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特許7417990コークス炉ガス流通路への汚れの付着堆積抑制方法
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  • 特許-コークス炉ガス流通路への汚れの付着堆積抑制方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】コークス炉ガス流通路への汚れの付着堆積抑制方法
(51)【国際特許分類】
   C10B 43/14 20060101AFI20240112BHJP
   C10B 27/00 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
C10B43/14
C10B27/00 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019225631
(22)【出願日】2019-12-13
(65)【公開番号】P2021095454
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000154727
【氏名又は名称】株式会社片山化学工業研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【弁理士】
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】藤井 貴之
(72)【発明者】
【氏名】太田 文清
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-137292(JP,A)
【文献】特開平07-150192(JP,A)
【文献】特表2001-527587(JP,A)
【文献】特開2018-066021(JP,A)
【文献】特開昭57-159879(JP,A)
【文献】特開2021-001293(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10B 27/00
C10B 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コークス炉ガス流通路におけるコークス炉ガスの流通時に、そのコークス炉ガス流通路内のコークス炉ガス中の汚れ成分が付着堆積し易いポイントの上流から、一般式(I):
1-O-(EO)w(PO)x(BO)y(PEO)z-R2 (I)
(式中、R1は、水素原子、フェニル基、直鎖状もしくは分岐鎖状の炭素数1~18の非環式飽和もしくは非環式不飽和炭化水素基であり、R2は、水素原子、直鎖状もしくは分岐鎖状の炭素数1~4の非環式飽和もしくは非環式不飽和炭化水素基であり、但し、R1およびR2は同時に水素原子ではなく、EO、PO、BOおよびPEOは、それぞれエチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドおよびペンテンオキシドを表し、指数w、x、yおよびzは、それぞれ式:1≦(w+x+y+z)≦20を満足する整数であり、これらのオキシドはブロック状に付加していてもランダム状に付加していてもよい)
で表される化合物の少なくとも1種を含む汚れ防止剤(但し、環式不飽和炭化水素および/または芳香族炭化水素を含む汚れ防止剤は除く)を噴霧し、
前記汚れ成分が付着堆積し易いポイントまたはその下流から、前記汚れ成分を前記汚れ防止剤と共に排出する
ことを特徴とするコークス炉ガス流通路への汚れの付着堆積抑制方法。
【請求項2】
前記汚れ防止剤が、ミスト粒径10~1000μmで噴霧される請求項1に記載のコークス炉ガス流通路への汚れの付着堆積抑制方法。
【請求項3】
前記汚れ成分が付着堆積し易いポイントが、エルボの屈曲部、チーズの屈曲部、ブロワー内部、ストレーナー、流量計のオリフィス部または垂直配管の下部である請求項1または2に記載のコークス炉ガス流通路への汚れの付着堆積抑制方法。
【請求項4】
前記一般式(I)で表される化合物が、1000未満の質量平均分子量を有する請求項1~3のいずれか1つに記載のコークス炉ガス流通路への汚れの付着堆積抑制方法。
【請求項5】
