(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】記録装置及び払拭方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/165 20060101AFI20240112BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
B41J2/165 303
B41J2/01 301
(21)【出願番号】P 2021140199
(22)【出願日】2021-08-30
【審査請求日】2022-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】堤 寛征
(72)【発明者】
【氏名】松村 英明
(72)【発明者】
【氏名】藤▲崎▼ 慎平
【審査官】山本 一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-041192(JP,A)
【文献】特開2014-172238(JP,A)
【文献】特開2015-020407(JP,A)
【文献】特開平07-205438(JP,A)
【文献】特開2019-072932(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/165
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出する吐出口が複数配置された吐出口面と、前記吐出口面側の、前記吐出口が設けられた領域とは別の位置に、少なくとも前記吐出口面より凸となる凸部、吐出口面よりも凹んだ凹部の一方で形成される段差部を有する記録ヘッドと、
前記吐出口面を払拭するブレードと、
記録ヘッドに対して前記ブレードが前記吐出口面
に沿った方向である第1の方向に移動するように、前記ブレードと前記記録ヘッドと
の少なくとも一方を移動させる移動手段と、
を備え、前記移動手段による移動により前記ブレードによって前記吐出口面を払拭する記録装置であって、
前記記録ヘッドは、前記段差部として第1の段差部と第2の段差部を有し、前記第1の方向において前記第1の段差部と前記第2の段差部が前記吐出口を挟むように設けられており、
前記ブレードは、前記移動手段によって前記ブレードと前記記録ヘッドとが相対的に移動されることにより、前記記録ヘッドの前記
第1の段差部
を通って前記吐出口が設けられた領域
へ、その後前記第2の段差部を通るように前記第1の方向に前記記録ヘッドを払拭し、
前記移動手段は、前記ブレードが前記
第1の段差部
上または近傍で停止
、または前記第1の段差部上または近傍を前記吐出口が設けられた領域を払拭する速度よりも遅い速度で通過し、その後前記吐出口が設けられた領域を払拭
し、第2の段差部を通過するときには前記ブレードが前記第2の段差部上または近傍で停止せずに通過するように前記ブレードと前記記録ヘッドとを相対的に移動させ
、
前記ブレードが前記第1の段差部上または近傍で停止、または前記第1の段差部上または近傍を前記吐出口が設けられた領域を払拭する速度よりも遅い速度で通過することで前記第1の段差部にたまったインクが前記ブレード側に引き出されることを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記移動手段は、前記ブレードによって前記吐出口面を複数回払拭するように前記ブレードと前記記録ヘッドとを相対的に移動させることを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記吐出口面と垂直な方向における、前記ブレードが前記吐出口面の払拭を行う前の、前記ブレードの前記吐出口面に接触する部分と、前記吐出口面との距離を変更することが可能な変更手段をさらに有し、
前記変更手段によって前記ブレードの前記吐出口面に接触する部分と、前記吐出口面との距離を変更して、前記ブレードによって前記吐出口面を払拭するように前記移動手段が前記ブレードと前記記録ヘッドとを相対的に移動させる、という動作を複数回行わせることを特徴とする請求項2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記移動手段は、前記ブレードが停止する位置を変えながら、前記ブレードによって前記吐出口面を複数回払拭するように前記ブレードと前記記録ヘッドとを相対的に移動させることを特徴とする請求項2または3に記載の記録装置。
【請求項5】
インクを吐出する吐出口が複数配置された吐出口面と、吐出口面側の前記吐出口が設けられた領域とは別の位置に、少なくとも前記吐出口面より凸となる凸部、吐出口面よりも凹んだ凹部の一方で形成される
第1の段差部
