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特許7418244トリアジン環含有ポリマーならびにこれを含む熱可塑性成形品、射出成形品および光学部品
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  • 特許-トリアジン環含有ポリマーならびにこれを含む熱可塑性成形品、射出成形品および光学部品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】トリアジン環含有ポリマーならびにこれを含む熱可塑性成形品、射出成形品および光学部品
(51)【国際特許分類】
   C08G 75/04 20160101AFI20240112BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20240112BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
C08G75/04
B29C45/00
G02B1/04
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020034092
(22)【出願日】2020-02-28
(65)【公開番号】P2021134334
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】390019839
【氏名又は名称】三星電子株式会社
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】129,Samsung-ro,Yeongtong-gu,Suwon-si,Gyeonggi-do,Republic of Korea
(73)【特許権者】
【識別番号】591147694
【氏名又は名称】大阪ガスケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】宮碕 栄吾
(72)【発明者】
【氏名】坂井 信支
(72)【発明者】
【氏名】山田 幸香
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 裕子
(72)【発明者】
【氏名】安田 理恵
(72)【発明者】
【氏名】宮内 信輔
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-162829(JP,A)
【文献】特開2006-070248(JP,A)
【文献】国際公開第2017/073268(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0055359(US,A1)
【文献】特開2020-029544(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0062907(US,A1)
【文献】特開2020-186303(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0362112(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G75/00-75/32
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される繰り返し単位を有する、トリアジン環含有ポリマー;
【化1】

前記式(1)中、Aは、それぞれ独立して、下記式(2)に示される基を表し、Bは、それぞれ独立して、下記式(3-1)~(3-3)から選択される基を表す;
【化2】

前記式(2)中、Lは、それぞれ独立して、単結合または連結基を表し、Rは、酸素原子(O)、硫黄原子(S)、窒素原子(N)およびセレン原子(Se)からなる群より選択される少なくとも1種の原子を有する基を表す;
【化3】

前記式(3-1)中、R2aおよびR2bは、それぞれ独立して、炭素数1以上10以下のアルキレン基または-(O-C2m-(この際、mは1以上4以下の整数を表し、nは1以上3以下の整数を表す)を表し、ZおよびZは、それぞれ独立して、水素原子または縮環した芳香族炭化水素環(この際、R3a、R3b、R4aおよびR4bは、それぞれ独立して、置換基を表し、n1およびn2は、それぞれ独立して0、1または2を表し、m1およびm2は、それぞれ独立して、0または1以上4以下の整数を表す)を表す;
前記式(3-2)中、ZおよびZは、それぞれ独立して、芳香族炭化水素環を表し、R5a、R5b、R6aおよびR6bは、それぞれ独立して、置換基を表し、R7aおよびR7bは、それぞれ独立して、炭素数1以上10以下のアルキレン基または-(O-C2m-(この際、mは1以上4以下の整数を表し、nは1以上3以下の整数を表す)を表し、o1およびo2は、それぞれ独立して0または1以上4以下の整数を表し、p1およびp2は、それぞれ独立して0または1以上4以下の整数を表す;
前記式(3-3)中、R8aおよびR8bは、それぞれ独立して、置換基を表し、R9aおよびR9bは、それぞれ独立して、炭素数1以上10以下のアルキレン基または-(O-C2m-(この際、mは1以上4以下の整数を表し、nは1以上3以下の整数を表す)を表し、q1およびq2は、それぞれ独立して0または1以上4以下の整数を表す。
【請求項2】
前記式(2)中、Lは、単結合を表す、請求項1に記載のトリアジン環含有ポリマー。
【請求項3】
前記式(2)中、Rは、それぞれ独立して、下記式(4-1)~(4-5)で表される基から選択される、請求項1または2に記載のトリアジン環含有ポリマー;
【化4】

前記式(4-1)中、oは、それぞれ独立して、1以上6以下の整数であり、
前記式(4-3)中、pは、それぞれ独立して、1以上6以下の整数であり、
前記式(4-5)中、qは、それぞれ独立して、1以上6以下の整数である。
【請求項4】
前記式(3-1)中、ZおよびZは、ベンゼン環を表し、R3a、R3b、R4aおよびR4bは、炭素数1以上10以下のアルキル基または炭素数6以上12以下の芳香族炭化水素基を表す;
前記式(3-2)中、ZおよびZは、ベンゼン環を表し、R5a、R5b、R6aおよびR6bは、それぞれ独立して、炭素数1以上10以下のアルキル基または炭素数6以上12以下の芳香族炭化水素基を表す;
