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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】米糠みその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/24 20160101AFI20240112BHJP
   A23L 7/104 20160101ALI20240112BHJP
【FI】
A23L27/24
A23L7/104
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022083069
(22)【出願日】2022-05-20
(65)【公開番号】P2023170947
(43)【公開日】2023-12-01
【審査請求日】2022-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】591032703
【氏名又は名称】群馬県
(73)【特許権者】
【識別番号】516322382
【氏名又は名称】ふるさと食品株式会社
(72)【発明者】
【氏名】関口 昭博
(72)【発明者】
【氏名】長壁 紀夫
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-126051(JP,A)
【文献】特開2005-185274(JP,A)
【文献】特許第6937456(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
米糠に麹菌を培養して造る米糠麹の製造工程と、
前記米糠麹10質量部に対して、食塩を1.8~2.4質量部、水分を4.5~5.5質量部を加えて混合する仕込み用米糠麹の製造工程と、
前記仕込み用米糠麹を、密閉容器に空気を抜きながら隙間なく詰める仕込み工程
前記仕込み工程後に、20℃~40℃の範囲で6週間以上熟成させる熟成工程と、
を有する穀物原料が米糠のみの米糠みその製造方法。
【請求項2】
米糠に麹菌を培養して造る米糠麹の製造工程と、
前記米糠麹に、米糠を加える米糠添加工程と、
前記米糠添加の米糠麹に、食塩および水分を混合する仕込み用米糠麹の製造工程と、
前記仕込み用米糠麹を、密閉容器に空気を抜きながら隙間なく詰める仕込み工程と、
前記仕込み工程後に、20℃~40℃の範囲で6週間以上熟成させる熟成工程と、
を有する穀物原料が米糠のみの米糠みその製造方法。
【請求項3】
前記米糠添加工程が、前記米糠麹10質量部に対して、前記米糠の添加量が0.1~10質量部であり、
前記仕込み用米糠麹の製造工程が、前記米糠添加の米糠麹10質量部に対して、前記食塩の添加量が1.8~2.4質量部および前記水分の添加量が4.5~5.5質量部を混合するである、
請求項2に記載の穀物原料が米糠のみの米糠みその製造方法。
【請求項4】
前記米糠が焙煎米糠である請求項1~3のいずれか一項に記載の穀物原料が焙煎米糠のみの米糠みその製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米糠を主成分にしたみそ風調味料の製造方法に関するものである。
【0002】
(この明細書における定義の説明)
一般的に調味料の「みそ」について、広辞苑(第7版)には、「みそ[味噌]、(朝鮮語の[蜜祖]から来た語)1.調味料の一。大豆を主原料に、米または大麦、大豆の麹(こうじ)と塩とをまぜて発酵させて製造したもの。赤味噌、白味噌などの種類がある。」
また、みその品質表示基準(平成12年12月19日制定農林水産省告示第1664号)に記載の定義では、「大豆若しくは大豆及び米、麦等の穀類を蒸煮したものに、米、麦等の穀類を蒸煮してこうじ菌を培養したものを加えたもの又は大豆を蒸煮してこうじ菌を培養したもの若しくはこれに米、麦等の穀類を蒸煮したものを加えたものに食塩を混合し、これを発酵させ、及び熟成させた半固体状のものをいう。」などが、みその定義です。
本発明における「米糠を主成分にしたみそ風の調味料」は、大豆などの穀物を一切使用しないで製造するため、上述の「みそ」に該当しないことになるが、この明細書において、本発明の調味料を「米糠みそ」と呼称する。
【背景技術】
【0003】
