IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人産業医科大学の特許一覧

<>
  • 特許-マスク用冷却装置およびマスク装置 図1
  • 特許-マスク用冷却装置およびマスク装置 図2
  • 特許-マスク用冷却装置およびマスク装置 図3
  • 特許-マスク用冷却装置およびマスク装置 図4
  • 特許-マスク用冷却装置およびマスク装置 図5
  • 特許-マスク用冷却装置およびマスク装置 図6
  • 特許-マスク用冷却装置およびマスク装置 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】マスク用冷却装置およびマスク装置
(51)【国際特許分類】
   A62B 18/02 20060101AFI20240112BHJP
   A62B 18/08 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
A62B18/02 Z
A62B18/08 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020002928
(22)【出願日】2020-01-10
(65)【公開番号】P2021108963
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】506087705
【氏名又は名称】学校法人産業医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100128451
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 隆一
(72)【発明者】
【氏名】安藤 肇
(72)【発明者】
【氏名】大神 明
(72)【発明者】
【氏名】池上 和範
(72)【発明者】
【氏名】吉武 英隆
(72)【発明者】
【氏名】世古口 真吾
【審査官】菅 和幸
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-083672(JP,A)
【文献】実開昭60-195050(JP,U)
【文献】特開2010-259555(JP,A)
【文献】国際公開第2017/057168(WO,A1)
【文献】登録実用新案第3152793(JP,U)
【文献】特開2004-267310(JP,A)
【文献】特開2013-180044(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62B 18/02
A62B 18/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体の鼻および口を覆うマスク本体と、前記マスク本体に進入する外気から粉塵もしくは有害物質を除去するフィルタ部とを備えた呼吸用保護具に設けられるマスク用冷却装置であって、
前記呼吸用保護具に進入する外気を冷却する冷却部と、
前記呼吸用保護具の外側に設けられ、前記冷却部を収容する筐体とを有し、
前記筐体が、吸気孔および吸気弁を有し、前記呼吸用保護具の装着者が息を吸った場合に、前記吸気孔のみから前記筐体内に外気が取り入れられ、前記吸気孔から取り入れられた外気が前記冷却部によって冷却された後、前記呼吸用保護具に取り入れられるマスク用冷却装置。
【請求項2】
前記呼吸用保護具が、電動ファンを有する請求項1記載のマスク用冷却装置。
【請求項3】
前記筐体が、前記マスク本体に設けられた前記フィルタ部に対して着脱可能に構成されている請求項1または2記載のマスク用冷却装置。
【請求項4】
前記筐体と前記フィルタ部とを接続するアタッチメントであって、前記フィルタ部の形状に応じて形成されたアタッチメントを複数備える請求項3記載のマスク用冷却装置。
【請求項5】
前記冷却部が、ラジエータを有し、
前記ラジエータに冷却液を供給するポンプと、前記冷却液を冷却する冷却機構とを備えた請求項1から4いずれか1項記載のマスク用冷却装置。
【請求項6】
前記冷却機構が、前記冷却液が流れる流路と、前記流路に対して着脱可能な冷却剤とを有する請求項5記載のマスク用冷却装置。
【請求項7】
前記筐体に排気孔が設けられていない請求項1記載のマスク用冷却装置。
【請求項8】
前記吸気孔および吸気弁が、前記呼吸用保護具と前記筐体との接続部分に対向する前記筐体の面に設けられている請求項1記載のマスク用冷却装置。
