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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】水素燃料エンジンの排気浄化システム
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/08 20060101AFI20240112BHJP
   F01N 3/24 20060101ALI20240112BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20240112BHJP
   F01N 3/20 20060101ALI20240112BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20240112BHJP
   F02D 41/32 20060101ALI20240112BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
F01N3/08 B
F01N3/24 C
F01N3/10 Z
F01N3/20 R
F01N3/28 301C
F01N3/28 301A
F02D41/32
B01D53/94 222
B01D53/94 ZAB
B01D53/94 245
B01D53/94 280
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020077250
(22)【出願日】2020-04-24
(65)【公開番号】P2021173212
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武並 進
(72)【発明者】
【氏名】竹本 翔一
(72)【発明者】
【氏名】松井 良彦
(72)【発明者】
【氏名】藤野 友基
【審査官】山本 健晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-167852(JP,A)
【文献】特開2013-096346(JP,A)
【文献】実開昭63-126513(JP,U)
【文献】特開平02-140412(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/08
F01N 3/24
F01N 3/10
F01N 3/20
F01N 3/28
F02D 41/32
B01D 53/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を燃料として用いる水素燃料エンジン(2)の排気管(3)に構成され、
前記排気管内に配置され、窒素酸化物を還元する性質を有するとともに、前記水素燃料エンジンから前記排気管に排気される水素及び窒素酸化物を用いてアンモニアを生成する性質を有する第1触媒(31)と、
前記排気管内における、前記第1触媒よりも排気ガス(G)の流れの下流側の位置に配置され、前記第1触媒から流れ込むアンモニアを吸着する性質を有するとともに、アンモニアを用いて窒素酸化物を還元する性質を有する第2触媒(32)と、
前記水素燃料エンジンにおける、水素の質量に対する燃焼用空気の質量の比である空燃比を調整する空燃比制御部(51)を有するエンジン制御装置(5)と、を備えており、
前記空燃比制御部は、
前記水素燃料エンジンにおける前記空燃比を、前記水素と前記燃焼用空気中の酸素とが過不足なく燃焼する理論空燃比又は前記理論空燃比よりも水素リッチ側の空燃比にして、前記第1触媒において窒素酸化物を還元するとともに前記排気管に排気される水素及び窒素酸化物を用いてアンモニアを生成し、かつ前記第2触媒においてアンモニアを吸着する水素リッチ制御と、
前記水素燃料エンジンにおける前記空燃比を、前記理論空燃比よりも水素リーン側の空燃比にして、前記第1触媒において窒素酸化物を還元するとともに窒素酸化物を通過させ、かつ前記第2触媒に吸着されたアンモニアによって窒素酸化物を還元する水素リーン制御と、を交互に繰り返し行うよう構成されている、水素燃料エンジンの排気浄化システム(1)。
【請求項2】
前記エンジン制御装置は、
前記第2触媒に吸着されたアンモニアの量をアンモニア吸着量として推定するアンモニア検知部(52)を有し、
前記空燃比制御部は、
通常は前記水素リッチ制御を行い、かつ、前記アンモニア検知部による前記アンモニア吸着量が規定の吸着上限量を超えたときに、既定の切換期間中だけ前記水素リーン制御を行うよう構成されている、請求項1に記載の水素燃料エンジンの排気浄化システム。
【請求項3】
前記エンジン制御装置は、
前記第1触媒を通過する窒素酸化物の量を窒素酸化物通過量として推定する窒素酸化物検知部(53)と、前記第2触媒に吸着されたアンモニアの量をアンモニア吸着量として推定するアンモニア検知部(52)とを有し、
前記空燃比制御部は、
通常は前記水素リッチ制御を行い、かつ、前記アンモニア検知部による前記アンモニア吸着量が規定の吸着上限量を超えてから、前記窒素酸化物検知部による前記窒素酸化物通過量が規定の目標通過量になるまでは、前記水素リーン制御を行うよう構成されている、請求項に記載の水素燃料エンジンの排気浄化システム。
【請求項4】
前記エンジン制御装置は、前記第2触媒の温度を推定又は測定する第2温度検知部(42)を有し、
前記空燃比制御部は、
前記第2温度検知部による前記第2触媒の温度が規定の触媒活性温度を超えていることを条件にして、前記水素リッチ制御から前記水素リーン制御に切り換えが可能である、請求項1~3のいずれか1項に記載の水素燃料エンジンの排気浄化システム。
【請求項5】
前記エンジン制御装置は、前記第1触媒の温度を推定又は測定する第1温度検知部(41)を有し、
前記空燃比制御部は、
