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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】自由水測定方法、及び自由水測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 5/02 20060101AFI20240112BHJP
【FI】
G01N5/02 E
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019234605
(22)【出願日】2019-12-25
(65)【公開番号】P2021103130
(43)【公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100124626
【弁理士】
【氏名又は名称】榎並 智和
(72)【発明者】
【氏名】白神 慧一郎
【審査官】鴨志田 健太
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/077782(WO,A1)
【文献】特開昭59-198351(JP,A)
【文献】特開2017-187463(JP,A)
【文献】特開平02-110357(JP,A)
【文献】特開2019-190896(JP,A)
【文献】国際公開第2011/092889(WO,A1)
【文献】米国特許第05656767(US,A)
【文献】特開2017-134036(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1発振器の近傍の空気の物性又は媒質の物性に応じて変化する第1発振周波数を検出する第1検出ステップと、
前記第1発振器又は前記第1発振器と異なる第2発振器の近傍の被検査物の物性に応じて変化する第2発振周波数を検出する第2検出ステップと、
前記第1発振周波数に対する前記第2発振周波数の周波数シフト量に基づいて前記被検査物の自由水量を特定する特定ステップと、
を含み、
前記特定ステップは、複素誘電率空間における前記周波数シフト量の分布上の前記被検査物の誘電率の変化に対する自由水量の変化特性に基づいて前記自由水量を特定する、自由水測定方法。
【請求項2】
第1発振器の近傍の空気の物性又は媒質の物性に応じて変化する第1発振周波数を検出する第1検出ステップと、
前記第1発振器又は前記第1発振器と異なる第2発振器の近傍の被検査物の物性に応じて変化する第2発振周波数を検出する第2検出ステップと、
前記第1発振周波数に対する前記第2発振周波数の周波数シフト量を取得し、前記被検査物の複素誘電率と周波数シフト量との既知の関係に基づいて、前記取得した周波数シフト量から前記被検査物の自由水量を特定する特定ステップと、
を含む、自由水測定方法。
【請求項3】
全体の水量から前記特定ステップにおいて特定された自由水量を差し引くことにより前記被検査物の水和水量を算出する算出ステップを含む
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の自由水測定方法。
【請求項4】
前記第1発振器及び前記第2発振器は、互いに隣接して配置されている
ことを特徴とする請求項1~請求項のいずれか一項に記載の自由水測定方法。
【請求項5】
発振器を含み、前記発振器の近傍の空気の物性又は媒質の物性に応じて変化する第1発振周波数と前記発振器の近傍の被検査物の物性に応じて変化する第2発振周波数とを検出する検出部と、
前記第1発振周波数に対する前記第2発振周波数の周波数シフト量に基づいて前記被検査物の自由水量を特定する特定部と、
を含み、
前記特定部は、複素誘電率空間における前記周波数シフト量の分布上の前記被検査物の誘電率の変化に対する自由水量の変化特性に基づいて前記自由水量を特定する、自由水測定装置。
【請求項6】
発振器を含み、前記発振器の近傍の空気の物性又は媒質の物性に応じて変化する第1発振周波数と前記発振器の近傍の被検査物の物性に応じて変化する第2発振周波数とを検出する検出部と、
前記第1発振周波数に対する前記第2発振周波数の周波数シフト量を取得し、前記被検査物の複素誘電率と周波数シフト量との既知の関係に基づいて、前記取得した周波数シフト量から前記被検査物の自由水量を特定する特定部と、
を含む、自由水測定装置。
【請求項7】
全体の水量から前記特定部により特定された自由水量を差し引くことにより前記被検査物の水和水量を算出する算出部を含む
ことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の自由水測定装置。
【請求項8】
前記検出部は、
第1発振器を含み、前記第1発振器の近傍の空気の物性又は媒質の物性に応じて変化する前記第1発振周波数を検出する第1検出部と、
第2発振器を含み、前記第2発振器の近傍の前記被検査物の物性に応じて変化する前記第2発振周波数を検出する第2検出部と、
を含む
ことを特徴とする請求項~請求項のいずれか一項に記載の自由水測定装置。
【請求項9】
前記第1発振器及び前記第2発振器は、互いに隣接して配置されている
ことを特徴とする請求項に記載の自由水測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自由水測定方法、及び自由水測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚等の生体組織、細胞、結晶、又は水溶液等に含まれる水分は、自由水(バルク水)と水和水(結合水)とに分類される。自由水は、生体組織等の内部を自由に移動することができる。これに対して、水和水は、タンパク質等の構造物に結合し、生命活動等に非常に重要な役割を果たす。いずれの分野においても、自由水及び水和水の量は、水分を含む物質の状態を詳細に把握するための重要なパラメータの1つになり得る。自由水及び水和水の量を評価することは、より一層重要になると考えられる。
【0003】
例えば、特許文献1には、試料を加熱し、加熱前後の試料の質量を測定することで、自由水量の割合を求める手法が開示されている。例えば、特許文献2~特許文献5、及び非特許文献1には、電極の近傍の試料により生じた誘電率の変化を電極の寄生容量の変化に伴う発振周波数の変化として検出することにより、試料に含まれる水分を評価する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-85699号公報
【文献】特開2017-187463号公報
【文献】国際公開第2017/130962号
【文献】特開2018-158号公報
【文献】特開2017-131230号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】満仲健、外6名、「120GHzと60GHz発振器アレイを用いて水の誘電緩和を評価するCMOSバイオセンサIC」、映像情報メディア学会技術報告、ITE Technical Report、2016年3月11日、第40巻、第12号、p.41-44
