層向上する。また、電流密度は5A/dm2以下が好ましく、3A/dm2以下がより好ましい。亜鉛系複合めっき液の温度の上限が上記範囲であることにより金属材料の耐食性をより一層向上させることができ、亜鉛系複合めっき皮膜の密着性、均一性、付き廻り性がより一層向上する。
【0051】
工程1を電解めっきで行う場合、電解めっきで使用する陽極としては、ニッケル、亜鉛極板等の可溶性陽極;白金-チタン、イリジウム-タンタル等の不溶性陽極等を、1種類又は2種類以上用いることができる。
【0052】
工程1では、亜鉛系複合めっき液を空気撹拌してもよい。亜鉛系複合めっき液を空気撹拌することにより、金属材料の耐食性をより一層向上させることができ、亜鉛系複合めっき皮膜の密着性、均一性、付き廻り性がより一層向上する。
【0053】
空気撹拌の方法としては特に限定されず、亜鉛系複合めっき液に従来公知の方法により空気を送り込む方法が挙げられる。空気撹拌の空気の量は1.0L/min以上が好ましく、1.5L/min以上がより好ましい。空気撹拌の空気の量の下限が上記範囲であることにより、金属材料の耐食性をより一層向上させることができ、亜鉛系複合めっき皮膜の密着性、均一性、付き廻り性がより一層向上する。また、空気撹拌の空気の量は3.0L/min以下が好ましく、2.0L/min以下がより好ましい。空気撹拌の空気の量の上限が上記範囲であることにより亜鉛系複合めっき皮膜の均一性、付き廻り性がより一層向上する。
【0054】
以上説明した工程1により、金属材料の表面に亜鉛系複合めっき皮膜が形成される。
【0055】
3.複合酸化物皮膜の形成方法
本発明の複合酸化物皮膜の形成方法は、
(1)金属材料を亜鉛系複合めっき液に浸漬して亜鉛系複合めっき皮膜を形成する工程1、
(2)前記亜鉛系複合めっき皮膜の表面に皮膜形成組成物を塗布して皮膜形成組成物層を形成する工程2、及び
(3)前記皮膜形成組成物層を加熱して、前記金属材料の表面に、当該金属材料側から亜鉛系複合めっき皮膜、化成皮膜及びシリカ質皮膜をこの順に有する複合酸化物皮膜を形成する工程3を含み、
前記亜鉛系複合めっき液は、(A)亜鉛の塩化物、並びに、(B)金属酸化物、金属炭化物及び金属窒化物からなる群より選択される少なくとも1種の金属化合物を含有し、pHが1~5.5であり、
前記皮膜形成組成物は、(a)アルコキシシランオリゴマー、及び(b)溶媒を含有し、前記溶媒は、水及び/又は水溶性有機溶媒である複合酸化物皮膜の形成方法である。
【0056】
本発明の複合酸化物皮膜の形成方法により形成される複合酸化物皮膜は、上述の本発明の亜鉛系複合めっき皮膜の形成方法により形成される亜鉛系複合めっき皮膜の表面に、化成皮膜及びシリカ質皮膜がこの順に形成された皮膜である。すなわち、本発明の複合酸化物皮膜によれば、金属材料の表面に、当該金属材料側から亜鉛系複合めっき皮膜、化成皮膜及びシリカ質皮膜をこの順に有する複合酸化物皮膜を形成することができる。金属材料の表面に、上記複合酸化物皮膜を形成することにより、金属材料に、更に優れた耐食性を付与することができる。
【0057】
(工程1)
工程1は、金属材料を亜鉛系複合めっき液に浸漬して亜鉛系複合めっき皮膜を形成する工程である。工程1は、上記本発明の亜鉛系複合めっき皮膜の形成方法の工程1と同一であり、工程1により、上記本発明の亜鉛系複合めっき皮膜の形成方法と同様に、金属材料の表面に亜鉛系複合めっき皮膜が形成される。
【0058】
(工程2)
工程2は、亜鉛系複合めっき皮膜の表面に皮膜形成組成物を塗布して皮膜形成組成物層を形成する工程である。
【0059】
工程2において、皮膜形成組成物は、(a)アルコキシシランオリゴマー、及び(b)溶媒を含有し、溶媒は、水及び/又は水溶性有機溶媒である。
【0060】
(a)アルコキシシランオリゴマー
アルコキシシランオリゴマーとしては特に限定されず、例えば、アルコキシシランを水、アルコール、グリコール又はグリコールエーテル中に添加し、酸、塩基、有機金属化合物等の触媒を混合して加水分解、縮合反応を行うことにより調製されたものを用いることができる。
【0061】
皮膜形成組成物では、アルコキシシランオリゴマーは、予めアルコキシシランを加水分解し、縮合させたアルコキシシラン縮合物を溶媒に添加し、触媒を混合したアルコキシシランオリゴマー溶液として用いることができる。
【0062】
皮膜形成組成物では、また、アルコキシランオリゴマーは、アルコキシシラン、又は、アルコキシシラン及びアルコキシシランの低縮合物を溶媒に添加し、水及び触媒を混合したアルコキシシランオリゴマー溶液として用いることができる。この場合、アルコキシシランオリゴマー溶液中でアルコキシシランの加水分解及び縮合反応が進行する、いわゆるゾル-ゲル法によりアルコキシシランオリゴマーが形成される。
【0063】
