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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】熱交換器の流路構造、及び熱交換器
(51)【国際特許分類】
   F28D 7/16 20060101AFI20240112BHJP
   F01N 5/02 20060101ALI20240112BHJP
   F28F 9/02 20060101ALI20240112BHJP
   F28F 21/08 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
F28D7/16 D
F01N5/02 G
F28F9/02 301F
F28F21/08 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020007030
(22)【出願日】2020-01-20
(65)【公開番号】P2021113655
(43)【公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】麓 悠太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 健
【審査官】豊島 ひろみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-180204(JP,A)
【文献】国際公開第2016/185963(WO,A1)
【文献】特開平07-110174(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0279242(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 1/00 - 13/00
F01N 1/00 - 99/00
F28F 9/02
F28F 21/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1流体が流通可能であり、熱回収部材を収容可能な内筒と、
前記内筒との間に第2流体が流通可能となるように、前記内筒の径方向外側に間隔をおいて配置される外筒と、
前記内筒と前記外筒との間に配置され、前記外筒との間に前記第2流体が流通可能な第1流路及び前記内筒との間に前記第2流体が流通可能な第2流路を形成する中筒と、
前記第1流路内及び前記第2流路内の少なくとも一方に配置され、前記第1流路及び前記第2流路の少なくとも一方を流通する前記第2流体の流量を制御する流量制御機構と
を備え、
前記中筒は、前記第1流路と前記第2流路との間を第2流体が流通可能な連通孔を有する、熱交換器の流路構造。
【請求項2】
前記流量制御機構は、前記第2流体が流通する前記第1流路の流路面積を制御する流路面積制御機構、前記連通孔の開口面積を制御する開口面積制御機構、又はそれらの組み合わせである、請求項1に記載の熱交換器の流路構造。
【請求項3】
前記流量制御機構は、前記第2流体の温度に応じて変形可能な熱変形部材を備える、請求項1又は2に記載の熱交換器の流路構造。
【請求項4】
前記熱変形部材の一部が、前記外筒又は前記中筒に接合されている、請求項3に記載の熱交換器の流路構造。
【請求項5】
前記流路面積制御機構は、前記外筒の径方向内側に設けられ且つ開口部を有するドーナツ状のプレートと、前記第2流体の温度に応じて前記開口部を開閉可能なように設けられる熱変形部材とを備える、請求項に記載の熱交換器の流路構造。
【請求項6】
前記流路面積制御機構は、前記外筒の径方向内側に設けられた1つ以上のプレートであり、前記プレートが、前記第2流体の温度に応じて前記第1流路の流路面積を制御可能な熱変形部材から形成されている、請求項に記載の熱交換器の流路構造。
【請求項7】
前記開口面積制御機構は、前記中筒の径方向外側、前記中筒の径方向内側及び前記外筒の径方向内側から選択される1つ以上の位置に設けられた1つ以上のプレートであり、前記プレートが、前記第2流体の温度に応じて前記連通孔を開閉可能な熱変形部材から形成されている、請求項に記載の熱交換器の流路構造。
【請求項8】
前記熱変形部材がバイメタルである、請求項3~7のいずれか一項に記載の熱交換器の流路構造。
【請求項9】
前記流量制御機構は、熱回収時に前記第1流路の圧力損失を増大させ、熱遮断時に前記第1流路の圧力損失を低減させるように構成されている、請求項1~8のいずれか一項に記載の熱交換器の流路構造。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の熱交換器の流路構造を備える熱交換器。
【請求項11】
前記熱交換器が、前記熱回収部材を更に備え、
