(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】リアクトル
(51)【国際特許分類】
H01F 37/00 20060101AFI20240112BHJP
【FI】
H01F37/00 J
H01F37/00 M
H01F37/00 A
H01F37/00 S
(21)【出願番号】P 2019169082
(22)【出願日】2019-09-18
【審査請求日】2022-08-29
(73)【特許権者】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 浩太郎
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/021113(WO,A1)
【文献】特開2010-219251(JP,A)
【文献】国際公開第2013/001591(WO,A1)
【文献】特開2016-178174(JP,A)
【文献】特開2015-153957(JP,A)
【文献】特開2017-175083(JP,A)
【文献】特開2020-021854(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアと、
前記コアを被覆する第1の樹脂部材と、
前記第1の樹脂部材を被覆するとともに、リアクトルを構成する部材を被覆し一体に成形させる第2の樹脂部材と、
を備え、
前記第1の樹脂部材の熱伝導性は、前記第2の樹脂部材の熱伝導性よりも高
く、
前記第1の樹脂部材は、前記コアのみを被覆していること、
を特徴とするリアクトル。
【請求項2】
前記第1の樹脂部材に被覆された前記コアに装着されたコイルを更に備え、
前記第2の樹脂部材は、前記コイルを被覆し、
前記コイルの底面は、前記第2の樹脂部材から露出していること、
を特徴とする請求項
1に記載のリアクトル。
【請求項3】
前記第1の樹脂部材及び前記第2の樹脂部材は、熱伝導性フィラーを含み構成され、
前記第1の樹脂部材のフィラーの含有量は、前記第2の樹脂部材よりも多いこと、
を特徴とする請求項1
又は2に記載のリアクトル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二重モールド構造のリアクトルに関する。
【背景技術】
【0002】
リアクトルは、ハイブリッド自動車、電気自動車や燃料電池車の駆動システム等をはじめ、種々の用途で使用されている。例えば、車載用の昇圧回路に用いられるリアクトルとして、環状コアの周囲を樹脂によるモールド成型等によって被覆し、その外周にコイルを巻回したものが知られている。コイルは外部機器と電気的に接続しており、コイルに電流が流れることによりリアクトルが発熱する。リアクトルに発生した熱は、リアクトルの外部に放出する必要がある。
【0003】
この種のリアクトルにおいては、ケースを使用しない二重モールド構造のリアクトルが知られている。二重モールド構造のリアクトルとは、コアやコイル等の部材を樹脂で被覆する1次モールドした後、1次モールドした部材やその他リアクトルを構成する部材を樹脂で被覆する2次モールドによって一体成形されたリアクトルである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような二重モールド構造のリアクトルにおいては、各種部材が樹脂で覆われているため、樹脂を介してリアクトルの熱を放出する必要がある。そのため、樹脂の種類としては、熱伝導性の高い樹脂を使用することが望まれる。もっとも、熱伝導性の高い樹脂は、流動性が悪く、成形性が良くないため、ウェルド部が形成されやすく、リアクトルの強度を低下させる虞がある。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、強度を維持しつつ、放熱性を向上させることができるリアクトルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のリアクトルは、コアと、前記コアを被覆する第1の樹脂部材と、前記第1の樹脂部材を被覆するとともに、リアクトルを構成する部材を被覆し一体に成形させる第2の樹脂部材と、を備え、前記第1の樹脂部材の熱伝導性は、前記第2の樹脂部材の熱伝導性よりも高く、前記第1の樹脂部材は、前記コアのみを被覆していること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、強度を維持しつつ、放熱性を向上させることができるリアクトルを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係るリアクトルの全体構成を示す斜視図である。
【
図2】コアを被覆した第1の樹脂部材の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施形態)
(構成)
本実施形態に係るリアクトルについて図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態に係るリアクトルの全体構成を示す斜視図である。
図2は、コアを被覆した第1の樹脂部材の斜視図である。
図3は、本実施形態に係るリアクトルの底面図である。
【0011】