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された手法では、試料を加熱する必要がある。従って、測定対象が制限されると共に、自由水量の測定結果の精度を向上させることは難しい。また、特許文献2~特許文献5、及び非特許文献1に開示された手法では、自由水又は水和水だけを高精度に測定することは難しい。
【0007】
このように、従来の技術では、加熱に由来する状態変化を伴わずに、皮膚等の生体組織、細胞、結晶、又は水溶液等に含まれる水分のうち、自由水又は水和水だけを高精度に評価することは困難である。
【0008】
本発明は、このような事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、皮膚等の生体組織、細胞、結晶、又は水溶液等の被検査物に含まれる水分のうち、自由水又は水和水だけを高精度に評価するための新たな技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
いくつかの実施形態の第1態様は、第1発振器の近傍の空気に応じて変化する第1発振周波数を検出する第1検出ステップと、第1発振器又は第1発振器と異なる第2発振器の近傍の被検査物の物性に応じて変化する第2発振周波数を検出する第2検出ステップと、前記第1発振周波数に対する前記第2発振周波数の周波数シフト量に基づいて前記被検査物の自由水量を特定する特定ステップと、を含む、自由水測定方法である。
【0010】
いくつかの実施形態の第2態様は、第1態様において、全体の水量から前記特定ステップにおいて特定された自由水量を差し引くことにより前記被検査物の水和水量を算出する算出ステップを含む。
【0011】
いくつかの実施形態の第3態様では、第1態様又は第2態様において、前記特定ステップは、複素誘電率空間における前記周波数シフト量の分布上の前記被検査物の誘電率の変化に対する自由水量の変化特性に基づいて前記自由水量を特定する。
【0012】
いくつかの実施形態の第4態様は、第1発振器の近傍の媒質の物性に応じて変化する第1発振周波数を検出する第1検出ステップと、第2発振器の近傍の媒質内に分散された被検査物の物性に応じて変化する第2発振周波数を検出する第2検出ステップと、前記第1発振周波数及び前記第2発振周波数に基づいて前記被検査物における自由水の状態を特定する特定ステップと、を含む、自由水測定方法である。
【0013】
いくつかの実施形態の第5態様では、第4態様において、前記特定ステップは、前記第1発振周波数に対する前記第2発振周波数の差分に基づいて前記自由水の状態を特定する。
【0014】
いくつかの実施形態の第6態様では、第1態様~第5態様のいずれかにおいて、前記第1発振器及び前記第2発振器は、互いに隣接して配置されている。
【0015】
いくつかの実施形態の第7態様は、発振器を含み、前記発振器の近傍の空気に応じて変化する第1発振周波数と前記発振器の近傍の被検査物の物性に応じて変化する第2発振周波数とを検出する検出部と、前記第1発振周波数に対する前記第2発振周波数の周波数シフト量に基づいて前記被検査物の自由水量を特定する特定部と、を含む、自由水測定装置である。
【0016】
いくつかの実施形態の第8態様は、第7態様において、全体の水量から前記特定部により特定された自由水量を差し引くことにより前記被検査物の水和水量を算出する算出部を含む。
【0017】
いくつかの実施形態の第9態様では、第7態様又は第8態様において、前記特定部は、複素誘電率空間における前記周波数シフト量の分布上の前記被検査物の誘電率の変化に対する自由水量の変化特性に基づいて前記自由水量を特定する。
【0018】
いくつかの実施形態の第10態様では、第7態様~第9態様のいずれかにおいて、前記検出部は、第1発振器を含み、前記第1発振器の近傍の空気に応じて変化する前記第1発振周波数を検出する第1検出部と、第2発振器を含み、前記第2発振器の近傍の前記被検査物の物性に応じて変化する前記第2発振周波数を検出する第2検出部と、を含む。
【0019】
いくつかの実施形態の第11態様は、第1発振器を含み、前記第1発振器の近傍の媒質の物性に応じて変化する第1発振周波数を検出する第1検出部と、第2発振器を含み、前記第2発振器の近傍の媒質内に分散された被検査物の物性に応じて変化する第2発振周波数を検出する第2検出部と、前記第1発振周波数及び前記第2発振周波数に基づいて前記被検査物における自由水の状態を特定する特定部と、を含む、自由水測定装置である。
【0020】
いくつかの実施形態の第12態様では、第11態様において、前記特定部は、前記第1発振周波数に対する前記第2発振周波数の差分に基づいて前記自由水の状態を特定する。
【0021】
いくつかの実施形態の第13態様では、第10態様~第12態様のいずれかにおいて、前記第1発振器及び前記第2発振器は、互いに隣接して配置されている。
【0022】
なお、上記した複数の態様に係る構成を任意に組み合わせることが可能である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、皮膚等の生体組織、細胞、結晶、又は水溶液等の被検査物に含まれる水分のうち、自由水又は水和水だけを高精度に評価するための新たな技術を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施形態に係る自由水測定装置の構成の一例を示す概略図である。
図2】実施形態に係る発振器の構成の一例を示す概略図である。
図3A】実施形態に係る自由水測定装置の動作を説明するための説明図である。
図3B】実施形態に係る自由水測定装置の動作を説明するための説明図である。
図4】実施形態に係る処理装置の構成の一例を示す概略図である。
図5】実施形態に係る自由水測定装置の動作を説明するための説明図である。
図6】実施形態に係る自由水測定装置の動作を説明するための説明図である。
図7】実施形態に係る自由水測定装置の動作の一例を示すフロー図である。
図8】実施形態に係る自由水測定装置の動作を説明するための説明図である。
図9】実施形態に係る自由水測定装置の動作を説明するための説明図である。
図10】実施形態に係る自由水測定装置の動作を説明するための説明図である。
図11】実施形態に係る自由水測定装置の動作を説明するための説明図である。
図12】実施形態に係る自由水測定装置の動作の一例を示すフロー図である。
図13】実施形態に係る自由水測定装置の動作を説明するための説明図である。
図14】実施形態に係る自由水測定装置の動作を説明するための説明図である。
図15】実施形態に係る自由水測定装置の動作の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
この発明に係る自由水測定方法、及び自由水測定装置の実施形態の例について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、この明細書において引用された文献の記載内容や任意の公知技術を、以下の実施形態に援用することが可能である。
【0026】
実施形態に係る自由水測定装置は、発振器の近傍の被検査物の物性に応じて生じた発振器の少なくとも1つの発振パラメータの変化を発振周波数の変化として検出し、検出された発振周波数の変化に対応した被検査物の物性を測定する。発振パラメータには、発振器の抵抗成分、容量成分、誘導成分などがある。実施形態に係る自由水測定方法は、実施形態に係る自由水測定装置により実現される。以下、主に、被検査物の物性の1つである複素誘電率に応じて発振周波数が変化する場合について説明する。