前記式(3-3)中、R8aおよびR8bは、それぞれ独立して、炭素数1以上10以下のアルキル基または炭素数6以上12以下の芳香族炭化水素基を表す、請求項1~3のいずれか1項に記載のトリアジン環含有ポリマー。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のトリアジン環含有ポリマーを含む、熱可塑性成形品。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載のトリアジン環含有ポリマーを射出成形してなる、射出成形品。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか1項に記載のトリアジン環含有ポリマーを含む、光学部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリアジン環含有ポリマーならびにこれを含む熱可塑性成形品、射出成形品および光学部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カメラ、ビデオカメラ等の各種カメラや、スマートフォン等のレンズに使用される光学材料の研究が盛んに行われている。レンズ用の光学材料としては、高い屈折率と低い複屈折を有し、かつ耐熱性、光透過性(透明性)、易成形性にも優れた材料が求められている。樹脂製レンズはガラス製レンズに比べて軽量で割れにくく、材料コストが安価であり、レンズ成形に適した射出成形により様々な形状に加工できるという利点を持つ。しかしながら、近年、製品の薄型化やカメラの高画素化へのニーズにこたえるため、素材自体をより高屈折率化することが求められている。
【0003】
樹脂素材であるポリマーを高屈折率化する方法として、芳香族環、ハロゲン原子、硫黄原子を導入する試みがなされている。中でも、硫黄原子を導入したエピスルフィド樹脂およびチオウレタン樹脂は、屈折率が1.7以上となるが、可塑性がないため、実用化範囲が限定されている。
【0004】
可塑性を有する高屈折な樹脂としてトリアジン環を有するポリマーが多く検討されている。例えば、特許文献1には、トリアジン環を有する繰り返し単位構造を含み、屈折率1.7以上のトリアジン環含有ポリマーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-162829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されるトリアジン環含有ポリマーは、複屈折が高く、十分な光学特性が得られないという問題を有していた。
【0007】
したがって、本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、高い屈折率と低い複屈折とを兼ね備え、かつ、射出成形可能な光学材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく、鋭意研究を行った。その結果、トリアジンジチオール化合物由来の構成単位と、特定の構造を有する芳香族炭化水素化合物由来の構成単位とを結合させることにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明の一形態に係るトリアジン環含有ポリマーは、下記式(1)で表される繰り返し単位を有する;
【0010】
【化1】
【0011】
式(1)中、Aは、それぞれ独立して、下記式(2)に示される基を表し、Bは、それぞれ独立して、下記式(3-1)~(3-3)から選択される基を表す;
【0012】
【化2】
【0013】
式(2)中、Lは、それぞれ独立して、単結合または連結基を表し、Rは、酸素原子(O)、硫黄原子(S)、窒素原子(N)およびセレン原子(Se)からなる群より選択される少なくとも1種の原子を有する基を表す;
【0014】
【化3】
【0015】
前記式(3-1)中、R2aおよびR2bは、それぞれ独立して、炭素数1以上10以下のアルキレン基または-(O-C2m-(この際、mは1以上4以下の整数を表し、nは1以上3以下の整数を表す)を表し、ZおよびZは、それぞれ独立して、水素原子または縮環した芳香族炭化水素環(この際、R3a、R3b、R4aおよびR4bは、それぞれ独立して、置換基を表し、n1およびn2は、それぞれ独立して0、1または2を表し、m1およびm2は、それぞれ独立して、0または1以上4以下の整数を表す)を表す;
前記式(3-2)中、ZおよびZは、それぞれ独立して、芳香族炭化水素環を表し、R5a、R5b、R6aおよびR6bは、それぞれ独立して、置換基を表し、R7aおよびR7bは、それぞれ独立して、炭素数1以上10以下のアルキレン基または-(O-C2m-(この際、mは1以上4以下の整数を表し、nは1以上3以下の整数を表す)を表し、o1およびo2は、それぞれ独立して0または1以上4以下の整数を表し、p1およびp2は、それぞれ独立して0または1以上4以下の整数を表す;
前記式(3-3)中、R8aおよびR8bは、それぞれ独立して、置換基を表し、R9aおよびR9bは、それぞれ独立して、炭素数1以上10以下のアルキレン基または-(O-C2m-(この際、mは1以上4以下の整数を表し、nは1以上3以下の整数を表す)を表し、q1およびq2は、それぞれ独立して0または1以上4以下の整数を表す。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高い屈折率と低い複屈折とを兼ね備え、かつ、射出成形可能な光学材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係るトリアジン環含有ポリマーにおいて、複屈折が低下するメカニズムを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の形態のみに制限されない。本明細書において、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20℃以上25℃以下)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件で行う。本明細書では、「トリアジン環含有ポリマー」を単に「ポリマー」とも称する。
