(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】衣服
(51)【国際特許分類】
A41D 13/00 20060101AFI20240112BHJP
A41D 1/00 20180101ALI20240112BHJP
【FI】
A41D13/00 115
A41D1/00 Z
(21)【出願番号】P 2023105010
(22)【出願日】2023-06-27
【審査請求日】2023-06-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518098612
【氏名又は名称】株式会社ベルエスプリ
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(72)【発明者】
【氏名】富山 雅夫
【審査官】山尾 宗弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-248391(JP,A)
【文献】特開2006-320640(JP,A)
【文献】登録実用新案第3193056(JP,U)
【文献】中国実用新案第213215384(CN,U)
【文献】中国実用新案第210492706(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 13/00
A41D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着用者が上半身に着圧がかかった状態で着用する衣服であって、
一部に設けられた、相対的に伸度が低い低伸度部と、
残部に設けられた、相対的に伸度が高い高伸度部と、
を備え、
前記低伸度部は、
前記衣服のベースとなるベース地の一部と、前記ベース地の一部に対して重ね合わされて接合された低伸度帯部材と、を備え、且つ、左右それぞれの袖付き周りを周回するように形成された一対のリング部と、前記一対のリング部同士を前記着用者の背中部分で連結する連結部と、を有し、
前記高伸度部は、前記ベース地における前記低伸度帯部材が接合された部分を除く部分であり、
前記ベース地は、前記前身頃の構成中に含まれる前身頃部と、前記後身頃の構成中に含まれる後身頃部と、が互いに接合されてなり、
前記後身頃部は、前記背中を覆う部分である背面部と、前記背面部にシームレスに連続するとともに、当該背面部から前記肩部を通り左右それぞれの前記袖付きに沿って前記着用者の胸部側に延びて前記背面部の側縁部に接合される一対の袖付き部と、を有し、
前記低伸度部は、
前記背面部の一部および前記一対の袖付き部に形成されており、
前記低伸度部における前記ベース地および前記低伸度帯部材は、前記
一対のリング部
のそれぞれにお
いて、ともに前記着用者の脇下部分で端部同士が接合され、それ以外の部分では連続してシームレスに構成されている、
衣服。
【請求項2】
前記一対のリング部のそれぞれは、前記着用者の背中の幅方向において、前記連結部との連結部分が前記着用者における左右の肩甲骨よりも内側を通るように、前記袖付きから離間して形成されている、
請求項1に記載の衣服。
【請求項3】
前記一対のリング部のそれぞれは、前記着用者の肩甲上腕関節を覆う部分を通るように形成されている、
請求項2に記載の衣服。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣服に関し、特に上半身に着用されることで着用部に着圧をかける衣服に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、着用者の着圧を高めることで姿勢矯正機能が付加された衣服が開発されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1に開示の衣服は、ベース地と、当該ベース地の左右の各袖付き部に沿ってリング状に延びるリング状弾性部材と、背部で横方向に延び、左右のリング状弾性部材同士を連結する背部弾性部材と、を有する。リング状弾性部材は、弾性糸またはゴムテープで構成され、背部弾性部材は、弾性糸またはゴムシートで構成されている。このような構成を有する衣服では、背部弾性部材とリング状弾性部材との連関により着用者における上腕の付根あたりを後側に引っ張り、これにより着用者の胸を張った姿勢に矯正することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年では筋力アップを図る人が増加している。筋力アップの対象となる筋肉としては、三角筋や広背筋などの背面側にある筋肉も含まれる。そして、上記のように筋力アップを図ろうとする場合には、トレーニング中のみならず、トレーニングを行っていない状態でも、上記のような筋肉に負荷をかけることが有効となる。