【0027】
図1に、実施形態に係る自由水測定装置の構成例のブロック図を示す。
【0028】
実施形態に係る自由水測定装置1は、センサ装置100と、コントローラ200と、処理装置300とを含む。センサ装置100は、被検査物の物性に応じて変化する発振周波数を検出する。コントローラ200は、処理装置300からの制御を受け、センサ装置100を制御する。処理装置300は、コントローラ200を介してセンサ装置100を制御し、センサ装置100により得られた検出結果を解析して、被検査物の物性の測定結果を取得する。いくつかの実施形態では、コントローラ200は、処理装置300と一体的に形成される。いくつかの実施形態では、センサ装置100は、コントローラ200と一体的に形成される。
【0029】
センサ装置100は、発振器アレイ10と、発振周波数検出部30とを含む。発振器アレイ10は、半導体集積回路基板に2次元的に配列された複数の発振器20を含む。複数の発振器20のそれぞれの構成は同一である。実施形態に係る構成は、複数の発振器20の配列状態に限定されない。例えば、複数の発振器20は、半導体集計回路基板に1次元的又は3次元的に配列される。例えば、複数の発振器20は、半導体集積回路基板にマトリックス状又は千鳥状に配列される。
【0030】
複数の発振器20のそれぞれは、センサ素子として機能する。発振器20は、近傍に配置された被検査物(又は空気)の物性に応じて生じた発振パラメータの変化により発振周波数を変化させる。この発振周波数の変化は、被検査物の物性(例えば、複素誘電率)に対応した変化として検出される。
【0031】
図1では、説明の便宜上、複数の発振器20のうち、第1発振器20と、第2発振器20とが図示されている。第1発振器20の環境変化動作特性は、第2発振器20の環境変化動作特性とほぼ同様である(又は特性の差が所定の許容範囲内)。環境変化特性は、測定環境の変化(温度変化、湿度変化)に対する動作特性の変化(温度動作特性、湿度動作特性)を表す特性である。いくつかの実施形態では、双方の環境変化動作特性がほぼ同様になるように、第2発振器20は、第1発振器20に対して所定の距離以内に配置されている。いくつかの実施形態では、第2発振器20は、第1発振器20に隣接して配置されている。
【0032】
発振周波数検出部30は、発振器20の発振周波数を検出する。発振周波数検出部30の機能は、公知の周波数検出回路により実現される。いくつかの実施形態では、発振周波数検出部30は、複数の発振器20のそれぞれに対応して設けられる。いくつかの実施形態では、発振周波数検出部30は、複数の発振器20の2以上の発振器毎に設けられる。
【0033】
図2に、実施形態に係る発振器20の構成例を示す。図2では、説明の便宜上、発振周波数検出部30も図示されている。
【0034】
発振器20は、共振回路21と、差動回路22とを含む。
【0035】
共振回路21は、インダクタL0と、キャパシタC0、C1、C2とを含む。キャパシタC0は、インダクタL0と電気的に並列に接続されている。キャパシタC1の一端は、センサ部25を構成する1組の電極の一方に電気的に接続されている。キャパシタC1の他端は、インダクタL0の一端及びキャパシタC0の一端に電気的に接続されている。キャパシタC2の一端は、センサ部25を構成する1組の電極の他方に電気的に接続されている。キャパシタC2の他端は、インダクタL0の他端及びキャパシタC0の他端に電気的に接続されている。
【0036】
差動回路22は、差動トランジスタ対を含む公知の差動回路である。差動回路22は、共振回路21を駆動する。
【0037】
センサ部25の近傍には、被検査物が配置可能である。被検査物をセンサ部25の近傍に配置することにより、キャパシタC1とキャパシタC2とが被検査物を介して電気的に接続される。いくつかの実施形態では、センサ部25を構成する1組の電極が被検査物と接触することにより、キャパシタC1とキャパシタC2とが被検査物を介して電気的に接続される。いくつかの実施形態では、センサ部25を構成する1組の電極が被検査物と非接触の状態で電磁的に接続されることにより、キャパシタC1とキャパシタC2との間の寄生素子の状態(抵抗成分、容量成分、誘導成分の少なくとも1つ)が変化する。例えば、特許文献4に記載されているように、被検査物が被覆膜を介して電極と電磁的に接続されるように構成される。
【0038】
例えば、被検査物の等価回路は、図2に示すように、並列に接続された容量成分と抵抗成分とより表される。この場合、被検査物をセンサ部25の近傍に配置することにより、インダクタL0及びキャパシタC0と並列に接続される容量成分と抵抗成分とが変化する。この発振パラメータの変化により、発振周波数が変化する。容量成分は、誘電率(複素誘電率)に比例する。すなわち、被検査物の誘電率に応じて発振周波数が変化する。従って、発振周波数を検出することにより、検出された発振周波数に対応した被検査物の物性を推測することが可能になる。
【0039】
実施形態に係る発振器20の一例として、例えば特許文献2に開示されている発振器などがある。ここで、被検査物が空気の場合に検出される容量をCairとし、キャパシタC1、C2の合成容量値をCとし、インダクタL0の誘導成分をLとし、被検査物の複素誘電率εの実部をε’(分極成分)とし、複素誘電率εの虚部をε”(吸収成分)とする。このとき、発振周波数fは、式(1)のように表される。式(1)において、共振回路の実効的な誘導成分をLeffとし、実効的な容量成分をCeffとする。
【0040】
【数1】
【0041】
コントローラ200は、発振器アレイ10の複数の発振器20を選択的に制御し、所望の発振器20の発振周波数の変化の測定制御を行う。コントローラ200は、複数の発振器20のうち2以上の発振器を選択的に制御し、上記の測定制御を並列に、又は順次に実行することが可能である。コントローラ200は、複数の発振器20の1以上の発振器を互いに異なる制御タイミングで制御し、所定時間内に各発振器の発振周波数の変化を検出する測定制御を行うことが可能である。
【0042】
図3A及び図3Bに、水の複素誘電率の虚部(誘電損失スペクトル、吸収の大きさを表す)を示す。図3Aは、水と生体分子(例えば、タンパク質)の吸収スペクトルの一例を表す。図3Aでは、縦軸は複素誘電率の虚部を表し、横軸は周波数を表す。図3Bは、室温の水と熱水の吸収スペクトルの一例を表す。図3Bでは、縦軸は複素誘電率の虚部を表し、横軸は周波数を表す。
【0043】
図3Aに示すように、水の吸収スペクトルP1と生体分子の吸収スペクトルP2とを比較すると、吸収性が高い周波数帯域が互いに異なる。例えば、20GHz~100GHzでは、水の吸収性が高いが、生体分子の吸収性は低い。また、図3Bに示すように、室温の水の吸収スペクトルP3と熱水の吸収スペクトルP4とを比較すると、20GHzを境界に吸収性の変化が異なる。水の状態変化に対する敏感性を考慮すると、60GHz帯の発振周波数を用いることで、水の物理的性質の選択的な観測に有効である。
