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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】スピーカー
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/22 20060101AFI20240112BHJP
   H04R 1/24 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
H04R1/22 310
H04R1/24 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022561355
(86)(22)【出願日】2021-10-15
(86)【国際出願番号】 JP2021038242
(87)【国際公開番号】W WO2022102341
(87)【国際公開日】2022-05-19
【審査請求日】2022-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2020187266
(32)【優先日】2020-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100183265
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 剣一
(72)【発明者】
【氏名】本田 一樹
(72)【発明者】
【氏名】西田 将史
(72)【発明者】
【氏名】池田 純一
(72)【発明者】
【氏名】來山 一平
【審査官】冨澤 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-500535(JP,A)
【文献】国際公開第2012/164866(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0028801(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0027238(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0054671(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0085692(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0182879(US,A1)
【文献】特開平2-31599(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/22
H04R 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前方に凸に湾曲したドーム状の振動板と、
内部に前記振動板が配置され、前方に向かうにしたがって内径が増加する筒状部材と、
前記振動板の前面の前方に配置されたフェーズプラグと、を有し、
前記フェーズプラグが、
前方に向いた前面と、
前記振動板の前面における中央部分に対して平行に一定の間隔をあけて対向する後面と、
前記前面と前記後面とを接続する側面とを備え、
スピーカーの前後方向視で、前記フェーズプラグの前面が、前記フェーズプラグの後面に比べて大きく、
前記フェーズプラグの側面の少なくとも一部が、前方に延在しつつ外側に延在して前記筒状部材の内周面および前記振動板の前面に対して対向し、前記振動板から発生した音波を前記筒状部材の内周面に向ける傾斜面と、前記後面から少なくとも前後方向に延在する第1壁面と、前記第1壁面から少なくとも外側に向かって延在して前記傾斜面に接続する軒天状の第2壁面とを含んでいる、スピーカー。
【請求項2】
前方に凸に湾曲したドーム状の振動板と、
前記振動板の前面の前方に配置されたフェーズプラグと、を有し、
前記フェーズプラグが、
前方に向いた前面と、
前記振動板の前面における中央部分に対して平行に一定の間隔をあけて対向する後面と、
前記前面と前記後面とを接続する側面とを備え、
前記フェーズプラグが、前記側面に複数のリブを備え、
前記複数のリブそれぞれが、前記側面から前記振動板の前面に向かって突出している、スピーカー。
【請求項3】
前記フェーズプラグの側面の少なくとも一部が、前方に延在しつつ外側に延在する傾斜面を含んでいる、請求項2に記載のスピーカー。
【請求項4】
前記複数のリブそれぞれが、前記振動板の前面に対して平行に前記一定の間隔をあけて対向する対向面を備える、請求項2に記載のスピーカー。
【請求項5】
前記複数のリブそれぞれが、スピーカーの前後方向視で、前記前面の外周縁を越えて外側に向かって突出している、請求項2に記載のスピーカー。
【請求項6】
スピーカーの前後方向視で、前記フェーズプラグの前面が、前記フェーズプラグの後面に比べて大きい、請求項2に記載のスピーカー。
【請求項7】
内部に前記振動板が配置され、前方に向かうにしたがって内径が増加する筒状部材、をさらに有し、
前記フェーズプラグの側面の少なくとも一部が、前方に延在しつつ外側に延在して前記筒状部材の内周面および前記振動板の前面に対して対向し、前記振動板から発生した音波を前記筒状部材の内周面に向ける傾斜面を含んでいる、請求項6に記載のスピーカー。
【請求項8】
前記複数のリブそれぞれが、前方に向かうにしたがって肉厚が増加する形状を備える、請求項2に記載のスピーカー。
【請求項9】
前記複数のリブそれぞれの対向面が、スピーカーの前後方向視で、外側に向かうにしたがって幅が減少する形状を備える、請求項2に記載のスピーカー。
【請求項10】
