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特許7417896色覚検査用フィルタ、色覚検査用器具及び眼鏡
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】色覚検査用フィルタ、色覚検査用器具及び眼鏡
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/20 20060101AFI20240112BHJP
   G02C 7/10 20060101ALI20240112BHJP
   A61B 3/06 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
G02B5/20
G02C7/10
A61B3/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020054863
(22)【出願日】2020-03-25
(65)【公開番号】P2021156958
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【弁理士】
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【弁理士】
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】和田 英樹
【審査官】内村 駿介
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-061232(JP,A)
【文献】特表2016-503196(JP,A)
【文献】特開2000-298249(JP,A)
【文献】特許第3155805(JP,B2)
【文献】中国実用新案第209928160(CN,U)
【文献】特開2019-124769(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20
G02C 7/10
A61B 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースフィルタの上方に設けられる色覚検査用フィルタであって、
前記ベースフィルタが吸収する光である所定の波長領域の光を吸収する色覚検査用のシート形状の複数の波長制御部材を備え、
前記複数の波長制御部材のそれぞれは、少なくとも一部が剥離可能に積層されている
色覚検査用フィルタ。
【請求項2】
前記複数の波長制御部材は、前記光の吸収量が多くなる順に積層されている
請求項1に記載の色覚検査用フィルタ。
【請求項3】
前記複数の波長制御部材のそれぞれは、少なくとも一部が剥離及び貼付可能に積層されている
請求項1又は2に記載の色覚検査用フィルタ。
【請求項4】
さらに、前記色覚検査用フィルタを平面視したとき、
第1領域と、
前記第1領域とは異なる第2領域と、
を備え、
前記第1領域における前記複数の波長制御部材と、前記第2領域における前記複数の波長制御部材とは、それぞれ独立して着脱可能である
請求項1~3のいずれか1項に記載の色覚検査用フィルタ。
【請求項5】
前記複数の波長制御部材の厚みは、50μm以上500μm以下である
請求項1~4のいずれか1項に記載の色覚検査用フィルタ。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の色覚検査用フィルタと、
前記ベースフィルタと、
面部を有し、かつ、透光性を有する基材と、
を備え、
前記色覚検査用フィルタ及び前記ベースフィルタは、前記面部の上方に設けられ、
前記複数の波長制御部材は、前記面部から離れる方向に向かって、前記光の吸収量が多くなる順に積層されている
色覚検査用器具。
【請求項7】
前記基材は、レンズである
請求項6に記載の色覚検査用器具。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の色覚検査用器具と、
請求項6又は7に記載の色覚検査用器具を保持する装着部と、
を備える
眼鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色覚検査用フィルタ、色覚検査用器具及び眼鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、色覚多様性者の色識別能力を補助するための眼鏡レンズが知られている。色覚多様性者がこのような眼鏡レンズを備える眼鏡(色覚補正眼鏡)を入手するためには、例えば、特許文献1に開示されている色覚検査装置によって色覚多様性の程度を明らかにするための検査を受けることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-070774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記色覚検査装置は、一般的には、病院又は眼鏡販売店などの特別な設置場所に設置されている。そのため、色覚多様性者が設置場所にて検査を受ける必要があり、色覚多様性者にとっては煩雑である。
