(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】フィルム材から切り出し作製、細径化されることで物性を向上させる糸及びその製法
(51)【国際特許分類】
D06M 15/564 20060101AFI20240112BHJP
D02G 3/06 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
D06M15/564
D02G3/06
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021179871
(22)【出願日】2021-11-02
【審査請求日】2021-11-08
(32)【優先日】2020-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】519423909
【氏名又は名称】勤倫股▲フン▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】姚明賢
(72)【発明者】
【氏名】施博仁
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-175911(JP,A)
【文献】特開2008-155592(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0347524(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第111876872(CN,A)
【文献】特開平11-151782(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G1/00-3/48
D02J1/00-13/00
D06M10/00-16/00
19/00-23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム材から切り出し作
製される糸であって、前記糸は、フィルム材から切り出すことによって形成され、前記糸の横断面が矩形であり、熱延伸・成形された後、前記糸の横断面が楕円形を呈し、断面の構造は、
断面が楕円形を呈し、互いに反対側にある一対の表面が2つの伸長表面を形成し、円弧を有するベース層と、
コーティングであって、前記コーティングは、塗布又は電気めっきの方法で前記ベース層の少なくとも1つの伸長表面に設けられ、かつ熱可塑性エラストマーを有する粘性材料で前記伸長表面に沿って前記ベース層の少なくとも1つの伸長表面
のみに接着された少なくとも1つのコーティングと、
を
備え、前記伸長表面は
、熱延伸・成形される前の前記糸の矩形である横断面の長辺を延伸して形成された表面である、糸。
【請求項2】
前記粘性材料は、前記コーティングに混合される請求項1に記載の糸。
【請求項3】
熱可塑性エラストマーの材質であり、伸長性を有し、前記ベース層の少なくとも1つの前記伸長表面に設けられた少なくとも1つの接着剤層をさらに含み、前記少なくとも1つのコーティングが前記接着剤層で前記ベース層の少なくとも1つの前記伸長表面に接着される請求項1に記載の糸。
【請求項4】
前記ベース層の内部構造は、複数の高分子鎖の結晶領域及び前記糸が延伸される方向に沿って配列する高分子鎖を有する
請求項1~3のいずれか一項に記載の糸。
【請求項5】
前記糸の前記ベース層は、熱可塑性エラストマーの材質であるため、前記糸が弾性を有する糸に形成される
請求項1~3のいずれか一項に記載の糸。
【請求項6】
前記糸の破断伸度は、100%未満である請求項5に記載の糸。
【請求項7】
前記コーティングは、機能性コーティングであり、発光粒子を有する発光層又は金属色を有するコーティング或いは導電性を有するコーティングである請求項1又は2に記載の糸。
【請求項8】
前記コーティングは、機能性コーティングであり、反射性素子を有する反射層又は発光粒子を有する発光層又は金属色を有するコーティング或いは導電性を有するコーティングである請求項3に記載の糸。
【請求項9】
前記糸の前記ベース層は、熱可塑性プラスチック材質である、請求項1~3のいずれか一項に記載の糸。
【請求項10】
前記ベース層の前記2つの伸長表面にそれぞれ接着された2つのコーティングを備える請求項1又は2に記載の糸。
【請求項11】
2つの接着剤層と、2つのコーティングとを備え、前記2つのコーティングは前記2つの接着剤層を介して前記ベース層の前記2つの伸長表面にそれぞれ接着される請求項3に記載の糸。
【請求項12】
前記ベース層は、熱可塑性ポリエチレン(TPO)、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、熱可塑性エラストマー(TPE)である請求項5に記載の糸。
【請求項13】
前記ベース層は、ナイロン(Nylon)、ポリエステル材料、又はポリエチレンテレフタレート(PET)である請求項10に記載の糸。
【請求項14】
フィルム材から切り出し作
製される糸の製法であって、
一、フィルム状のベース層と、少なくとも1つのフィルム状のコーティングとを有し、前記フィルム状のベース層は、熱可塑性プラスチック材質であり、前記少なくとも1つのフィルム状のコーティングが熱可塑性エラストマーを有する粘性材料で前記フィルム状のベース層の頂側又は底側の表面の少なくとも1つに接着されるフィルム材を調製する工程と、
二、前記フィルム材を糸の断面が矩形を呈し、2つの側面が切断平面である数本の糸に切断する工程と、
三、前記糸に熱延伸を施し、少なくとも1回の延伸で前記糸を延伸することで、前記糸を受熱により伸長及び細径化させる熱延伸工程と、
四、熱延伸された前記糸に熱成形を施し、前記糸を熱延伸後の状態に成形させる熱成形工程と、
五、前記糸の完成品を作製するため、前記糸を冷却する工程と、を含み、
前記延伸及び細径化された糸の横断面は、楕円形を呈する製法。
【請求項15】
前記粘性材料は、前記フィルム状のコーティングに混合される
請求項14に記載の製法。
【請求項16】
前記フィルム材は、熱可塑性エラストマーの材質である少なくとも1つの接着剤層をさらに備え、前記少なくとも1つのフィルム状のコーティングが前記少なくとも1つの接着剤層で前記フィルム状のベース層の頂側又は底側の表面の少なくとも1つに接着される
請求項14に記載の製法。
【請求項17】
前記工程三の熱延伸工程において前記糸に1回目の延伸及び2回目の延伸を含む少なくとも2回の延伸を施し、前記2回目の延伸の延伸倍率は、前記1回目の延伸の延伸倍率よりも小さい