前記一般式(I)で表される化合物が、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、フェノキシエタノール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンジメチルエーテル、ポリオキシエチレン-2-エチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンイソデシルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンメチルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテルおよびポリオキシエチレンイソデシルエーテルからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1~4のいずれか1つに記載のコークス炉ガス流通路への汚れの付着堆積抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークス炉ガス流通路への汚れの付着堆積抑制方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、石炭や石油を原料として生成するコークス炉ガス(「Cガス」または「COG」ともいう)を移送および処理する装置において、装置の運転を停止することなしに、コークス炉ガス中の汚れ成分がコークス炉ガス流通路に付着堆積することを抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コークス炉ガスの分離精製プラントでは、プラント運転に伴い、コークス炉ガス中の汚れ成分が熱交換器の伝熱面や配管などのコークス炉ガス流通路内に付着堆積し、コークス炉ガス流通路内を閉塞させるために、ガス流量を確保できなくなるという問題があった。
【0003】
例えば、コークス炉で石炭を蒸した際に発生するコークス炉ガスは、水素、一酸化酸素、メタンを含み、精製後に燃料として利用されている。しかしながら、コークス炉ガスには、例えば、石炭由来のタール分(多環芳香族化合物の重合物)、ナフタレンおよびその誘導体、硫黄化合物、硫酸アンモニウム、硫化鉄やフェロシアン錯体が含まれ、これらが汚れ成分となり、コークス炉ガス流通路内に付着堆積して、閉塞などのトラブルを発生させる。
【0004】
コークス炉ガス流通路に閉塞が発生し、ガス流量を確保できなくなれば、該当装置またはそれを含む周辺の設備の運転を停止せざるを得なくなる。
そこで、装置または設備の運転を停止した上で、加温やスチームパージ、機械洗浄などの手段により、閉塞原因の汚れを取り除くことが行われてきた。
スチームパージでは、加温により軟化もしくは昇華する汚れ成分を取り除くことができても、炭化が進行したタール汚れなどの除去困難な汚れ成分が系内に残り、スチームパージを繰り返しても、最終的には洗浄では汚れを取り除けなくなる事態が発生していた。
【0005】
例えば、次のような先行技術がある。
特開2015-137292号公報(特許文献1)には、コークス炉ガス流通路におけるコークス炉ガスの流通時に、そのコークス炉ガス流通路内のコークス炉ガス中の汚れ成分が付着堆積し易いポイントの上流から、環状不飽和炭化水素および/または芳香族炭化水素を含む汚れ防止剤を噴霧し、汚れ成分が付着堆積し易いポイントまたはその下流から、汚れ成分を汚れ防止剤と共に排出することを特徴とするコークス炉ガス流通路への汚れの付着堆積抑制方法が記載されている。
【0006】
また、特開2016-79258号公報(特許文献2)には、コークス炉ガス精製に使用するスクラバー水に添加して、スクラバー水が接する部分におけるタール汚れを抑制するための、水溶性の非イオン界面活性剤及びアニオン界面活性剤からなる群から選択される少なくとも1つの界面活性剤を含む組成物が記載されている。
【0007】
さらに、特開昭57-49699号公報(特許文献3)には、木炭、石炭およびピッチ類を乾留して得られる乾留ガスの精製プロセスにおいて使用される装置および部品に付着蓄積したタール状物質の洗浄に使用される、A成分:炭素数8~20の鎖状第2級アルコールの1種または2種以上の混合物に酸化エチレンを3~20モル付加して得られた非イオン系界面活性剤のうちの少なくとも1種、およびB成分:アルカリ金属の硫酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、オルトケイ酸塩、メタケイ酸塩、ケイ酸塩、トリポリリン酸塩、ピロリン酸塩および炭素数3~4を有する不飽和カルボン酸のホモポリマーないしコポリマーで平均分子量300~15,000の塩よりなる群から選ばれた少なくとも1種を含有するタール状物質洗浄用組成物が記載されている。