【0005】
そこで、本発明は、従来よりも簡便に色覚多様性の程度を明らかにすることができる色覚検査用フィルタなどを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一態様に係る色覚検査用フィルタは、所定の波長領域の光を吸収する色覚検査用のシート形状の複数の波長制御部材を備え、前記複数の波長制御部材のそれぞれは、少なくとも一部が剥離可能に積層されている。
【0007】
また、本発明の一態様に係る色覚検査用器具は、上記記載の色覚検査用フィルタと、面部を有する透光性を有する基材と、を備え、前記色覚検査用フィルタは、前記面部の上方に設けられ、前記複数の波長制御部材は、前記面部から離れる方向に向かって、前記光の吸収量が多くなる順に積層されている。
【0008】
また、本発明の一態様に係る眼鏡は、上記記載の色覚検査用器具と、請求項6又は7に記載の色覚検査用器具を保持する装着部と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来よりも簡便に色覚多様性の程度を明らかにすることができる色覚検査用フィルタなどを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施の形態1に係る色覚検査用器具の模式的な断面図である。
図2図2は、実施の形態1に係る複数の波長制御部材の分光スペクトル特性を示す図である。
図3図3は、実施の形態1に係る色覚検査用フィルタの分光スペクトル特性を示す図である。
図4図4は、実施の形態1に係る複数の波長制御部材の一例である1つのサンプルにおける分光スペクトル特性の経時変化を示す図である。
図5図5は、実施の形態1に係る複数の波長制御部材の一例である3つのサンプルにおける所定の波長領域の吸収量の維持率を示す図である。
図6図6は、実施の形態1に係る色覚検査用器具を備える眼鏡の斜視図である。
図7図7は、実施の形態1に係る色覚検査用器具を備えるゴーグルの斜視図である。
図8図8は、実施の形態1に係る色覚検査用器具を備えるルーペの斜視図である。
図9図9は、実施の形態2に係る色覚検査用器具の斜視図である。
図10図10は、実施の形態1及び2の色覚検査用フィルタが用いられる検査の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下では、本発明の実施の形態に係る色覚検査用フィルタについて、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、いずれも本発明の一具体例を示すものである。したがって、以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する趣旨ではない。
【0012】
また、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。したがって、例えば、各図において縮尺などは必ずしも一致しない。また、各図において、実質的に同一の構成については同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0013】
また、本明細書において、等しいなどの要素間の関係性を示す用語、及び、板形状又は曲面形状などの要素の形状を示す用語、並びに、数値範囲は、厳格な意味のみを表す表現ではなく実質的に同等な範囲、例えば数%程度の差異をも含むことを意味する表現である。
【0014】
また、本明細書において、「上方」および「下方」という用語は、絶対的な空間認識における上方向(鉛直上方)および下方向(鉛直下方)を指すものではなく、積層構成における積層順を基に相対的な位置関係により規定される用語として用いる。また、「上方」および「下方」という用語は、2つの構成要素が互いに間隔を空けて配置されて2つの構成要素の間に別の構成要素が存在する場合のみならず、2つの構成要素が互いに密着して配置されて2つの構成要素が接する場合にも適用される。
【0015】
また、本明細書及び図面において、x軸、y軸及びz軸は、三次元直交座標系の三軸を示している。各実施の形態では、積層方向をz軸方向とし、z軸に直交する方向をx軸及びy軸としている。以下で説明する実施の形態において、z軸正方向を上方と記載し、z軸負方向を下方と記載する場合がある。
【0016】
また、本明細書において、「平面視」とは、色覚検査用器具が備える色覚検査用フィルタをz軸正方向から見ることを意味し、このときの図を平面図という。