と第2の段差部を有
し、前記吐出口面に沿った方向である第1の方向において、前記第1の段差部と前記第2の段差部が前記吐出口を挟むように設けられている記録ヘッドと、前記吐出口面を払拭するブレードと、
が前記第1の方向に相対的に移動
するように前記記録ヘッドと前記ブレードの少なくとも一方を移動させることによって前記吐出口面を払拭する払拭工程を有し、
前記払拭工程において、前記ブレードが前記
第1の段差部
上または近傍で停止
、または前記第1の段差部上または近傍を前記吐出口が設けられた領域を払拭する速度よりも遅い速度で通過し、その後前記吐出口が設けられた領域を払拭
し、第2の段差部を通過するときには前記ブレードが前記第2の段差部上または近傍で停止せずに通過するように前記ブレードと前記記録ヘッドとを相対的に移動させ
、
前記ブレードが前記第1の段差部上または近傍で停止、または前記第1の段差部上または近傍を前記吐出口が設けられた領域を払拭する速度よりも遅い速度で通過することで前記第1の段差部にたまったインクが前記ブレード側に引き出されることを特徴とする払拭方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録装置及び払拭方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置において、吐出口からのインクの吐出状態を維持するために吐出口面を払拭するためのブレードを用いて吐出口面を払拭するインクジェット記録装置が知られている。
【0003】
先行文献1では、隣接して設けられた剛性の異なる複数のブレードを持つワイピング機構を備えたインクジェット記録装置に関する提案がなされている。この構成では、ワイプ方向によって剛性の異なるブレードを使い分けることでブレードの付着物がノズルへ再付着してしまうことを抑制することが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、先行文献1の構成では、剛性の異なる複数のブレードを設ける必要があり、構成が複雑となる。また、記録ヘッドの構成によっては、吐出口面の吐出口が形成されていない領域に段差部がある場合がある。このような構成の場合、段差部にインクが溜まることがある。ワイピング時に段差部にブレードが接触することによって段差部に溜まったインクが引き出され、吐出口付近に付着すると、吐出不良を引き起こす虞がある。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みて為されたものであり、ワイピング時に、記録ヘッドの吐出口面の段差部に溜まったインクが吐出口付近に付着することを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、インクを吐出する吐出口が複数配置された吐出口面と、前記吐出口面側の、前記吐出口が設けられた領域とは別の位置に、少なくとも前記吐出口面より凸となる凸部、吐出口面よりも凹んだ凹部の一方で形成される段差部を有する記録ヘッドと、前記吐出口面を払拭するブレードと、記録ヘッドに対して前記ブレードが前記吐出口面に沿った方向である第1の方向に移動するように、前記ブレードと前記記録ヘッドとの少なくとも一方を移動させる移動手段と、を備え、前記移動手段による移動により前記ブレードによって前記吐出口面を払拭する記録装置であって、前記記録ヘッドは、前記段差部として第1の段差部と第2の段差部を有し、前記第1の方向において前記第1の段差部と前記第2の段差部が前記吐出口を挟むように設けられており、前記ブレードは、前記移動手段によって前記ブレードと前記記録ヘッドとが相対的に移動されることにより、前記記録ヘッドの前記第1の段差部を通って前記吐出口が設けられた領域へ、その後前記2の段差部を通るように前記第1の方向に前記記録ヘッドを払拭し、前記移動手段は、前記ブレードが前記第1の段差部上または近傍で停止、または前記段差部上または近傍を前記吐出口が設けられた領域を払拭する速度よりも遅い速度で通過し、その後前記吐出口が設けられた領域を払拭し、第2の段差部を通過するときには前記ブレードが前記第2の段差部上または近傍で停止せずに通過するように前記ブレードと前記記録ヘッドとを相対的に移動させ、前記ブレードが前記第1の段差部上または近傍で停止、または前記段差部上または近傍を前記吐出口が設けられた領域を払拭する速度よりも遅い速度で通過することで前記第1の段差部にたまったインクが前記ブレード側に引き出されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ワイピング時に、記録ヘッドの吐出口面の段差部に溜まったインクが吐出口付近に付着することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1の実施形態に係るインクジェット記録装置の内部構成の斜視図である。