また、特公昭49-20041号公報(特許文献4)には、コークス炉タールデカンター内で生成する中間生成物に界面活性剤を100~2000ppmの割合で加え、温度を40~80℃の範囲内に保って充分撹拌し、然る後静置槽内で水とタールに分離する、タールデカンターにおける中間生成物の精製方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2015-137292号公報
【文献】特開2016-79258号公報
【文献】特開昭57-49699号公報
【文献】特公昭49-20041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の先行技術のように、ある種の界面活性剤や芳香族炭化水素、有機溶剤でタール汚れを洗浄することは公知であり、一般的に実施されている。
特許文献3および4のように、汚れが付着堆積した部材を取り外して洗浄するか、もしくは汚れが付着堆積した部材を含む装置に洗浄液を循環させる方法では、該当装置またはそれを含む周辺の設備の運転を停止させる必要があった。
その後、特許文献1および2のように、装置またはそれを含む周辺の設備の運転中に薬剤を添加する方法が提案され、改善されてきた。
しかしながら、コークス炉ガス中の汚れ成分の付着堆積の抑制効果のさらなる向上が求められ、また、先行技術で用いられている薬剤の中には発がん性物質が含まれており、より安全性の高い処理方法が求められている。
【0010】
そこで、本発明は、上記の従来技術の課題や現状に鑑みてなされたものであり、コークス炉ガスを移送および処理する装置またはそれを含む周辺の設備の運転を停止することなしに、コークス炉ガス流通路におけるコークス炉ガス中の汚れ成分の付着堆積を抑制する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、コークス炉ガスを移送および処理する装置またはそれを含む周辺の設備を稼働したまま、すなわちコークス炉ガスの流通時に、汚れ成分が付着堆積し易いポイント上流から特定の汚れ防止剤を噴霧し、汚れ成分が付着堆積し易いポイントまたはその下流から汚れ成分を汚れ防止剤と共に系外に排出することにより、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
かくして、本発明によれば、コークス炉ガス流通路におけるコークス炉ガスの流通時に、そのコークス炉ガス流通路内のコークス炉ガス中の汚れ成分が付着堆積し易いポイントの上流から、一般式(I):
1-O-(EO)w(PO)x(BO)y(PEO)z-R2 (I)
(式中、R1は、水素原子、フェニル基、直鎖状もしくは分岐鎖状の炭素数1~18の非環式飽和もしくは非環式不飽和炭化水素基であり、R2は、水素原子、直鎖状もしくは分岐鎖状の炭素数1~4の非環式飽和もしくは非環式不飽和炭化水素基であり、但し、R1およびR2は同時に水素原子ではなく、EO、PO、BOおよびPEOは、それぞれエチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドおよびペンテンオキシドを表し、指数w、x、yおよびzは、それぞれ式:1≦(w+x+y+z)≦20を満足する整数であり、これらのオキシドはブロック状に付加していてもランダム状に付加していてもよい)
で表される化合物の少なくとも1種を含む汚れ防止剤を噴霧し、
前記汚れ成分が付着堆積し易いポイントまたはその下流から、前記汚れ成分を前記汚れ防止剤と共に排出することを特徴とするコークス炉ガス流通路への汚れの付着堆積抑制方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、コークス炉ガスを移送および処理する装置またはそれを含む周辺の設備の運転を停止することなしに、コークス炉ガス流通路におけるコークス炉ガス中の汚れ成分の付着堆積を抑制する方法を提供することができる。
また、本発明によれば、汚れ成分の付着堆積を抑制するだけでなく、既に付着堆積している汚れ成分を軟質化し、それを汚れ防止剤中に分散させて、コークス炉ガス流通路の系外に排出することもできる。
【0014】
具体的には、コークス炉ガス流通路におけるコークス炉ガス中の汚れ成分の付着堆積が抑制される、すなわちコークス炉ガス流通路の閉塞が抑制されるので、コークス炉ガス流量を常に維持でき、緊急停止なしに、装置および設備の安定運転が可能になる。
また、定期的に装置および設備を停止しての洗浄作業が不要になり、生産性が向上する。