【0044】
そこで、実施形態に係る自由水測定装置1は、60GHz帯の発振器20を用いる。
【0045】
60GHz帯は、自由水の配向緩和が支配的になり、イオン分極(<MHz)、高分子の配向緩和(~10MHz)、及び水和水の配向緩和(~数GHz)の影響は無視できるほど小さくなる帯域である。10GHzより低周波側の周波数帯域では、上記の成分の影響を受けるため、自由水を選択的に観測することは難しくなる。一方、100GHzより高周波側の周波数帯域では、水分子や生体分子の分子間振動及び分子内振動の影響が大きくなるため、自由水だけに着目するのが困難になる。
【0046】
また、60GHz帯の水の複素誘電率は、1000GHz以上の高周波領域に比べて、温度依存性が大きい。これは、水分子の状態変化(具体的には水素結合環境の変化)に対して敏感になることを意味する。
【0047】
更に、60GHz帯の電磁波は、生体に対して非侵襲である。光子エネルギーの大きさは、可視光に比べて1万倍ほど小さい。
【0048】
また、実施形態に係るセンサ装置100によれば、波長に依存しない空間分解能が得られる。一般に、伝搬光の空間分解能は回折限界で決まるため、周波数60GHz(すなわち、波長は5mm)の遠方場では数mm以下の物質を認識することが困難である。しかしながら、センサ装置100では、共振器の近傍で電磁波が局在しており波が遠方へ伝搬することはないため、共振器の近傍(例えば、直上)の誘電率のみに感度が高い「近接場」センサとして機能する。従って、観測できる物質のサイズは、回折限界に依存することなく、共振器(発振器)のアレイ密度で決まる。例えば、50μm間隔で発振器を配列させることで、波長より2桁小さい物質を明瞭に検出することが可能になる。
【0049】
また、実施形態に係るセンサ装置100は、非常に微弱な電力で電磁波を発生させることができる。この場合、局在する電磁波の出力は非常に小さく、水分子の強制運動による温度上昇はほとんど認められない。一方で、実施形態に係るセンサ装置100が動作することで、回路基板がわずかに発熱する。また、環境ゆらぎによる温度変動もある。これらによる温度変化は、例えば60時間連続運転で0.4℃程度である。60時間連続で測定しても温度上昇は0.4℃程度であるため、測定により細胞にヒートショック応答が起こることはなく、生きている細胞が測定によって細胞死に至ることはない。
【0050】
以上のように、60GHz帯の発振周波数の変化を検出することで、非侵襲、且つ非染色で、生体分子の水の物性を測定することが可能になる。自由水測定装置1は、加熱に由来する状態変化を伴わずに、生体分子だけではなく、皮膚等の生体組織、細胞、結晶、又は水溶液等の被検査物における水の物性を測定することが可能である。
【0051】
処理装置300は、センサ装置100により得られた発振周波数に対する解析処理を実行する。
【0052】
図4に、図1の処理装置300の構成例のブロック図を示す。
【0053】
処理装置300は、特定部310と、算出部320とを含む。
【0054】
特定部310は、発振周波数検出部30により検出された第1発振器20による第1発振周波数と第2発振器20による第2発振周波数とに基づいて、被検査物に含まれる水分に関する情報を特定する。水分に関する情報として、自由水量、水和水量などがある。特定部310は、第1発振周波数を基準とした第2発振周波数に基づいて、被検査物に含まれる水分に関する情報を特定する。具体的には、特定部310は、第2発振周波数から第1発振周波数を差し引いた周波数シフト量に基づいて、被検査物に含まれる水分に関する情報を特定する。
【0055】
例えば、特定部310は、第1発振器20のセンサ部が空気であるときに検出された第1発振周波数と、第2発振器20のセンサ部の近傍に被検査物が配置されたときに検出された第2発振周波数とを取得する。特定部310は、第2発振周波数から第1発振周波数を差し引くことにより周波数シフト量を求める。特定部310は、後述するように、周波数シフト量に基づいて自由水量を特定する。なお、第1発振周波数を検出する発振器は、第2発振周波数を検出する発振器と同一の発振器であってよい。すなわち、自由水量を特定する場合、同一の発振器を用いて、センサ部が空気であるときの第1発振周波数と、センサ部の近傍に被検査物が配置されたときの第2発振周波数とを検出するように構成されていてもよい。
【0056】
更に、特定部310は、第1発振器20のセンサ部の近傍に培地(広義には、媒質)が配置されたときに検出された第1発振周波数と、第2発振器20のセンサ部の近傍に培地内に分散された被検査物が配置されたときに検出された第2発振周波数とを取得する。特定部310は、第2発振周波数から第1発振周波数を差し引くことにより得られた差分を用いることで、測定環境変化分をキャンセルすることができる。なお、上記の空気の発振周波数を検出するための発振器は、培地の発振周波数を検出するための発振器と異なる発振器であってよい。
【0057】
算出部320は、特定部310により特定された自由水量を用いて水和水量を求める。具体的には、あらかじめ水分の量が既知である場合に、算出部320は、水分の量から自由水量を差し引くことにより水和水量を求める。
【0058】
このような処理装置300の機能は、プロセッサにより実現される。プロセッサは、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、プログラマブル論理デバイス(例えば、SPLD(Simple Programmable Logic Device)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array))等の回路を含む。プロセッサは、例えば、記憶回路又は記憶装置に格納されているプログラムを読み出し実行することで、実施形態に係る機能を実現する。記憶回路又は記憶装置がプロセッサに含まれていてよい。また、記憶回路又は記憶装置がプロセッサの外部に設けられていてよい。同様に、コントローラ200の機能は、プロセッサにより実現されてよい。
【0059】
第1発振器20、第2発振器20及び発振周波数検出部30は、実施形態に係る「検出部」の一例である。第1発振器20及び発振周波数検出部30は、実施形態に係る「第1検出部」の一例である。第2発振器20及び発振周波数検出部30は、実施形態に係る「第2検出部」の一例である。
【0060】
(自由水量の定量評価)
次に、上記の自由水量の定量評価について説明する。
【0061】
図5に、タンパク質水溶液の複素誘電率の測定結果の一例を示す。図5は、被検査物(測定試料)としてのヒト血清アルブミン(HSA)(タンパク質の一例)の10wt%水溶液(25℃)の複素誘電率の実部(分極スペクトル)と複素誘電率の虚部(吸収スペクトル)の測定結果を表す。図5は、溶質(Solute)Q1、水和水(Hydration water)Q2、自由水(Free water、Bulk water)Q3について、各発振周波数における複素感受率成分をプロットしたものである。0.01~0.5GHzの帯域ではインピーダンスアナライザの周波数測定結果が用いられる。0.5~50GHzの帯域ではネットワークアナライザの周波数測定結果が用いられる。50~1000GHzの帯域ではテラヘルツ時間領域分光の周波数測定結果が用いられる。