玄米の精米時に排出される米糠は、たんぱく質、脂質、ビタミン等を豊富に含んでいるものの、農畜産の飼肥料、菓子の原材料の一部に使用されることはあったが、その栄養価が有効に利用されることは少なかった。そこで、米糠の付加価値を高め、食品として様々な利用方法が考えられる麹にすることを目的に、特許文献1に記載されているように米糠麹の製造方法が発明された。この発明は、製法が極めてシンプルで容易であること。特別な装置を使用することなく、例えば、恒温恒湿の環境さえ用意できれば、製造できること。また、製造された米糠麹は、酵素力価が高いこと。通常の白米の米麹に比べ、複数あるデンプン分解酵素がいずれも2倍以上であること。酵素の種類によっては高い酵素力価を具備する可能性を含んでいる。
【0004】
前述の特許文献1には、粉体状の米糠を粉状のまま、製造するもので、pHを酸性側に調製した水を加え、麹菌を接種した後に、容器内に入れ、恒温恒湿の環境下で培養して米糠麹を製造する方法についての発明が記載されている。前述の特許文献1の発明で製造される米糠麹は、それを喫食用とする場合、米糠特有の臭いが残り、風味に問題があるため商品化は困難であったが、この課題を特許文献2で解決している。
【0005】
前述の特許文献2には、米糠を焙煎し、粉末にした後に、水分、米糠固形物またはデンプン質を含む固形食材を加えて混合した後、定められた温度と湿度で培養する方法で製造することによって、麹菌に酸素やデンプンの供給を行い、風味及び品質が改善される焙煎米糠麹を製造することを可能にした発明が記載されている。
【0006】
このようにして、これまで付加価値の低かった米糠の有効利用及びその高品質化が達成された。そこで、さらなる有効利用を目的として、みそ風の調味料への応用を考えた。
【0007】
伝統的なみその製造は、主要材料として白米麹と大豆を使用する。場合によって、一部に麦麹等を使用することがある。このため白米麹等と言う。白米麹等は固形物で麹を作るため、粉体で作った米糠麹等に比較して酵素力価が半分程度と低く、その結果みその製造期間、すなわち、熟成期間が長く、製造コストを押し上げている。また、白米麹等はお米の栄養価の大部分が含まれる糠部分をカットしている。また、みそのもう一つの主要材料である大豆は国内消費の大部分を輸入に頼っており、世界的穀物生産状況で、価格上昇、調達不安等のリスクがある。さらに、伝統的なみその製造工程は、白米麹を製造するための蒸し工程、みそを製造するための大豆を蒸す工程、蒸した大豆と白米麹を搗きあるいは練りつぶす工程等手間のかかる工程が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第3858068号公報
【文献】特許第6937456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、伝統的なみそ製造は主要材料に国内消費の大部分を輸入に頼っている大豆を使用していること。粉体である米糠麹に比較して酵素力価が半分程度と低い固形状の麹である白米麹等を使用しているため、みその製造期間、特に、熟成期間が長くなること。また、みそを製造するための大豆を蒸す工程、さらに、蒸した大豆と白米麹等を練りつぶす等手間のかかる工程が必要であり、製造コストが高価になるという課題がある。
【0010】
本発明は、上述の課題を解決しようとするものであり、廉価で調達不安の少ない米糠を使用し、さらに熟成期間が短く、米糠の栄養価を有しコストダウンにつながる米糠みその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するための手段1は、まず、粉末状の米糠に麹菌を振りかけるなどし、培養することによって米糠麹を製造する。つづいて、前述の米糠麹の10質量部に、食塩を1.8~2.4質量部と水分を4.5~5.5質量部を加え、均一になるように混合することにより仕込み用の米糠麹を製造する。続いて、製造された米糠麹を、密閉容器に空気を抜きなが隙間なく詰めて、次の工程にまわせる様に仕込み作業を行う。この容器に仕込んだ米糠麹を、容器に入れたまま20℃~40℃範囲で、そのまま6週間以上熟成させることにより、米糠みそが完成する。このようにして、穀物原料が米糠のみの米糠みそを製造する方法である。
【発明の効果】
【0012】
