(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】液体採取器具
(51)【国際特許分類】
G01N 1/12 20060101AFI20240112BHJP
G01N 1/10 20060101ALI20240112BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
G01N1/12 B
G01N1/10 V
G01N33/48 S
(21)【出願番号】P 2019229582
(22)【出願日】2019-12-19
【審査請求日】2022-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000190068
【氏名又は名称】伸晃化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【氏名又は名称】徳山 英浩
(74)【代理人】
【識別番号】100112911
【氏名又は名称】中野 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】早川 政希
(72)【発明者】
【氏名】土井 淳史
【審査官】北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-529042(JP,A)
【文献】国際公開第2019/059335(WO,A1)
【文献】実開昭58-079245(JP,U)
【文献】米国特許第6555386(US,B1)
【文献】特開2014-182136(JP,A)
【文献】国際公開第2018/034032(WO,A1)
【文献】特開2014-211429(JP,A)
【文献】特表2016-529490(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00~ 1/44
G01N 33/48~33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面と前記表面に対向する裏面とを有する本体と、
前記本体を前記表面から前記裏面まで貫通し、貫通方向に交差する面方向に延びるスリットとを備え、
毛細管現象により前記スリットに液体を保持する液体採取器具であって、
前記スリットは、
平面視においてU字形状となるように湾曲した湾曲部と、
前記湾曲部の一端から、平面視において前記湾曲部と滑らかに接続されるように延びる第1直線部と、
前記湾曲部の他端から、平面視において前記湾曲部と滑らかに接続されるように延びる第2直線部とを有し、
前記本体は、前記裏面の前記スリットの第1直線部と第2直線部との間に、前記裏面から前記表面に向かって窪んだ溝を備え、前記溝は、前記第1直線部が延びる方向に延びる、液体採取器具。
【請求項2】
前記溝は、面方向において前記スリットと前記溝との間にある壁の厚さを、前記表面から前記裏面に向かって漸次減少させるように形成された、請求項1に記載の液体採取器具。
【請求項3】
前記本体は、面方向において前記スリットと前記溝との間にある壁を前記裏面側から切り欠く切欠きを有する、請求項1又は2に記載の液体採取器具。
【請求項4】
前記切欠きは、面方向において、前記スリットの第1直線部、及び前記スリットの第2直線部のうちの少なくとも一方と前記溝との間にある壁を前記裏面側から切り欠く、請求項3に記載の液体採取器具。
【請求項5】
前記切欠きは、面方向において、前記スリットの第1直線部の、前記湾曲部に接続されていない側の端部又は端部近傍、及び前記スリットの第2直線部の、前記湾曲部に接続されていない側の端部又は端部近傍のうちの少なくとも一方と前記溝との間にある壁を前記裏面側から切り欠く、請求項4に記載の液体採取器具。
【請求項6】
前記スリットの幅は、平面視において一定である、請求項1~5のいずれか1項に記載の液体採取器具。
【請求項7】
前記スリットは、その幅が前記表面から前記裏面に向かって漸次減少するテーパ形状を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の液体採取器具。
【請求項8】
前記スリットは、その幅が前記表面から前記裏面に向かって漸次増加する逆テーパ形状を有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の液体採取器具。
【請求項9】
載置面に載置された場合に、前記裏面が前記載置面に接触した状態を保持して自立できるように構成された、請求項1~8のいずれか1項に記載の液体採取器具。
【請求項10】
前記表面から突出した持ち手を備える、請求項1~9のいずれか1項に記載の液体採取器具。
【請求項11】
前記持ち手は、平面視において前記スリットから離れた位置に設けられた、請求項10に記載の液体採取器具。
【請求項12】
前記持ち手は、平面視において前記スリットの中心を中心とする円の半径方向に延びる板状の形状を有する、請求項11に記載の液体採取器具。
【請求項13】
前記液体採取器具は、血液採取用の液体採取器具である、請求項1~12のいずれか1項に記載の液体採取器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液体採取器具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、毛細管現象を利用して液体を保持する保持部材を開示する。当該保持部材は、棒状体の先端部に、軸方向のスリットを有する端部が開口した筒状の液体保持部を形成したことを特徴とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示に係る液体採取器具は、従来技術より簡単に液体を採取することができる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係る液体採取器具は、
表面と前記表面に対向する裏面とを有する本体と、
前記本体を前記表面から前記裏面まで貫通し、貫通方向に交差する面方向に延びるスリットとを備え、
毛細管現象により前記スリットに液体を保持する液体採取器具である。
前記スリットは、
平面視においてU字形状となるように湾曲した湾曲部と、
前記湾曲部の一端から、平面視において前記湾曲部と滑らかに接続されるように延びる第1直線部と、