請求項14又は15或いは16に記載の製法。
【請求項18】
前記工程三の熱延伸工程において、気体または液体の流体で前記糸を加熱する
請求項14又は15或いは16に記載の製法。
【請求項19】
前記熱延伸工程において、液体の流体で前記糸を加熱し、糸が前記加熱用の液体流体を離れた後、送風機又は排風機で前記糸上の流体を除去する
請求項14又は15或いは16に記載の製法。
【請求項20】
前記糸は、いくつかのローラーによって牽引されて熱延伸、熱成形及び冷却の工程を実施する
請求項14又は15或いは16に記載の製法。
【請求項21】
前記糸が延伸された後の長さは、延伸前の長さの150~300%であり、かつ前記糸の内部に高分子鎖の結晶領域及び前記糸が延伸される方向に沿って配列する高分子鎖高分子鎖を有する
請求項14又は15或いは16に記載の製法。
【請求項22】
前記工程三の熱延伸の温度は、60~120℃の範囲である、
請求項14又は15或いは16に記載の製法。
【請求項23】
前記フィルム状のベース層は、熱可塑性エラストマーの材質であるため、前記フィルム材に弾性を持たせる
請求項14又は15或いは16に記載の製法。
【請求項24】
前記フィルム状のベース層は、可塑性プラスチック材質である、
請求項14又は15或いは16に記載の製法。
【請求項25】
前記フィルム状のコーティングは、機能性コーティングであり、発光粒子を有する発光層又は金属色を有するコーティング或いは導電性を有するコーティングである
請求項14又は15或いは16又は23或いは24に記載の製法。
【請求項26】
前記フィルム状のコーティングは、機能性コーティングであり、反射性素子を有する反射層又は発光粒子を有する発光層又は金属色を有するコーティング或いは導電性を有するコーティングである
請求項16又は23或いは24に記載の製法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡績分野の糸に関し、特に、切断で作製される糸及び細径化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
出願人は、紡績工業の技術を向上させるため、特許文献1などのいくつかの糸の技術を研究開発してきた。
【0003】
従来技術では、切断方法で微細弾性糸を製造することができなかったが、特許文献1に開示されている技術の切断方法で微細径弾性糸を製造でき、従来技術で微細弾性糸を切断して製造できなかった欠陥が改善された。しかし出願人の試験を経たところ、特許文献1の先願の技術で切断して作製された弾性糸には、まだいくつかの不完全なところがあったため、改善する必要があることが分かった。
【0004】
前記弾性糸は、弾性フィルム材を切断することによって形成され、先にフィルム材を作製してからフィルム材から弾性糸を切り出す必要がある。フィルム材の弾性率が低く、分子鎖が乱雑に配置されているため、前記切断で製造された糸が、同様に弾性率が低く、分子鎖が乱雑に配置されており、外的要因により分解して切れやすく、例えば空気、湿気又は紫外線の照射或いは高温等の環境要因の影響を受けることで分解し、寿命も長くなかった。
【0005】
さらに、切断で作製された上記弾性糸は、弾性率が低く、分子鎖が乱れ、破断伸度も大きすぎ、例えば300%から400%の長さに伸ばすことができたが、伸ばすと元の長さに戻ることができないため、衣服類の織物での使用に適していなかった。
【0006】
切断で作製される糸の破断伸度を低減するためとして、1つの解決手段は、前記糸を数本の紡糸で包んで複合糸を形成することである。しかしながら紡糸を包む方法は、紡糸を介して前記糸の低応力弾性伸縮作用を制限できるが、完成品の直径が太すぎることになり、もはや微細糸ではなく、かつ紡糸が覆われた後、肌触りに影響を与えてしまい、衣服の織りに適さない。なお、前記複合糸の紡糸は、糸の分解を防止できない。
【0007】
さらに糸にガラスビーズを設けることで、反射効果を有する時、又は糸が発光機能を備えたものとして作製された時、反射或いは発光の糸の周りを紡糸で覆うと、糸の反射輝度又は発光輝度を大々的に妨げ、反射と発光の効果を失うことさえあり、糸の使用機能に影響を与える。
【0008】
本発明者らは、切断方法で作製された糸の欠陥を改善するため、本発明を研究開発した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】発明の名称が「弾性フィルム材の切断方法及び弾性糸」である、特願第2020-105354号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の主な目的は、優れた物性を持ち、織物に使用され、切断で作製される糸を提供することである。
【0011】
本発明の別の目的は、少なくとも1つの機能性コーティングを有する切断で作製される糸を提供することである。本発明は、この切断で作製され、機能性コーティングを有する糸に優れた機械的性質を持たせる。
【0012】
本発明の更なる目的は、切断で作製される糸により良い物性を持たせることで、織物の使用に適する細径化され、切断で作製される糸の製法を提供することである。また前記糸に機能性コーティングを有する場合、本発明の製法は、糸のコーティングによって提供される機能をやはり保持する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明により提供される糸は、フィルム材から切り出すことによって形成された微細糸であり、熱延伸・成形され、
前記糸の横断面が楕円形を呈し、断面の構造は、断面が楕円形を呈し、互いに反対側にある一対の表面が2つの伸長表面を形成するベース層と、塗布又は電気めっきの方法で前記ベース層の少なくとも1つの伸長表面に設けられ、熱可塑性エラストマーを有する粘性材料で前記ベース層の表面に接着される少なくとも1つのコーティングとを備える。
【0014】
熱延伸及び成形によって作製された本発明の糸は、強度が高く、弾性回復率が高く、破断伸度が低く、かつ弾性率も高く、低応力の状況において変形しにくいといった優れた物性を持つ。前記糸は、環境の不利な要因に対する耐性が高く、水、光、空気によって簡単に分解せず、寿命も長く、直接織物に使用できる。接着剤層は、前記糸と伴って延伸でき、前記コーティングが前記ベース層に確実に接着させることができる。
【0015】