【0006】
上記特許文献1に開示の衣服においても、背部弾性部材およびリング状弾性部材により着用者の背面側にある筋肉に負荷をかけることができるため、着用者の筋力アップを図るのに有効であるとも考えられる。
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に開示の衣服では、着用者の筋力アップを図ることが効果的に行うには十分でない。具体的に、上記特許文献1に開示の衣服を含めて、従来の衣服では、ベース地を構成する前身頃と後身頃とが肩部および両脇部で接合されている。このため、リング状弾性部材が当該接合部分を跨いだ状態でベース地上に形成されており、接合部分がベース地に対して低伸度である結果、リング状弾性部材の延伸方向に伝達される引張力が肩部におけるベース地の接合部分で分散されてしまい、着用者の筋肉に負荷をかけるには不十分である。
【0008】
本発明は、上記のような問題の解決を図ろうとなされたものであって、着用者における背面側の筋肉に対して効果的に負荷をかけて筋力アップを図るのに有効な衣服を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る衣服は、着用者が上半身に着圧がかかった状態で着用する衣服であって、低伸度部と高伸度部とを備える。前記低伸度部は、一部に設けられた、相対的に伸度が低い部位である。前記高伸度部は、残部に設けられた、相対的に伸度が高い部位である。
【0010】
前記低伸度部は、前記衣服のベースとなるベース地の一部と、前記ベース地の一部に対して重ね合わされて接合された低伸度帯部材と、を備え、且つ、左右それぞれの袖付き周りを周回するように形成された一対のリング部と、前記一対のリング部同士を前記着用者の背中部分で連結する連結部と、を有する。
前記高伸度部は、前記ベース地における前記低伸度帯部材が接合された部分を除く部分である。前記ベース地は、前記前身頃の構成中に含まれる前身頃部と、前記後身頃の構成中に含まれる後身頃部と、が互いに接合されている。前記後身頃部は、前記背中を覆う部分である背面部と、前記背面部にシームレスに連続するとともに、当該背面部から前記肩部を通り左右それぞれの前記袖付きに沿って前記着用者の胸部側に延びて前記背面部の側縁部に接合される一対の袖付き部と、を有する。そして、前記低伸度部は、前記背面部の一部および前記一対の袖付き部に形成されている。
【0011】
本態様に係る衣服において、前記低伸度部における前記ベース地および前記低伸度帯部材は、前記一対のリング部のそれぞれにおいて、ともに前記着用者の脇下部分で端部同士が接合され、それ以外の部分では連続してシームレスに構成されている。
【0012】
上記態様に係る衣服では、一対のリング部と連結部とを有する低伸度部を備えるとともに、低伸度部が脇下部分を除き連続してシームレスに構成されているので、左右両側のリング部をその長手方向に伝達される引張力が肩部で分散されることなく背面側に伝達される。よって、上記態様に係る衣服では、着用者の両腕付け根部分を後側へと引き寄せる力を作用させることができる。これより、着用者は、上記態様に係る衣服を着用するだけで三角筋や広背筋といった背中側にある筋肉に負荷がかかり、筋力アップを図ることができる。
【0013】
なお、上記における「着圧」とは、低伸度部および高伸度部のそれぞれにおいて、着用者の動作に応じて生地に引張力が作用する圧力を示すものである。このため、上記態様に係る衣服は、所謂、コンプレッションウェアに限定されるものではない。
【0015】
また、上記態様に係る衣服では、低伸度部がベース地に対して低伸度帯部材が重ね合わされて接合されて構成されているので、ベース地と低伸度帯部材との選択により、低伸度部と高伸度部との伸度の差異を種々に設定可能である。よって、着用者の両腕付け根部分を後側へと引き寄せる力を適度な大きさの力に調整することが可能である。
【0017】