また、本発明の方法は、従来の方法よりも汚れ成分の付着堆積の抑制効果が向上するだけではなく、本発明で用いる汚れ防止剤の汚れ防止成分は、従来の環状不飽和炭化水素および芳香族炭化水素よりも発がん性が危惧される化合物が少なく、安全性の点でも有利である。
【0015】
また、本発明のコークス炉ガス流通路への汚れの付着堆積抑制方法は、次の条件のいずれか1つを満たす場合に、上記の効果をより発揮する。
(1)汚れ防止剤が、ミスト粒径10~1000μmで噴霧される。
(2)汚れ成分が付着堆積し易いポイントが、エルボの屈曲部、チーズの屈曲部、ブロワー内部、ストレーナー、流量計のオリフィス部または垂直配管の下部である。
(3)一般式(I)で表される化合物が、1000未満の質量平均分子量を有する。
(4)汚れ防止剤が、一般式(I)で表される化合物が、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、フェノキシエタノール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンジメチルエーテル、ポリオキシエチレン-2-エチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンイソデシルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンメチルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテルおよびポリオキシエチレンイソデシルエーテルからなる群から選択される少なくとも1種である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】試験例1での汚れ防止剤の噴霧方法を示す模式図である。
図2】試験例1での汚れ除去率の測定方法を示す模式図である。
図3】試験例1での汚れ成分の拭き取り方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のコークス炉ガス流通路への汚れの付着堆積抑制方法(以下「方法」ともいう)は、コークス炉ガス流通路におけるコークス炉ガスの流通時に、そのコークス炉ガス流通路内のコークス炉ガス中の汚れ成分が付着堆積し易いポイントの上流から、一般式(I)で表される化合物の少なくとも1種を含む汚れ防止剤を噴霧し、汚れ成分が付着堆積し易いポイントまたはその下流から、汚れ成分を汚れ防止剤と共に排出することを特徴とする。
すなわち、本発明の方法は、該当装置またはそれを含む周辺の設備を運転しながら薬剤を噴霧して、コークス炉ガス由来の汚れ成分の付着堆積を抑制し、閉塞のトラブルを改善する方法である。
以下、(1)本発明の方法を適用する装置、(2)本発明の付着堆積抑制方法、(3)本発明に用いる汚れ防止剤の順に説明する。
【0018】
(1)本発明の方法を適用する装置
本発明の方法を適用する装置としては、コークス炉ガス流通路を有する装置であれば特に限定されず、例えば、コークス炉ガスの分離精製プラント、ボイラ、加熱炉、熱交換器などのプラントにおける、配管、ブロワ、ストレーナなどが挙げられる。
【0019】
これらの装置において、コークス炉ガス中の汚れ成分が付着堆積し易いポイントは、コークス炉ガスの流れが滞留し易いポイントであり、例えば、配管径の変化がある場所(配管の屈曲部分)および外気温度が低い場所などが挙げられる。
具体的には、エルボの屈曲部、チーズの屈曲部、ブロワー内部、ストレーナー、流量計のオリフィス部または垂直配管の下部などが挙げられ、本発明の方法はこれらのポイントに適用するのが好ましい。
【0020】
付着堆積の抑制対象となる汚れ成分やその含有量は、コークス炉ガスの由来により異なるが、例えば、汚れ成分としては、タール分(多環芳香族化合物の重合物)、ナフタレンおよびその誘導体、硫黄化合物、硫酸アンモニウム、硫化鉄やフェロシアン錯体が挙げられる。
【0021】
(2)付着堆積抑制方法
本発明の方法は、コークス炉ガスの流通時、すなわちコークス炉ガスを移送および処理する装置またはそれを含む周辺の設備の運転時に、連続的に実施され、少なくとも次の2つの操作、
A:コークス炉ガス流通路におけるコークス炉ガスの流通時に、そのコークス炉ガス流通路内のコークス炉ガス中の汚れ成分が付着堆積し易いポイントの上流から、一般式(I)で表される化合物の少なくとも1種を含む汚れ防止剤を噴霧すること、および
B:汚れ成分が付着堆積し易いポイントまたはその下流から、汚れ成分を汚れ防止剤と共に排出すること
からなる。
【0022】
(A:汚れ防止剤の噴霧)
