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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】診断
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/569 20060101AFI20240112BHJP
   C07K 16/12 20060101ALI20240112BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20240112BHJP
   C07K 14/35 20060101ALI20240112BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240112BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240112BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20240112BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20240112BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240112BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20240112BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20240112BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20240112BHJP
   A61P 19/04 20060101ALI20240112BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240112BHJP
   A61P 21/02 20060101ALI20240112BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240112BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240112BHJP
   G01N 33/02 20060101ALI20240112BHJP
   G01N 33/18 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
G01N33/569 F
C07K16/12 ZNA
C07K16/46
C07K14/35
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P31/04
A61P1/04
A61P17/06
A61P29/00
A61P25/16
A61P3/10
A61P19/02
A61P19/04
A61P25/28
A61P21/02
A61P11/00
A61P43/00 107
G01N33/02
G01N33/18 F
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2019557690
(86)(22)【出願日】2018-01-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-03-05
(86)【国際出願番号】 GB2018050075
(87)【国際公開番号】W WO2018130836
(87)【国際公開日】2018-07-19
【審査請求日】2020-12-17
(31)【優先権主張番号】1700487.0
(32)【優先日】2017-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】510095950
【氏名又は名称】ハブ バクシーンズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハーモン-テイラー,ジョン
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-504149(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0220565(US,A1)
【文献】特表2021-524485(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0129502(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0215028(US,A1)
【文献】国際公開第2012/159121(WO,A2)
【文献】特表2006-514551(JP,A)
【文献】Mark L. V. Tizard et al.,p43, the protein product of the atypical insertion sequence IS900, is expressed in Mycobacterium paratuberculosis,Journal of General Microbiology,1992年,vol.138, no.8,pp.1729-1736
【文献】Tim Doran,IS900 targets translation initiation signals in Mycobacterium avium subsp. paratuberculosis to facilitate expression of its hed gene,Microbiology,1997年,Vol.143,Page.547-552
【文献】Antonio M. Scanu,Mycobacterium avium Subspecies paratuberculosis Infection in Cases of Irritable Bowel Syndrome and Comparison with Crohn’s Disease and Johne’s Disease: Common Neural and Immune Pathogenicities,JOURNAL OF CLINICAL MICROBIOLOGY,2007年,Vol.45 No.12,Page.3883-3890
【文献】12.ヨーネ菌,2010年03月15日,https://www.fsc.go.jp/sonota/hazard/H21_12.pdf
【文献】百渓英一,ヨーネ菌菌体成分による宿主免疫修飾と炎症性腸疾患発症機序の解明,科学研究費助成事業 研究成果報告書,2016年,https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-23240061/23240061seika.pdf
【文献】横溝祐一,牛ヨーネ病に関する最新知見と防疫戦略,山口獣医学雑誌,1999年12月,No.12,Page.1-26
【文献】HORACIO BACH,Immunogenicity of Mycobacterium avium subsp. paratuberculosis proteins in Crohn’s disease patients,Scandinavian Journal of Gastroenterology,2011年,Vol.46,Page.30-39
【文献】Manju Singh,‘Nano-immuno test’ for the detection of live Mycobacterium avium subspecies paratuberculosis bacilli in the milk samples using magnetic nano-particles and chromogen,Veterinary Research Communications,2018年04月26日,Vol.42 No.3,Page.183-194
【文献】Manju Singh,Profiling of Mycobacterium avium subspecies paratuberculosis in the milk of lactating goats using antigen-antibody based assays,Comparative Immunology, Microbiology and Infectious Diseases,2019年,Vol.64,Page.53-60
【文献】Samin Zamani,Mycobacterium avium subsp. paratuberculosis and associated risk factors for inflammatory bowel disease in Iranian patients,Gut Pathog,2017年,Vol.9,Page.1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/569
C07K 16/12
C07K 16/46
C07K 14/35
A61K 39/395
A61P 31/04
A61P 1/04
A61P 17/06
A61P 29/00
A61P 25/16
A61P 25/00
A61P 3/10
A61P 19/02
A61P 19/04
A61P 25/28
A61P 21/02
A61P 11/00
A61P 43/00
G01N 33/02
G01N 33/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨーネ菌(Mycobacterium avium subspecies paratuberculosis;MAP)感染を検出するためのエクスビボの方法であって、前記方法は対象由来のサンプル中のIS900のプラス鎖によってコードされるポリペプチド(MAP P900)またはその断片の存在を検出することを含み、MAP P900またはその断片はMAP P900に結合する抗体またはその抗原結合断片を用いて検出され、前記抗体またはその抗原結合断片が、配列番号1のアミノ酸24~71または329~386によって規定されるMAP P900の領域に結合するものである、前記方法。
【請求項2】
前記抗体またはその抗原結合断片が、
配列番号1のアミノ酸26~71;
配列番号1のアミノ酸329~385;
配列番号1のアミノ酸26~39;
配列番号1のアミノ酸52~68;
配列番号1のアミノ酸345~359または350~359;
配列番号1のアミノ酸26~71、但しセリン37はリン酸化されている;または
配列番号1のアミノ酸345~359または350~359、但しセリン357はリン酸化されている、かつ/またはセリン358はリン酸化されている;
によって規定されるMAP P900の領域に結合するものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
2つ以上の前記抗体またはその抗原結合断片がMAP P900を検出するために使用される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記方法が、
配列番号1のアミノ酸26~71によって規定されるMAP P900の領域に結合する少なくとも1つの抗体、および配列番号1のアミノ酸329~385によって規定されるMAP P900の領域に結合する少なくとも1つのさらなる抗体;
配列番号1のアミノ酸26~39によって規定されるMAP P900の領域に結合する少なくとも1つの抗体、および配列番号1のアミノ酸52~68によって規定されるMAP P900の領域に結合する少なくとも1つのさらなる抗体;
配列番号1のアミノ酸52~68によって規定されるMAP P900の領域に結合する少なくとも1つの抗体、および配列番号1のアミノ酸345~359または350~359によって規定されるMAP P900の領域に結合する少なくとも1つのさらなる抗体;
配列番号1のアミノ酸26~71によって規定されるMAP P900の領域に結合する少なくとも1つの抗体、および配列番号1のアミノ酸345~359または350~359によって規定されるMAP P900の領域に結合する少なくとも1つのさらなる抗体;または
配列番号1のアミノ酸26~71、但しセリン37はリン酸化されている、によって規定されるMAP P900の領域に結合する少なくとも1つの抗体、および配列番号1のアミノ酸345~359または350~359、但しセリン357および/またはセリン358はリン酸化されている、によって規定されるMAP P900の領域に結合する少なくとも1つのさらなる抗体
を使用する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって、配列番号1のアミノ酸273~406の間のMAP P900の領域またはそのいずれかの断片が、膜結合型MAP P900から切断されているかどうかを決定することを含む、前記方法。
【請求項6】
切断されたMAP P900の領域またはその断片が、膜結合型MAP P900を含有する微生物細胞および/または宿主細胞から拡散しているかどうかを決定することを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
アミノ酸24~71によって規定されるMAP P900の領域に結合する抗体が、アミノ酸配列MVINDDAQRLLSQR、AAVTTLADGGEVTWAIDもしくはMVINDDAQRLL[pS]QRに結合するものであり、かつ/あるいは、配列番号1のアミノ酸329~386によって規定されるMAP P900の領域に結合する抗体が、アミノ酸配列YLSALVSIRTDPSSRもしくはNLKRPRRYDRRLLRAに、または1つ以上のセリン残基がリン酸化されているアミノ酸配列YLSALVSIRTDPSSRに結合するものである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
非リン酸化MAP P900配列に特異的に結合する少なくとも1つの抗体、およびリン酸化MAP P900配列に特異的に結合する少なくとも1つのさらなる抗体を使用する、請求項3~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
非リン酸化MAP P900配列がMVINDDAQRLLSQRであり、かつリン酸化MAP P900配列がMVINDDAQRLL[pS]QRである、または、非リン酸化MAP P900配列がYLSALVSIRTDPSSRもしくはVSIRTDPSSRであり、かつリン酸化MAP P900配列がYLSALVSIRTDPS[pS]R、YLSALVSIRTDP[pS]SR、YLSALVSIRTDP[pS][pS]R、VSIRTDPS[pS]R、VSIRTDP[pS]SRもしくはVSIRTDP[pS][pS]Rである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の方法であって、サンプルが体液のサンプルまたは組織サンプルである、前記方法。
【請求項11】
体液が血液、精液、羊水、脳脊髄液、滑液もしくは母乳であるか、または組織が皮膚サンプル、消化管、甲状腺、リンパ節、脳もしくは尿生殖路である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
対象がクローン病、乾癬、甲状腺炎、パーキンソン病、1型糖尿病、関節炎、強直性脊椎炎、もしくは過敏性腸症候群を有する、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
対象が動物である、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
MAP感染を検出するためのエクスビボの方法における、MAP P900に結合する抗体またはその抗原結合断片の使用であって、前記抗体またはその抗原結合断片が、配列番号1のアミノ酸24~71または329~386によって規定されるMAP P900の領域に結合するものである、前記使用。
【請求項15】
食品中のMAPを検出するための、MAP P900に結合する抗体またはその抗原結合断片の使用であって、前記抗体またはその抗原結合断片が、配列番号1のアミノ酸24~71または329~386によって規定されるMAP P900の領域に結合するものである、前記使用。
【請求項16】
食品が乳もしくは他の乳製品または肉製品である、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
環境サンプル中のMAPを検出するための方法における、MAP P900に結合する抗体またはその抗原結合断片の使用であって、前記抗体またはその抗原結合断片が、配列番号1のアミノ酸24~71または329~386によって規定されるMAP P900の領域に結合するものである、前記使用。
【請求項18】
環境サンプルが地表水、河川水、水処理施設の水、家庭用水またはエアロゾル、土壌もしくは堆積物のサンプルである、請求項17に記載の使用。
【請求項19】
質量分析(MS)評価のためにペプチドを捕捉するための、MAP P900に結合する抗体またはその抗原結合断片の使用であって、前記抗体またはその抗原結合断片が、配列番号1のアミノ酸24~71または329~386によって規定されるMAP P900の領域に結合するものである、前記使用。