【請求項9】
前記吸気孔および吸気弁と、前記冷却部と、前記呼吸用保護具と前記筐体との接続部分とが、前記吸気孔からの吸気方向について一直線上に配置されている請求項1記載のマスク用冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスク本体に進入にする外気から粉塵もしくは有害物質を除去し、かつ外気を冷却するマスク用冷却装置およびマスク装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、外気に含まれる粉塵や有害物質を取り除くフィルタや電動ファンなどを備えたマスク型の呼吸用保護具が提案されている。
【0003】
このような呼吸用保護具を使用する場合、使用時の気温によってはマスク本体内に熱風が進入するという問題がある。特に電動ファン付きの呼吸用保護具については、装着者が息を吸った際に電動ファンが回転し、その回転によりマスク本体内に外気を取り入れることによって、マスク本体内が陰圧となるのを防止しているため、熱風がマスク本体内に積極的に送風されることになり、装着者にとっては非常に呼吸がし辛い状況になるとともに、装着者の深部体温が上昇し、熱中症を招くおそれがあった。
【0004】
ここで、特許文献1には、冷却送風ユニットと電動ファンを備えた呼吸用保護具が提案されている。また、特許文献2には、冷却機能を備えたマスク装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-180044号公報
【文献】国際公開第2017-057168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の呼吸用保護具においては、冷却送風ユニットがゴーグル部に設けられているため、吸気そのものを冷却する機構となっていない。また、災害用であり、反復継続して長時間使用する仕組みとなっていない。
【0007】
また、特許文献2に記載のマスク装置は、マスク本体内部に冷却用の液体路を設けたものであるため、装着者の吸気の妨げとなる可能性があり、いわゆるマスク性能に関わる国家検定を通過できず、市販できない可能性がある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、装着者の吸気を十分に冷却することができ、マスク性能に関わる国家検定への影響も少ないマスク用冷却装置およびマスク装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のマスク用冷却装置は、人体の鼻および口を覆うマスク本体と、マスク本体に進入にする外気から粉塵もしくは有害物質を除去するフィルタ部とを備えた呼吸用保護具に設けられるマスク用冷却装置であって、呼吸用保護具の外側に設けられ、呼吸用保護具に進入する外気を冷却する冷却部を備える。
【0010】
また、上記本発明のマスク用冷却装置において、呼吸用保護具は、電動ファンを有することができる。
【0011】
また、上記本発明のマスク用冷却装置において、冷却部は、マスク本体に設けられたフィルタ部に対して着脱可能に構成することができる。
【0012】
また、上記本発明のマスク用冷却装置においては、冷却部とフィルタ部とを接続するアタッチメントであって、フィルタ部の形状に応じて形成されたアタッチメントを複数備えることができる。
【0013】
また、上記本発明のマスク用冷却装置においては、少なくとも冷却部が筐体内に収容され、筐体に対して吸気孔および吸気弁を設けることができる。
【0014】
また、上記本発明のマスク用冷却装置において、冷却部は、ラジエータを有することができ、ラジエータに冷却液を供給するポンプと、冷却液を冷却する冷却機構とを備えることができる。
【0015】
また、上記本発明のマスク用冷却装置において、冷却機構は、冷却液が流れる流路と、流路に対して着脱可能な冷却剤とを有することができる。
【0016】
本発明のマスク装置は、人体の鼻および口を覆うマスク本体と、マスク本体に進入にする外気から粉塵または有害物質を除去するフィルタ部と、マスク本体に進入する外気を冷却する冷却部とを備え、冷却部が、マスク本体の外側に設けられ、マスク本体側から冷却部およびフィルタ部の順で設けられる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のマスク用冷却装置によれば、呼吸用保護具の外側に設けられ、呼吸用保護具に進入する外気を冷却する冷却部を備えるようにしたので、呼吸用保護具の装着者の吸気を十分に冷却することができる。したがって、装着者の深部体温を下げ、熱中症を防止する効果を期待できる。さらに、呼吸用保護具としては、既に市販されてものと同様の構成を採用することができるので、マスク性能に関わる国家検定への影響も少ない。