【
図2】第1の実施形態に係るインクジェット記録装置のブロック図である。
【
図3】第1の実施形態に係る記録機構部の斜視図である。
【
図4】第1の実施形態に係る回復機構部の斜視図である。
【
図5】第1の実施形態に係るロックレバーの位置を示す斜視図である。
【
図6】第1の実施形態におけるスライダのポジションに対する回復機構部を示す図である。
【
図7】第1の実施形態におけるスライダのポジションに対する回復機構部を示す図である。
【
図8】第1の実施形態に係る記録ヘッドの断面図である。
【
図9】第1の実施形態におけるワイピングシーケンスのフローチャートである。
【
図10】第1の実施形態におけるワイピングシーケンス時の記録ヘッドとブレードの動きを示す図である。
【
図11】第2の実施形態におけるワイピングシーケンスのフローチャートである。
【
図12】第3の実施形態におけるワイピングシーケンス時の記録ヘッドとブレードの動きを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて具体的に説明する。
【0011】
(第1の実施形態)
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、各図面を通じて同一符号は、同一または対応部分を示すものである。
【0012】
(インクジェット記録装置全体の概要説明)
図1は本実施形態におけるインクジェット記録装置1の内部構成を示す斜視図である。
【0013】
図1に示すように、インクジェット記録装置(以下、単に記録装置とも称する)は、給紙部101と、搬送部102と、記録機構部103と、回復機構部104と、を備えている。給紙部101は、記録用紙等の被記録材Pを記録装置本体内へ供給する。搬送部102は、給紙部101により供給された被記録材Pを-Y方向に搬送する。記録機構部103は、画像情報に基づいて動作し、被記録材Pに画像を記録する。回復機構部104は、記録ヘッドのインク吐出性能を維持または回復するためのものである。
【0014】
給紙部101に積載された被記録材Pは、給紙・搬送モータ205によって駆動される給紙ローラによって1枚ずつ分離されて送り出され、搬送部102へと供給される。搬送部102に供給された被記録材Pは、給紙・搬送モータ205によって駆動される搬送ローラ121およびピンチローラ122に挟持されながらプラテン126上に搬送される。プラテン126上に搬送された被記録材Pは記録機構部103によって記録される。記録ヘッド5(
図3参照)が搭載された主走査方向(X方向)に移動するキャリッジ6を画像情報に基づいて駆動させ、記録ヘッド5の吐出口からインクを吐出させることで記録を行う。記録が行われた被記録材Pは、搬送ローラ121と同期駆動される排紙ローラおよび拍車に挟持されることによって装置本体外へ排出される。
【0015】
記録機構部103は、主走査方向(X方向)に往復移動可能なキャリッジ6と、キャリッジ6に搭載された記録カートリッジと、を備えている。キャリッジ6は、装置本体に設置されたガイドレールに沿って往復移動可能に案内支持されている。キャリッジ6の往復移動は、キャリッジモータ204によりキャリッジベルト124を介して駆動される。キャリッジ6の往復移動の制御は、キャリッジに搭載されたエンコーダセンサと装置本体側に張架されたエンコーダスケール125によってキャリッジ6の位置および速度を検出することにより行われる。キャリッジ6の移動(主走査)と同期して記録ヘッド5の記録動作により1スキャン分の画像が記録され、1スキャンの記録が終わった後に被記録材Pの所定ピッチごとの搬送(副走査)する、という動作を繰り返すことによって被記録材P全体への記録が行われる。
【0016】
回復機構部104は、記録ヘッド5の吐出口の目詰まり等を解消することで、記録される画像の品位を正常な状態に維持または回復するために備えられている。この回復機構部104は、吐出口面を払拭するためのワイピング機構、吐出口面を覆うためのキャッピング機構、吐出口からインクを吸引するためのポンプ機構等を備えている。
図4にて説明するが、本実施形態における回復機構部104は、キャリッジ6が回復機構部104に向かって移動してきた際に、キャリッジ6の移動に追従して所定の範囲内で移動可能なスライダ7を備えている。スライダ7には、ワイピング機構のブレード8、9およびキャッピング機構のキャップ1A、1Bが搭載されている。キャップ1A、1Bは吐出口面を覆うことで吐出口からインクの水分が蒸発してインクの粘度が上がることを防ぐことができる。
【0017】
(ブロック図の説明)