前記湾曲部の他端から、平面視において前記湾曲部と滑らかに接続されるように延びる第2直線部とを有し、
前記本体は、前記裏面の前記スリットの第1直線部と第2直線部との間に、前記裏面から前記表面に向かって窪んだ溝を備え、前記溝は、前記第1直線部が延びる方向に延びる。
【発明の効果】
【0006】
本開示に係る液体採取器具により、従来技術に比べて簡単に液体を採取することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本開示の実施の形態に係る液体採取器具を上から見た斜視図である。
【
図2】
図1の液体採取器具を下から見た斜視図である。
【
図8】液体採取器具を
図3のVIII-VIII方向に見た断面図である。
【
図9】液体採取器具を
図3のIX-IX方向に見た断面図である。
【
図10】液体採取器具を
図3のX-X方向に見た断面図である。
【
図11】液体採取器具を
図3のXI-XI方向に見た断面図である。
【
図12】
図1の液体採取器具を用いた液体採取方法の一例を説明するための図である。
【
図13】
図1の液体採取器具を用いた液体採取方法の一例を説明するための図である。
【
図14】
図13に示した液体採取方法の詳細な例を説明するための模式的な断面図である。
【
図15】
図13に示した液体採取方法の詳細な例を説明するための模式的な断面図である。
【
図16】
図13に示した液体採取方法の詳細な例を説明するための模式的な断面図である。
【
図17】
図13に示した液体採取方法の詳細な例を説明するための模式的な断面図である。
【
図18】
図13に示した液体採取方法の詳細な例を説明するための模式的な断面図である。
【
図19】イムノクロマトグラフ法を用いた検査キットの一例を示す斜視図である。
【
図20】
図1の液体採取器具のスリットからの血液の排出の様子を説明するための模式的な断面図である。
【
図21】
図1の液体採取器具のスリットからの血液の排出の様子を説明するための模式的な断面図である。
【
図22】
図1の液体採取器具のスリットからの血液の排出の様子を説明するための模式的な断面図である。
【
図23】
図1の液体採取器具のスリットからの血液の排出の様子を説明するための模式的な断面図である。
【
図24】
図1の液体採取器具のスリットからの血液の排出の様子を説明するための模式的な断面図である。
【
図25】
図1の液体採取器具のスリットからの血液の排出の様子を説明するための模式的な断面図である。
【
図26】
図1の液体採取器具のスリットからの血液の排出の様子を説明するための模式的な断面図である。
【
図27】液体採取器具の比較例を説明するための図である。
【
図28】液体採取器具の比較例を説明するための図である。
【
図29】液体採取器具の比較例を説明するための図である。
【
図30】本開示の実施の形態の第1変形例に係る液体採取器具を示す断面図である。
【
図31】本開示の実施の形態の第2変形例に係る液体採取器具を示す断面図である。
【
図32】本開示の実施の形態の第3変形例に係る液体採取器具の一例を示す斜視図である。
【
図33】本開示の実施の形態の第3変形例に係る液体採取器具の他の例を示す斜視図である。
【
図34】本開示の実施の形態の第3変形例に係る液体採取器具の他の例を示す斜視図である。
【
図35】本開示の実施の形態の第3変形例に係る液体採取器具の他の例を示す斜視図である。
【
図36】本開示の実施の形態の第4変形例に係る液体採取器具の一例を示す斜視図である。
【
図37】本開示の実施の形態の第4変形例に係る液体採取器具の他の例を示す斜視図である。
【
図38】本開示の実施の形態の第4変形例に係る液体採取器具の他の例を示す斜視図である。
【
図39】本開示の実施の形態の第5変形例に係る液体採取器具を示す斜視図である。
【
図40】
図39の液体採取器具の使用例を説明するための検査キット150の斜視図である。
【
図41】本開示の実施の形態の第6変形例に係る液体採取器具の一例を示す斜視図である。
【
図42】本開示の実施の形態の第6変形例に係る液体採取器具の他の例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(本開示に至った経緯)
免疫検査を行う手段であるイムノクロマトグラフ法(イムノクロマト法、イムノクロマトグラフィー、又はラテラルフローイムノアッセイとも呼ばれる)は、所定量の検体を検査キット上に滴下することによって、目視により検査結果を知ることができる簡便な免疫検査手段である。例えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の感染の有無を診断するための検査キット(例えば、アボットダイアグノスティクスメディカル株式会社のダイナスクリーン(登録商標))に必要な抗体は、50μLの血漿、血清又は全血である。50μLの全血等を採取するために、従来は、マイクロピペット、毛細管現象を利用するキャピラリー等の液体採取器具が使用されて来た。
【0009】
簡便な検査手段であるイムノクロマトグラフ法を用いた検査キットは、患者等の被検査者自身が取り扱うことができることが利点の1つである。医療専門家でない被検査者自身が検査を行う場合、専門的で高価な道具であるマイクロピペットを使用するより、使い捨てのキャピラリーを使用する方が現実的である。
【0010】
しかし、従来のキャピラリーの管には一定の厚みがあり、血液に接触するキャピラリーの下端は血液に濡れる。したがって、血液を吸い上げてキャピラリーの下端を液滴から引き離した後には、キャピラリー内の血液は、液滴に引っ張られて、キャピラリーの下端に、キャピラリーの外径から垂れ下がる場合がある。その結果、垂れ下がった血液の量だけ、所定量(例えば50μL)を大きく超える血液が採取される場合がある。さらに、キャピラリー内の血液の上端も、キャピラリーの内部表面の状態(凹凸や濡れの有無等)によって、所望の位置から上下することがある。以上により、キャピラリーによって採取される血液の量はばらつき、所定量の血液を正確に採取することができないという問題があった。所定量と異なる量の血液を用いて検査を行った場合には、正しい検査結果が得られない場合がある。
【0011】