上記アルコシキシランは、例えば、式:(R1)mSi(OR2)4-m(式中、R1は官能基、R2は低級アルキル基である。mは0~3の整数である)で表され、上記化学式において、官能基としては、ビニル、3-グリシドキシプロピル、3-グリシドキシプロピルメチル、2-(3、4-エポキシシクロヘキシル)エチル、p-スチリル、3-メタクリロキシプロピル、3-メタクリロキシプロピルメチル、3-アクリロキシプロピル、3-アミノプロピル、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピル、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチル、3-トリエトキシシリル-N-(1、3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピル、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピル、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、3-ウレイドプロピル、3-メルカプトプロピル、3-メルカプトプロピルメチル、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3-イソシアネートプロピル、3-プロピルコハク酸無水物等が挙げられる。
【0064】
低級アルキル基としては、具体的には、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、sec-ブチル、n-ペンチル、1-エチルプロピル、イソペンチル、ネオペンチル等の炭素数1~6程度の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基等が挙げられる。
【0065】
上記化学式で表されるアルコキシシランの具体例としては、Si(OCH3)4、Si(OC2H5)4、CH3Si(OCH3)3、CH3Si(OC2H5)3、C2H5Si(OCH3)3、C2H5Si(OC2H5)4、CHCH2Si(OCH3)3、CH2CHOCH2O(CH2)3Si(CH3O)3、CH2C(CH3)COO(CH2)3Si(OCH3)3、CH2CHCOO(CH2)3Si(OCH3)3、NH2(CH2)3Si(OCH3)3、SH(CH2)3Si(CH3)3、NCO(CH2)3Si(C2H5O)3等が挙げられる。
【0066】
触媒としては、酸、塩基、有機金属化合物等を用いることができる。
【0067】
酸としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、ホウ酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸等の有機酸が挙げられる。
【0068】
塩基としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物;モノエチルアミン等の第一級アミン、ジエチルアミン等の第二級アミン、トリエチルアミン等の第三級アミン、アンモニア等のアミン化合物が挙げられる。
【0069】
有機金属化合物としては、例えば、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、錫などの金属成分を含む水溶性の有機金属キレート化合物や金属アルコキシド等が挙げられる。
【0070】
有機金属キレート化合物としては、例えば、チタンジイソプロポキシビスアセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンジオクチロキシビスエチルアセトアセトネート、チタンオクチレングリコレート、チタンジイソプロポキシビスエチルアセチルアセトネート、チタンラクテート、チタンラクテートアンモニウム塩、チタンジイソプロポキシビストリエタノールアミネート等のチタンキレート化合物;ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムトリブトキシモノアセチルアセトネート、ジルコニウムジブトキシビスエチルアセトアセテート、ジルコニウムトリブトキシモノステアレート等のジルコニウムキレート化合物;エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリスエチルアセテート、アルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムモノアセチルアセトネートビスエチルアセトアセテート等のアルミニウムキレート化合物等が挙げられる。
【0071】
金属アルコキシドとしては、例えば、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラターシャリーブチルチタネート、テトラオクチルチタネート等のチタンアルコキシド化合物;ノルマルプロピルジルコネート、ノルマルブチルジルコネート等のジルコニウムアルコキシド化合物;アルミニウムイソプロピレート、モノブトキシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムブチレート等のアルミニウムアルコキシド化合物等が挙げられる。
