(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】オストメイト用のシャワー付き便座装置
(51)【国際特許分類】
A47K 13/24 20060101AFI20240112BHJP
E03D 9/08 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
A47K13/24
E03D9/08 Z
(21)【出願番号】P 2023569845
(86)(22)【出願日】2023-09-15
(86)【国際出願番号】 JP2023033761
【審査請求日】2023-11-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】598030847
【氏名又は名称】さつき株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086346
【氏名又は名称】鮫島 武信
(72)【発明者】
【氏名】徳永 剛一
【審査官】油原 博
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-046596(JP,A)
【文献】特開2019-010275(JP,A)
【文献】特表2021-526604(JP,A)
【文献】特開平08-232321(JP,A)
【文献】特開2011-074620(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0029755(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47K 13/00-13/30
E03D 9/00-9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
利用者が腰を下ろす便座と、前記便座の近辺に備えられたオストメイトのパウチを洗浄するための手持ち可能なシャワー部とを備えたオストメイト用のシャワー付き便座装置において、
前記シャワー部は、柔軟性を有するホースを少なくとも備えたフレキシブル接続路と、前記フレキシブル接続路の基端が接続される温水供給部と、前記フレキシブル接続路の先端が接続されるシャワーヘッドとを備え、
前記便座は、便座開口と、前記便座開口の周囲にある健常者の排便時着座部と、前記利用者の肛門が前記便座開口よりも後方に位置するように着座することができるオストメイト着座部とを備え、
前記フレキシブル接続路の前記基端の前記温水供給部への基端接続部は、前記便座の側部であって、その前後方向位置が前記オストメイト着座部上及び前記便座開口の後端から前記便座開口の前後方向の全長の3分の1の位置までの間の領域に、配置されたものであり、
前記オストメイト着座部に腰掛け姿勢で着座した状態で、前記シャワー部によって前記パウチを洗浄することができるように構成されたことを特徴とするオストメイト用のシャワー付き便座装置。
【請求項2】
前記便座は、前記便座開口が後方の幅狭部と前方の幅広部とを備え、前記幅広部が前記幅狭部に比べて左右方向幅が広くなるように形成された前広便座であり、
前記便座の前記側部に、操作部を有するユニットボックスを備え、
前記ユニットボックスの下面に前記基端接続部が配置されたものであり、
前記基端接続部は、前記便座開口の後端から前後双方に、前記便座開口の前後方向の全長の6分の1の距離の範囲内にある領域に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のオストメイト用のシャワー付き便座装置。
【請求項3】
前記基端接続部は、前記便座開口の前記後端を通る左右方向延長線と交わる位置に配置されたものであることを特徴とする請求項1に記載のオストメイト用のシャワー付き便座装置。
【請求項4】
前記温水供給部のユニットボックスの下面に前記基端接続部が位置しており、
前記シャワーヘッドを着脱可能に係止するシャワーホルダが前記ユニットボックスの側面に配置され、
前記シャワーヘッドを前記シャワーホルダに係止した状態で、前記ホースは、前記基端接続部と前記シャワーホルダのそれぞれから垂下して、床面に接触することなく宙吊り状態で折り返しており、