また、所定量、例えば50μLの血液を採取するためのキャピラリーの内径が大きいと、キャピラリーの下端に垂れ下がる血液の量が増えるため、ばらつく量も大きくなりやすい。他方で、内径が小さいと、使用者はキャピラリーを傾けなければ所定量の血液を採取することができないため、操作に慣れていない使用者が正確に所定量を採取することは難しい。さらに、内径が小さいと、採取した血液をグラスファイバ等の検査キットの吸水性の検体添加部に吸わせて排出するのに時間がかかり、血液が凝固する問題があった。
【0012】
さらに、キャピラリーの先端と血液等の液体との接触面積は小さく、操作者は、所望の量の液体を採取するためには、キャピラリーを操作して液体を高い位置まで十分に吸い上げる必要があった。液体の採取中に気泡がキャピラリーの管に入った場合、その後は気泡が邪魔をして液体の採取を継続することができない事態が生じ得た。
【0013】
発明者らは、上記のような課題を発見し、これらの課題を解決するために以下のような液体採取器具を構成するに至った。
【0014】
本開示の第1態様は、
表面と前記表面に対向する裏面とを有する本体と、
前記本体を前記表面から前記裏面まで貫通し、貫通方向に交差する面方向に延びるスリットとを備え、
毛細管現象により前記スリットに液体を保持する液体採取器具であって、
前記スリットは、
平面視においてU字形状となるように湾曲した湾曲部と、
前記湾曲部の一端から、平面視において前記湾曲部と滑らかに接続されるように延びる第1直線部と、
前記湾曲部の他端から、平面視において前記湾曲部と滑らかに接続されるように延びる第2直線部とを有し、
前記本体は、前記裏面の前記スリットの第1直線部と第2直線部との間に、前記裏面から前記表面に向かって窪んだ溝を備え、前記溝は、前記第1直線部が延びる方向に延びる、液体採取器具を提供する。
【0015】
本開示の第2態様によれば、前記溝は、面方向において前記スリットと前記溝との間にある壁の厚さを、前記表面から前記裏面に向かって漸次減少させるように形成された、第1態様の液体採取器具を提供する。
【0016】
本開示の第3態様によれば、前記本体は、面方向において前記スリットと前記溝との間にある壁を前記裏面側から切り欠く切欠きを有する、第1態様又は第2態様の液体採取器具を提供する。
【0017】
本開示の第4態様によれば、前記切欠きは、面方向において、前記スリットの第1直線部、及び前記スリットの第2直線部のうちの少なくとも一方と前記溝との間にある壁を前記裏面側から切り欠く、第3態様の液体採取器具を提供する。
【0018】
本開示の第5態様によれば、前記切欠きは、面方向において、前記スリットの第1直線部の、前記湾曲部に接続されていない側の端部又は端部近傍、及び前記スリットの第2直線部の、前記湾曲部に接続されていない側の端部又は端部近傍のうちの少なくとも一方と前記溝との間にある壁を前記裏面側から切り欠く、第4態様の液体採取器具を提供する。
【0019】
本開示の第6態様によれば、前記スリットの幅は、平面視において一定である、第1~第5態様のいずれか1つの液体採取器具を提供する。
【0020】
本開示の第7態様によれば、前記スリットは、その幅が前記表面から前記裏面に向かって漸次減少するテーパ形状を有する、第1~第6態様のいずれか1つの液体採取器具を提供する。
【0021】
本開示の第8態様によれば、前記スリットは、その幅が前記表面から前記裏面に向かって漸次増加する逆テーパ形状を有する、第1~第7態様のいずれか1つの液体採取器具を提供する。
【0022】
本開示の第9態様によれば、載置面に載置された場合に、前記裏面が前記載置面に接触した状態を保持して自立できるように構成された、第1~第8態様のいずれか1つの液体採取器具を提供する。
【0023】
本開示の第10態様によれば、前記表面から突出した持ち手を備える、第1~第9態様のいずれか1つの液体採取器具を提供する。
【0024】
本開示の第11態様によれば、前記持ち手は、平面視において前記スリットから離れた位置に設けられた、第10態様の液体採取器具を提供する。
【0025】
本開示の第12態様によれば、前記持ち手は、平面視において前記スリットの中心を中心とする円の半径方向に延びる板状の形状を有する、第11態様の液体採取器具を提供する。
【0026】
本開示の第13態様によれば、前記液体採取器具は、血液採取用の液体採取器具である、第1~第12態様のいずれか1つの液体採取器具を提供する。
【0027】
以下、図面を参照して本開示に係る液体採取器具の実施の形態を説明する。以下の各実施の形態において、同様の構成要素については同一の符号を付している。図面には、説明の便宜上、互いに直交するx軸、y軸、及びz軸を示している場合がある。z軸は、鉛直方向に平行である。図示の目的のために、図面内の各要素の寸法は誇張されて示されている場合があり、必ずしも縮尺通りとは限らない。
【0028】
[構成例]
図1~10を参照して、本開示の実施の形態に係る液体採取器具100の構成について説明する。
図1は、本実施の形態に係る液体採取器具100を上方から見た斜視図である。
図2は、
図1の液体採取器具100を下方から見た斜視図である。
図3~7はそれぞれ、
図1の液体採取器具100の平面図、正面図、背面図、右側面図、及び底面図である。液体採取器具100は左右対称であるから、液体採取器具100の左側面図は、
図6の右側面図と実質的に同一であるため省略している。
図8は、液体採取器具100を
図3のVIII-VIII方向に見た断面図である。
図9は、液体採取器具100を
図3のIX-IX方向に見た断面図である。
図10は、液体採取器具100を
図3のX-X方向に見た断面図である。
図11は、液体採取器具100を
図3のXI-XI方向に見た断面図である。
【0029】
液体採取器具100は、本体10と、スリット20と、持ち手30と、脚部40,41とを備える。本体10は、y軸方向を長手方向とする板状の形状を有し、表面11と、表面11に対向する裏面12とを有する。本体10の-y側の端部を遠位端13と呼び、遠位端13に対向する+y側の端部を近位端14と呼ぶ。
【0030】