上記態様に係る衣服において、前記ベース地は、前記前身頃の構成中に含まれる前身頃部と、前記後身頃の構成中に含まれる後身頃部と、が互いに接合されていてもよい。この場合に、前記後身頃部は、前記背中を覆う部分である背面部と、前記背面部に連続するとともに、当該背面部から前記肩部を通り左右それぞれの前記袖付きに沿って前記着用者の胸部側に延びる一対の袖付き部と、を有してもよい。また、前記低伸度部は、前記背面部の一部および前記一対の袖付き部に形成されてもよい。
【0018】
また、上記態様に係る衣服では、低伸度部が背面部の一部および一対の袖付き部に形成される構成を採用することにより、低伸度部を脇下部分を除き連続してシームレスに構成しながら、煩雑な作業を伴うことなく製造可能である。
【0019】
上記態様に係る衣服において、前記一対のリング部のそれぞれは、前記着用者の背中の幅方向において、前記連結部との連結部分が前記着用者における左右の肩甲骨よりも内側を通るように、前記袖付きから離間して形成されていてもよい。
【0020】
上記態様に係る衣服では、一対のリング部のそれぞれが、連結部との連結部分において、左右の肩甲骨よりも内側を通るように形成されているので、着用者における肩甲骨の動きが阻害され難い。よって、着用者が腕を上げようとした際も、当該動きを妨げ難い。
【0021】
上記態様に係る衣服において、前記一対のリング部のそれぞれは、前記着用者の肩甲上腕関節を覆う部分を通るように形成されていてもよい。
【0022】
上記態様に係る衣服では、一対のリング部のそれぞれが、肩甲上腕関節の上を覆う部分を通るように形成されているとともに、当該一対のリング部が他の部分に比べて相対的に低い伸度で形成されているので、肩甲上腕関節のあたりを作用点として両腕付け根部分を効果的に後側へと引き寄せることができる。
【発明の効果】
【0023】
上記の各態様に係る衣服は、着用者における背面側の筋肉に負荷をかけて筋力アップを図るのに有効である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】実施形態に係る衣服を前側から見た図である。
【
図2】実施形態に係る衣服を後側から見た図である。
【
図3】(a)は実施形態に係る衣服の構成部材の内の前身頃を示す図、(b)は実施形態に係る衣服の構成部材の内の後身頃を示す図である。
【
図4】後身頃におけるベース地への低伸度帯部材の接合形態を示す断面図である。
【
図5】本実施形態に係る衣服をユーザが着用した状態を示す図であって、(a)は側方側から見た図、(b)は後側から見た図である。
【
図6】比較例1に係る衣服を示す図であって、(a)は前側から見た図、(b)は後側から見た図である。
【
図7】比較例2に係る衣服を後側から見た図である。
【
図8】実施形態に係る衣服の構成部材の内の後身頃を示す図である。
【
図9】変形例1に係る衣服を展開した状態で示す図である。
【
図10】(a)~(c)は、それぞれ他の変形例に係る衣服の一部構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下では、本発明の実施形態について、図面を参酌しながら説明する。なお、以下で説明の形態は、本発明を例示的に示すものであって、本発明は、その本質的な構成を除き何ら以下の形態に限定を受けるものではない。
【0026】
1.衣服1の外観構成
本実施形態に係る衣服1の外観構成について、
図1および
図2を用いて説明する。
図1は衣服1を前側から見た図、
図2は衣服1を後側から見た図である。
【0027】
図1および
図2に示すように、衣服1は、一例として上半身に直接着用する衣服であって、上半身に着圧がかかった状態で着用するコンプレッションウェアである。衣服1は、前身頃10と、後身頃11と、左右の袖12,13と、衿14と、低伸度帯部材20と、を備える。なお、前身頃10と、後身頃11と、左右の袖12,13と、衿14と、低伸度帯部材20とは、互いに接着剤を用いて接合されている。ただし、縫製により接合されてもよい。
【0028】
低伸度帯部材20は、前身頃10および後身頃11のベースとなるベース地に対して相対的に伸度が低い部材で構成されている。ベース地と、ベース地に低伸度帯部材20を接合した部位との破裂強さ(JIS-L-1096 ミューレン法)を測定した結果を示す。
【0029】
(ベース地)548kPa
(ベース地+低伸度帯部材20)750kPa
