(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】潤滑制御装置及び潤滑制御装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
F16D 25/12 20060101AFI20240112BHJP
F16H 61/02 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
F16D25/12 C
F16H61/02
(21)【出願番号】P 2020006089
(22)【出願日】2020-01-17
【審査請求日】2022-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小辻 弘一
【審査官】糟谷 瑛
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-196953(JP,A)
【文献】特開2012-180867(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 25/06-25/12
F16D 48/02-48/04
F16H 59/00-61/12
F16H 61/16-61/24
F16H 61/66-61/70
F16H 63/40-63/50
B60K 17/00-17/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプと、
前記ポンプから供給される油を調圧する調圧弁と、
前記調圧弁によって調圧された油圧によりスリップ又は締結する第1締結要素と、
前記第1締結要素に潤滑油を供給する潤滑油路と、
前記潤滑油路の経路上に設けられ前記潤滑油路の連通、遮断を行う潤滑油供給弁と、
スリップにより前記第1締結要素に保有される前記第1締結要素の熱量を検出する熱量検出部と、
を有し、
前記潤滑油供給弁は、
前記第1締結要素がスリップした状態において前記潤滑油路から前記第1締結要素へ油を供給し、
前記第1締結要素が締結した状態において前記熱量検出部が前記第1締結要素の熱量が設定値より大きいことを検出した場合は、前記潤滑油路から前記第1締結要素へ油の供給を一時的に継続
し、
前記第1締結要素の作動油圧と前記第1締結要素と異なる第2締結要素の作動油圧とを信号圧として、前記潤滑油路から前記第1締結要素への油の供給を制御する、
ことを特徴とする潤滑制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の潤滑制御装置であって、
前記潤滑油供給弁は、前記熱量検出部が前記第1締結要素の温度が設定温度以下になったことを検出すると前記潤滑油路から前記第1締結要素への油の供給を中止する、
ことを特徴とする潤滑制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の潤滑制御装置であって、
前記第1締結要素が締結した状態において前記熱量検出部が前記第1締結要素の熱量が前記設定値より大きいことを検出しなかった場合は、前記潤滑油路から前記第1締結要素への油の供給を中止する、
ことを特徴とする潤滑制御装置。
【請求項4】
請求項1から3いずれか1項に記載の潤滑制御装置であって、
前記熱量検出部は、前記第1締結要素により動力が伝達される内燃機関の吸入空気量を調節するスロットル弁のスロットル開度に基づき前記第1締結要素の熱量を検出する、
ことを特徴とする潤滑制御装置。
【請求項5】
請求項1から3いずれか1項に記載の潤滑制御装置であって、
前記熱量検出部は、前記第1締結要素の温度に基づき前記第1締結要素の熱量を検出する、
ことを特徴とする潤滑制御装置。
【請求項6】
請求項1から3いずれか1項に記載の潤滑制御装置であって、
前記熱量検出部は、前記第1締結要素への入力トルクに基づき前記第1締結要素の熱量を検出する、
ことを特徴とする潤滑制御装置。
【請求項7】
ポンプと、前記ポンプから供給される油を調圧する調圧弁と、前記調圧弁によって調圧された油圧によりスリップ又は締結する第1締結要素と、前記第1締結要素に潤滑油を供給する潤滑油路と、前記潤滑油路の経路上に設けられ前記潤滑油路の連通、遮断を行う潤滑油供給弁とを有する潤滑制御装置の制御方法であって、
スリップにより前記第1締結要素に保有される前記第1締結要素の熱量を検出することと、
前記第1締結要素がスリップした状態において前記潤滑油供給弁により前記潤滑油路から前記第1締結要素へ油を供給することと、
前記第1締結要素が締結した状態において前記第1締結要素の熱量が設定値より大きいことを検出した場合は、前記潤滑油供給弁により前記潤滑油路から前記第1締結要素へ油の供給を一時的に継続することと、
前記第1締結要素の作動油圧と前記第1締結要素と異なる第2締結要素の作動油圧とを信号圧として、前記潤滑油路から前記第1締結要素への油の供給を制御することと、
を含むことを特徴とする潤滑制御装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクラッチについての潤滑制御に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、クラッチ作用油圧に応動して変位する流量制御弁(70F、70R)を用いてクラッチを潤滑・冷却する技術が開示されている。特許文献1の技術では、油圧クラッチ(29F、29R)が締結状態の場合に、分流回路(55)を介して潤滑油が供給されることにより流量制御弁(70F、70R)が開き、余剰流回路(53)からの潤滑油が油圧クラッチ(29F、29R)へ供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
クラッチ作動油圧が高くなると開く流量制御弁によりクラッチに潤滑油を供給すると、クラッチのスリップ制御時だけでなく、潤滑が不要なクラッチ締結時にも潤滑油が供給される。結果、オイルポンプの負荷が大きくなり、燃費や電費といったエネルギ消費の悪化を招く虞がある。
【0005】
このため、クラッチがスリップした状態でクラッチに潤滑油を供給し、クラッチが締結するとクラッチへの潤滑油供給を中止することが考えられる。しかしながらこの場合、スリップ時のクラッチの発熱量が大きいとクラッチの高温状態が長く続き、フェーシングの劣化を招く虞がある。