前記熱回収部材が、第1端面から第2端面まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁を有するハニカム構造体である、請求項10に記載の熱交換器。
【請求項12】
第1流体が流通可能であり、熱回収部材を収容可能な内筒と、
前記内筒との間に第2流体が流通可能となるように、前記内筒の径方向外側に間隔をおいて配置される外筒と、
前記内筒と前記外筒との間に配置され、前記外筒との間に前記第2流体が流通可能な第1流路及び前記内筒との間に前記第2流体が流通可能な第2流路を形成する中筒と、
前記第2流体の温度に応じて、前記第1流路及び前記第2流路の少なくとも一方を流通する前記第2流体の流量を制御する流量制御機構と
を備え、
前記中筒は、前記第1流路と前記第2流路との間を第2流体が流通可能な連通孔を有する、熱交換器の流路構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器の流路構造、及び熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の燃費改善が求められている。特に、エンジン始動時などのエンジンが冷えている時の燃費悪化を防ぐため、冷却水、エンジンオイル、オートマチックトランスミッションフルード(ATF:Automatic Transmission Fluid)などを早期に暖めて、フリクション(摩擦)損失を低減するシステムが期待されている。また、排ガス浄化用触媒を早期に活性化するために触媒を加熱するシステムが期待されている。
【0003】
上記のようなシステムとして、例えば、熱交換器がある。熱交換器は、内部に第1流体を流通させるとともに外部に第2流体を流通させることにより、第1流体と第2流体との間で熱交換を行う装置である。このような熱交換器では、高温の流体(例えば、排ガスなど)から低温の流体(例えば、冷却水など)へ熱交換することにより、熱を有効利用することができる。
【0004】
特許文献1には、第1流体(例えば、排ガス)が流通可能な複数のセルを有するハニカム構造体として形成された集熱部と、集熱部の外周面を覆うように配置され、集熱部との間に第2流体(例えば、冷却水)が流通可能なケーシングとを有する熱交換器が提案されている。
しかしながら、特許文献1の熱交換器は、第1流体から第2流体に排熱を常時回収する構造となっているため、排熱を回収する必要がない場合にも排熱を回収してしまうことがあった。そのため、排熱を回収する必要がない場合に回収された排熱を放出するためのラジエータの容量を大きくする必要があった。
【0005】
そこで、特許文献2には、ハニカム構造体の外周面を覆うように配置されたケーシングを、ハニカム構造体の外周面に嵌合するように配置された内筒と、内筒を覆うように配置された中筒と、中筒を覆うように配置された外筒とから構成し、内筒と中筒との間に内側外周流路、中筒と外筒との間に外側外周流路が形成された熱交換器が提案されている。この熱交換器によれば、内筒の温度が冷媒(第2流体)の沸点未満である場合(排熱を回収する必要がある場合)には、内側外周流路及び外側外周流路が液体状態の冷媒で満たされているため、熱交換を促進することができる。また、内筒の温度が冷媒の沸点以上である場合(排熱を回収する必要がない場合)には、内側外周流路に、沸騰気化により生じた気体状態の冷媒が存在するようになるため、熱交換を抑制することができる。したがって、この熱交換器は、2種類の流体間における熱交換の促進と抑制との切替えを行うことが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-037165号公報
【文献】国際公開第2016/185963号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載の熱交換器は、熱交換の促進効果(以下、「熱回収性能」という)及び抑制効果(以下、「熱遮断性能」という)が十分ではなく、これらの性能を向上させることが望まれている。
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、熱回収性能及び熱遮断性能に優れる熱交換器の流路構造、及び熱交換器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、熱交換器の流路構造について鋭意研究を行った結果、内筒と外筒との間に形成された2つの流路を流通する第2流体の流量が、熱回収性能及び熱遮断性能に影響を与えるという知見を得た。そして、本発明者らは、2つの流路の少なくとも一方を流通する第2流体の流量を制御する流量制御機構を設けることにより、熱回収性能及び熱遮断性能の両方を向上させ得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、第1流体が流通可能であり、熱回収部材を収容可能な内筒と、
