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特許7418203筆記具用水性インキ組成物およびそれを用いた筆記具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】筆記具用水性インキ組成物およびそれを用いた筆記具
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/16 20140101AFI20240112BHJP
   B43K 5/00 20060101ALI20240112BHJP
   B43K 7/00 20060101ALI20240112BHJP
   B43K 8/02 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
C09D11/16
B43K5/00
B43K7/00
B43K8/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019236649
(22)【出願日】2019-12-26
(65)【公開番号】P2021105110
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2022-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飛世 博愛
【審査官】橋本 栄和
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-031367(JP,A)
【文献】特開2007-214402(JP,A)
【文献】特開2018-109115(JP,A)
【文献】特開2019-011451(JP,A)
【文献】国際公開第2014/103959(WO,A1)
【文献】米国特許第06160034(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/16
B43K 5/00
B43K 7/00
B43K 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
10%以上2000%以下の抱水力を有する多価アルコール脂肪酸エステルまたはステロール脂肪酸エステルである抱水性油剤と、HLB値が4~11の非イオン性界面活性剤と、HLB値が12~18の非イオン性界面活性剤と、着色剤と、水と、を含んでなることを特徴とする、筆記具用水性インキ組成物。
【請求項2】
前記抱水性油剤の融点が、10℃~100℃である、請求項1に記載の筆記具用水性インキ組成物。
【請求項3】
前記抱水性油剤の含有率が、前記筆記具用水性インキ組成物の総質量を基準として、0.01質量%~10質量%である、請求項1または請求項2に記載の筆記具用水性インキ組成物。
【請求項4】
前記非イオン性界面活性剤が、ポリオキシアルキレン基を有する非イオン性界面活性剤である、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の筆記具用水性インキ組成物。
【請求項5】
前記非イオン性界面活性剤に対する、前記抱水性油剤の含有比が、質量基準で、0.05~5である、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の筆記具用水性インキ組成物。
【請求項6】
HLB値が4~11の非イオン性界面活性剤と、HLB値が12~18の非イオン性界面活性剤と、の含有比(HLB値4~11の非イオン性界面活性剤/HLB値が12~18の非イオン性界面活性剤)が、質量基準で、0.1~5である、
請求項1~請求項5の何れか1項に記載の筆記具用水性インキ組成物。
【請求項7】
請求項1~請求項のいずれか1項に記載の筆記具用水性インキ組成物を収容してなることを特徴とする、筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記具用水性インキ組成物およびそれを用いた筆記具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
筆記具は、暫くペン先が大気中に晒された状態にあると、筆記具本体内に収容されているインキ中の溶媒などがペン先より蒸発し、インキが乾燥固化して、筆跡がかすれたり、さらには、筆記ができなくなったりするなど、筆記具として満足に利用できなくなることがあった。このため、筆記具用水性インキ組成物およびそれを用いた筆記具において、ペン先におけるインキの乾燥を防ぎ、優れた耐ドライアップ性能を得ることは課題である。
【0003】
そこで上記課題を解決するため、インキ中に、エチレングリコールやグリセリンなどの多価アルコール溶剤や、尿素または尿素誘導体などの各種保湿剤を添加して、耐ドライアップ性能を向上させたインキ組成物が提案されている。(特許文献1、2など)
しかしながら、添加する保湿剤の種類や添加量によっては、筆記ができなくなることはなくなり、耐ドライアップ性能の改善が見られるものの、書き始めから、掠れずに良好な筆跡を得ることは難しく、更なる耐ドライアップ性能の向上が求められている。
また、保湿剤の種類やその添加量によっては、良好な耐ドライアップ性能が得られるようになるものの、経時後、インキ粘度が極度に上昇したり、析出物が発生したりして、インキの吐出性が低下し、得られる筆跡の一部が薄くなったり、掠れたりするなど、筆跡にウスやカスレが発生してしまい、安定した良好な筆跡が得られず、筆記性能に課題が生じることもあった。
よって、優れた耐ドライアップ性能を有しながらも、筆記性能に優れた筆記具用水性インキ組成物および筆記具が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-127746号公報
【文献】特開2004-217730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記のような課題を解決するもので、耐ドライアップ性能に優れ、かつ、筆記性能にも優れた筆記具用水性インキ組成物を提供することであり、さらに、それを用いた筆記具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために、
「1.10%以上2000%以下の抱水力を有する多価アルコール脂肪酸エステルまたはステロール脂肪酸エステルである抱水性油剤と、HLB値が4~11の非イオン性界面活性剤と、HLB値が12~18の非イオン性界面活性剤と、着色剤と、水と、を含んでなることを特徴とする、筆記具用水性インキ組成物。
2.前記抱水性油剤の融点が、10℃~100℃である、第1項に記載の筆記具用水性インキ組成物。
3.前記抱水性油剤の含有率が、前記筆記具用水性インキ組成物の総質量を基準として、0.01質量%~10質量%である、第1項または第2項に記載の筆記具用水性インキ組成物。
4.前記非イオン性界面活性剤が、ポリオキシアルキレン基を有する非イオン性界面活性剤である、第1項~第3項のいずれか1項に記載の筆記具用水性インキ組成物。
5.前記非イオン性界面活性剤に対する、前記抱水性油剤の含有比が、質量基準で、0.05~5である、第1項第4項のいずれか1項に記載の筆記具用水性インキ組成物。
6.HLB値が4~11の非イオン性界面活性剤と、HLB値が12~18の非イオン性界面活性剤と、の含有比(HLB値4~11の非イオン性界面活性剤/HLB値が12~18の非イオン性界面活性剤)が、質量基準で、0.1~5である、第1項~第5項の何れか1項に記載の筆記具用水性インキ組成物。