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたもので、クラッチの潤滑・冷却を行うにあたり、エネルギ消費の悪化を抑制しつつフェーシングの劣化を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様の潤滑制御装置は、ポンプと、前記ポンプから供給される油を調圧する調圧弁と、前記調圧弁によって調圧された油圧によりスリップ又は締結する第1締結要素と、前記第1締結要素に潤滑油を供給する潤滑油路と、前記潤滑油路の経路上に設けられ前記潤滑油路の連通、遮断を行う潤滑油供給弁と、スリップにより前記第1締結要素に保有される前記第1締結要素の熱量を検出する熱量検出部とを有する。前記潤滑油供給弁は、前記第1締結要素がスリップした状態において前記潤滑油路から前記第1締結要素へ油を供給する。また、前記潤滑油供給弁は、前記第1締結要素が締結した状態において前記熱量検出部が前記第1締結要素の熱量が設定値より大きいことを検出した場合は、前記潤滑油路から前記第1締結要素へ油の供給を一時的に継続する。また、前記潤滑油供給弁は、前記第1締結要素の作動油圧と前記第1締結要素と異なる第2締結要素の作動油圧とを信号圧として、前記潤滑油路から前記第1締結要素への油の供給を制御する。
【0008】
本発明の別の態様によれば、上記潤滑制御装置に対応する潤滑制御装置の制御方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
これらの態様によれば、第1締結要素の熱量が設定値より大きいことが検出された場合は第1締結要素へ油の供給を一時的に継続するので、第1締結要素を締結後も冷却できる。このため、クラッチの高温状態が長く続くことを抑制でき、これにより第1締結要素のフェーシングの劣化を抑制することができる。また、第1締結要素へ油の供給を一時的に継続することにより、エネルギ消費の悪化も抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】変速機構における各ギヤの噛合関係を示す図である。
【
図5】車両が備える油圧制御回路の要部を示す図である。
【
図6】第1切替状態における第1切替弁の信号圧の関係を示す。
【
図8】第2切替状態における第1切替弁の信号圧の関係を示す。
【
図10】第1切替弁及び第2切替弁の動作説明図の第1図である。
【
図11】第1切替弁及び第2切替弁の動作説明図の第2図である。
【
図12】コントローラが行う制御の一例をフローチャートで示す図である。
【
図13】タイミングチャートの第1の例を示す図である。
【
図14】タイミングチャートの第2の例を示す図である。
【
図15】第2比較例の場合のタイミングチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0012】
図1は車両の概略構成図である。
図2は変速機構3における各ギヤの噛合関係を示す図である。車両は、エンジン1とモータジェネレータ2と変速機構3と駆動輪4とを有して構成される。エンジン1は内燃機関であり、車両の駆動源を構成する。エンジン1の出力軸は変速機構3の入力軸3aに接続される。モータジェネレータ2は車両の駆動源を構成するとともに、発電機としても機能する。モータジェネレータ2は中空モータであり、後述する第2サンギヤS2に接続され、変速機構3の中心軸回りに回転する。エンジン1の動力とモータジェネレータ2の動力とは、変速機構3を介して駆動輪4に伝達される。
【0013】
変速機構3は、第1サンギヤS1、第1リングギヤR1、第2サンギヤS2、第2リングギヤR2及びキャリアCの5つの回転要素を有する遊星歯車機構により構成される。キャリアCは、第1ピニオンギヤPG1及び第2ピニオンギヤPG2を回転自在に支持する。第1ピニオンギヤPG1は、第1サンギヤS1及び第1リングギヤR1の双方と噛み合う。第2ピニオンギヤPG2は、第1サンギヤS1と軸方向に隣り合う第2サンギヤS2、及び第2リングギヤR2の双方と噛み合う。第1ピニオンギヤPG1はロングピニオンで構成され、第2ピニオンギヤPG2とも噛み合う。
図2に示すように、互いに噛み合う第1ピニオンギヤPG1と第2ピニオンギヤPG2とは周方向に隣接して配置される。
【0014】
このように構成された変速機構3は、第1サンギヤS1と第1リングギヤR1との間、及び第2サンギヤS2と第2リングギヤR2との間では、シングルピニオン型の遊星歯車機構として機能する。変速機構3はさらに、第1サンギヤS1と第2リングギヤR2との間では、ダブルピニオン型の遊星歯車機構として機能する。変速機構3はキャリアCを出力要素としてエンジン1及びモータジェネレータ2のうち少なくともいずれかの動力を駆動輪4に伝達する。
【0015】
変速機構3は、第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2の4つの締結要素をさらに有する。第1クラッチCL1は、入力軸3a従ってエンジン1と第2リングギヤR2との間を選択的に断接する。第2クラッチCL2は、入力軸3aと第1リングギヤR1との間を選択的に断接する。第1ブレーキB1は、第2リングギヤR2を固定部材である変速機構3のケースに選択的に固定する。第2ブレーキB2は、第1サンギヤS1を変速機構3のケースに選択的に固定する。第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2は油圧式の締結要素であり、後述する油圧制御回路100から油の供給を受ける。
【0016】
図3は、変速機構3の締結表を示す図である。車両は、エンジン1及びモータジェネレータ2のうちモータジェネレータ2の駆動力のみで走行するモータ走行モードであるEVモードと、エンジン1の駆動力で走行するエンジン走行モードであるICEモードとを有する。ICEモードはさらにモータジェネレータ2の駆動力で走行する場合を含んでもよい。EVモードでは、第1ブレーキB1の締結によりEV1速が達成され、第2ブレーキB2の締結によりEV2速が達成される。
【0017】