上記「(1)本発明の方法を適用する装置」に記載の「汚れ成分が付着堆積し易いポイント」の上流のコークス炉ガス流通路内に設けた噴霧ポイントから汚れ防止剤を噴霧する。
噴霧ポイントは、噴霧された汚れ防止剤がコークス炉ガスの流れに乗って拡散し易いポイントが好ましく、例えば、コークス炉ガスの配管の直線部分が挙げられる。
汚れ成分が付着堆積し易いポイントと噴霧ポイントとの工程長は、例えば、1~50mである。
また、噴霧は、コークス炉ガス流通路の上部または側面から、コークス炉ガスの流れ方向に沿って行うのが好ましい。
必要に応じて、噴霧ポイントを複数箇所に設けてもよい。
【0023】
噴霧条件は、コークス炉ガスの流量や流速が装置の種類や規模、同じ装置内であっても個々のコークス炉ガス流通路により異なることなどから、適用する装置の種類や規模、適用前の汚れ成分の付着堆積の状況などの諸条件を考慮して適宜決定すればよい。
通常、汚れ防止剤は、汚れ成分の堆積量などにより増減はあるが、コークス炉ガス1Nm3に対して1~50gになるように1日2~24時間噴霧されるのが好ましい。
「Nm3」は、気体の標準状態(温度0℃、圧力105Pa)に換算した体積を表す。
【0024】
汚れ防止剤の噴霧量がコークス炉ガス1Nm3に対して1g未満またはその噴霧時間が1日2時間未満では、本発明の汚れ成分の付着堆積抑制効果が十分に得られないことがある。
一方、汚れ防止剤の噴霧量がコークス炉ガス1Nm3に対して50gを超えると、経済的なデメリットを打ち消す効果が発揮されないことがある。
より好ましい汚れ防止剤の噴霧量は、コークス炉ガス1Nm3に対して5~20gであり、そのより好ましい噴霧時間は1日5~24時間である。
噴霧間隔は、上記の1日当たりの時間を複数回に分けてもよい。
【0025】
汚れ防止剤は、ミスト粒径10~1000μmで噴霧されるのが好ましい。
ミスト粒径が小さい程、汚れ防止剤が噴霧場所からコークス流通路の遠方まで届き、少ない噴霧量での効果が期待できる。
より好ましいミスト粒径は、10~100μmであり、さらに好ましくは10~50μmである。
【0026】
噴霧手段は、上記の条件を満足するように汚れ防止剤を噴霧できるのであれば、特に限定されず、公知の噴霧装置を適用することができる。
例えば、汚れ防止剤を貯蔵するタンクおよびキャリアーガスを接続した内挿ノズルが挙げられ、内挿ノズルとしては、実施例で用いているような二流体アトマイジングノズルが挙げられる。
また、キャリアーガスは、コークス炉ガスへの影響を考慮して不活性ガスが好ましく、例えば窒素ガスが挙げられる。
例えば、上記の噴霧量およびミスト粒径は、内挿ノズルの規格選定や調整、キャリアーガスの流量などの調整により設定することができる。
【0027】
(B:汚れ成分の排出)
上記「(1)本発明の方法を適用する装置」に記載の「汚れ成分が付着堆積し易いポイント」またはその下流から、汚れ成分を汚れ防止剤と共に排出する。
排出物は、汚れ防止剤中に溶解したナフタレンなどの汚れ成分および汚れ防止剤により軟質化され、その中に分散されたタールなどの汚れ成分などの混合物であると考えられる。
必要に応じて、排出ポイントを複数箇所に設けてもよい。
【0028】
排出には、コークス炉ガス流通路に設けたドレンを用いるのが好ましい。
通常、本発明の方法を適用する装置には、従来の洗浄処理などのために要所にドレンが設けられており、このような既設のドレンを用いることができる。また、必要に応じて、排出用のドレンを新設してもよい。
【0029】
(3)汚れ防止剤
本発明の方法に使用される汚れ防止剤は、一般式(I):
1-O-(EO)w(PO)x(BO)y(PEO)z-R2 (I)
(式中、R1は、水素原子、フェニル基、直鎖状もしくは分岐鎖状の炭素数1~18の非環式飽和もしくは非環式不飽和炭化水素基であり、R2は、水素原子、直鎖状もしくは分岐鎖状の炭素数1~4の非環式飽和もしくは非環式不飽和炭化水素基であり、但し、R1およびR2は同時に水素原子ではなく、EO、PO、BOおよびPEOは、それぞれエチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドおよびペンテンオキシドを表し、指数w、x、yおよびzは、それぞれ式:1≦(w+x+y+z)≦20を満足する整数であり、これらのオキシドはブロック状に付加していてもランダム状に付加していてもよい)
で表される化合物の少なくとも1種を含む。
【0030】
一般式(I)における置換基R1は、水素原子、フェニル基、直鎖状もしくは分岐鎖状の炭素数1~18の非環式飽和もしくは非環式不飽和炭化水素基であり、例えば、フェニル、メチル、ブチル、イソブチル、ヘキシル、イソヘキシル、2-エチルヘキシル、デシル、イソデシルおよびオレイルなどが挙げられる。