【0072】
上記触媒は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0073】
触媒の配合量は特に限定されず、皮膜形成用組成物を100質量%として、0.01~20質量%が好ましく、0.1~10質量%がより好ましい。
【0074】
アルコキシシランオリゴマーの重合度は特に限定的されず、1000~10000が好ましい。皮膜形成用組成物中では、アルコキシシランの加水分解、縮合反応が進行するが、金属材料の表面に塗布する際に、円滑な塗布作業を阻害しないことが好ましい。アルコキシシランオリゴマーの重合度が上記範囲であることにより、皮膜形成用組成物を、金属材料の表面に容易に塗布することができる。
【0075】
上記アルコキシシランオリゴマー溶液中のアルコキシシランオリゴマーの含有量は、アルコキシシランオリゴマー溶液を100質量%として1~50質量%が好ましく、10~40質量%がより好ましい。アルコキシシランオリゴマー溶液中のアルコキシシランオリゴマーの含有量が上記範囲であると、シリカ質皮膜を十分に形成することができる。
【0076】
皮膜形成組成物中のアルコキシシランオリゴマーの含有量は、皮膜形成組成物を100質量%として0.5~45質量%が好ましく、10~35質量%がより好ましい。皮膜形成組成物中のアルコキシシランオリゴマーの含有量が上記範囲であると、シリカ質皮膜を十分に形成することができる。
【0077】
(b)溶媒
皮膜形成組成物は、溶媒として、水及び/又は水溶性有機溶媒を含有する。溶媒として水を単独で用いる場合、本発明の皮膜形成用組成物のpHは、1~5が好ましく、2~4がより好ましい。pHが上記範囲であると、溶媒として水を用いた際に、皮膜形成用組成物が、優れた安定性を示すことができる。
【0078】
水溶性有機溶媒としては、特に限定されず、従来公知の水溶性有機溶媒を用いることができる。このような水溶性有機溶媒としては、アルコール系溶媒、グリコール系溶媒、グリコールエーテル系溶媒、エーテルアルコール系溶媒等が挙げられ、これらの中でも、水との親和性に優れる点で、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテルが好ましい。
【0079】
上記水及び水溶性有機溶媒は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0080】
皮膜形成組成物中の溶媒の含有量は、皮膜形成組成物を100質量%として50~95質量%が好ましく、60~85質量%がより好ましい。皮膜形成組成物中の溶媒の含有量が上記範囲であると、成膜性がより一層向上する。
【0081】
(有機金属化合物)
皮膜形成組成物は、有機金属化合物を含有していてもよい。有機金属化合物としては、金属成分と有機成分を含む化合物であれば特に限定されず、例えば、縮合反応の触媒として機能し得るものが好適に用いられる。
【0082】
有機金属化合物を構成する金属としては、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、及び錫からなる群より選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0083】
有機金属化合物としては、有機金属キレート化合物及び金属アルコキシドからなる群より選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0084】
有機金属化合物としては、具体的には、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物、有機アルミニウム化合物等が挙げられる。
【0085】
有機チタン化合物としては、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラターシャリーブチルチタネート、テトラオクチルチタネート等のチタンアルコキシド化合物;チタンジイソプロポキシビスアセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンジオクチロキシビスエチルアセトアセトネート、チタンオクチレングリコレート、チタンジイソプロポキシビスエチルアセチルアセトネート、チタンラクテート、チタンラクテートアンモニウム塩、チタンジイソプロポキシビストリエタノールアミネート等のチタンキレート化合物等が挙げられる。
【0086】