【0019】
<トリアジン環含有ポリマー>
本発明の一形態に係るトリアジン環含有ポリマーは、下記式(1)で表される繰り返し単位を有することを特徴とする。
【0020】
【化4】
【0021】
[構成単位A]
構成単位Aは、下記式(2)で表される。
【0022】
【化5】
【0023】
構成単位Aは、式(2)に示されるように、主鎖においてトリアジン環の隣に硫黄原子(S)が結合している。これにより、ポリマーのガラス転移温度(Tg)が比較的低くなり、射出成形に適したポリマーとすることができると考えられる。
【0024】
式(2)中、Lは、それぞれ独立して、単結合または連結基を表す。ここで、Lが単結合であるとは、トリアジン環と置換基Rが直接連結することを意味する。また、Lが連結基である場合の連結基としては、本発明の効果を阻害しないものであれば特に制限されないが、炭素数1以上6以下のアルキレン基(例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、2-メチルトリメチレン基、1-メチルトリメチレン基、1-エチルエチレン基、1,2-ジメチルエチレン基、1,1-ジメチルエチレン基等)、炭素数6以上14以下の2価の芳香族炭化水素基(例えばフェニレン、ナフチレン等)などが挙げられる。これらのうち、屈折率の向上、耐熱性などの観点から、Lは、単結合、フェニレン基、メチレン基であることが好ましく、単結合、フェニレン基であることがより好ましく、単結合であることがさらに好ましい。
【0025】
式(2)中、Rは、それぞれ独立して、酸素原子(O)、硫黄原子(S)、窒素原子(N)およびセレン原子(Se)からなる群より選択される少なくとも1種の原子を有する基を表す。ここで、Rの具体例としては、本発明の効果を阻害しないものであれば特に制限されないが、下記式(4-1)~(4-9)で表される基が好ましく挙げられる。
【0026】
【化6】
【0027】
式(4-1)、(4-6)および(4-8)中、oは、それぞれ独立して、1以上6以下の整数である。屈折率の向上、耐熱性などの観点から、oは、それぞれ独立して、好ましくは1以上3以下の整数であり、より好ましくは1または2である。好ましい具体例は、下記の基が挙げられる。
【0028】
【化7】
【0029】
式(4-3)、(4-7)および(4-9)中、pは、それぞれ独立して、1以上6以下の整数である。屈折率の向上、耐熱性などの観点から、nは、それぞれ独立して、好ましくは1以上3以下の整数であり、より好ましくは1または2である。好ましい具体例として、下記の基が挙げられる。
【0030】
【化8】
【0031】
式(4-5)中、qは、それぞれ独立して、1以上6以下の整数である。屈折率の向上、耐熱性などの観点から、qは、それぞれ独立して、好ましくは1以上3以下の整数であり、より好ましくは1または2である。好ましい具体例として、下記の基が挙げられる。
【0032】
【化9】
【0033】
これらのうち、屈折率の向上、耐熱性などの観点から、Rは、それぞれ独立して、式(4-1)~(4-5)で表される基であることがより好ましい。すなわち、本発明の好ましい実施形態では、Rは、それぞれ独立して、式(4-1)~(4-5)で表される基から選択される。より好ましくは式(4-1)、(4-4)および(4-5)で表される基より選択され、さらに好ましくは式(4-4)および(4-5)で表される基より選択され、特に好ましくは式(4-4)で表される基より選択される。
【0034】
[構成単位B]
構成単位Bは、下記式(3-1)~(3-3)から選択される基を表す。
【0035】
【化10】
【0036】
式(3-1)中、R2aおよびR2bは、それぞれ独立して、炭素数1以上10以下のアルキレン基または-(O-C2m-(この際、mは1以上4以下の整数を表し、nは1以上3以下の整数を表す)を表し、ZおよびZは、それぞれ独立して、水素原子または縮環した芳香族炭化水素環(この際、R3a、R3b、R4aおよびR4bは、それぞれ独立して、置換基を表し、n1およびn2は、それぞれ独立して0、1または2を表し、m1およびm2は、それぞれ独立して、0または1以上4以下の整数を表す)を表す。
【0037】
式(3-2)中、ZおよびZは、それぞれ独立して、芳香族炭化水素環を表し、R5a、R5b、R6aおよびR6bは、それぞれ独立して、置換基を表し、R7aおよびR7bは、それぞれ独立して、炭素数1以上10以下のアルキレン基または-(O-C2m-(この際、mは1以上4以下の整数を表し、nは1以上3以下の整数を表す)を表し、o1およびo2は、それぞれ独立して0または1以上4以下の整数を表し、p1およびp2は、それぞれ独立して0または1以上4以下の整数を表す。
【0038】
式(3-3)中、R8aおよびR8bは、それぞれ独立して、置換基を表し、R9aおよびR9bは、それぞれ独立して、炭素数1以上10以下のアルキレン基または-(O-C2m-(この際、mは1以上4以下の整数を表し、nは1以上3以下の整数を表す)を表し、q1およびq2は、それぞれ独立して0または1以上4以下の整数を表す。
【0039】
式(3-1)で表される基には、下記の式で表される基が含まれる。
【0040】
【化11】
【0041】
これらの式中のR2a2b、Z、Z、R3a、R3b、R4a、R4b、n1、n2、m1、m2の定義は、式(3-1)中の定義と同様である。
【0042】
式(3-1)~(3-3)において、炭素数1以上10以下のアルキレン基としては、メチレン基(-CH-)、エチレン基(-CHCH-)、トリメチレン基(-CHCHCH-)、プロピレン基(-CH(CH)CH-)、2-エチルヘキサメチレン基(-CHCH(CHCH)CHCHCHCH-)等の直鎖および分岐状アルキレン基が挙げられる。なかでも、エチレン基、トリメチレン基が好ましい。
【0043】
式(3-1)~(3-3)において、アルキレンオキシ基(-(O-C2m-)中、mは、1以上4以下の整数を表し、2が好ましい。また、nは、1以上3以下の整数を表し、1が好ましい。アルキレンオキシ基(-(O-C2m-)の好ましい具体例としては、-O-CH-、-O-CHCH-、-O-CHCHCH-、-O-CH(CH)CH-、-(O-CH-、-(O-CHCH-等が挙げられる。
【0044】
