(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】振動波モータ
(51)【国際特許分類】
H02N 2/16 20060101AFI20240112BHJP
【FI】
H02N2/16
(21)【出願番号】P 2019107371
(22)【出願日】2019-06-07
【審査請求日】2022-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】末藤 啓
(72)【発明者】
【氏名】土屋 聡司
【審査官】中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】実開平02-049390(JP,U)
【文献】特開2016-096712(JP,A)
【文献】特開2002-195487(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B06B 1/00- 3/04
H02N 2/00- 2/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に延在する軸体と、前記軸体の軸周りに回転可能に設けられた環状の振動体と、前記振動体に接触され、前記振動体に対して相対的に移動する環状の接触体と、前記接触体と一体的に移動し、前記接触体の側から順にゴムばね部と板ばね部とを有し、前記ゴムばね部を介して前記板ばね部が前記接触体を前記振動体の側に加圧する環状の加圧部材と、を備え、
前記板ばね部は、前記
環状の加圧部材の周方向において隔てられて設けられる複数のスリットと、前記複数のスリットにより隔てられ前記ゴムばね部と前記接触体とを前記軸方向に加圧する複数の加圧部と、を有し、前記ゴムばね部は前記接触体に固定されていることを特徴とする振動波モータ。
【請求項2】
前記複数のスリットと前記複数の加圧部は、前記ゴムばね部が設けられる位置に対応して設けられる請求項1に記載の振動波モータ。
【請求項3】
前記複数のスリットは、前
記周方向に
おいて前記環状の接触体に存在する高低差による
前記周方向の加圧力分布を軽減するように、前記板ばね部の半径方向の途中から外周の端まで放射状に設けられる請求項1または2に記載の振動波モータ。
【請求項4】
前記ゴムばね部は、接着剤または粘着剤を介して前記環状の接触体に固定されている請求項1~3のいずれか1項に記載の振動波モータ。
【請求項5】
前記接触体と接する制振ゴムと、前記制振ゴムと接する錘部材と、を含む環状の振動減衰部材をさらに有する請求項1~3のいずれか1項に記載の振動波モータ。
【請求項6】
前記振動減衰部材は、前記接触体の不要な振動を制振するように前記制振ゴムと前記錘部材とを有する請求項5に記載の振動波モータ。
【請求項7】
前記ゴムばね部は、接着剤または粘着剤を含む接着層を介して前記錘部材に固定され、前記接着層および前記錘部材を介して前記環状の接触体に固定されている請求項
5または6に記載の振動波モータ。
【請求項8】
前記ゴムばね部は、前記環状の接触体に対して
前記周方向に滑らないように前記環状の接触体に固定される請求項1~7のいずれか1項に記載の振動波モータ。
【請求項9】
前記周方向における、前記スリットの開口幅は、前記軸方向における、前記ゴムばね部の厚みの2倍未満であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の振動波モータ。
【請求項10】
前記周方向における、前記ゴムばね部と前記接触体の間の固着力は、前記周方向における、前記加圧部材と前記ゴムばね部の間の摩擦力より大きいことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の振動波モータ。
【請求項11】
前記周方向における、前記ゴムばね部と前記接触体の間の固着力は、前記周方向における、前記振動体と前記接触体の間の摩擦力より大きいことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の振動波モータ。
【請求項12】
軸方向に延在する軸体と、前記軸体の軸周りに回転可能に設けられた環状の振動体と、前記振動体に接触され、前記振動体に対して相対的に移動する環状の接触体と、前記接触体と共に移動し、前記接触体の側から順にゴムばね部と板ばね部とを有し、前記ゴムばね部を介して前記板ばね部が前記接触体を前記振動体の側に加圧する環状の加圧部材と、を備え、
前記板ばね部は、前記