【0062】
図5では、測定結果をDebye関数を用いた次式に従ってピークフィッティング解析を行って得られた吸収スペクトルQ4が図示されている。
【0063】
【数2】
【0064】
式(2)において、ω(=2πf)は角周波数を表し、σは電気伝導率[S/m]を表し、εは真空の誘電率(8.85×10-12)[F/m]を表し、Δεは緩和強度を表し、τは緩和時間[s]を表し、εは誘電率の高周波極限を表す。右辺の第1項は、溶質Q1に対応し、右辺の第2項及び第3項は水和水Q2に対応し、右辺の第4項及び第5項は自由水Q3に対応する。右辺の第2項はピークh1(不図示)に対応し、右辺の第3項はピークh2(不図示)に対応することを意味する。同様に、右辺の第4項はピークb1(不図示)に対応し、右辺の第5項はピークb2(不図示)に対応することを意味する。
【0065】
上記のように、自由水測定装置1によれば、誘電率の変化に対応した発振周波数の変化を検出することが可能である。ここで、測定試料がないとき(すなわち、測定試料が空気)に検出された第1発振器20の発振周波数をfLC(BKG)とし、測定試料があるときに検出された第2発振器20の発振周波数をfLC(SAM)とする。このとき、複素誘電率の実部と虚部とが大きくなると、周波数シフト量Δf(=fLC(BKG)-fLC(SAM))も増加する。そこで、自由水量が異なる複数のケースについて、複素誘電率と周波数シフト量との関係が既知であれば、測定により得られた周波数シフト量から自由水量を直接的に特定することが可能になる。
【0066】
図6に、実施形態に係る複素誘電率と周波数シフト量との関係の一例を示す。図6は、複素誘電率とセンサ装置100により検出された発振周波数の周波数シフト量との関係を表す二次元プロット(等高線マップ、複素誘電率空間における発振周波数の周波数シフト量の分布)に、図5のタンパク質水溶液の誘電率の変化に対する自由水量の変化特性を重畳したものである。図6において、縦軸は複素誘電率の虚部を表し、横軸は複素誘電率の実部を表す。誘電率の変化は、自由水量が100%、80%、60%、40%、20%のそれぞれの場合をプロットしたものである。この誘電率は、例えば、図5のグラフから求めることができる。
【0067】
すなわち、特定部310は、第1発振器20のセンサ部が空気であるときに検出された第1発振周波数と、第2発振器20のセンサ部の近傍に被検査物が配置されたときに検出された第2発振周波数とを取得する。特定部310は、第2発振周波数から第1発振周波数を差し引くことにより周波数シフト量Δfを求める。特定部310は、求められた周波数シフト量Δfから、図6に示す自由水量の変化を表す特性線上の位置を一意に特定し、特定された位置から自由水量を定量的に特定することが可能である。
【0068】
いくつかの実施形態では、特定部310は、特性線上の2点の測定結果を補間(例えば、線形補間)することにより、所望の位置における自由水量を特定する。例えば、周波数シフト量が0.6GHzのとき、特定部310は、自由水量が60%の位置と自由水量が40%のときの位置とを補間することにより、周波数シフト量が0.6GHzのときの自由水量(%)を求めることができる。
【0069】
図7に、実施形態に係る自由水測定装置1の第1動作例のフロー図を示す。処理装置300の図示しない記憶部には、図7に示す処理を実現するためのコンピュータプログラムが記憶されている。処理装置300は、このコンピュータプログラムに従って動作することにより、図7に示す処理を実行することが可能である。
【0070】
(S1:空気の発振周波数を検出)
まず、処理装置300は、コントローラ200を介してセンサ装置100を制御することにより、センサ装置100に空気の発振周波数を検出させる。
【0071】
これにより、発振周波数検出部30は、発振器アレイ10の複数の発振器のうち、測定試料がない発振器(あらかじめ決められた発振器(第1発振器20))による発振周波数fLC(BKG)を検出する。コントローラ200は、検出された発振周波数fLC(BKG)を取得し、取得された発振周波数fLC(BKG)を処理装置300に送る。
【0072】
(S2:測定試料の発振周波数を検出)
続いて、処理装置300は、コントローラ200を介してセンサ装置100を制御することにより、センサ装置100に測定試料の発振周波数を検出させる。
【0073】
これにより、発振周波数検出部30は、発振器アレイ10の複数の発振器のうち、測定試料が近傍に配置された発振器(あらかじめ決められた発振器(第2発振器20))による発振周波数fLC(SAM)を検出する。コントローラ200は、検出された発振周波数fLC(SAM)を取得し、取得された発振周波数fLC(SAM)を処理装置300に送る。
【0074】
(S3:周波数シフト量を算出)
次に、処理装置300は、周波数シフト量Δfを特定部310に算出させる。
【0075】
特定部310は、ステップS1において得られた発振周波数fLC(BKG)からステップS2において得られた発振周波数fLC(SAM)を差し引くことにより、周波数シフト量Δfを求める。
【0076】
(S4:自由水量を特定)
次に、処理装置300は、自由水量を特定部310に特定させる。
【0077】
特定部310は、ステップS3において算出された周波数シフト量Δfから、図6に示す自由水量の変化を表す特性線上の位置を一意に特定し、特定された位置から自由水量を特定する。
【0078】
(S5:水和水量を特定)
続いて、処理装置300は、水和水量を算出部320に算出させる。
【0079】
算出部320は、上記のように、既知の水分の量から、ステップS4において特定された自由水量を差し引くことにより水和水量を求める。
【0080】
以上で、自由水測定装置1の動作は終了である(エンド)。
【0081】
<アルブミンの熱変性に伴う水和状態変化の例>
次に、実施形態に係る構成を、上記のアルブミンの熱変性に伴う水和状態異変化の定量評価に適用した場合について説明する。
【0082】
10wt%HSA水溶液を熱変性させると、アルブミンの高次構造が変化し、水和状態が変化する。実施形態に係る自由水測定装置1によれば、従来の分光測定よりも高精度に水和状態の変化を観察することが可能になる。
【0083】
図8に、10wt%HSA水溶液の熱変性前後の周波数シフト量の時間変化の一例を示す。図8の左側の小グラフは、水の周波数シフト量(R2)とHSA水溶液の周波数シフト量(R1)との差分の時間変化を表したものである。図8の右側のグラフは、左側のグラフのベースラインの部分(定常時の部分)を拡大したものである。
【0084】
具体的には、図8は、HSA水溶液を25℃で2時間放置し(手順1)、15分間にわたってHSA水溶液を70℃で加温し(手順2)、7時間が経過するまでHSA水溶液を25℃で放置(手順3)した場合の周波数シフト量の時間変化を表す。
【0085】
70℃で加温されたHSA水溶液の周波数シフト量は、25℃で放置されていたときのHSA水溶液の周波数シフト量より増大する。これは、温度の上昇に伴って水及びHSA水溶液における60GHz帯の誘電率が大きくなるためである。
