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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】アジポニトリルの製造方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   C07C 253/10 20060101AFI20240112BHJP
   C07C 255/04 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
C07C253/10
C07C255/04
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022541908
(86)(22)【出願日】2020-12-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-09
(86)【国際出願番号】 CN2020135799
(87)【国際公開番号】W WO2021143412
(87)【国際公開日】2021-07-22
【審査請求日】2022-07-06
(31)【優先権主張番号】202010062278.7
(32)【優先日】2020-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】517223657
【氏名又は名称】浙江新和成股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】ZHEJIANG NHU CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】No. 418 Dadao West Road, Xinchang Shaoxing, Zhejiang 312500, China
(73)【特許権者】
【識別番号】519164770
【氏名又は名称】浙江大学
【氏名又は名称原語表記】ZHEJIANG UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】NO.20, YUGU ROAD, XIHU DISTRICT, HANGZHOU, ZHEJIANG 310027, PEOPLE’S REPUBLIC OF CHINA
(73)【特許権者】
【識別番号】518138206
【氏名又は名称】浙江新和成特種材料有限公司
【氏名又は名称原語表記】ZHEJIANG NHU SPECIAL MATERIALS CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】陳 志 榮
(72)【発明者】
【氏名】呉 文 彬
(72)【発明者】
【氏名】周 貴 陽
(72)【発明者】
【氏名】豐 明
(72)【発明者】
【氏名】石 興 興
(72)【発明者】
【氏名】馬 滔
(72)【発明者】
【氏名】封 智 超
(72)【発明者】
【氏名】張 雄 偉
(72)【発明者】
【氏名】孫 青
(72)【発明者】
【氏名】徐 勇
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-535421(JP,A)
【文献】特開昭49-102618(JP,A)
【文献】国際公開第2017/221987(WO,A1)
【文献】M. Pezolet and R. Savoie, Raman spectra of liquid and crystalline HCN and DCN,Canadian Journalof Chemistry,1969年,47(16),pp.3041-3048,https://doi.org/10.1139/v69-502
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 253/10
C07C 255/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
青酸とブタジエンとを第1の触媒の存在下で第1のヒドロシアノ化反応させ、3-ペンテンニトリル(3PN)、2-メチル-3-ブテンニトリル(2M3BN)、第1の触媒及びブタジエンを含む第1の流れを形成し、系における青酸の濃度を検出し、原料の配合割合、反応温度、反応滞留時間又はこれらの組み合わせの調整によって、最終の第1の流れにおける残留青酸が10ppm未満になるように制御し、第1のヒドロシアノ化反応において、前記青酸の全量とブタジエンの使用量とのモル比が0.75~1.0である工程1と、
工程1で得られた第1の流れを異性化反応させて、2-ペンテンニトリル(2PN)、3-ペンテンニトリル(3PN)及び4-ペンテンニトリル(4PN)を含むモノニトリル、未反応の2-メチル-3-ブテンニトリル(2M3BN)、第1の触媒及びブタジエンを含む第2の流れを得、反応系における3-ペンテンニトリル(3PN)及び2-メチル-3-ブテンニトリル(2M3BN)の量を検出し、第2の流れにおいて、2-ペンテンニトリル(2PN)、3-ペンテンニトリル(3PN)及び4-ペンテンニトリル(4PN)を含むモノニトリルにおける3-ペンテンニトリル(3PN)の割合が0.8以上となるように、第1の触媒の量、反応温度、反応滞留時間又はこれらの組み合わせを調整し、その後、後処理工程によって3-ペンテンニトリル(3PN)を含む流れを得る工程2と、
青酸、工程2で得られた3-ペンテンニトリル(3PN)を含む流れ、第2の触媒及び促進剤を第2のヒドロシアノ化反応させ、前記3-ペンテンニトリル(3PN)と、第2の触媒と、促進剤と、アジポニトリル(ADN)、2-メチルグルタロニトリル(MGN)及び2-エチルスクシノニトリル(ESN)を含むジニトリル成分とを含む第3の流れを得、系における第2の触媒、残留青酸及び/又は残留3-ペンテンニトリル(3PN)の量を検出し、3-ペンテンニトリル(3PN)の転化率が60%以上となるように原料の配合割合、反応温度、反応滞留時間又はこれらの組み合わせを調整し、第2のヒドロシアノ化反応において、前記青酸の全量と3-ペンテンニトリル(3PN)とのモル比が0.60~1.0であり、後処理工程によってアジポニトリル生成物を得る工程3と、を含むアジポニトリルの製造方法であって、
前記検出は、オンラインラマン分光法を用いて行い、
前記第1の触媒及び前記第2の触媒はそれぞれ独立して、リン配位子及び/又は遊離リン配位子を含有するゼロ価ニッケル錯体から選ばれ、
前記促進剤がルイス酸である、アジポニトリルの製造方法。
【請求項2】
前記第1のヒドロシアノ化反応は第1の反応器内で行われ、前記第1の反応器は、循環反応器、多段直列循環反応器、攪拌槽型反応器、多段直列攪拌反応器、予備混合付き管型反応器、多段直列管型反応器、循環反応器と管型反応器との組み合わせ、多段直列循環反応器と管型反応器との組み合わせ、撹拌反応器と管型反応器との組み合わせ、又は多段直列攪拌反応器と管型反応器との組み合わせから選ばれ、前記多段直列反応器は2~10段直列しており、前記第1のヒドロシアノ化反応において各段反応器の滞留時間が0.01~5.0時間であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記工程1が多段直列反応器内で行われる場合、各段反応器の流れにおける青酸の濃度を検出することができ、最終段の反応器の流れが前記第1の流れであることを特徴とする請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
工程1の第1のヒドロシアノ化反応は温度が60~140℃であり、反応圧力が0.5~5.0MPaであり、前記ゼロ価ニッケルとブタジエンとの仕込みモル比が0.001~0.10:1であり、前記第1の触媒におけるリン配位子及び遊離リン配位子の全量とゼロ価ニッケルとのモル比が5~50:1であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記工程2における後処理工程は蒸留であり、蒸留によって3-ペンテンニトリル(3PN)を含む流れを得、3-ペンテンニトリル(3PN)以外のブタジエン、2-メチル-3-ブテンニトリル(2M3BN)を含む他の成分の残留量を検出し、検出結果に基づいて、3-ペンテンニトリル(3PN)を含む流れにおける3PN含有量≧98%、2M3BN含有量≦0.5%となるように蒸留の温度、圧力、滞留時間及び還流比のうち少なくとも1種を制御することを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記蒸留は3段階の蒸留であり、第1段階の蒸留によって、ブタジエン、3-ペンテンニトリル(3PN)及び2-メチル-3-ブテンニトリル(2M3BN)を含む流れと第1の触媒を含む流れとを分離し、第2段階の蒸留によって、ブタジエン、3-ペンテンニトリル(3PN)及び2-メチル-3-ブテンニトリル(2M3BN)を含む流れを蒸留して、ブタジエンを含む流れと3-ペンテンニトリル(3PN)及び2-メチル-3-ブテンニトリル(2M3BN)を含む流れとを分離し、第3段階の蒸留によって、3-ペンテンニトリル(3PN) 及び2-メチル-3-ブテンニトリル(2M3BN)を含む流れを蒸留して、3-ペンテンニトリル(3PN)を含む流れと2-メチル-3-ブテンニトリル(2M3BN)を含む流れとを分離し、前記検出はオンラインラマン分光法による検出であることを特徴とする請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記異性化反応は第2の反応器内で行われ、前記第2の反応器は、内部仕切りを有する塔型反応器、内部仕切りが多段直列した塔型反応器、攪拌槽型反応器、多段攪拌槽型反応器、管型反応器、多段直列管型反応器から選ばれ、前記多段直列反応器は2~20段直列しており、前記異性化反応において、各段反応器の滞留時間が0.01~50時間であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
前記異性化反応において、ゼロ価ニッケルと3-ペンテンニトリル(3PN)及び2-メチル-3-ブテンニトリル(2M3BN)との初期モル比が0.001~0.10:1であり、前記異性化反応は反応温度が100~175℃であり、反応圧力が0.5~5.0MPaであることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
前記第2のヒドロシアノ化反応において、前記ゼロ価ニッケルと3-ペンテンニトリル(3PN)との仕込みモル比が0.001~0.05:1であり、前記第2の触媒におけるリン配位子及び遊離リン配位子の全量とゼロ価ニッケルとのモル比が4~20:1でありことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項10】