7.第1項~第項のいずれか1項に記載の筆記具用水性インキ組成物を収容してなることを特徴とする、筆記具。」とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ペン先が大気中に暫く晒された状態にあっても、書き始めから、カスレが抑制された良好な筆跡が形成可能で、さらに、ペン先より安定してインキが吐出され、良好な筆跡を継続して得ることができ、耐ドライアップ性能および筆記性能に優れた筆記具用水性インキ組成物およびそれを用いた筆記具を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本明細書において、配合を示す「部」、「%」、「比」などは特に断らない限り質量基準であり、含有率とは、インキ組成物の質量を基準としたときの構成成分の質量%である。
【0009】
<筆記具用水性インキ組成物>
本発明による筆記具用水性インキ組成物(以下、場合により、インキ組成物と表す)は、抱水性油剤と、非イオン性界面活性剤と、着色剤と、水と、を含んでなり、非イオン性界面活性剤のHLB値が4~18であることを特徴とするものである。
本発明のインキ組成物は、抱水性油剤とHLB値が4~18である非イオン性界面活性剤を併用することが重要であり、これらを併用することで、ペン先が大気中に暫く晒された状態にあっても、書き始めから、カスレが抑制された良好な筆跡を残すことができるようになり、さらに、ペン先より安定してインキが吐出され、良好な筆跡を継続して得ることができるようになり、優れた耐ドライアップ性能と、優れた筆記性能をもたらすことができる。
これは、以下のように推測する。
抱水性油剤は、特定の界面活性剤により、インキ中に良好に分散され、安定に存在できるとともに、ペン先においては、インキ中の水分蒸発に伴って、徐々に合一される。この合一した油剤が、ペン先で均一な被膜となって、ペン先からのそれ以上の水分蒸発を抑制することができる。また、該被膜は、抱水性油剤が水を抱え込む性質を有するため、インキ中の水分を抱え込んでおり、該被膜に覆われたペン先は、湿潤状態を維持できる。よって、ペン先からインキが乾燥固化することを十分に抑制することが可能となる。また、ペン先に形成される被膜は、水分を抱え込んでいるために、適度な柔軟性を有しており、筆記の衝撃で容易に破壊され、書き始めからも、カスレの少ない良好な筆跡を残すことができる。このため、耐ドライアップ性能に優れたインキをもたらすことができる。
さらに、前述の通り、抱水性油剤は、特定の界面活性剤によって、インキ中に良好に分散されるため、経時後においても安定しており、インキ粘度の上昇や、析出物の発生が十分に抑制できる。よって、ペン先からインキは安定して吐出され、それが維持されるため、良好な筆跡を継続して得ることができ、優れた筆記性能を得ることができる。
以上より、抱水性油剤と、HLB値が4~18である非イオン性界面活性剤を併用した本発明のインキ組成物は、ペン先が大気に晒された状態で暫く放置されても、インキは乾燥固化せず、筆記不能になることが抑制されるのはもちろんのこと、書き始めより良好な筆跡を残すことができ、さらにそれを持続することができるため、優れた耐ドライアップ性能を有しながらも、筆記性能にも優れたものになるのである。
【0010】
また、本発明のインキ組成物は、前述の通り、特定の界面活性剤により、抱水性油剤が、主溶媒である水の中に安定して存在し続けられることから、経時後においても、インキは安定状態が維持できるため、十分なインキ経時安定性も有する。
また、本発明のインキ組成物は、滑らかな書き味ももたらすことができる。この効果は、ボールペンに用いた場合、特に、発現しやすい。これは、特定の界面活性剤で、均一に分散された抱水性油剤が、ボールとボール座の間で、潤滑剤となって、ボールの回転を円滑にすることができるためと推測する。
以下、本発明のインキ組成物における構成成分について、詳細に説明する。
【0011】
<抱水性油剤>
本発明における抱水性油剤とは、それ自体に水を抱え込むことのできる油剤であって、抱水力として、0%より大きな値を有する油剤である。
なお、本発明における抱水力とは、下記抱水力試験により、得られる値である。
【0012】
抱水力試験: 試料(油剤)10gを、試料の融点以上で水浴させて溶融させた後、試料を撹拌しながら、水浴と同じ温度の水を徐々に添加し、試料から水が分離し始めるまで水を加える。水が分離し始めるまでに添加した水の質量(水が分離しない最大量)を測定し、「添加した水の質量」とする。下記式(1)に従い、得られた「添加した水の質量」を「試料の初期質量」で除し、100倍にして、この値を「抱水力(単位:%)」とする。
[式(1)] 抱水力(%)=(添加した水の質量/試料の初期質量)×100
上記、撹拌は、特に限定されないが、例えば、ディスパーミキサーを用いて1000rpmの条件で行うことができる。また、水浴温度は、試料の融点より10℃高い温度に設定することで、測定することもできる。
【0013】
抱水性油剤は、前述の通り、特定の界面活性剤と併用することで、優れた耐ドライアップ性能と筆記性能をもたらすことができる。
これは、前述の通り、抱水性油剤は、特定の界面活性剤により、良好に分散され、インキ中で安定に存在できるようになるとともに、ペン先においては、水分蒸発に伴って、徐々に合一しやすい状態となり、ペン先に均一な被膜を形成し、ペン先からのそれ以上の水分蒸発を抑制できるためである。さらに、ペン先に形成される被膜は、抱水性油剤がもつ水を抱え込む性質を有することから、インキ中の水分を抱えこみ、該被膜により、ペン先の湿潤状態を維持できるとともに、適度な柔軟性を有する被膜となって、書き出し時には、筆記の衝撃で容易に破壊可能となるためである。
また、特定の界面活性剤により、良好に分散された抱水性油剤は、インキ中で経時においても安定しているため、インキ吐出安定性が維持され、カスレのない良好な筆跡を、安定して継続に得ることができるためである。
【0014】
抱水性油剤は、前述の通り、それ自体に水を抱え込むことのできる油剤であって、また、抱水力として、0%より大きな値を有する油剤であれば、特に限定されない。動物油、植物油、合成油等の起源や固形油、液体油、揮発性油等の性状を問わず、ラウロイルグルタミン酸ジオクチルドデシル、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジ(コレステリル又はフィトステロール/べへニル/オクチルドデシル)、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジ(コレステリル又はフィトステロール/オクチルドデシル)等のアミノ酸系エステル油剤; ヒマシ油、シア脂、ヘキサグリセリン脂肪酸エステル、デカグリセリン脂肪酸エステル、(アジピン酸/2-エチルへキサン酸/ステアリン酸)グリセリルオリゴエステル、ジペンタエリトリット12-ヒドロキシステアリン酸エステル、ヘキサ(ヒドロキシステアリン酸/ステアリン酸/ロジン酸)ジペンタエリスリチル、トリ(カプリル酸/カプリン酸/ミリスチン酸/ステアリン酸)グリセリル等の多価アルコール脂肪酸エステル; コレステロール、コレスタノール、デヒドロコレステロール、フィトステロール等のステロール類; ラノリン脂肪酸コレステリル、イソステアリン酸コレステリル、ヒドロキシステアリン酸コレステリル、リシノール酸コレステリル、マカデミアナッツ油脂肪酸コレステリル、ヒドロキシステアリン酸フィトステリル、イソステアリン酸フィトステリル等のステロール脂肪酸エステル等のコレステロール誘導体やフィトステロール誘導体; ラノリン、吸着精製ラノリン、液状ラノリン、還元ラノリン、酢酸液状ラノリン、ラノリンアルコール、水素添加ラノリンアルコール、ラノリン脂肪酸等のラノリン誘導体及びそれらをポリオキシアルキレンで変性したもの等が挙げられ、これらを1種または2種以上用いることができる。