【請求項20】
MAP感染を診断又は監視する方法における使用のための医薬であって、前記医薬が、MAP P900に結合する抗体またはその抗原結合断片を含み、前記抗体またはその抗原結合断片が、配列番号1のアミノ酸24~71または329~386によって規定されるMAP P900の領域に結合するものである、医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヨーネ菌(Mycobacterium avium subspecies paratuberculosis;MAP)の検出に関する。特に、本発明は、MAP感染、およびそのような感染に付随する障害の診断、監視および治療に関する。本発明は、MAPタンパク質に特異的に結合する抗体およびMAPに特異的なペプチド断片、ならびにそれらの抗体およびペプチド断片の使用を提供する。
【背景技術】
【0002】
ヨーネ菌(Mycobacterium avium subspecies paratuberculosis;MAP)は、マイコバクテリウム・アビウム複合体(Mycobacterium avium complex;MAC)のメンバーであるマイコバクテリア病原体である。他の環境MACとは異なり、MAPは霊長類を含む多くの動物において様々な組織病理学的な種類の腸の慢性炎症を引き起こす特異的な能力を有する。
【0003】
MAPは、雌牛における腸の慢性炎症の原因として1895年にドイツから最初に報告された。この病状は、ヨーネ病(JD)と呼ばれるようになった。20世紀前半の間、JDは主にヨーロッパと北米に波及したが、その後世界中に広がり、世界的問題になった。
【0004】
MAP感染は、明らかな臨床的JDがないまま、何年もの間家畜において存在し続け得るものであり、その間家畜はMAPをその乳および牧草地に放出する。牧草地からの流出によって、河川および地表水が汚染され、そこからヒトがエアロゾルおよび家庭用水供給において曝露され得る。ヒト集団はまた、乳中の残存生存MAPに曝露され得るものであり、低温殺菌による乳からのその排除は保証されていない。残存生存MAPの存在は、幼児用粉ミルクにおいて最近確認された(Botsaris et al. “Detection of viable Mycobacterium avium subspecies paratuberculosis in powdered infant formula by phage-PCR and confirmed by culture” International Journal of Food Microbiology 2016; 216: 91-94)。MAPは霊長類を含む多くの種において感染し腸の慢性炎症を引き起こすことが可能であることが現在知られている。ヒトにおけるクローン病(CD)の発症へのその関与が長い間疑われてきたが、証拠が増えているのにもかかわらず、この公衆衛生の大きな未確定事項は解決されていない(Hermon-Taylor. “Mycobacterium avium subspecies paratuberculosis, Crohn’s Disease and the Doomsday Scenario” Gut Pathogens 2009; 1:15)。
【0005】
MAPはクローン病の罹患組織ではこれまで見られておらず、現在のところ、ヒト医療においてMAP感染に対して実際に適用可能な臨床診断検査は存在しない。ヒトにおいて実際に適用可能な臨床診断がないことは、満たされていない大きな医学的ニーズである(Nacy and Buckey, “Mycobacterium avium paratuberculosis: Infrequent Human Pathogen or Public Health Threat? A Report from the American Academy of Microbiology” 2008)。さらに、動物に対して利用可能なMAP診断は、グレードの低い無症候性感染の早期発見には優れていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Botsaris et al. “Detection of viable Mycobacterium avium subspecies paratuberculosis in powdered infant formula by phage-PCR and confirmed by culture” International Journal of Food Microbiology 2016; 216: 91-94
【文献】Hermon-Taylor. “Mycobacterium avium subspecies paratuberculosis, Crohn’s Disease and the Doomsday Scenario” Gut Pathogens 2009; 1:15
【文献】Nacy and Buckey, “Mycobacterium avium paratuberculosis: Infrequent Human Pathogen or Public Health Threat? A Report from the American Academy of Microbiology” 2008
【発明の概要】
【0007】
本発明者は、ヨーネ菌(Mycobacterium avium subspecies paratuberculosis;MAP)を検出するための感度が良く信頼できる方法を開発した。本発明者は、MAPに対して特異性が高く、MAPの表面上ならびにMAP感染宿主細胞の内部および表面上に露出しているMAPの領域を認識する抗体を開発した。当該抗体はMAP IS900のプラス鎖によってコードされるポリペプチドに結合する。当該抗体を使用して、本発明者は、MAPがクローン病だけでなく乾癬、橋本甲状腺炎、過敏性腸症候群および他のものを含む他の疾患および病状の患者由来のサンプル中に広く存在することを示した(Scanu et al. “Mycobacterium avium Subspecies paratuberculosis Infection in Cases of Irritable Bowel Syndrome and Comparison with Crohn's Disease and Johne's disease: Common Neural and Immune Pathogenicities” Journal Clinical Microbiology. 2007; 45: 3883-3890)。本発明者は、罹患領域由来の組織サンプルだけでなく、血液および母乳を含む体液中においてもMAPを検出した。本発明者は、MAP生物、MAPに感染した細胞、および切断されたMAPポリペプチド断片を検出するために当該抗体を使用することができることを示した。
【0008】
さらに、本発明者は、MAP IS900のプラス鎖によってコードされるポリペプチド内の非リン酸化配列、またはリン酸化後の同じ配列のいずれかに特異的な抗体(すなわち、これらの抗体は相互排他的である)を開発した。これらの非リン酸化およびリン酸化特異的抗体を使用して、本発明者はリン酸化状態をMAP感染の状態を決定するために使用することができることを見出した。本発明者はまた、非リン酸化およびリン酸化特異的抗体を、MAP感染のレベルおよび活性を評価するために、組み合わせて使用することができることを見出した。
【0009】
本発明者は、MAPに対して最大の特異性を有し、かつ免疫原性であるMAP P900ポリペプチドのペプチド断片を同定した。MAP P900ポリペプチドの接近可能な細胞外アミノ末端およびカルボキシ末端部分の中からの標的アミノ酸配列の選択は、MAP病原体に対するその特異性に主に依存し、それらに対する診断用抗体が密接に関連した配列と交差反応しないようにする。
【0010】
したがって、本発明は、ヨーネ菌(Mycobacterium avium subspecies paratuberculosis;MAP)感染を診断または監視する方法を提供し、当該方法は対象由来のサンプルにおいてIS900(MAP IS900)のプラス鎖によってコードされるポリペプチド(MAP P900)またはその断片の存在を検出することを含み、ここでMAP P900またはその断片はMAP P900に結合する抗体またはその抗原結合断片を用いて検出される。
【0011】
抗体またはその抗原結合断片は、好ましくは配列番号1のアミノ酸24~71または329~386によって規定されるMAP P900の領域に結合する。好ましい抗体またはその抗原結合断片は、
配列番号1のアミノ酸26~71;
配列番号1のアミノ酸329~385;
配列番号1のアミノ酸26~39;
配列番号1のアミノ酸52~68;
配列番号1のアミノ酸345~359または350~359;
配列番号1のアミノ酸26~71(セリン37はリン酸化されている);
配列番号1のアミノ酸345~359または350~359(セリン357はリン酸化されている、かつ/またはセリン358はリン酸化されている)
によって規定されるMAP P900の領域に結合する。
【0012】
本発明の方法は、MAP P900を検出するために2つ以上の前記抗体またはその抗原結合断片を利用するものであってもよい。例えば、当該方法は、
配列番号1のアミノ酸26~71によって規定されるMAP P900の領域に結合する少なくとも1つの抗体、および配列番号1のアミノ酸329~385によって規定されるMAP P900の領域に結合する少なくとも1つのさらなる抗体;
配列番号1のアミノ酸26~39によって規定されるMAP P900の領域に結合する少なくとも1つの抗体、および配列番号1のアミノ酸52~68によって規定されるMAP P900の領域に結合する少なくとも1つのさらなる抗体;
配列番号1のアミノ酸52~68によって規定されるMAP P900の領域に結合する少なくとも1つの抗体、および配列番号1のアミノ酸345~359または350~359によって規定されるMAP P900の領域に結合する少なくとも1つのさらなる抗体;
配列番号1のアミノ酸26~71(セリン37は場合によりリン酸化されている)によって規定されるMAP P900の領域に結合する少なくとも1つの抗体、および配列番号1のアミノ酸345~359または350~359(セリン357および/またはセリン358は場合によりリン酸化されている)によって規定されるMAP P900の領域に結合する少なくとも1つのさらなる抗体
を利用するものであってもよい。
【0013】
一実施形態では、本発明の方法は、配列番号1のアミノ酸273~406の間のMAP P900の領域またはそのいずれかの断片が、膜結合型MAP P900から切断されているか否か、ならびに場合により、MAP P900の切断された領域またはその断片が、膜結合型MAP P900を含有する微生物細胞および/または宿主細胞から拡散しているか否かを決定することを含む。
【0014】
一実施形態では、本発明の方法は、非リン酸化MAP P900配列に特異的に結合する少なくとも1つの抗体、およびリン酸化MAP P900配列に特異的に結合する少なくとも1つのさらなる抗体を使用する。好ましくは、非リン酸化MAP P900配列はMVINDDAQRLLSQRであり、かつリン酸化MAP P900配列はMVINDDAQRLL[pS]QRであり、または、非リン酸化MAP P900配列はYLSALVSIRTDPSSRもしくはVSIRTDPSSRであり、かつリン酸化MAP P900配列はYLSALVSIRTDPS[pS]R、YLSALVSIRTDP[pS]SR、YLSALVSIRTDPS[pS]R、VSIRTDPS[pS]R、VSIRTDP[pS]SRもしくはVSIRTDP[pS][pS]Rである。
【0015】
サンプルは、好ましくは体液のサンプルまたは組織サンプルである。体液は、例えば血液、精液、羊水、脳脊髄液、滑液もしくは母乳であってもよく、または組織は、例えば皮膚、筋肉、消化管、甲状腺、リンパ節、脳もしくは尿生殖路であってもよい。
【0016】
対象は、好ましくはクローン病、乾癬、甲状腺炎、パーキンソン病、1型糖尿病、関節炎、強直性脊椎炎、過敏性腸症候群、潰瘍性大腸炎、炎症性腸疾患、アルツハイマー病、多発性硬化症、サルコイドーシス、特発性肺線維症および/または慢性疲労症候群を有する。
【0017】
本発明はまた、以下を提供する:
配列番号1のアミノ酸26~71によって規定されるMAP P900の領域に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片、好ましくはアミノ酸配列MVINDDAQRLLSQR、AAVTTLADGGEVTWAIDまたはMVINDDAQRLL[pS]QRに結合する抗体またはその抗原結合断片;
配列番号1のアミノ酸26~71または345~371によって規定されるMAP P900の領域内のリン酸化配列に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片;好ましくは、1つ以上のセリン残基がリン酸化されている場合に配列MVINDDAQRLLSQRまたはYLSALVSIRTDPSSRに結合する抗体またはその抗原結合断片;
配列番号1のアミノ酸329~360によって規定されるMAP P900の領域内の、アミノ酸配列YLSALVSIRTDPSSRまたはNLKRPRRYDRRLLRA、またはそのいずれかのリン酸化型に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片;
MAP感染を診断または監視するエクスビボの方法における、本明細書において規定される抗体またはその抗原結合断片の使用;
MAP感染の治療、またはクローン病、潰瘍性大腸炎、乾癬、甲状腺炎、サルコイドーシス、パーキンソン病、多発性硬化症、1型糖尿病、関節炎、強直性脊椎炎および過敏性腸症候群、炎症性腸疾患、アルツハイマー病、多発性硬化症、特発性肺線維症および/もしくは慢性疲労症候群を有する対象の治療を監視するエクスビボの方法における、本明細書において規定される抗体またはその抗原結合断片の使用;
乳、別の乳製品、または肉製品などの食品中のMAPを検出するための、本明細書において規定される抗体またはその抗原結合断片の使用;
地表水、河川水、水処理施設の水、家庭用水またはエアロゾル、土壌もしくは堆積物のサンプルなどの環境サンプル中のMAPを検出するための、本明細書において規定される抗体またはその抗原結合断片の使用;
質量分析(MS)またはマスサイトメトリー評価のためにペプチドを捕捉するための、本明細書において規定される抗体またはその抗原結合断片の使用;
以下の配列:MVINDDAQRLLSQR、VTTLADGGEVTWAID、NLKRPRRYDRRLLRA、VSIRTDPSSRおよびYLSALVSIRTDPSSRのうち1つ以上を含む最大40アミノ酸のMAP P900のペプチド断片、ここでペプチドは場合によりリン酸化されており、リン酸化ペプチドは好ましくは以下の配列:MVINDDAQRLL[pS]QRまたはYLSALVSIRTDPS[pS]R、YLSALVSIRTDP[pS]SRまたはYLSALVSIRTDP[pS][pS]Rのうちの1つを含むものである;
MAP P900に特異的に結合する抗体を作製する方法、ここで当該方法は、本明細書において規定されるペプチドを実験動物に投与して免疫反応を生じること、およびその動物から抗体を単離することを含む;
ヒトまたは動物の体に対して行われる治療または診断方法における使用のための、本明細書において規定される抗体またはその抗原結合断片。
MAP感染を治療または予防する方法における使用のための、本明細書において規定される抗体またはその抗原結合断片。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、ヨーネ菌(Mycobacterium avium subspecies paratuberculosis;MAP)に対する2つの特異的モノクローナル抗体を使用した、クローン病の40歳男性の回腸におけるMAP ISP900の染色を示す。ここで、A1は赤色であり(右上)、A4は緑色である(左上)。下のパネルは2つを一緒に示す。
図2図2は、A1(赤色/右上)およびA4抗体(緑色/左上)を用いて染色した、クローン病の個体の横行結腸を示す。下のパネルは2つを一緒に示す。
図3図3は、A1(赤色/右上)およびA4抗体(緑色/左上)を用いて染色した、クローン病の個体の回腸を示す。下のパネルは2つを一緒に示す。
図4図4は、A1(赤色/右上)およびA4抗体(緑色/左上)を用いて染色した、クローン病の3ヶ月齢の男児の直腸を示す。下のパネルは2つを一緒に示す。
図5図5は、A1(赤色/右上)およびA4抗体(緑色/左上)を用いて染色した、ヨーネ病のヒツジにおける腸管細動脈を示す。下のパネルは2つを一緒に示す。
図6図6は、A1(赤色/右上)およびA4抗体(緑色/左上)を用いて染色した、クローン病の個体における腸管細動脈を示す。下のパネルは2つを一緒に示す。
図7図7は、A0X抗体を用いて染色した、母乳中のMAP積載白血球を示す。
図8図8は、血中のMAP積載白血球を示す。細胞の位相差像(右上)およびA0X抗体を用いた染色(左上)を示す。下のパネルは2つの画像の重ね合わせである。