延伸及び細径化された前記糸は、多数の高分子鎖の結晶領域及びより多い順方向(糸の長手方向)の高分子鎖を形成し、より高い弾性率を有し、変形しにくく、優れた物性を有し、直接織物に使用することができる。また前記糸は、直接使用できるため、紡糸で覆われる必要がないため、前記コーティングにより提供する反射又は発光の機能、或いは金属色の機能、又は導電機能を損なうか、阻害することがない。
【0016】
延伸及び細径化を経た後、前記糸の表面において、前記機能性コーティングはより大きな比表面積を有することで、前記糸の表面におけるコーティングの面積率を増加する。
【0017】
好ましくは、前記粘性材料は、前記コーティングに混合されるか、又は前記糸が熱可塑性エラストマーの材質であり、伸長性を有する少なくとも1つの接着剤層をさらに含み、前記少なくとも1つのコーティングが前記接着剤層を介して前記ベース層の少なくとも1つの伸長表面に接着される。
【0018】
好ましくは、前記ベース層は、前記糸に弾性を持たせるため、熱可塑性エラストマーの材質でできて、前記糸が10%延伸された時、弾性回復率は少なくとも96%である。前記糸の破断伸度は、100%以内、すなわち2倍の長さに延伸されると破断し、例えば10cmの弾性糸を20cm(10cm伸び)に延伸すると破断する。
【0019】
好ましくは、前記ベース層は、低弾性及び低伸長性のフィルム材である。
【0020】
前記コーティングは、機能性コーティングで、微小反射素子(例えばガラスビーズ)を備えた反射層又は発光粒子を備えた発光層或いは金属色を備えたコーティング若しくは導電性を有するコーティングである。
【0021】
本発明により提供する糸の製法であって、前記糸は、フィルム材から切り出して作製され、延伸と細径化され、前記製法が以下の工程を含む。すなわち、
一、フィルム状のベース層と、少なくとも1つのフィルム状のコーティングとを有し、前記フィルム状のベース層は、熱可塑性プラスチック材質であり、前記少なくとも1つのフィルム状のコーティングが熱可塑性エラストマーを有する粘性材料で前記フィルム状のベース層の少なくとも1つの表面に接着されるフィルム材を調製する工程、
二、前記フィルム材を糸の断面が矩形を呈する数本の微細糸に切断する工程、
三、前記糸に熱延伸を施すことで、前記糸を受熱により伸長及び細径化させる工程、
四、延伸された前記糸に熱成形を施し、前記糸の熱安定性を向上して受熱後も過大に収縮しないようにさせる工程、
五、完成品を作製するため、前記糸を冷却する工程、
前記延伸及び細径化された糸の横断面は、楕円形を呈する。
【0022】
これにより、前記物性及び使用効果を有する前記糸を作製できる。延伸方法により、切断機の切断を突破し、直径がより小さな糸を作製することができ、より良好な肌触り及び幅広い用途を提供する。
【0023】
前記少なくとも1つのフィルム状のコーティングは、前記延伸された糸の頂側又は底側の表面に少なくとも配置され、延伸後前記コーティングがより大きな比表面積に伸ばす。
【0024】
好ましくは、前記粘性材料は、前記フィルム状のコーティングに混合されるか、又は前記フィルム材が熱可塑性エラストマーの材質であり、前記少なくとも1つのフィルム状のコーティングが前記少なくとも1つの接着剤層で前記ベース層の少なくとも1つの伸長表面に接着される。
【0025】
前記製法は、ローラーで前記糸を連続的に牽引して熱延伸、熱成形及び冷却工程を実施する。
【0026】
前記糸が延伸された後の細径化程度が50~150%の範囲である。
【0027】
延伸及び細径化された前記糸のベース層の内部に多数の高分子鎖の結晶領域及びより多い順方向の高分子鎖を有する。
【0028】
本発明の目的、特徴及び奏する効果は、下記の好ましい実施例の説明及び図面から理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の第1の好ましい実施例に係る糸の立体図(前記糸が切断で作製され、細径化されていない)である。
【
図2】
図1の糸を作製するための熱可塑性フィルム材の立体図(いくつかのカッターも表示する)である。
【
図3】本発明の第2の好ましい実施例に係る糸の立体図(前記糸が切断で作製され、細径化されていない)である。
【
図4】
図3の糸を作製するための熱可塑性フィルム材の立体図(いくつかのカッターも表示する)である。
【
図5】
図1及び
図3の好ましい実施例の糸の横断面概略図である。
【
図7】
図1の切断で作製される糸の応力-ひずみ曲線図である。
【
図8】本発明の好ましい実施例の細径化した糸製造工程を示す図である。
【
図9】
図1及び
図3の糸が
図8の製造工程により細径化され後の横断面概略図である。
【
図10】
図9の糸が細径化された後の糸のベース層の縦断面概略図である。
【
図11】
図9の延伸された弾性糸の応力-ひずみ曲線図である。
【
図12】別の切断後で延伸と細径化されていない糸の断面概略図である。
【
図13】
図12の糸が延伸細径化を経た後の剖面を示す模式図である。
【
図14】本発明の第3の好ましい実施例に係る糸の立体図(前記糸が切断で作製され、細径化されていない)である。
【
図15】
図14の糸を作製するための熱可塑性フィルム材の立体図(いくつかのカッターも表示する)である。
【
図18】未延伸糸及び延伸後の糸を示す顕微鏡写真である。
【
図19】未延伸糸及び延伸後の糸の微細構造を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、切断で作製される糸の発明に関する。本発明は、フィルム材から切り出して糸に作製し、切断で作製される糸を細径化させることで、切断で作製される糸の物性及び環境に対する耐性を向上させて、織物に使用させることができる。
【0031】
本発明は、切断で作製される糸を紡績分野に使用できる糸として細径化する。本明細書では、参照符号10が切断で作製されたが細径化されていない糸を表し、参照符号10Aが弾性を有する糸、参照符号10Bが低伸縮弾性及び低延性糸を示し、参照符号10Cが細径化されていない糸を示す。本発明において、参照符号20は細径化済みの糸を表し、上記細径化されていない糸10を細径化した後の完成品であり、参照符号20Aが弾性を有する細径化済みの糸を示し、参照符号20Bが低伸縮弾性及び低延性の細径化済みの糸を示し、参照符号20Cが細径化された糸を示す。本発明において、参照符号12は、細径化される前の糸10のベース層を表し、参照符号12Aが細径化されず、弾性を有するベース層を示し、参照符号12Bが細径化されず、低伸縮弾性又は低延性のベース層を示す。参照符号22は、細径化済みの糸20のベース層を表し、参照符号22Aが細径化済みで弾性を有するベース層を示し、参照符号22Bが細径化済みで低伸縮弾性又は低延性のベース層を示し、参照符号22Cが弾性又は低伸長性を備えたベース層を示す。本明細書において参照符号30は、糸10に切断するためのフィルム材を表し、参照符号30Aが弾性を有するフィルム材を示し、参照符号30Bが低弾性及び低延性のフィルム材を示し、参照符号30Cが弾性又は低伸長性を備えたフィルム材を示す。