ICEモードでは、第2クラッチCL2と第1ブレーキB1の締結により完全締結時(LU時)のICE1速が達成される。このため、第2クラッチCL2は、車両発進時に第1ブレーキB1と共に締結するクラッチを構成する。
【0018】
ICEモードではさらに、第2クラッチCL2のスリップと第1ブレーキB1の締結によりWSC制御時つまりウェットスタートクラッチ制御時のICE1速が達成される。WSC制御はスリップ制御であり、車両発進時に行われる。WSC制御では、第2クラッチCL2の作動油圧である第2クラッチ圧PCL2を完全締結圧よりも低い締結圧に設定することにより、第2クラッチCL2をスリップさせながら徐々に締結する。締結圧は時間経過に応じて次第に増加するように設定される。完全締結圧、締結圧は予め設定することができる。
【0019】
このほか、ICEモードでは第2クラッチCL2と第2ブレーキB2の締結によりICE2速が達成される。また、第1クラッチCL1と第2クラッチCL2の締結によりICE3速が達成され、第1クラッチCL1と第2ブレーキB2の締結によりICE4速が達成される。後進は、第1ブレーキB1或いは第2ブレーキB2を締結し、モータジェネレータ2を逆回転駆動することにより行うことができる。
【0020】
図4は変速機構3の共線図である。共線図では、各回転要素がギヤ比に応じた軸間距離で横軸に配置され、各回転要素の回転速度が縦軸に示される。変速機構3は、共線図の横軸にギヤ比に応じた間隔で5つの回転要素が第1回転要素から順に第2回転要素、第3回転要素、第4回転要素、第5回転要素と並ぶ構成とされる。変速機構3では、5つの回転要素が第1サンギヤS1から順に第2リングギヤR2、キャリアC、第1リングギヤR1、第2サンギヤS2と並ぶ。
【0021】
共線図では、ギヤの噛み合いによる各回転要素の関係が各回転要素を直線で結んだ剛体レバーで示され、変速機構3の変速が剛体レバーの回転動作により表現される。例えば、ICE1速時の各回転要素の関係は、ICE1速で締結される第1リングギヤR1上の第2クラッチCL2と第2リングギヤR2上の第1ブレーキB1とを直線で結んだ剛体レバーにより示される。同様に、ICE2速時の各回転要素の関係は、ICE2速で締結される第2クラッチCL2と第1サンギヤS1上の第2ブレーキB2とを直線で結んだ剛体レバーにより示される。ICE3速時の各回転要素の関係は、ICE3速で締結される第2リングギヤR2上の第1クラッチCL1と第2ブレーキB2とを直線で結んだ剛体レバーにより示され、ICE4速時の各回転要素の関係は、ICE4速で締結される第1クラッチCL1と第2ブレーキB2とを直線で結んだ剛体レバーにより示される。
【0022】
ICE1速からICE2速への変速時には、剛体レバーは第1リングギヤR1上の第2クラッチCL2を中心にして回転する。ICE2速からICE3速への変速時も同様である。ICE3速からICE4速への変速時には、剛体レバーは第1サンギヤS1上の第2ブレーキB2を中心にして回転する。
【0023】
ところで、前述したようにWSC制御では第2クラッチCL2をスリップさせることから、第2クラッチCL2の潤滑・冷却が必要とされる。第2クラッチCL2の潤滑・冷却のためには、第2クラッチ圧PCL2が高くなると開く流量制御弁により第2クラッチCL2に潤滑油を供給することが考えられる。
【0024】
しかしながらこの場合、WSC制御時だけでなく、潤滑が不要な第2クラッチCL2締結時にも第2クラッチCL2に潤滑油が供給される。結果、後述するオイルポンプ101の負荷が大きくなり、燃費や電費といったエネルギ消費の悪化を招くことが懸念される。
【0025】
このため、本実施形態では第2クラッチCL2を含む変速機構3の締結要素に油を供給する油圧制御回路100が次に説明するように構成される。
【0026】
図5は油圧制御回路100の要部を示す図である。
図5では、変速機コントローラ150及びエンジンコントローラ160とともに油圧制御回路100を示す。
【0027】
油圧制御回路100は、オイルポンプ101、ライン圧制御弁102、リリーフ弁103、第1から第4油圧制御弁104から107、第1から第4フィルタ108から111、第1から第4アキュムレータ112から115、減圧弁116、ライン制御圧ソレノイドバルブ117、開閉弁118、オリフィス119、パーク装置120、第1切替弁121、第2切替弁122、クラッチ潤滑系123、冷却系124、潤滑系125を有して構成される。
【0028】
オイルポンプ101は、ライン圧油路131に油を圧送する。オイルポンプ101はモータを動力源とする電動オイルポンプとされる。ライン圧制御弁102はライン圧油路131に設けられ、オイルポンプ101から供給される油を調圧してライン圧を生成する。リリーフ弁103はライン圧がリリーフ弁103の設定圧より高くなった場合に開弁し、ライン圧を設定圧以下に維持する。
【0029】
ライン圧油路131には、第1油圧制御弁104及び第1フィルタ108を介して第1クラッチCL1が接続される。同様にライン圧油路131には、第2油圧制御弁105及び第2フィルタ109を介して第2クラッチCL2が、第3油圧制御弁106及び第3フィルタ110を介して第1ブレーキB1が、第4油圧制御弁107及び第4フィルタ111を介して第2ブレーキB2がそれぞれ接続される。
【0030】
第1油圧制御弁104と第1クラッチCL1とは接続油路132により接続され、第1フィルタ108は接続油路132に設けられる。同様に、第2油圧制御弁105と第2クラッチCL2とは接続油路133により接続され、第2フィルタ109は接続油路133に設けられる。第3油圧制御弁106と第1ブレーキB1とは接続油路134により接続され、第3フィルタ110は接続油路134に設けられる。第4油圧制御弁107と第2ブレーキB2とは接続油路135により接続され、第4フィルタ111は接続油路135に設けられる。第1から第4フィルタ108から111それぞれは、変速機構3の締結要素のうち対応する締結要素に供給される油から異物を除去する。
【0031】
第1から第4油圧制御弁104から107それぞれは、リニアソレノイドバルブにより構成され、制御電流に応じた油圧を生成する。第1から第4油圧制御弁104から107それぞれは、オイルポンプ101から供給される油を調圧することにより、変速機構3の締結要素のうち対応する締結要素の作動油圧を制御する。