スリット20は、本体10を表面11から裏面12まで貫通し、一方の端部25から他方の端部26まで貫通方向(z方向)に交差する面方向に延びている。図示の例では、貫通方向と面方向とは直交している。スリット20は、端部25と端部26との間において、平面視において折り返してU字形状となるように湾曲した湾曲部23を有する。スリット20の湾曲部23と端部25との間の第1直線部21と、湾曲部23と端部26との間の第2直線部22とは、ほぼ平行に延びている。言い換えれば、湾曲部23の一端から第1直線部21が延び、湾曲部23の他端から第2直線部22が延びている。スリット20の第1直線部21と湾曲部23と第2直線部22とは、吐出し時に凹凸部等の不連続部分に液体が残らないように、連続的に、すなわち滑らかに接続されている。
【0031】
「スリット20の第1直線部21と湾曲部23と第2直線部22とが滑らかに接続されている」とは、スリット20が平面視において曲線形状であることを意味する。あるいは、「スリット20の第1直線部21と湾曲部23と第2直線部22とが滑らかに接続されている」とは、第1直線部21と湾曲部23との接続箇所を表す曲線、及び第2直線部22と湾曲部23との接続箇所を表す曲線が、平面視において微分可能であることを意味する。なお、第1直線部21は本開示の「第1部分」の一例であり、第2直線部22は本開示の「第2部分」の一例である。
【0032】
スリット20の湾曲部23は、本体10の遠位端13の近くに配置される。湾曲部23を表す曲線は、xy平面において下に凸である。言い換えれば、スリット20は、平面視において、+y方向を上として描かれたU字形である。
【0033】
スリット20の容積は、検査等の所望の用途に必要な液体の量によるが、例えば5μL以上であり、好ましくは、5μL~500μL、例えば30μL~100μLである。例えば、スリット20の容積は、53±5μLとなるように設計される。スリット20の幅は、スリット20が毛細管現象により液体を吸い上げて保持できるように設計される。スリット20の幅は、例えば0.05mm~5.0mm、例えば0.5mm又は1.0mmである。図示の例では、スリット20の幅は、端部25から端部26まで一定であるが、毛細管現象により液体を吸い上げて保持することができ、所定の容積が得られるのであれば、一定である必要はない。スリット20の深さD(
図10参照)は、毛細管現象により液体が吸い上げられる高さに依存する。この高さは、本体10の材質によって異なる。例えば、この高さは、外気体が空気である場合、吸い上げる対象の液体の密度と表面張力とがわかっていれば、本体10の材質の接触角とスリット20の幅とに基づいておおよそ算出できる。
【0034】
持ち手30は、本体10の表面11から上方に突出している。持ち手30は、液体の採取を行う操作者が握りやすいように構成されている。図示の例では、持ち手30は、yz平面に平行な板状の形状を有する。また、持ち手30は、平面視においてスリット20から離れた位置に設けられている。この構成により、持ち手30を把持して液体採取器具100を動かす際に操作者の指が液体に触れることを防止することができる。したがって、持ち手30を備えることにより、液体採取器具100は、指の油分等の不純物が液体に混入することを防止することができる。液体が血液である場合には、スリット20の中の他人の血液が操作者の指に付着し、血液感染を引き起こす事態を防止することができる。
【0035】
さらに、持ち手30は、平面視においてスリット20の中心を中心とする円の半径方向に延びる板状の形状を有する。この構成により、操作者が持ち手30を把持した場合、操作者から見てスリット20が手で隠されることがない。したがって、操作者は、スリット20に液体が充填されたか否かを手に邪魔されずに容易に視認することができる。
【0036】
図2,7~10に示すように、本体10の裏面12には、表面11の方向(z方)に窪み、長手方向(y方向)に延びる溝15が設けられている。溝15は、第1直線部21と第2直線部22との間に配置されている。溝15は、第1直線部21が延びる方向に延びている。溝15があることにより、スリット20と溝15との間には、壁16が形成されている。溝15の頂部の裏面12からの高さH(
図10参照)は、スリット20の深さDより小さい。
図8及び
図9に示すように、溝15をy方向に見た断面は、滑らかなアーチ状の形状を有する。したがって、壁16をy方向に見た断面は、下に向かうに連れて厚さが漸次減少するテーパ形状となっている。これにより、液体から本体10を引き離した際の液切れが良くなり、液体採取器具100によって採取される液体の量のばらつきを低減することができる。また、
図10に示すように、溝15をx方向に見た断面も、滑らかな形状を有する。これにより、溝15に保持された液体を排出した後に、凹凸部等の滑らかでない部分に液体が残る事態を防止することができる。
【0037】
図2,7,9~11に示すように、本体10は、裏面12に、スリット20と溝15とを接続する切欠き18,19を有する。切欠き18は、スリット20の第1直線部21と溝15とを接続するように壁16の一部を切り欠いている。切欠き19は、スリット20の第2直線部22と溝15とを接続するように壁16の一部を切り欠いている。図示の例では、切欠き18,19は、壁16の端部又は端部近傍に設けられているが、本開示はこれに限定されない。
【0038】
脚部40,41は、本体10の裏面12から下方に突出している。脚部40,41は、スリット20の底部を接地させた状態で本体10を支持する。例えば、イムノクロマトグラフ法を用いた血液検査キットを使用する場合、脚部40,41は、スリット20の底部を、ろ紙、グラスファイバ等の検査キット150の吸水性の検体添加部151(
図19参照)に接地させた状態で本体10を支持する。この場合、例えば、
図10に示すように、脚部40,41の底面から本体10の表面11までの高さLは、スリット20の深さDと、検体添加部151の厚さTとの和に実質的に等しくなるように設計される。
【0039】
液体採取器具100は、例えば射出成形によって一体的に形成される。液体採取器具100は、例えば、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、環状オレフィンコポリマー(COC)、ポリエチレン(PE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリスチレン(PS)、及びポリエチレンナフタレート(PEN)等の材料のうちの1つの材料を用いた射出成形によって形成されてもよいし、2つ以上の材料を用いて射出成形によって形成されてもよい。