【0032】
(実施例1)
図1に示す本発明の第1の好ましい実施例の切断で作製された糸10(10A)は、相当の長さを有し、3000m~4000mもの長さであり得る。
図1の糸10Aは、弾性を備え、横断面が多層構造であり、ベース層12Aと、少なくとも1つの接着剤層14と、少なくとも1つの機能性コーティング16とを備える。前記ベース層12Aの互いに反対側にある一対の表面、例えば頂面と底面は、ベース層の設置表面として定義され、前記2つの設置表面の面積がベース層12Aの別の互いに反対側にある一対の表面(すなわち、左側と右側の表面)の面積よりも大きい。前記少なくとも1つの機能性コーティング16は、前記少なくとも1つの接着剤層14で前記ベース層12Aの少なくとも1つの設置表面に接着される。本発明の好ましい実施例の糸10Aは、各々2つの接着剤層14で前記ベース層の頂側及び底側の設置表面に接着された2つの機能性コーティング16を有する。ベース層12Aの別の互いに反対側にある一対の表面(すなわち、左側と右側の表面)は、切断によって形成された表面である。
【0033】
前記ベース層12Aは、熱可塑性ポリエチレン(TPO、Thermoplastic polyolefin)の弾性材料などの熱可塑性エラストマー素材であり、具体的にはTPU(熱可塑性ポリウレタン、Thermoplastic polyurethanes)、TPE(熱可塑性エラストマー、Thermoplastic Elastomer)、TPOE(ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、Thermoplastic Polyolefin Elastomer)、TPEU(熱可塑性ポリウレタンエラストマー、Thermoplastic Polyether-based Urethane Elastomer)等の材質のプラスチックエラストマー又はTPUベース(TPU base)のホットメルト接着性エラストマーが挙げられるが、これらに限定されない。前記ベース層12Aは、前記糸10Aの伸縮弾性のベースで、前記糸10Aを弾性糸にさせる。
【0034】
各前記接着剤層14は、弾性及び伸長性を備え、熱可塑性エラストマー材質の接着剤であり、例えばTPUホットメルト接着剤であるが、これに限定されない。
【0035】
各前記機能性コーティング16は、塗布方法で形成されたコーティングであり、特定の機能を備える。前記機能性コーティング16は、発光層、反射層、金属色を有するコーティング、又は導電層などの機物或いは無機物であり得る。前記発光層は、発光粒子を含有するコーティングで、例えば発光(luminescent)粒子と高分子樹脂の混合液を混合してからなるコーティングで、発光効果を提供し、前記樹脂はポリウレタン(PU、Polyurethane)樹脂であり得る。前記反射層は、微小反射素子(例えばガラスビーズ)から成るコーティングで、ベース層12Aの設置表面に塗布されることで、反射作用を提供する。前記金属色を有するコーティングは、アルミニウム粉末とポリウレタン(Polyurethane、PU)の混合物であり得、電気めっき又は塗布方法によりベース層10Aの頂側或いは底側の設置表面に設けられ、糸10Aの表面にキラキラと輝く金属表面の効果を持たせ、前記ポリウレタンがコーティングの基材であり、前記アルミニウム粉末が前記基材内に混合される。アルミニウム粉末の色に合わせ、前記金属色を有するコーティングは、金、銀、赤、青、緑、オレンジなど色々な色に塗ることができる。前記導電性コーティングは、塗布又は電気めっき方法で前記ベース層12Aの頂側或いは底側の設置表面に設けられ、接着剤層14によりベース層に接着された導電性ペーストコーティングであり得る。
図5に示すように、本実施例の機能性コーティング16は、ガラスビーズ161から成る反射層を例にしている。前記2つの機能性コーティング16は、機能が同じコーティングであり得、例えば均しく発光層又は均しく反射層であり、機能が異なるコーティングもあり得、例えば一方の機能性コーティングは発光層で、他方の機能性コーティングが反射層である。
【0036】
図1の弾性糸10Aは、
図2に示す弾性を有するフィルム材30Aを切断して作製され、前記フィルム材30Aが熱可塑性エラストマーで製造された薄膜(以下、「熱可塑性弾性フィルム材」又は「弾性フィルム材」という。)で、弾性を有するフィルム状のベース層32Aと、前記フィルム状のベース層30Aの少なくとも1つの設置表面に設けられた少なくとも1つの接着剤層34と、少なくとも1つのフィルム状のコーティング36とを備え、前記フィルム状のコーティング36がフィルム状の機能層である。前記熱可塑性弾性フィルム材30Aは、2つのフィルム状の機能層36を有し、2つの接着剤層34で前記フィルム状のベース層32Aの頂側及び底側の設置表面に接着される。前記フィルム状のベース層32Aの材質は、前記糸10Aのベース層12Aの材質と同じで、熱可塑性エラストマー材料である。各前記接着剤層34の材質は、前記接着剤層14と同じで、熱可塑性エラストマー材質の接着剤である。各前記フィルム状の機能層36の材質又は成分は、前記機能性コーティング16と同じで、反射コーティング、発光コーティング、金属色を有するコーティング又は導電性を有するコーティングであり得る。
【0037】
前記弾性フィルム材30Aは、
図6に示す切断方法で切断され、複数の弾性糸10Aとして作製される。弾性フィルム材30Aは、ローラー37によって搬送され、更に少なくとも1列のカッター38で切断され、複数の弾性糸10Aとして作製される。
図1及び
図5に示すように、弾性糸10Aが切断により形成されるため、横断面が矩形を呈し、2つの側面が切断平面Pで、頂面及び底面が前記弾性フィルム材30Aの頂面及び底面である。
図5に示す弾性糸10Aの2つの機能性コーティング16は、いずれも反射層であり、ガラスビーズ161を有する。