【0032】
例えば、第3油圧制御弁106はオイルポンプ101から供給される油を調圧することにより、第1ブレーキB1の作動油圧である第1ブレーキ圧PB1を制御する。また、第2油圧制御弁105はオイルポンプ101から供給される油を調圧することにより、第2クラッチ圧PCL2を制御する。第2クラッチ圧PCL2は、第2油圧制御弁105によって調圧された油圧によりスリップ又は締結する。
【0033】
接続油路132には第1アキュムレータ112が設けられる。同様に、接続油路133には第2アキュムレータ113が、接続油路134には第3アキュムレータ114が、接続油路135には第4アキュムレータ115がそれぞれ設けられる。第1から第4アキュムレータ112から115それぞれは蓄圧装置であり、接続油路132から135のうち対応する接続油路から油圧を蓄え、また、蓄えた油圧を対応する接続油路へ放出する。第1から第4アキュムレータ112から115それぞれは、第1から第4フィルタ108から111のうち対応するフィルタよりも手前つまり上流側に設けられる。
【0034】
ライン圧油路131には、減圧弁116がさらに接続される。減圧弁116は、供給される油を減圧する。減圧弁116は接続油路136を介してライン制御圧ソレノイドバルブ117と開閉弁118とに接続される。接続油路136はオリフィス119を介してドレン油路137と接続する。ドレン油路137は、ライン圧制御弁102からドレンされた油を流通させる。
【0035】
ライン制御圧ソレノイドバルブ117はリニアソレノイドバルブであり、制御電流に応じた制御油圧を生成する。ライン制御圧ソレノイドバルブ117が生成した制御油圧はライン圧制御弁102に供給され、ライン圧制御弁102は当該制御油圧に応じて作動することで調圧を行う。開閉弁118はオンオフバルブであり、車両のパークロックを行う油圧式のパーク装置120への油の供給を実行、停止する。
【0036】
ドレン油路137は、第1分岐油路138と第2分岐油路139とに分岐する。第1分岐油路138はクラッチ潤滑系123に接続し、第2分岐油路139は冷却系124さらには潤滑系125に接続する。クラッチ潤滑系123は変速機構3の締結要素の潤滑系であり、第2クラッチCL2を潤滑対象に含む。冷却系124と潤滑系125とは、変速機構3の締結要素以外に冷却・潤滑が必要な部位の冷却・潤滑を行う。ライン圧油路131とドレン油路137と第1分岐油路138とは、オイルポンプ101から第2クラッチCL2へ潤滑油を供給する潤滑油路140を構成する。
【0037】
第1切替弁121は、潤滑油路140に設けられる。第1切替弁121は、第1分岐油路138及び第2分岐油路139へのドレン油路137の分岐地点に設けられる。第1切替弁121は、潤滑油路140の経路上に設けられ潤滑油路140の開閉つまり連通、遮断を行う。第1切替弁121は、第1ブレーキ圧PB1と第2クラッチ圧PCL2とを信号圧として用いて第2クラッチCL2への潤滑油の供給量を制御する。第1切替弁121は、第2クラッチCL2への潤滑油の供給、停止を切り替えることにより、第2クラッチCL2への潤滑油の供給量を制御する。第1切替弁121の第1ブレーキ圧PB1の入力ポートは、接続油路141により接続油路134に接続される。第1切替弁121の第2クラッチ圧PCL2の入力ポートは、接続油路142により接続油路133に接続される。第1切替弁121の動作については後述する。
【0038】
接続油路141には第2切替弁122が設けられる。第2切替弁122は第2クラッチ圧PCL2を信号圧として用いて第1切替弁121に供給される信号圧としての第1ブレーキ圧PB1を制御する。第2切替弁122は第1切替弁121への第1ブレーキ圧PB1の供給、停止を切り替えることにより、第1ブレーキ圧PB1を制御する。第2切替弁122の第2クラッチ圧PCL2の入力ポートは、接続油路143により接続油路142に接続され、これにより接続油路142、接続油路143を介して接続油路133に接続される。第2切替弁122の動作については後述する。
【0039】
油圧制御回路100は、変速機コントローラ150により制御される。変速機コントローラ150は変速機構3を制御するためのコントローラであり、変速機コントローラ150には、アクセルペダルの踏み込み量を検出するためのアクセル開度センサ151や、エンジン1の吸入空気量を調節するスロットル弁のスロットル開度TVOを検出するためのスロットル開度センサ152や、車速VSPを検出するための車速センサ153や、外気温を検出するための外気温センサ154等からの信号が入力される。変速機コントローラ150にはさらに、エンジン1を制御するためのエンジンコントローラ160が相互通信可能に接続される。エンジンコントローラ160から変速機コントローラ150にはエンジン1のトルクTe等の信号が入力される。
【0040】
変速機コントローラ150は、入力される信号等に基づき第1から第4油圧制御弁104から107、減圧弁116、ライン制御圧ソレノイドバルブ117、開閉弁118等を制御する。変速機コントローラ150は、後述する第2クラッチCL2の熱量を検出するようにプログラムされることで、熱量検出部を有した構成とされる。変速機コントローラ150が行う制御については後述する。
【0041】
本実施形態では、WSC制御によりスリップされる第2クラッチCL2の潤滑を制御する潤滑制御装置が、オイルポンプ101、第2油圧制御弁105、第2クラッチCL2、第1ブレーキB1、潤滑油路140、第1切替弁121、第2切替弁122及び変速機コントローラ150を有して構成される。第2油圧制御弁105は調圧弁に対応し、第2クラッチCL2は第1締結要素に対応し、第1ブレーキB1は第2締結要素に対応する。第1切替弁121は潤滑油供給弁に対応し、変速機コントローラ150は熱量検出部に対応する。潤滑制御装置は例えば、第3油圧制御弁106や第2切替弁122など油圧制御回路100のその他の構成をさらに有して構成されてもよい。本実施形態にかかる潤滑制御装置では、次に説明するように第1切替弁121が動作することにより第2クラッチCL2の潤滑が行われる。
【0042】
図6から