前記フェーズプラグの前記傾斜面が、外側に凸に湾曲した湾曲面である、請求項1または7に記載のスピーカー。
【請求項11】
前記フェーズプラグの前面が、内側に凸に湾曲した錐面を備える円錐状の凸面である、請求項1または2に記載のスピーカー。
【請求項12】
前記ドーム状の振動板が、ツイータの振動板であって、
前記筒状部材が、ウーファの振動板である、請求項1または7に記載のスピーカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スピーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、ドーム状の振動板と、その振動板の前面の前方に配置されたフェーズプラグとを備えるスピーカーが開示されている。フェーズプラグに対向する振動板の一部分から発生した音波の位相が、前記振動板の他の部分から発生した音波の位相に合わせられる。これにより、音圧の低下が抑制され、音質が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許第5875252号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、ドーム状の振動板とその前方に配置されたフェーズプラグとを備えるスピーカーにおいて、さらに音質を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本開示の一態様によれば、
前方に凸に湾曲したドーム状の振動板と、
内部に前記振動板が配置され、前方に向かうにしたがって内径が増加する筒状部材と、
前記振動板の前面の前方に配置されたフェーズプラグと、を有し、
前記フェーズプラグが、
前方に向いた前面と、
前記振動板の前面における中央部分に対して平行に一定の間隔をあけて対向する後面と、
前記前面と前記後面とを接続する側面とを備え、
スピーカーの前後方向視で、前記フェーズプラグの前面が、前記フェーズプラグの後面に比べて大きく、
前記フェーズプラグの側面の少なくとも一部が、前方に延在しつつ外側に延在して前記筒状部材の内周面および前記振動板の前面に対して対向し、前記振動板から発生した音波を前記筒状部材の内周面に向ける傾斜面を含んでいる、スピーカーが提供される。
【0006】
また、本開示の別態様によれば、
前方に凸に湾曲したドーム状の振動板と、
前記振動板の前面の前方に配置されたフェーズプラグと、を有し、
前記フェーズプラグが、
前方に向いた前面と、
前記振動板の前面における中央部分に対して平行に一定の間隔をあけて対向する後面と、
前記前面と前記後面とを接続する側面とを備え、
前記フェーズプラグが、前記側面に複数のリブを備え、
前記複数のリブそれぞれが、前記振動板の前面に対して平行に前記一定の間隔をあけて対向する対向面を備え、
前記複数のリブそれぞれが、スピーカーの前後方向視で、前記前面の外周縁を越えて外側に向かって突出している、スピーカーが提供される。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、ドーム状の振動板とその前方に配置されたフェーズプラグとを備えるスピーカーにおいて、さらに音質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の実施の形態1に係るスピーカーの内部を示す概略的な斜視図
図2】実施の形態1に係るスピーカーの音響発生ユニットの断面図
図3】実施の形態1に係るスピーカーの音響発生ユニットの分解図
図4】実施の形態1に係るフェーズプラグを含むスピーカーの部分拡大断面図
図5】実施の形態1に係るフェーズプラグの前方斜視図
図6】実施の形態1に係るフェーズプラグの後方斜視図
図7】実施の形態1に係るフェーズプラグの側面図
図8】実施の形態1に係るフェーズプラグの後面図
図9】フェーズプラグが設けられていない比較例のスピーカーに生じる第1の問題点を示すスピーカーの概略図
図10】フェーズプラグが設けられていない比較例のスピーカーに生じる第2の問題点を示すスピーカーの概略図
図11】フェーズプラグが設けられていない比較例のスピーカーにおける音圧-周波数特性を示す図
図12】実施の形態1に係るフェーズプラグの後面による効果を示すスピーカーの概略図
図13】実施の形態1に係るフェーズプラグの側面による効果を示すスピーカーの概略図
図14A】実施の形態1のスピーカーにおける音圧分布図
図14B】皿状のフェーズプラグを備える比較例のスピーカーにおける音圧分布図
図15】実施の形態1に係るスピーカーの音圧-周波数特性(実線)と、フェーズプラグを備えていない比較例のスピーカーの音圧-周波数特性(一点鎖線)のシミュレーション値を示す図
図16A】実施の形態1のスピーカーにおける波面の伝播を示す図
図16B】平板状のフェーズプラグを備える比較例のスピーカーにおける波面の伝播を示す図
図17】複数のリブを備えるフェーズプラグを有するスピーカーの音圧-周波数特性(実線)と、複数のリブを備えていないフェーズプラグを有するスピーカーの音圧-周波数特性(一点鎖線)のシミュレーション値を示す図
図18】実施の形態2に係るフェーズプラグを含むスピーカーの部分拡大断面図
図19】実施の形態2に係るフェーズプラグの前方斜視図
図20】実施の形態2に係るフェーズプラグの後方斜視図
図21】実施の形態2に係るフェーズプラグの側面図
図22】実施の形態2に係るフェーズプラグの後面図
図23】実施の形態3に係るフェーズプラグを含むスピーカーの部分拡大断面図
図24】別の実施の形態に係るフェーズプラグを含むスピーカーの部分拡大断面図