前記第1触媒の温度が規定温度以上である場合には、前記水素燃料エンジンにおける前記空燃比を、前記第1温度検知部による前記第1触媒の温度が高いほど小さくするよう構成されている、請求項~4のいずれか1項に記載の水素燃料エンジンの排気浄化システム。
【請求項6】
前記第1触媒は、窒素酸化物、炭化水素及び一酸化炭素を浄化可能な三元触媒によって構成されており、
前記第2触媒は、アンモニアによって窒素酸化物を還元する選択還元触媒によって構成されている、請求項~5のいずれか1項に記載の水素燃料エンジンの排気浄化システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素燃料エンジンの排気浄化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
水素を燃料として用いる水素燃料エンジンにおいては、炭化水素を燃料として用いるガソリンエンジンと同様の構造を有するエンジンが利用される。ただし、水素燃料エンジンにおいては、燃料に水素が用いられることにより、水素の燃焼後に生じる排気ガスは、ガソリンエンジンの場合と異なる。また、水素燃料エンジンから排気される排気ガスには、炭化水素(HC)及び一酸化炭素(CO)が含まれない一方、窒素酸化物(NOx)が含まれる。
【0003】
水素燃料エンジンに関するものではないが、特許文献1の内燃機関の制御装置においては、NOxを吸蔵する吸蔵還元型触媒と、アンモニアを吸蔵する選択還元型触媒とを排気管に配置して、排気管から大気へのNOx及びアンモニアの放出量を抑制する工夫がなされている。吸蔵還元型触媒は、内燃機関の空燃比を理論空燃比よりも燃料リーン側にしたときの排気ガスに含まれるNOxを吸蔵し、内燃機関の空燃比を燃料リッチ側にしたときに、吸蔵したNOxを放出して、このNOxをアンモニアに還元する。一方、選択還元型触媒は、排気ガスに含まれるアンモニアを吸蔵するとともに、吸蔵したアンモニアによってNOxを還元する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-237296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の内燃機関の制御装置は、ディーゼルエンジンに用いられるものであり、水素燃料エンジンに用いられるものではない。ディーゼルエンジン等の炭化水素を燃料として用いる場合には、排気ガスに水素が含まれることはない。
【0006】
一方、水素燃料エンジンにおいては、窒素酸化物の排出量を減らすためには、水素燃料エンジンの空燃比を理論空燃比(ストイキ)よりも燃料リッチ側にして、燃焼運転することが考えられる。ただし、この場合には、排気ガスに含まれる水素の量が増加することになる。よって、水素燃料エンジンにおいて、排気ガスに含まれる水素を利用して、窒素酸化物の大気への放出を効果的に抑制するためには、排気管に配置される触媒の用い方に工夫が必要である。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたもので、排気ガスに含まれる水素を利用して、大気へのNOxの放出量を効果的に抑制することができる水素燃料エンジンの排気浄化システムを提供しようとして得られたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、
水素を燃料として用いる水素燃料エンジン(2)の排気管(3)に構成され、
前記排気管内に配置され、窒素酸化物を還元する性質を有するとともに、前記水素燃料エンジンから前記排気管に排気される水素及び窒素酸化物を用いてアンモニアを生成する性質を有する第1触媒(31)と、
前記排気管内における、前記第1触媒よりも排気ガス(G)の流れの下流側の位置に配置され、前記第1触媒から流れ込むアンモニアを吸着する性質を有するとともに、アンモニアを用いて窒素酸化物を還元する性質を有する第2触媒(32)と、
前記水素燃料エンジンにおける、水素の質量に対する燃焼用空気の質量の比である空燃比を調整する空燃比制御部(51)を有するエンジン制御装置(5)と、を備えており、
前記空燃比制御部は、
前記水素燃料エンジンにおける前記空燃比を、前記水素と前記燃焼用空気中の酸素とが過不足なく燃焼する理論空燃比又は前記理論空燃比よりも水素リッチ側の空燃比にして、前記第1触媒において窒素酸化物を還元するとともに前記排気管に排気される水素及び窒素酸化物を用いてアンモニアを生成し、かつ前記第2触媒においてアンモニアを吸着する水素リッチ制御と、
前記水素燃料エンジンにおける前記空燃比を、前記理論空燃比よりも水素リーン側の空燃比にして、前記第1触媒において窒素酸化物を還元するとともに窒素酸化物を通過させ、かつ前記第2触媒に吸着されたアンモニアによって窒素酸化物を還元する水素リーン制御と、を交互に繰り返し行うよう構成されている、水素燃料エンジンの排気浄化システム(1)にある。
【発明の効果】
【0009】
前記一態様の水素燃料エンジンの排気浄化システムにおいては、水素燃料エンジンから排気される水素を利用して、窒素酸化物(以下、NOxという。)を効果的に浄化する工夫をしている。具体的には、水素燃料エンジンから排気ガスが排気される排気管に、NOxを還元する性質を有する第1触媒と、アンモニアを吸着する性質を有する第2触媒とを配置している。
【0010】
そして、第1触媒においては、NOxが分解されて還元されるときに生じる窒素を、水素との反応に用いて、アンモニアを生成することができる。また、第2触媒においては、第1触媒から流れ込むアンモニアを吸着し、このアンモニアを、第1触媒から流れ込むNOxを還元するために用いることができる。
【0011】
そのため、水素燃料エンジンから排気管へ、水素が排気されるタイミングとNOxが排気されるタイミングとを適切にコントロールすることにより、水素を利用して、大気へのNOxの放出量を効果的に抑制することができる。
【0012】