図9は、第1切替弁121の動作説明図である。
図6は第1切替弁121の第1切替状態を示す。
図7は第1切替状態における第1切替弁121の信号圧の関係を示す。
図8は第1切替弁121の第2の切替状態を示す。
図9は第2切替状態における第1切替弁121の信号圧の関係を示す。
【0043】
図6に示す第1切替状態は、ICE1速時且つ第2クラッチCL2完全締結時の第1切替弁121の切替状態である。第1ブレーキ圧PB1は、第1切替弁121のスプリング121aの付勢力に抗してスプールに作用する。従って、第1ブレーキ圧PB1は第1切替弁121を開とする方向の信号圧として第1切替弁121に供給される。第2クラッチ圧PCL2は、スプリング121aの付勢力の作用方向と同方向でスプールに作用する。従って、第2クラッチ圧PCL2は第1切替弁121を閉とする方向の信号圧として第1切替弁121に供給される。
【0044】
第1切替弁121では、第1ブレーキ圧PB1から第2クラッチ圧PCL2を減算して得られる差圧ΔPに応じたスプールへの作用力とスプリング121aの付勢力とに応じて切替状態が決定される。第1切替弁121では、第1ブレーキ圧PB1が作用する側と第2クラッチ圧PCL2が作用する側とでスプールの受圧面積は同じとなっている。
【0045】
図7に示すように、第1切替状態では完全締結圧に設定された第1ブレーキ圧PB1及び第2クラッチ圧PCL2それぞれが同じ傾きでモータトルクの増加に応じて増加する。モータトルクはオイルポンプ101の駆動トルクであり、同一モータトルクでは第1ブレーキ圧PB1は第2クラッチ圧PCL2よりも高い。また、同一モータトルクにおける第1ブレーキ圧PB1と第2クラッチ圧PCL2との差分の大きさ、つまり差圧ΔPは切替圧PSよりも小さい。切替圧PSは、スプリング121aの付勢力に応じたスプールへの作用圧であり、差圧ΔPが切替圧PS以上になると第1切替弁121は開とされる。
【0046】
これらのことから、第1切替状態では差圧ΔPが一定となり且つ切替圧PSよりも低くなる。この場合、第1切替弁121のスプールは、スプリング121aの付勢力により第1切替弁121を閉とする方向に付勢される。
【0047】
結果、
図6に示すように、第1切替状態では第1分岐油路138の接続ポートがスプールにより遮断されるので、クラッチ潤滑系123への潤滑油の供給は行われない。この場合、第2分岐油路139の接続ポートがスプールにより開放され、冷却系124さらには潤滑系125への潤滑油の供給が行われる。
【0048】
図8に示す第2切替状態は、ICE1速時且つWSC制御時の第1切替弁121の切替状態である。
図9に示すように、第2切替状態では第1ブレーキ圧PB1が完全締結圧に設定される一方、第2クラッチ圧PCL2が締結圧に設定される。締結圧に設定された第2クラッチ圧PCL2は、破線で示す完全締結圧に設定された場合の第2クラッチ圧PCL2よりも小さい傾きを有し、且つ同一モータトルクで破線で示す第2クラッチ圧PCL2よりも低くなる。さらに、第2クラッチ圧PCL2は同一モータトルクで差圧ΔPが切替圧PSよりも高くなるように設定される。
【0049】
このため、WSC制御時には第1切替弁121のスプールが差圧ΔPに応じた付勢力により第1切替弁121を開とする方向に付勢される。結果、
図8に示すように、第1分岐油路138の接続ポートが開放されるので、クラッチ潤滑系123への潤滑油の供給が行われる。この場合、第2分岐油路139の接続ポートはスプールにより遮断され、冷却系124さらには潤滑系125への潤滑油の供給は行われない。
【0050】
上述のような切替状態を有する第1切替弁121は、WSC制御が行われている間は第2クラッチCL2への潤滑油の供給を行い、WSC制御が終了し第2クラッチCL2が完全締結されると第2クラッチCL2への潤滑油の供給を停止する。
【0051】
従って、本実施形態にかかる潤滑制御装置は、第2クラッチ圧PCL2が低く第2クラッチCL2がスリップ状態のときには第1切替弁121を開として第2クラッチCL2に潤滑油を供給し、第2クラッチ圧PCL2が高く第2クラッチCL2が完全締結状態のときには第1切替弁121を閉として第2クラッチCL2への潤滑油の供給を行わない。
【0052】
これにより、完全締結された第2クラッチCL2への不要な潤滑油供給によるエネルギ消費の悪化が防止される。第2クラッチCL2がスリップ状態のとき、第2クラッチ圧PCL2は締結圧に設定され、第2クラッチCL2が完全締結状態のとき、第2クラッチ圧PCL2は完全締結圧に設定される。
【0053】
前述した
図3に示すように、第1ブレーキB1はICE1速時のほかEV1速時にも締結される。このため、第1切替弁121のみで第2クラッチCL2への潤滑油の供給量を制御しようとすると、第2クラッチCL2のスリップが行われないEV1速時にも、第1ブレーキB1が締結されることにより差圧ΔPが切替圧PSよりも高くなる。結果、第1切替弁121が第2切替状態になり、第2クラッチCL2への不要な潤滑油供給が行われることになる。
【0054】
本実施形態では、前述したように第2切替弁122が接続油路141に設けられる。結果、第1切替弁121は第2切替弁122の動作に応じて次のように動作する。
【0055】
図10、
図11は、第1切替弁121及び第2切替弁122の動作説明図である。
図10は、WSC制御時の第1切替弁121及び第2切替弁122の切替状態を示す。
図11は、EV1速時の第1切替弁121及び第2切替弁122の切替状態を示す。
【0056】
図10に示すように、第2切替弁122では第2クラッチ圧PCL2が第2切替弁122のスプリング122aの付勢力に抗してスプールに作用する。従って、第2切替弁122では第2クラッチ圧PCL2が第2切替弁122を開とする方向の信号圧として第2切替弁122に供給される。
【0057】
図10に示すWSC制御時には、締結圧に設定された第2クラッチ圧PCL2が第2切替弁122に供給される。スプリング122aに基づく第2切替弁122の設定圧、つまり第2切替弁122の切替圧は、発生しているモータトルクの大きさに関わらず締結圧に設定された第2クラッチ圧PCL2よりも小さくなるように設定される。
【0058】