上記のように、ベース地に対して、低伸度帯部材20を接合した部位は、約37%高い破裂強さを有する。
【0030】
なお、ベース地に対する、低伸度帯部材20を接合した部位の破裂強さに係る上記比率は、一例である。例えば、ベース地に対して破裂強さが20%以上高くなるようにすればよく、より好ましくは30%以上高くなるようにすればよい。
【0031】
ここで、衣服1において、ベース地に対して低伸度帯部材20が重ね合わされて接合された部分が低伸度部であり、ベース地に対して低伸度帯部材20が接合されていない部分が高伸度部である。
【0032】
低伸度帯部材20は、右袖の接合箇所である袖付きの周囲を周回するように配された右リング部20aと、左袖の接合箇所である袖付きの周囲を周回するように配された左リング部20bと、リング部20a,20b同士を着用者の背中を覆う部分で連結する連結部20cと、を有する。
【0033】
右リング部20aは、着用者の肩甲上腕関節(肩甲骨に対する上腕骨の付根部分)の前後の部分P1,P4を覆う部分を通るように形成されている。左リング部20bは、着用者の肩甲上腕関節(肩甲骨に対する上腕骨の付根部分)の前後の部分P2,P3を覆う部分を通るように形成されている。そして、右リング部20aは、右脇下部1cにおいて、長手方向の端部同士が縫製により接合されており、左リング部20bは、左脇下部1dにおいて、長手方向の端部同士が縫製により接合されている。
【0034】
なお、右リング部20aおよび左リング部20bのそれぞれは、脇下部1c,1dの縫製部分だけで接合されており、延伸方向における他の部分は連続するように構成されている。即ち、右リング部20aおよび左リング部20bのそれぞれは、延伸方向における脇下部1c,1dを除く部分がシームレスに構成されている。
【0035】
図2に示すように、連結部20cは、着用者の左右の肩甲骨同士の間の領域で肩幅方向に延びるように形成されている。そして、右リング部20aおよび左リング部20bのそれぞれは、連結部20cとの連結部分において、着用者の肩甲骨よりも内側を通るように配されている。
【0036】
2.前身頃10および後身頃11の各構造
前身頃10および後身頃11の各構造について、
図3および
図4を用いて説明する。
【0037】
図3(a)に示すように、前身頃10には、低伸度帯部材20は接合されていない。即ち、前身頃10は、ベース地100のみで形成されている。
【0038】
これに対して、
図3(b)に示すように、後身頃11には、低伸度帯部材20が接合されている。
図4に示すように、後身頃11のベース地110への低伸度帯部材20の接合は、後身頃11のベース地110における表面11jの一部と低伸度帯部材20の裏面20dの全面または一部との間に接着剤を介してなされている。ただし、縫製によって接合されてもよい。
【0039】
図3(b)に戻って、後身頃11は、着用者の背中を覆う本体部(背面部)11aと、本体部11aに対して着用者の肩部を超えて延びる袖付き部11b,11cと、を有する。右袖付き部11bにおける幅方向の一方端辺である縁部11fは、右袖12が接合される袖付き縁部である。左袖付き部11cにおける幅方向の一方端辺である縁部11gは、左袖13が接合される袖付き縁部である。
【0040】
右袖付き部11bにおける幅方向のもう一方の端辺である縁部11dは、前身頃10の縁部10aと接合される。左袖付き部11cにおける幅方向のもう一方の端辺である縁部11eは、前身頃10の縁部10bと接合される。なお、後身頃11の縁部11d,11eと前身頃10の縁部10a,10bとの接合は、接着剤によるものであってもよいし、縫製によるものであってもよい。
【0041】
前身頃10の縁部10c,10dと後身頃11の縁部11h,11iとは、着用者の脇部分で接合される。前身頃10の縁部10c,10dと後身頃11の縁部11h,11iとの接合についても、接着剤によるものであってもよいし、縫製によるものであってもよい。
【0042】
低伸度帯部材20における右リング部20aは、右袖付き部11bにおけるベース地110に接合され、連結部20cとの連結部分まで延びる構成部20a1と、本体部11aにおけるベース地110の一部に接合され、連結部20cとの連結部分から縁部11hまで延びる構成部20a2とを有する。なお、右リング部20aは、連結部20cとの連結部分において、ベース地110の袖付き縁部11fから肩幅方向内側に離間するように形成されている。これにより、右リング部20aは、連結部20cとの連結部分において、着用者の肩甲骨を覆わないようになっている。