【0040】
液体採取器具100は、例えばバルブゲート式のホットランナ射出成形によって形成される。この場合、ホットランナ射出成形の利点である、材料の節約、廃棄物の削減、成形サイクルの短縮という利点が得られるため、製造の低コスト化を実現できる。
【0041】
液体を毛細管現象によって吸い上げるスリット20の周囲の部分は、採取する液体が水性である場合は親水性材料で、油性である場合は親油性材料で、形成される。また、液体を吸い上げた後に液体採取器具100を移動させる際の液切れを良くするために、本体10の裏面12は、液体が水性である場合は疎水(撥水)性材料で、液体が油性である場合は疎油(撥油)性材料で、形成されてもよい。
【0042】
代わりに、液体採取器具100は、射出成形によって形成された形状の上に、親水性/疎水性であるべき表面に親水性/疎水性材料が、または親油性/疎油性であるべき表面に親油性/疎油性材料がコーティングされた構造であってもよい。
【0043】
さらに、液体採取器具100は、表面改質技術等の加工技術を使用して、親水性/疎水性であるべき表面を親水性/疎水性に加工し、または親油性/疎油性であるべき表面を親油性/疎油性に加工して形成されてもよい。
【0044】
液体採取器具100の材料は、上記のものに限られず、ガラス、金属、セラミック等の材料であってもよい。また、液体採取器具100の成形には、上記の射出成形に限らず、公知のガラス成形方法、または切削、穿孔、溶接もしくはこれらの組合せ等の公知の金属加工方法等が用いられてもよい。
【0045】
本体10のスリット20の周囲の部分には、吸い上げた血液が凝固することを防止するために、血液抗凝固剤がコーティングされてもよい。
【0046】
[使用方法例]
次に、
図12~26を参照して、液体採取器具100を用いた液体採取方法の一例を説明する。なお、ここでは一例として血液を採取する液体採取器具100について説明するが、液体は血液に限定されない。例えば、液体は、血液以外の体液、薬液、水溶液、コロイド溶液、及びエマルション等であってもよい。まず、
図12に示すように、操作者は、皮膚穿刺針(ランセット)80を用いて被検査者の指90の皮膚を穿刺し、血液を出す。液体採取器具100の操作者と被検査者は同一人であってもよい。すなわち、液体採取器具100は、被検査者自身が使用することができる。ただし、液体採取器具100は、医師、看護師等の医療専門家によって使用されてもよい。次に、
図13に示すように、操作者は、液体採取器具100の持ち手30を把持して、本体10の裏面12を血液に接触させる。これにより、スリット20の底部が血液に接触し、毛細管現象により血液がスリット20内に吸い上げられる。
【0047】
図14~18は、
図13に示した液体採取方法の詳細な例を説明するための模式的な断面図である。
図14~18は、液体採取器具100の断面を-y方向から見た断面図であり、
図8と同様の断面を示している。
【0048】
まず、操作者は、液体採取器具100の持ち手30を把持して、本体10を被検査者の指90の上の血液に近付ける(
図14)。本体10の裏面12が血液に接触すると、血液は、毛細管現象によりスリット20及び溝15の中に吸い上げられる(
図15)。操作者は、スリット20が血液で満たされたことを確認し(
図16)、液体採取器具100を持ち上げて指90から引き離す(
図17、
図18)。なお、指90の上に露出した血液の量が少なく、液体採取器具100の本体10を一度血液に接触させただけではスリット20が血液で満たされない場合も考えられる。このような場合、操作者は、液体採取器具100を指90から引き離した後で指90を押圧して血液を絞り出し、再度上記の血液採取動作を行う。
【0049】
図19は、イムノクロマトグラフ法を用いた検査キット150の一例を示す斜視図である。操作者は、血液を採取した後、血液が充填された液体採取器具100のスリット20の底部を、検査キット150の検体添加部151に接触させる。検体添加部151は、例えば、ろ紙、グラスファイバ等の吸水性の材料で構成される。液体採取器具100のスリット20の中の血液は、検査キット150の検体添加部151へ排出される。
【0050】
図20~26は、液体採取器具100のスリット20からの血液の排出の様子を説明するための模式的な断面図である。
図20~26は、液体採取器具100の、
(a)
図10と同様の断面図(
図3のX-X方向に見た断面図)、
(b)
図11と同様の断面図(
図3のXI-XI方向に見た断面図)、及び
(c)
図9と同様の断面図(
図3のIX-IX方向に見た断面図)、
をそれぞれ示している。
【0051】
図20は、検査キット150上に液体採取器具100を載置した時点における血液の排出状況を示す模式的な断面図である。この時点では、血液はまだ検査キット150の検体添加部151に移動しておらず、液体採取器具100のスリット20は血液で満たされている。したがって、スリット20内の血液の液面の高さhは、スリットの深さDに実質的に等しい。
【0052】
検査キット150上に液体採取器具100を載置すると、
図21に示すように、血液が検査キット150の検体添加部151に移動し始める。したがって、液面の高さhが減少し始める。
図21は、スリット20の深さD>液面の高さh>溝15の高さHである状態を示している。この時点では、溝15の内部は血液で満たされている。
【0053】
図21の時点から更に時間が経過すると、液面の高さhが溝15の高さHより低くなり、
図22の(c)に示すように、スリット20と溝15とを接続している切欠き18,19の中に空気が入り始める。その後、
図23に示すように、切欠き18,19から侵入した空気は、溝15の中に到達する。
【0054】
図24,25は、
図23の時点から更に時間が経過した時点における血液の排出状況を示している。
図25は、
図24の時点より後の状態を示している。
図24,25に示すように、切欠き18,19から侵入し、溝15の中に到達した空気は、溝15の中の血液を押しのけるように、近位側から遠位側に進む。この時点では、スリット20の中の血液はほとんど排出されている。