このためこの場合は、第2切替弁122のスプールが第2クラッチ圧PCL2に応じた作用力により第2切替弁122を開とする方向に付勢される。結果、接続油路141がスプールにより連通されるので、第1ブレーキ圧PB1が第1切替弁121に供給され、第1切替弁121が第2切替状態になる。従って、WSC制御時には第2クラッチCL2への潤滑油の供給が行われる。
【0059】
図11に示すように、EV1速時には第2クラッチCL2が解放されることから、第2クラッチ圧PCL2は第2切替弁122に供給されない。このためこの場合は、第2切替弁122のスプールがスプリング122aの付勢力により第2切替弁122を閉とする方向に付勢される。結果、接続油路141がスプールにより遮断されるので、第1ブレーキ圧PB1は第1切替弁121に供給されず、第1切替弁121は第1切替状態になる。従って、EV1速時には第2クラッチCL2への不要な潤滑油供給は行われない。
【0060】
上述してきたように、本実施形態では第2クラッチCL2がスリップした状態で第2クラッチCL2に潤滑油が供給され、第2クラッチCL2が締結すると第2クラッチCL2への潤滑油供給は中止される。しかしながら、スリップ時の第2クラッチCL2の発熱量が大きいと第2クラッチCL2の高温状態が長く続き、フェーシングの劣化を招くことが懸念される。
【0061】
このため、本実施形態では変速機コントローラ150が次に説明する制御を行う。
【0062】
図12は変速機コントローラ150が行う制御の一例をフローチャートで示す図である。変速機コントローラ150は本フローチャートに示す処理を繰り返し実行することができる。変速機コントローラ150は本フローチャートに示す処理を停車中に開始することができる。
【0063】
ステップS11で、変速機コントローラ150は発進意図があるか否かを判定する。発進意図がある否かは例えば、アクセル開度センサ151からの入力に基づきアクセルペダルが踏み込まれたか否かを判定することにより判定できる。ステップS11で否定判定であれば処理は一旦終了する。ステップS11で肯定判定であれば、処理はステップS12に進む。
【0064】
ステップS12で、変速機コントローラ150はWSC制御を実行する。これにより、変速機構3がICE1速且つWSC制御時の締結状態に制御される。つまり、第1ブレーキB1が完全締結状態とされるとともに、第2クラッチCL2がスリップ状態とされる。WSC制御中は、第1切替弁121及び第2切替弁122が前述した
図10に示す状態になり、第2クラッチCL2に潤滑油が供給される。
【0065】
ステップS13で、変速機コントローラ150は車速VSPがLU車速VSP1以上か否かを判定する。LU車速VSP1は、WSC制御によりスリップ状態とされた第2クラッチCL2を完全締結するための車速VSPであり、予め設定される。
【0066】
ステップS13で否定判定であれば、処理はステップS13に戻る。この場合、ステップS13で肯定判定されるまでの間、WSC制御が継続され、第2クラッチCL2がスリップされながら徐々に締結する。ステップS13で肯定判定であれば処理はステップS14に進む。
【0067】
ステップS14で、変速機コントローラ150はスロットル開度TVOが所定開度TVO1以上か否かを判定する。ここで、スロットル開度TVOは運転者のアクセルペダルの踏み込み量に応じて変化し、スロットル開度TVOが大きいと変速機構3が伝達すべきトルクも大きくなる。このため、スロットル開度TVOが大きいとWSC制御中の第2クラッチCL2の発熱量も大きくなり、その後に亘って第2クラッチCL2が保有する熱量が大きくなる。
【0068】
このことから、ステップS14ではスロットル開度TVOが所定開度TVO1以下か否かを判定することにより、WSC制御中のスリップにより第2クラッチCL2に保有される第2クラッチCL2の熱量がフェーシング劣化の観点から許容範囲内か否かが判定される。所定開度TVO1はこのような判定を行うための判定値であり、予め設定される。第2クラッチCL2の熱量についてはさらに後述する。
【0069】
ステップS14で肯定判定であれば、第2クラッチCL2の熱量は許容範囲内と判断される。この場合、処理はステップS15に進む。
【0070】
ステップS15で変速機コントローラ150は、第2クラッチCL2のLU制御つまり完全締結制御を実行する。これにより、変速機構3がICE1速且つLU時の状態に制御される。従って、第1ブレーキB1及び第2クラッチCL2が完全締結状態となり、第2クラッチCL2への潤滑油の供給が第1切替弁121により遮断される。つまりこの場合は、第2クラッチCL2の熱量が許容範囲内であることから、第2クラッチCL2への潤滑油供給は中止される。ステップS15の後には処理は終了する。
【0071】
ステップS14で否定判定の場合、第2クラッチCL2の熱量が許容範囲を超えると判断される。この場合、処理はステップS16に進む。
【0072】
ステップS16で、変速機コントローラ150は第2クラッチCL2のLU潤滑制御を実行する。LU潤滑制御は、第2クラッチCL2を完全締結させるとともに第2クラッチCL2に潤滑油を供給する制御である。LU潤滑制御では、第2油圧制御弁105を制御することにより第2クラッチ圧PCL2を完全締結圧まで上昇させるとともに、第3油圧制御弁106を制御することにより第1ブレーキ圧PB1を完全締結圧よりも一時的に上昇させる。
【0073】
第1ブレーキ圧PB1は、第1切替弁121において差圧ΔPが切替圧PSよりも大きくなるように上昇される。つまり、LU潤滑制御では、WSC制御からの移行の際に差圧ΔPが切替圧PSよりも大きい状態(差圧ΔPに応じたスプールへの作用力がスプリング121aの付勢力よりも大きい状態)が維持される。
【0074】
これにより、第2クラッチCL2を完全締結させつつ第2クラッチCL2に潤滑油を供給することが可能になる。従って、WSC制御時から引き続き第2クラッチCL2への潤滑油の供給を継続することが可能になる。変速機コントローラ150は、ステップS16の処理を行うようにプログラムされることにより、LU潤滑制御を行う制御部を有した構成とされる。
【0075】