有機ジルコニウム化合物としては、ノルマルプロピルジルコネート、ノルマルブチルジルコネート等のジルコニウムアルコキシド化合物;ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムトリブトキシモノアセチルアセトネート、ジルコニウムジブトキシビスエチルアセトアセテート、ジルコニウムトリブトキシモノステアレート等のジルコニウムキレート化合物が挙げられる。
【0087】
有機アルミニウム化合物としては、アルミニウムイソプロピレート、モノブトキシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムブチレート等のアルミニウムアルコキシド化合物;エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリスエチルアセテート、アルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムモノアセチルアセトネートビスエチルアセトアセテート等のアルミニウムキレート化合物等が挙げられる。
【0088】
上記有機金属化合物は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0089】
有機金属化合物の含有量は特に限定されず、ケイ素化合物100質量部に対して0.01~50質量部程度とすればよく、0.1~30質量部が好ましく、1~30質量部がより好ましく、5~30質量部が更に好ましく、10~25質量部が特に好ましく、15~25質量部が最も好ましい。有機金属化合物の含有量の下限が上記範囲であることにより、粒子用皮膜形成処理液の製膜性がより一層向上する。また、有機金属化合物の含有量の上限が上記範囲であることにより、製膜性がより一層向上する。
【0090】
皮膜形成組成物は、有機金属化合物以外に、触媒を含有していてもよい。皮膜形成組成物は、製膜性がより一層優れる点で、有機金属化合物以外の触媒を含有しないことが好ましい。
【0091】
(金属塩)
皮膜形成組成物は、金属塩を含有していてもよい。金属塩としては特に限定されず、従来公知の金属塩を用いることができる。このような金属塩としては、例えば、Cr、Ti、Zr、Sr、V、W、Mo、Ceの金属塩が挙げられる。
【0092】
Cr金属塩としては、硫酸クロム、硝酸クロム、酢酸クロム、二クロム酸塩等が挙げられる。Ti金属塩としては、塩化チタン、硫酸チタン等が挙げられる。Zr金属塩としては、硫酸ジルコニル、オキシ塩化ジルコニウム等のジルコニル塩;Zr(SO4)2、Zr(NO3)2等のジルコニウム塩が挙げられる。Sr金属塩としては、塩化ストロンチウム、過酸化ストロンチウム、硝酸ストロンチウム等が挙げられる。V金属塩としては、バナジン酸アンモン、バナジン酸ナトリウム等のバナジン酸塩;オキシ硝酸バナジウム等のオキシバナジン酸塩等が挙げられる。W金属塩としては、タングステン酸アンモン、タングステン酸ナトリウムなどのタングステン酸塩等が挙げられる。Mo金属塩としては、モリブデン酸アンモン、モリブデン酸ナトリウム等のモリブデン酸塩;リンモリブデン酸ナトリウム等のリンモリブデン酸塩等が挙げられる。Ce金属塩としては、塩化セリウム、硫酸セリウム、過塩素酸セリウム、リン酸セリウム、硝酸セリウム等が挙げられる。
【0093】
上記金属塩は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0094】
皮膜形成組成物中の金属塩の含有量は、上記アルコキシシランオリゴマーを100質量部として、0.1~30質量部が好ましく、10~25質量部がより好ましい。金属塩の含有量の下限が上記範囲であると、化成皮膜及びシリカ質皮膜がより一層十分に形成され、防錆性がより一層向上する。金属塩の含有量の上限が上記範囲であると、化成皮膜及びシリカ質皮膜のクラックの発生がより一層抑制され、防錆性がより一層向上する。
【0095】
(潤滑剤)
皮膜形成組成物は、潤滑剤を含有していてもよい。潤滑剤を含有することにより、ボルト、ナット等の摺動面に皮膜を形成した場合に、当該摺動面に適度な潤滑性を付与することができ、有用である。
【0096】
潤滑剤としては、アマイドワックス、パラフィンワックス、カルナバワックス、ラノリンワックス、ポリテトラフルオロエチレンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス等の微粉末ワックス;アミノ変性ジメチルシリコーンオイル、エポキシ変性ジメチルシリコーンオイル、カルビノール変性ジメチルシリコーンオイル、メルカプト変性ジメチルシリコーンオイル、カルボキシル変性ジメチルシリコーンオイル、メタクリル変性ジメチルシリコーンオイル、アクリル変性ジメチルシリコーンオイル、ポリエーテル変性ジメチルシリコーンオイル、フェノール変性ジメチルシリコーンオイル、シラノール変性ジメチルシリコーンオイル、カルボン酸無水物変性ジメチルシリコーンオイル、ジオール変性ジメチルシリコーンオイル、アラルキル変性ジメチルシリコーンオイル、フロロアルキル変性ジメチルシリコーンオイル、長鎖アルキル変性ジメチルシリコーンオイル、高級脂肪酸エステル変性ジメチルシリコーンオイル、高級脂肪酸変性ジメチルシリコーンオイル、フェニル変性ジメチルシリコーンオイル等のジメチルシリコーンオイルが挙げられる。
