(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】軸受密封装置
(51)【国際特許分類】
F16C 33/80 20060101AFI20240112BHJP
F16C 33/78 20060101ALI20240112BHJP
F16C 19/18 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
F16C33/80
F16C33/78 Z
F16C19/18
(21)【出願番号】P 2019049390
(22)【出願日】2019-03-18
【審査請求日】2022-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000225359
【氏名又は名称】内山工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002686
【氏名又は名称】協明国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】張 順平
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/110626(WO,A1)
【文献】特開2019-019865(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/78-33/80
F16C 19/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪とフランジ付の内輪とを有する軸受装置に装着され、前記内輪に嵌合されるスリンガ部材と、前記外輪に嵌合されるシール部材とを備えた軸受密封装置であって、
前記スリンガ部材は、前記内輪の外径面に嵌合されるスリンガ円筒部と、該スリンガ円筒部の一端部から前記フランジに沿って外径側に延びるスリンガ鍔部と、前記スリンガ鍔部の外径側の端部から前記内輪の前記フランジに段差状に形成された段差部と径方向に重なるように突出するスリンガ外径円筒部とを備え、
前記シール部材は、前記外輪に嵌合される芯材と、該芯材に固着された弾性部材からなり、前記スリンガ部材に接触または近接するシールリップ部を有するシールリップ部材とを備え、
前記シール部材の外径側の端部には、前記スリンガ外径円筒部の外周面と対向する面を有するとともに前記段差部で径方向に重なるように突出するシール外径円筒部が設けられ、
前記シール外径円筒部の突出先端部は、前記スリンガ外径円筒部の突出先端部よりも前記段差部側に突出して、前記段差部との間にラビリンス隙間である第1の隙間を形成しており、
前記シール外径円筒部の厚さは、前記スリンガ外径円筒部の厚さの2~3倍であり、
前記シール外径円筒部の外周面は、前記外輪の外周面よりも外径側に突出して配置されることを特徴とする軸受密封装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記シール外径円筒部は、前記突出先端部から外径側に突出して形成された堰部を備えていることを特徴とする
軸受密封装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記スリンガ外径円筒部の前記突出先端部と前記段差部との間に形成される第2の隙間より、
前記第1の隙間が小さいことを特徴とする軸受密封装置。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか1項において、
前記スリンガ外径円筒部の前記突出先端部と前記段差部との間に形成される第2の隙間より、
前記スリンガ外径円筒部と前記シール外径円筒部との径方向の隙間が小さいことを特徴とする軸受密封装置。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか1項において、
前記シール外径円筒部は、少なくとも前記弾性部材もしくは前記芯材のいずれか一方で構成されていることを特徴とする軸受密封装置
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定側部材と、固定側部材に対して回転する回転側部材との間を密封する軸受密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車輪支持部の軸受装置として用いられるハブベアリングとしては、車体に固定される外輪に対して、車輪が取付けられるフランジ付の内輪が軸回転可能に支持されるよう構成されたものが知られている。そして、このように構成された外輪と内輪との軸L方向の端部には、軸受空間への泥水、塵埃等の浸入を防止するため、軸受密封装置が装着される。このような軸受密封装置が開示されている文献としては、例えば、特許文献1が挙げられる。