ステップS17で、変速機コントローラ150は第2クラッチCL2のクラッチ温度TCが設定温度TC1以下か否かを判定する。クラッチ温度TCはフェーシングの温度であり、例えば伝達トルク、スリップ量及び経過時間により積算される発熱量から放熱量を減算して得られる熱量と第2クラッチCL2の雰囲気温度とに基づき推定することができる。クラッチ温度TCは簡易的には例えば、潤滑油の油温に基づき推定されてもよい。設定温度TC1はフェーシング劣化の観点から第2クラッチCL2への潤滑油の供給が不要か否かを判定するための判定値であり、予め設定される。
【0076】
ステップS17で否定判定であれば、第2クラッチCL2への潤滑油の供給が必要と判断され、処理はステップS17に戻る。これにより、クラッチ温度TCが設定温度TC1以下になるまでの間、LU潤滑制御により第2クラッチCL2への潤滑油供給が継続される。
【0077】
ステップS17で肯定判定であれば、第2クラッチCL2への潤滑油供給は不要と判断され、処理はステップS15に移行する。これにより、LU潤滑制御からLU制御に変速機構3の制御が移行し、第2クラッチCL2への潤滑油の供給が中止される。
【0078】
図13、
図14は、
図12に示すフローチャートに対応するタイミングチャートの一例を示す図である。
図15は、比較例の場合のタイミングチャートを示す図である。
図13では、第2クラッチCL2の熱量が許容範囲内の場合を示し、
図14では、第2クラッチCL2の熱量が許容範囲を超える場合を示す。
図15では、第2クラッチCL2の熱量が許容範囲を超える一方、変速機構3の制御をWSC制御からLU制御に移行させる場合を示す。
【0079】
図13に示す例から説明すると、タイミングT1では停車中となっており、第2クラッチCL2は解放状態である。このため、第1ブレーキ圧PB1は完全締結圧となっており、第2クラッチ圧PCL2は解放圧となっている。EV1速時の締結状態では、
図11を用いて前述したように第2切替弁122が接続油路141を遮断する。このため、第2クラッチCL2に潤滑油を供給することにより第2クラッチCL2を潤滑する第1切替弁121のクラッチ潤滑動作は停止となっている。
【0080】
タイミングT2では、アクセルペダルの踏み込みに応じてスロットル開度TVOが上昇する。結果、変速機構3の制御がWSC制御に移行し、第2クラッチ圧PCL2が締結圧に設定される。結果、第1切替弁121のクラッチ潤滑動作が潤滑になる。第2クラッチCL2の入力回転速度Ninは、スロットル開度TVOの上昇に応じて上昇する。
【0081】
タイミングT2からは、第2クラッチCL2を徐々に締結するためにモータトルクが上昇され始める。結果、完全締結圧に設定された第1ブレーキ圧PB1が上昇し始めるとともに、締結圧に設定された第2クラッチ圧PCL2が上昇し始める。また、第2クラッチCL2がスリップ状態となることにより、第2クラッチCL2の出力回転速度Noutも上昇し始める。タイミングT2からは、第2クラッチCL2のスリップが行われることにより、クラッチ温度TCが上昇し始める。
【0082】
タイミングT3では、車速VSPがLU車速VSP1以上になる。
図13に示す例では、タイミングT3でスロットル開度TVOは所定開度TVO1よりも小さくなっている。このため、第2クラッチCL2の熱量は許容範囲内と判断され、変速機構3の制御が第2クラッチCL2のLU制御に移行する。結果、第2クラッチ圧PCL2が完全締結圧まで上昇し、第2クラッチCL2が完全締結する。タイミングT3からは入力回転速度Nin及び出力回転速度Noutが等速となって上昇する。第1ブレーキ圧PB1と第2クラッチ圧PCL2とはトルク伝達のためにモータトルクを増加させることにより増加される。
【0083】
WSC制御のスリップにより第2クラッチCL2に保有される第2クラッチCL2の熱量は、タイミングT2のWSC制御開始時点の温度よりも高いクラッチ温度TCの時間積分値、つまり図示のハッチング領域により指標される。当該ハッチング領域はWSC制御中のクラッチ温度TCが高くなるほど拡大し、また、クラッチ温度TCがWSC制御開始時点の温度に戻るまでの時間が長くなるほど拡大する。
【0084】
ハッチング領域の面積はフェーシングの熱履歴となり、WSC制御の実行回数に応じたフェーシングの総熱履歴は、ジャダーが許容限度を超えることになるジャダー寿命に影響する。ジャダーとは、摩擦によって動力を伝達する締結要素において、摩擦面でスムースに力が作用せず異音や振動を起こす現象である。
【0085】
このようなハッチング領域により指標される第2クラッチCL2の熱量は、第2クラッチCL2にかかる負荷に応じて変化する。また、第2クラッチCL2にかかる負荷はスロットル開度TVOに応じて変化する。
【0086】
このため、変速機コントローラ150はスロットル開度TVOに基づき第2クラッチCL2の熱量を検出し、スロットル開度TVOが所定開度TVO1以下か否かを判定することにより、第2クラッチCL2の熱量が設定値以下か否かを判定する。当該設定値は、予め定められた第2クラッチCL2の熱量の許容範囲の上限値とされる。
【0087】
変速機コントローラ150は例えば、第2クラッチCL2への入力トルクに基づき第2クラッチCL2の熱量を検出してもよい。第2クラッチCL2への入力トルクとしては例えば、エンジン1のトルクTeを用いることができる。
【0088】
次に
図15に示す比較例について説明すると、タイミングT2におけるスロットル開度TVOは所定開度TVO1よりも大きく、
図13に示す例よりも大きくなっている。このため、
図13に示す例と比較して入力回転速度Ninが大きくなり、WSC制御中に第2クラッチCL2にかかる負荷も高くなる。結果、
図13に示す例と比較してWSC制御中のクラッチ温度TCも高くなり、第2クラッチCL2の熱量を表すハッチング領域も拡大する。
図15では、
図13に示す例のハッチング領域を重ねて示す。
【0089】
比較例では、タイミングT3でスロットル開度TVOが所定開度TVO1よりも大きくなっている。従って、第2クラッチCL2の熱量は許容範囲を超えることになる。しかしながら比較例では、タイミングT3からLU制御に移行するので、第1切替弁121のクラッチ潤滑動作は停止となり、第2クラッチCL2への潤滑油供給が中止される。結果、クラッチ温度TCはタイミングT3以降に緩やかに低下し、これによってもハッチング領域が拡大する。