環状の加圧部材の周方向において隔てられて設けられる複数のスリットと、前記複数のスリットにより隔てられ前記ゴムばね部と前記接触体とを前記軸方向に加圧する複数の加圧部と、を有し、前記スリットの前記周方向における開口幅は、前記軸方向における前記ゴムばね部の厚みの2倍未満であることを特徴とする振動波モータ。
【請求項13】
前記ゴムばね部の厚みは、前記加圧方向に見て前記スリットと重なる前記ゴムばね部の部分の厚みであることを特徴とする請求項12に記載の振動波モータ。
【請求項14】
前記加圧部材は、前記軸体の前記軸方向における所定位置に固定されている請求項1乃至13のいずれか1項に記載の振動波モータ。
【請求項15】
少なくとも2本のアームと、
前記2本のアームを接続するアーム関節部と、を備えるロボットであって、
前記関節部は、請求項1乃至14のいずれか1項に記載の振動波モータを有し、前記振動波モータによって前記2本のアームが交差する角度を変えられることを特徴とするロボット。
【請求項16】
アームと、
前記アームの一端に設けられる把持部と、
前記アームと前記把持部とを接続するハンド関節部と、を備えるロボットであって、
前記関節部は、請求項1乃至14のいずれか1項に記載の振動波モータを有し、前記振動波モータによって前記把持部を、所定角度、回転させられることを特徴とするロボット。
【請求項17】
ベース部と、
前記ベース部に連結されたヘッド部と、
前記ヘッド部と連結されたLアングル部、を備える旋回装置であって、
前記ヘッド部は、請求項1乃至14のいずれか1項に記載の振動波モータを有し、前記振動波モータによって前記ヘッド部及びアングル部を、前記ベース部に対して相対的に所定角度、回転させられることを特徴とする旋回装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動波モータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、振動波モータは、進行性振動波が形成される振動体と、振動体に加圧接触される被駆動体と、を有し、被駆動体を、進行性振動波が形成された振動体により摩擦駆動することにより駆動力を得る。振動波モータは、構造が簡素で薄型であるとともに、高精度で静粛な駆動が可能であるため、雲台などの旋回駆動装置や、FAなどの生産装置、OA機器などにおける駆動モータとして適用されている(たとえば、特許文献1参照)。この種の振動波モータを
図11に示す。
【0003】
図11(a)において、土台901に固定された振動体902は円環状をしており、弾性体902bの上部(被駆動体側)には複数の突起902fが全周にわたって設けられている。圧電セラミックス902aは、弾性体902bの底面(被駆動体側の逆側の面)に接着剤にて接着される。そして、振動波モータの駆動時に、不図示の駆動回路により、圧電セラミックス902aに、位相差を有する2つの交流電圧が印加されることにより、振動体902に、進行性振動波が発生する。
【0004】
被駆動体903は、弾性部材で形成された円環状のロータ903aと、制振部材904から構成されている。
【0005】
ロータ903aは、支持部903b、及び振動体902の突起902fに加圧接触される摩擦面を有する接触部903cを備えている。支持部903b及び接触部903cは、ばね性を有する程度の厚みで形成されており、振動体902に対して安定した接触が可能となっている。
【0006】
制振部材904は、制振ゴム904aと円環状のばね受け部材904bから構成されている。これにより、ロータ903aに発生する不要な振動を防止し、騒音の発生や効率の低下を抑えている。
【0007】
制振部材904の上面(被駆動体側)には、加圧ばねゴム907を介して、円板状の加圧ばね905が取付けられている。
【0008】
加圧ばね905の内周部は、出力軸908に焼嵌めされたディスク906に取り付けられており、被駆動体903の駆動力を出力軸908に伝達している。ディスク906は、被駆動体903(のロータ903a)を振動体902(の突起902f)に適切な力で加圧接触させることができる程度に加圧ばね905が変位した出力軸908の軸方向の位置で、出力軸908に対して固定されている。
【0009】
図11(a)の上面図である
図11(b)に示すように、加圧ばね905は、外周部にスリット905bが複数設けられており、板ばね部905aが夫々独立して変形できるように構成されている。そのため、加圧ばねの外周部において少ないムラで被駆動体903に加圧力を付与(加圧)することができるので、それにより、振動波モータの安定した駆動が可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記
