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特許7418117マグネシウム-リチウム系合金部材及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】マグネシウム-リチウム系合金部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 11/30 20060101AFI20240112BHJP
   C22C 23/00 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
C25D11/30
C22C23/00
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019218402
(22)【出願日】2019-12-02
(65)【公開番号】P2020097783
(43)【公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-11-25
(31)【優先権主張番号】P 2018235922
(32)【優先日】2018-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【弁理士】
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【弁理士】
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】坂本 淳一
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/203919(WO,A1)
【文献】特表2017-520684(JP,A)
【文献】特開2009-024235(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 11/30
C22C 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウムの含有量とリチウムの含有量との和が90質量%以上であるマグネシウム-リチウム系合金からなる基材と、
前記基材上に被膜を備える合金部材であって、
前記被膜は、フッ素と酸素を含有し、前記フッ素の含有量が50原子%より大きく、かつ、前記酸素の含有量が5原子%未満であり、
前記被膜の厚みが25μm以上であることを特徴とする合金部材。
【請求項2】
前記フッ素の含有量が70原子%以下であり、前記酸素の含有量が2原子%以上である請求項1に記載の合金部材。
【請求項3】
前記被膜は、マグネシウムおよびリチウムを含有し、前記フッ素の含有量をM1原子%、前記マグネシウムおよび前記リチウムの含有量の和をM2原子%としたときに、前記M1が前記M2の2倍以上となる領域が、前記被膜の厚み方向において、表面から10μmの位置まで形成されている請求項1または2に記載の合金部材。
【請求項4】
前記M1が前記M2の2倍以上となる領域は、前記被膜の表面に形成されている請求項に記載の合金部材。
【請求項5】
前記M1が前記M2の2倍以上となる領域は、前記被膜の表面から20μmまで連続的に形成されている請求項に記載の合金部材。
【請求項6】
筐体と、該筐体内に複数のレンズからなる光学系を備える光学機器であって、
前記筐体が請求項1乃至のいずれか1項に記載の合金部材を有することを特徴とする光学機器。
【請求項7】
筐体と、該筐体内に複数のレンズからなる光学系と、該光学系を通過した光を受光する撮像素子と、を備える撮像装置であって、
前記筐体が請求項1乃至のいずれか1項に記載の合金部材を有することを特徴とする撮像装置。
【請求項8】
前記撮像装置がカメラであることを特徴とする請求項に記載の撮像装置。
【請求項9】
筐体と該筐体内に電子部品を備える電子機器であって、
前記筐体が請求項1乃至のいずれか1項に記載の合金部材を有することを特徴とする電子機器。
【請求項10】
本体部と該本体部に接続された複数の移動手段を備えるドローンであって、
前記本体部の筐体が請求項1乃至のいずれか1項に記載の合金部材を有することを特徴とするドローン。
【請求項11】
マグネシウムの含有量とリチウムの含有量との和が90質量%以上であるマグネシウム-リチウム系合金からなる基材を用意する工程と、
中性フッ化アンモニウム水溶液に、陰極の基材と、陽極として前記マグネシウム-リチウム系合金からなる基材とを配置する工程と、