前記利用者が前記オストメイト着座部に前記腰掛け姿勢で着座して前記シャワーヘッドを手に持って前記パウチを洗浄する状態で、前記ホースは、前記利用者の脚部の側部から前記利用者の正面に届くように構成されていることを特徴とする請求項1~3の何れかに記載のオストメイト用のシャワー付き便座装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大腸癌や膀胱癌または炎症性腸疾患などのため、便や尿の排泄経路を変更して人工肛門や人工膀胱などのストーマ増設により排泄口を腹部や下腹部に設けた患者(以下、「オストメイト」という)用の便座装置に関するものである。更に好適には、オストメイトと健常者が共用可能な便座装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
健常者用のトイレシャワーが付設された便座装置は、今日まで様々な構造のものが提案され実用化されているが、多くのものは便座の後方に固定式のノズルが配置されている。そして、これらの固定式のノズルに加えて、ハンドシャワーが併設されたものも特許文献1~5に示すものなどが提案されている。
【0003】
ところが、下記に詳述するように、オストメイトがパウチを洗浄する際に、便座の着座部に腰掛け姿勢で着座した状態で、ハンドシャワーを快適に使用し得るようにすることを目的として開発されたものはなかった。特に、ハンドシャワーのシャワーヘッドが接続されるホース等のフレキシブル接続路の基端と温水供給部との接続部(以下、基端接続部という)の位置が、ハンドシャワーの使い勝手に大きな影響を与えることを知見した上で、基端接続部の適正位置を提案する文献は存在しなかった。
【0004】
特許文献1~5は、ハンドシャワーが併設された便座装置を開示している。
まず、特許文献1~3に示された便座装置は、オストメイト自らがパウチを洗浄するための目的ではなく、他の使用用途のために開発されたもので、便座に腰掛け姿勢で座った者が自らの肛門など局部を洗浄するためや、介護者が便座に座った要介護者の肛門などの局部や器具を洗浄するために、ハンドシャワーが併設されたものである。これら特許文献1~3に示すものは、着座した者の肛門など局部を洗浄する場合には、自らが洗浄する場合にあっても介護者が洗浄する場合であっても、いずれの場合でもその肛門の位置が便座開口内にあるように腰掛け姿勢で着座している。このような場合には、パウチ洗浄時ほど大きな前方スペース(着座した者の身体と便座開口前端との間のスペース)を必要としない。そのため基端接続部の位置には特に注意が払われることなく開発されたもので、様々な位置に基端接続部が設定されている。
【0005】
次に特許文献4や5は、オストメイトのパウチ洗浄用に開発されたもので、便器でパウチ等の洗浄を行なうために洗浄水を吐出するためのハンドシャワーが併設された便座装置を開示している。これら特許文献4や5の便座装置では、基端接続部はなるベく後方になるように設定されていた。
【0006】
これらの特許文献4や5の便座装置は、健常者も使用する便座にオストメイトが使用するハンドシャワーを付加したものにすぎず、便座も一般的な健常者用の便座が示されている。そのために、オストメイトが使用する時に腰掛け姿勢で着座した場合には、自らの身体と便座開口の前端との間に、パウチ洗浄に必要な十分な前方スペースを取ることが困難になってしまう。その結果、便器に正対して床に跪いたり前かがみで立ったりして使用する必要があった。このような正対姿勢では、基端接続部の位置がハンドシャワーの使用勝手にさほど大きな影響を与えるものではなく、これらの文献では便座の後方に設定されたものが開示されている。
【0007】
ところが、上記のような正対姿勢でパウチを洗浄することを求めることは、オストメイトにとって無理な姿勢を強いたり、別個に腰掛けの用意を求めたりする結果を招いていた。この課題を解決するために特許文献6に示す便座装置が提案されている。特許文献6に記載の便座は、便座開口と、便座開口内に肛門が位置するように着座する排便時着座部と、便座開口の後方に肛門が位置するように着座する排便時着座部よりも後方のオストメイト着座部とを備えている。これによって、オストメイトが自らのパウチや尿瓶の洗浄作業を行う時には、
図9に示すように、便座に腰をかけた腰掛け姿勢であっても深め(後方寄り)のオストメイト着座部に腰を掛けるだけで十分な前方スペースを取ることができる。その結果パウチ等からの排水やハンドシャワーを使用しての洗浄作業を、腰掛け姿勢で無理なく行うことができる。
【0008】
しかしながら、便座に腰をかけた腰掛け姿勢では、特許文献4や5の便座装置で示された基端接続部ではホースの長さが長くなりすぎてしまう。特に、腰掛け姿勢では、自らの背後に基端接続部が来ることになり、その見えない位置から自らの前にホースを回してくるとホースの取り回しが悪くなってしまう。
【0009】