【0017】
(実施の形態1)
[色覚検査用器具の構成]
まず、実施の形態に係る色覚検査用器具の構成について、図1を用いて説明する。
【0018】
図1は、本実施の形態に係る色覚検査用器具10の模式的な断面図である。
【0019】
図1が示すように、色覚検査用器具10は、基材20と、ベースフィルタ30と、色覚検査用フィルタ40と、を備える。
【0020】
まず、本実施の形態に係る色覚検査用器具10が使用される検査の一例について説明する。
【0021】
本実施の形態に係る色覚検査用器具10を用いて、色覚多様性者が色覚多様性の程度を明らかにするための検査を行う際には、一例として、色覚多様性者が色覚検査用器具10を通して石原色覚検査表などを見る。なお、この場合の色覚多様性者の視線の方向は、積層方向(z軸方向)である。色覚多様性者は、石原色覚検査の結果によって、色覚多様性の程度を判断する。
【0022】
続いて、基材20について説明する。
【0023】
基材20は、透光性を有する部材である。基材20の形状は、板形状であるがこれに限られない。基材20は、透明な樹脂材料を所定形状に成形することで形成されている。例えば、基材20は、ポリカーボネート系の樹脂から構成されているが、これに限られず、シクロオレフィン系又はアクリル(PMMA)系の樹脂から構成されていてもよい。なお、基材20は、可視光領域において透明なガラス材料から構成されていてもよい。可視光領域は、380nm以上780nm以下の範囲である。
【0024】
基材20の板厚は、例えば、1mm以上3mm以下である。基材20の曲率は、例えば、100mm以上200mm以下である。基材20は、凸レンズ又は凹レンズなどのレンズであってもよく、この場合、基材20は、光を集光又は拡散する機能を有していてもよい。基材20の大きさ及び形状は、例えば、人が装着可能な眼鏡又はコンタクトレンズなどに合った大きさである。
【0025】
なお、基材20の大きさ及び形状は、これらに限定されない。基材20の板厚は、例えば1mmより小さくてもよく、又は、3mmより大きくてもよい。基材20の板厚は、部位によって異なっていてもよい。つまり、基材20は、板厚が薄い部分と厚い部分とを有してもよい。あるいは、基材20は、板厚が均一な平板であってもよい。
【0026】
基材20は、面部21を有する。面部21は、基材20の主面の1つであり、曲面形状である。本実施の形態においては、基材20はリジッドな性質を有しており、ベースフィルタ30と色覚検査用フィルタ40とを支持する部材である。
【0027】
次にベースフィルタ30と色覚検査用フィルタ40とについて説明する。
【0028】
ベースフィルタ30と色覚検査用フィルタ40とは、基材20が有する面部21の上方に設けられている。図1が示すように、基材20、ベースフィルタ30及び色覚検査用フィルタ40とは、この順で積層されている。
【0029】
色覚検査用フィルタ40は、色覚検査用の複数の波長制御部材50を備えている。本実施の形態においては、複数の波長制御部材50は、7つの波長制御部材51~57によって構成されている。複数の波長制御部材50のそれぞれ(つまり、7つの波長制御部材51~57)は、積層されている。
【0030】
ベースフィルタ30の形状と複数の波長制御部材50の形状とは、シート形状である。より具体的には、ベースフィルタ30の形状と複数の波長制御部材50の形状とは、フレキシブルなフィルム形状である。しかしながら、これに限られず、ベースフィルタ30の形状と複数の波長制御部材50の形状とはリジッドな板形状であってもよく、ベースフィルタ30の形状と複数の波長制御部材50の形状とは互いに同じ形状でなくてもよい。また、図1が示すように、ベースフィルタ30と複数の波長制御部材50とは、基材20が備える曲面形状の面部21に沿うように、設けられている。
【0031】
ベースフィルタ30の厚みは、500μm以上1000μm以下である。
【0032】
複数の波長制御部材50のそれぞれの厚みは、50μm以上500μm以下である。つまり例えば、1つの波長制御部材51の厚みは、50μm以上500μm以下である。
【0033】
ベースフィルタ30と色覚検査用フィルタ40との大きさ及び形状は、基材20の上方に積層されることができれば特に限らない。本実施の形態においては、ベースフィルタ30と色覚検査用フィルタ40との大きさ及び形状は、基材20と同じく、人が装着可能な眼鏡又はコンタクトレンズなどに合った大きさである。
【0034】
複数の波長制御部材50のそれぞれの間、及び、ベースフィルタ30と波長制御部材51との間には、接着層又は粘着層(不図示)などが設けられており、複数の波長制御部材50のそれぞれは、少なくとも一部が剥離及び貼付可能に積層されている。つまり例えば、波長制御部材57は、波長制御部材56から取り外されることができ、再度、波長制御部材56に取り付けられることができる。また、波長制御部材57においては、波長制御部材56からの取り外しと波長制御部材56への取り付けとが繰り返し行われることができる。