前記陽極と前記陰極との間に電圧を印加して、フッ素と酸素を含有し、前記フッ素の含有量が50原子%より大きく、かつ、前記酸素の含有量が5原子%未満である被膜を前記マグネシウム-リチウム系合金からなる基材上に設ける工程と、を有し、
前記被膜の厚みが25μm以上であることを特徴とする合金部材の製造方法。
【請求項12】
前記中性フッ化アンモニウム水溶液の濃度が181g/L以上の濃度である請求項11に記載の合金部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム-リチウム系合金の基材上にフッ素を多く含有する被膜が形成されたマグネシウム-リチウム系合金部材に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネシウム系合金は、軽量であり、かつ、制振性に優れることから様々な物品に使用されている。近年、物品には更なる軽量化が求められており、マグネシウム-リチウム系合金が提案されている。しかし、リチウムは、非常に活性であり、イオン化しやすく、かつ溶解しやすい金属元素であるため、例えば、高温高湿環境にさらされると腐食しやすい性質を有する。このため、マグネシウム-リチウム系合金の耐食性を改善することが求められている。
【0003】
マグネシウム-リチウム系合金の耐食性を改善する目的として、マグネシウム-リチウム系合金の表面をフッ化処理して、その表面にフッ化被膜を形成させることが知られている。特許文献1にはマグネシウム-リチウム系合金の表面を、酸性フッ化アンモニウムとアルミニウムを含有する処理液で浸漬処理することが開示されている。また、特許文献2には、マグネシウム-リチウム系合金の表面に対しフッ化水素を用いて化成処理することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-171776号公報
【文献】国際公開2014-203919号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の方法ではマグネシウム-リチウム系合金表面にフッ素を多く含有させることができなかった。そのため、従来のマグネシウム-リチウム系合金部材は耐食性が不十分であった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための合金部材は、マグネシウムの含有量とリチウムの含有量との和が90質量%以上であるマグネシウム-リチウム系合金からなる基材と、前記基材上に設けられた被膜を備える合金部材であって、前記被膜は、フッ素と酸素を含有し、前記フッ素の含有量が50原子%より大きく、かつ、前記酸素の含有量が5原子%未満であり、前記被膜の厚みが25μm以上であることを特徴とする。
【0007】
上記課題を解決するための合金部材の製造方法は、マグネシウムの含有量とリチウムの含有量との和が90質量%以上であるマグネシウム-リチウム系合金からなる基材を用意する工程と、中性フッ化アンモニウム水溶液中に、陰極の基材と、陽極として前記マグネシウム-リチウム系合金からなる基材とを配置する工程と、前記陽極と前記陰極との間に電圧を印加して、フッ素と酸素を含有し、前記フッ素の含有量が50原子%より大きく、かつ、前記酸素の含有量が5原子%未満である被膜を前記マグネシウム-リチウム系合金からなる基材上に設ける工程と、を有し、前記被膜の厚みが25μm以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来の方法では得られなかった多量のフッ素を含有する被膜を、マグネシウム-リチウム系合金の表面に形成することができる。そのため、高温高湿環境に長期間に亘って晒されても、腐食を抑制することが可能なマグネシウム-リチウム系合金部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の合金部材の部分断面図である。
図2】本発明の合金部材の製造工程を示したフロー図である。
図3】本発明の合金部材を製造する陽極酸化装置の概略図である。
図4】被膜を形成する時の電流電圧曲線の一実施態様を示す図である。
図5】本発明の撮像装置を示した概略図である。
図6】本発明の電子機器を示した概略図である。
図7】本発明の移動体を示した概略図である。
図8】実施例3における被膜の厚み方向の組成分布を示した図である。
図9】実施例2における被膜の厚み方向の組成分布を示した図である。
図10】実施例1における被膜の厚み方向の組成分布を示した図である。