【0090】
本実施形態の場合、
図14に示すようにタイミングT3でスロットル開度TVOが所定開度TVO1よりも大きいことから、第2クラッチCL2の熱量は許容範囲を超えると判断される。このため、変速機構3の制御がWSC制御からLU潤滑制御に移行する。結果、第2クラッチ圧PCL2が完全締結圧まで上昇し、第2クラッチCL2が完全締結する。また、第1ブレーキ圧PB1が完全締結圧よりも上昇し、第1切替弁121の切替状態を維持する。従って、第1切替弁121のクラッチ潤滑動作が継続され、潤滑のままとなる。
【0091】
結果、クラッチ温度TCはタイミングT3から低下し始め、これにより比較例の場合よりもハッチング領域の面積が縮小するので、フェーシングの劣化が抑制される。またこのときには第1ブレーキB1は締結しているので、第1ブレーキ圧PB1を上昇させても第1ブレーキB1はそのままとなり、第1ブレーキB1に影響を及ぼすこともない。
【0092】
また、本実施形態の場合、タイミングT4でクラッチ温度TCが設定温度TC1以下になると、変速機構3の制御がLU潤滑制御からLU制御に移行するので、第1切替弁121のクラッチ潤滑動作が停止となり、第2クラッチCL2への不要な潤滑油供給も停止される。このとき、変速機コントローラ150はクラッチ温度TCに基づき第2クラッチCL2の熱量を検出し、クラッチ温度TCが設定温度TC1以下か否かを判定することにより、第2クラッチCL2の熱量が設定値以下か否かを判定する。
【0093】
次に、本実施形態の主な作用効果について説明する。
【0094】
本実施形態にかかる潤滑制御装置は、オイルポンプ101と、第2油圧制御弁105と、第2クラッチCL2と、潤滑油路140と、第1切替弁121と、第2クラッチCL2の熱量を検出する変速機コントローラ150とを有する。第1切替弁121は、第2クラッチCL2がスリップした状態において潤滑油路140から第2クラッチCL2へ油を供給する。また、第1切替弁121は、第2クラッチCL2が締結した状態において変速機コントローラ150が第2クラッチCL2の熱量が設定値より大きいことを検出した場合は、潤滑油路140から第2クラッチCL2へ油の供給を一時的に継続する。
【0095】
このような構成によれば、第2クラッチCL2の熱量が設定値より大きいことが検出された場合は第2クラッチCL2へ油の供給を一時的に継続するので、締結後も第2クラッチCL2を冷却できる。このため、クラッチの高温状態が長く続くことを抑制でき、これにより第2クラッチCL2のフェーシングの劣化を抑制することができる。また、第2クラッチCL2へ油の供給を一時的に継続するので、エネルギ消費の悪化も抑制することができる(請求項1、8に対応する効果)。
【0096】
本実施形態では、第1切替弁121は変速機コントローラ150が第2クラッチCL2の熱量が設定値以下になったことを検出すると潤滑油路140から第2クラッチCL2への油の供給を中止する。
【0097】
このような構成によれば、第2クラッチCL2の熱量が大きい場合に第2クラッチCL2に必要以上に油を供給しないようにすることができ、エネルギ消費面で有利な構成とすることができる(請求項2に対応する効果)。
【0098】
本実施形態では、第1切替弁121は第2クラッチCL2が締結した状態において変速機コントローラ150が第2クラッチCL2の熱量が設定値より大きいことを検出しなかった場合は、潤滑油路140から第2クラッチCL2への油の供給を中止する。
【0099】
このような構成によれば、第2クラッチCL2の熱量が小さい場合に第2クラッチCL2への不要な油の供給を行わずに済み、エネルギ消費面で有利な構成とすることができる(請求項3に対応する効果)。
【0100】
本実施形態では、変速機コントローラ150は、第2クラッチCL2により動力が伝達されるエンジン1の吸入空気量を調節するスロットル弁のスロットル開度TVOに基づき、第2クラッチCL2の熱量を検出する。
【0101】
このような構成によれば、第2クラッチCL2の熱量と相関関係があるスロットル開度TVOを利用するので、第2クラッチCL2の熱量を適切に判定することができる。また、エンジン1の制御で用いられるスロットル開度TVOを利用するので、コスト面で有利な構成とすることができる(請求項4に対応する効果)。
【0102】
本実施形態では、変速機コントローラ150は、クラッチ温度TCに基づき第2クラッチCL2の熱量を検出する。
【0103】
このような構成によれば、LU潤滑制御により第2クラッチCL2を冷却した場合であっても、第2クラッチCL2の熱量を適切に判定することができる(請求項5に対応する効果)。
【0104】
第1切替弁121は、第2クラッチ圧PCL2と第1ブレーキ圧PB1とを信号圧として、潤滑油路140から第2クラッチCL2への油の供給を制御する。
【0105】
このような構成によれば、第1切替弁121の状態を切り替えるソレノイド及びドライバが不要な分、コスト面で有利な構成とすることができる(請求項6に対応する効果)。
【0106】
変速機コントローラ150は、第2クラッチCL2への入力トルクに基づき第2クラッチCL2の熱量を検出してもよい。
【0107】
この場合も、第2クラッチCL2の熱量と相関関係がある第2クラッチCL2の入力トルクを利用するので、第2クラッチCL2の熱量を適切に判定することができる。また、第2クラッチCL2への入力トルクとしてエンジン1の制御で用いられるトルクTeを利用すれば、コスト面で有利な構成とすることもできる(請求項7に対応する効果)。
【0108】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0109】
例えば上述した実施形態では、単一の変速機コントローラ150により制御が行われる場合について説明した。しかしながら、変速機コントローラ150は複数のコントローラにより構成されてもよい。
【符号の説明】
【0110】
100 油圧制御回路
101 オイルポンプ(ポンプ)
105 第2油圧制御弁(調圧弁)
121 第1切替弁(潤滑油供給弁)
140 潤滑油路
150 変速機コントローラ(熱量検出部)
CL2 第2クラッチ(第1締結要素)
B1 第1ブレーキ(第2締結要素)