【0003】
特許文献1に開示されている軸受密封装置は、スリンガの外径側の端部に、フランジに形成された凹状に湾曲する側面との間に広い空間(特許文献1・
図3の空間S参照)が形成されるように傾斜部を備えている(特許文献1・第1の傾斜部44参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この特許文献1に開示されているものの場合、スリンガの外径側の先端部がフランジに形成された凹部に突出するように延びておらず、スリンガの先端部とフランジとの間隔が広く、ラビリンスシール機能が十分とはいい難い。また特許文献1に開示されているものの場合、この広い空間Sが泥水等を逃がして排出するための流路としているため、内輪のフランジとスリンガとの嵌合面の間に泥水等が浸入してしまう。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、泥水等の浸入を防ぎ、長寿命化を図ることができる軸受密封装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る軸受密封装置は、外輪とフランジ付の内輪とを有する軸受装置に装着され、前記内輪に嵌合されるスリンガ部材と、前記外輪に嵌合されるシール部材とを備えた軸受密封装置であって、前記スリンガ部材は、前記内輪の外径面に嵌合されるスリンガ円筒部と、該スリンガ円筒部の一端部から前記フランジに沿って外径側に延びるスリンガ鍔部と、前記スリンガ鍔部の外径側の端部から前記内輪の前記フランジに段差状に形成された段差部と径方向に重なるように突出するスリンガ外径円筒部とを備え、前記シール部材は、前記外輪に嵌合される芯材と、該芯材に固着された弾性部材からなり、前記スリンガ部材に接触または近接するシールリップ部を有するシールリップ部材とを備え、前記シール部材の外径側の端部には、前記スリンガ外径円筒部の外周面と対向する面を有するとともに前記段差部で径方向に重なるように突出するシール外径円筒部が設けられ、前記シール外径円筒部の突出先端部は、前記スリンガ外径円筒部の突出先端部よりも前記段差部側に突出して、前記段差部との間にラビリンス隙間である第1の隙間を形成しており、前記シール外径円筒部の厚さは、前記スリンガ外径円筒部の厚さの2~3倍であり、前記シール外径円筒部の外周面は、前記外輪の外周面よりも外径側に突出して配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る軸受密封装置は、上述の構成としたことで、シール部材のシール外径円筒部の突出先端部をスリンガ外径円筒部の突出先端部よりもフランジに形成された段差部側に突出させているので、これらが径方向にオーバーラップして配置される。これにより、最も外径側に位置する開口部がシール外径円筒部でガードされることになり、外部からの泥水等の浸入抑制効果を向上させることができる。また内輪のフランジとスリンガとの嵌合面がシール外径円筒部及びスリンガ外径円筒部の2重に覆われた構造なるので、該嵌合面間のシール機能も向上し、軸受密封装置の長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る軸受密封装置が適用される軸受装置の一例を示す概略的縦断面図である。
【
図2】(a)は、
図1のA部の拡大図であって、本発明の第1実施形態に係る軸受密封装置を模式的に示す概略断面図、(b)は、同実施形態の変形例を示す(a)と同様図である。
【
図3】本発明の第2実施形態に係る軸受密封装置を模式的に示す概略断面図である。
【
図4】本発明の第3実施形態に係る軸受密封装置を模式的に示す概略断面図である。
【
図5】本発明の第4実施形態に係る軸受密封装置を模式的に示す概略断面図である。
【
図6】本発明の第5実施形態に係る軸受密封装置を模式的に示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。なお、一部の図では、他図に付している詳細な符号の一部を省略している。