図11】比較例3における被膜の厚み方向の組成分布を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<合金部材>
図1は本発明の合金部材の部分断面図である。合金部材100は、マグネシウム-リチウム系合金からなる基材102と、基材102上に設けられた被膜101を備える。なお、被膜101の上には必要に応じて、プライマや上塗り層などの塗装膜を設けても良い。塗装膜としては、例えば、遮熱機能を備える遮熱膜が挙げられる。
【0011】
(基材)
基材102はマグネシウム-リチウム系合金(以下、Mg-Li系合金)からなる。Mg-Li系合金はMg(マグネシウム)を主成分としており、軽量かつ制振性に優れるという特徴がある。ここで制振性に優れるとは、振動エネルギーを素早く熱エネルギーに変換することにより、振動が早く収束することをいう。
【0012】
本明細書において、Mg-Li合金とは、合金中におけるMgとLiの含有量の和が90質量%以上の合金を指す。MgとLiの含有量が90質量%未満であると、軽量にすることが困難となる。なお、Mg-Li系合金には10質量%未満であれば、その特性を調整するために他の金属元素を含有してもよい。金属元素としては、例えば、Al、Zn、Ca等が挙げられる。
【0013】
Mg-Li系合金の原料は特に限定されない。商業的に入手可能なものとしては、例えば、安立材料科技股▲ふん▼有限公司製のLZ91圧延板材やAres鍛造成形材、株式会社三徳社製のLA143圧延板材およびLA149チクソ成形筒材が挙げられる。
【0014】
Mg-Li合金中に含有されるLiの含有量は、Mgの含有量とLiの含有量の和に対して0.5質量%以上15質量%以下であることが好ましい。0.5質量%未満であるとMg合金に対して軽量にすることができず、15質量%より多いと制振性が十分でなくなるおそれがある。より好ましくは8質量%以上14質量%以下である。
【0015】
従来のMg-Li系合金は、Liが卑な金属であるため腐食しやすかった。具体的には、温度55℃湿度95%といった高温高湿環境に長期間に亘って晒されると腐食を抑制することができなかった。Mg-Li合金の表面に水が付着すると、Liと水が反応して水酸化リチウムが生成され、さらに水素ガスが発生する。すると、Mg-Li系合金を表面処理して形成した膜が、水素ガスによって膨れたり、剥がれたりすることがあった。そのため、Mg-Li系合金の表面が水と接触しても水素ガスの発生を抑制できる被膜を設ける必要がある。
【0016】
(被膜)
被膜101は、フッ素(F)と酸素(O)を含有し、前記フッ素の含有量が50原子%より大きく、かつ、前記酸素の含有量が5原子%未満であることを特徴とする。Mg-Li系合金からなる基材102の上に、上記のような特徴を有する被膜101を設けることにより、水と接触しても水素ガスの発生を抑制することが可能となる。
【0017】
これは、被膜の101のFの含有量を50原子%より多くすることにより、Liの遊離が発生したとしても、水や酸素に対して不活性なフッ化物を被膜中に多く形成させることができるためである。フッ化物は、LiF(フッ化リチウム)だけでなくMgF(フッ化マグネシウム)も形成される。これらのフッ化物はエンタルピーが小さい。また、水に対する溶解度が小さい。
【0018】
また、Fの含有量が50原子%より多くするとともに、Oの含有量を5原子%未満とする。Oの含有量を5原子%未満とすることにより、Liの活性化及びLiO(酸化リチウム)の発生を抑制し、水素ガスの発生を抑制できる。Oの含有量が5原子%以上となると、LiOが発生する。LiOは水と反応して、水に対する溶解度が大きい水酸化リチウムに変化し、水素ガスが発生する原因となる。
【0019】
なお、製造が容易であるという観点においては、Fの含有量は70原子%以下であることが好ましい。同様の観点において、Oの含有量は2原子%以上であることが好ましい。
【0020】
被膜101の厚みは25μm以上であることが好ましい。被膜の厚みを25μm以上にすることで、被膜内部に発生する欠陥を少なくすることができる。そのため、被膜表面から水が浸み込んだとしても、基材102まで水が到達する可能性を低くすることができる。
【0021】
被膜101は、被膜101に含まれるフッ素の含有量をM1原子%、マグネシウムおよびリチウムの含有量の和をM2原子%としたときに、M1がM2の2倍以上となる領域を有することが好ましい。
【0022】