【0018】
本発明のマスク装置によれば、マスク本体の外側に設けられ、マスク本体に進入する外気を冷却する冷却部を備えるようにしたので、マスク装置の装着者の吸気を十分に冷却することができる。したがって、装着者の深部体温を下げ、熱中症を防止する効果を期待できる。また、マスク本体側から冷却部およびフィルタ部の順で設けるようにしたので、フィルタ部によって粉塵や有害物質が除去され、これにより冷却部に粉塵や有害物質が付着して冷却機能が低下するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明のマスク用冷却装置の一実施形態を用いたマスク装置を人が装着した状態を示す図
図2】マスク用冷却装置の全体構成を示す図
図3】ケースの斜視図
図4図3に示すケースを接続部側(矢印A方向)から見た図
図5図3に示すケースを接続部側とは反対側(矢印B方向)から見た図
図6】高温環境下で運動(作業)を行った場合におけるマスク本体内に進入する外気の温度の測定結果を示すグラフ
図7】冷却機構のその他の実施形態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明のマスク用冷却装置の一実施形態を用いたマスク装置について詳細に説明する。図1は、本実施形態のマスク装置1を人が装着した状態を示す図である。
【0021】
本実施形態のマスク装置1は、図1に示すように、呼吸用保護具10と、マスク用冷却装置20とを備えている。本実施形態において、マスク用冷却装置20は、呼吸用保護具10に対して着脱可能に構成されており、図1は、呼吸用保護具10にマスク用冷却装置20が取り付けられた状態を示している。
【0022】
本実施形態の呼吸用保護具10は、人体Hの鼻および口を覆うマスク本体11と、マスク本体に進入する外気から粉塵もしくは有害物質を除去するフィルタ部12と、電動ファンを備えたファン部13とを備えている。
【0023】
マスク本体11は、たとえば樹脂などから形成された椀型の面体部材を備え、面体部材の開口部分が人体Hの顔に押し付けられることによって、鼻および口が覆われる。また、面体部材の開口側とは反対側の下部には、外気を取り入れるための吸気孔11aが形成されている。また、図示省略したが、マスク本体11には、呼気を排出するための排気孔が形成されている。また、マスク本体11には、ベルト部14が設けられており、図1に示すようにベルト部14が人体Hの後頭部に掛けられることによって、マスク本体11が、頭部に固定される。
【0024】
フィルタ部12は、マスク本体11の吸気孔11aに対して設けられ、上述したように外気から粉塵もしくは有害物質を除去可能なフィルタを備える。フィルタは交換可能に構成されている。
【0025】
ファン部13は、フィルタ部12とマスク本体11との間に設けられ、電動ファンを備えている。電動ファンが回転することによってマスク本体11外からマスク本体11内に送風される。本実施形態のファン部13は、図示省略した呼吸感知センサとファン制御部とを備えている。呼吸感知センサは、マスク本体11が人体に装着された状態において、人の呼吸を感知するセンサであって、具体的には、マスク本体11内の気圧を検出するセンサである。
【0026】
ファン制御部は、人が息を吸うことによって、マスク本体11内の気圧が所定閾値以下になったことが呼吸感知センサにより検出された場合に、電動ファンを回転させ、マスク本体11内に送風する。これによりマスク本体11内が陰圧になることを防止することができ、呼吸をし易くすることができる。また、マスク本体11内を常の陽圧に維持することによって、マスク本体11内に粉塵もしくは有害物質が進入するのを防止することができる。
【0027】
また、ファン制御部は、人が息を吐くときには電動ファンを駆動しないので、人の呼吸を妨げることはない。
【0028】
本実施形態においては、呼吸用保護具10として、国などの検定試験を通過した既に市販などされているものを用いるものとする。ただし、これに限られるものではない。
【0029】