式(3-1)および式(3-2)において、芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環等が挙げられる。なかでも、ベンゼン環、ナフタレン環が好ましく、ベンゼン環がより好ましい。
【0045】
式(3-1)~(3-3)において、置換基としては、炭素数1以上30以下のアルキル基、炭素数1以上30以下のアルコキシ基、炭素数6以上30以下のアリールオキシ基、炭素数1以上30以下の第2級または第3級アミノ基、シアノ基、炭素数6以上30以下の芳香族炭化水素基、環形成原子数3以上30以下のヘテロアリール基が挙げられる。なかでも、炭素数1以上10以下のアルキル基、炭素数6以上12以下の芳香族炭化水素基が好ましい。
【0046】
炭素数1以上10以下のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、tert-ペンチル基、ネオペンチル基、1,2-ジメチルプロピル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、1,3-ジメチルブチル基、1-イソプロピルプロピル基、1,2-ジメチルブチル基、n-ヘプチル基、1,4-ジメチルペンチル基、3-エチルペンチル基、2-メチル-1-イソプロピルプロピル基、1-エチル-3-メチルブチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、3-メチル-1-イソプロピルブチル基、2-メチル-1-イソプロピル基、1-tert-ブチル-2-メチルプロピル基、n-ノニル基、3,5,5-トリメチルヘキシル基、n-デシル基、イソデシル基等が挙げられる。なかでも、メチル基、エチル基、n-プロピル基が好ましい。
【0047】
炭素数6以上12以下の芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ビフェニル基、フルオレニル基、ナフチル基等が挙げられる。なかでも、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基が好ましい。
【0048】
好ましい形態によると、式(3-1)中、ZおよびZは、ベンゼン環を表し、R3a、R3b、R4aおよびR4bは、炭素数1以上10以下のアルキル基または炭素数6以上12以下の芳香族炭化水素基を表す;式(3-2)中、ZおよびZは、ベンゼン環を表し、R5a、R5b、R6aおよびR6bは、それぞれ独立して、炭素数1以上10以下のアルキル基または炭素数6以上12以下の芳香族炭化水素基を表す;式(3-3)中、R8aおよびR8bは、それぞれ独立して、炭素数1以上10以下のアルキル基または炭素数6以上12以下の芳香族炭化水素基を表す。
【0049】
本発明者らの検討によると、本発明に係るトリアジン環含有ポリマーは、ポリマーに射出成形や延伸などにより外力がかかると、複屈折が有意に小さくなることが判明した。これは、外力が加わることにより、ポリマー中において、構成単位A中のトリアジン環は主鎖に対して平行に配位するのに対し、構成単位B中の芳香族炭化水素基(ビナフタレン環、ビフェニルフルオレン環、フルオレン環)は主鎖に対して直交に配向するためであると考えられる(図1)。このような作用効果は、構成単位Bとして特定の芳香族炭化水素基(ビナフタレン環、ビフェニルフルオレン環、フルオレン環)を導入することに加え、式(3-1)のR2aおよびR2b、式(3-2)のR7aおよびR7bまたは式(3-3)のR9aおよびR9bのような適度な長さの(原子1個以上6個以下程度の長さの)連結基(リンカー)を介して構成単位A中トリアジン環と結合させることにより奏されると推測される。
【0050】
本発明に係るトリアジン環含有ポリマーは、式(1)で表される繰り返し単位以外の繰り返し単位(以下、「他の繰り返し単位」とも称する)を含むものであってもよい。しかしながら、本発明の効果を良好に発揮させる観点から、他の繰り返し単位を含まないことが好ましい。他の繰り返し単位を含む場合であっても、繰り返し単位の総数に対する、他の繰り返し単位の数の割合は、10%以下であることが好ましい。より好ましくは、5%以下であり、さらに好ましくは3%以下であり、特に好ましくは1%以下である(下限値0%)。他の繰り返し単位の割合が上記範囲内であれば、屈折率の低下や、複屈折の上昇、射出成形等の成形工程が困難となるのを防ぐことができる。
【0051】
トリアジン環含有ポリマーが2種以上の繰り返し単位を含む場合(すなわち共重合体である場合)繰り返し単位の配列形態は特に制限されない。当該配列形態は、ブロック状(ブロックコポリマー)であっても、ランダム状(ランダムコポリマー)であっても、または交互に配列して(交互コポリマー)もよい。
【0052】
本発明に係るトリアジン環含有ポリマーの末端は、特に制限されないが、末端が炭化水素基(例えば、アルキル基、芳香族炭化水素基、およびそれらが組み合わさった基)で封止されてなることが好ましい。特に、末端のSH基の少なくとも一部の水素原子が炭化水素基で置換されてなることが好ましい。このように末端部分を封止することにより、ポリマーの着色やヘーズを低減することができる。
【0053】
本発明に係るトリアジン環含有ポリマーの屈折率nは、例えば1.68以上であり、好ましくは1.69以上であり、より好ましくは1.7以上であり、さらに好ましくは1.71以上である。なお、本明細書において、屈折率nは、後述の実施例に記載された方法により測定された値を採用する。
【0054】
本発明に係るトリアジン環含有ポリマーの複屈折は、例えば300×10-4以下であり、好ましくは100×10-4以下であり、より好ましくは60×10-4以下であり、さらに好ましくは40×10-4以下であり、特に好ましくは30×10-4以下であり、最も好ましくは20×10-4以下である。なお、本明細書において、複屈折は、後述の実施例に記載された方法により測定された値を採用する。
【0055】