【0035】
なお、複数の波長制御部材50のそれぞれが剥離及び貼付可能ではなく、少なくとも一部が剥離可能に積層されていてもよい。この場合例えば、波長制御部材57は、波長制御部材56から取り外されることができるが、再度、波長制御部材56に取り付けられることができなくてもよい。
【0036】
また、ベースフィルタ30と基材20との間には、接着層又は粘着層(不図示)などが設けられている。
【0037】
ベースフィルタ30と複数の波長制御部材50とは、透明な樹脂材料と色素材料とによって構成されている。本実施の形態に係る透明な樹脂材料は、ポリカーボネート系の樹脂であるが、これに限られず、シクロオレフィン系又はアクリル(PMMA)系の樹脂であってもよい。
【0038】
色素材料は、上記の透明な樹脂材料内に均等に分散されている。例えば、色素材料は、透明な樹脂材料の全体に均等に分散されている。色素材料は、光吸収材料である。具体的には、色素材料は、所定の波長領域の光を吸収する。
【0039】
色素材料の基本骨格は、例えば、以下の一般式(1)で表されるメロシアニン系である。例えば、色素材料における官能基を適宜調整することで、所望の分光スペクトル特性が得られる。また、透明な樹脂材料中に分散されている色素材料の濃度を調整することで、所望の分光スペクトルが得られてもよい。
【0040】
【化1】
【0041】
ベースフィルタ30と複数の波長制御部材50とが上記構成であるため、ベースフィルタ30と複数の波長制御部材50とが所定の波長領域の光を吸収する。ここで、所定の波長領域と色覚多様性との関係について説明する。
【0042】
色覚多様性者の一例としては、先天赤緑色覚異常であり、赤色光に比べて緑色光を強く知覚する。この場合、例えば色覚補正眼鏡などで、緑色光の透過を抑制すると、赤色光と緑色光との知覚のバランスを保つことができ、色覚を補正することができる。
【0043】
色覚多様性者が適切に色覚を補正されるためには、色覚多様性の程度を明らかにするための検査において、抑制されるべき緑色光の透過又は吸収の程度を明らかにすることが求められる。
【0044】
本実施の形態においては、色覚検査用器具10が備えるベースフィルタ30と複数の波長制御部材50のそれぞれとが、所定の波長領域の光として緑色光を吸収する。そのため、色覚検査用器具10をこのような検査に用いることができる。
【0045】
なお、上記検査のためにはベースフィルタ30と複数の波長制御部材50のそれぞれとが同一の波長領域の吸収することが必要である。また、色覚異常の分類に応じて、所定の波長領域の光として、他の色の光が選択されてもよい。
【0046】
さらに、ベースフィルタ30と複数の波長制御部材50とが吸収する所定の波長領域の光について、図2及び図3を用いて説明する。
【0047】
図2は、本実施の形態に係る7つの波長制御部材51~57の分光スペクトル特性を示す図である。図2において、横軸は波長[nm]であり、縦軸は透過率[%]を示している。これは、後述する図3及び図4においても同様である。
【0048】
図2が示すように、波長制御部材51~57は、所定の波長領域の光(緑色光)を吸収する。より具体的には、波長制御部材51~57は、可視光領域において最大の吸収ピークのピーク波長が530nm±50nmの範囲に位置している。最大の吸収ピークは、可視光領域において透過率が最小となるピークであり、ピーク波長は、透過率が最小になるときの波長である。換言すると、波長制御部材51~57は、530nm±50nmの波長領域の光を、他の範囲の波長領域の光に比べて、相対的に強く吸収する。
【0049】
例えば、複数の波長制御部材50の積層数が変更されることで、色覚検査用器具10における530nm±50nmの波長領域の光(緑色光)の吸収量を変えることができる。
【0050】
ここで、複数の波長制御部材50は、所定の波長領域の光の吸収量が多くなる順に積層されている。より具体的には、複数の波長制御部材50は、基材20が有する面部21から離れる方向に向かって、所定の波長領域の光の吸収量が多くなる順に積層されている。本実施の形態においては、波長制御部材51から波長制御部材57に向かうにつれて、所定の波長領域の光の吸収量が多くなり、すなわち、所定の波長領域の光の透過率が低くなる。
【0051】
図2が示すように、波長制御部材51の透過率の最小値は約86.3%である。同様に、波長制御部材52~57の透過率の最小値は、順に、約85.9%、約84.70%、約80.7%、約65.1%、約64.7%、約22.5%である。
【0052】