【0043】
左リング部20bは、左袖付き部11cにおけるベース地110に接合され、連結部20cとの連結部分まで延びる構成部20b1と、本体部11aにおけるベース地110の一部に接合され、連結部20cとの連結部分から縁部11iまで延びる構成部20b2とを有する。なお、左リング部20bも、連結部20cとの連結部分において、ベース地110の袖付き縁部11gから肩幅方向内側に離間するように形成されている。これにより、左リング部20bも、連結部20cとの連結部分において、着用者の肩甲骨を覆わないようになっている。
【0044】
図3(b)に示すように、後身頃11のベース地110および低伸度帯部材20のそれぞれは、着用者の肩を覆う肩部(矢印A1,A2)に接合箇所を有さない。低伸度帯部材20の右リング部20aは、構成部20a1の端辺20a3と、構成部20a2の端辺20a4とが縁部11h,10cとともに接合されて環状に構成される。同様に、低伸度帯部材20の左リング部20bは、構成部20b1の端辺20b3と、構成部20b2の端辺20b4とが縁部11i及び縁部10dとともに接合されて環状に構成される。即ち、低伸度帯部材20のリング部20a,20bのそれぞれは、脇下部1c,1d(
図1,2を参照。)を除く部分が延伸方向に連続してシームレスに構成されている。
【0045】
また、右袖付き部11bの右袖付き縁部11fと構成部20a1の袖付き側縁部20a5との間隔は、10mm以内とされている。ただし、矢印A1で示す肩部よりも連結部20cとの連結部分の側では、10mmよりも広くなるように配されている。左袖付き部11cの左袖付き縁部11gと構成部20b1の袖付き側縁部20b5との間隔も、10mm以内とされている。ただし、矢印A2で示す肩部よりも連結部20cとの連結部分の側では、10mmよりも広くなるように配されている。
【0046】
連結部20cは、後身頃11の背中部分において、着用者の左右の肩甲骨同士の間を肩幅方向に延びるように形成されている。そして、連結部20cも、着用者の肩甲骨上を覆わないように配されている。
【0047】
3.衣服1による筋力アップ機能
衣服1による筋力アップ機能について、
図5から
図7を用いて説明する。なお、
図6は、比較例1に係る衣服を示し、
図7は、比較例2に係る衣服を示す。
【0048】
図5(a)に示すように、衣服1を着用した着用者500が腕501を前側に振り出す場合には(矢印B1)、低伸度帯部材20により腕501を振り出す方向とは反対側である後側に向けて肩部(肩甲上腕関節)が引っ張られる(矢印B2)。これにより、着用者は、腕501を前側に振り出すという動作をするだけで振り出し方向とは逆向きの負荷が加えられる。
【0049】
また、
図5(b)に示すように、腕501を上側に振り上げた場合には(矢印B3)、連結部20cにより矢印B4のような力が作用し、リング部20a,20bの連結部20cよりも上方の部分に矢印B5のような力が作用する。これにより、着用者500は、腕501を上側に振り上げるという動作によっても振り上げ方向とは逆向きの負荷が加えられる。
【0050】
以上のように、衣服1を着用した着用者500は、トレーニング中のみならず、日常の生活の中でも腕501を動かすだけで、背中の三角筋や広背筋などに適度な負荷がかかり、筋力トレーニング効果を得ることができる。
【0051】
図6(a)、(b)に示すように、比較例1に係る衣服は、前身頃90の袖付き部分に低伸度帯部材92の右前部92aおよび左前部92bが接合され、後身頃91の上部に低伸度帯部材92の右後上部92c、右後下部92e、左後部92d、左後下部92f、および連結部92gが接合されている。右後上部92cと右後下部92eと連結部92gとは連続し、左後上部92dと左後下部92fと連結部92gとは連続するように形成されている。
【0052】