前記ルイス酸は周期表の第Ib、IIb、IIIa、IIIb、IVa、IVb、Va、Vb、VIb、VIIb及びVIII族元素の塩から選ばれ、前記塩はハロゲン化物、硫酸塩、スルホン酸塩、ハロゲン化アルキルスルホン酸塩、ペルハロゲン化アルキルスルホン酸塩、ハロゲン化アルキル酢酸塩、ペルハロゲン化アルキル酢酸塩、カルボン酸塩及び燐酸塩から選ばれ、記ルイス酸とゼロ価ニッケルとの仕込みモル比は0.05~2.5:1であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項11】
前記第2のヒドロシアノ化反応は第3の反応器内で行われ、前記第3の反応器は、循環反応器、多段直列循環反応器、攪拌槽型反応器、多段直列攪拌反応器、予備混合付き管型反応器、多段直列管型反応器、循環反応器と管型反応器との組み合わせ、多段直列循環反応器と管型反応器との組み合わせ、撹拌反応器と管型反応器との組み合わせ、多段直列攪拌反応器と管型反応器との組み合わせから選ばれ、前記多段直列反応器は2~10段直列しており、前記第2のヒドロシアノ化反応において、各段反応器の滞留時間は0.5~50時間であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項12】
前記工程3における後処理工程は、順次に行われる蒸留、抽出及び5段階の蒸留工程を含み、アジポニトリル(ADN)生成物を得ることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項13】
前記順次に行われる蒸留、抽出及び5段階の蒸留工程において、任意に各流れに含まれるモノニトリル、ジニトリル、第1の触媒、第2の触媒及び/又は促進剤の量を検出し、検出結果に基づいて、生成物におけるアジポニトリル(ADN)含有量≧99.7%、残留2-メチルグルタロニトリル(MGN)≦100ppmとなるように操作条件を調整し、前記検出はオンラインラマン分光法による検出であることを特徴とする請求項12に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は化学製品の製造及び分離方法に関する。具体的には、アジポニトリルの製造及び分離方法、並びにアジポニトリルの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アジポニトリル(ADN、adiponitrile)は、わずかに苦い味がする無色透明な油状液体であり、可燃性で、分子式がNC(CHCNであり、重要な有機化学工業中間体であり、産業上では、水添によりヘキサンジアミンを製造し、さらにヘキサメチレンジアミンとアジピン酸とを重合反応させてポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)を製造することに主に使用されている。
【0003】
アジポニトリルを製造するブタジエン法は、今まで世界で認められている最も先端なアジポニトリルの製造方法である。この方法は、米国のデュポン社がブタジエンの塩素化シアノ化法をベースに開発したものである。この方法は、ブタジエンの塩素化シアノ化法における大規模なサポートプロセスであるクロルアルカリプロセスの必要性や、設備への深刻な腐食などの問題を克服し、アジポニトリルの他の製造方法に比べて、原料の入手が容易で、コストが低く、エネルギー消費が低く、製品の収率が高いといった利点がある。
【0004】
ブタジエンのヒドロシアノ化法は、ブタジエンの第1のヒドロシアノ化反応、異性化反応、第2のヒドロシアノ化反応によってアジポニトリルを得る方法である。第1のヒドロシアノ化反応において、遷移金属触媒の触媒作用の下で、ブタジエンが付加反応によって青酸と反応し、3-ペンテンニトリル及び2-メチル-3-ブテンニトリルを主成分とする生成物を得た。触媒は通常、遷移金属のホスフィン又はホスファイト配位子の錯体を使用する。一般に、青酸を完全に反応させるために、青酸に対するブタジエンの仕込みモル比を1:0.9以上とする。反応終了後、過剰なブタジエンは、複雑な分離処理を経て回収し、後に使用する必要がある。これも、高エネルギー消費、複雑な分離装置、高額な投資などの問題につながっている。ブタジエンの回収量を減らすために、特許US3153084では、ブタジエンと青酸のモル比を1.00:0.90~1.04とし、反応滞留時間を最適化することで2-メチル-3-ブテンニトリルの濃度を反応溶液の総質量の15%未満に制御した。この方法はブタジエンの回収量を低下したが、大量の残留青酸を伴い、遷移金属触媒は残留青酸により被毒され、廃棄塩であるメタルハイドライドを形成し、触媒の消費を増やすだけでなく、潜在的な安全性問題も大きく抱えている。
【0005】
異性化反応において、2-メチル-3-ブテンニトリルが触媒条件下で異性化されて3-ペンテンニトリルを得、通常、US4080374、US4705881などの特許に記載されているように、第1のヒドロシアノ化と同じ触媒及びルイス酸促進剤の下で反応を行うことができる。ルイス酸の添加によって反応効率が向上するものの、製造コストが高くなり、後処理が困難になる。特許US9932298では、反応溶剤として2-ペンテンニトリルを用い、ルイス酸の使用を避けたが、2-ペンテンニトリルは触媒の活性を低下させるとともに、後処理(2-ペンテンニトリルと3-ペンテンニトリルの分離)の困難さを高め、エネルギー消費を増やす。
【0006】
第2のヒドロシアノ化反応において、触媒条件下で、3-ペンテンニトリルが青酸と反応してアジポニトリルを得る。触媒は通常、ゼロ価ニッケルのホスフィン又はホスファイト配位子の錯体、及びルイス酸促進剤を用いる。通常、青酸に対して3-ペンテンニトリルは過剰に使用されるが、反応終了後に依然として10~5000ppmの青酸が残留する。残留した青酸が3-ペンテンニトリルの再循環原料に入り、蓄積し続ける。青酸が一定の含有量になると、遷移金属触媒と反応して不活性な廃棄塩であるメタルハイドライドを生成し、触媒の不可逆な消費を引き起こしてしまう。一方、残留した青酸は大きく発熱する重合反応を行い、潜在的な安全性問題を抱えるだけでなく、固体ポリマーが反応装置に詰まり、製造装置の連続的な運転にも影響を及ぼす。また、第2のヒドロシアノ化反応において、3-ペンテンニトリル又は4-ペンテンニトリルがルイス酸促進剤の作用により異性化して2-ペンテンニトリルを生成する。2-ペンテンニトリルが触媒の活性を低下させる。また、錯体触媒又は配位子の加水分解も触媒の損失につながる。青酸による触媒の破壊又は触媒の自己加水分解は通常ヒドロシアノ化反応中に発生し、触媒含有量の低下は、反応の選択性及び収率に悪影響を及ぼす。
【0007】
特許US7659422は、アジポニトリルと他のC6ジニトリルを製造するためのヒドロシアノ化方法を提供している。この技術は、第2のヒドロシアノ化反応におけるペンテニトリルと青酸のフィード量を厳密に制御することにより、反応収率を向上させる技術である。しかし、この発明は、2-ペンテンニトリルのみを制御し、青酸による触媒被毒又は配位子の加水分解などの問題に一切触れていない。
【0008】
特許US9296768は、ヒドロシアノ化触媒を安定化する方法を提供し、具体的には、配位子加水分解生成物である酸性ジアリールホスフィットを中性リン酸ジエステル生成物に変換する方法である2ステップヒドロシアノ化に関する。この発明は、触媒の加水分解の抑制作用を発揮するだけであり、また、供給及び排出される材料の制御のみを行い、ヒドロシアノ化反応プロセスを精確に制御することはできない。
【0009】
先行技術には、触媒を安定化し、反応効率を向上させる様々な方法が開示されているが、反応プロセスや後処理プロセスを精確に制御する方法が欠けている。特許DE102004004672A1は、ヒドロシアノ化反応によってブタジエンから3-ペンテンニトリルを製造する方法を提供している。具体的には、静電容量測定法、近赤外線透過分光測定法、中赤外線透過分光測定法、ATR中赤外線透過分光測定法、液相熱融解測定及び他の測定法によって、ブタジエンの再循環流中の青酸の残留量を測定する。この発明は、反応排出流中の青酸をモニタリングするだけで、ヒドロシアノ化反応系における活性触媒の存在量、残留青酸、及び副生物である2-メチル-3-ブテンニトリルの含有量をモニタリングすることはできない。
【0010】
以上より、アジポニトリルの製造プロセスにおいて、反応原料の配合割合、系中の活性触媒の含有量、青酸の残留量、及び後処理中の各成分の含有量のモニタリングを体系的に制御することを実現する、反応系における各原料の精確な制御方法を提供することは極めて必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、系における特定成分の含有量を検出し、検出結果に基づいて反応条件を調整して、反応系内の各工程における原料への精確な制御を実現するアジポニトリルの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1局面は、
青酸とブタジエンとを第1の触媒の存在下で第1のヒドロシアノ化反応させ、3-ペンテンニトリル(3PN)、2-メチル-3-ブテンニトリル(2M3BN)、第1の触媒及びブタジエンを含む第1の流れを形成し、系における青酸の濃度を検出し、原料の配合割合、反応温度、反応滞留時間又はこれらの組み合わせの調整によって、最終の第1の流れにおける残留青酸が10ppm未満になるように制御し、第1のヒドロシアノ化反応において、前記青酸の全量とブタジエンの使用量とのモル比が0.75~1.0である工程1と、
工程1で得られた第1の流れを異性化反応させて、2-ペンテンニトリル(2PN)、3-ペンテンニトリル(3PN)及び4-ペンテンニトリル(4PN)を含むモノニトリル、未反応の2-メチル-3-ブテンニトリル(2M3BN)、第1の触媒及びブタジエンを含む第2の流れを得、反応系における3-ペンテンニトリル(3PN)及び2-メチル-3-ブテンニトリル(2M3BN)の量を検出し、第2の流れにおいて、2-ペンテンニトリル(2PN)、3-ペンテンニトリル(3PN)及び4-ペンテンニトリル(4PN)を含むモノニトリルにおける3-ペンテンニトリル(3PN)の割合が0.8以上となるように、第1の触媒の量、反応温度、反応滞留時間又はこれらの組み合わせを調整し、その後、後処理工程によって3-ペンテンニトリル(3PN)を含む流れを得る工程2と、
青酸、工程2で得られた3-ペンテンニトリル(3PN)を含む流れ、第2の触媒及び促進剤を第2のヒドロシアノ化反応させ、前記3-ペンテンニトリル(3PN)と、第2の触媒と、促進剤と、アジポニトリル(ADN)、2-メチルグルタロニトリル(MGN)及び2-エチルスクシノニトリル(ESN)を含むジニトリル成分とを含む第3の流れを得、系における第2の触媒、残留青酸及び/又は残留3-ペンテンニトリル(3PN)の量を検出し、3-ペンテンニトリル(3PN)の転化率が60%以上となるように原料の配合割合、反応温度、反応滞留時間又はこれらの組み合わせを調整し、第2のヒドロシアノ化反応において、前記青酸の全量と3-ペンテンニトリル(3PN)とのモル比が0.60~1.0であり、後処理工程によってアジポニトリル生成物を得る工程3とを含むアジポニトリルの製造方法であって、
前記検出は、オンラインラマン分光法を用いて行い、
前記第1の触媒及び前記第2の触媒はそれぞれ独立して、リン配位子及び/又は遊離リン配位子を含有するゼロ価ニッケル錯体から選ばれ、