【0086】
25℃のとき、水(R2)は加温前後(変性前後)で一定である。これに対して、HSA水溶液は、同温であっても加温前後で周波数シフト量が変化する。これは、熱変性に伴う自由水量の変化に対応する。従って、実施形態における上記の手法を用いて、周波数シフト量の変化分Δf1から熱変性前後に変化した自由水量を求めることができる。すなわち、熱変性前の自由水量と熱変性後の自由水量を高精度に求めることができる上に、熱変性前の水和水量と熱変性後の水和水量も高精度に求めることができる。従って、図9に示すように、熱変性前後のアルブミン1分子あたりの水和水量(hydration number)を高精度に求めることができる。
【0087】
(長時間測定の安定性)
生体組織や生体分子中の水の状態を観察する場合、長時間に亘る測定が必要な場合がある。しかしながら、センサ装置100等の物理デバイスは、長時間に亘って動作させると、環境揺らぎと素子自体の発熱に起因して動作特性が変化する。
【0088】
図10に、発振周波数の時間変化の一例を示す。図10は、内部が37℃に保たれた恒温槽において、長時間に亘ってセンサ装置100で水の発振周波数を測定した結果を表す。図10において、縦軸は発振周波数を表し、横軸は時間を表す。
【0089】
図10に示すように、理想的には、時間が経過しても一定の発振周波数が検出されるべきにもかかわらず、時間経過と共に発振周波数が高くなる。例えば、標準偏差が9.5×10-3GHzとなり、センサ装置100を用いた長時間測定の結果には測定誤差が生じる。
【0090】
そこで、実施形態では、特定部310は、第1発振器20のセンサ部の近傍に培地が配置されたときに検出された第1発振周波数と、第2発振器20のセンサ部の近傍に培地内に分散された被検査物が配置されたときに検出された第2発振周波数とを取得する。特定部310は、第2発振周波数から第1発振周波数を差し引くことにより得られた差分を求め、求められた差分を用いて水の状態を評価する(例えば、自由水量を求める)ことで、測定環境変化分がキャンセルされた測定結果を取得する。具体的には、特定部310は、上記のように第1発振周波数と第2発振周波数とを取得し、第2発振周波数から第1発振周波数を差し引くことにより発振周波数の差分を求める。第2発振周波数をこの差分に代えて水の状態を評価することにより、培地内の被検査物における水の状態を高精度に測定することが可能になる。
【0091】
上記のように、第1発振器20及び第2発振器20は、互いに隣接して配置されていることが望ましい。
【0092】
図11に、発振周波数の差分の時間変化の一例を示す。図11は、第2発振周波数から第1発振周波数を差し引いて得られた差分Δfの時間経過の一例を表す。図11において、縦軸は発振周波数の差分を表し、横軸は時間を表す。
【0093】
図11に示すように、発振周波数の差分はほぼゼロになる。例えば、標準偏差が3.1×10-4GHzとなり、センサ装置100を用いた長時間測定の結果に測定誤差の影響はほぼなくなる。
【0094】
図12に、実施形態に係る自由水測定装置1の第2動作例のフロー図を示す。処理装置300の図示しない記憶部には、図12に示す処理を実現するためのコンピュータプログラムが記憶されている。処理装置300は、このコンピュータプログラムに従って動作することにより、図12に示す処理を実行することが可能である。
【0095】
(S11:培地の発振周波数を検出)
まず、処理装置300は、コントローラ200を介してセンサ装置100を制御することにより、センサ装置100に培地の発振周波数を検出させる。
【0096】
これにより、発振周波数検出部30は、発振器アレイ10の複数の発振器のうち、センサ部の近傍に培地が配置された発振器(あらかじめ決められた発振器(第1発振器20))による発振周波数fmediumを検出する。コントローラ200は、検出された発振周波数fmediumを取得し、取得された発振周波数fmediumを処理装置300に送る。
【0097】
(S12:測定試料の発振周波数を検出)
続いて、処理装置300は、コントローラ200を介してセンサ装置100を制御することにより、センサ装置100に、培地内に分散された測定試料の発振周波数を検出させる。
【0098】
これにより、発振周波数検出部30は、発振器アレイ10の複数の発振器のうち、培地内に分散された測定試料がセンサ部の近傍に配置された発振器(あらかじめ決められた発振器(第2発振器20))による発振周波数fSAMを検出する。コントローラ200は、検出された発振周波数fSAMを取得し、取得された発振周波数fSAMを処理装置300に送る。
【0099】
(S13:発振周波数の差分を算出)
次に、処理装置300は、発振周波数の差分を特定部310に算出させる。
【0100】
特定部310は、ステップS11において得られた発振周波数fmediumからステップS12において得られた発振周波数fSAMを差し引くことにより、発振周波数の差分を求める。
【0101】
(S14:差分を評価)
次に、処理装置300は、ステップS13において求められた発振周波数の差分を評価する。
【0102】
例えば、処理装置300は、ステップS13において求められた発振周波数の差分を用いて、図7に示す自由水量を定量的に求める処理を実行する。この場合、ステップS1では空気の発振周波数が上記のように第1差分として求められ、ステップS2では測定試料の発振周波数が上記のように第2差分として求められ、ステップS3では第1差分と第2差分とから周波数シフト量が算出される。
【0103】
以上で、自由水測定装置1の動作は終了である(エンド)。
【0104】
なお、いくつかの実施形態では、処理装置300は、測定開始前に、発振器アレイ10の複数の発振器のそれぞれについて、センサ部の近傍に培地が配置された状態で発振周波数を検出し、検出された複数の発振周波数のばらつきをキャンセルするためのキャリブレーション情報を算出する。処理装置300は、測定開始後に、キャリブレーション情報を用いて、検出された発振周波数を補正し、補正された発振周波数に対して水の状態の評価を上記のように実行してもよい。
【0105】
<SG1細胞の長時間測定の例>
次に、実施形態に係る構成を、SG1細胞の長時間測定に適用した場合について説明する。
【0106】
皮膚の最外層は、細胞死した細胞が積層された角質層である。角質層の深層側には、顆粒層がある。顆粒層の細胞は、外側から順にSG1細胞、SG2細胞、SG3細胞と呼ばれる。顆粒層においてSG1細胞がプログラムされた細胞死に移行することで、角質細胞に変化する。
【0107】
図13に、SG1細胞、SG2細胞、及び培地を測定試料とする発振周波数の差分の時間変化の一例を示す。図13では、縦軸は発振周波数の差分を表し、横軸はSG1細胞死を誘導してからの時間を表す。なお、図13において、SG2細胞は、採取直後に細胞死に移行した細胞である。
【0108】
図13に示すように、培地を測定試料とする発振周波数の差分の時間変化T1では、±3.1×10-4GHzの範囲内で変化する。また、SG2細胞を測定試料とする発振周波数の差分の時間変化T2では、±4.6×10-4GHzの範囲内で変化する。すなわち、時間変化T1、T2は、24時間に亘ってほぼ一定である。