【0055】
図26は、液体採取器具100のスリット20及び溝15の中の血液が完全に排出された後の状況を示す模式的な断面図である。
図25の状態から更に溝15内の空気が近位側から遠位側に進むと、
図26のような状態になる。溝15の内部は、角や凹凸部等の不連続部分がない滑らかな形状を有するため、滑らかでない部分に液体が残る事態は生じない。
【0056】
以上の血液の排出動作は、ハンズフリーで行うことができる。すなわち、液体採取器具100は、検査キット150の検体添加部151の表面等の載置面に載置された場合に、裏面12が載置面に接触した状態を保持して自立できるように構成されている。具体的には、
図19に示したように、液体採取器具100は、本体10の裏面12が平坦であるため、スリット20の底面を検査キット150の検体添加部151に接触させた状態で自立できる。特に、図示の例では、本体10の表面11から脚部40,41の底面までの距離Lは、検査キット150の検体添加部151の厚さTに実質的に等しいため、液体採取器具100は、この状態で安定して自立できる。したがって、操作者は、液体採取器具100を検査キット150の検体添加部151に接触させた状態を維持するために、液体採取器具100の持ち手30を把持したまま待機する必要がない。このように、操作者は、血液を採取した後は、液体採取器具100を検査キット150の検体添加部151の上に置いて放置すればよく、血液の排出完了まで待機する必要はない。
【0057】
上記のように排出動作はハンズフリーで行われるため、例えば、操作者は、スリット20の上から展開溶媒(チェイサー)を垂らして血液の排出を促進させることができる。
【0058】
また、従来のキャピラリーを使用した検査においては、操作者が血液の入ったキャピラリーを検査キットの検体添加部に接触させたまま、血液の排出が完了するまで待機する必要があった。液体採取器具100によると、このような操作者の待機の負担を低減することができる。さらに、特に操作者が被検査者自身であるHIVのセルフチェックの場合は、操作者の検査動作に「検査の結果が陰性であって欲しい」等の心理的バイアスの影響が生じる場合がある。その結果、操作者がセルフチェックそのものを諦めて中止したり、無意識のうちに検査失敗へと導いてしまう場合があると言われている。液体採取器具100は、血液の排出が完了するまで待機すること等の煩わしい作業を低減できるため、上記のような検査の中止及び失敗等を防止することができる。
【0059】
[効果等]
以上のように、本実施の形態に係る液体採取器具100は、本体10と、スリット20とを備える。本体10は、表面11と、表面11に対向する裏面12とを有する。スリット20は、本体10を表面11から裏面12まで貫通し、貫通方向に交差する面方向に延びる。スリット20は、平面視においてU字形状となるように湾曲した湾曲部23と、湾曲部23の一端から、平面視において湾曲部23と滑らかに接続されるように延びる第1直線部21と、湾曲部23の他端から、平面視において湾曲部23と滑らかに接続されるように延びる第2直線部22とを有する。本体10は、裏面12のスリット20の第1直線部21と第2直線部22との間に、裏面12から表面11に向かって窪んだ溝15を備える。溝15は、第1直線部21が延びる方向に延びている。
【0060】
この構成により、キャピラリー等の従来技術に比べて、液体とスリット20との接触面積を大きくすることができる。キャピラリーにおいては、液体の採取中に気泡がキャピラリーの管に入った場合、その後は気泡が邪魔をして液体の採取を継続することができず、所望の量の液体を採取できない事態が生じ得た。これに対して、液体採取器具100は、液体とスリット20との接触面積を大きいため、気泡が原因で所望の量の液体を採取できない事態を防止することができる。
【0061】
また、この構成により、液体から本体10を引き離した際の液切れが良くなり、液体採取器具100は、採取される液体の量のばらつきを低減することができる。この作用効果を、溝を有しない場合の比較例と比較して説明する。
図27~29は、溝15を有しない液体採取器具100aによる液体採取の状況を示す模式的な断面図である。
図27は
図16と、
図28は
図17と、
図29は
図18と比較できる。すなわち、操作者は、スリット20が血液で満たされたことを確認し(
図27)、液体採取器具100aを持ち上げて指90から引き離す(
図28、
図29)。
【0062】
液体採取器具100と異なり、液体採取器具100aの裏面には、スリット20の第1直線部21と第2直線部22との間に平坦部12aが存在する。これにより、
図29に示すように、液体採取器具100aを持ち上げて指90から引き離した後、表面張力により、平坦部12aを介してスリット20の第1直線部21と第2直線部22から血液が懸垂する。懸垂した血液の重量により、液体採取器具100aを持ち上げて指90から引き離した場合にスリット20には血液が摺り切り一杯まで満たされない。このように、
図27の時点においてスリット20が血液で満たされていたにもかかわらず、液体採取器具100aを持ち上げて指90から引き離した後の
図29の時点ではスリット20が血液で満たされない。したがって、溝15を有しない液体採取器具100aを用いた場合、スリット20を所望の容積となるように設計しても、設計した通りの量の血液を採取することができない。また、スリット20に満たされた場合の血液の量に比べて、懸垂した場合の採取された血液の量は、液体採取器具100aの引き離し方や引き離すスピードによってばらつきやすい。したがって、予め懸垂する血液の量を想定することは難しく、採取量を正確にするように設計することができない。本実施の形態の液体採取器具100は、溝がない場合のこのような課題を解決するものであり、採取される液体の量のばらつきを低減することができる。
【0063】
本実施の形態に係る液体採取器具100において、溝15は、面方向においてスリット20と溝15との間にある壁16の厚さを、表面11から裏面12に向かって漸次減少させるように形成されてもよい。
【0064】
この構成により、液体から本体10を引き離した際に液体が懸垂する面積を小さくできるため、液体採取器具100によって採取される液体の量のばらつきを低減することができる。
【0065】