図9図9は、重篤なクローン病の25歳男性の血液由来の単球細胞を赤色でA4により染色したもの(右上)、および緑色でXA4Pにより染色したもの(左上)を示す。細胞は穿孔処理されていないため、染色は細胞の表面を指向しており、ほぼ確実にその機能を阻害する。モノクローナル抗体の標的は、1セリン残基を含む同じアミノ酸配列を含む。このセリンはA4標的ではリン酸化されておらず、XA4P標的ではリン酸化されている。リン酸化が起きると標的はその免疫原性を変化させ、それらは両方とも互いに近接して細胞表面に集まるが、混ざり合わない。したがって、A4およびXA4Pモノクローナル抗体を使用すれば、2つのMAP産物の作用を用いて分子を追跡し、それらの位置を調べることが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
配列表の簡単な説明
配列番号1は、MAPにおけるMAP IS900のプラス鎖によってコードされるP900のアミノ酸配列である。
下線は予測膜貫通領域を示す。
【0020】
本発明は、IS900のプラス鎖によってコードされるポリペプチド(P900)に特異的に結合する抗体を用いて、ヨーネ菌(Mycobacterium avium subspecies paratuberculosis)を検出するための新規な方法を提供する。MAP P900のアミノ酸配列は、配列番号1に示されている。
【0021】
本発明は、サンプル中のヨーネ菌(Mycobacterium avium subspecies paratuberculosis;MAP)の有無を検出する方法に関し、この方法は、患者由来のサンプル中において、IS900(MAP IS900)のプラス鎖によってコードされるポリペプチド(P900)、またはその断片の有無を検出することを含み、ここでMAP P900ポリペプチドまたはその断片は、P900に結合する抗体またはその抗原結合断片を用いて検出される。
【0022】
特に、本発明は、ヨーネ菌(Mycobacterium avium subspecies paratuberculosis;MAP)感染を診断または監視する方法に関し、この方法は、患者由来のサンプル中において、IS900(MAP IS900)のプラス鎖によってコードされるポリペプチド、またはその断片の存在を検出することを含み、ここでMAP P900ポリペプチドまたはその断片は、MAP P900に結合する抗体またはその抗原結合断片を用いて検出される。
【0023】
抗体
本出願は、IS900のプラス鎖によってコードされるポリペプチド(P900)および/またはその断片に特異的に結合する抗体またはその抗体結合断片を利用する。P900のアミノ酸配列を配列番号1に示す。より好ましくは、抗体またはその抗体結合断片は、MAPに対して細胞外のP900の領域に結合する。MAPに対して細胞外の領域は、好ましくは配列番号1のアミノ酸24~71内、好ましくはアミノ酸26~71内(N末端細胞外領域)、または配列番号1のアミノ酸329~386内、好ましくはアミノ酸329~385内(C末端細胞外領域)である。
【0024】
本発明は、MAP P900のN末端細胞外領域またはC末端細胞外領域に特異的に結合する抗体およびその抗体結合断片を提供する。
【0025】
本発明の好ましい抗体またはその抗原結合断片は、配列番号1のアミノ酸26~71によって規定されるP900の領域に特異的に結合するか、または配列番号1のアミノ酸26~71もしくは329~385によって規定されるP900の領域内のリン酸化配列に特異的に結合する抗体および抗体断片を含む。
【0026】
抗体またはその抗体結合断片は、MAPに特異的なP900内のアミノ酸配列に結合する、すなわち、抗体またはその抗体結合断片は、ユニークなMAP配列に結合する。特に、抗体が結合する配列は、当技術分野で公知の密接に関連するM.アビウム菌種(M. avium sp.)において、特にM.アビウム菌種アビウム(M avium spp avium)、M.アビウム菌種シルバット(M avium ssp sylvat)、M.アビウム2333(M avium 2333)、M.アビウム・チェブナエ(M avium chebnae)、M.ポルシナム(M porcinum)、M.ローデシアエ(M Rhodesiac)、M.サーモレジスティバイル(M thermoresistibile)、M.アビウム16 p44(M avium 16 p44)、M.アビウム2285(M avium 2285); M.イントラセルラーレ(M intracellulare); M.ゼノピ(M xenopi)、M.アビウムp44(M avium p44)、M.アビウム・シルバティカム(M avium silvaticum)、M.アビウム・ホミニッスイス(M avium hominissuis)、レイフソニア・キシリーTR(Liefsonia xyli TR)および/またはM.アビウムAF071067(M avium AF071067)において、DNA挿入エレメントによってコードされる相同配列中に見出されない。抗体またはその抗体結合断片は、MAP P900配列に結合するが、他の関連生物由来の相同配列には結合しない。
【0027】
抗体またはその抗体結合断片は、P900内の線状エピトープ(すなわち特定のアミノ酸配列)に結合するものであってもよい。抗体またはその抗体結合断片は、典型的には免疫原としてP900の合成ペプチド断片を用いて生成される。したがって、抗体または抗体断片は、P900のペプチド断片に結合し得る。特に抗体が結合する断片がMAPに感染した細胞において全長P900から切断され、その細胞からその断片が次第に枯渇し、その断片が別の細胞に移行し得る場合には、P900の断片のみに結合する抗体と同様に、P900の断片ならびに全長P900に結合する抗体を本発明の方法に使用してもよい。抗体は、マイコバクテリア(MAP)細胞およびMAPに感染した宿主細胞の表面上のP900に結合することが好ましい。このような抗体は典型的にはMAPのペプチド断片にも結合する。
【0028】
抗体またはその抗原結合断片は、P900内の非リン酸化配列に特異的に結合するもの、またはP900内のリン酸化配列に特異的に結合するものであってもよい。抗体またはその抗原結合断片は、P900のリン酸化状態にかかわらず、P900のアミノ酸配列に結合するものであってもよい。
【0029】
P900ポリペプチドは、セリン、チロシンおよび/またはスレオニン残基でリン酸化されていてもよい。抗体またはその抗原結合断片は、これらの残基のうちの1つ以上でリン酸化されているP900配列に特異的に結合するものであってもよい。好ましくは、リン酸化残基はセリン残基である。抗体またはその抗原結合断片は、1つ以上のセリン残基(および/または1つ以上のチロシンおよび/または1つ以上のスレオニン残基)がリン酸化されているP900配列にのみ結合するか、または隣接セリン残基を含む1つ以上のセリン残基(および/または1つ以上のチロシンおよび/または1つ以上のスレオニン残基)がリン酸化されていないP900配列にのみ結合するものであってもよい。
【0030】
抗体またはその抗原結合断片は、配列番号1のアミノ酸24~71または329~386内、例えば配列番号1のアミノ酸345~371内の非リン酸化配列に特異的に結合するものであってもよい。抗体またはその抗原結合断片は、配列番号1のアミノ酸24~71または329~386によって規定されるP900の領域内、好ましくは配列番号1のアミノ酸26~71または345~371内のリン酸化配列に特異的に結合するものであってもよい。
【0031】
抗体またはその抗原結合断片は、
配列番号1の残基24~44(YCMVINDDAQRLLSQRVANDE‐A0X部位と呼ぶ)、好ましくは配列番号1の残基26~39(MVINDDAQRLLSQR‐A0Xと呼ぶ)、もしくはS37がリン酸化されている残基26~39(MVINDDAQRLL[pS]QR‐A0XPと呼ぶ);
配列番号1の残基52~71(AAVTTLADGGEVTWAIDLNA‐XA1部位と呼ぶ)、好ましくは配列番号1の残基52~68(AAVTTLADGGEVTWAID‐XA1と呼ぶ);または
配列番号1の残基329~360(NLKRPRRYDRRLLRACYLSALVSIRTDPSSRT)、好ましくは配列番号1の残基329~343(NLKRPRRYDRRLLRA‐A3と呼ぶ)、配列番号1の残基345~359(YLSALVSIRTDPSSR‐XA4と呼ぶ)、1つ以上のセリン残基がリン酸化されている、好ましくはS357(YLSALVSIRTDPS[pS]R)もしくはS358(YLSALVSIRTDPS[pS]R‐XA4Pと呼ぶ)のいずれかがリン酸化されている、もしくはS357とS358の両方(YLSALVSIRTDP[pS][pS]R)がリン酸化されている配列番号1の残基345~359;
配列番号1の残基350~359(VSIRTDPSSR‐A4)、もしくはS357もしくはS358のいずれかがリン酸化されている、もしくはS357とS358の両方がリン酸化されている配列番号1の残基350~359;
配列番号1の残基370~386(KRHTQAVLALARRRLNV);または
配列番号1の残基370~385(KRHTQAVLALARRRLN)
内のアミノ酸配列に特異的に結合するものであってもよい。
【0032】
抗体は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体、好ましくはモノクローナル抗体、またはその抗原結合断片であってもよい。抗体は、ヒト、ヒト化またはキメラ抗体であってもよく、またはマウス抗体もしくはウサギ、ヤギ、ロバもしくはアルパカなどの別の種由来の抗体であってもよい。抗体は組換え抗体であってもよい。
【0033】
抗体の「抗原結合断片」という用語は、MAP P900および/またはMAP P900のペプチド断片に特異的に結合する能力を保持する抗体の1つ以上の断片を指す。適切な断片の例には、Fab断片、F(ab')2断片、Fab'断片、Fd断片、Fv断片、dAb断片、および単離された相補性決定領域(CDR)が含まれる。scFvなどの単鎖抗体ならびにVHHおよびラクダ抗体などの重鎖抗体もまた、抗体の「抗原結合部分」という用語の中に包含されることが意図される。抗原結合断片は、例えば、単一ドメイン「ナノボディ」(Fridy et al. “A robust pipeline for rapid production of versatile nanobody repertoires.” Nature Methods. 2014; 11: 1253-1260);ペグ化断片;二重特異性断片(例えば、ペプチドリンカーによって連結された2つのscFv断片);細菌性毒素もしくはその変異型、例えばシュードモナス(Pseudomonas)外毒素Aもしくはブドウ球菌(Staphylococcal)エンテロトキシンAにコンジュゲートしたもの;ポリエチレングリコールにコンジュゲートしたもの;タンデムダイアボディ;または、二重親和性再標的化(DART)分子(Sheridan “Ablynx’s nanobody fragments go places anotibodies cannot” Nature Biotechnology 2017 35: 1115-1117)であってもよい。
【0034】
抗体またはその抗原結合断片は標識されていてもよい。標識は、本発明の検出方法においてP900に結合した抗体の検出を助ける。標識は、フルオロフォア、ホースラディッシュペルオキシダーゼなどの酵素、金ビーズ、放射性同位体、または特定の合成ペプチドエピトープもしくは合成オリゴヌクレオチドもしくはランタニドなどのタグであってもよい。抗体または抗原結合断片を標識するために、任意の適切なフルオロフォアが用いられてもよい。例えば、フルオロフォアは、緑色蛍光タンパク質、ローダミン、オレゴングリーン、エオシンまたはテキサスレッドであってもよい。本発明の方法が一対の抗体またはその抗原結合断片を使用する場合、その対の各メンバーは、例えば赤色フルオロフォアおよび緑色フルオロフォアなどの異なる色のフルオロフォアで、異なって標識されることが好ましく、その場合、サンプルに対する各々の抗体の結合を区別することができ、かつ/または抗体の共局在を検出することができる。
【0035】
MAP感染の診断および監視
本発明は、MAP感染を診断または監視するエクスビボの方法における、本発明の抗体またはその抗原結合断片の使用を提供する。当該方法は、MAP感染を有すると診断された対象を治療することをさらに含んでもよい。当該方法は、MAP感染症を有する対象の治療を変更することをさらに含んでもよく、ここでMAP感染は対象において監視されている。例えば、治療は、リファブチンおよびクラリスロマイシンを含む組み合わせなどの1つ以上の抗菌剤を、単独でまたは1つ以上の追加の治療薬と組み合わせて患者に投与する治療であってもよい。治療は予防的または治療的MAPワクチンであってもよい。治療は、本明細書に記載の抗体などの抗MAPモノクローナル抗体を対象に投与する受動免疫療法を含んでもよい。
【0036】
本発明によって提供されるMAP P900を検出する方法は、被験体においてMAP感染を検出するために使用してもよい。典型的には、当該方法は、ヒトまたは動物の対象から採取されたサンプルを用いてエクスビボで行われる。対象は、クローン病、乾癬、甲状腺炎、パーキンソン病、多発性硬化症、1型糖尿病、関節炎、強直性脊椎炎、大腸炎、炎症性腸疾患または過敏性腸症候群、アルツハイマー病、サルコイドーシス、特発性肺炎および/または慢性疲労症候群を有するか、または有することが疑われるものであってもよい。対象は健康な対象であってもよい。健康な対象は、上記に列挙した疾患のいずれかなど、MAP感染に付随する疾患の症状を全く有さないヒトまたは動物である。動物では、対象はMAPに感染しているか、またはヨーネ病を有することが疑われるものであってもよい。動物はいかなる動物でもよいが、好ましくは実験動物、野生動物、ペット、またはより好ましくは家畜である。家畜は、好ましくは、雌牛、ヤギ、ヒツジまたはシカなどの、乳生産または食肉用に使用される動物である。当該方法は、MAP感染を診断するため、またはMAP感染を監視するために使用してもよい。MAP感染は、感染の進行を判定するために監視してもよい。したがって、本発明の方法は、MAP感染の経過を調べるために、および/または対象における感染の状態を判定するために使用してもよい。
【0037】
MAP P900に特異的な抗体またはその抗体結合断片は、ヒトおよび動物におけるMAP感染を診断し、定量化し、および特徴付けるために、単独でまたは複数で使用してもよい。例えば、1、2、3、4、5の、またはそれより多い抗体を本発明の方法において使用してもよい。典型的には、本発明の方法において使用される抗体は、異なるP900配列に、および/または、同じP900配列であるがリン酸化型および非リン酸化型のものに特異的である。
【0038】
本発明者は、MAPの感染、および/またはMAPに感染した対象における細胞を、MAP P900に特異的な抗体を用いて、対象から採取した組織サンプルを染色することで、検出することができることを見出した。染色は任意の適切な手段によって見ることができる。顕微鏡、特に共焦点顕微鏡を用いて、MAPに感染した対象の細胞を同定することができる。MAPは感染細胞内の別個の細胞内粒子として見ることができる。MAP P900に特異的な抗体はまた、対象の感染細胞の表面上のMAP P900を検出するために使用することもできる。
【0039】
さらに、本発明の方法は、配列番号1のアミノ酸26~71および/もしくは273~406の間のMAP P900の領域、またはそのいずれかの断片が膜結合型MAP P900から切断されたかどうかを決定することを含んでもよい。
【0040】
これを行う1つの方法は、配列番号1のアミノ酸26~71の間の領域などのP900の第1の領域に特異的に結合する少なくとも1つの抗体、および配列番号1のアミノ酸273~406の間の領域などのP900の第2の領域に対する少なくとも一つの抗体を用いることである。P900の第1の領域に対する抗体がP900の第2の領域に対する抗体と共局在しない場合、P900の断片は切断され放出されている。この状況では、切断および放出の程度に応じて、2つの抗体の部分的な共局在はある程度あってもよい。抗体の共局在は、任意の適切な方法によって決定することができる。例えば、第1の抗体は緑色フルオロフォアで、第2の抗体は赤色フルオロフォアで標識することができる。サンプルへの標識抗体の結合は、適切な顕微鏡(共焦点顕微鏡など)を使用して可視化することができる。緑色または赤色の染色が観察される場合は、第1および第2の抗体の一方だけが結合している領域を示し、一方、金色、橙色または黄色の染色は、両方の抗体が共局在している場所を示す。
【0041】
P900から切断される断片は、配列番号1の329~386、329~385、または370~386の領域内にあり得る。典型的には、断片は、配列番号1の329~360、好ましくは配列番号1の残基329~359、329~343、345~360、345~359、350~359または350~360、S357もしくはS358のいずれかがリン酸化されているか、またはS357とS358の両方がリン酸化されている、配列番号1の残基329~360、329~359、345~360または345~359、350~359または350~360に結合する、抗体またはその抗原結合断片を用いて検出することができる。