そのために基端接続部を極力前方に設定しようとすると、後方寄りのオストメイト着座部に腰を掛けているオストメイトの脹脛等の脚部に干渉してしまい、オストメイトに無理な開脚姿勢を強いることになる。そのため、オストメイト着座部に着座することが困難になってしまって止む無く前寄りに着座すると、パウチの洗浄に必要な前方スペースが狭くなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第5168578号公報
【文献】特開2010-255366号公報
【文献】特開昭61-102925号公報
【文献】特開2004-3302号公報
【文献】特開2002-188200号公報
【文献】特許第6404765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、オストメイトがパウチを洗浄する際に、便座の着座部に腰掛け姿勢で着座した状態で、ハンドシャワーを無理なく快適に使用することができるようにした便座装置の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、利用者が腰を下ろす便座と、前記便座の近辺に備えられたオストメイトのパウチを洗浄するための手持ち可能なシャワー部とを備えたオストメイト用のシャワー付き便座装置において、次の手段を備えたものを提供することによって、上記課題を解決する。
【0013】
前記シャワー部は、柔軟性を有するホースを少なくとも備えたフレキシブル接続路と、前記フレキシブル接続路の基端が接続される温水供給部と、前記フレキシブル接続路の先端が接続されるシャワーヘッドとを備える。
【0014】
前記便座は、便座開口と、前記便座開口の周囲にある健常者の排便時着座部と、前記利用者の肛門が前記便座開口よりも後方に位置するように着座することができるオストメイト着座部とを備える。
【0015】
前記フレキシブル接続路の前記基端の前記温水供給部への基端接続部は、前記便座の側部であって、その前後方向位置が前記オストメイト着座部上及び前記便座開口の後端から前記便座開口の前後方向の全長の3分の1の位置までの間の領域に、配置されたものであり、前記オストメイト着座部に腰掛け姿勢で着座した状態で、前記シャワー部によって前記パウチを洗浄することができるように構成されたものである。
【0016】
本発明の実施に際しては、前記便座は、前記便座開口が後方の幅狭部と前方の幅広部とを備え、前記幅広部が前記幅狭部に比べて左右方向幅が広くなるように形成された前広便座とすることができる。
【0017】
そして、前記便座の前記側部に、操作部を有するユニットボックスを備えたものとし、前記ユニットボックスの下面に前記基端接続部を配置し、前記基端接続部は、前記便座開口の後端から前後双方に、便座開口の前後方向の全長の3分の1の距離の範囲内にある領域に配置されているものとすることができる。
また、前記基端接続部は、前記便座開口の前記後端を通る左右方向延長線と交わる位置に配置されたものすることができる。
【0018】
さらに、前記ユニットボックスの下面に前記基端接続部が位置しており、前記シャワーヘッドを着脱可能に係止するシャワーホルダが前記ユニットボックスの側面に配置されたものとすることができる。
【0019】
そして、前記シャワーヘッドを前記シャワーホルダに係止した状態で、前記ホースは、前記基端接続部と前記シャワーホルダのそれぞれから垂下して、床面に接触することなく略U字状に折り返しており、前記利用者が前記オストメイト着座部に前記腰掛け姿勢で着座して前記シャワーヘッドを手に持って前記パウチを洗浄する状態で、前記ホースは、前記利用者の脚部の側部から前記利用者の正面に届くように構成することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、オストメイトがパウチを洗浄する際に、便座の着座部に腰掛け姿勢で着座した状態で、ハンドシャワーを無理なく快適に使用することができるようにした便座装置を提供することができたものである。
【0021】
特に、便座開口の後方にあるオストメイト着座部に無理なく腰掛け姿勢で着座することができ、自らの前方でオストメイトパウチをハンドシャワーによって洗浄するのに有利な基端接続部を備えた便座装置を提供することができたものである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施の形態に係るオストメイト用のシャワー付き便座装置の斜視図。
【
図7】(A)同便座装置のシャワー部の説明図、(B)同シャワー部の回路説明図。
【