変形例1に係る衣服では、右後上部92cおよび右後下部92eと連結部92gとの連結部分(矢印C5)の縁部92c3が右袖付き部91cから離間せず、左後上部92dおよび左後下部92fと連結部92gとの連結部分(矢印C6)の縁部92d3が左袖付き部91dから離間しないように配されている。また、変形例1に係る衣服では、右前部92aと右後上部92cとが肩部(矢印C3)で縁部92a1,92c1同士が接合され、右前部92aと右後下部92eとが脇下部で縁部92a2,92c2同士が接合されている。左前部92bと左後上部92dとが肩部(矢印C4)で縁部92b1,92d1同士が接合され、左前部92bと左後下部92fとが脇下部で縁部92b2,92d2同士が接合されている。
【0053】
このように、変形例1に係る衣服では、肩部C3,C4で前身頃90のベース地に接合された前部92a,92bと後身頃91のベース地に接合された後上部92c,92dとが接合されているので、着用者が腕を動かした際に前部92a,92bに作用する長手方向への引張力が肩部C3,C4の接合部分で分散されてしまう。このため、上記の引張力が後上部92c,92dに効果的に伝達されない。このため、比較例1に係る衣服では、着用者の三角筋や広背筋に対して効果的に負荷をかけることはできず、筋力アップ機能を果たすのに十分とはいえない。
【0054】
また、比較例1に係る衣服では、肩甲骨の上を覆う部分(矢印C5,C6)にも低伸度帯部材が配されているので、着用者が腕を上げようとした際にこれを阻害してしまうこととなる。よって、この点からも筋力アップ機能を十分に果たすことができない。
【0055】
図7に示す変形例2に係る衣服では、ベース地に接合された低伸度帯部材94が、右リング部94cと、左リング部94dと、連結部94gとを有する。右リング部94cと左リング部94dとは、後身頃93の背中部分(D1)で連結部94gによって連結されている。連結部94gは、左右の袖付き部93c,93dから大きく離間して配置されているとともに、肩幅方向の長さは上記実施形態の衣服1に比べて非常に短くなっている。
【0056】
図7に示すような衣服を着用した着用者は、腕を動かした場合にリング部94c,94dに矢印D2のような引っ張り力が作用する。
【0057】
しかしながら、変形例2に係る衣服では、連結部94gの長さが非常に短く形成されているため、着用者の両肩が後側に向けて引っ張られる度合は小さなものとなってしまう。よって、比較例2に係る衣服でも、着用者の筋力アップという機能は殆ど得られないと考えられる。
【0058】
また、変形例2に係る衣服でも、上記変形例1と同様に、ベース地における前身頃と後身頃とが肩部で接合されているため、当該接合部分でリング部94c、94dの前面側を伝わる引張力が分散されてしまう。このため、比較例2に係る衣服でも、効果的に背面側の筋肉に負荷をかけることができない。
【0059】
4.衣服1における低伸度帯部材20の寸法
衣服1の後身頃11における低伸度帯部材20の寸法について、
図8を用いて説明する。
【0060】
図8に示すように、低伸度帯部材20のリング部20a,20bにおける幅寸法をW1とし、連結部20cにおける上下方向での寸法をW2とする。この場合に、W2/W1の比率が100%~200%程度となるようにW1,W2が設定されている。より望ましくは、W2/W1が130%~170%程度である。
【0061】
W1の値は、一例として、30mm~50mmに設定されている。そして、上述のように、右袖付き部11bの右袖付き縁部11fと構成部20a1の袖付き側縁部20a5との間隔W5は、10mm以下に設定されている。
【0062】
また、幅方向における連結部20cの幅をW2、後身頃11における左右の袖付き縁部11f,11g同士間の幅をW4とする。この場合に、W3/W4の比率が40%~70%程度となるようにW3,W4が設定されている。より望ましくは、W3/W4が50%~60%程度である。
【0063】
5.効果
本実施形態に係る衣服1では、一対のリング部20a,20bと連結部20cとが一体形成された低伸度部(ベース地110に対して低伸度帯部材20が重ね合わされて接合された部位)を備えるとともに、低伸度部(ベース地110に対して低伸度帯部材20が接合されてなる部位)が脇下部1c,1dを除き延伸方向に連続してシームレスに構成されているので、左右両側のリング部をその長手方向に伝達される引張力が肩部で分散されることなく背面側に伝達される。よって、衣服1では、着用者500の両腕付け根部分(肩甲上腕関節)を後側へと引き寄せる力を作用させることができる。これより、着用者500は、衣服1を着用するだけで三角筋や広背筋といった背中側にある筋肉に負荷がかかり、筋力アップを図ることができる。