本発明に係るトリアジン環含有ポリマーは、ガラス転移温度(Tg)を有する。すなわち、示差走査熱量測定により得られる示差熱量曲線において変曲点が観察される。このようにガラス転移温度を有する樹脂は、熱可塑性を有し、射出成形により加工することができる。トリアジン環含有ポリマーのガラス転移温度は、好ましくは80℃以上180℃以下であり、より好ましくは100℃以上160℃以下である。ガラス転移温度は、構成単位Aおよび/または構成単位Bの構造を制御することで調整することができる。例えば、式(2)中のRに嵩高い構造や剛直な構造を導入することで、ガラス転移温度を高くすることができる。逆に、式(3-1)のR2aおよびR2b、式(3-2)のR7aおよびR7bまたは式(3-3)のR9aおよびR9bの連結基(リンカー)の長さを長くすることにより、ガラス転移温度を低くすることができる。なお、本明細書において、ガラス転移温度は、後述の実施例に記載された方法により測定された値を採用する。
【0056】
また、トリアジン環含有ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、5,000以上1,000,000以下であることが好ましく、さらに好ましくは5,000を超えて300,000以下であり、特に好ましくは20,000を超えて200,000以下である。重量平均分子量上記の数値範囲内であると、成形品の透過率(透明性)や耐熱性が特に優れたものとなり、また、得られた成形品の機械的強度が優れるという利点がある。重量平均分子量を上記数値範囲内に制御する方法は、特に制限されないが、重合反応時間をコントロールする方法が挙げられる。なお、本明細書において、重量平均分子量は、後述の実施例に記載された方法により測定された値を採用する。
【0057】
本発明に係るトリアジン環含有ポリマーの製造方法は特に制限されない。一例を挙げると、まず、下記式に示されるように、トリアジンジチオール化合物と、脱離基を有する芳香族化合物(下記式中では、式(3-1)において、n1、n2、m1およびm2がいずれも0ある構成単位に脱離基が結合した化合物)とを、相間移動触媒の存在下で反応させて重合体を得る。その後、必要に応じて当該重合体と、封止剤とを、相間移動触媒の存在下で反応させることにより、本発明に係るトリアジン環含有ポリマーを製造することができる。
【0058】
【化12】
【0059】
式中、Rは、式(2)中の定義と同じであり、R2aおよびR2bは式(3-1)中の定義と同じであり、Xは、それぞれ独立して、脱離基を表す。
【0060】
X(脱離基)の具体例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、トシル基(p-トルエンスルホニル基)、トリフラート基(トリフルオロメチルスルホニル基)、メタンスルホニル基、クロロメチルスルホニル基、ニトロ基が挙げられる。
【0061】
トリアジンジチオール化合物としては、特に制限されないが、例えば、2-メチルチオ-1,3,5-トリアジン-4,6-ジチオール、2-エチルチオ-1,3,5-トリアジン-4,6-ジチオール、2-ベンジルチオ-1,3,5-トリアジン-4,6-ジチオール、2-(2’-フェニルエチルチオ)-1,3,5-トリアジン-4,6-ジチオール、2-メトキシ-1,3,5-トリアジン-4,6-ジチオール、2-エトキシ-1,3,5-トリアジン-4,6-ジチオール、2-ベンジルオキシ-1,3,5-トリアジン-4,6-ジチオール、2-アニリノ-1,3,5-トリアジン-4,6-ジチオール、2-(N-メチルアニリノ)-1,3,5-トリアジン-4,6-ジチオール等が例示できる。脱離基を有する芳香族化合物としては、例えば、9,9-ビス(6-(2-クロロエトキシ)-(1,1’-ビフェニル)-3-イル)フルオレン、9,9-ビス(6-(2-ブロモエトキシ)-(1,1’-ビフェニル)-3-イル)フルオレン、2,2’-ビス(2-クロロエトキシ)-1,1’-ビナフチル、2,2’-ビス(2-ブロモエトキシ)-1,1’-ビナフチル、9,9-ビス(4’-(2’’-クロロエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4’-(2’’-ブロモエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4’-(3’-クロロプロピル)フルオレン、9,9-ビス(4’-(3’-ブロモプロピル)フルオレン、等を用いることができる。これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0062】
封止剤としては、上記の炭化水素基に脱離基が結合した化合物が使用できる。ここで、脱離基は、上記Xと同様であり、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、トシル基(p-トルエンスルホニル基)、トリフラート基(トリフルオロメチルスルホニル基)、ニトロ基が挙げられる。封止剤の具体例としては、ベンジルクロリド、ベンジルブロミド、2-ブロモエチルベンゼン、ブロモメタン、ヨードメタン、α-クロロ-p-キシレン、α-クロロ-o-キシレン、1-(クロロメチル)ナフタレン等が挙げられる。これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0063】
トリアジンジチオール化合物と脱離基を有する芳香族化合物との反応、および/または、重合体と封止剤との反応に用いる相間移動触媒としては、界面重縮合に用いることができる長鎖アルキル第四級アンモニウム塩、クラウンエーテル等が好ましい。より詳細には、例えば、臭化テトラブチルアンモニウム、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム等を好ましく用いることができる。
【0064】
反応系は、水と有機溶媒との二相系を用いることができ、クロロホルム、ジクロロメタン、シクロヘキサノン、ベンゾニトリル、ニトロベンゼン等の有機溶媒と水との二相系とするのが好ましい。反応に際しては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基を添加して、-10℃以上100℃以下で1時間以上120時間以下反応させることが好ましい。
【0065】
上記によって得られたトリアジン環含有ポリマーは、再沈澱法、透析法、限外濾過法、抽出法等の一般的な精製法により精製してもよい。また、得られたトリアジン環含有ポリマーは、ポリマー中に含まれる残溶媒を完全に除去するために、例えば真空下、温度は室温から120℃の範囲で乾燥させてもよい。このように、残溶媒を完全に取り除いたポリマーを用いて、屈折率、複屈折、ガラス転移温度等の評価を実施した。