図11に示す従来例のような振動波モータにおいては、つぎのような課題を有している。
【0012】
すなわち、振動波モータを適用した雲台やOA機器などの装置の組み立てや設置の際に、振動波モータ(出力軸908)と接続する駆動対象物の姿勢の調整や位置を変更することがある。そして、その際に、駆動対象物と接続する振動波モータに回転方向の外力が作用し、振動波モータが強制的に回転されることがある。
【0013】
具体的には、土台901が固定され、出力軸908に回転方向の外力が作用し、振動波モータ(の出力軸908、ディスク906、被駆動体903)が強制的に回転されていた。その場合に、(被駆動体903を構成する)制振部材904と加圧ばね905に介在する加圧ばねゴム907が回転方向に滑ることがある。また、加圧ばね905が加圧ばねゴム907上で滑ることもある。そして、加圧ばね905のスリット905bから、加圧ばねゴム907が(鉛直方向に)突出することがあった。
【0014】
これにより、突出した加圧ばねゴム907が振動波モータの上部の装置に干渉し、その装置の動作に不具合が生じる恐れがあった。また、加圧ばねゴム907が突出した状態のまま駆動を続けることにより、加圧ばねゴム907が破断し、振動波モータの回転伝達が不安定になったり、鳴き等の異音が発生したりする恐れがあった。
【0015】
この課題に対して、加圧ばね905からスリット905bを無くし、外周部にスリットを有しない円板状の板ばねや皿ばねで加圧ばねを構成する対応策が考えられる。しかし、加圧ばね905からスリット905bを無くすと、加圧ばね905が接触する加圧対象物(ばね受け部材)の面の平面度が悪く高低差がある場合に、特定の位置(高い位置)に付与される加圧力が相対的に高くなってしまう。これにより、加圧ばねゴムが突出する課題は解決することができる。しかし、加圧対象物(ばね受け部材)の外周部において少ないムラで被駆動体に加圧力を付与(加圧)することができなくなることにより、鳴き等の異音が発生する課題は依然として解決することができない。
【0016】
また、スリット905bが無いと、同一の板厚の場合、スリット905bがある場合に比べて、加圧ばね905の変位可能な量は小さい。そのため、振動体902やロータ903aの摩耗などの経年変化によって、加圧ばね905の変位量が減少すると、振動波モータに付与される加圧力が小さくなり、安定した駆動を保つことができなくなる恐れがある。
【0017】
本発明は、上記課題に鑑み、振動波モータにおいて、スリットにより隔てられた複数の加圧部を有しつつ、当該スリットから介在部材が突出することを抑制可能な振動波モータを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の実施形態に係る振動波モータは、軸方向に延在する軸体と、前記軸体の軸周りに回転可能に設けられた環状の振動体と、前記振動体に接触され、前記振動体に対して相対的に移動する環状の接触体と、前記接触体と一体的に移動し、前記接触体の側から順にゴムばね部と板ばね部とを有し、前記ゴムばね部を介して前記板ばね部が前記接触体を前記振動体の側に加圧する環状の加圧部材と、を備え、
前記板ばね部は、前記環状の加圧部材の周方向において隔てられて設けられる複数のスリットと、前記複数のスリットにより隔てられ前記ゴムばね部と前記接触体とを前記軸方向に加圧する複数の加圧部と、を有し、前記ゴムばね部は前記接触体に固定されていることを特徴としている。
また、本発明の実施形態に係る振動波モータは、軸方向に延在する軸体と、前記軸体の軸周りに回転可能に設けられた環状の振動体と、前記振動体に接触され、前記振動体に対して相対的に移動する環状の接触体と、前記接触体と共に移動し、前記接触体の側から順にゴムばね部と板ばね部とを有し、前記ゴムばね部を介して前記板ばね部が前記接触体を前記振動体の側に加圧する環状の加圧部材と、を備え、
前記板ばね部は、前記環状の加圧部材の周方向において隔てられて設けられる複数のスリットと、前記複数のスリットにより隔てられ前記ゴムばね部と前記接触体とを前記軸方向に加圧する複数の加圧部と、を有し、前記スリットの前記周方向における開口幅は、前記軸方向における前記ゴムばね部の厚みの2倍未満であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、振動波モータにおいて、スリットにより隔てられた複数の加圧部を有しつつ、当該スリットから介在部材が突出することを抑制可能な振動波モータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施例1に係る振動波モータの構成を説明する斜視図。
【