図2は、本実施形態のインクジェット記録装置のブロック図である。
図2に示すように、201は、記録装置1の各部動作やデータの処理などを制御するMPUである。202は、MPU201によって実行されるプログラムやデータを格納するROMである。203は、MPU201によって実行される処理データ及びホストコンピュータ214から受信したデータを一時的に記憶するRAMである。
【0018】
記録ヘッド5は記録ヘッドドライバ207によって制御される。キャリッジ6を駆動するキャリッジモータ204は、キャリッジモータドライバ208によって制御される。給紙ローラ120および搬送ローラ121、搬送ローラ121と同期駆動の排紙ローラは給紙・搬送モータ205によって駆動される。給紙・搬送モータ205は給紙・搬送モータドライバ209によって制御される。
【0019】
ホストコンピュータ214には、使用者によって記録動作の実行が命令された場合に、記録画像や記録画像品位等の記録情報を記録装置と通信するためのプリンタドライバ2141が設けられている。MPU201は、I/F部213を介してホストコンピュータ214と記録画像等のやり取りを実行する。
【0020】
(記録機構部103の詳細説明)
図3は本実施形態の記録機構部103を示す斜視図である。
図3に示すように、キャリッジ6には2つの記録カートリッジ3A、3Bが着脱可能に搭載されている。各記録カートリッジ3A,3Bはそれぞれ記録ヘッド5A、5Bとインクタンクとを一体化したインクカートリッジで構成されている。カラー用記録カートリッジ3Aには複数色のインクを用いて記録を行う記録ヘッド5Aが設けられている。単色用記録カートリッジ3Bには単色のインク(例えばブラック)を用いて記録を行う記録ヘッド5Bが設けられている。例えば、記録ヘッド5Aの吐出口面51にはシアン、マゼンタおよびイエローの3色のインクを吐出する吐出口列が形成されている。記録ヘッド5Bの吐出口面52にはブラックなどの単色のインクを吐出する吐出口列が形成されている。
【0021】
尚、記録ヘッドの吐出口列の構成はこれに限られず、例えば記録ヘッド5Bについても異なる色のインクを吐出する吐出口列が複数形成されるようにしてもよい。また、インクカートリッジ方式ではなく、記録ヘッドとインクタンクが別体となっているような構成であってもよい。
【0022】
(回復機構部104の詳細説明)
図4は本実施形態の回復機構部104を示す斜視図である。
図4に示すように、スライダ7には、キャリッジ6の移動に追従して所定の範囲内で移動するためにキャリッジ6の側面と当接する突き当て部7aが設けられている。また、スライダばね17によりスライダ7は-X側に付勢されている。これによって、スライダ7は、ブレード8、9およびキャップ1A、1Bが記録ヘッド5から離れる退避位置から、ブレード8,9によって記録ヘッド5の吐出口面51,52を払拭することが可能なワイピング位置に移動可能となる。また、キャップ1A、1Bによって記録ヘッド5の吐出口面51,52を覆うことが可能なキャッピング位置、に移動可能となる。スライダ7側面から、キャリッジ6の移動方向と交差(ここでは直行)するY方向に、合計4箇所、突出部7bが設けられている。
図4では-Y方向に設けられた2箇所の吐出部7bが図示されており、残りの2箇所は+Y方向に設けられている。4箇所の突出部7bは、本体底ケース13に設けられたスライダカム13aに当接している。スライダ7の移動は、本体底ケース13に設けられたスライダカム13aのカム面に沿って、4箇所の突出部7bがスライドすることにより行われる。スライドにより、キャリッジの移動方向に沿った各位置(退避位置、ワイピング位置、キャッピング位置等)で、吐出口面51、52に対して所定の高さになるように制御される。
【0023】
カラー記録ヘッド5Aの吐出口面51を払拭するためのブレード8およびブラック記録ヘッド5Bの吐出口面52を払拭するためのブレード9は、スライダ7に取り付けられている。吐出口面51、52をキャッピングするためのキャップ1A、1Bは、キャップホルダ2A、2Bに取り付けられている。各キャップホルダ2A、2Bは、4箇所の爪部によってスライダ7に取り付けられている。各キャップホルダ2A、2Bとスライダ7との間にはキャップばねが配置されており、キャップ1A、1Bが取り付けられたキャップホルダ2A、2Bは吐出口面51、52に向かって+Z方向に付勢されている。ブレード8、9およびキャップ1A、1Bは、記録領域側から+X方向に向かって、ブレード8、キャップ1A、ブレード9、キャップ1Bの順に配置されている。
【0024】