図25】さらに別の実施の形態に係るフェーズプラグを含むスピーカーの部分拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、適宜図面を参照しながら、実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0010】
なお、発明者らは、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面及び以下の説明を提供するものであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。
【0011】
(実施の形態1)
図1は、本開示の実施の形態1に係るスピーカーの内部を示す概略的な斜視図である。図2は、実施の形態1に係るスピーカーの音響発生ユニットの断面図である。図3は、音響発生ユニットの分解図である。
【0012】
図1に示すように、スピーカー10は、エンクロージャー12と、エンクロージャー12内に設けられた音響発生ユニット14とを有する。本実施の形態1の場合、スピーカー10は同軸スピーカーであって、図2および図3に示すように、音響発生ユニット14は、ウーファ16と、ツイータ18とを含んでいる。また、音響発生ユニット14は、ウーファ16を支持するフレーム20と、ツイータ18とフレーム20を支持する磁気回路22とを含んでいる。さらに、音響発生ユニット14は、フェーズプラグ24を含んでいる。
【0013】
本実施の形態1の場合、ウーファ16は、振動板26と、振動板26の前端をフレーム20の環状の前端部20aに固定するエッジと、振動板26からスピーカー10の後方に向かって延在する円筒状のボイスコイルボビン30と、ボイスコイルボビン30に設けられたボイスコイル32と、ボイスコイルボビン30を振動可能に支持するダンパー34と、マグネット36とを含んでいる。
【0014】
ウーファ16の振動板26は、スピーカー10の前方に向かうにしたがって内径が増加する筒状の部材、例えば円錐台状の部材である。その形状の中心軸がスピーカー10の前後方向に延在するスピーカー10の中心軸Cと一致するように、振動板26は、エッジ28とダンパー34とを介してフレーム20に振動可能に支持されている。磁気回路22内に配置されたウーファ16用のマグネット36に隣接配置されたボイスコイル32に電流が流れることにより、ボイスコイルボビン30が前後方向に振動する。それにより、ボイスコイルボビン30に接続されたウーファ16の振動板26が振動して音波を発生する。
【0015】
ツイータ18は、振動板38と、振動板38を支持するエッジ40と、振動板38からスピーカー10の後方に向かって延在する円筒状のボイスコイルボビン42と、ボイスコイルボビン42に設けられたボイスコイル44と、マグネット46とを含んでいる。
【0016】
ツイータ18の振動板38は、前方に凸に湾曲したドーム状の部材である。例えば、振動板38は、半球形状を備える。その形状の中心軸がスピーカー10の中心軸Cと一致するように、振動板38はエッジ40を介して磁気回路22の円筒部22aの頂面に振動可能に設けられている。その結果、ウーファ16の振動板26とツイータ18の振動板38が同軸(中心軸C)上に配置されている。なお、磁気回路22の円筒部22aは、ウーファ16のボイスコイルボビン30内に配置される。これにより、ツイータ18の振動板38は、ウーファ16の振動板26内に配置されている。磁気回路22内に配置されたツイータ18用のマグネット46に隣接配置されたボイスコイル44に電流が流れることにより、ボイスコイルボビン42が前後方向に振動する。それにより、ボイスコイルボビン42に接続されたツイータ18の振動板38が振動して音波を発生する。
【0017】
フェーズプラグ24は、ツイータ18の振動板38の前方に配置されている。
【0018】
図4は、実施の形態1に係るフェーズプラグを含むスピーカーの部分拡大断面図である。また、図5図8は、実施の形態1に係るフェーズプラグの前方斜視図、後方斜視図、側面図、および後面図である。
【0019】
図4図8に示すように、フェーズプラグ24は、前方に向いた前面24aと、ツイータ18の振動板38の前面38aに対向する後面24bと、前面24aと後面24bとを接続する側面24cとを備える。また、フェーズプラグ24は、磁気回路22の円筒部22aの頂面に取り付けられる環状のアタッチメント部24dと、側面24cとアタッチメント部24dとを接続する複数の脚部24eとを備える。アタッチメント部24dは、スピーカー10の前後方向視で、ツイータ18の振動板38の外側に位置して振動板38を囲んでいる環状の部分である。脚部24eは、アタッチメント部24dから延在し、フェーズプラグ24の主要部分(前面24a、後面24b、側面24c)をツイータ18の振動板38の前方で支持している。なお、脚部24eは、音質に影響しないように、後面24bや後述するリブの対向面に比べて、振動板38の前面38aから離れている。
【0020】
フェーズプラグ24の前面24aは、スピーカー10の前方から見える表面の部分であって、スピーカー10の前後方向視で中心軸Cを中心とする円形状である。また、本実施の形態1の場合、前面24aは、中心軸Cと直交する方向視で円錐状の凸面である。その円錐状の前面24aは、内側に凸に湾曲した錐面を備えている。また、前後方向視で、前面24aの大きさは、ツイータ18の振動板38の大きさとほぼ等しい。このような円錐状の凸面で構成されるフェーズプラグ24の前面24aの役割については後述する。
【0021】
フェーズプラグ24の後面24bは、ツイータ18の振動板38の前面28aにおける中央部分に対して平行に一定の間隔dをあけて対向する、フェーズプラグ24の表面の部分である。間隔dは、例えば0.5mmである。このようなフェーズプラグ24の後面24bの役割については後述する。