現状のみその主要材料である大豆は輸入に頼っており、世界的穀物生産状況によって、価格上昇リスクや調達リスクがある。しかし、この手段1によれば、国内で食品として利用が少ない米糠を活用することで、このようなリスクを低減できる。さらに、現状の伝統的なみそ製造工程は、大豆を蒸す工程、蒸した大豆と白米麹等とを練りつぶす工程が必要不可欠であるが、この手段1によれば、粉体の米糠を材料とする米糠みその製造は、米糠麹、食塩および水分を混合して常温で6週間以上熟成させるだけの極めてシンプルで容易なものとなる。
【0013】
本発明によれば、粉末状の米糠を主原料とした米糠麹を使用することで、酵素力価が高く、米糠の栄養価を生かせ、製造が簡単でかつ熟成期間が短く、製造コストを比較的安価にすることが可能となる米糠みその製造方法を提供することができる。
【0014】
(課題を解決するためのその他の手段)
上述の目的を達成するための手段2は、まず、米糠に麹菌を培養して造る米糠麹を製造する。前記米糠麹に、米糠を添加する。さらに、食塩および水を入れて、仕込み用の米糠麹を製造する。続いて、密閉容器に空気を抜きながら隙間なく詰める仕込み工程の後、20℃~40℃の範囲で6週間以上熟成させる穀物の原料が米糠のみの米糠みその製造方法である。この様に手段2においては、米糠麹の酵素力価が強いので、増量するのに米糠を単に加えるのみで、増量が可能になり生産性を高めることが可能となる。このように生産性が高まれば、コストの低減にも寄与することができる。
【0015】
上述の目的を達成するための手段は、米糠に麹菌を培養して造る米糠麹を製造したうえで、米糠麹に米糠を添加するが、米糠の添加の範囲は米糠麹10質量部に対して、0.1~10質量の範囲である米糠の添加工程である。したがって、前述の米糠添加された米糠麹10質量部に対して、食塩の添加量が1.8~2.4質量部、水分の添加量が4.5~5.5質量部と、手段に比較して米糠を増量して混合する仕込み用米糠麹の製造工程となるが、食塩の添加量、水分の添加量ともに比率的には手段に記載の米糠みその製造方法と同様である。
このように、米糠を添加しても食塩や水分の添加割合は、変化させないので、自動化するのに単純な工程となり、量産化が容易となる。
【0016】
上述の目的を達成するための手段は、前述の手段1~手段における米糠を、焙煎した米糠(以後、焙煎米糠と呼称する。詳細は後述する。)に置き換えて米糠みそを製造する方法を提案したものである。このように米糠を焙煎した米糠を適切に採用することにより、風味の改善が期待できるのである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の米糠みその製造工程を示す図である。
図2】米糠麹に米糠添加工程が入る米糠みその製造工程を示す図である。
図3】米糠が焙煎米糠である場合の本発明の米糠みその製造工程を示す図である。
図4】焙煎米糠麹に焙煎米糠または米糠添加工程が入る米糠みその製造工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の実施の形態を、図1を参照しながら説明する。まず、図1の中央下にでてくる「米糠麹」は、特許文献1に記載した発明に準じて製造しており、米糠10に対して、乳酸と水を混合しpHを2.0に調整した溶液(以下、乳酸水と呼称する。)を3の割合で添加し、混合した後、粉状の麹菌を接種し、室温35℃、湿度90%の条件下で48時間培養して製造するものである。
【0019】
ここで、乳酸水について補足する。乳酸水にする目的は、米糠に存在する雑菌の殺菌である。だからと言ってpH2.0より強酸性がいいというわけではない。pH2.0より強酸性の場合、麹菌の生育も阻害されてしまう。要は、pH2.0程度が雑菌の生育は抑えるが、麹菌の生育は阻害しないということである。つまり、今回は乳酸を用いてpHを調整しているが、酢酸やクエン酸などの有機酸で調整しても構わない。人体に影響がなければ、乳酸に限定する必要はない。
【0020】
また、図1中の「米糠」、「麹菌」については、特許文献2に記載されている発明と同義であるため、特許文献2に記載された発明を、本発明ではそのまま適用している。すなわち「米糠」は、玄米を精米したときに発生するものであり、玄米表皮に近いいわゆる赤糠から玄米の中心に近い白糠まで使用できる。「麹菌」は、清酒、みそ、醤油などに使われるアスペルギルス( A s p e r g i l l u s )属の糸状菌(カビ)である。 図1中の「水分」は、純水でもよいし、水道水でもよい。多少の不純物があったとしても、人体に影響がなければ問題ない。
