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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】せん断試験装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/24 20060101AFI20240112BHJP
   G01N 3/00 20060101ALI20240112BHJP
   E04C 5/02 20060101ALI20240112BHJP
   E04G 21/12 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
G01N3/24
G01N3/00 M
E04C5/02
E04G21/12 105Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020008010
(22)【出願日】2020-01-22
(65)【公開番号】P2021117003
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2023-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】508284850
【氏名又は名称】株式会社トラスト
(74)【代理人】
【識別番号】100129986
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓生
(72)【発明者】
【氏名】谷口 博司
(72)【発明者】
【氏名】小幡 幸一郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 豊
【審査官】鴨志田 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-045219(JP,A)
【文献】特開2005-283224(JP,A)
【文献】特開平10-197427(JP,A)
【文献】特開平04-066842(JP,A)
【文献】米国特許第04995262(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/24
E04C 5/02
G01N 3/00
E04G 21/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】

構造体内に埋設されると共に地表突出した棒状埋設材のせん断試験を行うせん断試験装置であって、
側方へ貫通形成された側方貫通部をそれぞれ有した一対のブロック体、及び、一対のブロック体同士を対向配置して対向間を連結する側方連結体、からなる収容体本体と、
一対のブロック体及び側方連結体で囲まれた収容空間内に収容固定した、複動式のシリンダを有する複動シリンダ式のジャッキと、
収容体本体を構造体上面に定着固定する定着器と、
収容固定されたジャッキの少なくとも片側のシリンダの先部に設けた、棒状埋設材の地表突出部を拘束する拘束器と、を具備してなり、
前記ジャッキは、ジャッキ本体の両側部から一本のシリンダが側方各方向へ往動可能に突出し、
前記収容体本体は、ジャッキ本体を一対のブロック体で挟み込んで収容固定すると共に、
この収容固定した状態で、シリンダを側方貫通部内で貫通させると共に、特定の一側方向へ突出させ、
シリンダが往復動することで、棒状埋設材を拘束した拘束器が、特定の一側方であって両方向のせん断力を付与し得ることを特徴とする、棒状埋設材のせん断試験装置。
【請求項2】
前記収容空間は、一対のブロック体及びこれを繋ぐ各側方連結体で囲まれると共に一又は複数の開放方向へ開放した空間からなり、
前記ジャッキは、前記開放した収容空間の開放方向から収容されるものであり、
また、ジャッキを収容した収容体本体に固定されて、前記開放した収容空間の開放部分を塞ぐ補助固定器をさらに具備するものであり、
前記補助固定器は、収容体本体に固定されることで、収容空間内に収容されたジャッキのジャッキ本体に接触して保持し、これによってジャッキを収容固定した状態となる、請求項1に記載の棒状埋設材のせん断試験装置。
【請求項3】

前記ジャッキ本体は略円柱形状の外形からなり、

前記一対のブロック体はそれぞれ、対向する内面に、ジャッキ本体の略円柱形状の端部に対応した断面部分円弧状の溝底部とこの溝底部から上方へ開放した溝側部とからなる、断面略U字状の保持溝を有し、

前記複数の補助固定器はそれぞれ、ジャッキ本体と接する下端面に、横向きにしたジャッキ本体の円柱形状の上部側面に対応した凹面連続部を有し、

ジャッキを固定収容した状態では、
横向きにしたジャッキ本体の略円柱形状の端部の下半部に亘って、保持溝の溝底部が嵌合すると共に、
横向きにしたジャッキ本体の略円柱形状の長さ方向過半部に亘って、固定器の下端面の凹面連続部が複数個所で嵌合する、
請求項2に記載のせん断試験装置。
【請求項4】

前記側方連結体は、一対のブロック体の対向面視における左右の上角部にそれぞれ、前記保持溝の上端外部近傍同士を連結する棒状又は板状の上部連結体を具備し、
前記補助固定器は、一対のブロック体の前記左右の上角部の片側同士に係止固定されるか、又は、左右それぞれの各上部連結体に係止固定され、
この係止固定された状態で、側方連結体の下端面が、ジャッキ本体を上方から押圧接触することを特徴とする、請求項に記載のせん断試験装置。
【請求項5】