図4に示すように、スライダ7上には、記録領域側端部における搬送方向下流側(-Y方向側)の部位に、スライダ7をワイピング位置にロック(係止)するように動作する係止部材として、ロックレバー16が取り付けられている。ロックレバー16は、ワイピング位置にスライダ7を係止する係止位置と、スライダ7の係止状態を解除する解除位置と、に回転移動可能に取り付けられている。ロックレバー16は、キャリッジ6が記録ヘッド5の吐出口面51、52を払拭するためにワイピング位置まで移動してきたときに、スライダ7が-X側および-Z側に移動しないようにし、スライダ7の移動を規制するように作動する。ロックレバー16は、キャリッジ6の移動方向と交差(ここでは直行)するY方向の面内で回転移動可能に支持されている。ロックレバー16は、支持軸16eを有し、その軸を中心として回転移動可能に支持されている。さらに、ロックレバー16を反時計回りに回転させるようにロックレバー16に付勢する不図示のねじりコイルばねの付勢力が働くことで、所定値以上の外力トルクが作用しない限り、ばね付勢力により移動させられた位置で保持される。なお、その位置とは、ロックレバー16の突出部16fがスライダ7に当接した状態の位置である(
図5参照)。
【0025】
図6(a)~(b)、
図7(a)~(b)はスライダが各ポジションにある状態の回復機構部を示す正面図である。装置本体側には、ロックレバー16が突出部16fとスライダ7が当接した状態となったときに、ロックレバー16の先端面16aを係止可能な係止部13dが設けられている。
【0026】
図6(a)はワイピングを行う際の回復機構部104の状態を示している。まず、キャリッジ6が記録領域から+X方向に移動し、突き当て部7aに当接して突き当て部7aを+X方向に移動させることによりブレード8、9を+Z方向に移動させる。
図6(a)に示す位置でロックレバー16の先端面16aが係止部13dに係止され、ブレード8、9の位置が固定される。この状態で、キャリッジ6が記録領域へ向かって移動することで、キャリッジ6に対してブレード8、9が、吐出口面が形成されている方向(X方向)に移動しながら吐出口面を払拭することでワイピング動作が実施される。
【0027】
ワイピング動作中にキャリッジ6は記録領域側へ移動していく。キャリッジ6には、ロックレバー16の上端部16bに当接可能なロック解除用の突出部67が設けられている(
図3参照)。ロック解除用の突出部67は、キャリッジ6が記録領域へ向かって移動する際に、ロックレバー16の上端部16bに当接することで、ロックレバー16を記録領域側から見て時計回りに回転移動させる。これによって、ロックレバー16の先端面16aが係止部13dから離れ、ロックレバー16の係止状態が解除され、
図6(b)の状態となる。ブレード8、9が-Z方向に移動し、キャリッジ6、記録ヘッド5に当接しない状態となるため、キャリッジ6は記録領域に移動可能となり、記録を行える状態となる。
【0028】
図7(a)は単独吸引ポジションを示している。キャップホルダ2Bには、搬送方向下流側の部位にキャップホルダカム部4Bが設けられている。また、装置本体側には、スライダ7が単独吸引ポジションにある状態においてキャップホルダカム部4Bと当接するようにカム部13eが設けられている。これによって、スライダ7が単独吸引ポジションにある状態において、キャップホルダカム部4Bとカム部13eが当接することにより押し下げられるため、キャップホルダ2Bに取り付けられたキャップ1Bも押し下げられる。その結果、キャップ1Bのキャッピングが解除され、キャップ1Aのみが吐出口面51をキャッピングされる。単独吸引ポジションで不図示のポンプ機構を駆動することでキャップ1Aにキャップされた吐出口面51の吐出口からインクを吸引することが可能となる。
【0029】
図7(b)はキャップ1Aおよびキャップ1Bが吐出口面51および吐出口面52を同時キャッピング可能な位置を示す。同時キャッピング位置でポンプ機構を駆動することでキャップ1Aにキャップされた吐出口面51の吐出口およびキャップ1Bにキャップされた吐出口面52の吐出口からインクを吸引することが可能となる。
【0030】
(記録ヘッド5の詳細説明)
図8は記録ヘッド5Aの概略断面図である。記録ヘッド5Aはプラテン126と対向するプラテン対向面1031を有する。本実施形態において、プラテン対向面1031は吐出口面51を含み、後述するワイピングシーケンスにおいて、ブレードによって払拭される被払拭面である。記録ヘッド5Aの吐出口面51の中心部には吐出口60が複数配置されており、複数の吐出口60によって吐出口列がY方向に形成されている。吐出口面51には60を挟むように段差部として吐出口面側に、第1凹部61、第2凹部62が設けられている。吐出口面51に対して、第1凹部61、第2凹部62は吐出口60からインクを吐出する方向とは逆方向(+Z方向)に凹んでいる。第1凹部61、第2凹部62は記録ヘッド5の製造過程にできるものであり、吐出口60を備えたチップを記録ヘッド5Aに取り付けるために記録ヘッド5Aにはチップよりも大きな凹部が設けられている。そのため、チップを取り付けた際にすき間ができ、これが第1凹部61、第2凹部62である。この第1凹部61、第2凹部62には吸引動作等でインクが侵入する恐れがあるため、小さい方が好ましい。