図17は、前記弾性糸10Aの顕微鏡写真を示す。この好ましい実施例において、弾性フィルム材30Aの厚さYは、0.22mmで、隣り合う2つのカッター38間の距離(刃の先端部間の距離)が0.25mmであるため、切断で作製される前記弾性糸10Aの幅Wが0.25mmで、厚さTが0.22mmである。切断機の物理的な制限によって制限され、隣り合う2つのカッター38間の距離は、弾性フィルム材30Aの厚さより大きくなることで、切断できる。カッター間の距離が弾性フィルム材の厚さより小さい場合、弾性フィルム材がカッター間に圧迫され、弾性フィルム材とカッターとの間に非常に大きな圧力及び摩擦力が生じることで、弾性フィルム材がカッター内に詰まり、更にカッターの折損が生じ、切断できなくなる。したがって、切断で作製された弾性糸10Aの直径は、物理的に制限されている。
【0038】
前記弾性糸10Aは、前記弾性フィルム材30Aから切り出して作製され、前記弾性フィルム材30Aが液体混合物で成形され、内部の分子鎖が乱雑で、環境に対する耐性が低く、紫外線、酸素、水分、湿気等の環境要因の影響に対抗できず、前記弾性糸10Aが紫外線に照射され、大気中、水中又は湿気の高い環境において、分子鎖が容易に分解、切れ、寿命も短い。
【0039】
前記弾性糸10Aの分子鎖が乱雑であり、不規則に配列され、高分子鎖の結晶領域がほぼなく、初期弾性率が低く、破断伸度(elongation)が高く、250%~300%に達することができ、すなわち、長さ10cmの前記弾性糸が35cm(伸び率250%)又は40cm(伸び率300%)に伸ばされて破断する。
図7は、前記弾性糸10の応力-ひずみ曲線図であり、初期弾性率が低いため、力を受けて変形しやすい。
【0040】
前記弾性糸の分子鎖が乱雑であるため、弾性回復率が非常低く、例えば長さ10cmの前記弾性糸10Aを11cm(10%伸び)に延伸すると、張力が解放された後、前記弾性糸10Aが10.8cmまでわずかに引っ込められただけで、元の長さ10cmに戻ることができない。延伸後に元の長さに戻れないため、弾性糸がドレープになり、織物に使用できない。
【0041】
図8を参照すると、本発明は、機械的性質及び物性を向上させるため、上記弾性糸10Aに対して牽引(熱延伸)工程を施した。弾性糸10Aの融点以下の温度、例えば60~120℃の温度で、ベース層12Aがゴム状態にある弾性糸10Aを牽引及び延伸し、前記弾性糸10Aを細径化させ、前記ベース層12Aの分子鎖と内部構造を再編成させ、例えば弾性糸10を750デニール(denier)から500~300デニールまで細径化させるがこれに限定されず、細径化率が50%~150%であった。牽引(熱延伸)を経た後、細径化された弾性糸20Aの完成品を得、優れた機械的性質及び物性を持ち、紡績工程に使用することができる。以下に本発明の好ましい実施例の熱延伸、細径化される弾性糸の製法を詳細に説明する。
【0042】
弾性糸10Aは、
図6の切断作業を経て切断して作製された後、先にロールKに巻かれ、次に
図8の牽引(熱延伸)工程を実施し、或いは弾性糸10Aに切断した後、巻き取りせずに、直接
図8の牽引(熱延伸)作業を実施する。
【0043】
本発明は、60℃以上で、弾性糸の融点以下の温度で、切断で作製された弾性糸10Aに対し牽伸(熱延伸)D工程、熱成形F工程を実施し、その後延伸して細径化された弾性糸に対し冷却C工程を実施して、細径化された弾性糸20を得る。
図8の実施例は、複数組のローラーR1、R2、R3及びR4で前記弾性糸10Aを牽引、延伸し、異なる回転数のローラーを介して弾性糸を延伸及び成形させる。以下に、本発明の熱延伸工程を説明する。
【0044】
本発明は、先に弾性糸10Aを牽引(熱延伸)D(以下、「牽引又は延伸」という)し、更に熱延伸後の弾性糸に熱成形Fを実施し、次に弾性糸を冷却Cして構造を安定させると、細径化して弾性糸20Aの最終製品を完成させることができる。熱延伸Dは、1回以上の延伸工程内で完了でき、本実施例が2回の延伸D1、D2工程で弾性糸10Aを延伸した。前記第1組のローラーR1は、第1の回転数S1で弾性糸10Aを搬送し、前記第2組のローラーR2が第2の回転数S2で前記弾性糸10Aを牽引する。次に、前記第3組のローラーR3は、第3の回転数S3で前記弾性糸10Aを牽引し、前記第1組のローラーR1と第3組のローラーR3との間で前記弾性糸10Aを延伸し、熱延伸D工程の後、第3組のローラーR3と第4組のローラーR4との間で弾性糸に対し熱成形F工程を実施し、前記弾性糸をやや収縮させる。その後、冷却C工程を経て本発明の弾性糸20Aとして作製した。
【0045】
上記製造工程を以下に説明し、ここでローラーの回転数S1~S4は一例であり、限定するものではない。前記第1組のローラーR1は、10m/min(1分間当たり10m)の回転数S1で前記弾性糸10Aを搬送し、第2組のローラーR2が40m/min(1分間当たり40m)の回転数S2で弾性糸を牽引し、第2組のローラーR2と第1組のローラーR1との間で前記弾性糸10Aに対し1回目の延伸D1を実施し、弾性糸10Aを300%延伸(即ち、300%伸ばす)する。第3組のローラーR3が48m/minの回転数S3で弾性糸を牽引し、第3組のローラーR3と第2組のローラーR2との間で前記弾性糸10Aに対し2回目の延伸D2を実施し、弾性糸をさらに20%延伸する。本発明の熱延伸D工程は、弾性糸の長さを200%~450%に伸ばした。
【0046】
本実施例は、2回の延伸D1、D2工程で弾性糸10Aを延伸し、弾性糸の伸長をより安定させる。1回目の延伸D1は、より大きな延伸倍率で前記弾性糸を延伸し、1回目延伸D1を経た後、2回目の延伸D2がより小さな延伸倍率で弾性糸を延伸する。前記2回の延伸D1、D2を介して弾性糸10Aが細径化され、直径が細くなり、ベース層12Aが細径化されることを含めてデニール数も減少し、かつ延伸Dを経た後、弾性糸10Aのベース層12Aの高分子鎖が順方向(弾性糸の縦方向、すなわち延伸される方向に沿って)に並べられる。前記熱延伸D工程は、前記弾性糸10Aのデニール数を少なくとも半分に減少させ、例えば弾性糸10Aを300%又は400%(例えば長さ10cmの弾性糸を長さ40cm或いは50cmに伸ばす)に延伸し、弾性糸を例えば800デニールから300デニール又は300デニール以下に減少させ、デニール数が延伸前の0.375倍である。
図1の弾性糸を例にすると、延伸される前の前記弾性糸10Aの断面積は、0.055mm2(幅W:0.25mm×厚さT:0.22mm)で、熱延伸Dを経た後、
図9に示すように、弾性糸20Aの断面積が0.0275mm2になり、直径が細くなり、デニール数も大幅に減少した。
【0047】
延伸D工程において、ヒーターで気体又は液体を媒体として弾性糸10Aに熱エネルギーを供給することで、弾性糸の各部位の分子鎖が活性状態で延伸させる。延伸して細径化した後、