前記促進剤はルイス酸である、アジポニトリルの製造方法を提供する。
【0013】
本発明の具体的な実施形態において、前記第1のヒドロシアノ化反応は第1の反応器内で行われ、前記第1の反応器は、循環反応器、多段直列循環反応器、攪拌槽型反応器、多段直列攪拌反応器、予備混合付き管型反応器、多段直列管型反応器、循環反応器と管型反応器との組み合わせ、多段直列循環反応器と管型反応器との組み合わせ、撹拌反応器と管型反応器との組み合わせ、又は、多段直列攪拌反応器と管型反応器との組み合わせから選ばれ、前記多段直列反応器は2~10段直列しており、前記第1のヒドロシアノ化反応において各段反応器の滞留時間は0.01~5.0時間である。
【0014】
本発明の具体的な実施形態において、前記工程1が多段直列反応器内で行われる場合、各段反応器の流れにおける青酸の濃度を検出することができ、最終段の反応器の流れが前記第1の流れである。
【0015】
本発明の具体的な実施形態において、工程1の第1のヒドロシアノ化反応は温度が60~140℃であり、反応圧力が0.5~5.0MPaであり、前記ゼロ価ニッケルとブタジエンとの仕込みモル比が0.001~0.10:1であり、前記第1の触媒におけるリン配位子及び遊離リン配位子の全量とゼロ価ニッケルとのモル比が5~50:1である。
【0016】
本発明の具体的な実施形態において、前記工程2における後処理工程が蒸留であり、蒸留によって3-ペンテンニトリル(3PN)を含む流れを得、3-ペンテンニトリル(3PN)以外のブタジエン、2-メチル-3-ブテンニトリル(2M3BN)を含む他の成分の残留量を検出し、検出結果に基づいて蒸留の温度、圧力、滞留時間及び還流比のうち少なくとも1種を制御して、最適な分離効果を達成する(例えば、3PN含有量≧98%、2M3BN含有量≦0.5%)。
【0017】
本発明の具体的な実施形態において、前記蒸留は3段階の蒸留である。第1段階の蒸留によって、ブタジエン、3-ペンテンニトリル(3PN)及び2-メチル-3-ブテンニトリル(2M3BN)を含む流れと第1の触媒を含む流れとを分離し、第2段階の蒸留によって、ブタジエン、3-ペンテンニトリル(3PN)及び2-メチル-3-ブテンニトリル(2M3BN)を含む流れを蒸留して、ブタジエンを含む流れと3-ペンテンニトリル(3PN)及び2-メチル-3-ブテンニトリル(2M3BN)を含む流れとを分離し、第3段階の蒸留によって、3-ペンテンニトリル(3PN)及び2-メチル-3-ブテンニトリル(2M3BN)を含む流れを蒸留して、3-ペンテンニトリル(3PN)を含む流れと2-メチル-3-ブテンニトリル(2M3BN)を含む流れとを分離し、前記検出はオンラインラマン分光法による検出である。
【0018】
本発明の具体的な実施形態において、前記異性化反応は第2の反応器内で行われ、前記第2の反応器は、内部仕切りを有する塔型反応器、内部仕切りが多段直列した塔型反応器、攪拌槽型反応器、多段攪拌槽型反応器、管型反応器、多段直列管型反応器から選ばれ、前記多段直列反応器は2~20段直列しており、前記異性化反応において、各段反応器の滞留時間は0.01~50時間である。
【0019】
本発明の具体的な実施形態において、前記異性化反応において、ゼロ価ニッケルと3-ペンテンニトリル(3PN)及び2-メチル-3-ブテンニトリル(2M3BN)との初期モル比が0.001~0.10:1であり、前記異性化反応は反応温度が100~175℃であり、反応圧力が0.5~5.0MPaである。
【0020】
本発明の具体的な実施形態において、前記第2のヒドロシアノ化反応において、前記ゼロ価ニッケルと3-ペンテンニトリル(3PN)との仕込みモル比が0.001~0.05:1であり、前記第2の触媒におけるリン配位子及び遊離リン配位子とゼロ価ニッケルとのモル比が4~20:1である。
【0021】
本発明の具体的な実施形態において、前記ルイス酸は周期表の第Ib族(11族)、第IIb族(12族)、第IIIa族(13族)、第IIIb族(3族)、第IVa族(14族)、第IVb族(4族)、第Va族(15族)、第Vb族(5族)、第VIb族(6族)、第VIIb族(7族)及び第VIII族(8~10族)元素の塩から選ばれ、前記塩は、ハロゲン化物、硫酸塩、スルホン酸塩、ハロゲン化アルキルスルホン酸塩、ペルハロゲン化アルキルスルホン酸塩、ハロゲン化アルキル酢酸塩、ペルハロゲン化アルキル酢酸塩、カルボン酸塩及び燐酸塩から選ばれ、好ましくは、前記ルイス酸は、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、塩化マンガン、臭化マンガン、塩化カドミウム、臭化カドミウム、塩化スズ(II)、臭化スズ(II)、硫酸スズ(II)、酒石酸スズ(II)、トリフルオロメタンスルホン酸インジウム(III)、トリフルオロ酢酸インジウム(III)、トリフルオロ酢酸亜鉛、ランタン、セリウム、プラセオジミウム、ネオジミウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ハフニウム、エルビウム、タリウム、イッテルビウム及びルテチウムなどの希土類元素の塩化物又は臭化物、塩化コバルト、塩化鉄(II)、塩化イットリウム及びそれらの混合物から選ばれ、より好ましくは、前記ルイス酸は塩化亜鉛、塩化鉄(III)から選ばれ、前記ルイス酸とゼロ価ニッケルとの仕込みモル比は0.05~2.5:1である。
【0022】
本発明の具体的な実施形態において、前記第2のヒドロシアノ化反応は第3の反応器内で行われ、前記第3の反応器は、循環反応器、多段直列循環反応器、攪拌槽型反応器、多段直列攪拌反応器、予備混合付き管型反応器、多段直列管型反応器、循環反応器と管型反応器との組み合わせ、多段直列循環反応器と管型反応器との組み合わせ、撹拌反応器と管型反応器との組み合わせ、多段直列攪拌反応器と管型反応器との組み合わせから選ばれ、前記多段直列反応器は2~10段直列しており、前記第2のヒドロシアノ化反応において、各段反応器の滞留時間は0.5~50時間である。
【0023】
本発明の具体的な実施形態において、前記工程3における後処理工程は、順次に行われる蒸留、抽出及び5段階の蒸留工程を含み、アジポニトリル(ADN)生成物を得る。
【0024】
本発明の具体的な実施形態において、前記順次に行われる蒸留、抽出及び5段階の蒸留工程において、任意に各流れに含まれるモノニトリル、ジニトリル、第1の触媒、第2の触媒及び/又は促進剤の量を検出し、検出結果に基づいて操作条件を調整して、アジポニトリル(ADN)の最適な分離効果を達成する(例えば、生成物におけるアジポニトリル含有量≧99.7%、残留2-メチルグルタロニトリル≦100ppm)。前記検出はオンラインラマン分光法による検出である。
【0025】
本発明の第2局面は、順次に接続されている第1の反応器、第2の反応器、第1の後処理設備、第3の反応器及び第2の後処理設備を含み、前記第1の反応器、第2の反応器、第1の後処理設備、第3の反応器及び第2の後処理設備のうちの少なくとも1つにオンラインラマン分光装置が設けられており、前記第1の反応器、第2の反応器、第3の反応器のそれぞれにフィード部と排出部が設けられている、アジポニトリルの製造装置を提供する。
【0026】
本発明の一具体的な実施形態において、前記第1の反応器は、循環反応器、多段直列循環反応器、攪拌槽型反応器、多段直列攪拌反応器、予備混合付き管型反応器、多段直列管型反応器、循環反応器と管型反応器との組み合わせ、多段直列循環反応器と管型反応器との組み合わせ、撹拌反応器と管型反応器との組み合わせ、又は、多段直列攪拌反応器と管型反応器との組み合わせから選ばれ、前記多段直列反応器は2~10段直列しており、第1の反応器が単一槽操作である場合、オンラインラマン分光装置を反応器内の下端及び/又は反応器下方の排出口に設けてよく、第1の反応器が多段直列したものである場合、オンラインラマン分光装置を各反応器内、及び/又は各反応器の接続部及び/又は反応液排出部に設けてよい。
【0027】
本発明の一具体的な実施形態において、前記第2の反応器は、内部仕切りを有する塔型反応器、内部仕切りが多段直列した塔型反応器、攪拌槽型反応器、多段攪拌槽型反応器、管型反応器、又は多段直列管型反応器から選ばれ、前記多段直列反応器は2~20段直列しており、第2の反応器が単一槽操作である場合、オンラインラマン分光装置を反応器内の下端及び/又は反応器下方の排出口に設けてよく、第2の反応器が多段直列したものである場合、オンラインラマン分光装置を各反応器内、及び/又は各反応器の接続部及び/又は反応液排出部に設けてよく、前記第2の反応器のフィード部が前記第1の反応器の排出部に接続している。
【0028】
本発明の一具体的な実施形態において、前記第1の後処理設備は、第1の蒸留設備、第2の蒸留設備及び第3の蒸留設備を備え、前記第1の蒸留設備、第2の蒸留設備及び第3の蒸留設備のそれぞれにフィード部、塔頂排出部及び塔底排出部が設けられており、前記第1の蒸留設備のフィード部が第2の反応器の排出部に接続され、塔頂排出部が第2の蒸留設備のフィード部に接続され、塔底排出部が第1の反応器のフィード部に接続されており、塔底排出部に液排出部がさらに設けられており、前記第2の蒸留設備のフィード部が第1の蒸留設備の塔頂排出部に接続され、塔頂排出部が第1の反応器のフィード部に接続され、塔底排出部が第3の蒸留設備に接続され、前記第3の蒸留設備のフィード部が第2の蒸留設備に接続され、塔頂排出部が第2の反応器のフィード部に接続され、塔底排出部が第3の反応器のフィード部に接続されている。
【0029】
本発明の一具体的な実施形態において、前記第3の反応器は、循環反応器、多段直列循環反応器、攪拌槽型反応器、多段直列攪拌反応器、予備混合付き管型反応器、多段直列管型反応器、循環反応器と管型反応器との組み合わせ、多段直列循環反応器と管型反応器との組み合わせ、撹拌反応器と管型反応器との組み合わせ、多段直列攪拌反応器と管型反応器との組み合わせから選ばれ、前記多段直列反応器は2~10段直列しており、第3の反応器が単一槽操作である場合、オンラインラマン分光装置を反応器内の下端及び/又は反応器下方の排出口に設けてよく、第3の反応器が多段直列したものである場合、オンラインラマン分光装置を各反応器内、及び/又は各反応器の接続部及び/又は反応液排出部に設けてよく、前記第3の反応器のフィード部が第3の蒸留設備の塔底排出部に接続している。
【0030】