【0022】
フェーズプラグ24の側面24cは、前面24aと後面24bとを接続するフェーズプラグ24の表面の部分である。本実施の形態1の場合、スピーカー10の前後方向視で、フェーズプラグ24の前面24aが、その後面24bに比べて大きい。そのため、フェーズプラグ24の側面24aは、前方に延在しつつ外側に延在する傾斜面24fを、少なくとも部分的に含んでいる。その結果、傾斜面24fは、後面24bに対向していない振動板38の前面38aの部分に対してスピーカー10の前後方向に対向するとともに、ウーファ16の振動板26の内周面26aに対して前後方向に対して直交する方向に対向している。なお、本実施の形態1の場合、傾斜面24fは、側面24cの一部であって、前面24aに接続している。また、本実施の形態1の場合、傾斜面24fは、前後方向に対して直交する方向視で、外側に凸に湾曲した湾曲面である。このような傾斜面24fを備えるフェーズプラグ24の側面24cの役割については後述する。
【0023】
さらに、本実施の形態1の場合、フェーズプラグ24は、側面24cから振動板38の前面38aに向かって後方に突出する複数のリブ24gを備える。また、複数のリブ24gは、側面24cに片持ち支持された板状の突出部であって、スピーカー10の前後方向視で、中心軸Cに対して放射方向に延在している。さらに、複数のリブ24gそれぞれは、振動板38の前面38aに対して平行に一定の間隔dをあけて対向する対向面24hを備える。対向面24hと後面24bは、連続した湾曲面である。なお、本実施の形態1の場合、複数のリブ24gは、スピーカー10の前後方向視で、前面24aの外周縁を越えて外側に向かって突出していない。
【0024】
本実施の形態1の場合、複数のリブ24gそれぞれは、スピーカー10の前方に向かうにしたがって肉厚が増加する形状を備えている。すなわち、図7に示すように、複数のリブ24gの前方側の肉厚t1が、後方側(振動板38側)の肉厚t2に比べて大きい。
【0025】
また、本実施の形態1の場合、複数のリブ24gそれぞれの対向面24hは、スピーカー10の前後方向視で、外側に向かうにしたがって幅が減少する形状を備えている。すなわち、図8に示すように、スピーカー10の前後方向視で、中央側の幅w1が外側の幅w2に比べて大きい。
【0026】
このような複数のリブ24gの役割については後述する。
【0027】
ここからは、上述した特徴を備えるフェーズプラグ24の役割や効果について説明する。なお、フェーズプラグ24の役割や効果を説明する前に、参考として、フェーズプラグ24が存在しない場合に起こる問題について説明する。
【0028】
図9は、フェーズプラグが設けられていない比較例のスピーカーに生じる第1の問題点を示すスピーカーの概略図である。また、図10は、その比較例のスピーカーに生じる第2の問題点を示すスピーカーの概略図である。
【0029】
図9に示すように、フェーズプラグがない比較例のスピーカーの場合、ツイータのドーム状の振動板から前方に向かって伝播する音波は、音波が発生する位置によって到達距離が異なる。例えば、ツイータの振動板の中央部から発生した音波SW1と、ツイータ振動板の外周部から発生した音波SW2との間には、到達距離差ΔL1が生じる。このΔL1は、ドーム状の振動板の高さHに相当する。
【0030】
この到達距離差ΔL1により、スピーカーの前方の測定位置において、ある周波数において180度に近い位相のずれが生じ、その周波数の音圧レベルが低下する。その結果、スピーカーの前方にいるユーザが、ある音域において音圧不足を感じうる。
【0031】
また、図10に示すように、ツイータの振動板から発生した音波は、ウーファの振動板で反射するか否かで到達距離が異なる。例えば、ツイータの振動板の中央部から発生した音波SW1と、ツイータの振動板からウーファの振動板に向かって伝播し、そのウーファの振動板に反射された音波SW3との間には、到達距離差ΔL2が生じる。この到達距離差ΔL2は、スピーカーの前後方向に対するウーファの振動板の傾斜角度によって決まる。
【0032】
この到達距離差ΔL2により、スピーカーの前方の測定位置において、ある周波数において180度に近い位相のずれが生じ、その周波数の音圧レベルが低下する。その結果、スピーカーの前方にいるユーザが、ある音域において音圧不足を感じうる。
【0033】
図11は、フェーズプラグが設けられていない比較例のスピーカーにおける音圧-周波数特性を示す図である。なお、図11において、実線は実測値を示し、一点鎖線はシミュレーション値を示している。
【0034】
図11に示すように、フェーズプラグがない比較例のスピーカーの場合、8000~9000Hzの音域Aでディップが生じ、15000Hz以上の高音域で音圧レベルの低下が生じている。なお、「ディップ」とは、ある音域の音圧レベルがその周囲の音域のレベルに比べて低下することを言う。このように、フェーズプラグがない場合には、一部の周波数帯域で音圧レベルの低下が生じ、その結果として、スピーカーの周波数特性が悪くなる。音域Aでのディップは図10に示す第2の問題点に起因し、音域Bでの音圧レベルの低下は図9に示す第1の問題点に起因する。なお、一般的な人間の可聴範囲は、20~20000Hzの範囲である。
【0035】
このような音質の低下を抑制するように、本実施の形態1のスピーカー10におけるフェーズプラグ24は、上述したように、また図4に示すように、複数の特徴を備えている。
【0036】
まず、フェーズプラグ24の後面24bによる効果を、図12を参照しながら説明する。
【0037】
図12は、実施の形態1に係るフェーズプラグの後面による効果を示すスピーカーの概略図である。