【0031】
一般式(I)における置換基R2は、水素原子、直鎖状もしくは分岐鎖状の炭素数1~4の非環式飽和もしくは非環式不飽和炭化水素基であり、例えば、水素原子および炭素数1~4のアルキル基などが挙げられ、水素原子およびメチルが好ましく、水素原子が特に好ましい。
【0032】
一般式(I)におけるEO、PO、BOおよびPEOは、それぞれエチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドおよびペンテンオキシドを表す。
指数w、x、yおよびzは、平均付加モル数であり、汚れ成分の粘度の低減効果を向上させる観点から、式:1≦(w+x+y+z)≦20を満足する整数であることが好ましい。
【0033】
一般式(I)で表される化合物としては、例えば、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(120.15)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(162.23)、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール(118.18)、フェノキシエタノール(138.16)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブチルエーテル(614)、ポリオキシエチレンジメチルエーテル(280)、ポリオキシエチレン-2-エチルヘキシルエーテル(196)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンイソデシルエーテル(500)、ポリオキシエチレンオレイルエーテル(427)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンデシルエーテル(650)、ポリオキシエチレンメチルエーテル(400)、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(283)、ポリオキシエチレンイソデシルエーテル(466)などが挙げられる。括弧内はその化合物の質量平均分子量を示す。
【0034】
これらの中でも、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、フェノキシエタノール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンジメチルエーテル、ポリオキシエチレン-2-エチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンイソデシルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテルおよびポリオキシエチレンポリオキシプロピレンデシルエーテルが好ましく、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、フェノキシエタノール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンジメチルエーテルが特に好ましい。
一般式(I)の化合物は、汚れ防止剤の有効成分として1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
一般式(I)で表される化合物は、1000未満の質量平均分子量を有することが好ましい。質量平均分子量が1000以上である場合、流動性が低下して汚れ成分に添加しても充分に分散せず、充分な汚れ成分の付着堆積の抑制効果が得られないことがある。
一般式(I)で表される化合物の質量平均分子量は、より好ましくは650以下であり、さらに好ましくは500以下であり、最も好ましくは200以下である。その下限は100程度である。
【0036】
本発明の方法に使用される汚れ防止剤は、有効成分としての一般式(I)で表される化合物を水溶液の形態で用いてもよい。
その濃度は、化合物の種類や実施対象の条件などにより適宜設定すればよい。
また、汚れ防止剤は、本発明の汚れ成分の付着堆積の抑制効果を阻害しない限り、当該技術分野で使用される薬剤を併用してもよい。
【0037】
本発明の方法では、コークス炉ガス中の汚れ成分の流動性が向上することにより、ガス流通路への汚れの付着堆積が抑制されるものと考えられる。この汚れ成分の流動性が向上するメカニズムは明らかではないが、本発明の発明者らは次のように推測する。