それ故、前記一態様の水素燃料エンジンの排気浄化システムによれば、排気ガスに含まれる水素を利用して、大気へのNOxの放出量を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施形態1にかかる、排気浄化システムの構成を示す説明図である。
図2図2は、実施形態1にかかる、水素燃料エンジンにおける空燃比が理論空燃比にあるときの、第1触媒の温度と、第1触媒から流出するアンモニアの量との関係を示すグラフである。
図3図3は、実施形態1にかかる、排気浄化システムの制御方法を示すフローチャートである。
図4図4は、実施形態1にかかる、(a)水素燃料エンジンにおける空燃比の変化、(b)第1触媒におけるNOx浄化率の変化、(c)第1触媒の、排気ガスの流れの下流側におけるNOx量の変化、(d)第2触媒におけるアンモニア吸着量の変化、(e)第2触媒の、排気ガスの流れの下流側におけるNOx量の変化を示すグラフである。
図5図5は、実施形態1にかかる、第1触媒の温度が400℃である場合について、水素燃料エンジンにおける空燃比と、第1触媒の、排気ガスの流れの下流側におけるアンモニア、NOx及びN2Oの各濃度との関係を示すグラフ。
図6図6は、実施形態2にかかる、排気浄化システムの構成を示す説明図である。
図7図7は、実施形態2にかかる、排気浄化システムの制御方法を示すフローチャートである。
図8図8は、実施形態2にかかる、第1触媒の温度が500℃である場合について、水素燃料エンジンにおける空燃比と、第1触媒の、排気ガスの流れの下流側におけるアンモニア、NOx及びN2Oの各濃度との関係を示すグラフ。
図9図9は、実施形態2にかかる、第1触媒の温度が600℃である場合について、水素燃料エンジンにおける空燃比と、第1触媒の、排気ガスの流れの下流側におけるアンモニア、NOx及びN2Oの各濃度との関係を示すグラフ。
図10図10は、実施形態3にかかる、排気浄化システムの制御方法のメインルーチンを示すフローチャートである。
図11図11は、実施形態3にかかる、排気浄化システムの制御方法の空燃比調整ルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
前述した水素燃料エンジンの排気浄化システムにかかる好ましい実施形態について、図面を参照して説明する。
<実施形態1>
本形態の水素燃料エンジン2の排気浄化システム1は、図1に示すように、水素を燃料として用いる水素燃料エンジン2の排気管3に構成されている。排気浄化システム1は、排気管3内に配置された第1触媒31と、排気管3内における、第1触媒31よりも排気ガスGの流れの下流側の位置に配置された第2触媒32とを備える。第1触媒31は、窒素酸化物(以下、NOxという。)を還元する性質を有するとともに、水素燃料エンジン2から排気管3に排気される水素(H2)及びNOxを用いてアンモニア(NH3)を生成する性質を有する。第2触媒32は、第1触媒31から流れ込むアンモニアを吸着する性質を有するとともに、アンモニアを用いてNOxを還元する性質を有する。
【0015】
以下に、本形態の水素燃料エンジン2の排気浄化システム1について詳説する。
(排気浄化システム1)
図1に示すように、排気浄化システム1は、水素燃料エンジン2から排気される排気ガスGに含まれるNOxの浄化を、2つの触媒31,32を用いた極めて簡単な構成によって行うものである。水素燃料エンジン2は、自動車に搭載されており、水素自動車を構成する。排気浄化システム1は、水素自動車の水素燃料エンジン2から排気される排気ガスGを浄化する。
【0016】
(水素燃料エンジン2)
本形態の水素燃料エンジン2は、レシプロエンジン等の内燃機関を構成する。レシプロエンジンは、水素を燃料として燃焼させたときの熱エネルギーをピストンの往復運動に変換するとともに、往復運動を回転運動に変換して力学的エネルギーを取り出すものである。水素燃料エンジン2の燃焼室には、水素と燃焼用空気との混合気が吸気管から吸気され、燃焼室において混合気が圧縮され、燃焼膨張した後に、燃焼後の排気ガスGが排気管3に排気される。なお、燃焼室には、燃焼用空気が吸気され、水素は燃焼室において直接噴射されてもよい。
【0017】
水素燃料エンジン2においては、燃料としての水素の質量Fに対する燃焼用空気の質量Aの比を示す空燃比(A/F)が制御される。水素燃料エンジン2における空燃比が、理論空燃比に比べて水素の比率が高い水素リッチ側の空燃比にあるときには、排気ガスG中には水素がより多く含まれる。水素燃料エンジン2における空燃比が、理論空燃比に比べて燃焼用空気の比率が高い水素リーン側の空燃比にあるときには、排気ガスG中にはNOxがより多く含まれる。理論空燃比とは、燃料としての水素と燃焼用空気中の酸素とが過不足なく完全燃焼するときの空燃比のことをいう。
【0018】
(第1触媒31)
図1に示すように、本形態の第1触媒31は、窒素酸化物(NOx)、炭化水素(HC)及び一酸化炭素(CO)を浄化可能な三元触媒によって構成されている。三元触媒は、セラミックス等からなる、ハニカム構造等の多孔質の触媒担体に、プラチナ、パラジウム、ロジウム等の触媒が担持されたものである。三元触媒においては、NOxが窒素に還元され、炭化水素が水と二酸化炭素に酸化され、一酸化炭素が二酸化炭素に酸化される。
【0019】
水素燃料エンジン2においては、水素を燃焼としているために、排気ガスG中に炭化水素及び一酸化炭素は含まれない。一方、排気ガスG中には、水素(及びNOx)が含まれる。第1触媒31においては、排気ガスG中の水素及びNOxが流入し、NOxが窒素に分解されるときに、水素と窒素との反応によりアンモニアが生成される。また、水素と酸素との反応により、水が生成される。
【0020】