前記一対のブロック体はそれぞれ、構造体上面に底面が接地した状態で自立可能なブロック形状からなると共に、当該ブロック形状の幅方向略中央に、シリンダを遊挿可能な溝体又は穴体からなる側方貫通部を有し、さらに、当該ブロック形状の幅方向両端部に、前記定着器の一部、又は、定着器を取り付ける取付け構造を有することを特徴とする、請求項1、2、3、又は4のいずれかに記載の棒状埋設材のせん断試験装置。
【請求項6】

前記拘束器で棒状埋設材を拘束したまま、前記ジャッキのシリンダを往復動させたときに発生する、棒状埋設材によるシリンダ往復方向のせん断反力を測定する測定手段を、さらに具備する請求項1、2、3、又は4のいずれかに記載のせん断試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート埋設体のせん断試験装置に関し、特に、コンクリートに埋設設置されたアンカー筋やあと施工アンカーのアンカー筋の、せん断方向のコンクリート定着力を試験する際に用いる、せん断試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
あと施工アンカーの設計、品質管理ないし施工管理のためには、施工現場で対象となる構造物ごとにせん断力伝達を行ってせん断試験を行うことが望ましい。このようなせん断試験装置として種々のものが従来から開発・提案されている。
【0003】
従来技術として、例えば、特許文献1には、アンカーのせん断試験を工事現場で簡便に実施することが可能なアンカー用せん断試験機を提供するために、躯体表面に沿って配設される本体部及びこの本体部から躯体表面に垂直な方向に突設された突出部を有して前記本体部がアンカーの躯体表面から露出した露出部に着脱可能に連結することが可能になっている支圧板と、固定アンカーによって躯体表面に着脱可能に固定される反力台と、反力台上に載置されると共に反力台に反力を取って支圧板の突出部に対して躯体表面に沿った駆動力を付与する駆動源と、駆動源による荷重を測定する荷重測定器とを備えるアンカー用せん断試験機が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、既存コンクリート建造物の補強法として、あと施工アンカーを介して、その柱や壁等に補強体を接合するために、そのアンカーと既設コンクリートとの剪断方向支持能力を合理的に検定する検定機の提供するために、コンクリートにアンカーを埋設固定し、そのアンカーと基準ピースの一端部とを連結部材により連結し且つ、基準ピースの他端部に引張機構を取付ける。そして、引張機構により基準ピースをコンクリート表面と平行な方向に引っ張ったとき、基準ピースの塑性変形とアンカーの固定器のコンクリート破壊状態とを比較することにより、アンカーとコンクリートとの剪断方向の外力支持能力を検定することが開示されている。
【0005】
さらに特許文献3には、被測定軸に取り付ける際にひずみゲージを傷つけてしまうおそれをなくすことができる加圧力検出装置を提供するために、被測定軸に加わる圧力を検出するセンサと、前記センサを前記被測定軸に取り付ける被測定軸取付部材とを有する加圧力検出装置において、前記被測定軸取付部材によって前記センサを前記被測定軸に取り付けたときに、該センサを、前記被測定軸に加わる圧力を検出する測定位置及び前記被測定軸に触れない保護位置のどちらかに配置するセンサ配置部材を備えたことを特徴とする。また本発明は、前記センサ配置部材が、前記センサを前記保護位置に保持するよう付勢する保護位置用弾性部材を備えることを特徴とする。また本発明は、前記センサ配置部材が、前記センサを前記測定位置に保持するボルトと、前記測定位置にある前記センサを所定の圧力で前記被測定軸に押し付ける測定押圧用弾性部材を備えることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4430445号公報
【文献】特許第3766915号公報
【文献】特許第5394790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来文献として開示されるせん断試験機は、反力ブロックをアンカーで固定して反力を発生させるものであり、アンカー頭部の回転変形量が不明瞭であると共に、コンクリート間における実際の変形状態と異なるため、コンクリート境界条件(すなわち、アンカーが施工されているコンクリート境界面を挟む両側のアンカーとコンクリート間の境界条件)が実際と一致せず、一定の精度を確保しながらせん断試験を行うことができなかった。また、施工現場での設置が容易ではなく、またさらに、コンクリート表面に不陸(凸凹を有し、平らでない状態)があると使用しにくいという問題があった。
また、コンクリート埋設材の設置本酢や設置位置によって、せん断試験機の設置ができない場合があった。また、試験機の設置可能な位置が制限されるため、せん断力加力方向を選択できないという問題があった。
【0008】
本発明は、上記問題の解決のためになされたものであり、棒状埋設材(コンクリート埋設材、例えばアンカー筋)の埋設状態でのせん断試験を、当該棒状埋設材の設置本数や設置位置に関わらず、かつ、任意のせん断方向を設定して行うことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決すべく、本発明に係るせん断試験装置は、以下の手段を講じている。なお、各構成名称に続けて記載する数字列乃至アルファベット列は、各実施形態の構成の理解のために便宜的に付された符号であり、これによって構成の概念や形状を限定する趣旨ではない。
【0010】
〔1〕本発明の棒状埋設材のせん断試験装置は、コンクリート等の構造体内に埋設されると共に構造体面上に縦方向に地表突出した棒状埋設材(アンカー筋)のせん断試験を行うせん断試験装置であって、