本発明の一具体的な実施形態において、前記第2の後処理設備は、第4の蒸留設備、抽出設備、第5の蒸留設備、第6の蒸留設備、第7の蒸留設備、第8の蒸留設備及び第9の蒸留設備を含み、前記第4の蒸留設備、抽出設備、第5の蒸留設備、第6の蒸留設備、第7の蒸留設備、第8の蒸留設備及び第9の蒸留設備のそれぞれにフィード部、塔頂排出部及び塔底排出部が設けられており、前記第4の蒸留設備のフィード部が第3の反応器の排出部に接続され、塔頂排出部が第3の反応器のフィード部及び/又は第7の蒸留設備のフィード部に接続され、塔底排出部が抽出設備のフィード部に接続され、前記抽出設備のフィード部が第4の蒸留設備の塔底排出部に接続され、塔頂排出部が第5の蒸留設備のフィード部に接続され、塔底排出部が第6の蒸留設備のフィード部に接続され、前記第5の蒸留設備のフィード部が抽出設備の塔頂排出部に接続され、塔頂排出部が抽出設備のフィード部に接続され、塔底排出部が第3の反応器のフィード部及び/又は第7の蒸留設備のフィード部に接続されており、前記第6の蒸留設備のフィード部が抽出設備の塔底排出部に接続され、塔頂排出部が第3の反応器のフィード部に接続され、塔底排出部が第8の蒸留設備のフィード部に接続され、前記第7の蒸留設備のフィード部が第4の蒸留設備の塔頂排出部及び/又は第6塔頂排出部に接続され、塔頂排出部が第2の反応器のフィード部に接続され、塔底排出部が第3の反応器のフィード部に接続され、前記第8の蒸留設備のフィード部が第6の蒸留設備の排出部に接続され、塔頂排出部が第9の蒸留設備のフィード部に接続され、塔底排出部が第3の反応器に接続されており、塔底排出部に液排出部がさらに設けられており、前記第9の蒸留設備のフィード部が第8の蒸留設備の塔頂排出部に接続されている。
【0031】
本発明の一具体的な実施形態において、前記第1の反応器、第2の反応器、第1の後処理設備、第3の反応器及び第2の後処理設備のいずれにも少なくとも1つのオンラインラマン分光装置が設けられている。
【0032】
本発明の第3局面は、3-ペンテンニトリル(3PN)を含む流れと青酸とを第2の触媒及び促進剤の存在下で第2のヒドロシアノ化反応させてアジポニトリルを製造することを含むアジポニトリルの製造方法において、前記3-ペンテンニトリル(3PN)を含む流れは、
青酸とブタジエンとを第1の触媒の存在下で第1のヒドロシアノ化反応させ、3-ペンテンニトリル(3PN)、2-メチル-3-ブテンニトリル(2M3BN)、第1の触媒及びブタジエンを含む第1の流れを形成し、系における青酸の濃度を検出し、原料の配合割合、反応温度、反応滞留時間又はこれらの組み合わせの調整によって、最終の第1の流れにおける残留青酸が10ppm未満になるように制御し、第1のヒドロシアノ化反応において、前記青酸の全量とブタジエンの使用量とのモル比が0.75~1.0である工程1と、
工程1で得られた第1の流れを異性化反応させて、2-ペンテンニトリル(2PN)、3-ペンテンニトリル(3PN)及び4-ペンテンニトリル(4PN)を含むモノニトリル、未反応の2-メチル-3-ブテンニトリル(2M3BN)、第1の触媒及びブタジエンを含む第2の流れを得、反応系における3-ペンテンニトリル(3PN)及び2-メチル-3-ブテンニトリル(2M3BN)の量を検出し、第2の流れにおいて、2-ペンテンニトリル(2PN)、3-ペンテンニトリル(3PN)及び4-ペンテンニトリル(4PN)を含むモノニトリルにおける3-ペンテンニトリル(3PN)の割合が0.8以上となるように、第1の触媒の量、反応温度、反応滞留時間又はこれらの組み合わせを調整し、その後、後処理工程によって3-ペンテンニトリル(3PN)を含む流れを得る工程2とを含む方法で製造され、
前記検出は、オンラインラマン分光法を用いて行い、
前記第1の触媒は、リン配位子及び/又は遊離リン配位子を含有するゼロ価ニッケル錯体から選ばれる、ことを特徴とするアジポニトリルの製造方法を提供する。
【0033】
詳細な工程は、本発明の第1局面により提供されるアジポニトリルの製造方法に関する記載を参照できる。
【0034】
本発明の第4局面は、
3-ペンテンニトリル(3PN)を含む流れ、第2の触媒及び促進剤を第2のヒドロシアノ化反応させ、前記3-ペンテンニトリル(3PN)と、第2の触媒と、促進剤と、アジポニトリル(ADN)、2-メチルグルタロニトリル(MGN)及び2-エチルスクシノニトリル(ESN)を含むジニトリル成分とを含む第3の流れを得、系における第2の触媒、残留青酸及び/又は残留3-ペンテンニトリル(3PN)の量を検出し、3-ペンテンニトリル(3PN)の転化率が60%以上となるように原料の配合割合、反応温度、反応滞留時間又はこれらの組み合わせを調整し、第2のヒドロシアノ化反応において、前記青酸の全量と3-ペンテンニトリル(3PN)とのモル比が0.60~1.0であり、後処理工程によってアジポニトリル生成物を得ることを含み、
前記検出は、オンラインラマン分光法を用いて行い、
前記第2の触媒は、リン配位子及び/又は遊離リン配位子を含有するゼロ価ニッケル錯体から選ばれ、
前記促進剤はルイス酸であるアジポニトリルの製造方法を提供する。
【0035】
詳細な工程は、本発明の第1局面により提供されるアジポニトリルの製造方法に関する記載を参照できる。
【発明の効果】
【0036】
本発明の製造方法において、反応系に対し、関連成分の含有量をオンラインでモニタリングして反応条件を調整することで、原料の配合割合を精確に制御し、反応効率を向上させ、操作安全性及び反応中の触媒の安定性を向上させる。後処理工程において関連物質の含有量をオンラインでモニタリングして反応条件を調整することで、触媒の回収率を確保し、回収される触媒の純度を確保する。
【0037】
本発明の第1のヒドロシアノ化反応において、反応系のオンラインモニタリングにより、ブタジエンと青酸をほぼ同じモル比で精確に制御することが実現され、ブタジエンの使用量を大幅に低減し、反応後のブタジエンを回収するためのエネルギー消費及び設備投資を低減した。また、青酸含有量をリアルタイムにモニタリングすることにより、反応器出口からの反応液には残留青酸がほとんどない(<10ppm)ことを確保し、操作安全性及び反応中の触媒の安定性を向上させた。
【0038】
第1のヒドロシアノ化における原料比を最適化することにより、ブタジエンの使用量を効果的に低減でき、ブタジエンの回収作業を省略することができる。それによって、第1のヒドロシアノ化反応液がそのまま異性化反応に入り、設備投資の削減ができる。加えて、第1のヒドロシアノ化の反応熱を活用して、異性化ユニットのエネルギー消費を減らすことができる。
【0039】
本発明の異性化反応において、反応原料系をオンラインでモニタリングすることにより、高い異性化転換率及び選択性を得ることができる。
【0040】
異性化反応の後処理工程において、フラッシュ蒸留ユニットをリアルタイムにモニタリングすることにより、蒸留条件をタイムリーに調整し、後処理工程における触媒の安定性を向上させる。また、回収される触媒の純度をモニタリングすることにより、触媒の排出と補充を精確に行うことができる。
【0041】
本発明の第2のヒドロシアノ化反応において、反応系のオンラインモニタリング及び反応条件の制御により、より高い3-ペンテンニトリル転換率及びアジポニトリルの選択性が得られる。また、青酸をリアルタイムにモニタリングすることにより、残留青酸がほとんどない(<10ppm)ことを確保し、操作安全性及び処理工程における触媒の安全性を向上させる。
【0042】
第2のヒドロシアノ化反応後の処理工程において、フラッシュ蒸留された重質成分の含有量をリアルタイムにモニタリングすることにより、重質成分中の原料である3-ペンテンニトリルの残留物を精確に制御することができる。また、連続的な抽出により回収された触媒材料をリアルタイムにモニタリングすることにより、抽出中の触媒の回収率が確保されるとともに、回収された触媒の純度をリアルタイムにモニタリングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1図1はHCNのラマンスペクトル(400~2400cm-1)を示す図である。
図2図2は2M3BNのラマンスペクトル(300~1800cm-1)を示す図である。
図3図3は3PNのラマンスペクトル(300~1800cm-1)を示す図である。
図4図4は第1のヒドロシアノ化反応液のラマンスペクトル(300~1800cm-1)を示す図である。
図5図5は異性化反応液(300~1800cm-1)のラマンスペクトルを示す図である。
図6図6は異性化反応溶液のラマンスペクトルの部分拡大図である。
図7図7はADNのラマンスペクトル(300~1800cm-1)を示す図である。
図8図8はMGN+ESNのラマンスペクトル(300~1800cm-1)を示す図である。
図9図9は第2のヒドロシアノ化反応液のラマンスペクトル(300~1800cm-1)を示す図である。
図10図10は配位子と触媒のラマンスペクトル(300-1800cm-1)を示す図である。
図11図11はp-クレゾールのラマンスペクトル(300~1800cm-1)を示す図である。
図12図12は触媒の加水分解生成物(DTHP及びp-クレゾール)のラマンスペクトル(400~1800cm-1)を示す図である。
図13図13は第1のヒドロシアノ化反応液のガスクロマトグラムを示す図である。
図14図14は好ましい第1のヒドロシアノ化+異性化反応+第1の後処理のシステム図である。
図15図15は好ましい第2のヒドロシアノ化反応+第2の後処理のシステム図の第1部分を示す図である。
図16図16は好ましい第2のヒドロシアノ化反応+第2の後処理のシステム図の第2部分を示す図である。
【符号の説明】
【0044】
R1~R8 反応器
R9 固液分離槽
T1~T4 蒸留塔
T5 抽出塔
T6~T10 蒸留塔
LM1~LM18 オンラインラマン分光装置
D1~D18 制御装置
V1~V5 貯蔵タンク
V6 静置層分離タンク
V7~V17 貯蔵タンク
【発明を実施するための形態】
【0045】
用語の説明について
本発明における用語は下記のとおりである。
【0046】
BDは、ブタジエンを指す。
HCNは、青酸を指す。
【0047】
2PNは、2-ペンテンニトリルを指す。
3PNは、3-ペンテンニトリルを指す。
【0048】
4PNは、4-ペンテンニトリルを指す。
2M3BNは、2-メチル-3-ブテンニトリルを指す。
【0049】
ADNは、アジポニトリルを指す。
MGNは、2-メチルグルタロニトリルを指す。
【0050】
ESNは、2-エチルスクシノニトリルを指す。
モノニトリルには2PN、3PN及び4PNが含まれる。
【0051】
ジニトリルにはADN、MGN及びESNが含まれる。
Cat1は、第1のヒドロシアノ化反応の触媒(第1の触媒)を指す。
【0052】
Cat2は、第2のヒドロシアノ化反応の触媒(第2の触媒)を指す。
本発明は、
青酸とブタジエンとを第1の触媒の存在下で第1のヒドロシアノ化反応させ、3-ペンテンニトリル(3PN)、2-メチル-3-ブテンニトリル(2M3BN)、第1の触媒及びブタジエンを含む第1の流れを形成し、系における青酸の濃度を検出し、原料の配合割合、反応温度、反応滞留時間又はこれらの組み合わせの調整によって、最終の第1の流れにおける残留青酸が10ppm未満になるように制御し、第1のヒドロシアノ化反応において、前記青酸の全量とブタジエンの使用量とのモル比が0.75~1.0である工程1と、
工程1で得られた第1の流れを異性化反応させて、2-ペンテンニトリル(2PN)、3-ペンテンニトリル(3PN)及び4-ペンテンニトリル(4PN)を含むモノニトリル、未反応の2-メチル-3-ブテンニトリル(2M3BN)、第1の触媒及びブタジエンを含む第2の流れを得、反応系における3-ペンテンニトリル(3PN)及び2-メチル-3-ブテンニトリル(2M3BN)の量を検出し、第2の流れにおいて、2-ペンテンニトリル(2PN)、3-ペンテンニトリル(3PN)及び4-ペンテンニトリル(4PN)を含むモノニトリルにおける3-ペンテンニトリル(3PN)の割合が0.8以上となるように、第1の触媒の量、反応温度、反応滞留時間又はこれらの組み合わせを調整し、その後、後処理工程によって3-ペンテンニトリル(3PN)を含む流れを得る工程2と、