LiFの組成が化学量論比となった場合、Fの割合は50原子%となる。また、MgFの組成が化学量論比となった場合、F割合は66.7原子%となる。つまり、基材であるMg-Li合金表面のMgとLiが完全にフッ化されると、Fの割合は50原子%から66.7原子%の値をとることになる。
【0023】
そのため、被膜101に含まれるフッ素の含有量M1が、マグネシウムおよびリチウムの含有量の和であるM2の2倍以上となる領域を有するということは、MgとLiが完全にフッ化される割合以上のフッ素が存在することを意味する。この余剰のフッ素の存在により、活性なリチウムやマグネシウムが発生しても、これらの活性種と反応して安定なフッ化物を形成するため、より厳しい環境下においても腐食を抑制することが可能となる。
【0024】
また、前記領域は、被膜の表面から厚み方向に10μm以内の位置に形成されていることが好ましい。さらに、前記領域は、前記被膜の表面から厚み方向に20μm以内の位置まで連続的に形成されていることが好ましい。いずれも、被膜の表面から水と反応しにくい構造となるためである。
【0025】
<合金部材の製造方法>
図2は、本発明の合金部材の製造工程を示したフロー図である。図3は本発明の合金部材を製造する陽極酸化装置の概略図である。図2および図3を用いて、本発明の合金部材の製造方法について説明する。
【0026】
まず、Mg-Li系合金からなる基材7を用意する。
【0027】
次に、基材7に、基材7と同一材料で構成されたワーク導通保持治具8を接続する。具体的には、ワーク導通保持治具8を曲げてワークである基材7を挟み込むように接続する。
【0028】
次に、基材7とワーク導通保持治具8を硝酸(濃度3~5質量%)に浸漬して酸洗浄を行う。基材7とワーク導通保持治具8の表面にある酸化層を除去するためである。酸は、硝酸以外の塩酸や硫酸等でも良く、表面の酸化層を溶解できるものであればよい。酸洗浄後は、純水シャワーにて基材7とワーク導通保持治具8を水洗する。その後、基材7とワーク導通保持治具8を90~99℃に加熱した純水に浸漬し、引上げて、乾燥する。
【0029】
このような処理を経た基材7の表面に対し、陽極酸化装置9を用いて陽極酸化プロセスによりフッ化被膜を形成する。
【0030】
続いて、陽極酸化プロセスについて説明する。
【0031】
基材7にフッ化被膜を形成する処理槽1に、電解液2として中性フッ化アンモニウム水溶液を配置する。中性フッ化アンモニウム水溶液の濃度は180g/Lから飽和状態となる453g/Lであることが好ましく、Mg-Li合金基材の表面を完全にフッ化するためには高濃度に設定することが好ましい。
【0032】
電解液2の水溶液は中性であり、pHは6.0以上8.0以下であることが望ましい。pHが低下し酸性になると、毒物であるフッ化水素が生成されてしまう。一方、pHが高くなりアルカリ性になると、陽極での酸化反応がフッ素だけでなく、酸素とも反応する。そのため、被膜におけるフッ素の含有割合が低下してしまう。なお、pHの値としては7.0~7.5の範囲であることが好ましい。pHがこの範囲であると、より高い電圧を印加し易くなるためである。すなわち、電解液として中性フッ化アンモニウムを用いることにより、従来より高い電圧を印加することできるため、形成する被膜のフッ素含有量を多くすることができる。
【0033】
電解液2は、配管を通じて処理槽1の下部からポンプ3およびフィルター4を経由して、処理槽1の上部に循環撹拌される。なお、電解液2は、ポンプにより昇温が発生するため、チラー等によって温度制御することが好ましい。好ましい電解液の温度は-20℃から60℃である。この温度範囲であれば、生成される被膜に特段の差は発生しない。
【0034】
電源5の陰極は、処理槽1内に浸漬された陰極電極6に接続されている。陰極電極6の材質は、電解液との反応性が低ければよく、例えば、カーボン、白金、チタン、SUS等が使用可能である。また、電源5の陽極は基材7と接続されたワーク導通保持治具8に接続されているため、基材7およびワーク導通保持治具8は陽極電極として機能する。
【0035】