【0109】
これに対して、SG1細胞を測定試料とする発振周波数の差分の時間変化T3では、35×10-4GHzの範囲内で変化し、特に、測定開始直後に発振周波数の差分が変化している。この変化は、細胞死に伴う水の変化である。
【0110】
図14に、測定開始直後の時間変化T3の拡大図を示す。
【0111】
従来、細胞死は、膜透過性の変化を蛍光プローブ等により観測することで定義される。この例では、図14のSG1細胞を蛍光プローブで観測することにより、膜透過性の変化が50%になるまでの時間を細胞死に移行する時間として、t50%=1.27±0.04hが観測された。これに対して、実施形態によれば、発振周波数の差分の変化が50%になるまでの時間を細胞死に移行する時間として、t50%=0.43±0.07hとなる。すなわち、細胞内の水の変化を高精度に検出することで、従来の細胞死と判断される時点より早い段階で細胞死であると判断することが可能になる(真の細胞死に移行する時間が短縮される)。
【0112】
このように、実施形態によれば、細胞死に移行する状態を高精度に特定することができる。それにより、細胞死に移行したと判断するための所定の閾値を設けることで、細胞死か否かを瞬時に判断することも可能になる。
【0113】
(その他の動作例)
実施形態に係る自由水測定装置1は、次のように動作することも可能である。
【0114】
図15に、実施形態に係る自由水測定装置1の第3動作例のフロー図を示す。処理装置300の図示しない記憶部には、図15に示す処理を実現するためのコンピュータプログラムが記憶されている。処理装置300は、このコンピュータプログラムに従って動作することにより、図15に示す処理を実行することが可能である。
【0115】
(S21:空気と培地の発振周波数を検出)
まず、処理装置300は、コントローラ200を介してセンサ装置100を制御することにより、センサ装置100に空気と培地の発振周波数を検出させる。
【0116】
これにより、発振周波数検出部30は、発振器アレイ10の複数の発振器のうち、センサ部の近傍に培地等の測定試料がない発振器による発振周波数fairを検出する。また、発振周波数検出部30は、発振器アレイ10の複数の発振器のうち、センサ部の近傍に培地が配置された発振器による発振周波数fmedium1を検出する。コントローラ200は、検出された発振周波数fair、fmedium1を取得し、取得された発振周波数fair、fmedium1を処理装置300に送る。
【0117】
(S22:周波数シフト量Δfmediumを算出)
次に、処理装置300は、周波数シフト量Δfmediumを特定部310に算出させる。
【0118】
特定部310は、ステップS21において得られた発振周波数fairから発振周波数fmedium1を差し引くことにより、周波数シフト量Δfmediumを求める。例えば、発振周波数fairが65.0GHzであり、発振周波数fmedium1が63.2GHzである場合、周波数シフト量Δfmediumは、1.8(=65.0-63.2)GHzである。
【0119】
(S23:測定試料の発振周波数を長時間測定)
続いて、処理装置300は、コントローラ200を介してセンサ装置100を制御することにより、培地内に懸濁させた細胞を測定試料として発振周波数の長時間測定を実行する。処理装置300は、所定のタイミングで、隣接する発振器の発振周波数の差分δfを繰り返し求める。
【0120】
例えば、0時間目ではδf=0.1GHz、1時間目ではδf=0.1GHz、・・・、24時間目ではδf=0.2GHzとなる。
【0121】
(S24:周波数シフト量Δfcellを算出)
次に、処理装置300は、周波数シフト量Δfcellを特定部310に算出させる。具体的には、処理装置300は、所定のタイミング毎に、細胞の周波数シフト量Δfcellを特定部310に算出させる。
【0122】
特定部310は、周波数シフト量Δfmediumと差分δfとを用いて、所定のタイミング毎に細胞の周波数シフト量Δfcellを算出する。例えば、0時間目ではΔfcell=Δfmedium-δf=1.8GHz-0.1GHz=1.7GHz、1時間目ではΔfcell=Δfmedium-δf=1.7GHz、・・・、24時間目ではΔfcell=Δfmedium-δf=1.8GHz-0.2GHz=1.6GHzとなる。
【0123】
(S25:自由水量を算出)
次に、処理装置300は、自由水量を特定部310に特定させる。
【0124】
特定部310は、ステップS24において算出された周波数シフト量Δfcellから、図6に示す自由水量の変化を表す特性線上の位置を一意に特定し、特定された位置から自由水量を特定する。
【0125】
いくつかの実施形態では、処理装置300は、水和水量を算出部320に算出させる。算出部320は、上記のように、既知の水分の量から、ステップS25において特定された自由水量を差し引くことにより水和水量を求める。
【0126】
以上で、自由水測定装置1の動作は終了である(エンド)。
【0127】
以上説明したように、実施形態では、60GHz帯の周波数で発振する発振器の近傍の被検査物の誘電率に応じて変化する発振周波数が検出される。そして、センサ部の被検査物が空気であるときに検出された第1発振周波数と、センサ部に被検査物が配置されたときに検出された第2発振周波数とから周波数シフト量が求められる。あらかじめ取得された自由水量の変化を表す特性線を用いることで、求められた周波数シフト量から自由水量を定量的に特定することができる。更に、センサ部に培地が配置された隣接する発振器の発振周波数を用いて測定環境変化をキャンセルするようにしたので、より高精度な測定結果を得ることが可能になる。
【0128】
従って、実施形態によれば、皮膚等の生体組織、細胞、結晶、又は水溶液等の被検査物に含まれる水分のうち、自由水又は水和水だけを非破壊、且つ非染色で高精度に測定することができる。特に、単一細胞レベルであっても、高い再現性で細胞内の平均的な水の状態を高精度に測定することができる。
【0129】
[効果]
実施形態に係る自由水測定方法、及び自由水測定装置について説明する。
【0130】
いくつかの実施形態に係る自由水測定方法は、第1発振器(20)の近傍の空気に応じて変化する第1発振周波数を検出する第1検出ステップと、第1発振器又は第1発振器と異なる第2発振器(20)の近傍の被検査物の物性に応じて変化する第2発振周波数を検出する第2検出ステップと、第1発振周波数に対する第2発振周波数の周波数シフト量に基づいて被検査物の自由水量を特定する特定ステップと、を含む。
【0131】
このような方法によれば、被検査物の複素誘電率の実部及び虚部と周波数シフト量との関係に基づいて、取得された周波数シフト量に対応する複素誘電率の実部及び虚部を特定することができる。それにより、複素誘電率の実部及び虚部と自由水量との関係に基づいて被検査物の自由水量を特定することが可能になる。従って、皮膚等の生体組織、細胞、結晶、又は水溶液等の被検査物に含まれる水分のうち、自由水だけを非破壊、且つ非染色で高精度に測定することができる。
【0132】