【0015】
中でも、耐ドライアップ性能、筆記性能の向上、さらには、優れたインキ経時安定性を得ることを考慮すると、多価アルコール脂肪酸エステルまたはステロール脂肪酸エステルを用いることが好ましい。
【0016】
前記多価アルコール脂肪酸エステルとは、多価アルコールと脂肪酸とのエステルであるが、本発明において、多価アルコール脂肪酸エステルを構成する多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ソルビタン、エリスリトール、ジペンタエリスリトール、などが挙げられるが、中でも、グリセリン、ジペンタエリスリトールであることが好ましい。
【0017】
また、前記多価アルコール脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、炭素数6~31の直鎖または分岐の飽和または不飽和脂肪酸、及び、炭素数6~31のヒドロキシ脂肪酸またはその重合物が挙げられる。具体的には、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、エイコセン酸、ベヘン酸、エルシン酸、リグノセリン酸、イソパルミチン酸、イソステアリン酸、リシノール酸、ポリリシノール酸、ロジン酸、ヒドロキシカプリン酸、ヒドロキシパルミチン酸、ヒドロキシステアリン酸、ポリヒドロキシステアリン酸が挙げられる。
中でも、前記脂肪酸は、炭素数8~22の直鎖または分岐の飽和または不飽和脂肪酸、または炭素数12~20のヒドロキシ脂肪酸であることが好ましい。
【0018】
特に、本発明において、抱水性油剤として多価アルコール脂肪酸エステルを用いる場合には、ヘキサ(ヒドロキシステアリン酸/ステアリン酸/ロジン酸)ジペンタエリスリチルまたはトリ(カプリル酸/カプリン酸/ミリスチン酸/ステアリン酸)グリセリルを用いることが好ましい。
【0019】
前記ステロール脂肪酸エステルとは、ステロールと脂肪酸とのエステルであるが、本発明において、ステロール脂肪酸エステルを構成するステロールとしては、カンペステロール、カンペスタノール、ブラシカステロール、22-デヒドロカンペステロール、スチグマステロール、スチグマスタノール、22-ジヒドロスピナステロール、22-デヒドロスチグマスタノール、7-デヒドロスチグマステロール、シトステロール、チルカロール、オイホール、フコステロール、イソフコステロール、コジステロール、クリオナステロール、ポリフェラステロール、クレロステロール、22-デヒドロクレロステロール、フンギステロール、コンドリラステロール、アベナステロール、ベルノステロール、ポリナスタノール等のフィトステロール; コレステロール、ジヒドロコレステロール、コレスタノール、コプロスタノール、エピコプロステロール、エピコプロスタノール、22-デヒドロコレステロール、デスモステロール、24-メチレンコレステロール、ラノステロール、24,25-ジヒドロラノステロール、ノルラノステロール、スピナステロール、ジヒドロアグノステロール、アグノステロール、ロフェノール、ラトステロール等の動物性ステロール; デヒドロエルゴステロール、22,23-ジヒドロエルゴステロール、エピステロール、アスコステロール、フェコステロール等の菌類性ステロール等、ならびにこれらの水添物およびこれらの配合物等が挙げられる。植物から抽出等によって得られるステロールの混合物を用いても良い。中でも、コレステロールまたはフィトステロールであることが好ましい。
【0020】
また、前記ステロール脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、炭素数6~31の直鎖または分岐の飽和または不飽和脂肪酸、及び、炭素数6~31のヒドロキシ脂肪酸またはその重合物が挙げられる。具体的には、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、エイコセン酸、ベヘン酸、エルシン酸、リグノセリン酸、イソパルミチン酸、イソステアリン酸、リシノール酸、ポリリシノール酸、ロジン酸、ヒドロキシカプリン酸、ヒドロキシパルミチン酸、ヒドロキシステアリン酸、ポリヒドロキシステアリン酸が挙げられる。
中でも、前記脂肪酸は、炭素数8~20の直鎖または分岐の飽和または不飽和脂肪酸、または炭素数8~20のヒドロキシ脂肪酸であることが好ましく、炭素数12~20の直鎖または分岐の飽和または不飽和脂肪酸、または炭素数12~20のヒドロキシ脂肪酸であることがより好ましい。
さらに、ヒドロキシ基を有する脂肪酸(ヒドロキシ脂肪酸)は、水性インキ中における安定性が向上しやすい傾向にあることから、インキ経時安定性が得られやすく、よって、炭素数12~20のヒドロキシ脂肪酸であることがより好ましい。
【0021】
特に、本発明において、抱水性油剤としてステロール脂肪酸エステルを用いる場合には、耐ドライアップ性能、筆記性能の向上、さらには優れたインキ経時安定性を得ることを考慮すると、ヒドロキシステアリン酸コレステリルまたはヒドロキシステアリン酸フィトステリルを用いることが好ましい。
【0022】
そして、本発明において、耐ドライアップ性能、筆記性能、インキ経時安定性において、均衡の取れた良好なインキ組成物を得ることを考慮すると、抱水性油剤としては、上記のようなステロール脂肪酸エステルを用いることが特段に好ましく、よって、ヒドロキシステアリン酸コレステリルまたはヒドロキシステアリン酸フィトステリルを用いることが、最も好ましい。
【0023】
さらに、本発明において、耐ドライアップ性能の向上を考慮すると、抱水性油剤の抱水力は、10%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、100%以上であることがさらに好ましい。これは、上記数値以上の抱水力を有する油剤を用いると、形成される被膜においてインキ中の水分を抱えこむ力が十分に得られ、ペン先の湿潤状態が維持されやすく、ペン先のインキの乾燥固化抑制が向上できるためであり、さらに、筆記時の衝撃により容易に破壊されやすくなって、書き始めから、良好なインキ吐出性が得られやすいためである。
また、本発明においては、抱水性油剤の抱水力は、2000%以下であることが好ましく、1000%以下であることがより好ましく、500%以下であることがさらに好ましい。これは、上記数値以下の抱水力を有する抱水性油剤を用いると、被膜強度を十分に保ち、ペン先の水分蒸発抑制が効果的に得られやすく、また、インキ中、さらには大気中の水分の過剰な抱え込みが抑制され、インキの経時安定性を維持しやすいためである。
【0024】
また、本発明においては、耐ドライアップ性能の向上、さらには優れた経時安定性が得られることを考慮すると、抱水性油剤の融点は、10℃~100℃であることが好ましい。これは、10℃以上であれば、抱水性油剤がペン先での水分蒸発抑制を可能な被膜を形成しやすく、ペン先からのインキの乾燥固化を抑制しやすいためであり、また、100℃以下であれば、抱水性油剤がインキ中で良好に分散されやすく、インキの経時安定性を維持しやすいためである。
上記効果の向上を考慮すると、抱水性油剤の融点は20℃~90℃であることがより好ましく、30℃~80℃であることがさらに好ましい。また、製造時、過度の熱が加わることで、他の構成成分が変成、劣化してしてしまうことを抑制することをさらに考慮すると、30℃~60℃であることが特に好ましい。