【0066】
<熱可塑性成形品、射出成形品、光学部品>
本発明の他の一形態は、上記のトリアジン環含有ポリマーを含む、熱可塑性成形品に関する。本発明のさらに他の一形態は、上記のトリアジン環含有ポリマーを射出成形してなる、射出成形品に関する。本発明のさらに他の一形態は、上記のトリアジン環含有ポリマーを含む、光学部品に関する。
【0067】
成形品の形状は、特に制限されず、例えば、レンズ状(球面レンズ、非球面レンズ、フレネルレンズ等)、フィルム状、シート状、板状、棒状、繊維状、プリズム状等の任意の形態であってよい。
【0068】
成形品の製造に際しては、例えば、射出成形法、圧縮成形法、押出成形法、トランスファー成形法、ブロー成形法、加圧成形法、延伸法、塗布法(スピンコーティング法、ロールコーティング法、カーテンコーティング法、ディップコーティング法、キャスティング成形法等)等の公知の成形方法を利用できる。中でも、本発明に係る組成物は、射出成形に特に適している。前述したように、射出成形の際にポリマーに外力が掛かる場合でも、複屈折が大きくなることを回避することができる。これは、構成単位A中のトリアジン環は主鎖に対して平行に配位するのに対し、構成単位B中の芳香族炭化水素基(ビナフタレン環、ビフェニルフルオレン環、フルオレン環)は主鎖に対して垂直に配向するためであると考えられる。この際の外力は、例えば、射出成形であれば、せん断速度で100 1/s以上であることが好ましい。なお、これと同様の外力が掛かる限りにおいては、成形方法は射出成形法に限られず、延伸法、圧縮成形法、押出成形法、トランスファー成形法、ブロー成形法、加圧成形法、延伸法、塗布法(スピンコーティング法、ロールコーティング法、カーテンコーティング法、ディップコーティング法、キャスティング成形法等)等の方法を用いても構わない。成形前に、ヘンシェルミキサー、ニーダ、バンバリーミキサー、押出機等の混練機を用いて原料を混合してもよい。射出成形により成形を行う場合は、例えば、シリンダー温度が150℃以上300℃以下、金型温度が50℃以上100℃以下である。
【0069】
上記の光学部品は、ディスプレイ(例えば、スマートフォン用ディスプレイ、液晶ディスプレイおよびプラズマディスプレイ等)、撮影装置(例えば、カメラおよびビデオ等)、光ピックアップ、プロジェクタ、光ファイバー通信装置(例えば、光増幅器等)、自動車用ヘッドランプ等における、光を透過する光学部品(パッシブ光学部品)として好適に利用することができる。かようなパッシブ光学部品としては、例えば、レンズ、フィルム、光導波路、プリズム、プリズムシート、パネル、光ディスク、LEDの封止材等を挙げることができる。かような光学部品は、必要に応じて、反射防止層、光線吸収層、ハードコート層、アンチグレア層等の各種の機能層を有していてもよい。
【実施例
【0070】
以下、実施例により詳細に本発明を説明するが、これらは何ら本発明を限定するものではない。なお、以下の説明において、特に断りのない限り、「部」はすべて「質量部」を意味する。
【0071】
<物性値の測定方法>
(数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw))
ポリマーの濃度が0.1質量%となるようにN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解させ、孔径0.2μmのポリテトラフルオロエチレン製メンブレンフィルターでろ過したものを測定試料とした。数平均分子量および重量平均分子量の測定は、テトラヒドロフラン(THF)を移動相とし、示差屈折計を検出器とするゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により行った。分子量の標準物質としては、単分散ポリスチレンを使用した。
[実施例1]トリアジン環含有ポリマー(4)の合成
【0072】
【化13】
【0073】
窒素雰囲気下、200mLナス型フラスコに9,9-ビス(4’-(2’’-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン(1)(8.8g、20mmol)を入れ、ジクロロメタン(100mL)に溶解させた。この溶液を0℃まで冷却した後、四臭化炭素(15.9g、48mmol)を加え、トリフェニルホスフィン(12.6g、48mmol)を複数回に分けて少しずつ加えた。2時間撹拌した後、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒、ヘキサン/酢酸エチル=5/1)により精製し、9,9-ビス(4’-(2’’-ブロモエトキシ)フェニル)フルオレン(2)(10.5g)を無色結晶として得た。
【0074】
【化14】
【0075】
2-アニリノ-1,3,5-トリアジン-4,6-ジチオール(3)(1.0g、4.2mmol)を30mLフラスコに入れ、水(3.5mL)および水酸化ナトリウム(0.34g、8.6mmol)を加えて撹拌した。この混合液に9,9-ビス(4’-(2’’-ブロモエトキシ)フェニル)フルオレン(2)(2.37g、4.2mmol)およびシクロヘキサノン(10mL)を加えた。この混合液に臭化テトラブチルアンモニウム(0.1g)を加え、50℃まで加熱し撹拌した。12時間後にα-クロロ-p-キシレン(0.1mL)を追加した後、更に4時間撹拌した。室温まで放冷した後、水で3回洗浄し、有機層をイソプロパノール(100mL)に加えた。析出した白色固体をろ取することによりトリアジン環含有ポリマー(4)(2.3g)を得た。得られたポリマーは数平均分子量6,100、重量平均分子量51,800であった。
【0076】
[実施例2]トリアジン環含有ポリマー(7)の合成
【0077】
【化15】
【0078】