【0064】
また、本実施形態に係る衣服1では、一対のリング部20a,20bのそれぞれが、脇下部1c,1dで端部20a3,20a4,20b3,20b4同士が接合されているとともに、肩部(
図3(b)のA1,A2部分)は勿論のこと、延伸方向の他の部分に接合部を有さないので、脇下部1c,1dにおける接合部分を基点として各リング部20a,20bの長手方向に引っ張り力が加わる。よって、衣服1を着用した着用者500に対して、力の分散を抑制しながら効果的に着用者500の両腕付け根部分(肩甲上腕関節部分)を後側へと引き寄せることができる。
【0065】
また、本実施形態に係る衣服1では、
図3および
図4に示したように、ベース地100,110と低伸度帯部材20とを備え、低伸度部がベース地110に対して低伸度帯部材20が重ね合わされて接合されることにより構成されているので、ベース地110と低伸度帯部材20との選択により、低伸度部と高伸度部との伸度の差異を種々に設定可能である。よって、着用者500の両腕付け根部分(肩甲上腕関節部分)を後側へと引き寄せる力を適度な大きさの力に調整することが可能である。
【0066】
また、本実施形態に係る衣服1では、
図3(b)に示したように、一対の袖付き部11b,11cを有する後身頃11を採用することにより、低伸度部が、脇下部1c,1dを除く部分が延伸方向に連続してシームレスに構成しながら、煩雑な作業を伴うことなく製造可能である。
【0067】
また、本実施形態に係る衣服1では、一対のリング部20a,20bのそれぞれが、連結部20cとの連結部分において、左右の肩甲骨よりも内側を通るように形成されているので、着用者500における肩甲骨の動きが阻害され難い。よって、着用者500が腕501を上げようとした際も、当該動きを妨げ難い。
【0068】
また、本実施形態に係る衣服1では、一対のリング部20a,20bのそれぞれが、肩甲上腕関節の上を覆う部分を通るように形成されているとともに、当該リング部20a,20bが接合された部分が相対的に低い伸度で形成されているので、肩甲上腕関節のあたりを作用点として両腕付け根部分を効果的に後側へと引き寄せることができる。
【0069】
以上のように、本実施形態に係る衣服1では、着用者500における背面側の筋肉に負荷をかけることができる。
【0070】
[変形例1]
上記実施形態では、前身頃10と後身頃11とを別々に準備して、互いに接合することとしたが、本変形例では、前身頃と後身頃とを一体に形成する。変形例に係る衣服2について、
図9を用いて説明する。なお、
図9では、各縁部同士を接合する前の状態で衣服2を示す。また、袖や衿などの図示を省略している。
【0071】
図9に示すように、本変形例に係る衣服2は、後身頃21aと前身頃21b,21cとを有するベース地21と、ベース地21の一部に接合された低伸度帯部材22とを備える。本変形例でも、ベース地21に対して低伸度帯部材22が接合された部位が低伸度部であり、残りの部位(低伸度帯部材22が接合されていない部位)が高伸度部である。
【0072】
本変形例に係る衣服2では、前身頃21b,21cのそれぞれは後身頃21aに連続する。そして、後身頃21aの右肩部分(矢印E7部分)で連続するように延びるように形成されているのが右前身頃21bである。後身頃21aの左肩部分(矢印E8部分)で連続するように延びるように形成されているのが左後身頃20cである。
【0073】
図9に示すように、本変形例に係る衣服2では、右前身頃21bおよび左前身頃21cのそれぞれにも低伸度帯部材22が接合された部分を有する。即ち、本変形例に係る衣服2では、前身頃21b,21cも低伸度部と高伸度部とを有する。
【0074】
低伸度帯部材22は、右袖付き縁部に沿って延びるように形成された右リング部22aと、左袖付き縁部に沿って延びるように形成された左リング部22bと、後身頃21aの上部で右リング部21aと左リング部21bとを連結する連結部22cと、を有する。本変形例では、右リング部22aと連結部22bと連結部22cとは連続して形成されている。
【0075】
連結部22cは、後身頃21aの背中部分において、着用者の左右の肩甲骨同士の間を肩幅方向に延びるように形成されている。
【0076】
なお、本変形例でもベース地21への低伸度帯部材22の接合は、一例として接着剤を用いてなされている。