【0038】
上述したように、また図4に示すように、フェーズプラグ24の後面24bは、ツイータ18の振動板38の前面38aにおける中央部分に対して平行に一定の間隔dをあけて対向する。その結果、図12に示すように、フェーズプラグ24の後面24bに対向するツイータ18の振動板38の前面における中央部分から発生した音波SW1は、フェーズプラグ24と振動板38の間の隙間を介して外方向に伝播し、その隙間から出た後に前方に向かって伝播する。その結果、図9示す第1の問題点を解消することができる、すなわち、フェーズプラグに対向する中央部分から発生した音波SW1とフェーズプラグに対向しない外側部分から発生した音波SW2との間の到達距離差が小さくなる。
【0039】
次に、フェーズプラグ24の側面24cによる効果を、図13図14A、および図14Bを参照しながら説明する。
【0040】
図13は、実施の形態1に係るフェーズプラグの側面による効果を示すスピーカーの概略図である。また、図14Aは、実施の形態1のスピーカーにおける音圧分布図である。さらに、図14Bは、皿状のフェーズプラグを備える比較例のスピーカーにおける音圧分布図である。なお、図14A、14Bにおいて、破線は異なる音圧レベルの境界を示している。
【0041】
図4に示すように、スピーカー10の前後方向視で、フェーズプラグ24の前面24aが、その後面24bに比べて大きい。また、そのために、フェーズプラグ24の側面24cは、前方に延在しつつ外側に延在する傾斜面24fを、少なくとも部分的に含んでいる。また、本実施の形態1の場合、傾斜面24fは、スピーカー10の前後方向に対して直交する方向視で、外側に凸に湾曲した湾曲面である。
【0042】
このようなフェーズプラグ24の側面24cにより、図13に示すように、ツイータ18振動板38の異なる位置から発生した音波は、前方ではなく、ウーファ16の振動板26の内周面26aに向けられる。それにより、ツイータ18の振動板38からの音波は、ウーファ16の振動板26の内周面26aに向かって伝播し、そしてその内周面26aに沿って前方に伝播する。すなわち、ツイータ18の振動板38の中央部分から発生した音波も、外側部分から発生した音波も実質的に同一の経路に沿って伝播する。
【0043】
また、フェーズプラグ24の側面24cにより、図14Aに示す音圧分布図からわかるように、音波は、フェーズプラグの前方への回折が抑制(遅延)されている。その結果、音波は、音圧レベルを維持しながらウーファの振動板に沿って伝播する。一方、図14Bに示す比較例の場合、フェーズプラグが薄い皿状であるために、音波はフェーズプラグの前方に回折する。その結果、音波は、音圧レベルが低下しながらウーファの振動板の内周面に沿って伝播する。
【0044】
図15は、実施の形態1のスピーカーの音圧-周波数特性(実線)と、フェーズプラグを備えていない比較例のスピーカーの音圧-周波数特性(一点鎖線)のシミュレーション値を示している。
【0045】
図15に示すように、フェーズプラグ24の側面24cにより、8000~9000Hzの音域Aでのディップの発生が抑制される。その結果、音質が向上、特に、音の色彩が向上する。
【0046】
なお、本実施の形態1の場合、図4に示すように、フェーズプラグ24の側面24cにおける傾斜面24fは、スピーカー10の前後方向に対して直交する方向視で、外側に凸に湾曲した湾曲面であるが、これに限らない。傾斜面24fは、スピーカー10の前後方向に対して直交する方向視で直線状であってもよい。なお、フェーズプラグの前方への音波の回折を抑制する(その回折の発生を遅延させる)ためには、湾曲面が好ましい。また、側面24cの全体が、傾斜面24fであってもよい。
【0047】
また、本実施の形態1の場合、図4に示すように、フェーズプラグ24の側面24cには、後面24bからスピーカーの10の少なくとも前後方向に延在する壁面24iと、壁面24iから少なくとも外側に向かって延在して傾斜面24fに接続する軒天状の壁面24jとを含んでいる。本実施の形態1の場合、壁面24iは後面24bから壁面24jに向かって前方に延在しつつ外側に延在し、壁面jは壁面24iから傾斜面24fに向かって外側に延在しつつ後方に延在している。後面24bと振動板38との間から出た音波は、後面24bの外周端から壁面24iに沿って進み、そして壁面24iの前端から壁面24jに沿って進む。
【0048】
壁面24iに沿って進む音波は、ウーファ16の振動板26に沿って進む音波に比べて先行する。しかし、壁面24iに沿って進んだ音波は、その後、壁面24iに沿って外側に進む。その間に、ウーファ16の振動板26に沿って進む音波が追いつく。具体的には、壁面24jに沿って進む音波が傾斜面24fに到達するタイミングに、壁面24jと傾斜面24fとの接続箇所と実質的に同一の前後方向位置に、ウーファ16の振動板26に沿って進む音波が到達する。その後は、フェーズプラグ24に沿って進む音波とウーファ16の振動板26に沿って進む音波とが揃った状態で前方に進む。このような後面24bと傾斜面24fとの間に位置する壁面24i、24jの形状や長さを適当に調整することにより、フェーズプラグ24に沿って進む音波の経路長を調整することできる。その結果、音波全体は位相を揃えた状態でスピーカー10の前方に向かって進むことができる。
【0049】
続いて、フェーズプラグ24の前面24aによる効果を、図16Aおよび図16Bを参照しながら説明する。
【0050】
図16Aは、実施の形態1のスピーカーにおける波面の伝播を示す図である。また、図16Bは、平板状のフェーズプラグを備える比較例のスピーカーにおける波面の伝播を示す図である。なお、図16A、16Bにおいて、異なる2つの波面W1、W2それぞれを一点鎖線および二点鎖線で示し、それらの合成波の波面Wを破線で示している。