側方へ貫通形成された側方貫通部(12U)をそれぞれ有した一対のブロック体(12)、及び、一対のブロック体(12)同士を対向配置して対向面同士を連結する側方連結体(11)、からなる収容体本体(1)と、
一対のブロック体(12)及び側方連結体(11)で囲まれた収容空間内に収容固定した、複動式のシリンダ(32)を有する複動シリンダ式のジャッキ(3)と、
収容体本体(1)を構造体面上に定着固定する定着器(4B,4)と、
収容固定されたジャッキ(3)の少なくとも片側のシリンダ(32)の先部に設けた、棒状埋設材(アンカー筋)の地表突出部を拘束する拘束器(5)と、を具備してなり、
前記ジャッキ(3)は、ジャッキ本体(31)の両側部から一本のシリンダ(32)が側方各方向へ往動可能に突出し、
前記収容体本体(1)は、ジャッキ本体(31)を一対のブロック体(12)で挟み込んで収容固定すると共に、
この収容固定した状態で、シリンダ(32)を側方貫通部(12U)内で遊貫通させると共に、特定の一側方向へ突出させ、
突出させたシリンダ(32)の先部に設けた拘束器(5)によって前記地表突出した棒状埋設材を拘束したセット状態とし、
このセット状態でシリンダが往復動することで、棒状埋設材を拘束した拘束器(5)が、特定の一側方であって(引っ張り及び押圧の)両方向のせん断力を付与し得ることを特徴とする。
このような構成であれば、地表突出した棒状埋設材が1本だけの場合であっても、収容器本体(1)を構造体面上に固定してシリンダを水平方向に往復動させることで、棒状埋設材へのせん断応力を繰り返し付与することができる。ジャッキ(3)の往復動の荷重を、棒状埋設材の径及び設置基準の定着力仕様に基づいて定められる試験荷重に設定し、定められた基準の回数だけジャッキ(3)の繰返し往復動を行うことで、棒状埋設材の耐せん断性能すなわちせん断定着力が一定の基準以上かどうかを判断することができる。
本発明のせん断試験装置は、棒状埋設材(アンカー筋)の定着現場にて実際にセットしてせん断試験を行うことができるため、せん断力確認方法として簡便に用いることができる。
【0011】
〔2〕補助固定器(2)による固定について
前記収容空間は、一対のブロック体(12)及び側方連結体(11)で囲まれると共に一又は複数の開放方向へ開放した(或いは解放可能な)空間からなり、
前記ジャッキ(3)は、前記開放した収容空間の開放方向から収容されるものであり、
また、前記収容体本体(1)、ジャッキ(3)、定着器(4B,4)、拘束器(5)の各構成に加えて、
ジャッキ(3)を収容した収容体本体(1)に固定されて、前記開放した収容空間の開放部分を塞ぐ補助固定器(2)をさらに具備するものであり、
前記補助固定器(2)は、収容体本体(1)に固定されることで、収容空間内に収容されたジャッキ(3)のジャッキ本体(31)に接触して保持し、これによってジャッキ(3)を収容固定した状態となることが好ましい。
前記収容方向(例えば収容空間の上方位置から鉛直下方の方向)と同じ方向からジャッキ本体の複数個所で接触保持する複数の補助固定器(2)を、さらに具備したせん断試験装置とすることができる。
より具体的には、前記一対のブロック体(12)は、それぞれ対向する内面に、ジャッキ本体(31)の各シリンダ突出面の外形形状(例えば横向きに配置した柱状のジャッキ本体の柱端面)の略半部に対応した保持溝(13U)を有し、
また、前記収容体本体(1)は、一対のブロック体(12)及びこれらの平面視両端部同士を繋ぐ側方連結体(11)によって、上方に解放した収容空間を形成してなり、
ジャッキ本体(31)を収容固定する際は、
まずジャッキ本体(31)を、この収容空間の上方位置から特定の収容方向である鉛直下方に沿って収容し、一対のブロック体(12)の保持溝(13U)上の収容空間に載置した収容状態とすると共に、
一対の保持溝(13U)上に載置されたジャッキ本体(31)上部の複数個所を、前記補助固定器(2)によって上方から固定することで、ジャッキ(3)を収容固定することが好ましい。
【0012】
〔3〕凹面連続部(2F)及び保持溝(13U)の嵌合について
前記ジャッキ本体(31)は略円柱形状の外形からなり、
前記一対のブロック体(12)はそれぞれ、対向する内面に、ジャッキ本体(31)の略円柱形状の端部に対応した断面部分円弧状の溝底部とこの溝底部から上方へ開放した溝側部とからなる、断面略U字状の保持溝(13U)を有し、
前記複数の補助固定器(2)はそれぞれ、ジャッキ本体(31)と接する下端面に、横向きにしたジャッキ本体(31)の円柱形状の上部側面に対応した凹面連続部を有し、
ジャッキ(3)を固定収容した状態では、
横向きにしたジャッキ本体(31)の略円柱形状の端部の下半部に亘って、保持溝(13U)の溝底部が嵌合すると共に、
横向きにしたジャッキ本体(31)の略円柱形状の長さ方向過半部に亘って、補助固定器(2)の下端面の凹面連続部(2F)が複数個所で嵌合することが好ましい。
【0013】
〔4〕補助固定器(2)の係止固定について
前記側方連結体(11)は、一対のブロック体(12)の対向面視における左右の上角部にそれぞれ、前記保持溝(13U)の上端外部近傍同士を連結する棒状又は板状の上部連結体を具備し、
前記補助固定器(2)は、一対のブロック体(12)の前記左右の上角部の片側同士に係止固定されるか、又は、左右それぞれの各上部連結体に係止固定され、
この係止固定された状態で、側方連結体(11)の下端面が、ジャッキ本体(31)を上方から押圧接触することが好ましい。
【0014】
〔5〕ブロック体(12)について