図2は、水素燃料エンジン2における空燃比が理論空燃比にあるときに、第1触媒31において生成されるアンモニアの量、換言すれば、第1触媒31の、排気ガスGの流れの下流側に流出するアンモニアの量を示す。図2に示すように、第1触媒31におけるアンモニアの生成量は、第1触媒31の温度に依存し、第1触媒31の温度が200℃付近にあるときに最大となる。そして、第1触媒31の温度が200℃を超えて高くなるほど、第1触媒31におけるアンモニアの生成量が少なくなる。
【0021】
(第1温度検知部41)
図1に示すように、エンジン制御装置5は、第1触媒31の温度を推定又は測定する第1温度検知部41を有する。第1温度検知部41は、排気管3における、第1触媒31の上流側の位置に配置された温度センサによって測定された温度から、第1触媒31の温度を推定するよう構成されている。第1温度検知部41によって第1触媒31の温度を検知することにより、第1触媒31において生成されたアンモニアの量を推定することができる。第1温度検知部41は、第1触媒31の温度を測定する構成としてもよい。なお、図1においては、分かりやすくするために、第1触媒31に第1温度検知部41が配置された状態を示す。
【0022】
(第2触媒32)
図1に示すように、本形態の第2触媒32は、アンモニアによってNOxを還元する選択還元触媒によって構成されている。選択還元触媒は、セラミックス、酸化チタン等の多孔質の触媒担体に、Cuゼオライト、Feゼオライト等の触媒が担持されたものである。この触媒には、還元剤としてアンモニアが吸着される。選択還元触媒においては、アンモニアを還元剤としてNOxが窒素と水に転換される。
【0023】
第1触媒31において生成されたアンモニアは、第2触媒32へ流入し、第2触媒32に吸着される。そして、第2触媒32に吸着したアンモニアは、NOxを還元するために用いられる。
【0024】
(第2温度検知部42)
図1に示すように、エンジン制御装置5は、第2触媒32の温度を推定又は測定する第2温度検知部42を有する。第2温度検知部42は、排気管3における、第2触媒32の上流側の位置に配置された温度センサによって測定された温度から、第2触媒32の温度を推定するよう構成されている。第2温度検知部42によって第2触媒32の温度を検知することにより、第2触媒32がアンモニアを還元剤としてNOxを浄化(還元)する活性温度になったときに、第1触媒31から第2触媒32にNOxが流入するようにすることができる。第2温度検知部42は、第2触媒32の温度を測定する構成としてもよい。なお、図1においては、分かりやすくするために、第2触媒32に第2温度検知部42が配置された状態を示す。
【0025】
(エンジン制御装置5)
図1に示すように、排気浄化システム1は、水素燃料エンジン2における燃焼動作を制御するエンジン制御装置5を備える。エンジン制御装置5は、エンジンコントロールユニット(ECU)とも呼ばれ、水素自動車に搭載されたものである。エンジン制御装置5は、空燃比を調整するために、水素燃料エンジン2の燃焼室に吸気する燃焼用空気の質量と、水素噴射装置から噴射される水素の質量との少なくとも一方を適宜調整する。燃焼室には、水素が直接噴射されてもよく、水素と燃焼用空気との混合気が供給されてもよい。
【0026】
(空燃比制御部51)
エンジン制御装置5は、水素燃料エンジン2における空燃比を調整する空燃比制御部51を有する。空燃比制御部51は、水素リッチ制御と水素リーン制御とを交互に繰り返し行うよう構成されている。この構成により、還元剤供給装置等の特別な装置を用いることなく、第1触媒31において生成されるアンモニアを、第2触媒32において有効に活用してNOxを浄化することができる。
【0027】
空燃比制御部51は、水素リッチ制御を行うときには、水素燃料エンジン2における空燃比を、理論空燃比又は理論空燃比よりも水素リッチ側の空燃比にする。そして、水素リッチ制御が行われるときには、第1触媒31においてNOxが還元されるとともに、水素燃料エンジン2から排気管3に排気される水素及びNOxが用いられてアンモニアが生成され、かつ第2触媒32において、第1触媒31から流出するアンモニアが吸着される。
【0028】
水素燃料エンジン2における空燃比が水素リッチ側になるほど、排気ガスGに含まれるNOxが減少する一方、排気ガスGに含まれる水素の量が増加し、第1触媒31において水素を用いて生成されるアンモニアの量が増加する。そのため、空燃比制御部51は、第1触媒31におけるアンモニアの生成量を増加させる場合には、水素燃料エンジン2における空燃比をより水素リッチ側にする。
【0029】
空燃比制御部51が水素リーン制御を行うときには、水素燃料エンジン2における空燃比を、理論空燃比よりも水素リーン側の空燃比にする。そして、水素リーン制御が行われるときには、第1触媒31においてNOxが浄化(還元)されるとともに浄化されなかったNOxが第1触媒31を通過する。そして、第1触媒31を通過して第2触媒32に流入するNOxは、第2触媒32に吸着されたアンモニアによって浄化(還元)される。
【0030】
水素燃料エンジン2における空燃比が水素リーン側になるほど、第1触媒31におけるアンモニアの生成量が減少する一方、排気ガスGに含まれるNOxの量が増加し、第1触媒31においてNOxを浄化しきれず、第1触媒31から第2触媒32へNOxが流出する。第1触媒31におけるアンモニアの生成量を減少させる場合には、水素燃料エンジン2における空燃比をより水素リーン側にする。
【0031】
空燃比制御部51によって水素リッチ制御が行われるときには、水素燃料エンジン2から排気管3に排気される排気ガスGに含まれるNOxの量はそれほど多くなく、このNOxは、第1触媒31において分解されて浄化される。また、第1触媒31から第2触媒32に流入して、第2触媒32に吸着されるアンモニアは徐々に増加し、いずれは飽和状態になる。そして、本形態の空燃比制御部51は、第2触媒32におけるアンモニアの吸着量が飽和状態になる前に、水素リッチ制御から水素リーン制御に切り換える。
【0032】