【0021】
(本発明における食塩の説明)
本発明で使用する食塩は、化学名:塩化ナトリウム、化学式ではNaClのことであり、できあがりの米糠みそ中に純物質として10%以上含まれるだけの純度があればよく、安全性に問題なければ、NaCl以外の物質が多少混ざっていてもかまわない。
【0022】
(米糠みその製造および仕込配合の考え方の説明)
まずは、上記の米糠麹、食塩、水分を混合し、適度な温度で熟成させ米糠みそを製造するが、配合について詳しく説明する。食塩は米糠麹10質量部に対して1.8~2.4質量部とする。1.8質量部未満では徐々に腐敗の危険性が高まるため好ましくない。逆に2.4質量部を超えると塩分が強くなり、徐々に食味が悪くなる。より好ましいのは、2.0~2.2質量部である。水分は米糠麹10質量部に対して4.5~5.5質量部とする。4.5質量部未満では徐々に熟成に時間がかかり好ましくない。逆に5.5質量部を超えるようになると、徐々に液化が進みやすくなり、食味に影響するため好ましくない。水分でより好ましいのは、4.8~5.2質量部である。最終的な食塩濃度が10~14%の範囲に収まるように制御することが好ましい。よりのぞましいのは11~13%に入ることである。補足するが、食塩や水分の配合量は、米糠麹の水分含量、例えば、後述の実施例では27%を考慮して決める。
【0023】
(米糠みそ原料の混合の説明)
前述のように米糠麹、食塩、水分を事前に決めた量をそれぞれ測った後、十分な大きさの容器に入れて十分に混合する。この際、原料を入れる順番は問わない。混合の仕方も特に決まった方法はなく、最終的に各原料が均一になればよいので、手法は問わない。手でもよいし、へらなどを使ってもよい。またミキサーなどを使えば、仕込み量が多くなっても迅速に混合処理が可能であるので、好ましい。
【0024】
こうして混合した原料を密閉容器で空気を抜きながら、隙間なく詰めていく。密閉容器は最終的に空気が入らないように詰めることができるものであればよいが、隙間なく詰める時に破れない程度の強度は必要であり、作業的にも入り口が広い口幅のものがよい。以上の条件を満たしていれば素材は問わない。例えば樽のようなものでもよいし、平底で厚めの強度の強いビニール袋でもよい。
【0025】
(米糠みその熟成の説明)
詰め終わったら、熟成のために20℃~40℃の温度範囲に保った環境に静置する。温度が高い場合は熟成期間が短くなり、温度が低ければ熟成期間は長くなる。また20℃未満では徐々に酵素の働きが弱くなり、熟成期間が長くなり好ましくない。逆に40℃を超えると、酵素が徐々に失活するので好ましくない。理想的には25℃~35℃に保つ環境が好ましい。保つ時間は、6週間以上が好ましい。なぜならば、米糠のたんぱく質やデンプンが分解されてうま味や甘みを感じるようになるには、最低でも6週間は必要となるからである。熟成期間が短くなればなるほど分解率が下がり、うま味や甘みが少なくなる。逆に6週間以上おくことは特に問題にならない。本発明のみそは塩分が高いので、微生物による腐敗の心配がないからである。また、たんぱく質やデンプンがすべて分解されてしまっても、なんら問題はないからである。変化があるとすれば、分解されてできたアミノ酸と糖分が反応して着色反応が起こるくらいであり、この変化は、みその品質にとって大きな問題にならないからである。
【0026】
次に、図2について説明する。図1との違いは、米糠麹に米糠を添加する工程が入ることである。工程といっても実際には、食塩と水分とを同時に加えても構わない。米糠を添加することによって、全体の配合割合が変わってくるので、配合について述べる。まず、米糠麹と米糠の配合割合は、米糠麹10質量部に対して米糠0.1~10質量部とする。つまり10質量部添加の場合、単純計算で図1での製造方法に比べ、2倍の米糠みそが得られることになる。米糠の添加量が米糠麹10質量部に対して10質量部以上だとしても製造可能である。ただ、添加量が10質量部を超えるようになると、増加するに従い、徐々に熟成期間が長くなることが予測される。許される範囲で、添加量を増減することが可能である。
【0027】