前記内筒との間に第2流体が流通可能となるように、前記内筒の径方向外側に間隔をおいて配置される外筒と、
前記内筒と前記外筒との間に配置され、前記外筒との間に前記第2流体が流通可能な第1流路及び前記内筒との間に前記第2流体が流通可能な第2流路を形成する中筒と、
前記第1流路内及び前記第2流路内の少なくとも一方に配置され、前記第1流路及び前記第2流路の少なくとも一方を流通する前記第2流体の流量を制御する流量制御機構と
を備え、
前記中筒は、前記第1流路と前記第2流路との間を第2流体が流通可能な連通孔を有する、熱交換器の流路構造である。
【0010】
また、本発明は、第1流体が流通可能であり、熱回収部材を収容可能な内筒と、
前記内筒との間に第2流体が流通可能となるように、前記内筒の径方向外側に間隔をおいて配置される外筒と、
前記内筒と前記外筒との間に配置され、前記外筒との間に前記第2流体が流通可能な第1流路及び前記内筒との間に前記第2流体が流通可能な第2流路を形成する中筒と、
前記第2流体の温度に応じて、前記第1流路及び前記第2流路の少なくとも一方を流通する前記第2流体の流量を制御する流量制御機構と
を備え、
前記中筒は、前記第1流路と前記第2流路との間を第2流体が流通可能な連通孔を有する、熱交換器の流路構造である。
【0011】
さらに、本発明は、上記の熱交換器の流路構造を備える熱交換器である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、熱回収性能及び熱遮断性能に優れる熱交換器の流路構造、及び熱交換器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態1に係る熱交換器の第1流体の流通方向に平行な断面図である。
図2図1の熱交換器におけるa-a’線の断面図である。
図3図1の熱交換器におけるb-b’線の断面図である。
図4】2種の金属板から構成される複合金属材料(バイメタル)の断面図である。
図5図1における第2流体の流路構造の部分拡大図である。
図6】本発明の実施形態2に係る熱交換器における第2流体の流路構造の部分拡大図である。
図7】本発明の実施形態3に係る熱交換器における第2流体の流路構造の部分拡大図である。
図8】本発明の実施形態3に係る熱交換器における第1流体の流通方向に垂直な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態に係る熱交換器の流路構造は、第1流体が流通可能であり、熱回収部材を収容可能な内筒と、前記内筒との間に第2流体が流通可能となるように、前記内筒の径方向外側に間隔をおいて配置される外筒と、前記内筒と前記外筒との間に配置され、前記外筒との間に前記第2流体が流通可能な第1流路及び前記内筒との間に前記第2流体が流通可能な第2流路を形成する中筒と、前記第1流路内及び前記第2流路内の少なくとも一方に配置され、前記第1流路及び前記第2流路の少なくとも一方を流通する前記第2流体の流量を制御する流量制御機構とを備え、前記中筒は、前記第1流路と前記第2流路との間を第2流体が流通可能な連通孔を有する。
また、本発明の実施形態に係る熱交換器の流路構造は、第1流体が流通可能であり、熱回収部材を収容可能な内筒と、前記内筒との間に第2流体が流通可能となるように、前記内筒の径方向外側に間隔をおいて配置される外筒と、前記内筒と前記外筒との間に配置され、前記外筒との間に前記第2流体が流通可能な第1流路及び前記内筒との間に前記第2流体が流通可能な第2流路を形成する中筒と、前記第2流体の温度に応じて、前記第1流路及び前記第2流路の少なくとも一方を流通する前記第2流体の流量を制御する流量制御機構とを備え、前記中筒は、前記第1流路と前記第2流路との間を第2流体が流通可能な連通孔を有する。
さらに、本発明の実施形態に係る熱交換器は、上記の熱交換器の流路構造を備える熱交換器である。
以下、本発明の具体的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施形態に対し変更、改良などが適宜加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0015】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る熱交換器の第1流体の流通方向に平行な断面図である。また、図2は、図1の熱交換器におけるa-a’線の断面図であり、図3は、図1の熱交換器におけるb-b’線の断面図である。