電源との接続が完了したら、電圧を印加する。図4はフッ化被膜を形成する時の電流電圧曲線の一実施態様を示す図である。横軸は時間[単位:秒]、縦軸は電流[単位:A]と電圧[単位:V]であり、実線が電流、破線が電圧をそれぞれ表わしている。電圧印加開始時点を0秒とし、電圧印加当初は、定電流制御で一定値の電流を流す。電流が流れることで、基材7の表面にフッ化被膜が成長する。ある程度の膜厚にまでフッ化被膜が成長すると、表面抵抗の上昇に伴って電流が抑制される。定電流制御を行うため、電流が抑制されると同時に、徐々に電圧が上昇する。電圧が、設定電圧にまで上昇した時点で、定電圧制御に変更し、電圧を一定に制御する。この時点で、急速に電流が低下する。そして、電流が十分に低くなった時(例えば、0.01A以下になったとき)に通電を停止する。なお、所望の膜厚を得るためには、所定の電気量(電流×時間の積分値)が流れたところで電圧を切るように設定しても良い。
【0036】
ここで、フッ化被膜の膜厚は基材の材質組成と設定電圧によって概ね決定することができる。LZ91(組成:Mg-9%Li-1%Zn、安立材料科技股▲ふん▼有限公司製)の場合、設定電圧は121V以上であることが好ましい。設定電圧が121V未満であると、フッ化被膜の膜厚が十分厚くできないおそれがある。一方、設定電圧が大きいほどフッ化被膜を厚く形成し易いが、157Vを超えると、形成されるフッ化被膜が絶縁破壊を起こしてポーラス構造になるおそれがある。また、膜厚が80μmを超えると、フッ化膜形成時にアーク放電が発生して絶縁破壊を起こしてポーラス構造になるおそれがある。また、LA149(組成:Mg-14%Li-9%Al、三徳株式会社製)の場合、その設定電圧は100V以上であることが好ましい。いずれの場合も、形成されるフッ化被膜の膜厚が25μm以上となることが好ましい。また、設定電流の値は、特に限定されないが、低い場合フッ化被膜の成長に時間を要するため、基材の表面積にもよるが1A以上が望ましい。
【0037】
その後、水洗乾燥してワーク導通保持治具を基材から取り外して、フッ化被膜を有するMg-Li合金基材上にフッ化被膜が形成された本発明の合金部材を得ることができる。
【0038】
<撮像装置>
図5は、本発明の撮像装置の好適な実施形態の一例である、一眼レフデジタルカメラ600の構成を示している。図5において、カメラ本体602と光学機器であるレンズ鏡筒601とが結合されているが、レンズ鏡筒601はカメラ本体602に対して着脱可能ないわゆる交換レンズである。
【0039】
被写体からの光は、レンズ鏡筒601の筐体内の撮影光学系の光軸上に配置された複数のレンズ603、605などからなる光学系を通過して撮像素子が受光することにより撮影される。ここで、レンズ605は内筒604によって支持されて、フォーカシングやズーミングのためにレンズ鏡筒601の外筒に対して可動支持されている。
【0040】
撮影前の観察期間では、被写体からの光は、カメラ本体の筐体621内の主ミラー607により反射され、プリズム611を透過後、ファインダレンズ612を通して撮影者に撮影画像が映し出される。主ミラー607は例えばハーフミラーとなっており、主ミラーを透過した光はサブミラー608によりAF(オートフォーカス)ユニット613の方向に反射され、例えばこの反射光は測距に使用される。また、主ミラー607は主ミラーホルダ640に接着などによって装着、支持されている。不図示の駆動機構を介して、撮影時には主ミラー607とサブミラー608を光路外に移動させ、シャッタ609を開き、撮像素子610にレンズ鏡筒601から入射した撮影光像を結像させる。また、絞り606は、開口面積を変更することにより撮影時の明るさや焦点深度を変更できるよう構成される。
【0041】
本発明の合金部材は筐体620に用いることができる。なお筐体620は、本発明の合金部材のみで構成されても良いし、本発明の合金部材に塗装膜を設けても良い。本発明の合金部材は軽量かつ耐食性に優れるため、従来の撮像装置より軽量かつ耐食性に優れた撮像装置を提供することができる。
【0042】
なお、一眼レフデジタルカメラを一例として本発明の撮像装置を説明したが、本発明はこれに限定されず、スマートフォンやコンパクトデジタルカメラであっても構わない。
【0043】
<電子機器>
図6は、本発明の電子機器の好適な実施形態の一例である、パソコンの構成を示している。図6において、パソコン800は表示部801と本体部802を備える。本体部802の内部には不図示の電子部品が備えられている。本発明の合金部材は本体部802の筐体に用いることができる。筐体は本発明の合金部材のみで構成されても良いし、本発明の合金部材に塗装膜を設けても良い。本発明の合金部材は軽量かつ耐食性に優れるため、従来のパソコンより軽量かつ耐食性に優れたパソコンを提供することができる。
【0044】
なお、パソコンを一例として本発明の電子機器を説明したが、本発明はこれに限定されず、スマートフォンやタブレットであっても構わない。
【0045】