米糠を添加するが、食塩および水分の添加割合は、図1の説明と同じである。すなわち、水分は米糠添加の米糠麹10質量部に対して4.5~5.5質量部とする。4.5質量部未満では徐々に熟成に時間がかかり好ましくない。逆に5.5質量部を超えるようになると、徐々に液化が進みやすくなり、食味に影響するため好ましくない。水分でより好ましい範囲は、4.8~5.2質量部である。最終的な食塩濃度が10~14%の範囲に制御するのがよい。よりのぞましいのは、食塩濃度が11~13%の範囲に制御することである。補足するが、食塩や水分の配合量は、米糠麹の水分含量、例えば、後述の実施例では27%、米糠の水分含有量、例えば、後述の実施例では11%を考慮して決める。ちなみに、塩分濃度は、米糠麹、米糠、食塩、水分を加えた最終の合計量で、食塩の量を割って算出する。
【0028】
以上、図2についての配合について述べたが、その後の工程は、図1で説明したものとまったく同じである。繰り返しになるが、米糠麹に米糠を添加する工程は、独立して行っても構わないが、実際には、米糠麹、米糠、塩分、水分を同一容器で同時に混ぜても構わない。
【0029】
(米糠の代わりに焙煎米糠を使用した米糠みその製造方法の説明)
これまでは、原料に米糠を使用した実施形態について説明してきた。次に米糠の代わりに焙煎米糠を使用したみその製造方法について、図3を用いて説明する。まず、図3中にでてくる用語について説明する。
【0030】
「米糠」、「水分」、「麹菌」、「食塩」については、図1の時に説明したので、そのまま援用する。ここでは「焙煎米糠」、「焙煎米糠麹」について説明する。ただし、これらについても特許文献2に記載された発明をそのまま適用する。 乳酸水を使わない場合、別の方法で米糠を殺菌する必要がある。さらに焙煎することによって、米糠由来のいやな臭いを香ばしさに変化させることが可能になる。この目的のために、フライパンなどを用いて米糠を少し茶色がかるまで焙煎したのが、「焙煎米糠」である。
「焙煎米糠麹」とは焙煎米糠にこうじ菌を加えて麹にしたものであり、以後「焙煎米糠麹」と呼称する。その製造方法は、上述した米糠麹の製造方法と同一であり、特許文献2に記載された発明をそのまま適用する。
【0031】
改めて確認するが、図1および図2では、「焙煎米糠」という用語はでてこない。図3で初めて登場する用語である。図3によると、まず「米糠」を焙煎する工程により「焙煎米糠」ができる。それを麹にして「焙煎米糠麹」ができる。焙煎米糠麹に、「食塩」、「水分」を加えて混合した後は、これまで述べてきたのと同様に米糠みそにすることができる。食塩および水分の配合割合は、上述した図1および図2と同じである。すなわち水分は焙煎米糠麹10質量部に対して4.5~5.5質量部とする。4.5質量部未満では徐々に熟成に時間がかかり好ましくない。逆に5.5質量部を超えると、徐々に液化が進みやすくなり、食味に影響するため好ましくない。水分でより好ましいのは、4.8~5.2質量部である。最終的な食塩濃度が10~14%の範囲であればよい。食塩濃度がより望ましいのは11~13%の範囲に入るように制御することである。補足するが、食塩や水分の配合量は、焙煎米糠麹の水分含有量、例えば、後述の実施例では27%を考慮して決める。
【0032】
また、図4は、焙煎米糠を添加した焙煎米糠麹、食塩、水分を混合して、米糠みそを製造する工程を表している。
食塩および水分の配合割合は、上述した図3と同じである。すなわち水分は焙煎米糠添加の焙煎米糠麹10質量部に対して4.5~5.5質量部とする。4.5質量部未満では徐々に熟成に時間がかかり好ましくない。逆に5.5質量部を超えるようになると、徐々に液化が進みやすくなり、食味に影響するため好ましくない。水分でより好ましいのは、4.8~5.2質量部である。最終的な食塩濃度が10~14%の範囲に制御することが好ましい。より望ましいのは11~13%に制御することである。補足するが、食塩や水分の配合量は、焙煎米糠麹の水分含有量、例えば、後述の実施例では27%、焙煎米糠の水分含有量、例えば、後述の実施例では7%を考慮して決める。ちなみに塩分濃度は、焙煎米糠麹、焙煎米糠、食塩、水分を加えた最終の合計量で食塩を割って算出する。図4の工程で、焙煎米糠を焙煎米糠麹に添加する代わりに、その一部の量を米糠に代替してもよい。
【実施例
【0033】
以下、本発明を実施例に基づき、より具体的に説明する。