そして、本実施形態のマスク用冷却装置20は、上述したような構成の呼吸用保護具10に対して着脱可能に設けられるものである。これにより、外気が高温な環境で作業をする場合にのみマスク用冷却装置20を取り付けて使用することができ、外気が特に高温でない環境で作業をする場合には、マスク用冷却装置20を取り外して呼吸用保護具10のみを使用することができる。
【0030】
図1では、マスク用冷却装置20の冷却部21と冷却液用チューブ25のみを示しており、図2が、マスク用冷却装置20の全体構成を示す図である。
【0031】
マスク用冷却装置20は、図2に示すように、冷却部21と、ポンプ22と、リザーバタンク23と、冷却機構24と、冷却液用チューブ25とを備えている。冷却部21は、呼吸用保護具10のフィルタ部12に着脱可能に構成されたものであり、ポンプ22、リザーバタンク23および冷却機構24は、たとえば呼吸用保護具10を装着する人が持つバッグまたはリュックなどに収容される。すなわち、本実施形態のマスク用冷却装置20は、可搬型の冷却装置であり、従来のチラーを用いた冷却装置と比較すると、極めて軽量で持ち運びを容易とすることができる。また、乾電池でも動作させることができるので、可搬性に優れる。以下、各部の詳細について説明する。
【0032】
冷却部21は、具体的には、ラジエータ21aと、ラジエータ21aを収容するケース21bとを備えている。
【0033】
ラジエータ21aは、冷却液用チューブ25を流れる冷却液が供給され、これにより周囲の空気を冷却する。ラジエータ21aを流れた冷却液は、冷却液用チューブ25を介してポンプ22に向かって排出される。本実施形態では、一般的に市販されている矩形状のラジエータ21aを用いるが、これに限らず、たとえばラジエータ21aを収容するケース21bに設けられる後述する吸気孔21hに対応するラジエータ21aの位置に、貫通孔を設けるようにしてもよい。これにより、装着者の吸気がラジエータ21aによって妨げられるのを抑制することができる。
【0034】
ケース21bは、ラジエータ21aを収容するとともに、呼吸用保護具10に接続される接続部21cを有する。接続部21cは、フィルタ部12の形状に合わせて形成されており、フィルタ部12に嵌合することによってケース21bがフィルタ部12に装着される。本実施形態では、フィルタ部12は円形で構成され、ケース21bの接続部21cは、円筒形で形成され、接続部21cの内径とフィルタ部12の外形とがほぼ一致するように形成されている。そして、接続部21cの中心にフィルタ部12の中心が位置するようにフィルタ部12が挿入されることによって、冷却部21が、フィルタ部12に装着される。
【0035】
図3は、ケース21bの斜視図である。ケース21bは、上述した接続部21cと、収容部21dと、蓋部21eと、留め部21fとを備えている。
【0036】
収容部21dは、上面が取り除かれた箱体から形成されるものであり、その箱体の中にラジエータ21aが収容される。そして、収容部21dの上面に蓋部21eが設けられている。図3に示すように、収容部21dに対して蓋部21eが設けられた状態において、収容部21dの側面と蓋部21eの側面とが同一面となるように構成されている。そして、蓋部21eの留め部21fが、収容部21dに設けられた凹部(図示省略)に嵌合することによって、蓋部21eが収容部21dに固定される。なお、蓋部21eは、収容部21dに対して着脱可能に構成されており、これによりラジエータ21aのメンテナンスおよび交換などを行うことができる。
【0037】
図4は、図3に示すケース21bを接続部21c側(矢印A方向)から見た図であり、図5は、図3に示すケース21bを接続部21c側とは反対側(矢印B方向)から見た図である。
【0038】
図4および図5に示すように、ケース21bの接続部21cと対向する壁部21gの中央には、吸気孔21hが形成されている。マスク用冷却装置20が取り付けられた呼吸用保護具10を装着した人が、息を吸った場合には、この吸気孔21hのみから外気が取り入れられる。このように、ケース21bによってラジエータ21aを覆い、吸気孔21hのみで外気を取り入れるように構成することによって、ケース21b内の空気の放熱を防止することができ、ケース21b内の空気の温度を低く維持することができる。
【0039】
また、ケース21bの吸気孔21hには、十字形状と円形状のリブが形成されている。このリブには、図示省略した吸気弁が設けられる。吸気弁は、ケース21b内への外気の吸気は可能にするが、ケース21b内の空気の外部への排出を妨げるものである。このように吸気弁を設けることによって、ケース21b内の冷気が、外に漏れだすのを防止することができる。