さらに、複数の波長制御部材50のそれぞれが積層された色覚検査用フィルタ40の分光スペクトルについて説明する。
【0053】
図3は、本実施の形態に係る色覚検査用フィルタ40の分光スペクトル特性を示す図である。
【0054】
また、図3においては、基材20の上方にベースフィルタ30から波長制御部材51までが積層された場合の分光スペクトルが、「ベースフィルタ30~波長制御部材51」として図示されている。さらに、ベースフィルタ30から波長制御部材51及び52までが積層された場合の分光スペクトルが、「ベースフィルタ30~波長制御部材52」として図示されている。以下同様の記載方法で、分光スペクトルが図示されている。
【0055】
図3が示すように、複数の波長制御部材50の積層数が減るごとに、波長領域の光(緑色光)での透過率が上昇しており、つまり、波長領域の光(緑色光)での吸収量が減少している。
【0056】
また、図1及び図2が示すように、所定の波長領域の光の吸収量が多くなる順に複数の波長制御部材50が積層されている。これにより、図3が示すように、複数の波長制御部材50の積層数が減るごとに、最大の吸収ピークにおける透過率が均一なピッチ(3%以上8%以下)で、上昇している。つまり、複数の波長制御部材50の積層数が減るごとに、最大の吸収ピークにおける吸収量が、均一なピッチで、減少している。
【0057】
続いて、本実施の形態に係る複数の波長制御部材50における光吸収の経時変化について説明する。
【0058】
ここで、サンプルA、サンプルB及びサンプルCを用いて説明する。
【0059】
サンプルA、サンプルB及びサンプルCは、厚みを除いて、複数の波長制御部材50のいずれか1つと同じ構成をもつ。サンプルAの厚みは3mmであり、サンプルBの厚みは2mmであり、サンプルCの厚みは1mmである。
【0060】
図4は、本実施の形態に係る複数の波長制御部材50の一例であるサンプルCにおける分光スペクトル特性の経時変化を示す図である。より具体的には、図4においては、メタルウェザー試験が行われたサンプルCの分光スペクトルの変化が示されている。
【0061】
一般的に、色素材料などにおいては、光及び熱などに影響を受けることで、劣化して分光スペクトルが変化する。メタルウェザー試験においては、色素材料などを含有するサンプルが光及び熱を与えられ、その劣化の程度などが評価される。
【0062】
図4が示すように、試験日数の経過に従って、サンプルCにおける所定の波長領域の光(緑色光)の透過率が上昇、すなわち、吸収量が低減している。これは、光吸収する色素材料がメタルウェザー試験における光及び熱によって劣化することで、光の吸収量が低下したためである。
【0063】
さらに、サンプルCに加え、サンプルAとサンプルBとにおいても同様のメタルウェザー試験を実施した。
【0064】
図5は、本実施の形態に係る複数の波長制御部材50の一例であるサンプルA、サンプルB及びサンプルCにおける所定の波長領域の吸収量の維持率を示す図である。
【0065】
図5において、横軸は維持率[%]であり、縦軸は経過日数[日]を示している。なお、維持率とは、経過日数が所定の日での各サンプルの吸収量が経過日数が0日での各サンプルの吸収量で割られた比率である。
【0066】
図5が示すように、より厚みが大きいサンプルほど、吸収量の維持率が高いことが明らかとなった。
【0067】
このような結果から、本実施の形態に係る色覚検査用器具10の使用が想定される使用環境下における、複数の波長制御部材50のそれぞれの厚みと吸収量の維持率との関係が予想される。つまり、上記の厚みを調整することで、例えば、所定期間中は複数の波長制御部材50の分光スペクトルに基づく機能を保持させたり、所定期間終了後に複数の波長制御部材50の分光スペクトルが変化するように設計したりすることができる。
【0068】
上述のように、複数の波長制御部材50のそれぞれの厚みが50μm以上500μm以下である場合においては、以下の通りであることが、発明者らの検討により明らかとなっている。具体的には、複数の波長制御部材50のそれぞれが上記使用環境下に24時間おかれると、複数の波長制御部材50の吸収量の維持率は96%以上98%以下になると予想される。この為、例えば、色覚多様性の程度を明らかにするための検査が行われる間は、複数の波長制御部材50は、上記で示した分光スペクトルに基づく機能を保持することができる。
【0069】
[光学部品の構成]
上述した色覚検査用器具10は、様々な光学部品に用いられる。
【0070】
図6図8は、本実施の形態に係る色覚検査用器具10を備える光学部品の一例を示す斜視図である。具体的には、図6図7及び図8はそれぞれ、光学部品の一例である眼鏡60、ゴーグル62及びルーペ63の斜視図である。例えば、各図に示されるように、眼鏡60、ゴーグル62及びルーペ63は、色覚検査用器具10を備える。