【0031】
記録ヘッド5Aと同様にプラテン126と対向するプラテン対向面1032を有する。記録ヘッド5Bの吐出口面52も吐出口に対してX方向両側に第1凹部63、第2凹部64を有する。
【0032】
(ワイピングの詳細説明)
図9はワイピングシーケンスのフローチャートである。
図10は
図9のフローを実施している状態を示す図である。本実施形態では、1ページの記録が終了後、前回の吸引やワイピングなどの回復処理終了後から吐出した累計ドット数が閾値以上か否かを判定する。累計ドット数が閾値以上である場合には、次のページの記録を開始する前に本ワイピングシーケンスを行う。また、必ずページ間で行うような形態でもよい。他にも、記録機構部103が記録動作を行った後や、回復機構部104による吸引後や、キャッピングする前、キャッピングオープンした後に本ワイピングシーケンスを実行するようにしてもよい。本シーケンスはROM202に格納されたプログラムに従ってMPU201が各部を制御することによって実行される。
【0033】
まず、ステップS101にて、キャリッジ6を記録ヘッド5A、5Bとブレード8、9の高さを、記録ヘッド5A、5Bのプラテン対向面1031、1032がそれぞれブレード8、9と接触可能な高さになるようにキャリッジ6をZ方向に移動する。キャリッジ6のZ方向への移動は給紙・搬送モータ205とキャリッジモータ204を駆動することによって行われる。給紙・搬送モータ205によって不図示のレバーがキャリッジ6に連結され、連結された状態でキャリッジモータ204を駆動することによってキャリッジ6はZ方向に移動する。また、
図9の処理の開始時のキャリッジ6の高さがすでにブレード8、9と接触可能な高さである場合にはステップS101の処理は行わない。ステップS101により、ブレードによるワイピングによって記録ヘッドの吐出口面のインクが適切に拭き取れるようにする。
【0034】
次に、ステップS102にてキャリッジモータ204を用いて、キャリッジ6を+X方向に移動させ、プラテン対向面1031にブレードが当接し始める位置であるワイピング開始位置に移動する。ワイピング開始位置は、回復機構部104が
図6(a)の状態になった時のキャリッジ6の位置であり、ブレード8よりもプラテン対向面1031が+X方向にある状態である。また、ブレード9よりもプラテン対向面1032が+X方向にある状態である。そしてステップS103において、ワイピング開始位置からキャリッジ6を更に+X方向に移動する。(
図10(a)参照)ブレード8、ブレード9がそれぞれプラテン対向面1031、1032に当接しながら相対的にX方向に移動することでプラテン対向面1031の吐出口面の吐出口面51、プラテン対向面1032の吐出口面52を払拭する。このとき、本実施形態でのブレード8、9のキャリッジ6に対する相対速度は等速とする。ステップS103ではワイピング開始位置から第1凹部61まで等速でワイピングを行う。
【0035】
ブレード8、9が第1凹部61の近傍の位置まで移動すると、ステップS104ではブレード8、9とキャリッジ6との相対移動を0.2秒停止する。これにより、第1凹部61に溜まっているインクはブレードを伝って落ちていき、第1凹部61から除去される。第1凹部61の近傍の位置とは、停止したときにブレード8とブレード9がそれぞれ払拭している記録ヘッドの第1凹部61にたまったインクを引き出せる位置である。好ましくは、第1凹部61内にブレード8,9の先端が入り込むような位置である。
【0036】
その後、ステップS105でブレード8,9をキャリッジ6に対して相対的に等速で移動し、吐出口面51、52を含む残りの部分プラテン対抗面1031、1032を払拭する。
【0037】
最後に、キャリッジ6を所定の高さになるようZ方向に移動する(ステップS106)。たとえば、次の記録動作に適切な高さに移動する。以上のステップにより
図9のワイピングシーケンスが終了する。
【0038】
このように、ブレードとキャリッジの相対移動を一旦停止することにより、第1凹部61に溜まっているインクを除去することにより、ブレードが第1凹部61からインクを引き出して吐出口面に塗布してしまうインクの量を少なくすることができる。
【0039】