【0042】
本発明の方法によって検出される切断断片は、MAPに感染していないが感染した宿主細胞に隣接しているかまたは近接している対象の細胞において検出され得る。そのような細胞において、抗体は細胞質区画を染色する。対象の細胞の細胞質区画中のMAP P900断片の存在は、MAP感染のステージの指標として使用することができる。
【0043】
本発明の方法で試験されるサンプルは組織のサンプルであってもよい。組織は通常、感染が疑われる部位から採取される。組織サンプルは、皮膚のサンプル、口、胃腸管、甲状腺、肺、リンパ節、脳または尿生殖路に由来するサンプルであってもよい。サンプルは、特に対象がクローン病を有するか、またはクローン病または大腸炎、炎症性腸疾患もしくは過敏性腸症候群などの別の胃腸障害を有すると疑われる場合の腸生検であってもよい。腸サンプルは、食道、胃、十二指腸、空腸、回腸、盲腸、虫垂、結腸および直腸ならびに肛門周囲領域のうちの任意の1つ以上から採取してもよい。本発明の方法はまた、血管内、例えば腸の血管内のMAP感染を監視することによって血管炎を監視するために使用してもよい。サンプルは、対象が乾癬を有するかまたは有すると疑われる皮膚であってもよい。サンプルは、典型的には、対象が橋本甲状腺炎を有する、または有することが疑われる甲状腺サンプルである。
【0044】
MAP P900および/またはその断片はまた、MAPに感染した対象由来の、血中、および母乳または滑液などの他の体液中で検出され得る。したがって、本発明の方法において試験されるサンプルは、血液、尿、精液、羊水、脳脊髄液、滑液、および痰または母乳などの体液のサンプルであってもよい。
【0045】
MAP感染の状態はまた、非リン酸化P900に特異的な抗体およびリン酸化P900に特異的な抗体を用いて決定してもよい。典型的には、当該方法は、P900の同じアミノ酸配列に結合する抗体を使用し、ここで第1の抗体は非リン酸化配列に結合し、第2の抗体はリン酸化配列に結合する。
【0046】
例えば、ヒトでは、MVINDDAQRLLSQRに結合する抗体は、腸組織におけるP900の存在を検出するために使用することができるが、MVINDDAQRLL[pS]QRに結合する抗体は腸組織を染色しない。しかし、MVINDDAQRLL[pS]QRに対する抗体は、ヒト血液における感染した白血球(WBC)においてP900またはその断片に結合するため、血中のMVINDDAQRLL[pS]QRの存在は、対象において腸から血液へのMAP感染の進行を示し得る。
【0047】
同一または類似のP900配列のリン酸化および非リン酸化形態、好ましくはMVINDDAQRLLSQR(A0X)およびMVINDDAQRLL[pS]QR(A0XP)またはVSIRTDPSSR(A4)およびYLSALVSIRTDPS[pS]R(XA4P)に対する抗体は、MAP感染のレベルの尺度を提供するために使用することができる。この状況において、非リン酸化型の配列はリン酸化酵素の基質であり、リン酸化配列はリン酸化酵素の活性の生成物である。基質と生成物は、基質の枯渇が生成物の増加と一致する、互いに動的な関係にある。所与の時点で、基質、生成物のいずれか、または基質と生成物の両方を含む循環白血球(WBC)、およびそれらの個々の系列の合計は、MAPに感染した循環WBCの割合の尺度を提供する。非リン酸化およびリン酸化ペプチドの間の比率は、疾患活性と治療に対する反応との臨床的相関を提供する可能性がある系の活性を反映する。典型的には、抗体が相互に排他的である場合、例えば、抗体がリン酸化配列または非リン酸化配列のいずれかに結合するが両方には結合しない場合、抗体結合の総量は、サンプル中に存在するP900の総量およびMAPに感染した宿主細胞の割合の指標を与える。例えば、感染したWBCの数および/または割合は、WBC中のMAPを検出するためにA0XおよびA0XP抗体を使用して決定することができる。感染したWBCの数および/または割合は感染の重症度と相関する。感染の重症度は、感染した個体、例えばクローン病の人における炎症症状とも相関する。クローン病の個体では、血中の感染WBCのパーセンテージは約50%と高いことが示されているが、表2に示すようにより低い場合がある。
【0048】
本発明者は、N末端のA0Xおよび/またはA0XP抗体染色が、C末端のXA4および/またはXA4P染色と常に共局在する訳ではないことを示すことによって、MAP P900のC末端が切断されることを実証した。したがって、本発明の抗体および抗体は、MAP P900のC末端の切断、放出および/または移動を含む発症機構を監視するために使用することができる。本発明の方法は、対象の治療後にMAP感染を監視するために使用してもよい。対象の治療は、MAP感染を標的とすることを意図した治療、またはMAP感染に付随するかもしくはMAP感染によって引き起こされる疾患、例えばクローン病、乾癬、甲状腺炎、パーキンソン病、多発性硬化症、アルツハイマー病、1型糖尿病、関節炎、強直性脊椎炎、大腸炎、炎症性腸疾患もしくは過敏性腸症候群、サルコイドーシス、特発性肺線維症および/もしくは慢性疲労症候群の治療であってもよい。したがって、本発明は、MAP感染症の治療の有効性、またはMAP感染に対する上記の病状のいずれか、または他の病状の治療の効果を監視するための方法を提供する。例えば、治療は、リファブチンおよびクラリスロマイシンを含む組み合わせなどの1つ以上の抗菌剤を、単独で、または1つ以上の追加の治療薬と組み合わせて、患者に投与する治療であってもよい。治療は予防的または治療的MAPワクチンであってもよい。治療は、本明細書に記載の抗体およびペプチドなどの抗MAPモノクローナル抗体を対象に投与する受動免疫療法を含んでもよい。
【0049】
本発明の使用
本発明の方法は、臨床、環境および/または食品サンプルのMAP汚染を検出するために使用することができる。そのような方法において、MAP P900に特異的な抗体またはその抗体結合断片は、単独で、または複数で使用してもよい。例えば、1、2、3、4、5またはそれより多い抗体を本発明の方法において使用することができる。典型的には、本発明の方法において使用される抗体は、異なるP900配列に、または同じP900配列であるがリン酸化型および非リン酸化型のものに特異的である。
【0050】
本発明はまた、ヒトもしくは動物の食品サンプルまたは環境サンプル中のMAPを検出するための、本発明の抗体またはその抗原結合断片の使用を提供する。
【0051】
食品サンプルは、乳もしくは他の乳製品または肉製品などの食品のサンプルであってもよい。MAP感染は、雌牛および肉牛、ヒツジおよびヤギの群れ、ならびに飼育シカを含む家畜に広く存在することが知られている。感染は全身性であることが知られており、本技術によって確認されたように、これらの病原体は、臨床徴候またはELISAなどの従来の診断試験の陽性の存在がない場合でさえ、血中に豊富に存在し得る。MAP感染の特定の特徴は、試験された全ての種の乳中にMAP積載細胞が移動することであり、その結果、子孫は、最も感染しやすい出生後すぐに、より毒性の強い細胞内形態のMAPに曝される。MAPは結核菌(M. tuberculosis)よりも熱安定性が高く、低温殺菌条件において生き残ることができる。ヒト集団は、小売低温殺菌乳供給品中のMAPに曝される。現在乳中のMAPに利用可能な最良の試験はPCRベースであり、これは技術的に要求が厳し過ぎるものであり、広範な用途には費用がかかる。
【0052】
環境サンプルは、典型的には、地表水、河川水、家庭用水、および水処理施設の水、エアロゾル、土壌、または堆積物のサンプルである。臨床サンプルのMAP試験に影響していた技術的な困難は、感染した動物から環境中への放出、ヒトへの曝露までの間の、集水域に由来するサンプルにおいてMAPを試験するのに使用されるものにも当てはまる。本発明の抗体、抗体断片およびペプチドは、MAPを捕捉および測定するために使用することができる。
【0053】
ペプチド
本発明は免疫原性MAPペプチドを提供する。ペプチドは、配列番号1のアミノ酸26~71、またはこの配列の断片を含んでもよい。断片は典型的には少なくとも10アミノ酸、例えば少なくとも11、12、13、14または15アミノ酸を含む。断片は、20、25、30、35、40または44アミノ酸の上限を有していてもよい。断片は、配列番号1の残基24~44の断片であってもよく、または配列番号1の残基24~44を含むより長い断片であってもよい。好ましい断片は、配列番号1の残基26~39からなるかまたはそれを含む断片、および配列番号1の残基52~68からなるかまたはそれを含む断片、例えば配列番号1の残基52~71を含むかまたはそれからなる断片を含む。
【0054】
ペプチドは、配列番号1のアミノ酸345~359を含むか、またはそれからなるものであってもよい。配列番号1のアミノ酸345~359を含むペプチドは、16~40アミノ酸、例えば20~30または22~27アミノ酸、例えば25アミノ酸の長さを有するものであってもよく、典型的にはP900の断片である。
【0055】
本発明は、1つ以上のセリン残基および/または1つ以上のチロシン残基および/または1つ以上のスレオニン残基がリン酸化されている、配列番号1のアミノ酸26~71もしくは配列番号1のアミノ酸329~385、またはこれらの配列のいずれかの断片、例えば配列番号1のアミノ酸345~371を含むリン酸化ペプチドを提供する。本発明のリン酸化ペプチドの例は、S37がリン酸化されている配列番号1のアミノ酸26~39、S357もしくはS358のいずれかがリン酸化されているかまたはS357とS358の両方がリン酸化されている配列番号1の残基350~359を含むかまたはそれらからなる。これらのリン酸化配列のうちの1つを含むペプチドは、15~40アミノ酸、例えば20~30または22~27アミノ酸、例えば25アミノ酸の長さを有するものであってもよく、典型的にはP900の断片である。ペプチドは、1以上のセリン残基および/または1以上のチロシン残基および/または1以上のスレオニン残基にてリン酸化されていてもよい。そのようなより長い断片は、配列番号1の残基345~359からなるかまたはそれを含むペプチド、例えば配列番号1の残基329~360からなるかまたはそれを含むペプチドを含む。
【0056】
本発明のペプチドは、N末端および/もしくはC末端で修飾されていてもよく、かつ/または担体分子にコンジュゲートまたは結合していてもよい。ペプチドは、例えば、細菌性糖類または担体タンパク質、例えばキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、ウシ血清アルブミン(BSA)、ヒト血清アルブミン(HSA)またはオボアルブミン(OVA)にコンジュゲートされていてもよい。ペプチドは、N末端もしくはC末端でビオチン化されていてもよく、N末端もしくはC末端でアミド化されていてもよく、および/またはN末端もしくはC末端にペプチドタグが付加されていてもよい。ペプチドタグは、例えば、ポリリジン、例えば分岐ポリリジン8量体、またはオリゴアルギニン(例えば、ポリアルギニン8量体または9量体(nonomer))などの細胞透過性ペプチドであってもよい。好ましくは、ペプチドはN末端がビオチン化されており、C末端にアミド基または分岐ポリリジン8量体を有する。場合により他の末端修飾に加えて、1以上のさらなるアミノ酸残基がN末端および/またはC末端に付加されていてもよい。例えば、免疫原性および特異性を増加させるために、1つ以上、例えば2つのアラニン残基がN末端に付加されていてもよく、および/または荷電残基、例えばGKKが、疎水性を低下するためにN末端または好ましくはC末端に付加されていてもよい。GKKなどの残基が一方の末端に付加されている場合、KKGなどの鏡像残基が他方の末端に付加されていてもよい。
【0057】
本発明はまた、本発明のペプチドおよび抗体をコードするポリヌクレオチド、ならびにそのようなポリヌクレオチドを含む発現ベクターおよびそのような発現ベクターを含む宿主細胞を提供する。
【0058】
ペプチドの使用
本発明のペプチドは、本発明における使用のための抗体を作製するために使用することができる。本発明は、免疫原としての使用のための本発明のペプチドを提供する。
【0059】
本発明は、MAP P900に特異的に結合する抗体を作製する方法を提供し、この方法は、免疫応答を生じるために実験動物に本発明のペプチドを投与すること、および動物から抗体を単離することを含む。動物としては、例えば、マウス、ウサギ、ラット、ヤギ、ロバ、アルパカが挙げられる。この方法は、単離された抗体をスクリーニングすることをさらに含んでもよい。単離された抗体は、抗体が本発明のペプチドに結合するかどうか、および抗体が1つ以上の近縁生物由来の相同ペプチドに結合するかどうかを決定することによって、MAP P900への特異的結合についてスクリーニングされてもよい。ペプチドは、それが本発明のペプチドに結合するが、関連生物由来の相同ペプチドには結合しない、またはMAPペプチドよりも低い程度で関連ペプチドに結合する、例えば30%以下、20%以下、10%以下、5%以下の結合を示す場合、MAP P900に特異的であるとして選択される。例えば、少なくとも1の、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10の、またはそれよりも多い関連生物を選択してもよい。関連生物は、典型的には他のM.アビウム菌種(M avium sp.)であり、例えば、M.アビウム菌種アビウム(M avium spp avium)、M.アビウム菌種シルバット(M avium ssp sylvat)、M.アビウム2333(M avium 2333)、M.アビウム・チェブナエ (M avium chebnae)、M.ポルシナム(M porcinum)、M.ローデシアエ(M Rhodesiac)、M.サーモレジスティバイル(M thermoresistibile)、M.アビウム16 p44(M avium 16 p44)、M.アビウム2285(M avium 2285);M イントラセルラーレ(M intracellulare);M ゼノピ(M xenopi)、M.アビウムp44(M avium p44)、M.アビウム・シルバティカム(M avium silvaticum)、M.アビウム・ホミニッスイス(M avium hominissuis)、レイフソニア・キシリーTR(Liefsonia xyli TR)およびM.アビウムAF071067(M avium AF071067)から選択されてもよい。関連生物由来の例示的なペプチドは、実施例に記載されている。
【0060】
本発明のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、標準的方法によって作製することができる。
【0061】
抗体は、以下のいずれかの方法でスクリーニング/検証することができる:
1.培養されたMAP、およびその細胞外表現型が関連するマイコバクテリアの染色。
2.細胞培養における、培養されたMAP、およびその細胞内表現型が関連するマイコバクテリアの染色。
3.MAPおよび他のマイコバクテリア溶解物のウエスタンブロット、およびブロットの現像。
4.MAPにおける同一ペプチド、および他の生物中の関連ペプチドに結合するモノクローナル抗体のELISA。
5.組織中の染色および非染色領域のレーザー捕捉顕微解剖、続いてDNA抽出、MAP特異的PCR、およびアンプリコンシークエンシングによる検証。
6.抗体染色した細胞の蛍光活性化細胞分離およびPCR。
7.同一の合成標的ペプチドによって組織抗体染色がブロックされること、および関連しないペプチドではブロックされないこと。
例示的な方法は実施例に記載されている。
8.感染細胞の細胞質中のサブミクロンMAP粒子上への複数のモノクローナル抗体の共局在。
【0062】
医学的使用/治療方法
本発明は、ヒトまたは動物の体に対して行われる治療または診断方法における使用のための本発明の抗体または抗原結合抗体断片を提供する。治療方法は、典型的には対象におけるMAP感染の治療または予防である。診断方法は典型的にはMAP感染の診断である。
【0063】
本発明はまた、MAP感染を治療、予防または診断する方法における使用のための医薬の製造における本発明の抗体または抗原結合抗体断片の使用を提供する。
【0064】
それを必要とする対象においてMAP感染を治療または予防する方法もまた本発明によって提供され、その方法は対象に治療上または予防上有効量の本発明の抗体または抗原結合抗体断片を投与することを含む。対象は、以下の疾患のいずれも有していないもの、以下の疾患の1つ以上を有するものであってもよい:クローン病、乾癬、甲状腺炎、パーキンソン病、1型糖尿病、関節炎、強直性脊椎炎、過敏性腸症候群、潰瘍性大腸炎、炎症性腸疾患、アルツハイマー病、多発性硬化症、サルコイドーシス、特発性肺線維症および/または慢性疲労症候群。
本発明は以下の態様も提供する。
[1] ヨーネ菌(Mycobacterium avium subspecies paratuberculosis;MAP)感染を診断または監視する方法であって、前記方法は対象由来のサンプル中のIS900のプラス鎖によってコードされるポリペプチド(MAP P900)またはその断片の存在を検出することを含み、MAP P900またはその断片はMAP P900に結合する抗体またはその抗原結合断片を用いて検出される、前記方法。