図3】
図1図示の振動波モータの振動体において励起される振動モードを説明するための斜視図。
【
図4】(a)は
図1図示の振動波モータの上面図。(b)はその振動波モータの側面拡大図(A方向視図)。
【
図5】本発明の実施例1の比較例に係る振動波モータの構成を説明する図であり、(a)は振動波モータの側面拡大図(A方向視図)。(b)は、その振動波モータに外力が作用した後の側面拡大図(A方向視図)。
【
図6】本発明の実施例2に係る振動波モータの構成を説明する図であり、(a)は振動波モータの上面図。(b)はその振動波モータの側面拡大図(A方向視図)。
【
図7】本発明の実施例3に係る振動波モータの側面拡大図。
【
図8】本発明の実施例4に係る振動波モータの側面拡大図。
【
図9】本発明の各実施例に係る振動波モータを搭載したロボットの概略構成を示す斜視図。
【
図10】本発明の各実施例に係る振動波モータを搭載した雲台の概略構成を示す図であり、(a)は正面図、(b)は側面図。
【
図11】従来例における振動波モータの構成を説明する図であり、(a)は断面図。(b)は上面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明を実施するための形態を、以下の実施例により説明する。
【実施例1】
【0022】
実施例1として、本発明を適用した回転型の振動波モータの構成例について、
図1、2、3を用いて説明する。
【0023】
本実施例の振動波モータは、
図1に示すように、円筒状に形成されており、出力部8の出力取出部8iが不図示の駆動対象と連結し、駆動対象を回転運動させる。
【0024】
図2に、
図1に示す振動波モータの断面図を示す。なお中心軸L1は振動波モータの回転中心軸である。
図3は、
図1における振動波モータの振動体において励起される振動モードを説明するための斜視図である。
【0025】
図2において、振動体2は、電気量を機械量に変換する電気-機械エネルギ変換素子である圧電素子2aと、この圧電素子2aと結合された弾性体2bとによって形成されている。そして、圧電素子2aに駆動電圧(交流電圧)を印加し、公知の技術により、振動体2に進行性の振動波により楕円運動を生じさせ、これによって被駆動体3を振動体2と摩擦駆動により相対的に回転させる。本実施例では、
図3に示すように、回転軸方向に屈曲する面外の振動で、回転方向に9次の成分を持つ面外9次振動で被駆動体3を駆動している。なお、
図3は理解を容易にするために、変位量を強調して表示している。なお、ここでは、回転方向は、被駆動体が振動体に対して相対的に移動する相対移動方向とも言い換えられる。以下においては、「被駆動体が振動体に対して相対的に移動する相対移動方向」を、単に、「相対移動方向」ともいう。
【0026】
弾性体2bは、基部2cと、基部2cから延出し、弾性体2bをハウジング1に固定するためのフランジ部2eから構成されている。フランジ部2eは、固定ねじ1cによって円筒状に形成されたハウジング1のベース部材1aに締結されている。基部2cの被駆動体3側の面が被駆動体3との摺動面2dとなっている。弾性体2bは、金属製の弾性部材であり、本実施例ではステンレス鋼で形成されている。さらに、耐久性を高めるための硬化処理として、被駆動体3との摺動面2dを窒化処理している。
【0027】
被駆動体3は、弾性部材で形成された円環状のロータ3aと、ばね受け部材4から構成されている。
【0028】
ロータ3aは、振動体2と摩擦接触する摺動面を有する接触部3bを備える。本実施例では、ロータ3aは焼入処理したステンレス鋼で形成されている。接触部3bは、ばね性を有する厚みで形成されており、振動体2に対して安定した接触が可能となっている。
【0029】
ばね受け部材4は、振動減衰部材である制振ゴム4aと錘部材4bからなる。
【0030】
制振ゴム4aは円環状であり、振動減衰性能が高いブチルゴムやシリコーンゴム等で形成されている。錘部材4bは円環状の弾性部材であり、本実施例では真鍮で形成されている。制振ゴム4aと錘部材4bにより、振動波モータの駆動中に発生するロータ3aの不要な振動の発生を抑え、振動波モータの騒音や出力の低下を防止している。
【0031】
被駆動体3の上面には、加圧ばねゴム(介在部材)7、加圧ばね(加圧部材)5、及び加圧ディスク6が取付けられている。加圧ばねゴムの主成分はゴムである。
【0032】