【0025】
抱水性油剤の含有率は、インキ組成物の総質量を基準として、0.01質量%~10質量%であることが好ましい。抱水性油剤の含有率が上記数値の範囲内であれば、抱水性油剤がもたらす被膜による、ペン先の水分蒸発抑制の効果を十分に得ることができ、さらに、分散安定性が得られやすく、優れたインキ吐出性を維持して良好な筆跡を残すことができることから、インキ組成物に優れた耐ドライアップ性能と、優れた筆記性能を付与することができる。さらに、耐ドライアップ性能と筆記性能をバランス良く向上させることを考慮すると、0.1質量%~5質量%であることがより好ましく、0.2質量%~3質量%であることが特に好ましい。さらに、インキ経時安定性の良化も考慮すると、0.2質量%~0.8質量%であることが最も好ましい。
尚、抱水性油剤は、1種または、2種以上の混合物として使用することも可能である。
【0026】
<非イオン性界面活性剤>
本発明のインキ組成物は、非イオン性界面活性剤を含んでなり、前記非イオン性界面活性剤のHLB値は4~18である。
HLB値が4~18である非イオン性界面活性剤は、抱水性油剤と併用することで、優れた耐ドライアップ性能と筆記性能をもたらすことができる。
これは、前述の通り、HLB値が4~18である非イオン性界面活性剤により、抱水性油剤が良好に分散され、インキ中で安定に存在できるようになる上、ペン先においては、抱水性油剤を合一しやすい状態にさせて、均一な被膜を形成させることができ、ペン先からのそれ以上の水分蒸発を抑制できるためである。さらに、形成される被膜は、書き出し時には、筆記の衝撃で容易に破壊可能な状態となり得るためである。
また、HLB値が4~18である非イオン性界面活性剤は、抱水性油剤を、インキ中に良好に分散させ、さらに、経時においてもこれを維持でき、よって、ペン先からの優れたインキ吐出性を安定して継続的に得ることができるためである。
【0027】
本発明におけるHLB値は、「ハンドブック-化粧品・製剤原料-」、日光ケミカルズ株式会社(昭和52年2月1日改訂版発行)に記載されている、乳化法による実測値を指す。詳細には、以下の手順で、乳化法によるHLBの実測値は求められる。先ず、界面活性剤の標準物質としてモノステアリン酸ソルビタン(NIKKOL SS-10)及びモノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(NIKKOL TS-10)を組み合わせて使用し、被乳化物には流動パラフィンを用いる。流動パラフィンを前述の2種類の界面活性剤で乳化して最適な界面活性剤の割合を算出し、下記式(2)に従い流動パラフィンの所要HLB値を求める。
[式(2)] 流動パラフィンのHLB値= {(TS-10のHLB値(14.9)×使用%)+(SS-10のHLB値(4.7)×使用%)}/100
通常、流動パラフィンの所要HLB値は約10.1~10.3程度である。次いで、未知の界面活性剤の測定は、HLB値を求めた流動パラフィンを使って測定する。未知の界面活性剤が親水性であればSS-10と組み合わせ、親油性であればTS-10と組み合わせて、流動パラフィンを乳化し、安定性のあるところの最適割合を求めて、未知の界面活性剤のHLB値をxとして前記式(2)に当てはめて算出する。ここで乳化処方は、全体に対して、流動パラフィンが40%、使用する界面活性剤(使用する二つの界面活性剤の全量)が4% 、及び水が56%で行う。界面活性剤の全量は一定にしておき、割合のみ変えて乳化できるところまで乳化する。界面活性剤の割合は0.1% ずつ変えて行う。できたエマルションは水が蒸発しないように蓋をして、全ての乳化作業が終了後に、得られたエマルションを各々1 % に希釈し、共栓付試験管にほぼ同量を採取して一昼夜放置し、クリーミング量、白濁度、下層の水分離等から判定して、最も安定性の良いものを最適割合とする。
【0028】
本発明において、非イオン性界面活性剤は、HLB値が4~18であれば、特に限定されないが、抱水性油剤を主溶媒である水に良好に分散させ、また、ペン先では合一させて被膜を形成させることで、抱水性油剤とともに、優れた耐ドライアップ性能と優れた筆記性能を得ることを考慮すると、ポリオキシアルキレン基を有する非イオン性界面活性剤を用いることが好ましい。特には、ポリオキシエチレン基を有する非イオン性界面活性剤を用いることがより好ましい。これは、ポリオキシエチレン基を有する非イオン性界面活性剤自身が、主溶媒である水の中で安定状態にいられるとともに、抱水性油剤を水に良好に分散させやすく、また、ペン先では合一させて被膜を形成させやすく、抱水性油剤とともに、優れた耐ドライアップ性能と、筆記性能を付与しやすいためである。
上記ポリオキシエチレン基を有する非イオン性界面活性剤としては、例えば、下記のものが挙げられる。
POEソルビタンモノオレエート、POEソルビタンモノステアレート、POEソルビタンモノオレート等のPOEソルビタン脂肪酸エステル類;POEソルビットモノオレエート、POEソルビットモノストアレート等のPOEソルビット脂肪酸エステル類;POEグリセリンモノステアレート、POEグリセリンモノイソステアレート等のPOEグリセリン脂肪酸エステル類;POEモノオレエート、POEジステアレート、POEモノジオレエート、ジステアリン酸エチレングリコール等のPOE脂肪酸エステル類;POEオレイルエーテル、POEステアリルエーテル、POEベヘニルエーテル、POE2-オクチルドデシルエーテル、POEコレスタノールエーテル等のPOEアルキルエーテル類;POEオクチルフェニルエーテル、POEノニルフェニルエーテル、POEジノニルフェニルエーテル等のPOEアルキルフェニルエーテル類;POE・POPセチルエーテル、POE・POP2-デシルテトラデシルエーテル、POE・POP水添ラノリン、POE・POPグリセリンエーテル等のPOE・POPアルキルエーテル類;POEヒマシ油;POE硬化ヒマシ油、POE硬化ヒマシ油モノイソステアレート、POE硬化ヒマシ油トリイソステアレート、POE硬化ヒマシ油モノピログルタミン酸モノステアリン酸ジエステル、POE硬化ヒマシ油マレイン酸等のPOEヒマシ油誘導体;POEラノリン;POEラノリンアルコール;POEソルビットミツロウ等のPOEミツロウ誘導体;POEプロピレングリコール脂肪酸エステル、POEアルキルアミン、POE脂肪酸アミド、POEノニルフェニルホルムアルデヒド縮合物等が挙げられる。
尚、POEとはポリオキシエチレンを、POPとはポリオキシプロピレンを表すものである。
【0029】
中でも、耐ドライアップ性能、筆記性能の向上を考慮すると、POE・POPアルキルエーテル類、POEヒマシ油、POEヒマシ油誘導体の中から1種以上選択して用いることが好ましい。また、各種抱水性油剤に対して分散能力が発揮しやすいなど、抱水性油剤に対する分散能力が高く、優れた耐ドライアップ性能、筆記性能を得やすいことを考慮すると、POEヒマシ油またはPOEヒマシ油誘導体を用いることがより好ましく、さらには、POEヒマシ油またはPOE硬化ヒマシ油を用いることが特に好ましい。
【0030】
また、HLB値が4~18である非イオン性界面活性剤の含有率は、インキ組成物の総質量を基準として、0.05質量%~10質量%であることが好ましい。
HLB値が4~18である非イオン性界面活性剤の含有率が上記数値の範囲内であれば、抱水性油剤が安定に分散されやすく、インキ組成物に優れた耐ドライアップ性能と、優れた筆記性能を付与することができるためである。