図1~3に示されるように、本発明の実施形態1に係る熱交換器100は、第1流体が流通可能であり、熱回収部材40を収容可能な内筒10と、内筒10との間に第2流体が流通可能となるように、内筒10の径方向外側に間隔をおいて配置される外筒20と、内筒10と外筒20との間に配置され、外筒20との間に第2流体が流通可能な第1流路31a及び内筒10との間に第2流体が流通可能な第2流路31bを形成する中筒30と、第1流路31a内に配置され、第1流路31aを流通する第2流体の流量を制御する流量制御機構50とを備えている。また、中筒30は、第1流路31aと第2流路31bとの間を第2流体が流通可能な連通孔32を有する。
【0016】
ここで、第1流体及び第2流体としては、種々の液体及び気体を利用することができる。例えば、熱交換器100が自動車に搭載される場合、第1流体として排ガスを用いることができ、第2流体として水又は不凍液(JIS K2234:2006で規定されるLLC)を用いることができる。また、第1流体は、第2流体よりも高温の流体とすることができる。
【0017】
上記のような構造を有する熱交換器100において、流量制御機構50は、第1流路31aを流通する第2流体の流量を制御する機能を有する。熱交換を行う場合(熱回収時)、第1流路31aを流通する第2流体の流量を低減する(第1流路31aの圧力損失が増大する)ように流量制御機構50を制御することにより、第2流路31bを流通する第2流体の流量を増大させることができる。その結果、内筒10を流通する第1流体と第2流路31bを流通する第2流体との間の熱交換が促進され、熱回収性能が向上する。一方、熱交換を抑制する場合(熱遮断時)、第1流路31aを流通する第2流体の流量を増大する(第1流路31aの圧力損失が低減する)ように流量制御機構50を制御することにより、第2流路31bを流通する第2流体の流量を低減させることができる。その結果、気体状態の第2流体が第2流路31b内で保持され易くなるため、熱遮断性能が向上する。
【0018】
流量制御機構50としては、上記のような機能を有していれば特に限定されないが、図1に示されるような、第2流体が流通する第1流路31aの流路面積を制御する流路面積制御機構とすることができる。このような制御機構を用いることにより、第1流路31aを流通する第2流体の流量を容易に制御することができる。
【0019】
流量制御機構50(流路面積制御機構)は、外筒20の径方向内側に設けられ且つ開口部53を有するドーナツ状のプレート52と、第2流体の温度に応じて開口部53を開閉可能なように設けられる熱変形部材51とを備えることができる。熱変形部材51は、第2流体の温度に応じて変形可能であり、熱変形部材51の一部は、外筒20に接合されている。また、ドーナツ状のプレート52の一部は、外筒20に接合されている。なお、図1では、熱変形部材51及びプレート52を備える流量制御機構50について、外筒20の径方向内側に設けられる例を示したが、中筒30の径方向外側に設けられていてもよい。
【0020】
開口部53の形状としては、第2流体が通過可能な形状であれば特に限定されず、例えば、円形状、楕円形状、多角形状などの各種形状とすることができる。
開口部53の数は、特に限定されず、制御すべき流量に応じて適宜調整すればよい。
【0021】
熱変形部材51の形状は、第2流体の温度に応じて開口部53を開閉可能な形状であれば特に限定されない。熱変形部材51の形状は、好ましくは板状である。
熱変形部材51は、1つの開口部53に対して1つ設けてもよいし、2つ以上の開口部53に対して1つ設けてもよい。
【0022】
熱変形部材51としては、特に限定されないが、バイメタル、形状記憶合金などを用いることができる。その中でも熱変形部材51はバイメタルであることが好ましい。
ここで、本明細書において「バイメタル」とは、熱膨張率が異なる2種以上の金属板を接合した複合金属材料を意味する。バイメタルの一例として、2種の金属板から構成される複合金属材料の断面図を図4に示す。図4において、複合金属材料は、熱膨張率が小さい金属板Aと、熱膨張率が大きい金属板Bとから構成されている。このような構成を有する複合金属材料では、温度が上昇すると、熱膨張率が小さい側へ曲がる(変形する)という特性を有する。
変形温度や変形の大きさは、複合金属材料を構成する金属板の種類を選択することによって制御することができる。
【0023】
上記のような構造を有する流量制御機構50の動作について、図5を用いて説明する。図5は、図1における第2流体の流路構造の部分拡大図である。
熱交換を行う場合、第2流体の温度が低いことから、熱変形部材51は、開口部53を閉じるように変形可能に構成されている。そのため、図5(a)に示されるように、熱変形部材51は開口部53を閉じるように変形する。これにより、第2流路31bを流通する第2流体の流れ(点線の流れ)が強くなり、第1流路31aを流通する第2流体の流量が減少する(第1流路31aの圧力損失が増大する)とともに、第2流路31bを流通する第2流体の流量が増加する。