青酸、工程2で得られた3-ペンテンニトリル(3PN)を含む流れ、第2の触媒及び促進剤を第2のヒドロシアノ化反応させ、前記3-ペンテンニトリル(3PN)と、第2の触媒と、促進剤と、アジポニトリル(ADN)、2-メチルグルタロニトリル(MGN)及び2-エチルスクシノニトリル(ESN)を含むジニトリル成分とを含む第3の流れを得、系における第2の触媒、残留青酸及び/又は残留3-ペンテンニトリル(3PN)の量を検出し、3-ペンテンニトリル(3PN)の転化率が60%以上となるように原料の配合割合、反応温度、反応滞留時間又はこれらの組み合わせを調整し、第2のヒドロシアノ化反応において、前記青酸の全量と3-ペンテンニトリル(3PN)とのモル比が0.60~1.0であり、後処理工程によってアジポニトリルを得る工程3とを含むアジポニトリルの製造方法であって、
前記検出は、オンラインラマン分光法を用いて行い、
前記第1の触媒及び前記第2の触媒はそれぞれ独立して、リン配位子及び/又は遊離リン配位子を含有するゼロ価ニッケル錯体から選ばれ、
前記促進剤はルイス酸である、アジポニトリルの製造方法を提供する。
【0053】
工程1の第1のヒドロシアノ化反応は、HCNとBDとが反応して3PN及び2M3BNを生成する工程である。工程2の異性化反応は2M3BNを3PNに転換させる工程である。工程3の第2のヒドロシアノ化反応はHCNと3PNとを反応させてアジポニトリルを生成する工程である。
【0054】
異性化反応において、ペンテニトリル異性体である2-ペンテンニトリル(2PN)、3-ペンテンニトリル(3PN)及び4-ペンテンニトリル(4PN)を含むモノニトリルの混合物を生成することができる。
【0055】
第2のヒドロシアノ化反応において、アジポニトリル(ADN)、2-メチルグルタロニトリル(MGN)及び2-エチルスクシノニトリル(ESN)を含むジニトリル混合物を生成することができる。
【0056】
BD含有量を検出する必要がある場合、オンラインガスクロマトグラフィーを使用できる。
【0057】
触媒
本発明に係る触媒は、リン配位子および/または遊離リン配位子を含有するゼロ価ニッケル錯体である。前記含まれるリン配位子及び/又は遊離リン配位子は、単座リン配位子又は多座リン配位子であり得る。
【0058】
前記単座リン配位子は、リン配位子、ホスファイト配位子及びホスフィネート配位子であってもよく、その一般式は下記のとおりであり得る。
【0059】
P(X)(X)(X
式中、
、X、Xは独立して酸素又は単結合を表す。
【0060】
、R及びRは独立して、同一又は異なって、単独又は架橋したメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル又はtert-ブチルなどのC~C炭化水素基、フェニル、o-トリル、m-トリル、p-トリル、1-ナフチル、2-ナフチル、1,1’-ビフェノール又は1,1’-ビナフトールなどのアリール基を表す。
【0061】
前記多座リン配位子は、リン配位子、ホスファイト配位子及びホスフィネート配位子であってもよく、その一般式は下記のとおりであり得る。
【0062】
(R)(R)PXYXP(X)(X
式中、
Yは、-CH-、-CHCH-、-CHCHCH-、-CH(CH)CH-、-CHCHCHCH-、-CHCH(CH)CH-などのC~C炭化水素基、-CHCl-、-CHClCHCl-、-CHCHClCH-、-CH(CHCl)CH-、-CHCHFCHCH-、-CHCH(CHBr)CH-などのハロゲン化C~C炭化水素基、フェニレン基、2,2’-ビフェニル、1,1’-ジ-2-ナフチルなどの非置換のC~C20アリール基であってもよい。
【0063】
、X、X、X、X、Xは独立して酸素又は単結合を表す。
、R、R、Rは独立して、同一又は異なって、単独又は架橋したメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル又はtert-ブチルなどのC~C炭化水素基、フェニル、o-トリル、m-トリル、p-トリル、1-ナフチル、2-ナフチル、1,1’-ビフェノール又は1,1’-ビナフトールなどのアリール基を表す。
【0064】
本発明の一具体的な形態は、下記の工程を含むアジポニトリルの製造方法を提供する。
(1)第1のヒドロシアノ化反応
HCNの流れ103/104/105と、BDの流れ102、Cat1の流れ101とを、第1の反応器に連続的に流し、第1のヒドロシアノ化反応を行い、3PN、2M3BN、Cat1及びBDを含む反応流106/107/108を得る。反応流106/107/108におけるHCN濃度をオンラインでモニタリングして、流れ108における残留HCNが10ppm未満になるように反応原料の配合割合、反応温度、反応滞留時間などの条件を調整する。
【0065】
前記HCNの全使用量とBDとの比が0.75~1.0であり、好ましくは0.85~0.98であり、より好ましくは0.95~0.98である。
【0066】
前記Cat1は、リン配位子及び/又は遊離リン配位子を含有するゼロ価ニッケル錯体であり、前記ゼロ価ニッケル錯体のリン配位子及び遊離リン配位子は、単座又は多座のリン配位子、ホスファイト配位子及びホスフィネート配位子である。
【0067】
前記ゼロ価ニッケルとBDとの仕込みモル比が0.001~0.10:1であり、好ましくは0.005~0.05:1である。前記Cat1におけるリン配位子及び遊離リン配位子の全量とゼロ価ニッケルとのモル比が5~50:1であり、好ましくは10~30:1である。
【0068】
前記第1のヒドロシアノ化反応は、反応温度が60~140℃であり、好ましくは70~120℃であり、反応圧力が0.5~5.0MPaである。
【0069】
前記第1の反応器として選択可能な種類は前述のとおりであり、好ましくは、多段直列循環反応器、多段直列攪拌反応器、循環反応器と管型反応器との組み合わせ、多段直列循環反応器と管型反応器との組み合わせ、撹拌反応器と管型反応器との組み合わせ、多段直列攪拌反応器と管型反応器との組み合わせである。前記多段直列反応器は2~10段直列しており、3~6段直列が好ましい。前記第1の反応器が多段反応器の場合、原料BD、Cat1を直接第1段の反応器に流し、HCNを全部第1段の反応器に流すか、又は直列している他の反応器に等しい分或いは等しくない分で流すことができる。通常、次の段のHCNの流入量が前の段と同じ量であるか又はそれより少ない。
【0070】
前記第1のヒドロシアノ化反応において、各段反応器の滞留時間が0.01~5.0時間であり、好ましくは0.05~2.0時間であり、最も好ましくは0.1~1.0時間である。
【0071】
また、オンラインモニタリングで106/107/108におけるHCN含有量が設定範囲を超えたことが確認された場合、BDフィード量の変更、HCNフィード量の変更、Cat1フィード量の変更、反応温度の変更、反応滞留時間の変更又はこれらの組み合わせによって調整することができる。さらに、オンラインモニタリングで流れ106/107におけるHCN含有量が100~1000ppmであると確認された場合、正常に反応を行うことができる。この範囲を超えた場合に、反応滞留時間の変更、反応温度の変更又はこれらの組み合わせを優先して行う手法などによって上記範囲とすることができる。オンラインモニタリングで流れ108における残留HCNが10ppm以上であると確認された場合、BDのフィード量の変更又はCat1の添加量の変更、反応温度の変更又は反応時間の変更などの手法、もしくはこれらの組み合わせを優先して行うことで、残留HCNを10ppm未満とすることができる。
【0072】
前記オンラインモニタリングは、オンラインラマン分光法を用いる。
さらに、多段直列反応器を用いる場合、最終段の反応器の反応冷却システムはオフにし、反応によって放出される熱によって反応系の温度を後続の異性化反応温度に近い又は等しい温度に制御する。
【0073】
(2)異性化反応
流れ108を第2の反応器に流し、異性化反応条件下で直接異性化反応を行い、3PN、未反応の2M3BN、Cat1及びBDを含む流れ110を得る。反応系における3PN及び2M3BNの量をオンラインでモニタリングし、Cat1の量、反応温度、反応滞留時間又はこれらの組み合わせの調整によって、流れ110においてモノニトリルに対する3PNのモル比が0.8以上となるように制御する。
【0074】
前記異性化反応におけるゼロ価ニッケルと2M3BN及び3PNとの初期モル比が0.001~0.10:1であり、好ましくは0.005~0.05:1である。前記Cat1におけるリン配位子及び遊離リン配位子の全量とゼロ価ニッケルとのモル比が5~50:1であり、好ましくは10~30:1である。
【0075】
前記異性化反応は反応温度が100~175℃であり、好ましくは120~160℃であり、反応圧力が0.5~5.0MPaである。
【0076】
さらに、前記異性化反応は第2の反応器内で行われ、前記第2の反応器として選択可能な種類は前述のとおりである。好ましくは、内部仕切りを有する塔型反応器、内部仕切りが多段直列した塔型反応器、多段攪拌槽型反応器である。前記多段直列は2~20段であり、好ましくは2~10段である。
【0077】
前記異性化反応において、各段反応器の滞留時間が0.01~50時間であり、好ましくは0.05~20時間であり、最も好ましくは0.1~10時間である。
【0078】
さらに、オンラインモニタリングで流れ110においてモノニトリルに対する3PNのモル比が0.8未満と確認された場合、Cat1の使用量の増加、反応温度の上昇、反応時間の延長又はこれらの組み合わせによって制御する。前記オンラインモニタリングは、オンラインラマン分光法を用いる。
【0079】
前記異性化反応は、第1の後処理工程をさらに含む。具体的には下記のとおりである。
(第1の蒸留段階)流れ110を蒸留し、頂部生成物としてBD、3PN及び2M3BNを含む流れ111と、底部生成物としてCat1を含む流れ113を得、第1の蒸留段階におけるT1塔底の循環物中の3PN及び2M3BNの合計残留量をオンラインでモニタリングし、検出結果に基づいて、第1の蒸留段階の温度、圧力、滞留時間及び還流比の少なくとも1種を制御して、最適な分離効果を達成する(例えば、塔底の残留3PN≦10%、残留2M3BN≦0.5%、残留ブタジエン≦50ppm)。それと同時に、T1塔底の流れにおける不活性化触媒の含有量をオンラインでモニタリングし、検出結果に基づいて、廃触媒112と、第1の反応器に循環された触媒113の流量を特定する。
【0080】