本発明は、米糠麹の製造が前提となり、その後、米糠麹に食塩、水分、必要に応じて米糠を添加混合した後、熟成させ完成させるものである。本発明では、米糠を基本としているが、米糠を焙煎した焙煎米糠を使用して、米糠みそも製造している。
以下に米糠みそ製造の実施例1~4を示す。表1に仕込み配合を示す。
【0034】
表1 仕込み配合
実施例を詳しく説明する前に、表1の仕込配合について簡単に説明する。実施例1および実施例2が米糠タイプである。実施例3および実施例4が焙煎米糠タイプである。さらに麹のみで製造するのが実施例1および実施例3であり、麹の量を減らして米糠または焙煎米糠を添加したのが実施例2および実施例4である。食塩と水分の添加量は最終的に塩分が12.5%になるように、麹や米糠の水分含有量、例えば、麹はいずれも27%、米糠は11%、焙煎米糠は8%を加味して決定した。塩分の実績値は目標と完全一致とはならなかったが、仕込み後の全重量で、加えた食塩を除した数値は約11%であった。
(米糠みそ製造の実施例1)
【0035】
(米糠麹の製造の説明)
図1の製造工程に従って、まずは、米糠麹の製造について説明する。特許文献1に記載の発明を適用して製造した。以下に具体的に記載する。
米糠、いわゆる白糠を2kgに対してpHを2.0とした乳酸水を750mL添加し、ミキサーを使って均一になるまで混合した。これに粉状の麹菌を米糠2kgに対して0.5gを添加しミキサーを使って均一になるまで混合した。麹菌は、黄麹菌、すなわち、アスペルギルス・オリゼー:Aspergillus Oryzaeであり、株式会社樋口松之助商店製の液化仕込用を用いた。これを湿度90%、室温35℃の培養槽で2日間培養した。途中24時間目に塊をほぐすように均一に混ぜ合わせて米糠麹を製造した。ここで製造した米糠麹は実施例2と共用した。
【0036】
(米糠みその製造の説明)
原料、すなわち、米糠麹、食塩、水分をステンレスのボールに入れ、手で捏ねるようにしてよく混合した。これをみそ玉という。このみそ玉をポリエチレン製の袋、すなわち、(株)生産日本社製 ラミジップスタンドタイプLZ―18、大きさ260×180×53mmに、空気が残らないように押し込みながら詰めていった。
【0037】
(熟成)
30℃の保温庫で、途中経過を観察しつつ40週間熟成させた。液化した部分が偏らないように、1週間ごとに天地替え、すなわち、上下を反転させた。熟成中の様子は、わずか2週間で軟化がすすみ、ペースト状になった。そのため、2週間以降の天地替えは月に1回程度行った。後述するが、6週間後に実施した官能検査の結果から、すでに完成してることが確認できた。だが、他の実施例とともに40週まで30℃で保管した。ペースト状になったのは酵素力価が高く、液化が予想以上に進んだためと思われた。
【0038】
(米糠みそ製造の実施例2)
表1の実施例2について説明する。上述したように実施例1との違いは、米糠の添加の有無であり、実施例2は麹を減らして、この減らした分のみ米糠を添加した。実施例2について、図2を用いて説明する。米糠麹は実施例1で製造したものをそのまま使用した。実施例2の米糠みそ製造の原材料は、米糠麹、米糠、食塩、水分である。これらをステンレスボールに入れて手で捏ねるようにしてよく混合した。以後は実施例1と同様にポリエチレン製の袋に詰め、30℃で40週間熟成させた。
【0039】
(熟成中の様子)
実施例1ほどではないが4週間後の段階では軟化がすすみ、ペースト状になった。後述する6週間後の官能検査の結果、実施例1と同様に、米糠みそとして完成していることが確認できた。だが、他の実施例とともに40週まで30℃で保管した。実施例2では、米糠麹の量を減らして、米糠を米糠麹10質量部に対して10質量部を加えたが、問題なく液化が進み、米糠みそが完成した。つまり、米糠麹の酵素力が強く、加えた米糠までも分解できたということである。ちなみに天地替えは1週間ごとに行っていたが、ペースト状になった4週以降からは、月に1回程度のペースで行った。
【0040】
(米糠みそ製造の実施例3)
図3を用いて説明する。実施例3では、実施例1および実施例2ではなかった、米糠の焙煎工程、焙煎米糠麹の製造工程が入るので、これらを説明する。
【0041】
(米糠の焙煎工程の説明)