一方、熱交換を抑制する場合、第2流体の温度が高いことから、熱変形部材51は、開口部53を開くように変形可能に構成されている。そのため、図5(b)に示されるように、熱変形部材51は開口部53を開くように変形する。これにより、第1流路31aを流通する第2流体の流れ(点線の流れ)が強くなり、第1流路31aを流通する第2流体の流量が増加する(第1流路31aの圧力損失が低減する)とともに、第2流路31bを流通する第2流体の流量が減少する。
【0024】
以下、熱交換器100の各構成部材について、更に、構成部材ごとに詳細に説明する。
<内筒10について>
内筒10は、熱回収部材40の軸方向(第1流体の流通方向)外周面に配置される筒状の部材である。
内筒10の内周面は、熱回収部材40の軸方向外周面と直接的に接していても間接的に接していてもよいが、熱伝導性の観点から、熱回収部材40の軸方向外周面と直接的に接していることが好ましい。この場合、内筒10の内周面の断面形状は、熱回収部材40の外周面の断面形状と一致する。また、内筒10の軸方向は、熱回収部材40の軸方向と一致し、内筒10の中心軸は熱回収部材40の中心軸と一致することが好ましい。
内筒10の軸方向長さは、熱回収部材40の軸方向長さよりも長く設定されていることが好ましい。また、内筒10の軸方向において、内筒10の中央位置は、熱回収部材40の中央位置と一致することが好ましい。
【0025】
内筒10の径(外径及び内径)は、特に限定されないが、軸方向両端部が拡径していることが好ましい。このような構成とすることにより、拡径した内筒10の軸方向外周面に中筒30を直接設けることができるため、内筒10と中筒30との間に第2流路31bを容易に形成することができる。
なお、内筒10の径(外径及び内径)は、軸方向全体にわたって一様であってもよく、軸方向両端部が縮径していてもよい。この場合、中筒30の軸方向両端部にスペーサーを設けて内筒10に保持することにより、内筒10と中筒30との間に第2流路31bを容易に形成することができる。
【0026】
熱回収部材40を通り抜ける第1流体の熱は、熱回収部材40を介して内筒10に伝達されるため、内筒10は、熱伝導性に優れた材料から形成されていることが好ましい。内筒10に用いられる材料としては、例えば、金属、セラミックスなどを用いることができる。金属としては、ステンレス鋼、チタン合金、銅合金、アルミ合金、真鍮などが挙げられる。耐久信頼性が高いという理由により、内筒10の材料はステンレス鋼であることが好ましい。
【0027】
<外筒20について>
外筒20は、内筒10の径方向外側に間隔をおいて配置された筒状の部材である。
外筒20の軸方向は、熱回収部材40及び内筒10の軸方向と一致し、外筒20の中心軸は熱回収部材40及び内筒10の中心軸と一致することが好ましい。
外筒20の軸方向長さは、熱回収部材40の軸方向長さよりも長く設定されていることが好ましい。また、外筒20の軸方向において、外筒20の中央位置は、熱回収部材40及び内筒10の中央位置と一致することが好ましい。
【0028】
外筒20は、第2流体を外筒20と内筒10との間の領域に供給するための供給管21、及び第2流体を外筒20と内筒10との間の領域から排出するための排出管22に接続されている。供給管21及び排出管22は、熱回収部材40の軸方向両端部に対応する位置に設けられていることが好ましい。
また、供給管21及び排出管22は、図1に示すように同じ方向に向けて延出されていても、異なる方向に向けて延出されていてもよい。
【0029】
外筒20の径(外径及び内径)は、軸方向にわたって一様であってよいが、少なくとも一部(例えば、軸方向中央部、軸方向両端部など)が縮径又は拡径していてもよい。例えば、外筒20の軸方向両端部を縮径させることにより、内筒10と直接接合するとともに、外筒20と中筒30との間に第2流路31bを容易に形成することができる。また、外筒20の軸方向中央部を縮径させることにより、外筒20内で第2流体を内筒10の外周方向全体に行き渡らせることができる。そのため、軸方向中央部で熱交換に寄与しない第2流体が低減するため、熱回収性能を向上させることができる。
【0030】
外筒20に用いられる材料としては、例えば、金属、セラミックスなどを用いることができる。金属としては、ステンレス鋼、チタン合金、銅合金、アルミ合金、真鍮などが挙げられる。耐久信頼性が高いという理由により、外筒20の材料はステンレス鋼であることが好ましい。
【0031】
<中筒30について>
中筒30は、筒状部材である。中筒30の軸方向は、熱回収部材40の軸方向と一致し、中筒30の中心軸は熱回収部材40の中心軸と一致することが好ましい。