【0040】
また、ケース21bの壁部21gには、蓋部21eに跨る2つの孔25aが設けられている。この2つの孔25aは、ラジエータ21aに接続される2本の冷却液用チューブ25が設置される貫通孔である。
【0041】
図2に戻り、冷却部21とポンプ22との間、ポンプ22とリザーバタンク23との間、リザーバタンク23と冷却機構24との間、および冷却機構24と冷却部21との間は、それぞれ冷却液用チューブ25が設けられている。
【0042】
ポンプ22は、冷却液用チューブ25内の冷却液を循環させるものである。ポンプ22から押し出された冷却液は、リザーバタンク23に一旦貯留された後、冷却機構24に供給される。そして、冷却機構24において冷却液が冷却され、その冷却された冷却液が、ラジエータ21aに供給される。そして、ラジエータ21a内を通過した冷却液は、冷却液用チューブ25を介して再びポンプ22に戻される。
【0043】
リザーバタンク23は、上述したように冷却液を一旦貯留するものであり、冷却液の交換や冷却液の温度計測のために用いられるものである。たとえばリザーバタンク23に温度センサを設け、その温度センサによって検出された冷却液の温度が、予め設定された閾値以上となった場合には、ランプを点灯したり、音を鳴らしたりして警告するようにしてもよい。なお、リザーバタンク23は設けずにマスク用冷却装置20を構成するようにしてもよい。
【0044】
冷却機構24は、冷却管24a(本発明の流路に相当する)と、冷却剤24bとを備えている。冷却管24aは、1本の銅管を円筒形状に巻いたものである。冷却管24aの一端には、リザーバタンク23に接続された冷却液用チューブ25が接続され、冷却管24aの他端には、ラジエータ21aに接続された冷却液用チューブ25が接続されている。そして、リザーバタンク23から流れ出した冷却液が冷却管24aに流入し、冷却管24a内を通過した後、冷却液用チューブ25を介してラジエータ21aに供給される。
【0045】
円筒形状の冷却管24aの中央には冷却剤24bが挿入されており、これにより冷却管24a内の冷却液が冷却される。冷却剤24bは、たとえばボトル状の容器内に保冷液を充填したものであり、冷却管24aに対して挿抜可能とすることによって交換可能に構成されている。このように、冷却剤24bを交換可能とすることによって、反復継続して使用することができる。
【0046】
次に、上述した実施形態のマスク装置1の使用方法および効果について説明する。
【0047】
まず、マスク装置1の装着者が、高温環境下で作業する場合、装着者は、呼吸用保護具10のフィルタ部12に対してマスク用冷却装置20の冷却部21を取り付ける。そして、冷却部21が取り付けられた呼吸用保護具10を頭部に装着する。なお、この際、マスク用冷却装置20のポンプ22を予め駆動しておき、冷却液の循環を開始しておいてもよいし、頭部に装着した後にポンプ22を駆動し始めてもよい。
【0048】
そして、装着者が吸気した場合には、上述したようにファン部13の電動ファンが回転するとともに、外気が呼吸用保護具10のマスク本体11内に取り入れられるが、この際、外気は、冷却部21のケース21bの吸気孔21hからのみ進入し、ケース21b内のラジエータ21aによって冷却される。そして、ラジエータ21aによって冷却された外気が、フィルタ部12およびファン部13を介してマスク本体11内に進入する。これにより、呼吸用保護具10の装着者の吸気を十分に冷却することができる。したがって、装着者の深部体温を下げ、熱中症を防止する効果が期待できる。さらに、呼吸用保護具10としては、既に市販されてものと同様の構成を採用することができるので、マスク性能に関わる国家検定への影響も少ない。
【0049】
次に、上記実施形態のマスク装置1におけるマスク用冷却装置20による外気の冷却効果について、以下に説明する。図6は、高温環境下で運動(作業)を行った場合におけるマスク本体11内に進入する外気の温度の測定結果を示すグラフである。図6では、マスク装置1の装着者が、気温28℃、湿度45%、WBGT23度の環境下で安静にしている状態(安静期間)から、気温36℃、湿度45%、WBGT29度の環境下に移動して運動を行い(運動期間)、その後、再び気温28℃、湿度45%、WBGT23度の環境下に戻り安静にした場合(安静期間)におけるマスク本体11内に進入する外気の温度変化を示している。