[2] 前記抗体またはその抗原結合断片が、配列番号1のアミノ酸24~71または329~386によって規定されるMAP P900の領域に結合するものである、[1]に記載の方法。
[3] 前記抗体またはその抗原結合断片が、
配列番号1のアミノ酸26~71;
配列番号1のアミノ酸329~385;
配列番号1のアミノ酸26~39;
配列番号1のアミノ酸52~68;
配列番号1のアミノ酸345~359または350~359;
配列番号1のアミノ酸26~71、但しセリン37はリン酸化されている;
配列番号1のアミノ酸345~359または350~359、但しセリン357はリン酸化されている、かつ/またはセリン358はリン酸化されている;
によって規定されるMAP P900の領域に結合するものである、[1]または[2]に記載の方法。
[4] 2つ以上の前記抗体またはその抗原結合断片がMAP P900を検出するために使用される、[1]~[3]のいずれか一に記載の方法。
[5] 前記方法が、
配列番号1のアミノ酸26~71によって規定されるMAP P900の領域に結合する少なくとも1つの抗体、および配列番号1のアミノ酸329~385によって規定されるMAP P900の領域に結合する少なくとも1つのさらなる抗体;
配列番号1のアミノ酸26~39によって規定されるMAP P900の領域に結合する少なくとも1つの抗体、および配列番号1のアミノ酸52~68によって規定されるMAP P900の領域に結合する少なくとも1つのさらなる抗体;
配列番号1のアミノ酸52~68によって規定されるMAP P900の領域に結合する少なくとも1つの抗体、および配列番号1のアミノ酸345~359または350~359によって規定されるMAP P900の領域に結合する少なくとも1つのさらなる抗体;
配列番号1のアミノ酸26~71、但しセリン37は場合によりリン酸化されている、によって規定されるMAP P900の領域に結合する少なくとも1つの抗体、および配列番号1のアミノ酸345~359または350~359、但しセリン357および/またはセリン358は場合によりリン酸化されている、によって規定されるMAP P900の領域に結合する少なくとも1つのさらなる抗体;
を使用する、[4]に記載の方法。
[6] 配列番号1のアミノ酸273~406の間のMAP P900の領域またはそのいずれかの断片が、膜結合型MAP P900から切断されているかどうかを決定することを含む、[5]に記載の方法。
[7] MAP P900の切断された領域またはその断片が、膜結合型MAP P900を含有する微生物細胞および/または宿主細胞から拡散しているかどうかを決定することを含む、[6]に記載の方法。
[8] アミノ酸24~71によって規定されるMAP P900の領域に結合する抗体が、アミノ酸配列MVINDDAQRLLSQR、AAVTTLADGGEVTWAIDもしくはMVINDDAQRLL[pS]QRに結合するものであり、かつ/あるいは、配列番号1のアミノ酸329~386によって規定されるMAP P900の領域に結合する抗体が、アミノ酸配列YLSALVSIRTDPSSRもしくはNLKRPRRYDRRLLRAに、または1つ以上のセリン残基がリン酸化されているアミノ酸配列YLSALVSIRTDPSSRに結合するものである、[2]~[6]のいずれか一に記載の方法。
[9] 非リン酸化MAP P900配列に特異的に結合する少なくとも1つの抗体、およびリン酸化MAP P900配列に特異的に結合する少なくとも1つのさらなる抗体を使用する、[4]~[8]のいずれか一に記載の方法。
[10] 非リン酸化MAP P900配列がMVINDDAQRLLSQRであり、かつリン酸化MAP P900配列がMVINDDAQRLL[pS]QRである、または、非リン酸化MAP P900配列がYLSALVSIRTDPSSRもしくはVSIRTDPSSRであり、かつリン酸化MAP P900配列がYLSALVSIRTDPS[pS]R、YLSALVSIRTDP[pS]SR、VSIRTDP[pS][pS]R、VSIRTDP[pS]SRもしくはVSIRTDP[pS][pS]Rである、[9]に記載の方法。
[11] サンプルが体液のサンプルまたは組織サンプルである、[1]~[10]のいずれか一に記載の方法。
[12] 体液が血液、精液、羊水、脳脊髄液、滑液もしくは母乳であるか、または組織が皮膚サンプル、消化管、甲状腺、リンパ節、脳もしくは尿生殖路である、[11]に記載の方法。
[13] 対象がクローン病、乾癬、甲状腺炎、パーキンソン病、1型糖尿病、関節炎、強直性脊椎炎、過敏性腸症候群、潰瘍性大腸炎、炎症性腸疾患、アルツハイマー病、多発性硬化症、サルコイドーシス、特発性肺線維症、および/または慢性疲労症候群を有する、[1]~[12]のいずれか一に記載の方法。
[14] 対象が動物である、[1]~[12]のいずれか一に記載の方法。
[15] 配列番号1のアミノ酸26~71によって規定されるMAP P900の領域に特異的に結合する、抗体またはその抗原結合断片。
[16] 抗体がアミノ酸配列MVINDDAQRLLSQR、AAVTTLADGGEVTWAIDまたはMVINDDAQRLL[pS]QRに結合するものである、[15]に記載の抗体またはその抗原結合断片。
[17] 配列番号1のアミノ酸26~71または345~371によって規定されるMAP P900の領域内のリン酸化配列に特異的に結合する、抗体またはその抗原結合断片。
[18] 抗体が、1つ以上のセリン残基がリン酸化されている場合に配列MVINDDAQRLLSQRまたはYLSALVSIRTDPSSRに結合するものである、[17]に記載の抗体またはその抗原結合断片。
[19] 配列番号1のアミノ酸329~360によって規定されるMAP P900の領域内のアミノ酸配列YLSALVSIRTDPSSRもしくはNLKRPRRYDRRLLRAまたはそのいずれかのリン酸化型に特異的に結合する、抗体またはその抗原結合断片。
[20] モノクローナル抗体、キメラ抗体、組換え抗体、合成抗体または単一ドメイン抗体である、[15]~[19]のいずれか一に記載の抗体。
[21] 標識抗体である、[15]~[20]のいずれか一に記載の抗体。
[22] MAP感染を診断または監視するエクスビボの方法における、[1]~[21]のいずれか一に規定された抗体またはその抗原結合断片の使用。
[23] MAP感染の治療、またはクローン病、潰瘍性大腸炎、乾癬、甲状腺炎、サルコイドーシス、パーキンソン病、多発性硬化症、1型糖尿病、関節炎、強直性脊椎炎および過敏性腸症候群、炎症性腸疾患、アルツハイマー病、多発性硬化症、特発性肺線維症および/もしくは慢性疲労症候群を有する対象の治療を監視するエクスビボの方法における、[1]~[21]のいずれか一に記載の抗体またはその抗原結合断片の使用。
[24] 食品中のMAPを検出するための、[1]~[21]のいずれか一に記載の抗体またはその抗原結合断片の使用。
[25] 食品が乳もしくは他の乳製品または肉製品である、[24]に記載の使用。
[26] 環境サンプル中のMAPを検出するための方法における、[1]~[21]のいずれか一に記載の抗体またはその抗原結合断片の使用。
[27] 環境サンプルが地表水、河川水、水処理施設の水、家庭用水またはエアロゾル、土壌もしくは堆積物のサンプルである、[26]に記載の使用。
[28] 質量分析(MS)評価のためにペプチドを捕捉するための、[1]~[21]のいずれか一に規定された抗体またはその抗原結合断片の使用。
[29] 以下の配列:MVINDDAQRLLSQR、VTTLADGGEVTWAID、NLKRPRRYDRRLLRA、VSIRTDPSSRおよびYLSALVSIRTDPSSRのうち1つ以上を含む最大40アミノ酸のMAP P900のペプチド断片であって、ペプチドが場合によりリン酸化されている、前記ペプチド断片。
[30] ペプチドがMAP P900アミノ酸配列の最大25アミノ酸からなる、[29]に記載のペプチド。
[31] ペプチドがリン酸化されており、以下の配列:MVINDDAQRLL[pS]QRまたはYLSALVSIRTDPS[pS]R、YLSALVSIRTDP[pS]SRまたはYLSALVSIRTDP[pS][pS]Rのうちの1つを含む、[29]または[30]に記載のペプチド。
[32] ペプチドが、N末端および/もしくはC末端で改変されており、ならびに/または担体分子にコンジュゲートされている、もしくは結合しているものである、[29]~[31]のいずれか一に記載のペプチド。
[33] MAP P900に特異的に結合する抗体を作製する方法であって、[29]~[31]のいずれか一に記載のペプチドを実験動物に投与して免疫反応を生じること、およびその動物から抗体を単離することを含む、前記方法。
[34] 抗体が[29]~[31]のいずれか一に記載のペプチドに結合するかどうか、および抗体が関連生物由来の相同なペプチドに結合するかどうかを決定することによって、MAP P900への特異的結合について、単離された抗体をスクリーニングすることをさらに含む、[33]に記載の方法であって、ここでペプチドは、[29]~[31]のいずれか一に記載のペプチドに結合するが関連生物由来の相同なペプチドには結合しない場合に、MAP P900に特異的である、前記方法。
[35] ヒトまたは動物の体に対して行われる治療または診断方法における使用のための、[1]~[21]のいずれか一に規定された抗体またはその抗原結合断片。
[36] MAP感染を治療または予防する方法における使用のための、[1]~[21]のいずれか一に規定された抗体またはその抗原結合断片。
【実施例
【0065】
以下の実施例は本発明を例示する。
【0066】
実施例1:本発明の抗体の開発段階
段階1.P900におけるマウス抗体結合ペプチドドメインのマッピング
MAPゲノムの99.6%は、DNA配列および遺伝子構成において、環境中にならびに健康な動物およびヒト内に遍在する他のM.アビウム種(M. avium sp)のものと実質的に同一である。それ故、立体的に接近可能であり、かつヒトにおける細胞内感染中に豊富に発現されるMAP上のユニークな標的を見出すことは難しい。MAPゲノムにおいて予測された4,377のORFのうち、IS900をコードする遺伝子(NCBIアクセッション:AE016958.1)が選択された。IS900は、1985年の終わりにMAPの3つのクローン病分離株において本発明者と同僚らによって発見された1451~53bpのDNA挿入エレメントである(E. Green et al Nucleic Acids Research 1989;17: 9063-73)。それは、MAPゲノム全体にわたって高度に保存された部位に挿入された14~18の同一コピーでMAP中に存在する。この多コピーエレメントはそれ自身のプロモーターを有し、ヒトにおいて豊富に発現され、幅広い病原性表現型に寄与する。
【0067】
IS900のプラス鎖には406アミノ酸のタンパク質(P900)が予測される。その全長アミノ酸配列はMAPにユニークであるが、P900分子の大部分をカバーする、密接に関連するマイコバクテリアおよび放線菌におけるP900の「そっくりさん」が存在する。
【0068】
IS900のプラス鎖によってコードされる全長P900タンパク質は大腸菌細胞に有毒である。P900のアミノ酸49~377からなる、より毒性の低いトランケート型が作製され、大腸菌において組換えタンパク質として発現された。
【0069】
遊離組換えタンパク質は十分な免疫応答を誘導しないことが分かったため、10匹のマウスを、磁気ビーズに付着させた組換えトランケート型P900タンパク質で免疫した。免疫したマウス由来の血清を、固定化P900に対するELISAによってスクリーニングし、4匹の陽性マウスを同定した。これらのマウス由来の脾臓細胞をハイブリドーマ融合に使用し、10個の親クローンを得た。ELIAAVTTLADGGEV...から...DRKRTEGKRHTQAVLまでのトランケート型P900アミノ酸配列に及ぶ、10アミノ酸ずつ重複する64個の合成15アミノ酸ペプチドのライブラリーに対して、これらおよびその逐次サブクローンに由来する上清をスクリーニングした。抗体はすべてIgMであり、クローンは最終的に不安定であることが判明した。所望のモノクローナル試薬を得ることができないにもかかわらず、8個のペプチドまたはペプチドクラスターが、トランケート型P900タンパク質内で免疫原性のものとして同定された。ペプチドライブラリーにおいて、これらにはペプチドNo.2-VTTLADGGEVTWAID、27-NKSRAALILLTGYQT、41-AKEVMALDTEIGDTD、42-ALDTEIGDTDAMIEE、および配列GRISGNLKRPRRYDRRLLRACYLSALVSIRTDPSSRTYYD内のクラスターが含まれていた。
【0070】
バイオインフォマティクスを用いて、以下を考慮してこれらの候補配列を調べた:(i)特に当技術分野で周知の密接に関連するM.アビウム菌種(M. avium sp)におけるDNA挿入エレメントによってコードされる相同配列と比較した、MAPに対する特異性;(ii)抗体に接近可能なMAPの外部表面上の予測位置;ならびに(iii)抗体認識、MAP感染細胞内の位置、移動、安定性、輸送および機能に影響を及ぼし得るリン酸化、ミリスチル化、グリコシル化、シグナルモチーフおよび限定的タンパク質分解切断部位などの、翻訳後修飾の予測部位。
【0071】
【表1】
【0072】
段階2.ウサギにおけるP900配列に対するポリクローナル抗体の調製、ならびにヒトおよび動物に対するその試験
【0073】
ポリクローナル抗体調製:A1-VTTLADGGEVTWAIDLNA、A2-NKSRAALILLTGYQTPDA、A3-NLKRPRRYDRRLLRAGYL、およびA4-YLSALVSIRTDPSSRとして指定される、好ましい最初のペプチドが同定された。これらは、ポリリジンコア上の合成分岐オクタペプチド免疫原として調製され、ウサギを免疫するために使用された。ポリクローナル抗体の適切な力価が、A1、A3、およびA4について容易に達成された。A2はウサギにおいて免疫原性ではなかった。A2はまたMAPにおいて細胞内のものであり、それ以上研究されなかった。
【0074】
フロイント完全アジュバント(M. tuberculosis H37Ra、Difco、USA)と反応するA1およびA3血清中の抗体を、過剰量の抗原を用いて完全に抽出した。A4のアジュバントとしては、フロイント不完全抗原のみを使用した。ウサギポリクローナル試薬A1、A3およびA4は、それらの標的配列を検出する能力、ひいてはヒトおよび動物組織ならびにヒト血液中のMAP免疫反応性を調べる予備的研究に適用した。
【0075】
ヒト組織におけるMAP免疫反応性:当初の研究では、英国のロンドンのセントトーマス病院の内視鏡クリニックに通うクローン病(CD)と診断された14人の患者と、スクリーニングまたは経過観察のために通う炎症性腸疾患のない(nIBD)10人の対照患者から新鮮な腸粘膜生検を得た。倫理的承認は現地の倫理委員会によって与えられた(EC03/053)。生検をJung組織凍結液に包埋し、内視鏡検査室にて液体窒素中で瞬間凍結した。それらは次に実験室に運ばれ、そこでコード付与されて使用するまで-80℃で貯蔵した。
【0076】
続いて、配置された生検を6μm切片にカットし、PTFE被覆スライド上に載せ、1:400~1:800の希釈度にてA1、A3およびA4ポリクローナル抗体で染色した。宿主細胞表現型マーカーは、T細胞についてはCD3、単球/マクロファージについてはCD8、B細胞についてはCD19、好中球についてはCD66b、樹状細胞についてはCD83、グリア細胞についてはPgP9.5、内皮についてはCD31であった。二次抗体は、ウサギ抗マウスTRITC(R0270 Dako、英国)、ウサギ抗マウスFITC(F0261、Dako)、ブタ抗ウサギTRITC(R0156、Dako)、ブタ抗ウサギFITC(F0205、Dako)およびヤギ抗マウスFITC(F0479)であった。スライドをPBS中で3回洗浄し、フルオロマウント剤(F4680 シグマ-アルドリッチ、英国)中にマウントし、続いてカバーガラスを載せた。
【0077】
抗体A1、A3およびA4を単独で1:500~1:800の濃度で使用した結果、上皮内およびその下にある固有層内の細胞が染色された。次いで、抗体を、TRITC(赤色)で標識されたA1とFITC(緑色)で標識されたA3またはA4とを対にして使用した。
【0078】
A1部位は、第1膜貫通領域に隣接するP900タンパク質の細胞外アミノ末端ドメイン上、かつ微生物細胞の表面すぐ上に位置する。A1ペプチドはMAPに付着したままであるようだった。
【0079】
A3およびA4部位は、システイン344のいずれかの側の、より長いカルボキシ末端細胞外ドメインの中央に位置する。カルボキシ末端ドメインは、第2膜貫通領域の近くに付着または限定的タンパク質分解切断によって放出され得る。
【0080】
カルボキシ末端ペプチドがまだ付着しているA1(赤色)およびA4(緑色)を使用すると、同じ細胞内だけでなく、感染細胞の細胞質内のサブミクロン粒子上にも共局在(金色)が生じた。カルボキシ末端の放出により、金色から橙色へ、さらに赤色への漸進的勾配を示す色の変化、および罹患細胞の細胞質における放出されたペプチド(緑色)の可視的な移動がもたらされた。他の細胞は緑色のみを含むように見え、それは放出されたカルボキシ末端ペプチドがそれ自体MAPを含まない他の細胞に移動する能力を示唆していた。これは、エンドソームと整合する、緑色で満たされた細胞間小胞の組織中での出現によって支持された。