中筒30の軸方向長さは、熱回収部材40の軸方向長さよりも長く設定されていることが好ましい。また、中筒30の軸方向において、中筒30の中央位置は、熱回収部材40、内筒10及び外筒20の中央位置と一致することが好ましい。
【0032】
中筒30は、内筒10と外筒20との間に配置され、外筒20と中筒30との間に第2流体が流通可能な第1流路31a、及び内筒10と中筒30との間に第2流体が流通可能な第2流路31bを形成する。
中筒30は、第1流路31aと第2流路31bとの間を第2流体が流通可能な連通孔32を有する。このような構成とすることにより、第2流路31b内に第2流体を流通させることができる。
連通孔32の形状としては、第2流体が通過可能な形状であれば特に限定されず、例えば、円形状、楕円形状、多角形状などの各種形状とすることができる。また、中筒30の軸方向又は周方向に沿ってスリットを連通孔32として設けてもよい。
連通孔32の数は、連通孔32の形状に応じて適宜設定すればよく特に限定されないが、好ましくは1つ以上、より好ましくは複数(2つ以上)である。
連通孔32の位置は、連通孔32の形状及び数に応じて適宜設定すればよく特に限定されない。例えば、連通孔32が円形状などの形状である場合、中筒30の軸方向両端部側に複数の連通孔32を設ければよい。
【0033】
第2流路31bが液体の第2流体で満たされているとき、熱回収部材40から内筒10に伝えられた第1流体の熱が、第2流路31bの第2流体を介して第1流路31aの第2流体に伝えられる。一方、内筒10の温度が高く、第2流路31b内で気体状態の第2流体(第2流体の蒸気(気泡))が発生したとき、第2流路31bの第2流体を介する第1流路31aの第2流体への熱伝導が抑制される。これは、液体の流体に比べて気体の流体の熱伝導率が低いためである。すなわち、第2流路31b内で気体状態の第2流体が発生するか否かにより、熱交換を促進する状態と熱交換を抑制する状態とを切り替えることができる。この熱交換の状態は、外部からの制御を必要としない。したがって、中筒30を設けることにより、外部から制御することなく、第1流体と第2流体との間の熱交換の促進と抑制との切り替えを容易に行うことが可能になる。
なお、第2流体は、熱交換を抑制したい温度域に沸点を有する流体を使用すればよい。例えば、自動車用の熱交換器に用いられる第2流体としては、LLC(ロングライフクーラント)を含む水などが挙げられる。
【0034】
<熱回収部材40について>
熱回収部材40としては、熱を回収できるものであれば特に限定されない。例えば、熱回収部材40としてハニカム構造体を用いることができる。
ハニカム構造体は、一般的に柱状の構造体である。ハニカム構造体の軸方向に垂直な断面形状は、特に限定されず、円、楕円又は四角若しくはその他の多角形とすることができる。
【0035】
ハニカム構造体は、セラミックスを主成分とする隔壁及び外周壁により互いに区画された複数のセルを有する。各セルは、ハニカム構造体の第1端面から第2端面までハニカム構造体の内部を貫通している。第1端面及び第2端面は、ハニカム構造体の軸方向(セルが延びる方向)の両側の端面である。
各セルの断面形状(セルが延びる方向に垂直な断面の形状)は、特に限定されず、円形、楕円形、扇形、三角形、四角形、五角角形以上の多角形等の任意の形状とすることができる。
また、各セルは、ハニカム構造体の軸方向に垂直な断面において放射状に形成されていてもよい。このような構成とすることにより、セルを流通する第1流体の熱をハニカム構造体の径方向外側に向けて効率良く伝達させることができる。
【0036】
ハニカム構造体の外周壁は、隔壁よりも厚いことが好ましい。このような構成とするにより、外部からの衝撃、第1流体と第2流体との間の温度差による熱応力などによって破壊(例えば、ひび、割れなど)が起こり易い外周壁の強度を高めることができる。
【0037】
隔壁の厚みは、特に限定されず、用途などに応じて適宜調整すればよい。例えば、隔壁の厚みは、0.1~1mmとすることが好ましく、0.2~0.6mmとすることが更に好ましい。隔壁の厚みを0.1mm以上とすることにより、ハニカム構造体の機械的強度を十分なものとすることができる。また、隔壁の厚さを1mm以下とすることにより、開口面積の低下によって圧力損失が大きくなったり、第1流体との接触面積の低下によって熱回収効率が低下したりする問題を抑制することができる。
【0038】
次に、熱交換器100の製造方法について説明する。
熱交換器100の製造方法としては、当該技術分野において公知の方法に準じて製造することができる。例えば、熱回収部材40としてハニカム構造体を用いる場合、熱交換器100は、以下のようにして製造することができる。