いくつかの実施形態は、全体の水量から特定ステップにおいて特定された自由水量を差し引くことにより被検査物の水和水量を算出する算出ステップを含む。
【0133】
このような方法によれば、皮膚等の生体組織、細胞、結晶、又は水溶液等の被検査物に含まれる水分のうち、水和水だけを非破壊、且つ非染色で高精度に測定することができる。
【0134】
いくつかの実施形態では、特定ステップは、複素誘電率空間における周波数シフト量の分布上の被検査物の誘電率の変化に対する自由水量の変化特性に基づいて自由水量を特定する。
【0135】
このような方法によれば、被検査物の誘電率の変化に対する自由水量の変化特性を予め測定しておくことで、周波数シフト量から被検査物の自由水量を特定することが可能になる。
【0136】
いくつかの実施形態に係る自由水測定方法は、第1発振器(20)の近傍の媒質の物性に応じて変化する第1発振周波数を検出する第1検出ステップと、第2発振器(20)の近傍の媒質内に分散された被検査物の物性に応じて変化する第2発振周波数を検出する第2検出ステップと、第1発振周波数及び第2発振周波数に基づいて被検査物における自由水の状態を特定する特定ステップと、を含む。
【0137】
このような方法によれば、媒質の物性に応じて変化する第1発振周波数と、媒質内に分散された被検査物の物性に応じて変化する第2発振周波数とを検出し、第1発振周波数及び第2発振周波数に基づいて被検査物の自由水の状態を特定するようにしたので、測定環境の変化や素子の温度特性にかかわらず、自由水の状態を高精度に測定することが可能になる。
【0138】
いくつかの実施形態では、特定ステップは、第1発振周波数に対する第2発振周波数の差分に基づいて自由水の状態を特定する。
【0139】
このような方法によれば、簡素な処理で、測定環境の変化や素子の温度特性にかかわらず、自由水の状態を高精度に測定することが可能になる。
【0140】
いくつかの実施形態では、第1発振器及び第2発振器は、互いに隣接して配置されている。
【0141】
このような方法によれば、測定環境の変化や素子の温度特性にかかわらず、自由水の状態をより一層高精度に測定することが可能になる。
【0142】
いくつかの実施形態に係る自由水測定装置(1)は、発振器(第1発振器20又は第2発振器20)を含み、発振器の近傍の空気に応じて変化する第1発振周波数と発振器の近傍の被検査物の物性に応じて変化する第2発振周波数とを検出する検出部と、第1発振周波数に対する第2発振周波数の周波数シフト量に基づいて被検査物の自由水量を特定する特定部(310)と、を含む。
【0143】
このような構成によれば、被検査物の複素誘電率の実部及び虚部と周波数シフト量との関係に基づいて、取得された周波数シフト量に対応する複素誘電率の実部及び虚部を特定することができる。それにより、複素誘電率の実部及び虚部と自由水量との関係に基づいて被検査物の自由水量を特定することが可能になる。従って、皮膚等の生体組織、細胞、結晶、又は水溶液等の被検査物に含まれる水分のうち、自由水だけを非破壊、且つ非染色で高精度に測定することができる。
【0144】
いくつかの実施形態は、全体の水量から特定部により特定された自由水量を差し引くことにより被検査物の水和水量を算出する算出部(320)を含む。
【0145】
このような構成によれば、皮膚等の生体組織、細胞、結晶、又は水溶液等の被検査物に含まれる水分のうち、水和水だけを非破壊、且つ非染色で高精度に測定することができる。
【0146】
いくつかの実施形態では、特定部は、複素誘電率空間における周波数シフト量の分布上の被検査物の誘電率の変化に対する自由水量の変化特性に基づいて自由水量を特定する。
【0147】
このような構成によれば、被検査物の誘電率の変化に対する自由水量の変化特性を予め測定しておくことで、周波数シフト量から被検査物の自由水量を特定することが可能になる。
【0148】
いくつかの実施形態では、前記検出部は、第1発振器(20)を含み、第1発振器の近傍の空気に応じて変化する第1発振周波数を検出する第1検出部(第1発振器20及び発振周波数検出部30)と、第2発振器(20)を含み、第2発振器の近傍の被検査物の物性に応じて変化する第2発振周波数を検出する第2検出部(第2発振器20及び発振周波数検出部30)と、を含む。
【0149】
このような構成によれば、第1発振器を用いて第1発振周波数を検出し、第2発振器を用いて第2発振周波数を検出することができるため、測定制御を簡素化したり、測定時間を短縮したりすることが可能になる。
【0150】
いくつかの実施形態に係る自由水測定装置(1)は、第1発振器(20)を含み、第1発振器の近傍の媒質の物性に応じて変化する第1発振周波数を検出する第1検出部(第1発振器20及び発振周波数検出部30)と、第2発振器(20)を含み、第2発振器の近傍の媒質内に分散された被検査物の物性に応じて変化する第2発振周波数を検出する第2検出部(第2発振器20及び発振周波数検出部30)と、第1発振周波数及び第2発振周波数に基づいて被検査物における自由水の状態を特定する特定部(310)と、を含む。
【0151】
このような構成によれば、媒質の物性に応じて変化する第1発振周波数と、媒質内に分散された被検査物の物性に応じて変化する第2発振周波数とを検出し、第1発振周波数及び第2発振周波数に基づいて被検査物の自由水の状態を特定するようにしたので、測定環境の変化や素子の温度特性にかかわらず、自由水の状態を高精度に測定することが可能になる。
【0152】
いくつかの実施形態では、特定部は、第1発振周波数に対する第2発振周波数の差分に基づいて自由水の状態を特定する。
【0153】
このような構成によれば、簡素な処理で、測定環境の変化や素子の温度特性にかかわらず、自由水の状態を高精度に測定することが可能になる。
【0154】
いくつかの実施形態では、第1発振器及び第2発振器は、互いに隣接して配置されている。
【0155】
このような構成によれば、測定環境の変化や素子の温度特性にかかわらず、自由水の状態をより一層高精度に測定することが可能になる。
【0156】
<その他>
以上に示された実施形態は、この発明を実施するための一例に過ぎない。この発明を実施しようとする者は、この発明の要旨の範囲内において任意の変形、省略、追加等を施すことが可能である。
【0157】
例えば、自由水測定装置1は、被検査物を含む培地が流れる流路を含み、流路の途中に設けられたセンサ装置100(発振器20)により、流路を流れる被検査物の発振周波数を検出するように構成してもよい。
【符号の説明】
【0158】
1 自由水測定装置
10 発振器アレイ
20 発振器
20 第1発振器
20 第2発振器
30 発振周波数検出部
100 センサ装置
200 コントローラ
300 処理装置
310 特定部
320 算出部
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
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図8
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図10
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図15