さらに、耐ドライアップ性能と筆記性能をバランス良く向上することを考慮すると、0.1質量%~5質量%であることがより好ましく、0.3質量%~5質量%であることがさらに好ましく、0.5質量%~3質量%であることが特に好ましい。また、インキ経時安定性の良化も考慮すると、1質量%~3質量%であることが最も好ましい。
【0031】
また、本発明において、耐ドライアップ性能の向上、筆記性性能の向上、さらには、インキの経時安定性の良化を考慮すると、HLB値が4~18である非イオン性界面活性剤としては、HLB値が異なる上記非イオン性界面活性剤を2種以上含んでなることが好ましい。これは、HLB値が異なる上記非イオン性界面活性剤を2種以上用いることにより、抱水性油剤が主溶媒である水の中で良好に分散されるともに、ペン先では合一して被膜が形成しやすいためと考える。
さらには、HLB値が4~18である非イオン性界面活性剤としては、HLB値が4~11の非イオン性界面活性剤と、HLB値が12~18の非イオン性界面活性剤と、を含んでなることが特に好ましく、これは、抱水性油剤の水中における安定性を良化させ、インキ経時安定性、筆記性能を向上できるためである。上記効果の更なる向上を考慮すると、HLB値が4~18である非イオン性界面活性剤としては、HLB値が4~8の非イオン性界面活性剤と、HLB値が12~16の非イオン性界面活性剤と、を含んでなることが最も好ましい。
【0032】
また、HLB値が4~11の非イオン性界面活性剤と、HLB値が12~18の非イオン性界面活性剤と、を用いる場合、HLB値が12~18の非イオン性界面活性剤に対する、HLB値が4~11の非イオン性界面活性剤との含有比(HLB値4~11の非イオン性界面活性剤/HLB値が12~18の非イオン性界面活性剤)が、質量基準で、0.1~5であることが好ましく、0.5~3であることがより好ましい。
含有比が上記数値の範囲内であると、抱水性油剤の分散安定性、さらには、非イオン性界面活性剤自体の安定性も良化し、インキの経時安定性を向上させることができ、さらには筆記性能も向上させる傾向にある。
また、上述のように、非イオン性界面活性剤を2種以上用いる場合には、異なる種類の非イオン性界面活性剤を用いても構わないが、同種の非イオン性界面活性剤である方が効果的である。これは、非イオン性界面活性剤がもたらす効果を十分に得て、耐ドライアップ性能、筆記性能を向上でき、さらには、優れたインキ経時安定性能も得ることができるためである。
【0033】
また、本発明において、HLB値が4~18である非イオン性界面活性剤に対する、抱水性油剤の含有比(抱水性油剤/HLB値が4~18である非イオン性界面活性剤)は、質量基準で、0.05~5であることが好ましく、0.1~2であることがより好ましく、0.2~1であることが特に好ましく、0.2~0.5であることが最も好ましい。
含有比が上記数値の範囲内であれば、抱水性油剤がインキ中で良好に分散されやすく、さらにペン先においては被膜を形成しやすく、耐ドライアップ性能と、筆記性能を向上させ、さらに、優れたインキ経時安定性を得ることができる。
【0034】
<着色剤>
本発明で用いる着色剤は、特に限定されないが、筆記具用水性インキ組成物に用いられる顔料、染料などを使用することができる。
【0035】
顔料としては、溶媒に分散可能であれば特に制限されるものではない。例えば、無機顔料、有機顔料、加工顔料などが挙げられるが、具体的にはカーボンブラック、アニリンブラック、群青、黄鉛、酸化チタン、酸化鉄、フタロシアニン系、アゾ系、キナクリドン系、キノフタロン系、スレン系、トリフェニルメタン系、ペリノン系、ペリレン系、ジオキサジン系、アルミ顔料、パール顔料、蛍光顔料、蓄光顔料等が挙げられる。その他、染料などで樹脂粒子を着色したような着色樹脂粒子や、色材を媒体中に分散させてなる着色体を公知のマイクロカプセル化法などにより樹脂壁膜形成物質からなる殻体に内包または固溶化させたマイクロカプセル顔料を用いても良い。
尚、顔料は、予め顔料分散剤を用いて微細に安定的に水媒体中に分散された水分散顔料製品等を用いてもよい。該顔料分散剤としては、水溶性樹脂、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤などが挙げられる。
染料としては、溶媒に溶解可能であれば特に制限されるものではない。例えば、直接染料、酸性染料、塩基性染料、含金染料、および各種造塩タイプ染料等が採用可能である。
これらの顔料および染料は、1種または、2種以上の混合物として使用してもかまわない。
【0036】
中でも、染料は顔料とは異なり、インキ中において、溶解状態で存在するため、抱水性油剤の界面活性剤によるインキ中の分散安定性に影響を与え難く、優れた耐ドライアップ性能、筆記性能が得られやすい。このため、本発明において、着色剤に染料を用いることは長期間、さらには乾燥状態が強い環境下においてペン先が大気に晒された状態にあっても、良好な筆跡が得られやすく、効果的である。
【0037】
本発明のインキ組成物における着色剤の含有率は、インキ組成物の総質量を基準として、0.1質量%~30質量%であることが好ましい。
【0038】
<水>
水としては、特に制限はなく、例えば、水道水、イオン交換水、限外ろ過水または蒸留水などを用いることができる。
【0039】
<その他の添加剤>
本発明のインキ組成物は、必要に応じて任意の添加剤を含むことができる。好適に用いることができる添加剤について説明すると以下の通りである。
【0040】
本発明のインキ組成物は、デキストリンを更に含んでなることが好ましい。
デキストリンは、ペン先に被膜を形成して、その被膜によりインキ中の水分の蒸発を防ぐ効果を有する。このため、抱水性油剤と、HLB値が4~18である非イオン性界面活性剤と、デキストリンと、を併用することで、水分蒸発抑制効果に一層優れた被膜を、ペン先に形成することが可能となり、耐ドライアップ性能を更に向上できる。
【0041】
デキストリンを用いる場合、デキストリンの重量平均分子量は、5000~120000であることが好ましい。120000以上であると、ペン先に形成される被膜が硬く、ドライアップ時の書き出しにおいて、筆跡がかすれやすくなる傾向があり、一方、5000未満だとデキストリンの吸湿性が高くなり、ペン先に生ずる被膜が柔らかくなりやすく、ペン先で安定した被膜が維持しにくく、インキ中の溶媒の蒸発を抑制しにくい傾向となるためである。さらに、重量平均分子量が20000より小さいと、被膜は薄くなりやすい傾向にあるため、重量平均分子量が、20000~100000であることが最も好ましい。
【0042】
デキストリンの含有率は、インキ組成物の総質量を基準として、0.1質量%~5質量%が好ましい。これは、0.1質量%より少ないと、耐ドライアップ性能の向上効果が得難い傾向にあり、5質量%を越えると、溶解安定性が劣る傾向があるためである。さらに、インキ中の溶解安定性を考慮すれば、0.1質量%~3質量%が好ましく、耐ドライアップ性能の向上を考慮すれば、1質量%~3質量%が最も好ましい。
【0043】
また、本発明においては、剪断減粘性付与剤を添加し、インキに適当な粘性を与えて実用に供することができる。用いられる剪断減粘性付与剤は従来公知のものから適宜選択することができる。その具体例としては、キサンタンガム、サクシノグリカン、カラギーナン等の多糖類、ポリアクリル酸、架橋型ポリアクリル酸、会合性ウレタンなどの合成高分子非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、等が挙げられ、1種または、2種以上の混合物として使用することが可能である。