(第2の蒸留段階)流れ111を蒸留し、頂部生成物としてBDに富む流れ114と、BD原料から導入された低沸点不純物115と、底部生成物として3PN及び2M3BNを含む流れ116とを得る。好ましくは、オンラインラマン分光にガスクロマトグラフィーを組み合わせて用い、前記流れ116におけるBD含有量をモニタリングし、検出結果に基づいて第2の蒸留段階の温度、圧力、滞留時間及び還流比の少なくとも1種を制御して、最適な分離効果を達成する(例えば、流れ114におけるブタジエン含有量≧60%、流れ116におけるブタジエン含有量≦20ppm)。
【0081】
(第3の蒸留段階)流れ116を蒸留し、頂部生成物として2M3BNを含む流れ117及び底部生成物として3PNを含む流れ118を得る。好ましくは、流れ118における2M3BNの残留量をオンラインでモニタリングし、検出結果に基づいて第3の蒸留段階の温度、圧力、滞留時間及び還流比の少なくとも1種を制御して、最適な分離効果を達成する(例えば、流れ117における2M3BN含有量≧85%、流れ118における3PN含有量≧98%、2M3BN含有量≦0.5%)。
【0082】
前記オンラインモニタリングは、オンラインラマン分光法を用いる。
さらに、第1の蒸留段階の蒸留温度が80~140℃、蒸留圧力が0.02~0.2MPaとなるように制御する。
【0083】
さらに、第2の蒸留段階の蒸留温度が40~100℃、蒸留圧力が0.02~0.2MPaとなるように制御する。
【0084】
さらに、第3の蒸留段階の蒸留温度が80~120℃、蒸留圧力が0.02~0.1MPaとなるように制御する。
【0085】
さらに、前記BDを含む流れ114の少なくとも一部を第1の反応器に循環させ、前記Cat1を含む流れ113の少なくとも一部を第1の反応器に循環させる。
【0086】
さらに、前記Cat1を含むT1塔底の流れの少なくとも一部を排出流112として系外に排出する。具体的な排出量は、オンラインラマンによって検出される触媒中の不純物の含有量によって決定される。通常、Cat1全量の0.005~0.10倍である。
【0087】
さらに、前記2M3BNを含む流れ117の少なくとも一部を第2の反応器に再循環させる。
【0088】
(3)第2のヒドロシアノ化反応について
HCNの流れ203/204、3PNの流れ118、Cat2の流れ201及び促進剤の流れ202を第3の反応器に連続的に流して反応を行い、モノニトリル、Cat2、Cat2の分解生成物、前記促進剤、ジニトリルなどを含む流れ205/206を得る。反応流205における残留HCNをオンラインでモニタリングし、HCNの流れ203/204の配合割合を調整し、反応流206におけるCat2、残留HCN、残留3PNをオンラインでモニタリングして、反応原料の配合割合、反応温度、反応滞留時間などの条件を調整することで、流れ207における残留HCNが10ppm未満であり、かつ3PN転換率が60%以上であることを確保する。
【0089】
第2のヒドロシアノ化反応におけるHCNの合計モル量と3PNとの比は、0.60~1.0であり、好ましくは0.70~0.95である。
【0090】
前記Cat2はリン配位子及び/又は遊離リン配位子を含有するゼロ価ニッケル錯体である。前記ゼロ価ニッケル錯体のリン配位子及び遊離リン配位子は、単座又は多座のリン配位子、ホスファイト配位子及びホスフィネート配位子である。
【0091】
前記ゼロ価ニッケルと3PNとの仕込みモル比が0.001~0.05:1であり、好ましくは0.005~0.05:1である。前記Cat2におけるリン配位子及び遊離リン配位子の全量とゼロ価ニッケルとのモル比が4~20:1であり、好ましくは6~15:1である。
【0092】
前記促進剤はルイス酸であり、周期表第Ib、IIb、IIIa、IIIb、IVa、IVb、Va、Vb、VIb、VIIb及びVIII族元素の塩から選ばれ、これらの塩は、ハロゲン化物、硫酸塩、スルホン酸塩、ハロゲン化アルキルスルホン酸塩、ペルハロゲン化アルキルスルホン酸塩、ハロゲン化アルキル酢酸塩、ペルハロゲン化アルキル酢酸塩、カルボン酸塩及び燐酸塩から選ばれる。好ましくは、前記ルイス酸は、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、塩化マンガン、臭化マンガン、塩化カドミウム、臭化カドミウム、塩化スズ(II)、臭化スズ(II)、硫酸スズ(II)、酒石酸スズ(II)、トリフルオロメタンスルホン酸インジウム(III)、トリフルオロ酢酸インジウム(III)、トリフルオロ酢酸亜鉛、ランタン、セリウム、プラセオジミウム、ネオジミウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ハフニウム、エルビウム、タリウム、イッテルビウム及びルテチウムなどの希土類元素の塩化物又は臭化物、塩化コバルト、塩化鉄(II)、塩化イットリウム及びそれらの混合物から選ばれる。より好ましくは、前記ルイス酸は塩化亜鉛、塩化鉄(III)であり、前記ルイス酸とゼロ価ニッケルとの仕込みモル比が0.05~2.5:1であり、好ましくは0.2~2.0:1である。
【0093】
前記第2のヒドロシアノ化反応は、反応温度が40~100℃であり、好ましくは50~80℃であり、反応圧力が0.1~0.5MPaである。
【0094】
さらに、前記第2のヒドロシアノ化反応は、第3の反応器ユニット内で行われる。前記第3の反応器ユニットとして選択可能な種類は前述のとおりである。好ましくは、多段直列循環反応器、多段直列攪拌反応器、循環反応器と管型反応器との組み合わせ、多段直列循環反応器と管型反応器との組み合わせ、撹拌反応器と管型反応器との組み合わせ、多段直列攪拌反応器と管型反応器との組み合わせである。前記多段直列反応器は2~10段直列しており、好ましくは3~6段である。前記第3の反応器が多段反応器である場合、原料である3PNの流れ118、Cat2の流れ201及び促進剤の流れ202を第3段の反応器に直接流し、HCNを全部第1段の反応器に流すか、又は直列している他の反応器に等しい分或いは等しくない分で流すことができる。通常、次の段のHCNの流入量が前の段と同じ量であるか又はそれより少ない。
【0095】
前記第3のヒドロシアノ化反応において、各段反応器の滞留時間が0.5~50時間であり、好ましくは1~30時間であり、最も好ましくは2~20時間である。
【0096】
さらに、オンラインモニタリングで流れ205/206/207における残留HCNが設定範囲を超えたことが確認された場合、3PNの流れ118の流入量の変更、HCNの流れ203/204の流入量の変更、Cat2を含む流れ201及び促進剤の流れ202の流入量の変更、反応温度の変更、反応滞留時間の変更又はこれらの組み合わせによって調整する。さらに、オンラインモニタリングで流れ205/206におけるHCN含有量が100~1000ppmであると確認された場合、正常に反応を行うことができる。この範囲を超えた場合に、反応滞留時間の変更、反応温度の変更又はこれらの組み合わせを優先して行う手法などによって上記範囲とすることができる。オンラインモニタリングで流れ207における残留HCNが10ppm以上であると確認された場合、3PNの流入量の変更又はCat2の添加量の変更、又は反応温度の変更、又は反応時間の変更などの手法、もしくはこれらの組み合わせを優先して行うことで、HCN残留を10ppm未満とすることができる。
【0097】
前記オンラインモニタリングは、オンラインラマン分光法を用いる。
前記第2のヒドロシアノ化反応は、後処理工程をさらに含む。具体的には下記のとおりである。
【0098】
(第4の蒸留段階)流れ206を蒸留し、頂部生成物としてモノニトリルに富む流れ207と、底部生成物として前記Cat2及びCat2分解生成物、前記促進剤、ジニトリル及び少量のモノニトリルを含む流れ209を得る。流れ209におけるモノニトリルとジニトリルとのモル比をオンラインでモニタリングし、検出結果に基づいて、第4の蒸留段階の温度、圧力、滞留時間及び還流比の少なくとも1種を制御して、流れ209におけるモノニトリルとジニトリルとのモル比が0.1:1以下になるように制御する。
【0099】
流れ209を静置し層分離させ、Cat2の一部を含む流れ210と、少量のCat2、Cat2分解生成物、前記促進剤及びジニトリルを含む流れ211とを得る。流れ210の少なくとも一部を第3の反応器内の第2のヒドロシアノ化反応に循環される。流れ210における触媒含有量をオンラインでモニタリングして、補充する必要のある新鮮な触媒流れ201の量を決定する。
【0100】
(抽出段階)抽出剤を用いて流れ212の抽出を行い、抽出相としてCat2を含み、かつ抽出剤が豊富な流れ214と、抽残相として、抽出相が除去され、かつCat2分解生成物、前記少なくとも1種の促進剤、ジニトリル及び少量のモノニトリルを含む流れ213を得る。前記抽出剤は、n-ヘキサン、n-ヘプタン、C6、C7、C8、C9脂肪族化合物異性体、C6、C7、C8、C9脂環式化合物異性体、シス-デカリン、トランス-デカリン及びそれらの混合物から選ばれる。シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンであることが好ましい。前記抽出剤の使用量は、反応液の質量の0.5~5.0である。
【0101】
前記抽出段階の抽出温度が20~80℃であり、圧力が0.01~1MPaである。
(第5の蒸留段階)流れ214を蒸留し、頂部生成物として抽出剤を含む流れ216と、底部生成物としてCat2を含む流れ215とを得る。前記流れ215におけるCat2含有量及び成分をオンラインでモニタリングし、流れ215の少なくとも一部を第1のヒドロシアノ化/異性化/第2のヒドロシアノ化反応に循環させる。
【0102】
Cat2分解生成物、前記少なくとも1種の促進剤、ジニトリル及び少量のモノニトリルを含む流れ213は、中和反応、遠心分離などの操作を経て、固体触媒残渣の流れ217を除去するとともに、Cat2分解生成物、少量の促進剤、ジニトリル及び少量のモノニトリルを含む流れ218を得る。
【0103】
(第6の蒸留段階)流れ218を蒸留し、頂部生成物としてモノニトリルを含む流れ220と、底部生成物としてCat2分解生成物、少量の促進剤及びジニトリルを含む流れ219を得る。好ましくは、塔底の流れにおけるモノニトリルの残留量をオンラインでモニタリングし、検出結果に基づいて、第6の蒸留段階の温度、圧力、滞留時間及び還流比の少なくとも一種を制御して、最適な分離効果を達成する(例えば、流れ220におけるジニトリル含有量≦1%、流れ219におけるモノニトリル含有量≦0.5%)。
【0104】
(第7の蒸留段階)流れ208及び/又は流れ220を合流し、かつ少なくとも部分的に蒸留して、2PNが除去された流れ221と2PNが豊富な流れ222を得、流れ221の少なくとも一部を第3の反応器に再循環させ、流れ222を廃棄物として排出する。
【0105】
(第8の蒸留段階)流れ219を蒸留し、頂部生成物としてジニトリルを含む流れ224と、底部生成物としてCat2分解生成物及び少量の促進剤を含む流れ223を得る。好ましくは、塔底の流れにおけるジニトリルの残留量をオンラインでモニタリングし、検出結果に基づいて第8の蒸留段階の温度、圧力、滞留時間及び還流比の少なくとも1種を制御して最適な分離効果を達成する(例えば、流れ223におけるジニトリル含有量≦20%、流れ224におけるジニトリル含有量≧98%)。
【0106】