加圧ばね5は、出力部8に止めねじ6bにより固定された円環状のディスク部材6aにねじによって取付けられており、被駆動体3の駆動力を出力部8に伝達している。なお、加圧ばね5の固定方法はねじによる締結だけでなく、接着等により固着してもよい。ここで、「固着」とは、あるものが他のものにくっつくことをいう。また、回転伝達できる構成にしていれば、当接しているだけの構成でもよい。いずれの場合においても、ディスク部材6aと加圧ばね5の当接部は回転軸方向において一体的に移動可能となっている。なお、加圧力は回転軸方向に作用している。つまり、ここでは、加圧部材が介在部材を加圧する加圧方向は、回転軸方向と同じである。なお、以下においては、「加圧部材が介在部材を加圧する加圧方向」を、単に、「加圧方向」ともいう。
【0033】
出力部8は、軸受取付部8cを有する出力軸8aと、出力軸8aと螺合する内周部を備える軸受与圧部材8bから構成されている。
【0034】
出力軸8aは、中空状に形成されており、軸受取付部8cの外周部に嵌合した内輪を有する2つの転がり軸受9によって回転可能に支持されている。本実施例においては、転がり軸受9はアンギュラ玉軸受により構成されている。
【0035】
転がり軸受9の外輪は、ハウジング1のベース部材1a及びホルダ部材1bに嵌合しハウジング1に固定されている。なお2つの転がり軸受9の間にはスペーサー1dが設けられている。
【0036】
転がり軸受9の内輪は、軸受与圧部材8bを出力軸8aに適切な締付トルクで螺合することで予圧がかけられている。これにより、転がり軸受9の径方向のがたが抑制され、出力軸8aの径方向の振れを抑えることができる。
【0037】
図4(a)に、
図2に示す振動波モータの上面図を示す。また、
図4(b)に、
図4(a)の矢印Aからみた振動波モータの側面拡大図(A方向視図)を示す。
【0038】
図4(a)、(b)において、加圧ばね5は弾性部材で形成されており、板ばね部5aと、振動波モータの回転方向に複数設けられたスリット5bから構成されている。本実施例では、加圧ばね5はSUS301-CSPやSUS304-CSPなどのばね用ステンレス鋼帯で形成されており、調質により硬度を高めている。また、内外径の形状やスリット5bは、エッチング加工によって形成されている。加圧ばね5の板厚は、加圧力に対して耐力を超えない範囲で十分に変位を確保できる厚みで形成されている。
【0039】
加圧ばね5の内径側から外径端部にわたって設けられたスリット5bにより、加圧ばね5の回転方向に複数形成される板ばね部5aは、夫々独立して変形可能となっている。そのため、スリット5bが無く回転方向に一体的に形成されている皿ばね等に比べ、加圧ばね5が接触する加圧対象物の面の平面度などの高低差の影響を緩和し、回転方向にムラなく均一に加圧力を付与することができる。また、板ばね部5aが夫々独立に変形可能なため、スリット5bが無い同一の板厚の円板状の板ばねや皿ばね等に比べ大きな変位をとることができる。そのため、振動体2やロータ3aの摩耗などの経年変化によって加圧ばね5の変形量が増減しても、振動波モータに付与される加圧力の変化を抑制することができ、安定した駆動を保つことができる。
【0040】
加圧ばねゴム7は、加圧方向において、加圧ばね5と被駆動体3の錘部材4bとの間に設けられており、加圧ばねゴム7の上面部7aが加圧ばね5と当接している。なお、加圧ばねゴム7の上面部7aは、加圧ばね5のスリット5bの領域は加圧ばね5と接触していない。つまり、振動波モータの回転方向において、加圧ばねゴム7の上面部7aは、加圧ばね5と接触している領域と、接触していない領域を有している。
【0041】
加圧ばねゴム7はブチルゴムやクロロプレンゴム等で形成されており、加圧ばねゴム7の弾性変形により、錘部材4bの加圧ばねゴム7が設けられている上面部4cの平面度の影響を緩和している。そのため、加圧ばねゴム7と加圧ばね5からの加圧力が被駆動体3に回転方向においてムラなく均一に付与され、振動体2と被駆動体3の安定した接触が保たれている。
【0042】
加圧ばねゴム7の下面部7bには回転方向の全周にわたって接着剤が塗布されており、錘部材4bとの間に接着部7cが形成され、加圧ばねゴム7(介在部材)と錘部材4b(被駆動体)は固着している。この接着部7cの回転方向(相対移動方向)の固着力(介在部材と被駆動体の間の固着力)は、加圧ばね5と、加圧ばね5と当接している加圧ばねゴム7の上面部7a間の回転方向の摩擦力(加圧部材と介在部材の間の摩擦力)よりも大きい。また、相対移動方向における、振動体2と被駆動体3の間の摩擦力よりも大きい。
【0043】