本実施形態に係る軸受密封装置8は、外輪2とフランジ32付の内輪5とを有する軸受装置1に装着され、内輪5に嵌合されるスリンガ部材9と、外輪2に嵌合されるシール部材10とを備えている。スリンガ部材9は、内輪5の外径面30aに嵌合されるスリンガ円筒部90と、スリンガ円筒部90の一端部90aからフランジ32に沿って外径側に延びるスリンガ鍔部91と、スリンガ鍔部91の外径側の端部91aから内輪5のフランジ32に段差状に形成された段差部32bと径方向に重なるように(径方向から見て重なるように)突出するスリンガ外径円筒部92とを備えている。シール部材10は、外輪2に嵌合される芯材11と、芯材11に固着された弾性部材からなり、スリンガ部材9に接触または近接するシールリップ部121,122,123を有するシールリップ部材12とを備えている。シール部材10の外径側の端部には、スリンガ外径円筒部92の外周面92aと対向する面13aを有するとともに段差部32bで径方向に重なるように突出するシール外径円筒部13が設けられている。シール外径円筒部13の突出先端部13bは、スリンガ外径円筒部92の突出先端部92bよりも段差部32b側に突出している。以下、詳しく説明する。
【0011】
<第1実施形態>
第1実施形態について、
図1、
図2(a)を参照しながら説明する。
図1は、自動車の車輪(不図示)を軸回転可能に支持する軸受装置(機械装置)1を示す。この軸受装置1は、大略的に、外側部材としての外輪2と、ハブ輪3と、ハブ輪3の車体側に嵌合一体とされる内輪部材4と、外輪2とハブ輪3及び内輪部材4との間に介装される2列の転動体(ボール)6…とを含んで構成される。この例では、ハブ輪3及び内輪部材4が内側部材としての内輪5を構成する。外輪2は、自動車の車体(不図示)に固定される。また、ハブ輪3にはドライブシャフト(不図示)が同軸的にスプライン嵌合される。内輪5(ハブ輪3及び内輪部材4)は、外輪2に対して、軸L回りに回転可能とされる。外輪2及び内輪5は、相対的に同軸回転する2部材として構成され、該2部材間に環状の軸受空間Sが形成される。軸受空間S内には、2列の転動体6…が、リテーナ6aに保持された状態で、外輪2の軌道輪2a、ハブ輪3及び内輪部材4の軌道輪3a,4aを転動可能に介装されている。ハブ輪3は、円筒状のハブ輪本体30と、ハブ輪本体30より立上基部31を介して径方向外側に連続して拡径するよう形成されたフランジ(ハブフランジ)32を有し、フランジ32にボルト33及び不図示のナットによって車輪が取付固定される。図例のフランジ32は、立上基部31に連続する立上部32aと、この立上部32aの外径側から連続して段差状に(軸Lに沿って軸受空間Sから離れるように)形成された段差部32bとを有している。
本明細書において、軸L方向に沿って車輪に向く側(
図1において右側を向く側)を車輪側、車体に向く側(同左側を向く側)を車体側と言う。
【0012】
図2(a)の第1実施形態に係る軸受密封装置8は、外輪2と内輪5を構成するハブ輪3及び内輪部材4のうち、車輪側のハブ輪3のハブ輪本体30との間の端部(
図1・A部)に装着される軸受密封装置8Aである。軸受密封装置8Aによって、軸受空間Sが密封され、軸受空間S内への泥水等の浸入や軸受空間S内に充填される潤滑剤(グリース等)の外部への漏出が防止される。
【0013】
スリンガ部材9は、SPCC又はSUS等の鋼板をプレス加工して形成され、内輪であるハブ輪本体30の外径面30aに嵌合されるスリンガ円筒部90と、スリンガ円筒部90の一端部90aから、立上基部31の凹曲面31aに離間して車輪側に湾曲し、フランジ32の立上部32aに沿って形成されるスリンガ鍔部91と、スリンガ鍔部91の外径側の端部91aから段差部32bと径方向に重なるように軸Lに略平行に突出するように形成されているスリンガ外径円筒部92とを有する。
【0014】
シール部材10は、芯材11とシールリップ部材12とを備えている。芯材11は、SPCC等の鋼板をプレス加工して形成され、外輪2の内周面2dに嵌合する芯材円筒部110と、芯材円筒部110の車体側の端部110aから車体側に湾曲形状に突出するように形成された突出部111と、突出部111の内径側の端部111aから内径側に延びて形成された内径側円板部112と、芯材円筒部110の車輪側の端部110bから外径側に延出して形成された外径側円板部113とを有している。外径側円板部113は、後記する弾性部材からなるシールリップ部材12で覆われており、外径側円板部113はシールリップ部材12を介して外輪2の車輪側端面2cに当接している。
【0015】