【0071】
例えば、眼鏡60は、左右のレンズとして2つの色覚検査用器具10と、2つの色覚検査用器具10とを保持し色覚多様性者に装着される装着部61と、を備える。ゴーグル62は、両目を覆うカバーレンズとして1つの色覚検査用器具10を備える。ルーペ63は、レンズとして1つの色覚検査用器具10を備える。
【0072】
なお、色覚検査用器具10を備える光学部品は、眼鏡60などに限らない。例えば、光学部品は、車のサンバイザーなどであってもよい。つまり、光学部品は、人に装着される部品でなくてもよい。
【0073】
[効果など]
以上のように、本実施の形態に係る色覚検査用フィルタ40は、所定の波長領域の光を吸収する色覚検査用のシート形状の複数の波長制御部材50を備えている。複数の波長制御部材50のそれぞれは、少なくとも一部が剥離可能に積層されている。
【0074】
これにより、例えば、複数の波長制御部材50の積層数が変更されることで、色覚検査用器具10における所定の波長領域の光(緑色光)の吸収量を変えることができる。
【0075】
そのため、色覚多様性者が、複数の波長制御部材50を1つずつ取り外しながら、上記検査を行うことで、色覚多様性者の色覚が補正されるために適切な所定の波長領域の吸収量がわかる。つまり、色覚多様性者の色覚多様性の程度が明らかになる。
【0076】
また、本実施の形態で示したように、複数の波長制御部材50を備える色覚検査用フィルタ40と石原色覚検査表とがあれば、従来のように病院又は眼鏡販売店などの特別な設置場所に設置されている色覚検査装置がなくとも、検査を行うことができる。色覚検査用フィルタ40は、従来の色覚検査装置とは異なり、シート形状の複数の波長制御部材50によって構成されている。そのため、例えば、色覚検査用フィルタ40は、眼鏡販売店などにより色覚多様性者へ容易に送付されるため、入手が容易である。
【0077】
このような色覚検査用フィルタ40が用いられることで、従来よりも簡便に色覚多様性の程度を明らかにすることができる。
【0078】
また、例えば、複数の波長制御部材50は、光の吸収量が多くなる順に積層されている。
【0079】
これにより、複数の波長制御部材50の積層数が減るごとに、最大の吸収ピークにおける吸収量が、均一なピッチで、減少する。そのため、上記検査において、色覚多様性者の色覚が補正されるために適切な所定の波長領域の吸収量が、より詳細にわかる。つまり、色覚多様性者の色覚多様性の程度が、より詳細に明らかになる。
【0080】
このような色覚検査用フィルタ40が用いられることで、従来よりも簡便に、かつ、より詳細に、色覚多様性の程度を明らかにすることができる。
【0081】
また、例えば、複数の波長制御部材50のそれぞれは、少なくとも一部が剥離及び貼付可能に積層されている。
【0082】
これにより、複数の波長制御部材50のうちの1つが取り外されたとしても、再度、取り付けられることが可能である。つまり、上記検査において、色覚多様性者が必要以上に複数の波長制御部材50のうちの1つを取り外してしまうという失敗をしても、再度検査をやり直すことができる。よって、このような色覚検査用フィルタ40が用いられることで、より簡便に色覚多様性の程度を明らかにすることができる。
【0083】
また、例えば、複数の波長制御部材50の厚みは、50μm以上500μm以下である。
【0084】
厚みが上記範囲である複数の波長制御部材50が、上記の使用環境下に24時間おかれると、複数の波長制御部材50の吸収量の維持率は96%以上98%以下になると予想される。
【0085】
このような複数の波長制御部材50を備える色覚検査用フィルタ40は、上記使用環境下において、すぐに劣化して所定の波長領域の光の吸収量が変化することが抑制されるため、充分な時間をかけて、色覚多様性者が上記検査を行うことができる。
【0086】
また、例えば、本実施の形態に係る色覚検査用器具10は、上記の色覚検査用フィルタ40と、面部21を有し、かつ、透光性を有する基材20と、を備える。色覚検査用フィルタ40は、面部21の上方に設けられる。複数の波長制御部材50は、面部21から離れる方向に向かって、光の吸収量が多くなる順に積層されている。
【0087】
これにより、複数の波長制御部材50の積層数が減るごとに、最大の吸収ピークにおける吸収量が、均一なピッチで、減少する。そのため、上記検査において、色覚多様性者の色覚が補正されるために適切な所定の波長領域の吸収量が、より詳細にわかる。つまり、色覚多様性者の色覚多様性の程度が、より詳細に明らかになる。また、基材20により色覚検査用フィルタ40が支持されるため、より検査が行われやすい。
【0088】
このような色覚検査用器具10が用いられることで、従来よりも簡便に、かつ、より詳細に、色覚多様性の程度を明らかにすることができる。