窒素雰囲気下、200mLナス型フラスコに2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-1,1’-ビナフチル(5)(3.7g、10mmol)を入れ、ジクロロメタン(50mL)に溶解させた。この溶液を0℃まで冷却した後、四臭化炭素(8.0g、24mmol)を加え、トリフェニルホスフィン(6.3g、24mmol)を複数回に分けて少しずつ加えた。反応液を室温まで昇温し、12時間撹拌した後、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒、ヘキサン/ジクロロメタン=1/1)により精製し、2,2’-ビス(2-ブロモエトキシ)-1,1’-ビナフチル(6)(4.0g)を白色針状結晶として得た。
【0079】
【化16】
【0080】
2-アニリノ-1,3,5-トリアジン-4,6-ジチオール(3)(0.4g、1.6mmol)を30mLフラスコに入れ、水(1.5mL)および水酸化ナトリウム(0.13g、3.3mmol)を加えて撹拌した。この混合液に2,2’-ビス(2-ブロモエトキシ)-1,1’-ビナフチル(6)(0.8、1.6mmol)およびシクロヘキサノン(3mL)を加えた。この混合液に臭化テトラブチルアンモニウム(0.1g)を加え、70℃まで加熱し撹拌した。12時間後にα-クロロ-p-キシレン(0.1mL)を追加した後、更に4時間撹拌した。室温まで放冷した後、水で3回洗浄し、有機層をイソプロパノール(50mL)に加えた。析出した白色固体をろ取することにより、トリアジン環含有ポリマー(7)(0.7g)を得た。得られたポリマーは数平均分子量8,500、重量平均分子量67,000であった。
【0081】
[実施例3]トリアジン環含有ポリマー(10)の合成
【0082】
【化17】
【0083】
窒素雰囲気下、200mLナス型フラスコに9,9-ビス(6-(2-ヒドロキシエトキシ)-(1,1’-ビフェニル)-3-イル)フルオレン(8)(10g、17mmol)を入れ、ジクロロメタン(60mL)に溶解させた。この溶液を0℃まで冷却した後、四臭化炭素(13g、40mmol)を加え、トリフェニルホスフィン(10g、40mmol)を複数回に分けて少しずつ加えた。反応液を室温まで昇温し、12時間撹拌した後、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒、ヘキサン/ジクロロメタン=1/1)により精製し、9,9-ビス(6-(2-ブロモエトキシ)-(1,1’-ビフェニル)-3-イル)フルオレン(9)(7.3g)を白色粉末として得た。
【0084】
【化18】
【0085】
2-アニリノ-1,3,5-トリアジン-4,6-ジチオール(3)(1.0g、4.2mmol)を30mLフラスコに入れ、水(3.5mL)および水酸化ナトリウム(0.34g、8.6mmol)を加えて撹拌した。この混合液に9,9-ビス(6-(2-ブロモエトキシ)-(1,1’-ビフェニル)-3-イル)フルオレン(9)(2.9g、4.2mmol)およびシクロヘキサノン(10mL)を加えた。この混合液に臭化テトラブチルアンモニウム(0.1g)を加え、70℃まで加熱し撹拌した。12時間後にα-クロロ-p-キシレン(0.1mL)を追加した後、更に4時間撹拌した。室温まで放冷した後、水で3回洗浄し、有機層をイソプロパノール(100mL)に加えた。析出した白色固体をろ取することにより、トリアジン環含有ポリマー(10)(3.1g)を得た。得られたポリマーは数平均分子量13,700、重量平均分子量154,000であった。
【0086】
[実施例4]トリアジン環含有ポリマー(13)の合成
【0087】
【化19】
【0088】
実施例3において、原料として、9,9-ビス(4’-(2’’-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン(8)に代えて、9,9-ビス(3’-ヒドロキシプロピル)フルオレン(11)を用いたこと以外は、実施例3と同様の方法で9,9-ビス(3’-ブロモプロピル)フルオレン(12)を無色結晶として得た。収率は80%であった。
【0089】
【化20】
【0090】
実施例3において、コモノマーとして、9,9-ビス(4’-(2’’-ブロモエトキシ)フェニル)フルオレン(9)に代えて、9,9-ビス(3’-ブロモプロピル)フルオレン(12)を用いたこと以外は、実施例3と同様の方法でトリアジン環含有ポリマー(13)を得た。得られたポリマーは数平均分子量15,300、重量平均分子量120,800であった。
【0091】
[実施例5]トリアジン環含有ポリマー(18)の合成
【0092】
【化21】
【0093】
窒素雰囲気下、100mLフラスコにカリウムtert-ブトキシド(3.4g、30mmol)を入れ、THF(10mL)に分散させた後に0℃に冷却した。フルオレン(14)(1.7g、10mmol)をTHF(10mL)に溶解させ、上記フラスコに滴下した。30分間撹拌した後、ブロモ酢酸tert-ブチル(5.9g、30mmol)を滴下した後、3時間撹拌した。水と酢酸エチルを加えた後、有機層を分離し、溶媒を減圧留去することにより、フルオレン-9,9-ジ酢酸 ジtert-ブチル(15)(3.5g)を得た。
【0094】
【化22】
【0095】
窒素雰囲気下、100mLフラスコに水素化リチウムアルミニウム(0.8g、20mmol)を入れてTHF(35mL)に分散させた後、0℃に冷却した。フルオレン-9,9-ジ酢酸 ジtert-ブチル(15)(3.9g、10mmol)をTHF(6mL)に溶解させ、上記フラスコに滴下した。室温で2時間撹拌した後、飽和ロッシェル塩水溶液(20mL)を滴下した。有機層を分離した後、溶媒を留去した。ジクロロメタンを加えた後に固体をろ取することにより、フルオレン-9,9-ジエタノール(16)(1.0g)を収率40%で得た。
【0096】
【化23】
【0097】
窒素雰囲気下、100mLナス型フラスコにフルオレン-9,9-ジエタノール(16)(1.0g、3.9mmol)、トリエチルアミン(1.2g、12mmol)、トリメチルアミン塩酸塩(76mg、0.8mmol)、を入れ、ジクロロメタン(15mL)に溶解させた。この溶液を0℃まで冷却した後、塩化メシル(1.4g、12mmol)のジクロロメタン溶液(1mL)を滴下した。30分後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えた後に有機層を分離し、溶媒を留去した。残渣にメタノールを加えた後、固体をろ取することにより9,9-ビス(2’-メシルオキシエチル)フルオレン(17)(1.5g)を収率92%で得た。