<移動体>
図7は、本発明の移動体の一例としてドローンの一実施形態を示す図である。ドローン700は、複数の移動手段701と、移動手段701と接続される本体部702を備える。移動手段は、例えば、プロペラを有する。図7のように、本体部702には脚部703を接続しても良いし、カメラ704を接続する構成にしても良い。本発明の合金部材は、本体部702および脚部703の筐体に用いることが可能である。筐体は本発明の合金部材のみで構成されても良いし、本発明の合金部材に塗装膜を設けても良い。本発明の合金部材は、制振性かつ耐食性に優れるため、従来のドローンより制振性かつ耐食性に優れたドローンを提供することができる。なお、ドローンを一例として本発明の移動体を説明したが、本発明はドローンのような飛行体に限定されず、地上を移動する移動体であっても構わない。
【実施例
【0046】
以下、実施例をあげて本発明を説明する。
【0047】
<合金部材の製造>
(実施例1)
まず、基材7として、LZ91(組成:Mg-9%Li-1%Zn、安立材料科技股▲ふん▼有限公司製)の圧延部材を用意した。サイズは40mm×40mm×3mmとした。
【0048】
次に、基材7と、LZ91よりなるワーク導通保持治具8を濃度4質量%の硝酸に30秒浸漬して酸洗浄を行った。その後、基材7とワーク導通保持治具8を純水で水洗した。さらに、基材7とワーク導通保持治具8を95℃に加熱した純粋に浸漬したのちに、乾燥させた。そして、陰極6をカーボンとし、陽極を基材7およびワーク導通保持治具8として、図3に示した陽極酸化装置を構成した。
【0049】
なお、電解液2には、濃度が453g/Lの中性フッ化アンモニウム溶液(pH=7.0)を用意した。電解液2の温度はチラーを用いて0℃±1℃になるように制御した。
【0050】
また、陽極酸化条件は図4に示したような電流電圧曲線とし、設定電圧値を121V、設定電流値を3Aとした。
【0051】
電圧を印加して40秒後に電圧は121Vとなったため、電流が3Aから降下した。そして電圧印加から30分後に電流値が0.01Aとなったため、電圧印加を停止し、実施例1の合金部材を得た。
【0052】
(実施例2)
電解液2の温度を25℃として、設定電圧値を121V、設定電流値を4Aとした点以外は実施例1と同様の条件で実施例2の合金部材を製造した。
【0053】
電圧を印加して54秒後に電圧が121Vとなったため、電流が4Aから降下した。そして電圧印加から26分後に電流値が0.01Aとなったため、電圧印加を停止し、実施例2の合金部材を得た。
【0054】
(実施例3)
電解液2の温度を10℃として、設定電圧値を126V、設定電流値を4Aとした点以外は実施例2と同様の条件で実施例3の合金部材を製造した。
【0055】
電圧を印加して6分36秒後に電圧が126Vとなったため、電流が4Aから降下した。そして電圧印加から13分後に電流値が0.007Aとなったため、電圧印加を停止し、実施例3の合金部材を得た。
【0056】
(実施例4)
電解液2の濃度を344g/L、温度を5℃として、設定電圧値を128V、設定電流値を4Aとした点以外は実施例2と同様の条件で実施例4の合金部材を製造した。
【0057】
電圧を印加して10分24秒後に電圧が128Vとなったため、電流が4Aから降下した。そして電圧印加から11分42秒後に電流値は0.007Aとなったため、電圧印加を停止し、実施例4の合金部材を得た。
【0058】
(実施例5)
基材7は、LA143(組成:Mg-14%Li-3%Al、三徳株式会社製)の圧延板材を用意した。サイズは40mm×40mm×3mmであった。また、ワーク導通保持治具8もLA143で構成した。また、電解液2の温度を5℃として、設定電圧値を123Vとした点の以外は、実施例3と同様の条件で実施例5の合金部材を製造した。
【0059】
電圧を印加して5分12秒後に電圧が123Vとなったため、電流が4Aから降下した。そして電圧印加から14分54秒後に電流値は0.009Aとなったため、電圧印加を停止し、実施例6の合金部材を得た。
【0060】
(実施例6)
基材7は、LA149(組成:Mg-14%Li-9%Al、三徳株式会社製)のチクソ成形により、Φ60mm、厚さ4mm、高さ60mmの円柱カップ形状とした。また、ワーク導通保持治具8もLA149で構成した。また、設定電圧値を115Vとした点以外は実施例5と同様の条件で実施例6の合金部材を製造した。
【0061】