(空燃比センサ43)
図1に示すように、排気管3には、排気管3を流れる排気ガスGに含まれる酸素及び水素の量を電流によって検出して水素燃料エンジン2における空燃比を求める空燃比センサ43が配置されている。本形態の空燃比センサ43は、排気管3における、第1触媒31よりも排気ガスGの流れの上流側の位置に配置されている。空燃比制御部51は、空燃比センサ43による空燃比が目標空燃比になるよう、水素と燃焼用空気との比率を調整するよう構成されている。
【0033】
(アンモニア検知部52)
図1に示すように、本形態のエンジン制御装置5は、第2触媒32に吸着されたアンモニアの量をアンモニア吸着量として推定するアンモニア検知部52を有する。第2触媒32におけるアンモニアの吸着量は、第1触媒31から第2触媒32に流入するアンモニアの量に依存する。そして、アンモニア検知部52は、第1温度検知部41による第1触媒31の温度、水素リッチ制御が行われた時間、空燃比の値(理論空燃比から水素リッチ側へのシフトの度合)等に基づいてアンモニア吸着量を推定する。また、アンモニア検知部52は、第1触媒31の温度の変化の経歴等に基づいてアンモニア吸着量を推定してもよい。
【0034】
本形態の空燃比制御部51は、通常は水素リッチ制御を行うよう構成されている。そして、水素リッチ制御を行うことにより、排気ガスGに含まれるNOxの量を減らし、NOxが大気に放出されないようにする。一方、空燃比制御部51は、アンモニア検知部52によるアンモニア吸着量が規定の吸着上限量を超えたときに、水素リッチ制御を水素リーン制御に切り換え、既定の切換期間中だけ水素リーン制御を行うよう構成されている。エンジン制御装置5においては、吸着上限量が、第2触媒32におけるアンモニアの吸着容量を超えないように定められている。
【0035】
これにより、空燃比制御部51は、アンモニア検知部52を利用し、第2触媒32に吸着されたアンモニアの量が第2触媒32における吸着容量(吸着飽和量)になる前に、水素リッチ制御を水素リーン制御に切り換えることができる。水素リーン制御は決められた期間のみ行うことにより、排気浄化システム1の構成を簡単にすることができる。
【0036】
また、空燃比制御部51は、第2温度検知部42による第2触媒32の温度が規定の触媒活性温度を超えていることを条件にして、水素リッチ制御から水素リーン制御に切り換えが可能である。水素リーン制御においては、第1触媒31から第2触媒32へNOxが流出することを想定している。そして、空燃比制御部51は、第2触媒32がNOxを還元する能力を有する温度になっていることを条件にして水素リーン制御を行う。触媒活性温度は、第2触媒32に吸着されたアンモニアによるNOxの還元が可能となる温度として定められる。触媒活性温度は、200℃程度とすることができる。
【0037】
(排気浄化システム1の制御方法)
次に、排気浄化システム1の制御方法について、図3のフローチャートを参照して説明する。
本形態の排気浄化システム1は、エンジン制御装置5の空燃比制御部51による水素燃料エンジン2の燃焼運転が行われる際に利用される。空燃比制御部51は、通常時として、水素燃料エンジン2における目標空燃比を水素リッチ側の空燃比にして、水素リッチ制御を開始する(図3のステップS101)。水素リッチ制御が行われるとき、水素燃料エンジン2から排気管3の第1触媒31に排気される排気ガスGには、NOxがあまり含まれない一方、水素が多く含まれる。そして、第1触媒31においては、水素を用いてアンモニアが生成され、生成されたアンモニアは第2触媒32に流入して第2触媒32に吸着される。
【0038】
次いで、空燃比制御部51は、第2温度検知部42によって第2触媒32の温度を検知する(ステップS102)。そして、空燃比制御部51は、第2温度検知部42による第2触媒32の温度が触媒活性温度を超えているか否かを判定する(ステップS103)。第2温度検知部42による第2触媒32の温度が触媒活性温度以下である場合には、この温度が触媒活性温度を超えるまで待機する。
【0039】
次いで、第2温度検知部42による第2触媒32の温度が触媒活性温度を超えている場合には(ステップS103)、空燃比制御部51は、第1温度検知部41によって第1触媒31の温度を検知する(ステップS104)。そして、アンモニア検知部52は、第1温度検知部41による第1触媒31の温度、水素リッチ制御が行われた時間、空燃比の値等に基づいて、第2触媒32におけるアンモニア吸着量を推定する(ステップS105)。次いで、空燃比制御部51は、このアンモニア吸着量が吸着上限量を超えるまで水素リッチ制御を実行する(ステップS106)。
【0040】
次いで、アンモニア吸着量が吸着上限量を超えた場合には、空燃比制御部51は、水素リッチ制御を水素リーン制御に切り換え、水素燃料エンジン2における目標空燃比を水素リーン側の一定の空燃比にして、既定の切換期間中だけ水素リーン制御を実行する(ステップS107)。水素リーン制御が行われるとき、水素燃料エンジン2から排気管3の第1触媒31に排気される排気ガスGには、水素がほとんど含まれない一方、NOxが多く含まれる。排気ガスGに含まれるNOxは、第1触媒31において一部が浄化されるものの、第1触媒31における浄化能力を超えた量のNOxが第1触媒31から第2触媒32へ流出する。そして、第2触媒32においては、第2触媒32に吸着されたアンモニアを還元剤として、第1触媒31から流入するNOxが浄化(還元)される。
【0041】
また、アンモニア検知部52は、水素リーン制御が行われるときに、アンモニア吸着量をゼロにリセットする。また、空燃比制御部51は、水素リーン制御に切り換わった時からの時間の経過を測定し、この時間の経過が規定の切換時間になるまで水素リーン制御を実行する(ステップS108)。既定の切換時間が経過した時には、空燃比制御部51は、水素リーン制御を水素リッチ制御に切り換える(ステップS101)。