【0097】
皮膜形成組成物中の潤滑剤の含有量は、上記アルコキシシランオリゴマー溶液を100質量部として、0.5~30質量部が好ましく、1~20質量部がより好ましい。潤滑剤の含有量が上記範囲であることにより、化成皮膜及びシリカ質皮膜の積層皮膜がより一層十分に形成され、当該皮膜に潤滑性をより一層十分に付与することができ、皮膜の摩擦係数をより一層低減することができる。
【0098】
(コロイダルシリカ)
皮膜形成組成物は、コロイダルシリカを含有していてもよい。コロイダルシリカは造膜助剤として作用し、皮膜形成組成物により形成された積層皮膜の防錆性をより一層向上させることができ、且つ、当該積層皮膜の急激な収縮がより一層緩和される。
【0099】
コロイダルシリカは、粒子径約100nm以下の球状又は球が鎖に繋がった形状のシリカナノ粒子が溶媒中に分散した分散体であり、水を溶媒とする水系コロイダルシリカ、各種の有機溶剤を溶媒とする溶剤系コロイダルシリカをいずれも用いることができる。水系コロイダルシリカにはアルカリ性タイプと酸性タイプを示すものがあり、いずれも使用可能であるが、液状組成物の安定性を保つことができる点で、酸性タイプのコロイダルシリカが好ましい。
【0100】
溶剤系コロイダルシリカの溶剤としては、例えば、メタノール、イソプロパノール、ジメチルアセトアミド、エチレングリコール、エチレングリコールモノn-プロピルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、酢酸エチル、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、プロピレングリコール等を挙げることができる。コロイダルシリカにおけるシリカ含有量は特に限定されず、固形分濃度として5~40質量%程度が好ましい。
【0101】
皮膜形成組成物におけるコロイダルシリカの配合量は、上記アルコキシシランオリゴマー溶液を100質量部として、固形分量で2~60質量部が好ましく、5~50質量部がより好ましい。また、皮膜形成組成物を100質量%として、固形分量で1~50質量%が好ましく、2~40質量%がより好ましい。
【0102】
(水ガラス)
皮膜形成組成物は、水ガラスを含有していてもよい。皮膜形成組成物が水ガラスを含有することにより、皮膜の緻密性がより一層向上する。
【0103】
水ガラスとして特に限定されず、従来公知の水ガラスを用いることができる。このような水ガラスとしては、例えば、珪酸ソーダ、珪酸カリウム、珪酸リチウム等が挙げられる。
【0104】
皮膜形成組成物における水ガラスの配合量は、皮膜形成組成物を100質量%として、1~50質量%が好ましく、2~40質量%がより好ましい。
【0105】
工程2では、皮膜形成組成物は、ゾル-ゲル法により調製されていることが好ましい。すなわち、アルコキシランオリゴマーは、アルコキシシラン、又は、アルコキシシラン及びアルコキシシランの低縮合物を溶媒に添加し、水及び触媒を混合したアルコキシシランオリゴマー溶液として用いることが好ましい。この場合、アルコキシシランオリゴマー溶液中でアルコキシシランの加水分解及び縮合反応が進行し、アルコキシシランオリゴマーが形成される。
【0106】
亜鉛系複合めっき皮膜の表面に皮膜形成組成物を塗布する塗布方法としては、従来公知の方法を用いることができ、例えば、ディップコート法、ディップスピンコート法、スプレーコート法、ロールコート法、スピンコート法、バーコート法等の公知の方法が挙げられる。これらの中でも、亜鉛系複合めっき皮膜の表面の形状にとらわれずに均一に塗布することができる点で、ディップスピンコート法、スプレーコート法が好ましい。
【0107】
上記塗布方法により皮膜形成組成物を塗布することにより、金属材料の表面に形成された亜鉛系複合めっき皮膜の表面に、皮膜形成組成物層が形成される。皮膜形成組成物層の厚みは、1~50μmが好ましく、5~30μmがより好ましい。皮膜形成組成物層の厚みが上記範囲であることにより、後述する工程3により形成される積層皮膜の厚みを適切な範囲に調整することができ、金属材料の寸法精度を損なわず、金属材料の表面に優れた防錆性及び耐摩耗性を付与することができる。
【0108】
以上説明した工程2により、亜鉛系複合めっき皮膜の表面に皮膜形成組成物を塗布して皮膜形成組成物層を形成することができる。
【0109】
(工程3)
工程3は、皮膜形成組成物層を加熱して、金属材料の表面に、当該金属材料側から亜鉛系複合めっき皮膜、化成皮膜及びシリカ質皮膜をこの順に有する複合酸化物皮膜を形成する工程である。