【0089】
また、例えば、基材20は、レンズである。
【0090】
これにより、色覚多様性者が近視又は遠視などであっても、色覚検査用器具10が用いられることで、従来よりも簡便に、かつ、より詳細に、色覚多様性の程度を明らかにすることができる。
【0091】
また、例えば、本実施の形態に係る眼鏡60は、上記の色覚検査用器具10と、色覚検査用器具10を保持する装着部61と、を備える。
【0092】
これにより、人が装着可能な光学部品として眼鏡60などを実現することができる。一般的に色覚多様性者の色覚補正は色覚補正眼鏡によって行われるため、上記検査が眼鏡60を用いて行われることで、違和感を低減することができる。
【0093】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2について説明する。実施の形態2では、主に、第1領域における複数の波長制御部材と第2領域における複数の波長制御部材とがそれぞれ独立して着脱可能である点が、実施の形態1と相違する。以下では、実施の形態1との相違点を中心に説明し、共通点の説明を省略または簡略化する。
【0094】
[色覚検査用器具の構成]
本実施の形態に係る色覚検査用器具10aの構成例について図9を用いて説明する。
【0095】
図9は、本実施の形態に係る色覚検査用器具10aの斜視図である。
【0096】
色覚検査用器具10aは、基材20aと、ベースフィルタ30aと、色覚検査用フィルタ40aと、を備える。
【0097】
基材20aが実施の形態1に係る基材20に、ベースフィルタ30aが実施の形態1に係るベースフィルタ30に、色覚検査用フィルタ40aが実施の形態1に係る色覚検査用フィルタ40に相当する。また、色覚検査用フィルタ40aが備える複数の波長制御部材50aは実施の形態1に係る複数の波長制御部材50に相当する。
【0098】
なお、本実施の形態においては、基材20aとベースフィルタ30aと複数の波長制御部材50aのそれぞれとは、平板形状である。平面視したとき、基材20aとベースフィルタ30aと複数の波長制御部材50aのそれぞれとの大きさは、一例として、200mm×300mm程度であり、例えば、色覚多様性者の両手で保持できる大きさであればよい。また、基材20aはリジッドな性質を有し、ベースフィルタ30aと複数の波長制御部材50aのそれぞれとはフレキシブルな性質を有している。
【0099】
本実施の形態においては、色覚検査用フィルタ40aは、平面視したとき、第1領域41と、第1領域41とは異なる第2領域42と、を有する。図9においては、第1領域41と第2領域42とは、破線で示されている。
【0100】
なお、第1領域41と第2領域42との間には、分離線Lが設けられている。図9においては、分離線Lは、一点鎖線で示されている。第1領域における複数の波長制御部材50aと、第3領域における複数の波長制御部材50aとは、分離線Lによって、分離される。分離線は、例えば、ベースフィルタ30aと複数の波長制御部材50aとに設けられたミシン目であるが、これに限られない。
【0101】
ここで、色覚検査用器具10aの使用例について、図9を用いて詳細に説明する。
【0102】
本実施の形態においては、色覚検査用器具10aは、図9の(a)の状態から、図9の(b)の状態を経て、図9の(c)の状態へ変化する。図9の(a)は第1領域41の波長制御部材57aが取り外される前の、図9の(b)は当該波長制御部材57aが取り外されている途中の、図9の(c)は当該波長制御部材57aが取り外された後の、色覚検査用器具10aを示す図である。
【0103】
図9が示すように、第1領域41における複数の波長制御部材50aと、第2領域42における複数の波長制御部材50aとは、それぞれ独立して着脱可能である。具体的には、色覚検査用器具10aにおいては、第1領域41における波長制御部材57aだけが取り外され、第2領域42における波長制御部材57aは波長制御部材56aの上方に積層されたままとすることが可能である。
【0104】
これにより、図9が示すように、第1領域41と第2領域42とにおいて、複数の波長制御部材50aの積層数が異なる色覚検査用フィルタ40aが実現される。つまり、第1領域41と第2領域42とで所定の波長領域の光の吸収量が異なる色覚検査用フィルタ40aが実現される。
【0105】
なお、本実施の形態においては、第1領域41と第2領域42との間には、分離線Lが設けられたが、これに限られない。例えば、第1領域41における複数の波長制御部材50aと第2領域42における複数の波長制御部材50aとは、予め分離されて製造されていてもよい。
【0106】
[効果など]