前記一対のブロック体(12)はそれぞれ、構造体上面に底面が接地した状態で自立可能なブロック形状からなると共に、当該ブロック形状の幅方向略中央に、シリンダ(32)を遊挿可能な溝体又は穴体からなる側方貫通部(12U)を有し、さらに、当該ブロック形状の幅方向両端部に、前記定着器(4)の一部、又は、定着器(4)を取り付ける取付け構造(構造体上面に定着固定するための構造)を有することを特徴とすることが好ましい。
【0015】
〔6〕測定手段(検知器)について
前記拘束器(5)で棒状埋設材を拘束したまま、前記ジャッキ(3)のシリンダ(32)を往復動させたときに発生する、棒状埋設材によるシリンダ往復方向のせん断反力を測定する測定手段(検知器)を、さらに具備することが好ましい。
【0016】
本発明のせん断試験装置は、コンクリート内に下端埋設されると共にコンクリート上に上端突出した、少なくとも一本の縦方向の棒状埋設材、例えばアンカー筋を、試験に使用する拘束対象とする。この拘束対象である、棒状埋設材すなわちアンカー筋の近傍に本発明のせん断試験装置を配置し、アンカー筋拘束具によって棒状埋設材(アンカー筋)を拘束し、さらにせん断試験装置を構造体上に定着固定させた状態として、アンカー筋にせん断力がかかるように、アンカー筋の軸方向と交わる水平方向、ないし、軸方向と直交する垂直方向側方へ加力し、このときの加力又はこれによる反力を検知することで、アンカー筋のせん断抵抗力(コンクリート体埋設による構造物のせん断方向の拘束力)を検知する。
【0017】
このような試験状態は、上下の構造物(コンクリート、モルタル、無収縮グラウト材等)の間を亘って縦方向に埋設されたアンカー筋がせん断力を受けた状態に相当する。上下の構造物の間を亘る1本のアンカー筋は、垂直断面視にて回転方向の拘束を受けながらせん断力を受けるところ、上方の構造物のみを本発明のせん断試験装置に置き換えて離反力を生じさせることで、同様のせん断力の伝達状態を再現している。
【0018】
なお、本発明にいう構造物は、コンクリート、モルタル、無収縮グラウト材等の構造体を意味しており、この構造体の実施形態として、後述の実施例ではコンクリート体Cを用いている。
【0019】
なお、上記構成及び以降の記載においては、例えば図6に示すような、側方連結体の一外面を正視する方向を、正面視方向とする。また、ブロック体12夫々の外面を正視する方向を、左右の側面視方向とする。また、例えば図3ないし図5に示すような、試験対象となる構造体(コンクリート)の上面(コンクリート面)、及びこの上面から突出するアンカー筋の突出方向を正視する方向を平面視方向とする。
【0020】
上記構成によれば、片側のブロック体12の外面の拘束器5によって縦方向のアンカー筋を拘束して、ジャッキ3を固定収容した収容体本体1を構造体面上であって、平面視にてアンカー筋周りの任意の方向に配向させて定置固定した状態とし、この状態で収容空間内のジャッキ3のシリンダを水平方向へ往復動させて、1本のアンカー筋を拘束した状態でせん断方向へ離反加力及び押圧加力し、この外変形状態のジャッキ3のシリンダと拘束器5との間に発生するせん断反力を検知している。
【0021】
このため、せん断力加力時のコンクリート境界条件を実際の施工条件とほぼ一致させた状態として一定の精度を確保しながらせん断試験を行うことができる。また、施工現場で簡便に設置することができる。さらに、コンクリート表面に不陸(凸凹を有し、平らでない状態)がある場合でも設置できる。
【0022】
さらに上記構成によれば、コンクリートに埋設固定された2本の縦方向のアンカー筋間に合わせる必要がなく、1本の縦方向のアンカー筋の近傍に設置するだけで、平面視にて任意のせん断方向へせん断試験を行うことができる。
【0023】
収容体本体1は、対向配置した一対のブロック体を複数の側方連結体で連結してなるため、剛性に優れ、せん断試験時の変形を防止して、せん断力加力を確実にアンカー筋へと伝達することができる。このため精度よくせん断試験を行うことができる。
【0024】
上記いずれかの発明において、各アンカー筋拘束具5夫々の外側面の上下端近傍又は中央近傍には、水平変位計の接触子或いは測定線を当てることで水平変位を測定可能な変位計当て部522/523が設けられ、前記設置状態で、各変位計当て部522/523に水平変位計61/62/63の接触子を押し当てるか或いは測定線を当てる(定点照射する)ことで、前記離反加力したときのアンカー筋拘束具5の水平変位量を、各アンカー筋の拘束器それぞれで測定するものとしてもよい。またさらに、前記拘束器それぞれの水平変位量を、検知器4による挟圧力検知の検知量と同期計測するものとしてもよい。
【0025】
上記構成においては例えば、各アンカー筋拘束具5夫々の上下端に取り付けた変位計当て部522に上下の水平変位計61、62それぞれを定的に押し当てるか照射して、第1ブロック体ないし第2ブロック体の各水平変位量を、上下の水平変位計61,62の平均値として算出する。或いは例えば、各アンカー筋拘束具5夫々の高さ方向中央に取り付けた変位計当て部523に中央の水平変位計63を定的に押し当てるか照射して、第1ブロック体ないし第2ブロック体の各水平変位量を計測する。また、離反加力したときの第1ブロック体ないし第2ブロック体の水平変位量を、離反加力したときの検知器4による挟圧力検知の検知量と同期計測することができるよう構成されている。このため、離反加力したときの外変形状態のジャッキ3と第1,第2ブロック体1,2との間に発生する挟圧力に加えて、拘束具5の変位量を検知することができる。
【0026】