図10に示すように、前記弾性糸20のベース層22Aに多数の高分子鎖の結晶領域23及び順方向に配列された高分子鎖24が得られ、少量の不規則に配列された高分子鎖26のみが残り、弾性糸の物性が向上され、順方向の高分子鎖24が弾性糸の縦方向に沿って配列される。本実施例は、1回目の延伸D1時、流体槽40で液体を格納し、60~100℃の温度H1の液体(例えば熱湯)で弾性糸を加熱し、2回目の延伸D2時、ヒーター44で100~120℃の温度H2の熱風を提供して弾性糸を加熱する。熱湯の熱交換速度が速いため、1回目の延伸D時、迅速かつ均一に弾性糸10を熱延伸の温度まで加熱でき、2回目の延伸D2時、ヒーター44がより高い温度H2を提供して弾性糸を継続的に加熱する。
【0048】
本実施例は、1回目の延伸D1時熱湯で弾性糸を加熱するため、於前記流体槽40と第2組のローラーR2との間に排風機42或いは送風機を設け、弾性糸が前記流体槽40から離れた後、弾性糸の水蒸気を吸引又は吹き飛ばして、危険因子を除去する。
【0049】
前記弾性糸10Aが延伸された後、内部応力が除去され、次に第3組のローラーR3と第4組のローラーR4との間で前記熱成形F工程を実施して、弾性糸10Aのベース層22Aを延伸後の状態に成形させ、ベース層の内部構造を前記高分子鎖の結晶領域23及び順方向に配列される分子鎖24を維持させ、熱成形F工程において、加熱装置、例えばヒーター46で、温度H3を提供して弾性糸10Aを加熱し、弾性糸に前記温度H3内で熱延伸後の状態及び内部構造を記憶及び成形させる。前記熱成形Fの温度H3は、熱延伸D工程の温度よりも高いが、弾性糸の融点、例えば80~140℃で、好ましくは100~140℃を超えない。前記第4組のローラーR4の第4の回転数S4は、第3組のローラーR3の第3の回転数S3を超えることなく、回転数S3と同じかやや小さくため、熱成形F工程内で弾性糸を延伸しない。本実施例における前記第4の回転数S4は、46m/min(1分間当たり46m)であり、第3の回転数S3よりやや小さいため、熱成形F段階において、弾性糸が少し収縮でき、作製された弾性糸は使用時熱に対してより安定している。熱成形を経た後、前記弾性糸の熱安定性が向上され、弾性糸が受熱後も過大な収縮を起こさず、弾性糸の後工程の加工(例えば縫製糸、刺繍糸等)受熱の収縮率も安定させた。
【0050】
さらに、延伸後の弾性糸に静電気が起きるのを防止するため、延伸D工程中(例えば第2組のローラーR2と第3組のローラーR3との間)、又は成形F段階内に静電気除去装置を設けることで、弾性糸の静電気を除去できた。
【0051】
熱成形Fの成形段階を経た後、弾性糸に冷却C工程を施して、本発明の弾性糸20Aを作製する。その後、弾性糸20AをロールUに巻き取ることで、使用のために備える。本実施例は、空冷で弾性糸を冷却し、例えば空調室の温度(例えば18~28℃)で弾性糸を冷却する。これらローラーR1~R4は、前記弾性糸を連続的に牽引し、熱延伸、熱成形及び冷却等の製造工程を完了する。
【0052】
図1の弾性糸10Aは、熱延伸、細径化を経た後製造
図9に示す弾性糸20Aを作製し、断面構造において、前記弾性糸20Aのベース層22Aの頂側及び底側の設置表面は延伸後の伸長表面221を形成し、前記伸長表面221が延伸により形成された円弧/たわみを有する。前記ベース層22Aの頂側及び底側の伸長表面221は、2つの機能性コーティング16を有し、
図9に示すコーティング16がガラスビーズ161を有する反射層であり、前記2つの反射層16は2つの接着剤層14でベース層22Aに接着される。延伸及び細径化を経た後、弾性糸20の直径が細くなり、デニール数も減少し、かつ弾性糸20の横断面が楕円形を呈し、もはや矩形ではなく、前記ベース層22Aの横断面も矩形を呈する。前記2つの機能性コーティング16は、ベース層22Aと共に延伸され、伸長表面221の円弧/たわみに沿って前記ベース層に接着される。弾性糸20Aの別の互いに反対側にある一対の両側、すなわち切断で形成された両側Gの面は、弧状を呈する。
【0053】
図12及び
図13は、各々本発明の別の糸を示す断面概略図である。
図12の糸10は、切断で作製されるが延伸や細径化されず、断面が矩形を呈する。
図13の糸20は、
図12の糸10が上記延伸D、熱成形F及び冷却C等の工程を経て作製され、前記糸20の断面形状が楕円形を呈する。
図12及び
図13は、発光コーティング、金属色のコーティング或いは導電性コーティングなどの非反射機能のコーティング16を示し、これらコーティングがフィルム状を呈し、発光粒子又はアルミニウム粉末或いは導電性ペーストの導電物質が前記コーティング内に存在する。
【0054】
図9及び
図13に示すように、延伸及び細径化を経た後、糸20の断面形状及びベース層22の横断面形状は、いずれも楕円形を呈し、前記2つの機能性コーティング16及び前記2つの接着剤層14がより大きな比表面積に伸ばす。コーティング16が発光又は反射コーティングの場合、延伸後の発光或いは反射の面積がより広い。
【0055】
コーティング16及び接着剤層14は、ベース層22と一緒に延伸され、細径化された糸20の前記2つのコーティング16及び前記2つの接着剤層14が弧状を呈し、前記2つのコーティング16が前記2つの接着剤層14で前記ベース層22の伸長表面221に接着され、コーティング16及び接着剤層14がベース層22の伸長表面221の円弧/たわみに沿ってベース層に設けられるため、コーティング16も円弧/たわみを有する。前記2つの接着剤層14は、熱可塑性エラストマーの材質で製造されたため、前記糸10が伸ばされる時、前記2つの接着剤層14が前記ベース層22と伴って伸ばすことができて破断せず、機能性コーティング16、特に、ガラスビーズ161がベース層22に接着するのを保持できることで脱落又は分離しないよう確保する。
【0056】
図18及び
図19は、未牽引(熱延伸)の弾性糸10及び牽引(熱延伸)後の弾性糸20の顕微鏡写真を示す。
図18は、弾性糸10及び20を上から見た角度から撮影したものであり、熱延伸、細径化された弾性糸20のデニール数が未熱延伸の弾性糸10の半分以下にまで減少し、直径が弾性糸10の直径よりも細い。
【0057】
図19は、弾性糸10と弾性糸20の端面状態の微細構造を示し、弾性糸10の横断面が矩形を呈し、延伸、細径化された弾性糸20(ベース層とコーティングを含む)の横断面が楕円形を呈し、弾性糸20の両側Gが弧状を呈する。
図9及び
図13に示すように、牽引延伸後の糸20(20A、20B)の楕円形の横断面は、異なる長さの2つの軸方向を有し、
図9及び
図13を基準とし、両側方向を横軸Xとし、上下方向を縦軸Zとし、横軸Xの長さが縦軸Zより長い。