【0098】
【化24】
【0099】
実施例4において、コモノマーとして、9,9-ビス(3’-ブロモプロピル)フルオレン(12)に代えて、9,9-ビス(2’-メシルオキシエチル)フルオレン(17)を、反応溶媒としてシクロヘキサノンの代わりにニトロベンゼンを用いたこと以外は、実施例4と同様の方法でトリアジン環含有ポリマー(18)を得た。得られたポリマーは数平均分子量7,700、重量平均分子量21,200であった。
【0100】
[比較例1]トリアジン環含有ポリマー(20)の合成
【0101】
【化25】
【0102】
2-アニリノ-1,3,5-トリアジン-4,6-ジチオール(3)(2.0g、8.5mmol)を30mLフラスコに入れ、水(6.0mL)および水酸化ナトリウム(0.70g、17.4mmol)を加えて撹拌した。この混合液にα,α’-ジクロロ-p-キシレン(19)(1.42g、8.2mmol)およびシクロヘキサノン(10mL)を加えた。この混合液に臭化テトラブチルアンモニウム(0.14g)を加え、50℃まで加熱し撹拌した。12時間後にα-クロロ-p-キシレン(0.23mL)を追加した後、更に4時間撹拌した。室温まで放冷した後、水で3回洗浄し、有機層をイソプロパノール(100mL)に加えた。析出した白色固体をろ取することによりトリアジン環含有ポリマー(20)(2.1g)を得た。得られたポリマーは数平均分子量19,000、重量平均分子量175,000であった。
【0103】
[比較例2]トリアジン環含有ポリマー(22)の合成
【0104】
【化26】
【0105】
2-(N-メチルアニリノ)-1,3,5-トリアジン-4,6-ジチオール(21)(2.0g、8.0mmol)を30mLフラスコに入れ、水(6.0mL)および水酸化ナトリウム(0.66g、16.4mmol)を加えて撹拌した。この混合液にα,α’-ジクロロ-p-キシレン(19)(1.34g、7.7mmol)およびシクロヘキサノン(10mL)を加えた。この混合液に臭化テトラブチルアンモニウム(0.13g)を加え、50℃まで加熱し撹拌した。12時間後にα-クロロ-p-キシレン(0.22mL)を追加した後、更に4時間撹拌した。室温まで放冷した後、水で3回洗浄し、有機層をイソプロパノール(100mL)に加えた。析出した白色固体をろ取することによりトリアジン環含有ポリマー(22)(2.0g)を得た。得られたポリマーは数平均分子量6,400、重量平均分子量79,200であった。
【0106】
[比較例3]トリアジン環含有ポリマー(25)の合成
【0107】
【化27】
【0108】
2-フェニルアミノ-4,6-ジクロロトリアジン(23)(1.0g、4.1mmol)および9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン(24)(1.45g、4.1mmol)を30mLフラスコに入れ、N,N-ジメチルアセトアミド(8mL)に溶解させた。この溶液にトリエチルアミン(1.7mL、12.4mmol)を加えた後、100℃まで加熱し2日間撹拌した。アニリン(1.1mL)を加えて反応を停止させた後、2時間撹拌した。室温まで放冷した後、炭酸カリウム(2.3g)を溶解させた水(100mL)に滴下した。析出物をろ取したのち、テトラヒドロフラン(50mL)に溶解させた。テトラヒドロフラン溶液をヘキサン-エタノール混合溶液(150mL、ヘキサン/エタノール=4/1)に滴下して再沈殿を行い、析出した淡桃色固体をろ取することによりトリアジン環含有ポリマー(25)(1.6g)を得た。得られたポリマーは数平均分子量6,700、分子量24,400であった。
【0109】
<評価>
(屈折率n
ポリマー2gを、200℃、10MPaの条件で5分間圧縮成形し、縦3cm×横3cm、厚さ0.5mmの成形板を作製した。アッベ屈折率計(DR-M4、ATAGO社製)を用いて、得られた成形板のd線(587.6nm)での屈折率nを測定した。
【0110】
(複屈折)
成形加工Vol.27 No.3 2015 94~97頁に記載された方法を用いて複屈折を測定した。具体的には、熱プレス機(井元製作所製IMC-16DE)により短冊状の成形板(横1cm×縦5cm×厚み0.6mm)を作製し、中心から5mm刻みに上下5点印をつけた。この成形板を一軸延伸機(井元製作所製IMC-18AF)を用いて、Tgよりも10℃高い温度にて3倍に延伸した。レタデーション測定器(大塚電子製PETS-100)を用いて延伸後の成形板のレタデーションを測定(予め印をつけた5点を測定)した。レタデーション/厚みにより複屈折の値を求めた。
【0111】
(ガラス転移温度(Tg))
示差走査熱量計(DSC)(DSC6200、SII社製)を用いて、サンプルを昇温速度10℃/分で300℃まで昇温して10分間保持した後、降温速度10℃/分で25℃まで冷却して10分間保持した。その後、当該サンプルを昇温速度10℃/分で300℃まで昇温してガラス転移温度(Tg)の測定を行った。測定終了後は当該サンプルを10℃/分で室温(25℃)まで冷却した。なお、ガラス転移温度(Tg)が180℃以下であれば射出成形が可能である。
【0112】
結果を表1に示す。
【0113】
【表1】
【0114】
表1に示されるように、本発明に係るトリアジン環含有ポリマーは、比較例のポリマーと同等の高い屈折率と、比較例よりも顕著に低い複屈折とを兼ね備えるものであることが示された。当該効果は、構成単位Bを特定のまた、本発明に係るトリアジン環含有ポリマーは、ガラス転移温度(Tg)が180℃以下であり、熱可塑性を有することが示された。
【0115】
次に、ポリマーの流動性を評価した。
【0116】
(メルトフローレート(MFR)測定)
メルトフローレート(MFR)は、「JIS K7210」に準拠し、評価を行った。メルトインデクサ C-5059D2((株)東洋精機製作所)のシリンダー内に樹脂を充填し、280℃にて荷重(2.16kg)をかけてMFR(g/10min)を測定した。
【0117】
結果を表2に示す。
【0118】
【表2】
【0119】
表2に示されるように、Tgが180℃以下である本発明に係るトリアジン環含有ポリマーはMFR測定結果が良好であることから、射出成形性を有することが示された。
図1