シールリップ部材12は、弾性部材からなり、芯材11に固着一体に形成されており、シールリップ基部120と、シールリップ基部120から延出して形成されたシールリップ部121,122,123とを備える。シールリップ基部120は、芯材11の内径側円板部112の端部112bにおける車体側の面112aの一部を回り込んで配されるとともに、車輪側の面112c、突出部111の車輪側の面111b及び芯材円筒部110の内径側の面110c、さらに外径側円板部113の車輪側の面113aの全面を覆うように配される。そしてさらにシールリップ基部120は、外径側円板部113の外径側の端部113bを回り込むようにして車体側の面113cの全面も覆うように配される。このようにシールリップ基部120は、外径側円板部113の外径側の端部113bを回り込んで車体側の面113cの全面を覆い、その部分は、外輪2の車輪側端面2cに当接し外径側円板部113と車輪側端面2cとの間に弾性部材が介在するので、泥水等が外輪2と芯材11の外径側円板部113との間の侵入することを抑制することができる。
【0016】
シールリップ部121,122はアキシャル方向に配されたサイドリップであり、シールリップ基部120から車輪側に延出してスリンガ部材9に接触するように形成されている。具体的には、シールリップ部121は、3つのシールリップ部121,122,123のうち、最も外径側に設けられ、スリンガ鍔部91のストレート部位に摺接するように配されている。シールリップ部122は、3つのシールリップ部121,122,123のうち、中間位置に形成され、スリンガ鍔部91の湾曲部位に摺接するように配されている。これらシールリップ部121,122の先端部121a,122aは外部空間側を向くように形成されている。シールリップ部123は、3つのシールリップ部121,122,123のうち、最も内径側に設けられるラジアルリップであり、シールリップ基部120から内径側に延出してスリンガ円筒部90に摺接するように形成されている。シールリップ部123は、その先端部123aが軸受空間S側を向くように形成されている。以上のように構成されたシールリップ部121,122により、外部空間から浸入してきた泥水等が軸受空間Sに浸入することを抑制する。また、シールリップ部123により、軸受空間Sのグリース等の潤滑剤が軸受密封装置8A内に浸入することを抑制する。
【0017】
シール部材10の外径側の端部には、シール外径円筒部13が設けられており、本実施形態におけるシール外径円筒部13は、芯材11が配されていないため、弾性部材のみで形成されている。具体的には、
図2(a)に示すシール外径円筒部13は、シールリップ基部120の外径側の端部120aから段差部32bと径方向に重なるように突出して、スリンガ外径円筒部92と略平行且つ径方向に重なるように形成されており、スリンガ外径円筒部92の外周面92aと対向する面13aを有している。そしてシール外径円筒部13の突出先端部13bは、スリンガ外径円筒部92の突出先端部92bよりも段差部32b側に突出するように形成されており、段差部32bに近接して配置される。よって、シール外径円筒部13の突出先端部13bをスリンガ外径円筒部92の突出先端部92bよりも段差部32b側に近接するように突出させているので、これらが径方向にオーバーラップして配置され、スリンガ9の最も外径側に位置する開口部分(後記する「第2の隙間R2」に相当)がシール外径円筒部13でガードされることになり、外部からの泥水等の浸入抑制効果を向上させることができる。またフランジ32とスリンガ部材9との嵌合面、具体的には立上部32aとスリンガ鍔部91との当接面がシール外径円筒部13及びスリンガ外径円筒部92の2重に覆われた構造となるので、該当接面間のシール機能も向上し、軸受密封装置8Aの長寿命化を図ることができる。
【0018】
ここで、本実施形態に係るシール外径円筒部13の厚さt1は、
図2(a)に示すようにスリンガ外径円筒部92の厚さt2よりも厚く形成されている。本実施形態ではシール外径円筒部13が弾性部材で構成されているので、厚みが異なる構成を実現しやすく、この場合、スリンガ円筒部90よりも外方空間側に配置されるシール外径円筒部13でしっかりと泥水等の浸入をガードできる。またスリンガ外径円筒部92よりも外方空間側に配置されるシール外径円筒部13の剛性が向上し、外部からの泥水等の浸入の抑制効果を向上させることができる。また、