原料として、精白米を得るときに排出される米糠、すなわち、いわゆる赤糠を使用した。その米糠を24cmのフライパンに約300gをとり、ガスコンロの強火で、木ベラでよくかき混ぜながら、約8分間、煙が少しでて、米糠全体が、薄い茶色になるまで焙煎し、焙煎米糠を得た。この作業を数回繰り返し、必要量を確保した。焙煎後は、そのまま別容器に移して、そのまま放置し、室温に戻ったところで、ビニールをかぶせ、次の工程(焙煎米糠麹の製造)まで、室温で保管した。色の程度は、元々の色を反映して、黄粉の色より茶色味が強い色になった。
【0042】
(焙煎米糠への水分添加と麹菌の添加)
添加する水分は、水道水を使用した。焙煎米糠1kgに対して460mLの水分を添加した。水分添加をしながら、水分が均一に行き渡るように攪拌した。つづいて、水分が添加された焙煎米糠に対して1/5000量の粉状の麹菌を添加した。麹菌は、実施例1と同じ種類のものを使用した。すなわち黄麹菌、すなわち、アスペルギルス・オリゼー:Aspergillus Oryzaeであり、株式会社樋口松之助商店製の液化仕込用を用いた。この黄麹菌を添加後、さらに均一になるようにミキサーを使って2分間程度混合した。
【0043】
(培養温度)
麹菌を添加後、温度35℃、湿度90%の恒温恒湿器に入れて静置した。24時間後に一度、かたまりをほぐすように撹拌混合し、再び温度35℃、湿度90%の恒温恒湿器で静置し、さらに24時間おいて、焙煎米糠麹を製造した。荒熱を取った後、ビニール袋に移して密封し、使用時まで冷凍保存した。ここで製造した焙煎米糠麹は実施例4と共用した。
【0044】
(米糠みその製造)
実施例3に使用した原料は、焙煎米糠麹、食塩、水分である。これらの原料を実施例1および2と同様にステンレス製のボールに入れて手で捏ねるようにしてよく混合し、ポリエチレン製の袋に詰めて、30℃の保温庫で40週間熟成させた。熟成中の様子は、実施例1および2に比べ軟化がおそかったが、後述するように6週間後には官能検査の結果から完成していることが確認できた。外観上は仕込み直後に比べ、色が濃くなり茶褐色になった。天地替えは1週間ごとに行ったが、6週以降は月に1回程度のペースで行った。
【0045】
(米糠みそ製造の実施例4)
図4を用いて説明する。実施例3との違いは、焙煎米糠の添加の有無であり、実施例4では、焙煎米糠を添加した。
実施例4の原料は、焙煎米糠麹、食塩、焙煎米糠、水分である。これらの原料を実施例3と同様にステンレス製のボールに入れて、手で捏ねるようにしてよく混合し、ポリエチレン製の袋に詰めて、30℃の保温庫で40週間熟成させた。熟成中の様子は、外観上は仕込み直後に比べ色が濃くなって茶褐色となっているなど実施例3と大差なかった。後述するように、6週間後の官能検査では、実施例3と同様に完成していることが確認できた。天地替えは実施例3と同様に1週間ごとに行ったが、6週以降は月に1回程度のペースで行った。
【0046】
以下に本発明の実施例で製造された米糠みそを、実験例1~3を通して評価する。
実験例1(米糠麹および焙煎米糠麹の酵素力価)
次にデータ取得方法および分析結果について記述する。実施例1および実施例3で製造した麹のα-アミラーゼおよびグルコアミラーゼの2種類のデンプン分解系の酵素力価を、キッコーマンバイオケミファ株式会社のα-アミラーゼ測定キットおよび糖化力分別定量キットを用いて測定した。結果を表2に示した。
【0047】
実施例1および実施例3で製造した米糠麹および焙煎米糠麹の酵素力価測定の結果を表2に示した。
【0048】
表2 酵素力価

みそ用麹の酵素力価はα―アミラーゼ1,000U/g程度、グルコアミラーゼ200U/g程度でいずれも令和元年度佐賀県産業技術センター研究報告であり、いずれもみそ仕込みに問題ないレベルであった。
【0049】
実験例2(栄養成分の分析)
実施例1~4で製造した米糠みその栄養成分分析を行った。栄養成分のうち、水分はカールフィッシャー法により測定した。灰分は550℃-直接灰化法により測定した。たんぱく質は燃焼法により測定した。脂質は基準みそ分析法により測定した。炭水化物は以下の計算で求めた。すなわち炭水化物=100-(水分+灰分+たんぱく質+脂質)によって算出した。エネルギーは計算で求めた。エネルギー換算係数は、たんぱく質:4、脂質:9、炭水化物:4としてそれぞれの分析値に乗じて計算した。ナトリウムおよびカリウムは希酸抽出法により調製した試料について原子吸光分光光度計として、株式会社島津製作所AA-7000Fを用いて測定した。食塩相当量はナトリウムの分析値に2.54を乗じ、単位をg/100gに換算して表示した。結果を表3に示した。参考に、米みその栄養成分分析値を第八訂日本食品標準成分表より抜粋して併記した。