【0110】
亜鉛系複合めっき皮膜の表面に形成された皮膜形成組成物層を加熱する加熱方法としては限定されず、従来公知の方法により加熱すればよい。例えば、亜鉛系複合めっき皮膜が表面に形成された金属材料ごと皮膜形成組成物層を乾燥機内に入れ、一定時間保持して加熱する加熱方法が挙げられる。
【0111】
加熱温度は、通常、20~200℃が好ましく、40~180℃がより好ましく、60~150℃が更に好ましい。熱処理時間は、30秒~30分が好ましく、5~30分がより好ましい。
【0112】
なお、常温が20℃付近の場合、工程3における加熱は、特に乾燥機等を用いて加熱することを要せず、常温下で一定時間放置してもよい。
【0113】
上記加熱により皮膜形成組成物層が加熱されて、亜鉛系複合めっき皮膜の表面に、当該亜鉛系複合めっき皮膜側から、化成皮膜及びシリカ質皮膜をこの順に有する積層皮膜が形成される。
【0114】
以上説明した工程3により、金属材料の表面に、金属材料側から亜鉛系複合めっき皮膜、化成皮膜及びシリカ質皮膜をこの順に有する複合酸化物皮膜が形成される。
【0115】
本発明の複合酸化物皮膜の形成方法によれば、金属材料の表面に形成された亜鉛系複合めっき皮膜の表面に皮膜形成組成物を塗布し、加熱するだけで、皮膜形成組成物層が、化成皮膜及びシリカ質皮膜が積層された積層皮膜となり、金属材料の表面側から亜鉛系複合めっき皮膜、化成皮膜及びシリカ質皮膜がこの順に積層された複合酸化物皮膜を形成することができ、金属材料の表面により一層優れた防錆性を容易に付与することができる。本発明の複合酸化物皮膜の形成方法によれば、金属材料上に、当該金属材料の表面側から亜鉛系複合めっき皮膜、化成皮膜及びシリカ質皮膜をこの順に有する複合酸化物皮膜が積層されている物品を得ることができる。
【0116】
上記積層皮膜(化成皮膜及びシリカ質皮膜の積層体)の厚みは、0.1~10μmが好ましく、0.5~5μmがより好ましい。積層皮膜の厚みが上記範囲であることにより、金属材料の寸法精度を損なわず、金属材料の表面に、より優れた防錆性及び耐摩耗性を付与することができる。
【0117】
上記積層皮膜において、化成皮膜の厚みは0.01~1μmが好ましく、0.1~1μmがより好ましい。化成皮膜の厚みが上記範囲であることにより、より一層優れた防錆性を示すことができる。
【0118】
上記積層皮膜において、シリカ質皮膜の厚みは0.09~9μmが好ましく、0.4~4μmがより好ましい。シリカ質皮膜の厚みが上記範囲であることにより、より一層優れた防錆性及び耐摩耗性を示すことができる。
【0119】
本発明の亜鉛系複合めっき液、亜鉛系複合めっき皮膜の形成方法、及び、複合酸化物皮膜の形成方法によれば、金属材料に耐食性能を付与することができる。金属材料の耐食性能は、JIS Z2371に準拠した方法により塩水噴霧試験を行い、金属材料の表面積に対する赤錆の発生面積比率が10%となるまでの時間を測定する測定方法により測定することができる。
【0120】
上記測定方法により測定される耐食性能は、10時間以上が好ましく、20時間以上がより好ましく、40時間以上が更に好ましく、80時間以上が特に好ましく、100時間以上が最も好ましく、150時間以上がより最も好ましい。
【実施例】
【0121】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0122】
(めっき皮膜の形成)
表1に示す原料を表1に示す配合で混合し、各実施例及び比較例のめっき液を1L調製した。次いで、電解めっきに用いる陽極として50mm×150mm、厚み2mmのニッケル板を用意した。また、電解めっきに用いる陰極として、50mm×100mm、厚み0.2mmの鉄板を用意し、陰極に用いた。
【0123】
1Lのめっき液中に、金属材料を亜鉛系複合めっき液に浸漬して、表1に示す条件で電解めっきを行い、めっき皮膜を形成し、試験片1を調製した。
【0124】
【0125】
(複合酸化物皮膜の形成)
表2に示すように、実施例1、実施例2、比較例2又は比較例4で調製した試験片1のめっき皮膜の表面に、スプレー塗布により皮膜形成組成物A又はBを塗布して、皮膜形成組成物層を形成した。皮膜形成組成物層の厚みは1.0μmであった。皮膜形成組成物A及びBの配合を以下に示す。
【0126】
<皮膜形成組成物A>
(a)アルコキシシランオリゴマー:テトラメトキシシラン 15質量部
(b) アルコキシシランオリゴマー:3-メルカプトプロピルシラン 15質量部
(c)溶媒:水 70質量部
(d)有機金属化合物:上記組成100質量部に対して 10質量部
【0127】
<皮膜形成組成物B>
(a)アルコキシシランオリゴマー:テトラエトキシシラン 15質量部
(b) アルコキシシランオリゴマー:3-メルカプトプロピルシラン 15質量部
(c)溶媒:プロピレングリコールモノメチルエーテル 70質量部