本実施の形態に係る液体採取器具100において、本体10は、面方向においてスリット20と溝15との間にある壁16を裏面12側から切り欠く切欠き18,19を有してもよい。切欠き18,19は、面方向において、スリット20の第1直線部21及び第2直線部22のうちの少なくとも一方と溝15との間にある壁16を裏面12側から切り欠くものであってもよい。好ましくは、切欠き18,19は、面方向において、スリット20の第1直線部21の、湾曲部23に接続されていない側の端部25又は端部25の近傍、及びスリット20の第2直線部22の、湾曲部23に接続されていない側の端部26又は端部26の近傍のうちの少なくとも一方と溝15との間にある壁を前記裏面側から切り欠く。
【0066】
この構成により、液体排出時に、スリット20から切欠き18,19を介して溝15に空気が入る。この空気は、溝15の中の液体を押しのけるように作用し、液体の排出を助ける。したがって、切欠き18,19は、溝15の内部に液体が残存する事態を防止することができる。切欠き18,19が端部25,26又はその近傍にある場合は、溝15の一方の端部から空気が入り、空気が一方の端部から他方の端部まで順に溝15の中の液体を押しのけるため、より確実に溝15の内部に液体が残存する事態を防止することができる。
【0067】
本実施の形態に係る液体採取器具100において、スリット20の幅は、平面視において一定であってもよい。
【0068】
この構成により、スリット20の幅が端部25から端部26にかけて一定ではない場合に比べて、液体排出時に、スリット20の幅が変化する部分に液体が残る問題が生じない。
【0069】
本実施の形態に係る液体採取器具100は、検査キット150等の載置面に載置された場合に、本体10の裏面12が載置面に接触した状態を保持して自立できるように構成されてもよい。
【0070】
この構成により、操作者は、液体を完全に排出するまで、スリット20の底部を載置面に接触させた状態を維持し、液体採取器具100を把持したまま待機する必要がない。
【0071】
本実施の形態に係る液体採取器具100は、本体10の表面11から突出した持ち手30を備えてもよい。
【0072】
この構成により、液体採取器具100を動かす際に操作者の指が液体に触れることを防止することができる。したがって、持ち手30を備えることにより、液体採取器具100は、指の油分等の不純物が液体に混入することを防止することができる。液体が血液である場合には、スリット20の中の他人の血液が操作者の指に付着し、血液感染を引き起こす事態を防止することができる。
【0073】
持ち手30は、平面視においてスリット20から離れた位置に設けられてもよい。持ち手30は、平面視においてスリット20の中心を中心とする円の半径方向に延びる板状の形状を有してもよい。
【0074】
この構成により、操作者が持ち手30を把持した場合、操作者から見てスリット20が手で隠されることを防止することができる。したがって、操作者は、スリット20に液体が充填されたか否かを手に邪魔されずに容易に視認することができる。
【0075】
(変形例)
以上、本開示の実施の形態を説明したが、これらの説明は本開示の一例に過ぎない。上記の例示的な実施の形態に対しては、種々の改良や変形を行うことができる。例えば、以下のような変更が可能である。以下の変形例は適宜組み合わせることができる。
【0076】
<第1変形例>
上記の実施の形態では、スリット20の幅が深さ方向(z方向)に一定である例について説明した。しかしながら、本開示はこれに限定されない。
図30は、本開示の実施の形態の第1変形例に係る液体採取器具200aを示す断面図である。
図30は、
図8に対応する断面を示している。
図30に示すように、液体採取器具200aのスリット20aの第1直線部21a及び第2直線部22aは、その幅が本体10の表面から裏面に向かって漸次減少するテーパ形状を有する。
【0077】
液体は狭い方に溜まりやすい性質を持つため、この構成により、液体採取器具200aは、液体採取器具100に比べて、スリット20a内の液体を速く排出することができる。したがって、検査効率が向上し、操作者及び被検査者の負担を低減することができる。
【0078】
<第2変形例>
図31は、本開示の実施の形態の第2変形例に係る液体採取器具200bを示す断面図である。
図31は、
図8及び
図30に対応する断面を示している。
図31に示すように、液体採取器具200bのスリット20bの第1直線部21b及び第2直線部22bは、その幅が本体10の表面から裏面に向かって漸次増加するテーパ形状を有する。
【0079】
この構成により、液体採取器具200bは、液体採取器具100に比べて、スリット20bの底面に接触した液体を速く吸い上げることができる。したがって、検査効率が向上し、操作者及び被検査者の負担を低減することができる。
【0080】
<第3変形例>
上記の実施の形態では、本体10の遠位端13側に湾曲部23を有するU字形のスリット20を備える液体採取器具100について説明した。このようなU字形のスリット20を備える液体採取器具100は、形状がシンプルであるため、容易に成形を行うことができる。しかしながら、スリットは、所望の量の液体を毛細管現象により吸い上げて保持できるものであればよく、スリットの形状は前述のものに限定されない。
図32~35は、本開示の実施の形態の第3変形例に係る液体採取器具300a,300b,300c,300dをそれぞれ示す斜視図である。
図32の液体採取器具300aのスリット320aは、液体採取器具100とは逆に、本体10の近位端14側に湾曲部323aを有するU字形である。
【0081】
また、上記の実施の形態では、湾曲部23を1つだけ有するU字形のスリット20について説明したが、湾曲部は複数存在してもよい。例えば、
図33の液体採取器具300bのスリット320bは、2つの湾曲部を有する。
図34の液体採取器具300cのスリット320cは、6個の湾曲部を有する。
【0082】
さらに、上記の実施の形態では、一方の端部25から他方の端部26まで一筆書きできるようなU字形のスリット20について説明したが、スリットの途中に分岐点があってもよい。例えば、
図35の液体採取器具300cのスリット320cには、枝状又は襞状の凹凸が設けられている。これにより、スリット320cの表面積を大きくすることができ、少ないスペースであっても多くの液体を保持することができる。