リアクトル100は、電気エネルギーを磁気エネルギーに変換して蓄積及び放出する電磁気部品であり、電圧の昇降圧等に使用される。本実施形態のリアクトル100は、例えばハイブリッド自動車や電気自動車の駆動システム等で使用されるリアクトルである。リアクトル100は、
図1及び
図2に示すように、コア1、第1の樹脂部材2、コイル3、第2の樹脂部材4、バスバー5、センサ6及び締結部7を備える。リアクトル100は、コア1を第1の樹脂部材2で被覆させる1次モールドを行ったうえで、第1の樹脂部材2で被覆されたコア1と、コイル3と、バスバー5と、センサ6と、締結部7が第2の樹脂部材4で2次モールドされ一体成形された、所謂、二重モールド構造のリアクトルである。
【0012】
コア1は、圧粉磁心等の磁性体から成る。コア1は、2つの略U字型形状のコアの端部を接合することで、環状形状を有する。第1の樹脂部材2は、
図2に示すように、コア1を被覆する。本実施形態では、第1の樹脂部材2はコア1のみを被覆している。
【0013】
第1の樹脂部材は、樹脂とフィラーとを含有した材料から成る。樹脂の種類としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ウレタン樹脂、BMC(Bulk Molding Compound)、PPS(Polyphenylene Sulfide)、PBT(Polybutylene Terephthalate)等が挙げられる。また、フィラーの種類としては、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素等の熱伝導性フィラーを挙げることができる。このフィラーの含有量を多くすることで、熱伝導性を高めることができる。第1の樹脂部材2のフィラーの含有量は、第2の樹脂部材4より多い。即ち、第1の樹脂部材2の熱伝導性は、第2の樹脂部材4よりも高い。
【0014】
第1の樹脂部材2には、2つのコイル3が装着される。即ち、第1の樹脂部材2によって、コア1とコイル3の絶縁を図る。2つのコイル3は、巻軸方向が平行となるように隙間を介して横並びに配置される。
【0015】
バスバー5は、板状体の銅やアルミニウム等の導電性部材からなる。バスバー5の一方端部はコイル3の端部と接続し、他方端部は不図示の外部機器の端子と接続する。これによって、バスバー5を介して外部機器とコイル3が電気的に接続される。外部機器から電力供給されると、コイル3に電流が流れ、磁束が発生し、コア1内に閉じた磁気回路が形成される。
【0016】
センサ6は、リアクトル100の状態を検出する。本実施形態では、センサ6は、温度センサであり、リアクトル100の温度を検出する。センサ6は、コイル3間に配置される。締結部7は、リアクトル100を設置対象物に固定する。締結部7は、ボルト等が挿入されるネジ孔とリング状のカラー71を有する。
【0017】
第2の樹脂部材4は、第1の樹脂部材2に被覆されたコア1と、コイル3、バスバー5、センサ6及びカラー71といったリアクトル100を構成する部材を一体に成形する。第2の樹脂部材4によって、リアクトル100を構成する各部材は固定される。つまり、一体に成形するとは、リアクトルを構成する各部材を固定することを意味する。第2に樹脂部材4は、樹脂とフィラーとを含有した材料から成る。樹脂及びフィラーの種類は、第1の樹脂部材2と同様のものを用いることができる。もっとも、第2の樹脂部材4のフィラーの含有量は、第1の樹脂部材2の含有量より少ない。なお、リアクトル100を構成する部材とは、本実施形態の部材に限定されず、リアクトルを構成するために必要な部材を適宜選択することができる。
【0018】
なお、
図3に示すように、コイル3の底面は第1の樹脂部材2及び第2の樹脂部材4に覆われておらず、露出している。コイル3の底面の下部には不図示の放熱シート等の放熱部材が配置され、コイル3の底面と放熱部材が接触している。そのため、リアクトル100の熱は、放熱部材を介してリアクトル100の外部に放出される。
【0019】
第2の樹脂部材4は、第1の樹脂部材2と比較してフィラーの含有量が少ないため、流動性が良い。そのため、複雑な形状を有するコイル3や複数の部材を一体に成形しても、ウェルド部やクラックの発生を抑制できる。また、コイル3及びバスバー5の溶接面を位置合わせした状態で第2の樹脂部材4によって一体に成形されるので、溶接作業を容易に行うことができる。さらに、コイル3とカラー71を第2の樹脂部材4によって一体に成形することで、コイル3の底面とカラー71の下面を正確に設定することができる。そのため、コイル3の底面とリアクトル100の設置面を一定に保つことができるため、コイル3の底面と放熱部材との接触の度合いが異なり、製品によって放熱性がばらつくことを抑制できる。
【0020】
(作用)
本実施形態のリアクトル100は、第1の樹脂部材2がコア1のみを被覆し、第1の樹脂部材2によって被覆されたコア1と、コイル3と、バスバー5と、センサ6と、カラー71が第2の樹脂部材4で一体に成形されている。そして、第1の樹脂部材2のフィラーの含有量は、第2の樹脂部材4よりも多く、第1の樹脂部材2の方が熱伝導性が高い。
【0021】