【0081】
表面上皮において、MAPは、腸細胞に、ならびにリンパ球およびマクロファージと一致する上皮内細胞に感染することが見られた。MAPは、杯細胞の粘液胞の基部の周囲の「ネックレス」内にしばしば密集し、緑色のカルボキシ末端ペプチドを放出することが見られ、これは細胞質内でこれらの細胞の頂端に移動し、また粘液胞自体の内部にも移動することが見られた。
【0082】
MAPはまた、固有層内で広く細胞に、ならびに特に陰窩の基部の周囲の細胞のクラスターに感染することも見られた。MAPクラスターに隣接するTリンパ球の存在が頻繁に認められたが、染色されたものには特にマクロファージ、多形体(polymorph)およびBリンパ球が含まれ、Tリンパ球は含まれなかった。
【0083】
内視鏡粘膜生検における多くのMAP感染が、クローン病患者14人全員に見られた。免疫反応性MAPのわずかなクラスターが、10人の対照被験者のうち8人に見られた。他の2人の対照被験者はMAP染色を全く含まなかった。使用する緩衝液に特異的ペプチドを添加すると、対応する抗体による組織の染色が完全にブロックされた。他のペプチドを使用しても抗体結合には影響がなかった。共局在化と合わせて、この特異的ブロックにより、MAP検出システムの精度と特異性が補強された。
【0084】
ヒト組織におけるA1抗体のMAPへの結合の、PCRによる検証:
A1免疫反応領域のレーザー顕微解剖プレッシャーカタパルティング(LMPC)を行い、組織における抗原認識がMAPの存在と一致するかどうかをIS900 PCRを用いて決定した。炎症性腸疾患のない11人の同意した患者および4人の対照被験者から新鮮な内視鏡粘膜生検を得た。組織を液体窒素中で瞬間凍結し、6μmのクリオスタット切片を前述のように切断した。通常のH&E染色のために、切片をPTFE被覆顕微鏡スライドに移した。LMPC用のものをPEN膜スライド(Carl Zeiss MicroImaging GmbH、ドイツ)上に固定化した。
【0085】
A1ウサギポリクローナル抗体を用いて、ウサギ免疫グロブリンに対するビオチン化アルカリホスファターゼHタグ付き二次抗体を使用して、切片において免疫反応性MAP領域を同定した。スライドをPBS中で洗浄した後、Vectastain Universal ABC-APキット(Vector Laboratories UK)を、製造元の使用説明書に従って免疫反応性MAP領域の位置決定のために使用した。Vector Blue Alkaline Phosphatase Substrate Kit 1(Vector Laboratories UK)を用いて、二次抗体の位置を決定した。
【0086】
Zeiss PALM MicroBeamレーザー顕微解剖システムを使用して、レーザー顕微解剖およびプレッシャーカタパルティングを用いて免疫反応性(IR)および非免疫反応性(nIR)MAP領域を単離した。顕微解剖の前に、切除領域が容易に分離するように切片が完全に風乾することを確実にするように、特に注意を払った。IRおよびnIR領域を視覚的に同定し、接着剤キャップチューブを選択領域の上に配置した。サンプルを接着剤チューブのキャップ上に蓄積した。記載されているようにDNA抽出を行った(T. Bull et al. 2003 J Clin Microbiol 2003; 41:2915-23)。簡単に説明すると、200μLのマイコバクテリウム溶解緩衝液(MLB)、8.6mlの分子生物学グレード(molecular grade)の水、800μLの5M NaCl、1Mの10×Tris-EDTA(TE)および600μLの10%SDSを各チューブに加え、37℃で一晩インキュベートした。MLB中の、10μLの10mg/mlプロテイナーゼK(シグマ)、5μLの100mg/mlリゾチーム(シグマ)および4μLの120mg/mlリパーゼ(シグマ)を各チューブに添加し、さらに3時間37℃でインキュベートした。サンプルをLysing Matrix Bリボライザーチューブに移し、400μLの1×TEを加えた。FastPrepリボライザー機器上で、チューブに対して6.5ms2で45秒間機械的に破砕を行った。標準フェノール-クロロホルム-イソアミルDNA抽出手順を実施した。精製したDNAを50μLの1×TEに再懸濁した。2μLの鋳型DNAを用いたネステッドPCRは、L1およびL2第1ラウンドプライマーならびにAV1およびAV2第2ラウンドプライマーを用いて行った。予想された298bpのPCRアンプリコンを1%アガロースゲル電気泳動を用いて可視化した。アンプリコンの混入を排除するために、記載されているように細心の注意を払った。
【0087】
4人の対照被験者全員が、IS900 PCRによる試験の結果が陰性であった。CD群の11人の患者のうち7人に由来する免疫反応性領域が、IS900 PCRによりMAPについて陽性であり、5人についてはアンプリコンのシーケンシングによって確認した。CD患者においてサンプリングされた全てのnIR領域はPCR陰性であった。MAPについてIS900 PCRによる試験の結果が陽性であった7人の患者全員が、アザチオプリン単独による治療を受けていた。4つのPCR陰性サンプルは、ヒュミラまたは6-メルカプトプリンおよびインフリキシマブと組み合わせたアザチオプリンによる治療を受けているクローン病患者に由来した。
【0088】
ホルマリン固定パラフィン包埋組織病理学ブロックにおけるMAP検出:組織中のMAPの診断システムが通常の固定パラフィン包埋組織病理学サンプルで使用可能であることによって、その臨床的および商業的応用が大いに促進される。さらにそれにより、その試験を保管資料に対して過去に遡って適用することが可能になり、適切な承認を得れば、かなりの数の患者とその組織サンプルをスクリーニングし、全体としてリスク集団におけるMAP感染の有病率などの疑問に対する答えを、経済的に調べることができる。合成ペプチド配列への抗体結合は、立体構造依存的というよりはむしろ配列依存的であり、そのようなサンプルに対してこの方法を首尾よく適用することが可能となる。
【0089】
抗原賦活化およびウサギポリクローナル抗体を用いたパラフィン包埋組織切片の免疫染色のプロトコルは以下のように最適化した:0.2μm組織切片に対してキシレンを3回交換して10分間脱パラフィン化し、アルコールのグレードを下げていって再水和し、5分間水道水中に置いた。抗原賦活化は、スライドを0.05%プロテアーゼXIV Streptomyces Griseous Sigma P6911 P code 1000984453を含有する蒸留水中に37℃で5分間浸漬することによって達成した。スライドを室温に冷却し、1×PBS中で3回、5分間ずつ洗浄した。非特異的Fc受容体結合は、15分間、1/50のTrustainを使用してブロックし、必要であれば5分間、0.1%Triton X-100中で透過処理した。切片を1×PBS中で手短に洗浄した後、オービタルシェーカー上、室温で1時間、一次抗体溶液中でインキュベートした。切片を1×PBS中で3回、5分間ずつ洗浄し、1/1000のDylite488/550とコンジュゲートした二次抗体中にて室温(RT)で45分間インキュベートした。切片を1×PBS中で3回、5分間ずつ洗浄し、脱水し、キシレン中で透明化し、水性封入剤(aqueous mountant; Vectashield)中にマウントし、カバーガラスを置いた。
【0090】
段階3.選択されたA0、A1、A3およびA4部位内の最適化P900ペプチド配列に対するマウスモノクローナル抗体およびリン酸化誘導体の調製。
この段階では、配列MVINDDAQRL、P900の細胞外アミノ末端ドメイン中の残基26~39、を含む、A0と命名されたモノクローナル抗体産生のためのさらなる標的部位が導入された。この配列との同一の一致はNCBIデータベースにはほとんど見出されなかった。
【0091】
マウスモノクローナル抗体の産生は、最初に以下の方法で試みられた。各々の場合においてKLHに結合するための単一Cysチオールを組み込んだ免疫原ペプチドを、A0(MVINDDAQRL-C)、A3(C-NLKRPRRYDR)およびA4(C-VSIRTDPSSR)について調製し、各群において5匹のマウスを免疫した。各群のマウスの一部では免疫学的応答が良好であったが、組織中のそれらの天然の標的を認識するモノクローナルは得られなかった。これは、ELISAのスクリーニングおよびクローン選択のための標的ペプチドが、ELISAプレートウェル上に直接コーティングされて専ら使用されていることによるものであることが判明した。このことの結果としてかなりのアーティファクトがもたらされ、プロジェクトは全体として失敗となった。
【0092】
一方、本発明者は、ELISAのスクリーニングに用いられる標的合成ペプチドは、アルファ-nビオチン化されて、ストレプトアビジンでコーティングされたウェルに付着することが必須であることを見出した。これにより、付着した可動性ペプチドの立体的接近性が増し、液相中で抗体に対するペプチドの適切な配置を採用することが可能になった。ELISAにおけるこの形態の標的ペプチドへの抗体結合と標的組織中の天然ペプチドへの抗体結合との間に密接な相関性があった。
【0093】
ELISAウェルにおいて必須のストレプトアビジンコーティングおよびビオチニル-ペプチド固定化を採用し、次のプロジェクトを通して使用した。このプロジェクトの間、マウス血清および培養上清が参照ペプチドへの結合のために選択されたが、陰性ペプチドに対しては選択されなかった。選択されたサンプルは、その後、MAPに感染したヒトおよび動物の組織および細胞に対する免疫蛍光法によって試験された。
【0094】
免疫原はペプチド配列A0X MVINDDAQRLLSQR-C、A1 VTTLADGGEVTWAID-C、およびXA4 YLSALVSIRTDPSSR-Cを使用して合成し、各場合において、標準的方法を用いて、Cysチオールを使用してKLHに連結した。これらの構築物を使用して、5~10匹のBalbCマウスの群を免疫した。免疫化に対する良好な血清学的応答が全ての群で起こり、有望な候補クローンが各群について得られた。インビトロ免疫化を含む免疫化プロトコルへの追加、および異なる免疫原付加物を用いた免疫化による追加免疫、ならびに多くのさらなる作業にもかかわらず、適切であり最終的である、安定なIgGクローンを得ることはできなかった。
【0095】
次のプロジェクトで最初に使用した材料は以下の通りであった:
免疫原ペプチド A0 ac-MVINDDAQRL-8分岐ポリリジン8量体
参照ペプチド ビオチニル-MVINDDAQRL-アミド
陰性ペプチド1 ビオチニル-MVINDDLQR-アミド
陰性ペプチド2 ビオチニル-MVINNDAE-アミド

免疫原ペプチド A1 ac-VTTLADGGEVT-8分岐ポリリジン8量体
参照ペプチド ビオチニル-VTTLADGGEVT-アミド
陰性ペプチド1 ビオチニル-VATMADGGEVT-アミド
陰性ペプチド2 ビオチニル-VTRLADGGEVT-アミド

免疫原ペプチド A3 ac-NLKRPRRYDR-8分岐ポリリジン8量体
参照ペプチド ビオチニル-NLKRPRRYDR-アミド
陰性ペプチド1 ビオチニル-NLKRPRR-アミド
陰性ペプチド2 ビオチニル-NLRRPRRYHR-アミド
陰性ペプチド3 ビオチニル-NLHRPRRYHR-アミド
陰性ペプチド4 ビオチニル-NMRRPRRYNR-アミド
陰性ペプチド5 ビオチニル-NLRRPKRYNR-アミド
陰性ペプチド6 ビオチニル-NLQRPRRYNR-アミド

免疫原ペプチド A4 ac-VSIRTDPSSR-8分岐ポリリジン8量体
参照ペプチド ビオチニル-VSIRTDPSSR-アミド
陰性ペプチド1 ビオチニル-VSIRTDP-アミド
陰性ペプチド2 ビオチニル-SIRSDPSSR-アミド
陰性ペプチド3 ビオチニル-YSIRSDPASR-アミド
陰性ペプチド4 ビオチニル-VSVRYDPSSR-アミド
陰性ペプチド5 ビオチニル-IAIRTDPASR-アミド
【0096】
5匹のスイスウェブスターマウスの群を1日目にフロイント完全抗原中の免疫原ペプチド構築物で免疫し、続いて14日目および21日目にフロイント不完全抗原を用いて2回の追加免疫注射を行った。追加免疫は続けられたが、4群のいずれも満足に応答していないことが明らかだった。新鮮なペプチド免疫原ac-MVINDDAQRL-C、ac-VTTLADGGEVT-C、ac-NLKRPRRYDR-C、およびac-VSIRTDPSSR-Cを合成し、C-を介してKLHに結合し、続いて免疫化を行った。
【0097】
A0およびA1群における一過的な反応は維持されなかった。両者は死亡し、終結した。
【0098】
A3およびA4群の各々において1匹のマウスに由来する血清が、融合および親クローンの作製に進むのに十分な力価を達成した。その後A3について満足なサブクローンが得られず、このプロジェクトは終了した。A4について満足なサブクローンが達成されたが、それは参照ペプチドを認識し、5つの陰性ペプチドのいずれも認識しないものであり、最終生産およびプロテインAアフィニティー精製により得られた。
【0099】
この段階では、3つのさらなる改変をプロトコルに導入した。
1.Balb/Cマウスの使用。
2.尾静脈の基部に免疫原を投与し、続いて鼠径部リンパ節からプールした細胞を直接融合する技術の採用。
3.以下の新しいペプチド免疫原を用いた、再設計されたプロジェクト。
免疫原ペプチド A0X C-MVINDDAQRLLSQR-アミド
参照ペプチド ビオチニル-MVINDDAQRLLSQR-アミド
陰性ペプチド1 ビオチニル-MVINDDLQRIILFL-アミド
陰性ペプチド2 ビオチニル-MSINDDAQKLKDRL-アミド

免疫原ペプチド A0XP C-MVINDDAQRLL[pS]QR-アミド BSAコンジュゲート
参照ペプチド ビオチニル-MVINDDAQRLL[pS]QR-アミド
陰性ペプチド1 ビオチニル-MVINDDAQRLLSQR-アミド

免疫原ペプチド XA1 ac-AAVTTLADGGEVTWAIDGKK-C BSAコンジュゲート
参照ペプチド ビオチニル-KKGAAVTTLADGGEVTWAID-アミド
陰性ペプチド1 ビオチニル-KKGAAGTTLADGGEVTWAID-アミド
陰性ペプチド2 ビオチニル-KKGSTVATMADGGEVTWAID-アミド
陰性ペプチド3 ビオチニル-KKGQAVTRLADGGEVTWAVD-アミド
陰性ペプチド4 ビオチニル-KKGFEVTTLADGTEVATSPL-アミド
【0100】
この部位におけるアミノ末端への2つのアラニン残基の付加は、免疫原性および特異性を増大させるように設計された。免疫原ペプチドのカルボキシ末端における荷電した-GKK残基の付加は、その疎水性の増加を解消するように設計された。免疫原ペプチドがカップリング反応中にミセルを形成した場合、システインチオールに隣接した荷電GKK部分があれば、BSAへのその接近性にとって好都合であろう。参照ペプチドのアミノ末端に鏡像KKG-を含めれば、標的配列それ自体に特異的な抗体の選択に好都合であろう。
【0101】
免疫原ペプチド XA4P C-YLSALVSIRTDPS[pS]R-アミド BSAコンジュゲート
参照ペプチド ビオチニル-YLSALVSIRTDPS[pS]R-アミド
陰性ペプチド1 ビオチニル-YLSALVSIRTDPSSR-アミド
陰性ペプチド2 ビオチニル-YLSALYSIRSDPA[pS]R-アミド
陰性ペプチド3 ビオチニル-YLSALVSVRYDPS[pS]R-アミド
陰性ペプチド4 ビオチニル-YLSAQIAIRTDPA[pS]R-アミド
【0102】
A0X、A0XP、XA1、A4およびXA4Pの5つのプロジェクト全部が、ELISAによる参照ペプチド認識、ならびに陰性対照ペプチドとの限定的な結合または結合しないことによるクローン選択、続いて、選択されたクローン上清の組織および細胞への結合による組織および細胞の染色を組み込んでおり、首尾良い結果に導かれた。アフィニティー精製されたA0X、A0XP、XA1、A4およびXA4Pモノクローナルが得られた。
【0103】
実施例2:ヒトおよび動物由来のサンプルにおける、ならびに食品安全性における、MAP感染の検出および評価のための診断技術の使用
1.ヒト腸組織に感染するMAPの検出および測定
クローン病および過敏性腸症候群などのいくつかの他の障害を有する45人に由来する内視鏡生検を調べた(Scanu et al. Mycobacterium avium subspecies paratuberculosis infection in cases of Irritable Bowel Syndrome and comparison with Crohn’s disease and Johne’s disease: common neural and immune pathogenicities. J Clin Microbiol 2007: 45:3883-90)。サンプルを直ちにホルマリンで固定し、続いて標準的処理およびパラフィン組織病理学ブロックへの包埋を行った。予備的研究を行い、2μm切片が最適であると同定された。切片を標準的な抗原賦活化プロトコルで処理した。次いで、それらを500分の1~5000分の1の範囲の希釈率のモノクローナル抗体で染色した。一次抗体の直接フルオロフォア標識、ならびにフルオロフォアで標識された二次抗体の使用の両方を用いた。一次抗体A0X、A0XP、XA1、A4、XA4Pの各々を単独で使用して組織を染色し、×100および×200の倍率でZeiss AxioSkop 2顕微鏡を使用して観察することでMAPの分布の全体像を得た後、×400および×1000で観察した。ヒトにおけるMAPは、チール-ネルゼン(Z-N)染色陰性形態であり、0.3~1μmのサイズ範囲にあるようである。十分な解像度を得るためには、より高い倍率が必要である。