(d)有機金属化合物:上記組成100質量部に対して 10質量部
【0128】
乾燥機を用いて皮膜形成組成物層を150℃、15分間の条件で加熱処理して、めっき皮膜の表面に、化成皮膜及びシリカ質皮膜をこの順に有する積層皮膜を形成し、試験片2を調製した。
【0129】
【0130】
上記実施例及び比較例について、下記評価を行った。
【0131】
試験例1:耐食性試験
実施例及び比較例で調製された試験片を用いて、JIS Z2371に準拠した方法により塩水噴霧試験を行い、試験片の表面積に対する赤錆の発生面積比率が10%となるまでの時間を測定した。結果を
図1~
図10に示す。
【0132】
図1~4の結果から、(A)亜鉛の塩化物、並びに、(B)金属酸化物、金属炭化物及び金属窒化物からなる群より選択される少なくとも1種の金属化合物を含有し、pHが1~5.5の範囲内である実施例1及び2の亜鉛系複合めっき液を用いて形成された亜鉛系複合めっき皮膜は、亜鉛系複合めっき皮膜の厚みが2μm又は4μmであり、薄くても赤錆の発生が抑制されており、優れた耐食性を示すことが分かった。また、実施例2では、亜鉛系複合めっき皮膜の厚みが4μmであっても、コロイダルシリカを含有しないめっき液を用いて、厚みが8μmのめっき皮膜を形成した比較例5と同等の耐食性を示すことが分かった。
【0133】
図5~10の結果から、(A)亜鉛の塩化物、並びに、(B)金属酸化物、金属炭化物及び金属窒化物からなる群より選択される少なくとも1種の金属化合物を含有し、pHが1~5.5の範囲内である実施例1及び2の亜鉛系複合めっき液を用いて形成された亜鉛系複合めっき皮膜の表面に、化成皮膜及びシリカ質皮膜をこの順に有する積層皮膜が形成された実施例3~6では、白錆及び赤錆の発生迄の時間が更に長くなっており、耐食性が更に向上したことが分かった。
【0134】
試験例2:塗膜密着性試験
表2に記載した各実施例及び比較例の試験片2をそれぞれ複数用意した。次いで、試験片2を100℃に維持した恒温槽内で、100℃の水に浸漬した。各実施例及び比較例の試験片2を1時間毎に一つずつ恒温槽から取り出し、JIS K-5600-5-6に準拠した測定方法により、碁盤目の間隔が1mmの条件で碁盤目クロスカットテープ剥離試験を行った。試験は、試験片2の積層皮膜が剥離するまで行い、塗膜密着性を比較した。結果を
図11に示す。
【0135】
図11の結果から、(A)亜鉛の塩化物、並びに、(B)金属酸化物、金属炭化物及び金属窒化物からなる群より選択される少なくとも1種の金属化合物を含有し、pHが1~5.5の範囲内である実施例1及び2の亜鉛系複合めっき液を用いて形成された亜鉛系複合めっき皮膜の表面に、化成皮膜及びシリカ質皮膜をこの順に有する積層皮膜が形成された実施例3では、浸漬時間100時間の条件で塗膜密着性試験を行っても塗膜の剥離が抑制されており、塗膜の密着性に優れることが分かった。これに対し、コロイダルシリカを含有しないめっき液を用いて形成されためっき皮膜の表面に、化成皮膜及びシリカ質皮膜をこの順に有する積層皮膜が形成された比較例6では、浸漬時間24時間の条件で塗膜密着性試験を行うと、碁盤目以外での剥離が生じ、浸漬時間100時間の条件では、全ての碁盤目で剥離が生じ、塗膜密着性に劣ることが分かった。
【0136】
試験例3:めっき皮膜均一性試験
実施例1及び比較例2の試験片1の表面を、金属顕微鏡により1000倍の条件で撮影し、目視で観察して比較した。また、後述する試験例4の付き廻り性試験を行い、試験片3の、
図13のa~fに示す箇所のめっき皮膜についても同様に、表面を、金属顕微鏡により1000倍の条件で撮影し、目視で観察して比較し、下記評価基準に従って評価した。結果を
図12、14、15及び表4に示す。
○:めっき皮膜全体にピット発生なし
△:めっき皮膜に部分的にピットが発生
×:めっき皮膜全体にピットが発生
【0137】
図12の結果から、(A)亜鉛の塩化物、並びに、(B)金属酸化物、金属炭化物及び金属窒化物からなる群より選択される少なくとも1種の金属化合物を含有し、pHが1~5.5の範囲内である実施例1の亜鉛系複合めっき液を用いて形成された亜鉛系複合めっき皮膜は、ピットの発生が抑制されており、優れた均一性を示すことが分かった。これに対し、コロイダルシリカを含有しない比較例2のめっき液を用いて形成されためっき皮膜は、多数のピットが発生しており、均一性に劣ることが分かった。
【0138】
試験例4:付き廻り性試験
図13に示す付き廻り性試験装置を用意した。付き廻り性試験装置では、電解めっきに用いる陽極として50mm×150mm、厚み2mmのニッケル板を用意した。また、電解めっきに用いる陰極として、62mm×130mm、厚み0.3mmの鉄板(ベントカソード板)を用意し、
図13及び
図14に示す形状に折り曲げて試験片3とした。付き廻り性試験装置の内部を満たすように、表3に示す配合のめっき液を充填してめっき浴を調製し、表3に示す条件でめっき皮膜を形成した。試験片3の、