図2(a)に示す例では、シール外径円筒部13の厚さt1が厚く形成されるので、シール外径円筒部13の外径面13dが外輪2の外周面2bよりも外径側に若干突出して配置される。これにより、シールリップ部材12の外輪2より外径側に突出している外径面13dは、外輪2に付着した泥水等が外周面2bを伝って軸受密封装置8A内に浸入するのをせき止める堰として機能する。
【0019】
また本実施形態では、スリンガ外径円筒部92の突出先端部92bと段差部32bとの間に形成される第2の隙間R2の軸L方向の幅寸法Yより、シール外径円筒部13の突出先端部13bと段差部32bとの間の形成される第1の隙間R1の軸L方向の幅寸法Xの方が小さくなるようにスリンガ部材9及びシール部材10が設けられている。そのため、泥水等の浸入口が狭くなるので、より一層しっかりと泥水等の浸入をガードできる。また、スリンガ外径円筒部92は、その外径方向がシール外径円筒部13により覆われ、且つ、シール外径円筒部13の突出先端部13bがスリンガ外径円筒部92の突出先端部92bより段差部32b側に突出するような構成となっている。そのため、たとえ、第1の隙間R1から泥水等が浸入しても、泥水等は、スリンガ外径円筒部92に接触しにくくなっており、スリンガ外径円筒部92の外周面92aと、シール外径円筒部13のスリンガ外径円筒部92の外周面92aと対向する面13a(シール外径円筒部13の内周面)との間に形成された径方向の隙間R3に泥水等が浸入(到達)することを抑制している。また、第1の隙間R1の軸L方向の幅寸法Xより、径方向の隙間R3の径方向の幅寸法Zの方が小さく形成されている。よって、より一層泥水等の浸入しにくいラビリンスを形成できる。以上のように上述の構成により、最も外径側に設けられた泥水等の浸入口となる第1の隙間R1が狭く構成され、ここを通過しても、段差部32bによって形成される空間S1に泥水等が誘導され、鉛直方向下方側より段差部32bを伝って外部空間へ排出される。
【0020】
<第1実施形態の変形例>
次に第1実施形態の変形例について、
図2(b)を参照して説明する。なお、第1実施形態と共通する部分には、可能な限り同一の符号を付し、その構成及び作用・効果等の説明は省略する。
【0021】
図2(b)の第1実施形態の変形例である軸受密封装置8A’は、第1実施形態の軸受密封装置8Aとは、シール部材10の構成が異なる。具体的には、芯材11の外径側円板部113と外輪2の車輪側端面2cとの間に弾性部材(シールリップ部材12)を介さず、外径側円板部113が車輪側端面2cに直接接した構成となっている。すなわち、外径側円板部113が、芯材11の芯材円筒部110の車輪側の端部110bから外輪2の車輪側端面2cに沿って外径側に延びて形成されている。また、外径側円板部113の外径側の端部113bには、車体側の面113c側に切り欠いた凹所113baが形成されている。そして、シールリップ部材12のシールリップ基部120が、外径側円板部113の外径側の端部113bを回り込んで、凹所113baに至り、シールリップ基部120の凹所113baに至る部分には、車輪側端面2cに弾接するように形成された隆起した環状突部125が形成されている。よって、環状突部125は、芯材11が外輪2に内嵌された際、外輪2の車輪側端面2cと芯材11の外径側円板部113の凹所113baとの間に圧縮状態で介在する。そしてこの環状突部125により、外輪2の車輪側端面2cと芯材11との嵌合部位へ泥水等が浸入することを防止できる。なお、図中、環状突部125の2点鎖線部は圧縮前の原形状を示している。
この他のシール外径円筒部13やスリンガ外径円筒部92等の構成は、第1実施形態と同様である。
【0022】
<第2実施形態>
次に第2実施形態について、
図3を参照して説明する。なお、第1実施形態と共通する部分には、可能な限り同一の符号を付し、その構成及び作用・効果等の説明は省略する。
【0023】
第2実施形態に係る軸受密封装置8Bは、シール外径円筒部13の突出先端部13bから外径側に突出して形成された堰部13cを有している点で第1実施形態に係る軸受密封装置8Aと異なる。
図3に示すようにシール外径円筒部13の端部に、シール外径円筒部13の突出先端部13bから外径側に突出して形成された堰部13cを備えているので、シール外径円筒部13は、スリンガ外径円筒部92より、より一層厚く形成され、シールリップ部材12の外径側の端部120aが、外輪2の外周面2bよりもさらに外径側に配置される。これにより、外輪2の外周面2bからアタックする泥水等が外周面2bを伝って軸受密封装置8B内に浸入するのをせき止めることができる。また第1の隙間R1の径方向の長さが第1実施形態の例と比べて長くなるので、ラビリンス効果が高くなり、泥水等の浸入抑制効果が向上する