まず、セラミックス粉末を含む坏土を所望の形状に押し出し、ハニカム成形体を作製する。ハニカム構造体の材料としては、特に限定されず、公知のものを用いることができる。例えば、Si含浸SiC複合材料を主成分とするハニカム構造体を製造する場合、所定量のSiC粉末に、バインダーと、水又は有機溶媒とを加え、得られた混合物を混練し坏土とし、成形して所望形状のハニカム成形体を得ることができる。そして、得られたハニカム成形体を乾燥し、減圧の不活性ガス又は真空中で、ハニカム成形体中に金属Siを含浸焼成することによって、隔壁によって第1流体の流路となる複数のセルが区画形成されたハニカム構造体を得ることができる。
【0039】
次に、ハニカム構造体を内筒10に挿入して、焼き嵌めにより、ハニカム構造体に嵌合するように内筒10を配置する。なお、ハニカム構造体と内筒10との嵌合は、焼き嵌め以外に、圧入やろう付け、拡散接合などを用いてもよい。
次に、中筒30を内筒10上に配置する。内筒10と中筒30との間は溶接などによって固定すればよい。
次に、第2流体の供給管21、排出管22及び流量制御機構50を設けた外筒20の内部に、上記で作製した構造体を配置し、溶接などによって固定する。
【0040】
本発明の実施形態1に係る熱交換器100によれば、第1流路31aを流通する第2流体の流量を、熱変形部材51及びプレート52を備える流量制御機構50によって制御することができるため、熱回収性能及び熱遮断性能の両方を向上させることができる。
【0041】
(実施形態2)
図6は、本発明の実施形態2に係る熱交換器における第2流体の流路構造の部分拡大図(第1流体の流通方向に平行な断面図)である。なお、本発明の実施形態1に係る熱交換器100の説明の中で登場した符号と同一の符号を有する構成要素は、本発明の実施形態2に係る熱交換器200の構成要素と同一であるので、その説明を省略する。また、本発明の実施形態2に係る熱交換器200における流路構造以外の構造は、本発明の実施形態1に係る熱交換器100と同一である。
【0042】
本発明の実施形態2に係る熱交換器200は、流量制御機構50(流路面積制御機構)が、外筒20の径方向内側に設けられた1つ以上のプレート54である点で、本発明の実施形態2に係る熱交換器100と異なる。プレート54は、第2流体の温度に応じて第1流路31aの流路面積を制御可能な熱変形部材51から形成されている。
図6において、プレート54の一部は、軸方向中央部が縮径した外筒20の傾斜部に接合されているが、傾斜部以外に接合されていてもよい。また、プレート54は、外筒20径方向内側に接合されているが、中筒30の径方向外側に接合されていてもよい。
【0043】
プレート54の形状としては、特に限定されず、プレート54が設けられる位置に応じて適宜設定することができる。例えば、プレート54はドーナツ状とすることができる。ドーナツ状のプレート54は、1つの熱変形部材51から形成してもよいし、複数の熱変形部材51を組み合わせて形成してもよい。
【0044】
上記のような構造を有する熱交換器200では、熱交換を行う場合、第2流体の温度が低いことから、プレート54は、第1流路31aの流路面積を低減するように変形可能に構成されている。そのため、図6(a)に示されるように、プレート54は第1流路31aの流路面積を低減するように変形する。これにより、第2流路31bを流通する第2流体の流れ(点線の流れ)が強くなり、第1流路31aを流通する第2流体の流量が減少する(第1流路31aの圧力損失が増大する)とともに、第2流路31bを流通する第2流体の流量が増加する。その結果、内筒10を流通する第1流体と第2流路31bを流通する第2流体との間の熱交換が促進され、熱回収性能が向上する。
一方、熱交換を抑制する場合、第2流体の温度が高いことから、プレート54は、第1流路31aの流路面積を増大するように変形可能に構成されている。そのため、図6(b)に示されるように、プレート54は第1流路31aの流路面積を増大するように変形する。これにより、第1流路31aを流通する第2流体の流れ(点線の流れ)が強くなり、第1流路31aを流通する第2流体の流量が増加する(第1流路31aの圧力損失が低減する)とともに、第2流路31bを流通する第2流体の流量が減少する。その結果、気体状態の第2流体が第2流路31b内で保持され易くなるため、熱遮断性能が向上する。
【0045】
上記のような流路構造を有する熱交換器200は、本発明の実施形態1に係る熱交換器100と同様に、当該技術分野において公知の方法に準じて製造することができる。
【0046】
本発明の実施形態2に係る熱交換器200によれば、第1流路31aを流通する第2流体の流量をプレート54(熱変形部材51)によって制御することができるため、熱回収性能及び熱遮断性能の両方を向上させることができる。