【0051】
図4に示すように、本実施の形態1の場合、フェーズプラグ24の前面24aは、中心軸Cと直交する方向視で前方に突出する円錐状の凸面である。その円錐状の前面24aは、内側に凸に湾曲した錐面を備えている。
【0052】
このようなフェーズプラグの前面によれば、また、波面が物体の表面に対して直交するように音波が物体の表面に沿って伝播する性質によれば、図16Aに示すように、異なる2つの波面W1、W2がフェーズプラグの前方で合流すると、その合成波の波面Wは、全体にわたって一様に前方に向かって凸に湾曲する波面となる。一方、図16Bに示すように、フェーズプラグが板状である場合、異なる2つの波面W1、W2が、フェーズプラグの前面上で干渉し、その結果、合成波の波面Wは、フェーズプラグの前方で伝播する部分が凹状な波面になる。
【0053】
このようなフェーズプラグ24の前面24aにより、図15に示すように、15000Hz以上の高音域Bでの音圧レベルの低下が抑制される。その結果、音質が向上、特に、音の伸びが向上する。
【0054】
続いて、フェーズプラグ24の複数のリブ24gの効果について説明する。
【0055】
上述したように、また図4に示すように、複数のリブ24gそれぞれは、スピーカー10の前後方向視で、中心線Cに対して放射方向に延在している。さらに、複数のリブ24gそれぞれは、振動板38の前面38aに対して平行に一定の間隔dをあけて対向する対向面24hを備える。
【0056】
このような複数のリブ24gにより、振動板38の様々な箇所から発生する音波は、その発生位置が中央から離れるにしたがって、直接前方に向かう割合が増加する。すなわち、発生位置が中央から離れるに従い、複数のリブ24g間を介してすぐに前方に伝播する音波が増加し、リブ24gの対向面24hと振動板38との間の隙間を伝播した後に前方に向かう音波が減少する。簡単に言えば、発生位置が中央から離れるに従い、ショートカットする音波が増加し、遠回りする音波が減少する。具体的には、リブ24gの対向面24hに対向する振動板38の部分から発生した音波の伝播経路は、その音波が対向面24hと振動板38との間の隙間を出た後に前方に向かうので、対向面24hと対向していない振動板38の部分から発生して直接前方に伝播する音波の伝播経路に比べて長くなる。このように音波の伝播経路の長さが多様に異なることにより、スピーカーの前方の測定位置に到達する各周波数の音圧レベルが平坦化される。
【0057】
図17は、複数のリブを備えるフェーズプラグを有するスピーカーの音圧-周波数特性(実線)と、複数のリブを備えていないフェーズプラグを有するスピーカーの音圧-周波数特性(一点鎖線)のシミュレーション値を示している。なお、一点鎖線で示す複数のリブを備えていないフェーズプラグは、後述する図24に示されている。
【0058】
図17に示すように、フェーズプラグが複数のリブを備えることにより、30000Hz以下の音域において、スピーカーの前方の測定位置に到達する各周波数の音圧レベルが平坦化され、音質が向上する。
【0059】
なお、本実施の形態1の場合、音圧レベルの平坦化の程度、特定の周波数の音圧レベルの微調整のために、図7図8に示すように、複数のリブ24gそれぞれの肉厚、および複数のリブ24gそれぞれの対向面24hの幅が微調整されている。肉厚が前方に向かうにしたがって増加することにより、複数のリブ24g間を伝播する音波、具体的にはリブ24g近傍を伝播する音波の伝播経路の長さが、リブ間中央を伝播する音波に比べてわずかに長くなる。また、対向面24hの幅が外側に向かうにしたがって減少することにより、対向面24hと振動板38との間の隙間を伝播する音波の一部が、対向面24hの外側端に到達する前に、複数のリブ間に抜ける。
【0060】
以上のような実施の形態1によれば、ドーム状の振動板とその前方に配置されたフェーズプラグとを備えるスピーカーにおいて、さらに音質を向上させることができる。
【0061】
(実施の形態2)
上述の実施の形態1の場合、図4に示すように、複数のリブ24gは、スピーカー10の前後方向視で、フェーズプラグ24の前面24aの外周縁を越えて外側に向かって突出していない。したがって、複数のリブ24g間を前方に向かって伝播する音波は、側面24cで反射され、ウーファ16の振動板26の内周面26aに向かって伝播する。これと異なり、本実施の形態2に係るスピーカーにおいては、複数のリブ24g間を前方に向かって伝播する音波は、そのまま前方に向かってスピーカーから出力される。この異なる点以外は実質的に同じであるため、この異なる点を中心に、本実施の形態2について説明する。
【0062】
図18は、実施の形態2に係るフェーズプラグを含むスピーカーの部分拡大断面図である。また、図19図22は、実施の形態2に係るフェーズプラグの前方斜視図、後方斜視図、側面図、および後面図である。
【0063】
図18図22に示すように、本実施の形態2に係るスピーカーにおけるフェーズプラグ124は、前方に向いた前面124aと、ツイータの振動板138の前面138aに対向する後面124bと、前面124aと後面124bとを接続する側面124cと、磁気回路に取り付けられる環状のアタッチメント部124dと、側面124cとアタッチメント部124dとを接続する複数の脚部124eとを備える。
【0064】