図9】特許文献6の便座でのオストメイトのパウチ洗浄姿勢の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態に係る便座装置を、図面に基づいて具体的に説明する。なお、この実施の形態に係る便座1は、特許文献6に記載の前広便座を採用しているが、本発明はこの実施の形態に何ら制約されるものではなく、便座の形態についても種々変更して実施することができる。
<便座について>
【0024】
本発明の便座装置は、利用者が腰を下ろす便座1と、その近辺に備えられたオストメイトのパウチを洗浄するための手持ち可能なシャワー部とを備えたオストメイト用のシャワー付き便座装置であるが、まず、
図1~
図6を参照して便座1を中心に説明する。但し、
図3~
図6ではシャワー部関連の構成は描かれていない。
【0025】
図2に示すように、便座1は環状に形成された座面11を備える。この例では、便座1の便座開口12は、オストメイトが便座に座ったままでパウチの中身を便器内に排出する際の作業スペースをより広く確保するために、前方が後方に比べて開口幅が広くなるように形成されているが、前方と後方とが略同じ開口幅であっても構わない。
【0026】
より詳しくは、便座開口12は前方の開口幅が通常の便座よりも幅広に形成されており、その後方において、便座1の内周縁部分が座面11から開口内側へと迫り出して迫り出し部13が形成されることにより、後方の開口幅が前方の開口幅に対して狭くなっている。
【0027】
迫り出し部13は、便座1の内周縁の一部が便座開口12内へと膨出するようにして座面11と一体に形成されている。
図2に示すように、迫り出し部13は便座開口12の前端から後方へ開口縦径の1/3ないし1/2にあたる座面11の内周縁からその膨出を開始し、便座開口12内へと迫り出し幅が増えるように膨出しながら後方へと延伸し、開口幅を狭窄する領域を形成する。そして、その狭窄する領域より後方には、左右から対向する迫り出し部13が略平行に延伸して開口幅が略同一の領域が形成される。そして、かかる略同一の領域を過ぎてから、その迫り出し幅を減少させながら弧を描いて座面11に近接し、最終的には便座開口12の後端部付近の座面11へ収束する。
【0028】
迫り出し部13の座面11からの迫り出し幅は任意であるが、その最も迫り出している部分の幅Wは30mm~50mmの範囲が好ましい。なお、ここで「幅」というとき、後述する座面11と上面131の傾斜や凹凸面については考慮せず、あくまでも、座面11と上面131の平面視における幅方向の長さを指す。
【0029】
迫り出し部13は他の座面と略同一高さであっても構わないが、
図6に示すように、この例の断面形状では座面11の裏側にあたる裏面14は略水平に設けられ、それに対して座面11は開口内側へと緩やかな下がり傾斜に設けられている。そして、座面11から膨出する迫り出し部13は、その上面131が座面11よりも更に開口内側へと下がり傾斜になるように形成され、その裏面133も裏面14よりも開口内側へと下がり傾斜になるように形成されている。そして、迫り出し部13の厚さは座面11部分よりも全体的に肉薄に形成されている。さらに、迫り出し部13の先端部132は、座面11の裏面14よりも下方へ位置するように設けても構わない。
【0030】
A-A端面における上面131の傾斜角度θ1は、座面11の傾斜角度θ2に比べて大きくなるように形成されている。具体的には、上面131の傾斜角度θ1は30°~45°の範囲が好ましく、また、座面11の傾斜角度θ2は10°が好ましい。なお、ここで「傾斜角度」というとき、後述する座面11の凸面や上面131の凹面の凹凸については考慮せず、あくまでも、座面11と上面131それぞれの最外周側と最内周側とを結んだ仮想直線の水平線に対する傾斜角度を指す。
【0031】
また、迫り出し部13の上面131は断面視で緩やかに窪んだ凹曲面状に形成してもよいし、座面11は断面視で緩やかに盛り上がる凸曲面状に形成しても構わない。さらに、迫り出し部13の上面131と座面11の境界部分は滑らかな曲面状に形成することで、両者の間に連続性を設けることが好ましい。
【0032】
便座1は座面11と裏面14を一体に成形しても構わないが、座面11と裏面14をそれぞれ別々に成形し、それらの端縁部を振動溶着等の公知の溶着方法で接着しても構わない。なお、接着方法はこれに限定されず、その他の適宜接着手段を用いることができる。
【0033】