。
この他のシール外径円筒部13やスリンガ外径円筒部92等の構成は、第1実施形態と同様である。
【0024】
<第3実施形態>
次に第3実施形態について、
図4を参照して説明する。なお、第1実施形態と共通する部分には、可能な限り同一の符号を付し、その構成及び作用・効果等の説明は省略する。
【0025】
第3実施形態に係る軸受密封装置8Cは、第1実施形態に係る軸受密封装置8Aとは、シール外径円筒部13が芯材11と弾性部材とで構成されている点で異なる。言い換えると、第1実施形態に係る軸受密封装置8A,8A’及び第2実施形態に係る軸受密封装置8Bは、シール外径円筒部13が弾性部材のみで構成されている例について説明したが、この軸受密封装置8Cは、弾性部材を支持する芯材11が配されている。芯材11は、上述した芯材円筒部110、突出部111、内径側円板部112及び外径側円板部113に加えて、外径側円板部113の外径側の端部113bから段差部32bと径方向に重なるように突出する第2芯材円筒部114を備えている。この第2芯材円筒部114は、スリンガ外径円筒部92と略平行且つ径方向に重なるように形成されている。
図4に示す例では、その端部114bが、スリンガ外径円筒部92の突出先端部92bの位置よりも車体側よりに形成された例を示しているが、略同一の位置としてもよいし、突出先端部92bの位置よりフランジ32側に突出して配されていてもよい。
【0026】
シールリップ部材12のシールリップ基部120は、第2芯材円筒部114の内周面114aの全面を覆い、車輪側の端部114bを回り込んで外周面114cの全面を覆い、外径側円板部113の外径側の端部113bを回り込んで車体側の面113cに至るように配されている。シールリップ基部120の車体側の面113cに至る部分には、車体側に隆起する環状突部125が形成され、
図2(b)に示す例よりも径方向に長く形成されている。
【0027】
本実施形態によれば、シール外径円筒部13が芯材11の第2芯材円筒部114と、この第2芯材円筒部114を覆う部分の弾性材料とにより構成され、芯材11の第2芯材円筒部114が、シール外径円筒部13の芯となるので、第1実施形態と比べて、シール外径円筒部13の剛性が高くすることができる。
【0028】
<第4実施形態>
次に、第4実施形態について、
図5を参照して説明する。なお、第1実施形態と共通する部分には、可能な限り同一の符号を付し、その構成及び作用・効果等の説明は省略する。
【0029】
第4実施形態の軸受密封装置8Dは、第1実施形態とはシール外径円筒部13が芯材11で構成されている点で異なる。よって、芯材11の外径側円板部113は、芯材円筒部110の車輪側の端部110bから外輪2の車輪側端面2cに沿って外径側に延び、その端部113bから段差部32bと径方向に重なるように突出するシール外径円筒部13が、スリンガ外径円筒部92と略平行且つ径方向に重なるように形成される。シール外径円筒部13の突出先端部13bは、スリンガ外径円筒部92の突出先端部92bよりも段差部32b側に突出するようになっている。この実施形態においても、第1の隙間R1の軸L方向の幅寸法X、第2の隙間R2の軸L方向の幅寸法Y、径方向の隙間R3の径方向の幅寸法Zは、第1実施形態と同様とすることができる。シールリップ部材12は、外径側円板部113の車輪側の面113aの一部を覆うように配されている点で第1実施形態と異なるが、その他のシールリップ基部120、シールリップ部121,122,123の構成は、第1実施形態と同様である。
【0030】
<第5実施形態>
次に第5実施形態について、
図6を参照して説明する。なお、第1実施形態と共通する部分には、可能な限り同一の符号を付し、その構成及び作用・効果等の説明は省略する。
【0031】
第5実施形態の軸受密封装置8Eは、シール外径円筒部13が、弾性材料のみでなり、スリンガ外径円筒部92の外周面92aと対向する面13aを有している点は第1実施形態と同様であるが、その他、以下の点で異なる。