【0104】
A0X、XA1、A4およびXA4Pはすべて、ヒトの腸における、より具体的には試験されたクローン病の45人すべての腸の内視鏡生検におけるMAPを染色した。しかし、A0XPによるヒト腸組織の染色は、血中にA0XP陽性細胞を含む組織血管の内腔からの時折の蛍光シグナルを除いて、ヒトにおいては見られなかった。動物とは異なり、A0Xのリン酸化はヒトの腸では広く起こらないようである。しかし、リン酸化AOXPは、MAP感染においてヒト血中に見られる。A0X、A0XP、XA1、A4およびXA4PによるMAPの染色は、MAP感染したヒト血中で、および試験されたクローン病のすべての人において見られる。
【0105】
抗体はまた組み合わせて使用され、共焦点顕微鏡で観察された。好ましくは抗体を対で使用した。好ましい対は、親MAP分子のアミノ末端に由来するA0XPまたはXA1とA0Xの対、およびカルボキシ末端に由来するXA4PとA4の対であった。好ましい対はまた、それぞれ赤色または緑色のフルオロフォアで標識された、A0XとA4の対、およびXA1とA4の対であった。試薬が、同じ細胞というだけでなく、感染細胞の細胞質内のサブミクロンMAP粒子上で、特異的に細胞質内に共局在した場合、これは金色の染色をもたらした。そのような共局在により、MAP検出の特異性の強力な確証が提供された。
【0106】
A4とXA1、およびA4とA0Xを含む抗体対の使用により、当該方法のさらなる態様が明らかになった。これは、A0XおよびXA1はMAP生物自体に付着したままであるか、または放出されて細胞内に留まるか、または細胞表面に提示されるようであるのに対して、A4はしばしばMAPから放出されて細胞表面に提示され、また感染細胞から放出されて細胞間を移動するためである。A0XまたはXA1が赤色のフルオロフォアで標識され、A4が緑色のもので標識されている場合、元の金色の共局在は次第に減損して橙色に変化し、その後、緑色に標識されたA4が他の細胞へと移動して、そこに入るにつれて赤色になる。細胞間小胞の存在と一致して、A4の緑色で満たされた膜結合構造が見られた。
【0107】
クローン病患者全員に由来する生検サンプルが、試験の結果、MAP陽性であった。これは粘膜区画の細胞、特に上皮細胞の基底部分、および杯細胞の粘膜の基底部分を囲む細胞質において観察された。粘膜区画中の他のMAP含有細胞は、上皮内マクロファージおよび樹状細胞、ならびに上皮内リンパ球であった。MAPを含有する細胞および遊離桿菌はまた、管腔粘膜ゲル層中に観察された。固有層では、MAP感染はマクロファージ、多形体(polymorph)およびBリンパ球でよく見られた。Tリンパ球がそれ自体関与していることは滅多に見られなかったものの、頻繁にMAPで満たされたマクロファージに隣接して存在した。MAP陽性細胞は小血管の内腔の中で頻繁に見られた。十二指腸生検では、ブルンナー腺のMAP染色は、MAPで満たされたマクロファージが時折見られるだけであったが、腺細胞自体は感染していなかった。しかし、MAP含有細胞は、ブルンナー腺の間質性結合組織中に存在していた。組織内の細胞内のAOXPは核の周囲に集中しているようであった。ヒト組織中のMAPのこれらの画像は、定量化のため、およびMAP感染量の監視の実現のために適用可能である。
【0108】
クローン病患者4人からは外科切除サンプルも入手できた。これらのサンプルでは、腸のより深い層から漿膜までだけでなく、より大きな血管、リンパ管、腸管外ファットラッピングおよび腸間膜の局所リンパ節の検査も可能であった。生検組織と同様に、これら4人の患者の各々の粘膜および粘膜下組織は、MAPについて強く陽性であった。MAP感染がリンパ管、筋層間の組織および漿膜自体を含む腸の壁を通って広がったこともまた見出された。いくつかの切片では、染色されたMAP生物で満たされたリンパ管が見られた。
【0109】
クローン病の病理学的特徴の1つが自己免疫性とされる血管炎であることは長い間知られていた。診断用抗体によって、そのような血管の肥厚した壁がMAPで広範に浸潤されており、周囲の血管周囲結合組織も含まれることが示された。クローン病の別の特徴的な病理学的特徴は、腸の周りの脂肪組織の増加である。これは、回腸末端で特によく見られ、「ファットラッピング」と呼ばれる。この脂肪の脂肪細胞は、炎症マーカーCRP(C反応性タンパク質)の豊富な供給源であることが知られている。当該診断方法によって、この組織中の脂肪細胞の薄い細胞質が広範にMAPに感染していることが示された。脂肪内の間質性結合組織の細胞においても大量のMAPが見られた。MAPはまた、局所リンパ節も冒すことが見られた。
【0110】
検査された過敏性腸症候群(IBS)と診断された5人全員の腸組織もまた、CDと非常によく似た様式でMAPに広く感染していることが見られた。腸内視鏡生検の陽性MAP染色はまた、甲状腺炎および乾癬の場合にも見られた。
【0111】
2.動物腸組織
すべてヨーネ病(JD)と診断された3頭の雌牛、1頭のヒツジ、1頭のヤギ、1頭のアカシカおよび2頭のダマジカ由来の腸組織サンプルを調べた。剖検サンプルを処理し、ヒトについて記載したように一次抗体で染色した。全ての動物由来の組織は、MAPに広範に感染しており、これはほとんどの場合、チール-ネルセン陽性表現型で存在していた。ヨーネ病と診断されたこれらの動物の腸内のMAPは、A0X、A0XP、A4、およびXA4P抗体、ならびにXA1で染色された。動物におけるMAPの顕微鏡による外観は、通常、古典的Z-N陽性マイコバクテリア表現型のものであったが、本研究のモノクローナル抗体はまた少微生物(paucimicrobial)型の病原菌を実証した。
【0112】
ヨーネ病の動物におけるMAPの感染量は、広く認められている一般的な多細菌性(pluribacillary)のJDと一致して、ヒトにおいて見られるものよりも多かった。MAP表現型自体はZN陽性細胞と一致していた。粘膜および固有層および腸の全ての層が広範囲に冒されていた。MAP感染白血球で満たされた微小血管系から生じる細胞の帯が見られた。さらに、血管炎性血管および血管周囲組織の肥厚した壁には、ヒトに見られたようにMAP感染細胞が浸潤していた。MAP感染は神経血管束においても見られ、神経節細胞ならびに神経鞘が冒されていた。これは、CDと診断されたヒトと同様に、JDと診断された動物の腸神経系へのよく記載されている損傷と一致する。これら5つの反芻種とヒトの腸組織との間の顕著な違いは、AOXPがこれらの動物の腸組織に広く存在するが、ヒトの腸組織には存在しないようであったことである。
【0113】
3.ヒトの血液
ヒト腸組織における場合とは異なり、A0Xのリン酸化型であるA0XPは、ヒトの血中で広く発現している。AOXP (MVINDDAQRLL[pS]QR)は、IS900タンパク質の細胞外アミノ末端領域中の、セリンリン酸化型のAOXペプチドである。XA4P (YLSALVSIRTDPS[pS]R)は、IS900タンパク質の細胞外カルボキシ末端領域中の、その2つの隣接するセリン残基の遠位がリン酸化されているA4ペプチドである。CDでは、A0XPとXA4Pの両方が、ヒト血中のMAP含有細胞内およびその表面上に発現される。
【0114】
これは、アミノ末端細胞外ドメイン上のA0X/A0XPおよびカルボキシ末端細胞外ドメイン上のA4/XA4Pを用いたフローサイトメトリーにおける使用のための、P900ポリペプチド上に2対の立体的に接近可能な相互排他的な抗体を提供する。各対は基質および生成物として動的平衡状態で存在し、その合計は細胞内MAPに感染した末梢血白血球集団のパーセンテージを決定するための頑健なシグナルを提供する。A0X/A0XPは、MAPに付着したままであるか、または細胞内および感染した宿主細胞の表面上に放出され得る。A4/XA4Pは同様のシグナルを提供するが、A4はMAP感染細胞から出て細胞間を移動し得るため、A4/XA4Pを含む細胞集団は、MAP生物を含む集団に加えて、A4/XA4Pを細胞間移動によって獲得したさらなるより小さな集団を含む。
【0115】
通常のEDTA臨床血液サンプルに対するフローサイトメトリーが、探索的研究の中で、直接フルオロフォア標識されたA0X-FITC/A0XP-PC5.5およびA4-FITC/XA4P-PC5.5を使用してクローン病の42人に対して行われた。すべての人が試験の結果MAP陽性であり、MAP陽性の全循環白血球集団の割合は3.9%~47.1%の範囲であった。主要な血球系統の表現型マーカーの使用は、宿主細胞の種類による分類を可能にする。これらの割合は、A0X/A0XPよりもA4/XA4Pの方が一般的に大きかった。比率A0X/A0XPおよびA4/XA4Pは、リン酸化活性の尺度を提供した。XA4P/A4の比率が高いと、クローン病患者はより高い活性状態にあると評価される傾向があった。そのような人々では、血中において、分離されたA4/XA4Pの塊で完全にコーティングされた無傷の単球を見ることができた。
【0116】
クローン病の連続した24人の患者で2回目のフローサイトメトリーを行い、MAPを含む全循環白血球の割合(%)を決定した。
【0117】
血液サンプルを標準のEDTAバキュテナーチューブに回収した。次いで、100μlの血液を必要数の12×75mm丸底ファルコンチューブに加えた。これらを5μlのヒトSeroblock(バイオラッド)と共に5分間インキュベートした。白血球集団のゲーティングを可能にするために、抗ヒトCD45 APCコンジュゲート抗体(Beckman Coulter)を全てのチューブに加えた。次いで、チューブの半分(「表面染色」とラベルされた)を、暗所にて室温で15分間、抗MAPモノクローナル抗体で処理した。次いで、0.5mlのOptiLyse C(Beckman Coulter)赤血球溶解緩衝液をこれら全てのチューブに加えて、暗所にて室温で10分間インキュベートした。次いで、細胞を0.5mlのPBSを加えることによって洗浄し、5分間325Gで遠心分離し、上清を捨てた。
【0118】
次いで、すべてのチューブを100μlの固定液A(Thermo Fisher Scientific)で5分間固定し、次いで上述のように洗浄した。抗MAP抗体で染色されていないチューブ(「透過処理済み」とラベルされた)を、ペレットにInvitrogen透過処理液B(Thermo Fisher Scientific)を加えてインキュベートし、抗MAPモノクローナル抗体を加えて、暗所にて室温で15分間インキュベートし、続いて上述のようにPBS洗浄した。次いで、全てのチューブをフロー緩衝液(PBS(CaおよびMgを含まない)、0.2%アジ化ナトリウムおよび2%ウシ血清アルブミン(BSA))で1mlにした。次いで、サンプルをCytoFLEXフローサイトメーター(Beckman Coulter)上に取得し、SSC vs CD45でゲーティングを行い、続いてCytExpertソフトウェア(Beckman Coulter)を用いてデータを分析した。
【0119】
クローン病の24人における第2の試験の結果を下の表に示す(表2)。18歳~49歳の間の8人の女性と16人の男性がいた。行に沿った表中の数字は、対応するMAP抗体であるA0X単独、A0XP単独、またはA0X + A0XPの両方、ならびにA4単独、XA4P単独、またはA4 + XA4Pの両方によって染色された各人における全循環白血球集団の%を示す。A0抗体はA4抗体よりも長い間それらの標的ペプチドに付着したままであるため、個々の人におけるA0データの合計が、MAPを含有する循環WBCの%の尺度として採用された(強調された中央列)。この合計は、クローン病の進行、臨床経過および治療に対する応答によって異なり、このユニークな多コピー挿入エレメントによってなされる病原性への寄与に対し、直接的なアクセスを提供する。
【0120】
A4、XA4PおよびA4 + XA4Pに由来するフローサイトメトリーデータは、P900のインビボ機能のさらなる側面を記録することによって、MAPの病原性への推定上の寄与について、第2の直接的洞察を提供する。それは、付着された、および放出されたカルボキシ末端の両方のリン酸化および移動を、本研究のように下流セリンのリン酸化、および上流パートナーのリン酸化、ならびに二重リン酸化の存在と効果と共に、観察できることである。
【0121】
表1では、表左側のP900の細胞外アミノ末端上のモノクローナル抗体A0XおよびA0XP、ならびに右側のP900の細胞外カルボキシ末端上のA4およびXA4Pの使用に基づく、クローン病の24人の患者から得られたフローサイトメトリーデータがまとめられている。各行における各患者についてのデータは、白血球の表面への結合(surf)と全透過化細胞への結合(perm)に分かれる。MAPに感染した細胞の総割合は、A0X単独、A0XP単独、およびA0X + AOXP(強調表示)によって同定された別々の透過化細胞集団におけるパーセンテージ%の合計によって与えられる。A0XペプチドはA4ペプチドよりも長く宿主細胞内マイコバクテリア細胞に結合したままである傾向があるため、これは好ましい測定である。表の右側は、A4、XA4P、およびA4 + XA4P染色細胞集団を用いた結果である。この研究では、XA4Pにおける遠位セリンの強く予測されるリン酸化が使用されるが、同様の研究では、対のリン酸化近位セリンまたは二重リン酸化を標的としてもよい。
【0122】
詳細を見ると、データの持つ可能性が集約される。24人の患者群にわたる%全MAP感染量は1.52%~48.9%の範囲であり、現段階では疾患の活性と共に変化するようである。MAP陽性細胞の%におけるピークまたは谷は、抗MAP治療の開始に続き得る。特に「自己免疫および自己炎症性」群の様々な疾患を有し、また個々の細胞種の感染量が分かる、より多くの人々が試験されることで、より多くのデータが得られるようになる。リン酸化事象の臨床相関の研究および異なる治療の効果の監視からも、より多くのデータが得られるようになる。
【0123】
データは、それらの表面上にA0X/A0XPまたはその両方を有する細胞の割合が約半分であることを示す。透過処理された細胞では、A0X/A0XPを用いた全細胞パーセンテージは、A4/XA4Pを用いたものとほぼ一致しているが、細胞表面上のA4/XA4Pの合計は、A0X/A0XPを用いた場合よりもかなり少ない。これは、細胞表面からのA4/XA4Pのより大きな損失と一致し得るものであり、これはその認識されているより大きな移動度と一致している。これらのリン酸化事象の影響の研究は、より大規模な臨床研究を必要とする。
【0124】
フローサイトメトリーシステムは、クローン病におけるパラ結核症感染に向けて開発される最初の例である。これは現在、特に乾癬、甲状腺炎、パーキンソン病、1型糖尿病、関節炎、強直性脊椎炎、過敏性腸症候群、潰瘍性大腸炎、炎症性腸疾患、アルツハイマー病、多発性硬化症、サルコイドーシス、特発性肺線維症および/または慢性疲労症候群を含む他の疾患におけるMAP感染を研究するために使用することができる。これらの他の疾患、特に「自己免疫状態」と同様に、クローン病では、MAPの存在が疾患の発症または進行に寄与しているか否かは、特定の抗MAP療法が疾患の寛解または治癒につながるか否かから分かる。現在、MAPに対する治療的T細胞ワクチンは臨床試験の初期段階にある。
【0125】
【表2】
【0126】
3.2 細胞診断
末梢血から単離した細胞を、2つの直接コンジュゲートされたモノクローナル抗体:AOX(FITC/緑色) + AOXP(Cy5.5/赤色)、またはA4 FITC/緑色) + XA4P(Cy5.5/赤色)の組み合わせで染色した。共焦点画像を、Leica SP-2共焦点顕微鏡を用いて観察し、記録し、そしてJPEG形式で保存した。
【0127】
結果:末梢血細胞はその染色パターンにおいてかなりの不均一性を示し、細胞は陰性、単一抗体のみ陽性、または両抗体陽性であった。この後者の観察は、蛍光レポーター分子の明確な共局在によって実証される。陽性細胞の表現型はまだ確立されていないが、DIC(微分干渉コントラスト)イメージングおよびフローサイトメトリーデータは、陽性細胞は起源が非リンパ球性であることを示す。
【0128】
4.動物の血液
4.1 ネコ
飼い猫(ネコ1)が、体重減少、下痢、膨隆腹および全身の不調により、体調不良になった。臨床的に罹患した動物の腹部の超音波スキャンは、結腸全体の壁の肥厚を示した。獣医による内視鏡検査および生検は、臨床的および組織学的に動物が炎症性腸疾患を有することを示した。4ヶ月の期間にわたる2つのEDTA血液サンプルに対してフローサイトメトリーが行われた。ネコにおいてMAPに感染した全循環白血球の割合は7.6%および9.8%であった。ネコ1由来の内視鏡生検サンプルの免疫蛍光顕微鏡検査により、ヨーネ病を有する動物とクローン病を有するヒトの両方において見られたものと類似した組織学的外観を有するMAPの存在が確認された。
【0129】