中でも、上述のような多糖類や合成高分子は、剪断減粘性付与剤として優れた効果を有する一方、ペン先で水分が蒸発した際、強固な乾燥膜を形成し易く、耐ドライアップ性能を低下させる傾向にある。しかしながら、本発明のインキ組成物は、抱水性油剤と、HLB値が4~18である非イオン性界面活性剤により、ペン先に被膜を先に形成して水分蒸発を抑制するため、剪断減粘性付与剤が強固な被膜を形成することを十分に抑制できる。このため、剪断減粘性付与剤を用いた場合においても、本発明においては、優れた耐ドライアップ性能を得ることができる。
中でも、抱水性油剤と、HLB値が4~18である非イオン性界面活性剤との相性を考慮すると、剪断減粘性付与剤は、多糖類を用いることが好ましい。
また、抱水性油剤は、比較的、小量の添加で優れた耐ドライアップ性能をもたらすことができる。このため、剪断減粘性付与剤により付与された適正なインキの剪断減粘性に影響を与え難く、よって、インキは安定して吐出され、ボテや線ワレが抑制された良好な筆跡を残すことができる。以上より、剪断減粘性付与剤を用いたインキ(ゲルインキ)においても、抱水性油剤と、HLB値が4~18である非イオン性界面活性剤を用いることは可能であり、好適で効果的である。
【0044】
なお、抱水性油剤と、HLB値が4~18である非イオン性界面活性剤を含んでなる本発明のインキ組成物は、使用される筆記具に適当な粘度に設定することが可能であるが、上述のように剪断減粘性付与剤を用いるような場合、インキ組成物の粘度は、100mPa・s~5000mPa・sであることが好ましく、1000mPa・s~3500mPa・sであることがより好ましく、1500mPa・s~3000mPa・sであることがさらに好ましい。
インキ組成物の粘度が上記数値範囲内であると、優れたインキ追従性が得られ、得られる筆跡にウスやカスレの発生が抑制されやすく、筆跡乾燥性も良化させやすい。ここで、インキ粘度は、ブルックフィールド社製DV-II粘度計(CPE-42ローター)を用いて、20℃環境下、剪断速度1.92(sec-1)で測定することができる。
また、抱水性油剤と、HLB値が4~18である非イオン性界面活性剤を含んでなる本発明のインキ組成物は、100mPa・sより低いインキ粘度であるインキ組成物にも調整することが可能である。さらに、50mPa・s以下、さらには10mPa・s以下のインキ粘度である、低粘度インキにも調整できる。なお、この場合のインキ粘度は、B型回転粘度計(東京計器(株)製、BLアダプター使用)を用いて、20℃環境下、回転数6rpm、12rpm、30rpm、60rpmと、インキ粘度に適した回転数で測定することができる。
【0045】
また、本発明のインキ組成物は、インキ物性や機能を向上させる目的で、水溶性有機溶剤、さらには、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、キレート剤などの各種添加剤を含んでいてもよい。
【0046】
水溶性有機溶剤としては、従来の筆記具用水性インキ組成物に用いられるものを使用することができる。
例えば、(i)エチレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、またはグリセリンなどのグリコール類、(ii)メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、t-ブタノール、プロパギルアルコール、アリルアルコール、3-メチル-1-ブチン-3-オール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテートやその他の高級アルコールなどのアルコール類、および(iii)エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、3-メトキシブタノール、または3-メトキシ-3-メチルブタノールなどのグリコールエーテル類などが挙げられる。これらを1種または、2種以上の混合物として使用することが可能である。
【0047】
pH調整剤としては、アンモニア、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、水酸化ナトリウムなどの塩基性無機化合物、酢酸ナトリウム、トリエタノールアミン、ジエタノールアミンなどの塩基性有機化合物、乳酸およびクエン酸などが挙げられ、インキ組成物の経時安定性を考慮すれば、塩基性有機化合物を用いることが好ましく、より考慮すれば、弱塩基性であるトリエタノールアミンを用いることが好ましい。これらのpH調整剤は1種または、2種以上の混合物として使用してもかまわない。
【0048】
防錆剤としては、ベンゾトリアゾールおよびその誘導体、トリルトリアゾール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、チオ硫酸ナトリウム、サポニン、またはジアルキルチオ尿素などが挙げられる。
【0049】
防腐剤としては、フェノール、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸プロピル、2,3,5,6-テトラクロロ-4-(メチルスルフォニル)ピリジン、2-ピリジンチオール-1-オキシドナトリウム、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オンなどが挙げられる。
【0050】
キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(GEDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸(HIDA)、ジヒドロキシエチルグリシン(DHEG)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)およびそれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩またはアミン塩などが挙げられる。
【0051】
また、本発明において、ペン先からの水分蒸発抑制効果をより一層向上するため、尿素、ソルビット、トリメチルグリシンなどのN,N,N-トリアルキルアミノ酸、ヒアルロン酸類などの保湿剤を用いても構わない。
【0052】
さらに、樹脂エマルジョンとして、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂、ポリエステル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂など含むエマルジョンを添加することができる。
【0053】
さらには、ノニオン系、アニオン系、カチオン系界面活性剤や、アセチレン結合を構造中に有した界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤なども添加することができ、ジメチルポリシロキサンなどの消泡剤を添加することもできる。
【0054】
また、本発明のインキ組成物をボールペンに用いる場合には、潤滑剤を用いることが好ましい。
潤滑剤は、ボールペンが有するボールとボールペンチップのボール座との間の潤滑性を向上して、ボールの回転をスムーズにすることで、ボール座の摩耗を抑制し、書き味を向上するものであり、本発明においては、リン酸エステル系界面活性剤や脂肪酸を用いることが好ましい。
【0055】