上述の例ではステップS104で停止している時間は0.2秒としたがこれに限られない。吐出口面51、52を払拭する際に、第1凹部61から引き出されたインクがブレードのプラテン対抗面1031、1032と接触している部分ではない部分に流れ落ちているような時間であればよい。ただし、好適には0.2秒以上の時間停止している方がよい。
【0040】
また、ステップS103とステップS105では相対速度が等速であるとしたが、これに限られない。プラテン対抗面のインクの除去が行えるような速度の範囲で加速あるいは減速しながら払拭してもよい。
【0041】
(第2の実施形態)
第1の実施形態と同様の部分については省略する。
【0042】
図11は第2の実施形態におけるワイピング動作のシーケンスを示した図である。
図11のフローのステップS201-S203、S205-S207はそれぞれ第1の実施形態の
図9のステップS101-S103、S104-S106と同様の処理を行う。
図11ではステップS204でキャリッジ6の高さを変更することにより、払拭を行う前の吐出口面と垂直な方向(Z方向)におけるブレード8、9の先端の吐出口面と接触する部分と、吐出口面との距離を変更して複数回払拭動作を行う。このようにして、ブレード8、9のキャリッジ6に対する当接圧(拭き圧)を変化させることにより、よりインク除去性能の向上効果を得ることができる。
【0043】
また、第1凹部61の近傍にて、ブレード8、9の一旦停止位置をワイプ方向(X方向)で前後にずらしながら一旦停止ワイピングを行う。これにより、ブレード8、9と記録ヘッド5の当接位置が変わった場合や、各部品の寸法公差や電子制御的な誤差などを含む場合でも、ブレード8、9を第1凹部61があるほぼ正確な位置で一旦停止することができる。そのため、第1凹部61に溜まっているインクを確実に引き出して除去することができる。
【0044】
以上のようなフローでワイピング動作を行うことにより、より確実に第1凹部61からインクを除去することができ、吐出口面にインクを塗布する可能性を減らすことができる。
【0045】
(第3の実施形態)
上述の実施形態と同様の部分については省略する。
【0046】
上述の実施形態では、相対移動を停止したときにブレード8とブレード9がそれぞれ払拭している記録ヘッドの第1凹部61に対応する位置に停止する構成について説明した。本実施形態では、各ブレードが第1凹部61に対応する位置に停止するタイミングが異なり、一度の停止ではどちらか一方の第1凹部の近傍にしかブレードが停止しない場合について説明する。
【0047】
図12に複数ブレードでの一旦停止位置について説明する図を示す。
【0048】
図12(a)に示すように、記録ヘッド5Bの第1凹部61にブレード9が位置するときに、ブレード8は記録ヘッド5Aの第1凹部61に対応する位置には位置しない。また、
図12(b)に示すように、記録ヘッド5Aの第1凹部61にブレード8が位置するときに、ブレード9は記録ヘッド5Bの第1凹部61に対応する位置には位置しない。
【0049】
このような構成の場合には、第2の実施形態で説明したように、複数回停止することで、それぞれの記録ヘッドの第1凹部61からインクを除去することができる。第2の実施形態と異なるのは、各記録ヘッドの第1凹部61とブレードとが対応する位置に位置した場所を停止位置とすることである。
【0050】
これらは、凹部の形成方向がY方向、ブレードの拭き方向がX方向の場合について記載したが、凹部の形成方向がX方向、ブレードの拭き方向がY方向の場合でも第1~3の実施形態は同様の効果を得ることができる。
【0051】
また、上述の実施形態では、プラテン対抗面に対して凹んだ部分にインクが溜まる場合について説明したが、プラテン対抗面に凸な部分がある場合にも、同様に凸部にインクが溜まるため、上述の実施形態に適用することができる。
【0052】
上述の実施形態では、ブレード8、9が停止しており、キャリッジ6が移動することでワイピングを行っているが、ブレード8、9が移動し、キャリッジ6が停止する構成であってもよい。また、ブレード8、9とキャリッジ6の両方が移動する構成であってもよい。
【0053】
また、上述の実施形態では、インクが侵入する段差部が吐出口60に対して主走査方向(X方向)に両側に形成されており、ブレードとキャリッジとが相対的にX方向に移動してワイピングを行う形態であるが、これに限られない。例えば段差部が吐出口60に対して副走査方向(Y方向)に両側に形成されており、ブレードとキャリッジとが相対的にY方向に移動してワイピングを行う形態であってもよい。
【符号の説明】
【0054】
5 記録ヘッド
6 キャリッジ
8、9 ブレード
51、52 吐出口面
60 吐出口
61 第1凹部
62 第2凹部
201 MPU
204 キャリッジモータ
1031 プラテン対向面