第6の発明に係るせん断試験装置の例として、上記本発明の第1ないし第5のいずれかの発明において、前記アンカー筋拘束具は、前記第1ブロック体のブロック状本体、及び、前記第2ブロック体のブロック状本体の各外側面から外方突出した突出ブロックと、前記突出ブロックの突出先に対向してその対向距離を調節可能に取り付けられる拘束板と、から構成される。また、前記離反加力部材の加力中心線上であって、かつ、前記突出ブロック51及び前記拘束板52の各対向面の対応位置には夫々、断面形状の異なる、縦方向の拘束溝510,520が対向して形成され、
前記断面形状の異なる拘束溝510,520によって、縦方向のアンカー筋Rの一側方及び他側方を挟み込んで拘束するものとしてもよい。
【0027】
ここで、離反加力部材の加力中心線上とは、平面視にて、離反加力部材の加力中心の奥行き方向の位置を仮想したとき、第1ブロック体への加力中心位置と第2ブロック体への加力中心位置とを繋いだ仮想線を言う。上記構成によれば、対向して形成された互いに異なる断面形状の拘束溝によってアンカー筋Rの一側方向及び他側方向を挟んで拘束することで、アンカー筋Rを前記加力中心線上に確実に位置させることができる。つまり、アンカー筋Rを、離反加力部材の水平力の中心線を含む垂直面内に位置するように拘束することができる。
【0028】
特に、前記突出ブロック51及び前記拘束板52夫々の拘束溝510,520は、一方が略円弧状の溝断面からなり、他方が対称な略半多角形状の溝断面からなると共に、各溝面にはアンカー筋Rに係止する複数の凹凸部が溝方向へ連なって連続形成されることが好ましい。
【0029】
上記構成によれば、拘束溝510,520は、一方が略円弧状の溝断面からなり、他方が対称な略半多角形状の溝断面からなることで、左右のアンカー筋Rの伸長方向に施工誤差があった場合でも密着拘束し、左右のアンカー筋Rを、加力部材による加力中心線上の位置に保持拘束することができる。また、各溝面にはアンカー筋Rに係止する複数の凹凸部が縦方向に連続形成されることで、離反加力部材の加力時の、アンカー筋Rの縦方向(伸長方向)のずれを確実に無くすことができる。
【発明の効果】
【0030】
以上説明したように、本発明によれば、せん断力加力時のコンクリート境界条件を実際の施工条件とほぼ一致させた状態として一定の精度を確保しながらせん断試験を行うことができるせん断試験装置を提供することができる。また、施工現場で簡便に設置することができるせん断試験装置を提供することができる。さらに、コンクリート表面に不陸がある場合でも設置できるせん断試験装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】実施形態1に係るせん断試験装置の正面上方斜視図である。
図2】実施形態1に係るせん断試験装置の、対象物への設置前状態における正面上方分解斜視図である。
図3】実施形態1に係るせん断試験装置の、設置前状態における対象物及び定着器(4)及び設置用冶具(6)を示す平面図である。
図4】実施形態1に係るせん断試験装置の、対象物への設置前状態における平面視分解斜視図である。
図5】実施形態1に係るせん断試験装置の対象物への設置状態における平面図である。
図6図6の設置状態における正面図である。
図7図6の設置状態におけるA-A視側面図である。
図8図6の設置状態におけるB-B視側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照して実施例に係るせん断試験装置について説明する。ただし、以下で説明する本実施形態は、あらゆる点において本発明の例示に過ぎない。また、各構成名称に続けて記載する数字列乃至アルファベット列は、各実施形態の構成の理解のために便宜的に付された符号であり、これによって構成の概念や形状を限定する趣旨ではない。以下に説明する各実施形態に基づき、本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。つまり、本発明の実施にあたって、実施形態に応じた具体的構成が適宜採用されてもよい。
【0033】
(実施形態1のせん断試験装置の構成)
実施形態1のせん断試験装置の構成について、実施例として示す図1図8を参照して説明する。本発明の実施形態1のせん断試験装置は、
・一方向側(図2の矢印の向き)に並行配置された複数本の側方連結体11、及び、側方連結体11によって対向連結された一対のブロック体12、からなる収容体本体1と、
・収容体本体1に形成された収容空間内に収容固定されたジャッキ3と、
・ジャッキ3を上方から固定する複数の補助固定器2と、
・収容体本体1を構造体面上に定着固定するため定着器4と、
・拘束対象である棒状埋設体すなわちアンカー筋を拘束する拘束器5と、を備える(図1図2図4等)。
また、定着器4は、予め構造体内に埋設しておくメネジアンカーと、定着ボルト4Bとからなり(図2)、
・メネジアンカーを埋設設置する際に用いる冶具6を更に備える(図3)。
【0034】
一対のブロック体12は、一対のうち1個が拘束対象であるアンカー筋Rの近傍に配置され、一対が所定間隔で対向配置されると共に対向面同士の上下左右箇所それぞれが複数本の側方連結体11によって連結されて、収容体本体1が構成される。結果、上下左右の側方連結体11,21間に収容空間が形成される。そして、この収容空間内には、せん断加力部材である油圧シリンダ式のジャッキ3を、ジャッキ本体31を横臥させた横向き状態で、平面視水平方向又は拘束対象のアンカー筋と直交する側方向へジャッキ伸長可能に固定している。せん断加力部材たるシリンダ式のジャッキ3は、ジャッキ本体31の両側部から一端及び他端が突出したシリンダ32を具備した、往復動シリンダ式のジャッキからなる。
ブロック体12には、シリンダ32を側方へ遊挿させる側方貫通部12UたるU字溝が、奥行き方向(図6の正面視幅方向)に貫通形成されると共に、対向面たる内側面に、ジャッキ本体31の片端部を載置する断面U字溝形状の保持溝13Uが形成される。