【0050】
図6のグラフAは、装着者が上記実施形態のマスク用冷却装置20を装着した場合の冷却部21(ケース21b)内の温度を測定した結果である。グラフAに示すように、装着者が高温環境下で運動している間、冷却部21内の温度は、冷却部21外の温度よりも10℃程度低く維持できていることがわかる。
【0051】
これに対し、グラフBは、装着者がマスク用冷却装置20を用いず、呼吸用保護具10のみを装着した場合におけるマスク本体11内の温度を計測した結果であり、グラフCは、ファン部13を備えていない市販の防塵マスクを装着した場合における面体内(マスク本体内に相当)の温度を計測した結果である。グラフBおよびグラフCに示すように、マスク用冷却装置20を用いていない場合には、マスク本体内の温度は、ほぼマスク本体外の環境温度と同じであり、装着者は、高温の外気を吸う状態で運動(作業)をしなければならないことがわかる。
【0052】
また、上記実施形態のマスク装置1においては、呼吸用保護具10のフィルタ部12に対して冷却部21を着脱可能な構成としたが、一般的に市販されている呼吸用保護具10のフィルタ部12の大きさは1種類に限られない。
【0053】
そこで、たとえば冷却部21のケース21bの接続部21cを樹脂などから形成して柔軟性をもたせ、複数種類の大きさのフィルタ部12に着脱可能に構成するようにしてもよい。また、別の方法としては、ケース21bの接続部21cの形状を円筒形ではなく、接続先に向かって次第に径が広がるようなテーパ-形状(円錐形状)とし、これにより複数種類の大きさのフィルタ部12に着脱可能に構成するようにしてもよい。
【0054】
また、フィルタ部12は、形状についても円形だけでなく、矩形状である場合もある。したがって、フィルタ部12と冷却部21とを接続するアタッチメントであって、種々の大きさおよび形状の複数のフィルタ部12に応じた複数のアタッチメントを備えるようにしてもよい。これにより、市販の種々の呼吸用保護具10に対して冷却部21を取り付けることができ、マスク用冷却装置20の汎用性を向上させることができる。
【0055】
また、上記実施形態のマスク用冷却装置20においては、冷却機構24の冷却管24aを円筒形状に形成するようにしたが、これに限らず、図7に示すように、1本の冷却管27を蛇行させて対向する2面を形成し、その2面の間に矩形状の冷却剤26を挟み込むようにしてもよい。この場合も、冷却剤26は着脱可能に構成することが好ましい。このように冷却管27を形成することによって、大容量の保冷液を充填可能な冷却剤26を用いることができる。また、冷却機構24の厚さを薄くすることができ、取扱いが容易となる。
【0056】
また、上記実施形態においては、呼吸用保護具10に対してマスク用冷却装置20の冷却部21を着脱可能な構成としたが、これに限らず、呼吸用保護具10と冷却部21とを一体化してマスク装置を構成するようにしてもよい。このように呼吸用保護具10と冷却部21とを一体的に構成する場合には、マスク本体11側から冷却部21、ファン部13およびフィルタ部12の順で設けることが好ましい。フィルタ部12を通過した外気を冷却部21に取り入れることによって、冷却部21のラジエータ21aに粉塵や有害物質が付着して冷却機能が低下するのを防止することができる。
【0057】
また、上記実施形態のマスク用冷却装置20や呼吸用保護具10と冷却部21とを一体化したマスク装置において、冷却部21にラジエータ21aを設けるのではなく、たとえば小型の冷却剤や、ペルチェ素子などを有する小型の冷却装置や、その他の公知な小型の冷却装置を設けるようにしてもよい。これにより、マスク装置を小型化することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 マスク装置
10 呼吸用保護具
11 マスク本体
11a 吸気孔
12 フィルタ部
13 ファン部
14 ベルト部
20 マスク用冷却装置
21 冷却部
21a ラジエータ
21b ケース
21c 接続部
21d 収容部
21e 蓋部
21f 留め部
21g 壁部
21h 吸気孔
22 ポンプ
23 リザーバタンク
24 冷却機構
24a 冷却管
24b 冷却剤
25 冷却液用チューブ
25a 孔
26 冷却剤
27 冷却管
H 人体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7