電圧を印加して59分42秒後に電圧が115Vとなったため、電流が4Aから降下した。そして電圧印加から68分42秒後に電流値は0.01Aとなったため、電圧印加を停止し、実施例6の合金部材を得た。
【0062】
(実施例7)
基材7は、Ares(組成:Mg-8%Li-3%Al、安立材料科技股▲ふん▼有限公司製)の鍛造成形により、Φ60mm、厚さ2mm、高さ40mmの円筒形状とした。また、ワーク導通保持治具8もAresで構成した。また、電解液2には、濃度が268g/Lの中性フッ化アンモニウム溶液(pH=7.0)を用意した。電解液2の温度はチラーを用いて20℃±1℃になるように制御した。
【0063】
126Vの電圧を印加して、4Aの電流を18分20秒間流した後、電圧印加を停止し、実施例7の合金部材を得た。この時、ワークに流れた電気量は4400クーロンであった。
【0064】
(実施例8)
電解液2の濃度を181g/L、設定電圧値を155Vとした点以外は実施例4と同様の条件で実施例8の合金部材を製造した。
【0065】
電圧を印加して13分10秒後に電圧が155Vとなったため、電流を4Aから降下させた。そして電圧印加から16分55秒後に電流値は0.007Aとなったため、電圧印加を停止し、実施例8の合金部材を得た。
【0066】
(比較例1)
設定電圧値を100Vとした点以外は実施例1と同様の条件で比較例1の合金部材を製造した。
【0067】
電圧を印加して15秒後に電圧が100Vとなったため、電流が3Aから降下した。そして電圧印加から5分36秒後に電流値が0.004Aとなったため、電圧印加を停止し、比較例1の合金部材を得た。
【0068】
(比較例2)
設定電圧値を105Vとした点以外は比較例1と同様の条件で比較例2の合金部材を製造した。
【0069】
電圧を印加して14秒後に電圧が105Vとなったため、電流が3Aから降下した。そして電圧印加から8分24秒後に電流値は0.006Aとなったため、電圧印加を停止し、比較例2の合金部材を得た。
【0070】
(比較例3)
設定電圧値を110Vとした点以外は比較例1と同様の条件で比較例3の合金部材を製造した。
【0071】
電圧を印加して20秒後に電圧が110Vとなったため、電流が3Aから降下した。そして電圧印加から22分30秒後に電流値が0.004Aとなったため、電圧印加を停止し、比較例3の合金部材を得た。
【0072】
(比較例4)
設定電圧値を120Vとした点以外は比較例2と同様の条件で比較例4の合金部材を製造した。
【0073】
電圧を印加して47秒後に電圧が120Vとなったため、電流が4Aから降下した。そして、電圧印加から14分後に電流値が0.01Aとなったため、電圧印加を停止し、比較例4の合金部材を得た。
【0074】
(参考例1)
基材7として、実施例1で用いたLZ91(組成:Mg-9%Li-1%Zn、安立材料科技股▲ふん▼有限公司製)の圧延部材を用意した。陽極酸化させずに、実施例1と同様の条件で酸洗浄、水洗、温水洗浄、乾燥を施して、参考例1の基材を得た。
【0075】
(参考例2)
基材7として、実施例5で用いたLA143(組成:Mg-14%Li-3%Al、三徳株式会社製)の圧延板材を用意した。陽極酸化させずに、参考例1と同様の条件で酸洗浄、水洗、温水洗浄、乾燥を施して、参考例2の基材を得た。
【0076】
(参考例3)
基材7として、実施例6で用いたLA149(組成:Mg-14%Li-3%Al、三徳株式会社製)のチクソ成形により、Φ60mm、厚さ4mm、高さ60mmの円柱カップ形状とした。陽極酸化させずに、参考例1と同様の条件で酸洗浄、水洗、温水洗浄、乾燥を施して、参考例3の基材を得た。
【0077】
<合金部材の評価>
実施例1~6、比較例1~4の合金部材および参考例1~3の基材の評価を以下の要領で行った。その結果を表1にまとめた。分析および各種試験結果一覧を表1に記載した。
【0078】
表1の記載内容について以下に説明する。
【0079】
(EDS元素分析結果)
各合金部材および基材について、EDS(エネルギー分散型X線分光器)による元素分析を行った。
【0080】
EDS元素分析は、カールツァイス株式会社製のFE-SEM装置を用いた。EDSによる元素分析条件としては、倍率114の視野範囲で加速電圧13kV、ワークディスタンス9.87~9.97mmの条件で測定を実施した。
【0081】
その結果を表1のEDS元素割合[原子%]列に記載した。
【0082】
(膜厚)
膜厚は、株式会社サンコウ電子研究所社製の膜厚計STW-9000および、膜厚計用プローブNFe-2.0を用いて渦電流式により膜厚測定を行った。