【0042】
その後、空燃比制御部51によって水素リッチ制御と水素リーン制御とが繰り返される。また、排気浄化システム1における水素リッチ制御及び水素リーン制御は、水素燃料エンジン2の燃焼停止等の適宜条件を受けて停止される。
【0043】
(NOx、アンモニアの量の変化)
図4(a)~(e)には、水素リッチ制御及び水素リーン制御が繰り返される際の、第1触媒31、第2触媒32等におけるNOx量、アンモニア量等の時間的変化を示す。
【0044】
図4(a)においては、水素燃料エンジン2における空燃比が、水素リッチ側と水素リーン側とに交互に切り換わる状態を示す。図4(b)においては、第1触媒31におけるNOxの浄化率が、水素リッチ制御が行われるときにはほぼ100%であることに対し、水素リーン制御が行われるときには大幅に低下することを示す。NOxの浄化率が低下するときには、第1触媒31の、排気ガスGの流れの下流側へNOxが流出する。
【0045】
図4(c)においては、水素リーン制御が行われるときに、NOxの浄化率の低下を受けて、排気管3における、第1触媒31の下流側に存在するNOxの量が大幅に増加することを示す。この第1触媒31の下流側に存在するNOxは、排気管3を経由して第2触媒32へと流入する。
【0046】
図4(d)においては、第2触媒32におけるアンモニアの吸着量が、水素リッチ制御が行われるときに緩やかに増加し、水素リーン制御が行われるときに急激に減少することを示す。水素リーン制御が行われるときには、第2触媒32に吸着されたアンモニアが還元剤としてNOxの浄化に使用され、第2触媒32におけるアンモニアの吸着量が減少する。
【0047】
図4(e)においては、水素リッチ制御と水素リーン制御とが交互に繰り返されることにより、第2触媒32の、排気ガスGの流れの下流側にはNOxが流出しないことを示す。これにより、排気管3から大気へNOxが放出されない。また、第1触媒31において生成されるアンモニアは、第2触媒32においてNOxの浄化に使用されることにより、排気管3から大気へ放出されない。
【0048】
(NOxとアンモニアの関係)
図5においては、水素燃料エンジン2における空燃比が変化したときに、第1触媒31から流出するアンモニア、NOx及びN2O(亜酸化窒素)の各濃度[ppm]がどれだけ変化するかを示す。各濃度は、排気管3における、第1触媒31と第2触媒32との間の位置における値として示す。アンモニアの濃度は、第1触媒31において生成されるアンモニアの量を示し、NOxの濃度及びN2Oの濃度は、第1触媒31において浄化されずに第1触媒31を通過するNOxの量及びN2Oの量を示す。なお、水素燃料エンジン2から排気管3には2000[ppm]の濃度のNOxが排出される場合を想定した。
【0049】
空燃比が水素リッチ側になるほど第1触媒31において生成されるアンモニアの量は増加する。一方、空燃比が水素リーン側になるほど第1触媒31から流出するNOxの量及びN2Oの量は増加する。つまり、第1触媒31において生成されるアンモニアの量と、第1触媒31から流出するNOxの量及びN2Oの量とはトレードオフの関係にある。
【0050】
(作用効果)
本形態の水素燃料エンジン2の排気浄化システム1においては、水素燃料エンジン2から排気される水素を利用して、NOxを効果的に浄化する工夫をしている。具体的には、水素燃料エンジン2から排気ガスGが排気される排気管3に、NOxを還元する性質を有する第1触媒31と、アンモニアを吸着する性質を有する第2触媒32とを配置している。
【0051】
そして、水素リッチ制御が行われるときに、第1触媒31においては、NOxが分解されて還元されるときに生じる窒素を、水素との反応に用いて、アンモニアを生成することができる。また、第2触媒32においては、水素リッチ制御が行われるときに、第1触媒31から流れ込むアンモニアを吸着し、水素リーン制御が行われるときに、吸着されたアンモニアを、第1触媒31から流れ込むNOxを還元するために用いることができる。
【0052】
そのため、エンジン制御装置5の空燃比制御部51によって、水素燃料エンジン2から排気管3へ、水素が排気されるタイミングとNOxが排気されるタイミングとを適切にコントロールすることにより、水素を利用して、大気へのNOxの放出量を効果的に抑制することができる。
【0053】
また、排気浄化システムにおいては、第1触媒31及び第2触媒32以外に、還元剤を生成する装置等を用いる必要がない。そして、エンジン制御装置5の空燃比制御部51による水素リッチ制御と水素リーン制御との切り換えにより、NOx及びアンモニアを浄化して、これらが大気に放出されないようにすることができる。
【0054】
それ故、本形態の水素燃料エンジン2の排気浄化システム1によれば、排気ガスGに含まれる水素を利用して、大気へNOx及びアンモニアが放出されないようにすることができる。
【0055】
<実施形態2>
本形態は、第1触媒31を通過するNOxの量を推定し、水素リーン制御から水素リッチ制御に切り換えるタイミングを適切にする場合について示す。
本形態のエンジン制御装置5は、図6に示すように、実施形態1に示す空燃比制御部51及びアンモニア検知部52の他に、第1触媒31を通過するNOxの量を窒素酸化物通過量(以下、NOx通過量という。)として推定する窒素酸化物検知部53(以下、NOx検知部53という。)を有する。
【0056】
(NOx検知部53)
本形態のNOx検知部53は、排気管3における、第1触媒31と第2触媒32との間の位置に配置されたNOxセンサ(窒素酸化物センサ)44を利用して、第1触媒31から流出するNOxの量をNOx通過量として推定する。NOx検知部53によって推定されるNOx通過量は、第2触媒32に吸着されたアンモニアによって還元されるNOxの量と同じであるとする。そして、第2触媒32に吸着されたアンモニアの減少量は、NOx通過量に比例する。このことに基づき、エンジン制御装置5においては、第2触媒32におけるアンモニアの吸着量が吸着上限量からゼロになるまでの、第1触媒31におけるNOx通過量が、規定の目標通過量として定められている。