(第9の蒸留段階)流れ224を蒸留し、頂部生成物としてMGN及びESNを含む流れ226と、底部生成物としてADNを含む流れ225を得る。好ましくは、流れ225におけるMGN及びESNの残留量をオンラインでモニタリングし、検出結果に基づいて第9の蒸留段階の温度、圧力、滞留時間及び還流比の少なくとも1種を調整する。
【0107】
さらに、第4の蒸留段階の蒸留温度が40~180℃、蒸留圧力が0.001~0.1MPaであるように制御する。
【0108】
さらに、前記第5の蒸留段階の蒸留温度が40~120℃、蒸留圧力が0.001~0.2MPaであるように制御する。
【0109】
さらに、前記第6の蒸留段階の蒸留温度が30~180℃、蒸留圧力が0.001~0.1MPaであるように制御する。
【0110】
さらに、前記第7の蒸留段階の蒸留温度が40~250℃、蒸留圧力が0.001~0.2MPaであるように制御する。
【0111】
さらに、前記第8の蒸留段階の蒸留温度が60~250℃、蒸留圧力が0.001~0.05MPaであるように制御する。
【0112】
さらに、前記第9の蒸留段階の蒸留温度が60~200℃、蒸留圧力が0.001~0.05MPaであるように制御する。
【0113】
さらに、前記抽出剤を含む流れ216の少なくとも一部を抽出段階に循環させる。
さらに、前記Cat2を含む流れ217の少なくとも一部を第1/第2/第3の反応器に循環させる。
【0114】
本発明のもう1つの局面は、具体的に第1の反応器、第2の反応器、第1の後処理設備、第3の反応器、第2の後処理設備を含む、アジポニトリルを製造する生産システムを提供する。
【0115】
前記第1の反応器、第2の反応器、第1の後処理設備、第3の反応器、第2の後処理設備の少なくとも1つがオンラインラマン分光装置を有する。好ましくは、前記第1の反応器、第2の反応器、第1の後処理設備、第3の反応器、第2の後処理設備はいずれも少なくとも1つのオンラインラマン分光装置を有する。
【0116】
前記第1の反応器として選択可能な種類は前述のとおりである。第1の反応器が単一槽操作である場合、オンラインラマン分光装置を反応器内の下端及び/又は反応器下方の排出口に設ける。第1の反応器が多段直列したものである場合、オンラインラマン分光装置を各反応器内、及び/又は各反応器の接続部及び/又は反応液排出部に設ける。前記第1の反応器にフィード部、排出部がさらに設けられている。
【0117】
前記第2の反応器として選択可能な種類は前述のとおりである。第2の反応器が単一槽操作である場合、オンラインラマン分光装置を反応器内の下端及び/又は反応器下方の排出口に設ける。第2の反応器が多段直列したものである場合、オンラインラマン分光装置を各反応器内、及び/又は各反応器の接続部及び/又は反応液排出部に設ける。前記第2の反応器にフィード部、排出部がさらに設けられている。前記第2の反応器のフィード部が第1の反応器の排出部に接続されている。
【0118】
前記第1の後処理設備は第1の蒸留設備、第2の蒸留設備及び第3の蒸留設備である。前記第1の蒸留設備、第2の蒸留設備及び第3の蒸留設備は、段塔、規則充填塔、不規則充填塔及び蒸発器であってもよい(蒸発器として、例えば、流下薄膜型蒸発器、薄膜型蒸発器、フラッシュ蒸発器、スパイラル蒸発器、自己循環式蒸発器などが挙げられる)。前記第1の蒸留設備、第2の蒸留設備及び第3の蒸留設備は、単段又は多段であってもよい。第1の蒸留設備、第2の蒸留設備及び第3の蒸留設備には、フィード部、塔頂排出部及び塔底排出部が設けられている。前記第1の蒸留設備のフィード部が第2の反応器の排出部に接続され、塔頂排出部が第2の蒸留設備のフィード部に接続され、塔底排出部が第1の反応器のフィード部に接続されており、塔底排出部に液排出部がさらに設けられている。前記第2の蒸留設備のフィード部が第1の蒸留設備の塔頂排出部に接続され、塔頂排出部が第1の反応器のフィード部に接続され、塔底排出部が第3の蒸留設備に接続されている。前記第3の蒸留設備のフィード部が第2の蒸留設備に接続され、塔頂排出部与第2の反応器のフィード部に接続されている。塔底排出部が第3の反応器のフィード部に接続されている。
【0119】
前記第3の反応器として選択可能な種類は前述のとおりである。第3の反応器が単一槽操作である場合、オンラインラマン分光装置を反応器内の下端及び/又は反応器下方の排出口に設ける。第3の反応器が多段直列したものである場合、オンラインラマン分光装置を各反応器内、及び/又は各反応器の接続部及び/又は反応液排出部に設ける。前記第3の反応器にフィード部、排出部がさらに設けられている。前記第3の反応器に、第3の蒸留設備の塔底排出部に接続されているフィード部がさらに設けられ、排出部が第4の蒸留設備のフィード部に接続されている。
【0120】
前記第2の後処理設備は、第4の蒸留設備、抽出設備、第5の蒸留設備、第6の蒸留設備、第7の蒸留設備、第8の蒸留設備及び第9の蒸留設備である。前記第4の蒸留設備、第5の蒸留設備、第6の蒸留設備、第7の蒸留設備、第8の蒸留設備及び第9の蒸留設備は、段塔、規則充填塔、不規則充填塔及び蒸発器であってもよい(蒸発器として、例えば、流下薄膜型蒸発器、薄膜型蒸発器、フラッシュ蒸発器、スパイラル蒸発器、自己循環式蒸発器などが挙げられる)。前記抽出設備は、静的ミキサー、攪拌容器、ミキサセトラ、回転ディスク式抽出器、遠心抽出器、又は、ポンチプレート又は充填物を備えた塔など、任意の通常の液-液抽出装置であり得る。前記第4の蒸留設備、抽出設備、第5の蒸留設備、第6の蒸留設備、第7の蒸留設備、第8の蒸留設備及び第9の蒸留設備は、単段又は多段であってもよい。前記第4の蒸留設備、抽出設備、第5の蒸留設備、第6の蒸留設備、第7の蒸留設備、第8の蒸留設備及び第9の蒸留設備にフィード部、塔頂排出部及び塔底排出部が設けられている。前記第4の蒸留設備のフィード部が第3の反応器の排出部に接続され、塔頂排出部が第3の反応器フィード部及び/又は第7の蒸留設備のフィード部に接続され、塔底排出部が抽出設備のフィード部に接続されている。前記抽出設備のフィード部が第4の蒸留設備の塔底排出部に接続され、塔頂排出部が第5の蒸留設備のフィード部に接続され、塔底排出部が第6の蒸留設備のフィード部に接続されている。前記第5の蒸留設備のフィード部が抽出設備の塔頂排出部に接続され、塔頂排出部が抽出設備のフィード部に接続され、塔底排出部が第3の反応器フィード部及び/又は第7の蒸留設備のフィード部に接続されている。前記第6の蒸留設備のフィード部が抽出設備の塔底排出部に接続され、塔頂排出部が第3の反応器のフィード部に接続され、塔底排出部が第8の蒸留設備のフィード部に接続されている。前記第7の蒸留設備のフィード部が第4の蒸留設備の塔頂排出部及び/又は第6塔頂排出部に接続され、塔頂排出部が第2の反応器のフィード部に接続され、塔底排出部が第3の反応器のフィード部に接続されている。前記第8の蒸留設備のフィード部が第6の蒸留設備の排出部に接続され、塔頂排出部が第9の蒸留設備のフィード部に接続され、塔底排出部が第3の反応器に接続されており、塔底排出部に液排出部がさらに設けられている。前記第9の蒸留設備のフィード部が第8の蒸留設備の塔頂排出部に接続されている。
【0121】
好ましい生産システムを例にする(図14~16に示すとおりである)。第1の反応器は3段直列した反応器R1、R2、R3、及び、R1とR2との接続部、R2とR3との接続部、R3の排出部にそれぞれ接続されているオンラインラマン分光装置LM1、LM2、LM3である。第1の反応器に接続される第2の反応器は、2段直列した塔型反応器R4、R5、及び、R4とR5との接続部、R5の排出部にそれぞれ接続されているオンラインラマン分光装置LM4、LM5である。第2の反応器の排出部に第1の蒸留設備T1、第2の蒸留設備T2及び第3の蒸留設備T3がさらに順に接続されており、かつ、T1塔底にオンラインラマン分光装置LM6が設けられ、T2塔底にオンラインラマン分光装置LM7が設けられ、T3塔底のサイド排出部にオンラインラマン分光装置LM8が設けられている。T3の第3の反応器が3段直列した塔型反応器であるR6、R7、R8、及び、R6とR7との接続部、R7とR8との接続部、R8の排出部にそれぞれ接続されるオンラインラマン分光装置LM9、LM10、LM11が設けられている。第3の反応器の排出部に、第4の蒸留設備T4、静置層分離タンクV6、抽出設備T5、第5の蒸留設備T6、固液分離槽R9、第6の蒸留設備T7、第7の蒸留設備T8、第8の蒸留設備T9及び第9の蒸留設備T10がさらに接続されている。T4のフィード部がR8の排出部に接続され、塔頂排出部がT8のフィード部に接続され、塔底排出部がV6のフィード部に接続されており、T4の塔底排出部にオンラインラマン分光装置LM12がさらに設けられている。V6の塔頂のサイド排出部がT5フィード部に接続され、V6塔底排出部が貯蔵タンクV7に接続され、貯蔵タンクV7の排出部がR6フィード部に接続され、かつV6の塔底排出部にオンラインラマン分光装置LM13が設けられている。T5の塔頂排出部がT6のフィード部に接続され、T5塔底排出部がR9のフィード部に接続され、T5の塔底排出部にオンラインラマン分光装置LM15がさらに設けられている。T6の塔頂排出部がT5のフィード部に接続され、T6塔底排出部が貯蔵タンクV9に接続され、T6塔底排出部にオンラインラマン分光装置LM14がさらに設けられている。R9の塔頂のサイド排出部がT7のフィード部に接続され、塔底排出部がさらに設けられている。T7の塔頂排出部がT8のフィード部に接続され、塔底排出部がT9のフィード部に接続され、かつ塔底にオンラインラマン分光装置LM16が設けられている。T9の塔頂排出部がT10のフィード部に接続され、塔底排出部が貯蔵タンクV15のフィード部に接続され、かつT9の塔底にオンラインラマン分光装置LM17が設けられている。T8の塔頂排出部が貯蔵タンクV12のフィード部に接続され、T8の塔底排出部が貯蔵タンクV13のフィード部に接続され、T10の塔頂排出部が貯蔵タンクV16に接続され、T10の塔底排出部が貯蔵タンクV17のフィード部に接続され、かつT10の塔底排出部にオンラインラマン分光装置LM18がさらに設けられている。
【0122】
前記生産システムに、R1、R2、R3のフィード部に接続される貯蔵タンクV1、T2の塔頂排出部に接続される貯蔵タンクV2、T1の塔底排出部及びR1のフィード部に接続される貯蔵タンクV3、T3の塔頂排出部及びR4のフィード部に接続される貯蔵タンクV4、T4の塔頂排出部及びT8のフィード部に接続される貯蔵タンクV5、V6の塔底排出部及びR6のフィード部に接続される貯蔵タンクV7、T6の塔頂排出部及びT5フィード部に接続される貯蔵タンクV8、T6の塔底排出部に接続される貯蔵タンクV9、T7の塔頂排出部及びT8のフィード部に接続される貯蔵タンクV10、T7の塔底排出部及びT9のフィード部に接続される貯蔵タンクV11、T8の塔頂排出部に接続される貯蔵タンクV12、T8の塔底排出部に接続される貯蔵タンクV13、T9の塔頂排出部及びT10のフィード部に接続される貯蔵タンクV14、T9の塔底排出部に接続される貯蔵タンクV15のオンラインラマン分光装置LM17がさらに設けられている。