【0058】
本発明により作製される前記延伸及び細径化後の弾性糸20Aのベース層22Aの内部構造は、高分子鎖の結晶領域23及び順方向の高分子鎖24を生成し、少量の不規則な分子鎖26のみを残す。本発明は、弾性糸10A内の不規則に配列された分子鎖を除去し、不規則に配列された分子鎖を前記結晶領域23及び順方向の分子鎖24に変換することで、弾性糸20Aの物性を向上し、これには弾性糸20の強度及び初期弾性率を高めること、弾性回復率を向上させること、破断伸度を低減させること、及び環境に対する耐性を向上させること、紫外線の照射に耐えること、水蒸気、空気の影響に耐えることで分解しないこと、長寿命を含む。前記結晶領域23及び順方向の分子鎖24は、弾性糸20が耐えられる張力を向上させ、強度を高めることができ、強度も1.3~2倍に増し、弾性糸20Aをより強くすることができる。
図11は、熱延伸及び熱成形を経て作製された弾性糸20Aの応力-ひずみ曲線図であり、初期弾性率が高く、破断伸度が低く、力を受けて変形しにくい。
【0059】
前記順方向の分子鎖24は、弾性糸20Aの弾性回復力を強化する。本発明により作製された弾性糸20Aは、10%の引張試験に供され、例えば11cmに延伸された10cmの弾性糸20Aが100%程度弾性的に回復することができ、すなわち10cmに戻ることができる。20%延伸され、すなわち10cmから12cmに延伸され、弾性回復率も97%以上に達し、すなわち弾性回復の長さが10.03cmになる。したがって、弾性糸20Aが10%延伸されると少なくとも96%以上の弾性回復率を有し、20%延伸されると少なくとも95%以上の弾性回復率を有する。
【0060】
不規則に配列された分子鎖が除去されるため、作製された弾性糸20Aの弾性を低減することができ、細径化前の弾性糸10の300%の破断伸度が、細径化後の弾性糸20の150%の破断伸度に下がり、破断伸度が2倍(200%)以内に限縮される。
【0061】
(実施例2)
図3は、本発明の第2の好ましい実施例の切断で作製された糸10Bであり、前記糸10Bの伸縮弾性及び伸長性が低い。前記糸10Bの横断面は、多層構造であり、ベース層12Bと、少なくとも1つの接着剤層14と、少なくとも1つの機能性コーティング16とを備える。この好ましい実施例の糸10Bは、2つの機能性コーティング16を有し、各々2つの接着剤層14で前記ベース層の頂側及び底側の設置底面に接着される。
【0062】
前記ベース層12Bは、ナイロン(Nylon)、又はPET(ポリエチレンテレフタレート、Polyethylene terephthalate)などのポリエステル材料などの伸縮弾性及び伸長性が低い熱可塑性プラスチック材質で作製された。前記ベース層12Bは、前記糸10Bの本体である。
【0063】
各前記接着剤層14は、伸縮弾性を備え、熱可塑性エラストマー材質の接着剤であり、例えばTPUホットメルト接着剤であるが、これに限定されない。
【0064】
各前記機能性コーティング16は、塗布方法で形成されたコーティングであり、特定の機能を備える。前記機能性コーティング16は、発光層、反射層、金属色を有するコーティング、又は導電層であり得る。本実施例の機能性コーティング16が第1の好ましい実施例と同じであるため、実施例1の説明を参考されたい。
【0065】
図3の弾性糸10Bは、
図4に示す熱可塑性フィルム材30Bを切断して作製され、前記フィルム材30Bの伸縮弾性及び伸長性が低く、フィルム状のベース層32Bと、前記フィルム状のベース層30Bの少なくとも1つの設置表面に設けられた少なくとも1つの接着剤層34と、少なくとも1つのフィルム状のコーティング36とを備える。前記熱可塑性弾性フィルム材30Bは、2つのフィルム状の機能層36を有し、2つの接着剤層34で前記フィルム状のベース層32Bの頂側及び底側の設置表面に接着される。前記フィルム状のベース層32Bの材質は、前記糸10Bのベース層12Bの材質と同じである。各前記接着剤層34の材質は、前記接着剤層14と同じである。各前記フィルム状の機能層36の材質又は成分は、前記機能性コーティング16と同じで、反射コーティング、発光コーティング、金属色を有するコーティング又は導電性を有するコーティングであり得る。
【0066】
前記フィルム材30Bもまた、
図6に示す切断方法で複数の糸10Bに切断して作製され、切断で作製された前記糸10Bを
図5及び
図12に示す。横断面が矩形を呈し、2つの側面が切断平面Pで、頂面及び底面が前記フィルム材30Bの頂面及び底面であり、前記糸10Bの顕微鏡写真も
図17~
図19に示す。この好ましい実施例のフィルム材30Bの厚さYは、0.22mmで、隣り合う2つのカッター38間の距離(刃の先端部間の距離)が0.25mmであるため、切断で作製される前記弾性糸10Bの幅Wが0.25mmで、厚さTが0.22mmである。
【0067】
前記糸10Bは、同様に
図8の牽伸(熱延伸)D工程、熱成形F工程、及び冷却C工程により細径化された糸20Bを得たものを
図9及び
図13に示す。前記糸20は、150%又は300%(例えば長さ10cmの糸を25cm或いは40cmに伸ばす)に延伸され、糸の細径化程度が50~150%の範囲である。
図8の製造工程の詳細について、第1の好ましい実施例を参照されたい。前記糸20Bの断面は、楕円形を呈し、異なる長さの2つの軸方向X及びZを有し、かつ互いに反対側にある一対の両側、例えば図に示す左右両側Gは、弧状を呈し、前記糸20Bの顕微鏡写真を
図18、
図19に示す。前記ベース層22Bの断面も楕円形を呈する。延伸及び細径化された前記糸20Bの直径が細くなり、ベース層22Bが細径化されることを含めてデニール数も少なくとも半分に減少し、
図8の製造工程を経た後、前記糸20Bのベース層22Bの内部構造も
図10に示されるように、多数の高分子鎖の結晶領域23及び順方向に配列された高分子鎖24を有し、少量の不規則に配列された分子鎖26のみを残し、前記糸20Bの物性を向上させるには、糸20Bの強度及び初期弾性率を高めること、破断伸度を低減させること、及び環境に対する耐性を向上させること、紫外線の照射に耐えること、水蒸気、空気の影響に耐えることで分解しないこと、長寿命及び糸20Bが耐えられる張力を向上させることで、強度を高めることを含み、強度が1.3~2倍に増すことができる。
【0068】