なお、離反加力部材は、第1ブロック体1及びブロック体12を水平方向に離反させるように加力する離反加力構造体であればよく、例えば、水平方向のスライダー機構を介して離反加力する電動式押圧構造や、モーター式のラックアンドピニオン構造、或いは、油圧式以外のエアージャッキ構造からなるものでもよい。
【0035】
また、収容空間内には、固定された離反加力部材たるジャッキ3のジャッキの伸長側に、ブロック体12方向(一方向)の挟圧力を検知し得る検知器4が固定されている。なお他の構成として、収容空間内であって、固定されたジャッキ3のジャッキの固定器側に、第1ブロック体1方向(他方向)の挟圧力を検知し得る検知器4を固定するようにしてもよい。また、その他の構成として、油圧シリンダ式のジャッキ3の油圧管内に連結した油圧センサ等といった、ジャッキ3に内蔵させた内蔵センサを検知器4として、この内蔵センサによって離反加力荷重を計測するものとしてもよい。
【0036】
(側方連結体11)
側方連結体11は、一対のブロック体12の対向面視における左右の上角部にそれぞれ、前記保持溝13Uの上端外部近傍同士を連結する棒状又は板状の上部連結体を具備する。
【0037】
(ブロック体12)
一対のブロック体(12)はそれぞれ、構造体上面に底面が接地した状態で自立可能なブロック形状からなると共に、当該ブロック形状の幅方向略中央に、シリンダ(32)を遊挿可能な溝体又は穴体からなる側方貫通部(12U)を有し、さらに、対向する内面に、ジャッキ本体(31)の略円柱形状の端部に対応した断面部分円弧状の溝底部とこの溝底部から上方へ開放した溝側部とからなる、断面略U字状の保持溝(13U)を有する。また、ブロック体のブロック形状の側面視(図7)の幅方向両端部には、前記定着器(4)の一部、又は、定着器(4)を取り付けるための、立方体形状の脚部121が側方突出して形成される。脚部121には、メネジアンカー4へ螺入される定着ボルト4B用の定着孔4Hが縦方向に貫通形成される。また、定着孔4H内に連通した連通孔が正面及び外側面の2面に形成され、2面それぞれに、定着ボルト4Bに圧接するための圧接具122,123が形成される。これらは、収容体本体1を構造体面に定着固定するための構造である。
側方連結体11とブロック体12とで収容空間が構成される。この収容空間は、一対のブロック体(12)及び側方連結体(11)で囲まれると共に一又は複数の開放方向へ開放した(或いは解放可能な)空間からなり、前記ジャッキ(3)は、前記開放した収容空間の開放方向から収容されるものであり、
また、前記収容体本体(1)、ジャッキ(3)、定着器(4B,4)、拘束器(5)の各構成に加えて、
ジャッキ(3)を収容した収容体本体(1)に固定されて、前記開放した収容空間の開放部分を塞ぐ補助固定器(2)をさらに具備するものであり、
前記補助固定器(2)は、収容体本体(1)に固定されることで、収容空間内に収容されたジャッキ(3)のジャッキ本体(31)に接触して保持し、これによってジャッキ(3)を収容固定した状態となる。
【0038】
(補助固定器2)
補助固定器2は、一対のブロック体(12)の前記左右の上角部の片側同士に係止固定されるか、又は、左右それぞれの各上部連結体に係止固定される。係止固定された状態で、側方連結体(11)の下端面が、ジャッキ本体(31)を上方から押圧接触する。
【0039】
複数の補助固定器(2)はそれぞれ、ジャッキ本体(31)と接する下端面に、横向きにしたジャッキ本体(31)の円柱形状の上部側面に対応した断面部分凹扇からなる凹面連続部を有し、内部収容状態で、横倒ししたジャッキ本体31の円柱形状の側面(横倒しした上部)と嵌合する。複数の補助固定器(2)でジャッキ本体(31)の複数個所を上部から接触保持するため、上方への浮き上がりを防止することができる。
【0040】
(ジャッキ(3))
ジャッキ(3)は外形柱状かつ筒状のジャッキ本体(31)と、ジャッキ本体の筒内を挿通して柱状両端から両端それぞれが突出したシリンダ(32)と、シリンダ(32)を軸方向に往復動させる内部機構と、内部機構に連通してジャッキ本体(31)の柱側部から突設された、シリンダ往復動の動力を伝える油圧パイプ(33)と、から構成される。
シリンダ(32)はジャッキ本体から突出する一端の先側が、他端の先側よりも長く形成されるとともに、当該長く形成された一端のシリンダ端に拘束器(5)が固設される。
油圧パイプ(33)は往動用パイプ、複動用パイプの2本のパイプからなり、ジャッキ本体の側面に軸上に並んだ突設先それぞれから延伸して、図示しない油圧サーバーに接続される。但し本願の図面では油圧パイプは便宜上、パイプの基部のみを表している。油圧パイプ(33)の先に接続された油圧サーバーの油圧設定によって、シリンダの往復動のトルク及び回数が制御される。
ジャッキ本体(31)は略円柱形状の外形からなり、油圧パイプ33が上方を向くよう、収容空間内に横向きに配置される。円柱の伸長方向に沿って伸長した往動式のシリンダを内蔵し、このシリンダは略円柱形状の外形の両端部から各端面が突出する。
【0041】
(固定収容状態)
ジャッキ3を固定収容した固定収容状態では、
横向きにしたジャッキ本体(31)の略円柱形状の端部の下半部に亘って、保持溝(13U)の溝底部が嵌合すると共に、
横向きにしたジャッキ本体(31)の略円柱形状の長さ方向過半部に亘って、補助固定器(2)の下端面の凹面連続部(2F)がジャッキ本体(31)の複数個所(図7図8に示す柱状端面又は柱状断面の左右の各上部)で、開放方向たる上方から接触嵌合する。またジャッキ本体(31)は柱状体の両端部が、ブロック体12の内側面に形成され、一対のブロック体12によって対向配置されたU字状の保持溝123U内に、その両端が溝側面同士で挟まれるように挟設された状態で載置され、柱軸すなわちシリンダ軸方向にも動かないよう挟設固定される。