なお、本発明の実施形態2の熱交換器200では、流量制御機構50(流路面積制御機構)としてプレート54(熱変形部材51)を用いているが、本発明の実施形態1の流量制御機構50と組み合わせることにより、熱回収性能及び熱遮断性能の両方をより一層向上させることができる。
【0047】
(実施形態3)
図7は、本発明の実施形態3に係る熱交換器における第2流体の流路構造の部分拡大図(第1流体の流通方向に平行な断面図)である。なお、本発明の実施形態1に係る熱交換器100の説明の中で登場した符号と同一の符号を有する構成要素は、本発明の実施形態3に係る熱交換器300の構成要素と同一であるので、その説明を省略する。また、本発明の実施形態3に係る熱交換器300における流路構造以外の構造は、本発明の実施形態1に係る熱交換器100と同一である。
【0048】
本発明の実施形態3に係る熱交換器300は、流量制御機構50が、連通孔32の開口面積を制御する開口面積制御機構である点で、本発明の実施形態1及び2に係る熱交換器100,200と異なる。
開口面積制御機構としては、特に限定されないが、図7に示されるような、中筒30の径方向外側(第1流路31a内)に設けられた1つ以上のプレート60とすることができる。プレート60は、中筒30の径方向内側(第2流路31b内)又は外筒20の径方向内側(第1流路31a内)に設けられていてもよい。また、プレート60は、これらの位置のうちの複数の位置に設けられていてもよい。
プレート60は、熱変形部材51から形成することができる。熱変形部材51は、第2流体の温度に応じて連通孔32を開閉可能であり、熱変形部材51の一部は、中筒30に接合されている。
【0049】
熱変形部材51の形状は、第2流体の温度に応じて連通孔32を開閉可能な形状であれば特に限定されない。熱変形部材51の形状は、好ましくは板状である。
熱変形部材51は、1つの連通孔32に対して1つ設けてもよいし、2つ以上の連通孔32に対して1つ設けてもよい。例えば、2つの連通孔32に対して1つの熱変形部材51を設ける場合、図7に示されるような軸方向の2つの連通孔32に対して1つの熱変形部材51を設けてもよいし、図8に示されるような周方向の2つの連通孔32に対して1つの熱変形部材51を設けてもよい。なお、図8は、図1の熱交換器100におけるb-b’線に対応する熱交換器300の断面図である。
【0050】
上記のような構造を有する熱交換器300では、熱交換を行う場合、第2流体の温度が低いことから、プレート60は、連通孔32を開くように変形可能に構成されている。そのため、図7(a)に示されるように、プレート60は連通孔32を開くように変形する。これにより、第2流路31bを流通する第2流体の流れ(点線の流れ)が強くなり、第1流路31aを流通する第2流体の流量が減少する(第1流路31aの圧力損失が増大する)とともに、第2流路31bを流通する第2流体の流量が増加する。その結果、内筒10を流通する第1流体と第2流路31bを流通する第2流体との間の熱交換が促進され、熱回収性能が向上する。
一方、熱交換を抑制する場合、第2流体の温度が高いことから、プレート60は、連通孔32を閉じるように変形可能に構成されている。そのため、図7(b)に示されるように、プレート60は連通孔32を閉じるように変形する。これにより、第1流路31aを流通する第2流体の流れ(点線の流れ)が強くなり、第1流路31aを流通する第2流体の流量が増加する(第1流路31aの圧力損失が低減する)とともに、第2流路31bを流通する第2流体の流量が減少する。その結果、気体状態の第2流体が第2流路31b内で保持され易くなるため、熱遮断性能が向上する。
【0051】
上記のような流路構造を有する熱交換器300は、中筒30にプレート60の一部を溶接などによって固定すること以外は、公知の方法に準じて製造することができる。
【0052】
本発明の実施形態3に係る熱交換器300によれば、第2流路31bを流通する第2流体の流量を開口面積制御機構によって制御することができるため、熱回収性能及び熱遮断性能の両方を向上させることができる。
なお、本発明の実施形態3の熱交換器300では、流量制御機構50(開口面積制御機構)としてプレート60(熱変形部材51)を用いているが、本発明の実施形態1及び/又は実施形態2の流量制御機構50と組み合わせることにより、熱回収性能及び熱遮断性能の両方をより一層向上させることができる。
【符号の説明】
【0053】
10 内筒
20 外筒
21 供給管
22 排出管
30 中筒
31a 第1流路
31b 第2流路
32 連通孔
40 熱回収部材
50 流量制御機構
51 熱変形部材
52 プレート
53 開口部
54 プレート
60 プレート
100,200,300 熱交換器
A 熱膨張率が小さい金属板
B 熱膨張率が大きい金属板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8