【実施例
【0123】
本発明は、下記の実施例をさらに提供して、本発明の具体的な実施形態を例示する。本発明の形態において、特に断りがない限り、上記百分率又は「%」は重量百分率又は「wt%」を表す。
【0124】
ラマンスペクトル
図1図12のオンラインラマンスペクトルによって分析及び研究を行う。本発明では、下記のラマンスペクトル情報を用いて各成分の含有量を特定する。
【0125】
1)HCN含有量は2100cm-1における特徴ピークによって決定する。
2)3PNの含有量は1675cm-1における特徴ピークによって決定する。
【0126】
3)2M3BNの含有量は1070cm-1及び1645cm-1における特徴ピークによって決定する。
【0127】
4)ADNの含有量は1045cm-1における特徴ピークによって決定する。
5)MGNとESNの含有量は1133cm-1における特徴ピークによって決定する。
【0128】
6)触媒の含有量は1587cm-1及び1610cm-1における特徴ピークによって決定する。
【0129】
7)リン配位子加水分解生成物の含有量は738cm-1及び850cm-1における特徴ピークによって決定する。
【0130】
ガスクロマトグラフィー
BDの含有量はオンラインガスクロマトグラフィーによって検出し、図13のガスクロマトグラムを介して分析及び研究を行う。
【0131】
実施例1~27は好ましい反応系(図14~16)において実施される。
実施例で用いる配位子は下記の構造式を有する。
【0132】
【化1】
【0133】
実施例1
(1)第1のヒドロシアノ化反応
反応器R1にCat1の流れ101(配位子:式I、リン配位子の合計とゼロ価ニッケルとのモル比:12:1、不純物の質量含有量:3.6%、3.5Kg/h)、BDの流れ102(1.76Kg/h)、HCNの流れ103(0.50Kg/h)を連続的に流し、攪拌槽型反応器R1に流して反応を行い、反応温度が75℃、反応圧力が2.0MPa、反応滞留時間が0.30時間であった。
【0134】
オンラインラマン分光法でR1排出流106をモニタリングし、HCN含有量が230ppmであった。流れ106を攪拌槽型反応器R2に連続的に流し、かつR2にHCNの流れ104(0.25Kg/h)を連続的に流し、反応温度が75℃、反応圧力が2.0MPa、反応滞留時間が0.30時間であった。
【0135】
オンラインラマン分光法でR2排出流107をモニタリングし、HCN含有量が160ppmであった。流れ107を攪拌槽型反応器R3に連続的に流し、かつR3にHCNの流れ105(0.10Kg/h)を連続的に流し、反応圧力が2.3MPa、反応滞留時間0.30時間であった。オンラインラマン分光法でR3排出流108をモニタリングし、残留HCNが10ppm未満であった。反応の発熱により反応液が108℃に昇温した。
【0136】
(2)異性化反応
R3排出流108を5枚の多孔板で区切られた塔型反応器R4に連続的に流し、反応温度を120℃から140℃に徐々に上昇させ、反応圧力が0.6MPaであり、反応滞留時間2.5時間であった。
【0137】
オンラインラマン分光法でR4排出流109をモニタリングし、モノニトリルに対する3PNのモル比が0.82に達した。流れ109を5枚の多孔板で区切られた塔型反応器R5に連続的に流し、反応温度を140℃から160℃に徐々に上昇させ、反応圧力が0.6MPaであり、反応滞留時間が1.5時間であった。オンラインラマン分光法でR5排出流110をモニタリングし、モノニトリルに対する3PNのモル比が0.93に達した。
【0138】
R5排出流110をフラッシュ蒸発器T1に連続的に流し、フラッシュ蒸発塔の塔底温度が135℃であり、フラッシュ蒸発の圧力が0.02MPaであるように制御した。オンラインラマン分光法でT1の塔底排出流113におけるモノニトリルの残留質量が3%であると検出した。T1塔底排出流(触媒材料)の不純物の質量含有量が3.7~4.1%と検出した。ここで、3.8~4.2%の流れ113を廃棄流れ112として反応系外に排出し、流れ113の残りの部分をR1に循環させるとともに、流れ101のフィード量を調整し、R1に流される単位時間あたりのCat1量を維持した。
【0139】
T1塔頂排出流111をフラッシュ蒸発器T2に連続的に流し、フラッシュ蒸発塔の塔底温度が90~95℃、フラッシュ蒸発の圧力が0.03MPaであるように制御した。サイド排出流は、気液分離を経て低沸点不純物を含む流れ115(反応系外に排出)及びBDが豊富な流れ114を得た。流れ114をR1に循環させるとともに、流れ102のフィード量を調整し、単位時間あたりのBD流入量を維持した。
【0140】
T2塔底排出流116をフラッシュ蒸発器T3に連続的に流し、フラッシュ蒸発塔の塔底温度が50~55℃、フラッシュ蒸発の圧力が0.03MPaであるように制御した。塔頂排出流をR4に循環させて異性化反応を行った。
【0141】
(3)第2のヒドロシアノ化反応
オンラインラマン分光法でT3塔底排出流118における2M3BNの残留質量が100ppm以下であると検出した。流れ118(3.4Kg/h)、Cat2流れ201(配位子:式I、リン配位子の合計とゼロ価ニッケルとのモル比:7:1、不純物の質量含有量:0.80%、4.2Kg/h)、促進剤(無水塩化亜鉛、0.10Kg/h)、HCN流れ203(0.50Kg/h)を塔型反応器R6に連続的に流して反応を行い、反応温度が50℃、反応圧力が0.3MPa、反応滞留時間が4.0時間であった。
【0142】
オンラインラマン分光法でR6排出流205をモニタリングし、HCN含有量が460ppmであった。流れ205を塔型反応器R7に連続的に流し、かつR7にHCNの流れ204(0.35Kg/h)を連続的に流し、反応温度が60℃、反応圧力が0.3MPa、反応滞留時間が4.0時間であった。オンラインラマン分光法でR7排出流206をモニタリングし、HCN含有量が320ppmであった。管型反応器R8によってさらに0.5時間反応させ、オンラインラマン分光法でR8排出流207におけるHCN含有量が10ppm未満と検出した。
【0143】
R8排出流207をフラッシュ蒸発器T4に連続的に流し、フラッシュ蒸発塔の塔底温度が90~95℃、フラッシュ蒸発の圧力が0.08MPaであるように制御した。T4塔頂排出流208を貯蔵タンクV5に流し、次いでフラッシュ蒸発器T8に流して処理した。
【0144】
オンラインラマン分光法でT4塔底排出流209におけるモノニトリルとジニトリルとのモル比が0.04:1であると検出した。流れ209を静置層分離タンクV6に流して静置し層分離させた。オンラインラマン分光法でV6槽底の流れであるCat2排出流210における不純物の質量含有量が0.25%と検出した。流れ210をR6に循環させるとともに、流れ201のフィード量を調整し、R6に流される単位時間あたりのCat2量を維持した。
【0145】
V6上層の排出流211(5.1Kg/h)を抽出塔T5の塔頂サイドから連続的に流し、抽出剤の流れ212を塔底サイドから連続的に流し(抽出剤:シクロヘキサン、5.0Kg/h)、抽出温度が65℃、抽出圧力が0.15MPaであるように制御した。T5塔頂サイドからの流れ214をフラッシュ蒸発器T6に連続的に流し、フラッシュ蒸発の温度が65℃、フラッシュ蒸発の圧力が0.05MPaであるように制御した。T6塔頂からの流れ216を抽出剤としてリサイクル使用し、塔底流れを貯蔵タンクV9に流して待機する。
【0146】
オンラインラマン分光法でT5塔底排出流213におけるCat2の残留質量が0.2%未満であると検出した。流れ213を固液分離槽R9に連続的に流した。R9槽底の固体触媒廃棄物を廃棄流れ217として反応系外に排出した。
【0147】
R9槽頂の排出流218を精留塔T7に連続的に流し、塔底温度が90~95℃、圧力が0.03MPaであるように制御した。T7塔頂からの流れ220及び流れ208を合流し、精留塔T8に連続的に流して処理し、塔底温度が135~140℃、圧力が0.12~0.15MPaであるように制御した。T8塔底の排出流をR6に循環させて第2のヒドロシアノ化反応を行うとともに、流れ118のフィード量を調整し、R6に流される単位時間あたりの3PN量を維持した。T8塔頂からの流れ222を系外に排出した。
【0148】
オンラインラマン分光法でT7塔底排出流219におけるモノニトリルの残留質量が0.2%未満であると検出した。流れ219をフラッシュ蒸発器T9に連続的に流し、フラッシュ蒸発の温度が180~190℃、フラッシュ蒸発の圧力が0.002MPaであるように制御した。オンラインラマン分光法でT9塔底の排出流223におけるジニトリルの残留質量が0.5%以下と検出した。流れ223を反応系外に排出した。
【0149】
T9塔頂からの流れ224を精留塔T10に連続的に流し、塔底温度が150~160℃、フラッシュ蒸発の圧力が0.01MPaであるように制御した。T10塔頂からの流れ226を反応系外に排出した。オンラインラマン分光法でT10塔底の排出流225におけるMGNの残留質量が100ppm未満であると検出し、製品ADNを得た。純度は99.7%以上であり、歩留まりは2.7Kg/hであった。
【0150】
実施例2~6
実施例1に示す方法に従って、同じ反応条件で連続的に作業した結果は下記のとおりである。
【0151】
【表1】
【0152】
*上記Cat1、Cat2の損失率データは、単位時間(h)の平均損失率である。
実施例7~12
実施例1に記載の第1のヒドロシアノ化方法のように、第1のヒドロシアノ化反応の各原料のフィード量及び反応条件を変更した。得られた結果は、表1に示すとおりである。
【0153】
【表2】
【0154】
*上記101はCat1のフィード流、102はBDのフィード流、103はR1に流されるHCNのフィード流、104はR2に流されるHCNのフィード流、105はR3に流されるHCNのフィード流をそれぞれ指す。Cat1損失率は、50時間連続的に反応した後、単位時間(h)あたりのCat1の平均損失率を指す。
【0155】
実施例13~18
実施例1に記載の第2のヒドロシアノ化方法のように、第2のヒドロシアノ化反応の各原料のフィード量及び反応条件を変更した。得られた結果は、表2に示すとおりである。
【0156】
【表3】
【0157】
*上記118は3PNが豊富なフィード流、201はCat2のフィード流、202は促進剤のフィード流、203はR6に流されるHCNのフィード流、204はR7に流されるHCNのフィード流をそれぞれ指す。Cat2損失率は50時間連続的に反応した後、単位時間(h)あたりのCat2の平均損失率を指す。
【0158】
実施例19~27
Cat1、Cat2、ルイス酸の種類を変更した以外に、実施例1と同様にして50時間連続的に作業した。得られた結果は表3に示すとおりである。
【0159】
【表4】
【0160】
*上記Cat1、Cat2損失率データは、単位時間(h)あたりの平均損失率である。表における配合割合は、触媒におけるリン配位子の合計とゼロ価Niとのモル比を指す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16