中でも、本発明においては、リン酸基を有するリン酸エステル系界面活性剤を用いることが好ましい。これは、リン酸基が金属に吸着しやすい性質があることから、ボールとボール座の間の潤滑性を向上させやすく、ボールの回転性と、ボール座の摩耗抑制を向上し、滑らかな書き味をもたらしやすいためである。また、リン酸エステル系界面活性剤は、抱水性油剤と、HLB値が4~18である非イオン性界面活性剤による、ペン先からの水分蒸発抑制効果を阻害することがないことからも、好適に用いられる。
【0056】
また、前述の通り、本発明のインキ組成物は、HLB値が4~18である非イオン性界面活性剤によって、良好に分散された抱水性油剤が、ボールとボール座の間の潤滑剤となって、滑らかな書き味をもたらす傾向にある。このため、リン酸エステル系界面活性剤を更に用いることで、これらの潤滑効果が相乗的に得られ、滑らかな書き味を得やすい。さらに、ボールの回転がスムーズになることから、優れたインキ吐出性を維持することが可能となり、良好な筆跡を残すことができる。よって、本発明において、リン酸エステル系界面活性剤を更に用いることは、優れた耐ドライアップ性能を維持しながら、筆記性能、さらには書き味を向上することができるため、効果的である。
【0057】
前記リン酸エステル系界面活性剤の種類としては、直鎖アルコール系、スチレン化フェノール系、ノニルフェノール系、オクチルフェノール系等が挙げられる。
リン酸エステル系界面活性剤の具体例としては、プライサーフシリーズ(第一工業製薬(株))の中から、プライサーフA212C、同A208B、同A213B、同A208F、同A215C、同A219B、同A208N等が挙げられる。
また、脂肪酸の具体例としては、OSソープ、NSソープ、FR-14、FR-25(花王(株))等が挙げられる。
これらのリン酸エステル系界面活性剤、脂肪酸は、単独又は2種以上混合して使用してもよい。
【0058】
<インキ組成物の製造方法>
本発明によるインキ組成物は、従来知られている任意の方法により製造することができる。具体的には、前記各成分を必要量配合し、マグネットホットスターラー、プロペラ攪拌機、ホモジナイザー攪拌機、ホモディスパー、またはホモミキサーなどの各種攪拌機やビーズミルなどの各種分散機などにて混合し、製造することができる。
【0059】
<筆記具>
本発明の筆記具用水性インキ組成物を充填する筆記具自体の構造、形状は特に限定されるものではなく、従来から汎用のものが適用でき、繊維チップ、フェルトチップ、プラスチックチップをペン先としたマーキングペン(サインペン)や、ボールペンチップなどをペン先としたボールペン、さらに、金属製のペン先を用いた万年筆など、各種筆記具に用いることができる。
中でも、本発明のインキ組成物は、ボールペンチップなどをペン先としたボールペンに好適に用いられる。これは、優れた耐ドライアップ性能、筆記性能が得られる上、前述の通り、抱水性油剤がボールとボール座の間の潤滑剤となって、滑らかな書き味も得ることができるためである。
【0060】
また、本発明のインキ組成物を用いることができる筆記具としては、インキ組成物を直に充填する構成のものであってもよく、インキ組成物を充填することのできる、インキ収容体またはインキ吸蔵体を備えるものであってもよい。また、前記インキ収容体またはインキ吸蔵体が、筆記具本体に着脱自在に交換可能な構造をもつインキカートリッジ式筆記具およびコンバーター式筆記具であってもよい。
【0061】
また、本発明のインキ組成物を用いることができる筆記具は、ペン先を覆うキャップを備えたキャップ式筆記具や、ノック式、回転式およびスライド式などの軸筒内にペン先を収容可能な出没式筆記具が挙げられる。
抱水性油剤と、HLB値が4~18である非イオン性界面活性剤と、を含んでなる本発明のインキ組成物は、耐ドライアップ性能に優れることから、常にペン先が大気に晒されているような状況となる出没式筆記具に好適に用いることができる。
また、抱水性油剤と、HLB値が4~18である非イオン性界面活性剤を用いることで形成される被膜は、ペン先からのインキ漏れをも抑制できる傾向にある。よって、出没式筆記具は、耐ドライアップ性はもちろんのこと、ペン先からのインキ漏れ抑制についても考慮する必要があるため、この点からも、本発明のインキ組成物は、出没式筆記具に効果的に用いることができるといえる。
よって、本発明のインキ組成物は、出没式ボールペンに特に好適に用いることができる。
【0062】
また、本発明のインキ組成物を用いることができる筆記具の供給機構についても特に限定されるものではなく、例えば、(機構1)繊維収束体などからなるインキ誘導部をインキ流量調節部材として備え、インキ組成物をペン先に供給する機構、(機構2)くし溝状のインキ流量調節部材を備え、これを介在させ、インキ組成物をペン先に供給する機構、(機構3)弁機構によるインキ流量調節部材を備え、インキ組成物をペン先に供給する機構、および(機構4)インキ流量調節部材なしに直接、インキ組成物をペン先に供給する機構などを挙げることができる。
本発明のインキ組成物は、前述の通り、剪断減粘性付与剤を用いた場合においても、優れた耐ドライアップ性能を奏しながらも、インキ吐出性を良好とし、優れた筆記性能を得ることができる。このため、前記(機構4)の供給機構を備える筆記具に好適に用いることができる。
【実施例
【0063】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0064】
<実施例1>
下記の配合組成および方法により筆記具用水性インキ組成物を得た。
・抱水性油剤 0.5質量%
(ヘキサ(ヒドロキシステアリン酸/ステアリン酸/ロジン酸)ジペンタエリスリチル、抱水力56.9%)
・HLB値が4~18である非イオン性界面活性剤 1.0質量%
(POEヒマシ油;POE(10)ヒマシ油、HLB値:6.4)
・HLB値が4~18である非イオン性界面活性剤 0.5質量%
(POE硬化ヒマシ油;POE(80)硬化ヒマシ油、HLB値:15.0)
・着色剤 7.0質量%
(赤色染料)
・剪断減粘度付与剤 0.5質量%
(キサンタンガム)
・潤滑剤 1.0質量%
(リン酸エステル系界面活性剤)
・防腐剤 0.25質量%
(1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン)
・pH調整剤 0.5質量%
(トリエタノールアミン)
・水 88.75質量%
【0065】
着色剤、潤滑剤、pH調整剤、防腐剤、水をマグネットホットスターラーで加温撹拌などして、ベースインキを作製した。
また、抱水性油剤と、HLB値が4~18である非イオン性界面活性剤を加温溶融し、均一になるまで撹拌した。
その後、上記作製したベースインキを加温撹拌しながら、上記抱水性油剤と、HLB値が4~18である非イオン性界面活性剤の混合物を徐々に滴下した。その後、剪断減粘性付与剤を投入してホモジナイザー攪拌機を用いて均一な状態となるまで充分に混合撹拌した後、濾紙を用いて濾過を行い、実施例1の筆記具用水性インキ組成物を得た。
さらに、IM-40S型pHメーター(東亜ディーケーケー株式会社製)を用いて、20℃におけるインキ組成物のpH値を測定した結果、pH値は8.2であった。また、得られたインキ組成物の粘度をE型回転粘度計(機種:DV-II+Pro、ローター:CPE-42、ブルックフィールド社製)により、20℃環境下にて剪断速度1.92sec-1(回転数0.5rpm)の条件にてインキ粘度を測定したところ、1800mPa・sであった。
【0066】
<実施例2~実施例14、比較例1~比較例7>
実施例1に対して、配合する成分の種類や添加量を表1~表3に示した通りに変更し、インキ組成物を得た。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