【0083】
<第4変形例>
上記の実施の形態では、本体10の前方(遠位端13側)にスリット20を備え、後方(近位端14側)に持ち手30を備える液体採取器具100について説明した。このような形状は、
図19に示したような検査キット150の検体添加部151に液体採取器具100を載置する場合に使いやすいという利点を有する。しかしながら、本体と持ち手の位置関係は上記のものに限定されず、
図36~38に示すようなものであってもよい。
【0084】
図36は、本開示の実施の形態の第4変形例に係る液体採取器具400aを示す斜視図である。平面視において液体採取器具400aの持ち手430aが延びる方向と、スリット420の直線部421,422が延びる方向とは、45度の角度をなしている。持ち手430aが延びる方向を本体410の近位端414から見ると、スリット420の直線部421,422が延びる方向は、左に45度曲がっている。この構成は、
図19に示したような検査キット150の複数の検体添加部151が操作者から見て左右に並んでいる場合において、操作者が左手で持ち手430aを把持するときに有利である。この場合、例えば、
図1の液体採取器具100を使用するときは、持ち手30の長手方向を操作者から見て前後に延びる向きにして液体採取器具100を検査キット150上に置く必要がある。しかしながら、手首の可動域が狭いため、操作者が持ち手30を把持しながら持ち手30の長手方向を操作者から見て前後に延びる向きにすると、操作性が下がったり手首に負担がかかったりする。これに対して、第4変形例に係る液体採取器具400aでは、操作者が左手で持ち手430aを把持した場合、スリット420の直線部421,422が持ち手430aの長手方向に対して45度左方に曲がっているので、操作者は液体採取器具100を使用する場合に比べて容易に液体採取器具400aを検査キット150の検体添加部151上に置くことができる。したがって、この構成は操作者が左利きである場合に有利である。図示しないが、操作者が右利きである場合に有利であるように、持ち手の長手方向に対してスリットの直線部が右方向に曲がった構成が採用されてもよい。
【0085】
さらに、持ち手を持った場合に検査キット150の検体添加部151上に置きやすい構成として、
図37に示したような構成が採用されてもよい。
図37の液体採取器具400bでは、スリット420bが延びる方向の延長線上とは異なる位置に持ち手430bがある。これにより、複数の検体添加部151が手前から奥に向かって並んでいる上記のような場合に、操作者が右利きであっても左利きであっても、持ち手430bを把持して容易に液体採取器具400bを検体添加部151上に置くことができる。
【0086】
図38に示した液体採取器具400cでは、持ち手430cは、スリット420cの上部に設けられている。このような構成により、操作者が右利きであっても左利きであっても、持ち手430bを把持して容易に液体採取器具400cを検体添加部151上に置くことができる。
【0087】
本開示の実施の形態の第4変形例として例示した液体採取器具400a,400b,400c以外にも、液体採取器具は、操作者の利き手、手首の可動域、検査キットの構成等を考慮して、様々な形状に設計できる。
【0088】
<第5変形例>
図39は、本開示の実施の形態の第5変形例に係る液体採取器具500を示す斜視図である。液体採取器具500は、本体510と、スリット520と、持ち手530と、脚部540と、クリップ部550とを備える。このように、液体採取器具500は、液体採取器具100と比較して、クリップ部550を更に備えることを特徴とする。
【0089】
脚部540と持ち手530とのz方向の間には隙間があり、この隙間がクリップ部550として機能する。クリップ部550には、検査キット150の台紙等の薄い物体をy方向に差し込むことができる。
【0090】
図40は、液体採取器具500の使用例を示すための検査キット150の斜視図である。
図40に示した検査キット150は、
図19に示したものと同様である。
図40に矢印で示すように、操作者は、液体採取器具500のクリップ部550を検査キット150の台紙152に差し込む。これにより、液体採取器具500は、スリット520の底部を検査キット150の検体添加部151に接触させたまま固定される。この構成により、血液等の液体の排出中に液体採取器具500が転倒し、隣接する検体添加部151に液体が混入することを防止することができる。したがって、液体採取器具500は、クリップ部550を有することにより、検査の正確性を担保することができる。
【0091】
<第6変形例>
図41は、本開示の実施の形態の第6変形例に係る液体採取器具600を示す斜視図である。
図41の液体採取器具600は、
図1の液体採取器具100と比較して、本体10の表面11上に配置されたブリッジ601を更に備える。ブリッジ601は、スリット20の上に配置されている。ブリッジ601は、接着剤等により本体10の表面11に接着されてもよいし、射出成形等により本体10と一体的に形成されてもよい。ブリッジ601は、本体10の曲げに対する強度を向上させることができる。また、ブリッジ601は、スリット20の形状を保つように補強する機能を有する。これにより、例えば液体採取器具600の流通段階に本体10自体が曲がって破損することや、スリット20が潰れてその形状が変わってしまう事態を防止することができる。
【0092】
図42は、他の構成のブリッジ651~653を有する液体採取器具650を示す斜視図である。
図41の液体採取器具600と比較すると、
図42の液体採取器具650においては、ブリッジ651~653は、スリット20の上部ではなく、スリット20の中に配置されている。このような構成でも、本体10の曲げに対する強度の向上、及びスリット20の形状を保つように補強する機能を達成することができる。
【符号の説明】
【0093】
10 本体
11 表面
12 裏面
13 遠位端
14 近位端
15 溝
16 壁
20 スリット
21 第1直線部
22 第2直線部
23 湾曲部
30 持ち手
40 脚部
41 脚部
100 液体採取器具
150 検査キット
151 検体添加部