一般に、フィラーを多く含有させた樹脂の方が強度が弱くなり、特に、モールド成型時に樹脂が合流することで形成されるウェルド部の強度が弱くなる。そして、フィラーを多く含有させた樹脂は流動性が悪くなるため、ウェルド部がより形成されやすい。このウェルド部はクラックが生じやすい。クラックが生じるとリアクトルの強度が低下するとともに、リアクトルの特性の悪化を招く虞がある。
【0022】
本実施形態では、1次モールドにおいては、フィラーの含有量が多い第1の樹脂部材2は、コア1のみを被覆している。即ち、フィラーの含有量の多い樹脂の使用量は少ない。そのため、ウェルド部の形成を抑制することができる。
【0023】
また、モールド成型時のインサート部品が増えるほど、又、インサート部品の形状に凹凸があるなど複雑な形状であるほど、樹脂の流路が増加するので、ウェルド部が形成されやすい。例えば、コイルの場合、電線を巻く際に平坦に巻くことは困難であり、表面には凹凸が生じやすく、また、ターン間も樹脂の流路となるため、ウェルド部が形成されやすい。しかし、本実施形態では、第1の樹脂部材2が被覆しているのは、略U字型形状のコア1のみであり、インサート部品が少なく、被覆している部材も凹凸も少ない単純な形状のコア1のみである。そのため、ウェルド部の発生を抑制することができ、リアクトル100の強度を向上させることができる。なお、単純な形状のコアとは、U字型形状のコアだけでなく、例えば、C字型コア、J字型コア、E字型コア、I字型コア、ブロックコア等を挙げることができる。
【0024】
そして、コア1を被覆する第1の樹脂部材2は、熱伝導性が高い。よって、コア1の熱を第1の樹脂部材2を介して効率良く外部に放出することができ、リアクトル100の放熱性が向上する。特に、本実施形態では、コイル3の底面は、第2の樹脂部材4に覆われておらず露出し、コイル3の底面は放熱部材と接触している。よって、コア1の熱を第1の樹脂部材2、コイル3を介して、より効率良く放熱部材に伝達させることができるので、放熱性を更に向上させることができる。
【0025】
また、2次モールドにおいては、第1の樹脂部材2で覆われたコア1、コイル3、バスバー5、センサ6及びカラー71が、第1の樹脂部材2よりもフィラーの含有量が少ない第2の樹脂部材4によって一体に成形されている。換言すれば、より強度の高い第2の樹脂部材4で一体成形されている。そのため、ウェルド部の形成を抑制できるとともに、リアクトル100の強度を維持することができる。
【0026】
以上のとおり、本実施形態のリアクトル100は、リアクトル100の強度を維持させつつ、放熱性の向上を図ることができる。また、放熱性が向上することによって、コア1やコイル3を小型化することができるので、リアクトル100の小型化を図ることができる。
【0027】
(効果)
本発明のリアクトル100は、コア1と、コア1を被覆する第1の樹脂部材2と、第1の樹脂部材2を被覆するとともに、リアクトル100を構成する部材を一体に成形させる第2の樹脂部材4と、を備える。第1の樹脂部材2の熱伝導性は、第2の樹脂部材4の熱伝導性よりも高い。このように、リアクトル100は、1次モールドにおいては熱伝導性の高い第1の樹脂部材2を用いてコア1を被覆し、2次モールドにおいて第1の樹脂部材よりも熱伝導性が低い、即ち、強度が高い第2の樹脂部材4を用いて、リアクトル100の構成部材が一体に成形されている。
【0028】
これにより、第1の樹脂部材2によって、効率良くリアクトル100の熱を外部に放出できるとともに、第2の樹脂部材4によってリアクトル100の強度を維持することができる。
【0029】
また、第1の樹脂部材2は、コア1のみを被覆している。熱伝導性の高い樹脂は、流動性が悪化するため、インサート部品が多くなると、ウェルド部が形成されやすく、リアクトル100の強度が低下する。本実施形態では、熱伝導性の高い第1の樹脂部材2によって被覆されているのは、コア1のみである。これにより、ウェルド部の形成を抑制することができ、リアクトル100の強度を向上させることができる。
【0030】
第1の樹脂部材2に被覆されたコア1に装着されたコイル3を更に備え、第2の樹脂部材4は、コイル3を被覆し、コイル3の底面は、第2の樹脂部材4から露出している。これにより、コア1の熱を第1の樹脂部材2及びコイル3を介してリアクトル100の外部に効率良く放出することができるので、リアクトル100の放熱性が向上する。
【0031】
第1の樹脂部材2のフィラーの含有量は、第2の樹脂部材4よりも多い。フィラーを多く含有させると、熱伝導性が向上する一方、流動性が悪化するためウェルド部が形成されやすく強度が低下する虞がある。本実施形態では、フィラーを多く含有する第1の樹脂部材2は、単純形状のコア1のみを被覆しているので、ウェルド部の形成を抑制できるとともに、コア1の熱を熱伝導性の高い第1の樹脂部材2を介して効率良くリアクトル100の外部に放出することができ、リアクトル100の放熱性が向上する。
【0032】
(他の実施形態)
本明細書においては、本発明に係る実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであって、発明の範囲を限定することを意図していない。上記のような実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0033】
100 リアクトル
1 コア
2 第1の樹脂部材
3 コイル
4 第2の樹脂部材
5 バスバー
6 センサ
7 締結部
71 カラー