この実施の形態の便座1は、便器後方に備え付けられている洗浄装置2に対して回動自在に取り付けられている。かかる洗浄装置2は一般的なものを利用することができるが、例えば、本実施の形態のように、側面視で略三角形に形成されたケーシング基体21と、その上部に設けられた上部ケーシング22とを備えた洗浄装置2を利用することができる。この上部ケーシング22は、給水管等を内蔵するとともに便座1や蓋部が取り付けられるもので、ケーシング基体21の傾斜する天面部211に配置されている。ケーシング基体21は、ケーシング基体21の天面部211と略平行に形成された天面部221と、この天面部221から更に半円状に突出する突出部222とを備える。
【0034】
そして、洗浄装置2と座面11には、オストメイトが着座可能な略面一な連続面であるオストメイト着座部15を設けることが好ましい。この例では、オストメイト着座部15は、座面11側の前着座面151と、洗浄装置2側の後着座面152とを備えている。詳しくは、座面11の後部は、便座開口12の後端から後方に行くにつれて上部ケーシング22方向へ上り傾斜に形成された前着座面151を備える。この前着座面151は、座面後端辺111から便座開口12側へと緩やかな弧状に張り出すように形成され、他の座面11部分よりもやや平坦になるよう形成されている。
【0035】
洗浄装置2側の後着座面152は、前着座面151と同じく上り傾斜に形成されている傾斜面であり、この後着座面152は、上部ケーシング22の天面部221と連続したものとなっている。この後着座面152は、前着座面151と略同一の横幅に形成され、上部ケーシング22の後方へと張りだすとともに、突出部222まで達するように形成されている。この後着座面152は、傾斜している他の天面部221よりもやや平坦になるように形成されている。かかる前着座面151と後着座面152により略面一な連続面であるオストメイト着座部15が形成される。このように、オストメイト着座部15を設けることにより、オストメイトが便座1の後方に着座するときの目安となるとともに、面一の連続面に安定して前方を向いて座ることができる。
【0036】
そして、本実施の形態のように、後着座面152の上辺部の一部が突出部222に接するように形成するとともに、かかる後着座面152の上辺部の形状に合わせて突出部222の前面の一部に凹部223を形成しても構わない。かかる凹部223により、着座時に臀部に突出部222が当たることの違和感や不快感を抑制することができる。なお、本実施の形態のようにオストメイト着座部15の輪郭を直線ではなく曲線で構成することにより、見た目においても柔らかい印象を与えることができて好ましい。
【0037】
さらに、便座1の前端部近傍の内周縁部において、座面11の天面と内周側立ち上がりとの境部分を所定の範囲で窪ませた凹陥部17を形成しても構わない。このように、便座1の内周縁部の一部に凹陥部17を設けることにより、便座開口12の前側で行われる検尿や導尿などの作業がより容易となる。
【0038】
この便座1に健常者が座る場合、通常の便座を使用する場合と同様、前方を向いた腰掛け姿勢で、座面11に座って使用する。このとき、迫り出し部13が設けられている場合は、迫り出し部13とその近傍の座面11に支持されるもので、その肛門位置は便座開口12内にある。この例では、迫り出し部13が座面11に対して下がり傾斜に形成されているため、迫り出し部13が直接健常者の臀部や腿等に接することが少ない。このことにより、健常者も違和感なく使用することができる。
【0039】
これに対して、この便座1をオストメイトが使用する場合は、前方を向いた腰掛け姿勢で座ることは同様であるが、健常者よりも後方に深く座る点が相違する。オストメイト着座部15に腰掛け姿勢で着座した状態のオストメイトの肛門は、便座開口12よりも後方に位置している状態になっている。このように、オストメイトは後方に設けられたオストメイト着座部15に体重がかかるようにして座ることで、面一の連続面に臀部が安定して載置する。これにより、作業時に臀部がズレたりせずに、良好な使用感を得ることができる。
【0040】
なお、本実施の形態の便座1は、座面11の後方よりオストメイト着座部15へと緩やかに隆起するように連続的に形成されているため、オストメイトの使用者は座る前後位置を自分の体格に合わせて任意に選択することができる。すなわち、使用者の身長が低い場合、あまり奥に座ると足が床に届かなくなり、更に股をひろげるためにズボンやスカートを足先まで降ろす必要が生じる。したがって、小柄な体格のオストメイトは、オストメイト着座部15のうち前方側の前着座面151を中心に座って使用すれば、かかる問題の発生を抑制することができる。
<シャワー部について>
【0041】
シャワー部は、
図1及び