【0077】
また、本変形例においても、右リング部22a、左リング部22b、および連結部22cは、着用者の肩甲骨を覆わないように配されている。
【0078】
衣服2においては、後身頃21aの縁部21d(矢印E1部分)と右前身頃21bの縁部21e(矢印E2部分)とが接合され、後身頃21aの縁部21f(矢印E3部分)と左前身頃21cの縁部21g(矢印E4部分)とが接合される。また、右前身頃21bの縁部21h(矢印E5部分)と左前身頃21cの縁部21i(矢印E6部分)とが接合される。
【0079】
なお、低伸度帯部材22における右リング部22aの縁部22a1,22a2同士は、後身頃21aの縁部21dと右前身頃21bの縁部21eとに重ね合わされて接合される。同様に、低伸度帯部材22における左リング部22bの縁部22b1,22b2同士は、後身頃21aの縁部21fと左前身頃21cの縁部21gとに重ね合わされて接合される。なお、縁部22a1,22a2同士の接合、および縁部22b1,22b2同士の接合については、一例として縫製によりなされる。
【0080】
本変形例に係る衣服2では、後身頃21aと前身頃21b,21cとが連続するように形成されている点で上記実施形態とは相違するが、他の構成については上記実施形態と同じである。よって、本変形例に係る衣服2でも、上記実施形態に係る衣服1と同じ効果を奏することができる。
【0081】
また、本変形例に係る衣服2では、後身頃21aと前身頃21b,21cとが連続するように裁断を行うので、部材点数を少なくすることで部材管理の工数を低減できるという効果を奏することもできる。
【0082】
[その他の変形例]
上記実施形態および上記変形例1では、ベース地よりも低伸度の部材(低伸度帯部材20,22)を重ね合わせて接合することとしたが、本発明は、これに限定を受けるものではない。例えば、
図10(a)に示すように、ベース地23の表面23aの一部に対して、ベース地23と同じ材質の接合地24を重ね合わせ、ベース地23の表面23aと接合地24の裏面24aとを接着剤や縫製などを接合することもできる。
【0083】
また、
図10(b)に示すように、ベース地25の一部に低伸度部26を形成することもできる。即ち、2枚の生地を重ね合わせて接合するのではなく、1枚の生地に低伸度部と高伸度部とを有する形態を採用することもできる。なお、低伸度部26を形成する方法は種々の方法を採用することができるが、例えば、ベース地25の一部領域に接着剤などを含浸させる方法などを採用することができる。
【0084】
また、
図10(c)に示すように、ベース地27の一部にプリント層28が形成されて低伸度部と高伸度部とが設けられた生地を採用することもできる。
【0085】
また、図示を省略するが、ベース地と低伸度帯部材との端辺同士を縫製などにより接合することで、低伸度部と高伸度部とを有する衣服を形成することもできる。
【0086】
さらに、上記実施形態および上記変形例1では、衣服1,2の一例としてコンプレッションウェアを採用したが、本発明は、これに限定されない。着用者の動作に応じて生地に引張力が作用する衣服に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0087】
1,2 衣服
1a,1b 肩部
10 前身頃
11,21a 後身頃
20,22 低伸度帯部材
20a,20b,22a,22b リング部
21,23,25,27 ベース地
24 接合地
26 低伸度部
28 プリント層
110 ベース地
【要約】
【課題】着用者における背面側の筋肉に負荷をかけて筋力アップを図るのに有効な衣服を提供する。
【解決手段】衣服は、前身頃10と後身頃11とが接合されてなる。後身頃11は、背中を覆う本体部11aと、本体部11aの上部から左右それぞれの肩部を超えて延びる袖付き部11b,11cを有する。後身頃11は、ベース地に対して低伸度帯部材20が接合されている。低伸度帯部材20は、ベース地よりも伸度が低く形成されている。低伸度帯部材20は、肩部を通り左右それぞれの袖付き周りを周回するリング部20a,20bと、リング部20a,20b同士を背中部分で連結する連結部20cを有する。ベース地110にリング部20a,20bが接合された部分のそれぞれは、脇下部での接合部分を除き延伸方向に連続してシームレスに構成されている。
【選択図】
図3