スリンガ部材9は、内輪であるハブ輪本体30の外径面30aに嵌合されるスリンガ円筒部90と、スリンガ円筒部90の一端部90aから立上基部31の凹曲面31aに離間して車輪側に上がり傾斜する傾斜部93と、フランジ32の立上部32aに沿って形成されるスリンガ鍔部91と、スリンガ鍔部91の外径側の端部91aから段差部32bと径方向に重なるように軸Lに略平行に突出するように形成されているスリンガ外径円筒部92とを備えている。すなわち、第1実施形態等に示しているスリンガ部材9とは、凹曲面31aに沿わずに傾斜して形成された傾斜部93を備えている点で異なる。またスリンガ鍔部91は、第1実施形態と比べて外径側に長く延びて形成されている。そのため、スリンガ外径円筒部92は、外輪2の外周面2bよりも外径側に配置されている。
【0032】
芯材11は、外輪2の内周面2dでなく、外周面2bに嵌合される芯材円筒部110と、芯材円筒部110の車輪側の端部110bから外輪2の車輪側端面2cに沿って形成される外径側円板部113と、外径側円板部113の内径側の端部113eから軸受空間S側に傾斜して形成される突出部111と、突出部111の内径側の端部111aから内径側に延びて形成される内径側円板部112とを有する。
【0033】
シールリップ基部120は、芯材11の内径側円板部112の車体側の面112aの内径側の一部から内径側の端部112bを回り込んで車輪側の面112cの全面を覆い、突出部111の車輪側の面111bと、外径側円板部113の車輪側の面113aと、芯材円筒部110の外径側の面110dと車体側の端部110aとの全面を覆う。シールリップ基部120の芯材円筒部110の車輪側の端部110bを覆う部分から、車輪側に上がり傾斜したその端部にシール外径円筒部13が設けられており、その厚みt1は、スリンガ外径円筒部92の厚さt2よりも厚く形成されている。
【0034】
シールリップ部121はサイドリップであり、シールリップ基部120から車輪側に延出してスリンガ部材9のスリンガ鍔部91に摺接するように形成されている。またこの実施形態におけるシールリップ部122,123はラジアルリップとされ、シールリップ部122の先端部122aは立上基部31側に向くように形成され、シールリップ部123の先端部123aは、軸受空間S側を向くように形成されている。
【0035】
以上のようにスリンガ部材9、芯材11、シールリップ部材12の構成が異なる場合でも、シール外径円筒部13及びスリンガ外径円筒部92を上述のように構成すれば、第1実施形態と同様の効果を奏するものとすることができる。
【0036】
なお、上述した各実施形態に係る軸受密封装置8,8A~8Eは、図例の形状・構成に限定されるものではない。例えばシールリップ部121,122,123は、スリンガ部材9に摺接する構成となっているが、複数設けられたシールリップ部のいずれかが、スリンガ部材9に摺接せず、近接する構成であってもよいし、芯材11に設けられた突出部111(
図2(a)等参照)がないものであってもよい。また
図2(a)、
図2(b)、
図3及び
図6に示すようなシール外径円筒部13を芯材11のみ、もしくは芯材11と弾性部材とで構成してもよいし、このとき、芯材11を折り曲げ形成してシール外径円筒部13を構成してもよい。さらに
図5に示す芯材11で構成されたシール外径円筒部13の端部を折り曲げて
図3に示す堰部13cに相当するものを形成してもよい。またフランジ32に形成された段差部32bの形成位置や外輪2の配置等も図例に限定されるものではない。さらに軸受密封装置8,8A~8Eを構成する各部材の材質も、上記したものに限定されることはなく、適宜選択される。そしてシール外径円筒部13の厚さt1と、スリンガ外径円筒部92の厚さt2の関係についても、図例に限定されず、t1=2×t2~3×t2の間で設定されることが望ましい。よって、
図5では、ほぼ同じ厚みの例を例示しているが、この場合も、芯材11の厚みをスリンガ部材9より厚くするため、芯材11を形成する鋼板をスリンガ部材9のものより厚いものを選択し、プレス加工するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0037】
1 軸受装置
2 外輪
3 ハブ輪
30 ハブ輪本体
30a 外径面
32 フランジ
32b 段差部
5 内輪
8,8A~8E 軸受密封装置
9 スリンガ部材
90 スリンガ円筒部
90a 一端部
91 スリンガ鍔部
91a 外径側の端部
92 スリンガ外径円筒部
92a 外周面
92b 突出先端部
10 シール部材
11 芯材
12 シールリップ部材
121,122,123 シールリップ部
13 シール外径円筒部
13a 対向する面
13b 突出先端部