本実施の形態2に係るフェーズプラグ124において、スピーカーの前後方向視で、前面124aと後面124bは、実質的に同一の大きさである。そのため、側面124cは、前方に延在しつつ外側に延在し、前後方向に直交する方向視で、平坦な傾斜面を含んでいる。しかしながら、その傾斜面は、スピーカーの中心軸Cに対する傾斜角度が小さく、中心軸と実質的に平行である。したがって、本実施の形態2に係るフェーズプラグ124の側面124cは、上述の実施の形態1に係るフェーズプラグ24の外側に凸の湾曲面状の側面24cとは異なり、ツイータの振動板138から発生した音波をウーファの振動板126の内周面126aに向ける役割をほとんど果たしていない。
【0065】
また、スピーカーの前後方向視で、フェーズプラグ124の前面124aの大きさが振動板138に比べて小さい。さらに、フェーズプラグ124の側面124cに設けられた複数のリブ124gは、スピーカーの前後方向視で前面124aの外周縁を越えて外側に突出し、側面124cから振動板138に向かう方向には実質的に突出していない。そして、複数のリブ124gそれぞれは、振動板138の前面138aに対して平行に一定の間隔をあけて対向する対向面124hを備えている。なお、複数のリブ124gにおいていくつかのリブ(本実施の形態2の場合には3つのリブ)は、複数の脚部124eとスピーカーの前後方向視で重ねって一体化されている。
【0066】
このような複数のリブ124gによれば、複数のリブ124g間を前方に向かって伝播する音波(すなわち、リブ124gの対向面124hに対向しない振動板138の部分から発生した音波と、対向面124hと対向する振動板138の部分から発生して対向面124hと振動板138との間の隙間から出た後の音波)は、フェーズプラグ124の側面124cによってウーファの振動板126に向かって実質的に反射されることなく、音圧レベルを維持しつつ、そのまま前方に向かって伝播する。それにより、スピーカーの前方の測定位置において、音圧レベルの低下が抑制される。その結果、上述の実施の形態1におけるフェーズプラグ24の側面24cの役割、すなわち8000~9000Hzの音域でのディップの発生を抑制する役割を補完することができる。したがって、このような複数のリブ124gによれば、フェーズプラグ124の側面124cをスピーカーの中心軸Cに対して平行に設けることも可能である。
【0067】
なお、このような実施の形態2におけるフェーズプラグ124の構成は、ウーファの振動板126が平板または傾斜角度がゆるい形状の場合、すなわちツイータの振動板が前方に向かうにしたがって内径が増加するウーファの振動板内に配置されていない場合に有効である。
【0068】
以上のような実施の形態2も、上述の実施の形態1と同様に、ドーム状の振動板とその前方に配置されたフェーズプラグとを備えるスピーカーにおいて、さらに音質を向上させることができる。
【0069】
(実施の形態3)
本実施の形態3は、上述の実施の形態2の改良形態である。したがって、異なる点を中心に、本実施の形態3について説明する。
【0070】
図23は、実施の形態3に係るフェーズプラグを含むスピーカーの部分拡大断面図である。
【0071】
図23に示すように、本実施の形態3に係るスピーカーにおけるフェーズプラグ224は、前方に向いた前面224aと、ツイータの振動板238の前面238aに対向する後面224bと、前面224aと後面224bとを接続する側面224cとを備える。
【0072】
本実施の形態3に係るフェーズプラグ224において、その側面224cの少なくとも一部は、上述の実施の形態1に係るフェーズプラグ224における側面224cと同様に、前方に延在しつつ外側に延在する傾斜面224fを含んでいる。傾斜面224fは、スピーカーの前後方向に対して直交する方向視で、外側に凸に湾曲した湾曲面である。
【0073】
また、スピーカーの前後方向視で、フェーズプラグ224の前面224aの大きさが振動板238に比べて小さい。また、フェーズプラグ224の側面224cに設けられた複数のリブ224gは、スピーカーの前後方向視で前面224aの外周縁を越えて外側に突出している。それに加えて、複数のリブ224gは、振動板238に向かって突出している。
【0074】
このようなフェーズプラグ224によれば、実施の形態1に係るフェーズプラグ24における側面224cによる効果と、実施の形態2に係るフェーズプラグ124における複数のリブ124gによる効果とを得ることができる。すなわち、スピーカーの前後方向視でフェーズプラグ224の前面224aにオーバーラップする振動板238の部分から発生した音波をウーファの振動板226に向けることができる。また、スピーカーの前後方向視でフェーズプラグ224の前面224aの外側においては、リブ224gの対向面224hに対向しない振動板238の部分から発生した音波が、複数のリブ224g間を前方に向かって通過し、そのまま前方に伝播する。それと同様に、複数のリブ224gの対向面224hと対向する振動板238の部分から発生して対向面224hと振動板238との間の隙間から出た後の音波も、複数のリブ224g間を前方に向かって通過し、前方に伝播する。
【0075】
以上のような実施の形態3も、上述の実施の形態1と同様に、ドーム状の振動板とその前方に配置されたフェーズプラグとを備えるスピーカーにおいて、さらに音質を向上させることができる。
【0076】
以上、3つの実施の形態1~3を挙げて本開示を説明したが、本開示の実施の形態はこれらに限定されない。
【0077】
例えば、上述の実施の形態1~3に係るスピーカーのフェーズプラグそれぞれは、複数のリブを備えている。しかしながら、本開示の実施の形態はこれに限らない。
【0078】
図24は、別の実施の形態に係るフェーズプラグを含むスピーカーの部分拡大断面図である。
【0079】