細径化された糸20Bの前記2つのコーティング16及び前記2つの接着剤層14が弧状を呈し、前記2つのコーティング16が前記2つの接着剤層14で伸長表面221に沿って前記ベース層22Bに接着される。前記2つの接着剤層14は、熱可塑性エラストマーの材質であるため、前記2つの接着剤層14が前記ベース層22Bと伴って伸ばすことができて破断せず、機能性コーティング16、特に、ガラスビーズ161がベース層22Bに接着するのを保持できることで脱落又は分離しないようにさせる。
【0069】
(実施例3)
図14を参照すると、本発明の第3の好ましい実施例の切断で作成されているが細径化されていない糸10C(10)を示す。前記糸は、ベース層12Cと、前記ベース層の頂側又は/及び底側の設置表面に塗布或いは電気めっきされた1つ又は2つの機能性コーティング16'とを備え、前記糸10C(10)の両側が切断平面Pである。前記糸10C(10)の微細構造は、
図17~
図19を参照されたい。前記ベース層12Cは、第1の好ましい実施例に記載の弾性を有するベース層12A、又は第2の好ましい実施例に記載の低弾性、低伸長性のベース層12Bであり得る。各前記コーティング16'は、ポリウレタン樹脂などの高分子樹脂材質の基材を備え、前記基材内に発光粒子又はアルミニウム粉末、或いは導電性ペーストが混合され、かつ前記コーティング内に熱可塑性エラストマー材質の粘性材料(図示せず)が混合され、前記粘性材料は前記実施例の接着剤層14の材質である。前記コーティング16'は、塗布又は電気めっき方法でベース層12Cの少なくとも1つの設置表面に設けられ、前記粘性材料で前記ベース層12Cの設置表面に接着される。前記発光粒子又はアルミニウム粉末或いは導電性ペーストを介して、前記コーティングを発光コーティング或いは金属色のコーティング若しくは導電性コーティングにさせる。
【0070】
前記糸10Cは、
図15のフィルム材30Cを
図6に示す製法で切断して作製され、前記フィルム材30Cがフィルム状のベース層32Cと、前記フィルム状のベース層32Cの頂側或いは/及び底側の表面に設けられた1つ又は2つのフィルム状のコーティング36'とを備える。前記フィルム状のベース層32Cは、実施例1の弾性を有する基材32A又は実施例2の低弾性、低伸長性のベース層32Bであり得る。各前記フィルム状のコーティング36'の構成及び成分は、前記機能性コーティング16'と同じで、すなわち、前記フィルム状のコーティング36'の基材に熱可塑性エラストマー材質の粘性材料が混合され、前記粘性材料でフィルム状のベース層32Cに接着される。前記フィルム状のコーティング36'は、発光コーティング、金属色を有するコーティング或いは導電性を有するコーティングであり得る。
【0071】
図16に示すように、前記糸10Cは、
図8に示す牽伸(熱延伸)D工程、熱成形F工程、及び冷却C工程で延伸や細径化された糸20C(20)として作製され、前記糸20Cの物性は前記糸20A又は糸20Bを参照されたい。前記糸20C及び前記ベース層22Cの断面は、楕円形を呈し、前記糸20Cが異なる長さの2つの軸方向X及びZを有し、両側Gが弧状を呈する。前記糸20C(20)の微細構造は、
図18、
図19を参照されたい。延伸及び細径化された前記糸20Cの直径が細くなり、デニール数も大幅に減少し、かつ前記ベース層22Cの内部構造も
図10に示すように、多数の高分子鎖の結晶領域23及び順方向に配列された高分子鎖24、及び少量の不規則に配列された高分子鎖26を有し、前記糸20Cの物性が向上され、不利な要因の影響を受けないため、分解がなく、寿命も長くなる。
【0072】
前記2つのコーティング16'は、伸長表面221の円弧/たわみに沿って熱可塑性エラストマーの粘性材料で前記ベース層22Cの伸長表面221に接着され、コーティング16'が円弧/たわみを有する。延伸過程で前記粘性材料が前記ベース層22Cと伴って伸ばすことができて破断せず、機能性コーティング16'がベース層22Cに接着するのを保持できることで脱落又は分離しないようにさせる。
【0073】
本発明は、外径0.09~0.6mmの範囲の糸、特に外径0.09~0.3mmの範囲の糸などの微細糸を作製できる。本発明により作製された糸20(20A、20B、20C)の強度は、高く、破断伸度が低く、初期弾性率が高く、弾性回復率も高く、様々な優れた物性を有し、直接織物の主糸(表糸)及び直接縫製糸、刺繍糸或いはジャカード用糸として使用できる。前記糸20(20A、20B、20C)は、直接使用することができ、別段紡糸で糸を包む必要がなく、糸20が直接露出されるため、発光又は反射のコーティングが妨げられず、発光又は反射機能の完全性を保持する。
【0074】
本発明により作製される糸の機能性コーティング(16、16')は、より大きな比表面積を有し、糸の表面におけるコーティングの面積率が増加することからコーティングの機能をより向上させる。
【0075】
ガラスビーズの反射層は、塗布方法のみでフィルム材12及び糸10の表面に形成されることができるため、表面にガラスビーズ161を有する糸を作製しようとする場合、塗布方法でのみガラスビーズコーティングをフィルム材30(30A、30B)に塗布し、次に切断方法で作製される。本発明の熱延伸の製法は、機能性コーティングの塗布方法でのみフィルム材の表面に形成されてから切断作業で作製される糸に特に適している。
【0076】
本発明の糸は、熱可塑性フィルム材から切り出し、熱延伸や細径化を経て作製され、直径がより細く、切断方法よりも細い糸を作製することができ、肌触りもより良く、用途もより幅広くなる。
【0077】
上記に開示された実施例は、本発明の特徴説明を目的のためのみであって、本発明を限定することを意図するものではなく、本発明のすべてのかかる均等な修正は、本発明の保護範囲と見なされるべきである。
【符号の説明】
【0078】
10(10A、10B、10C) 糸
12(12A、12B、12C) ベース層
14 接着剤層
16、16' 機能性コーティング
161 ガラスビーズ(反射素子)
20(20A、20B、20C) 糸
22(22A、22B、22C) ベース層
221 伸長表面
23 結晶領域
24 順方向の高分子鎖
26 不規則に配列された高分子鎖
30(30A、30B、30C) フィルム材
32(32A、32B、32C) フィルム状のベース層
34 接着剤層
36、36' フィルム状のコーティング
37 ローラー
38 カッター
40 流体槽
42 排風機
44、46 ヒーター
C 冷却
D 牽引(熱延伸)
D1 1回目の延伸
D2 2回目の延伸
F 熱成形
G 側
H1~H3 温度
K、U ロール
P 平面
R1~R4 第1組~第4組のローラー
S1~S4 第1の回転数~第4の回転数
T 厚さ
W 幅
X 横軸
Y 高さ
Z 縦軸