【0057】
図示は省略するが、エンジン制御装置5は、排気管3を流れる排気ガスGの流量を推定する流量推定部を有する。排気ガスGの流量は、水素燃料エンジン2の吸気管における燃焼用空気の流量、及び燃料噴射装置からの水素の噴射量に基づいて推定される。また、流量推定部の代わりに、排気管3を流れる排気ガスGの流量を測定する流量計を用いて、排気ガスGの流量を検知してもよい。NOx検知部53によるNOx通過量は、NOxセンサ44によるNOxの濃度及び排気ガスGの流量の時間的変化に基づいて求められる。
【0058】
NOx検知部53は、NOxセンサ44を利用せずに、水素燃料エンジン2における空燃比の変化、及び第1触媒31におけるNOxの還元能力を利用して、NOx通過量を推定することもできる。より具体的には、NOx検知部53は、空燃比が水素リーン側になるほどNOxが多く発生し、第1触媒31から流出するNOxが多くなることを指標にし、推定されるNOxの流出量を積算して、NOx通過量を求めることもできる。
【0059】
本形態の空燃比制御部51は、通常は水素リッチ制御を行い、かつ、実施形態1に示すアンモニア検知部52によるアンモニア吸着量が規定の吸着上限量を超えてから、NOx検知部53によるNOx通過量が規定の目標通過量を超えるまでは、水素リーン制御を行うよう構成されている。NOx検知部53を用いることにより、空燃比制御部51は、第2触媒32に吸着されたアンモニアが吸着上限量の付近からほとんどなくなる時点まで、水素リーン制御を行うことができる。
【0060】
(排気浄化システム1の制御方法)
本形態の排気浄化システム1の制御方法について、図7のフローチャートを参照して説明する。本形態の排気浄化システム1においても、空燃比制御部51は、通常時として、水素燃料エンジン2における空燃比を水素リッチ側にして、水素リッチ制御を開始する(図7のステップS201)。そして、実施形態1のステップS102~S106と同様に、ステップS201~S206が行われる。
【0061】
ステップS206において、アンモニア検知部52による第2触媒32のアンモニア吸着量が吸着上限量を超えた場合には、空燃比制御部51は、水素リッチ制御を水素リーン制御に切り換え、水素燃料エンジン2における目標空燃比を水素リーン側の一定の空燃比にして水素リーン制御を実行する(ステップS207)。また、アンモニア検知部52は、水素リーン制御が行われるときに、アンモニア吸着量をゼロにリセットする。次いで、NOx検知部53は、NOxセンサ44による第1触媒31の下流側のNOxの濃度、及び排気ガスGの流量に基づいて、水素リッチ制御から水素リーン制御に切り換わった時点からの、第1触媒31におけるNOx通過量を検知する(ステップS208)。
【0062】
そして、空燃比制御部51は、NOx検知部53によるNOx通過量が規定の目標通過量になるまで水素リーン制御を実行する(ステップS209)。NOx通過量が目標通過量になった時には、空燃比制御部51は、水素リーン制御を水素リッチ制御に切り換える(ステップS201)。
【0063】
その後、空燃比制御部51によって水素リッチ制御と水素リーン制御とが繰り返される。また、排気浄化システム1における水素リッチ制御及び水素リーン制御は、水素燃料エンジン2の燃焼停止等の適宜条件を受けて停止される。
【0064】
本形態の排気浄化システム1においては、空燃比制御部51は、第2触媒32に吸着されたアンモニアがなくなるときには、迅速に水素リーン制御から水素リッチ制御に戻すことができる。そのため、水素リッチ制御と水素リーン制御とに切り換えるタイミングをより適切にすることができる。
【0065】
本形態の排気浄化システム1における、その他の構成、作用効果等については、実施形態1の構成、作用効果等と同様である。また、本形態においても、実施形態1に示した符号と同一の符号が示す構成要素は、実施形態1の構成要素と同様である。
【0066】
<実施形態3>
本形態は、水素燃料エンジン2における空燃比を第1触媒31の温度に応じて適宜変更する場合について示す。
第1触媒31において生成されるアンモニアの量、及び第1触媒31から流出するNOxの量及びN2Oの量は、第1触媒31の温度が400℃以上の高温になると、第1触媒31の温度に依存して変化することが分かっている。
【0067】
図5には、第1触媒31の温度が400℃である場合の、第1触媒31から流出するアンモニア、NOx及びN2Oの各濃度[ppm]について示した。この場合には、水素燃料エンジン2における燃焼用空気(酸素)の割合が理論空燃比の付近にあるときに、アンモニアの濃度とNOxの濃度とがほとんど同じになる。このアンモニアの濃度とNOxの濃度とがほとんど同じになるときの空燃比をバランス点とする。
【0068】
図8には、第1触媒31の温度が500℃である場合の、第1触媒31から流出するアンモニア、NOx及びN2Oの各濃度[ppm]について示す。この場合には、アンモニアの生成量が400℃の場合に比べて減少する一方、NOxの濃度が400℃の場合に比べて増加している。そして、バランス点が理論空燃比よりも水素リッチ側に若干シフトしている。
【0069】
図9には、第1触媒31の温度が600℃である場合の、第1触媒31から流出するアンモニア、NOx及びN2Oの各濃度[ppm]について示す。この場合には、アンモニアの生成量が500℃の場合に比べてさらに減少する一方、NOxの濃度が500℃の場合に比べてさらに増加している。そして、バランス点が理論空燃比よりも水素リッチ側に大きくシフトしている。
【0070】