【0042】
(定着器4)
図2図3上図に示すように、定着器4たるメネジアンカーは、アンカー筋Rの近傍の構造体内に埋設する。具体的には、図3上図に示すように、せん断加力を試験加重したい平面方向の中心仮想線ALを設定し、この中心仮想線ALを対角線中心とした放射方向の定着位置4点を定め、当該4点の定着位置を中心とした4本のメネジアンカーを、構造体内に夫々埋設する。なお、せん断加力方向及び4点の定着位置は、例えば図3下図に示すような、プレート型の冶具6を用いて構造体面上にケガキすることができる。冶具6は、収容体本体1の平面視形状に対応した矩形形状の板本体61と、板本体61の一辺中央から一側方へ張り出し形成された延長片62とを具備した一体の板体からなる。延長片62はその先部に、アンカー筋6Rに挿通する円形の挿通孔62Hが形成される。また板本体61の、延長片62の形成片と反対側の辺の中央には、せん断加力方向を定めるためのV字状切欠き部63が形成され、また板本体61の、延長片62の形成片と隣り合う2辺それぞれ、各辺の両端付近の2箇所、つまり2辺計4箇所には、収容体本体1の4つの定着孔4Hそれぞれに対応した位置関係にある、半円状切欠き部61Dが形成される。半円状切欠き部61Dは、せん断加力方向のマーキング63Mが定められたことによって規定される、4点の定着位置を指定するものである。
【0043】
(拘束具5)
拘束具5は、第1ブロック体1及びブロック体12の外側面に夫々設けられている。第1ブロック体1の外側面に設けられたアンカー筋拘束具5は、第1ブロック体1の外側面から第1ブロック体1と一体的に外方突出した突出ブロック51と、突出ブロック51の突出先に対向立設して取り付けられる拘束板52とから構成される。また、ブロック体12の外側面に設けられたアンカー筋拘束具5は、ブロック体12の外側面からブロック体12と一体的に外方突出した突出ブロック51と、突出ブロック51の突出先に対向立設して取り付けられる拘束板52とから構成される。拘束板52は、拘束ボルト521により突出ブロック51に対向立設して取り付けられる。
【0044】
拘束具5を構成する突出ブロック51及び拘束板52の各対向面の幅方向中央には夫々、縦方向のアンカー筋Rを挟み込んで拘束する、対向した一対の拘束溝510,520が縦方向に形成されている。ここで、対向した一対の拘束溝のうち、突出ブロック51の拘束溝510は、略円弧状の溝断面からなる。また、対向した一対の拘束溝のうち、拘束板52の拘束溝520は、対称な略V字形状の溝断面からなり、V字形状の溝断面中央の溝奥部にはコーナースリット520Dを有する。
【0045】
このコーナースリット520Dは、離反加力部材(ジャッキ3)による離反加力中心の仮想線上に位置する。円弧状の溝断面の拘束溝と、対称な略V字形状の溝断面(対称な多角形の溝断面の一態様)の拘束溝とを対向させてアンカー筋を挟み込んで拘束することで、アンカー筋の中心軸と溝中央のコーナースリット520Dとの位置を合わせた状態に維持することができる。
【0046】
本せん断試験装置においては、コンクリート体Cに予め埋設する左右のアンカー筋Rが、せん断試験装置の中止運線を含む同一平面上にあることが必要であるものの、実際のアンカー筋Rの施工の際には僅かな誤差が生じる場合もあり得る。また特に、アンカー筋Rとして、図5,6に示すような、横節を有する異形鉄筋を用いる場合には、一対のアンカー筋Rが、厳密にせん断試験装置の中心線を含む同一平面上にあるようにすることは困難である。しかしながら、このようなアンカー筋Rの施工の誤差があった場合でも、対向した一対の拘束溝のうち、一方(拘束溝510)を略円弧状の溝断面からなるものとし、他方(拘束溝520)を対称な略多角形状(例えばV字形状)の溝断面からなるものとすることで、アンカー筋Rを密着して挟み込み、拘束することができる。
【0047】
また、略V字形状の溝断面の溝奥位置、及び当該位置のコーナースリット520Dを、離反加力部材(ジャッキ3)による水平の加力中心線の先に配置することで、当該加力中心線を含む垂直面内に中心軸が来るように、アンカー筋Rを拘束することができる。
【0048】
さらに、突出ブロック51及び拘束板52の各溝面にはアンカー筋Rに係止する複数の凹凸部が縦方向に連続形成されている。なお、突出ブロック51の拘束溝510を対称な略多角形状の溝断面とし、拘束板52の拘束溝520を略円弧状の溝断面としてもよい。
【0049】
さらに、各拘束具5夫々の外側面の上下端近傍には、上下の水平変位計の接触子を押し当て可能な変位計当て部が設けられたものとしてもよい。せん断試験装置を設置した状態(設置状態)で、各アンカー筋拘束具5夫々の変位計当て部522に上下の水平変位計を接触させて押し当てるか或いは測定線を当てることで、離反加力したときの拘束具5の変位測定量の平均値を、第1ブロック体乃至第2ブロック体の水平変位量として得ることができる。また、各アンカー筋拘束具5夫々の外側面の中央近傍には、中央の水平変位計63の接触子を押し当て可能な変位計当て部523が設けられている。せん断試験装置を設置した状態(設置状態)で、前記上下の水平変位計61/62に代えて、或いは上下の水平変位計61/62に加えて、中央の水平変位計63を接触させて押し当てるか或いは測定線を当てることで、離反加力したときの第1ブロック体乃至第2ブロック体の水平変位量を、各水平変位計の測定値に基づいて計測ないし算出することができる。そして、前記いずれかによって計測ないし算出した第1ブロック体乃至第2ブロック体の水平変位量を、検知器4による挟圧力検知の検知量と同期計測することができる。