図7に示すように、先端にシャワーノズルを備えた手持ち可能なシャワーヘッド31と、シャワーヘッド31に先端が接続されたフレキシブル接続路32と、フレキシブル接続路32の基端が接続された温水供給部のユニットボックス33とを備えている。フレキシブル接続路32は柔軟性のあるホースで構成されているが、これに加えて基部が回動可能に温水供給部のユニットボックス33に接続された導水管を含むものであっても構わない。
【0042】
ユニットボックス33は、上面に操作用のボタンスイッチや表示部を有する操作部を備えたもので、温水供給部の主要部が収納されたものとして実施されているが、温水供給部の一部は他の部位に収納されたものであっても構わない。
<温水供給部の配管系統>
【0043】
図7を主に参照して温水供給部の配管系統を説明すると、水道からの水は、止水栓45から分岐金具44へ供給される。分岐金具44は、二方向へ分水するものであり、その一方は、給水管43を介して水洗タンクに接続され、水栓用水を供給する。他方はホース40から、電磁弁41を介してホース42を経てタンク38へと洗浄用水を供給するものであるが、タンク38の手前にはエアーベント39が接続されている。タンク38はヒーターを備えており、洗浄用水を加温する。タンク38内の洗浄用水は、エアーポンプ37で加圧され流量弁36を経て、2つの流路へと流出する。第1の流路は固定ノズル35への流路であり、第2の流路はシャワーヘッド31への流路である。第2のシャワーヘッド31への流路は、流量弁36からアダプター34及びフレキシブル接続路32を経てシャワーヘッド31へと接続されている。
【0044】
使用者は温水供給部のユニットボックス33の操作部にて、操作ボタンを操作する。その入力に従って、第1の流路を開いて、固定ノズル35から温水を吐出するか、或いは第2の流路を開いてシャワーヘッド31からパウチ洗浄用の温水を吐出するかの、流路切替を流量弁36が行う。なお、ユニットボックス33の操作部が温度調整ボタンを備えている場合には、その操作に従ってタンク38のヒーターの加温温度が変更される。また吐出強さの調整ボタンを備えている場合には、その操作に従ってエアーポンプ37の出力圧が変更される。なお、固定ノズル35は一般的なシャワートイレと同様の肛門洗浄とビデを含み、洗浄位置の調整などのために若干の位置変更可能なものが含まれる。
<基端接続部>
【0045】
温水供給部のユニットボックス33は、フレキシブル接続路32の基端が接続される基端接続部30を、その下部に備えている。言い換えればフレキシブル接続路32は、その基端が基端接続部30の下面に接続されているが、横側面や前側面など他の部位に接続されたものであっても構わない。
【0046】
オストメイトが便座の着座部に腰掛け姿勢で着座した状態でパウチを洗浄する際に、良好な操作性使用感を得る上で、この基端接続部30の位置が極めて重要であることを知見して、本発明が完成されたものである。すなわち基端接続部30の位置と、前を向いた腰掛け姿勢で着座している利用者の肛門の位置との関係において、良好な操作性使用感を得る上で密接な関係があることを知見して本発明が完成されたものである。
【0047】
排便時着座部に着座した際の利用者の肛門の位置は便座開口12内にあるが、オストメイト着座部に着座した際の利用者の肛門の位置は便座開口12よりも後方にある。この比較的後方位置で、前方を向いて座っている利用者にとっては、基端接続部30が後方(背中より後ろ側)にあると、シャワーヘッド31を持ってパウチ洗浄を行う際にフレキシブル接続路32の取りまわしが困難になってしまう。また必要以上にフレキシブル接続路32の経路が長くなってしまう。したがって、前後方向において基端接続部30は、オストメイト着座部(より好ましくは利用者の肛門の位置)よりも前方であることが好ましい。
【0048】
他方、腰掛け姿勢で着座した利用者の両脚は、ハの字状(略90度以上)に開脚できることが、パウチ洗浄のための空間を広く取ることができる点で有利である。利用者の大腿部の太さや長さの等の大きさは、利用者の個体差によって様々であるが、肛門の位置を中心に略90度に開脚すると、大腿部は約10cm前方で座面11の外周から横側方へ突出することになる。ここで、便座開口12の前後長さは一般的に約30cmであるため、利用者の肛門の位置が便座開口12の後端上にあるとした場合、便座開口12後端から約10cm(便座開口12の全長の前方へ約3分の1)の位置で、大腿部は座面11の外周から横側方へ突出する。従ってこれよりも前方に基端接続部30が位置していると、ユニットボックス33に利用者の脚部が干渉したり、脚部にフレキシブル接続路32が絡まったりしてしまい、開脚姿勢を取ることが困難になってしまう。