これにより、振動波モータを強制的に回転させる外力が被駆動体3に作用しても、振動体2に対して被駆動体3が相対的に回転する前に、加圧ばねゴム7が回転方向に滑りにくくなっている。また同様に、外力作用時に、加圧ばねゴム7に対して加圧ばね5が相対的に回転する前に、加圧ばねゴム7が被駆動体3に対して相対的に回転方向に滑りにくくなっている。よって、従来構造では課題となっていた、外力作用時に加圧ばねゴム7が加圧ばね5のスリット5bから突出することを防止することができ、振動波モータの安定した加圧の維持を実現することが可能となる。
【0044】
ここで比較例として、
図5(a)に加圧ばねゴム7が錘部材4bと固着していない従来例の振動波モータの側面拡大図を示し、
図5(b)に
図5(a)の振動波モータに外力が作用した後の側面拡大図を示す。
【0045】
図5(a)、(b)に示すように、加圧ばねゴム7の下面部7bに接着部7cを設けない場合、加圧ばね5の加圧力によって加圧ばねゴム7の下面部7bと錘部材4bが密着されている。そのため、加圧力による摩擦力で被駆動体3と加圧ばねゴム7と加圧ばね5が一体的に回転可能となっている。
【0046】
このとき、加圧ばね5の板ばね部5aが当接している領域における加圧ばねゴム7と錘部材4b間の摩擦力は高く、反対に板ばね部5aが当接していないスリット5bの下部の領域における加圧ばねゴム7と錘部材4b間の摩擦力は低くなっている。
【0047】
この場合、振動波モータに回転方向の外力が作用すると、加圧ばねゴム7に対して回転方向のモーメントが作用し、回転方向に応じて加圧力が高い領域と低い領域が発生する。これにより、加圧ばねゴムが回転方向に伸び、摩擦力が低くなっているスリット5b付近の領域の加圧ばねゴム7が錘部材4bに対して滑ったり、離れたりする場合がある。これにより、
図5(b)に示すように、加圧ばね5のスリット5bから加圧ばねゴム7が加圧方向に突出し、突出部7dが形成される。そのため、加圧ばねゴム7に引張りの力が作用し、その状態で振動波モータを駆動し続けると加圧ばねゴム7が破断し、回転伝達が不安定になったり、鳴きのような異音が発生したりする恐れがあった。
【0048】
本実施例では、加圧ばねゴム7と錘部材4bは接着部7cによって全周にわたって固着しているため、回転方向のモーメントが作用しても伸びにくくなっている。また、板ばね部5aが当接していない領域でも加圧ばねゴム7が錘部材4bに対して滑ったり、離れたりしにくくなっている。
【0049】
これらにより、振動波モータを適用した装置の組立時に振動波モータに回転方向の外力が強制的に作用しても、加圧ばね5のスリット5bから加圧ばねゴム7が加圧方向に突出するのを防止し、振動波モータの安定した加圧を維持することができる。
【0050】
なお、本実施例において振動体3の駆動振動を面外9次としていたが、これに限定されるものではなく、次数や屈曲方向は適宜選択できるものである。
【0051】
また、加圧ばねゴム7の接着部7cは接着剤による接着に限定されるものではなく、加圧ばねゴム7に設けられた両面テープによる粘着剤など、加圧ばねゴム7と錘部材4bが回転方向において全周にわたって固着されていればよい。
【実施例2】
【0052】
実施例2として、実施例1とは異なる形態の振動波モータの構成例について、
図6を用いて説明する。本実施例は、実施例1に対して、加圧ばね、加圧ばねゴムを
図6に示す構造とした点において相違する。本実施例のその他の要素は、上述した実施例1の対応するものと同一なので、図番の末尾をそろえることにより説明を省略する。
【0053】
図6(a)に、本実施例の振動波モータの上面図を示す。また、
図6(b)に、
図6(a)の矢印Aからみた振動波モータの側面拡大図(A方向視図)を示す。
【0054】
図6(a)、(b)において、加圧ばね15は弾性部材で形成されており、板ばね部15aと、振動波モータの回転方向に複数設けられたスリット15bから構成されている。
【0055】
加圧ばねゴム17は、加圧方向において、加圧ばね15と被駆動体13の錘部材14bとの間に設けられており、加圧ばねゴム17の上面部17aが加圧ばね15と当接している。加圧ばねゴム17の下面部17bは、接着剤等を介さずに錘部材14bと密着している。そのため、加圧力による摩擦力で被駆動体13と加圧ばねゴム17と加圧ばね15が一体的に回転可能となっている。
【0056】
加圧ばね15のスリット15bの回転方向の幅(間隔)Wは、加圧ばねゴム17の加圧方向の厚みtの2倍の厚みよりも小さくなるように(2倍未満に)形成されている。これは、
図5(b)に示したように、加圧ばねゴムが飛び出して折り返すためには、少なくとも加圧ばねゴムの厚みtの2倍の幅が必要であり、加圧ばね15のスリット15bの幅Wを厚みtの2倍よりも小さくすれば、加圧ばねゴムは突出できなくなるためである。なお、加圧ばねゴムの厚みtは、加圧付与する前のゴムの厚みである。また、加圧ばねゴムの厚みtは、加圧方向においてスリットと重なる部分の厚みでもある。