【0050】
なお他に、左右の側方連結体の各下面とコンクリート体Cとの間に、図示しない低摩擦ブロック材(ポリスチレンフォーム、スチロール等からなるブロック材)を挟んで、当該低摩擦ブロック材の所定量δの厚さ分だけコンクリート体Cから浮いた状態とすることもできる。
【0051】
上記構成によれば、せん断力加力時のコンクリート境界条件を実際の施工条件とほぼ一致させた状態として一定の精度を確保しながらせん断試験を行うことができる。また、施工現場で簡便に設置することができる。さらに、コンクリート表面に不陸(凸凹を有し、平らでない状態)がある場合でも設置できる。
【0052】
また、実施形態1に係るせん断試験装置において、各アンカー筋拘束具5夫々の外側面の上下端近傍には、水平変位計61/62の接触子を押し当て可能な変位計当て部が設けられ、設置状態で、各アンカー筋拘束具5夫々の変位計当て部522に上下の水平変位計61,62を接触させて押し当てることで、離反加力したときの拘束具5の水平変位量を、上下の水平変位計61,62の測定値平均として算出し、この算出した水平変位量を、検知器4による挟圧力検知の検知量と同期計測するよう構成してもよい。
一方、実施形態1、2に係るせん断試験装置において、各アンカー筋拘束具5夫々の外側面の面中央(高さ方向中央及び幅方向中央)には、中央の水平変位計63の接触子を押し当て可能な変位計当て部523が設けられ、設置状態で、各アンカー筋拘束具5夫々の変位計当て部523に中央の水平変位計63を接触させて押し当てることで、離反加力したときの拘束具5の中央の水平変位量を、検知器4による挟圧力検知の検知量と同期計測するよう構成してもよい。
【0053】
上記構成によれば、離反加力したときの外変形状態のジャッキ3と第1,第2ブロック体1,2との間に発生する挟圧力に加えて、拘束具5の水平変位量を検知することができる。なお、水平変位量の測定に当たり、方形枠体を貫通する接地尖部材73又は不動螺子75で埋設固定された保持枠7を設け、この保持枠7で各水平変位計を保持するものとしている。このコンクリート体Cへの接地尖部材73又は不動螺子75の埋設固定点は、水平変位測定の基準となる不動点RSMとなる。なお、各実施形態では、コンクリート体Cに埋設設置した2本のアンカー筋R同士を繋ぐ仮想線の中央位置から直交した、中央直交仮想線上(図6図7図8の正面視における左右方向の中央位置)に位置するように設定している。
【0054】
上記構成によれば、左右のアンカー筋Rの伸長方向に施工誤差があった場合でも、左右のアンカー筋Rをアンカー筋拘束具5によって密着固定することで、各アンカー筋Rを、加力部材による加力中心線上の位置に保持することができる。これにより、縦方向のアンカー筋Rを離反加力の仮想中心線上線に確実に拘束した状態で、一定の精度を確保しながらせん断試験を行うことができる。
【0055】
以上のように、実施例に係るせん断試験装置によれば、せん断力加力時のコンクリート境界条件を実際の施工条件とほぼ一致させた状態として一定の精度を確保しながらせん断試験を行うことができる。また、施工現場で簡便に設置することができる。さらに、コンクリート表面に不陸がある場合でも設置することができる。
【0056】
図1は、実施形態1に係るせん断試験装置の正面上方斜視図である。このせん断試験装置を分解した状態の分解斜視図が図2の上部である。
【0057】
図2の下部及び図4の上部には、せん断試験装置の設置面の構造体上面に形成した下穴PHの形成状態を示す。構造体上面には、まず、アンカー筋Rを通って試験装置の設置方向へ伸ばした中心線ALを引き、中心線ALを中心とした所定の4箇所に、定着器(4)を埋設設置するための下穴PHの中心位置を面上にケガく。この際、図3下部に示したような板状の冶具6を用いると、中心軸延長点63M、中心軸に平行な下穴中心線SL,下穴中心線SLと直交して下穴中心を示す第二下穴中心線VLを容易にケガくことができる。
【0058】
図5図2にあらわした、せん断試験装置の分解状態を平面図で示したものである。但し図5では、補助固定器を固定するための固定螺子211は補助固定器2の固定用孔210から取り外した状態としている。図5図6図7図8は接地箇所への設置状態を示したものであり、それぞれ平面図、正面図、及び図6のA-A側面図、図6のB-B断面図を示す。
【0059】
(産業上の利用可能性)
本発明の試験装置は現場で簡便に設置でき、かつ、一定の精度をもってせん断試験を行うことができることから、既存の構造物を含む補強対象の構造物ごとに、実際の埋設状態のあと施工アンカーのせん断力評価を行うことが可能である。具体的には、せん断試験装置によるせん断力-水平変位の試験値を使用して、あと施工アンカーの原位置(かつ現位置)における伝達せん断力の評価が可能となる。上記のほか、実施例の各形態は各図又は明細書の説明に表わした内容に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更、一部構成要素の省略又は置換、一部構成要素群の抽出が可能である。
【符号の説明】
【0060】
構造体 C
アンカー筋 R(棒状埋設材)
収容体本体 1
側方連結体 11
ブロック体 12
側方貫通部 12U
保持溝 13U
補助固定器 2
凹面連続部 2F
ジャッキ 3
ジャッキ本体 31
シリンダ 32
定着器 (メネジアンカー 4)
定着孔 4B
拘束器 5
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8