図24に示すように、別の実施の形態に係るスピーカーにおけるフェーズプラグ324は、複数のリブを備えていない点を除いて、実施の形態1に係るフェーズプラグ24と実質的に同一である。すなわち、スピーカーの前後方向視で、前面324aが後面324bに比べて大きく、それにより側面324cが少なくとも部分的に前方に延在しつつ外側に延在する傾斜面324fを含んでいる。また、前面324aは、中心軸Cと直交する方向視で円錐状の凸面である。その円錐状の前面324aは、内側に凸に湾曲した錐面を備えている。
【0080】
このような別の実施の形態に係るフェーズプラグ324によれば、複数のリブを備えていないために音圧レベルを平坦化することは期待できないものの、側面324cによって8000~9000Hzの音域でのディップの発生を抑制することができる。それに加えて、前面324aによって15000Hz以上の高音域での音圧レベルの低下を抑制することができる。すなわち、実施の形態1に係るフェーズプラグ24による音質向上効果を部分的に享受することができる。
【0081】
なお、複数のリブに関して、上述の実施の形態1および2のフェーズプラグ24、124の場合、図5および図19に示すように、複数のリブ24g、124gの個数は、複数の脚部24e、124eの個数に比べて多い。しかしながら、本開示の実施の形態はこれに限らない。複数のリブの個数と複数の脚部の個数が同一であってもよい。この場合、リブと脚部が、スピーカーの前後方向視で重なって一体化されてもよい。
【0082】
また、上述の実施の形態1の場合、図4に示すように、フェーズプラグ24の前面24aは中心軸Cと直交する方向視で円錐状の凸面であって、その円錐状の前面324aは内側に凸に湾曲した錐面を備えている。しかしながら、本開示の実施の形態はこれに限らない。
【0083】
図25は、さらに別の実施の形態に係るフェーズプラグを含むスピーカーの部分拡大断面図である。
【0084】
図25に示すように、さらに別の実施の形態に係るスピーカーにおけるフェーズプラグ424の前面424aは、図4に示す実施の形態1に係るフェーズプラグ24の前面24aと同様に、中心軸Cと直交する方向視で円錐状の凸面である。しかしながら、フェーズプラグ424の円錐状の前面424aは、外側に凸に湾曲した錐面を備えている。また、ウーファーの振動板426は、そのフェーズプラグ424の前面424aに対応する形状、すなわち中央側に凸に湾曲する形状を備えている。
【0085】
すなわち、図16Aに示すように、フェーズプラグの前方で、全体にわたって一様に前方に向かって凸の合成波の波面を発生させるためには、フェーズプラグの前面形状とウーファの振動板形状とが協働する必要がある。したがって、フェーズプラグの前面形状は、図25に示すように、ウーファの振動板の形状に基づいて変更される。
【0086】
さらに、上述の実施の形態1の場合、スピーカー10は、図4に示すように、ウーファ16とツイータ18とを備える同軸スピーカーである。しかしながら、本開示の実施の形態はこれに限らない。すなわち、ドーム状の振動板が内部に配置され、前方に向かうにしたがって内径が増加する筒状部材は、ウーファの振動板に限らず、例えばエンクロージャーのホーンであってもよい。
【0087】
すなわち、本開示に係る一実施の形態は、広義には、前方に凸に湾曲したドーム状の振動板と、内部に前記振動板が配置され、前方に向かうにしたがって内径が増加する筒状部材と、前記振動板の前面の前方に配置されたフェーズプラグと、を有し、前記フェーズプラグが、前方に向いた前面と、前記振動板の前面における中央部分に対して平行に一定の間隔をあけて対向する後面と、前記前面と前記後面とを接続する側面とを備え、スピーカーの前後方向視で、前記フェーズプラグの前面が、前記フェーズプラグの後面に比べて大きく、前記フェーズプラグの側面の少なくとも一部が、前方に延在しつつ外側に延在して前記筒状部材の内周面および前記振動板の前面に対して対向し、前記振動板から発生した音波を前記筒状部材の内周面に向ける傾斜面を含んでいる、スピーカーである。
【0088】
また、本開示の別の実施の形態は、広義には、前方に凸に湾曲したドーム状の振動板と、前記振動板の前面の前方に配置されたフェーズプラグと、を有し、前記フェーズプラグが、前方に向いた前面と、前記振動板の前面における中央部分に対して平行に一定の間隔をあけて対向する後面と、前記前面と前記後面とを接続する側面とを備え、前記フェーズプラグが、前記側面に複数のリブを備え、前記複数のリブそれぞれが、前記振動板の前面に対して平行に前記一定の間隔をあけて対向する対向面を備え、前記複数のリブそれぞれが、スピーカーの前後方向視で、前記前面の外周縁を越えて外側に向かって突出している、スピーカーである。
【0089】
以上のように、本開示における技術の例示として、実施形態を説明した。そのために、添付図面及び詳細な説明を提供した。したがって、添付図面及び詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、前記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
【0090】
また、前述の実施形態は、本開示における技術を例示するためのものであるから、特許請求の範囲又はその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略等を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本開示は、ドーム状の振動板と、その前方に配置されたフェーズプラグとを備えるスピーカーに適用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B
図15
図16A
図16B
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25