図5図8及び図9の第1触媒31の温度とバランス点との関係より、第1触媒31の温度が400℃以上の場合には、第1触媒31の温度が高くなるほど、水素燃料エンジン2における空燃比をより水素リッチ側にすれば、第1触媒31から流出するNOxの量を抑制しつつ、適切にアンモニアが生成される状態を形成できることが分かる。
【0071】
本形態のエンジン制御装置5は、実施形態1に示される、第1触媒31における温度を検知する第1温度検知部41を有する。そして、本形態の空燃比制御部51は、第1触媒31の温度が規定温度としての400℃以上に高い場合には、水素燃料エンジン2における目標空燃比を、第1温度検知部41による第1触媒31の温度が高いほど、小さくする(水素リッチ側にする)よう構成されている。そして、水素燃料エンジン2における空燃比が目標空燃比となるように変更される。なお、規定温度は、400℃以外の温度としてもよい。
【0072】
空燃比制御部51は、第1触媒31の温度が400℃未満の場合に水素リッチ制御を行うときには、目標空燃比を水素リッチ側の一定の空燃比にする。また、空燃比制御部51は、第1触媒31の温度が400℃以上の場合に水素リッチ制御を行うときには、目標空燃比を、第1触媒31の温度が高くなるほど理論空燃比から遠くなるようにする。
【0073】
空燃比制御部51は、第1触媒31の温度が400℃未満の場合に水素リーン制御を行うときには、目標空燃比を一定の水素リーン側の空燃比にする。また、空燃比制御部51は、第1触媒31の温度が400℃以上の場合に水素リーン制御を行うときには、目標空燃比を、第1触媒31の温度が高くなるほど理論空燃比に近くなるようにする。
【0074】
(排気浄化システム1の制御方法)
本形態の排気浄化システム1の制御方法について、図10及び図11のフローチャートを参照して説明する。図10は、制御のメインルーチンを示し、図11は、制御のサブルーチンとしての空燃比調整ルーチンを示す。本形態の排気浄化システム1においても、空燃比制御部51は、通常時として、水素燃料エンジン2における目標空燃比を水素リッチ側の一定の空燃比にして、水素リッチ制御を開始する(図10のステップS301)。次いで、空燃比制御部51は、空燃比調整ルーチンを実行する(ステップS302)。
【0075】
空燃比調整ルーチンにおいては、空燃比制御部51は、第1温度検知部41によって第1触媒31の温度を検知する(図11のステップS401)。次いで、空燃比制御部51は、第1触媒31の温度が400℃以上であるか否かを判定する(ステップS402)。第1触媒31の温度が400℃以上である場合には、空燃比制御部51は、第1触媒31の温度が高いほど水素燃料エンジン2における目標空燃比が水素リッチ側に深くなるようにする(ステップS403)。第1触媒31の温度が400℃以上でない場合には、空燃比制御部51は、目標空燃比を水素リッチ側の一定の空燃比に維持する。
【0076】
次いで、実施形態1のステップS102~S106と同様に、ステップS303~S307が行われる。そして、空燃比制御部51は、アンモニア吸着量が吸着上限量を超えるまで水素リッチ制御を実行する(ステップS307)。次いで、アンモニア吸着量が吸着上限量を超えた場合には、空燃比制御部51は、水素リッチ制御を水素リーン制御に切り換え、水素燃料エンジン2における目標空燃比を水素リーン側の一定の空燃比にして、既定の切換期間中だけ水素リーン制御を実行する(ステップS308)。アンモニア検知部52は、水素リーン制御が行われるときに、アンモニア吸着量をゼロにリセットする。次いで、空燃比制御部51は、空燃比調整ルーチンを実行する(ステップS309)。
【0077】
空燃比調整ルーチンにおいては、空燃比制御部51は、ステップS401~S403を実行する。ステップS403においては、第1触媒31の温度が400℃以上である場合に、空燃比制御部51は、第1触媒31の温度が高いほど水素燃料エンジン2における目標空燃比を、水素リーン側であって理論空燃比に近い空燃比になるようにする(ステップS403)。また、第1触媒31の温度が400℃以上でない場合には、空燃比制御部51は、目標空燃比を水素リーン側の一定の空燃比に維持する。また、実施形態1のステップS108と同様に、ステップS310が実行され、水素リーン制御が水素リッチ制御に切り換えられる(ステップS301)。その後、空燃比制御部51によって水素リッチ制御と水素リーン制御とが繰り返される。
【0078】
本形態においては、第1触媒31の温度が規定温度としての400℃以上である場合には、第1触媒31から流出するアンモニアの量とNOxの量とのバランスがよくなるよう水素燃料エンジン2における空燃比を調整する。これにより、第1触媒31の下流側にアンモニア及びNOxがバランスよく存在するようにし、第1触媒31及び第2触媒32を用いたNOxの浄化をより効果的に行うことができる。
【0079】
本形態の排気浄化システム1においても、実施形態2と同様の構成を採用することができる。本形態の排気浄化システム1における、その他の構成、作用効果等については、実施形態1,2の構成、作用効果等と同様である。また、本形態においても、実施形態1,2に示した符号と同一の符号が示す構成要素は、実施形態1の構成要素と同様である。
【0080】
本発明は、各実施形態のみに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲においてさらに異なる実施形態を構成することが可能である。また、本発明は、様々な変形例、均等範囲内の変形例等を含む。さらに、本発明から想定される様々な構成要素の組み合わせ、形態等も本発明の技術思想に含まれる。
【符号の説明】
【0081】
1 排気浄化システム
2 水素燃料エンジン
3 排気管
31 第1触媒
32 第2触媒
41 第1温度検知部
42 第2温度検知部
5 エンジン制御装置
51 空燃比制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11