以上のように、本実施の形態に係る色覚検査用フィルタ40aは、さらに、色覚検査用フィルタ40aを平面視したとき、第1領域41と、第1領域41とは異なる第2領域42と、を備える。第1領域41における複数の波長制御部材50aと、第2領域42における複数の波長制御部材50aとは、それぞれ独立して着脱可能である。
【0107】
これにより、色覚多様性者にとって、石原色覚検査表の見え方が、第1領域41を通した場合と第2領域42を通した場合とでは互いに異なる。つまり、色覚多様性者は、第1領域41と第2領域42とを比較しながら上記検査を行うことができる。
【0108】
このような色覚検査用フィルタ40aが用いられることで、従来よりも簡便に、かつ、より詳細に、色覚多様性の程度を明らかにすることができる。
【0109】
(その他の実施の形態)
以上、本発明に係る色覚検査用フィルタ等について、各実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、これらの各実施の形態に限定されるものではない。本発明の主旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を実施の形態に施したものや、各実施の形態における一部の構成要素を組み合わせて構築される別の形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0110】
なお、実施の形態1においては、基材20とベースフィルタ30とは、別体であったが、これに限られない。例えば、ベースフィルタ30が設けられず、基材20が色素材料を含んでいてもよい。これにより、実施の形態1のベースフィルタ30と同様に、基材20が所定の波長領域の光を吸収することができる。
【0111】
また、上述のように色覚検査用器具10は、眼鏡60などに応用される。そのため、基材20は、視力を調整するための度有りのレンズであってもよく、又は、度無しのレンズであってもよい。
【0112】
なお、本実施の形態においては、複数の波長制御部材50及び50aのそれぞれ(例えば、波長制御部材51及び51a)は、1層で構成されていたがこれに限られない。
【0113】
例えば、複数の波長制御部材50及び50aのそれぞれは、フィルム基材と、フィルム基材の上方に積層される波長制御層と、によって構成される2層構造であってもよい。
【0114】
この場合、フィルム基材は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)などによって構成され、可視光領域において透明である。また、波長制御層は、例えば、コーティング及び印刷などのウェットプロセス、又は、蒸着及びスパッタなどのドライプロセスにより形成される、光吸収層であってもよい。波長制御層は、例えば、コーティングにより形成される場合は、上記透明な樹脂材料と上記色素材料とによって構成されてもよい。
【0115】
また、複数の波長制御部材50及び50aは、フレキシブルな性質であったが、これに限られず、リジッドな性質であってもよい。この場合、色覚検査用フィルタ40及び40aは、基材20及び20aを備えていなくてもよく、複数の波長制御部材50及び50aは自立した板形状であってもよい。
【0116】
なお、各実施の形態においては、検査として石原色覚検査表が用いられる例を示したがこれに限られない。例えば、色覚多様性者が、色覚検査用フィルタ40及び40aを通して、風景又は絵画を見ることで、検査が行われてもよい。図10は、実施の形態1及び2の色覚検査用フィルタ40及び40aが用いられる検査の一例を示す図である。より具体的には、図10は、花火大会の風景である。
【0117】
実施の形態1では色覚検査用フィルタ40及び40aが送付されることで色覚多様性者が色覚検査用フィルタ40を入手したが、これに限られない。色覚多様性者が、図10が示すような風景又は絵画を見ることができる場所(美術館又は花火大会会場)において、各実施の形態に係る色覚検査用フィルタ40及び40aが色覚多様性者に配布されてもよい。このような場所で色覚検査用フィルタ40及び40aが配布されることで、自身が色覚多様性者であると自覚がない者に、自覚を促すことが可能である。また、このような場所で、色覚検査用フィルタ40及び40aによって簡易な検査が行われてもよく、例えば、眼鏡販売事業者が当該検査結果に基づいて色覚補正眼鏡を販売してもよい。
【0118】
また、上記の実施の形態は、特許請求の範囲又はその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【符号の説明】
【0119】
10 色覚検査用器具
20 基材
21 面部
40 色覚検査用フィルタ
41 第1領域
42 第2領域
50 波長制御部材
60 眼鏡
61 装着部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10