【0083】
その結果を表1の膜厚[μm]列に記載した。
【0084】
(恒温恒湿耐久試験)
恒温恒湿耐久試験は、合金部材若しくは基材を温度55℃湿度95%の環境下に1000時間放置して、外観変化の有無を確認した。外観は、目視、50倍および200倍の顕微鏡観察にて評価した。その結果を表1の恒温恒湿耐久試験列に示した。Aは耐久前後で変化が無かったことを示す。Bは耐久前後で変化が有ったことを示す。
【0085】
(純水浸漬試験)
純水浸漬試験は、合金部材若しくは基材を純水中に浸漬して、24時間後の表面の泡の発泡密度で評価を行った。発泡密度は、表面全体に付着している泡の個数を表面積で割った値と定義した。また、1平方センチメートル当たり10個以上の泡が付着していたものに対しては>10と記載した。
【0086】
(塗装膜耐久試験)
合金部材若しくは基材に対し塗装膜を設けて、恒温恒湿耐久試験と同様の温度・湿度所件で評価試験を実施した。
【0087】
塗装膜は、一般的なマグネシウム用焼き付け塗料(川上塗料株式会社社製)を用いて、プライマを150℃20分間、上塗り層を150℃20分間焼き付け処理にて設けた。プライマ層は15±5μm、上塗り層は20±5μmの膜厚とした。
【0088】
【表1】
【0089】
表1の結果から、EDS元素分析においてフッ素の含有量が50原子%よりも大きく、かつ酸素の含有量が5原子%未満の合金部材において、塗装膜耐久試験後でも塗装膜に膨れや剥離が発生しない外観が良好な合金部材が得られることが分かった。
【0090】
また、各実施例の合金部材は、水素ガスの発泡数がごく微量または発泡しなかった。これは、基材表面や被膜中に存在するリチウムやマグネシウムが、遊離した状態ではなく不活性な状態で存在しているものと考えられる。
【0091】
また、上記合金部材のフッ化被膜の厚さは25μm以上であった。
【0092】
一方、膜厚が25μm未満であった比較例1~4および参考例1~3はいずれも、塗装膜耐久試験後に塗装膜に膨れや剥離が発生してしまった。比較例1~4および参考例1~3はいずれもフッ素の含有量が50原子%未満であり、酸素の含有量も5原子%以上であった。
【0093】
次に、塗装膜の耐久が良好な結果であったフッ化被膜の詳細な構造を明らかにするために、XPS(X線光電子分光法)分析により、フッ化被膜の厚さ(深さ)方向の組成分布を測定した。
【0094】
XPS分析装置は、アルバック・ファイ株式会社製PHI QuanteraIIを用いた。測定条件は、X線照射条件を15kV25W、Arスパッタリングエネルギー69eVとし、200μm×200μmの領域に対し厚み方向に分析を行った。厚み方向の位置は、測定後のエッチング深さを株式会社キーエンス社製VR-3000レーザー顕微鏡で測定した後、各測定ポイントまでのエッチング時間配分することにより、算出した。
【0095】
上記条件により、実施例3、実施例2、実施例1および比較例3で得た合金部材のフッ化被膜のXPS分析を実施した。そのXPS分析によるフッ化被膜の厚み方向の元素組成分布を図8から図11に示す。図8は実施例3、図9が実施例2、図10が実施例1、図11が比較例3の結果である。
【0096】
図8から図11の縦軸は元素の組成割合、横軸はフッ化被膜の表面からの深さをそれぞれ示す。実線はフッ素の割合であり、破線はマグネシウムとリチウムの割合を2倍したものである。図8から図10は、本発明の合金基材であり、MgとLiの成分の倍の濃度(破線)よりもフッ素濃度(実線)が高い領域が存在することがわかる。
【0097】
一方、図11は、比較例3のXPS分析によるフッ化被膜の厚み方向の元素組成分布である。これによると、MgとLiの成分の倍の濃度(破線)よりもフッ素原子濃度(実線)が高い領域が存在しないことがわかる。
【0098】
このような構造の場合、余剰フッ素は存在せず、活性なリチウムやマグネシウムが発生しても、これらの活性を抑制することができない。従って、活性種は水や空気と反応して耐久劣化が進行すると考えられる。
【0099】
このように、本発明の合金基材は、水や空気中の酸素に対しても安定性を有している被膜を備えるため、水に浸漬しても発泡すること無く、長期的に安定性を有する構造である。
【符号の説明】
【0100】
100 合金部材
101 被膜
102 基材
600 一眼レフデジタルカメラ
601 レンズ鏡筒
700 ドローン
800 パソコン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11