上記実施例、比較例で使用した材料の詳細は以下の通りである。
表中の材料の注番号に沿って説明する。
【0071】
(1)日清オイリオグループ株式会社製、商品名:コスモール168ARV、抱水力56.9%、融点37℃
(2)日清オイリオグループ株式会社製、商品名:サラコス334、抱水力52.0%、融点40℃
(3)日清オイリオグループ株式会社製、商品名:サラコスHS、抱水力120.1%、融点52℃
(4)日光ケミカルズ株式会社製、商品名:NIKKOL フィトステリルヒドロキシステアレート、抱水力51.7%、融点70-80℃
(5)タマ生化学株式会社製、商品名:フィトステリルイソステアレート、抱水力41.5%、融点20-30℃、
(6)高級アルコール工業株式会社製、商品名:ベヘニルアルコール80R、抱水力0%、融点65-75℃
(7)富士フィルム和光純薬株式会社製、抱水力0%、融点60℃
(8)日光ケミカルズ株式会社製、商品名:NIKKOL CO-10、HLB6.4
(9)日光ケミカルズ株式会社製、商品名:NIKKOL HCO-80、HLB15.0
(10)日光ケミカルズ株式会社製、商品名:NIKKOL PBC-33、HLB10.5
(11)日光ケミカルズ株式会社製、商品名:NIKKOL SG-C420、HLB16.5
(12)オリヱント化学工業株式会社製、商品名:Water RED、赤色染料
(13)オリヱント化学工業株式会社製、商品名:Water Yellow6C、黄色染料
(14)オリヱント化学工業株式会社製、商品名:Water Blue9、青色染料
(15)第一工業製薬株式会社製、商品名:プライサーフA215C、直鎖アルコール系
(16)ロンザジャパン株式会社製、商品名:プロキセルXL-2
(17)三和澱粉工業株式会社製、商品名:サンデック#70、重量平均分子量:30000
【0072】
<試験および評価>
得られたインキ組成物を以下の方法で試験および評価を行った。得られた結果は、表1~表3の通りである。
【0073】
実施例1~実施例14、比較例1~比較例7で得られた筆記具用水性インキ組成物(0.2g)を、ボール(ボール径:0.7mm、ボール表面の算術平均粗さ(Ra):1nm)が回転自在に抱持されたボールペンチップを先端に有するインキ収容体(ポリプロピレン製)の内部に充填し、このレフィルを、(株)パイロットコーポレーション製のゲルインキボールペン(商品名:G-2)に装着し、ボールペンを作製した。
作製したボールペンを試験用筆記具とし、下記の耐ドライアップ性能試験、筆記性能試験を行った。
尚、耐ドライアップ性能試験、筆記性能試験は、試験用紙としてJIS P3201 筆記用紙Aを用いた。
【0074】
<耐ドライアップ性能試験>
試験用筆記具を、ペン先を大気に晒した状態で、50℃、全乾の条件下で7日間放置した後、試験用紙に手書きで「永」という文字(文字の大きさは縦横約8mm)を筆記し、ウスやカスレのない正常な筆跡が得られるまでにかかった文字数を測定した。5回測定した文字数の平均値を用いて、下記評価基準に従って、耐ドライアップ性能を評価した。得られた評価結果を表1~表3にまとめた。
◎◎:0.5以下
◎:0.5より大きく、1以下
○:1より大きく、2以下
×:2より大きい
××:正常な筆跡が得られなかった。
【0075】
<筆記性能試験>
耐ドライアップ性能試験で使用した試験用筆記具を用いて、正常な筆跡が得られた後、試験用紙に手書きで螺旋状の丸を連続筆記し、得られた筆跡のウスやカスレの状態を目視により観察し、筆記性能を下記評価基準に従って評価した。得られた評価結果を表1~表3にまとめた。
なお、比較例3~比較例5で得られたインキ組成物を充填した試験用筆記具は、耐ドライアップ性能試験で正常な筆跡が得られなかったため、筆記性能試験は行わなかった。
○:ウスやカスレのない良好な筆跡が得られた。
△:僅かにウスやカスレが確認されたが、実用上問題がないレベルであった。
×:ウスやカスレが多数確認され、良好な筆跡が得られなかった。
【0076】
<インキ経時安定性能試験>
実施例および比較例で得られたインキ組成物を、直径15mmの密開閉ガラス試験管に入れて、常温にて30日間放置し、インキ組成物の状態を目視により観察し、インキ経時安定性能を下記評価基準に従って評価した。得られた評価結果を表1~表3にまとめた。
◎:析出物がみられなかった。
○:析出物が極僅かに確認されたが、問題のないレベル
△:析出物が僅かに確認されたが、問題のないレベル
×:析出物が多数確認された。
【0077】
表1~表3に示した通り、実施例1~実施例14で得られたインキ組成物は、耐ドライアップ性能、筆記性能ともに良好レベルのものであった。
一方、比較例1~比較例7で得られたインキ組成物は、抱水性油剤と、HLB値が4~18である非イオン性界面活性剤と、を用いていないため、耐ドライアップ性能、筆記性能ともに満足できるインキ組成物ではなかった。
【0078】
また、実施例1~実施例14で得られたインキ組成物を充填させた試験用筆記具を用いて、室温にて、試験用紙(JIS P3201 筆記用紙A)に手書きで1行に12個の螺旋状の丸を3行連続したところ、滑らかな書き味であった。
また、実施例1~実施例3と比較例1、比較例2で得られたインキ組成物を充填させた試験用筆記具を、JIS S6039(ISO12757-1)に記載の筆記試験機により、筆記角度70°、筆記荷重100g(0.98N)、筆記速度4m/minにて100m筆記した後、表面性測定機(商品名:HEIDON-14D、新東科学株式会社製、)を用いて、筆記角度70°、4mm/min、筆記荷重100g(0.98N)の条件下で、上質紙(旧JIS P3201に規定される筆記用紙Aに相当するもの。化学パルプ100%を原料に抄造され、秤量範囲40~157g/m 、白色度75.0%以上)上で、直線筆記した際の筆記抵抗値を測定したところ、比較例1、比較例2で得られたインキ組成物を充填した試験用筆記具の筆記抵抗値に比べて、実施例1~実施例3で得られたインキ組成物を充填した試験用筆記具の筆記抵抗値の方が低い値であった。
【0079】
また、実施例3、実施例12、比較例6のインキ組成物を充填した試験用筆記具を用いて、試験用紙(コート紙)に永という文字を筆記し、1分放置した後、筆跡をJKワイパー150-S(日本製紙クレシア(株)製)で擦った。比較例6で得られたインキ組成物を充填した試験用筆記具を用いて得られた筆跡はのびて紙面が汚れたことに対し、実施例3、実施例12で得られたインキ組成物を充填した試験用筆記具を用いて得られた筆跡はのびず、筆跡乾燥性に優れていることがわかった。
【0080】
以上より、抱水性油剤と、HLB値が4~18である非イオン性界面活性剤と、着色剤と、水と、を含んでなる筆記具用水性インキ組成物は、耐ドライアップ性能に優れており、ペン先が暫く大気に晒された状態においても良好な筆跡が得られ、さらに、ペン先からのインキ吐出安定性も良好であり、ウスやカスレが抑制された良好な筆跡が得られるなど、筆記性能にも優れたもので、さらに、インキ経時安定性、書き味、筆跡乾燥性にも優れており、前記筆記具用水性インキ組成物を用いた筆記具は、筆記具として優れたものであることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明のインキ組成物は、ボールペン、マーキングペン、万年筆、筆ペン、カリグラフィー用のペンなどの各種筆記具に用いることができ、該インキ組成物が収容されてなる筆記具は、耐ドライアップ性能に優れながらも、筆記性能にも優れ、良好な筆跡をもたらすことができるなど、筆記具として優れたものである。