【0057】
これにより、振動波モータを強制的に回転させる外力が被駆動体13に作用し、加圧ばねゴム17が回転方向に滑ったとしても、スリット15bの幅が狭いため、加圧ばねゴム17がスリット15bから突出することを防止できる。よって、振動波モータの安定した加圧の維持を実現することが可能となる。
【0058】
本実施例においても、加圧ばね15に設けられたスリット15bにより、加圧ばね15の回転方向に複数形成される板ばね部15aは、夫々独立して変形可能となっている。また、スリット15bの幅Wが小さくても、外径側端部にわたってスリット15bが設けられているため、加圧ばねの変形量は十分大きくなっている。そのため、加圧ばね15が接触する加圧対象物の面の平面度などの高低差の影響を緩和し、回転方向にムラなく均一に加圧力を付与することができるとともに、経年変化による加圧力の変化も抑制でき、安定した駆動を保つことが可能となる。
【実施例3】
【0059】
実施例3として、上記各実施例とは異なる形態の振動波モータの構成例について、
図7を用いて説明する。本実施例は、実施例1に対して、被駆動体、加圧ばね、加圧ばねゴムを
図7に示す構造とした点において相違する。本実施例のその他の要素は、上述した実施例1の対応するものと同一なので、図番の末尾をそろえることにより説明を省略する。
【0060】
図7(a)に、本実施例の振動波モータの一部を拡大した部分断面図(B-B断面図)を示す。また、
図7(b)に、
図7(a)の矢印Aからみた振動波モータの側面拡大図(A方向視図)を示す。
【0061】
図7(a)、(b)において、被駆動体23は、弾性部材で形成された円環状のロータ23aのみで構成されており、ロータ23aの上面には、加圧ばねゴム27、加圧ばね25、が取付けられている。
【0062】
加圧ばね25は弾性部材でプレス加工により形成されており、板ばね部25aと、振動波モータの回転方向に複数設けられたスリット25bから構成されている。また、加圧部25aの加圧ばねゴム27側(介在部材側)の角部(加圧ばね25の角部)にはプレス加工によるダレによって逃げ部25cが形成されている。
【0063】
加圧ばねゴム27は、振動減衰性能が高いブチルゴムやシリコーンゴム等で形成されており、振動波モータの駆動中に発生するロータ23aの不要な振動の発生を抑え、振動波モータの騒音や出力の低下を防止している。
【0064】
加圧ばねゴム27の上面部27aは加圧ばね25と当接している。また、加圧ばねゴム27の下面部27bには回転方向の全周にわたって接着剤が塗布されており、被駆動体23のロータ23aの上面部23dとの間に接着部27cが形成され、加圧ばねゴム27とロータ23aは固着している。この接着部27cの回転方向(相対移動方向)の固着力は、実施例1と同様に、加圧ばね25と、加圧ばね25と当接している加圧ばねゴム27の上面部27a間の回転方向の摩擦力よりも大きくなっている。また、振動体22と被駆動体23の間の摩擦力よりも大きくなっている。
【0065】
これにより、振動波モータを強制的に回転させる外力が被駆動体23に作用しても、加圧ばねゴム27が回転方向に滑りにくくなり、加圧ばねゴム27が加圧ばね25のスリット25bから突出することを防止できている。
【0066】
また、強制的な外力が作用した際に、加圧ばねゴム27が回転方向に滑ることを防止しているが、加圧ばねゴム27に対して加圧ばね25が相対的に回転する(加圧ばね905が加圧ばねゴム907上で滑る)ことは発生しうる。本実施例では、加圧ばね25に逃げ部25cが設けられている(角部が欠損している)。そして、それにより、加圧ばね25の角部により加圧ばねゴム27が損傷したり、角部が引っ掛かることによって、加圧ばねゴム27の一部がスリットから突出したりすることを抑制できる。よって、振動波モータの安定した加圧の維持を実現することが可能となる。
【0067】
なお、本実施例において加圧ばね25の逃げ部25cをプレス加工のダレによるR形状で形成したが、これに限定されるものではない。例えば、角部を面取りすることによって形成したり、エッチング加工によってサイドエッチングを発生させ、円弧上に除去された逃げ部を形成したりしてもよい。
【実施例4】
【0068】
実施例4として、上記各実施例とは異なる形態の振動波モータの構成例について、
図8を用いて説明する。本実施例は、実施例1に対して、加圧ばね、加圧ばねゴムを
図8に示す構造とした点において相違する。本実施例のその他の要素は、上述した実施例1の対応するものと同一なので、図番の末尾をそろえることにより説明を省略する。