【0050】
表3 本発明の米糠みその栄養成分分析結果
【0051】
実施例3で製造した米糠みそは参考の米みそと比較すると水分、灰分、ナトリウムは同程度であり、たんぱく質は低い一方、炭水化物は高かった。また脂質とカリウムについては、米糠みそは参考の米みそよりも少なかったが、焙煎米糠みそは参考の米みそよりも多くなった。実施例1および実施例2で使用した米糠には、いわゆる白糠を使用した。玄米の表皮から10%程度削ってからでてくる白米に近い部分の糠である。一方、実施例3および実施例4、すなわち焙煎米糠に使用した糠はいわゆる赤糠であり、玄米表皮近辺の糠である。白糠には脂質やカリウムが少ないが、赤糠は多い。参考の米みそと比較して脂質とカリウムでこのような結果になったのには、原料の差が原因であると考えられる。
【0052】
実験例3(官能試験)
実施例1~4で製造した米糠みその官能試験を2週間後、4週間後、6週間後、16週間後に実施した。4名の評価者で、みそ風調味料としての完成度(熟成度)を「×:熟成していない」、「△:熟成未完」、「〇:熟成完了」の3段階で評価した。結果を2週間後は表5に、4週間後は表6に、6週間後は表7に、16週間後は表8に示した。
【0053】
表5 官能検査結果(2週間後)
【0054】
表6 官能検査結果(4週間後)
【0055】
表7 官能検査結果(6週間後)
【0056】
表8 官能検査結果(16週間後)
【0057】
評価者によって、また実施例によってばらつきはあるが、2週間後(表5)では、熟成していないという評価が多数を占めた。4週間後(表6)では、熟成未完という評価が多数を占め、一部に「熟成完了」との評価も見られた。6週間後(表7)では、一部に「熟成未完」との評価も見られたが、いずれの実施例でも大方「熟成完了」との評価となった。つまり6週間後の時点ではすでにみそ風の調味料として完成していたことが分かる。少なくとも通常のみそが熟成期間に半年以上を要するのに比べ、短期間で完成することが分かった。6週間で完成することが確認できたが、それ以後の変化を確認する目的で、 16週間後にも官能検査を実施した。結果を表8に示した。6週間後(表7)の結果とほぼ同様の結果となり、熟成期間を延長したことによる劣化などは起こらず、問題ないことが確認できた。最終的には40週間保管して、品質を評価した。40週間後の結果を表には示さないが、いずれもみそ風調味料として実用的には問題ないレベルであった。つまり本発明の米糠みそは、6週間で完成し、少なくとも16週間後までは問題なく保管することが可能であった。また、仮に保管期間を40週まで延ばしたとしても、問題ないことも確認できた。
【0058】
以上の実施例および実験例から、官能的にはみそ風調味料としての米糠みそを製造することができた。
なお、以下に本発明の要点をまとめると
(1) 大豆を使用しないで調味料として米糠みそができることである。
(2) 穀物原料は米糠のみである。
(3) 米糠を麹にする工程は非常に簡便である。
(4) 大豆不使用なので、大豆の蒸煮、潰し工程などが必要なく、仕込み工程も簡便である。
(5) 酵素力が強い米糠麹およびすでに粉体状態の米糠を使用しているので、熟成期間の短縮が期待できる。
(6) 完成した米糠みそは実用レベルである。
【産業上の利用可能性】
【0059】
以上のことから、本発明の米糠みそは、材料として輸入に頼る大豆を使用せず、たんぱく質や脂質、ビタミン等豊富な栄養価を持ちながら食品として未活用の廉価な米糠を材料にして製造するものである。
また、米糠みその製造は、粉体の米糠を材料とするため、米糠麹(および米糠)と食塩と水分を混合して常温で6週間以上熟成させるだけの極めてシンプルで容易なものであり、材料の廉価性も加わって価格競争力のある商品として提供できる。
さらに、米糠みそは米糠を主要材料にしているため、米糠みそで作ったみそ汁を白米ごはんと食する事で玄米ごはんに栄養価を近づける事ができる。






















図1
図2
図3
図4