図13のa~fに示す箇所のめっき皮膜の状態を目視で観察し、付き廻り性を評価した。また、
図13のa~fに示す箇所のめっき皮膜の膜厚、及び表層のSi濃度(at%)を高周波グロー放電発光表面分析法にて測定した。結果を
図14、
図15、表4に示す。
○:めっき皮膜が全面に析出している。
×:めっき皮膜が部分的に析出している。
【0139】
試験例5:タクト(生産効率)試験
比較例10の処理時間を基準として、下記評価基準に従ってタクト(生産効率)を評価した。結果を表4に示す。表4では、比較例10の評価を×とした。
○:比較例10の半分の処理時間(電解めっき時間)で比較例10の膜厚と同等以上の膜厚が得られた。
×:比較例10と同等の処理時間(電解めっき時間)で比較例10の膜厚と同等の膜厚が得られた。
【0140】
【0141】
【0142】
なお、表4中、「n.d.」は、検出限界以下であることを示す。
【0143】
表4の結果から、(A)亜鉛の塩化物、並びに、(B)金属酸化物、金属炭化物及び金属窒化物からなる群より選択される少なくとも1種の金属化合物を含有し、pHが1~5.5の範囲内である実施例7の亜鉛系複合めっき液は、試験片3のa~fの全ての箇所で膜厚が厚くなっており、十分に亜鉛系複合めっき皮膜が形成されていることが分かった。また、表4の結果から、実施例7の亜鉛系複合めっき液は、比較例10のジンケート浴により形成されためっき皮膜の厚みと同等の厚みの亜鉛系複合めっき皮膜が形成されていることが分かった。また、実施例7の亜鉛系複合めっき液を用いると、比較例10のジンケート浴を用いた場合よりも、タクト(生産効率)が向上することが分かった。更に、
図14及び
図15の結果からも、実施例7の亜鉛系複合めっき液は、試験片3のa~fの全ての箇所でめっき皮膜が十分に形成されていることが裏付けられている。以上より、実施例7の亜鉛系複合めっき液は、優れた付き廻り性を示すことが分かった。これに対し、コロイダルシリカを含有しない硫酸浴を用いた比較例11、コロイダルシリカを含有する硫酸浴を用いた比較例12、及び、コロイダルシリカを含有しない塩化浴を用いた比較例13では、めっき皮膜の均一性に劣ることが分かった。
【0144】
試験例6:耐水素脆化試験
電解めっきに用いる陰極として、4mm×70mm、厚み0.3mmのSK-85鋼板を用意し、陰極に用いた。それ以外は実施例1、比較例1及び比較例2と同様の条件でめっき皮膜を形成し、それぞれ実施例8、比較例14及び比較例15の試験片1を調製した。次いで、得られた実施例8、比較例14及び比較例15の試験片1を室温で放置し、当該試験片1を用いて、7日毎に下記方法により押込み加重を測定し、めっき皮膜の破断応力とした。
【0145】
(押込み加重の測定方法)
Boeing Aircraft Company規格BAC 5718に準拠した測定方法により、島津製作所製3点曲げ試験機を用いて、押込み速度0.5mm/min、押込み加重2.0kNの条件で加重をかけて試験片1の中央を押込み、押込み加重を測定した。押込みは、試験片1の長手方向(70mmの方向)において、支点を試験片1の中央から左右20mmの2点(支点間隔40mm)として試験片1を設置し、試験片1の長手方向の中央で支点とは反対側の面(上面)から加重をかけることにより行った。
【0146】
【0147】
図16の結果から、(A)亜鉛の塩化物、並びに、(B)金属酸化物、金属炭化物及び金属窒化物からなる群より選択される少なくとも1種の金属化合物を含有し、pHが1~5.5の範囲内である亜鉛系複合めっき液を用いて形成された実施例8の亜鉛系複合めっき皮膜は、めっき皮膜を形成する際に発生した水素のめっき皮膜中からの水素透過性が向上しており、めっき皮膜が形成された被めっき物の水素脆化が抑制されることが分かった。これに対し、金属化合物であるコロイダルシリカを含有せず、ジンケート浴である亜鉛系複合めっき液を用いて形成された比較例14のめっき皮膜は、めっき皮膜を形成する際に発生した水素がめっき皮膜中に吸蔵され、当該めっき皮膜の水素透過性に劣るため、めっき皮膜が形成された被めっき物が水素脆化することが分かった。また、金属化合物であるコロイダルシリカを含有しない亜鉛系複合めっき液を用いて形成された比較例15のめっき皮膜は、酸性浴であるためある程度水素のめっき皮膜中からの水素透過性は向上するが、実施例8と比較して、めっき皮膜の水素透過性に劣るため、めっき皮膜が形成された被めっき物が水素脆化することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0148】
本発明の亜鉛系複合めっき液、亜鉛系複合めっき皮膜の形成方法、及び複合酸化物皮膜の形成方法は、自動車部品、航空機部品等のめっき皮膜の形成に好適に使用することができ、高い耐久性が要求される航空機部品のめっき皮膜の形成に特に好適に使用することができる。