【0069】
図8に、本実施例の振動波モータを側面からみた振動波モータの側面拡大図を示す。
【0070】
図8において、加圧ばね35は弾性部材で形成されており、板ばね部35aと、振動波モータの回転方向に複数設けられたスリット35bから構成されている。
【0071】
加圧ばねゴム37は、加圧方向において、加圧ばね35と被駆動体33の錘部材34bとの間に設けられており、加圧ばねゴム37の上面部37aが加圧ばね35と当接している。
【0072】
加圧ばねゴム37の下面部37bには接着部37cが形成され、加圧ばねゴム37と錘部材34bの上面部34cは固着している。これにより、実施例1と同様に、振動波モータを強制的に回転させる外力が被駆動体33に作用しても、加圧ばねゴム37が回転方向に滑りにくくなり、加圧ばねゴム37が加圧ばね35のスリット35bから突出することを防止できている。
【0073】
また、加圧ばね35のスリット35bの回転方向の幅Wは、加圧ばねゴム37の加圧方向の厚みtの2倍の厚みよりも小さくなるように形成されている。これにより、振動波モータが高温環境下に長期間さらされ、接着部37cの固着力が低下し、強制的な外力により加圧ばねゴム37が回転方向に滑ったとしても、スリット35bの幅が狭いため、加圧ばねゴム37がスリット35bから突出することを防止できる。よって、振動波モータの安定した加圧の維持を実現することが可能となる。
【実施例5】
【0074】
第5実施例では、上述した各実施例に係る振動波モータを備える装置(機械)の一例としての産業用ロボットの構成について説明する。
【0075】
図9は、振動波モータを搭載したロボット100の概略構造を示す斜視図であり、ここでは、産業用ロボットの一種である水平多関節ロボットを例示している。振動波モータは、ロボット100において、アーム関節部111やハンド部112に内蔵される。アーム関節部111は、2本のアーム120を接続し、2本のアーム120が交差する角度を変えることができるように、少なくとも2本のアームを接続する。ハンド部112は、アーム120と、アーム120の一端に取り付けられる把持部121と、アーム120と把持部121とを接続するハンド関節部122とを有する。振動波モータは、アーム120同士の角度を変化させるアーム関節部111や、把持部121を、所定角度、回転させるハンド関節部122に用いられる。
【実施例6】
【0076】
第6の実施例では、上述の実施例の振動波モータを少なくとも2つ以上備える装置の一例として、雲台装置(旋回装置)の構成について説明する。
【0077】
図10(a)は、雲台200の外観正面図、
図10(b)は雲台200の内部を示す側面図である。
【0078】
雲台200は、ヘッド部210と、ベース部220と、ヘッド部210と連結されたLアングル部230と、撮像装置240と、を有する。
【0079】
ヘッド部210の内部に上述の実施例の振動波モータが2つ配置されている。
【0080】
パン用の振動波モータ280は、出力部がベース部220と連結され、振動波モータ280の回転駆動により、ヘッド部210をベース部220に対して相対的にパン動作(回転)させる。チルト用の振動波モータ270は、出力部がLアングル部230と連結され、振動波モータ270の回転駆動により、Lアングル部230をベース部220に対して相対的にチルト動作(回転)させる。
【0081】
Lアングル部230に取り付けられた撮像装置240は、動画や静止画撮影用のカメラであり、撮影を行いながら2つの振動波モータの駆動によりパン及びチルト動作が可能となっている。また、振動波モータは無通電時にも摩擦力により姿勢を維持することができるため、雲台の姿勢を決めた後には無通電にし、消費電力を抑制した状態で撮影を続けることが可能となる。なお、本実施例の雲台装置200は、Lアングル部230に撮像装置240を搭載していたが、搭載物はこの構成に限定するものではなく、適宜変更できる。
【0082】
以上、本発明をその好適な実施例に基づいて詳述してきたが、本発明はこれら特定の実施例に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の様々な形態も本発明に含まれる。さらに、上述した各実施例は本発明の一実施例を示すものにすぎず、各実施例を適宜組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0083】
2 振動体
3 被駆動体
5,15,25,35 加圧ばね(加圧部材)
5a,15a,25a,35a 加圧部
5b,15b,25b,35b スリット
7,17,27,37 加圧ばねゴム(介在部材)