この期間中、新しい子猫(ネコ2)が同じ家族に導入された。ブリーダーからの購入時には臨床的に良好な状態であった。家族への導入の1週間後、子猫は血性下痢を発症した。通常の便微生物学検査は陰性であった。4ヶ月の期間にわたる2つのEDTA血液サンプルに対してフローサイトメトリーが再度行われた。MAPに感染した循環白血球の割合は16.4%および14.3%であった。これらのデータから、両方の動物が全身性MAP感染を有することが確認された。
【0130】
4.2 乳牛
EDTA血液サンプルを4頭の乳牛から採取した。これらの動物は、20年以上ヨーネ病の臨床例が知られていない閉鎖的な乳牛群の一部であった。群からの個々の乳サンプルの断続的ELISA試験により、4頭のサンプリングされた雌牛のうちの1頭は2回の陽性ELISA測定値を有しており、他の2頭のサンプリングされた雌牛は複数回の陰性結果の中で1回の陽性ELISA測定値を有していたことが示されていた。4頭目の雌牛では、乳のELISA測定値は全く上昇していなかった。A0X/A0XP対およびA4/XA4P対のモノクローナル抗体を用いて、4つの血液サンプルに対してフローサイトメトリーを実施した。結果は、細胞内MAPに感染したこれらの動物における全循環白血球集団の割合が、10.9%、36.3%、40.1%および45.2%であることを示した。これらの結果は、重大な全身性MAP感染が無症状状態で持続する能力をさらに示すものである。それらはまた、本診断技術がこれらの病原体によってもたらされる動物およびヒトの健康に対する長期的脅威の真の規模を明らかにすることができると共に、従来の診断方法よりもはるかに高い感度を有することを実証する。
【0131】
5.ヒトの母乳
3ヶ月齢の男児が直腸出血および腹痛の症状を呈した。彼は、複数の生検を伴う上部および下部消化管内視鏡検査を含めて検査され、8ヶ月でクローン病の診断の確立がもたらされた。次いで要求され、彼のパラフィン包埋組織病理学的ブロックに対して行われたMAP試験では、胃および十二指腸の、ならびに回腸末端から直腸までのすべての生検における、MAPの広範な感染が示された。クローン病ではなかった彼の母親は、彼女自身の乳以外に何も彼に与えたことがなかった。しかし、彼女はクローン病に遺伝的に関連している自己免疫性甲状腺炎と診断されていた。彼女が要求した、搾乳された母乳の50mlサンプルのMAP試験により、遠心ペレット中に豊富なMAP感染細胞が示された。
【0132】
6.乾癬におけるヒトの皮膚サンプル
各々乾癬と診断された成人2名から、局所麻酔下で3~4 mmパンチ生検全層皮膚サンプルが採取された。サンプルは乾癬性皮膚病変の中央領域から採取され、追加サンプルが正常な皮膚と重なる病変の周辺から採取された。病変間の正常な皮膚サンプルも得られた。標準的な手順に従って、サンプルをホルマリン固定し、処理し、通常の組織病理学的ブロックに包埋した。2μmの切片をカットし、ベクタボンド顕微鏡スライド上に固定し、抗原賦活化処理を行い、XA1/A4モノクローナル抗体で染色し、共焦点顕微鏡により検査した。
【0133】
乾癬病変内から採取した生検は、両方の成人でMAPが陽性であった。XA1およびA4の金色の共局在は、肥厚した上皮層中の炎症細胞において見られ、染色は角質層にも残っていた。染色は基底層においても顕著であった。陽性MAP染色は、網状組織内の炎症性細胞および真皮内の炎症性細胞全体に広がっていた。MAP陽性細胞は、毛包の周りにも見られた。付随する顕著な特徴は、毛嚢脂腺単位内のMAPの存在であった。
【0134】
皮脂腺の異常は乾癬斑の表層の乾燥した、鱗状の性質に寄与し得る。真皮におけるさらなる顕著な特徴は、MAPが神経血管束を冒していたことであり、これらの病原体の共局在性XA1/A4染色が、肥厚した動脈壁および血管周囲結合組織内にあった。隣接神経束のMAP染色も見られた。乾癬斑の周辺で採取した生検の染色は、MAP染色が斑と正常な皮膚との間の境界で止まっていることを示した。MAPはまた、プラーク間の正常に見える皮膚の生検にも存在しなかった。これは乾癬斑の形成にMAPが寄与していることと一致し得る。
【0135】
7.関節炎における滑膜関節液中のMAP陽性細胞の割合の測定
乾癬を有する成人女性が、彼女の右膝関節に不快感と急性の滲出を示した。過去に外傷の経験はなかった。関節は熱を持ち膨張していたが、急激な圧痛はなかった。他の関節には影響がなかった。淡黄色でありわずかに乳白色の液体の20mlサンプルを吸引し、細胞を遠心分離により分離した。これらを洗浄し、フルオロフォア標識されたAOX/AOXPで染色し、フローサイトメトリーで調べた。関節液中のMAP含有細胞の割合は8.56%であった。これは、当時の彼女の血中のMAP陽性末梢白血球の%と同程度であった。
【0136】
8.食品安全性試験
8.1.小売乳の汚染に関するMAP検査
家畜のMAP感染は世界的な問題となっている。ヒト集団は、特に乳製品において広くMAPに曝されている。質量分析、多重ビーズに基づくイムノアッセイ、および複合ファージ-PCRアッセイを用いる、獣医学および食品分野における十分に高感度な診断手順の開発における新たな取り組みが利用可能である(Li et al. Early detection of Mycobacterium avium subsp. paratuberculosis infection in cattle with multiplex-bead based immunoassays. PLoS ONE 12(12): 2017 e0189783; Ricci M et al. Exploring MALDI-TOF MS approach for a rapid identification of Mycobacterium avium ssp. paratuberculosis field isolates Journal of Applied Microbiology 122, 568-577 2016; Botsaris G et al. Detection of viable Mycobacterium avium subspecies paratuberculosis in powdered infant formula by phage-PCR and confirmed by culture. International Journal of Food Microbiology Volume 216, 2016: 91-94)。
【0137】
MAP診断試験についての広範な文献は存在するものの、実際には商業上適用されることは滅多にない。これは一般に、MAPがヒト病原体として広く認識されておらず、現在利用可能なMAP試験手順は、カスタマイズされたDNA抽出およびPCRを必要とするためである。獣医学分野において、質量分析および多重ビーズに基づくイムノアッセイを用いる新しいアプローチがとられている。
【0138】
A0X、A0XP、XA1、A4およびXA4P抗MAP抗体は、例えばフローサイトメトリーおよび質量分析などの利用可能な測定システムを利用しながら、単独でまたは一緒に使用することが可能であり、定量的、経済的、高感度かつ自動化可能な検出システムを提供することができる。
【0139】
8.2 食肉の汚染に関するMAP試験
食肉の表面のMAP汚染が食肉処理場で発生し得る。これらの生物の破壊が通常の調理中に起こり得るが、これは、それらが肉サンプル全体に分散し得る牛ひき肉の場合には当てはまらないだろう。顕微鏡でMAPを検出するための高感度で特異的な方法がないために、現在のところ、ウシ骨格筋におけるMAPの分布についてはほとんど知られていない。本診断技術は、各々MAP感染が疑われる10頭の雌牛から得た食肉サンプルに適用された。各動物からの骨格筋のサンプルを、最初にMAPの実験室培養によって、続いてその培養物に対するPCRによって試験した。5頭の雌牛が陽性で、5頭が陰性であることが判明した。本診断方法では、標準的な組織病理学的手順に従って、サンプルをホルマリンで固定し、処理し、パラフィン包埋した。各ブロックから3μm切片を得て、抗原賦活化により処理した後、A1/A4およびA0X/A4およびA0X/A0XPを含む抗体の対で染色した。陽性サンプルは、MAPの重症度および分布に従って1(低)から5(高)にランク付けされた。
【0140】
10個のサンプルのうち9個が試験の結果MAP陽性であり、レベル1が2個、レベル2が3個、レベル3が2個、およびレベル4と5がそれぞれ1個であった。MAP陽性細胞は、筋繊維の筋細胞膜に沿って、および原線維間腔内で整列しているのが見られた。レベル3以上では、MAPは生物のサンプルの大部分にわたって広がり、そのペプチド産物は筋繊維内ならびにそれらの間に広がっていた。筋線維に侵入している遊離のMAP生物のクラスターが、壊死らしいいくつかの病巣でそれらの構造を破壊するのが見られた。筋肉の広い領域にわたるMAPの感染の程度は、以前に予想されていたよりも著しく大きかった。
【0141】
9.地表水、河川、水処理施設、生活用水システム、エアロゾル、ならびに土壌および堆積物のサンプルなどの環境サンプルの試験。
臨床サンプルのMAP検査に影響を与えていた技術的困難はまた、感染動物から環境中への放出、そしてヒトへの暴露までの間にある、河川流域に由来するサンプルにおいてMAPを検査するのに用いられるサンプルにも当てはまる。本研究におけるA0X、A0XP、XA1、A4、およびXA4P抗体ならびにそれらの対応するMAPペプチドは、MAPおよびMAPペプチドを捕捉および測定するために使用することができる。
【0142】
実施例3:MAPに対する抗体の特異性
1.培養されたMAPおよびその細胞外表現型について関連するマイコバクテリアの染色。
マイコバクテリアの培養。ヨーネ菌(Mycobacterium avium subspecies paratuberculosis;MAP)の2つの株であるK10およびM47508をマイコバクチンJ(BD BBL調製培地)を含むHeroldの卵黄寒天スラント上で増殖させた。純度は、マイコバクチンJ(BD BBL調製培地)を含まないHeroldの卵黄寒天スラントを用いて監視した。非マイコバクテリア株をミドルブルック7H10寒天プレート(BD BBL)上で増殖させた。増殖が観察されたら、個々のコロニーを1mlのPBSに懸濁し、マイクロ遠心機で13,000rpmにて1分間遠心分離し、上清を除去し、ペレットを1mlのPBSに懸濁した。
【0143】
マイコバクテリアの染色:200μlの培養細胞をベクタボンド(Vector Laboratories、Peterborough UK)被覆スライド上に分割適用し、風乾して10%ホルマリン(BDH)で30分間固定した。スライドを1×PBS(pH7.4)中で3回洗浄し、確実に接着させるために37℃で一晩インキュベートした。マイコバクテリアエンベロープの透過処理は、リゾチーム(2 mg ml、水中で調製)中でインキュベートし、続いて室温で5分間、0.1%トリトンX-100と共にインキュベートすることによって達成した。スライドをTrueStain FcX(Cambridge BioScience、Cambridge UK)(1/50)と共に30分間インキュベートし、続いて1×PBS中で手短に洗浄することによって、非特異的Fc受容体結合をブロックした。抗体特異性を確立するために、インキュベーションの前に個々のモノクローナル抗体をそれらの対応するペプチドと共に0.5mg/mlの濃度で1時間インキュベートした、二重セットのスライドを染色した。次にスライドを、オービタルシェーカー上、4℃で一晩、以下の希釈度:A0X(1/1500)、A0XP(1/2500)、A4(1/1500)、XA4P(1/2500)の一次抗体中でインキュベートした。切片を1×PBS中で3回、それぞれ5分間洗浄し、Dylite 550(Thermo Fisher Scientific UK)とコンジュゲートした二次抗体(1/1500)中で、RTにて45分間インキュベートした。水性封入剤(Sigma F4680)にマウントする前に、切片を1×PBS中で3回、各5分間洗浄した。
【0144】
結果:A0X、A0XP、A4およびXA4Pモノクローナル抗体は、MAP培養物K10およびM47508の両方について陽性染色を示したが、試験した密接に関連する株全てについては陰性であった(表3参照)。MAP培養物の染色は、対応するペプチドでブロックした場合は存在しなかったが、抗体を対応しないペプチドとインキュベートした場合は存在した。これらのデータは、実験室で培養されたMAPに対するこれら4つのモノクローナル抗体のユニークな特異性を示し、選択された密接に関連する種に対してはユニークな特異性を示さないことを示す。
【0145】
【表3】
【0146】
2.U937細胞培養における、MAPおよびその細胞内表現型において関連するマイコバクテリアの染色。
細胞培養:U937ヒト前単球細胞株を、37℃、5%CO2の加湿雰囲気下で、RPMI 1640プラス10%ウシ胎児血清(FCS)および100U/mlペニシリンおよび100μl/mlストレプトマイシン中で増殖させた。
【0147】
感染:U937細胞が指数増殖期にあるときに、それらを数え、生存率を評価した。95%生存率の2×105細胞/mlを、抗生物質を含まない2mlのRPMI 1640プラス10%ウシ胎児血清(FCS)中で培養し、約10:1の感染率でヨーネ菌(Mycobacterium paratuberculosis)K10で攻撃した。次いで、細胞を5%CO2の加湿雰囲気中37℃で5時間インキュベートし、次いで2mlの新鮮な増殖培地中に再懸濁し、さらに48時間培養した。
【0148】
染色:2×105細胞/mlを含有する細胞の4つの別々の分割量を取り出し、5分間1200rpmで遠心分離した。細胞を5mlのPBS中に再懸濁することにより洗浄し、1200で5分間遠心分離した。これを3回繰り返した。モノクローナル抗体A0X、A0XP、A4およびXA4Pをフルオレセイン(Innova Biosciencesキット707-0015)またはPE-Cy 5.5(キット761-0015)のいずれかとコンジュゲートさせ、次いで抗体の最終濃度がそれぞれ1/1500、1/2500、1/1500、1/2500となるように細胞に加えた。細胞を室温で1時間インキュベートしたままにし、×3容量の1×PBS(pH7.4)を加えて1500rpmで遠心分離することにより3回洗浄した。染色細胞200μlをベクタボンド(Cole-Parmer、St. Neots、UK)顕微鏡スライド上に分割適用して、ライカSP2共焦点顕微鏡を用いて観察した。
【0149】
結果:4つの直接コンジュゲートされたモノクローナル抗体A0X、A0XP、A4およびXA4Pを用いた免疫蛍光顕微鏡検査により、前単球細胞株U937内のMAP株K10の陽性の細胞内局在が同定された。局在化はDIC(微分干渉コントラスト)イメージングを用いて確認した。
【0150】
3.A0X、A0XP、A4およびXA4Pモノクローナル抗MAP抗体が同一ペプチドおよび他の生物の関連ペプチドに結合するELISA。
最終プロテインAアフィニティー精製モノクローナル試薬のELISAを行うために、4つの主要な抗MAPモノクローナル抗体について供給者に手配した。ビオチン結合を介してウェル中に合成標的ペプチドを固定化するために、ストレプトアビジン被覆ELISAプレートを使用する必要性が非常に重要であった。合成ペプチドのみでウェルをコーティングすることは、本研究における合成ペプチド免疫原に対する抗体には適切でなかった。
【0151】
A0Xクローン18C2/1C2マウスIgG1
免疫原:BSA-MVINDDAQRLLSQR-アミド
【0152】
A0XPクローン3D2/2C5マウスIgG1
免疫原:BSA-MVINDDAQRLL(pS)QR
【0153】
A4クローン3F7A7/A12マウスIgG2a
免疫原:BSA-VSIRTDPSSR-アミド
【0154】
XA4Pクローン2D4/1B5マウスIgG2a
免疫原:BSA-YLSALVSIRTDPS(pS)R-アミド
【0155】
4.組織の抗体染色が、同一の合成標的ペプチドによってブロックされることと、関連しないペプチドによってはブロックされないことの差
クローン患者の盲腸および上行結腸から2μmパラフィン組織切片を採取し、4つのモノクローナル抗体A0X、A0XP、A4およびXA4Pで個別に染色した。抗体特異性を確立し、非特異的染色を排除するために、並行した組の組織切片を、個々の抗原配列に対応する0.5μgの合成ペプチドと共に予めインキュベートした4つのモノクローナル抗体で染色した。
【0156】
結果:AOX染色により、固有層内のMAP陽性細胞のクラスターおよび血管内の時折見られる細胞が同定された。AOXペプチドとの事前インキュベーションによってシグナルはほぼ完全にブロックされた。AOXPで染色した場合、ブロックされた、またはブロックされていない切片のいずれにおいても、ヒト腸組織では明らかな染色は観察されなかった。A4での染色では、固有層内で時折陽性の細胞が示され、これはA4ペプチドとの事前インキュベーションで部分的にブロックされた。XA4P染色により、固有層内の陽性細胞の病巣に加えて、MAP陽性細胞の血管内および血管周囲の両方の染色が同定された。XA4Pペプチドの事前インキュベーションによるブロックにより、この染色が部分的にブロックされた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
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