【0049】
従って基端接続部30は、その前後方向位置がオストメイト着座部15上並びにオストメイト着座部15から便座開口12の前後方向の3分の1の位置までの間の領域Z1に配置することによって、フレキシブル接続路32及びユニットボックス33と利用者の脚部との干渉を避けつつホースなどの良好な取り回しを実現することができる。
【0050】
より好ましくは、基端接続部30は、便座開口12の後端(即ち最後部)から前後両方向へ、便座開口12の前後方向長さの6分の1の距離の範囲内にある領域Z2に配置するものであり、さらに好ましくは、基端接続部30は便座開口12の後端の後端(即ち最後部)を通る左右方向延長線Lと交わる位置に配置されたものとする。ここで基端接続部30は、フレキシブル接続路32の外径と等しいか一回り大きいものであるが、その少なくとも一部分が左右方向延長線Lと交われば足りる。
【0051】
図示した実施の形態では、
図1に示すように、ユニットボックス33の横側面にはシャワーヘッド31を着脱可能に係止するシャワーホルダ47が取り付けられている。これによって、シャワーヘッド31をシャワーホルダ47に係止した状態で、フレキシブル接続路32のホースは、
図1に示すように両端からそれぞれから垂下して、便器が設置された床面に接触することなく略U字状に折り返した宙吊り状態で、ユニットボックス33の下方にてコンパクトに保持される。これによって、利用者の脚部などにホースが絡まるなどと言った危険な状態の発生が抑制される。そして、利用者はオストメイト着座部15に腰掛け姿勢で着座した状態では、その側部にシャワーヘッド31が保持されているため、これを手に持つことが容易である。さらにパウチを洗浄するために、シャワーヘッド31を利用者の胴部正面に持ってくると、フレキシブル接続路32のホースは自然に利用者の脚部の側部から正面前方に回り込むため、ホースの取り回しは容易であるし、基端接続部30からシャワーヘッド31までのホースの長さも短くて済み、前記の宙吊り状態での保持を実現することができる。
【0052】
シャワーヘッド31には、止水機能を備えたものを用いることが好ましい。詳しくは、シャワーヘッド31内に設定圧以上の水圧が加わった場合にのみ、ノズルからの吐出を許し、使用終了後の低圧の残水がノズルから漏れ出ることを許さない止水弁をシャワーヘッド31内に備えたものを用いることが好ましい。このような止水機能をシャワーヘッド31に不可して実施しないの場合には、ノズルから残水がしたたり落ちる恐れがあるため、図示は省略するが、これを受ける漏水受けをシャワーホルダ47などに設けて、受けた漏水を便器にまで戻して排水する排水路を付加っして実施することが好ましい。
【0053】
なお、この実施の形態では、オストメイト着座部102が明確に形成された前広便座を採用したが、健常者用の便座の形状に近似のものであっても利用者の肛門が便座開口12よりも後方に位置するように着座することができるものであれば、本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 :便座
2 :洗浄装置
11 :座面
12 :便座開口
13 :迫り出し部
14 :裏面
15 :オストメイト着座部
17 :凹陥部
21 :ケーシング基体
22 :上部ケーシング
30 :基端接続部
31 :シャワーヘッド
32 :フレキシブル接続路
33 :ユニットボックス
34 :アダプター
35 :固定ノズル
36 :流量弁
37 :エアーポンプ
38 :タンク
39 :エアーベント
40 :ホース
41 :電磁弁
42 :ホース
43 :給水管
44 :分岐金具
45 :止水栓
47 :シャワーホルダ
111 :座面後端辺
131 :上面
132 :先端部
133 :裏面
151 :前着座面
152 :後着座面
211 :天面部
221 :天面部
222 :突出部
223 :凹部
【要約】
オストメイトがパウチを洗浄する際に、便座の着座部に腰掛け姿勢で着座した状態で、ハンドシャワーを無理なく快適に使用することができるようにした便座装置の提供を図る。便座1は、便座開口12と、その周囲にある健常者の排便時着座部と、利用者の肛門が便座開口よりも後方に位置するように着座することができるオストメイト着座部15とを備える。ハンドシャワーのシャワーヘッド31に接続されるフレキシブル接続路42の基端接続部30は、便座11の側部であって、その前後方向位置がオストメイト着座部上及び便座開口の後端から便座開口の前後方向の全長の3分の1の位置までの間の領域に、配置されたものである。