汚れ成分は、主として疎水性成分で構成され、ベンゼン環骨格の重合や結合により強い分子間力が働き、高粘度化しているものと考えられる。このような汚れ成分に、疎水基と親水基の両方を有する一般式(I)で表される化合物の疎水基が配位し、汚れ成分の分子表面に親水基が修飾されたような状態になり、汚れ成分が僅かに親水化され、本質的には疎水性である汚れ成分の分子同士に反発力が生じ、分子間力が弱まり、粘度が低減し、汚れ成分自体の流動性が向上するものと推測される。
したがって、一般式(I)で表される化合物の疎水基と親水基の形状や大きさのバランス、具体的には、置換基R1およびR2における炭素数によって、一般式(I)で表される化合物の汚れ成分への配位し易さが異なるために、化合物の種類によって粘度低減効果に差が生じるものと推測される。
しかしながら、上記のメカニズムはあくまでも推測であって、これにより本発明が限定されるものではない。
【実施例
【0038】
本発明を以下の製剤例および試験例により具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0039】
(試験例1:薬剤による汚れ成分の溶解効果の確認試験)
表1に示す薬剤による汚れ成分の溶解効果を評価した。
試験には、コークス製造プラントのコークス炉ガス(COG)配管から採取した、配管内に付着した汚れ成分(COG配管汚れ)を使用した。汚れ成分は、黒色で、泥状の固形物であった。
表1には、化合物名と共に、それらの構造(置換基R1およびR2、アルキル鎖の分岐の有無、アルキレンオキサイドEOおよびPOのモル割合)および質量平均分子量を示す。
【0040】
【表1】
【0041】
[試験A]
図1に示すように、長方形のステンレス板1(横25mm×縦60mm×厚さ1mm)に、予め温度100℃の恒温槽で5分間加温して軟化させておいたCOG配管汚れ2の0.05gをスパーテルで均一に塗布した。次いで、汚れ成分が塗布されたステンレス板3をスタンドに垂直に固定し、市販の容量100mLの家庭用霧吹き器を用いて、表1に示す薬剤20mLを、ステンレス面から約100mmの距離(ステンレス面から霧吹き器の吹出口までの距離)から垂直に噴霧した。図1の図番4は薬剤噴霧を示す。
【0042】
次いで、図2に示すように、薬剤を噴霧したステンレス板を、汚れ成分を塗布した面を上にして置き、縦2.5mmで24マス×横2.5mmで10マスの合計240マス(A)でマス取りした透明アクリル板5をステンレス板の上に当て、汚れが落ちているまたは拭き取られているマスの数(B)をカウントした。但し、1マス中に占める汚れの割合が半分以上ある場合にはカウントしなかった。
得られた計数値から次式により汚れの除去率(%)を算出した。
除去率(%)=(B/A)×100
【0043】
[試験B]
次いで、図3に示すように、薬剤噴霧されたステンレス板7の上部に糸9を結び、汚れ付着面を下にして紙ウエス6上に置き、さらにその上に質量100gの重石8を置き、矢印の方向に200mmの距離を約5秒間で糸9を引き、薬剤噴霧されたステンレス板7を引き摺った。同じ操作を3回繰り返し、汚れ成分を拭き取った。
次いで、汚れ成分を拭き取ったステンレス板についても、上記と同様にして、汚れの除去率(%)を算出した。
【0044】
汚れの落ち度合いを次の基準で評価した。
◎:薬剤噴霧だけで汚れが落ちる
○:薬剤噴霧だけでは汚れ落ちが弱く、軽く拭き取ると汚れが落ちる
×:薬剤噴霧を行い、軽く拭き取っても汚れが落ち切らない
得られた除去率の結果を、使用した汚れ防止剤(薬剤)、薬剤噴霧前後および拭き取り後の外観写真ならびに汚れの落ち度合いの評価と共に表2に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
表1および2から次のことがわかる。
(1)本発明の方法(実施例1~6)では、薬剤噴霧だけで70%以上の除去率が得られ、拭き取りにより、略100%の除去率が得られること
(2)本発明の方法(実施例7~10)では、薬剤噴霧だけでは数%の除去率に留まるものの、拭き取りにより、75%以上の除去率が得られること
(3)実施例以外の方法(比較例1~2)では、薬剤噴霧だけでは数%の除去率に留まり、拭き取りによっても、高くても16%の除去率に留まること
【符号の説明】
【0047】
1 ステンレス板
2 汚れ成分(COG配管汚れ)
3 汚れ成分が塗布されたステンレス板
4 薬剤噴霧
5 透明アクリル板
6 紙ウエス
7 薬剤噴霧されたステンレス板
8 重石
9 糸
図1
図2
図3